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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04B
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 F04B
管理番号 1269993
審判番号 不服2012-9442  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-22 
確定日 2013-02-08 
事件の表示 特願2007- 25611「電動式圧縮機」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 6月28日出願公開,特開2007-162701〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は,平成12年12月18日に出願した特願2000-383763号の一部を平成19年 2月 5日に新たな特許出願としたたものであって,平成24年 2月15日付けで平成23年 8月 8日付け手続補正が却下されるとともに,拒絶査定がなされ,これに対して,平成24年 5月22日付けで本件審判請求がなされるとともに,手続補正がなされたものである。

II.平成24年 5月22日付けの手続補正の却下
[補正却下の決定の結論]
平成24年 5月22日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.目的要件違反
平成22年12月14日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?3の
「【請求項1】
冷媒を圧縮するための圧縮部と,前記圧縮部を駆動するための電動モータと,前記圧縮部及び前記モータを収容した共通ハウジングとを含み,前記共通ハウジングは前記圧縮部に冷媒を導くための吸入ハウジングを有する電動式圧縮機において,前記吸入ハウジングの上部外壁の外側にコンデンサ収容室を設け,前記モータの駆動に供する電源平滑用コンデンサを前記コンデンサ収容室に取り付けたことを特徴とする電動式圧縮機。
【請求項2】
冷媒を圧縮するための圧縮部と,前記圧縮部を駆動するための電動モータと,前記圧縮部及び前記モータを収容した共通ハウジングとを含み,前記共通ハウジングは前記圧縮部に冷媒を導くための吸入ハウジングを有する電動式圧縮機において,前記吸入ハウジングの下部外壁の下方の空所に,軸方向に開口したコンデンサ収容室を設け,前記モータの駆動に供する電源平滑用コンデンサを前記コンデンサ収容室に挿入して取り付けたことを特徴とする電動式圧縮機。
【請求項3】
冷媒を圧縮するための圧縮部と,前記圧縮部を駆動するための電動モータと,前記圧縮部及び前記モータを収容した共通ハウジングとを含み,前記共通ハウジングは前記圧縮部に冷媒を導くための吸入ハウジングを有する電動式圧縮機において,前記吸入ハウジングの下部外壁の下方の空所に,軸方向に交差する方向に開口したンデンサ収容室を設け,前記モータの駆動に供する電源平滑用コンデンサを前記コンデンサ収容室に挿入して取り付けたことを特徴とする電動式圧縮機。」
は,本件補正により以下のように補正された。
「【請求項1】
冷媒を圧縮するための圧縮部と,前記圧縮部を駆動するための電動モータと,インバータと制御回路とからなる前記電動モータを駆動するための駆動回路と,前記圧縮部及び前記電動モータを収容した共通ハウジングとを含み,前記共通ハウジングは前記圧縮部に吸入冷媒を導くための金属材料から成る吸入ハウジングを有する電動式圧縮機において,前記駆動回路を前記吸入ハウジングの壁の外面に取り付け,前記吸入ハウジングの上部外壁の外側に,吸入冷媒によって冷却されるコンデンサ専用のコンデンサ収容室を設け,外部直流電源と前記駆動回路との間に接続された前記電動モータの駆動に供する電源平滑用コンデンサを前記コンデンサ収容室に取り付けたことを特徴とする電動式圧縮機。
【請求項2】
冷媒を圧縮するための圧縮部と,前記圧縮部を駆動するための電動モータと,インバータと制御回路とからなる前記電動モータを駆動するための駆動回路と,前記圧縮部及び前記電動モータを収容した共通ハウジングとを含み,前記共通ハウジングは前記圧縮部に吸入冷媒を導くための金属材料から成る吸入ハウジングを有する電動式圧縮機において,前記駆動回路を前記吸入ハウジングの壁の外面に取り付け,前記吸入ハウジングの下部外壁の内側に,軸方向に開口した吸入冷媒によって冷却されるコンデンサ専用のコンデンサ収容室を設け,外部直流電源と前記駆動回路との間に接続された前記電動モータの駆動に供する電源平滑用コンデンサを前記コンデンサ収容室に挿入して取り付けたことを特徴とする電動式圧縮機。
【請求項3】
冷媒を圧縮するための圧縮部と,前記圧縮部を駆動するための電動モータと,インバータと制御回路とからなる前記電動モータを駆動するための駆動回路と,前記圧縮部及び前記電動モータを収容した共通ハウジングとを含み,前記共通ハウジングは前記圧縮部に吸入冷媒を導くための金属材料から成る吸入ハウジングを有する電動式圧縮機において,前記駆動回路を前記吸入ハウジングの壁の外面に取り付け,前記吸入ハウジングの下部外壁の内側に,軸方向に交差する方向に開口した吸入冷媒によって冷却されるコンデンサ専用のコンデンサ収容室を設け,外部直流電源と前記駆動回路前との間に接続された前記電動モータの駆動に供する電源平滑用コンデンサを前記コンデンサ収容室に挿入して取り付けたことを特徴とする電動式圧縮機。
【請求項4】
前記コンデンサ収容室は前記吸入ハウジングと一体であることを特徴とする,請求項1から3のいずれか1項に記載の電動式圧縮機。」

本件補正は,請求項数を増加する補正であり,特許請求の範囲の減縮に該当せず,また,請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれをも目的としたものに該当しないから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,単に「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものとは認められない。

2.むすび
したがって,本件補正は,改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。
よって,補正却下の決定の結論のとおり決定する。

III.本願発明について
1.本願発明
平成24年 5月22日付けの手続補正は,上記のとおり却下され,また審査の過程において,平成23年 8月 8日付け手続補正は却下されているため,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成22年12月14日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
冷媒を圧縮するための圧縮部と,前記圧縮部を駆動するための電動モータと,前記圧縮部及び前記モータを収容した共通ハウジングとを含み,前記共通ハウジングは前記圧縮部に冷媒を導くための吸入ハウジングを有する電動式圧縮機において,前記吸入ハウジングの上部外壁の外側にコンデンサ収容室を設け,前記モータの駆動に供する電源平滑用コンデンサを前記コンデンサ収容室に取り付けたことを特徴とする電動式圧縮機。」

2.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由として引用された,本願の原出願前に頒布された刊行物である特開2000-291557号公報(以下「引用例1」という。)には,「電動式圧縮機」に関し,図面とともに以下の事項が記載または示されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,電動式圧縮機に関し,詳しくは,車載用エアコンディショナーの冷媒圧縮用の圧縮機で,バッテリー等からの電源供給を受け駆動する電動式圧縮機に関する。」

・「【0002】
【従来の技術】従来,電動式圧縮機として,図5の断面図に示されるものがある。
【0003】図5を参照すると,電動式圧縮機50は,吐出ハウジング51と,中間ハウジング52と,吸入ハウジング53とを備えている。吐出ハウジング51は,端面に吐出ポート67を備えている。また,吐出ハウジング51の内部には,固定された固定スクロール部材60と,固定スクロール部材60に対して,自転阻止機構68によって,自転を阻止された旋回運動を行う可動スクロール部材70とを備えている。固定スクロール部材60と可動スクロール部材70とによって,圧縮部75が構成されている。
【0004】中間ハウジング52と吸入ハウジング53との内部には,回転軸55が配置されている。回転軸55の周囲には,ロータ83が固定され,ロータ83の周囲には,コイル82を備えたステータ81が設けられている。ステータ81は,中間ハウジング52及び吸入ハウジング53の内壁部に固定されている。また,吸入ハウジング53の端部には,吸入ポート76が設けられている。
【0005】回転軸55の一端は,吸入ハウジング53に支持され,他端は,径が太い大径部55eが形成され,中間ハウジング52に回転可能に支持されている。
【0006】大径部55eの一端の偏心位置に,偏心ピン55fが,回転軸55の長さ方向に沿う方向に突出して設けられ,可動スクロール部材70の背面に回転可能に支持された偏心ブッシュ59を貫通して設けられている。
【0007】この従来技術による電動式圧縮機50は,モータ80の回転によって,回転軸55が回転し,その一端に設けられた偏心ピン55f及び偏心ブッシュ58の作用によって,圧縮部75の可動スクロール部材70が固定スクロール部材60に対して,自転を阻止された旋回運動を行う。この可動スクロール部材70の旋回運動によって,吸入ポート76から吸入された冷却媒体は,吸入ハウジング53及び中間ハウジング52内を通り,吸入部69から,可動スクロール部材70と固定スクロール部材60の対向面に形成された夫々の渦巻体の隙間を中心に向かって移動することによって圧縮され,吐出孔65から吐出室66に吐出され,吐出ポート67から図示しない外部冷媒回路へと送り出される。」

・「【0012】そこで,本発明の第1の技術的課題は,空冷式の放熱器やファン,水冷式の水冷放熱器や水配管がなくなるため,小型,低コスト,組み立て時間の短縮がはかれる電動式圧縮機を提供することにある。」

・「【0015】
【課題を解決するための手段】本発明によれば,圧縮部とモータとを一体化して構成した冷媒圧縮用の電動式圧縮機において,前記モータを駆動する駆動回路を当該圧縮機の冷媒ガス吸入側に取り付けたことを特徴とする電動式圧縮機が得られる。」

・「【0019】図1は本発明の第1の実施の形態による電動式圧縮機を示す断面図である。図1を参照すると,電動式圧縮機10は,夫々アルミニウムを含む金属材料からなる吐出ハウジング51と,中間ハウジング52と,吸入ハウジング1とを備えている。これら吐出ハウジング51と,中間ハウジング52と,吸入ハウジング1とは,ボルト53a,53bによって連結されている。
【0020】吐出ハウジング51は,端面に吐出ポート67を備えている。吐出ハウジング51内には,このハウジング51内に固定された固定スクロール部材60と,これに対向した可動スクロール部材70とが配置され,これらの固定及び可動スクロール部材60,70によって,冷媒を圧縮する圧縮部75が構成されている。
【0021】固定スクロール部材60は,底板61と,この底板61の一面に設けられた渦巻体62と,この底板61の他面に設けられた固定部63とを備えている。固定部63は,ネジ64によって,ハウジング51の端壁に固定されている。
【0022】可動スクロール部材70は,底板71と,この底板71の一面に設けられた渦巻体72と,この底板71の他面側から円筒状に突出したボス部73とを備えている。ボス部73の周囲の底板71面と,中間ハウジング52の一端間には,可動スクロール部材70の自転を阻止した旋回運動を可能にするオルダムカップリングからなる回転阻止機構68が設けられている。
【0023】中間ハウジング52内から吸入ハウジング1内にかけて回転軸55が設けられている。
【0024】回転軸55の一端55cは,吸入ハウジング1内を横断するように設けられた仕切壁1bから,圧縮部75側に向かって円筒状に突出した突出部1a内に軸受56を介して支持されている。
【0025】モータ(電動部)80は,中間ハウジング52及び吸入ハウジング1の内壁部に設けられたステータ81と,その周囲に設けられたコイル82と,ステータ81内に設けられ,回転軸55の周囲に,この回転軸55に固定して設けられたロータ83とを備えている。
【0026】回転軸55の他端には,大径部55eが設けられ,軸受57を介して中間ハウジング52内に支持されている。この大径部55の端部から突出して,偏心ピン55cが設けられている。偏心ピン55cは,ボス部73にベアリング59を介して支持された偏心ブッシュ58内に挿通されている。
【0027】以上までは,従来技術による電動式圧縮機とほぼ同様の構成を備えている。
【0028】本発明の第1の実施の形態による電動式圧縮機は,吸入ハウジング1の構造が従来技術とは異なっている。
【0029】即ち,本発明の第1の実施の形態による電動式圧縮機においては,吸入ハウジング1内の仕切壁1bの上側には,密封端子84が設けられており,仕切壁1bの右側と左側とは,隔離されている。また,仕切壁1bよりも中間ハウジング52寄りの側面には,吸入ポート8が設けられている。また,吸入ハウジング1の外端の開口は,蓋部材6によって封じられている。この蓋部材は,ハウジングの材質と同じ材質のアルミニウム又はアルミ合金等からなるもので有っても良く,また鉄やその他の磁性材等を含む板状のシール材からなる物であっても良い。
【0030】仕切壁1bの外部側には,制御回路3及びインバータ2が一体となり駆動回路4として,吸入ハウジング1の底部側の仕切壁1b面に密着して取り付けられている。また,仕切壁1b面には,インバータ2に隣接して,インバータ出力端子5が設けられており,図示しないリード線を介して密封端子と接続されている。
【0031】また,中間ハウジング52と,吸入ハウジング1との境界部分の外壁には,コンデンサ11が取り付け金具12によって,取り付けられている。符号12a固定用のピンである。このコンデンサ11は,圧縮機本体に設けられなくとも,圧縮機の近傍にあれば良い。
【0032】吸入ハウジング1の側壁には,コネクタ7が設けられており,このコネクタ7は,コンデンサ11を介して,外部電源に接続されている。このコネクタ7を介して,駆動回路4等に電力が供給される。
【0033】吸入ハウジング1の開口の一端の蓋部材6は,電動式圧縮機10内部に設けられた各回路への水や異物から保護するとともに,駆動回路4等からの電磁ノイズの外部への放出を防いでいる。
【0034】図2は図1のモータ80の駆動回路4の構成を主に示す図である。図2を参照すると,この電動式圧縮機10の駆動回路4は,特開平9-163791号公報に開示された駆動装置と同様な構成を有し,3つの励磁用のコイル82a,82b,82cを結合してなる三相直流モータで駆動される圧縮部75を含む電動式圧縮機10に対し,三相直流モータへ相電流を供給するための所定数(ここでは6個)のトランジスタ21a,21b,21c,23a,23b,23cを有するインバータ2と,各トランジスタ21a,21b,21c,23a,23b,23cのスイッチング動作を制御するための駆動制御信号を発生する制御回路3とから成る。
【0035】ここで,三相直流モータ80としては,ロータ83が永久磁石より成り,ステータが上述した3つの励磁用のコイル82a,82b,82cから成る直流(DC)ブラシレスモータが用いられている。」

・「【0038】加えて,各トランジスタ21a,21b,21c,23a,23b,23cのペース側は制御回路3に接続され,上アーム(21a,21b,21c)のコレクタ側と下アーム(23a,23b,23c)のエミッタ側とは各トランジスタ21a,21b,21c,23a,23b,23cに電源供給を行うための直流電源18に接続され,この直流電源18の両極間には平滑用コンデンサ11が介挿されている。」

・「【0041】このような構成の本発明の第1の実施の形態による電動式圧縮機10によれば,吸入側は,冷媒ガスにより運転中は,いつも冷却されている。また,駆動回路4を取り付ける吸入ハウジング1は,アルミニウムを含む金属材であるため,熱伝導性に優れているのでインバータ2を構成しているスイッチング素子も冷却される。
【0042】さらに,モータ80と駆動回路4との間の配線は,短くなり,圧縮機のハウジング内に収納することができる。
【0043】図3は本発明の第2の実施の形態による電動式圧縮機20の断面図である。
【0044】本発明の第2の実施の形態による電動式圧縮機は,第1の実施の形態とは,吸入ハウジング1内の構造と,コンデンサ11の取付構造が異なる他は,第1の実施の形態によるものとは,同様の構成を有するので,相違点のみ説明する。
【0045】図3を参照すると,吸入ハウジング1内の仕切壁1bの上部には,密封端子13が設けられている。この密封端子13は,3端子が直線的に配置されているか,又は,1端子毎の単独になっているネジ式の端子であり,インバータ2の出力端子も兼ねている。従って,駆動回路4の占める空間を狭くすることができる。
【0046】また,吸入ハウジング1の内側下面に,コンデンサ11が取付金具12及びピン12aを介し取り付けられ,収容されている。
【0047】以上説明したように,本発明の第2の実施の形態においては,コンデンサ11を更に,ハウジング内に挿入したので,小型化できるとともに,リード線長をより短く,かつ且つ圧縮機内に収容することができる。
【0048】図4は,本発明の第3の実施の形態による電動式圧縮機を示す図である。本発明の第3の実施の形態による電動式圧縮機30は,吸入ハウジング1の構造及びコンデンサ11の取り付け状態が第1及び第2の実施の形態と異なる他は,同様の構成を有するので,の相違する部分についてのみ説明する。
【0049】図4を参照すると,吸入ハウジング1’は,仕切壁14の部分よりも,後ろ側(図では,右側)が断面積が狭くなるように構成されている。この狭くなった仕切壁14の部分に吸入ポート15が形成されている。この吸入ポート15が底部に配置されていることは,従来技術と同様の構成である。尚,符号14aは仕切壁のボス部である。
【0050】また,吸入ハウジング1’の開口は,第1及び第2の実施の形態と同様に,蓋部材16が設けられて封じられている。この蓋部材16は,ハウジングと同様な材質のアルミニウム又はアルミ合金であっても良く,また,鉄やその他の磁性材を含む板状のシール材からなるものであっても良い。
【0051】また,コンデンサ11は,吸入ハウジング1’の側壁の上部に,取付金具12を介してピン12aによって取り付けられている。
【0052】この様な構成の第3の実施の形態においても,第1の実施の形態と同様な効果を有する。
【0053】
【発明の効果】以上説明したように,本発明によれば,空冷式の放熱器やファン,水冷式の水冷放熱器や水配管がなくなるため,小型,低コスト,組み立て時間の短縮がはかれる電動式圧縮機を提供することができる。」

・図4からは,「圧縮部75とモータ80を収容した吐出ハウジング51と中間ハウジング52と吸入ハウジング1’」が看て取れる。

・段落【0007】,【0027】,【0049】の記載事項と図4からみて,「吸入ハウジング1’の仕切壁14に設けた吸入ポート15から圧縮部75に冷媒を導くこと」は明らかである。

・段落【0032】,【0034】,【0035】,【0038】の記載事項と図2からみて,「直流電源18の平滑用コンデンサ11がモータ80の駆動に供すること」は明らかである。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,上記引用例1の第3の実施形態には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「冷媒を圧縮する圧縮部75と,前記圧縮部75の可動スクロール部材70を旋回運動させるモータ80と,前記圧縮部75及び前記モータ80を収容した吐出ハウジング51と中間ハウジング52と吸入ハウジング1’とを含み,前記吐出ハウジング51と前記中間ハウジング52と前記吸入ハウジング1’は,前記圧縮部75へ冷媒を導く前記吸入ハウジング1’の仕切壁14に設けた吸入ポート15を有する電動式圧縮機において,前記吸入ハウジング1’の側壁の上部に,前記モータ80の駆動に供する直流電源18の平滑用コンデンサ11を,取付金具12を介してピン12aによって取り付けている,電動式圧縮機。」

原査定の拒絶の理由として引用された,本願の原出願前に頒布された刊行物である実願昭52-134064号(実開昭54-60213号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)には,「モータカバー」に関し,図面とともに以下の事項が記載または示されている。

・「本考案はコンデンサー・スイッチ等の附属電気部品を装着するモータカバーに関する。
コンデンサ-モータを使用する電動ポンプ等電動機器は固定子・回転子を収納する外被内あるいは外被に附属してコンデンサー・スイッチ等を装着せねばならない。従来第6図に示すようにコンデンサー(c)はモータ外被(a)の周壁に金属バンド(b)等を使用して取着していたが,固定用ねじ孔加工を要し製作にも手間がかゝる上,コンデンサーの端子部分もゴム被覆(d)を要し組立も不便であった。
本考案はかゝる実情に鑑みて提案されたもので,固定子・回転子を収容する電気絶縁性容器に配線ずみのコンデンサー・スイッチ等附属部品をそのまゝ収納しうる隔室を一体的に形成し,同じく電気絶縁性のモータブラケットにて前記収納室をも同時に密閉しうるようにして絶縁性・加工性・組立の能率性の飛躍的向上を図らんとするものである。」(明細書第1ページ第16行?第2ページ第17行)

・「第1図ないし第4図において(1)は本考案にかゝるモータカバーであって,(2)は固定子(S)と回転子(R)を収容しうる有底筒状の容器である。(3)は固定子(S)外周と容器(2)内壁との間に通風用の隙間を設けるための突起である。(4)は容器(2)の底部に設けた軸受用ハウジングである。したがって突起(3)(3)・・・の内周に固定子(S)の外周を嵌入し,回転子(R)を軸方向に挿入して回転子軸(Q)の先端に取付けたベアリング(B)をハウジング(4)内に嵌入すれば容器(2)内に固定子(S)と回転子(R)を収納できるのである。(5)はコンデンサー収納室,(6)はスイッチ収納室,(7)は電源コード引出部収納室であって容器(2)の外周壁にポケット状に設けられ各収納室は隔壁によって隔離されている。これら容器(2)及び収納室(5)・(6)および(7)は合成樹脂等電気絶縁性材料で一体的に形成されており,各収納室(5)・(6)および(7)は前記容器(2)の開口側と同一側にのみ開口し,コンデンサー(C),スイッチ(SW)及び電源コード引出部部品(図示せず)がそれぞれ収納室(5)・(6)および(7)内でがたつかない程度の容積を有している。固定子(S)の巻線とコンデンサー(C)やスイッチ(SW)あるいは電源コード引出部の全ての配線を終ったのち各部品を各収納室(5)・(6)および(7)にそのまゝ嵌装すればよいのである。」(明細書第3ページ第2行?第4ページ第8行)

・「以上説明したように本考案にあってはモータの固定子と回転子とを軸方向に嵌入せしめる有底筒状の容器と,この容器の外周壁にポケット状に夫々隔設せる複数の収納室とを電気絶縁性材料にて一体的に形成し,前記複数の収納室内にコンデンサー・スイッチおよび電源コード引出部等配線ずみの附属電気部品を各個に嵌挿しうるようにしたので,組立が簡単になり,しかも附属電気部品を取付けるための加工等を要せずして確実に附属電気部品を装着しうる効果がある。」(明細書第6ページ第4行?第14行)

・第1図,第4図からは,「容器(2)の上部外壁の外側にコンデンサー収納室(5)を設けた」ことが看て取れる。

3.発明の対比
本願発明と引用発明とを対比すると,後者の「圧縮部75」は前者の「圧縮部」に相当し,以下同様に,「モータ80」は「電動モータ」又は「モータ」に,「吐出ハウジング51と中間ハウジング52と吸入ハウジング1’」は「共通ハウジング」に,「吸入ハウジング1’」は「吸入ハウジング」に,「直流電源18の平滑用コンデンサ11」は「電源平滑用コンデンサ」にそれぞれ相当する。
また,後者の「冷媒を圧縮する圧縮部75」は,前者の「冷媒を圧縮するための圧縮部」に相当し,後者の「圧縮部75の可動スクロール部材70を旋回運動させるモータ80」は前者の「圧縮部を駆動するための電動モータ」に相当する。
次に,後者の「吐出ハウジング51と中間ハウジング52と吸入ハウジング1’は,圧縮部75へ冷媒を導く吸入ハウジング1’の仕切壁14に設けた吸入ポート15を有する」態様は,前者の「共通ハウジングは圧縮部に冷媒を導くための吸入ハウジングを有する」態様に相当する。
そして,後者の「吸入ハウジング1’の側壁の上部に,前記モータ80の駆動に供する直流電源18の平滑用コンデンサ11を,取付金具12を介してピン12aによって取り付けている」態様と,前者の「吸入ハウジングの上部外壁の外側にコンデンサ収容室を設け,前記モータの駆動に供する電源平滑用コンデンサを前記コンデンサ収容室に取り付けた」態様とは,「吸入ハウジングの上部外壁の外側に,モータの駆動に供する電源平滑用コンデンサを取り付けた」概念において共通する。
そうすると,両者は,
「冷媒を圧縮するための圧縮部と,前記圧縮部を駆動するための電動モータと,前記圧縮部及び前記モータを収容した共通ハウジングとを含み,前記共通ハウジングは前記圧縮部に冷媒を導くための吸入ハウジングを有する電動圧縮機において,前記吸入ハウジングの上部外壁の外側に,前記モータの駆動に供する電源平滑用コンデンサを取り付けた,電動式圧縮機。」
において一致し,以下の点で相違すると認められる。

<相違点>
吸入ハウジングの上部外壁の外側に,モータの駆動に供する電源平滑コンデンサを取り付けるものに関して,本願発明では,吸入ハウジングの上部外壁の外側に「コンデンサ収容室を設け」,電源平滑用コンデンサを前記「コンデンサ収容室に」取り付けたのに対して,引用発明では,吸入ハウジング1’(吸入ハウジング)の側壁の上部(上部外壁の外側)に,直流電源18の平滑用コンデンサ11(電源平滑用コンデンサ)を,取付金具12を介してピン12aによって取り付けた点。

4.相違点の検討・当審の判断
引用発明では,吸入ハウジング1’(吸入ハウジング)の側壁の上部(上部外壁の外側)に,直流電源18の平滑用コンデンサ11(電源平滑用コンデンサ)を,取付金具12を介してピン12aによって取り付けている。
そして,引用例2には,コンデンサー(c)をモータ外被(a)の周壁に金属バンド(b)(取付金具)や固定用ねじ等を介して取り付けていたのに代えて,容器(2)の上部外壁の外側に一体的に形成されたコンデンサー収納室(5)にコンデンサー(C)を嵌装することにより,組立を簡単にするものが開示されている。
してみれば,引用発明及び引用例2に開示された事項は,いずれも組立の簡単化(組立時間の短縮)という課題において共通しているから,引用発明の吸入ハウジング1’の側壁の上部(上部外壁の外側)における,直流電源18の平滑用コンデンサー11(電源平滑用コンデンサ)の取付金具12,ピン12aによる固定手段に代えて,引用例2に開示された「容器(ハウジング)の上部外壁の外側に設けたコンデンサー収納室にコンデンサーを嵌装する(取り付ける)こと」を適用して,上記相違点に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。
また,引用例1には,電源平滑用コンデンサを備える電動圧縮機において,吸入ハウジングによってモータの駆動回路の冷却を図るという技術思想が開示される(段落【0015】,【0030】,【0041】を参照のこと。)とともに,電源平滑用コンデンサが冷却すべき部品であることは周知の事項である(必要があれば,特開2000-73962号公報の段落【0017】,【0031】?【0033】,【0036】,【0039】,図1,図2,特開平11-87035号公報の段落【0019】,【0020】,【0022】,図1,図2,図4を参照のこと。)から,本願発明の電源平滑用コンデンサの放熱の促進という作用効果については,当業者が予測し得るものにすぎず,格別のものとはいえない。
そうすると,本願発明は,引用発明,引用例1に開示された事項,引用例2に開示された事項,上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり,本願発明(請求項1に係る発明)は,引用発明,引用例1に開示された事項,引用例2に開示された事項,上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると,このような特許を受けることができない発明を包含する本願は,本願の他の請求項について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-13 
結審通知日 2012-12-19 
審決日 2012-12-27 
出願番号 特願2007-25611(P2007-25611)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04B)
P 1 8・ 57- Z (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 笹木 俊男  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 藤井 昇
川口 真一
発明の名称 電動式圧縮機  
代理人 池田 憲保  

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