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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01J
管理番号 1269887
審判番号 不服2011-9238  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-28 
確定日 2013-02-06 
事件の表示 特願2005-140037「メタクリル酸製造用触媒の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月24日出願公開、特開2006-314923〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成17年5月12日の出願であって、平成22年11月19日付けで拒絶理由が通知の起案がなされ、平成23年1月20日付けで意見書と手続補正書が提出され、同年2月4日付けで拒絶査定の起案がなされ、これに対して、同年4月28日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、平成24年2月23日付けで特許法第164条第3項に規定する報告を引用した審尋の起案がなされ、同年4月3日に回答書が提出されたものである。

第2.平成23年4月28日付けの手続補正書による補正について
平成23年4月28日付けの手続補正書による補正(以下、「本件補正」ということがある。)は、本件補正前の平成23年1月20日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲である、
「 【請求項1】
モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須の活性成分とする触媒の製造方法であって、これら必須成分を含有する化合物と水を混合したスラリーを乾燥し、次いで得られた乾燥粉末を焼成し焼成粉末を得て、該焼成粉末をバインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型する工程を特徴とするメタクリル酸製造用被覆触媒の製造方法
【請求項2】
モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須の活性成分とする触媒の製造方法であって、アンチモンを除くこれら必須成分を含有する化合物と水を混合したスラリーを乾燥し、次いで得られた乾燥粉末とアンチモンを含有する化合物を混合した混合物を焼成し焼成粉末を得て、該焼成粉末をバインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型する工程を特徴とするメタクリル酸製造用被覆触媒の製造方法
【請求項3】
モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須の活性成分とする触媒の製造方法であって、アンチモンを除くこれら必須成分を含有する化合物と水を混合したスラリーを乾燥し、次いで得られた乾燥粉末を焼成し焼成粉末を得て、該焼成粉末とアンチモンを含有する化合物を混合した混合物に、バインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型する工程を特徴とするメタクリル酸製造用被覆触媒の製造方法
【請求項4】
焼成温度が200?400℃である請求項1?3のいずれか1項に記載の被覆触媒の製造方法
【請求項5】
バインダーが水及び/または1気圧下での沸点が150℃以下の有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の液体である請求項1?4に記載の被覆触媒の製造方法
【請求項6】
成型工程後、成型物を100?450℃で焼成する請求項1?5のいずれか1項に記載の被覆触媒の製造方法
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1項に記載の被覆触媒を使用した、メタクロレイン、イソブチルアルデヒドまたはイソ酪酸を気相接触酸化することによるメタクリル酸の製造方法」

「 【請求項1】
モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須の活性成分とする触媒の製造方法であって、これら必須成分を含有する化合物と水を混合したスラリーを乾燥し、次いで得られた乾燥粉末を焼成し焼成粉末を得て、該焼成粉末をバインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型する工程を特徴とするメタクリル酸製造用被覆触媒の製造方法
【請求項2】
モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須の活性成分とする触媒の製造方法であって、アンチモンを除くこれら必須成分を含有する化合物と水を混合したスラリーを乾燥し、次いで得られた乾燥粉末とアンチモンを含有する化合物を混合した混合物を焼成し焼成粉末を得て、該焼成粉末をバインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型する工程を特徴とするメタクリル酸製造用被覆触媒の製造方法
【請求項3】
モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須の活性成分とする触媒の製造方法であって、アンチモンを除くこれら必須成分を含有する化合物と水を混合したスラリーを乾燥し、次いで得られた乾燥粉末を焼成し焼成粉末を得て、該焼成粉末とアンチモンを含有する化合物を混合した混合物に、バインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型する工程を特徴とするメタクリル酸製造用被覆触媒の製造方法
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載の被覆触媒を使用した、メタクロレイン、イソブチルアルデヒドまたはイソ酪酸を気相接触酸化することによるメタクリル酸の製造方法」
と補正するものである。
そうすると、本件補正は、本件補正前の請求項4?6を削除し、請求項7を新たに請求項4としたものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号を目的としたものであり、適法なものである。

第3.本願発明
平成23年4月28日付けの手続補正書による補正は適法なものであるから、本願の請求項1?4に係る発明は、平成23年4月28日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須の活性成分とする触媒の製造方法であって、これら必須成分を含有する化合物と水を混合したスラリーを乾燥し、次いで得られた乾燥粉末を焼成し焼成粉末を得て、該焼成粉末をバインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型する工程を特徴とするメタクリル酸製造用被覆触媒の製造方法」

第4.引用例の記載
1.原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-290162号公報(以下、「引用例1」という。)には次の事項が記載されている。
(ア)「・・・・・・本発明は、メタクロレイン・・・・・・等を分子状酸素で気相接触酸化してメタクリル酸を製造するために用いられるヘテロポリ酸系触媒の製造方法・・・・・・に関する。」(【0001】)
(イ)「【発明の実施の形態】
(1) 酸化触媒の製造方法
・・・・・・
全ての触媒原料を水に溶解或いは懸濁させる。・・・・・。
加温処理を終了した触媒成分を含む混合溶液は通常の方法で乾燥される。・・・・・・。担持触媒として使用する場合は得られた混合溶液を必要に応じ濃縮後、アルミナ、シリコンカーバイド等の担体に適当な方法で担持して使用する。
乾燥した触媒成分は焼成に先立ち、・・・・・・予備焼成を行う。・・・・・・。
・・・・・・
予備焼成した触媒成分は、粉砕後、錠剤成型する。この他ペースト状にて押し出し成型後、乾燥する等一般の成型法を任意に選ぶこともできる。触媒の形状に特に制限はなく、球、シリンダー、ペレット、リング等の形状を反応器の形式、条件等を考慮し最適なものを選ぶことができる。」(【0012】?【0019】)
(ウ)「実施例1
(触媒調製)純水600mlにパラモリブデン酸アンモニウム144.96gとメタバナジン酸アンモニウム8.00gを加え60℃に加温する。撹拌しながら85%リン酸15.78g、硝酸セシウム6.67g、硝酸銅三水和物3.306gを含む水溶液を加え、次いで三酸化アンチモン9.97gを加え、80℃まで昇温する。ここで、25%アンモニア水を28ml滴下し溶液のpHを7に調整し、その後2時間80℃に保った。2時間の保持時間の間に少量の白い沈殿が析出した。
溶液の一部を取り出し120℃で乾燥した固体は淡い緑色であり、X線回折では明確な回折パターンを示さない無定形で赤外吸収測定及び固体^(31)P-NMR測定でもケギン構造或いはドーソン構造は確認されなかった。得られたスラリー溶液は250℃に保ったオーブン中で10時間かけて乾燥及び予備焼成を行った。予備焼成後の固体は暗緑色であり、X線回折では12-モリブドリン酸と類似した立方晶構造が確認され、赤外吸収及び固体^(31)P-NMR測定により、触媒に含まれるリンの一部がケギン構造を採っていることが判明した。得られた固体を高さ5mm、外径3mm、内径2mmのリング状に打錠成型し、酸素を0.6容量%含む窒素流通下400℃で6時間焼成し触媒を得た。この触媒の組成は各成分の原子比でMo_(12)P_(2 )V_(1) Sb_(2) Cu_(0.2 )Cs_(0.5) である。(但し、O、H、N原子を除く)」(【0030】?【0031】)

2.原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開2004-188231号公報(以下、「引用例2」という。)には次の事項が記載されている。
(カ)「本発明は、メタクリル酸製造用触媒を製造する方法と、この方法により得られた触媒を用いて、メタクロレイン等の原料からメタクリル酸を製造する方法に関するものである。」(【0001】)
(キ)「本発明の触媒の製造方法は、上記の触媒原料から調製される触媒前駆体を、特定のガス・温度条件からなる多段焼成に付すことにより行われる。この触媒前駆体は、通常、触媒原料を水中で混合して水溶液または水性スラリーを得、次いでこの水性混合液を乾燥することにより調製することができ、例えば、・・・・・・該乾燥物を熱処理(前焼成)した後、成形したものであってもよいし、該乾燥物を成形した後、熱処理したものであってもよい。・・・・・・。」(【0011】)

3.原査定の拒絶査定時に提示された本願出願前に頒布された刊行物である特開2001-79408号公報(以下、「周知例1」という。)には次の事項が記載されている。
(サ)「【発明の属する技術分野】本発明は・・・・・・アクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してアクリル酸を製造するのに適した触媒に関する。」(【0001】)
(シ)「本発明においては、まず上記した活性成分またはそれらの化合物の水溶液または水分散体を調製する。以下特に断りのないかぎりこれらの水溶液または水分散体をスラリー溶液という。・・・・・。
次いで上記で得られたスラリー溶液を乾燥する。・・・・・・。
次いで上記で得られた乾燥粉体を焼成する。焼成は、下記で述べる成型工程前に行う予備焼成と成型後に行う後焼成の2段階に分けて行うのが好ましい。・・・・・・。このような予備焼成工程は、出来上がった触媒を反応管に充填する際、触媒活性成分の粉化や剥離を防ぎ、摩損度の小さい触媒が得られ有効である。
本発明の触媒は、上記予備焼成後の顆粒(以下特に断りのない限りこれを予備焼成顆粒という)をそのままあるいは必要により粉砕した後、成型して得ることができる。成型方法に特に制限はなく、必要によりバインダーと混合した予備焼成顆粒を(A)打錠成型する方法、(B)シリカゲル、珪藻土、アルミナ粉末等の成型助剤と混合し球状やリング状に押出成型する方法、(C)球状担体上に被覆担持成型する方法等が挙げられるが、(C)の工程を経た後に後焼成を行う被覆触媒が好ましい。
以下、本発明の触媒の好ましい態様である被覆触媒につき詳述する。被覆工程は以下に述べる転動造粒法が好ましい。・・・・・・。
・・・・・・
担体の用いうる具体例としては、炭化珪素、アルミナ、ムライト、アランダム等の直径2.5?10mmの球形担体等が挙げられる。・・・・・・。」(【0008】?【0013】)

4.特許法第164条第3項に規定する報告を引用した審尋において提示された本願出願前に頒布された刊行物である特開平8-299797号公報(以下、「周知例2」という。)には次の事項が記載されている。
(タ)「【発明の属する技術分野】本発明は・・・・・・アクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してアクリル酸を製造するのに適した触媒及びその製造方法に関する。」(【0001】)
(チ)「本発明の触媒を調製する際には、まず上記した触媒活性元素またはその化合物を含有する水溶液または水分散体を調製する。以下特に断りのないかぎりこれらの水溶液または水分散体を併せて単にスラリー溶液という。・・・・・・。
次いで上記で得られた均一なスラリー溶液を乾燥する。・・・・・・。
・・・・・・通常は下記で述べる成型方法により成型するのが好ましい。また、成型を行う場合の焼成は、成型工程前に行う予備焼成と成型後に行う後焼成の2回に分けて行うのが好ましい。また、焼成方法は公知の方法が実施可能で特に制限はない。・・・・・・。このような予備焼成工程は、出来上がった成型触媒を反応管に充填する際、触媒活性成分の粉化や剥離を防ぎ、摩損度の小さい成型触媒が得られるという効果がある。
次いで、上記予備焼成後の顆粒(以下特に断りのない限りこれを予備焼成顆粒という)をそのままあるいは必要により粉砕したのち成型する。・・・・・・。
・・・・・・予備焼成顆粒を成型し用いるのが好ましい。成型の方法としては、必要によりバインダーと混合した予備焼成顆粒を(A)打錠成型、(B)シリカゲル、珪藻土、アルミナ粉末等の成型助剤と混合し球状やリング状に押し出し成型する方法、(C)炭化珪素、アルミナ、ムライト、アランダム等の直径2.5?10mmの球形担体に転動造粒法等により被覆担持する方法等が挙げられる。」(【0009】?【0013】)

5.特許法第164条第3項に規定する報告を引用した審尋において提示された本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-28877号公報(以下、「周知例3」という。)には次の事項が記載されている。
(ナ)「【発明の属する技術分野】本発明は不飽和アルデヒドおよび不飽和酸の製造方法及びそれに適した触媒に関する。」(【0001】)
(ニ)「【発明の実施の形態】次に本発明について詳細に説明する。本発明の触媒は、触媒活性成分を担体に担持させ、これを焼成して得ることができる。・・・・・・。また、触媒活性成分は通常、担体に担持される前に200?600℃で2?7時間予備焼成し予備焼成粉体とする。予備焼成は、空気中または窒素気流中で行うのが好ましい。
・・・・・・
また、上記予備焼成粉体を担体に担持する際には、バインダーを用いることが好ましい。・・・・・・。
・・・・・・用いうる担体の材質の具体的な例としては、α-アルミナ、シリコンカーバイド、軽石、シリカ、酸化ジルコニウム、酸化チタン等を挙げることができる。
触媒活性成分を担体に担持させる方法は・・・・・・転動造粒法が好ましい。・・・・・・。」(【0012】?【0016】)

第5.引用発明
ア 引用例1の(ウ)には、「・・・・・・純水600mlにパラモリブデン酸アンモニウム・・・・・・とメタバナジン酸アンモニウム・・・・・を加え60℃に加温・・・・・・撹拌しながら・・・・・・リン酸・・・・・・、硝酸セシウム・・・・・・、硝酸銅三水和物・・・・・・を含む水溶液を加え、次いで三酸化アンチモン・・・・・・を加え、・・・・・・アンモニア水を・・・・・・滴下し・・・・・・白い沈殿が析出した。
・・・・・・得られたスラリー溶液は・・・・・・乾燥及び予備焼成を行った。・・・・・・得られた固体を・・・・・・リング状に打錠成型し、・・・・・・焼成し触媒を得た。」と記載されており、この記載は、「純水にパラモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、リン酸、硝酸セシウム、硝酸銅三水和物、三酸化アンチモン、アンモニア水を加え、スラリー溶液を得て、乾燥及び予備焼成を行い、リング状に打錠成型し、焼成し、触媒を得る方法」ということができる。
イ そうすると、引用例1には、
「純水にパラモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、リン酸、硝酸セシウム、硝酸銅三水和物、三酸化アンチモン、アンモニア水を加え、スラリー溶液を得て、乾燥及び予備焼成を行い、リング状に打錠成型し、焼成し、触媒を得る方法」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

第6.対比・判断
ア 本願発明と引用発明とを対比する。
イ 引用発明の「触媒を得る方法」は、「純水にパラモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、リン酸、硝酸セシウム、硝酸銅三水和物、三酸化アンチモン、アンモニア水を加え、スラリー溶液を得て、乾燥及び予備焼成を行い、リング状に打錠成型し、焼成し」ており、この方法で得た触媒に関し、引用例1の(ウ)に「触媒の組成は各成分の原子比でMo_(12)P_(2 )V_(1) Sb_(2) Cu_(0.2 )Cs_(0.5) である。(但し、O、H、N原子を除く)」と記載されていることからみて、その触媒となる活性成分を含む化合物は、「パラモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、リン酸、硝酸セシウム、硝酸銅三水和物、三酸化アンチモン、アンモニア」ということができ、さらに、純水にこれらの成分を加え、スラリー溶液を得ている。
そして、上記触媒となる活性成分は、触媒を得るための「必須の活性成分」とみることができ、それら成分は「モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモン」であるから、引用発明は、「モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須の活性成分とする触媒の製造方法であって、これら必須成分を含有する化合物と水を混合したスラリーを」得ているといえる。
ウ 本願発明の「乾燥粉末を焼成し焼成粉末を得」ることについて、本願明細書の記載をみてみると、「得られた乾燥粉体を予備焼成することで成形性、成型触媒の形状および機械的強度が著しく向上する。」(【0014】)と記載されており、「乾燥粉末を焼成し焼成粉末を得」るための焼成は、予備焼成ということができる。
よって、引用発明の「乾燥及び予備焼成を行」うことは、本願発明の「乾燥粉末を焼成し焼成粉末を得」ることに相当する。
エ 引用発明の「リング状に打錠成型」することは、本願発明の「該焼成粉末をバインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型する」ことと、「該焼成粉末を成型する」で点で共通している。
オ 引用発明には、「工程」という文言は記載されていないが、引用発明は触媒を得る「工程」を有していることは明らかである。
カ 引用例の(ア)の「本発明は、メタクロレイン・・・・・・等を分子状酸素で気相接触酸化してメタクリル酸を製造するために用いられるヘテロポリ酸系触媒の製造方法・・・・・・に関する。」との記載をみると、引用発明は「メタクリル酸製造用の触媒」といえる。
キ そうすると、両者は、
「モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須の活性成分とする触媒の製造方法であって、これら必須成分を含有する化合物と水を混合したスラリーを乾燥し、次いで得られた乾燥粉末を焼成し焼成粉末を得て、該焼成粉末を成型する工程とするメタクリル酸製造用被覆触媒の製造方法」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点:本願発明が「該焼成粉末をバインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型」しているのに対し、引用発明は、該焼成粉末を「リング状に打錠成型し、焼成し」ている点。
ク そこで、この相違点について検討する。
ケ まず、本願発明が被覆成型後に焼成をするかについて、本願明細書の記載をみてみると、本願明細書の【0019】に「前記のようにして得られた被覆触媒はそのまま触媒として気相接触酸化反応に供することができるが、焼成すると触媒活性が向上する場合があり好ましい。」との記載があるから、本願発明は被覆成型後に焼成をすることを排除していないといえ、引用発明が「リング状に打錠成型し、焼成し」ていること、すなわち、焼成粉末を成型後に焼成していることは実質的な相違点とはいえない。
コ 次に、本願発明の「該焼成粉末をバインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型する」ことについてみてみる。
本願明細書の【0016】に、「このうち選択性の向上や反応熱の除去が期待できることから不活性担体を予備焼成顆粒または混合物で被覆し、被覆触媒とするのが特に好ましい。
被覆工程は以下に述べる転動造粒法が好ましい。この方法は、例えば固定容器内の底部に、平らなあるいは凹凸のある円盤を有する装置中で、円盤を高速で回転することにより、容器内の担体を自転運動と公転運動の繰り返しにより激しく撹拌させ、ここにバインダーと予備焼成顆粒・・・・・・を添加することにより予備焼成顆粒または混合物を担体に被覆する方法である。」と記載されており、上記「該焼成粉末をバインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型する」こととは、「バインダーと混合した予備焼成顆粒を不活性担体に転動造粒することにより被覆する」ことであることを含むということができる。
サ ところで、周知例1?3の記載をみてみると、「アクリル酸を製造するのに適した触媒に関する」周知例1及び2、「不飽和アルデヒドおよび不飽和酸の製造方法及びそれに適した触媒」に関する周知例3のいずれにも、触媒粒を不活性担体に被覆することに関して、スラリー溶液を乾燥させて予備焼成し、バインダーと混合した予備焼成顆粒を不活性担体に転動造粒することが記載されており、加えて、バインダーを用いて触媒粒を不活性担体に担持させることが原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用された本願出願前に頒布された刊行物である国際公開第2004/073857号(以下、「引用例3」という。)の特許請求の範囲の請求項10、本文21頁17?18行等に記載されていることをも考慮すると、上記コでみた本願発明の「該焼成粉末をバインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型する」ことは、触媒の種類によらない「触媒粒を不活性担体に被覆する」ための周知技術といえる。
シ ここで、引用例1の記載をみると、引用例1の(イ)に「予備焼成した触媒成分は、粉砕後、錠剤成型する。この他ペースト状にて押し出し成型後、乾燥する等一般の成型法を任意に選ぶこともできる。」と記載されているから、引用例1には、予備焼成後に成型することが開示されているといえる。
そして、同(イ)には、担持触媒としてもよいことも記載されており、引用例1は、触媒形状については、特段の規定・制約はなく周知のものを採用すればよいとの開示がなされているとみることができる。
ス そうすると、上記サでみた周知技術といえる「バインダーと混合した予備焼成顆粒を担体に転動造粒することにより被覆する」ことは被覆成型方法の一つであることは明らかであり、周知例1?2に示されるように、成型方法として打錠成型、押出成型、及び被覆担持成型が3種の中から成型方法が適宜選択されることが広くなされていることからみて、触媒を担体に担持させるに当たり、引用発明において、「リング状に打錠成型」することに代えて、被覆成型方法の一つである上記周知技術を採用し、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項である「焼成粉末をバインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型する」ことは困難なくなし得ることである。
セ ところで、引用例1は、担持触媒として使用する場合は、その(イ)に「担持触媒として使用する場合は得られた混合溶液を必要に応じ濃縮後、アルミナ、シリコンカーバイド等の担体に適当な方法で担持して使用する」と記載され、予備焼成する前に担体に触媒を担持することが記載されている。
しかし、担持触媒とする場合は、この方法に限定されるとの技術思想を導く記載は引用例に1には見当らない。さらに、この(イ)に記載の方法は、混合溶液中にある触媒粒を担体に担持するに当たり、触媒粒に対して何らかの成型がなされているはずだから、予備焼成する前に成型するとみることができなくもない。そこで、引用例2の記載をみると、「メタクリル酸製造用触媒」((カ)を参照)に関し、その(キ)に「該乾燥物を成形したものであってもよいし、該乾燥物を熱処理(前焼成)した後、成形したものであってもよい」との記載があり、予備焼成と成形、すなわち、成型はその順序を問わないという記載がなされており、この記載からみても上記周知技術を引用発明に適用することは阻害されるものではない。
ソ そして、請求人が意見書で主張する、本願発明に係る被覆成型したものは、機械的強度(摩損度)が優れるという作用・効果は、「バインダーと混合した予備焼成顆粒を担体に転動造粒することにより被覆する」ことは当業者であれば当然に採用を考慮する周知技術であって、その採用によって当然にもたらされるものといえるから、当業者であれば予想し得る程度のものである。
タ よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、本願の出願日前に頒布された引用例1?2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定によって特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2012-12-03 
結審通知日 2012-12-04 
審決日 2012-12-17 
出願番号 特願2005-140037(P2005-140037)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安齋 美佐子  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 斉藤 信人
國方 恭子
発明の名称 メタクリル酸製造用触媒の製造方法  

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