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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1270092
審判番号 不服2011-27620  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-22 
確定日 2013-02-13 
事件の表示 特願2001-258868「カルコゲナイドガラスをベースとしたラマン光増幅器」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月 9日出願公開、特開2002-131792〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年8月29日(パリ条約による優先権主張2000年8月29日、米国、2000年10月12日、米国)の出願であって、平成20年5月29日に手続補正がされ、拒絶理由の通知に応答して意見書が提出されたが、平成23年8月15日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年12月22日に拒絶査定不服審判が請求がされたものである。

第2 本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。) は、平成20年5月29日に補正された本願の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「光入力および出力ポートを有するカルコゲナイドガラス光導波路と、
ポンプ光導波路と、
波長調整可能なポンプレーザとを備え、前記ポンプ光導波路は、前記ポンプレーザを前記カルコゲナイドガラス光導波路に結合し、
前記ポンプレーザは、前記入力ポートから受けた光に対してカルコゲナイドガラス光導波路内でラマン増幅を起こさせるように適合される光増幅器。」

第3 引用例1の記載事項と引用発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の最先の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された特開2000-105395号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の1ないし4の記載が図とともにある。
1 「【請求項1】ピーク波長が異なる2以上の励起光と信号光とをラマン増幅媒体である光ファイバに伝播して、前記信号光をラマン増幅するためのラマン増幅方法において、ピーク波長が短い励起光ほど光パワーを高くすることを特徴とするラマン増幅方法。」

2 「【0010】
【発明の実施の形態】(実施形態1)本発明のラマン増幅方法の実施形態を図1?図4に基づいて詳細に説明する。この実施形態では図1のラマン増幅媒体1に非線形性の高い分散補償ファイバ(DCF)を用い、それに励起光源2から発振される励起光を合波器3を用いて入射し、伝送する。この場合、励起光源2として図2に示す様に4つの励起光源(半導体レーザ)、ファイバブラックグレーティング(FBG)、偏波合成器(PBC)、WDM等から構成される4chWDMLDユニットを使用した。」

3 「【0019】
【発明の効果】本発明の第1のラマン増幅方法では、DCFに入射される2以上の励起光のうちピーク波長が短い励起光ほどパワーを高くし、第2のラマン増幅方法ではDCFに入射される2以上の励起光のうち最短ピーク波長と最長ピーク波長の中心波長よりも短波長の励起光のパワーを高くしたので、いずれの場合も、非線形性の大きい光ファイバを用いても約1500nm?約1600nmの波長多重光をほぼ同じような利得で増幅することができる。言い換えれば、非線形性の高い光ファイバを用いて、短い光ファイバで必要な利得を得ることができる。また、光ファイバ長を短くすることができるので、ユニット化に適したラマン増幅器を提供することもできる。」

4 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のラマン増幅方法を実施化するための構成の一例を示す説明図。」

図1は次のとおりである。



上記2によれば、上記2に記載された「実施形態1」は、上記1に記載されたラマン増幅方法の1つの実施形態であり、上記4によれば、上記2が参照する図1は、該実施形態の構成の例である。

上記3によれば、上記1に記載されたラマン増幅方法は、ラマン増幅器にて実施される。また、図1には、ラマン増幅器として必要な構成要素である高非線形ファイバ1、励起光源2、合波器3及びこれらの構成要素を結ぶ光路を備えたものが記載されている。してみると、図1には、上記1に記載されたラマン増幅方法を実施するラマン増幅器が示されていると解される。

上記2における、非線形性の高い分散補償ファイバ(DCF)であるラマン増幅媒体1は、図1の高非線形ファイバ1に対応する。

上記1に「ラマン増幅媒体である光ファイバ」とあり、上記2に「図1のラマン増幅媒体1に非線形性の高い分散補償ファイバ(DCF)を用い」とあるとおり、図1の高非線形ファイバ1はラマン増幅媒体であるから、信号光が、励起光により、高非線形ファイバ1内でラマン増幅されることは明らかである。

図1からは、上記2に「非線形性の高い分散補償ファイバ(DCF)を用い、それに励起光源2から発振される励起光を合波器3を用いて入射し、伝送する。」とあることに対応して、励起光源2を、合波器3を介して高非線形ファイバ1に結合する励起光用光路が看取できる。

図1からは、信号光(Signal Input)が高非線形ファイバ1に入射し、出力光(Signal Output)が高非線形ファイバ1から合波器3を介して出射することが看取できる。

してみると、上記1ないし4の記載及び図1を含む引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。) が記載されていると認めることができる。
「ピーク波長が異なる2以上の励起光と信号光とをラマン増幅媒体である高非線形ファイバに伝播して、前記信号光をラマン増幅する、ピーク波長が短い励起光ほど光パワーを高くしたラマン増幅方法を実施するラマン増幅器であって、
前記高非線形ファイバ、励起光用光路、励起光源及び合波器を備え、
信号光が前記高非線形ファイバに入射し、出力光が前記合波器3を介して前記高非線形ファイバから出射し、
前記励起光用光路は、前記合波器を介して、前記励起光源を前記高非線形ファイバに結合し、
前記信号光を、前記励起光源の励起光により、前記高非線形ファイバ内でラマン増幅するラマン増幅器。」

第4 引用例2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、優先日前に頒布された刊行物である「Masaki Asobe et al., Third-order nonlinear spectroscopy in As_(2)S_(3) chalcogenide glass fibers,J. Appl. Phys.,Vol.77, No.11,1 June 1995」(以下「引用例2」という。)の5518頁左欄2ないし16行には、次の記載がある。
「Various kinds of third order nonlinear optical materials have been studied in the interest of all-optical switching, pulse compression, and quantum optics appplication. Glass fibers offer the advantage of reduced operating power because of long interaction length, Silica fibers have been extensively studied because of their low-loss characteristics. However, because they demand exceptionally long fiber(>100m) due to their weak nonlinearity, other highly non-linear glasses are needed. Third-harmonic-generation(THG) measurement has revealed that As_(2)S_(3) chalcogenide glass has a χ^((3)) two orders of magnitude higher than that of silica glass. Recently, we observed a very efficient optical Kerr effect in As_(2)S_(3)-based calcogenide glass fibers,and demonstrated efficient all-optical switching using a small-core fiber only a few meters long.」
(訳:多くの3次非線形光学物質が、全光学的スイッチング、パルス圧縮、量子光学応用のために研究されてきた。ガラスファイバーは、長い干渉距離のおかげで、動作パワー減衰の観点で優れている。シリカファイバーは、その低い損失性の故に精力的に研究されてきた。しかし、シリカファイバーは、弱い非線形性の故に特に長いファイバー(100m以上)を必要とするので、他の高非線形性ガラスが求められている。3次共振(THG)測定は、As_(2)S_(3)カルコゲナイドガラスが、シリカガラスに比べて2桁大きいカー係数を有することを明らかにした。最近、我々は、As_(2)S_(3)ベースのカルコゲナイドガラスファイバーで非常に顕著な光学的カー効果を観測し、わずか数mの長さの小径コアファイバーを使った効果的な全光学的スイッチングを提示した。)

第5 対比
引用発明と本願発明とを対比する。
引用発明において、「信号光」が「高非線形ファイバ」に入射する部位及び「出力光」が「高非線形ファイバ」から出射する部位は、本願発明の「光入力および出力ポート」に相当する。

引用発明の「励起光用光路」、「励起光源」及び「ラマン増幅器」は、それぞれ、本願発明の「ポンプ光導波路」、「ポンプレーザ」及び「光増幅器」に相当する。

本願明細書に「【0010】・・・ラマン利得(G)は、カー係数n_(2)と、ポンプ光強度Iとの積に指数関数的に依存する。【0011】n_(2)に対する指数関数的な依存は、多くのカルコゲナイドガラスがシリカガラスよりもはるかに大きいラマン利得を生成することを意味する。これらのカルコゲナイドガラスのn_(2)は、シリカガラスのn_(2)よりもはるかに大きい。・・・」とあるとおり、本願発明の「カルコゲナイドガラス光導波路」は、カー係数が大きい高非線形性のカルコゲナイドガラスからなるから、「高非線形光導波路」といえる。
一方、光ファイバは光導波路の一種であるから、引用発明の「高非線形ファイバ」は、「高非線形光導波路」である。
よって、引用発明の「高非線形ファイバ」と本願発明の「カルコゲナイドガラス光導波路」は、「高非線形光導波路」である点で共通している。
そして、引用発明の「励起光用光路は、合波器を介して、励起光源を高非線形ファイバに結合し」は、「ポンプ光導波路は、ポンプレーザを高非線形光導波路に結合」する点で、本願発明の「ポンプ光導波路は、ポンプレーザをカルコゲナイドガラス光導波路に結合し」と共通している。

引用発明は、「信号光を、励起光源の励起光により、高非線形ファイバ内でラマン増幅する」のであるから、引用発明の「励起光源」は、「光入力ポートから受けた信号光に対して高非線形ファイバ内でラマン増幅を起こさせるように適合され」ていることは明らかである。

してみると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「光入力および出力ポートを有する高非線形性光導波路と、
ポンプ光導波路と、
ポンプレーザとを備え、前記ポンプ光導波路は、前記ポンプレーザを前記高非線形性光導波路に結合し、
前記ポンプレーザは、前記入力ポートから受けた光に対して高非線形性光導波路内でラマン増幅を起こさせるように適合される光増幅器。」

<相違点1>
本願発明の「ポンプレーザ」は「波長調整可能」であるのに対して、引用発明の「ポンプレーザ」(励起光源)は「波長調整可能」ではない点。

<相違点2>
本願発明の「高非線形性光導波路」は「カルコゲナイドガラス光導波路」であるのに対して、引用発明の「高非線形性光導波路」は「カルコゲナイドガラス光導波路」ではない点。

第6 判断
<相違点1>及び<相違点2>について検討する。
1 <相違点1>について
ラマン増幅による光増幅器において、ポンプレーザとして波長調整可能なものを用いることは優先日前に周知である。例えば、以下の各文献の記載を参照されたい。
特開昭64-82584号公報
「2.特許請求の範囲
(1) 励起レーザー光を所定の波長の微弱な連続光と共にラマンセル内に導入し、このラマンセルから出力したレーザー光の前記所定の波長における強度を検出し、この検出した強度が最大になるように前記励起レーザー光の波長を制御し、これによって前記ラマンセルから出力するレーザー光を前記所定の波長に一致させるレーザー光波長同調制御法。」(1頁左下欄3ないし10行)

特開平1-278791号公報
「2.特許請求の範囲
メタン及び水素を夫々ラマン媒体とするラマンセルに、BBQ色素レーザー光を直列的に入射し、発生する誘導ラマン光を利用することを特徴とする可変波長レーザー光源。」(1頁左下欄4ないし8行)
「図中BBQ×1/2とあるのはBBQ色素レーザー4の出力波長を変えた場合の出力パルスのエネルギー(mJ)の分布をレンジ(縦軸)を1/2に縮小して表わしたもの(スペクトル)である。」(2頁左下欄1ないし5行)

特開平9-297329号公報
「【0003】こうしたラマン・レーザー発振装置においては、励起光の波長を変化させることにより、所望の波長のストークス光ならびに反ストークス光を得るようにしている。
【0004】そして、任意の波長の励起光を発生するための励起光源として、一般には波長可変レーザーが用いられており・・・」

よって、引用発明において、本願発明の<相違点1>に係る構成を備えることは、周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

2 <相違点2>について
上記「第3 3」によれば、引用発明は、「非線形性の高い光ファイバを用いて、短い光ファイバで必要な利得を得ることができる。また、光ファイバ長を短くすることができるので、ユニット化に適したラマン増幅器を提供することもできる。」ものである。
一方、上記「第4」の引用例2における「シリカファイバーは、弱い非線形性の故に特に長いファイバー(100m以上)を必要とするので、他の高非線形性ガラスが求められている。3次共振(THG)測定は、As_(2)S_(3)カルコゲナイドガラスが、シリカガラスに比べて2桁大きいカー係数を有することを明らかにした。最近、我々は、As_(2)S_(3)ベースのカルコゲナイドガラスファイバーで非常に顕著な光学的カー効果を観測し、わずか数mの長さの小径コアファイバーを使った効果的な全光学的スイッチングを提示した。」との記載によれば、引用例2には、カー係数が大きいAs_(2)S_(3)カルコゲナイドガラスファイバを用いることにより、光ファイバの非線形性を高くして光ファイバ長を短くできるという技術が開示されているものと認められる。
してみると、引用発明において、高非線形性ファイバとして、光ファイバ長を短くできる点を考慮して、引用例2記載のAs_(2)S_(3)カルコゲナイドガラスファイバを用いて、本願発明の<相違点2>に係る構成を備えることは、引用例2に開示された技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

3 まとめ
上記1及び2によれば、引用発明において、本願発明の<相違点1>及び<相違点2>に係る構成を備えることは、周知技術及び引用例2に開示された技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。
また、かかる構成を採用することにより、当業者が予測し得る域を超える格別顕著な効果が奏されるものとは認められない。

4 請求人の主張について
請求人は、審判請求書の請求の理由の「3.本願発明が特許されるべき理由 2)引用文献1及び2の組み合わせについて a)合理的な成功の可能性がない」において、次のとおり主張する。
「平成22年12月17日付けの意見書において主張したように、引用文献2は、As_(2)S_(3)カルコゲナイドガラスファイバが、使用可能なファイバ長を数メートルに制限する伝送損失を有することを開示する(例えば、引用文献2の第5518頁右欄第2段落参照)。対照的に、引用文献1は、引用文献2における上限長よりも3桁異なるより長い、即ち、数キロメートルである増幅器ファイバを開示する(例えば、引用文献1の[0003]及び[0011]参照)。
従って、引用文献2は、引用文献1のキロメートル長のガラス増幅ファイバをカルコゲナイドガラスファイバで置き換えたとすると、光損失が非常に高くなるということを当業者に示唆することになる。即ち、引用文献1及び2は、光増幅ファイバとしてカルコゲナイドガラスファイバを用いることの
特定の困難性を示唆する。特に、引用文献1は、光増幅器が長い光ファイバを用いることを示唆し、そして引用文献2は、当該長いファイバは、カルコゲナイドガラスでこれを製造した際には、非常に高い損失を有することを示唆する。」

しかし、引用発明は、ラマン増幅器に係るものであるところ、引用文献2(引用例2)の「最近、我々は、As_(2)S_(3)ベースのカルコゲナイドガラスファイバーで非常に顕著な光学的カー効果を観測し、わずか数mの長さの小径コアファイバーを使った効果的な全光学的スイッチングを提示した。」との記載及び請求人が指摘する記載は、ラマン増幅器ではなく全光学的スイッチングについていうものであることから、請求人の上記主張は、上記2の判断を左右するものではない。

第7 むすび
したがって、本願発明は、引用発明、周知技術及び引用例2に開示された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-19 
結審通知日 2012-09-20 
審決日 2012-10-03 
出願番号 特願2001-258868(P2001-258868)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 貴一  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 松川 直樹
北川 創
発明の名称 カルコゲナイドガラスをベースとしたラマン光増幅器  
代理人 岡部 讓  
代理人 吉澤 弘司  
代理人 岡部 正夫  

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