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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1269992
審判番号 不服2012-2730  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-13 
確定日 2013-02-08 
事件の表示 特願2005-252246「流体軸受装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年3月15日出願公開、特開2007-4408〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成17年8月31日の出願であって、平成23年11月9日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成24年2月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

II.平成24年2月13日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年2月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
他部材が圧入固定される軸部材と、軸部材の外周面とこれに対向する面との間に形成されるラジアル軸受隙間とを備え、ラジアル軸受隙間に生じる流体の潤滑膜で軸部材を相対回転自在に支持する流体軸受装置において、
他部材は、軸部材が圧入される孔を設けたものであって、
軸部材の一端又は両端に圧入固定面が形成され、圧入固定面と軸端面との間に、他部材を圧入固定面に圧入する際の案内部が設けられ、かつ案内部が、他部材に設けた貫通孔の内周面より小径の円筒面を有しており、
圧入固定面が研削面であると共に、円筒面は圧入固定面に対する同軸度を管理した状態の研削面であることを特徴とする流体軸受装置。」から、
補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
他部材が圧入固定される軸部材と、軸部材の外周面とこれに対向する面との間に形成されるラジアル軸受隙間とを備え、ラジアル軸受隙間に生じる流体の潤滑膜で軸部材を相対回転自在に支持する流体軸受装置において、
他部材は、軸部材が圧入される貫通孔を設けたものであって、
軸部材の一端又は両端に他部材の貫通孔を圧入固定するための圧入固定面が形成され、圧入固定面と軸端面との間に、他部材を圧入固定面に圧入する際の案内部が設けられ、かつ案内部が、他部材に設けた貫通孔の内周面より小径の円筒面を有しており、
圧入固定面が研削面であると共に、円筒面は圧入固定面に対する同軸度を管理した状態の研削面であり、これにより円筒面が、他部材を圧入固定面に圧入する前に他部材の貫通孔の内周面をガイドすることを特徴とする流体軸受装置。」と補正された。なお、下線は対比の便のため当審において付したものである。
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明特定事項である「圧入固定面」を、「他部材の貫通孔を圧入固定するための圧入固定面」とするとともに、同じく「円筒面」について「これにより円筒面が、他部材を圧入固定面に圧入する前に他部材の貫通孔の内周面をガイドする」とすることにより、その構成を限定的に減縮するものである。
これに関して、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「圧入固定面と軸端面との間に、他部材を圧入する際の案内部を設け、さらに案内部に、他部材の内周面より小径の円筒面を設けることで、軸端面側から挿入された他部材の挿入姿勢(圧入固定面への押込み姿勢)を矯正して、かかる他部材の内周面を圧入固定面と同軸にした状態で圧入することができる。」(段落【0008】参照)、及び「他部材の、圧入固定面への圧入が円滑に案内されるので、円筒面の同軸ガイド機能によって得られた高い同軸度を確保した状態で確実に他部材を圧入することができる。」(段落【0009】参照)と記載されている。
結局、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に違反するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特開2005-201324号公報
(2)刊行物2:特開2004-53024号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「動圧軸受装置」に関して、図面(特に、図1?3を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a) 「【0001】
本発明は、ラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で軸部材を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置に関する。この軸受装置は、情報機器、例えばHDD、FDD等の磁気ディスク装置、CD-ROM、CD-R/RW、DVD-ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置などのスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、プロジェクタ用カラーホイール、あるいは電気機器、例えば軸流ファンなどの小型モータ用として好適である。」(第2頁第32?38行、段落【0001】参照)
(b)「【0005】
ところで、HDD等のディスク装置のスピンドルモータに組み込まれる動圧軸受装置においては、軸部材の先端にディスクを支持するための部材、例えばディスクハブが圧入固定される。この際、ハブが傾いて圧入されると、アキシャル方向の軸振れが増大するため、組立後に軸振れを測定しながら傾き修正を行う必要があり、軸受装置の高コスト化を招く。また、ディスクハブの傾きにより圧入力が過大となるため、軸受装置の各所に大きな荷重が負荷され、精度低下や接着部の強度低下等を招くおそれもある。」(第3頁第11?17行、段落【0005】参照)
(c)「【0009】
以上の検証に基づき、本発明では、ハウジングと、ハウジングに挿入された軸部材と、軸部材の外周に形成されるラジアル軸受隙間を有し、ラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部とを備える動圧軸受装置において、軸部材に、他部材を圧入する際のガイドとなるガイド面を設け、このガイド面とこれに隣接する軸部材の外周面との間に、エッジを鈍化させた形状を有する鈍化部を設けた。
【0010】
ガイド面は、その機能上、これに隣接する軸部材の外周面よりも縮径した形状、例えば上方ほど縮径させたテーパ面状に形成される。ガイド面の位置は特に問わないが、通常は軸部材の上端に形成される。軸部材に圧入する他部材の一例としては、ディスクを保持するディスクハブを挙げることができる。
【0011】
このように軸部材に他部材を圧入する際のガイドとなるガイド面を設けることにより、圧入の際には、他部材が軸部材のガイド面にテーパ案内されるため、圧入に伴う当該他部材の傾きが抑制される。また、ガイド面とガイド面に隣接する軸部材の外周面との間に、エッジを鈍化させた形状を有する鈍化部を設けているので、両面を、エッジを介することなく滑らかに連続させることができる。従って、他部材を圧入する際の圧入抵抗が抑制され、他部材を傾斜させることなくスムーズに圧入することが可能となって、モータの高精度化および低コスト化を図ることができる。また、過大な圧入力の付与による軸受装置各部の損傷や接着部の強度低下も回避することができる。
【0012】
ガイド面、ガイド面に隣接する軸部材の外周面、および鈍化部は研削加工により形成することができる。この場合、軸部材の外周面のみならず、鈍化部も研削により高精度に仕上げられるので、圧入抵抗のさらなる低減を図ることができる。
【0013】
加工能率を考えると、ガイド面、上記軸部材外周面、および鈍化部は同時研削するのが望ましい。」(第3頁第34行?第4頁第11行、段落【0009】?【0013】参照)
(d)「【0016】
本発明にかかる動圧軸受装置は、ハウジングと、ハウジングに挿入された軸部材と、軸部材の外周に形成されるラジアル軸受隙間を有し、ラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部とを備える動圧軸受装置を製造するに際し、軸部材に、他部材を圧入する際のガイドとなるガイド面を形成した後、ガイド面と、ガイド面に隣接する軸部材の外周面と、前記両面間の境界部とを同時研削することにより形成することができる。」(第4頁第20?26行、段落【0016】参照)
(e)「【0019】
図1は、動圧軸受装置を組み込んだモータの一例として、HDD等のディスク駆動装置に用いられるスピンドルモータを示している。このモータは、軸部材2を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置1と、軸部材2に取り付けられた回転部材3(ディスクハブ)と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたモータステータ4およびモータロータ5と、ブラケット6とを備えている。ステータ4は、ブラケット6外周に取り付けられ、ロータ5は、ディスクハブ3の内周に取り付けられる。ディスクハブ3は、その外周に磁気ディスク等のディスクDを一枚または複数枚保持できるようになっている。ステータ4に通電すると、ステータ4とロータ5との間の励磁力でロータ5が回転し、それに伴ってディスクハブ3および軸部材2が一体となって回転する。
【0020】
図2は、動圧軸受装置1の第一の実施形態を示している。この実施形態にかかる動圧軸受装置1は、ハウジング7と、ハウジング7に固定された軸受スリーブ8およびスラスト部材10と、軸部材2とを具備する。
【0021】
軸受スリーブ8の内周面8aと軸部材2の軸部2aの外周面2a1との間に第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とが軸方向に離隔して設けられる。」(第4頁第34?50行、段落【0019】?【0021】参照)
(f)「【0024】
図3に示すように、軸部2aの上端には、テーパ状のガイド面2cが形成される。ガイド面2cのテーパ角θ(軸芯に対する傾斜角度)は5°?20°程度に設定される。このガイド面2cとガイド面2cに隣接する軸部材2の外周面2a3(以下、「隣接外周面」と呼ぶ)との間の境界部ではエッジが消失しており、両面間にはエッジを鈍化させた形状の鈍化部2dが形成されている。この実施形態において、鈍化部2dは半径rの曲面状をなし、ガイド面2cおよび隣接外周面2a3と滑らかに連続している。
【0025】
本実施形態において、鈍化部2は、上述した境界部をガイド面2cおよび隣接外周面2a3と同時に研削することによって成形される。同時研削は、図3に示すように、隣接外周面2a3に対応するストレート部11a、ガイド面2cに対応するテーパ部11b、鈍化部2dに対応する曲面部11cを有する砥石11によって行われる。砥石11の曲面部11cは、R0.1?R0.5の範囲に形成し、この曲面部11cを介して砥石11のストレート部11aとテーパ部11bを滑らかに連続させておく。この塗石11を用いて軸部材2の外周を研削することにより、ガイド面2c、鈍化部2d、および隣接外周面2a3がエッジのない連続面となる。」(第5頁第18?33行、段落【0024】及び【0025】参照)
(g)「【0030】
この実施形態の動圧軸受装置1の組立に際しては、先ずハウジング7内周に軸受スリーブ8を固定すると共に、軸受スリーブ8の内周に軸部材2の軸部2aを挿入する。次に、ハウジング7の底部をスラスト部材10で封口した後、シール部7aで密封されたハウジング7の内部空間に、軸受スリーブ8の内部気孔を含めて潤滑油を充満させる。潤滑油の油面は、シール空間Sの範囲内に維持される。
【0031】
軸部材2の回転時、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域(上下2箇所の領域)は、それぞれ、軸部2aの外周面2a1とラジアル軸受隙間を介して対向する。また、軸受スリーブ8の下側端面8cのスラスト軸受面となる領域はフランジ部2bの上側端面2b1とスラスト軸受隙間を介して対向し、スラスト部材10の端面10aのスラスト軸受面となる領域はフランジ部2bの下側端面2b2とスラスト軸受隙間を介して対向する。そして、軸部材2の回転に伴い、ラジアル軸受隙間に潤滑油の動圧が発生し、軸部材2の軸部2aがラジアル軸受隙間内に形成される潤滑油の油膜によってラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持する第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とが構成される。同時に、スラスト軸受隙間に潤滑油の動圧が発生し、軸部材2のフランジ部2bがスラスト軸受隙間内に形成される潤滑油の油膜によって両スラスト方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をスラスト方向に回転自在に非接触支持する第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2とが構成される。
【0032】
以上に述べた動圧軸受装置1の組立完了後、モータの組立時には、軸部材2の軸部2a上端にディスクハブ3が圧入固定される。この圧入時には、軸部材2の上端に設けたガイド面2cがディスクハブ3を圧入する際のガイドとなるので、ディスクハブ3がガイド面2cによってテーパ案内され、圧入に伴うディスクハブ3の傾きが抑制される。また、隣接外周面2a3とガイド面2cとの間にR形状の鈍化部2dを設けているので、圧入抵抗も低減化される。従って、ディスクハブ3を傾斜させることなくスムーズに圧入することが可能となり、動圧軸受装置1の高精度化およびモータの低コスト化を図ることができる。また、過大な圧入力の付与による軸受装置各部の損傷や接着部の強度低下も回避することができる。」(第6頁第5?34行、段落【0030】?【0032】参照)
刊行物1には、「軸部材に他部材を圧入する際のガイドとなるガイド面を設けることにより、圧入の際には、他部材が軸部材のガイド面にテーパ案内されるため、圧入に伴う当該他部材の傾きが抑制される。」(第3頁第47?49行、段落【0011】、上記摘記事項(c)参照)、及び「モータの組立時には、軸部材2の軸部2a上端にディスクハブ3が圧入固定される。この圧入時には、軸部材2の上端に設けたガイド面2cがディスクハブ3を圧入する際のガイドとなるので、ディスクハブ3がガイド面2cによってテーパ案内され、圧入に伴うディスクハブ3の傾きが抑制される。」(第6頁第26?29行、段落【0032】、上記摘記事項(g)参照)と記載され、テーパ状のガイド面2cが、ディスクハブ3を隣接外周面2a3に圧入する前にディスクハブ3の貫通孔の内周面をテーパ案内することは技術的に明らかである。
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
ディスクハブ3が圧入固定される軸部材2と、軸部材2の軸部2aの外周面2a1とこれに対向する軸受スリーブ8の内周面8aとの間に形成されるラジアル軸受隙間とを備え、ラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の油膜で軸部材2を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置1において、
ディスクハブ3は、軸部材2が圧入される貫通孔を設けたものであって、
軸部材2の上端にディスクハブ3の貫通孔を圧入固定するための隣接外周面2a3が形成され、隣接外周面2a3と軸端面との間に、ディスクハブ3を隣接外周面2a3に圧入する際のガイド面2cが設けられ、かつガイド面2cが、上方ほど縮径させたテーパ面状に形成されており、
隣接外周面2a3が研削面であると共に、テーパ状のガイド面2cは隣接外周面2a3と同時研削による研削面であり、テーパ状のガイド面2cが、ディスクハブ3を隣接外周面2a3に圧入する前にディスクハブ3の貫通孔の内周面をテーパ案内する動圧軸受装置1。

(刊行物2)
刊行物2には、「流体動圧軸受およびスラストプレートの取付方法」に関して、図面(特に、図1及び2を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(h)「【0001】
本発明は、ディスク記憶装置を駆動するためのスピンドルモータの回転軸受用の流体軸受システムの一部としての流体動圧軸受に関する。」(第3頁第4?6行、段落【0001】参照)
(i)「【0023】
図1及び図2に従う本発明の第1の実施形態に基づいて、流体動圧軸受の組立、及び、特に、スラストプレートのシャフトへの固定をより詳細に説明する。
【0024】
本発明において、スラストプレート9は、遷移嵌合若しくは圧力嵌合により、シャフト4に滑動嵌合状態に配置され、すなわち、スラストプレート9の中央の孔の内径は、シャフト4の外径より、僅かに大きいか、同一若しくは小さい。
【0025】
なお、スラストプレート9を取り付けるためには、スラストプレート9とシャフト4との間に形成される嵌合に対応して全く力を必要としない若しくは僅かな力しか必要としない。そのため、スラストプレート9を配置する際に、スラストプレート9が、変形したり、シャフト4に焼き付くようになることはない。
【0026】
シャフト4は、スラストプレート9が配置された位置近傍に、軸方向の孔11を有し、その直径は、好ましくは、少なくともスラストプレートの半分の厚さに相当する。スラストプレート9をシャフト4に固定するために、シャフト4の孔11に、栓形態の固定要素12が挿入される。この栓12の外径は、孔11の内径よりも大きいので、この領域のシャフトは、拡幅され、半径方向の加圧力を示し、この加圧力によりスラストプレート9がシャフト4に固定される。孔11のシャフト4の直径に対する比率が大きくなり、孔11の直径と比較して、栓12が大きくなると、栓12の挿入によるシャフト4が得られる拡幅は大きくなり、そのため、達成可能な加圧力は一層大きくなる。
なお、固定要素として適切な材料は、鋼、セラミック若しくは真鍮である。
【0027】
この栓12は、その前端部に尖端13、すなわち、孔11への挿入を容易にするための案内部を有してもよい。
【0028】
栓12を挿入する前に、スラストプレート9は、シャフト4の回転軸20に関して直角になるように調整される。このために、高度に正確な組立装置が使用される。」(第5頁第19?46行、段落【0023】?【0028】参照)
(j)「【0034】
スラストプレート9をシャフト4に取り付けるためには、まず、スラストプレート9用に提供される位置近傍のシャフトに、軸方向の孔11が形成される。次のステップで、スラストプレート9は、シャフト4上を押し動かされ、若しくは、シャフト4に挿入されて、所望の位置で、シャフト4の回転軸20に対して正確に直角になるように調整される。最後に、スラストプレート9を固定する要素12,16,18が、シャフト4の孔11に挿入され、これにより、この領域において、シャフト4の外径(直径)が拡大され、スラストプレート9を固定する。
【0035】
なお、ここでは、シャフト4の孔11の形成方法、及び、固定要素12,16,18の孔11への挿入方法について詳細には説明しないが、これらの方法は任意であり、周知の方法が適用可能である。
【0036】
例えば、孔11の形成方法については、シャフト4の材質に応じた穿孔ドリルを有する工作機械を使用して、所望の形状と表面精度とを有する孔11を形成することができる。また、固定要素12,16,18の孔11への挿入方法については、例えば、シャフト4の正面端を基準面にして、位置制御可能なプレス装置により、固定要素12,16,18を押圧しながら、孔11の所定位置まで挿入することができる。
【0037】
以上説明したように、スラストプレート9をシャフト4に挿入して所定位置まで押し動かす際には、殆ど力を必要としないので、容易に移動させることができる。次いで、シャフト4に形成された孔11に挿入される固定要素12は、孔11の最小の直径よりも大きい外径を有するので、該シャフト4に半径方向の加圧力を発生させて、スラストプレート9をシャフト4に固定することができる。」(第6頁第14?37行、段落【0034】?【0037】参照)
(k)「【0038】
本発明は、上記の実施形態に限定されず、本発明の思想を逸脱しない範囲で、その応用及び変形等は任意である。
例えば、上記実施形態で説明したように、好ましくは、固定要素は、実質的に円筒形状を有するが、それは、樽状若しくは円錐台状に形成可能である。」(第6頁第38?42行、段落【0038】参照)
(l)図2から、栓12は、シャフト4の孔11の内径よりも大きい外径であり、その外径より小径の孔11への挿入を容易にするように案内するための円筒形状の先端13を有している構成が看取できる。

2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「ディスクハブ3」は本願補正発明の「他部材」に相当し、以下同様に、「軸部材2」は「軸部材」に、「軸部2aの外周面2a1」は「外周面」に、「軸受スリーブ8の内周面8a」は「面」に、「潤滑油の油膜」は「流体の潤滑膜」に、「回転自在に非接触支持する」は「相対回転自在に支持する」に、「動圧軸受装置1」は「流体軸受装置」に、「上端」は「一端」に、「隣接外周面2a3」は「圧入固定面」に、「ガイド面2c」は「案内部」に、それぞれ相当する。
また、それぞれの有する機能からみて、引用発明のガイド面2cが、「上方ほど縮径させたテーパ面状に形成され」は、案内部が、「隣接する軸部材の外周面よりも縮径した形状に形成され」ている限りにおいて本願補正発明の案内部が、「他部材に設けた貫通孔の内周面より小径の円筒面を有しており」にひとまず相当し、引用発明の「テーパ状のガイド面2c」は「縮径部」である限りにおいて本願補正発明の「円筒面」にひとまず相当し、引用発明の「テーパ案内する」ことは「案内する」ことである限りにおいて本願補正発明の「ガイドする」ことにひとまず相当する。さらに、本願補正発明の「一端又は両端」は選択的記載であるので、両者は、下記の一致点、及び相違点を有する。
<一致点>
他部材が圧入固定される軸部材と、軸部材の外周面とこれに対向する面との間に形成されるラジアル軸受隙間とを備え、ラジアル軸受隙間に生じる流体の潤滑膜で軸部材を相対回転自在に支持する流体軸受装置において、
他部材は、軸部材が圧入される貫通孔を設けたものであって、
軸部材の一端又は両端に他部材の貫通孔を圧入固定するための圧入固定面が形成され、圧入固定面と軸端面との間に、他部材を圧入固定面に圧入する際の案内部が設けられ、かつ案内部が、隣接する軸部材の外周面よりも縮径した形状に形成され、
圧入固定面及び縮径部は研削面であり、縮径部が、他部材を圧入固定面に圧入する前に他部材の貫通孔の内周面を案内する流体軸受装置。
(相違点)
前記案内部に関し、本願補正発明は、案内部が、「他部材に設けた貫通孔の内周面より小径の円筒面を有しており」、「円筒面は圧入固定面に対する同軸度を管理した状態」の研削面であり、「これにより円筒面が、」他部材を圧入固定面に圧入する前に他部材の貫通孔の内周面を「ガイドする」のに対し、引用発明は、ガイド面2cが、上方ほど縮径させたテーパ面状に形成されており、テーパ状のガイド面2cは隣接外周面2a3と同時研削による研削面であり、テーパ状のガイド面2cが、ディスクハブ3を隣接外周面2a3に圧入する前にディスクハブ3の貫通孔の内周面をテーパ案内する点。
以下、上記相違点について検討する。
(相違点について)
刊行物1には、「ガイド面は、その機能上、これに隣接する軸部材の外周面よりも縮径した形状、例えば上方ほど縮径させたテーパ面状に形成される。」(第3頁第42及び43行、段落【0010】、上記摘記事項(c)参照)と記載されていることから、刊行物1には、ガイド面は、これに隣接する軸部材の外周面よりも縮径した形状であればよく、ガイド面の形状を、「例えば」として例示された「上方ほど縮径させたテーパ面状に形成され」たもの以外の形状に変更する動機付けが記載又は示唆されているといえる。
また、刊行物1には、「加工能率を考えると、ガイド面、上記軸部材外周面、および鈍化部は同時研削するのが望ましい。」(第4頁第10及び11行、段落【0013】、上記摘記事項(c)参照)と記載され、隣接外周面2a3とテーパ状のガイド面2cを同時研削するものであるから、テーパ状のガイド面2cは、隣接外周面2a3に対する同軸度が管理された状態の研削面であることは、技術的に自明であるし、仮にそうでないとしても、ガイド面の機能上、圧入に伴うディスクハブ3(圧入物)の傾きを抑制するために、テーパ状のガイド面2cを、隣接外周面2a3と同軸度が管理された状態の研削面とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものである。
引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともに異なる機能を有する部品を互いに圧入固定する技術に関するものであって、刊行物2には、「シャフト4は、スラストプレート9が配置された位置近傍に、軸方向の孔11を有し、その直径は、好ましくは、少なくともスラストプレートの半分の厚さに相当する。スラストプレート9をシャフト4に固定するために、シャフト4の孔11に、栓形態の固定要素12が挿入される。この栓12の外径は、孔11の内径よりも大きいので、この領域のシャフトは、拡幅され、半径方向の加圧力を示し、この加圧力によりスラストプレート9がシャフト4に固定される。(中略)この栓12は、その前端部に尖端13、すなわち、孔11への挿入を容易にするための案内部を有してもよい。」(第5頁第32?43行、段落【0026】及び【0027】、上記摘記事項(i)参照)と記載され、また、図2から、栓12は、シャフト4の孔11の内径よりも大きい外径であり、その外径より小径の孔11への挿入を容易にするように案内するための円筒形状の先端13を有している構成が看取できる(上記摘記事項(l)参照)。
また、圧入固定の技術において、他部材に設けた貫通孔の内周面より小径の円筒面を設け、その円筒面が他部材を圧入固定面に圧入する前に他部材の貫通孔の内周面をガイドするようにすることは、従来普通に行われていることであって、周知の技術手段(例えば、実願昭50-111574号(実開昭52-24182号)のマイクロフィルムの第3頁第6?18行、並びに第1及び2図には、支軸3の下端部に支軸固定体1の孔2の直径よりやや細い嵌入部6が設けられていることが記載されている。実願昭63-83994号(実開平2-5618号)のマイクロフィルムの第3頁第2?17行、及び第1図には、軸12の先端にスリーブ2の孔4の径より小さい案内部14が設けられていることが記載されている。実願平5-34523号(実開平6-87719号)のCD-ROMの第7頁第9?11行、第8頁第9?17行、及び図4には、保持孔6の内径寸法Rよりも僅かに小さくされ、外輪1の一端部外周面に形成した小径部7を、ハウジング相当部材5の保持孔6の一端開口部に緩く嵌合することが記載されている。)にすぎない。
してみれば、引用発明の上方ほど縮径させたテーパ面状をなしているテーパ状のガイド面2cに代えて、刊行物2に記載された円筒形状の先端13の構成、及び従来周知の技術手段を適用することにより、ディスクハブ3の貫通孔への挿入を容易にするように案内し、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。

本願補正発明が奏する効果についてみても、引用発明、刊行物2に記載された技術的手段、及び従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、当審における審尋に対する平成24年10月11日付けの回答書(以下、「回答書」という。)において、「引用文献2(注:本審決の「刊行物2」に対応する。以下同様。)には、上述のように、栓12に設けた案内部(尖端13)が栓12の外径より小径であること(図2)や、この案内部が『孔11への挿入を容易にするため』に設けられたものであること(段落0027)は記載されていますが、孔11の内径寸法と案内部の外径寸法との大小関係については特に記載されていません。また、案内部の外径寸法が孔11の内径寸法より小径だからといって、そのことが直ちに案内部が孔11の内周面をガイドする機能を有することを意味するわけではありません。互いに圧入される一の部材の外周面が対応する他の部材に設けた孔の内周面をガイドする機能を有するか否かは、双方の部材の形態や、要求される圧入条件に左右されるためです。
ここで、引用文献2に係る発明は、固定要素(栓12)を圧入物とし、シャフト4に設けた孔11を被圧入物としており、本願発明とは想定する圧入態様が逆になっています。また、孔11(貫通孔)の形成箇所も含め、各々の部材の形態も異なっています。さらには、この固定要素(栓12)が果たす役割(孔11に挿入することによりシャフト4の孔11を設けた領域を拡径させ、この拡径作用によりシャフト4と、シャフト4の外周に配置したスラストプレート9とを固定する)から考えて、本願発明とは求められる圧入条件についても異なることは明らかです。」と主張している。
しかしながら、刊行物2には、「この栓12は、その前端部に尖端13、すなわち、孔11への挿入を容易にするための案内部を有してもよい。」(第5頁第42及び43行、段落【0027】、上記摘記事項(i)参照)と記載されており、孔11の内径寸法と案内部である先端13の外径寸法との大小関係についてみても、案内部である先端13は孔11への挿入を容易にするための案内部である以上、技術常識から考えて容易に案内し得る適度の大きさを有していることは当然であるし、また、刊行物2に記載された栓12(圧入物)と孔11(被圧入物)とは、一方の部材と他方の部材という相対的な関係にあり、どちらを主として見るかによって、圧入物と被圧入物の関係は変わるものである。さらに、上述したように、圧入固定の技術において、他部材に設けた貫通孔の内周面より小径の円筒面を設け、その円筒面が他部材を圧入固定面に圧入する前に他部材の貫通孔の内周面をガイドするようにすることは、従来普通に行われていることであって、周知の技術手段にすぎないことから、審判請求人の主張は的を射たものとはいえない。
よって、本願補正発明は、上記(相違点について)において述べたように、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本願補正発明の構成を備えることによって、本願補正発明が、従前知られていた構成が奏する効果を併せたものとは異なる、相乗的で、当業者が予測できる範囲を超えた効果を奏するとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
平成24年2月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成23年10月17日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
他部材が圧入固定される軸部材と、軸部材の外周面とこれに対向する面との間に形成されるラジアル軸受隙間とを備え、ラジアル軸受隙間に生じる流体の潤滑膜で軸部材を相対回転自在に支持する流体軸受装置において、
他部材は、軸部材が圧入される孔を設けたものであって、
軸部材の一端又は両端に圧入固定面が形成され、圧入固定面と軸端面との間に、他部材を圧入固定面に圧入する際の案内部が設けられ、かつ案内部が、他部材に設けた貫通孔の内周面より小径の円筒面を有しており、
圧入固定面が研削面であると共に、円筒面は圧入固定面に対する同軸度を管理した状態の研削面であることを特徴とする流体軸受装置。」

1.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項は、上記「II.1.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、上記「II.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である「他部材の貫通孔を圧入固定するための圧入固定面」を「圧入固定面」とすることにより拡張するとともに、「円筒面」について「これにより円筒面が、他部材を圧入固定面に圧入する前に他部材の貫通孔の内周面をガイドする」との構成を削除することにより拡張するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「II.2.」に記載したとおり、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?5に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-12 
結審通知日 2012-12-13 
審決日 2012-12-28 
出願番号 特願2005-252246(P2005-252246)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 矢澤 周一郎稲垣 彰彦  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 窪田 治彦
常盤 務
発明の名称 流体軸受装置  
代理人 城村 邦彦  
代理人 熊野 剛  

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