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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1270203
審判番号 不服2012-7843  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-27 
確定日 2013-02-14 
事件の表示 特願2006- 51441「荷電粒子ビームのビーム強度分布測定方法及び荷電粒子ビーム装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月13日出願公開、特開2007-234263〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年2月28日の出願であって、平成23年8月15日付けで拒絶理由が通知され、同年10月18日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、同年11月11日付けで拒絶理由が通知され、同年12月26日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、その後、平成24年1月27日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、同年4月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。また、同年11月26日に面接を実施した。

第2 本願発明について
1.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年12月26日付けの手続補正により補正された、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「上面から下面に向かって所定の角度θで細くなる金属マーク上に荷電粒子ビームを走査させて、前記荷電粒子ビームのビーム強度分布を測定する荷電粒子ビームのビーム強度分布測定方法であって、
ビーム強度分布をパラメータσを用いた誤差関数で近似し、誤差関数のパラメータσをビーム分解能として、10nm以下のビーム分解能を得るために、前記金属マークとして、前記所定の角度θが1.5度以下で、前記金属マークの厚さtが200nm以下となるように形成された金属マークを用いることを特徴とする荷電粒子ビームのビーム強度分布測定方法。」

2.引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開平10-135110号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。)
(a)「【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態の一例につき図面を参照して説明する。本例は分割転写方式でマスクパターンの転写を行う電子線縮小転写装置用の投影系の結像特性を評価する場合に本発明を適用したものである。図1は本例で使用される電子線縮小転写装置の概略構成を示し、この図1において、電子光学系の光軸AXに平行にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面内で図1の紙面に垂直にX軸を、図1の紙面に平行にY軸を取って説明する。先ず、本例の偏向照明系において、電子銃10から放出された電子線EBは、第1コンデンサレンズ11Aで一度集束された後、第2コンデンサレンズ11Bで再び集束される。第2コンデンサレンズ11Bの近傍にアパーチャ板31が配置され、アパーチャ板31の開口を通過した電子線EBは、第1の視野選択偏向器12Aによって主にY方向に偏向され第3コンデンサレンズ11Cで平行ビームにされた後、第2の視野選択偏向器12Bによって振り戻されてマスク1の1つの小領域(副視野)上の照射領域33に導かれる。視野選択偏向器12A,12Bにおける偏向量は、装置全体の動作を統轄制御する主制御装置19が、偏向量設定器25を介して設定する。なお、図1において、電子線EBの実線で示す軌跡はクロスオーバ像の共役関係を示し、点線で示す軌跡はマスクパターン像の共役関係を示している。アパーチャ板31の配置面は、マスク1の配置面と共役であり、アパーチャ板31の開口の投影像がマスク1上の電子線の照射領域33となっている。
【0019】次に、マスク1を通過した電子線EBは2段の電磁偏向器よりなる偏向器13Aにより所定量偏向された上で、投影レンズ14により一度クロスオーバCOを結んだ後、対物レンズ15及び2段の電磁偏向器よりなる偏向器13Bを介して電子線レジストが塗布されたウエハ5上に集束され、ウエハ5上の所定位置にマスク1の1つの小領域内のパターンを所定の縮小倍率β(例えば1/4)で縮小した像が転写される。本例の投影レンズ14及び対物レンズ15は、一例として対称磁気ダブレット(SMD:Symmetric Magnetic Doublet)方式の投影系(以下、「投影系14,15」と呼ぶ)を構成しており、この投影系14,15の結像特性が本例の評価対象である。偏向器13A,13Bにおける偏向量は、主制御装置19が偏向量設定器26を介して設定する。分割転写方式では、マスク1上の各小領域はストラット(境界領域)を挟んで配置されているのに対して、対応するウエハ5上の各小転写領域は密着して配置されているため、偏向器13A,13Bはそのストラットの分だけ電子線を横ずれさせるため、及びマスク1とウエハ5との同期誤差を補正するため等に使用される。
【0020】マスク1はマスクステージ16にXY平面と平行に取り付けられている。マスクステージ16は転写時には、駆動装置17によりX方向に連続移動し、Y方向にステップ移動する。マスクステージ16のXY平面内での位置はレーザ干渉計18で検出されて主制御装置19に出力される。一方、ウエハ5は、試料台20上のウエハステージ21上にXY平面と平行に保持されている。試料台20は、ウエハステージ(ウエハ5)のZ方向の位置を調整できる。ウエハステージ21は、転写時には駆動装置22によりマスクステージ16のX軸に沿った連続移動方向とは逆方向へ連続移動可能で、且つY方向へステップ移動可能である。X方向に逆方向としたのは、投影系14,15によりマスクパターン像が反転されるためである。但し、ウエハステージ21は必要に応じてX方向、Y方向への連続移動が可能である。ウエハステージ21のXY平面内での位置はレーザ干渉計23で検出されて主制御装置19に出力される。
【0021】主制御装置19は、マスクパターンの転写時には、後述の入力装置24から入力される露光データと、レーザ干渉計18,23が検出するマスクステージ16及びウエハステージ21の位置情報とに基づいて、視野選択偏向器12A,12B、及び偏向器13A,13Bによる電子線EBの偏向量を演算すると共に、マスクステージ16及びウエハステージ21の動作を制御するために必要な情報(例えば位置及び移動速度)を演算する。偏向量の演算結果は偏向量設定器25及び26に出力され、これらの設定器によりそれぞれ、視野選択偏向器12A,12B及び偏向器13A,13Bによる偏向量が設定される。また、例えばマスク1上の小領域の位置等に応じて予め計測されている投影系14,15の結像特性に応じて、主制御装置19は、偏向器13A,13Bの偏向量や、投影系14,15の励磁電流等を補正する。これによってウエハ5上に転写されるマスク上の各小領域の像の結像特性(倍率誤差等)が許容範囲内に維持される。
【0022】マスクステージ16、及びウエハステージ21の動作に関する演算結果はドライバ27,28にそれぞれ出力される。ドライバ27,28は演算結果に従ってステージ16,21が動作するように駆動装置17,22の動作を制御する。なお、入力装置24としては、露光データの作成装置で作成した磁気記録情報を読み取る装置、マスク1やウエハ5に記録された露光データをこれらの搬入の際に読み取る装置等適宜選択してよい。
【0023】さて、本例の転写装置には、投影系14,15の結像特性を評価するための機構が組み込まれている。先ず、ウエハステージ21上のウエハ5の近傍に、シリコン(Si)の単結晶よりなる評価用基板30が固定され、評価用基板30の底面側にこの評価用基板30を透過して来た電子線を吸収するためのアルミニウム(Al)よりなる電子線吸収体32が埋め込まれている。
【0024】図2は、図1の評価用基板30及び電子線吸収体32を示す拡大断面図であり、この図2において、評価用基板30はウエハステージ21の上板21aに設けられた開口を覆うように、その上板21a上に取り付けられている。評価用基板30はX方向の幅が3mm程度で、Y方向の幅が2mm程度の矩形の平板状であり、この平板状の領域が厚さが100μm程度で幅が100μm程度の仕切部31を挟んで、それぞれ厚さが2μm程度で1mm角程度の大きさの6個のマーク形成領域36A?36Fに分割されている。評価用基板30は、厚さが100μm程度のシリコン単結晶の基板を、例えばマーク形成領域36A?36Fに対応する部分のみを2μm程度の厚さまでエッチングすることによって形成できる。評価用基板30としては、反射電子線量の少ない原子番号が14以下の材料が好適であり、シリコン基板以外には、炭素、又は複数種類の材料からなり平均的な原子番号(平均原子番号)が14以下の合成材料等が使用できる。
【0025】図3は、評価用基板30上のそれぞれほぼ1mm角程度のマーク形成領域36A?37Fに形成されたマーカ37A?37Fを示す。本例で評価対象とする投影系14,15のビーム分解能を50nm(=0.05μm)程度とすると、本例の各マーカ37A?37Fはそれぞれ0.2μm角?10μm角程度の大きさであり、マーク形成領域全体に比べると無視できる程度の大きさであるが、図3ではマーカのみを拡大して示している。また、マーカ37A?37Fは厚さが0.05μm程度の金(Au)の薄膜より形成され、これらのマーカからの反射電子が検出される。なお、マーカ37A?37Fの厚さは0.01μm以上で1μm程度までが望ましい。
【0026】具体的に、第1のマーク形成領域36Aの中央部には、視野内強度分布評価用の0.2μm角程度の孤立パターン状のマーカ37Aが形成され、第2及び第3のマーク形成領域36B,36Cの中央部には、分解能、及び非点収差評価用のX軸のマーカ37B、及びY軸のマーカ37Cが形成されている。マーカ37Bは、X方向の幅が0.3μm(ビーム分解能の6倍)でY方向の長さが10μmのラインパターンをX方向にピッチ0.6μm(ビーム分解能の12倍)で17本配列したパターンであり、Y軸のマーカ37CはX軸のマーカ37Bを90°回転した形状である。また、第4のマーク形成領域36Dにはマーカは形成されておらず、このマーク形成領域36Dは例えばマーカの無い状態での反射電子信号である背景雑音を計測する場合に使用である。更に、第5のマーク形成領域36Eの中央部には、視野歪、及び倍率誤差評価用のX軸のマーカ37E、及びY軸のマーカ37Fが形成されている。マーカ37Eは、X方向の幅が0.1μm(ビーム分解能の2倍)でY方向の長さが5μmのラインパターンをX方向にピッチ0.2μm(ビーム分解能の4倍)で25本配列したパターンであり、Y軸のマーカ37FはX軸のマーカ37Eを90°回転した形状である。
【0027】なお、マーカ37A?37Fとしては、反射電子線量の多い平均原子番号が47以上の材料が好適であり、金の他には例えばタングステン(W)、又は銀(Ag)等が使用できる。また、視野内強度分布評価用のマーカ37Aとしては、0.2μm角?10μm角程度の大きさの孤立的パターンが好適であり、分解能、及び非点収差評価用のマーカ37B,37Cとしては、幅がビーム分解能の4倍?8倍で長さが10μm?数10μmのラインパターンをデューティ比がほぼ1:1で(即ち、ビーム分解能の8倍?16倍のピッチで)5本?100本配列したパターンが好適である。また、視野歪、及び倍率誤差評価用のマーカ37E,37Fとしては、幅がビーム分解能の1倍?2倍で長さが2μm?5μm程度のラインパターンをデューティ比がほぼ1:1で(即ち、ビーム分解能の2倍?4倍のピッチで)5本?25本配列したパターンが好適である。」
(b)「【0030】更に図1において、対物レンズ15の底面近傍にウエハ側からの反射電子を検出するための反射電子検出器29が配置され、反射電子検出器29からの反射電子信号REは主制御装置19に供給されている。次に、図4を参照して本例の転写装置で分割転写方式の転写を行う際の基本的な動作につき説明する。
【0031】図4は、本例のマスク1とウエハ5との対応関係を示す斜視図であり、この図4において、マスク1は境界領域としてのストラット3によってX方向、及びY方向に所定ピッチで矩形の多数の小領域(副視野)2A,2B,2C,…に分割され、転写対象の小領域(図2では小領域2A)内の照射領域33に電子線EBが照射される。電子線転写用のマスク1としては、窒化シリコン(SiN)等の薄膜にて電子線の透過部を形成し、その表面に適宜タングステン製の散乱部を設けた所謂散乱マスクと、シリコン製の散乱部に設けた抜き穴を電子線の透過部とする所謂穴空きステンシルマスク等が存在するが、本例では何れでも構わない。」
(c)「【0035】次に、本例において投影系14,15の結像特性を評価する方法の一例につき図5及び図6を参照して説明する。先ず、本例のマスク1は結像特性の評価用のマスクであり、マスク1上の所定の複数の小領域にはそれぞれ評価用パターンが形成されている。図5(a)はマスク1の一部の拡大図を示し、この図5(a)において、マスク1上でX方向に配列された1列の小領域にはそれぞれ評価用パターン38A?38Gが形成されている。本例の投影系14,15の縮小倍率βを1/4とすると、マスク1上の各小領域内のパターン形成領域の大きさはほぼ1mm角であり、それらのパターン形成領域を投影系14,15を介して投影した像の領域、即ち投影系14,15の視野の大きさはほぼ250μm角である。この視野の大きさは、図3の評価用基板30上のほぼ1mm角のマーク形成領域36A?37Fに比べて十分小さく設定されている。
【0036】そして、第1の評価用パターン38Aは、小領域内の中心を通る十字型の線上に、及び周辺を1周するように微小な矩形の基本パターン39を一定間隔で多数配置した視野内強度分布評価用のパターンであり、基本パターン39を投影系14,15を介して投影した像39W(図5(b)参照)は、図3のマーカ37Aと同じ0.2μm角程度の孤立パターンである。
【0037】また、マスク1上の第2及び第3の評価用パターン38B,38Cは、それぞれ小領域内の周辺部及び中心(光軸)を含むように3行×3列でX軸の基本パターン40X、及びY軸の基本パターン40Yを配置した分解能、及び非点収差評価用のパターンであり、基本パターン40X及び40Yを投影系14,15を介して投影した像40XW及び40YW(図5(c)及び(d)参照)は、図3のX軸のマーカ37B、及びY軸のマーカ37Cと同じ形状である。」
(d)「【0040】次に、投影系14,15のX方向のビーム分解能及び非点収差を評価する際には、図5(a)のマスク1のX軸の評価用パターン38B上に電子線を照射し、評価用パターン38Bの像が投影される領域内に図3の評価用基板30上のマーク形成領域36B内のX軸のマーカ37Bを移動する。その後、主制御装置19では、ウエハステージ21、及び偏向器13A,13Bを駆動してその評価用パターン38Bの各基本パターン40Xの像とマーカ37BとをX方向に相対走査して、マーカ37Bの位置に対応させて反射電子検出器29からの反射電子信号REを取り込む。
【0041】図6(a)はその基本パターン40Xの像40XWとマーカ37BとをX方向に相対的に走査する様子を示し、図6(b)はその際にマーカ37BのX座標(マーカ37B側を走査するとした場合の座標)に対応させて得られる反射電子信号REの一例を示している。なお、図6(b)の反射電子信号REは、投影系14,15の分解能が極めて高い場合の理想的な信号であり、実際にはその分解能の制限によって反射電子信号REは、底部及び上部に平坦部を持つ信号となる。そこで、その反射電子信号REを位置Xについて1回微分するとビーム強度分布が得られ、その1回微分信号の立ち上がりの傾き角からビーム分解能が得られる。同様に、図5(c)のY軸用の評価用パターン38Cの像と図3のY軸のマーカ37Cとを相対走査することでY方向のビーム分解能が得られる。例えばX方向のビーム分解能とY方向のビーム分解能との平均値をビーム分解能とすることができる。」
(e)

(f)

(g)

(h)

(i)


上記引用文献1の記載事項から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「マスク1上の評価用パターン38Bに電子線を照射し、評価用パターン38Bの基本パターン40Xの像40XWを評価用基板30上に投影し、基本パターン40Xの像40XWと評価用基板30上の金(AU)の薄膜より形成されたマーカ37Bとを相対的に走査して得られる反射電子信号REを1回微分してビーム強度分布を得る方法であって、
金(AU)の薄膜より形成されたマーカ37Bの厚さが0.05μm程度であるビーム強度分布を得る方法。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開平3-76213号公報(以下「引用文献2」という)には、以下の事項が記載されている。
(a)「[従来装置]
電子線描画装置においては、被加工材を照射する電子線の照射面上における円形状または矩形状の断面径を正確に測定することが必要で、通常は、照射面に設けたマークを垂直に横切るように電子線によって走査偏向し、マークから得られる反射電子線や吸収電子線の検出信号の変化から電子線の断面径を求測定している。
第4図は、この様な電子線断面径の測定方法を説明するための略図であり、被加工材1の表面上に蒸着された金属マーク2を電子線4が4aから4bのように横切るよう偏向子3に偏向信号が供給される。この偏向時に発生する反射電子は、被加工材1とマーク2の材質が異なるため、電子線検出器5に検出される信号出力は、第5図のような変化を示す。第5図のグラフの横軸は偏向信号(従って加工材9面上における距離)を表しており、縦軸は電子線の検出信号出力強度を表している。第5図の信号波形は、マーク2のエツジ部分がシャープな理想的な状態のものであり、この場合には、信号変化の幅Diがそのまま電子線の断面径に相当すると判断することができる。しかしながら、第6図に示すように、マーク2のエツジ部が緩やかに傾斜していたり、或いはマークエツジ部に凹凸があってシャープでなかったり、マークエツジ部分と電子線の走査方向とが垂直でなかったりすると、マークエツジ部が一定の幅を有するのと同じ現象が生じ、同じ断面径を有する電子線の偏向で得られる信号波形は、7図に示す信号変化の幅D2が第5図のDlよりも大きなものとなる。この信号変化の幅D2に(よ、電子線の断面径に基づくもの以外にマーク2のエツジ部における欠陥の影響が加算されることになる。被加工材に形成するマークを、ミクロン以下の領域で正確に直線に形成することは実際には困難なので、前述したような従来方法による測定によっては、正確に電子線の断面径を測定することは出来なかった」(公報第1頁右下欄第15行?同第2頁右上欄第12行)
(b)

上記記載事項において、特に第4、6図を参照すると、「マーク2」の「エッジ部」の「理想的な状態」が「被加工材1」の表面に垂直であることは明らかである。
すると、上記引用文献2の記載事項から、引用文献2には、金属マークから得られる反射電子線や吸収電子線の検出信号の変化から電子線の断面径を測定する方法において、金属マークのエッジ部が理想的な状態である垂直なものに比べて、金属マークのエッジ部が傾斜しているものでは、電子線の検出信号出力強度にエッジ部の欠陥の影響が加算され、正確に電子線の断面径を測定できないという技術事項が記載されている。

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「電子線」、「評価用基板30上の金(AU)の薄膜より形成されたマーカ37B」が本願発明の「荷電粒子ビーム」、「金属マーク」に相当する。
また、引用発明の「マスク1上の評価用パターン38Bに電子線を照射し、評価用パターン38Bの基本パターン40Xの像40XWを評価用基板30上に投影し、基本パターン40Xの像40XWと評価用基板30上の金(AU)の薄膜より形成されたマーカ37Bとを相対的に走査」することは、「マーカ37B」上に「電子線」を走査させることであるといえる。
また、引用発明の「反射電子信号REを1回微分してビーム強度分布を得る方法」が本願発明の「前記荷電粒子ビームのビーム強度分布を測定する荷電粒子ビームのビーム強度分布測定方法」に相当することは明らかである。
したがって、引用発明の「マスク1上の評価用パターン38Bに電子線を照射し、評価用パターン38Bの基本パターン40Xの像40XWを評価用基板30上に投影し、基本パターン40Xの像40XWと評価用基板30上の金(AU)の薄膜より形成されたマーカ37Bとを相対的に走査して得られる反射電子信号REを1回微分してビーム強度分布を得る方法」は、本願発明の「金属マーク上に荷電粒子ビームを走査させて、前記荷電粒子ビームのビーム強度分布を測定する荷電粒子ビームのビーム強度分布測定方法」に相当する。

してみると、両者は、
「金属マーク上に荷電粒子ビームを走査させて、前記荷電粒子ビームのビーム強度分布を測定する荷電粒子ビームのビーム強度分布測定方法。」で一致し、次の点で相違する。

(イ)本願発明では「上面から下面に向かって所定の角度θで細くなる金属マーク」であるのに対して、引用発明では「マーカ37B」の側壁の形状が不明である点。
(ロ)本願発明では、「ビーム強度分布をパラメータσを用いた誤差関数で近似し、誤差関数のパラメータσをビーム分解能として、10nm以下のビーム分解能を得るために」「所定の角度θ」と「厚さt」とを特定の数値範囲に限定しているのに対して、引用発明では単に「厚さ」を特定の数値に限定しているのみである点。
(ハ)本願発明では、「前記金属マークとして、前記所定の角度θが1.5度以下で、前記金属マークの厚さtが200nm以下となるように形成された金属マークを用いる」構成であるのに対して、引用発明では「金(AU)の薄膜より形成されたマーカ37Bの厚さが0.05μm程度である」構成である点。

4.判断
(1)上記相違点(イ)について検討する。
引用文献2には、金属マークのエッジ部が垂直なものが理想的な状態であるが、金属マークのエッジ部が傾斜しているものもあるという技術事項が記載されており、また、電子ビームを試料に照射し、反射電子検出器によって電子ビーム反射量を測定し、その反射量の変化量を求めることによって電子照射強度分布を得る方法において、シリコン基板上に金属膜を上面から下面に向かって所定の角度で細くなる構造を有する試料を使用することが、特開平11-224642号公報(特に、段落【0002】?【0005】、図9、10参照)に示されるように周知であるから、引用発明の「マーク37B」として、その側壁の形状が上面から下面に向かって所定の角度で細くなる構造であるものを使用することは、当業者には容易である。

(2)上記相違点(ロ)について検討する。
本願発明の「ビーム強度分布をパラメータσを用いた誤差関数で近似し、誤差関数のパラメータσをビーム分解能として、10nm以下のビーム分解能を得るために」が本願発明の構成をどのように特定しているかについて検討する。
本願の明細書段落【0035】の「マーク側壁角度θが1.5度以下、ドットマーク10の厚さtが200nm以下に形成されることにより、10nm以下のビーム分解能σを得ることができる。」という記載及び平成24年11月26日に行われた面接における確認事項である「θ≦1.5°、t≦200nmの金属マークであれば、10nm以下のビーム分解能が得られる。」(面接記録参照)から、本願発明の「ビーム強度分布をパラメータσを用いた誤差関数で近似し、誤差関数のパラメータσをビーム分解能として、10nm以下のビーム分解能を得るために」は、本願発明の「前記金属マークとして、前記所定の角度θが1.5度以下で、前記金属マークの厚さtが200nm以下となるように形成された金属マークを用いる」構成により得られる作用・効果を記載することを意図するものであると解され、本願発明の構成を何ら特定するものではないと認める。
してみると、上記相違点(ロ)は実質的な相違点ではない。

(3)上記相違点(ハ)について検討する。
まず、本願発明の「前記金属マークとして、前記所定の角度θが1.5度以下で、前記金属マークの厚さtが200nm以下となるように形成された金属マークを用いる」構成において、「所定の角度θが1.5度以下」と「金属マークの厚さtが200nm以下」という2つの数値限定の技術上の意義、特に、臨界的意義について検討する。
(a)本願の明細書段落【0027】の「ドットマーク10は、上面から下面に向かってマーク側壁角度(所定の角度)θで細くなるように形成され、ドットマーク10の厚さtと所定の角度θとの積が、所望する電子ビーム200のビーム分解能σ以下となるように形成されている。特に、マーク側壁角度θが1.5度以下となるように形成されると好適である。また、ドットマーク10の厚さtが200nm以下に形成されると好適である。従来、かかるドットマーク10の厚さtとマーク側壁角度θとの関係が考慮されていなかったため、ドットマーク10上に電子ビーム200を走査した場合にドットマーク10からの散乱の影響を排除することができなかった。本実施の形態では、ドットマーク10の厚さtとマーク側壁角度θとの関係を考慮することで、ドットマーク10からの散乱の影響を低減、或いは排除することができる。」との記載からは、本願発明の発明特定事項ではない「ドットマーク10の厚さtと所定の角度θとの積が、所望する電子ビーム200のビーム分解能σ以下となるように形成されている」という構成を前提として、「マーク側壁角度θが1.5度以下となるように形成される構成及び「ドットマーク10の厚さtが200nm以下に形成される」構成が「特に」「好適である」と記載されるのみであって、当該両構成自体に、格別な技術上の意義は見いだせない。
(b)本願の明細書段落【0035】の「図7に示すように、ドットマーク10の厚さtを薄くしていくと、下地のSiとの間でのコントラストが劣化し、S/N比がとれなくなる。また、例えば、所望するビーム分解能σが10nm以下の場合、10nm以上となるマーク側壁角度θとマーク厚さtとの組み合わせでは、分解能不足となってしまう。また、マーク側壁角度θについてもマーク厚さtが大きくなるに従って精度よく加工できる範囲に限界がある。よって、図7に示すこれらの条件を全て満たす領域がドットマーク10の使用可能領域となる。」という記載は、「ドットマーク10の厚さtを薄くしていくと、下地のSiとの間でのコントラストが劣化し、S/N比がとれなくなる。」、「例えば、所望するビーム分解能σが10nm以下の場合、10nm以上となるマーク側壁角度θとマーク厚さtとの組み合わせでは、分解能不足となってしまう。」及び「マーク側壁角度θについてもマーク厚さtが大きくなるに従って精度よく加工できる範囲に限界がある。」という3つ要因を挙げて、図7で示される三角形状の領域が「使用可能領域」となることを示していると解される。
図7を参照すると、該三角形状の領域が、「所定の角度θが1.5度以下」、「金属マークの厚さtが200nm以下」という2つの条件で表現できるとは到底認められず、本願発明の「前記金属マークとして、前記所定の角度θが1.5度以下で、前記金属マークの厚さtが200nm以下となるように形成された金属マークを用いる」構成と「使用可能領域」との関係は認められない。
(c)本願の明細書段落【0035】の「ここで、図7では、マーク厚みとマーク側壁角度については、任意単位[a.u.]で示しているが、上述したドットマーク10の材料では、いずれを用いた場合でもマーク側壁角度θが1.5度以下、ドットマーク10の厚さtが200nm以下に形成されると好適である。」という記載について、「任意単位[a.u.]」が如何なるものであるのかが不明であって、「マーク側壁角度θが1.5度以下、ドットマーク10の厚さtが200nm以下」という数値の図7における位置付けが特定できない。さらに、図7には「ドットマーク10」の材料に関する記載はなく、図7を参照しても、「ドットマーク10の材料では、(当審註:段落【0026】に記載された「タングステン(W)、タンタル(Ta)等の高融点金属や、金(Au)、白金(Pt)等の重金属」の)いずれを用いた場合でもマーク側壁角度θが1.5度以下、ドットマーク10の厚さtが200nm以下に形成されると好適である。」とする根拠が見あたらない。
(d)本願の明細書段落【0035】の「マーク側壁角度θが1.5度以下、ドットマーク10の厚さtが200nm以下に形成されることにより、10nm以下のビーム分解能σを得ることができる。」という記載について、上記(b)、(c)で指摘したことから、「マーク側壁角度θが1.5度以下、ドットマーク10の厚さtが200nm以下に形成されること」と「10nm以下のビーム分解能σを得ることができる。」こととの関係は見いだせない。
(e)本願の明細書段落【0036】の「マーク側壁角度θが1.5度以下、ドットマーク10の厚さtが200nm以下の場合、ドットマーク10の厚さtと所定の角度θとの積が、0.8程度となるが、実際にはドットマーク10からの散乱を完全には排除できないので、所望する電子ビーム200のビーム分解能σが10nm以下の場合には、マーク側壁角度θが1.5度以下、ドットマーク10の厚さtが200nm以下に形成されると好適である。」という記載では、「マーク側壁角度θが1.5度以下、ドットマーク10の厚さtが200nm以下」が良くない(「実際にはドットマーク10からの散乱を完全には排除できない」)のか、良い(「好適である」)のかが不明な文章であり、「マーク側壁角度θが1.5度以下、ドットマーク10の厚さtが200nm以下」の技術上の意義は見いだせない。
(f)本願の明細書段落【0036】の「S/N比がとれる厚さtでマーク側壁角度θが値0度(すなわち、ドットマーク10の側壁が上面に対して直角)により近づくほど高いビーム分解能σを得ることができる。」という記載について、「S/N比がとれる厚さtで」は「厚さt」に下限値があることを示唆する記載であるから、200nmという上限値とは無関係であり、また、「マーク側壁角度θが値0度(すなわち、ドットマーク10の側壁が上面に対して直角)により近づくほど」も1.5度という上限値とは無関係であるから、この記載からも、本願発明の「前記所定の角度θが1.5度以下で、前記金属マークの厚さtが200nm以下となるように形成された」構成の技術上の意義は見いだせない。

上記(a)?(f)で示したように、「所定の角度θが1.5度以下」と「金属マークの厚さtが200nm以下」という2つの数値限定に技術上の意義、特に、臨界的意義は認められない。

以下、上記相違点(ハ)を、「所定の角度θ」と「金属マークの厚さt」という2つの観点に分けて検討する。
まず、本願発明では「所定の角度θが1.5度以下」「となるように形成された」構成であるのに対して、引用発明では「マーカ37B」の側壁の角度が不明である点について検討する。
引用文献2に記載された技術事項から、電子線の検出信号出力強度を正確に測定するには、金属マークの側壁が垂直であることが理想である、つまり、金属マークの側壁の角度が小さい方が電子線の検出信号出力強度をより正確に測定できることは当業者には明らかである
そして、引用発明においても、「ビーム強度分布」をより正確に測定するという課題が存在することは当業者には明らかであるから、引用発明の「マーカ37B」の側壁の角度をより小さくしようとすることは当業者が容易に想到し得ることである。
また、本願発明の「1.5度」という上限値について、上述のように臨界的意味は見当たらないことを考慮すれば、引用発明の「マーカ37B」の側壁の角度をより小さくしようとする際に、その角度を1.5度以下とすることは,当業者が適宜設定し得ることといえる。
次に、本願発明では「金属マークの厚さtが200nm以下となるように形成された」構成であるのに対して、引用発明では「マーカ37Bの厚さが0.05μm程度である」点について検討する。
「0.05μm程度」は「200nm以下」であるから、この点は相違点ではない。なお、本願発明の「200nm」という上限値についても、「金属マークの厚さ」を不必要に厚くする必要はない(十分なS/N比がとれればよい)という技術常識と、上述のように臨界的意味は見当たらないことを考慮すれば、当業者が適宜設定し得ることといえる。

そして、本願発明が奏し得る効果は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-05 
結審通知日 2012-12-11 
審決日 2012-12-25 
出願番号 特願2006-51441(P2006-51441)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 直恵  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 神 悦彦
川俣 洋史
発明の名称 荷電粒子ビームのビーム強度分布測定方法及び荷電粒子ビーム装置  
代理人 池上 徹真  
代理人 松山 允之  
代理人 須藤 章  

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