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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C
管理番号 1269988
審判番号 不服2011-21158  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-30 
確定日 2013-02-08 
事件の表示 特願2005-145370「軸受部材、軸受部材を備えた動圧軸受装置および動圧軸受装置を有するモータ、並びに軸受部材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月30日出願公開、特開2006-322502〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成17年5月18日の出願であって、平成23年6月28日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成23年9月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
そして、本願の請求項1?7に係る発明は、平成23年3月22日付け、及び平成24年11月26日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。なお、平成23年9月30日付けの手続補正は、当審において平成24年9月21日付けで決定をもって却下された。
「【請求項1】
マスター軸の外周に析出した金属からなる電鋳部と、電鋳部をインサートして射出成形されたモールド部とを備え、電鋳部の内周に、支持すべき軸部材の外周面との間にラジアル軸受隙間を形成するラジアル軸受面が軸方向に離間した二箇所に設けられ、二つのラジアル軸受面が、何れも、軸方向に対して傾斜し、ラジアル軸受隙間に流体動圧を発生させるための複数の動圧溝と、動圧溝を区画する凸状部とからなり、かつ電鋳部内周の二つのラジアル軸受面間領域に、動圧溝の溝底と同径の円筒面が設けられた軸受部材であって、
電鋳部が、マスター軸の外周の凹凸状の型部に析出した金属で形成されると共に、モールド部の射出成形後にマスター軸から分離されており、電鋳部内周の金属の析出開始側の面で二つのラジアル軸受面および前記円筒面の全体が形成され、かつ二つのラジアル軸受面および前記円筒面の全体が、前記型部の表面精度に倣った表面精度を有することを特徴とする軸受部材。」

2.本願の出願前に日本国内において頒布され、当審において平成24年9月21日付けで通知した拒絶理由に引用された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特開2003-56552号公報
(2)刊行物2:特開2005-114164号公報
(3)刊行物3:特開平10-306822号公報
(4)刊行物4:特開2001-182740号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「樹脂製軸受部品及びその製造方法」に関して、図面とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、樹脂製軸受部品の軸孔に軸部品を嵌合して、両者が相対的に回転又は摺動又は摺動回転できるように、係合支持する樹脂製軸受部品及びその製造方法に係るものであって、特に高精密な回転又は摺動又は摺動回転を必要とする樹脂製軸受部品及びその製造方法に好適である。」(第2頁第1欄第20?26行、段落【0001】参照)
(b)「【0002】
【従来の技術】この種の樹脂製軸受部品は、軽量で慣性力が小さいことや大量生産が可能であること等の理由から、歯車やカムなどを含む一般的な軸受部品から、センサーやポテンショメータ或いはアクチュエータ等の高精密部品の軸受部に至るまで幅広く利用されている。
【0003】これら高精密部品の中でも、例えば光学式情報記録再生装置で光学的ピックアップを行うレンズホルダ等における軸受部の場合には、精密な真円度及び内径寸法精度が必要であって、軸とのクリアランスを数μ以下にすることが要求されており、また負荷荷重に対する高い機械的強度と摺動性も必要である。
【0004】ところが、射出成形した樹脂製軸受部品をそのまま使用した場合、熱収縮や配向性などによって精密な真円度及び内径寸法精度が得られないと共に、ウエルドラインによって機械的強度が低下するので、成形品の内周面にアルミ合金製などのスリーブを装着したり、潤滑性樹脂パイプをインサートモールドしていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、アルミ合金製などのスリーブや潤滑性樹脂パイプを使用する場合には、精密な真円度及び内径寸法精度を得るために、精密な切削加工や研磨を行う必要があり、コスト高になると共に生産性が低下するなど、解決を必要とする課題があった。
【0006】そこで本発明は、これら従来技術の課題を解決し得る樹脂製軸受部品及びその製造方法を提案するが、樹脂製軸受部品の軸孔内周面に筒状の電鋳部をインサートモールドで一体成形した樹脂製軸受部品とその製造方法であって、特に高精密な回転又は摺動又は摺動回転を必要とする軸受部に好適である。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明による樹脂製軸受部品は、軸受部品の軸孔に適合するマスター軸から成形後に分離した電鋳殻である筒状の電鋳部が、樹脂成形部の軸心にインサートモールドで一体成形されている。
【0008】この樹脂製軸受部品によると、電鋳殻である電鋳部の内周面が軸受部品の軸孔を形成するので、真円度及び内径寸法精度が高くて摺動性も良好であり、研磨などの後処理を格別に行う必要がなく、電鋳部の内周面に装着させて使用する軸部品に対するクリアランスを極小にして高精密な回転又は摺動又は摺動回転を可能にすると共に、電鋳部の外周面に対する樹脂成形部の付着力が良好である。
【0009】本発明による樹脂製軸受部品の製造方法は、軸孔に適合する筒状の電鋳部をマスター軸の外周に設けた電鋳軸を造る工程と、この電鋳軸を金型内に装着して射出成形を行い、軸心に電鋳軸をインサートした樹脂成形品を造る工程と、この樹脂成形品からマスター軸を分離し、軸孔に電鋳殻である筒状の電鋳部を一体形成した軸受部品にする工程とを備えている。
【0010】この樹脂製軸受部品の製造方法によると、電鋳部をマスター軸と一体で金型内に装着した状態で射出成形が行われるので、電鋳部を位置決め精度良く容易にインサートして一体成形できると共に、マスター軸を分離した電鋳殻である電鋳部の内周面が軸受部品の軸孔を形成するので、真円度及び内径寸法精度の高い樹脂製軸受部品が得られる。
【0011】上記した樹脂製軸受部品の製造方法において、樹脂成形品から分離したマスター軸を、電鋳軸を造る際のマスター軸として繰り返し転用する形態を採ることができ、これによって同じマスター軸に基づいて多数の軸受部品を造ることができるので、寸法精度のバラツキがない均質な製品が経済的に得られる。
【0012】上記した樹脂製軸受部品の製造方法において、樹脂成形品から分離したマスター軸を、軸受部品の電鋳部に装着して軸部品として使用する形態を採ることができ、これによって軸と軸孔のクリアランスがより少なくなるので、高精密な回転又は摺動又は摺動回転を必要とする軸受部に好適である。」(第2頁第1欄第27行?第2欄第46行、段落【0002】?【0012】参照)
(c)「【0013】
【発明の実施の形態】以下に、本発明による樹脂製軸受部品とその製造方法に付いて、好適な実施形態を示す図1?4の添付図面に基づいて詳細に説明すると、図1で示すように電鋳マスターとなるマスター軸1を用い、マスター軸1の非電鋳部2をマスキングした状態で電鋳加工を施し、筒状の電鋳部3を設けた電鋳軸4を造る。
【0014】マスター軸1には、剛性などの機械的強度が大きくて摺動性も良く、耐熱性や耐薬品性にも優れた材質で形成されるが、図示の実施形態では、焼き入れ処理を施したステンレス鋼でストレートの円柱状に形成したむく軸を使用しており、ステンレス鋼のなかでも特にSUS420Jなどの使用が望ましい。
【0015】マスター軸1の材質は、ステンレス鋼に限定されるものではなく、同等の性能を有して電鋳部3の加工及び電鋳の分離ができる他の材質の使用も可能であり、例えばニッケルクロム鋼その他のニッケル合金やクロム合金などの硬質金属材や、セラミックの表面に硬質金属被膜を施したものなども使用可能である。
【0016】マスター軸1の形状は、むく軸だけではなく中空軸や中空部に樹脂材を埋め込んだ中実軸の形態を採ることも可能であり、また樹脂製軸受部品が摺動軸の場合には、横断面が一定ならば多角形状その他の非円形状の形態もあり、更に樹脂製軸受部品の用途によっては、軸の全長に渡って一定の横断面形状ではない形態を採ることも可能である。
【0017】非電鋳部2のマスキングは、レジスト処理や絶縁材入りインクをシルク印刷して、非電鋳部2の外周面に対して耐酸性及び非伝導性の被覆材を添着させ、電鋳処理する際にマスター軸1の電鋳部3のみに作用させる保護被膜を形成する。
【0018】電鋳部3には、公知の電鋳加工と同様に各種の電鋳金属の使用が可能であるが、図示の実施形態ではマスター軸1と同じステンレス材を用い、マスター軸1からの分離を容易にするために、カーボンなどの摺動材及びサッカリンなどの応力緩和剤を含有させており、電鋳の厚みは略0.2?0.3mm程度である。
【0019】なお、マスター軸1に電鋳加工を施した際に、電鋳部3の両端側は非電鋳部2に迫り出し、内周面にテーパ状の面取り部3aが自然に形成されるが、この面取り部3aはマスター軸1から電鋳部3を分離させる際や、軸受部品13の電鋳部3内周面に装着させて使用する軸部品を着脱させる際に役立つ。
【0020】すなわち、マスター軸1から電鋳部3を分離させる際には、例えば高温又は低温の高圧エアーを接合部分に吹き付けるなどして両者の熱収縮率の差を利用したり、軸方向に打撃を加えたりするが、高圧エアーを吹き付けるのに面取り部3aは都合が良く、また軸部品を着脱させる際にはガイドとして作用する。
【0021】次に、図2で示すように上型5と下型6とを備えた射出成形金型のキャビティ10内に、コアロッドの代わりに電鋳軸4をインサートさせた状態にし、スプール7とランナー8及びゲート9を介して、液晶ポリマー(LCP)などによる樹脂材を注入して射出成形を行う。
【0022】なお、樹脂材として液晶ポリマー(LCP)の他に、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂などの結晶性ポリマー、これら以外でも同様の機能を発揮する高機能樹脂材を使用することが可能であり、必要に応じて繊維強化剤や潤滑剤となる添加剤を加えても良い。
【0023】これにより、図3で示すように電鋳軸4と樹脂成形部11が一体になった樹脂成形品12が得られ、樹脂成形品12から電鋳軸4を引き抜くと、図4で示すように電鋳部3は樹脂成形部11の軸孔内周面に付着した状態で電鋳殻として残余され、非電鋳部2にマスキングしたマスター軸1のみが分離する。
【0024】従って、図4で示すように、樹脂成形部11の軸孔内周面に電鋳殻である電鋳部3が一体形成された軸受部品13を得ることができるが、この軸受部品13の軸孔内周面は、マスター軸1の外周面に適合した寸法精度が高いものであり、分離したマスター軸1は電鋳マスターとして繰り返し使用が可能である。
【0025】また電鋳部3は、電鋳の基本的性質から外周面が粗面で内周面が円滑面に形成されるので、電鋳部3外周面に対する樹脂成形部11の軸孔内周面の付着力が良好であると共に、軸受部品13の電鋳部3内周面に装着させて使用する軸に対する摺動性も良好であり、研磨などの後処理を格別に行う必要がない。
【0026】次に、前記した第1の実施形態による製造方法の変形として、図3で示す樹脂成形品12の状態から、電鋳部3を設けた樹脂成形部11とマスター軸1とに分離させ、マスター軸1をそのまま軸受部品13の軸部品として1セットで使用することも可能である。(第2の実施形態)
【0027】第1の実施形態の場合には、電鋳部3をマスター軸1と一体にして射出成形が行われるので、電鋳部3を位置決め精度良く容易にインサートできること、また射出成形後に電鋳部3から分離させたマスター軸1は電鋳マスターとして繰り返し使用が可能で経済的であること、同じ電鋳マスターから多数の軸受部品13を製造するので、寸法精度などにバラツキのない均質の製品が得られる。
【0028】第2の実施形態の場合には、第1の実施形態の場合と同様電鋳部3を位置決め精度良く容易にインサートできること、また電鋳軸4をそのまま軸受部品13の軸部品として1セットで使用するので、第1の実施形態の場合より軸と軸孔とのクリアランスが小さい製品が得られる。」(第2頁第2欄第47行?第3頁第4欄第45行、段落【0013】?【0028】参照)
(d)図3及び図4等から、軸受部品13がラジアル軸受であることが看取できる。
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
【引用発明】
マスター軸1の外周に析出した金属からなる電鋳部3と、電鋳部3をインサートして射出成形された樹脂成形部11とを備え、電鋳部3の内周に、支持すべき軸部材の外周面との間にラジアル軸受隙間を形成するラジアル軸受面が設けられた軸受部品13であって、
電鋳部3が、マスター軸1の外周の型部に析出した金属で形成されると共に、樹脂成形部11の射出成形後にマスター軸1から分離されており、電鋳部3内周の金属の析出開始側の面でラジアル軸受面の全体が形成され、ラジアル軸受面の全体が、前記型部の表面精度に倣った表面精度を有する軸受部品13。

(刊行物2)
刊行物2には、「動圧軸受装置」に関して、図面(特に図2及び図3(a)を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(e)「【0001】
本発明は、軸受隙間に生じる流体(潤滑流体)の動圧作用によって回転部材を非接触支持する動圧軸受装置に関する。この軸受装置は、情報機器、例えばHDD、FDD等の磁気ディスク装置、CD-ROM、CD-R/RW、DVD-ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置などのスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、あるいは電気機器、例えば軸流ファンなどの小型モータ用として好適である。」(第2頁第29?35行、段落【0001】参照)
(f)「【0013】
上記構成において、ラジアル軸受部は、ヘリングボーン形状やスパイラル形状等の軸方向に傾斜した形状の動圧溝を設けた動圧軸受(中略)で構成することができる。」(第4頁第6?10行、段落【0013】参照)
(g)「【0021】
ハウジング7の内周面7cには軸受スリーブ8が固定され、この軸受スリーブ8の内周面8aに軸部材2が回転自在に挿入されている。軸受スリーブ8は、例えば、黄銅やアルミ(アルミ合金)等の軟質金属材料、あるいは、焼結金属材料で形成されている。この実施形態において、軸受スリーブ8は、焼結金属からなる多孔質体、特に銅を主成分とする燒結金属の多孔質体で円筒状に形成されている。軸受スリーブ8の内周面8aには、第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2のラジアル軸受面となる上下2つの領域が軸方向に離隔して設けられている。そして、これら2つの領域には、ヘリングボーン形状やスパイラル形状、例えば図3(a)に示すようなヘリングボーン形状の動圧溝8a1、8a2がそれぞれ形成されている。」(第5頁第10?19行、段落【0021】参照)
(h)図2及び図3(a)から、軸受スリーブ8の内周面8aのうち、第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2のラジアル軸受面となる上下2つの領域の間の部分には円筒面が設けられ、その円筒面がヘリングボーン形状の動圧溝8a1、8a2と連続した面を形成していることからみて、円筒面と動圧溝8a1、8a2とが同径となっていることが看取できる。

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「マスター軸1」は本願発明の「マスター軸」に相当し、以下同様に、「電鋳部3」は「電鋳部」に、「樹脂成形部11」は「モールド部」に、「軸受部品13」は「軸受部材」に、それぞれ相当するので、両者は下記の一致点、及び相違点を有する。
<一致点>
マスター軸の外周に析出した金属からなる電鋳部と、電鋳部をインサートして射出成形されたモールド部とを備え、電鋳部の内周に、支持すべき軸部材の外周面との間にラジアル軸受隙間を形成するラジアル軸受面が設けられた軸受部材であって、
電鋳部が、マスター軸の外周の型部に析出した金属で形成されると共に、モールド部の射出成形後にマスター軸から分離されており、電鋳部内周の金属の析出開始側の面でラジアル軸受面が形成され、ラジアル軸受面が、前記型部の表面精度に倣った表面精度を有する軸受部材。
(相違点)
本願発明は、ラジアル軸受面が「軸方向に離間した二箇所に」設けられ、「二つのラジアル軸受面が、何れも、軸方向に対して傾斜し、ラジアル軸受隙間に流体動圧を発生させるための複数の動圧溝と、動圧溝を区画する凸状部とからなり、かつ電鋳部内周の二つのラジアル軸受面間領域に、動圧溝の溝底と同径の円筒面が設けられ」ており、電鋳部が、マスター軸の外周の「凹凸状の」型部に析出した金属で形成されると共に、電鋳部内周の金属の析出開始側の面で「二つの」ラジアル軸受面「および前記円筒面の全体」が形成され、「かつ二つの」ラジアル軸受面「および前記円筒面の全体」が、前記型部の表面精度に倣った表面精度を有するのに対し、引用発明は、そのような構成を具備していない点。
そこで、上記相違点について検討をする。
(相違点について)
刊行物1には、「高精密部品の中でも、例えば光学式情報記録再生装置で光学的ピックアップを行うレンズホルダ等における軸受部の場合には、精密な真円度及び内径寸法精度が必要であって、軸とのクリアランスを数μ以下にすることが要求されており、また負荷荷重に対する高い機械的強度と摺動性も必要である。」(第2頁第1欄第33?38行、段落【0003】、上記摘記事項(b)参照)と記載されている。
刊行物1に記載されたような高精密部品である光学式情報記録再生装置の軸受部において、ラジアル軸受面に、ラジアル軸受隙間に流体動圧を発生させるための動圧発生部を設けることは、従来から普通に行われていることであり、周知の技術手段(例えば、刊行物2には、「本発明は、軸受隙間に生じる流体(潤滑流体)の動圧作用によって回転部材を非接触支持する動圧軸受装置に関する。この軸受装置は、情報機器、例えばHDD、FDD等の磁気ディスク装置、CD-ROM、CD-R/RW、DVD-ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置などのスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、あるいは電気機器、例えば軸流ファンなどの小型モータ用として好適である。」[第2頁第30?35行、段落【0001】、上記摘記事項(e)参照]と記載されている。刊行物3には、「この発明は、レーザープリンタ、光ディスク装置、磁気ディスク装置などの情報機器に用いられる動圧軸受に関して、耐久性に優れ、しかも加工が容易で低コストで製造できるようにしたものである。」[第2頁第1欄第12?16行、段落【0001】参照]と記載されている。刊行物4には、「レーザプリンタやデジタル複写機の画像形成装置の内部にはスキャナ光学系が備えられているが、レーザビームをスキャンするためのスキャナ光学系において高速回転する回転多面鏡を支える軸受には、安定した滑らかな回転が得られる動圧軸受が用いられてきている。また、光ディスクや磁気ディスク等の情報記憶機器においても、高速で回転するディスクを支える軸受に、動圧軸受が幅広く使用されてきている。」[第2頁第1欄第25?32行、段落【0002】参照]と記載されている。)にすぎない。そうすると、引用発明の軸受部品13を動圧軸受の軸受部材として具体化しようとする動機付けが十分にあるといえる。
しかも、刊行物1には、「樹脂製軸受部品の用途によっては、軸の全長に渡って一定の横断面形状ではない形態を採ることも可能である。」(第3頁第3欄第20?22行、段落【0016】、上記摘記事項(c)参照))と記載されており、刊行物1には、樹脂製軸受部品の用途によっては、マスター軸1の外周が凹凸状の形態を採ることも可能であることが記載又は示唆されている。
また、上記従来周知の技術手段として例示した刊行物2?4には、ラジアル軸受面が「軸方向に離間した二箇所に」設けられ、「二つのラジアル軸受面が、何れも、軸方向に対して傾斜し、ラジアル軸受隙間に流体動圧を発生させるための複数の動圧溝と、動圧溝を区画する凸状部とからな」る軸受部材の構成が記載されており、これらの点についても、従来周知の技術手段(例えば、刊行物2の図3(a)、刊行物3の図1、刊行物4の図1(a)(b)等を参照)にすぎない。
さらに、引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともに高精密部品である光学式情報記録再生装置の軸受部に関する技術分野に属するものであって、刊行物2には、「軸受スリーブ8の内周面8aには、第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2のラジアル軸受面となる上下2つの領域が軸方向に離隔して設けられている。そして、これら2つの領域には、ヘリングボーン形状やスパイラル形状、例えば図3(a)に示すようなヘリングボーン形状の動圧溝8a1、8a2がそれぞれ形成されている。」(第5頁第15?19行、段落【0021】、上記摘記事項(g)参照)と記載されているとともに、図2及び図3(a)から、軸受スリーブ8の内周面8aのうち、第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2のラジアル軸受面となる上下2つの領域の間の部分には円筒面が設けられ、その円筒面がヘリングボーン形状の動圧溝8a1、8a2と連続した面を形成していることからみて、円筒面と動圧溝8a1、8a2とが同径となっていることが看取できる。
ここで、動圧溝8a1、8a2は窪み部である溝を意味することは技術的に明らかである(必要であれば、当審における拒絶理由に対する平成24年11月26日付けの意見書に添付された参考図1A、2Aにおいて、窪み部を「動圧溝」とし、突出部を「凸状部」としていることを参照されたい。)から、刊行物2の図3(a)には、軸受スリーブ8の内周面8aの2つのラジアル軸受面間領域に、動圧溝8a1、8a2の溝底と同径の円筒面が設けられた構成が記載又は示唆されているといえる。
そして、刊行物2の図2及び図3(a)に記載された2つのラジアル軸受部R1、R2、及び円筒面の全体は、引用発明の「ラジアル軸受面の全体」に対応することは技術的に自明である。
してみれば、引用発明に、刊行物2に記載又は示唆された技術的事項、及び従来周知の技術手段を適用して、ラジアル軸受面が軸方向に離間した二箇所に設けられ、二つのラジアル軸受面が、何れも、軸方向に対して傾斜し、ラジアル軸受隙間に流体動圧を発生させるための複数の動圧溝と、動圧溝を区画する凸状部とからなり、かつ電鋳部内周の二つのラジアル軸受面間領域に、動圧溝の溝底と同径の円筒面が設けられた軸受部材であって、電鋳部が、マスター軸の外周の凹凸状の型部に析出した金属で形成されると共に、電鋳部内周の金属の析出開始側の面で二つのラジアル軸受面および円筒面の全体が形成され、かつ二つのラジアル軸受面および円筒面の全体が、型部の表面精度に倣った表面精度を有するようにして、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
また、本願発明が奏する効果についてみても、引用発明、刊行物2に記載又は示唆された技術的事項、及び従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
したがって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、当審における拒絶理由に対する平成24年11月26日付けの意見書において、参考図を添付するとともに、「参考図1Aに、本願発明1(注:本審決の「本願発明」に対応する。)の構成を具備する電鋳部をマスター軸の外周に析出形成した状態を模式的に示します。この場合には、参考図1Bに模式的に示すように、軸素材の外周に、ラジアル軸受面の凸状部形状に対応した凹状部(凹状部を形成すべき領域は同図中に黒塗りで示す領域)を形成するだけで、所定形状の型部を外周に有するマスター軸を得ることができます。一方、例えば参考図2Aに模式的に示すように、電鋳部内周の二つのラジアル軸受面間にラジアル軸受面の凸状部の頂面と同径の円筒面を設ける場合には、マスター軸として、参考図2Bに模式的に示すように、軸素材の外周にラジアル軸受面の動圧溝形状、およびラジアル軸受面間の円筒面形状に対応した凹状部(凹状部を形成すべき領域は同図中に黒塗りで示す領域)を形成したものを準備する必要があります。そして、参考図1B,2B中に示す黒塗り部分の面積を比較すれば明らかなように、本願発明1の構成を採用すれば、軸素材に対する加工量を相対的に減じることができるので、凹凸状の型部を容易にかつ精度良く形成することができます。
また、本願発明1の構成(参考図1A)では、マスター軸の抜き方向における電鋳部とマスター軸との凹凸係合が、電鋳部のうちラジアル軸受面の形成領域のみに存在するのに対し、参考図2Aに示す構成では、上記凹凸係合が、電鋳部のうち、ラジアル軸受面および円筒面の形成領域に存在します。
従って、本願発明1の構成によれば、マスター軸の抜き方向における電鋳部とマスター軸の凹凸係合を容易に解消することができます。従って、本願発明1によれば、電鋳部の内周に、軸方向に離間した二つのラジアル軸受面と、ラジアル軸受面間に位置する円筒面とを高精度にかつ安定的に設けることができます。」(「2.本願発明の特徴」(3)の項参照)と主張している。
しかしながら、上述したように、刊行物2の図3(a)には、軸受スリーブ8の内周面8aの2つのラジアル軸受面間領域に、動圧溝8a1、8a2の溝底と同径の円筒面が設けられた構成が記載又は示唆されているといえるから、引用発明のマスター軸1の外周に凹凸状の型部を形成して、刊行物2の図2及び図3(a)に記載された形状のものを製作するにあたっては、マスター軸1の外周に形成する凹凸状の型部は、参考図1A、1Bに模式的に示されたようになることは技術的に自明であるし、また、マスター軸1の外周に形成する凹凸状の型部の加工性や、マスター軸1の抜き方向における電鋳部3とマスター軸1の凹凸係合を考慮することは、技術常識であって、当業者に自明である。
よって、上記(相違点について)において述べたように、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段から当業者が容易に想到し得たものであるところ、審判請求人が主張する本願発明が奏する作用効果は、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものにすぎず、本願発明の構成を備えることによって、本願発明が、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものとは異なる、相乗的で予想外の作用効果を奏するとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、請求項2?7に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-12 
結審通知日 2012-12-13 
審決日 2012-12-26 
出願番号 特願2005-145370(P2005-145370)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬川 裕  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 常盤 務
窪田 治彦
発明の名称 軸受部材、軸受部材を備えた動圧軸受装置および動圧軸受装置を有するモータ、並びに軸受部材の製造方法  
代理人 城村 邦彦  
代理人 熊野 剛  
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