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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1270177
審判番号 不服2011-23736  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-02 
確定日 2013-02-14 
事件の表示 特願2010-113497「放射線検出器」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月28日出願公開、特開2010-246129〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成12年4月10日(優先日:平成11年6月7日)の出願である特願2000-108099号の一部を平成22年5月17日に新たな特許出願としたものであって、平成23年4月22日付けで手続補正がなされた後、同年7月28日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、前記拒絶査定を不服として、同年11月2日に請求された拒絶査定不服審判であって、請求と同時に手続補正がなされ、その後、当審の平成24年8月7日付け審尋に対して同年10月22日に回答書が提出されたものである。

第2 平成23年11月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成23年11月2日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、そのうち特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、本件補正前の
「【請求項1】
入射したX線を電荷に変換する電荷変換手段と、
前記変換された電荷を蓄積するキャパシタと、
前記キャパシタに蓄積された電荷を信号線に読み出す読出用スイッチング素子と、
前記信号線に接続され、前記読出用スイッチング素子とともに同一基板上に形成される調整用スイッチング素子と、
前記読出用スイッチング素子を介して前記信号線に読み出された電荷を積分するために、前記読出用スイッチング素子を介して前記信号線に読み出された信号を増幅するアンプと積分用のキャパシタとを有する積分回路と、
前記読出用スイッチング素子と前記調整用スイッチング素子とを駆動するドライバとを備え、
前記ドライバは、前記読出用スイッチング素子と前記調整用スイッチング素子とを逆相で動作させることを特徴とするX線検出器。」を
「【請求項1】
入射したX線を電荷に変換する電荷変換手段と、
前記変換された電荷を蓄積するキャパシタと、
前記キャパシタに蓄積された電荷を信号線に読み出す読出用スイッチング素子と、
前記信号線に接続され、前記読出用スイッチング素子とともに同一基板上に形成される調整用スイッチング素子と、
前記読出用スイッチング素子を介して前記信号線に読み出された電荷を積分するために、前記読出用スイッチング素子を介して前記信号線に読み出された信号を増幅するアンプと積分用のキャパシタとを有する積分回路と、
前記読出用スイッチング素子と前記調整用スイッチング素子とを駆動するドライバとを備え、
前記ドライバは、前記読出用スイッチング素子と前記調整用スイッチング素子とを逆相で動作させて、前記読出用スイッチング素子のスイッチングにより生じるオフセット電圧を打ち消すものであることを特徴とするX線検出器。」と補正するものである。

2 補正の目的についての検討
上記本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を補正したものであって、本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「ドライバ」に関し、「読出用スイッチング素子のスイッチングにより生じるオフセット電圧を打ち消すものである」点を追加する補正事項を含むものであり、この補正は明らかに本件補正前の請求項1に係る発明を限定的に減縮するものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下単に「特許法第17条の2」という。)第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。

3 本件補正発明
本件補正発明は、補正後の特許請求の範囲の第1項に記載された上記のとおりのものである。(上記「第2」[理由]「1」参照。)

4 引用刊行物
(1)引用刊行物1
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前である平成4年8月4日に頒布された「特開平4-212456号公報 」(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)
a 発明の詳細な説明の記載
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、マトリックスの行及び列に配置され、照射の入射量に保存する電荷を発生する光感知又はX線感知センサからなり、該センサのそれぞれは電気スイッチよりなり、薄膜技術を用いて電気スイッチのように構成され、各センサ行に対してスイッチングラインが設けられそれを介してスイッチは、関連の活性化されたセンサ行の電荷が読取ラインを介して同時に出力されるように活性化され、又並列に読出される信号を直列信号に変換する転送手段からなる装置に係る。」
「【0030】図1にその幾つかを示す、各センサ光センサ素子からなる。適切な半導体が用いられる時、この光センサ素子自体既に、X線に感知する。しかし、X線がホトダイオード上に設けられた燐層に入射する場合、光を受ける光感知ホトダイオードでよい。図において、ホトセンサ素子はホトダイオード1として示される。更に、各センサは記憶容量2を有する。ホトダイオード1のアノード及び記憶容量2の電極は共に負の直流バイアスを設ける直流電圧源4に接続される。ホトダイオード1のカソード及び記憶容量2の別な電極は又スイッチ電界効果トランジスタ3のソース端子に接続される。
【0031】マトリックスの全てのセンサは各ホトダイオード1と、記憶容量2と、電界効果トランジスタ3とからなり、薄膜技術により全て製造される。
【0032】照射がホトダイオード1上に入射する時、ホトダイオードは導通により、直流電圧源4により導入されるバイアスにより、電荷は記憶容量2に転送され、電荷の量はホトダイオード1に入射され照射の強度に依存する。所定時間の後に容量2に蓄えられた電荷は照射強度を表わす。この電荷はスイッチングトランジスタ3を介して各センサ素子に対し個別に読出されうる。
【0033】この為に、センサマトリックスの各行に対し、スイッチングラインが設けられる。図1の表示では、スイッチングライン5が第1のラインに対し設けられ、スイッチングライン6は第2のラインに対し設けられ、スイッチングライン7は行2000に対し設けられる。これらのスイッチングラインはセンサ内の電界効果トランジスタ3のゲート端子に接続される。従って、スイッチングラインは関連した行のトランジスタ3を活性化する。例えば、スイッチングライン5はマトリックスの第1の行の全てのトランジスタ3を活性化する。
【0034】スイッチングライン5,6,7及び図示しない更なるスイッチングラインはディジタルデコーダ30により制御されうる。ディジタルデコーダ30は、センサ内に蓄えられた電荷に対する読出動作中センサマトリックスの行を順次活性化するのに役立つ。これは、例えば初めに第1行に対するスイッチングライン5がそのトランジスタが活性化され、これによりトランジスタが導直になり、次にスイッチングライン6が第2行のトランジスタを活性化するよう活性化され、行2000になるまで続けられる。ディジタルデコーダ30自体は制御ライン31を介して制御される。これは例えば、図示されてない、読出動作に対する全ての制御を提供するマイクロプロセッサにより実現されうる。
【0035】図1に部分的に示されるマトリックスの各列に対して、各読出ラインが設けられる。例えば、単にセンサS_(1) ,_(1) ,S_(2),_(1) 及びS_(2000),_(1)のみを図に示す第1列は読出ライン8からなる。同様に、第2行は読出ライン9からなり、図に示される列128は読出ライン10からなる。図示していない列は又各読出ラインからなる。読出ラインは共に関連した列の電界効果トランジスタ3のドレーン端子に接続される。例えば第1列の読出ライン8はこの列に配置される全てのセンサの電界効果トランジスタ3のドレーン端子に接続される。
【0036】各読出ラインにおいて、読出ライン8,9及び10のみが図示されているが、増幅器が設けられる。図1中、増幅器11は読出ライン8内に設けられ、増幅器12は読出ライン9内に設けられ、一方増幅器13は読出ライン10内に設けられる。増幅器は、それが個別のセンサから生じる電荷を増幅するよう読出ラインン内に夫々配置される。
【0037】増幅器の後にその入力が増幅器の出力に接続されるアナログマルチプレクサ14が続く。増幅器は、電流積分器として接続され、従来のシリコン結晶技術を用いて製造される。
【0038】例えば、第1行が読出される時、この行にあるセンサの電界効果トランジスタ3はスイッチングライン5を介して活性化される。次に、この行にあるセンサの容量2に蓄えられた電荷は関連するセンサの電界効果トランジスタ3及び読出ラインを介して出力される。従って、この場合には、この行の全てのセンサは同時に活性化され、センサ内に蓄えられた電荷は読出ラインを介して同時に出力される。図示されたセンサに対し、これは電荷が読出ライン8,9及び10とこれに続く増幅器11,12及び13を介してアナログマルチプレクサ14に到ることを意味する。アナログマルチプレクサ14では同時に並列に着く電荷はマルチプレクサの直列出力15に現われる直列信号に変換される。マルチプレクサ15は、制御されうる制御ライン16を介して、例えばディジタルディコーダ8のように図示していない外部プロセッサにより制御されうる。」

b 図面の記載



上記図1の装置の記載からして、図1には、スイッチングトランジスタ3に接続された読み出しライン8に増幅器11が設けられ、増幅器11と並列にキャパシタが接続された装置が記載されている。

c 引用例1記載の発明
a、bの記載事項によると、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「X線が入射するホトダイオード1を備え、
照射がホトダイオード1上に入射する時、電荷は記憶容量2に転送され、
記憶容量2はスイッチ電界効果トランジスタ3のソース端子に接続され、
読出ライン8は電界効果トランジスタ3のドレーン端子に接続され、
記憶容量2に蓄えられた電荷は電界効果トランジスタ3及び読出ライン8を介して出力され、
電荷が読出ライン8とこれに続く増幅器11に到り、
増幅器11と並列にキャパシタが接続され、
増幅器11は、電流積分器として接続され、
スイッチングラインは関連した行のトランジスタ3を活性化し、
スイッチングラインはディジタルデコーダ30により制御される
X線感知センサを有する装置。」

(2)引用刊行物2
また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前である平成元年7月24日に頒布された「特開平1-185066号公報 」(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
a 発明の詳細な説明の記載
「第4図は第3発明の画像読取り方式を実施するリニアイメージセンサの等価回路図である。信号用スイッチS_(11)と受光素子1との直列回路から信号用スイッチS_(1m)と受光素子lとの直列回路まで多数の同様の直列回路が並列接続されており、同様にして信号用スイッチS_(n-11)からS_(nm)まで、また信号用スイッチS_(n1)からS_(nm)まで多数の同様の直列回路が並列接続されている。受光素子lの信号用スイッチS_(11)…S_(nm)を接続していない側は直流バイアス電源V_(BB)を介して接地されている。また信号用スイッチS_(11)からS_(1m)までの回路群がブロックB_(1)、信号用スイッチS_(n-11)からS_(n-1m)までの回路群がブロックB_(n-1)、信号用スイッチS_(n1)からS_(nm)までの回路群がブロックB_(n)となっている。そしてクロック信号CLKを与えるシフトレジスタ10の出力を、各信号用スイッチS_(11)からS_(nm)を夫々駆動すべくそれらのゲートに入力している。ブロックB_(1),B_(n-1),B_(n)の各出力信号は例えばアナログスイッチであるブロック選択スイッチSB_(1),SB_(n-1),SB_(n)の一端子に与えられている。各ブロックB_(1),B_(n-1),B_(n)の各信号用スイッチS_(11)からS_(1m),S_(n-11)からS_(n-1m),S_(n)からS_(nm)の夫々の一端を共通接続している接続中間点には、夫々に1個のダミースイッチd_(1),d_(n-1)d_(n)の一側を接続しており、他側は開放されている。このダミースイッチd_(1),d_(n-1),d_(n)のゲートにはシフトレジスタ10に与えるクロック信号CLK(注:実際の記載は、「CLK」にアッパーラインが付してある。)の反転信号CLK〔第13図(a),(b)参照〕が与えられており、各ブロックB_(1),B_(n-1),B_(n)内の信号用スイッチS_(11)からS_(1m)まで、S_(n-11)からS_(n-1m)まで、S_(n1)からS_(nm)までの夫々の信号用スイッチと同じタイミングで動作するようになっている。ブロックB_(1),B_(n-1),B_(n)の各出力信号は、例えばアナログスイッチであるブロック選択スイッチSB_(1),SB_(n-1),SB_(n)の一端子に夫々与えられており、各ブロック選択スイッチSB_(1),SB_(n-1),SB_(n)の他端子は共通に接続されて負荷抵抗R_(L)を介して接地されるとともに、増幅器11の入力側と接続されている。増幅器11は入力された信号を増幅して画像信号V_(0)を光信号出力端子5に出力するようになっている。
このように構成したリニアイメージセンサは、スタートパルスに続いてクロック信号CLKをシフトレジスタ10に与えると、信号用スイッチS_(11)が先づ動作し信号用スイッチS_(1n)まで順次時系列的に動作する。そしてブロックB_(1)内の動作を終了すると、後段のブロックB_(n-1)の信号用スイッチS_(n-11)へ移行して信号用スイッチS_(n-1m)まで順次時系列的に動作し、その後ブロックB_(n)に移行して同様の動作をする。そして、ブロックB_(1)内の信号用スイッチS_(11)からS_(1m)までの各信号用スイッチに与えられるシフトレジスタ10の出力信号と位相が反転している出力信号がダミースイッチd_(1)に与えられて、各信号用スイッチと同じタイミングでダミースイッチが動作する。またブロックB_(1)内の信号用スイッチS_(11)からS_(1m)まで時系列的に動作している場合はブロック選択スイッチSB_(1)が閉路し、他のブロック選択スイッチSB_(n-1),SB_(n)がともに開路する。それ故、ブロックB_(1)の出力信号が増幅器11で増幅されて画像信号V_(0)を出力することになる。そして他のブロックB_(n-1),B_(n)についてもダミースイッチd_(n-1),d_(n)及びブロック選択スイッチSB_(n-1),SB_(n)が前記同様の動作をして画像信号V_(0)を出力することになる。
ところで、受光素子1を切換える例えば信号用スイッチS_(11)は第5図に示す如く、ゲートとチャネルとの間の容量C_(1)によってスイッチングノイズが発生する。このスイッチングノイズは信号用スイッチS_(11)の閉路時と開路時の大きさが略等しく、第7図(a)の破線に続いている実線の如く閉路時は正側に、開路時は負側に生じる。一方、例えばダミースイッチd_(1)は第5図に示す如くゲートとチャネルとの間の容量C_(2)によるスイッチングノイズが発生する。このスイッチングノイズは第7図(b)に示す如く容量C_(1)によるスイッチングノイズと同じ大きさで逆位相のものが生じる。そして、これらのスイッチングノイズは同じタイミングで同一回路内に発生するから両スイッチングノイズが相殺して増幅器11が出力する画像信号V_(0)は第7図(c)如くスイッチングノイズを含まないものとなる。そしてこのような現象を実験によって確認し得た。したがって、スイッチングノイズの消滅により高S/Nで読取速度が速いリニアイメージセンサを提供できる。またシフトレジスタ10にクロック信号CLKを与えると接地ラインにはそれに同期した誘導ノイズが発生するが、クロック信号と逆位相のパルス信号を与えることにより、この誘導ノイズも等価的に相殺できる効果もある。」(第5頁左下欄第2行?第6頁左下欄第9行)

b 図面の記載













5 本件補正発明と引用発明の対比
(1)引用発明の「ホトダイオード1」は本件補正発明の「電荷変換手段」に相当するから、引用発明の「X線が入射するホトダイオード1を備え、照射がホトダイオード1上に入射する時、電荷は記憶容量2に転送され」る点は、本件補正発明の「入射したX線を電荷に変換する電荷変換手段」を備える点に相当する。

(2)引用発明の「記憶容量2」は本件補正発明の「キャパシタ」に相当するから、引用発明の「電荷」を「蓄え」る「記憶容量2」は本件補正発明の「変換された電荷を蓄積するキャパシタ」に相当する。

(3)引用発明の「電界効果トランジスタ3」及び「読出ライン8」は、本件補正発明の「読出用スイッチング素子」及び「信号線」にそれぞれ相当する。
そして、引用発明は「スイッチ電界効果トランジスタ3のソース端子に」「記憶容量2」が接続され、「電界効果トランジスタ3のドレーン端子に」「読出ライン8」が接続され、しかも、「記憶容量2に蓄えられた電荷は電界効果トランジスタ3及び読出ライン8を介して出力され」るものであるから、引用発明の「電界効果トランジスタ3」は「記憶容量2に蓄えられた電荷」を「読出ライン8」に読み出すものであるといえる。
そうすると、引用発明の「記憶容量2はスイッチ電界効果トランジスタ3のソース端子に接続され、読出ライン8は電界効果トランジスタ3のドレーン端子に接続され、記憶容量2に蓄えられた電荷は電界効果トランジスタ3及び読出ライン8を介して出力され」る点は、本件補正発明の「キャパシタに蓄積された電荷を信号線に読み出す読出用スイッチング素子」を備える点に相当する。

(4)引用発明の「増幅器11」は本件補正発明の「信号を増幅するアンプ」に相当する。
また、引用発明は「記憶容量2に蓄えられた電荷は電界効果トランジスタ3及び読出ライン8を介して出力され」るものであるから、引用発明の「読出ライン8とこれに続く増幅器11に到」る「電荷」は、本件補正発明の「読出用スイッチング素子を介して前記信号線に読み出された電荷」に相当する。
ここで、オペアンプ(本件補正発明の「信号を増幅するアンプ」がこれに相当。)とキャパシタを並列に接続した積分回路は、従来から慣用的に用いられているものであり、また、引用発明の「増幅器11は、電流積分器として接続され」ているものであるから、引用発明の「増幅器11」と「キャパシタ」が「並列に」接続された回路は「積分回路」であるといえる。
そうすると、引用発明の「キャパシタ」は本件補正発明の「積分用のキャパシタ」に相当し、引用発明の「読出ライン8とこれに続く増幅器11」「と並列にキャパシタが接続され、増幅器11は、電流積分器として接続され」る点は、本件補正発明の「読出用スイッチング素子を介して前記信号線に読み出された信号を増幅するアンプと積分用のキャパシタとを有する積分回路」に相当する。
したがって、引用発明の「電荷が読出ライン8とこれに続く増幅器11に到り、増幅器11と並列にキャパシタが接続され、増幅器11は、電流積分器として接続され」る点は、本件補正発明の「読出用スイッチング素子を介して前記信号線に読み出された電荷を積分するために、前記読出用スイッチング素子を介して前記信号線に読み出された信号を増幅するアンプと積分用のキャパシタとを有する積分回路」を備える点に相当する。

(5)引用発明は「トランジスタ3を活性化」する「スイッチングライン」が「ディジタルデコーダ30により制御される」ものであるから、引用発明の「ディジタルデコーダ30」は本件補正発明の「ドライバ」に相当する。
そうすると、引用発明の「スイッチングラインは関連した行のトランジスタ3を活性化し、スイッチングラインはディジタルデコーダ30により制御される」点と、本件補正発明の「読出用スイッチング素子と前記調整用スイッチング素子とを駆動するドライバ」を備える点とは、「読出用スイッチング素子」「を駆動するドライバ」を備える点で一致する。

(6)引用発明の「X線感知センサを有する装置」は、本件補正発明の「X線検出器」に相当する。

上記(1)?(6)の点から、本件補正発明と引用発明は、
「入射したX線を電荷に変換する電荷変換手段と、
前記変換された電荷を蓄積するキャパシタと、
前記キャパシタに蓄積された電荷を信号線に読み出す読出用スイッチング素子と、
前記読出用スイッチング素子を介して前記信号線に読み出された電荷を積分するために、前記読出用スイッチング素子を介して前記信号線に読み出された信号を増幅するアンプと積分用のキャパシタとを有する積分回路と、
前記読出用スイッチング素子を駆動するドライバとを備える
X線検出器。」
で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本件補正発明は、信号線に接続され、読出用スイッチング素子とともに同一基板上に形成される調整用スイッチング素子、及び、調整用スイッチング素子を駆動するドライバを備え、かつ、ドライバは、読出用スイッチング素子と調整用スイッチング素子とを逆相で動作させて、読出用スイッチング素子のスイッチングにより生じるオフセット電圧を打ち消すのに対し、引用発明は、これらの構成を備えていない点。

6 当審の判断
以下、上記相違点について検討する。
信号線(引用例2では、ブロックB_(1),B_(n-1),B_(n)からブロック選択スイッチSB_(1),SB_(n-1),SB_(n)にそれぞれ至る配線がこれに相当。)に接続され、読出用スイッチング素子と逆相で動作させて、読出用スイッチング素子(引用例2では、信号用スイッチS_(11)からS_(1m),S_(n-11)からS_(n-1m),S_(n1)からS_(nm)がこれに相当。)のスイッチングにより生じるオフセット電圧(引用例2では、スイッチングノイズにより生じる電圧変化がこれに相当。)を打ち消す調整用スイッチング素子(引用例2では、ダミースイッチd_(1),d_(n-1),d_(n)がこれに相当。)を設ける点が、引用例2に記載されている。
そして、X線検出器において、スイッチングによる信号読出の際にスイッチングノイズが問題となることは、例えば、特開平11-87681号公報(【0001】、【0010】参照。)、特開平11-52058号公報(【0001】、【0008】参照。)に記載されているように周知の課題であるから、X線検出器に関する発明である引用発明においても同様の課題を有することは明らかである。
したがって、引用発明において引用例2に記載の発明を適用し、信号線に接続され、読出用スイッチング素子と逆相で動作させて、読出用スイッチング素子のスイッチングにより生じるオフセット電圧を打ち消す調整用スイッチング素子を設けることは、当業者が容易になしえたことである。
そして、引用発明のような、マトリックス状に光電変換素子が配置された検出器において、光電変換素子からマルチプレクサに至るパーツを同一基板上に形成すること及びスイッチング素子をドライバにより駆動させることは、いずれも慣用的に行われている周知技術であるから、上記の調整用スイッチング素子を設ける際に、読出用スイッチング素子と調整用スイッチング素子とを同一基板上に形成し、かつ、読出用スイッチング素子のスイッチングにより生じるオフセット電圧を打ち消す調整用スイッチング素子の動作をドライバにより行うことに格別の困難性はない。

相違点については上記のとおりであり、本件補正発明によってもたらされる効果は、引用発明、引用例2記載の発明及び周知技術から当業者が当然に予測できる範囲内のものと認められる。
よって、本件補正発明は、引用発明、引用例2記載の発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

7 本件補正についての補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成23年11月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年5月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。(上記「第2」[理由]「1」参照。)

2 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された引用刊行物及びその記載事項、並びに引用発明は、上記「第2」[理由]「4」に記載したとおりである。

3 対比及び当審の判断
本願発明は、本件補正発明の発明の特定事項である「ドライバ」に関し、「読出用スイッチング素子のスイッチングにより生じるオフセット電圧を打ち消すものである」点を削除したものである。
したがって、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記点を追加した本件補正発明が、上記「第2」[理由]「6」に記載したとおり、引用発明、引用例2記載の発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明、引用例2記載の発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2記載の発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-05 
結審通知日 2012-12-11 
審決日 2012-12-25 
出願番号 特願2010-113497(P2010-113497)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木下 忠  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 伊藤 昌哉
土屋 知久
発明の名称 放射線検出器  
代理人 堀内 美保子  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 河野 直樹  
代理人 白根 俊郎  
代理人 中村 誠  
代理人 岡田 貴志  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 竹内 将訓  
代理人 峰 隆司  
代理人 河野 哲  
代理人 佐藤 立志  
代理人 野河 信久  
代理人 福原 淑弘  
代理人 村松 貞男  
代理人 砂川 克  

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