• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1270182
審判番号 不服2011-25272  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-24 
確定日 2013-02-14 
事件の表示 特願2008-182263「ボールねじ用シール及びこのボールねじ用シールを用いたボールねじ」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月20日出願公開、特開2008-281205〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年3月7日に出願した特願2002-62602号(以下、「原出願」という。)の一部を平成20年7月14日に新たな特許出願としたものであって、平成23年8月19日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成23年11月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
そして、本願の請求項1?4に係る発明は、平成23年2月18日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
ボールねじナットの両端に装着されるボールねじ用シールであって、
ボールねじ軸の軸直角断面形状に対応した孔を有し、ボールねじナットの外部から内部へ異物が浸入するのを防止するための異物除去部材と、
ボールねじ軸の軸直角断面形状に形状を合わせた異形の円状の孔を有し、ボールねじナットの内部の潤滑剤を保持するための密封部材とを備え、
前記異物除去部材及び前記密封部材は、互いに重ねられると共に、それぞれの内周がボールねじ軸のボール転走面及び外周面に接触し、さらに、
前記ボールねじナットの軸線方向において、外側に位置する少なくとも1つの異物除去部材と、当該外側に位置する異物除去部材よりも内側に位置する密封部材とを備え、
前記異物除去部材の内周には、前記ボールねじ軸のボール転走面に嵌合する螺旋状の突部が設けられ、
前記異物除去部材の前記ボールねじナットの軸線方向外側を向く端面から前記異物除去部材の途中までに、異物を掻き揚げて前記ボールねじナットの外部に排出する異物除去用開口が設けられ、
前記密封部材は、薄板状に形成されるとともに、潤滑剤を吸収可能であることを特徴とするボールねじ用シール。」

2.原査定の拒絶理由に引用され、本願の原出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特開平2-229949号公報
(2)刊行物2:特開2000-145916号公報
(3)刊行物3:実願昭51-129445号(実開昭53-47476号)のマイクロフィルム
(4)刊行物4:特開平9-303517号公報
(5)刊行物5:特開平1-172676号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「ボール・ベヤリングねじ及び類似品用のシールとスクレーパの組立体」に関して、図面とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「本発明はボールとねじとナットの作動装置及び類似の装置用のシールとスクレーパの組立体に関する。」(第4頁左上欄第14?16行)
(b)「さて添附図面をよりよく参照して、また第1に第1図を参照して、代表的ボール・ナットとねじの組立体は一般に10で示すねじを含み、このねじは一般に11で示すボール・ナットと共に組み立てられる。ねじ10は連続した螺旋状のねじ10aを有し、またボール13に対して軌道輪路を与える半円形断面を有する連続した螺旋状の溝12を有する。この軌道輪路はナット11とねじ10の相対的回転と平行移動を比較的に低い摩擦障害で許す。第2図が示すように、ボール・ナット11は通常のやり方で螺旋状の突起14aによって限定される組み合う内方の螺旋状の溝14を有し、ボールの再循環を行なうため螺旋状の溝12のいくつかの旋回にわたって延びるボールの返り15を有する。固定板16は、固定具17によって確保されるが、ボールの返り15を所定の位置に確保するため設けられる。トラニオンTはナット11のうえに設けられてボールねじとナットの組立体を所定の位置に取り付けることを容易にする。
ボール・ナット11の各端のところに、従来のやり方で、停止面肩部18が設けられてねじ10に確保される停止具20のうえに設けられる停止表面19と協力する。これらの停止具はねじ10とナット11の許される相対的軸線方向の移動を画定する。」(第5頁右上欄第2行?左下欄第7行)
(c)「第2図が詳しく示すように、ナット11は、各端のところで、21において深ざぐりされて差し込まれる内方周辺表面21a及び半径方向の壁21bを与える。深ざぐり21はナット11の各端のところでスクレーパとシール・リングを受け入れる表面を与え、これらの表面は第2図から第8図に詳しく開示される性格のものである。
各シールとスクレーパの組立体は一般に22で示す弾性のあるシール・リングと一般に23に示される組み合う装置外のスクレーパ・リングを含む。ナット11とねじ10は通常剛性のある金属材料から形成され、部材22と23の両者は非金属材料から形成されることができる。部材23は代表的なものではフェノール樹脂系プラスチックのような材料から形成される剛性のあるリングであるが、リング22は弾性のあるリトリル(「ニトリル」の誤記と思われる。)または他の適当な弾性のあるゴム状の材料から形成されることができる。リング23はまた金属から形成されることができる。代表的な場合、シール22はジュロ・メータの等級で40?90のあいだの値を有するであろう。」(第5頁左下欄第8行?右下欄第8行)
(d)「リング23の半径方向で内方の表面は螺旋状にねじが切られてねじ10のねじ山10aと溝12に緊密に組み合い、またねじのピッチの程度はねじ溝12の2個の螺旋状の旋回が半径方向で内方に突出するリングのねじ山23b(「23h」の誤記と思われる。以下同様。)によって蔽われる。ねじ山23bはねじ溝12のなかに収容されて第2図に示されるようにねじ10のねじ山10aを受け入れる螺旋状の溝の部分23iを画定する。」(第6頁左上欄第11?19行)
(e)「壁22iより半径方向で内側にあり、また壁22iから例えば29のところで円周方向で離れてワイパねじ部分22jがあり、これはねじからグリースまたは潤滑剤を拭き取りそれを装置内の方へ返す傾向がある。内方ではリング22は、スプライン突起22eから装置内で、ねじ10と組み合うようねじが切られ、またそれにより、ねじ山突起22jに加えて、ねじ溝22lを有し、それらのすべては集まってシールとスクレーパの両方として機能する。中断されるスクレーパねじは端22kを持ち、それはねじの残りの部分の内側に半径方向に突出しまた端がねじ溝22lと係合するとき圧縮される。リングの内方のねじを切った部分ねじのねじ山突起10aの少なくとも1つの旋回を蔽い、またその各側にある隣接するねじの各々の溝12のなかに延びる。」(第6頁左下欄第14行?右下欄第9行)
(f)「第7図に特に示されるように、また米国特許第4,407,511号に開示されるように、ねじの形状をしたシール部分22jはいくつかの一般に半径方向のスクレーパまたはワイパ表面30によって中断される。表面30はねじ10の半径方向と鈍角で交差する。各スクレーパ表面30から円周方向で隔てられ、また31においてのようにスクレーパ表面30から円周方向である距離離されて、表面30に対向して軸線方向で傾斜した潤滑油の返り面32があり、これはナットの外方端に対して軸線方向で内方に潤滑剤を方向づけるためのものである。スクレーパ表面30は前縁30aを有し、これは圧縮しない状態では、ねじの形状をしたシール部分22jから半径方向で内方に延び、また第2図に示すようによって所定の位置に設置されるとき半径方向に圧縮される。各スクレーパ表面30はウエブ33によってリングの外方壁の部分22iに接続され、以前のようにウエブの表の面はまたスクレーパ表面30の部として機能する。内方のねじの形状をしたシール部分22jはねじ10のねじ形状に沿ってシールするのに充分の程度のものであり、よってスクレーパ表面30によって作られた中断及び返り表面32は潤滑剤が逃げることのできる軸線方向で開いた流路を設けない。」(第6頁右下欄第10行?第7頁左上欄第14行)
(g)「ねじ10とナット11の相対的回転と平行移動はシール・リング22の内方のねじ突起22jをして溝12から潤滑材(「剤」の誤記と思われる。)を掻き取るまたは拭き取らしめ、またそれを軸線方向で内方に向かう方向に方向を変えさせる。リング23の内方のねじを切った表面は外部の影響から突起22jを蔽いかくし、またさらに、勿論、シール22の内方ねじに損傷が起きたときの緊急の事態のときにグリースのスクレーパ及びリテーナとして機能するであろう。」(第7頁右上欄第4?13行)
(h)「以上に述べた構造によって、外部の動的水圧はナット11の内部に水が入ることなく耐えられるであろう。荷重リング23の内方のねじは、砂、ごみ、霜及び氷のような異物がナットのなかに侵入することを禁じそれをねじ10から除く。ある意味で、リング23は氷を砕く装置として働きまたワイパ・リング22をねじ10の外方のねじ表面に沿って組立体に入ることを求めている氷粒子及び類似のものから蔽う。」(第7頁左下欄第10?18行)
(i)「最後に、以上に記載した二部分構造によって、リング22または23の組立体のなかでの取り替えは容易に達成され、また組立体は容易に作られボール・ナットのなかに正確にはめ込まれることを保証する。
本発明の1つの実施例が詳細に記載されたが、この技術に熟練の人にとって記載した実施例は変更されることができることが明らかであろう。」(第7頁左下欄第19行?右下欄第6行)
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
【引用発明】
ボール・ナット11の各端に組み合わされるボール・ベヤリングねじ用のシールとスクレーパの組立体であって、
ねじ10のねじ山10aと溝12に緊密に組み合う内方表面を有し、ボール・ナット11の外部から内部へ異物が侵入するのを防止するためのスクレーパ・リング23と、
ねじ10と組み合うようにねじが切られた内方表面を有し、ボール・ナット11の内部の潤滑剤を拭き取りそれを装置内の方へ返すためのシール・リング22とを備え、
前記スクレーパ・リング23及び前記シール・リング22は、互いに組み合わされると共に、それぞれの内周がねじ10のねじ溝12及びねじ山10aに接触し、さらに、
前記ボール・ナット11の軸線方向において、外側に位置するスクレーパ・リング23と、当該外側に位置するスクレーパ・リング23よりも内側に位置するシール・リング22とを備え、
前記スクレーパ・リング23の内周には、前記ねじ10のねじ溝12に噛合う螺旋状のねじ山23hが設けられているボール・ベヤリングねじ用のシールとスクレーパの組立体。

(刊行物2)
刊行物2には、「ボールねじ」に関して、図面(特に、図3?6を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(j)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ナットの両端にシール部材が設けられたボールねじに関する。」(第2頁第1欄第20?22行、段落【0001】参照)
(k)「【0019】図3及び図4は、本発明の第2実施形態におけるボールねじのボールねじナット6及びシール部材7を示したものである。この実施の形態においても、ナット6の軸線方向の両端には、シール部材7が嵌め込まれる嵌合部6bが形成される。この嵌合部6bの内径は、ナット6の軸線方向内側に向かって徐々に小さくなるテーパに形成される。シール部材7の外径は、ナット6の軸線方向内側に向って徐々に小さくなるテーパに形成される。シール部材7の外径のテーパと、嵌合部6bの内径のテーパとは等しい傾斜角に設定される。
【0020】シール部材7は、ナット1の軸線方向の所定位置に止め輪8で押えられる。止め輪8は、嵌合部6bに形成した溝に嵌め込まれ、シール部材7の軸線方向の移動を防ぐ。止め輪8でシール部材2をナット1内の所定位置に押えると、嵌合部6bからの押圧力によってシール部材7の締め代が調節され、シール部材7のねじ軸への所定の接触圧が得られる。
【0021】図5及び図6は、シール部材7を示したものである。シール部材7には、ねじ軸の略半径方向に延び、シール部材7の内周から外周まで貫通する異物除去用スリット9…が開けられる。この異物除去用スリット9…は、例えば、周方向に8等分するように8個所形成され、ねじ軸の半径方向に対して、ねじ軸の回転方向Fに角度Θ1傾けて形成される。このように、異物除去用スリット9…を傾けることで、異物除去用スリット9…の対向面のうちの一方が、異物を掻き揚げるエッジを有するスクレーパ面11として機能する。なお、異物除去用スリット9…の個数は、適時変更可能である。
【0022】図6に示すように、異物除去用スリット9は、ナット1の軸線方向外側を向く端面7cから前記シール部材7の途中まで開けられる。この異物除去用スリット9…は、スクレーパ面11によって掻き揚げられた異物をナット1の軸線方向外側に移動させるようナット1の軸線Xの方向に対して角度Θ2傾けて開けられる。
【0023】シール部材7の異物の掻き揚げについて説明する。図5中F方向にねじ軸を回転させると、シール部材7のスクレーパ面11のエッジがねじ軸の外周面に接しながら摺動する。このため、スクレーパ面11のエッジで、ねじ軸の外周面に付着した異物が掻き揚げられる。掻き揚げられた異物はスクレーパ面11上にすくい上げられる。スクレーパ面11は異物をナット1の軸線方向外側に移動させるよう傾けられるので、すくい上げられた異物はナット1の外部に排出される。」(第3頁第4欄第22行?第4頁第5欄第14行、段落【0019】?【0023】参照)

(刊行物3)
刊行物3には、「ボールねじのシール装置」に関して、図面(特に、第1及び2図を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(l)「本考案はボールねじのシール装置に関する。」(第2頁第20行)
(m)「従来のボールねじのシール装置は実公昭41-15219号公報記載のようにねじ軸のボール溝形状および寸法に合わせて同一リードをもった突条をシール内面に形成し,シールをボールナット端面に装着したものが知られている。ねじ軸のボール溝とシールの突条との接触状態はごみの侵入を防止するため接触状態に取付ける場合と,接触回転による発熱を無くするため若干のすきまを持ったラビリンス取付けの場合がある。接触状態に取付ける場合には耐久性の増加とより防塵性を高めるためシールの任意の1ケ所を斜めに切断し,シールの外周面にばねを巻いて直径の収縮を計る方法なども行われている。しかしながらいずれの場合においても,ねじ軸のボール溝および外径部の全面を完全に接触させることは製作上困難であり,ボール溝および外径部に付着した微細なごみはボールナットの往復移動につれてボールナット内に浸入し十分なシール効果を期待することができない。またボール溝および外径部に接触させるシールとして,環体の内面に放射状に細い合成樹脂製の毛を植込んだいわゆるブラシシールがあるが,ねじ軸の回転方向が逆転するとき,ブラシの毛も逆方向に倒され,毛のすきまからボールナット内にごみが侵入して完全にシールできない欠点がある。また,ボールナット端面にねじ軸のボール溝に合わせてフェルトなどを埋め込むものもあるが,シール取付のため押え蓋などを必要とするため軸方向にスペースを必要とする欠点があった。
本考案はねじ軸のボール溝および外径部に完全に接触し,かつ軸方向にスペースを必要としないシール装置を提供することを目的とするものである。
その構成を図の実施例について説明すると,第1図において1はねじ軸,2はボールナット,3はボールを循環させるためのボールチューブ,4はボールチューブ3の固定金具,5は本考案のシールユニット,6はシールユニット5をボールナットに固定する止めねじである。シールユニット5はボールナット2の端面に設けたシール溝2Aに嵌合し,止めねじ6で固定するか,あるいはシールユニット5の外面および1側面を接着剤でシール溝2Aに接着固定する。第2図に拡大して示すようにシールユニット5はシールケース7とシールリング8とからなる。シールケース7は例えばニトリルゴムのような接着が可能でかつ弾性に富む物質で製造され,内面にシールリング8を嵌合固着するための周溝を有する。シールケース7はシール溝2Aに接触固着される円筒部7Aと,円筒部両端から半径方向内側にのびる2個のフランジ7Bを有してこれらにより内面に周溝を形成している。シールリング8はフェルトまたは摩擦係数の小さい弾性に富む合成樹脂等で作られた矩形断面を有するリングであり,シールケース7の周溝に周溝から半径方向内側にシールリング8の一部分が突出するように嵌合して接着固定する。シールユニット5には第2図に点線で示すように,斜めに1個所すり割り5Aを設けると,機械に取付状態にある場合でもシールユニット5の取付取外しが容易にできるので便利である。第3図はシールリングの内面にねじ軸のボール溝に適合する断面形状を有するねじ状の突条を設けたシールユニットの他の実施例を示し,符号は共通にして示した。この実施例では前記すり割り5Aの他にさらにシールケースの円筒部7A側面に開口する周溝7Cを設け,この周溝7Cに外方に拡張するばね力を有する板ばね9を収容し,このばね力を利用してシールユニット5をボールナットのシール溝2Aに容易に取付け,取外しができるようにしてある。この場合にはシールユニット5はシール溝2Aに接着剤で接着する必要はない。また,図示しないが,ボールナット2の端面にシール溝2Aを設けることなくシールケースの円筒部側面を直接接着してもよく,これによりボールナット2はシール溝のための軸方向長さを節約できる。
以上のように構成した本考案のシール装置は,シールリング8に半径方向および軸方向共に弾力があり,第2図に示す矩形断面のシールリングであってもねじ軸のボール溝および外径部にならって形状通りに変形して接触する。また,ねじ軸1とボールナット2との間に軸方向のすきまがあるボールねじの場合でも,すきま量に応じてシールケースのフランジ部やシールリングが弾性的に移動してボール溝にならうので,完全に接触した状態で使用することができる。さらに第2図に示すシールリングは,ねじ軸の直径とボール溝の深さが同じであれば,リードに関係なく共通して使用できる効果もある。このシールリングでは放射状に数個所の割りを入れるとボール溝および外径部との接触変形がさらに容易になるものである。
また,本考案のシール装置はボールナットの端面に装着するので,軸方向のスペースを少くすることができ,シールユニットが弾性に富むので取付け取外しが容易である利点を有するものである。」(第3頁第1行?第7頁第19行)

(刊行物4)
刊行物4には、「ボールねじ」に関して、図面とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(n)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、工作機械や産業機械等に用いられるボールねじの改良に関するものである。」(第2頁第1欄第14?17行、段落【0001】参照)
(o)「【0002】
【従来の技術】従来、工作機械や産業機械等に用いられるボールねじとしては、例えば図7に示すようなものが知られている。この種のボールねじは、ねじ軸50の外周面に設けた螺旋状のねじ溝50aと、ボールねじナット51の内周面に設けた螺旋状のねじ溝51aとの間に複数のボール52を介在させて構成され、ねじ軸50のボールねじナット51に対する相対回転を、ボール52を介してボールねじナット51の軸方向のねじ軸50に対する相対変位に変換するものである。
【0003】また、ねじ軸50とボールねじナット51との間にはグリースや潤滑油等の潤滑剤が充填されると共に、その潤滑剤の漏出や外部から粉塵等の異物の侵入を防止する目的で、ボールねじナット51の端部に設けた環状の凹部53に、シール部材54を嵌着して固定している。」(第2頁第1欄第18?33行、段落【0002】及び【0003】参照)

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「ボール・ナット11」は本願発明の「ボールねじナット」に相当し、以下同様に、「各端」は「両端」に、「組み合わされる」は「装着される」に、「ボール・ベヤリングねじ用のシールとスクレーパの組立体」は「ボールねじ用シール」に、「ねじ10」は「ボールねじ軸」に、「ねじ山10aと溝12に緊密に組み合う内方表面」は「ボールねじ軸の軸直角断面形状に対応した孔」に、「侵入」は「浸入」に、「スクレーパ・リング23」は「異物除去部材」に、「シール・リング22」は「密封部材」に、「ねじ溝12」は「ボール転走面」に、「ねじ山10a」は「外周面」に、「噛合う」は「嵌合する」に、「ねじ山23h」は「突部」に、それぞれ相当する。また、引用発明の「潤滑剤を拭き取りそれを装置内の方へ返す」ことは、「潤滑剤をシールする」ことである限りにおいて本願発明の「潤滑剤を保持する」ことにひとまず相当するとともに、引用発明の「互いに組み合わされる」ことは、「互いに隣接配置される」ことである限りにおいて本願発明の「互いに重ねられる」ことにひとまず相当するので、両者は下記の一致点、及び相違点1?3を有する。
<一致点>
ボールねじナットの両端に装着されるボールねじ用シールであって、
ボールねじ軸の軸直角断面形状に対応した孔を有し、ボールねじナットの外部から内部へ異物が浸入するのを防止するための異物除去部材と、
ボールねじナットの内部の潤滑剤をシールするための密封部材とを備え、
前記異物除去部材及び前記密封部材は、互いに隣接配置されると共に、それぞれの内周がボールねじ軸のボール転走面及び外周面に接触し、さらに、
前記ボールねじナットの軸線方向において、外側に位置する少なくとも1つの異物除去部材と、当該外側に位置する異物除去部材よりも内側に位置する密封部材とを備え、
前記異物除去部材の内周には、前記ボールねじ軸のボール転走面に嵌合する螺旋状の突部が設けられているボールねじ用シール。
(相違点1)
前記異物除去部材に関し、本願発明は、「前記異物除去部材の前記ボールねじナットの軸線方向外側を向く端面から前記異物除去部材の途中までに、異物を掻き揚げて前記ボールねじナットの外部に排出する異物除去用開口が設けられ」ているのに対し、引用発明は、そのような構成を具備していない点。
(相違点2)
前記密封部材に関し、本願発明は、「ボールねじ軸の軸直角断面形状に形状を合わせた異形の円状の孔を有し、」「潤滑剤を保持」し、「薄板状に形成されるとともに、潤滑剤を吸収可能である」のに対し、引用発明は、ねじ10と組み合うようにねじが切られた内方表面を有し、潤滑剤を拭き取りそれを装置内の方へ返すものの、本願発明のような構成を備えていない点。
(相違点3)
前記異物除去部材及び前記密封部材が、本願発明は、「互いに重ねられる」のに対し、引用発明は、互いに組み合わされている点。
そこで、相違点1?3について検討をする。
(相違点1について)
引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともにボールねじ用シールに関する技術分野に属するものであって、刊行物2には、「図3及び図4は、本発明の第2実施形態におけるボールねじのボールねじナット6及びシール部材7を示したものである。この実施の形態においても、ナット6の軸線方向の両端には、シール部材7が嵌め込まれる嵌合部6bが形成される。(中略)図5及び図6は、シール部材7を示したものである。シール部材7には、ねじ軸の略半径方向に延び、シール部材7の内周から外周まで貫通する異物除去用スリット9…が開けられる。この異物除去用スリット9…は、例えば、周方向に8等分するように8個所形成され、ねじ軸の半径方向に対して、ねじ軸の回転方向Fに角度Θ1傾けて形成される。このように、異物除去用スリット9…を傾けることで、異物除去用スリット9…の対向面のうちの一方が、異物を掻き揚げるエッジを有するスクレーパ面11として機能する。(中略)図6に示すように、異物除去用スリット9は、ナット1の軸線方向外側を向く端面7cから前記シール部材7の途中まで開けられる。この異物除去用スリット9…は、スクレーパ面11によって掻き揚げられた異物をナット1の軸線方向外側に移動させるようナット1の軸線Xの方向に対して角度Θ2傾けて開けられる。(中略)図5中F方向にねじ軸を回転させると、シール部材7のスクレーパ面11のエッジがねじ軸の外周面に接しながら摺動する。このため、スクレーパ面11のエッジで、ねじ軸の外周面に付着した異物が掻き揚げられる。掻き揚げられた異物はスクレーパ面11上にすくい上げられる。スクレーパ面11は異物をナット1の軸線方向外側に移動させるよう傾けられるので、すくい上げられた異物はナット1の外部に排出される。」(第3頁第4欄第22行?第4頁第5欄第14行、段落【0019】?【0023】、上記摘記事項(k)参照)と記載されている。上記記載から、刊行物2には、シール部材7のボールねじナット6の軸線方向外側を向く端面からシール部材7の途中までに、異物を掻き揚げてボールねじナット6の外部に排出する異物除去用スリット9が設けられている構成が記載又は示唆されている。
してみれば、引用発明のスクレーパ・リング23(異物除去部材)に、刊行物2に記載又は示唆された異物を掻き揚げてボールねじナット6の外部に排出する異物除去用スリットの構成を適用することにより、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点2について)
ボールねじにおいて、ねじ軸50とボールねじナット51との間に、発熱や摩耗を低減するためにグリースや潤滑油等の潤滑剤を充填することは、技術常識(例えば、刊行物4には、「ねじ軸50とボールねじナット51との間にはグリースや潤滑油等の潤滑剤が充填される」[第2頁第1欄第28及び29行、段落【0003】、上記摘記事項(o)参照]と記載されている。刊行物5には、「摩擦を減らすためのみならず部品の寿命を増すために、ボールねじ装置ではボールと、ナツト及びねじの各螺旋溝との間に潤滑剤を設けることが必要である。」[第3頁右上欄第3?6行]と記載されている。)であって、当業者には自明である。
一方、引用発明及び刊行物3に記載された技術的事項は、ともにボールねじ用シールに関する技術分野に属するものであって、刊行物3には、「ボールナット端面にねじ軸のボール溝に合わせてフェルトなどを埋め込むものもある」(第4頁第6?8行、上記摘記事項(m)参照)、及び「シールリング8はフェルトまたは摩擦係数の小さい弾性に富む合成樹脂等で作られた矩形断面を有するリングであり,シールケース7の周溝に周溝から半径方向内側にシールリング8の一部分が突出するように嵌合して接着固定する。」(第5頁第13?18行、上記摘記事項(m)参照)と記載されている。フェルトが、ボールねじ内の潤滑剤を吸収することでより確実に保持できることは技術的に明らかである(例えば、特開平11-303866号公報には、「かかる塗布体41は含浸する潤滑油を澱みなく軌道レール1に塗布することができるよう、毛細管現象による潤滑油の移動が生じ易い材質、例えば空隙率の低いフェルト等の繊維交絡体が適しており、本実施例では空隙率54%の羊毛フェルトを使用している。また、上記吸蔵体42は潤滑油を多量に吸収保持することができるよう、空隙率の高いフェルト等の繊維交絡体が適している。この実施例では空隙率81%のレーヨン混合羊毛フェルトを使用している。」[第4頁第6欄第16?24行、段落【0024】参照]と記載されている。)から、刊行物3には、潤滑剤を吸収保持可能なシール部材が記載又は示唆されている。なお、刊行物5にも、「シール55(第4図参照)は好ましくは等級F-1の白フェルトで作られる。」(第5頁左下欄第18及び19行)と記載され、潤滑剤を吸収保持可能なシール部材が記載又は示唆されている。
また、ボールねじ用シールにおいて、シール部材をボールねじ軸の軸直角断面形状に形状を合わせた異形の円状の孔を有するようにすることは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物5には、「ねじは溝を成形されるので、ボールねじの軸線方向中心線に対して直角な平面での横断面は非円形であり、このためボールねじの軸線方向中心線に対して垂直にナットに固定されるシールは、ねじ及びナットの相対的位置にかかわりなく、ボールねじの横断面形状を常にシールすることができねばならないことは理解されるべきである。」[第3頁左下欄第11?17行]、「シール55(第4図参照)はボールねじ11(第1図参照)の軸線方向中心線に対して直角な横断面とほぼ同じ形状を有する。」[第5頁右下欄第6?8行]、及び「第4図に示すように、開口63はボールねじ11(第1図参照)の軸線方向中心線に対して直角な横断面と実質的に同じ形状及び寸法を有する。」[第6頁左上欄第14?16行]と記載されている。)にすぎない。
さらに、ボールねじ用シールにおいて、潤滑剤を吸収可能なシール部材の厚さをどの程度のものとするかは、当業者が適宜なし得る設計変更の範囲内の事項(例えば、刊行物5のFIG.2及び3に記載された隔膜シール55の厚さを参照。)にすぎない。
してみれば、引用発明のシール・リング22(密封部材)に、刊行物3に記載又は示唆された技術的事項、及び従来周知の技術手段を適用することにより、ねじ10の軸直角断面形状に形状を合わせた異形の円状の孔を有し、潤滑剤を保持し、薄板状に形成されるとともに、潤滑剤を吸収可能であるものとして、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点3について)
引用発明は、スクレーパ・リング23及びシール・リング22は、互いに組み合わされているところ、上記(相違点2について)における判断の前提下において、引用発明のスクレーパ・リング23と薄板状に形成されたシール・リング22を互いに重ねることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易になし得るものである。
してみれば、上記(相違点2について)における判断の前提下において、引用発明の構成を変更して、スクレーパ・リング23(異物除去部材)及びシール・リング22(密封部材)を、互いに重ねて、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。

本願発明が奏する効果についてみても、引用発明、刊行物2及び3に記載された発明、並びに従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
したがって、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、「本願発明は、(中略)『前記異物除去部材及び前記密封部材は、互いに重ねられると共に、それぞれの内周がボールねじ軸のボール転走面及び外周面に接触し、さらに、密封部材は、薄板状に形成されるとともに、潤滑剤を吸収可能である』という特徴を備えることによって、異物除去部材で除去しきれない微細粉の侵入を防止すると共に、潤滑剤の外部への漏出を防止し、且つ、異物除去部材の発熱及び摩耗を抑制することが可能となるように配慮した発明である。」(「第3 本願発明が特許される理由」「3 本願発明と引用例に記載の発明との対比」「(1)」の項を参照)と主張している。
しかしながら、上述したように、引用発明のボール・ベヤリングねじ用のシールとスクレーパの組立体に、刊行物2及び3に記載された発明、並びに従来周知の技術手段を適用したものは、スクレーパ・リング23(異物除去部材)及びシール・リング22(密封部材)は、互いに重ねられると共に、それぞれの内周がねじ10(ボールねじ軸)のねじ溝12(ボール転走面)及びねじ山10a(外周面)に接触し、さらに、シール・リング22(密封部材)は、薄板状に形成されるとともに、潤滑剤を吸収可能である構成を具備することになり、そのような構造を有することで、スクレーパ・リング23で除去しきれない微細粉の侵入を防止すると共に、潤滑剤の外部への漏出を防止し、且つ、スクレーパ・リング23の発熱及び摩耗を抑制することができることは、当業者に自明である。
よって、上記(相違点1について)?(相違点3について)において述べたように、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明、及び従来周知の技術手段から当業者が容易に想到し得たものであるところ、審判請求人が主張する本願発明が奏する作用効果は、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものにすぎず、本願発明の構成を備えることによって、本願発明が、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものとは異なる、相乗的で予想外の作用効果を奏するとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その原出願前に日本国内において頒布された刊行物1?3に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて、その原出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の請求項2?4に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-12 
結審通知日 2012-12-18 
審決日 2012-12-27 
出願番号 特願2008-182263(P2008-182263)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 広瀬 功次  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 常盤 務
窪田 治彦
発明の名称 ボールねじ用シール及びこのボールねじ用シールを用いたボールねじ  
代理人 石川 泰男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ