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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B43K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B43K
管理番号 1270204
審判番号 不服2012-7957  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-30 
確定日 2013-02-14 
事件の表示 特願2007-139609「摩擦体、筆記具及び筆記具セット」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月 4日出願公開、特開2008-290392〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年5月25日の出願であって、平成23年8月9日付けで手続補正がなされ、平成24年1月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年4月30日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。
これに対して、平成24年7月30日付けで審尋を行い、期間を指定して回答書の提出を求めたが、請求人からは何らの応答もなかった。

第2 平成24年4月30日付け手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成24年4月30日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正内容
(1)平成24年4月30日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするもので、特許請求の範囲については、本件補正前に、

「 【請求項1】
熱変色性インキを用いて紙面上に形成した熱変色性の筆跡を摩擦し、その際に生じる摩擦熱で前記熱変色性の筆跡を熱変色させる摩擦体であって、
前記摩擦体の摩擦部の熱伝導率を、0.05W/(m・K)?1.0W/(m・K)の範囲に設定し、且つ、前記摩擦体の摩擦部の紙面に対する摩擦係数を、0.2?1.0の範囲に設定したことを特徴とする摩擦体。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦体を、熱変色性インキを内蔵し且つ熱変色性インキが吐出可能な筆記具の一部に備えた筆記具。
【請求項3】
請求項1に記載の摩擦体と、熱変色性インキを内蔵し且つ熱変色性インキが吐出可能な筆記具とからなる筆記具セット。」
とあったものを、

「 【請求項1】
36℃?95℃で変色する熱変色性インキを内蔵してなり、前記熱変色性インキを用いて紙面上に形成した熱変色性の筆跡を摩擦し、その際に生じる摩擦熱で前記熱変色性の筆跡を熱変色させる摩擦体を筆記具の一部に備えた筆記具であって、前記摩擦体の摩擦部の熱伝導率を、加圧力250Kg/m^(2)、高温板温度35℃、低温板温度5℃の条件で測定した際に0.05W/(m・K)?1.0W/(m・K)の範囲に設定し、且つ、前記摩擦体の摩擦部の紙面に対する摩擦係数を、100mm/分、荷重500gの条件で測定した際に0.2?1.0の範囲に設定したことを特徴とする筆記具。」
と補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)

(2)上記(1)の補正内容は次の補正事項からなる。
本件補正前の請求項1及び3を削除し、本件補正前の請求項2について、発明を特定するために必要な事項である「熱変色性インキ」について、「36℃?95℃で変色する」ものに限定するとともに、熱伝導率及び摩擦係数につき、その値を測定する際の条件を明りょうにして、新たな請求項1とする。

(3)上記(2)補正内容は、補正後の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明は、平成24年4月30日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるものであるところ、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用例
(1)原査定に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-123324号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦体及びそれを備えた筆記具、筆記具セットに関する。更に詳細には、可逆熱変色性インキにより形成される像又は筆跡を、摩擦熱により第1状態から第2状態に変色させる摩擦体及びそれを備えた筆記具、筆記具セットに関する。」

イ 「【背景技術】
【0002】
従来より、支持体上に形成された可逆熱変色層を手動摩擦による摩擦熱で変色させる摩擦体を備えた熱変色セットが提案されている(特許文献1参照)。
前記提案で用いられる摩擦体は、摩擦熱を発生させるために擦過した際、可逆熱変色層を剥がしてしまい可逆的な色変化を損なうため、該可逆熱変色層上にオーバーコート層を設けて剥がれを防止する必要がある。
また、前記特許文献1に記載の摩擦体の擦過部に用いられる例示の樹脂では、該樹脂自体が擦過により削られるため、カスが出て周囲を汚すことがある。更に、摩擦熱の発生効率が低いために擦過回数が増加することがあった。
また、前記特許文献1の可逆熱変色層には、可逆熱変色像の擦過する部分の剥がれを防止するためのオーバーコート層が設けられているので、既存の可逆熱変色像を変色させることしかできず、ユーザーが自由に形成した可逆熱変色像を変色することができなかった。
【0003】
そこで、オーバーコート層等の保護部材を必要とせず、可逆熱変色性インキにより形成された像や筆跡を剥がすことなく変色させるために有用な摩擦体としてシリコーンゴムが提案されている(特許文献2参照)。
前記シリコーンゴムは、可逆熱変色性インキにより形成された像や筆跡を剥がすことなく変色させることができ、摩擦熱の発生効率が高いため摩擦体として優れた効果を発現できるものである。
しかしながら、筆跡や像を擦過して変色させた場合、該擦過部分にシリコーンゴムが僅かに付着してしまうため、擦過部分に再び筆記してもインキがはじいてしまい筆跡や像を形成することができ難いものであった。
【特許文献1】特開平7-241388号公報
【特許文献2】特開2004-148744号公報」

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前記問題点を解決するものであり、可逆熱変色性インキにより形成された像や筆跡を剥がすことなく擦過して第1状態から第2状態に変色させ得ると共に、擦過部分への再筆記が可能であり、繰り返し使用による持久性が高い摩擦体を提供するものである。更に、可逆熱変色性インキにより自由に形成した像を変色できる、摩擦体を備えた筆記具及び摩擦体と筆記具とからなる筆記具セットを提供するものである。」

エ 「【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、可逆熱変色性インキを用いて形成された像を、摩擦熱により第1状態から第2状態に変色させる摩擦体であって、前記摩擦体がスチレン-ブチレン-スチレン共重合体又はスチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体からなることを要件とする。更に、前記摩擦体が、JIS K6253Aにおけるショア硬度Aが55度以上であること、前記摩擦体が着色剤を含有すること、前記着色剤が摩擦体全量中0.1?1.0重量%含有されることを要件とする。
更に、可逆熱変色性インキを内蔵する筆記具であって、前記筆記具により形成された筆跡を摩擦熱により第1状態から第2状態に変色させる前記いずれかの摩擦体を少なくとも一部に備えることを要件とする。更に、前記摩擦体と、筆記具本体又は筆記具部材とが二色成形により一体に成形されること、前記摩擦体が筆記具に嵌着されること、前記摩擦体が筆記具部材であることを要件とする。
更に、少なくとも可逆熱変色性インキを内蔵する筆記具と、該筆記具により形成された筆跡を摩擦熱により第1状態から第2状態に変色させる前記いずれかの摩擦体とからなる筆記具セットを要件とする。
更には、前記可逆熱変色性インキが、少なくとも25℃?95℃の範囲に高温側変色点を有するマイクロカプセル顔料を含有すること、前記可逆熱変色性インキが、発色状態か
ら加熱により消色する加熱消色型、発色状態又は消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型、又は、消色状態から加熱により発色し、発色状態からの冷却により消色状態に復する加熱発色型のいずれかであるか、或いは、それらの任意の組合せであること、前記可逆熱変色性インキの色彩が、第1状態又は第2状態のいずれか一方が有色であり、他方が無色であることを要件とする。」

オ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の摩擦体は、可逆熱変色性インキにより印刷、筆記等の手段で形成された像又は筆跡を摩擦熱により第1状態から第2状態に簡易に変色させるものであり、前記像又は筆跡を擦過することで常態と異なる色彩に互変的に変色させるものである。
【0017】
また、本発明の摩擦体は、動力等を用いず手動操作によって発熱させ得るため、大がかりな装置を必要とせず、低コストで製造できるので、可逆熱変色性インキを内蔵する筆記具の軸胴の後端部または筆記具用キャップの頂部等に嵌合や二色成形等の手段により設けたり、可逆熱変色性インキを内蔵する筆記具と併せて使用したり、可逆熱変色性インキによる印刷像を備えた絵本や玩具と併せて使用することができる。
特に、前記筆記具と摩擦体を別体で設けて可逆熱変色性筆記具セットとしたり、前記筆記具に摩擦体を設けた場合、前記筆記具により自由な像を形成することができると共に、摩擦体により前記像を容易に変色させることができるため、より有用なものとなる。
【0018】
前記摩擦体としてはスチレン-ブチレン-スチレン(SBS)共重合体又はスチレン-エチレン・ブチレン-スチレン(SEBS)共重合体が適用される。これらの共重合体は、摩擦熱の発生効率が良く、熱変色像を剥がすことなく繰り返し可逆的に変色させることができると共に、擦過時の抵抗が少ないため滑らかに擦過できるものであり、更に、擦過時に支持体に定着してもインキのはじきを生じないため、擦過部分に再筆記することが可能である。
【0019】
また、前記共重合体からなる摩擦体の硬度を、JIS K6253Aにおけるショア硬度Aを55度以上にすることが好ましい。
55度以上とすることで、摩擦熱の発生効率が高まると共に、摩擦体がより削れ難くなるので、少ない擦過回数で容易に熱変色像を変色させることができ、削れカスにより擦過部分の周辺を汚すことなく使用できる。
また、摩擦体に弾性を付与するためにショア硬度Aを100度以下にすることが好ましい。100度以下とすることで、弾性力を備えるため、摩擦時の支持体への接触面が増加し、少ない擦過回数で容易に熱変色像を変色できると共に、滑らかに擦過できる。」

カ 「【0024】
次に可逆熱変色性インキについて説明する。
本発明の摩擦体により可逆的に変色される可逆熱変色像及び筆跡を形成する可逆熱変色性インキは、発色状態から加熱により消色する加熱消色型、発色状態又は消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型、又は、消色状態から加熱により発色し、発色状態からの冷却により消色状態に復する加熱発色型等、種々のタイプを単独又は併用して構成することができる。前記構成を用いることで、擦過により変色した像が瞬時に元の色に戻るものや、擦過による変色を広い温度範囲で保持できるもの等、マジック性に富んだ像を形成できる。
また、前記可逆熱変色性インキは、低温側変色点を-30℃?+10℃の範囲、且つ、高温側変色点を25℃?95℃(好ましくは36℃?90℃)の範囲に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持を有効に機能させることができると共に、本発明の摩擦体による擦過で変色可能となるため、実用性が高いものとなる。
【0025】
また、前記可逆熱変色性インキに含有される可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、従来より公知の(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、及び(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体、の必須三成分を少なくとも含む可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させたものが有効であり、発色状態からの加熱により消色する加熱消色型としては、本出願人が提案した、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44707号公報、特公平1-29398号公報等に記載のものが利用できる。前記は所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、完全消色温度以上の温度域で消色状態、完全発色温度以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在しない。即ち、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔH=1?7℃)を有する。
ΔHが3℃以下の系〔特公平1-29398号公報に示す、3℃以下のΔT値(融点-曇点)を示す脂肪酸エステルを変色温度調節化合物として適用した系〕にあっては、完全消色温度(t_(4 ))及び完全発色温度(t_(1 ))を境に温度変化に鋭敏に感応して高感度の変色性を示し、ΔHが4?7℃程度の系では変色後、緩徐に元の様相に戻り、視認効果を高めることができる。
又、本出願人が提案した特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報、特開平8-39936号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性(ΔH=8?50℃)を示す、即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度(t_(1) )以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度(t_(4 ))以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔t_(2) ?t_(3) の間の温度域(実質的二相保持温度域)〕で記憶保持できる色彩記憶保持型熱変色性組成物も適用できる。更に、カプリン酸4-ベンジルオキシフェニルエチル等の分子内に芳香環を2個有するアルコール化合物と炭素数4以上の飽和又は不飽和脂肪酸とから構成されるエステル化合物を(ハ)成分に用いることで、より大きなヒステリシス特性(ΔH=50?80℃)を示す色彩記憶保持型熱変色性組成物も適用できる。
前記実質的二相保持温度域は、目的に応じて設定できるが、本発明では、前記高温側変色点を25℃?95℃(好ましくは、36℃?90℃)の範囲に設定する。
尚、前記低温側変色点〔完全発色温度(t_(1) )〕は、-30℃?+20℃(好ましくは、-30℃?+10℃)の範囲から選ばれる任意の温度に設定できる。
前記温度設定により、発色開始温度(t_(2) )と消色開始温度(t_(3) )の間の任意の温度で、発色状態又は消色状態を互変的に記憶保持して視覚させることができる。
又、加熱発色型の組成物として、消色状態からの加熱により発色する、本出願人の提案による、電子受容性化合物として、炭素数3乃至18の直鎖又は側鎖アルキル基を有する特定のアルコキシフェノール化合物を適用した系(特開平11-129623号公報、特開平11-5973号公報)、或いは特定のヒドロキシ安息香酸エステルを適用した系(特開2001-105732号公報)、更に、消色状態からの加熱により高温側変色点(完全発色温度)で発色する、没食子酸エステル等を適用した系等を適用できる。
ここで、前記可逆熱変色性マイクロカプセル中、或いはインキ中に非熱変色性の染料、顔料等の着色剤を配合して、有色(1)から有色(2)への互変的色変化を呈する構成となすことができる。」

キ 「【0040】
実施例1
摩擦体の作成
青色顔料〔大日精化工業(株)製〕0.25部をSEBS共重合エラストマー〔アロン化成(株)製、商品名:AR-885C、ショアA硬度:88〕100部に添加し、混練した後、成型することにより青色の摩擦体1を得た。
前記摩擦体1は、紙面に印刷された可逆熱変色像を擦過により瞬時に変色させることができると共に、前記紙面に色移りすることはなっかった。」

ク 「【0042】
実施例3
感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料の調製
(イ)成分として3-(4-ジエチルアミノ-2-ヘキシルオキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド2.0部、(ロ)成分としてビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)スルフィド8.0部、2,2-ビス(4′-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5.0部、(ハ)成分としてカプリン酸4-ベンジルオキシフェニルエチル50.0部からなる感温変色性色彩記憶性組成物を均一に加温溶解し、壁膜材料として芳香族多価イソシアネートプレポリマー30.0部、助溶剤40.0部を混合した溶液を、8%ポリビニルアルコール水溶液中で微小滴になるように乳化分散し、70℃で約1時間攪拌を続けた後、水溶性脂肪族変性アミン2.5部を加え、更に6時間攪拌を続けて感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料懸濁液を得た。
前記懸濁液を遠心分離して感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を単離した。
なお、前記マイクロカプセル顔料(t_(1):-14℃、t_(2) :-6℃、t_(3):48℃、t_(4):60℃、平均粒子径:2μm)のヒステリシス幅(ΔH)は64℃であり、温度変化により青色から無色に変色する。
【0043】
感温変色性色彩記憶性インキの調製
前記マイクロカプセル顔料25.7部、サクシノグリカン(剪断減粘性付与剤)0.2部、尿素5.5部、グリセリン7.5部、ノニオン系浸透性付与剤〔サンノプコ(株)社製、商品名:ノプコSW-WET-366〕0.03部、変性シリコーン系消泡剤〔日本シリコーン(株)製、商品名:FSアンチフォーム013B〕0.15部、防腐剤〔ゼネカ(株)製、商品名:プロキセルXL-2〕0.1部、潤滑剤〔第一工業製薬( 株) 製プライサーフA212C〕0.5部、トリエタノールアミン0.5部、水59.82部からなる感温変色性色彩記憶性インキ6を調製した。
【0044】
筆記具の作製
前記インキ6(予め-14℃以下に冷却してマイクロカプセル顔料を青色に発色させた後、室温下で放置したもの)を内径4.4mmのポリプロピレン製パイプに0.97g吸引充填し、樹脂製ホルダーを介してボールペンチップ4と連結させた。
次いで、前記ポリプロピレン製パイプ(レフィールパイプ8)の後部より、ポリブテンを主成分とする粘弾性を有するインキ逆流防止体(液栓7)を充填し、更に尾栓をレフィールパイプ8の後部に嵌合させ、先軸、後軸からなる軸胴5を組み付け、キャップ3を嵌めた後、遠心処理により脱気処理を行なってボールペン2を得た。
なお、前記ボールペンチップ4は、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させたチップの先端部に直径0.7mmのステンレス鋼ボールを抱持させたものであり、キャップは頂部に設けられた嵌合部31に実施例1で得られた摩擦体1の擦過部11を曲率半径3.0mmの凸曲面とし、抜け力10Nで嵌着してなる(図1)。
【0045】
筆跡の変色挙動
前記ボールペン2により通常の浸透性を有する紙に筆記した熱変色性筆跡は、室温(25℃)で青色の発色状態であり、低温側変色点(-6℃)以上、高温側変色点(60℃)以下の温度でこの状態を保持していた。
前記筆跡をキャップに固着した摩擦体1で数回擦過したところ、擦過した部分が直ちに消色して無色となり、低温側変色点(-6℃)以上、高温側変色点(60℃)以下の温度でこの状態を保持していた。
次いで、前記熱変色性筆跡を冷凍庫(約-15℃)の中に放置したところ、前記消色部分が再び青色に発色し擦過前の状態に戻った。この変色挙動は繰り返し再現することができた。
更に、擦過により消色した部分に再筆記しても、筆跡のはじき等を生じることなく、筆跡を形成することが可能であった。前記擦過消去及び消去箇所への筆跡形成は繰り返し行うことができた。」

ケ 上記アないしクの記載から、引用例1には、次の発明が記載されているものと認められる。

「従来より、可逆熱変色性インキにより形成された筆跡を剥がすことなく変色させるために有用な摩擦体としてシリコーンゴムが提案され、摩擦熱の発生効率が高いため摩擦体として優れた効果を発現できるものであるが、筆跡を擦過して変色させた場合、該擦過部分にシリコーンゴムが僅かに付着し、擦過部分に再び筆記してもインキがはじいてしまい筆跡を形成することができ難いものであったところ、
可逆熱変色性インキにより形成された筆跡を剥がすことなく擦過して第1状態から第2状態に変色させ得ると共に、擦過部分への再筆記が可能であり、繰り返し使用による持久性が高く、可逆熱変色性インキにより自由に形成した像を変色できる、摩擦体を備えた筆記具となすことを目的として、
マイクロカプセル顔料(完全発色温度t_(1):-14℃、発色開始温度t_(2) :-6℃、消色開始温度t_(3):48℃、完全消色温度t_(4):60℃、平均粒子径:2μm)を主成分とする感温変色性色彩記憶性インキ6を、レフィールパイプ8に吸引充填し、樹脂製ホルダーを介してボールペンチップ4と連結させ、レフィールパイプ8の後部より、液栓7を充填し、更に尾栓をレフィールパイプ8の後部に嵌合させ、先軸、後軸からなる軸胴5を組み付け、キャップ3を嵌めて得たボールペン2であって、
キャップ3には、青色顔料0.25部をSEBS共重合エラストマー〔アロン化成(株)製、商品名:AR-885C、ショアA硬度:88〕100部に添加し、混練した後、成型して得た青色の摩擦体1(スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン(SEBS)共重合体)が、頂部に設けられた嵌合部31に嵌着されており、
キャップ3に固着した摩擦体1で、ボールペン2により通常の浸透性を有する紙に筆記した熱変色性筆跡を数回擦過したところ、擦過した部分が直ちに消色して無色となるものであり、
摩擦体は、動力等を用いず手動操作によって発熱させ得、摩擦熱の発生効率が良く、熱変色像を剥がすことなく繰り返し可逆的に変色させることができると共に、擦過時の抵抗が少ないため滑らかに擦過でき、更に、擦過時に支持体に定着してもインキのはじきを生じず、擦過部分に再筆記することを可能となした、
ボールペン2。」
(以下「引用発明1」という。)

(2)原査定に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-241388号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。
ア 「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、支持体表面に熱変色層が配設された熱変色体と、前記熱変色層を手動摩擦による摩擦熱で変色させる摩擦具とからなる熱変色筆記材セットを要件とする。更に、前記摩擦具は、摩擦部が非金属材料であること、摩擦部がゴム、エラストマー、樹脂発泡体、繊維の熱融着乃至樹脂加工体、羊毛フェルト、可塑剤がブレンドされたプラスチックの半溶融ゲル化体等から選ばれる材料よりなること、前記熱変色体は、熱変色層の上層に透明樹脂のオーバーコート保護層が設けられており、前記摩擦部はオーバーコート保護層より低硬度の材料よりなること、更に、前記摩擦具は、摩擦により熱を発生させる摩擦部と、前記摩擦部を保持する保持部よりなること、前記熱変色層は、5?50℃の変色点をもち、変色点以下で発色、変色点以上で消色する可逆性熱変色性材料で形成されており、前記摩擦具は熱変色層の発色像を熱消色させる消去具であること、前記摩擦具は、熱変色像を形成する熱変色筆記要素であること、前記熱変色層は、温度変化によりヒステリシス特性を示して着色状態と無色状態の互変性又は有色(1)と有色(2)間の互変性を有し、着色状態と無色状態の両相又は有色(1)と有色(2)の両相が共存できる二相保持温度域が、常温域にある準可逆性熱変色性材料を内包させた微小カプセル顔料が、バインダー中に分散状態で固着されてなる層であること、前記熱変色体は、熱変色層と支持体との間に非変色層が介在されてなることを要件とする。
【0006】前記摩擦具は、摩擦部と熱変色体の摩擦面(熱変色層又はオーバーコート保護層)との間に発生する摩擦熱により、前記熱変色層を変色させる変色具であり、適度な摩擦抵抗を有し、更に摩擦面よりも低硬度であり、摩擦により前記摩擦面を傷つけることのない材料が選択される。更に加えて前記摩擦具は、摩擦面と摩擦部の間に生じた摩擦熱を熱変色層に効果的に伝導するために、摩擦熱の損失の少ない、熱伝導率の低い非金属性の材料を用いることが好ましい。
【0007】前記要件を満たす摩擦具の摩擦部の材質としては、熱可塑性乃至熱硬化性樹脂発泡体として、ポリスチロール、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体等の発泡体が挙げられ、好ましくはポリエチレン発泡体が用いられる。プラスチック発泡体として、酢酸セルローズ、アクリル樹脂、ポリビニルホルマール等の発泡体が挙げられる。エラストマーとして、ポリブタジエン、クロロプロピレン、ポリウレタン系コポリマー、エチレン・プロピレン、オレフィン、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル系、ポリエステル系、エチレン-アクリル酸コポリマー、スチレン系等のエラストマーが挙げられる。ゴムとして、ブチルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-酢酸ビニル系ゴム、塩素化ポリエチレン、ポリエステルゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられる。その他、繊維の熱融着乃至樹脂加工体、羊毛フェルト体、塩化ビニル及び塩化ビニル-酢酸ビニル樹脂等に可塑剤がブレンドされた半溶融ゲル化体等が挙げられる。」

イ 上記アの記載から、引用例2には、次の発明が記載されているものと認められる。

「二相保持温度域が、常温域にある準可逆性熱変色性材料を含む熱変色体を手動摩擦による摩擦熱で変色させる摩擦具として、適度な摩擦抵抗を有し、更に摩擦面よりも低硬度であり、摩擦により前記摩擦面を傷つけることのない材料が選択され、更に加えて前記摩擦具は、摩擦面と摩擦部の間に生じた摩擦熱を熱変色層に効果的に伝導するために、摩擦熱の損失の少ない、熱伝導率の低い非金属性の材料を用いた摩擦具。」
(以下「引用発明2」という。)

3 対比・判断
(1)対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「変色、消色」は本願補正発明の「変色」に相当し、以下同様に、「感温変色性色彩記憶性インキ6」は「熱変色性インキ」に、「通常の浸透性を有する紙に筆記した熱変色性筆跡」は「熱変色性インキを用いて紙面上に形成した熱変色性の筆跡」に、「擦過」は「摩擦」に、「摩擦熱」は「摩擦熱」に、「変色、消色」は「熱変色」に、「摩擦体1」は「摩擦体」に、「ボールペン2」は「筆記具」に、それぞれ相当する。

イ 本願補正発明の「熱変色性インキ」の変色温度に関し、本願明細書に
「 【0031】
本発明では、前記熱変色性インキの摩擦体の摩擦熱による変色温度は、36℃?95℃に設定される。即ち、本発明では、前記高温側変色点〔完全消色温度(t_(4))〕を、36℃?95℃(好ましくは、36℃?90℃)の範囲に設定し、前記低温側変色点〔完全発色温度(t_(1))〕を、-30℃?+20℃(好ましくは、-30℃?+10℃)の範囲に設定することが有効である。それにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持を有効に機能させることができるとともに、可逆熱変色性インキによる筆跡を摩擦体による摩擦熱で容易に変色することができる。」
と記載されている。
そして、引用発明1における「感温変色性色彩記憶性インキ6」の主成分であるマイクロカプセル顔料の完全消色温度t_(4 )が60℃、消色開始温度t_(3) が48℃であり、完全消色温度t_(4 )及び消色開始温度t_(3) はいずれも、36℃?95℃の範囲内にあるから、上記明細書の記載からみて、引用発明1の「感温変色性色彩記憶性インキ6」は「36℃?95℃で変色する」といえ、引用発明1の「感温変色性色彩記憶性インキ6(熱変色性インキ)」と本願補正発明の「熱変色性インキ」とは、「36℃?95℃で変色する」点で一致する。

ウ 引用発明1の「ボールペン2」は、感温変色性色彩記憶性インキ6を、レフィールパイプ8に吸引充填して得たものであり、ボールペン2のキャップ3の頂部には、ボールペン2により通常の浸透性を有する紙に筆記した熱変色性筆跡を数回擦過して擦過した部分を消色する摩擦体1が嵌着されているのであるから、引用発明1の「ボールペン2(筆記具)」と本願補正発明の「筆記具」とは、「熱変色性インキを内蔵してなり、前記熱変色性インキを用いて紙面上に形成した熱変色性の筆跡を摩擦し、その際に生じる摩擦熱で前記熱変色性の筆跡を熱変色させる摩擦体を筆記具の一部に備えた」点で一致する。

エ 上記アないしウからすると、本願補正発明と引用発明1とは、
「36℃?95℃で変色する熱変色性インキを内蔵してなり、前記熱変色性インキを用いて紙面上に形成した熱変色性の筆跡を摩擦し、その際に生じる摩擦熱で前記熱変色性の筆跡を熱変色させる摩擦体を筆記具の一部に備えた筆記具。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記摩擦体に関し、
本願補正発明では、摩擦体の摩擦部の熱伝導率を、加圧力250Kg/m^(2)、高温板温度35℃、低温板温度5℃の条件で測定した際に0.05W/(m・K)?1.0W/(m・K)の範囲に設定したものであるのに対して、
引用発明1では、摩擦体が、青色顔料0.25部をSEBS共重合エラストマー〔アロン化成(株)製、商品名:AR-885C、ショアA硬度:88〕100部に添加し、混練した後、成型して得たスチレン-エチレン・ブチレン-スチレン(SEBS)共重合体であるものの、その摩擦部の熱伝導率については不明である点。

相違点2:
前記摩擦体に関し、
本願補正発明では、摩擦体の摩擦部の紙面に対する摩擦係数を、100mm/分、荷重500gの条件で測定した際に0.2?1.0の範囲に設定したものであるのに対して、
引用発明1では、摩擦体が、青色顔料0.25部をSEBS共重合エラストマー〔アロン化成(株)製、商品名:AR-885C、ショアA硬度:88〕100部に添加し、混練した後、成型して得たスチレン-エチレン・ブチレン-スチレン(SEBS)共重合体であるものの、その摩擦部の紙面に対する摩擦係数については不明である点。

(2)判断
上記相違点1及び2について検討する。
ア 引用例2には、上記3(2)のとおり下記引用発明2が記載されている。
「二相保持温度域が、常温域にある準可逆性熱変色性材料を含む熱変色体を手動摩擦による摩擦熱で変色させる摩擦具として、適度な摩擦抵抗を有し、更に摩擦面よりも低硬度であり、摩擦により前記摩擦面を傷つけることのない材料が選択され、更に加えて前記摩擦具は、摩擦面と摩擦部の間に生じた摩擦熱を熱変色層に効果的に伝導するために、摩擦熱の損失の少ない、熱伝導率の低い非金属性の材料を用いた摩擦具。」

イ 本願補正発明の摩擦体の材質に関し、本願明細書に
「 【0025】
・摩擦体
前記発明において、摩擦体の材質は、ガラス、金属、石材、樹脂等、いずれであってよいが、例えば、シリコーン樹脂、スチレン系樹脂(スチレンとブタジエンの共重合体、スチレンとエチレンとブタジエンの共重合体)、フッ素系樹脂、クロロプレン樹脂、ニトリル樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂が好ましい。」
と記載されている。
引用発明1の「摩擦体1」は、青色顔料0.25部をSEBS共重合エラストマー〔アロン化成(株)製、商品名:AR-885C、ショアA硬度:88〕100部に添加し、混練した後、成型して得たスチレン-エチレン・ブチレン-スチレン(SEBS)共重合体であり、本願明細書において、摩擦体の材質として好ましいとして例示されている「スチレン系樹脂」に含まれるものである。
また、引用例1の従来技術において、摩擦体の材質として示されているシリコーンゴムも、本願明細書において、摩擦体の材質として好ましいとして例示されている「シリコーン樹脂」に含まれる。

ウ 本願の明細書には、摩擦体の摩擦部の熱伝導率に関し、
「 【0008】
前記摩擦体は、0.05W/(m・K)?1.0W/(m・K)の範囲に設定したことにより、老若男女を問わず誰でも熱変色性の筆跡を手動摩擦による摩擦熱で確実且つ容易に熱変色させることができる。
【0009】
前記摩擦体の摩擦部の熱伝導率が、0.05ワット毎メートル毎ケルビン(W/(m・K))より小さい場合、過熱により摩擦体や紙面を損傷させるおそれがある。
・・(略)・・
【0016】
前記熱伝導率は、英弘精機製AUTOΛ(HC-072)を用いて、加圧力250Kg/m^(2)、高温板温度35℃、低温板温度5℃で測定した。尚、前記熱伝導率の単位は、ワット毎メートル毎ケルビン(W/(m・K))である。尚、摩擦体の摩擦部とは、紙面上の熱変色性の筆跡と接触して摩擦熱を発生する部分である。」
と記載されている程度であり、また熱伝導率を異ならせた比較例も記載されていない。
また、熱伝導率について、断熱材として用いるグラスウールの熱伝導率が、0.05W/(m・K)程度、各種ゴムやプラスチックの熱伝導率が約0.1?約0.5W/(m・K)程度、ガラスや陶器の熱伝導率が約1.0W/(m・K)程度であることからみて、本願補正発明において、摩擦体の摩擦部の熱伝導率を、加圧力250Kg/m^(2)、高温板温度35℃、低温板温度5℃の条件で測定した際に0.05W/(m・K)?1.0W/(m・K)の範囲に設定することにより、引用発明1、引用発明2とは異質な効果、又は同質であるが際立って優れた効果を有するとも認められない。

エ 本願の明細書には、摩擦体の摩擦部の紙面に対する摩擦係数に関し、
「【0018】
前記摩擦体は、前記摩擦体の摩擦部の紙面に対する摩擦係数を、0.2?1.0の範囲に設定したことにより、より一層、熱変色性の筆跡を確実且つ容易に熱変色させることができる。
【0019】
前記摩擦体の摩擦部の紙面に対する摩擦係数が、0.2より小さい場合、大きな荷重で摩擦しても、熱変色性の筆跡を容易に熱変色させることができない。一方、前記摩擦体の摩擦部の紙面に対する摩擦係数が、1.0より大きい場合、摩擦時の紙面との摩擦抵抗が大き過ぎて円滑な手動摩擦が困難となるおそれや、紙面が損傷するおそれがある。
【0020】
尚、前記摩擦係数(動摩擦係数)は、新東科学(株)製、表面性測定機:HEIDON-14Dを用いて、100mm/分、荷重500g(4.9N)の条件下で筆記用紙A(旧JIS P3201:化学パルプ100%を原料に抄造された上質紙、秤量範囲40?157g/m^(2) 、白色度75.0%以上)上を摩擦した時の摩擦係数(摩擦力/荷重)を測定した。」
と記載されている程度であり、また摩擦係数を異ならせた比較例も記載されておらず、本願補正発明において、摩擦体の摩擦部の摩擦係数(動摩擦計数)を、100mm/分、荷重500gの条件で測定した際に0.2?1.0の範囲に設定することにより、引用発明1、引用発明2とは異質な効果、又は同質であるが際立って優れた効果を有するとも認められない。

オ 上記アからみて、引用発明1における二相保持温度域は、発色開始温度t_(2) である-6℃から消色開始温度t_(3)の48℃までであり、引用発明1と引用発明2とは、二相保持温度域がほぼ常温域にある熱変色性変色体を手動摩擦による摩擦熱で変色させる摩擦具に関する点で共通するものであり、引用発明1において、ボールペン2により通常の浸透性を有する紙に筆記した熱変色性筆跡を手動摩擦による摩擦熱で消色させるための摩擦具1として、適度な摩擦抵抗を有し、摩擦により摩擦面である紙を傷つけることがなく、更に加えて、摩擦面と摩擦部の間に生じた摩擦熱を熱変色性筆跡に効果的に伝導するために、摩擦熱の損失の少ない、熱伝導率の低い非金属性の材料を用いることは、引用発明2に基づき、当業者が容易に想到できたものである。
そして、引用発明1は、熱変色性筆跡を「摩擦体1」で数回擦過すると擦過した部分が直ちに消色して無色となるものであるところ、上記イ及びウからみて、引用発明1において、摩擦面と摩擦部の間に生じた摩擦熱を熱変色性筆跡に効果的に伝導するようになすため、摩擦具の摩擦部の適正な熱伝導率として、引用発明1の「摩擦体1」で用いられているSEBS共重合エラストマー〔アロン化成(株)製、商品名:AR-885C、ショアA硬度:88〕の熱伝導率を実際に測定した値、引用例2に要件を満たす摩擦具の摩擦部の材質として例示されている各種材質の熱伝導率の範囲も参考にして、摩擦具の摩擦部の熱伝導率として、加圧力250Kg/m^(2)、高温板温度35℃、低温板温度5℃の条件で測定した際に0.05W/(m・K)?1.0W/(m・K)の範囲内とし、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が適宜なし得た程度の事項である。
また、引用発明1は、熱変色性筆跡を「摩擦体1」で数回擦過すると擦過した部分が直ちに消色して無色となるものであるところ、上記イ及びエからみて、引用発明1において、適度な摩擦抵抗を有して、過度な摩擦を必要とせず、且つ摩擦される紙を傷つけることがないように、引用発明1の「摩擦体1」の材料であるSEBS共重合エラストマー〔アロン化成(株)製、商品名:AR-885C、ショアA硬度:88〕の摩擦係数を実際に測定した値も参考にして、摩擦具の摩擦部の摩擦係数の適正な摩擦係数として、100mm/分、荷重500gの条件で測定した際に0.2?1.0の範囲に設定内とし、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が適宜なし得た程度の事項である。なお、本願と同一出願人による特許出願(特願2007-296714号(特開2008-155624号))には、段落【0028】及び【0029】の【表1】に摩擦体の14として、スチレン系樹脂材料(アロン化成、AR885)について、摩擦係数が 0.547(新東科学(株)製、表面性測定機:HEIDON-14Dを用いて、10mm/分、荷重500gの条件下で紙面上を擦った時の値)であることが開示されており、引用例1の「摩擦体1」の材料であるSEBS共重合エラストマー〔アロン化成(株)製、商品名:AR-885C、ショアA硬度:88〕の摩擦係数を実際に測定した値は、これに非常に近い値になると認められる。

カ 本願補正発明の奏する効果は、引用発明1の奏する効果、引用発明2の奏する効果から、当業者が予測できた程度のものである。

キ まとめ
本願補正発明は、当業者が引用例1及び2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 補正却下の決定のむすび
以上のとおり、本願補正発明は、当業者が引用例1及び2に記載された発明、周知技術及び周知事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成23年8月9日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年8月9日付け手続補正により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項2として記載したとおりのものである。

2 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用例1及び2の記載事項は、前記「第2〔理由〕 2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2〔理由〕 1」で述べたとおり、本願補正発明は、本願発明を特定するために必要な事項について限定を付加したものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2〔理由〕 3」に記載したとおり、当業者が引用例1及び2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が引用例1及び2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
本願発明は、当業者が引用例1及び2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-30 
結審通知日 2012-11-06 
審決日 2012-12-27 
出願番号 特願2007-139609(P2007-139609)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B43K)
P 1 8・ 575- Z (B43K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 砂川 充  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 東 治企
菅野 芳男
発明の名称 摩擦体、筆記具及び筆記具セット  

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