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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1270066
審判番号 不服2010-3784  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-22 
確定日 2013-02-13 
事件の表示 特願2008-295983「精製ラクターゼ」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月19日出願公開、特開2009- 34116〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2002年4月3日(パリ条約による優先権主張2001年4月4日、欧州特許庁)を国際出願日とする特願2002-580036号の一部を平成20年11月19日に新たな特許出願としたものであって、平成21年10月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年2月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし17に係る発明は、平成21年9月2日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1は、以下のとおりである。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

「【請求項1】10?70質量/質量%のグリセロールを含有し、かつ100mPa未満の粘度を有するラクターゼ液の製造方法であって、ラクターゼの未処理液に存在する多糖類及びオリゴ糖類が、前記ラクターゼ液から分離され、得られたラクターゼ液に10?70質量/質量%のグリセロールが添加されることを特徴とする、製造方法。」

第3 刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物1及び2には、以下の事項がそれぞれ記載されている。なお、下線は当審が付した。

(1)刊行物1:特開昭53-148591号公報の記載事項

(1a)「特許請求の範囲
(1)バチルス属に属する新ラクターゼ生産菌を培地に培養し、新ラクターゼを培地中に生産蓄積せしめ、これを採取することを特徴とする新ラクターゼの製造法。」(※当審注 原文は、(1)は丸囲み文字)(第1頁左欄3行?7行)

(1b)「(2)ミルク処理という工業的用途を考えるとき、反応速度および腐敗防止の観点から作用至適pHが中性附近に有り、且つ至適温度が高い程望ましいが両者を満足させるものは未だ見出されていない。」(第2頁左上欄3行?7行)

(1c)「本発明では次いで上記により得られる培養物から新ラクターゼを採取する。採取法は通常の酵素の採取法に従い行い得る。特に本発明によれば所望の新ラクターゼが菌体外に分泌生産されるため、例えば培養液を直接又は水もしくは適当な有機溶媒にて抽出して菌体を濾過(※当審注 原文では”さんずい”に”戸”であるが”濾”に置き換えて表記する。以下、同じ。)除去後可溶性塩類例えば硫安等により塩析沈殿乾燥せしめればよく、これにより粗酵素粉末を得ることができる。更に該粗酵素粉末は常法に従い例えばこれを透析膜を用い、0.01Mトリス-塩酸緩衝液(pH8.3)で透析し、DEAEセフアデツクスA-25を用いて分離精製でき、この精製物は、減圧乾燥、凍結乾燥等により固形酵素製品とすることができる。」(第4頁左上欄11行?右上欄8行)

(1d)「(7)精製方法 培養中の菌体を濾過により除去し、その濾液に硫安を添加(53%飽和)攪拌後、生成する粗酵素を濾過により集める。これを透析膜を用いてトリス緩衝液(pH8.3)にて透析し、DEAEセフアデツクスA-25カラムを用い0.35M塩化カリウムで溶出させる。溶出したONPG活性分画を更にDEAEセフアデツクスA-50に吸着、溶離させて得られる。」(※当審注 原文は、(7)は丸囲み文字)(第5頁右上欄11行目?左下欄4行)

(1e)「実施例1
肉エキス0.5%、ポリペプトン1%、塩化ナトリウム0.2%、乳糖0.1%を含む液体培地(pH7.0)を坂口フラスコに100mlずつ分注し、120℃15分間オートクレーブする。LOB377菌を1白金耳接種し、38℃1日往復式振とう機で振とう培養する。培養液の力価は0.3ONPG単位/ml、0.3Lact単位/mlであつた。
実施例2
乳糖560g、脱脂大豆粉420g、コーンジスチラーズソルブル420g、コーンスチーブリーカー140g、酵母エキス70g、リン酸アンモニウム70g、炭酸ナトリウム35g、大豆油245ml、水27lを70lフアーメンターに入れ、120℃5分間オートクレーブする。実施例1の培養液100mlを接種し、38℃3日間35l/分通気撹拌培養する。培養液の力価は、13ONPG単位/ml、14Lact単位/mlであった。
実施例3
実施例2で得られた培養液を濾過除菌後、0.53飽和の硫安塩析した。得られた粗酵素粉末の力価は1340ONPG単位/g、1460Lact単位/gであった。この粗酵素粉末の一部を透析膜を使い、0.01Mトリス-塩酸緩衝液(pH8.3)で透析し、DEAEセフアデツクスA-25に吸着させ、0.35M塩化カリウムで溶出させた。溶出したONPG活性分画をさらにDEAEセフアデツクスA-50に吸着、溶離させた。第7図は本酵素のDEAEセフアデツクスA-50カラムクロマトグラフイーの溶出曲線を示すものであり、これは0.15?0.4M塩化カリウム濃度勾配で溶出させたものである。該塩化カリウム濃度は曲線(3)で示されている。また図中(1)は酵素活性及び(2)は蛋白質を示すものである。該図より塩化カリウム濃度0.2M付近に活性のピークが見られる。その活性度は330NPG単位/mg蛋白及び41Lact単位/mg蛋白である。」(第5頁左下欄6行?第6頁左上欄12行)

(2)刊行物2:特公平6-73454号公報の記載事項

(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】ラクトース分解酵素の無菌溶液の製造方法であって、発酵法により産生されたラクトース分解酵素溶液の回収及び純化後であって除菌濾過器を閉塞させるに充分な劣化生成物の形成前である、前記回収及び純化後14日以内に該ラクトース分解酵素溶液を除菌濾過によって無菌化することを特徴とする方法。
【請求項2】回収及び純化の直後に、そして除菌濾過前に、酵素溶液を減菌化する特許請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項3】酵素溶液に対し1種又は複数種の溶剤及び(又は)添加物を添加する特許請求の範囲第1項又は第2項記載の方法。
【請求項4】グリセロールを添加する特許請求の範囲第3項記載の方法。
【請求項5】除菌濾過後に約50重量%のグリセロールを添加する特許請求の範囲第3項記載の方法。
【請求項6】製造されたラクトース分解酵素の無菌溶液を滅菌された容器に導入する特許請求の範囲第1?5項のいずれか1項に記載の方法。」

(2b)「従来の技術
ラクトース(乳糖)は酪農製品中に、及び更に詳細には牛乳、脱脂乳、クリーム及びその他の乳製品中に存在する二糖類の一種である。これらの諸製品は約4?5%の量のラクトースを含有している。非吸収性のラクトースは通常は体内で分解されて吸収性の単糖類であるグルコースとガラクトースとになる。人体の(及び他の哺乳動物の)腸壁内に存在するβ-ガラクトシダーゼ又はラクターゼと称される天然酵素によつて上記の分解が行われることが一般である。
ラクトース含有製品中のラクトースを分解するためのラクターゼの消化系を全面的に、又は部分的に欠如することによつて起るいわゆるラクトース不耐症に悩むヒト及び動物は世界の広域に及んでいる。この場合にラクトースはグルコース及びガラクトース(これらは吸収可能である)に分解しないか又は不充分にしか分解されないので非吸収性のラクトースは腸障害を起す。
ラクトース不耐症の現象は多年にわたり認められている。牛乳タンパク質はそのアミノ酸構成の点から大きな食品価値をもつ。ラクトース不耐症患者及び罹患動物のためのラクトース低含有又はラクトース不含有の乳及び乳製品の製造が企画されてきている。ラクターゼ添加製品が甘味を増すことはラクターゼ添加における番外の利点である。」(第2欄10行?第3欄18行)

(2c)「英国特許第1477087号明細書の方法が学術雑誌〔Voedings middelen technologie 13(1980),23〕に更に引用されているがそれによると酪農加工業者に供給される滅菌ラクターゼ(germ-poor lactase)は通常の場合に水溶液であつてこれに対し一種又は複数種の安定化剤例えばグリセロールを添加し、使用前に濾過(※原文では”さんずい”に”戸”であるが”濾”に置き換えて表記する。以下、同じ。)する。かように濾過された酵素溶液を、除菌濾過器(sterile filter)経由でポンプ送給し、予め滅菌された乳の生産ラインの中へ供給手段を介して注入してから乳と混合する。最後にこの混合物を分け無菌条件下に包装して均一包装品とする。」(第3欄46行?第4欄6行)

(2d)「発明が解決しようとする問題点
しかるに上述の系の実施において除菌濾過器は屡々目詰まり(閉塞)するのである。閉塞は主としてタンパク質と多糖類(ガム類)との劣化によるもので該タンパク質と多糖類とは精製されても尚酵素溶液中に残留するのである。劣化現象は酵素使用前に酵素を長く置く程一般に増加し促進されるがこれは酵素製造業者による酵素製造と酪農品加工業者によるその使用との間にかなりの期間が経過するからである。ラクターゼ製品中に存在するプロテアーゼも又劣化過程で役割を果す。
除菌濾過器の取替又は清掃のくり返しは濾過工程の効率の著しい妨げとなることは明かである。除菌濾過器の取外しのために濾過工程を停止せねばならないばかりでなく全濾過系の再使用前に全濾過系を新規に滅菌せねばならない。
菌体濾過の問題の解決のための幾つかの方策が多年にわたり企図されたがそれらの努力は望ましい成果に至らなかつたか又は工業上の規模の点で方法の採算化のためには余りに高費であつた。段階的濾過法即ち順次減少の孔径をもつ複数の膜濾過器の系の助けによる濾過法が試みられたけれどもこれらの濾過器も又比較的短時間の後に詰つてしまうことが判つた。除菌濾過器を通過させる前に酵素溶液を遠心分離処理することが提案されたけれどもこの方法も同じく最適結果を与えずしかもかなり高費用を要した。その他の幾つかの回収方法、例えば酵素溶液を更に清澄化させる方法も又濾過器閉塞問題の解決に至らなかつた。
問題点を解決するための手段
上記の濾過の問題は、酵素産生菌の発酵及び常法による酵素の回収及び純化並びに任意に該酵素を溶液中で滅菌保存した直後であつて該酵素を乳へ添加する以前に該酵素を無菌化することにより克服し得ることが今や本発明によつて見出された。
即ち本発明は発酵法により産生されたラクトース分解酵素の溶液の回収及び純化後に、但し除菌濾過器を閉塞させるに充分な劣化生成物の形成前に、該ラクトース分解酵素溶液を除菌濾過によつて無菌化することを特徴とするラクトース分解酵素の無菌溶液の製造方法を提供する。」(第4欄7行?45行)

(2e)「上記の除菌濾過による酵素溶液の除菌前に、又は除菌後に1種又は複数種の溶剤又は他の添加物を、例えば酵素活性を所望のレベルに保つため及び酵素を更に安定化するために、添加してもよい。適切な溶剤は例えばソルビトール及びグリセロールである。酵素安定化用の適切な添加物は例えば加水分解されたラクトース、グルコース、マニトール及び塩緩衝剤である。又添加物は乳及び乳製品を更に甘くするために添加される。かような添加物は例えばインベルターゼであるがこれは添加されてよいし或は既にこれは酵素溶液中に存在しているものである。該添加を好ましくは除菌後に行う。添加用化合物は予め滅菌されていることは勿論である。酵素の安定化に同時に資する好適溶剤はグリセロールである。最終的なグリセロール:水の比は臨界的でないけれども好ましくは1:9?4:1(容積比)及び特に好ましくは1:3?1:1である。
本発明の例示となる好適態様において、ラクターゼ含有水性発酵産物を自己消化に付してから好ましくは濾過器の助けによつて濾過する。必要ならば液を活性炭で処理し、菌減少濾過器〔いわゆるポリシユ フイルタ(polish filter)〕を通過させてこの溶液を減菌化する。次に限外濾過して酵素を濃厚化し、その後にグリセロールを添加する(約50重量%)。かようにして得られた溶液を再び菌減少濾過器(ザイツ スプラEKS床)へ通過させ、更に直列において除菌濾過器(孔径0.22μmを有する膜濾過器)へ通過させる。最後にこの溶液を滅菌容器中へ送給して直ちに密封する。
他の適切な態様においては前記同様にして自己消化、濾過、ポリシユ(菌減少)濾過及び限外濾過を行つた後に約20重量%のグリセロールを液へ加える。得られた溶液を次に菌減少濾過器へ通し、その後に除菌濾過器へ通す。次いで滅菌されたグリセロールを用いて所要の濃度(約1:1)に調整し、滅菌条件下に包装する。
好適態様において上記の予備濾過工程及び除菌濾過工程の後に50重量%のグリセロールを加えた。上記方法に関して後者の方法の利点は除菌濾過前の溶液の粘稠性が少く、従つて濾過がより速かであることにある。
更に、本発明の方法により製造されたラクトース分解酵素の無菌溶液を、ラクトース低含有の乳及び乳製品(これはより甘い製品を意味する)の製造に用いることができる。」(第5欄21行?第6欄11行)」

(2f)「例 1
ラクターゼ含有溶液の除菌濾過
ラクターゼ含有のギスト-ブロカデス(Gist-Brocades)社の市販水性発酵製品である回収及び純化後14日以内の登録商標名マキシラクト(MaxilactR)をザイツK5(SEITZ K5)、ザイツEK(SEITZ EK)及びミリポアRAWP(MILLIPORE RAWP)(孔径1.2μm)の床により予備濾過した。最終濾過のためにこの溶液をミリポアGSWP膜濾過器(孔径0.22μm)へ通過させてから滅菌壜の中へ集めた。次にこの溶液に滅菌されたグリセロールを加えて所要濃度に調整した。グリセロール濃度(及び活性)の異る4本の壜の除菌度を下表に示す。」(第6欄26行?37行)

第3 対比・判断
刊行物1には、「バチルス属に属する新ラクターゼ生産菌を培地に培養し、新ラクターゼを培地中に生産蓄積せしめ、これを採取することを特徴とする新ラクターゼの製造法」であって(1a)、新ラクターゼ生産菌を培地に培養した後、得られた培養液を濾過除菌後、0.53飽和の硫安塩析し、得られた粗酵素粉末を透析膜を使い、0.01Mトリス-塩酸緩衝液(pH8.3)で透析し、DEAEセフアデツクスA-25に吸着させ、0.35M塩化カリウムで溶出させ、溶出したONPG活性分画をさらにDEAEセフアデツクスA-50に吸着、溶離させたこと(1e)が、記載されている。
そうすると、刊行物1の上記記載事項(特に上記(1a,1e))から、刊行物1には、
「バチルス属に属する新ラクターゼ生産菌を培地に培養し、新ラクターゼを培地中に生産蓄積せしめ、得られた培養液を濾過除菌後、0.53飽和の硫安塩析し、得られた粗酵素粉末を透析膜を使い、0.01Mトリス-塩酸緩衝液(pH8.3)で透析し、DEAEセフアデツクスA-25に吸着させ、0.35M塩化カリウムで溶出させ、溶出したONPG活性分画をさらにDEAEセフアデツクスA-50に吸着、溶離させたラクターゼ液の製造法」
の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。

(ア)刊行物1には、「DEAEセフアデツクスA-50カラムクロマトグラフイー」と記載されており(1e)、刊行物1発明の「DEAEセフアデツクスA-25」及び「DEAEセフアデツクスA-50」はクロマトグラフィーの一種である。
そして、刊行物1発明の「バチルス属に属する新ラクターゼ生産菌を培地に培養し、新ラクターゼを培地中に生産蓄積せしめ、得られた培養液」は、濾過除菌やクロマトグラフィー処理を行っていないものであることから、本願発明の「ラクターゼ未処理液」に相当する。

(イ)本願発明の「ラクターゼの未処理液に存在する多糖類及びオリゴ糖類が、前記ラクターゼ液から分離され」ることについて、本願の明細書の段落【0006】には「クロマトグラフィーの使用によって、滅菌フィルターを詰まらせるかもしれない全て(多糖類、オリゴ糖類、タンパク質、ペプチド等)の化合物を除去できる。」と記載されていることなどから、ラクターゼの未処理液に存在する多糖類やオリゴ糖類は、クロマトグラフィーの使用によって分離されるものである。
そうすると、刊行物1発明の「得られた培養液を濾過除菌後、0.53飽和の硫安塩析し、得られた粗酵素粉末を透析膜を使い、0.01Mトリス-塩酸緩衝液(pH8.3)で透析し、DEAEセフアデツクスA-25に吸着させ、0.35M塩化カリウムで溶出させ、溶出したONPG活性分画をさらにDEAEセフアデツクスA-50に吸着、溶離させ」ることは、培養液をクロマトグラフィーによって精製しラクターゼ液を得ているといえる(1c,1d)ので、本願発明の「ラクターゼの未処理液に存在する多糖類及びオリゴ糖類が、前記ラクターゼ液から分離され」ラクターゼ液を得ることは、ラクターゼ未処理液をクロマトグラフィーによって精製してラクターゼ液を得る点で共通する。

しがっって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)
「ラクターゼ未処理液をクロマトグラフィーによって精製して得るラクターゼ液の製造方法」

(相違点1)本願発明では「ラクターゼの未処理液に存在する多糖類及びオリゴ糖類が、前記ラクターゼ液から分離され」るのに対し、刊行物1発明では、本願の明細書でそのための手段として記載されているクロマトグラフィーによって精製しているものの、多糖類及びオリゴ糖類の分離については特に規定していない点。

(相違点2)クロマトグラフィーによって精製して得られたラクターゼ液に、本願発明では「10?70質量/質量%のグリセロールが添加される」のに対し、刊行物1発明ではグリセロールが添加されることについては特に規定していない点。

(相違点3)製造されたラクターゼ液が、本願発明では「100mPa未満の粘度」を有するのに対し、刊行物1発明では粘度については特に規定していない点。

そこで、上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
刊行物1には、多糖類及びオリゴ糖類が分離されることについては特に記載されていないが、ラクターゼ生産菌を培養して得られた培養液をクロマトグラフィーで精製する過程においては、当然にラクターゼ以外のものを分離しようとするものであり、また、その精製を、そのための精製方法として本願明細書に記載されたクロマトグラフィーによって行っていることを考えれば、多糖類やオリゴ糖類が分離されるものといえる。
そうすると、刊行物1発明のラクターゼ液は、クロマトグラフィーを使用して精製されるものであることから、存在する多糖類及びオリゴ糖類が実質的に分離されるものといえ、相違点は、実質的なものではない。

(相違点2について)
刊行物2には、ラクトース分解酵素であるラクターゼの溶液(2a,2b,2f)に、酵素活性を所望のレベルに保つため、グリセロールを添加することが記載され(2a,2e)、より具体的には「酵素の安定化に同時に資する好適溶剤はグリセロールである。最終的なグリセロール:水の比は臨界的でないけれども好ましくは1:9?4:1(容積比)及び特に好ましくは1:3?1:1である。」(2e)こと、また、好適態様としては、約50重量%(2a,2e)あるいは約20重量%加えること(2e)が記載されている。
そうすると、刊行物1発明において、酵素活性を所望のレベルに保つことを考えて、クロマトグラフィーにより精製したラクターゼ液に、グリセロールを、酵素の安定化に資する程度の適切な量として10?70質量/質量%程度添加することは、刊行物2に記載された発明を参照して、当業者が適宜になし得たことである。

(相違点3について)
刊行物1発明のラクターゼ液は、クロマトグラフィーを使用して精製することにより実質的に多糖類及びオリゴ糖類が分離されたものであり、また、その粘性は、本願明細書の段落【0007】に好適な方法として記載された陰イオン交換樹脂(DEAEセフアデツクス)を用いて精製されたものであるから、本願発明の製造方法におけるクロマトグラフィーによって精製された、グリセロールを添加する前のラクターゼ液と同程度のものと解される。
そして、さらにこれに、刊行物2に記載された発明を参照して酵素活性を所望のレベルに保つことを考え、酵素の安定化に資する程度の適切な量のグリセロールを添加した際、得られたラクターゼ液は、本願発明の製造方法により得られたラクターゼ液と同程度のグリセロールを含むものであることから、その粘度も、本願発明の製造方法によって得られたラクターゼ液と同程度、例えば100mP未満のものとなるといえる。
そうすると、相違点3については、引用例1発明のラクターゼ液に、引用例2の記載事項を参照して、酵素活性を所望のレベルに保つことを考え、グリセロールを添加する工程を付加すれば、満たすことになるであろう数値範囲を特定したにすぎず、この特定により、本願発明が引用例1及び引用例2に記載された発明から容易に想到し得ないものとなるとはいえない。

(本願発明の効果について)
刊行物1発明がラクターゼ液が、クロマトグラフィーを使用して精製することにより実質的に多糖類及びオリゴ糖類が分離されたものであることを考えれば、多糖類及びオリゴ糖類の除去によってラクターゼ液の簡易な濾過滅菌を可能にし、フィルターが多糖類及びオリゴ糖類で塞がれなくなる、などの本願発明の効果は、刊行物1及び2の記載事項から当業者が予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は、拒絶をすべきものである。
 
審理終結日 2012-09-10 
結審通知日 2012-09-11 
審決日 2012-09-28 
出願番号 特願2008-295983(P2008-295983)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊達 利奈  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 鵜飼 健
菅野 智子
発明の名称 精製ラクターゼ  
代理人 野田 雅一  
代理人 池田 正人  
代理人 山田 行一  
代理人 清水 義憲  
代理人 城戸 博兒  
代理人 池田 成人  
代理人 木元 克輔  

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