• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1269904
審判番号 不服2011-24946  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-18 
確定日 2013-02-06 
事件の表示 特願2009-504130「TN-LCD視野角の改善のための一体型O-フィルム,これを含む偏光板積層体及びTN-LCD」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月13日国際公開,WO2007/142458,平成21年 9月10日国内公表,特表2009-532736〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は2007年6月5日(優先権主張,2006年6月8日,韓国)を国際出願日とする特許出願であって,平成22年6月18日,平成23年6月22日に手続補正がなされ,同年7月8日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年11月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。
なお,請求人は,当審における平成24年1月11日付けの審尋に対して,同年5月16日に回答書を提出している。


2.本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は,平成23年11月18日付け手続補正書(以下,当該手続補正書による補正を「本件補正」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載されたとおりのものと認められるところ,請求項1の記載は次のとおりである。(以下,本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

「 偏光フィルムと前記偏光フィルムに積層された一体型O-フィルムを含む偏光板積層体であって,
前記一体型O-フィルムはネガティブB-フィルム(biaxial film)と前記ネガティブB-フィルム上に積層された配向膜及び前記配向膜上にネマティック液晶がコーティング及び硬化されて形成されたポジティブO-フィルムで構成され,
前記偏光フィルムと前記ネガティブB-フィルムの面上光軸が直交し,
前記偏光フィルム,前記ネガティブB-フィルム,前記配向膜,前記ポジティブO-フィルムの順で積層されることを特徴とする偏光板積層体。」

当該請求項1の記載を,便宜上次のとおりの発明特定事項に分説し,各発明特定事項を「構成A」ないし「構成E」ということとする。

「 A:偏光フィルムと前記偏光フィルムに積層された一体型O-フィルムを含む偏光板積層体であって,
B:前記一体型O-フィルムはネガティブB-フィルム(biaxial film)と前記ネガティブB-フィルム上に積層された配向膜及び前記配向膜上にネマティック液晶がコーティング及び硬化されて形成されたポジティブO-フィルムで構成され,
C:前記偏光フィルムと前記ネガティブB-フィルムの面上光軸が直交し,
D:前記偏光フィルム,前記ネガティブB-フィルム,前記配向膜,前記ポジティブO-フィルムの順で積層される
E:ことを特徴とする偏光板積層体。」


3.原査定の拒絶の理由の概要
原査定における本願発明(本件補正前の請求項15に係る発明に対応する。)についての拒絶の理由は,本願発明は,本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-236216号公報(以下「刊行物1」という。)に記載された発明と同一であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない,または,刊行物1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。


4.刊行物1に記載された発明
刊行物1には,次の事項が記載されている。

ア:「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は光学補償フィルム,それを用いた偏光板及び液晶表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】・・・(中略)・・・また,近年,液晶ディスプレイは大型化が進み,視野角特性の高度な改善が求められている。それゆえ,従来より高度な補償性能を有する光学補償フィルム(光学異方体ともいう)が要望されている。
・・・(中略)・・・
【0006】従来,液晶表示装置の視野角拡大のために用いられる光学補償フィルムとして,下記のような3種の構成が試みられており,各々,有効な方法として提案されている。
【0007】(1)上記記載の負の1軸性を有する化合物であるディスコティック液晶性化合物を支持体上に担持させる方法
(2)正の光学異方性を有するネマティック型高分子液晶性化合物を深さ方向に液晶分子のプレチルト角が変化するハイブリッド配向をさせたものを支持体上に担持させる方法
(3)正の光学異方性を有するネマティック型液晶性化合物を支持体上に2層構成にして各々の層の配向方向を略90°とすることにより擬似的に負の1軸性類似の光学特性を付与させる方法
しかしながら,上記記載の構成の各々が,下記のような問題点を有している。
【0008】上記(1)に記載の方法では,TNモードの液晶パネルに適用する場合に斜め方向から見た場合の画面が黄色く着色するというディスコティック液晶性化合物特有の欠点が発現する。
【0009】上記(2)に記載の方法では,液晶発現温度が高く,TAC(セルローストリアセテート)のような等方性の透明支持体上で液晶の配向を固定出来ず,必ず,一度別の支持体上で配向固定後,TACのような支持体に転写する必要があり,工程が煩雑化,且つ,極めて生産性が低下してしまう。
・・・(中略)・・・
【0011】よって,上記(3)に記載の方法は,ディスコティック液晶性化合物の場合と異なり着色の問題がないので,発色再現性が重視される液晶TV(テレビ)などの用途においては極めて有利な特徴を有している。
【0012】しかしながら,この方法は,ディスコティック液晶性化合物において1層で達成していたものをあえて2層の液晶層で達成するものであり,いかにも効率が悪い。
・・・(中略)・・・
【0014】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,TN-TFTなどのTN型LCDの視野角特性,すなわち,斜め方向から見た場合の画面のコントラスト,着色,明暗の反転現象を簡便に改善できる光学補償フィルムの提供であり,更に,前記光学補償フィルムを用いて,簡単な構成で著しく視野角が改善される偏光板及び液晶表示装置を提供することである。」

イ:「【0015】
【課題を解決するための手段】本発明の上記目的は下記の項目1?66によって達成された。
【0016】1.光学的に二軸性のセルロースエステルフィルム支持体上に,液晶性化合物を含む層を塗設し,該液晶性化合物の配向を固定化した光学異方層を有することを特徴とする光学補償フィルム。
・・・(中略)・・・
【0057】41.前記1?40のいずれか1項に記載の光学補償フィルムを貼合してなる偏光板。」

ウ:「【0091】本発明に係る光学的に二軸性のセルロースエステルフィルム支持体について説明する。
【0092】本発明の光学補償フィルムは,光学的に二軸性のセルロースエステルを支持体として用いるが,そのような光学特性は,通常セルロースエステルを流延により製造する過程で一定の方向に張力を付与することにより得ることができる。例えば,セルロースエステルフィルムを流延後に残留溶媒が存在する条件下で延伸などの操作を行うことが特に効果的である。」

エ:「【0137】本発明の光学補償フィルムの光学特性に関して説明する。本発明の光学補償フィルムは,光学的に二軸性のセルロースエステルフィルム支持体上に液晶性化合物を含む層を塗設し,前記液晶性化合物の配向を固定化した光学異方層が1層以上積層されてなることを特徴としている。前記光学異方層は,1層でもよく2層以上でも良い。
【0138】本発明に係る液晶性化合物としては,後述するような棒状の液晶性化合物が好ましく用いられる。
【0139】本発明においては,前記光学異方層に含有される棒状の液晶性化合物の屈折率が最大となる方向と光学的に二軸性のセルロースエステルフィルム支持体面とのなす角が0度?90度までの間で,連続的または段階的に変化するような光学補償フィルムが好ましく用いられる。
【0140】ここで,棒状の液晶性化合物の屈折率が最大となる方向とは,通常,前記棒状の液晶性化合物の構成単位である分子の長軸方向に一致する。但し,液晶分子の置換基により,必ずしも,分子の長軸方向と屈折率が最大値となる方向が一致しない場合もある。
・・・(中略)・・・
【0148】すなわち,一層を構成する液晶性化合物が例えば,光学的に正の一軸性液晶性化合物である場合には当該屈折率が最大となる軸は光軸となり,この光軸は光学補償フィルム面とのなす角度が0°から90°までの間の一定の値をとることができる。これは,好ましくは5°から80°以下であり,さらに好ましくは20°以上50°以下である。
【0149】更にこの厚み方向に対する配向状態としては,当該角度範囲内で連続的または段階的に変化し分布した状態のいわゆるハイブリッド配向をとることもできる。ハイブリッド配向の場合に軸の傾斜の変化の形態は大別して2通り存在する。
【0150】すなわち,当該軸(棒状の液晶性化合物の屈折率楕円体における屈折率の最大値を示す方向)が,光学補償フィルム面とのなす角が光学補償フィルムの一方の面(A面)から他方の面(B面)に向かって当該光学補償フィルムの厚さ方向に対して増加するように配置されされる場合と,減少するように配置される場合である。
【0151】ここで言う,棒状の液晶性化合物の構成単位とは,光軸を有する単位と理解することができ,例えば,棒状の液晶性化合物の分子のことをいうが,必ずしも分子単位に限定されるものではなく,複数分子の集合体が一定の光軸を有する場合はその集合体を指すこともできる。また,光学補償フィルム面とのなす角度が増加または減少するとは,当該各層がそれぞれに層全体としては光軸を持たないことを意味しており,当該角度の増加または減少は,光学補償フィルムの厚さ方向に対して連続的に変化してもよく断続的に変化してもよい。このような光学補償フィルムの厚さ方向に対する配向形態を以後ハイブリッド配向と呼ぶことがある。この場合,前述のように液晶層全体としては光軸を持たないことになるが,各々の光軸を有する液晶単位の集合体として層全体のみかけ上の平均チルト角を定義することは可能である。
【0152】これは,棒状の液晶性化合物を含有する光学異方層を,その層全体としての遅相軸と光学補償フィルムの法線を含む面内から見たときに常光と異常光の屈折率差が最小になる方向と光学補償フィルム面とのなす角度として定義できる。
【0153】この正の一軸性液晶性化合物からなる液晶層の見かけ上の平均チルト角は,0°を越え80°未満であって,好ましくは5°以上80°未満であり,さらに好ましくは20°以上50°以下である。
・・・(中略)・・・
【0156】本発明に係る液晶性化合物は,低分子液晶性化合物でもよいし,高分子液晶性化合物でもよい。光学的な特性としては,正の一軸性の棒状液晶性化合物,二軸性の液晶性化合物が好ましく用いられる。
【0157】本発明に係る正の一軸性の光学異方性を有する(単に,正の一軸性を有するともいう)化合物や,棒状液晶性化合物に近い光学的な特性を示す二軸性を有する化合物は,棒状液晶性化合物の光学特性として扱うことができ,本発明においては棒状液晶性化合物に含めることができる。
【0158】ここで,正の一軸性を有する(光学的に一軸性である)とは,光学異方性を有する異方性素子における三軸方向の屈折率の値nx,ny,nzのうち2つのみが等しい値を示し,その2つの屈折率が残る1つの軸の屈折率よりも小さいことを示し,二軸性を有するとは,三軸方向の屈折率の値nx,ny,nzのいずれもが異なる値を示す場合を表す。
・・・(中略)・・・
【0168】・・・(中略)・・・また,上記記載の正の一軸性を示す棒状液晶性化合物は,TNセルに使用する通常の棒状ネマティック液晶などを好適に用いることが出来る。
【0169】本発明に係る棒状の液晶性化合物としては,ネマティック液晶相を発現するものが好ましく用いられる。」

オ:「【0200】本発明に係る光学的に二軸性の性質を有するセルロースエステル支持体は,光学的に二軸性を示す(Nx>Ny>Nzの関係を示す)配向を得るためのあらゆる方法をとることができるが,最も効果的に行う方法の一つとして延伸方法を採ることができる。
・・・(中略)・・・
【0202】本発明に係るセルロースエステルフィルム支持体に,光学的二軸性を付与する方法としては,上記に述べたように溶剤を含有した状態で延伸操作を行う方法が好ましい方法の一例として用いられる。
・・・(中略)・・・
【0207】また,互いに直交する2軸方向に延伸することは,フィルムの屈折率Nx,Ny,Nzを本発明の範囲に入れるために有効な方法である。」

カ:「【0211】本発明に用いられる配向層について説明する。本発明に用いられる配向層は,一般に透明支持体上又は下塗層上に設けられるのが好ましい。配向層は,その上に設けられる液晶性化合物の配向方向を規定するように機能する。そしてこの配向が,光学補償フィルムから傾いた光軸を与える。配向層は,光学異方層に配向性を付与できるものであれば,どのような層でも良い。
【0212】本発明に用いられる配向層とは,支持体上に塗設等により設けても良いし,支持体自身の表面改質によって形成しても良く,表面改質によって得られる場合は,その改質された部分(表面領域ともいう)を配向層と呼ぶ場合がある。」

キ:「【0227】次に,本発明に係る液晶性化合物の配向の固定化について説明する。本発明においては,光学補償フィルムの光学補償層をより安定なものにするためは,液晶性化合物を配向後固定化することが行われる。本発明に係る液晶性化合物は,配向の固定のために,低分子液晶同士,あるいは,高分子マトリクスと低分子液晶との架橋のために,上記のような低分子液晶の末端に,不飽和結合を有する置換基,活性水素を有する置換基等の反応性の置換基を有するものが好ましく用いられる。
【0228】本発明に係る液晶性化合物の配向状態を固定化するための方法として,通常知られる全ての方法を採ることができる。通常,配向の固定は,配向と同時に行われることが好ましい。例えば,・・・(中略)・・・本発明に用いる液晶性化合物及び他の化合物(更に,例えば重合性モノマー,光重合開始剤)を溶剤に溶解した溶液を配向膜上に塗布し,乾燥し,次いでネマティック相形成温度まで加熱したのち重合させ(UV光の照射等により),さらに冷却して得られる。」

ク:「【0233】本発明の光学補償フィルムの層構成について説明する。本発明の光学補償フィルムの層構成としては,二軸性の支持体上に一軸性の液晶性化合物,特に正の一軸性の液層性化合物を有する層が存在すれば特に限定されるものではないが,さらに一層以上の液晶層が存在していてもよい。液晶層は支持体上に直接設置してもよいが,通常は配向層を設けることができる。」

ケ:「【0280】本発明の光学補償フィルムの配置形態について,図2,図3を用いて更に詳細に説明する。
【0281】本発明の光学補償フィルムの配置形態としては,駆動用液晶セルのガラス又はプラスティック基材と偏光板の間であればTN型TFT液晶装置に様々な形態で配置して使用することが可能である。本発明の光学補償フィルムは当該液晶パネルの片面の偏光板とセルのガラスまたはプラスティック基材の間に配置され,透過型パネルの場合における入射光側または出射光側のいずれの側にも配置することができる。もっとも,コスト高にはなるが両面に配置しても差し支えはない。
【0282】また,本発明の光学補償フィルムは,光学補償フィルム面内において異方性があるため,面内における配置方向により視野角補償効果に差が生じる。補償効果を発揮する配置方法は,二軸性支持体の屈折率が最大の方向の軸が隣接する偏光板の透過軸と略平行または略直交する形態である。ここで,略平行とは,当該各々の軸とのなす角が±10°以内であり,好ましくは±3°以内,さらに好ましくは±1°以内である。また,略直交とは,当該各々の軸とのなす角が80°から100°の範囲であり,好ましくは87°以上93°以下,さらに好ましくは89°以上91°以下である。また,略直交と略平行の配置では,略平行に配置した方がより補償効果に優れる。典型的な配置方法を図2,図3に示す。
【0283】図2及び図3において,液晶セル6上に光学補償フィルム3,次いで,偏光板1が搭載される。7a,7bは液晶セルのラビング軸,5は光学補償フィルムのラビング軸,5a,5bはラビングの開始または終点を表し,4は,光学的に二軸性を有するセルロースエステルフィルム支持体の屈折率が最大の方向を表す。2は,偏光板の透過軸を表す。」

コ:「【0284】本発明の光学補償フィルムは,セルロースエステルフィルム支持体上に液晶層が形成されているので,明らかに表面と裏面の区別がある。そこで,液晶セル(または,液晶パネル)に配置する場合に偏光板に隣接する面が支持体側か液晶層側かにより,視野角の改善効果が異なる。
【0285】具体的には,光学的に二軸性のセルロースエステルフィルム支持体側を液晶セルのガラス又はプラスティック基材側,すなわち液晶層側を偏光板に隣接する側に配置する方が改善効果においてはより好ましいが,表裏逆の場合にも改善効果は認められる。」

サ:「【0377】本発明の光学補償フィルムは,偏光板と一体化して用いることにより取り扱いが容易になる。偏光板との一体化を行う方法としては特に限定されることなく,通常の位相差板を貼合した偏光板を作製する方法を採ることができる。特に,本発明の効果が最も効果的に発揮される形態の一つとしては,本発明の光学補償フィルムと偏光板をそれぞれ長尺フィルムのロール状のまま連続的に貼合する場合である。本発明において,長尺とは,100m以上を示すが,好ましくは1000m以上であり,特に好ましくは1000m?5000mである。
【0378】この場合には,透明支持体の屈折率が最大となる方向と,偏光板の光透過軸方向がいずれも当該長尺フィルム同士の幅手方向となることが好ましい。」

シ:図2及び図3は次のとおりである。



前記記載事項アないしシを含む刊行物1の全記載によれば,当該刊行物1に次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。(混同を避けるため,光学補償フィルム3と一体化する「偏光板1」を「偏光部材1」と表現し,光学補償フィルム3と当該「偏光部材1」とを一体化して構成した「偏光板」を「偏光板」と表現した。)

「 光学補償フィルム3と偏光部材1とを貼合等の方法で一体化して構成した偏光板であって,
前記光学補償フィルム3は,Nx>Ny>Nzの関係を示す光学的に二軸性のセルロースエステルフィルム支持体上に配向層が設けられ,当該配向層上に光学異方層が設けられて構成されており,
当該光学異方層は,前記配向層上に,光学的に正の一軸性の棒状液晶性化合物を有する層を塗設し,当該塗設した層内の前記棒状液晶性化合物の配向を重合等の方法により固定化することによって形成された層であって,
前記光学的に正の一軸性の棒状液晶性化合物として,棒状ネマティック液晶を用い,
光学異方層内の棒状液晶性化合物の配向状態は,前記棒状液晶性化合物の屈折率楕円体における屈折率の最大値を示す方向であって光軸と一致する方向が,光学補償フィルム面3とのなす角が光学補償フィルム3の一方の面(A面)から他方の面(B面)に向かって当該光学補償フィルム3の厚さ方向に対して連続的または段階的に変化し分布するようなハイブリッド配向となっており,
光学異方層全体の遅相軸と光学補償フィルム3の法線を含む面内から見たときに常光と異常光の屈折率差が最小になる方向と光学補償フィルム3面とのなす角度として定義される光学異方層の見かけ上の平均チルト角が,0°を越え80°未満であって,好ましくは5°以上80°未満であり,さらに好ましくは20°以上50°以下であり,
前記二軸性のセルロースエステルフィルム支持体の屈折率が最大の方向の軸が,偏光部材1の透過軸と略平行となるように,光学補償フィルム3と偏光部材1が配置されるとともに,
光学補償フィルム3の前記二軸性のセルロースエステルフィルム支持体側が,偏光部材1と隣接する側に配置された
偏光板。」


5.対比,判断
本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「偏光部材1」,「偏光板」,「配向層」,「棒状ネマティック液晶」,「塗設」及び「重合等の方法により固定化すること」は,本願発明の「偏光フィルム」,「偏光板積層体」,「配向膜」,「ネマティック液晶」,「コーティング」及び「硬化」に,それぞれ相当する。

また,引用発明の「Nx>Ny>Nzの関係を示す光学的に二軸性のセルロースエステルフィルム支持体」は,本願明細書の【0045】ないし【0046】に記載された「nx≠ny>nz」というネガティブB-フィルムの定義を満たしているから,本願発明の「ネガティブB-フィルム(biaxial film)」に相当する。

また,本願発明の「ポジティブO-フィルム」の定義については,本願明細書に記載されていないものの,層(フィルム)の光学軸の方向が,層面に垂直な法線方向から傾いているものを通常「Oプレート」と呼び,光学軸方向の屈折率が当該光学軸に直交する方向の屈折率より大きいOプレートを「正のOプレート」と,小さいOプレートを「負のOプレート」と呼ぶという技術常識(例えば,特開2004-271695号公報の【0004】の記載を参照。),及び,本願明細書の【0040】に「上記O-フィルムは図3からみられるように,スプレイ配向されることが好ましい」と記載され,【0043】に「この際,O-フィルムはネマティック(Nematic)液晶からなることが好ましい。即ち,O-フィルムはスプレイまたは傾斜配向される」と記載されていること等からみて,本願発明の「ポジティブO-フィルム」とは「正のOプレート」を指していると解するのが相当である。
しかるに,引用発明の「光学異方層」については,当該光学異方層内の棒状液晶性化合物の配向状態がハイブリッド配向(本願明細書でいうところの「スプレイ配向」)となっていて,当該光学異方層の見かけ上の平均チルト角(光学軸に該当する。)が,0°を越え80°未満であって,好ましくは5°以上80°未満であり,さらに好ましくは20°以上50°以下であるのだから,光学軸が層面に垂直な法線方向から傾いており,かつ,棒状液晶性化合物として「光学的に正の一軸性の棒状液晶性化合物」を用いていて,前記光学軸の方向が,光学異方層全体における屈折率の最大値を示す方向と一致するのだから,光学軸に直交する方向の屈折率が,光学軸方向の屈折率よりも小さいことは明らかであって,「正のOプレート」に該当する。
したがって,引用発明の「光学異方層」は本願発明の「ポジティブO-フィルム」に相当する。

また,本願発明の「一体型O-フィルム」は,「ネガティブB-フィルム(biaxial film)」と前記ネガティブB-フィルム上に積層された「配向膜」及び前記配向膜上に「ネマティック液晶がコーティング及び硬化されて形成されたポジティブO-フィルム」で構成されたものであるところ,引用発明の「光学補償フィルム3」は,「Nx>Ny>Nzの関係を示す光学的に二軸性のセルロースエステルフィルム支持体」上に「配向層」が設けられ,当該配向層上に,「光学的に正の一軸性の棒状液晶性化合物を有する層を塗設し,当該塗設した層内の前記棒状液晶性化合物の配向を重合等の方法により固定化することによって形成された光学異方層」が設けられて構成されたものであるから,引用発明の「光学補償フィルム3」は,本願発明の「一体型O-フィルム」に相当する。

そこで,前記各部材の対応関係を前提として,引用発明が本願発明の構成AないしEに対応する構成を有するのか否かについて,さらに検討を進める。

引用発明は,「光学補償フィルム3と偏光部材1とを貼合等の方法で一体化して構成した偏光板」であり,「光学補償フィルム3」が本願発明の「一体型O-フィルム」に,「偏光部材1」が本願発明の「偏光フィルム」に相当するのだから,本願発明の構成A(「偏光フィルムと前記偏光フィルムに積層された一体型O-フィルムを含む偏光板積層体であって,」)及び構成E(「ことを特徴とする偏光板積層体。」)に対応する構成を具備している。

また,前述したとおり,引用発明の「光学補償フィルム3」は,「Nx>Ny>Nzの関係を示す光学的に二軸性のセルロースエステルフィルム支持体上に配向層が設けられ,当該配向層上に,光学的に正の一軸性の棒状液晶性化合物を有する層を塗設し,当該塗設した層内の前記棒状液晶性化合物の配向を重合等の方法により固定化することによって形成された光学異方層が設けられて構成」されており,「光学的に正の一軸性の棒状液晶性化合物として,棒状ネマティック液晶を用い」ているのであって,「Nx>Ny>Nzの関係を示す光学的に二軸性のセルロースエステルフィルム支持体」が本願発明の「ネガティブB-フィルム(biaxial film)」に,「配向層」が本願発明の「配向膜」に,「配向層上に,光学的に正の一軸性の棒状液晶性化合物を有する層を塗設し,当該塗設した層内の前記棒状液晶性化合物の配向を重合等の方法により固定化することによって形成された光学異方層」が本願発明の「ネガティブB-フィルム上に積層された配向膜及び前記配向膜上にネマティック液晶がコーティング及び硬化されて形成されたポジティブO-フィルム」に相当するのだから,本願発明の構成B(「前記一体型O-フィルムはネガティブB-フィルム(biaxial film)と前記ネガティブB-フィルム上に積層された配向膜及び前記配向膜上にネマティック液晶がコーティング及び硬化されて形成されたポジティブO-フィルムで構成され,」)に対応する構成を具備している。

また,本願明細書の【0065】の「積層時にBフィルム面上光軸は,偏光板の吸収軸と垂直になるよう積層されれば良い。」という記載を参酌すると,本願発明の「前記偏光フィルムと前記ネガティブB-フィルムの面上光軸が直交し」とは,偏光フィルムの吸収軸と,ネガティブB-フィルムのフィルム面上光軸が直交していることを意味していると解するのが相当であるところ,引用発明においては,二軸性のセルロースエステルフィルム支持体の屈折率が最大の方向の軸が,偏光部材1の透過軸と略平行となるように配置されているのであって,偏光部材1の透過軸が偏光部材1の吸収軸と直交することは技術常識から明らかであり,かつ,「二軸性のセルロースエステルフィルム支持体の屈折率が最大の方向の軸」が本願発明の「ネガティブB-フィルムの面上光軸」に相当するから,引用発明は,本願発明の構成C(「前記偏光フィルムと前記ネガティブB-フィルムの面上光軸が直交し,」)に対応する構成を具備している。

さらに,引用発明の光学補償フィルム3は,「Nx>Ny>Nzの関係を示す光学的に二軸性のセルロースエステルフィルム支持体上に配向層が設けられ,当該配向層上に光学異方層が設けられて構成」され,かつ,「二軸性のセルロースエステルフィルム支持体側が,偏光部材1と隣接する側に配置」されており,「偏光部材1」が本願発明の「偏光フィルム」に,「Nx>Ny>Nzの関係を示す光学的に二軸性のセルロースエステルフィルム支持体」が本願発明の「ネガティブB-フィルム」に,「配向層」が本願発明の「配向膜」に,「光学異方層」が本願発明のポジティブO-フィルムに相当するのだから,引用発明は,本願発明の構成D(「前記偏光フィルム,前記ネガティブB-フィルム,前記配向膜,前記ポジティブO-フィルムの順で積層される」)に対応する構成を具備している。

以上のとおり,引用発明は本願発明の全構成に対応する構成を具備しているから,本願発明は引用発明と同一であり,新規性を有していない。


6.むすび
以上のとおりであって,本願発明は刊行物1に記載された発明と同一であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないとした原査定の拒絶の理由に誤りはない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-07 
結審通知日 2012-09-11 
審決日 2012-09-25 
出願番号 特願2009-504130(P2009-504130)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 理弘  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 清水 康司
金高 敏康
発明の名称 TN-LCD視野角の改善のための一体型O-フィルム、これを含む偏光板積層体及びTN-LCD  
代理人 龍華国際特許業務法人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ