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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1270394
審判番号 不服2012-7824  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-27 
確定日 2013-02-22 
事件の表示 特願2005-103043「レンズ鏡胴」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月19日出願公開、特開2006-284789〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年3月31日の出願であって、平成22年10月6日付けで拒絶理由の通知がなされ、これに対して、同年12月17日に手続補正がなされ、さらに平成23年6月2日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年8月9日付けで手続補正がなされたが、平成24年1月31日付けで当該手続補正に対する補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年4月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされた。その後、同年9月11日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、同年11月19日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成24年4月27日付けの手続補正の補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成24年4月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の請求項1に記載された発明
平成24年4月27日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、明細書の特許請求の範囲の請求項1は、特許請求の範囲の減縮を目的として、以下のように補正された。
「レンズと、前記レンズを収容するべく光軸方向に軸心をもつ内周面及び所定口径の開口部を画定する環状段部を有する保持筒と、を備えたレンズ鏡胴であって、
前記保持筒は、前記内周面から径方向内側に突出すると共に光軸方向に伸長しかつ周方向に等間隔で配列して形成された弾性変形可能な複数の突条部を有し、
前記レンズは、小径レンズ及び前記小径レンズに接合された大径レンズからなる接合レンズを含み、
前記保持筒は、前記接合レンズを径方向において保持するべく前記大径レンズの外周面のみが前記複数の突条部を弾性変形させつつ嵌合され、かつ、前記接合レンズを光軸方向において保持するべく前記小径レンズの接合された面と反対側の面のみが前記環状段部に接触させられて位置決めされる、ように形成されている、
ことを特徴とするレンズ鏡胴。」

そこで、本願の補正後の上記請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2.引用刊行物及び該刊行物に記載の発明
(1)本願出願前に頒布された刊行物である、特開2001-343573号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、デジタルおよびアナログ複写機、スキャナ、ファクシミリ、カメラ、投影機など、あらゆる光学機器の光学系に適用可能なレンズ鏡筒の構造およびレンズ鏡筒の組立方法に関するものである。」
(1b)「【0037】図6は、光軸方向にレンズをほぼ対称形に配置したガウスタイプの光学系の実施形態を示す。符号31は第1レンズ、32は第2レンズ、33は第3レンズ、34は第4レンズ、35は第5レンズ、36は第6レンズをそれぞれ示す。第3レンズ33、第4レンズ34は負のパワーを持ち、他のレンズは正のパワーを持つ。第2レンズ32と第3レンズ33は略同径で接合レンズである。第1レンズ31は第2、第3レンズ32、33よりも大径になっている。第4レンズ34と第5レンズ35も接合レンズであり、第5レンズ35が第4レンズ34よりも多少大径になっている。第6レンズ36は第5レンズ35よりも大径になっている。
【0038】レンズ保持筒7の、第3レンズ保持部の内径は第3レンズ33の外径と同径で、第3レンズ33は、これをレンズ保持筒7の内周に沿って落とし込むだけで位置決めされる。第1レンズ31と第2レンズ32との間に間隔部材としての間隔環37が介在している。間隔環37の外径と第1レンズ31の外径は同径である。レンズ保持筒7の、間隔環37および第1レンズ31の保持部の内径も上記間隔環37、第1レンズ31の外径と同径で、間隔環37と第1レンズ31は、これをレンズ保持筒7の内周に沿って落とし込むだけで位置決めされる。第1、第2、第3レンズ31、32、33と、間隔環37は、レンズ保持筒7の図6において左端部外周に形成された雄ねじに押え環6がねじ込まれることにより、この押え環6と、レンズ押え筒7の内周側に形成された段部39との間に挟みこまれ、レンズ保持筒7に一体に固定されている。
【0039】第4、第5、第6レンズ34、35、36も、第1、第2、第3レンズ31、32、33と略同様にレンズ保持筒7に一体に固定される。レンズ保持筒7の、第4、第5レンズ保持部は、第5レンズ35の外径と同径になっていて、一体に接合された第4、第5レンズ34、35は、第5レンズ35をレンズ保持筒7の内周面に沿って落とし込むことによって位置決めされる。第5、第6レンズ35、36の間には間隔部材としての間隔環38が介在し、第5、第6レンズ35、36の間隔を所定の間隔に保持している。
【0040】間隔環38と第6レンズ35の外径は同径であり、かつ、レンズ保持筒7の、間隔環38と第6レンズ35の保持部の内径も同径になっている。したがって、レンズ保持筒7の内周面に沿って間隔環38と第6レンズ35を落とし込むことによってこれらが位置決めされるようになっている。レンズ保持筒7の図6において右端部外周に形成された雄ねじに押え環9がねじ込まれている。第4、第5、第6レンズ34、35、36と、間隔環38は、上記押え環9と、レンズ押え筒7の内周側に形成された突起43との間に挟みこまれて、レンズ保持筒7に一体に固定されている。
【0041】図6に示す実施の形態では、各レンズの径は、光の入出射側から奥側に向かって順次小さくなっている。したがって、各レンズのレンズ支持筒への組み込み、レンズ支持筒からの取り外しを容易におこなうことができ、図1に示す実施形態と同様に、間隔環の交換による像面の倒れ補正を容易に行うことができる。」
(1c)「【図6】


(1d)図6からは、接合レンズである第4、第5レンズの第4レンズの接合面と反対側の面のみが突起43に接触して位置決めされているようすが見て取れる。
同様に、突起43がレンズ保持筒7の内周側の所定口径の開口部を画定する環状段部上に形成されていることが見て取れる。

これらの記載事項及び図面を含む引用文献1全体の記載並びに当業者の技術常識を総合すれば、引用文献1には、以下の発明が記載されている。
「第4レンズ(34)と第4レンズよりも多少大径になっている第5レンズ(35)とからなる一体に接合された接合レンズと、第6レンズ(36)と、
第5レンズの外径と同径になっている第4、第5レンズ保持部と、内周側に所定口径の開口部を画定する環状段部上に突起(43)が形成されているレンズ保持筒(7)を有し、
第4、第5レンズは、第5レンズをレンズ保持筒の内周面に沿って落とし込むことによって位置決めされ、
第5、第6レンズの間には間隔部材としての間隔環(38)が介在し、第5、第6レンズの間隔を所定の間隔に保持しており、
レンズ保持筒の端部外周に形成された雄ねじに押え環(9)がねじ込まれ、第4、第5、第6レンズと、間隔環は、上記押え環と、突起との間に挟みこまれて、第4、第5レンズの第4レンズの接合面と反対側の面のみが突起に接触して位置決めされ、レンズ保持筒に一体に固定されている、
レンズ鏡筒。」(以下「引用1発明」という。)

(2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平10-197772号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(2a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、撮影光学系を構成するレンズをレンズ保持部材により保持するレンズ鏡筒とその製造方法に関するものである。」
(2b)「【0013】
【発明の実施の形態】
(第1実施形態)以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態について、さらに詳しく説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るレンズ鏡筒の断面図である。図2は、図のII-II線で切断した状態を示す部分断面図であり、(A)は、II-IIA線で切断した状態を示す部分断面図であり、(B)は、II-IIB線で切断した状態を示す部分断面図である。」
(2c)「【0020】レンズ保持部材4は、撮影光学系を構成する前群レンズ(メニスカスレンズ)L1と、後群レンズ(両凸レンズ)L2とを保持し、光軸I方向に移動する筒状の枠部材である。レンズ保持部材4の内周部には、被写体側(図中左側)から順に、図示しないフィルタなどの付属品を取り付けるとともに、後述する押さえ環5を取り付けるためのフィルタねじ部4cと、このフィルタねじ部4cと大径部4aとの段部に形成され、光軸Iと垂直な垂直面4pと、大径部4aに形成された突起部4jと、大径部4aと小径部4bとの段部に形成され、光軸Iと垂直な垂直面4iと、小径部4bに形成された突起部4kと、後群レンズL2が光軸I方向に移動するのを防止する押さえ部4lと、内径部4dに形成された突起部4mと、後述する押さえ環6を取り付けるためのねじ部4nとが設けられている。また、レンズ保持部材4の外周部には、レンズ鏡筒側マウント部材1側において、光軸Iと平行に形成され、直進キー部材9の係合部分9aが係合する直進溝4gと、雄ヘリコイドねじ部4hとが設けられている。レンズ保持部材4は、その雄ヘリコイドねじ部4hを回転筒3の雌ヘリコイドねじ部3aにねじ込むことにより、回転筒3の内周部に回転自在に嵌め込まれている。
【0021】突起部4jは、前群レンズL1のレンズ大径部L1aと締りばめし、この前群レンズL1をレンズ保持部材4に保持するための部分である。図2(A)に示すように、突起部4jは、その先端部と接触する仮想円の中心が撮影光学系全体の光軸Iと一致するように、レンズ保持部材4の内周部4aの円周方向に120度間隔を開けて3ヶ所形成されている。突起部4j及びレンズ大径部L1aの嵌め合い程度は、レンズ大径部L1aが突起部4jに締りばめしたときに、前群レンズL1の中心(光軸)が撮影光学系全体の光軸Iと一致するように設定されている。
【0022】突起部4kは、前群レンズL1のレンズ大径部L1aが突起部4jに挿入され締りばめされる前に、この前群レンズL1のレンズ小径部L1bに嵌まり込み、レンズ大径部L1aを突起部4jに案内するための部分である。図2(B)に示すように、突起部4kは、その先端部と接触する仮想円の中心が撮影光学系全体の光軸Iと一致するように、レンズ保持部材4の内周部4bの円周方向に120度間隔を開けて3ヶ所形成されている。突起部4k及びレンズ小径部L1bの嵌め合い程度は、レンズ小径部L1bを突起部4kに挿入したときに、前群レンズL1の中心と撮影光学系全体の光軸Iとが一致した状態により、レンズ大径部L1aが突起部4jと締りばめするように設定されている。図1に示すように、突起部4kの光軸I方向の長さβは、突起部4jの光軸I方向の長さαよりも長く形成されている。レンズ大径部L1a及びレンズ小径部L1bの光軸I方向の長さは、それぞれ突起部4j及び突起部4kの光軸I方向の長さα,βに等しく又は略等しく形成されている。
【0023】押さえ環5,6は、それぞれ前群レンズL1及び後群レンズL2が光軸I方向に移動するのを防止するための部材である。押さえ環5は、前群レンズL1のレンズ面R1を押さえており、胴付き面L1cを押さえる垂直面4iとともに、前群レンズL1を挟み込むように押さえている。また、押さえ環6は、押さえ部4lとともに後群レンズL2を挟み込むように押さえている。
【0024】突起部4nは、後群レンズL2の外径部L2aと締りばめにより嵌合し、この後群レンズL2をレンズ保持部材4に保持するための部分である。突起部4nは、その先端部と接触する仮想円の中心が撮影光学系全体の光軸Iと一致するように、レンズ保持部材4の内径部4dの円周方向に120度間隔を開けて3ヶ所形成されている。」
(2d)「【0031】本発明の第1実施形態では、突起部4kは、胴付け面L1cと垂直面4pとの接触面積が極小となるように、レンズ大径部L1aを突起部4jに案内している。また、レンズ大径部L1aは、突起部4jの先端部との間に均等な圧力を受けながら、突起部4jに圧入する。このために、前群レンズL1の中心と撮影光学系全体の光軸Iとを一致させて、前群レンズL1をレンズ保持部材4に均一な重合量により挿入し締りばめすることができる。その結果、光軸Iに対して傾くことなく、前群レンズL1をレンズ保持部材4に締りばめすることができるとともに、前群レンズL1がレンズ保持部材4に偏心して取り付けられのを防止することができる。
【0032】本発明の第1実施形態では、特に、合成樹脂モールドによりレンズ保持部材4を成形したときには、胴付き面L1cの上側端部が大径部4aの光軸I方向に沿った上側端面を削り取るのを防止することができる。したがって、胴付き面L1cと垂直面4iとの間に削りかすが溜まり、前群レンズL1が傾いた状態で保持されるのを防止することができる。また、レンズ保持部材4にレンズを締りばめにより、作業性良く取り付けることができる。」
(2e)「【図1】


(2f)「【図2】


(2g)上記各摘記事項及び各図面を参酌すれば、突起部4jは、レンズ保持部材4の内周部4aの光軸I方向に伸張して設けられていることがわかる。

これらの記載事項及び図面を含む引用文献2全体の記載並びに当業者の技術常識を総合すれば、引用文献2には、以下の発明が記載されている。
「レンズ(L1)のレンズ大径部(L1a)と締りばめしレンズを保持するための突起部(4j)が、その先端部と接触する仮想円の中心が撮影光学系全体の光軸(I)と一致するように、筒状の枠部材であり合成樹脂モールドにより成形したレンズ保持部材(4)の内周部(4a)の光軸方向に伸張して、円周方向に120度間隔を開けて3ヶ所形成され、
レンズの中心と撮影光学系全体の光軸とを一致させて、レンズをレンズ保持部材に均一な重合量により挿入し締りばめし、
レンズが光軸方向に移動するのを防止するための部材である押さえ環(5)でレンズのレンズ面(R1)を押さえている、
レンズ鏡筒。」(以下「引用2発明」という。)

3.対比
補正発明と引用1発明とをする。
(1)引用1発明の「レンズ保持筒」、「レンズ鏡筒」、「第4レンズ」及び「第5レンズ」は、それぞれ補正発明の「保持筒」、「レンズ鏡胴」、「小径レンズ」及び「大径レンズ」に相当する。したがって、引用1発明の「第4、第5レンズ」は補正発明の「接合レンズ」に相当する。
(2)当業者の技術常識に照らして引用1発明の「第5レンズの外径と同径になっている第4、第5レンズ保持部」が光軸方向に軸心をもつ内周面を有することは明らかであるから、引用1発明の「第5レンズの外径と同径になっている第4、第5レンズ保持部と、内周側に所定口径の開口部を画定する環状段部上に突起が形成されているレンズ保持筒」は、補正発明の「レンズを収容するべく光軸方向に軸心をもつ内周面及び所定口径の開口部を画定する環状段部を有する保持筒」に相当する。
また、引用1発明の「第4、第5レンズ保持部」は「第5レンズの外径と同径になっている」から、両発明は「保持筒は、接合レンズを径方向において保持するべく大径レンズの外周面のみが保持され」ている点で共通する。
(3)引用1発明の「第4、第5レンズの第4レンズの接合面と反対側の面のみが突起43に接触して位置決めされ」る構成は、補正発明の「接合レンズを光軸方向において保持するべく前記小径レンズの接合された面と反対側の面のみが前記環状段部に接触させられて位置決めされる」構成に相当する。

してみると両者は、
「レンズと、前記レンズを収容するべく光軸方向に軸心をもつ内周面及び所定口径の開口部を画定する環状段部を有する保持筒と、を備えたレンズ鏡胴であって、
前記レンズは、小径レンズ及び前記小径レンズに接合された大径レンズからなる接合レンズを含み、
前記保持筒は、前記接合レンズを径方向において保持するべく前記大径レンズの外周面のみが保持され、かつ、前記接合レンズを光軸方向において保持するべく前記小径レンズの接合された面と反対側の面のみが前記環状段部に接触させられて位置決めされる、ように形成されている、
レンズ鏡胴。」
の点で一致し、次の点で相違している。
(相違点)
保持筒が、補正発明では、内周面から径方向内側に突出すると共に光軸方向に伸長しかつ周方向に等間隔で配列して形成された弾性変形可能な複数の突条部を有し、前記接合レンズを径方向において保持するべく前記複数の突条部を弾性変形させつつ嵌合されているのに対して、引用1発明では、そのような突条部を有さない点。

4.判断
上記相違点について検討する。
上記相違点に係る構成と引用2発明を対比すると、引用2発明の「筒状の枠部材であるレンズ保持部材」及び「レンズ保持部材の内周部の光軸方向に伸張して、円周方向に120度間隔を開けて3ヶ所形成され」た「突起部」は、それぞれ、上記相違点に係る構成の「保持筒」及び「内周面から径方向内側に突出すると共に光軸方向に伸長しかつ周方向に等間隔で配列して形成された複数の突条部」に相当する。
ここで、引用2発明では「レンズをレンズ保持部材に均一な重合量により挿入し締りばめ」するが、レンズ保持部材が合成樹脂モールドにより成形されていること、及び当業者の技術常識に照らせば、締りばめの際にレンズが変形すれば光学特性に悪影響を及ぼすことは自明であるから是認しがたいこと等から、上記「レンズとレンズ保持部材の均一な重合量」は、「突起部」の弾性変形に由来するものと認められる。
してみると、引用2発明の「レンズのレンズ大径部と締りばめしレンズを保持するための突起部」が、上記相違点の「レンズを径方向において保持するべくレンズの外周面が複数の突条部を弾性変形させつつ嵌合されている」構成を有することは明らかである。
以上のことから、引用2発明は、上記相違点の「保持筒が、内周面から径方向内側に突出すると共に光軸方向に伸長しかつ周方向に等間隔で配列して形成された弾性変形可能な複数の突条部を有し、レンズを径方向において保持するべくレンズの外周面が前記複数の突条部を弾性変形させつつ嵌合されている」構成を有する。
引用1発明も引用2発明も、共にレンズ鏡筒のレンズ保持構造に関するものであり、しかも両者ともに、筒状の保持部材の内周にレンズ外周を保持すると共に押さえ環でレンズを光軸方向に固定するという共通の構造を有するものであるから、引用1発明に引用2発明の上記構成を適用することに、格別の技術的困難性も阻害要因もない。
してみると、引用1発明に引用2発明の上記構成を適用し、上記相違点に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得る事項である。

また、補正発明全体の効果も、引用1発明及び引用2発明から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

したがって、補正発明は、引用1発明及び引用2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本願発明について
平成24年4月27日付けの手続補正は上記のとおり却下され、平成23年8月9日付けの手続補正は、平成24年1月31日付けで補正の却下の決定がなされている(上記「第1 手続の経緯」参照)ので、本願の請求項1に係る発明は、平成22年12月17日付けの手続補正で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「レンズと、前記レンズを収容するべく光軸方向に軸心をもつ内周面を画定する保持筒と、を備えたレンズ鏡胴であって、
前記保持筒は、前記内周面から径方向内側に突出すると共に光軸方向に伸長しかつ周方向に等間隔で配列して形成された弾性変形可能な複数の突条部を有し、
前記レンズは、小径レンズ及び前記小径レンズに接合された大径レンズからなる接合レンズを含み、
前記保持筒は、前記接合レンズにおいて、前記大径レンズの外周面のみを前記複数の突条部で保持している、
ことを特徴とするレンズ鏡胴。」(以下「本願発明」という。)

1.引用刊行物及び該刊行物に記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特開2004-233697号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、レンズ鏡枠装置のレンズ保持構造に関する。」
(2)「【0035】
次に、本発明の第2の実施形態のレンズ鏡枠装置について、図5,6を用いて説明する。なお、図5は、本実施形態のレンズ鏡枠装置の縦断面図であり、図6は、図5のC-C断面図であって、下レンズの径嵌合状態を示す図である。
【0036】
本実施形態のレンズ鏡枠装置2は、装着される接合レンズ26が3枚構成であることを特徴とし、その他の構成は、前記第1の実施形態のレンズ鏡枠装置と略同様とする。
【0037】
すなわち、上記第2の実施形態のレンズ鏡枠装置2は、図5に示すように上レンズ21と中レンズ25と下レンズ22とが接着により一体化されたレンズであって、全体的に細長めの接合レンズ26と、鏡枠23と、レンズ保持環24とを有してなる。
【0038】
上記下レンズ22は、上レンズ21に比較して比較的に薄い厚さを有し、かつ、その芯精度が良好であって、本レンズ鏡枠装置2のレンズ光軸Oの芯精度に対する影響度が大きく、このレンズを基準にして接合レンズ26が鏡枠23に固定される。そして、下レンズ22は、鏡枠23との径嵌合部である外径部22aと、下側に光軸Oとの直交面であって、鏡枠23の底面部に光軸O方向で当て付く当て付け面22bとを有し、さらに、上記当て付け面22bから下方に突出し、鏡枠23の開口部23eに隙間のある状態で挿入する凸部を有しており、その凸部下面の射出面側は、非球面になっている。
【0039】
上記上レンズ21は、比較的に厚く、光軸O方向の長さが比較的に長いレンズであり、その外径は、中レンズ25の外径より小さいものとする。
【0040】
上記中レンズ25は、比較的に薄いレンズであり、その外径部は、上レンズ21の外径部より大きい。
【0041】
なお、上記上レンズ21と中レンズ25と下レンズ22とは、所定の接着治具を用いて芯を合わせた状態で接合レンズ26として上記の順で接着固定される。
【0042】
上記鏡枠23は、合成樹脂で形成され、下方位置に下レンズ22の外径部22aがガタなく、しっくり径嵌合する面であって、外径部22aよりひとまわり大きい内周面から突出した3つの凸平面で形成され、光軸O方向長さが比較的短い径嵌合凸面23a(図6)と、光軸Oとの直交面であって、下レンズ22の当て付け面22bが光軸O方向に当接する底面部であるリング状当て付け面23bと、該当て付け面23bに設けられる開口部23eとを有している(図5)。さらに、上記径嵌合内周面23aの上方に該内周面23aより大径の内周面であって、レンズ保持環24がガタなく径嵌合する環嵌合内周面23cと、該内周面の上端部に突出する熱カシメ部23dとを有している。
【0043】
上記レンズ保持環24は、合成樹脂製、または、金属製であって、上記鏡枠23の環挿入内周面23cにガタなく嵌合可能であり、その嵌合状態で下端面が中レンズ25の上面の外周縁に当接し、上端面は、上レンズ21の上面近傍に位置する。また、レンズ保持環24の内径は、上レンズ21の外径より大きく。かつ、下レンズ22の外径より小さい(図4と同等)。
【0044】
上述した構成を有する本実施形態のレンズ鏡枠装置2は、鏡枠23に接合レンズ26を挿入し、レンズ保持環24を介して熱カシメにより鏡枠23と接合レンズ26を固定し、レンズ鏡枠として組み立てられる。
【0045】
詳しく説明すると、接合レンズ26を鏡枠23に挿入し、下レンズ22の外径部22aおよび当て付け面22bを鏡枠23の径嵌合凸面23aおよび当て付け面23bにそれぞれガタなく径嵌合、かつ、当て付ける。そして、レンズ保持環24を上レンズ21の外側に挿入し、鏡枠23の環嵌合内周面23cにガタなく径嵌合させる。
【0046】
この組み込み状態でレンズ保持環24の下端面は、中レンズ25の上面外周縁部に当接し、レンズ保持環24の上端面は、鏡枠23の熱カシメ部23dのカシメ変形部分を残して内部下方に位置している。
【0047】
上記レンズ,レンズ保持環挿入状態の鏡枠23に対して前記熱カシメ金型を降下させ、上記鏡枠23の熱カシメ部23dを所定圧で加圧しながら加熱し、折り曲げ変形させる。上記変形によってレンズ保持環24の上端面が熱カシメ部23dで固定される。同時にレンズ保持環24を介して中レンズ25が押圧され、その下側の下レンズ22が鏡枠23の当て付け面23bに加圧当接されるので接合レンズ26が鏡枠23に固定保持されることになる。
【0048】
上記レンズ固定状態においては、下レンズ22の当て付け面22bが鏡枠23の光軸Oと直交する当て付け面23bに上記熱カシメによる押圧力でしっかりと当て付く。この当て付きによって鏡枠23に対する基準の下レンズ22の光軸O方向の位置が正確に決まり、かつ、光軸Oの傾き(平行度)が極めて少ない状態で保持される。同時に下レンズ22が鏡枠23の比較的長さの短い径嵌合凸部23aにガタなく径嵌合することにより鏡枠23に対する基準の下レンズ22の光軸O直交方向の位置のずれ、すなわち、光軸Oのずれ(偏心)の極めて少ない状態で位置決めされる。結果として芯取り精度がよく、かつ、レンズ鏡枠装置2の芯精度に対する影響の大きい下レンズ22を基準にした状態で接合レンズ26が鏡枠23に装着固定されることになり、芯精度のよいレンズ鏡枠装置2が得られる。」
(3)「【図5】


(4)「【図6】


(5)図5からは、下レンズ22の外径部22aの直径が上レンズ21と中レンズ25の直径より大きいことがわかる。
(6)上記各摘記事項及び各図面から、径嵌合凸面23aが光軸方向に伸長しかつ周方向に等間隔で配列して形成されていることがわかる。

これらの記載事項及び図面を含む引用文献3全体の記載並びに当業者の技術常識を総合すれば、引用文献3には、以下の発明が記載されている。
「上レンズ(21)と中レンズ(25)と下レンズ(22)とが接着により一体化された接合レンズ(26)と、鏡枠(23)と、レンズ保持環24とを有するレンズ鏡枠装置(2)であって、
下レンズは、鏡枠との径嵌合部であって上レンズと中レンズの直径より大きい外径部(22a)を有し、
上記鏡枠は合成樹脂で形成され、下方位置に下レンズの外径部がガタなく、しっくり径嵌合する面であって、外径部よりひとまわり大きい内周面から突出した3つの凸平面で形成された、光軸方向に伸長しかつ周方向に等間隔で配列している径嵌合凸面(23a)を有する、
レンズ鏡枠装置。」(以下「引用3発明」という。)

2.対比
本願発明と引用3発明とを対比する。
(1)引用3発明の「鏡枠」、「レンズ鏡枠装置」、「上レンズと中レンズ」、「下レンズ」及び「下レンズの外径部」は、それぞれ本願発明の「保持筒」、「レンズ鏡胴」、「小径レンズ」、「大径レンズ」及び「大径レンズの外周面」に相当する。
(2)引用3発明の「鏡枠」が「光軸方向に軸心をもつ内周面を画定する」ことは明らかである。
(3)引用3発明の「径嵌合凸面」と本願発明の「突条部」は、共に「保持筒内周面から径方向内側に突出すると共に光軸方向に伸長しかつ周方向に等間隔で配列して形成された複数の突条部」である点で共通する。
(4)引用3発明では、下レンズの外径部が径嵌合凸面とガタなく、しっくり径嵌合するから、鏡枠の内周面から突出した3つの径嵌合凸面は下レンズの外径部を保持していることは明らかであり、この構成は本願発明の「保持筒は、前記接合レンズにおいて、前記大径レンズの外周面のみを前記複数の突条部で保持している」構成に相当する。

そうすると、両者は、
「レンズと、前記レンズを収容するべく光軸方向に軸心をもつ内周面を画定する保持筒と、を備えたレンズ鏡胴であって、
前記保持筒は、前記内周面から径方向内側に突出すると共に光軸方向に伸長しかつ周方向に等間隔で配列して形成された複数の突条部を有し、
前記レンズは、小径レンズ及び前記小径レンズに接合された大径レンズからなる接合レンズを含み、
前記保持筒は、前記接合レンズにおいて、前記大径レンズの外周面のみを前記複数の突条部で保持している、
レンズ鏡胴。」
の点で一致し、次の点で相違している。
(相違点)
突条部が、本願発明では弾性変形可能であるのに対して、引用3発明では弾性変形可能であるかどうか不明な点。

3.判断
上記相違点について検討する。
引用3発明の鏡枠が合成樹脂で形成されていること、径嵌合凸面と下レンズの外径部がガタなく、しっくり径嵌合すること、そして部品の加工に際しては精度上必ず製作誤差(寸法公差)が見込まれること、及びそのような誤差を部材の弾性変形により吸収することが技術常識であること等を勘案すれば、引用3発明に上記相違点に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得る事項である。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-18 
結審通知日 2012-12-25 
審決日 2013-01-07 
出願番号 特願2005-103043(P2005-103043)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 靖記小倉 宏之  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 伊藤 昌哉
土屋 知久
発明の名称 レンズ鏡胴  
代理人 山本 敬敏  

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