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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A47F
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A47F
審判 全部無効 特174条1項  A47F
管理番号 1269948
審判番号 無効2011-800249  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-12-02 
確定日 2013-01-31 
事件の表示 上記当事者間の特許第4334269号発明「ゴルフ用クラブの展示用支持装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4334269号の請求項1?3及び6に係る発明についての特許を無効とする。 特許第4334269号の請求項4、5及び7に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その7分の3を請求人の負担とし、7分の4を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4334269号(以下「本件特許」という。)は、特許法第41条に基づく優先権主張(優先日:平成14年4月18日)を伴って平成15年3月28日に出願された特願2003-126752号に係り、平成21年5月27日付け手続補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明について、特許権の設定登録が平成21年7月3日にされたものであって、本件は、請求人日研工業株式会社から請求された無効審判事件である。以下、請求以降の経緯を整理して示す。

平成23年12月 2日付け 審判請求書の提出
平成24年 2月20日付け 審判事件答弁書の提出
平成24年 5月21日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
平成24年 6月 4日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
平成24年 6月14日付け 口頭審理の実施

第2 請求人の主張
請求人は、特許第4334269号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として概ね次のように主張するとともに、証拠方法として甲第1号証?甲第21号証を提出している。

1.無効理由1
本件特許の請求項1?3及び7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2.無効理由2
本件特許の請求項1?7に係る発明は、甲第1号証?甲第4号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

3.無効理由3
本件特許は、平成21年5月27日付けでなされた明細書についての手続補正が、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。

4.甲各号証
甲第1号証:「月刊ゴルフ用品界3月号」の抜粋(株式会社ゴルフ用品界社、平成14年2月27日国立国会図書館受入)
甲第2号証:実願昭47-84973号(実開昭49-43061号)のマイクロフィルム
甲第3号証:実願昭47-63577号(実開昭49-23063号)のマイクロフィルム
甲第4号証:実願昭47-72938号(実開昭49-31470号)のマイクロフィルム
甲第5号証:実願昭59-106938号(実開昭61-21358号)のマイクロフィルム
甲第6号証:特開平10-276873号公報
甲第7号証:特開平10-276874号公報
甲第8号証:特開平10-234539号公報
甲第9号証:特開平8-191743号公報
甲第10号証:特開平9-135755号公報
甲第11号証:実願昭61-97131号(実開昭63-3269号)のマイクロフィルム
甲第12号証:特公平4-42925号公報
甲第13号証:「業種・業態別シリーズホームセンター2000坪時代の繁盛店づくりをトータルにサポート」(立山アルミニウム工業株式会社カタログ、1998年3月、表紙、第89頁、奥付け頁)
甲第14号証:「HARD LINE99-06ホームセンター&バラエティーショップ陳列什器総合カタログ」(株式会社オカムラ製作所カタログ、1999年6月、表紙、第116頁、第122頁、第124頁、第125頁、奥付け頁)
甲第15号証:「chunichi量販什器 本体・パーツ’98年7月現在40号」(中日販売株式会社カタログ、1998年7月、表紙、第99頁、第103頁、第105頁、第107頁、第124頁、奥付け頁)
甲第16号証:「APPLICATION SYSTEM FOR STORE FITTINGS コクヨ店舗用什器Aカタログ Vol.3」(コクヨ株式会社カタログ、表紙、第90頁、第92頁、第94頁、奥付け頁 なお、奥付け頁には、「平成8年4月現在のもの」と記載されている。)
甲第17号証:「SHOP CREATE」(立山アルミニウム工業株式会社カタログ、1998年4月、表紙、第64頁、第65頁、第74頁、奥付け頁)
甲第18号証:米国特許第5779043号明細書
甲第19号証:特開平4-361709号公報
甲第20号証:実願昭58-196460号(実開昭60-103371号)のマイクロフィルム
甲第21号証:米国特許第4027799号明細書

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、概ね次のように主張するとともに、証拠方法として乙第1号証を提出している。

1.無効理由1について
本件特許の請求項1?3及び7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ではない。

2.無効理由2について
本件特許の請求項1?7に係る発明は、甲第1号証?甲第4号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3.無効理由3について
平成21年5月27日付けでなされた明細書についての手続補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす補正をした特許出願に対してされたものである。

4.乙号証
乙第1号証:知的財産高等裁判所平成23年9月29日判決(平成23年(行ケ)第10072号)

第4 当審の判断
事案に鑑み、無効理由3から検討することとする。

1.無効理由3について
1-1 請求人の主張
請求人の主張する無効理由3は、上記第2 3.で示したとおりであるところ、具体的には、次の理由を含むものである。

(1)本件補正事項1
平成21年5月27日付け手続補正によって補正された請求項1は、フック部材によってクラブヘッドを支持する具体的な構造を何ら限定するものではなく、請求項1には、願書に最初に添付された明細書等から把握される本願発明の作用効果を奏することができない構造が含まれている。
したがって、平成21年5月27日付け手続補正において、請求項1に「当てがいながら」(以下「本件補正事項1」という。)との記載を追加する補正は、願書に最初に添付された明細書等のすべてを総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項を導入するものであり、新規事項の追加に該当する。

(2)本件補正事項2
願書に最初に添付された明細書等には、「(ヘッド支持部にゴルフ用クラブのヘッドを)当てがう」ことと「(シャフトをシャフト案内溝に)挿入」することを同時並行的に行った後、「(ゴルフ用クラブを)吊り持ちさせる」ことと「(ゴルフ用クラブを)展示させる」ことを同時並行的に行うことについて、何ら記載も示唆もされていない。
したがって、平成21年5月27日付け手続補正において、請求項1に「次いで上記ヘッド支持部にゴルフ用クラブのヘッドを当てがいながらシャフトを上記シャフト案内溝に挿入して吊り持ちさせながら当該ゴルフ用クラブを展示させる」(以下「本件補正事項2」という。)との記載を追加する補正は、願書に最初に添付された明細書等のすべてを総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項を導入するものであり、新規事項の追加に該当する。

1-2 当初明細書等の記載事項
本件特許の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、次の事項が記載されている。

a.「ゴルフ用クラブの展示用支持装置として、1つのウッドヘッドをフックするフック部材と、該フック部材を複数個連結する連結部材とから構成される展示用支持装置。」(【請求項1】)
b.「ゴルフ用クラブの展示用支持装置として、1つのアイアンヘッドをフックする部材と、該フック部材を複数個連結する連結部材とから構成される展示用支持装置。」(【請求項2】)
c.「ゴルフ用クラブの支持装置に於いて、シャフトをはさむウッドヘッドのフェイス面と、ウッド面の2面の両面に1部当接する面と、該シャフトを弾性的かつ固定的に喰え込む切り込み部とからなる特許請求の範囲第1項に示した展示用支持装置。」(【請求項5】)
d.「前記フック部材はゴルフ用アイアンクラブのヘッド部を、該ヘッド部を懸架するように線と面で支持し、かつ同クラブのシャフト部を2点で線支持できるようにしたことを特徴とする特許請求の範囲第2項に示したゴルフ用クラブの展示用支持装置。」(【請求項8】)
e.「フック部材(2)は、ゴムやシリコン樹脂などを素材とし、型取りして作った。このフック部材(2)に、ウッドクラブを、シャフトとグリップを下にして、ヘッドの部分を上にしてフックする。このフック部材(2)は、ウッドのフェイス面が2つのライン(2a,2b)をたて、よことする平面に当接し、ウッドの下面部が曲面(2c)に当接し、かつ2つの突起部(2d,2e)に挟まれた案内部(2f)にシャフトが収まるようにしている。曲面部(2c)は、ウッドの下面部を凸部とし、それに対しておおよそ凹部となるように型取りしている。もちろん、どのようなウッドに対しても、合うような凹部の作り方をしている。」(段落【0019】)
f.「本発明は、1つのクラブを懸架し、支持するフック部材を、連結支持する部材によって、それらを連結する構造にしているため、全体として余り大掛りなものにならない。型を作るとしても、フック部材は、ウッドクラブを懸架させることを考えたときには同一であるため、フックが複数個ついた展示用支持装置全体を一体として成型するようなこれまでのものと比較してコスト面で大巾に軽減される。」(段落【0025】)
g.「また本発明のもう1つの特徴は、ウッドクラブという大変大きな展示物を、きっちりと、展示方向を定めて展示するための展示用支持装置を作ったということである。そのため、ウッドクラブのフェイス面に当接する面と、ウッドをフックしたとき重力的に支える面の2つの面と、シャフトを長軸方向に一定の長さをもって線規制することを組み合わせることによって、ウッドのヘッド部の大きさの半分以下の大きさで、安定かつ定位置にフックできるようにした。」(段落【0028】)
h.「フック部材(104)は、アイアンクラブのヘッド部を上方にして展示するものであり、クラブのシャフトを支持部(106)と支持部(108)の2点で支持固定する。各支持部(106)(108)では2つの支持部材(106-1,106-2)及び支持部材(108-1,108-2)がシャフトをはさむように支持固定している。また、クラブのヘッド部のフェイス面は支持部(110)で受け、端部(114)とこの支持部(110)がつくる線(116)でヘッドの重さを受けている。」(段落【0032】)
i.「図12でアイアンクラブ(118)のヘッド部(119)は、刻印マークが見えるようにフック部材(104)に置かれ、そのシャフト部(121)は、1ケ所は支持部(106-1)と支持部(106-2)に挟まれ、もう1ヶ所は支持部(108-1)と(108-2)(ここでは見えず)に挟まれしっかりと固定されている。ヘッド部(119)の裏側のフェイス面は、このフック部材(104)の図11で見た支持部(110)に面接触するように置かれていることもあり、このフック部材(104)に収まるように置けば誰が置いても同じ様な静置位置に置かれることになる。また、フック部材(104)はその案内部(112)に連結部材(102)を差し入れ所定の位置で固定している。連結部材(102)に対してフック部材(104)の縦方向が略垂直になるように成型加工しているため、シャフト部(121)はフック部材(104)に固定支持すると連結部材(102)に対し略垂直方向に展示されることになる。」(段落【0034】)
j.「【発明の効果】以上説明して来たように、本発明によるゴルフクラブのための展示用支持装置は、
<1>(当審注:丸の中に1.を意味する。以下同様。) クラブヘッドをフックする部材と、連結支持する部材に分けて作る全く新たな方法を採用することにより、クラブを複数個フックする支持装置の場合でも、比較的展示用支持装置を小さくコンパクトに作ることができた。そのため、展示物であるクラブを、とくにクラブヘッドを目立たせ、展示に於ける装飾効果ももたらすことができた。
<2> 従来は、シャフトをそろえて展示することが難しかったが、ウッドクラブにおいては2面と1線を規制する方法によって、アイアンクラブにおいては1面と線及び2点による1線支持によって複数のクラブを展示した場合も、シャフトをきれいにそろえて表示することが、簡単にできるようになった。
<3> この結果、展示装飾性を高めた。
<4> さらに、フックする部材は、多少複雑な形状となっても、同一のものを型で作り、連結支持する部材を、展示仕様によって変えることによって、コストを余りかけず、色々な展示方法が可能となった。
<5> 面と線とで規制する方式を見つけることにより、小さな大きさで、安定的かつ定位置で表示できる展示用支持装置ができた。」(段落【0039】)
k.「また本願のこの展示装置を使えば、展示してあるゴルフクラブを、ユーザが展示装置から外し、手に持ったり試し振りをした後、このクラブを展示装置に戻しても、元に展示していたように、頭を揃え、マークが見える形で展示されるため、店員による調度の手間がほとんど要らなくなり、きれいに並べられる時間が増え、展示装置としての役割を充分果たすことになる。なお、本発明の実施例で示したものは、あくまで1実施例であり、本発明は、これにしばられるものではない。」(段落【0040】)

1-3 新規事項の存否
(1)本件補正事項1について
本件補正事項1の「当てがいながら」なる記載は、「ながら」の後に続いて記載されている事項「シャフトを上記シャフト案内溝に挿入して」と併せて、新規事項の存否を検討すべきであるところ、「当てがいながらシャフトを上記シャフト案内溝に挿入して」なる記載は、本件補正事項2に包含されることから、本件補正事項1中の「ながら」についてはその後段の記載事項も含め、下記(2)において別途検討し、ここでは本件補正事項1中の「当てがい」のみについて新規事項の存否を検討することとする。

当初明細書等には、1本のゴルフ用クラブのヘッドをフックするフック部材と、当該フック部材を複数個連結する連結部材とから構成されるゴルフ用クラブの展示用支持装置が記載されている(上記記載事項a、b参照)。この部分のうち、「フックする」とは、当初明細書等の記載「本発明は、1つのクラブを懸架し、支持するフック部材を、連結支持する部材によって、それらを連結する構造にしているため、全体として余り大掛りなものにならない。・・・」(上記記載事項f)から、「懸架し、支持する」と同義であるといえ、「懸架」が「つりさげ、ささえること。」(広辞苑第6版)といった意味を有する用語であることを勘案すれば、「吊り持ちする」の意と解される。
また、ゴルフ用クラブのシャフトは、グリップ側からヘッドに向かってストレート又は先細り形状に形成されることが技術常識であり、ゴルフ用クラブのヘッドを「吊り持ちさせる」ためには、フック部材が、ヘッドと接触し、ゴルフ用クラブの重量を支える「ヘッド支持部」を備える必要があることが明らかである。
そうすると、当初明細書等には、フック部材のヘッド支持部にゴルフ用クラブのヘッドを接触させ、ゴルフ用クラブの重量を支えることにより、ゴルフ用クラブのヘッドを吊り持ちさせる事項が記載されているといえ、ここで「接触」とは、本件補正事項1中の「当てが(う)」ことと実質的に同義であると解されるから、当初明細書等には、フック部材のヘッド支持部にゴルフ用クラブのヘッドを「当てがい」、ゴルフ用クラブの重量を支えることにより、ゴルフ用クラブのヘッドを吊り持ちさせる事項が記載されているといえる。

したがって、請求項1に「当てがい」との記載を追加する補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。

(2)本件補正事項2について
ゴルフ用クラブの展示用支持装置は、ゴルフ用ウッドクラブ用のものとアイアンクラブ用のものとで構造が異なるので、まずこれら2種類の展示用支持装置に関し、当初明細書等に記載された事項について検討した後、これらを一般化したゴルフ用クラブの展示用支持装置に関し、当初明細書等に記載された事項について検討することとする。

(i)ゴルフ用ウッドクラブの展示用支持装置について
当初明細書等の記載「ゴルフ用クラブの展示用支持装置として、1つのウッドヘッドをフックするフック部材と、該フック部材を複数個連結する連結部材とから構成される展示用支持装置。」(上記記載事項a)、及び「ゴルフ用クラブの支持装置に於いて、シャフトをはさむウッドヘッドのフェイス面と、ウッド面の2面の両面に1部当接する面と、該シャフトを弾性的かつ固定的に喰え込む切り込み部とからなる特許請求の範囲第1項に示した展示用支持装置。」(上記記載事項c)からみて、ゴルフ用ウッドクラブの展示用支持装置が、ゴルフ用ウッドクラブをフックして展示するフック部材を備え、該フック部材が、ヘッドのフェイス面とウッド面の2面の両面に1部当接する面、及びシャフトを弾性的かつ固定的に喰え込む切り込み部を備える事項が記載されている。
そして、上記「ウッド面」及び「当接する面」は、当初明細書等の記載「・・・このフック部材(2)は、ウッドのフェイス面が2つのライン(2a,2b)をたて、よことする平面に当接し、ウッドの下面部が曲面(2c)に当接し、・・・」(上記記載事項e)、及び「・・・ウッドクラブのフェイス面に当接する面と、ウッドをフックしたとき重力的に支える面の2つの面と、・・・」(上記記載事項g)を参酌すれば、「下面部」及び「当接し支持する面」といえるから、ゴルフ用ウッドクラブの展示用支持装置に関し、当初明細書には、ゴルフ用ウッドクラブをフックして展示するフック部材を備え、該フック部材が、ヘッドのフェイス面と下面部の2面の両面に1部当接し支持する面、及びシャフトを弾性的かつ固定的に喰え込む切り込み部を備える事項が記載されているといえる。

(ii)アイアンクラブの展示用支持装置について
当初明細書等の記載「ゴルフ用クラブの展示用支持装置として、1つのアイアンヘッドをフックする部材と、該フック部材を複数個連結する連結部材とから構成される展示用支持装置。」(上記記載事項b)、及び「前記フック部材はゴルフ用アイアンクラブのヘッド部を、該ヘッド部を懸架するように線と面で支持し、かつ同クラブのシャフト部を2点で線支持できるようにしたことを特徴とする特許請求の範囲第2項に示したゴルフ用クラブの展示用支持装置。」(上記記載事項d)からみて、アイアンクラブの展示用支持装置が、アイアンクラブをフックして展示するフック部材を備え、該フック部材が、ヘッドを懸架するように支持する線と面、及びシャフトを線支持する2点を備える事項が記載されている。
そして、上記「ヘッドを懸架するように支持する線と面」及び「シャフトを線支持する2点」は、当初明細書等の記載「・・・クラブのシャフトを支持部(106)と支持部(108)の2点で支持固定する。各支持部(106)(108)では2つの支持部材(106-1,106-2)及び支持部材(108-1,108-2)がシャフトをはさむように支持固定している。・・・」(上記記載事項h)、及び「・・・ヘッド部(119)の裏側のフェイス面は、このフック部材(104)の図11で見た支持部(110)に面接触するように置かれている・・・」(上記記載事項i)を参酌すれば、「ヘッドに当接し支持する線と面」及び「シャフトを(2組の支持部により)挟むように支持固定する2組の挟み込み部」といえるから、アイアンクラブの展示用支持装置に関し、当初明細書には、アイアンクラブをフックして展示するフック部材を備え、該フック部材が、ヘッドに当接し支持する線と面、及びシャフトを挟むように支持固定する2組の挟み込み部を備える事項が記載されているといえる。

(iii)ゴルフ用クラブの展示用支持装置について
上記(i)及び(ii)における検討結果を踏まえると、当初明細書等には、ゴルフ用クラブの展示用支持装置に関し、ゴルフ用クラブをフックして展示するフック部材を備え、該フック部材が、ヘッドに当接し支持するヘッド支持部、及びシャフトを弾性的かつ固定的に喰え込む又は挟むように支持固定するシャフト案内溝を備える事項が記載されているといえる。
ここで、「フック(して)」とは、上記(1)のとおり「吊り持ち(して)」と同義であるといえ、「ヘッド支持部」にて「ヘッドに当接し支持する」、及び「シャフト案内溝」にて「シャフトを弾性的かつ固定的に喰え込む又は挟むように支持固定する」ためには、それぞれ「ヘッド支持部」にヘッドを「当てがう」動作、及び「シャフト案内溝」にシャフトを「挿入する」動作が必要とされることは明らかである。
そうすると、当初明細書等には、ゴルフ用クラブの展示用支持装置のフック部材に関し、「ヘッド支持部」にヘッドを「当てがう」動作を行うこと、「シャフト案内溝」にシャフトを「挿入する」動作を行うこと、ゴルフ用クラブを「吊り持ち」及び「展示」させるといった技術的事項が記載されているといえる。

また、当初明細書等の記載「・・・ウッドクラブにおいては2面と1線を規制する方法によって、アイアンクラブにおいては1面と線及び2点による1線支持によって複数のクラブを展示した場合も、シャフトをきれいにそろえて表示することが、簡単にできるようになった。・・・面と線とで規制する方式を見つけることにより、小さな大きさで、安定的かつ定位置で表示できる展示用支持装置ができた。」(上記記載事項j)、及び「また本願のこの展示装置を使えば、展示してあるゴルフクラブを、ユーザが展示装置から外し、手に持ったり試し振りをした後、このクラブを展示装置に戻しても、元に展示していたように、頭を揃え、マークが見える形で展示される・・・」(上記記載事項k)からみて、ゴルフ用クラブの展示用支持装置の技術的本質が、フック部材の「ヘッド支持部」と「シャフト案内溝」とでゴルフ用クラブを拘束するという、「特定の支持構造」を備えることにあり、それによって、ユーザがゴルフ用クラブを展示用支持装置に戻した際、安定的かつヘッドやシャフトの向きが揃った定位置にて展示されるという、該展示用支持装置の効果が奏されるといえる。
そして、当初明細書等には、「ヘッド支持部」にヘッドを「当てがう」動作や、「シャフト案内溝」にシャフトを「挿入する」動作について、これら動作の遂行手順(同時並行関係や時間的な順序関係)を特定するに足る事項は記載されていないが、これら動作の遂行手順としては種々の手順が想定されるところ、上記ゴルフ用クラブの展示用支持装置の技術的本質を踏まえれば、それら手順のいずれもが上記「特定の支持構造」を備えるゴルフ用クラブの展示用支持装置によるゴルフ用クラブの展示手順として自明なものであって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
以上のことから、「次いで上記ヘッド支持部にゴルフ用クラブのヘッドを当てがいながらシャフトを上記シャフト案内溝に挿入して吊り持ちさせながら当該ゴルフ用クラブを展示させる」なる事項は、当初明細書等に記載された技術的事項の範囲内の事項であると認められる。

したがって、請求項1に「次いで上記ヘッド支持部にゴルフ用クラブのヘッドを当てがいながらシャフトを上記シャフト案内溝に挿入して吊り持ちさせながら当該ゴルフ用クラブを展示させる」との記載を追加する補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。

1-4 まとめ
したがって、平成21年5月27日付け手続補正は、願書に最初に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした出願に対してなされたものでないので、同法第123条第1項第1号に該当せず、無効理由3によって無効とすることはできない。

2.本件特許発明
平成21年5月27日付け手続補正は、適法なものであるから、本件特許の請求項1?7に係る発明(以下「本件特許発明1」?「本件特許発明7」という。)は、本件特許の明細書及び図面の記載からみて、その請求の範囲の請求項1?7に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
フック部材と、当該フック部材を一つ又は複数着脱自在に取り付ける長尺な連結部材と、上記連結部材の端部に設けたブラケットとからなり、上記フック部材は本体と、上記本体の上部に設けられてゴルフ用クラブのヘッドを支持するヘッド支持部と、上記本体の胴部に上記ヘッド支持部に連なりながら下方に向けて形成されて上記ゴルフ用クラブのシャフト部を挿入させるシャフト案内溝と、上記本体に形成されて上記連結部材を上記本体と交叉する方向に挿入させる溝又は孔とで構成され、上記連結部材を上記フック部材に挿入し、更に上記連結部材を上記ブラケットを介して展示装置に取付け、次いで上記ヘッド支持部にゴルフ用クラブのヘッドを当てがいながらシャフトを上記シャフト案内溝に挿入して吊り持ちさせながら当該ゴルフ用クラブを展示させることを特徴とするゴルフ用クラブの展示用支持装置。
【請求項2】
ヘッド支持部がウッドヘッドのフェイス面を当接させるフェイス当接部と、同じくウッドヘッドの下面部を当接させる下面当接部とを備え、シャフト案内溝が本体と一体な左右一対の突起で規制された上下方向に沿う溝から構成されている請求項1のゴルフ用クラブの展示用支持装置。
【請求項3】
フェイス当接部を平滑面で構成し、下面当接部を上記平滑面に対向する曲面で構成している請求項2に記載のゴルフ用クラブの展示用支持装置。
【請求項4】
ヘッド支持部がアイアンヘッドのフェイス面を当接させるフェイス当接部と、同じくアイアンヘッドの外面を支持する外面当接部とを備え、シャフト案内溝が本体と一体で正面側に突出する左右一対の突起とこの突起で規制された上下方向に沿う溝から構成されている請求項1のゴルフ用クラブの展示用支持装置。
【請求項5】
フェイス当接部を面で構成し、外面当接部を本体の上部に起立する支持片で構成させ、左右一対の突起が上下に二組設けられている請求項4のゴルフ用クラブの展示用支持装置。
【請求項6】
連結部材が水平な支持板から構成され、当該支持板に一つ又は複数のフック部材を横方向に並べて挿入している請求項1、2、3、4又は5のゴルフ用クラブの展示用支持装置。
【請求項7】
連結部材がひな段状に高さを変えながら延設した複数の先端板部を備えた支持板からなり、各先端板部にそれぞれフック部材を挿入している請求項1、2、3、4又は5のゴルフ用クラブの展示用支持装置。」

3.無効理由1について
3-1 甲各号証の記載内容
甲第1?2号証には、次の事項が記載されている。

(1)甲第1号証
甲第1号証の1枚目左側(表紙)の上部に「メーカーとショップを結ぶ専門経済誌ゴルフ用品界」の表示があり、その中央に「国立国会14.02.27図書館」との受入印が付されているとともに、2枚目左側の頁(中央に大きく「ウッド用クラブフック世界に発信!」と表記がされた頁)には、次の事項が記載されている。
(1a)「ウッド用クラブフック世界に発信!」
(1b)「GOY-X1ウッドホルダー」
(1c)「店内の商品陳列が整然とし、クラブヘッドがたいへん見やすく、選びやすく、美しく見え付加価値があがります。」
(1d)「ジャパンゴルフフェア2002出展。会場で手に取って御覧下さい。」

また、上記(1b)?(1d)の記載事項の下側に掲載された2枚の写真から、次の事項を読み取ることができる。
(1e)「GOY-X1ウッドホルダー」と称呼される「ウッド用クラブフック」が、本体と、上記本体の上部に設けられてウッドクラブのヘッドの下面部(クラウン部)と対向するヘッド下面対向部と、上記本体の上部に設けられてウッドクラブのヘッドのフェイスと対向する位置にて起立する起立片と、上記本体の胴部に上記ヘッド対向部及び起立片に連なりながら下方に向けて形成されて上記ウッドクラブのシャフト部を挿入させるシャフト案内溝とで構成されること。
(1f)ヘッド下面対向部の少なくとも前方側端縁及び後方側端縁が、それぞれ上端部から起立片の基部に向かって(左上から右下に向かって)漸次下降する曲線形状をなすこと。
(1g)シャフト案内溝が本体と一体な左右一対の突起で規制された上下方向に沿う溝から構成されていること。
(1h)ウッドクラブの陳列時に、ヘッド下面対向部の前方側端縁と起立片の基部との交点付近に、ウッドクラブのフェイスの下端縁が位置すること。
(1i)ウッドクラブの陳列時に、シャフト案内溝の上端部に、ウッドクラブのホーゼル(ヘッドとシャフトを取付ける銀色のソケット)が位置すること。
(1j)3本のウッドクラブを陳列する際、手前から後方に向かって順次間隔を空けて配置された3つの同一形状の「ウッド用クラブフック」に、3本のウッドクラブがそれぞれのシャフト部が略上下方向に沿った状態にて取付けられ、また最も後方に位置する「ウッド用クラブフック」に支持されたウッドクラブのさらに後方に、略水平方向に沿って延在する棒状の部材が存在すること。
(1k)「ウッド用クラブフック」の本体のシャフト案内溝とは反対の面に、延在範囲や方向が不明の切欠きが設けられ、ウッドクラブの陳列時に、この切欠きからフック部材の本体の外側に突出するフック部材とは別の部材が存在すること。

上記(1c)の記載事項、上記(1e)、(1f)、(1h)及び(1i)の事項を併せみれば、ウッド用クラブフックは、ウッドクラブを吊り持ちさせながら当該ウッドクラブを展示させる陳列形態を採るウッドクラブの陳列用器具に用いられる機能部品であることは明らかである。
そうすると、ウッド用クラブフックの本体の上部に設けられたヘッド下面対向部及び起立片は、それぞれウッドクラブのヘッドの下面部を当接させる下面当接部、及びウッドクラブのヘッドのフェイス面を当接させるフェイス当接部であり、これら下面当接部及びフェイス当接部は、ウッドクラブのヘッドを支持するヘッド支持部を構成するといえる。
また、上記(1f)の事項からみて、下面当接部とフェイス当接部とによりウッドクラブのヘッドを部分的に収容する凹部が形造られるといえる。

これらの記載事項及び掲載された2枚の写真から読み取ることができる事項を総合すると、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「順次間隔を空けて配置された3つの同一形状のウッド用クラブフックを備え、
ウッド用クラブフックは本体と、上記本体の上部に設けられてウッドクラブのヘッドを支持するヘッド支持部と、上記本体の胴部に上記ヘッド支持部に連なりながら下方に向けて形成されて上記ウッドクラブのシャフト部を挿入させるシャフト案内溝とで構成され、
上記ヘッド支持部がウッドクラブのヘッドのフェイス面を当接させるフェイス当接部と、同じくウッドクラブのヘッドの下面部を当接させる下面当接部とから構成され、
シャフト案内溝が本体と一体な左右一対の突起で規制された上下方向に沿う溝から構成され、
下面当接部とフェイス当接部とによりウッドクラブのヘッドを部分的に収容する凹部が形造られ、
ウッドクラブを吊り持ちさせながら当該ウッドクラブを展示させる
ウッドクラブの陳列用器具。」

(2)甲第2号証
(2a)「バツグ本体1の上部開口部2に、複数のクラブヘツド嵌合溝10…,10’…と、この嵌合溝にヘツドを嵌入したクラブのネツクを弾性的に挾持し得る複数のクラブネツク挾持片11…,11’…とを形成したクラブヘツド枕12,12’を設けたことを特徴とするゴルフ用クラブバツグ。」(1頁5?10行)
(2b)「従来、多数のクラブはバツグに雑然と収容していたので、ゴルフ場への運搬時及びゴルフ場内での運搬時にバツグ内で各クラブのヘツド同志、シヤフト同志が干渉して干渉音を出すだけでなくこの部分が損傷されるといつた欠点があつた。
本考案は上記した欠点を除去する目的をもつてなされたもので、その要旨とするところは、バツグ本体の上部開口部に、複数のクラブヘツド嵌合溝と、この嵌合溝にヘツドを嵌入したクラブのネツクを弾性的に挾持し得る複数のクラブネツク挾持片とを形成したクラブヘツド枕を設けた点にある。」(1頁14行?2頁5行)
(2c)「・・・前記バツグ本体1の上部開口部2に、横棒7と短棒8…とによりウツドの1番ないし4番のクラブC_(1)…収容区画9を設け、その隣りに、アイアンの3番ないし7番のクラブC_(2)…を整列収容させるためにこれらのクラブヘツドa_(2)…に適合させた複数のクラブヘツド嵌合溝10…と、この嵌合溝にヘツドa_(2)…を嵌入したクラブC_(2)…のネツクb_(2)…を弾性的に挾持し得る複数のクラブネツク挾持片11…とを形成した合成ゴム製等のヘツド枕12を設け、更にその隣りに、アイアンの8番、9番、ピツチングウエツジ、サンドウエツジ、パターの各クラブC_(3)…を整列収容させるためにこれらのクラブヘツドa_(3)に適合させた複数のクラブヘツド嵌合溝10’…と、この嵌合溝にヘツドを嵌入したクラブC_(3)…のネツクb_(3)…を弾性的に挾持し得る複数のクラブネツク挾持片11’…とを形成したヘツド枕12’を設けたものである。なお1’は肩掛けバンド、c_(1),c_(2),c_(3)は各クラブのシヤフト、d_(1),d_(2),d_(3)は同じくグリツプを示している。」(2頁10行?3頁9行)
(2d)「・・・アイアンクラブC_(2),C_(3)については次の手順による。即ち、入れる場合はヘツドa_(2),a_(3)を手で把持したクラブを、そのグリップd_(2),d_(3)を枕12、12’の後部空間に落し込むことによりそのシヤフトc_(2),c_(3)の上端が所望の挾持片11,11’…間に位置する鎖線図示の状態となす。次いで挾持片11,11’で囲まれることにより形成されているネツク挾持孔13,13’の切欠部14,14’を通してシヤフトc_(2),c_(3)の上端を挾持孔13,13’内に入れ、然る後シヤフトより大径のネツクb_(2),b_(3)を挾持孔13,13’にきつく押込むと同時にヘツドa_(2),a_(3)を嵌合溝10、10’内に嵌め込む。これによりクラブC_(2),C_(3)は、そのネツクb_(2),b_(3)が挾持片にその弾力でもつて挾持されることになるので通常の運搬時等に掛かる力によつて浮き上ることもなく、またヘツドa_(2),a_(3)が嵌合溝12,12’に嵌合しているので回ることもない。」(3頁14行?4頁11行)
(2e)「上記図示例においては、ウツドクラブ用にはヘツド枕を使用していないが、勿論使用することもでき、また、挾持片の形状を適宜変更してクラブに一定値以上の水平力を掛ければ、挾持片は弾性変形してネツクの通過を許すようにすること、或いは挾持片の挾持力を小さく設定すると共に鎖線図示のヘツドバンド15を用いることもでき、更にまた収容すべきクラブが少数であるときには枕を一個とすることも可能である。」(4頁16行?5頁1行)

また、第2図及び第3図から、次の事項を読み取ることができる。
(2f)クラブヘツド嵌合溝10,10’は、クラブヘツド枕12,12’の上部に形成されていること。
(2g)ネツク挾持孔13,13’が、クラブヘツド枕12,12’と一体で後部側に突出する左右一対のクラブネツク挾持片11,11’で規制された上下方向に沿う溝から構成されること。
(2h)ネツク挾持孔13,13’は、クラブヘツド枕12,12’の胴部にクラブヘツド嵌合溝10,10’に連なりながら下方に向けて形成されていること。
(2i)クラブC_(2),C_(3)は、ヘツドa_(2),a_(3)がクラブヘツド枕12,12’のクラブヘツド嵌合溝10、10’に支持された状態で吊り持ちされて収容されていること。

上記(2d)の記載事項「・・・ヘツドa_(2),a_(3)を嵌合溝10、10’内に嵌め込む。・・・、またヘツドa_(2),a_(3)が嵌合溝12,12’に嵌合しているので回ることもない。」、及び上記(2i)の事項を併せみれば、クラブヘツド嵌合溝10,10’は、アイアンクラブC_(2),C_(3)のヘツドa_(2),a_(3)のフェイス面と当接する一方の側壁と、同じくアイアンクラブC_(2),C_(3)のヘツドa_(2),a_(3)の前記フェイス面とは反対側の外面と当接する前記一方の側壁に対向する他方の側壁とを備えるといえる。

これらの記載事項、並びに第2図及び第3図からから読み取ることができる事項を総合すると、甲第2号証には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「バツグ本体の上部開口部に、複数のクラブヘツド嵌合溝と、この嵌合溝にヘツドを嵌入したクラブのネツクを弾性的に挾持し得る複数のネツク挾持孔とを形成したクラブヘツド枕を設けたゴルフ用クラブバツグであって、
複数のクラブヘツド嵌合溝は、クラブヘツド枕の上部に形成されてアイアンクラブのヘツドが嵌入される複数のクラブヘツド嵌合溝であり、
複数のネツク挾持孔は、クラブヘツド枕の胴部にクラブヘツド嵌合溝に連なりながら下方に向けて形成されてアイアンクラブのネツクを弾性的に挾持する複数のネツク挾持孔であり、
クラブヘツド嵌合溝がアイアンクラブのヘツドのフェイス面と当接する一方の側壁と、同じくアイアンクラブのヘツドの前記フェイス面とは反対側の外面と当接する前記一方の側壁に対向する他方の側壁とを備え、ネツク挾持孔がクラブヘツド枕と一体で後部側に突出する左右一対のクラブネツク挾持片で規制された上下方向に沿う溝から構成されるゴルフ用クラブバツグ。」

3-2 本件特許発明1
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、その構造又は機能からみて、後者の「ウッド用クラブフック」は前者の「フック部材」に相当し、以下同様に、「本体」は「本体」に、「ウッドクラブ」は「ゴルフ用クラブ」に、「ヘッド」は「ヘッド」に、「ヘッド支持部」は「ヘッド支持部」に、「胴部」は「胴部」に、「シャフト部」は「シャフト部」に、「シャフト案内溝」は「シャフト案内溝」に、「ウッドクラブの陳列用器具」は「ゴルフ用クラブの展示用支持装置」に、それぞれ相当する。
そして、前者の「フック部材と、当該フック部材を一つ又は複数着脱自在に取り付ける長尺な連結部材と、上記連結部材の端部に設けたブラケットとからなり」と、後者の「ウッド用クラブフックを備え」とは、ともに「フック部材を備え」る点において共通する。
また、前者の「上記ヘッド支持部にゴルフ用クラブのヘッドを当てがいながらシャフトを上記シャフト案内溝に挿入して吊り持ちさせながら当該ゴルフ用クラブを展示させる」と、後者の「ウッドクラブを吊り持ちさせながら当該ウッドクラブを展示させる」とは、ともに「ゴルフ用クラブを吊り持ちさせながら当該ウッドクラブを展示させる」点において共通する。

そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、本件特許発明1の用語を用いて記載すると次の一致点及び相違点を有する(対応する甲1発明の用語を()内に記載する。)。
(一致点)
「フック部材を備え、
フック部材は本体と、上記本体の上部に設けられてゴルフ用クラブのヘッドを支持するヘッド支持部と、上記本体の胴部に上記ヘッド支持部に連なりながら下方に向けて形成されて上記ゴルフ用クラブのシャフト部を挿入させるシャフト案内溝とで構成され、
ゴルフ用クラブを吊り持ちさせながら当該ゴルフ用クラブを展示させる
ゴルフ用クラブの展示用支持装置。」
(相違点1)
ゴルフ用クラブを吊り持ちさせながら当該ウッドクラブを展示させるための構成が、本件特許発明1は、「フック部材を一つ又は複数着脱自在に取り付ける長尺な連結部材と、上記連結部材の端部に設けたブラケット」を備えるとともに、「上記連結部材を上記本体と交叉する方向に挿入させる溝又は孔」が「フック部材」の「上記本体に形成され」、「上記連結部材を上記フック部材に挿入し、更に上記連結部材を上記ブラケットを介して展示装置に取付け、次いで上記ヘッド支持部にゴルフ用クラブのヘッドを当てがいながらシャフトを上記シャフト案内溝に挿入」せしめるものであるのに対し、甲1発明は、そのような構成を備えているかどうか明らかでない点。

(2)判断
相違点1について検討する。
甲1発明は、「ウッドクラブを吊り持ちさせながら当該ウッドクラブを展示させるウッドクラブの陳列用器具」であるから、「順次間隔を空けて配置された3つのウッド用クラブフック」を、それらが配置された空間位置に留まるようにするために何らかの支持構造が必要とされることは自明である。
そして、物品の展示用支持装置において、架台に取り付けた長尺な連結部材に、複数の同一形状のフック部材を着脱自在に取り付け支持させることは、甲第5号証(明細書第2頁第5?12行)、及び甲第9号証(段落【0002】)にも記載されているように、本件特許の出願時における当業者の技術常識である。
そうすると、甲1発明のゴルフ用クラブの展示用支持装置(ウッドクラブの陳列用器具)が、架台に取り付けた長尺な連結部材に、3つのフック部材(ウッド用クラブフック)を着脱自在に取り付け支持させる構成を備えることは、甲第1号証に記載されているに等しい事項であると認められる。
しかしながら、架台に長尺な連結部材を取り付けるための方法としては、連結部材の端部に設けたブラケットにより架台に取り付ける方法の他、一体成形や溶接等によって架台と連結部材を一体化する方法や、架台に連結部材を差込み固定する方法等、種々の取り付け方法が想定されるところ、甲第1号証において、いずれの取り付け方法が採られているのか不明であるから、甲1発明の展示用支持装置(ウッドクラブの陳列用器具)が、連結部材の端部にブラケットを設ける構成を備えることまでもが、甲第1号証に記載されているに等しい事項であるとは認められない。

また、請求人の提示した甲第2?21号証のいずれの証拠を参酌しても、本件特許発明1のゴルフ用クラブの展示用支持装置について記載ないし示唆を見い出すことはできない。

以上のことから、本件特許発明1は、甲1発明と同一ではなく、甲第2?21号証のいずれに記載された発明でもないから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものとすることはできない。

3-3 本件特許発明2、3及び7
本件特許発明2、3及び7は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1が、甲1発明と同一ではなく、甲第2?21号証のいずれに記載された発明でもない以上、本件特許発明2、3及び7も、甲1発明と同一ではなく、甲第2?21号証のいずれに記載された発明でもないから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。

3-4 まとめ
したがって、本件特許発明1?3及び7は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由1によって無効とすることはできない。

4.無効理由2について
4-1 本件特許発明1
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、上記3.3-2(1)に記載したとおり、両者は相違点1において相違すると認められる。

(2)判断
相違点1について検討する。
甲1発明のゴルフ用クラブの展示用支持装置(ウッドクラブの陳列用器具)が、架台に取り付けた長尺な連結部材に、3つのフック部材(ウッド用クラブフック)を着脱自在に取り付け支持させる構成を備えることは、甲第1号証に記載されているに等しい事項であると認められることは、上記3.3-2(2)にて既に述べたとおりである。
また、物品の展示用支持装置の技術分野において、長尺な連結部材を該連結部材の端部に設けたブラケットを介して展示装置に取付けることや、フック部材の本体に長尺な連結部材を該本体と交叉する方向に挿入させる溝又は孔を設けることは、本件特許の出願日前に周知の技術的事項である(例えば、前者については、甲第5号証?甲第8号証を、後者については、甲第5号証、甲第9号証及び甲第10号証を参照)。
してみれば、甲1発明に周知の技術的事項を適用し、長尺な連結部材を該連結部材の端部に設けたブラケットを介して展示装置に取付ける構成、及びフック部材(ウッド用クラブフック)の本体に長尺な連結部材を該本体と交叉する方向に挿入させる溝又は孔を設ける構成を採ることは、当業者が容易に想到し得ることであり、その際、フック部材(ウッド用クラブフック)への連結部材の挿入、及び展示装置への連結部材を取付けのいずれを先に行うかは、当業者が適宜選択し得ることにすぎない。
また、甲1発明において、フック部材(ウッド用クラブフック)が展示装置に取付けられた後で、ゴルフ用クラブ(ウッドクラブ)を展示することは自明であり、ゴルフ用クラブ(ウッドクラブ)を展示する際、ヘッド支持部にゴルフ用クラブ(ウッドクラブ)のヘッドを当てがいながらシャフトをシャフト案内溝に挿入するようにすることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本件特許発明1による効果も、甲1発明及び周知の技術的事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

よって、本件特許発明1は甲1発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4-2 本件特許発明2
(1)対比
本件特許発明2と甲1発明とを対比すると、上記4-1(1)で対比した以外に、その構造又は機能からみて、後者の「ウッドクラブのヘッド」は前者の「ウッドヘッド」に相当し、以下同様に、後者の「ウッドクラブのヘッドのフェイス面を当接させるフェイス当接部」は前者の「ウッドヘッドのフェイス面を当接させるフェイス当接部」に、「ウッドクラブのヘッドの下面部を当接させる下面当接部」は「ウッドヘッドの下面部を当接させる下面当接部」に、「本体と一体な左右一対の突起で規制された上下方向に沿う溝」は「本体と一体な左右一対の突起で規制された上下方向に沿う溝」に、それぞれ相当する。
したがって、本件特許発明2と甲1発明とは、上記4-1(1)で挙げた相違点1以外の相違点はない。

(2)判断
相違点1については、上記4-1(2)に記載したとおりである。
そして、本件特許発明2による効果も、甲1発明及び周知の技術的事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

よって、本件特許発明2は甲1発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4-3 本件特許発明3
(1)対比
本件特許発明3と甲1発明とを対比すると、上記4-1(1)で挙げた相違点1以外に、次の相違点を有する。

(相違点2)
本件特許発明3では、フェイス当接部を平滑面で構成し、下面当接部を上記平滑面に対向する曲面で構成しているのに対して、甲1発明では、下面当接部とフェイス当接部とによりウッドヘッド(ウッドクラブのヘッド)を部分的に収容する凹部が形造られるものの、フェイス当接部及び下面当接部の具体的な形状が不明な点

(2)判断
相違点1については、上記4-1(2)に記載したとおりであるから、以下、相違点2について検討する。
ウッドクラブのヘッドのフェイス面が略平面であり、クラウン部、すなわち下面部が曲面形状を呈することは、ゴルフ用品の技術分野における技術常識である。
また、物品を支持する際、当てがう部分を平滑面として接触による傷の発生を防止したり、点接触ではなく線接触や面接触とすることにより支持の安定性を向上させることは、一般に広く行われている慣用技術である。
してみれば、甲1発明において、下面当接部及びフェイス当接部の形状や性状を、それぞれウッドヘッド(ウッドクラブのヘッド)のフェイス面及び下面部の形状に倣った形状や傷つきにくい性状とすること、すなわちフェイス当接部を平滑面で構成し、下面当接部を上記平滑面に対向する曲面とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本件特許発明3による効果も、甲1発明及び周知の技術的事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

よって、本件特許発明3は甲1発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4-4 本件特許発明4
(1)対比
本件特許発明4と甲1発明とを対比すると、上記4-1(1)で対比した以外に、その構造又は機能からみて、後者の「本体と一体な左右一対の突起で規制された上下方向に沿う溝」は前者の「本体と一体で正面側に突出する左右一対の突起とこの突起で規制された上下方向に沿う溝」に相当する。
したがって、本件特許発明4と甲1発明とは、上記4-1(1)で挙げた相違点1以外に、次の相違点を有する。

(相違点3)
本件特許発明4では、ヘッド支持部がアイアンヘッドのフェイス面を当接させるフェイス当接部と、同じくアイアンヘッドの外面を支持する外面当接部とを備えているのに対して、甲1発明では、ヘッド支持部がウッドクラブのヘッドのフェイス面を当接させるフェイス当接部と、同じくウッドクラブのヘッドの下面部を当接させる下面当接部とから構成されている点。

(2)判断
相違点1については、上記4-1(2)に記載したとおりであるから、以下、相違点3について検討する。

(i)甲1発明について
甲1発明は、「ウッドクラブの陳列用器具」の発明であり、「本体と、上記本体の上部に設けられてウッドクラブのヘッドを支持するヘッド支持部と、上記本体の胴部に上記ヘッド支持部に連なりながら下方に向けて形成されて上記ウッドクラブのシャフト部を挿入させるシャフト案内溝とで構成され」る「ウッド用クラブフックを備え」る構成を採用し、「店内の商品陳列が整然とし、クラブヘッドがたいへん見やすく、選びやすく、美しく見え(る)」(上記記載事項(1c))という効果を奏するものである。

(ii)甲2発明について
甲2発明は、「ゴルフ用クラブバツグ」の発明であり、「ゴルフ場への運搬時及びゴルフ場内での運搬時にバツグ内で各クラブのヘツド同志、シヤフト同志が干渉して干渉音を出すだけでなくこの部分が損傷されるといつた欠点があつた」(上記記載事項(2b))という課題を解決するために、「バツグ本体の上部開口部に、複数のクラブヘツド嵌合溝と、この嵌合溝にヘツドを嵌入したクラブのネツクを弾性的に挾持し得る複数のネツク挾持孔とを形成したクラブヘツド枕を設け」る構成を採用し、「クラブは、そのネツクが挾持片にその弾力でもつて挾持されることになるので通常の運搬時等に掛かる力によつて浮き上ることもなく、またヘツドが嵌合溝に嵌合しているので回ることもない」(上記記載事項(2d))という効果を奏するものである。
また、甲2発明は、アイアンクラブのヘツドを嵌入するクラブヘツド嵌合溝が、アイアンクラブのヘツドのフェイス面と当接する一方の側壁と、同じくアイアンクラブのヘツドの前記フェイス面とは反対側の外面と当接する前記一方の側壁に対向する他方の側壁とを備える構成を有しており、「ヘツドを嵌入する」、「クラブヘツド嵌合溝」、「一方の側壁」及び「前記一方の側壁に対向する他方の側壁」は、「ヘツドを支持する」、「ヘツド支持部」、「フェイス当接部」及び「外面当接部」といえるから、甲2発明は、アイアンクラブのヘツドを支持するヘツド支持部が、アイアンクラブのヘツドのフェイス面と当接するフェイス当接部と、同じくアイアンクラブのヘツドの外面と当接する外面当接部とを備える構成を有しているといえる。

(iii)甲1発明と甲2発明の組み合わせについて
甲1発明は、「ウッドクラブの陳列用器具」の発明であり、甲第1号証には、アイアンクラブの陳列用器具は記載されておらず、アイアンクラブの商品陳列に転用する際の具体的構造について記載も示唆もされていない。
また、甲2発明は、「ゴルフ用クラブバツグ」の発明であり、甲第2号証には、「クラブヘツド枕」がアイアンクラブの商品陳列に転用可能であることについて、何らの記載も示唆もない。
してみると、甲第2号証に、「アイアンクラブのヘツドのフェイス面と当接する一方の側壁と、同じくアイアンクラブのヘツドの外面と当接する前記一方の側壁に対向する他方の側壁とを備え」る「クラブヘツド嵌合溝」を「形成したクラブヘツド枕」が開示されていたとしても、甲2発明は、「運搬時にバツグ内で各クラブのヘツド同志、シヤフト同志が干渉して干渉音を出すだけでなくこの部分が損傷されるといつた欠点があつた」という技術課題を解決し、「ヘツドが嵌合溝に嵌合しているので回ることもない」という効果を奏するために、アイアンクラブのヘツドのフェイス面とは反対側の外面と当接する側壁(外面当接部)を備えるものであり、一方、甲1発明は、「店内の商品陳列が整然とし、クラブヘッドがたいへん見やすく、選びやすく、美しく見え(る)」という効果を奏するものであるから、甲第2号証において、「クラブヘツド枕」に形成された「クラブヘツド嵌合溝」、「一方の側壁」及び「他方の側壁」に求められる機能は、甲1発明の「ヘツド支持部」及び「シャフト案内溝」に求められる機能と全く異なるものである。
そうすると、甲1発明に甲2発明を組み合わせた場合、甲1発明が上記側壁を備えることにより、上記の甲1発明の効果を奏することができないこととなるから、甲1発明に甲2発明を組み合わせることの必然性も動機付けもなく、むしろ、甲1発明と甲2発明とを組み合わせることには、阻害要因があるというべきであるから、甲1発明におけるフック部材(ウッド用クラブフック)をアイアンクラブ用に転用することを当業者が容易に想到できたとはいえない。

また、請求人の提示した他のいずれの証拠を参酌しても、上記相違点3について記載ないし示唆を見い出すことはできない。

よって、本件特許発明4は、甲1?21号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4-5 本件特許発明5
本件特許発明5は、本件特許発明4を直接引用するものであり、本件特許発明5は本件特許発明4の構成要素をすべて含み更に限定を付加したものに相当する。
そうすると、上記4-4のとおり、本件特許発明4が、甲1?21号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明5も、甲1?21号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4-6 本件特許発明6
(1)対比
本件特許発明6と甲1発明とを対比すると、上記4-1(1)で挙げた相違点1以外に、次の相違点を有する。

(相違点4)
本件特許発明6では、連結部材が水平な支持板から構成され、当該支持板に一つ又は複数のフック部材を横方向に並べて挿入しているのに対して、甲1発明では、3つの同一形状のフック部材(ウッド用クラブフック)が順次間隔を空けて配置されているものの、これらのフック部材(ウッド用クラブフック)の具体的な支持構造が不明な点。

(2)判断
相違点1については、上記4-1(2)に記載したとおりであるから、以下、相違点4について検討する。
物品の展示用支持装置の技術分野において、水平方向に配置される支持板に一つ又は複数のフック部材を横方向に並べて挿入して支持するフック部材の支持構造は、本件特許の出願日前に周知の技術的事項である(例えば、甲第5号証、甲第9号証及び甲第10号証を参照)。
してみれば、甲1発明に周知の技術的事項を適用し、水平方向に配置される支持板にフック部材(ウッド用クラブフック)を横方向に並べて挿入して支持することは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、フック部材(ウッド用クラブフック)を一つ又は複数、支持板に支持させる構成を採ることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることにすぎない。
そして、本件特許発明6による効果も、甲1発明及び周知の技術的事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

よって、本件特許発明6は甲1発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4-7 本件特許発明7
(1)対比
本件特許発明7と甲1発明とを対比すると、上記4-1(1)で挙げた相違点1以外に、次の相違点を有する。

(相違点5)
本件特許発明7では、連結部材がひな段状に高さを変えながら延設した複数の先端板部を備えた支持板からなり、各先端板部にそれぞれフック部材を挿入しているのに対して、甲1発明では、そのような特定事項を備えるのか不明な点。

(2)判断
相違点1については、上記4-1(2)に記載したとおりであるから、以下、相違点5について検討する。
請求人が挙げた甲第1?21号証のいずれにも、ひな段状に高さを変えながら延設した複数の先端板部を備えた支持板を備えるゴルフ用クラブの展示用支持装置や、物品の展示用支持装置が開示されておらず、当該技術的事項が本件特許の出願日前に周知の技術的事項であったとも認められない。
また、甲第1号証からは、「3本のウッドクラブを陳列する際、手前から後方に向かって順次間隔を空けて配置された3つの同一形状の『ウッド用クラブフック』に、3本のウッドクラブがそれぞれのシャフト部が略上下方向に沿った状態にて取付けられ、また最も後方に位置する『ウッド用クラブフック』に支持されたウッドクラブのさらに後方に、略水平方向に沿って延在する棒状の部材が存在すること。」(上記図示事項(1j))といった事項が把握できるにすぎず、『ひな段状に高さを変えながら』複数の上記ウッドホルダーが固定されていることを見て取ることはできない。
そして、甲第12?21号証から、展示物品の展示効果を向上させるために展示装置又は部材をひな段状にすることは、展示装置の技術分野において通常行われていることと認められるとしても、そのようなひな段状の展示を行うために、ひな段状に高さを変えながら延設した複数の先端板部を備えた支持板からなる連結部材を用いることまでが、展示装置の技術分野において通常行われていることや周知の技術的事項であるとは認められない。

また、請求人の提示した他のいずれの証拠を参酌しても、上記相違点5について記載ないし示唆を見い出すことはできない。

よって、本件特許発明7は、甲1?21号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4-8 まとめ
したがって、本件特許発明1?3及び6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明1?3及び6に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効理由2により無効とされるべきである。
また、本件特許発明4、5及び7は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由2によって無効とすることはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許発明1?3及び6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明1?3及び6に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効理由2により無効とされるべきである。
また、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許発明4、5及び7に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する総費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定により、その7分の3を請求人の負担とし、7分の4を被請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-07-27 
出願番号 特願2003-126752(P2003-126752)
審決分類 P 1 113・ 113- ZC (A47F)
P 1 113・ 55- ZC (A47F)
P 1 113・ 121- ZC (A47F)
最終処分 決定却下  
前審関与審査官 稲村 正義藤井 眞吾  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 田合 弘幸
松下 聡
登録日 2009-07-03 
登録番号 特許第4334269号(P4334269)
発明の名称 ゴルフ用クラブの展示用支持装置  
代理人 松田 浩明  
代理人 石川 憲  
代理人 川上 邦久  
代理人 右田 登志男  
代理人 天野 泉  
代理人 山岸 憲司  
代理人 佐藤 雄哉  
代理人 米田 秀之  
代理人 石川 憲  
代理人 千且 和也  
代理人 田島 愛美  
代理人 天野 泉  

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