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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10M |
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管理番号 | 1270073 |
審判番号 | 不服2010-21431 |
総通号数 | 160 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-09-24 |
確定日 | 2013-02-13 |
事件の表示 | 特願2003-556485「封止要素のための自己潤滑ポリマー材料を製造する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年7月10日国際公開、WO2003/055964、平成17年5月12日国内公表、特表2005-513256〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成14年12月30日(パリ条約による優先権主張 2001年12月28日 イタリア)を国際出願日とする特許出願であって、平成17年12月22日に手続補正書が提出され、平成21年3月4日付けで拒絶理由が通知され、同年9月7日に意見書及び手続補正書が提出され、平成22年5月21日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同年9月24日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年12月2日付けで前置審査の結果が報告され、当審において、平成23年11月4日付けで審尋されたが、それに対する回答がなかったものである。 2.本願発明 本願の請求項1?7に係る発明は、平成22年9月24日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は以下のとおりである。 「潤滑剤を含む複数のマイクロカプセルが混入されたポリマーマトリクスから構成される自己潤滑ポリマー材料を製造する方法において、 ポリマー材料を極低温まで冷却して、もろい凍結ポリマー材料を生成する工程と、 前記もろいポリマー材料を粉砕して、超微細ポリマー粉末を生成する工程と、 潤滑流体を含む複数のマイクロカプセルを前記超微細ポリマー粉末に添加して、潤滑マイクロカプセルを含むポリマー混合物を生成する工程と、 マイクロカプセルを含むポリマー混合物を成形する工程とから成る方法。」 3.原査定の拒絶理由の概要 原査定の拒絶の理由は、平成21年3月4日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、すなわち「本願に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」というものであり、併せて以下の文献が引用されている。 1.英国特許出願公開第2013793号明細書 2.特開昭56-70126号公報 3.特開平8-188712号公報 4.特開昭62-10166号公報 5.特開平4-258663号公報 6.特開平3-239756号公報 7.特開平7-62184号公報 そして、拒絶査定には、「備考」として次の点が付記されている。 「先の拒絶理由通知書で引用した刊行物1,2には、潤滑剤をマイクロカプセル化し、プラスチック材料等の樹脂中に分散してなる摺動部材が記載されている。 そして、先の拒絶理由通知書で引用した刊行物3に記載されているように、摺動部材の製造方法に関して、冷凍粉砕した基材に添加剤を混合して成形する方法は当業者に公知であるから、刊行物1,2に記載の摺動部材を、刊行物3に記載の方法で製造することに、格別の困難性は存在しない。 さらに、摺動部材の樹脂としてPEEKは当業者に周知であるし、また、潤滑剤の粘度等は、用途等に応じて、当業者が適宜定めるものである。 特許出願人は、意見書において、「引用文献3に記載の発明は、冷凍粉砕したナイロン12等にフェライトや酸化防止剤を混合させるものであり、潤滑剤を含むマイクロカプセルを混合させるものではありません。」旨主張する。 しかしながら、刊行物3に記載されているように、基材と添加剤を混合するために、基剤を冷凍粉砕し、添加剤を混合して成形する手法は公知であり、刊行物1,2に記載の基剤とマイクロカプセルの混合物を、刊行物3に記載の方法で製造することは、当業者ならば容易に想到し得ることである。 よって、請求項1-10に係る発明は、依然として先の拒絶理由1が解消していない。」 4.当審の判断 (1)引用文献 刊行物1:英国特許出願公開第2013793号明細書(原査定における引用文献1) 刊行物2:特開平8-188712号公報(同引用文献3) (2)引用刊行物の記載事項 ア.刊行物1 摘示1a.「1.以下からなる軸受シール:シール材本体;該シール材本体の少なくとも擦過接触領域に存在する多数の易破壊性マイクロカプセル;及び前記マイクロカプセル中に保持され、摩耗し破壊されたマイクロカプセルから放出され、放出後に該シール材本体の擦過接触面に散布される潤滑剤。 2.前記潤滑剤が液体潤滑剤である、クレーム1の軸受シール。 …… 5.シール材本体がエラストマー材料である、クレーム1の軸受シール。 6.マイクロカプセルがシール材本体全体に分散されている、クレーム1の軸受シール。 ……」(2頁右欄75行以降のクレーム) 摘示1b.「我々の新規軸受は、相互移動可能な第1及び第2の軸受レース部材からなり、該部材間の空間を密封するために配置される1つ以上のシールを有する。1つの又は各軸受レースは例えば軸のような機械要素であってよい。該シールは、個々の微小な潤滑性粒子を保持している好ましくはエラストマー性のシール体を含んでおり、当該微粒子はカプセル形成壁でカプセル化された潤滑剤を含んでいる。後者は、潤滑剤充填マイクロカプセルとして知られている。該マイクロカプセルは、該シール体全体にわたって分散されるか、あるいは該シール体の特定区画中に分散されるか、該シールの特定表面上に被覆又は結合されるかもしれない。固着部材(恐らく金属か硬質プラスチック)は、該シール体に組み込まれるか、結合されるか、あるいは機械的に固定されるかもしれない。 新規シールは、擦過により摩滅されるように及び/又はカプセルに圧力をかけると壊れるように構成された多くの易破壊性のマイクロカプセルを含んでいる。潤滑剤は、個々の破壊マイクロカプセルから露出し放出され、そして、放出後にシールとレースとの対向擦過接触面間へ散布されるために、該マイクロカプセル中に保持される。シール体材料は該マイクロカプセルを維持している。一つのシール中に組み込まれた何万ものマイクロカプセルが存在するかもしれない。 潤滑剤は好ましくは石油のような液体潤滑剤であるが、固体乾燥潤滑剤であってもよい。シールと対向摺動面との間で生じる摩擦は、シールリップ摺動面としての第1のマイクロカプセルの壁を磨耗させ、シールとレースの摺動接触領域を覆うために微少量の潤滑剤が露出し、放出されるであろう。この潤滑剤はシールリップ摺動面の摩擦を低減する。軸受が作動し続ければ、露出潤滑剤は徐々に消散されていく。潤滑剤が消散すると再び摩擦の僅かな増加が生じ、他のマイクロカプセルの壁を徐々に磨耗させ、摩擦を再び減少させるのに必要な更なる潤滑剤が放出される。そうして、シールが作動している間、潤滑剤が徐々に放出される。潤滑剤ゆえに、シーリングリップに接触する軸受表面の磨耗はほとんどない。シーリングリップ自体の磨耗は低減される。発生する摩擦熱もほとんどなく、それから惹起される軸受又はシール潤滑剤に対する熱損傷もない。シールと軸受の両方の寿命は格段に伸びる。」(1頁左欄65行?右欄120行) 摘示1c.「2以上の異なるマイクロカプセル化潤滑剤が一つのシール中に配置されてもよい。マイクロカプセル中には複数の液体又は複数の固体、或いは液体と固体の組合せが存在してもよい。このように、シールのために潤滑剤の組合せを使用してもよく、その場合、たった一つの潤滑剤を有するシールに比して非常に広範囲の化学的、熱的及び機械的条件の下でシールが適切に作動するものとなる。我々は、同じシール中にマイクロカプセル化潤滑剤とテトラフルオロエチレン粉末のような非カプセル化固体潤滑剤との組合せを使用してもよい。マイクロカプセルは、米国特許2,800,488;3,516,941;及び3,993,831に示されるような固体連続壁を有するかもしれない。固体連続壁は、一般的には潤滑剤を通さず、該壁が摩滅するか破壊されるまで、潤滑剤の透過を完全に妨げる。もし望むなら、その代わりに又はそれに加えて、該壁を貫く細い通路(カプセル壁厚の大半を摩滅したり破壊することなく該通路を通って液体潤滑剤が徐々に浸み出すことができる)を有するマイクロカプセルを使ってもよい。細い通路を有するマイクロカプセルは米国特許3,985,840に記述されている。」(2頁左欄7?34行) 摘示1d.「シール体のエラストマー材料はゴムや軟質ウレタンのような非常に柔軟なものであってよい。それは熱可塑性又は熱硬化性樹脂類のいずれかのより硬質な材料でもありうる。」(2頁左欄35?39行) 摘示1e.「通常は、マイクロカプセル化潤滑剤はシール本体材料の全体にわたって分散されるが、リップシールの可撓性リップとか面シールの擦過面領域とか軸パッキンのスクレイピングリップのようにシールの局所領域中でのみ分散させることも現実的である。二重射出成形法や二重押出成形法はこれを実施する周知の手法である。個々の部材(それらのうち少なくとも一つはマイクロカプセル化潤滑剤を含んでいる)は、少なくとも化学的及び機械的な結合や溶着などの周知の手法によって相互に固着されてもよい。」(2頁左欄40?53行) イ.刊行物2 摘示2a.「少なくとも10個の炭素原子を有するω-アミノカルボン酸又はラクタムから誘導されるポリアミド又はポリエーテル成分を分子中に有するそれらの共重合体から選ばれた1種類以上のポリアミド樹脂55?80重量%と、金属粉45?20重量%とよりなる樹脂組成物100重量部に対し、可塑剤を0?30重量部を配合した摺動部材用ポリアミド樹脂組成物。」(特許請求の範囲の請求項1) 摘示2b.「本発明の組成物の製法は金属粉に上記ポリアミドを溶融混合する方法であり、通常一軸又は二軸押出機を用いて混合される。また、ニーダーを用いて混練することもできる。このときに少量の滑剤を用いることも可能である。具体的には、ポリアミドの粒状体或いは粉末状のものと金属粉を混合したものを押出機ホッパーに投入して加熱溶融混合して造粒する方法、……等がある。」(段落0015) 摘示2c.「【実施例】次に本発明を実施例にもとづき説明する。 実施例1?3 表1に示した割合で配合したダイセル・ヒュルス(株)製ナイロン12「ダイアミドL1640」及びポリアミドエラストマー「ダイアミドE55」計60重量%を冷凍粉砕し、戸田工業(株)製フェライト「FM206」40重量%、チバ・ガイギー製酸化防止剤「イルガノックス1010」をポリマー/フェライト100重量部に対して0.3重量部の割合で混合し、混練押出した。その際ポリマー/フェライト100重量部に対し可塑剤p-ヒドロキシ安息香酸2-エチルヘキシル(POBO)を11.3重量部添加した。ペレット化して充分に乾燥した後、各種試験片に成形した。 …… 実施例4?7 ダイセル・ヒュルス(株)製ポリアミドエラストマー「ダイアミドE50」、「ダイアミドE47」「ダイアミドE40」を冷凍粉砕した。戸田工業(株)製フェライト「KNS415」40重量部に対しシランカップリング剤A-1100 0.2重量部をメタノールで希釈し加えよく混合した後加熱してメタノールを留去した。このように処理したフェライト40.2重量部と上記の粉砕した各ポリアミドエラストマー60重量部を混合し押出した。ペレット化し乾燥後、各種試験片に成形した。」(段落0019?0022) (3)刊行物1に記載された発明 刊行物1には、摘示1aのクレーム1に、「以下からなる軸受シール:シール材本体;該シール材本体の少なくとも擦過接触領域に存在する多数の易破壊性マイクロカプセル;及び前記マイクロカプセル中に保持され、摩耗し破壊されたマイクロカプセルから放出され、放出後に該シール材本体の擦過接触面に散布される潤滑剤。」の発明が記載され、同クレーム2には、「潤滑剤が液体潤滑剤である」こと、また、同クレーム5には、「シール材本体がエラストマー材料である」こと、さらに、同クレーム6に、「マイクロカプセルがシール材本体全体に分散されている」ことが記載されており、そして、摘示1b?1dにその詳細が開示されていることからみて、「多数の易破壊性マイクロカプセルがエラストマー材料からなるシール材本体全体に分散されており、該マイクロカプセル中に潤滑剤を保持している、軸受シール」が記載されているといえる。 また、刊行物1には、マイクロカプセル化潤滑剤をシールの局所領域中でのみ分散させる場合に、二重射出成形法や二重押出成形法が使用されることが記載されている(摘示1e参照)ことからみて、当該軸受シールは射出成形や押出成形で製造されるものであることは自明である。 そうすると、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものといえる。 「多数の易破壊性マイクロカプセルがエラストマー材料からなるシール材本体全体に分散されており、該マイクロカプセル中に液体潤滑剤を保持している、軸受シールを射出成形又は押出成形で製造する方法」 (4)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 引用発明の「易破壊性マイクロカプセル」は本願発明1の「マイクロカプセル」又は「潤滑マイクロカプセル」に、引用発明の「液体潤滑剤」は本願発明1の「潤滑剤」又は「潤滑流体」に該当する。 また、引用発明の「エラストマー材料からなるシール材本体」は、エラストマー材料がポリマーであることは自明のこと(摘示1dも参照)であるから、本願発明1の「ポリマーマトリクス」に該当するものといえる。 さらに、引用発明の「軸受シール」は、「シール材本体」、「該シール材本体全体に分散されている多数の易破壊性マイクロカプセル」及び「該マイクロカプセル中に保持された液体潤滑剤」からなり、該液体潤滑剤は、摘示1aのクレーム1や摘示1bに記載されているように、「摩耗し破壊されたマイクロカプセルから放出され、放出後に該シール材本体の擦過接触面に散布される」ものであるから、「自己潤滑性」であるといえ、そして、「軸受シール」を製造するということは、その軸受シールを構成するポリマー材料を製造することにほかならない。 そうすると、本願発明1と引用発明とは、 「潤滑剤を含む複数のマイクロカプセルが混入されたポリマーマトリクスから構成される自己潤滑ポリマー材料を製造する方法」 の点で一致し、次の点で相違するものといえる。 相違点: 製造方法について、本願発明1では、 「ポリマー材料を極低温まで冷却して、もろい凍結ポリマー材料を生成する工程と、 前記もろいポリマー材料を粉砕して、超微細ポリマー粉末を生成する工程と、 潤滑流体を含む複数のマイクロカプセルを前記超微細ポリマー粉末に添加して、潤滑マイクロカプセルを含むポリマー混合物を生成する工程と、 マイクロカプセルを含むポリマー混合物を成形する工程とから成る方法」 と特定しているのに対し、引用発明では「射出成形又は押出成形で製造する方法」とのみ規定している点。 (5)相違点に対する判断 上記相違点について検討する。 刊行物2には、「ポリアミド樹脂と金属粉とよりなる摺動部材用ポリアミド樹脂組成物」(摘示2a)の製造方法として、「ポリアミドの粒状体或いは粉末状のものと金属粉を混合したものを押出機ホッパーに投入して加熱溶融混合」する方法(摘示2b)が記載されており、実施例では、ポリアミドを冷凍粉砕したものが使用されている(摘示2c)。すなわち、射出成形や押出成形の原料として冷凍粉砕したポリマーに添加剤を混合したものを使用することはよく知られているところであり、周知技術といえる。 ここで、本願明細書には、上記相違点に係る 「ポリマー材料を極低温まで冷却して、もろい凍結ポリマー材料を生成する工程と、 前記もろいポリマー材料を粉砕して、超微細ポリマー粉末を生成する工程と、 潤滑流体を含む複数のマイクロカプセルを前記超微細ポリマー粉末に添加して、潤滑マイクロカプセルを含むポリマー混合物を生成する工程と、 マイクロカプセルを含むポリマー混合物を成形する工程」 については、その詳細はほとんど何も記載されておらず、そして、本願発明1では凍結粉砕して「超微細ポリマー粉末」を生成しているが、どの程度の超微細粉末であるかは請求項1において何ら特定されていないし、明細書の記載からも明らかではない。さらに、実施例においても、 「PEEKポリマー材料を65?70℃の範囲内の温度で、約8時間の期間にわたり真空窯炉の中で乾燥させた。 先に現場重合によって製造されていた潤滑油を含むマイクロカプセルを10重量%の割合でポリマー粉末に添加した。 次に、ポリマー材料の均一な加熱及び加圧を可能にするために、ポリマー粉末とマイクロカプセルの混合物を密閉成形型を使用して圧縮成形して圧縮成形した。」(段落0054?0056) と記載されるのみであって、「超微細ポリマー粉末」を使用したことさえ明らかにされていない。そうすると、「超微細ポリマー粉末」の点は格別な意味を有するものとは認められない。 このような状況にかんがみると、本願発明1の上記相違点に係る工程は、単に周知の冷凍粉砕ポリマーを使用して射出成形又は押出成形を行ったにすぎないものと認められる。 また、その効果を検討しても、本願明細書には、「General Electricの規格製品である商品名Ultem 1000のポリマー」と「Ultem 1000を母材とし、本発明の方法の一実施例に従って製造された、マイクロカプセルを10重量%の割合で混入された材料」との焼き戻し鋼に対するすべりから収集された「係数K(in^(3)min/ft/lb/hr)×10^(9)としての磨耗係数」及び「μで表される摩擦係数」とにより示される比較摩耗試験の結果しか示されておらず(段落0048?0052及び図1)、これは、「Ultem 1000(商品名)」樹脂に「潤滑油を含むマイクロカプセル」を混入したものとこれを混入しないものとを比較したものにすぎないから、凍結粉砕法により超微細ポリマー粉末を採用したことの効果は不明である。 以上のことからすると、上記相違点自体、格別なものとすることはできないものであり、本願発明1は刊行物1に記載された発明及び周知技術(刊行物2)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 (6)請求人の主張について 請求人は審判請求書の請求の理由において、次の主張をしている。 「引用文献1及び2には、マイクロカプセル化した潤滑材が分散された樹脂からなるシールが開示されている。しかしながら、引用文献1及び2には、ポリマー材料を極低温まで冷却して、もろい凍結ポリマー材料を生成し、粉砕して、超微細ポリマー粉末を生成し、これにマイクロカプセルを添加する構成については、開示も示唆もされていない。そして、このように本願発明の特徴的な構成が欠落する引用文献1及び2に記載の発明では、本願発明の効果を奏することもできない。このように、本願発明の特徴的な構成が開示も示唆もされておらず、本願発明の効果を奏することのできない引用文献1及び2に記載の発明から本願発明に想到することは、いかに当業者であっても困難であると思料する。 引用文献3には、ナイロン12等を冷凍粉砕し、これに他の材料を混合する方法が開示されている。しかしながら、引用文献3に記載の発明は、冷凍粉砕したナイロン12等にフェライトや酸化防止剤を混合させるものであり、潤滑剤を含むマイクロカプセルを混合させるものではない。すなわち、引用文献3には、ポリマー材料を極低温まで冷却して、もろい凍結ポリマー材料を生成し、粉砕して、超微細ポリマー粉末を生成し、これに潤滑剤を含むマイクロカプセルを添加する構成については、開示も示唆もされていない。そして、このように本願発明の特徴的な構成が欠落する引用文献3に記載の発明では、本願発明の効果を奏することもできない。このように、本願発明の特徴的な構成が開示も示唆もされておらず、本願発明の効果を奏することのできない引用文献3に記載の発明から本願発明に想到することは、いかに当業者であっても困難であると思料する。 …… いずれの引用文献も、上述の本願発明の特徴的な構成が欠落する。また、引用文献3は潤滑剤を含むマイクロカプセルを混合させる樹脂組成物に関するものではなく、他の発明と組み合わせることはできず、このような組み合わせは後知恵と思料する。すなわち、引用文献1乃至7に基づき本願発明に想到することは、いかに当業者であっても容易ではないと思料する。」 しかし、刊行物1(引用文献1に相当)に記載されているとおり、ポリマーマトリクス中に潤滑油含有マイクロカプセルを分散させた自己潤滑ポリマー材料は知られており、そのような自己潤滑ポリマー材料が射出成形や押出成形で製造されることも記載されているのであるし、また、刊行物2(引用文献3に相当)に記載されているように、射出成形や押出成形に使用するポリマー材料として凍結粉砕ポリマー粉末は周知技術といえることから、刊行物1に記載された発明における射出成形や押出成形に使用するポリマーマトリクス材料として、周知の凍結粉砕ポリマー粉末を使用し、添加剤(潤滑油含有マイクロカプセルもこれに相当する)を混合した上で、射出成形や押出成形を行い、本願発明1となすことは当業者が容易に想到したことである。 そして、そのことによる有利な効果も明細書に記載されておらず、また請求人は何ら主張していないことにかんがみれば、上記判断は妥当なものといえる。 5.まとめ 上記したとおり、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-08-31 |
結審通知日 | 2012-09-11 |
審決日 | 2012-09-28 |
出願番号 | 特願2003-556485(P2003-556485) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C10M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 安田 周史 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
小石 真弓 星野 紹英 |
発明の名称 | 封止要素のための自己潤滑ポリマー材料を製造する方法 |
代理人 | 荒川 聡志 |
代理人 | 小倉 博 |
代理人 | 黒川 俊久 |