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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12P
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12P
管理番号 1269984
審判番号 不服2009-23894  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-04 
確定日 2013-02-08 
事件の表示 特願2000-577896「オートムギからβ-グルカン組成物を分離する方法及びそれから得られた生成物」拒絶査定不服審判事件〔平成12年5月4日国際公開、WO00/24270、平成14年9月3日国内公表、特表2002-528062〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1999年10月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1998年10月26日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年12月16日付けの拒絶理由通知に対して、平成21年6月17日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成21年7月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年12月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成24年1月18日付けの審尋に対し、平成24年4月23日に回答書が提出されたものである。

第2 平成21年12月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年12月4日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項6は、
「オートムギから、高いβ-グルカン/グルコース重量比をもち、且つ水溶性β-グルカンの含有量が15重量%またはそれ以上である水溶性β-グルカン含有水溶性組成物を製造する方法であって、下記の工程:
-(a)β-グルカンが豊富なオートムギの種類、
(b)該オートムギ種類を乾式製粉して得られるオートムギ粉末、
(c)該オートムギ粉末のβ-グルカン豊富な部分、
からなるグループから少なくとも1つの素材を選択すること;
-該選択された素材中の炭水化物分解酵素を不活性化すること;
-該不活性化された素材を乾式製粉すること;
-該乾式製粉された素材を水性媒体、β-アミラーゼ及びプルラナーゼと混合して懸濁液を作ること;
-このようにして作られた懸濁液を30℃以上の温度で、澱粉をオリゴ糖類及び大部分の二糖類としてのマルトースに実質的に分解するために十分な時間加熱すること;
-該β-アミラーゼ及びプルラナーゼ酵素を不活性化すること;
-水不溶性物質を除去して水溶性β-グルカン組成物を形成すること;
を含むことを特徴とする方法。」(下線は、補正箇所を示す。)
と補正された。

上記補正は、請求項6に記載した発明を特定するために必要な事項である「水溶性β-グルカン含有水溶性組成物」について、「水溶性β-グルカンの含有量が15重量%またはそれ以上である」との限定を付加したものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項6に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物1(原査定の引用文献2)及び刊行物2(原査定の引用文献1)には、以下の事項がそれぞれ記載されている。なお、下線は当審で付加した。

(1)刊行物1:特表平9-505204号公報の記載事項
(1a)「 2.出発原料からの完全なβ-グルカンを含有し、天然のオート麦の味と香りを有する、均一で安定な穀類の懸濁液の調製方法において、
A)ロールドオート又は他の熱及び水処理されたオート麦をミールに、乾燥又は湿潤粉砕する工程、
B)ミールが乾燥粉砕によって製造された場合は、オートミールを水に懸濁させる工程、
C)粗繊維粒子を除去するために、懸濁液を任意に遠心分離又はデカントする工程、
D)本質的にマルトース単位を生じさせ、グルカン消化酵素及びプロテイナーゼ効果を有しないβ-アミラーゼで、懸濁液を、10?100s^(-1)の剪断速度範囲で粘度3?0.1Pasまで処理する工程、
E)本質的にマルトース単位を生じさせ、グルカン消化酵素及びプロテイナーゼ効果を有しないα-アミラーゼで、懸濁液を、10?100s^(-1)の剪断速度範囲で粘度0.5Pas未満まで処理する工程、
F)好ましくは、酵素で処理された懸濁液を均質化する工程、及び、
G)添加された酵素を不活性化する間、滅菌製品を得るために、UHT処理(UHT=超高温)に懸濁液をかける工程
を特徴とする前記調製方法。」(【特許請求の範囲】請求項2)

(1b)「 近年、オート麦から作られる食品に対する興味が増しつつある。この主な理由は、オート麦の繊維が血清コレステロールのレベルを下げることによって、健康に良い影響を与えることが判ったからである。」(4頁7?9行)

(1c)「米国特許第4996063号明細書(G.F.Inglett)には、α-アミラーゼで粉砕されたオート麦製品を処理することによる、水溶性の食物繊維組成物の調製が記載されている。次いで、α-アミラーゼをオート麦澱粉を薄めるために供給し、従っていかなるα-アミラーゼも使用し得る。この様に製造された無色で天然の芳香を欠く微粉の食物繊維組成物は、食品の添加剤として使用される。これらの先行技術の製品は、望ましくない芳香を欠くだけでなく、天然のオート麦に見出される好ましい風味や芳香も奪う。これらの製品は脂肪代用食品として使用される。」(4頁21?28行)

(1d)「 本発明の目的は、オート麦をベースとした乳状の製品を提供することである。
そのまま乳状の製品を飲むことが可能であるので、懸濁液は長時間安定で均一でなければならず、また食欲をそそる味と香りを有しなければならない。更に、その製品は、安定剤及び人工着香剤及び人工香料等のいかなる他からの添加剤を含有すべきではない。
本発明によると、この目的は、天然のオート麦の味と香りを有し、出発原料からの完全なβ-グルカンを含有し、以下の工程によって調製される、均一で安定な穀類の懸濁液によって成し遂げられる。」(5頁1?8行)

(1e)「本発明による穀類の懸濁液は牛乳の代わりとして使用され得る。上述したオート麦の栄養価の高い品質を除けば、この製品は、ラクトースに不耐性な人に適する様な特性を所有すべきである。
発明の製品は、アイスクリーム、オートミールの粥、ヨーグルト及びミルクセーキの元又はそれらへの添加剤として、若しくは、健康飲料又は食間の軽食として使用され得る。」(5頁27行?6頁4行)

(1f)「都合のよいことには、本発明による穀類の懸濁液は、商業的に製造され、予めゼラチン化され、元のオート麦の味と香りを保持するロールドオート(rolled oats)を基にして調製される。ロールドオートは、完全な乾燥又は湿潤粉砕によって、オートミールに粉砕される。乾燥粉砕の際には、オートミールを、好ましくは50?53℃の温度下で、水中に懸濁させる。また湿潤粉砕の際には、50?53℃の温度を有する水が好ましくは使用される。水が脱イオンされていると、特に良い結果が得られる。
適当には、スラリー又は懸濁液の水に対するミールの重量比は、乾燥固形分含量10?15%に対応して、1:5?1:8である。ミールを溶解し、望ましい抽出を達成するまで、懸濁液を攪拌する。スラリーは少なくともpH5を有するべきである。
粗繊維粒子を除去するために、次いで懸濁液を350?450Gで、約10?15分間、遠心分離又はデカントし得る。
次いで、β-アミラーゼ及びα-アミラーゼを添加する。β-アミラーゼは、本質的にマルトース単位を生じさせ、グルカン消化酵素及びプロテイナーゼ効果を有しないβ-アミラーゼ、好ましくは1,4-α-D-グルカンマルトハイドロラーゼであるべきである。α-アミラーゼは、本質的にマルトース単位を生じさせ、グルカン消化酵素及びプロテイナーゼ効果を有しないα-アミラーゼであるべきである。
加熱後に適当な粘度の製品を得るために、酵素の量、スラリーの温度、攪拌時間及びpH値を、澱粉のゼラチン化後に最も効果的にする。適当なパラメーターの選択は、使用される出発原料、添加される酵素及び最終製品の望ましい粘度等の様々な因子によって、影響される。
β-アミラーゼでの処理は、懸濁液が10?100s^(-1)の剪断速度範囲で粘度3?0.1Pasを得るように行われる。α-アミラーゼでの処理は、懸濁液が同じ剪断速度範囲で粘度0.5Pas未満を得るように行われる。
次いで製品を、最適には72?75℃の温度下でかつ200?250barの圧力下で均質化する。
最後に、添加された酵素を不活性化する間、それを滅菌するために、UHT処理(Food Engineering and Dairy Technology、H.G.Kessler、Verlag A.Kessler、1981年、第6章、139?207頁)に製品をかける。都合のよいことには、最終製品を無菌状態で梱包する。
製品の最高の乾燥固形分含量は10?15%の範囲である。室温での粘度は、0.5Pas以下である。β-グルカン値(乾燥固形分含量基準)を、オーストラリアのBiocon Pty.社の所謂Biocon kitの助けで、以下の通りに測定した。
酵素処理を受けていない穀類製品:乾燥固形分基準で6.5%
穀類製品+β-アミラーゼ :乾燥固形分基準で5.8%」(6頁7行?7頁14行)

(1g)「実施例1(遠心分離なし)
発明の方法の他の工程の直前に、蒸気処理されたロールドオートをミールに粉砕した(100%粉砕)。このミールを0.8?1mmメッシュの篩を通過し得るまで細かく粉砕するのが、好条件である。攪拌中、ミール1kgを水6リットルと混合する。水は50?53℃の温度を有するべきである。
最初の酵素処理工程において、β-アミラーゼを形成されたスラリーに連続的に攪拌しながら添加する。酵素の第1工程において、培養温度は53?55℃である。スラリーの粘度が10?100s^(-1)の剪断速度範囲で3?0.1Pasの値になるまで、酵素の第1工程を行う。
次いで、本質的にマルトース単位を生じさせるα-アミラーゼを、第2の酵素処理工程において、スラリーに添加する。酵素の第2工程において、培養温度は55?57℃である。スラリーが上記した剪断速度範囲で粘度0.5Pas未満を得るようになるまで、α-アミラーゼを用いた培養を行う。
次いで、200bar(均質化は160?250barの範囲で行うべきである。)の圧力下、72?75℃の温度下で、スラリーを均質化する。次いで、無菌状態で梱包する前に、製品を滅菌するために(バクテリア及び胚種を形成する剤を殺す)、137?138℃の温度の間接的な蒸気で、3?4秒間、スラリーを即座に処理する。同時に、添加した酵素を完全に不活性化する。
得られたオート麦ベースは以下の組成を有する。
乾燥固形分% 13.4
蛋白質%(乾燥固形分基準) 2.2
脂肪%(乾燥固形分基準) 0.8
繊維、全体%(乾燥固形分基準) 0.8
内水溶性繊維% 0.34
不溶性繊維% 0.46
澱粉%(乾燥固形分基準) 7.9
(砂糖^(*)を含む)
*砂糖 mg/g乾燥固形分
フルクトース -
グルコース 2.2
サッカロース 11.8
マルトース 316.0
ラフィノース 3.0
マルトトリオース 7.8」(7頁16行?8頁20行)

(1h)「実施例2(遠心分離あり)
粗繊維粒子を除去するための分離工程を行った以外は、実施例1を繰り返した。この分離は、第1の酵素培養の前に400Gで遠心分離によって行った。」(8頁21?23行)

(2)刊行物2:Cereal Chemistry,Vol.74,p.476-480,1997年8月7日科学技術振興事業団受け入れ (当審抄訳)
(2a)表II 連続オートムギ及びオオムギ抽出物(E1-E4)のβ-グルカン含有量(%総β-グルカン)の 「試料」及び「β-グルカン」の欄に
「試料 β-グルカン(g/100g)
オートムギ
AC Lotta 5.89±0.03
Capitol 6.23±0.13
Rigodon 5.02±0.14
AC Steward 6.06±0.16
Newman 5.38±0.12
Marion 6.08±0.04」(478頁 TABLEII)

3 対比・判断
(1)刊行物1の上記記載事項(特に(1a))から、刊行物1には、
「出発原料からの完全なβ-グルカンを含有し、天然のオート麦の味と香りを有する、均一で安定な穀類の懸濁液の調製方法において、
A)ロールドオート又は他の熱及び水処理されたオート麦を、ミールに乾燥又は湿潤粉砕する工程、
B)ミールが乾燥粉砕によって製造された場合は、オートミールを水に懸濁させる工程、
C)粗繊維粒子を除去するために、懸濁液を任意に遠心分離又はデカントする工程、
D)本質的にマルトース単位を生じさせ、グルカン消化酵素及びプロテイナーゼ効果を有しないβ-アミラーゼで、懸濁液を、10?100s^(-1)の剪断速度範囲で粘度3?0.1Pasまで処理する工程、
E)本質的にマルトース単位を生じさせ、グルカン消化酵素及びプロテイナーゼ効果を有しないα-アミラーゼで、懸濁液を、10?100s^(-1)の剪断速度範囲で粘度0.5Pas未満まで処理する工程、
F)好ましくは、酵素で処理された懸濁液を均質化する工程、及び、
G)添加された酵素を不活性化する間、滅菌製品を得るために、UHT処理(UHT=超高温)に懸濁液をかける工程
を有する調製方法。」(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)そこで、本願補正発明と刊行物1発明とを対比する。
ア 刊行物1発明の「出発原料からの完全なβ-グルカンを含有し、天然のオート麦の味と香りを有する、均一で安定な穀類の懸濁液」について、「出発原料」は、刊行物1に「オート麦をベースとした」(上記(1d))ことが記載されていることから、オート麦といえる。
そして、刊行物1発明は、本質的にマルトース単位を生じさるβ-アミラーゼ及びα-アミラーゼを用いていることから、マルトース生成量が多くグルコース生成量は少ないといえ、さらに、刊行物1の実施例(上記(1g))で得られたものの組成をみると、「砂糖」全体におけるグルコースは、2.2/(2.2+11.8+316.0+3.0+7.8)=0.006となり、「澱粉(乾燥固形分基準)7.9%」の全てが「砂糖」であるとしても、グルコースは、7.9(澱粉%)×0.006=0.0474、すなわち、乾燥固形分基準で、グルコースは、最大でも約0.047%含有されていることになり、この数値は、乾燥固形分基準で、β-グルカンに相当する水溶性繊維0.34%より、格段に小さいものであから、刊行物1発明の上記「懸濁液」は、高いβ-グルカン/グルコース重量比を有しているといえる。
そうすると、刊行物1発明の「出発原料からの完全なβ-グルカンを含有し、天然のオート麦の味と香りを有する、均一で安定な穀類の懸濁液の調製方法」と、本願補正発明の「オートムギから、高いβ-グルカン/グルコース重量比をもち、且つ水溶性β-グルカンの含有量が15重量%またはそれ以上である水溶性β-グルカン含有水溶性組成物を製造する方法」とは、オートムギから高いβ-グルカン/グルコース重量比をもつ、β-グルカン含有組成物を製造する方法である点で共通する。

イ 刊行物1発明の「出発原料」であるオート麦には、刊行物2(上記(2a))に記載されるように、β-グルカンの含有量が異なる多くの品種があり、発明の目的に合ったものを素材として選択して出発原料とすることは、技術常識から明らかであるから、本願補正発明の「(a)β-グルカンが豊富なオートムギの種類、(b)該オートムギ種類を乾式製粉して得られるオートムギ粉末、(c)該オートムギ粉末のβ-グルカン豊富な部分、からなるグループから少なくとも1つの素材を選択すること」とは、オートムギから少なくとも1つの素材を選択する点で共通する。

ウ 刊行物1発明の「A)ロールドオート又は他の熱及び水処理されたオート麦を、ミールに乾燥又は湿潤粉砕する工程」の、「ロールドオート」、「熱及び水処理されたオート麦」について、刊行物1には、「都合のよいことには、本発明による穀類の懸濁液は、商業的に製造され、予めゼラチン化され、元のオート麦の味と香りを保持するロールドオート(rolled oate)を基に調製される。」(上記(1f))と記載され、実施例(上記(1g))には、「蒸気処理されたロールドオート」をミールに粉砕したと記載されている。
一方、本願補正発明の「該選択された素材中の炭水化物分解酵素を不活性化すること」及び「該不活性化された素材を乾式製粉すること」について、本願明細書には、実施例に「市販のβ-グルカン豊富な熱処理されたオートムギ粉末部分“ハヴレムイエルC45”をスケネ モラン社(テガルプ,スウエーデン)から得た。」と記載されているだけであり、本願補正発明の「炭水化物分解酵素を不活性化すること」は、炭水化物分解酵素を不活性化するように「熱処理」することといえる。
そうすると、刊行物1発明の「A)ロールドオート又は他の熱及び水処理されたオート麦をミールに、乾燥又は湿潤粉砕する工程」と、本願補正発明の「該選択された素材中の炭水化物分解酵素を不活性化すること」及び「該不活性化された素材を乾式製粉すること」とは、選択された素材を熱処理すること、及び熱処理した素材を乾式製粉することである点で共通する。

エ 刊行物1発明の「B)ミールが乾燥粉砕によって製造された場合は、オートミールを水に懸濁させる工程」及び「D)本質的にマルトース単位を生じさせ、グルカン消化酵素及びプロテイナーゼ効果を有しないβ-アミラーゼで、懸濁液を、10?100s^(-1)の剪断速度範囲で粘度3?0.1Pasまで処理する工程」は、刊行物1の実施例1(上記(1g))では、「53?55℃」でβ-アミラーゼを反応させていることから、30℃以上の温度で行われることは明らかである。そして、β-アミラーゼを反応させることで、マルトース以外のオリゴ糖類も生成されることは、刊行物1の実施例1(上記(1g))で得られた組成からも明らかである。しかしながら、刊行物1発明は、所定の粘度の懸濁液となるまで、酵素反応をするものであり、オートミール中の澱粉が実質的に糖類に分解されるまでの時間加熱するかは明らかでない。
そうすると、刊行物1発明の上記B)の工程及びD)の工程と、本願補正発明の「該乾式製粉された素材を水性媒体、β-アミラーゼ及びプルラナーゼと混合して懸濁液を作ること」及び「このようにして作られた懸濁液を30℃以上の温度で、澱粉をオリゴ糖類及び大部分の二糖類としてのマルトースに実質的に分解するために十分な時間加熱すること」とは、乾式製粉された素材を水性媒体と混合し、β-アミラーゼと混合して懸濁液を作ること、及びこのようにして作られた懸濁液を30℃以上の温度で、澱粉をオリゴ糖類及び大部分の二糖類としてのマルトースに分解するために加熱することである点で共通する。

オ 刊行物1発明の「G)添加された酵素を不活性化する間、滅菌製品を得るために、UHT処理(UHT=超高温)に懸濁液をかける工程」と、本願補正発明の「β-アミラーゼ及びプルラナーゼ酵素を不活性化すること」とは、β-アミラーゼ酵素を不活性化する点で共通する。

カ 刊行物1発明は、「E)本質的にマルトース単位を生じさせ、グルカン消化酵素及びプロテイナーゼ効果を有しないα-アミラーゼで処理する工程」を有しているが、本願明細書には、段落【0011】に「澱粉分解工程を促進することができるが実質的な量のグルコースを形成しないような量のα-アミラーゼ(β-アミラーゼに関する酵素活性に対して)の使用を含むことが好ましい。」と記載されていることから、本願補正発明は、本質的にマルトース単位を生じさせ、グルカン消化酵素及びプロテイナーゼ効果を有しないα-アミラーゼを用いることを排除するものではない。

キ 刊行物1発明の「C)粗繊維粒子を除去するために、懸濁液を任意に遠心分離又はデカントする工程」について、刊行物1(上記(1f))には、「粗繊維粒子を除去するために、次いで懸濁液を350?450Gで、約10?15分間、遠心分離又はデカントし得る。」と記載されており、さらに、実施例1(上記(1g))においても、粗繊維粒子を除去工程は省かれているから、上記C)工程は任意工程といえる。

ク 刊行物1発明の「F)好ましくは、酵素で処理された懸濁液を均質化する工程」は任意工程である。

そうすると、本願補正発明と刊行物1発明との間には、以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
オートムギから、高いβ-グルカン/グルコース重量比をもつ、β-グルカン含有組成物を製造する方法であって、下記の工程
-オートムギから少なくとも1つの素材を選択すること;
-該選択された素材を熱処理すること;
-該熱処理された素材を乾式製粉すること;
-該乾式製粉された素材を水性媒体、β-アミラーゼと混合して懸濁液を作ること;
-このようにして作られた懸濁液を30℃以上の温度で、澱粉をオリゴ糖類及び大部分の二糖類としてのマルトースに分解するために加熱すること;
-該β-アミラーゼ酵素を不活性化すること;
を含む方法である点。

(相違点1)
オートムギから選択される素材が、本願補正発明では「(a)β-グルカンが豊富なオートムギの種類、(b)該オートムギ種類を乾式製粉して得られるオートムギ粉末、(c)該オートムギ粉末のβ-グルカン豊富な部分、からなるグループから少なくとも1つの素材」から選択されたものであるのに対して、刊行物1発明では、β-グルカンが豊富なオートムギの種類等を選択することを規定していない点。

(相違点2)
素材の熱処理により、本願補正発明では、「炭水化物分解酵素を不活性化する」のに対して、刊行物1発明では、炭水化物分解酵素を不活性化するか明らかでない点。

(相違点3)
酵素による分解について、本願補正発明では、β-アミラーゼと共にプルラナーゼも用い、澱粉が実質的に分解するために十分な時間加熱し、β-アミラーゼと共にプルラナーゼも不活性化するのに対して、刊行物1発明では、プルラナーゼを用いず、澱粉が実質的に分解するまでの時間加熱するか明らかでない点。

(相違点4)
本願補正発明は、酵素処理後に「水不溶性物質を除去して水溶性β-グルカン組成物を形成する」工程を有しており、β-グルカン含有組成物が、「水溶性β-グルカンの含有量が15重量%またはそれ以上である水溶性β-グルカン含有水溶性組成物」であるのに対して、刊行物1発明では、酵素処理後に水不溶性物質を除去する工程を有さず、β-グルカン含有組成物が懸濁液であることから、水溶性β-グルカンだけでなく、水不溶性の成分も含有しているといえ、水溶性β-グルカンの含有量が15重量%またはそれ以上であるか明らかでない点。

(3)そこで、上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
刊行物1発明は、グルカン消化酵素効果を有しないβ-アミラーゼ及びα-アミラーゼを用い、出発原料から、完全なβ-グルカンを含有する懸濁液を得るものであることから(上記(1a))、出発原料のオートムギとして、β-グルカンの含有量が多い品種やβ-グルカン豊富な部分を用いることは、当業者が当然に行うことであり、(a)β-グルカンが豊富なオートムギの種類、(b)該オートムギ種類を乾式製粉して得られるオートムギ粉末、(c)該オートムギ粉末のβ-グルカン豊富な部分、からなるグループから少なくとも1つの素材を選択することに、格別の困難性があるとはいえいない。

(相違点2について)
刊行物1発明は、β-アミラーゼ及びα-アミラーゼとして、グルカン消化酵素効果を有しないものを用いており、β-アミラーゼ及びα-アミラーゼによる分解処理中に、原料が元来有している酵素の反応により、副次的な反応が起きないように、原料のオートムギに含有される、グルカン消化酵素等の炭水化物分解酵素を予め不活性化することは、当業者が容易に想到することといえる。

(相違点3について)
刊行物1には、刊行物1発明の懸濁液の用途として、「本発明による穀類の懸濁液は牛乳の代わりとして使用され得る。」こと、及び「発明の製品は、アイスクリーム、オートミールの粥、ヨーグルト及びミルクセーキの元又はそれらへの添加剤として、若しくは、健康飲料又は食間の軽食として使用され得る。」(上記(1e))ことが記載されており、その使用目的や使用形態に応じて、澱粉の糖類への変換率を最適なものとすることは、当業者が当然に行う設計事項といえる。
そして、澱粉をマルトース等のオリゴ糖に分解する際に、刊行物1発明の本質的にマルトースを生成するβ-アミラーゼ及び本質的にマルトースを生成するα-アミラーゼに、プルラナーゼを併用することにより、澱粉のマルトースへの変換率が高まることは、例えば、特開平5-236959号公報(【請求項3】)、特開平4-51899号公報(第3頁右上欄8?14行)にも記載されるように、本願優先日前の慣用技術であるから、刊行物1発明に、プルラナーゼを併用させ、澱粉が実質的に分解するために十分な時間加熱し、所望の製品を得ることは、当業者が容易になし得たことといえる。
そして、プルラナーゼを併用することで、β-アミラーゼの不活性化とともに、プルラナーゼの不活性化も行うことに何ら困難性はない。

(相違点4について)
刊行物1(上記(1c)(1d))には、従来技術の、オートムギをα-アミラーゼ処理して、不溶性成分を除去して得られた水溶性の食物繊維調製物は、無色で天然の芳香を欠く物であるため、天然のオート麦の味と香りを有するものを提供することを本発明の目的の一つとしたものであることが記載され、刊行物1発明のβ-グルカンを含有した懸濁液は、牛乳の代わりや、アイスクリーム、オートミールの粥、ヨーグルト及びミルクセーキへの添加剤として使用し得るものであることが記載されている(上記(1e))。
一方で、刊行物1の従来技術にも記載されるように、水溶性β-グルカン含有組成物が、無色で固有の味がなく、食品に添加して用いることができるものとして、本願優先日前に広く知られていたことは以下に示すとおりである。
・特公平8-2271号公報(【請求項1】、第5欄2?9行、第6欄41?45行、刊行物1に従来技術として記載された米国特許第4996063号の対応日本公報)に、オートムギをα-アミラーゼ処理後、不溶性の繊維と共に、タンパク質や脂質のように風味や色の成分を除去して、無色で、固有の風味がなく、様々な食品に添加することができるものとすることが記載され、
・特表平5-504068号公報(請求項8、第3頁左上欄16?26行)に、エンバク、つまりオートムギをα-アミラーゼ処理し、不溶性画分を分離して、水溶性組成物を得、無色で、固有の風味がなく、様々な食品に添加することができるものとすることが記載され、
・特開平6-98704号公報(【請求項1】、【請求項2】、【請求項6】、【請求項14】、【0002】、【0019】)には、オートムギをα-アミラーゼ処理し、不溶性画分を分離して、水溶性組成物を得、肉に添加することが記載されている。
そうすると、βーグルカン含有組成物の用途に応じて、刊行物1発明のようにβ-アミラーゼで処理することで得られる、マルトース含有量が多くグルコース含有量が少ないβ-グルカン含有懸濁液についても、水不溶性物質を除去して、上記のとおり従来周知のα-アミラーゼ処理し、水不溶性物質を除去したもののように、無色で、固有の風味がなく、様々な食品に添加することができるものとすることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。

そして、本願補正発明の「水溶性β-グルカンの含有量が15重量%またはそれ以上である」ことについて、本願明細書には、出願当初の特許請求の範囲【請求項13】に記載されている以外は、実施例として、段落【0023】に「 このようにして得た透明な溶液は約2%の可溶性天然β-グルカンを含む。・・・更に処理するために、例えば蒸発器11中での蒸発により高粘度のゲルを生成すること、またはβ-グルカンを17重量%含む多孔質の粉末を生成するために凍結乾燥することのためにそこから取り出すことができる。・・・所望により、主として澱粉及び蛋白質の加水分解生成物である低分子量成分を限外濾過によって除去することにより、この溶液を精製することができる。」と記載されているだけであり、濃縮や乾燥、或いは精製で濃度を高めた結果を記載したものであり、15重量%という数値の臨界的意義があるというものではない。
そして、健康によいとされる成分含有量を高めるために、濃縮や乾燥、或いは精製を行うことは、通常行われる操作であるから、刊行物1発明において、水不溶性物質を除去し、さらに濃縮や乾燥、或いは精製することで、水溶性β-グルカンの含有量を高め、15重量%以上とすることは、当業者が適宜になし得たことといえる。

(本願補正発明の効果について)
オートムギから安定した高い収量でβ-グルカン組成物を生成することのできること、及び甘味が少なく、食品製造及び食品加工の条件下で高温に対して安定である水溶性β-グルカン組成物を安定して高い収量でオートムギから製造することができるという、本願明細書記載の効果は、刊行物1及び2に記載された事項及び周知技術から予測されるものであり、格別顕著なものとはいえいない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成21年12月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1?19に係る発明は、平成21年6月17日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項6に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、下記のとおりである。

「オートムギから、高いβ-グルカン/グルコース重量比をもつ水溶性β-グルカン含有水溶性組成物を製造する方法であって、下記の工程:
-(a)β-グルカンが豊富なオートムギの種類、
(b)該オートムギ種類を乾式製粉して得られるオートムギ粉末、
(c)該オートムギ粉末のβ-グルカン豊富な部分、
からなるグループから少なくとも1つの素材を選択すること;
-該選択された素材中の炭水化物分解酵素を不活性化すること;
-該不活性化された素材を乾式製粉すること;
-該乾式製粉された素材を水性媒体、β-アミラーゼ及びプルラナーゼと混合して懸濁液を作ること;
-このようにして作られた懸濁液を30℃以上の温度で、澱粉をオリゴ糖類及び大部分の二糖類としてのマルトースに実質的に分解するために十分な時間加熱すること;
-該β-アミラーゼ及びプルラナーゼ酵素を不活性化すること;
-水不溶性物質を除去して水溶性β-グルカン組成物を形成すること;
を含むことを特徴とする方法。」

2 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、および、その記載事項は、前記「第2 2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明から「水溶性β-グルカン含有水溶性組成物」の限定事項である「水溶性β-グルカンの含有量が15重量%またはそれ以上である」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3」に記載したとおり、刊行物1及び2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-08 
結審通知日 2012-08-28 
審決日 2012-09-18 
出願番号 特願2000-577896(P2000-577896)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12P)
P 1 8・ 575- Z (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松原 寛子  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 関 美祝
小川 慶子
発明の名称 オートムギからβ-グルカン組成物を分離する方法及びそれから得られた生成物  
代理人 小沢 慶之輔  

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