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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C10J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10J
管理番号 1270150
審判番号 不服2010-22631  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-07 
確定日 2013-02-14 
事件の表示 特願2004-180122「バイオマス炭化・ガス化システムおよび炭化・ガス化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 1月 5日出願公開、特開2006- 2042〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
この出願は,平成16年6月17日の出願であって,平成22年3月11日付けの拒絶理由通知に対して同年5月17日に意見書及び手続補正書が提出され,その後,同年6月29日付けで拒絶査定がなされたのに対して,同年10月7日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され,平成24年5月10日付けの審尋に対して同年7月17日に回答書が提出されたものである。

第2 平成22年10月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成22年10月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成22年10月7日付け手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2である,
「【請求項1】
バイオマス燃料を熱分解して炭化しさらにガス化するバイオマス炭化・ガス化システムにおいて,木質系バイオマス,都市ゴミ等の廃棄物系バイオマスおよびこれらの混合バイオマス等のバイオマス燃料を加熱して炭化物を生成する炭化装置と,この炭化物をガス化する高温ガス化部および炭化物生成時に揮発したタールを含む可燃性熱分解ガスの改質を行うガス改質部からなる2段式のガス化炉と,前記炭化物を前記ガス化炉の高温ガス化部に供給する炭化物供給手段と,前記炭化装置で生成された可燃性熱分解ガスを前記ガス化炉のガス改質部に送り込むための熱分解ガス流路と,前記高温ガス化部で1500℃以上の高温ガスが発生するように前記高温ガス化部に酸素を含んだガス化剤を供給するとともに前記ガス化炉の出口温度が1100℃未満になる場合またはそのおそれがある場合には前記ガス改質部に酸素を含んだガス化剤を供給するガス化剤供給手段とを備えることを特徴とするバイオマス炭化・ガス化システム。
【請求項2】
前記ガス化炉から供給された生成ガスを利用して発電するとともに作動時に排熱を伴う発電装置から排出されるシステム排熱を前記炭化装置の熱源として利用することを特徴とする請求項1記載のバイオマス炭化・ガス化システム。」
を,
「【請求項1】
バイオマス燃料を熱分解して炭化しさらにガス化するバイオマス炭化・ガス化システムにおいて,木質系バイオマス,都市ゴミ等の廃棄物系バイオマスおよびこれらの混合バイオマス等のバイオマス燃料を間接的に加熱して炭化物を生成する炭化装置と,この炭化物をガス化する高温ガス化部および炭化物生成時に揮発したタールを含む可燃性熱分解ガスの改質を行うガス改質部からなる2段式のガス化炉と,前記炭化物を前記ガス化炉の高温ガス化部に供給する炭化物供給手段と,前記炭化装置で生成された可燃性熱分解ガスを前記ガス化炉のガス改質部に送り込むための熱分解ガス流路と,前記高温ガス化部で1500℃以上の高温ガスが発生するように前記高温ガス化部に酸素を含んだガス化剤を供給するとともに前記ガス化炉の出口温度が1100℃未満になる場合またはそのおそれがある場合には前記ガス改質部に酸素を含んだガス化剤を供給するガス化剤供給手段とを備え,前記ガス化炉から供給された生成ガスを利用して発電するとともに作動時に排熱を伴う発電装置から排出されるシステム排熱を前記炭化装置の熱源として利用することを特徴とするバイオマス炭化・ガス化システム。」
とする補正を含むものである。

2.補正の目的
上記補正の前後の請求項を対比すると,補正後の請求項1は,補正前の請求項1を同2の内容を組み込むことによって限定し,さらに,「バイオマス燃料を加熱して」を「バイオマス燃料を間接的に加熱して」と,『間接的に』なる文言を追加することによって限定するものであり,補正前の請求項1及び2に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決すべき課題が同一であるから,補正前の請求項1及び2を補正後の請求項1とする上記補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号にいう特許請求の範囲の減縮を目的とするとともに,併せて同項第1号にいう請求項の削除をしたものと解される。

3.独立特許要件の検討
そこで,本件補正後における請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下,「本件補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討すると,以下の理由により本件補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく,前記請求項1についての補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。

理由:本件補正発明は,その出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明及び周知技術から,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1)刊行物及び周知技術を示す文献
ア.刊行物
1.特開2003-65511号公報(原査定における「引用文献2」。以下,「刊行物1」という。)
2.特開2004-41848号公報(原査定における「引用文献3」。以下,「刊行物2」という。)

イ.周知技術を示す文献
3.特開2003-243019号公報(以下,「周知例1」という。)
4.特開2003-253274号公報(以下,「周知例2」という。)

(2)刊行物及び周知例に記載された事項
(ア)刊行物1について
上記刊行物1には,以下の事項が記載されている。(なお,以下,刊行物の摘示にあたり,丸数字については「(1)」のように表現する。)

1a
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 廃棄物の熱分解物のうち,灰分を含む熱分解残査を投入する溶融ガス化部と,灰分を含まない熱分解ガス及び熱分解オイルを投入するガス改質部とを組み合わせた廃棄物のガス化処理装置であって,溶融ガス化部の反応時間を2秒未満とし,ガス改質部の反応時間を2?4秒としたことを特徴とする廃棄物のガス化処理装置。
【請求項2】 溶融ガス化部の反応温度を1200?1600℃とし,ガス改質部の反応温度を800?1200℃とした請求項1記載の廃棄物のガス化処理装置。」
1b
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,都市ごみ等の廃棄物を熱処理して灰分を溶融スラグ化するとともに,有機分を可燃ガスとして回収する廃棄物のガス化処理装置に関するものである。」
1c
「【0004】ガス化処理装置3の炉内はこれらの熱分解物を酸素と部分燃焼させることによって,1400?2000℃の高温場を形成する。投入された熱分解物中の灰分は溶融スラグとなり,炉下部から排出される。一方,熱分解物中の有機分は下記の(1)?(6)の反応により最終的にCO,H_(2),CO_(2),H_(2)Oに変換され,CO,H_(2)を主成分とする可燃ガスとなる。なお,下式中のCxHyは熱分解ガス及び熱分解オイルである。これらの反応に必要な反応時間(滞留時間)は3?4秒程度である。
【0005】
・熱分解残査→ 溶融スラグ(灰分)+C(有機分) ・・・・・・(1)
・C+O_(2) =CO_(2) ・・・・・・(2)
・C+CO_(2) =2CO ・・・・・・(3)
・C+H_(2)O =H_(2)+CO ・・・・・・(4)
・CxHy+(x+y/4)O_(2)=xCO_(2)+y/2・H_(2)O ・・・・・・(5)
・CxHy+xH_(2)O=(x+y/2)H_(2)+xCO ・・・・・・(6)」
1d
「【0006】このように従来は,熱分解残査,熱分解ガス,熱分解オイルの全てを,1400℃以上に加熱していた。しかし,灰分を溶融スラグ化するにはこのような高温が必要であるが,熱分解ガス及び熱分解オイルの改質には800?1200℃の温度で十分であることが判明した。すなわち,従来は灰分の処理に必要な温度まで全ての熱分解物を加熱していたために余分な熱量を消費していたのであり,酸素消費量が多くなってガス化効率を低下させていたこととなる。」
1e
「【0011】
【発明の実施の形態】以下に本発明の好ましい実施形態を示す。図1において10は本発明の実施形態のガス化処理装置であって,溶融ガス化部11とガス改質部12とからなり,それらの下部を連結部13により連結した構造を有するものである。従来と同様に廃棄物は熱分解炉1で灰分を含む熱分解残査と,灰分を含まない熱分解ガス及び熱分解オイルとに熱分解され,熱分解残査は粉砕器2で粉砕されたうえで,溶融ガス化部11に投入される。一方,熱分解ガス及び熱分解オイルはガス改質部12に投入される。
【0012】溶融ガス化部11の反応温度は1200?1600℃とされ,ガス改質部12の反応温度はこれより低温の800?1200℃とされる。溶融ガス化部11の熱源は熱分解残査中の有機分と酸素との燃焼反応((2))であり,ガス改質部12の熱源は熱分解ガスと酸素との燃焼反応((5))及び溶融ガス化部11からのガス顕熱である。
【0013】このガス化処理装置10では,溶融ガス化部11の反応時間(滞留時間)を2秒未満(1秒以上)とし,ガス改質部12の反応時間(滞留時間)を2?4秒としてある。その理由は,段落0005に示した反応式のうち,溶融ガス化部11では主として(1)と(2)の反応が進行するが,これらの反応は酸素との反応であるために2秒未満で完了するのに対して,主としてガス改質部12で進行する(3)?(6)の反応は2?4秒を要するためである。このため本発明では高温の溶融ガス化部11をガス改質部12に比較して小型化することができる。
【0014】溶融ガス化部11は灰分を溶融スラグ化するために1200?1600℃の高温が必要となる。このためその炉壁は水冷による強制冷却構造とし,耐火物の損傷を防止する。しかし灰分を含まない熱分解ガス及び熱分解オイルのみを処理するガス改質部12は800?1200℃とすればよいため,その炉壁は耐火材と断熱材の2層構造として壁面からの熱損失を防止することができる。このように本発明では小型の溶融ガス化部11のみを強制冷却構造とするだけでよいので,炉全体を強制冷却構造としていた従来の装置に比較して,炉壁からの熱損失を削減することができる。
【0015】また従来は熱分解物の全てを高温に加熱していたのに対し,本発明では灰分を含まない熱分解ガス及び熱分解オイルは改質部12において800?1200℃に加熱されるだけであるから,酸素消費量を削減することができ,ガス化効率を高めることができる。このようにして本発明によれば廃棄物中の灰分を溶融スラグ化すると同時に,廃棄物中の有機分をCO,H_(2)を主成分とする可燃ガスに効率よく変換して回収することができる。」
1f
「【0016】
【実施例】ごみ処理規模が100トン/日のガス化処理装置を,図1に示した本発明仕様と図2に示した従来仕様とで設計した結果を,表1に示した。ごみによる持込熱量は同一であるにもかかわらず,本発明によれば回収される可燃ガス量及びその発熱量が従来技術よりも多く,炉壁からの熱損失が従来技術よりも減少していることがわかる。
【0017】
【表1】



1g
「【符号の説明】
1 熱分解炉,2 粉砕器,…10 本発明のガス化処理装置,11 溶融ガス化部,12 ガス改質部,13 連結部
1h
【図1】



(2)刊行物2について
上記刊行物2には,以下の事項が記載されている。

2a
「【0016】
改質炉10では,ガス化炉2からのガス化ガス6の温度により改質温度を確保し,ガス化ガス6中の水蒸気と,追加して添加する酸素4,水蒸気5のいずれか一つ以上によって熱分解ガス・熱分解タール8を改質する。改質炉10の温度は900℃?1200℃が適しており,900℃未満では,分解しきれないタールが後段のガス精製設備14で付着トラブルをおこしたり,発生が懸念されるダイオキシンが分解せずに後段工程まで残存する。一方,1200℃を越えると改質炉からの飛灰の後段の精製設備14への融着・付着が顕著になるため好ましくない。改質炉10での温度調整は酸素4の量と水蒸気5の量で調整する。原料中に明らかに塩素が含まれており,特にダイオキシンの生成をほぼ0にしたい場合は,改質炉10の温度範囲の中でも,ほぼ全量分解可能な1000℃?1200℃で操業することが望ましい。また,改質反応には,ガス化炉2のガス化ガス6の顕熱を利用している。従来技術では,熱分解後の炭化物は多くとも熱分解原料の10質量%程度しか生成しないため,改質反応のための熱源としては貧弱であり,改質炉10に酸素を大量に投入して燃焼反応熱を生成させる必要がある。本発明では投入量は任意に規定可能であり,最小限の酸素投入で済む(実施例では,熱分解:ガス化=1:1で運転)。」

(ウ)周知例1について
上記周知例1には,以下の事項が記載されている。

3a
「【特許請求の範囲】
【請求項1】廃棄物を加熱して熱分解ガスを発生する熱分解炉と,
熱分解ガス中のタールやすす,硫黄分や塩素分等を除去し,水素豊富なガスを精製する改質設備と,
精製ガスを供給して発電する燃料電池とを備え,
更に,前記燃料電池から生じる排熱を前記熱分解炉の熱源に使用するための排熱回収設備を備えることを特徴とする廃棄物発電システム。」
3b
「【0025】また一方では,燃料電池5からの排熱は熱分解炉1に送られ,ガス化のための熱源(燃焼空気の予熱,含水量の多い廃棄物の予備乾燥用熱源等)として効率的に使用される。これにより,熱分解炉の熱効率を向上し,システム全体の発電効率を45?50%に向上することができる。」

(エ)周知例2について
上記周知例2には,以下の事項が記載されている。

4a
「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項8】 バイオマスを予め乾燥する乾燥装置と,該乾燥装置で乾燥させたバイオマスを加熱熱分解して熱分解ガスおよびチャーを生成する炭火ドラムと,該炭化ドラムで生成した熱分解ガスとチャーとを分離する分離装置と,該分離装置で分離した熱分解ガス中のタール分を蒸気によって水性ガス化して改質ガスを生成する改質ドラムと,該改質ドラムおよび前記炭火ドラムを加熱するための熱風炉と,前記改質ドラムで生成した改質ガスを洗浄する洗浄装置と,該洗浄装置で洗浄した改質ガスを燃料とするガスタービンもしくはガスエンジンと,前記ガスタービンもしくはガスエンジンの廃熱によって生成させた蒸気を前記改質ドラムに供給する蒸気配管と,前記ガスタービンもしくはガスエンジンからの排ガスを前記熱風炉ヘ供給する排ガス配管と,前記熱風炉からの排気ガスを前記乾燥装置に供給する排気ガス配管とを備えたことを特徴とするバイオマスガス化発電システム。」
4b
「【0032】
【発明の効果】上述のとおり本発明によれば,バイオマスの熱分解によって生成されるガスを,高カロリーでかつクリーンな燃料として,ガスタービンなどの高効率機関に適用することと相俟って,高効率かつ高出力発電が可能となる優れた効果がある。しかも,高効率機関の廃熱をバイオマスの熱分解や乾燥に有効利用できる。」

(3)刊行物に記載された発明
刊行物1には,
「廃棄物の熱分解物のうち,灰分を含む熱分解残査を投入する溶融ガス化部と,灰分を含まない熱分解ガス及び熱分解オイルを投入するガス改質部とを組み合わせた廃棄物のガス化処理装置」(摘示1a)
が記載されていて,また,【図1】(摘示1g)には,
ガス化処理装置に接続する熱分解炉と,該熱分解炉からガス化処理装置の溶融ガス化部へ接続する「加熱分解残さ」と記載されたライン(以下,「残渣ライン」ともいう。)と,該ラインとは異なるラインであって,熱分解炉からガス化処理装置のガス改質部に接続する「熱分解ガス,熱分解オイル」と記載されたライン(以下,「ガスオイルライン」ともいう。)
が図示されていて,さらに,
【図1】(摘示1g)のガス化処理装置の溶融ガス化部11及びガス改質部12には,それぞれ「酸素」が供給される旨の記載があり,これら図示された各装置は,全体として1つのシステムを構成しているものと理解される。
ここで,残渣ライン及びガスオイルラインに関しては,
「廃棄物は熱分解炉1で灰分を含む熱分解残査と,灰分を含まない熱分解ガス及び熱分解オイルとに熱分解され,熱分解残査は粉砕器2で粉砕されたうえで,溶融ガス化部11に投入される。一方,熱分解ガス及び熱分解オイルはガス改質部12に投入される。」(摘示1e:【0011】)
とも記載されていることから,残渣ラインについては,熱分解炉で生成した熱分解残渣を溶融ガス化部に投入するためのラインであり,また,ガスオイルラインは,熱分解炉で発生した熱分解ガス及び熱分解オイルをガス改質部に投入するためのラインであると理解される。
また,【図1】(摘示1g)中の「酸素」に関しては,
「溶融ガス化部11の反応温度は1200?1600℃とされ,ガス改質部12の反応温度はこれより低温の800?1200℃とされる。溶融ガス化部11の熱源は熱分解残査中の有機分と酸素との燃焼反応((2))であり,ガス改質部12の熱源は熱分解ガスと酸素との燃焼反応((5))及び溶融ガス化部11からのガス顕熱である。」(摘示1e:【0012】)
との記載から,溶融ガス化部11とガス改質部12をそれぞれ所望の反応温度に維持するために必要な燃焼反応を行わせるために供給されるものと理解される。
さらに,このような記載を受けて,【実施例】においては,溶融ガス化部11を「1500℃」に,ガス改質部を「1200℃」に,それぞれ維持する旨の運転条件が示されている(摘示1f:【表1】)。
そうすると,以上のことから,刊行物1には,以下の発明が記載されていると解される。
「廃棄物を熱分解して,灰分を含む熱分解残渣と灰分を含まない熱分解ガス及び熱分解オイルとに熱分解する熱分解炉(a),と
灰分を含む熱分解残査を投入する溶融ガス化部(b-1)と,灰分を含まない熱分解ガス及び熱分解オイルを投入するガス改質部(b-2)とを組み合わせた廃棄物のガス化処理装置(b),と
からなる廃棄物ガス化システムであって,
熱分解炉(a)から,
溶融ガス化部(b-1)に熱分解残渣を投入するためのライン,と,
ガス改質部(b-2)に熱分解ガス及び熱分解オイルとを投入するためのラインと
がそれぞれ接続されていて,
溶融ガス化部(b-1)では1500℃に維持するために酸素が供給され,
また,ガス改質部(b-2)では1200℃に維持するために酸素が供給される,
廃棄物ガス化システム」(以下,「引用発明」という。)

(4)検討
ア.対比
ここで,本件補正発明と引用発明とを対比する。

a)本件補正発明は,明細書に
「ガス化炉7は,炭化装置2から供給される炭化物4,および水分および揮発分を含んだ可燃性熱分解ガス3をガス化反応させ,可燃性ガスであるCO(一酸化炭素),H_(2)(水素)を生成する。」(【0025】)
と記載されているように,バイオマス燃料という炭素質材料を原料として可燃性ガスであるCOとH_(2)を生成するものである。また,引用発明も,刊行物1に
「このようにして本発明によれば…廃棄物中の有機分をCO,H_(2)を主成分とする可燃ガスに効率よく変換して回収することができる。」(【0015】)
と記載されているように,廃棄物という炭素質材料から可燃性ガスであるCOとH_(2)を生成するものであって,両者はこの点で共通するものである。

b)本件補正発明の「炭化」,「炭化物」及び「炭化装置」に関して引用発明との対比を検討する。
(ア)本件補正発明の「炭化物」とは,請求項1の冒頭部の「バイオマス燃料を熱分解して炭化しさらにガス化するバイオマス炭化・ガス化システムにおいて,…」なる記載からみて,炭素質材料を熱分解した際に生成するものであることから,引用発明の「(灰分を含む)熱分解残査」に対応するものと解され,
(イ)また,それゆえ,本件補正発明の「炭化」は引用発明の「熱分解」に対応し,
(ウ)さらに本件補正発明は「炭化・ガス化システム」としているが,引用発明の「ガス化システム」は熱分解炉をも含んでいて,しかも,上記(イ)に記載したように,引用発明の「熱分解」は本件補正発明の「炭化」に対応するから,引用発明の「ガス化システム」は「炭化・ガス化システム」といえるものである。
さらに,(ア)で示したように,本件補正発明の「炭化物」が,引用発明の「(灰分を含む)熱分解残査」に対応するものであることを踏まえると,
(エ)本件補正発明の「木質系バイオマス,…等のバイオマス燃料を…加熱して炭化物を生成する炭化装置」は,引用発明の「廃棄物を熱分解して,灰分を含む熱分解残査と灰分を含まない熱分解ガス及び熱分解オイルとに熱分解する熱分解炉」に対応する。

c)本件補正発明の「2段式のガス化炉」に関して引用発明と対比する。
(オ)本件補正発明の「高温ガス化部」は引用発明の「溶融ガス化部」に対応する,
ことは明らかである。
また,(ア)及び(イ)で示したように,本件補正発明の「炭化」が引用発明の「熱分解」に対応することを踏まえると,
(カ)本件補正発明の「炭化物生成時に揮発したタールを含む可燃性熱分解ガス」は引用発明の「(灰分を含まない)熱分解ガス及び熱分解オイル」に対応する。
したがって,
(キ)本件補正発明の「炭化物をガス化する高温ガス化部および炭化物生成時に揮発したタールを含む可燃性熱分解ガスの改質を行うガス改質部からなる2段式ガス化炉」は,引用発明の「灰分を含む熱分解残査を投入する溶融ガス化部(b-1)と,灰分を含まない熱分解ガス及び熱分解オイルを投入するガス改質部(b-2)とを組み合わせたガス化処理装置」に対応する。

d)本件補正発明の「炭化物供給手段」に関して引用発明と対比する。
上記(ア)で示したように,本件補正発明の「炭化物」が引用発明の「(灰分を含む)熱分解残査」に対応すること,及び,上記(オ)で示したように,本件補正発明の「高温ガス化部」が引用発明の「溶融ガス化部」に対応することを踏まえると,
(ク)本件補正発明の「炭化物をガス化炉の高温ガス化部に供給する炭化物供給手段」は,引用発明の「熱分解炉(a)から,溶融ガス化部(b-1)に熱分解残査を投入するためのライン」に対応する。

e)本件補正発明の「熱分解ガス流路」に関して引用発明と対比する。
上記(エ)で示したように,本件補正発明の「炭化装置」が引用発明の「熱分解炉」に対応し,また,上記(カ)で示したように,本件補正発明の「可燃性熱分解ガス」が引用発明の「熱分解ガス及び熱分解オイル」に対応することから,
(ケ)本件補正発明の「炭化装置で生成された可燃性熱分解ガスを前記ガス化炉のガス改質部に送り込むための熱分解ガス流路」は,引用発明の「熱分解炉(a)から,ガス改質部(b-2)に熱分解ガス及び熱分解オイルとを投入するためのライン」に対応する。

f)本件補正発明の「ガス化剤供給手段」に関して引用発明と対比する。
上記(オ)で示したように,本件補正発明の「高温ガス化部」が引用発明の「溶融ガス化部」に対応することを踏まえると,
(コ)本件補正発明の「高温ガス化部で1500℃以上の高温ガスが発生するように前記高温ガス化部に酸素を含んだガス化剤を供給するとともに,…ガス改質部に酸素を含んだガス化剤を供給するガス化剤供給手段とを備え」ることは,引用発明の「溶融ガス化部(b-1)で1500℃に維持するために酸素が供給され,…ガス改質部(b-2)に酸素が供給される」ことに対応する。
以上(ア)?(コ)から,本件補正発明と引用発明との一致点を本件補正発明の表現に沿って記載すると,次のようになる。

「炭素質材料を熱分解して炭化しさらにガス化する炭化・ガス化システムにおいて,
炭素質材料を加熱して炭化物を生成する炭化装置と,
この炭化物をガス化する高温ガス化部および炭化物生成時に揮発したタールを含む可燃性熱分解ガスの改質を行うガス改質部からなる2段式のガス化炉と,
前記炭化物を前記ガス化炉の高温ガス化部に供給する炭化物供給手段と,
前記炭化装置で生成された可燃性熱分解ガスを前記ガス化炉のガス改質部に送り込むための熱分解ガス流路と,
前記高温ガス化部で1500℃以上の高温ガスが発生するように前記高温ガス化部に酸素を含んだガス化剤を供給するとともに
前記ガス改質部に酸素を含んだガス化剤を供給するガス化剤供給手段とを備える
炭化・ガス化システム。」
これに対して,本件補正発明と引用発明との相違点は次のとおりである。

[相違点1]
本件補正発明では,炭素質材料として「木質系バイオマス,都市ゴミ等の廃棄物系バイオマスおよびこれらの混合バイオマス等のバイオマス燃料」を用いているのに対して,引用発明では「廃棄物」を用いている点。
[相違点2]
本件補正発明では,ガス改質部へのガス化剤供給手段が「ガス化炉の出口温度が1100℃未満になる場合またはそのおそれがある場合にガス改質部に酸素を含んだガス化剤を供給する」ものであるのに対して,引用発明では,ガス改質部の温度を「1200℃に維持するために酸素」を「供給」するものである点。
[相違点3]
本件補正発明では,「前記ガス化炉から供給された生成ガスを利用して発電するとともに作動時に排熱を伴う発電装置から排出されるシステム排熱」を「前記炭化装置」の「間接的に加熱」するための「熱源として利用する」のに対して,引用発明では,そのような特定がなされていない点。

イ.相違点の検討
(ア)相違点1について
本件補正発明では,「木質系バイオマス,都市ゴミ等の廃棄物系バイオマスおよびこれらの混合バイオマス等のバイオマス燃料」としているが,例えば,本願明細書には,
「本発明者は,木質系等のバイオマス,および廃棄物系のバイオマス(以下単に「廃棄物」と記す場合もある)のガス化方式を検討するため,…」(【0033】),及び,
「検討した廃棄物は典型的な都市ゴミで,性状を表4に示す。」(【0066】)
などと記載されているように,典型的な都市ゴミも,本件補正発明の「バイオマス燃料」に含まれていると解される。
これに対して,引用発明における「廃棄物」は,
「本発明は,都市ごみ等の廃棄物を熱処理して…」(摘示1b)
と記載されていることから,主として「都市ごみ等」を意味するものと解される。
少なくとも,本件補正発明においては「典型的な都市ゴミ」を対象としていると解される以上,引用発明の廃棄物とは本質的な差異はないものといわざるを得ない。
したがって,上記相違点は,実質的な相違点とすることはできない。

(イ)相違点2について
まず,引用発明におけるガス改質部の温度を1100℃と設定することが当業者にとって容易になし得るといえるか否かについて検討する。
刊行物1には,引用発明において「1200℃」に設定する理由については,例えば,
「このように従来は,熱分解残査,熱分解ガス,熱分解オイルの全てを,1400℃以上に加熱していた。しかし,灰分を溶融スラグ化するにはこのような高温が必要であるが,熱分解ガス及び熱分解オイルの改質には800?1200℃の温度で十分であることが判明した。」(摘示1d)
などと記載されているに止まり,タールの付着等に関しては具体的な言及はなされていないものであるが,具体的に温度が示されている実施例においては,「1200℃」が採用されていたものである。
ところで,刊行物2においては,引用発明と同様に,廃棄物の熱分解後に発生するガスの改質を行う改質炉を有する装置において,次のように記載されている。
「改質炉10では,ガス化炉2からのガス化ガス6の温度により改質温度を確保し,ガス化ガス6中の水蒸気と,追加して添加する酸素4,水蒸気5のいずれか一つ以上によって熱分解ガス・熱分解タール8を改質する。改質炉10の温度は900℃?1200℃が適しており,900℃未満では,分解しきれないタールが後段のガス精製設備14で付着トラブルをおこしたり,発生が懸念されるダイオキシンが分解せずに後段工程まで残存する。一方,1200℃を越えると改質炉からの飛灰の後段の精製設備14への融着・付着が顕著になるため好ましくない。改質炉10での温度調整は酸素4の量と水蒸気5の量で調整する。原料中に明らかに塩素が含まれており,特にダイオキシンの生成をほぼ0にしたい場合は,改質炉10の温度範囲の中でも,ほぼ全量分解可能な1000℃?1200℃で操業することが望ましい。」(摘示2a)
すなわち,タールの付着トラブルを避けるためには「900℃?1200℃」の範囲が,さらに,ダイオキシンの発生をも回避しようとするならば「1000℃?1200℃」の範囲が望ましいとするものである。
このような刊行物2の記載に触れた当業者であるならば,引用発明におけるガス改質部温度に関し,該引用発明では「1200℃」とされているものであるが,刊行物1に記載の「800?1200℃」範囲であって,しかも,刊行物2によれば,タールの付着やダイオキシンの発生をも回避できるという「1000?1200℃」の範囲で適宜設定することは,容易になし得ることであり,それに応じて,例えば1100℃と設定することは,格別困難なこととはいえない。
なお,引用発明では,「ガス改質部の温度」を1200℃に設定する旨の記載に止まり,「ガス化炉の出口」の温度をどのようにするかといったことに関しては具体的に記載されていないが,一般に反応装置の温度制御をする場合に『出口温度』で制御する手法は汎用の手法の1つであるから,本件補正発明で「ガス化炉の出口」と特定されていることによっては本質的な違いがあるとは解されない。
次に,ガス化炉の出口温度が「設定温度未満になる場合またはそのおそれがある場合にガス改質部に酸素を含んだガス化剤を供給する」ことが,当業者にとって容易になし得るか否かについて検討する。
引用発明におけるガス改質部の温度及び熱源に関しては,次のように記載されている。「…ガス改質部12の反応温度はこれより低温の800?1200℃とされる。…ガス改質部12の熱源は熱分解ガスと酸素との燃焼反応((5))及び溶融ガス化部11からのガス顕熱である。(摘示1e:【0012】)
ここで,ガス改質部の熱源は,「熱分解ガスと酸素との燃焼反応」及び「溶融ガス化部11からのガス顕熱」とされているものの,「溶融ガス化部11からのガス顕熱」については,溶融ガス化部の設定温度は「1500℃」と設定とされていて,ガス改質部の温度の制御のために,溶融ガス化部からの顕熱を操作するなどといったことは通常なされないと解せられる上,刊行物1の【図1】(摘示1g)においては,ガス改質部に対して酸素を供給する旨の記載があることから,そのような記載と上記摘示1e(【0012】)の記載を併せると,ガス改質部の温度の維持のためには,当然に「熱分解ガスと酸素との燃焼反応」が調整されるものといえ,そのことは,すなわちガス改質部に対する酸素供給量の調整により行われることに他ならないものである。
さらに,刊行物1においては,
「このように従来は,熱分解残査,熱分解ガス,熱分解オイルの全てを,1400℃以上に加熱していた。しかし,灰分を溶融スラグ化するにはこのような高温が必要であるが,熱分解ガス及び熱分解オイルの改質には800?1200℃の温度で十分であることが判明した。すなわち,従来は灰分の処理に必要な温度まで全ての熱分解物を加熱していたために余分な熱量を消費していたのであり,酸素消費量が多くなってガス化効率を低下させていたこととなる。」(摘示1d)
及び,
「また従来は熱分解物の全てを高温に加熱していたのに対し,本発明では灰分を含まない熱分解ガス及び熱分解オイルは改質部12において800?1200℃に加熱されるだけであるから,酸素消費量を削減することができ,ガス化効率を高めることができる。このようにして本発明によれば廃棄物中の灰分を溶融スラグ化すると同時に,廃棄物中の有機分をCO,H_(2)を主成分とする可燃ガスに効率よく変換して回収することができる。」(摘示1e:【0015】)
とも記載されていて,これらの記載から,引用発明では,ガス改質部の温度を不必要に高くすることを避けようとしていることが読み取れるから,ガス改質部への酸素供給量を可能な限り少量にすることが意図されているものと解される。
そうすると,刊行物1における上記摘示1d,1e(【0012】及び【0015】)などの記載に基づけば,引用発明においても,ガス改質部の温度が設定温度より低い場合や,或いは,低くなると見込まれる場合といった最小限の範囲でガス改質部に酸素を供給することにより,設定温度の維持をすることは当業者が容易になし得ることといえる。
以上のことから,引用発明において,ガス改質部の温度を1100℃に設定し,そのような設定温度より低くなった場合,又は,低くなると見込まれる場合にのみ,該ガス改質部に対して酸素を供給することは,当業者が容易になし得ることといえる。

(ウ)相違点3について
例えば,上記周知例1においては,
「廃棄物を加熱して熱分解ガスを発生する熱分解炉と,
熱分解ガス中のタールやすす,硫黄分や塩素分等を除去し,水素豊富なガスを精製する改質設備と,
精製ガスを供給して発電する燃料電池とを備え,
更に,前記燃料電池から生じる排熱を前記熱分解炉の熱源に使用するための排熱回収設備を備えることを特徴とする廃棄物発電システム。」(摘示3a)及び
「また一方では,燃料電池5からの排熱は熱分解炉1に送られ,ガス化のための熱源(燃焼空気の予熱,含水量の多い廃棄物の予備乾燥用熱源等)として効率的に使用される。これにより,熱分解炉の熱効率を向上し,システム全体の発電効率を45?50%に向上することができる。」(摘示3b)
と記載されており,また,周知例2においては,
「バイオマスを予め乾燥する乾燥装置と,該乾燥装置で乾燥させたバイオマスを加熱熱分解して熱分解ガスおよびチャーを生成する炭火ドラムと,該炭化ドラムで生成した熱分解ガスとチャーとを分離する分離装置と,該分離装置で分離した熱分解ガス中のタール分を蒸気によって水性ガス化して改質ガスを生成する改質ドラムと,該改質ドラムおよび前記炭火ドラムを加熱するための熱風炉と,前記改質ドラムで生成した改質ガスを洗浄する洗浄装置と,該洗浄装置で洗浄した改質ガスを燃料とするガスタービンもしくはガスエンジンと,前記ガスタービンもしくはガスエンジンの廃熱によって生成させた蒸気を前記改質ドラムに供給する蒸気配管と,前記ガスタービンもしくはガスエンジンからの排ガスを前記熱風炉ヘ供給する排ガス配管と,前記熱風炉からの排気ガスを前記乾燥装置に供給する排気ガス配管とを備えたことを特徴とするバイオマスガス化発電システム。」(摘示4a)及び,
「【発明の効果】上述のとおり本発明によれば,バイオマスの熱分解によって生成されるガスを,高カロリーでかつクリーンな燃料として,ガスタービンなどの高効率機関に適用することと相俟って,高効率かつ高出力発電が可能となる優れた効果がある。しかも,高効率機関の廃熱をバイオマスの熱分解や乾燥に有効利用できる。」(摘示4b)
と,記載されているように,
(i)廃棄物処理から得られるガスを利用して発電すること,及び,
(ii)システム内で発生した排熱を熱分解などの熱源として利用すること,
は,何れも本願出願日前より当業者に周知の事項であるし,また,排熱の利用に際して,各種熱交換を始めとする間接加熱は,ごく普通に採用されている手法である。
したがって,引用発明に係るガス化システムからの生成ガスを利用して発電し,かつ,その際に発生する排熱を,熱分解炉の間接加熱による熱源として利用することは当業者が容易になし得ることである。

(5)まとめ
以上のとおり,本件補正発明は,その出願前に頒布された刊行物1及び2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得るものであるから,特許法第29条第2項の規定により,独立して特許を受けることができるものではない。

4.請求人の主張について
請求人は,審判請求書及び回答書において,以下の主張をしている。
A.「(iii-3)タール分解温度について
(iii-3-1)審査官殿は,拒絶査定謄本の備考欄において,『ガス改質部から出るガス中にタール分が含まれないようにするためのガス改質部における温度を,800?1200℃の間のどの温度とするかは,バイオマス材料の種類,熱分解炉での熱分解条件,溶融ガス化部における操作条件,ガス改質部における操作条件などに応じて適宜に選定し』と認定されました。
(iii-3-2)しかしながら,審査官殿の上記認定は誤認であります。
(iii-3-3)即ち,「ガス改質部から出るガス中にタール分が含まれないようにするため」には,温度条件を「800℃?1200℃」ではなく,「1100℃以上」としなければなりません。1100℃未満では,タールを確実に分解することができません。
(iii-3-4)そして,タールを確実に分解できなければ,ガス化炉の後段の配管等にタール分が徐々に固着していってシステム全体としての運転信頼性を大きく低下させることになります。だからこそ,タールを確実に分解できる「1100℃以上」という温度条件が必要なのです。
(iii-3-5)因みに,引用文献3の段落[0016]においても,タール分解温度は「900℃?1200℃」と記載されており,タールが完全に分解できない温度領域が含まれております。
(iii-3-6)つまり,いずれの文献もタールの分解に関する認識が甘く,システム全体としての運転信頼性に対する認識が十分になされているとは言えません。」(審判請求書第17頁第1行?20行)

B.「(iii-4)「種々のバイオマス燃料を用いる」との審査官殿の認定について
・・・
(iii-4-3)まず,引用文献1及び2では,ガス化燃料として廃棄物を使用したことは記載されているものの,どのような性状の廃棄物が使用されているかは一切記載されておりません。少なくとも,本願発明のように,含有水分の多い木質系バイオマスを使用したことなど一切記載されておりません。
(iii-4-4)これに対し,本願発明では,含有水分の多い木質系バイオマス等を含めた様々なバイオマス燃料について,ガス化炉から供給された生成ガスを利用して発電するとともに作動時に排熱を伴う発電装置から排出されるシステム排熱を炭化装置の熱源として利用することによって,バイオマス燃料を熱分解して得られる炭化物(炭化チャー)を水分がなく発熱量の高いものとしてガス化炉の高温ガス化部に供給するようにしています。したがいまして,様々な性状のバイオマス燃料を使用しても,高温ガス化部中において水分の蒸発潜熱と熱分解のための反応熱が奪われることなく,高温ガス化部中で確実に1500℃以上の高温ガス雰囲気を作り出し,ガス改質部(リダクタ)における改質反応に十分な温度を確保することができます。しかも,炭化装置の熱源に必要な熱量をシステム排熱でまかなうことになりますので,炭化装置の熱源に必要な熱量を確保するためのエネルギーの使用(例えば燃料の燃焼等)を抑えることができます。したがいまして,高温ガス化部中でガス改質部での改質反応に十分な温度を確保しながらも,システム全体としての熱効率を高いものとできるわけです。」(審判請求書第17頁第22行?第19頁第1行)

C.「(iv)これらのことからすれば,引用文献1及び2においては,ガス改質部に常に酸素または空気が供給されていると考えざるを得ません。そうしますと,たとえ引用文献3においてタールを含まないようにするための温度が開示されているとしても,ガス改質部に常に酸素または空気が供給されている引用文献1及び2に記載の技術に基づいて,本発明のようにガス改質部に酸素または空気を供給する場合と供給しなくてもよい場合があることを導き出すことが,当業者において容易であるとは到底言えません。」(回答書第3頁第15行?21行)

しかしながら,以下のとおり出願人の主張は採用できない。

A.について
刊行物2では,タールの付着及びダイオキシンの発生をも考慮して,「1000?1200℃」が望ましいとされていることに加えて,例えば,具体的な運転条件として,引用発明では1200℃,また,刊行物2の実施例の「結果-1」でも1100℃という温度が示されていて,これらの事項がこの分野の従来の技術であると解される。そうすると,たとえ,請求人が主張するように,「タールの完全な分解のためには1100℃以上が必要」ということが見出されたとしても,温度の特定に関しては,「1000?1200℃」という既に狭い範囲に特定されていた中での特定に過ぎず,しかも,既に具体的な設定例も存在する「1100℃以上」という点で,従来技術と比して格別特異なものといえないし,また,作用効果に関しても,既に「タールの分解」といったことは知られていたのであるから,この点に関して従来技術に対して格別特異なこととして評価することができない。

B.について
請求人の主張は,一見すると,(杉チップなど水分の多い)木質系バイオマス燃料をガス化燃料とした場合についてのみ主張しているようにも解されるが,上記3.(4)イ.(ア)「相違点1について」で述べたように,本件補正発明は,そのような木質系バイオマス燃料のみならず,典型的な都市ゴミも材料として使用する態様も含まれていて,木質系バイオマス燃料に限定されているものではない。すなわち,引用発明と同様な典型的都市ごみをガス化燃料とする態様も含まれているのであるから,木質系バイオマス燃料の記載が刊行物1にないことのみ,或いは,木質系バイオマス燃料を使用する場合の最適な運転条件を定めたことといった,木質系バイオマス燃料に限った事項に関して,引用発明からの進歩性を主張することが適切ではないことは明らかであり,このことは当然のことながら,請求人も十分理解しているところと考える。
請求人の主張を善解すると,要するに,ガス化燃料として,都市ごみなどの廃棄物のみならず,水分の多い木質系バイオマス燃料をも含めた,種々のガス化燃料を使用した場合にもそれぞれの燃料に応じた安定的でかつ高効率なシステム運転を可能にしたことを主張しているとも解される。
しかしながら,本件補正発明は,上記したように,水分の多い木質系バイオマス燃料に限定されているものではなく,典型的な都市ごみを燃料とする態様も含まれているのであり,このような都市ごみを燃料とした場合について検討すると,以下に述べるように,本件補正発明と引用発明とはシステムの運転条件に関し,本質的な差異はないものといえる。
上記請求人の主張によれば,システムの高効率で安定的な運転は,「溶融ガス化部を1500℃以上,ガス改質部を1100℃以上にそれぞれ維持すること」に伴って,ガス化炉から一定温度以上の高温ガスが安定的に生成され,それによってシステム全体の熱利用も効率化する旨主張するものと解せられる。
しかしながら,引用発明は,主として都市ごみ等の廃棄物を対象にしているとはいえ,「溶融ガス化部を1500℃以上,ガス改質部を1200℃にそれぞれ維持する」ものであり,この運転条件は,請求人が主張する「溶融ガス化部を1500℃以上,ガス改質部を1100℃以上」という運転条件と本質的に差異はないといえるから,仮に,「溶融ガス化部を1500℃以上,ガス改質部を1100℃以上」という運転条件で,請求人が主張するような所望の運転ができているとするならば,引用発明でも同様な運転状況にあると解される。
(なお,請求人の上記主張では,ガス改質部の温度について,本件補正発明の「1100℃」ではなく,「1100℃以上」としており,これには引用発明の「1200℃」も該当するし,また,請求人は,本願明細書や審判請求書等において,例えば,引用発明の「1200℃」では安定的かつ高効率の運転が達成し得ず,本件補正発明における「1100℃」でのみ初めて達成し得ることを明らかにしているものではなく,さらに,本件補正発明の「1100℃」の根拠は,明細書の記載によれば,シミュレーション計算に基づくものであるが,このような算出結果と実際に運転する際の最適条件との間には多少のずれが生ずることが当然に予想されることをも考慮すると,本件補正発明における「1100℃」での運転が,引用発明の「1200℃」での運転と比較して,実質的にどの程度の差異があるものなのか明らかともいえない。)
よって,請求人の上記主張をもって本件補正発明の進歩性を肯定することはできない。

C.について
まず,本願明細書の記載からみて,本件補正発明においては,ガス化燃料の種類に応じて,ガス改質部に酸素を供給する必要がある場合と供給する必要がない場合があるとされている。
すなわち,例えば,本願明細書【0071】には,次のような記載がある。
「3.まとめ
燃料性状,および当所の熱天秤,PDTFを用いて求めたガス化反応速度に基づくガス化性能予測計算手法を確立し,バイオマス(水分40%の杉チップ),廃棄物(典型的な都市ゴミ性状)に適したガス化方式,ならびに高効率・安定運転条件の検討を行い,以下の結果を得た。

・炭化・ガス化方式では,杉チップのように揮発割合が高い場合,ガス化炉7の出口温度をタール発生抑制温度(1100℃以上)に維持するため,ガス改質部9への空気または酸素6の投入が不可欠である。
・廃棄物は灰分を多く含むため,環境面から灰を溶融排出(スラグ化)する必要がある。廃棄物は揮発割合が低いため,2段ガス化炉において高温ガス化部8のみに空気を投入する方法で,高効率,かつ灰溶融排出運転が可能である。」
この記載からすると,水分の多い杉チップのような木質系バイオマス燃料を使用する場合にガス改質部への酸素供給が必要となる一方,灰分の多い「廃棄物」(すなわち,典型的都市ゴミ)では,ガス改質部への酸素の供給が不要になるというものである。
このように,本願明細書の記載を前提にすると,少なくとも,ガス化燃料の水分が多い場合と少ない場合とに応じて,ガス改質部への酸素供給量の増減が行われるものと解される。
ところで,上記3(4)イ.(ア)「相違点1について」で述べたように,引用発明のガス化燃料は,主として都市ごみ等の廃棄物を対象にしているものと解され,これは本件補正発明における「廃棄物」(すなわち,典型的都市ゴミ)に相当するものであって,本願明細書の記載によれば,ガス改質部に酸素を供給する必要のない場合に対応するものといえる。
さらに,上記3(4)イ.(イ)「相違点2について」で述べたように,引用発明では,ガス改質部の温度を必要以上に高温とはしないことを技術思想としているといえるから,ガス改質部への酸素供給量も最小限にとどめられていると解され,ガス改質部を1200℃に維持する目的でのみ酸素供給はされていると解される。
そうすると,本願明細書の記載によれば,ガス化燃料が「典型的な都市ゴミ」の場合には,該引用発明はガス改質部を少なくとも1100℃に維持する程度であるならば酸素の供給は必要ないということになるので,このような前提に立つならば,引用発明でも,「典型的な都市ゴミ」をガス化燃料とした場合には,ガス改質部へは不必要に酸素を供給しないという技術思想に基づいているのであるから,実際には,ガス改質部へはほとんど酸素の供給はなされないか,又は,それに近い状況で運転されることになると解される。
(もっとも,本件補正発明の「1100℃」と引用発明の「1200℃」とは,100℃の差がありそれに応じてガス改質部の酸素の供給量も多少の差が生ずるものと考えられるが,請求人の主張の根拠も,本願明細書に記載のシミュレーション計算に基づくものであって,実際の運転の場合とは多少のずれも生じているであろうことも考慮すると,両者の間に少なくともそれほど大きな差があるものとは考えられないし,また,そのようなことが請求人によって示されているものでもない。)
これに対して,当然のことながら,都市ごみというのは,常に水分量が一定というものではなく,日々異なる水分量のゴミが排出されるものと解されるから,引用発明のガス化システムにおいても,例えば,杉チップのような水分量が極めて多い燃料が対象となることはないとしても,ガス化燃料の水分量が必ずしも常に同じであるとは解されず,そのような状況においても「溶融ガス化部1500℃,ガス改質部1200℃」という温度条件が一定に維持されるよう対応されるものと解すべきである。
そうすると,本件補正発明で,ガス化燃料の種類(特に水分量)に応じて,ガス改質部を一定温度に維持するために該ガス改質部への酸素の供給量が増減するというのであれば,そのことは本件補正発明に限ったこととはいえず,引用発明においても,その増減の幅が小さいとしても,ガス改質部の温度を設定された温度に維持するべく供給される酸素の増減は当然に生じ,また,例えば,燃料の水分量が典型的なレベルよりも少ないなど,追加の酸素を供給しなくとも設定温度が維持されている場合には,酸素供給はなされないものと解される。すなわち,刊行物1には,明示的には記載されていないとしても,引用発明においても,ガス化燃料の種類(例えば,都市ごみの内容物)にかかわらず,ガス改質部の温度を一定温度に維持することに伴って必然的にガス改質部への酸素の供給量が増減し,場合によってはその供給が不要になることもあるということになる。
したがって,請求人の主張は,まず,「引用文献…2(審決注;刊行物1のこと)においては,改質部に常に酸素又は空気が供給されている」という前提自体,本願明細書【0071】で「廃棄物は揮発割合が低いため、2段ガス化炉において高温ガス化部8のみに空気を投入する方法で、高効率、かつ灰溶融排出運転が可能である。」と、典型的都市ゴミである廃棄物の場合には、ガス改質部の酸素供給は不要であるとされていることと,必ずしも整合するものとはいえないとともに,さらに,「引用文献…2(審決注;刊行物1のこと)に記載の技術に基づいて,本発明のようにガス改質部に酸素または空気を供給する場合と供給しない場合とがあることを導き出すことが,当業者において容易であるとは到底いえません。」とする点については,引用発明でも,ゴミの種類にかかわらずガス改質部の温度を1200℃に維持することに伴って必然的に,ガス改質部に酸素または空気を供給する場合と供給しない場合とが生ずるといえるので,このことはそもそも本件補正発明に特有のものとすることができないから,このような事項が刊行物1の記載から当業者が容易に導き出せる事項か否かに拘わらず,上記請求人の主張は採用できない。

5.むすび
したがって,上記請求項1についての補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから,この補正を含む本件補正は,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成22年10月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,この出願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成22年5月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第4 原査定の理由
拒絶査定における拒絶の理由(平成22年3月11日付けの拒絶理由通知の「理由」「2.」)の概要は,本願の請求項1?4に記載の発明は,その出願前に頒布された引用文献1?4に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。
また,引用文献として,以下の文献が挙げられている。
1.特開2001-098282号公報
2.特開2003-065511号公報
3.特開2004-041848号公報
4.特開平11-294726号公報

第5 当審の判断
当審は,原査定の上記理由のとおり,本願発明は,特許を受けることができないものであると判断する。

1.刊行物及び周知技術を示す文献
ア.刊行物
上記第4で示した引用文献2及び引用文献3は,上記第2の3.(1)ア.において示された「刊行物1」及び「刊行物2」に同じである。

イ.周知技術を示す文献
上記第2の3.(1)イ.において示された「周知例1」及び「周知例2」に同じである。

2.刊行物に記載された事項
刊行物1,2及び周知例1,2に記載された事項は,上記第2の3.(2)において「刊行物1」,「刊行物2」,「周知例1」及び「周知例2」について記載したものと同じである。

3.刊行物に記載された発明
刊行物1に記載された発明は,上記第2の3.(3)に記載した「引用発明」と同じものである。

4.検討
ア.対比
本願発明は,本件補正発明において,「間接的に」及び,「前記ガス化炉から供給された生成ガスを利用して発電するとともに作動時に排熱を伴う発電装置から排出されるシステム排熱を前記炭化装置の熱源として利用する」という特定がなされていないものである。
よって,本願発明と引用発明とは,上記第2の3.(4)ア.において説示した本件補正発明と引用発明が一致する点と,同じ点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1’]
本願発明では,炭素質材料として「木質系バイオマス,都市ゴミ等の廃棄物系バイオマスおよびこれらの混合バイオマス等のバイオマス燃料」を用いているのに対して,引用発明では「廃棄物」を用いている点。
[相違点2’]
本願発明では,ガス改質部へのガス化剤供給手段が「ガス化炉の出口温度が1100℃未満になる場合またはそのおそれがある場合にガス改質部に酸素を含んだガス化剤を供給する」ものであるのに対して,引用発明では,ガス改質部の温度を「1200℃に維持するために酸素を供給される」点。

イ.相違点についての検討
上記第2の3.(4)イ.(ア)?(イ)において説示した理由と同様の理由により,上記相違点1’,2’は,刊行物1,2に記載された発明及び周知技術から当業者が容易になし得るものである。

5.まとめ
以上のとおり,本願発明は,その出願前に頒布された刊行物に記載された発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願は,その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-03 
結審通知日 2012-12-04 
審決日 2012-12-28 
出願番号 特願2004-180122(P2004-180122)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C10J)
P 1 8・ 121- Z (C10J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 服部 智大熊 幸治  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 小石 真弓
新居田 知生
発明の名称 バイオマス炭化・ガス化システムおよび炭化・ガス化方法  
代理人 村瀬 一美  

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