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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12M
管理番号 1270063
審判番号 不服2009-10954  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-11 
確定日 2013-02-13 
事件の表示 特願2002-310252「培養フラスコ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月20日出願公開、特開2004-141072〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成14年10月24日(パリ条約による優先権主張2002年10月4日、米国)の出願であって、平成21年3月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年6月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成20年11月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項9は、以下のとおりである。(以下、請求項9に係る発明を「本願発明」という。)

「【請求項9】プラスチック材料から一体に成型されたベースを有する組織培養フラスコであって、前記ベースは、対向する前および後端部と両側部とを有するほぼ長方形の底壁、前記底壁の前記前端部から延び且つ前記底壁に対し鈍角に整列されたほぼ平面の等脚台形の傾斜路であって、前記底壁の前記前端部に平行な前端部と前記底壁から前記傾斜路の前記前端部に向けて集束する第1および第2の側部とを有する傾斜路、前記底壁の前記後端部から上に延びる後壁、前記底壁の第1および第2の側部から上に延びる第1および第2の側壁、前記傾斜路の前記第1および第2の集束側部から上に延びる第1および第2の遷移壁、および、前記傾斜路の前記前端部から上に延びる前壁であって、貫通して形成された開口と、前記前壁の前記開口から外に延びるほぼ管状のネックとを有する前壁を備え、前記管状のネックはそれを通り前記フラスコ内に延びる通路と、前記傾斜路の前記前端部にほぼ正接し、楕円形に生成されて上方へ凹の表面とを有し、さらに、前記後壁、前記前壁、前記側壁および前記遷移壁に、前記底壁および前記傾斜路に対して離間された関係で固設されたカバーを有することを特徴とする組織培養フラスコ。」

第3 刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物1?2には、以下の事項がそれぞれ記載されている。なお、下線は当審が付した。

(1)刊行物1:特開昭62-180753号公報の記載事項

(1a)「【特許請求の範囲】
(1)2つの側壁並びに第1および第2端部壁によつて接続された頂部壁および底部壁を有する本体であつて、前記底部壁が頂部壁に対し略平行の主要部分を有する前記本体と、1端が開放し、他端が第2端部壁に接続され、開放端に向かつて、上方に傾斜するネツク部と、第2端部壁に近接して、底部壁の一部を形成し、底部壁の主要部分の面から、前記ネツク部が前記第2端部壁に接続する箇所まで、上部に伸長する傾斜面とを備えることを特徴とする検査用フラスコ。
(2)前記ネツク部が、底部壁の方向を向いた底面の平坦領域を備えることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載した検査用フラスコ。
(3)ネツク部の前記平坦領域が、ネツク部の全長に亘って伸長し、第2端部壁に接続したネツク部の端部から、その開放端に向けて縮径する幅を備えることを特徴とする特許請求の範囲第2項に記載した検査用フラスコ。
(4)一方のフラスコの底部壁が第2フラスコの頂部壁上に定着する状態で同一のフラスコを積重ねることを可能にする積重ね手段を頂部壁および底部壁に設けることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載した検査用フラスコ。
(5)フラスコの底部壁上で増殖する微生物の位置を識別する座標表示と本体の頂部壁に設けることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載した検査用フラスコ。
(6)前記フラスコを透明プラスチックで成形し、およびつや消しラベル貼付け面を側壁および端部壁の一方に設けることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載した検査用フラスコ。
(7)前記積重ね手段が、頂部壁の周縁に設けたフランジおよび底部壁の周縁の直ぐ中方の主要部分上に設けた下方に伸長するビード部を備え、同一のフラスコを積重ねたとき、上部フラスコのビード部が、直ちに、下部フラスコのフランジ内に嵌入するようにしたことを特徴とする特許請求の範囲第4項に記載した検査用フラスコ。
(8)底部壁の主要部分が長方形、および勾配面が台形であることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載した検査用フラスコ。
(9)底部、側部および端部壁並びにネツク部を単一構造体として成形し、および頂部壁を別個に成形して、端部壁の周縁に沿つた側部に密封することを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載した検査用フラスコ。
(10)側壁および端部壁が相互に上方に末広がることを特徴とする特許請求の範囲第9項に記載した検査用フラスコ。
(11)底部壁の主要部分が、長方形、斜傾面が台形であり、
および前記頂部壁が平面状で、平面において、底部壁と同一の形状および略同一の寸法を備えることを特徴とする特許請求の範囲第2項に記載した検査用フラスコ。
(12)前記ネツク部が開放端にオネジを設け、フラスコ用のネジキャップを備えることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載した検査用フラスコ。
(13)ネツク部の開放端が、頂部壁の位相より上方に伸長することを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載した検査用フラスコ。
(14)ネツク部の開放端用のキャップと、および頂部壁および底部壁に設けられ、一方のフラスコの底部壁が第2フラスコの頂部壁上に定着し、キャップがネツク部の所定位置にあるように同一のフラスコを積重ねることを可能にする積重ね手段とを備えることを特徴とする特許請求の範囲第13項に記載した検査用フラスコ。
(15)前記ネツク部が、底部壁方向を向いた側部に平坦領域を備えることを特徴とする特許請求の範囲第14項に記載した検査用フラスコ。
(16)ネツク部の平坦領域が、ネツク部の全長に亘って伸長し、第2端部壁に接続したネツク部端部からその開放端に向けて縮径する幅を備えることを特徴とする特許請求の範囲第15項に記載した検査用フラスコ。」

(1b)「(産業上の利用分野)
本発明は、検査用フラスコ、特に、細胞培養および組織培養用の新規且つ改良したフラスコに関する。」(第2頁右下欄第18行?第3頁左上欄第2行)

(1c)「(従来の技術)
培養用フラスコは様々な目的のため、検査室で広く使用されている。通常の場合、細胞および組織の培養は、底部壁を覆う寒天又は培地中で行われる。検査中、微生物は、フラスコ内で増殖する状態を肉眼で頻発に観察し、又微生物はスクレーパ、培地はピペツトで頻発に除去される。
(発明の解決しようとする問題点)
本発明の主な目的は、検査技師が上記の如き操作をより容易且つ効率的に行ない得るようにすることである。具体的には、本発明の1つの目的は、スクレーパが隅部を含むフラスコの全底面に届き、微生物を除去し得るフラスコの形状とすることでるる。
本発明の別の目的は、ピペツトがフラスコのネツク部から遠方側のフラスコ端壁の四隅に届くようにし、底部の増殖面を妨害することなく、培地を除去し得るようにすることである。
本発明の別の目的は、流体の注出を便宜に行ない得るように、フラスコの形状を改良することである。
本発明のさらに別の目的は培地の流出を最小にし得るようなフラスコ形状とすることである。
本発明のさらに別の目的は、フラスコ内の特定部分を位置決めし、識別し、顕微鏡による観察を単純化することである。
本発明のさらに別の目的は、多数のフラスコで必要とされる棚状空間を減少させることである。
(問題点を解決するための手段)
上記および他の目的を達成するため、本発明のフラスコは、極めて幅広のネツク部および勾配部分を備え、スクレーパまたはピペツトをそれぞれ、底部および端部壁の四隅に具合良く届くようにする。フラスコの頂部壁には、文字数字式の座標が設けられており、頂部壁から見た場合、底部壁の特定部分を識別し得るようにしである。頂部および底部壁には、積重ね用手段が設けであるため、同一のフラスコを積重ねることが可能となる。フラスコにはショルダ部が設けてあり、注出上極めて都合よい。
上記および他の目的並びに特徴は、添付図面を参照しながら、1実施態様に関する以下の詳細な説明を読むことによって、一層理解できるであろう。」(第3頁左上欄第3行?左下欄第6行)

(1d)「(実施例)
図面に図示した検査用フラスコは、本体10と、ネツク部12とおよび着脱可能なネジ式キャップ14とを備えている。この実施態様の場合、頂部、底部側部という際には、第1図に示した状態のフラスコについて説明する。しかし、勿論、このフラスコは、この特定の状態にのみ限定されるものではないことを理解する必要がある。
本体10は、略平行位相にある底部壁16および頂部壁18を備えている。これら底部壁16および頂部壁18は、側壁20、22および第1端部壁24、第2端部壁26によって接続されている。ネツク部12は、第2端部壁26の中央部分28と一体に形成されている。第2端部壁26は、それぞれ中央部分28の両端から側壁20、22まで伸長する末広がり部分30、32を備えている。頂部壁18は、その全体に亘って略平坦である。
底部壁16は、その主要長方形部分34全体に亘つて平坦であり、頂部壁18に対して平行であるが、底部壁16の残部36は、ネツク部12から底部壁の水平の長方形部分34に至る勾配面36を形成する。この勾配面36は、水平方向に対して約22°の角度にて形成されており、端部壁30、32によって形成される勾配面の境界部は、以下に説明する目的のため、相互に90°の角度で末広がりとなっている(90°は、端部壁30、32間の夾角である)。
第2図および第6図に示すように、ネツク部12には、線40に沿つて勾配面36と交差する平坦な下面38が設けられている。この下面38の水平に対する角度は、 °であるため、線40は、2つの異なる勾配面間の接続部を形成する。
しかし、下面38および勾配面36共、底部壁16の長方形部分34に向けて下方に傾斜しているため、下面38に付着した流体は全て、フラスコ内部に流動し易くなる。
第6図乃至第8図において、底部壁16の長方形部分34は、その周縁に沿つて下方に伸長するビード部42を備える状態が示してあり、このビード部42は、フラスコに設けた積重ね手段の一部であり、同一のフラスコをコンパクト且つ確実に積重ねることを可能にする。積重ねた状態は第7図および第8図に示してある。」(第3頁左下欄第7行?第4頁左上欄第9行)

(1e)「フラスコのネック部の外面58には、その開放端60に近接して、非連続のネジ山56が設けられている。この非連続のネジ山56は、キャップ14の係合ネジ山61と協働するため、キャップ14は、端面62に対する耐漏洩密封を形成する。この耐漏洩密封を形成し得るように、キャップ64の頂部壁全体にゴムライニング63を設けることができる。
このフラスコは、ポリスチレン等の澄明なプラスチック材料を用いて、2構成要素として射出成形される。フランスの一方の構成要素は、底部壁16、側壁20、22、端部壁24、26を備えている。他方の構成要素は、頂部壁18、および側壁および端部壁20、22、24および26、の頂端縁に嵌合する短スカート部66、さらに、第1図、第2図および第4図に示すように、ネツク部12の上半分を包囲する略半円形のカラー70を備えている。」(第4頁右上欄第16行?左下欄第13行)

(1f)「フラスコ、特に、下面38および勾配面36を備えた斜めのネツク部14の形状から、幾多の利点が得られる。図面において、ネツク部の幅は、端部壁26の中央部分28の高さより幅広であることが了知されよう。この極めて幅広なネツク部は、フラスコ自体の形状と共に、スクレーパが底部の四隅72、74、76、78の全てに届くようにし得るものである。また、幅広なネツク部によって、ピペットを端部壁24の四隅74、76、80、82に届くようにすることができ、第4図に示すように、フラスコを縦に立でた場合、底部から培地を除去することが可能となる。さらに、勾配角によつて、ボルト内の培地がネツク部12内に流入する虞れが少なくなる。また、斜めのネツク部および勾配面によつて、フラスコから培地を出入れする際の流体の滞留を防止することができる。勾配面は、また、底部壁16の付着物がネツク部に流入するのを防止する堰止部としても作用する。さらに、ネツク角度によって、所定のフラスコ厚の場合、容器の積重ね可能性(第7図および第8図参照)を損うことなく、ネツク部およびキヤツプ径を最大にすることができる。まだ、フラスコの四隅は全て、丸味が付けられているため、フラスコを通常、包装する滅菌済みラップ(図示せず)を傷つけることがないことも注目する必要がある。
本発明について詳細に説明したから、当業者は、本発明の精神から逸脱することなく、幾多の変形例を案出することが可能であることを了知し得よう。故に、本発明の範囲は、図示し且つ説明した特定の実施態様にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載した事項およびその均等物に基づいて判断すべきである。」(第4頁右下欄第4行?第5頁左上欄第16行)

(1g)「第1図?第8図






(2)刊行物2:米国特許第4851351号明細書の記載事項

(2a)「DETAILED DESCRIPTION OF THE PREFERRED EMBODIMENT
A culture vessel according to an embodiment of the invention will be described hereunder with reference to the drawings.
As shown in FIGS. 1A to 1D, 2, 3A and 3B, the culture vessel includes a vessel body D, and an opening neck C. The neck C constituting an opening part for the culture vessel is provided on one side of the vessel body D and having an opening end A. The opening end A, to which a cap H is fitted, has an inner peripheral wall of circular shape as best shown in FIG. 3A. The vessel body D is joined with the neck C through a connecting part B.
The inner peripheral wall of the connecting part B, which constitutes an opening part of the vessel body D to the neck C, has such a shape that the inside dimension or diameter measured in an upward and downward direction or a vertical direction as viewed in FIG. 3B is smaller than the inside dimension or diameter measured in a leftward and rightward direction or a horizontal direction as viewed in FIG. 3B. Thus, the shape or circumferential contour of the inner peripheral wall of the connecting part B is substantially oval as shown in FIG. 3B. As the shape of this inner peripheral wall, an ellipse, a rectangle having both longitudinal sides shaped actuate as shown in FIG. 4B, or the like may be adopted in addition to the oval as shown in FIG. 3B. Is not limited to the oval as shown in FIG. 3B, though the shape of the inner peripheral wall is not limited to these forms. As shown in FIGS. 4A and 4B, a maximum inside dimension or diameter G of the connecting parts B and E is substantially equal to the inner diameter of the opening end A of the neck C, whereas a minimum inside dimension or diameter F thereof is suitably determined to 20 to 90 percent (%), more preferably 30 to 70 percent (%), of the maximum diameter G. In the case where the ratio of the minimum inside dimension or diameter to the maximum inside dimension or diameter of the connecting part B is less than 20 percent, the minimum diameter of the inner peripheral wall of the connecting part becomes too small and, therefore, it is almost impossible to introduce a culture are solution and to insert the pipette through the opening part into the culture vessel. On the other hand, if the ratio in question is greater than 90 percent, the culture vessel suffers from the previously described problems in the conventional culture vessels in that a dead angle is liable to appear in the culture area and the opening part tends to be small when the pipette is inserted. An important feature of the invention resides in that the opening area at the opening end A is made to become still larger than the maximum sectional area which can be taken as the area of the opening part at the connecting part B, and hence freedom in performing the pipette operation is enhanced and the pipette operation is facilitated.
According to the present invention, it is possible to make the dimension or diameter of the opening end of the neck larger than the dimension of the side of the vessel; i.e., larger than the dimension or diameter of the opening neck of the convention culture vessel. Thus, the disadvantages of the conventional vessel can be fully removed. Namely, since the pipette may be readily inserted into the culture vessel and it may be moved or operated within a wide range in forward and rearward, and upward and downward directions, a dead angle for the pipette with respect to the culture vessel is not formed and it is possible to make the sample cells remained in very small quantity after performing the operation of removing the cells from the vessel. Further, since it is unnecessary to increase the height of the vessel, the vessel having a stable form which may be easily stacked one on another may be advantageously obtained.」
「日本語訳:好ましい具体化の詳細な記述
発明の実施例による培養容器について、図面により以下の通りに説明する。図1A?1B、2、3A及び3Bで示されるように、培養容器は容器本体Dおよび開口されたネックCを含む。培養容器のための開口部部分を構成するネックCは、容器本体Dの1つ側面に付設され、開口端Aを有している。開口端Aは、キャップHが適合され、図3Aに最良の形態として示されるように、円弧状の内部周壁を有している。容器本体Dは、接続部BによってネックCに接続される。
ネックCへの容器本体Dの開口部を構成する接続部Bの内部周壁は、図3Bに示される上下方向あるいは垂直方向に測定された内寸あるいは直径は、図3Bに示される左右方向あるいは水平方向に測定された内寸あるいは直径よりも小さい形状をなしている。したがって、図3Bの中で示されるように、接続部Bの内部周壁の形か周辺の輪郭は、本質的に楕円形とされる。この内部周壁の形状としては、長円形、図4Bに示されるような両端が円弧状をなす長方形などが、図3Bに示されるような楕円に加えて採用されるが、内部周壁の形はこれらの形状に限定されるものではない。図4A及び4Bに示されるように、接続部BやEの最大径は、ネックCの開口端Aの内径と実質的に等しく、また、最小径Fは、その最大径Gの20?90パーセント(%)、好ましくは30?70パーセント(%)の大きさとするのがよい。接続部Bの最大径に対する最小系の比率が20パーセントを下回るときは、接続部Bにおける内部周壁の開口部の最小径が小さくなりすぎて、培地液の導入、ピペット類の挿入ができない。一方、その比率が90パーセントを超えると、ピペット挿入時に培地に死角が生じ易く、その開口部が小さくなりやすいという前述した従来の培養装置における問題点が生じることとなる。本発明の重要な特徴は、開口端Aの開口面積を、接続部Bで取り得る最大の断面積より更に大きくすることにより、ピペットの操作の自由を強め、ピペット操作を促進する点にある。
本発明によると、ネックの開口端の寸法あるいは直径を、容器の側の寸法よりも大きくすることが可能となり、すなわち、従来型の培養容器の開口したネックの寸法あるいは直径よりも大きい。よって、従来の容器における欠点を完全に排除することができる。すなわち、ピペットは培養容器に容易に挿入することができ、前後左右にわたり広い範囲で操作ができ、培養容器内にピペットにとっての死角が形成されることがなく、また、容器から細胞を除去する操作を行った後、ほとんど残さずにサンプル細胞を作成することが可能となる。さらに、容器の高さを増加させる必要がないので、積重ねしやすい安定した形状の培養容器が有利に得られる。」(第2欄第38行?第4欄第10行)

(2b)「図1C?図4B







第3 対比・判断
刊行物1の上記記載(特に上記(1a))から、刊行物1には、
「2つの側壁並びに第1および第2端部壁によつて接続された頂部壁および底部壁を有する本体であつて、前記底部壁が頂部壁に対し略平行の主要部分を有する前記本体と、1端が開放し、他端が第2端部壁に接続され、開放端に向かつて、上方に傾斜するネツク部と、第2端部壁に近接して、底部壁の一部を形成し、底部壁の主要部分の面から、前記ネツク部が前記第2端部壁に接続する箇所まで、上部に伸長する傾斜面とを備えることを特徴とする検査用フラスコ」
の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。

(ア)刊行物1発明の「検査用フラスコ」について、刊行物1には「特に、細胞培養および組織培養用」のフラスコであることが記載されている(1b)ので、刊行物1発明の「検査用フラスコ」は、本願発明の「組織培養フラスコ」に相当する。

(イ)刊行物1発明の「本体」は「2つの側壁並びに第1および第2端部壁によつて接続された頂部壁および底部壁を有」したものであり、また「底部壁」は「頂部壁に対し略平行の主要部分を有する」ものである。そして、この「底部壁」について、刊行物1には「底部壁16は、その主要長方形部分34全体に亘つて平坦であり、頂部壁18に対して平行であるが、底部壁16の残部36は、ネツク部12から底部壁の水平の長方形部分34に至る勾配面36を形成する」と記載している(1d)ことから、「底部壁」は主要長方形部分34と、その残部36である勾配面36から形成されたものであり、刊行物1発明の「底部壁」の「主要部分」は、長方形形状をなす主要長方形部分34である。
そうすると、刊行物1発明の「底部壁」の一部である長方形形状の「主要部分」は、本願発明の「対向する前および後端部と両側部とを有するほぼ長方形の底壁」に相当する。

(ウ)上記(イ)で述べたとおり、「底部壁」は主要長方形部分34とその残部36である勾配面36から形成されたものであるので、刊行物1発明「底部壁の一部を形成し」て「上部に伸長する傾斜面」は、「底部壁」の「残部」であって勾配面36である。そして図4や図6を参照すると、「勾配面36」は長方形の底部壁の主要長方形部分34からほぼ台形形状で鈍角に傾斜されて設けられているものである。
そうすると、刊行物1発明「底部壁の一部を形成し」て「上部に伸長する傾斜面」は、本願発明の「前記底壁の前記前端部から延び且つ前記底壁に対し鈍角に整列されたほぼ平面の等脚台形の傾斜路であって、前記底壁の前記前端部に平行な前端部と前記底壁から前記傾斜路の前記前端部に向けて集束する第1および第2の側部とを有する傾斜路」に相当する。

(エ)刊行物1発明の「2つの側壁並びに第1および第2端部壁によつて接続された頂部壁および底部壁を有」する「本体」について、刊行物1には「本体10は、略平行位相にある底部壁16および頂部壁18を備えている。これら底部壁16および頂部壁18は、側壁20、22および第1端部壁24、第2端部壁26によって接続されている。」と記載されており(1d)、また、第1図?第3図、第5図を参照すると、第1端部壁24は底部壁16の後端部から上部に伸びているものであり、また、側壁20、22は底部壁16の側部から上に延びているものである。
そうすると、刊行物1発明の「第1端部壁」及び「2つの側壁」は、それぞれ本願発明の「前記底壁の前記後端部から上に延びる後壁」及び「前記底壁の第1および第2の側部から上に延びる第1および第2の側壁」に相当する。

(オ)刊行物1発明の「本体」のうち「第2端部壁」について、刊行物1には「第2端部壁26は、それぞれ中央部分28の両端から側壁20、22まで伸長する末広がり部分30、32を備えている」こと、さらに「勾配面36は、水平方向に対して約22°の角度にて形成されており、端部壁30、32によって形成される勾配面の境界部は、以下に説明する目的のため、相互に90°の角度で末広がりとなっている」ことが記載されており(1d)、さらに第2図や第6図を参照すると、勾配面36の末広がりとされた部分に、第2端部壁の末広がり部分であって端部壁30、32が上に延びているものである。
そうすると、刊行物1発明の「第2端部壁」の両端の末広がり部分であって端部壁30,32は、本願補正発明の「前記傾斜路の前記第1および第2の集束側部から上に延びる第1および第2の遷移壁」に相当する。

(カ)上記(オ)で述べた刊行物1発明の「第2端部壁」26が備えた中央部分28について、刊行物1には「ネツク部12は、第2端部壁26の中央部分28と一体に形成されている」こと(1d)が記載されており、さらに第4図,第6図を参照すると、傾斜面である勾配面36から上に中央部分28が延びているものであり、また刊行物1発明の「ネック部」は「1端が開放し、他端が第2端部壁に接続され、開放端に向かつて、上方に傾斜する」ものである。
そうすると、刊行物1発明の「1端が開放し、他端が第2端部壁に接続され、開放端に向かつて、上方に傾斜するネツク部」は、本願発明の「前記前壁の前記開口から外に延びるほぼ管状のネック」に相当し、また、刊行物1発明の「第2端部壁」は本願発明の「前記傾斜路の前記前端部から上に延びる前壁であって、貫通して形成された開口と、前記前壁の前記開口から外に延びるほぼ管状のネックとを有する前壁」に相当する。

(キ)刊行物1には「このフラスコは、ポリスチレン等の澄明なプラスチック材料を用いて、2構成要素として射出成形される」(1e)こと、「一方の構成要素は、底部壁16、側壁20、22、端部壁24、26を備えている」ことが記載されている(1e)。
そして、上記(イ)?(カ)からすると、刊行物1発明の「底部壁」、「2つの側壁」、「第1端部壁」、「第2端部壁」は、それぞれ本願発明の「底壁」及び「傾斜路」、「第1および第2の側壁」、「後壁」、「第1および第2の遷移壁」及び「前壁」に相当するものであるので、刊行物1発明の「底部壁16、側壁20、22、端部壁24、26」を備えた「一方の構成要素」は、本願発明の「底壁」と「傾斜路」と「後壁」と「第1および第2の側壁」と「第1および第2の遷移壁」と「前壁」とを備えた「ベース」であって「プラスチック材料から一体に成型されたベース」に相当する。

(ク)刊行物1発明の「頂部壁」は「2つの側壁並びに第1および第2端部壁によつて接続された」ものであって、頂部壁に対して底部壁の主要部分が略並行であることから、本願補正発明の「前記後壁、前記前壁、前記側壁および前記遷移壁に、前記底壁および前記傾斜路に対して離間された関係で固設されたカバー」に相当する。

(ケ)刊行物1発明の「傾斜面」は「底部壁の主要部分の面から、前記ネツク部が前記第2端部壁に接続する箇所まで上部に伸長」したものであり、さらに、刊行物1の第2図、第6図、第8図を参照すると、ネツク部12は管状であってフラスコ内部に延びる通路と、傾斜面である勾配面の前端部に接続し、上方に凹の表面と、を有したものである。
そうすると、刊行物1発明の、管状のネツク部12は、フラスコ内部に延びる通路と、傾斜面の前端部に接続し、上方に凹の表面とを有したものであることと、本願発明の「管状のネックはそれを通り前記フラスコ内に延びる通路と、前記傾斜路の前記前端部にほぼ正接し、楕円形に生成されて上方へ凹の表面とを有し」たものであることとは、「管状のネックはそれを通り前記フラスコ内に延びる通路と、前記傾斜路の前記前端部が接続し、上方へ凹の表面とを有」する点で共通する。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)
「プラスチック材料から一体に成型されたベースを有する組織培養フラスコであって、
前記ベースは、
対向する前および後端部と両側部とを有するほぼ長方形の底壁、
前記底壁の前記前端部から延び且つ前記底壁に対し鈍角に整列されたほぼ平面の等脚台形の傾斜路であって、前記底壁の前記前端部に平行な前端部と前記底壁から前記傾斜路の前記前端部に向けて集束する第1および第2の側部とを有する傾斜路、
前記底壁の前記後端部から上に延びる後壁、
前記底壁の第1および第2の側部から上に延びる第1および第2の側壁、
前記傾斜路の前記第1および第2の集束側部から上に延びる第1および第2の遷移壁、
および、前記傾斜路の前記前端部から上に延びる前壁であって、貫通して形成された開口と、前記前壁の前記開口から外に延びるほぼ管状のネックとを有する前壁を備え、
管状のネックはそれを通り前記フラスコ内に延びる通路と、前記傾斜路の前記前端部が接続し、上方へ凹の表面とを有し、
さらに、前記後壁、前記前壁、前記側壁および前記遷移壁に、前記底壁および前記傾斜路に対して離間された関係で固設されたカバーを有する
組織培養フラスコ。」

(相違点)管状のネックが有する、上方に凹部の表面が、本願発明では「傾斜路の前端部にほぼ正接し、楕円形に生成された」ものであるのに対し、刊行物1発明では、傾斜面の前端部に接続しているものの、接続部の形状や表面の形状については特に規定していない点。

そこで、上記相違点について検討する。

(相違点について)
刊行物2には、培養容器であって、ネックCへの容器本体Dの開口部を構成する接続部Bの内部周壁を、上下方向あるいは垂直方向に測定された内寸あるいは直径は、左右方向あるいは水平方向に測定された内寸あるいは直径よりも小さい形状、すなわち、楕円形状としたことが記載され、これにより、培養容器に容易にピペットを挿入することができ、前後左右にわたり広い範囲で操作ができ、培養容器内にピペットにとっての死角が形成されないなど、ピペットの操作性を向上させたことが記載されている(2a)。
そうすると、刊行物1発明において、ピペットの操作性をより向上させることを考えて、管状のネックが第2端部壁に接続する開口の形状を楕円形とし、上方に凹部の楕円形の表面とすることは、刊行物2の記載事項を参照して、そして、ネックの開口の形状を楕円形とするため、傾斜面前端部との接続部を、楕円弧が傾斜面前端部にほぼ正接させて接続するよう構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(本願発明の効果について)
フラスコ内の汚染の危険性を軽減し、ピペットおよびスクレイパによるアクセスを可能とする一方、フラスコの全ての内隅部への注入の容易さを促進し、また、ネック内への培地の収集を防ぎ、且つ、ネック内での汚染に対する危険性を最小限にするなどの本願発明の効果は、刊行物1、2の記載事項から当業者が予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえいない。

(請求人の主張について)
請求人は、平成21年6月11日付け審判請求書において、以下のとおりに主張している。
・「引用文献1は、「ネック接続部下側形状を直線にすること」を開示するだけであり、拒絶査定で指摘するような「ネック接続部下側形状を円形よりも直線的にすること」を示唆していない以上、当業者は、ネック接続部下側形状を楕円形とすることを容易に想到することができず、また、該ネック接続部を傾斜路前端部と正接するように設計することも容易に想到できないというべきである。」(3.(c)オ.の欄)

しかしながら、引用文献1、すなわち刊行物1の特許請求の範囲の(1)は、上記刊行物1発明として認定したとおり、ネック部12に平坦な下面38を設け、ネック部12と勾配面36とが直線40で接続されたものに限定されるものではないし、また刊行物1に開示された発明は実施例に示されたフラスコに限定されるものではないことは刊行物1に記載されたとおりである(1d)。また、傾斜部と隣接させて形成された、平坦な下面が設けられていないネック部を有するフラスコも、例えば特開昭60-70067号(第3頁左下欄第10行?19行、第4図?第8図等参照)、特開平8-308556号(【0016】【0018】及び図4?第5図等参照)に示されるとおり、本願の優先権主張日前によく知られたものである。
そうすると、刊行物1にはネック接続部下側形状として直線以外の形状が記載されていないからといって、他の形状を採用することが困難であるということはできず、よって、出願人の上記主張は採用できない。

したがって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は、拒絶をすべきものである。
 
審理終結日 2012-09-06 
結審通知日 2012-09-11 
審決日 2012-09-28 
出願番号 特願2002-310252(P2002-310252)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 大輔  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 鵜飼 健
菅野 智子
発明の名称 培養フラスコ  
代理人 谷 義一  
復代理人 伊藤 勝久  
代理人 阿部 和夫  
復代理人 梅田 幸秀  

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