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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16F |
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管理番号 | 1270162 |
審判番号 | 不服2011-11488 |
総通号数 | 160 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-06-01 |
確定日 | 2013-02-14 |
事件の表示 | 特願2006-183999「エンジンのバランサ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年1月24日出願公開、特開2008-14351〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成18年7月4日の出願であって、平成23年3月8日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成23年6月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 そして、本願の請求項1?3に係る発明は、平成24年6月11日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。なお、平成23年6月1日付けの手続補正は、当審において平成24年4月9日付けで決定をもって却下された。 「【請求項1】 バランスウエイトを有し、テンションが作用した無端状の伝達部材を介してクランクシャフトから回転力が伝達され、クランクシャフトの1回転当たり2回転するように設定された駆動側シャフトと、 該駆動側シャフトに一体に設けられた駆動側ギアと、 バランスウエイトを有し、前記駆動側シャフトよりも軸方向の全長が短く形成された従動側シャフトと、 該従動側シャフトに一体に設けられ、前記駆動側ギアに噛合して、前記駆動側シャフトと同じく、クランクシャフトの1回転当たり2回転する回転力を従動側シャフトに伝達する従動側ギアと、を備え、 前記駆動側のバランスウエイトと従動側のバランスウエイトを、同一の外形状に形成すると共に、同一の軸方向位置に配置し、 前記従動側シャフトにおける前記バランスウエイト以外の部位の外径を、対応する前記駆動側シャフトにおけるバランスウエイト以外の部位の外径よりも小さく形成したことを特徴とするエンジンのバランサ装置。」 2.本願出願前に日本国内において頒布され、当審において平成24年4月9日付けで通知した拒絶理由に引用された刊行物及びその記載事項 (1)刊行物1:特開2004-125031号公報 (2)刊行物2:木内あつし(「石」に「、」)著、「機械設計便覧-新版-」、新版9刷、日刊工業新聞社、昭和61年3月25日、第227頁第14?26行 (刊行物1) 刊行物1には、「エンジンのバランサシャフト構造」に関して、図面(特に、図1及び2を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。 (a)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、エンジンのバランサシャフト構造、特にクランクシャフトにより伝動体を介して駆動されるバランサシャフトの支持構造に関し、エンジンの振動対策技術の分野に属する。」(第2頁第37?41行、段落【0001】参照) (b)「【0014】 エンジンが駆動したとき、両バランサシャフトを駆動するギヤがエンジンの回転変動によってギヤ同士の衝突が起こり歯打音が発生する。また、上記構成のバランサシャフトは第2シャフトのウエイト部が第1シャフトのウエイト部を挟む構成をしているので、第2シャフトの端部は第1シャフトよりも突出させる必要がある。そのため、第1シャフトより第2シャフトの方が重量が大きくなる。この発明によれば、重い第2シャフトで軽い第1シャフトを駆動するので、ギヤ同士が当ったときの衝撃が小さくなり、歯打音が抑えられる。しかも、第2シャフトには、巻き掛け部材を取り付けるための延長部が形成されているから、この点からも第2シャフトが重くなり、歯打音を抑える効果が増す。」(第4頁第28?36行、段落【0014】参照) (c)「【0024】 図1?図3に示すように、この実施の形態に係るエンジンのバランサ装置1は、シリンダブロック2の下方においてオイルパン3内に配設されたバランサシャフトボディ4を有する。該バランサシャフトボディ4は、シリンダブロック2に取り付けられ、クランクシャフト5の軸心に平行に延びる一対のバランサシャフト10,11(以後、第1シャフト10、第2シャフト11という)を回動可能に支持する。該両シャフト10,11の前端側(図における左側)には、一対の動力伝達ギヤ12,13が取り付けられ、これらが互いに噛合している。第2シャフト11は動力伝達ギヤ12の前方側に延長されており、その先端にスプロケット14が取り付けられている。クランクシャフト5の前端にスプロケット15が取り付けられて、両スプロケット14,15間にはチェーン16が巻き掛けられている。また、両シャフト10,11を支持するバランサシャフトボディ4が両シャフト10,11のウエイト部10a,11aを露出させた状態で支持するスケルトン構造をしている。 【0025】 両シャフト10,11の後端側(図における右側)には、断面扇状(図7参照)のウエイト部10a,11aがそれぞれ2つづつ設けられている。その2つのウエイト部10a,10a:11a,11aの長手方向中間部には、該ウエイト部10a,11aの外径より小径のジャーナル部10b,11bが設けられている。」(第5頁第39行?第6頁第6行、段落【0024】及び【0025】参照) (d)「【0035】 図7?図9に示すように、バランサシャフト10,11は、それぞれシャフト本体10c,11cと軸方向視の断面が扇状に構成されたウエイト部10a,11aと、該ウエイト部10a,11aの長手方向中間に設けられたジャーナル部10b,11bとを有し、平行に配置されている。また、該ジャーナル部10b,11bが、リヤビーム32とベアリングキャップ25とに設けられたリヤ側軸受部62,63によって回動可能に支持されている。 【0036】 第1シャフトには、上記軸受部62,63の軸方向前後位置に一対のウエイト部10a,11aが同位相で設けられ、第2シャフト11は上記軸受部62,63の軸方向前後位置に、上記第1シャフト10の一対のウエイト部10a,10aと近接したときに、該ウエイト部10a,10aに軸方向視でオーバーラップし、かつその状態で、該一対のウエイト部10a,10aをそれぞれ挟む一対の凹状のウエイト部11a,11aが同位相で設けられている。 【0037】 図8に示すように、第1シャフト10の大径部10d,10dが第2シャフト11の小径部11d,11dの位置に対応しており、第2シャフト11の大径部11e,11e′は第1シャフト10の大径部10d,10dを挟むように設けられ、両ウエイト部10a,11aは接触しないようになっている。また、図9は両バランサシャフト10,11のウエイト部10a,11aが軸方向視でオーバーラップしている状態を表している。一方、クランクシャフト5からチェーン16を介して動力を得るスプロケット14は第2シャフト11に設けられている。 【0038】 次に、このバランサ装置1の作用について説明する。 【0039】 まず、エンジンを作動させると、クランクシャフト5の回転がチェーン16を介して第2シャフト11に伝達され、この第2シャフト11の回転が動力伝達ギヤ12,13を介して第1シャフト10に伝達される。その結果、第1シャフト10は第2シャフト11とは反対方向に回転することとなる。そして、この回転により、エンジンの各気筒の爆発によって生じる上下方向起振力に起因する振動が、互いに逆回転する一対の両シャフト10,11の回転によって生じる新たな上下起振力によって打ち消され、エンジンの振動及びこれに伴う騒音が低減されることとなる。なお、一般的な4気筒エンジンでは2次の起振力が問題となるため、両シャフト10,11はクランクシャフト5の倍速で回転し、2次の起振力を打ち消すようにしている。 【0040】 また、第2シャフト11はギヤ12,13を介して第1シャフト10に動力を伝達する。第2シャフト11はウエイト部11aの大径部11eが第1シャフト10のウエイト部10aの大径部10dを挟んでいるため、第1シャフト10よりシャフト本体11cを長くする必要があり、第2シャフト11の方がその分重量が大きい。しかも、第2シャフト11には巻き掛け部材を取り付けるための延長部が形成されているから、この点からも第2シャフト11の方が重量が大きくなる。スプロケット14は重い方のシャフトである第2シャフト11に設けられており、ギヤ12,13を介して軽い方の第1シャフト10は駆動される。これによって、ギヤ12,13同士の歯が当ったときのの衝撃が小さくなって歯打音の発生が抑えられる。」(第7頁第17行?第8頁第10行、段落【0035】?【0040】参照) (e)「【0047】 図9に示すように第1、第2シャフト10,11のウエイト部10a,10a:11a,11a同士を軸方向視でオーバーラップさせたから、両シャフト10,11の軸間距離を長くすることなくウエイト部10a,10a:11a,11aの径を大きくすることができ、その結果、必要なモーメントないし起振力の確保と、バランサ装置1の軽量化とを両立させることができる。 【0048】 その上で、単一の軸受部62,63を挟んで同じ構成のウエイト部10a,10a:11a,11aを一対配置したから、該軸受部62,63の両側の重量バランスが均衡し、上記単一の軸受部62,63のみの支持で、ウエイト部10a,10a:11a,11aの触れ周りが抑制され、シャフト10,11の歪が低減されて、良好な軸受が実現する。その結果、軸受部62,63とバランサシャフト10,11との摺動箇所が可及的に少なくなり、エンジンの駆動効率の低下が避けられる。 【0049】 しかも、第1、第2シャフト10,11で、相互に対応する位置に軸受部62,63を設けることができたから、共通の支持構造で同時に両シャフト10,11を軸受することが可能になり、軸受構造・支持構造の簡素が図れる。」(第8頁第45行?第9頁第11行、段落【0047】?【0049】参照) したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 【引用発明】 ウエイト部11aを有し、チェーン16を介してクランクシャフト5から回転力が伝達され、クランクシャフト5の1回転当たり2回転するように設定された第2シャフト11と、 該第2シャフト11に一体に設けられた動力伝達ギヤ12と、 ウエイト部10aを有し、前記第2シャフト11よりも軸方向の全長が短く形成された第1シャフト10と、 該第1シャフト10に一体に設けられ、前記動力伝達ギヤ12に噛合して、前記第2シャフト11と同じく、クランクシャフト5の1回転当たり2回転する回転力を第1シャフト10に伝達する動力伝達ギヤ13と、を備え、 前記駆動側のウエイト部11aと従動側のウエイト部10aを、軸方向視の断面が扇状でオーバーラップするように形成したエンジンのバランサ装置1。 3.対比・判断 本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「ウエイト部11a」は本願発明の「バランスウエイト」に相当し、以下同様に、「チェーン16」は「無端状の伝達部材」に、「クランクシャフト5」は「クランクシャフト」に、「第2シャフト11」は「駆動側シャフト」に、「動力伝達ギヤ12」は「駆動側ギア」に、「ウエイト部10a」は「バランスウエイト」に、「第1シャフト10」は「従動側シャフト」に、「動力伝達ギヤ13」は「従動側ギア」に、「バランサ装置1」は「バランサ装置」に、それぞれ相当するので、両者は下記の一致点、及び相違点1?3を有する。 <一致点> バランスウエイトを有し、無端状の伝達部材を介してクランクシャフトから回転力が伝達され、クランクシャフトの1回転当たり2回転するように設定された駆動側シャフトと、 該駆動側シャフトに一体に設けられた駆動側ギアと、 バランスウエイトを有し、前記駆動側シャフトよりも軸方向の全長が短く形成された従動側シャフトと、 該従動側シャフトに一体に設けられ、前記駆動側ギアに噛合して、前記駆動側シャフトと同じく、クランクシャフトの1回転当たり2回転する回転力を従動側シャフトに伝達する従動側ギアと、を備え、 前記駆動側のバランスウエイトと従動側のバランスウエイトを配置したエンジンのバランサ装置。 (相違点1) 前記無端状の伝達部材に関し、本願発明は「テンションが作用し」ているのに対し、引用発明は、そのような作用をしているかどうか明らかでない点。 (相違点2) 前記駆動側のバランスウエイトと従動側のバランスウエイトに関し、本願発明は、「同一の外形状に形成すると共に、同一の軸方向位置に配置し」たのに対し、引用発明は、軸方向視の断面が扇状でオーバーラップするように形成した点。 (相違点3) 本願発明は、「前記従動側シャフトにおける前記バランスウエイト以外の部位の外径を、対応する前記駆動側シャフトにおけるバランスウエイト以外の部位の外径よりも小さく形成した」のに対し、引用発明は、そのような構成を具備していない点。 そこで、上記相違点1?3について検討をする。 (相違点1について) エンジンのバランサ装置において、無端状の伝達部材(例えば、チェーン)を介してクランクシャフトから駆動側シャフトに回転力を伝達する際に、無端状の伝達部材にテンションを作用させることは、従来周知の技術手段(例えば、特開2004-308624号公報には、「シリンダブロック1には、バランサチェーン5を挟む位置にバランサチェーンに付勢力を加えるバランサチェーンテンショナ11とバランサチェーンガイド12が取り付けられ」[第6頁第40?42行、段落【0024】参照]と記載され、図1には、バランサチェーンテンショナ11が図示されている。)にすぎない。 してみれば、引用発明のチェーン16に、上記従来周知の技術手段を適用して、テンションを作用させて、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。 (相違点2について) 駆動側のバランスウエイトと従動側のバランスウエイトを、同一の外形状に形成すると共に、同一の軸方向位置に配置することは、従来周知の技術手段(例えば、特開2005-90690号公報には、「図6に示すように、第1、第2のバランサ軸11,12は、それぞれクランク軸6と平行に延びるように配置され、前後1対のウエイト部21,22と、前側のウエイト部21よりも前端部側に配置された回転伝達用の連動ギヤ23とを有して」[第6頁第26?28行、段落【0026】参照]と記載され、図6から、駆動側の第1バランサ軸11のウエイト部21、22と従動側の第2バランサ軸12のウエイト部21、22を、同一の外形状に形成すると共に、同一の軸方向位置に配置していることが看取できる。)にすぎない。 してみれば、引用発明の第1シャフト10(従動側シャフト)におけるウエイト部10aと第2シャフト11(駆動側シャフト)におけるウエイト部11aに、上記従来周知の技術手段を適用して、各ウエイト部を同一の外形状に形成すると共に、同一の軸方向位置に配置して、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。 (相違点3について) 刊行物1には、「エンジンが駆動したとき、両バランサシャフトを駆動するギヤがエンジンの回転変動によってギヤ同士の衝突が起こり歯打音が発生する。また、上記構成のバランサシャフトは第2シャフトのウエイト部が第1シャフトのウエイト部を挟む構成をしているので、第2シャフトの端部は第1シャフトよりも突出させる必要がある。そのため、第1シャフトより第2シャフトの方が重量が大きくなる。この発明によれば、重い第2シャフトで軽い第1シャフトを駆動するので、ギヤ同士が当ったときの衝撃が小さくなり、歯打音が抑えられる。しかも、第2シャフトには、巻き掛け部材を取り付けるための延長部が形成されているから、この点からも第2シャフトが重くなり、歯打音を抑える効果が増す。」(第4頁第28?36行、段落【0014】、上記摘記事項(b)参照)、及び「第2シャフト11はギヤ12,13を介して第1シャフト10に動力を伝達する。第2シャフト11はウエイト部11aの大径部11eが第1シャフト10のウエイト部10aの大径部10dを挟んでいるため、第1シャフト10よりシャフト本体11cを長くする必要があり、第2シャフト11の方がその分重量が大きい。しかも、第2シャフト11には巻き掛け部材を取り付けるための延長部が形成されているから、この点からも第2シャフト11の方が重量が大きくなる。スプロケット14は重い方のシャフトである第2シャフト11に設けられており、ギヤ12,13を介して軽い方の第1シャフト10は駆動される。これによって、ギヤ12,13同士の歯が当ったときのの衝撃が小さくなって歯打音の発生が抑えられる。」(第8頁第2?10行、段落【0040】、上記摘記事項(d)参照)と記載され、刊行物1には、重い方のシャフトである第2シャフト11(駆動側シャフト)により、動力伝達ギヤ12,13を介して軽い方の第1シャフト10(従動側シャフト)が駆動されるように構成することによって、動力伝達ギヤ12,13同士の歯が当ったときの衝撃が小さくなって歯打音の発生が抑えられることが記載又は示唆されている。そして、第1シャフト10(従動側シャフト)を第2シャフト11(駆動側シャフト)よりも軽くする方法として、第1シャフト10(従動側シャフト)の軸径を第2シャフト11(駆動側シャフト)の軸径よりも小さくすることは、当業者が最も普通に考えつくことである。 なお、刊行物1には、上記(相違点2について)において述べた、駆動側のウエイト部11aと従動側のウエイト部10aを、同一の外形状に形成すると共に、同一の軸方向位置に配置した場合においては、第2シャフト11(駆動側シャフト)はウエイト部11aの大径部11eが第1シャフト10(従動側シャフト)のウエイト部10aの大径部10dを挟まなくなるため、第1シャフト10(従動側シャフト)よりシャフト本体11cはそれほど長くしなくてもよいことから、その分、より一層、第1シャフト10(従動側シャフト)を、第2シャフト11(駆動側シャフト)よりも軽くしよう、すなわち、第1シャフト10(従動側シャフト)におけるウエイト部10a以外の部位の外径を、対応する第2シャフト11(駆動側シャフト)におけるウエイト部11a以外の部位の外径よりも小さく形成することによって、歯打音の発生を抑えよう、という起因ないし契機(動機付け)があるといえる。 また、引用発明において、クランクシャフト5からチェーン16によってスプロケット14に回転力が伝達される際に、テンションが作用して荷重が掛かるため、スプロケット14に作用する曲げや捻りは、第2シャフト11(駆動側シャフト)の全体に対して曲げモーメントや捻りモーメントとして作用していることは、技術的に自明である。 言い換えれば、引用発明において、クランクシャフト5からチェーン16によってスプロケット14に回転力が伝達される際に、テンションが作用して荷重が掛かるため、第2シャフト11(駆動側シャフト)には曲げモーメントや捻りモーメントが作用する一方、第1シャフト10(従動側シャフト)は、クランクシャフト5から回転力が直接的に伝達される部分ではないため、第2シャフト11(駆動側シャフト)と比較して、曲げモーメントや捻りモーメントがあまりかからない部分であることは、技術的に自明の事項である。 そして、軸の技術分野において、力のあまりかからない部分の軸の軸径を、力のかかる部分の軸の軸径より小さくすることは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物2の「6.2 軸径の決め方」「6・2・1方針」を参照。さらに必要であれば、谷口修著、「機械工学大要」、第2次改著後の第11版、株式会社養賢堂、昭和50年12月1日、第25頁第2行?第31頁第2行、特に、「6.軸」中の式(6.6)、式(6.19)から、軸の許しうる最小の直径d_(min)が、ねじりモーメントT、曲げモーメントMの関数となっている点を参照。)にすぎない。そうすると、第1シャフト10(従動側シャフト)を第2シャフト11(駆動側シャフト)に比べて、軸径を小さくしてもよいことは、当業者であれば容易に理解し得ることである。 してみれば、引用発明の第1シャフト10(従動側シャフト)に、上記従来周知の技術手段を適用して、第1シャフト10(従動側シャフト)におけるウエイト部10a以外の部位の外径を、対応する第2シャフト11(駆動側シャフト)におけるウエイト部11a以外の部位の外径よりも小さく形成し、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。 本願発明が奏する効果についてみても、引用発明、及び従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお、審判請求人は、当審における拒絶理由に対する平成24年6月11日付けの意見書において、「確かに、刊行物1における第2シャフト11のスプロケット14と動力伝達ギア12との間の部位には大きな回転力が作用することから、この部位の軸径は大きくする必要性はある。しかし、前記第1、第2シャフト10,11の動力伝達ギア12、13からウエイト10a、11a側までの部位は、伝達される回転力は同じであって力のかかり方も同じであるから、この部位における駆動側と従動側で軸径を異ならせるといった動機付けはないはずである。 換言すれば、第2シャフト11側では、スプロケット14と動力伝達ギア12との間と、動力伝達ギア12とバランスウエイト11aとの間を同じ軸径としなければならないとする理由はない。 実際的にも、第2シャフト11とバランサウエイト部11aとは、成形型などによって一体成形させるものであって、第2シャフト11のスプロケット14と動力伝達ギア12との間の部位と、動力伝達ギア12とバランサウエイト11aとの間の部位を一緒に切削加工するようなことはないのであるから、両者の部位を同じ軸径とする必要性は全くないのである。 これに対して、本願発明では、駆動側シャフトと従動側シャフトの軸径を、両シャフトに作用する回転力の差異を考慮して決めた訳ではなく、前述したように、駆動側シャフトが無端状の伝達部材のテンションやバランスウエイトの回転による変形を考慮して決定したのである。」(「2.本願発明の内容」「(4)特許法第29条第2項違反について」「a.本願発明と刊行物1に係る発明との対比」「〔審判官の指摘に対して〕」の項を参照)と主張している。 しかしながら、刊行物1に記載された第2シャフト11(駆動側シャフト)は、1本のシャフトであるから、第2シャフト11(駆動側シャフト)の全体に対しての力、モーメントのかかり具合を検討すべきものであって、審判請求人が主張するように、第2シャフト11(駆動側シャフト)にかかる力、モーメントについて、「スプロケット14と動力伝達ギヤ12との間の部位」と、「動力伝達ギヤ12とウエイト部11aとの間の部位」の2つの部分に分けて扱うべき理由はない。上記(相違点3について)において述べたように、スプロケット14に作用する曲げや捻りは、第2シャフト11(駆動側シャフト)の全体に対して曲げモーメントや捻りモーメントとして作用していることは、技術的に自明である。 よって、上記(相違点1について)?(相違点3について)において述べたように、本願発明は、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段から当業者が容易に想到し得たものであるところ、審判請求人が主張する本願発明が奏する作用効果は、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものにすぎず、本願発明の構成を備えることによって、本願発明が、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものとは異なる、相乗的で予想外の作用効果を奏するとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。 4.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願の請求項2及び3に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-12-05 |
結審通知日 | 2012-12-11 |
審決日 | 2012-12-25 |
出願番号 | 特願2006-183999(P2006-183999) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 所村 陽一、竹村 秀康 |
特許庁審判長 |
川本 真裕 |
特許庁審判官 |
常盤 務 窪田 治彦 |
発明の名称 | エンジンのバランサ装置 |
代理人 | 小林 博通 |