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審決分類 |
審判 全部無効 特39条先願 C12N |
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管理番号 | 1270413 |
審判番号 | 無効2011-800216 |
総通号数 | 160 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-04-26 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2011-10-24 |
確定日 | 2013-02-26 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4139424号発明「核酸の合成方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 被請求人は、平成11年11月8日に、発明の名称を「核酸の合成方法」とする特願2000-581248号を特許出願(優先権主張平成10年11月9日)し、平成14年4月12日に、その一部を新たな出願とした特願2002-110505号を特許出願し、平成19年4月23日に、さらにその一部を新たな出願とした特願2007-113523号を特許出願したものであって、平成20年6月13日に、特許庁から特許第4139424号として設定登録を受けた。 これに対して、請求人から平成23年10月24日付で請求項1?4に係る発明についての特許に対して、無効審判の請求がなされたところ、その後の手続の経緯は、以下のとおりである。 答弁書(被請求人) :平成24年1月16日 口頭審理陳述要領書(請求人):平成24年4月2日 口頭審理 :平成24年4月16日 第2 本件発明 本件特許第4139424号の請求項1?4に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本件発明1?4」という。) 「【請求項1】 領域F3c、領域F2c、および領域F1cを3'側からこの順で含む鋳型核酸と以下の要素を含む反応液を混合し、実質的に等温で反応させることを特徴とする、1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の合成方法。 i) 前記F2cに相補的な塩基配列を持つ領域の5'側に前記F1cと同一の塩基配列を持つ領域を連結して含むオリゴヌクレオチド ii) i)のオリゴヌクレオチドをプライマーとして合成された相補鎖における任意の領域R2cに相補的な塩基配列を含むオリゴヌクレオチド iii) 前記F3cに相補的な塩基配列を持つオリゴヌクレオチド iv) i)のオリゴヌクレオチドをプライマーとして合成された相補鎖における任意の領域R2cの3'側に位置する任意の領域R3cに相補的な塩基配列を持つオリゴヌクレオチド v) 鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼ、および vi) 要素v)の基質となるヌクレオチド 【請求項2】 ii)のオリゴヌクレオチドが、i)のオリゴヌクレオチドをプライマーとして合成された相補鎖における任意の領域R2cとその5'側に位置する領域R1cに対し、前記R2cと相補な塩基配列を持つ領域の5'側に前記R1cと同じ塩基配列を持つ領域を連結して含むオリゴヌクレオチドで構成されるプライマーである請求項1に記載の方法。 【請求項3】 以下のオリゴヌクレオチドで構成されるプライマーを含む、1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の合成用プライマーセット。 領域F3c、領域F2c、および領域F1cを3'側からこの順で含む鋳型核酸に対し、 i) 前記F2cに相補的な塩基配列を持つ領域の5'側に前記F1cと同一の塩基配列を持つ領域を連結して含むオリゴヌクレオチド ii) i)のオリゴヌクレオチドをプライマーとして合成された相補鎖における任意の領域R2cに相補的な塩基配列を含むオリゴヌクレオチド iii) 前記F3cに相補的な塩基配列を持つオリゴヌクレオチド iv) i)のオリゴヌクレオチドをプライマーとして合成された相補鎖における任意の領域R2cの3'側に位置する任意の領域R3cに相補的な塩基配列を持つオリゴヌクレオチド 【請求項4】 ii)のオリゴヌクレオチドが、i)のオリゴヌクレオチドをプライマーとして合成された相補鎖における任意の領域R2cとその5'側に位置する領域R1cに対し、前記R2cと相補的な塩基配列を持つ領域の5'側に前記R1cと同じ塩基配列を持つ領域を連結して含むオリゴヌクレオチドで構成されるプライマーである請求項3に記載のプライマーセット。」 第3 当事者の主張の要点 1.請求人の主張 (1)本件発明1ないし4は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである(審判請求書21頁7-3.)。 ア 甲1は、本件出願の日(優先日)よりも先の日である1998年(平成10年)6月24日を優先日とする特願2005-120409号に係る特許第4675141号公報である。特願2005-120409は、特願2003-428482の分割出願である。また、特願2003-428482は、特願平11-179056の分割出願である。そして、特願平11-179056においては、優先日が平成10年6月24日であることを示す優先権証明書(甲1の4)が提出されている。甲1の4には、甲1に係る発明が記載されている。甲1に係る特許の優先日は、平成10年6月24日であるから、甲1に係る特許は、本件特許よりも先願となる。(審判請求書26頁?27頁) イ 本件発明1?4は、それぞれ甲1の請求項9又は17に係る発明と同一である(審判請求書の38頁?50頁) ウ 甲1の優先権基礎出願(甲1の4)、甲1の原の原出願(甲1の5)、甲1の原出願(甲1の3)及び甲1の当初明細書(甲1の6)において、標準的なプライマーが、新規なプライマーのアウタープライマーとして機能することは記載されているといえる。 よって、甲1の優先権は有効であり、かつ、甲1は、適法な分割出願といえる。(陳述要領書6頁?13頁) <証拠方法> 甲第1号証:特許第4675141号公報 甲第1号証の2:特許第4675141号特許原簿 甲第1号証の3:特開2004-141170号公報 甲第1号証の4:平成11年特許願第179056号優先権証明書 甲第1号証の5:特開2000-037194号公報 甲第1号証の6:特開2005-270108号公報 甲第2号証:無効2010-800198号事件審決書 2.被請求人の主張の要点 一方、被請求人は、本件審判の請求は成り立たないと主張している。 <証拠方法> 乙第1号証:本件特許審判情報 乙第2号証:別件審決取消訴訟の平成23年10月14日付原告第1準備書面 乙第3号証:甲1特許の2008年3月24日付手続補正書 乙第4号証:甲1特許の平成22年1月19日起案の拒絶査定 乙第5号証:甲1特許の平成22年5月7日付手続補正書 乙第6号証:甲1特許の平成22年5月7日付審判請求書 乙第7号証:甲1特許の平成21年8月31日付拒絶理由通知 乙第8号証:甲1特許の平成21年12月25日付意見書 第4 当審の判断 1.甲1の分割要件について (1)本件出願は、国内優先権主張を伴う出願である特願2000-581248号(親の親出願)の分割出願である特願2002-110505号(親出願)の分割出願であり、本件発明1?4は、親出願及び親の親出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載されているから(特に、親の親出願の請求項21?23、図1?3、及び、親出願の請求項10?12、図1?3の記載を参照)、本件出願は、平成20年改正前特許法第44条第1項に規定する分割出願の要件を満たし、本件特許出願の出願日は親出願の出願された平成11年11月8日である。(なお、請求人は、本件特許の分割要件については、特に争っていない。) 甲1の出願は、パリ条約に基づく優先権主張を伴う出願であって、本件特許の親の親出願の出願日前である平成11年6月24日を出願日とする特願平11-179056号(親の親出願)の分割出願である特願2003-428482号(親出願)の分割出願であり、その出願日が親の親出願の出願日に遡及できるためには、明細書又は図面に記載された事項が、少なくとも親の親出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内でなければならない。 そこで、以下、この点について検討する。 (2)甲1の請求項16及び17には、以下のように記載されている。 「【請求項16】 キットであって、以下: 第1のオリゴヌクレオチドプライマーであって、 (i)サンプル一本鎖核酸分子にアニーリングし、該サンプル一本鎖核酸分子に少なくとも部分的に相補的な第1の一本鎖核酸分子を合成するための合成起点として働く、3’末端ヌクレオチド配列、および (ii)該第1の一本鎖核酸分子の任意の領域と相補的な5’末端ヌクレオチド配列を含む、 第1のオリゴヌクレオチドプライマー; 第2のオリゴヌクレオチドプライマーであって、該サンプル一本鎖核酸分子に該第1のオリゴヌクレオチドプライマーがアニーリングする位置よりも3’側に位置する該サンプル一本鎖核酸分子の領域にアニーリングする、ヌクレオチド配列を含む、第2のオリゴヌクレオチドプライマー; 第3のオリゴヌクレオチドプライマーであって、 (i)該第1のオリゴヌクレオチドプライマーを使用して調製された該第1の一本鎖核酸分子にアニーリングし、そして該第1の一本鎖核酸分子に少なくとも部分的に相補的な第2の一本鎖核酸分子を合成するための合成起点として働く、3’末端ヌクレオチド配列、および (ii)該第2の一本鎖核酸分子の任意の領域と相補的な5’末端ヌクレオチド配列を含む、 第3のオリゴヌクレオチドプライマー; 鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼ;ならびに 該プライマーを伸長させるために該DNAポリメラーゼによって使用される、1つ以上のヌクレオチド、 を備える、キット。 【請求項17】 請求項16に記載のキットであって、 第4のオリゴヌクレオチドプライマーをさらに備え、該第4のオリゴヌクレオチドプライマーは、前記第1の一本鎖核酸分子に前記第3のオリゴヌクレオチドプライマーがアニーリングする位置よりも3’側に位置する該第1の一本鎖核酸分子の領域にアニーリングする、ヌクレオチド配列を含む、キット。」 (3)請求人は、甲1の請求項16における「該サンプル一本鎖核酸分子に該第1のオリゴヌクレオチドプライマーがアニーリングする位置よりも3’側に位置する該サンプル一本鎖核酸分子の領域にアニーリングする、ヌクレオチド配列を含む、第2のオリゴヌクレオチドプライマー」、及び、請求項17における「前記第1の一本鎖核酸分子に前記第3のオリゴヌクレオチドプライマーがアニーリングする位置よりも3’側に位置する該第1の一本鎖核酸分子の領域にアニーリングする」「第4のオリゴヌクレオチドプライマー」は、本件発明1?4における「アウタープライマー」(本件発明1又は3のiii)又はiv)に記載のオリゴヌクレオチド)(審判請求書3頁)に相当することを主張した上で(審判請求書43頁?44頁)、下記の(ア)?(オ)を根拠に、親の親出願の当初明細書等には、標準的なプライマーが新規なプライマーのアウタープライマーとして機能することが記載されているから、甲1が適法な分割出願であると主張する。(陳述要領書頁6頁?13頁) (ア)親の親出願の当初明細書等(甲1の5)の「標準的なプライマーは、伸長後に合成される配列での二次構造形成に実質的に関与しないプライマーである。」(【0087】)という記載から明らかなように、標準的プライマーは、PCR等に使用される一般的なプライマーであり、一方、アウタープライマーもPCR等で使用される一般的なプライマーであり、これらのことから、標準的なプライマーがアウタープライマーとして使用可能である。 (イ)親の親出願の当初明細書等(甲1の5)の「本発明の新規のプライマーおよび核酸構築物は、均衡、限定サイクル、または完全サイクル条件下で、単一のプライマーまたは1つより多いプライマーを必要とする、直線的および非直線的な増幅系において使用され得る。」(【0094】)(下線は、請求人による。)という記載から、プライマーの数に制限はなく、通常は、フォワードプライマー及びリバースプライマーの二つのプライマーとなるが、これにアウタープライマーを加えて4つのプライマーを使用できることが記載されていることになる。 (ウ)親の親出願の当初明細書等(甲1の5)の「プライマーが非直線的増幅に使用される場合、一方の鎖における結合部位は、第1および第2セグメントを有する新規のプライマーによって使用され、そして他方の鎖における結合部位は、標準的なプライマーまたは別の新規のプライマーのいずれかによって使用され得る。新規の単一のプライマーは、各鎖における結合部位が実質的に互いに類似する場合に、それ自身によって使用され得る。構築物が非直線的増幅に使用される場合、構築物は、標的核酸の一方の鎖に相補的な1つ以上の第1セグメントおよび他方の鎖に相補的な1つ以上の第1セグメントを含む、新規の構築物である。構築物はまた、一方の鎖に同一である1つ以上の第2セグメントも含み、そして他方の鎖における配列に同一である1つ以上の第2セグメントもまた含み得る。新規の構築物の第1セグメントは、互いに実質的に同一であり得るか、または互いに実質的に異なり得る。新規の構築物の第2セグメントは、互いに実質的に同一であり得るか、または互いに実質的に異なり得る。標準的なプライマー、新規のプライマー、構築物および新規の構築物の組合せもまた、少なくともそれらの1つが第1および第2セグメントを含む限りは、ともに使用され得ることもまた理解される。」(【0129】)(下線は、請求人による。)という記載から、標準的なプライマーと新規なプライマー(ターンバックプライマー)とを組み合わせて使用することが記載されており、その組み合わせは、フォワードプライマー及びリバースプライマーの組み合わせに限定されない。 (エ)親の親出願の当初明細書等(甲1の5)には、 「 ![]() 」(図1?3) が記載されており、図1には、フォワードプライマーとしてターンバックプライマー(TP)が鋳型配列のBにアニールすることが記載されているが、そのBの3’側にサイトAが記載されており、このサイトが、アウタープライマーがアニール可能なサイトであることは、当業者において自明である。同様に、図2及び図3において、リバースプライマーがアニールするサイトF’の3’側のサイトG’が記載されており、アウタープライマーがアニール可能であることは、当業者において自明である。 (オ)アウタープライマーについて、親の親出願の当初明細書等(甲1の5)には、「1つの実施態様では、上記初期プライマーまたは核酸構築物と上記第2のプライマーまたは核酸構築物とは異なり得る。」(【0016】)と記載されており、上記「第2のプライマー」は、その伸長鎖(核酸構築物)により上記「初期プライマー」(TP)の伸長鎖(核酸構築物)を置換して剥がす機能を有するものであり、しかも、TPとは異なる核酸配列を有し得るプライマーであるから、アウタープライマーであることは明らかである。 (4)判断 ア 請求人の主張について検討する。 請求人の主張(ア)において挙げられた甲1の5の【0087】は、単に「標準的なプライマーは、伸長後に合成される配列での二次構造形成に実質的に関与しないプライマーである。」であることを記載しただけであって、請求人が主張するように、「標準的なプライマー」をアウタープライマーとして使用可能であることは記載も示唆もされていない。 また、甲1の5の【0224】【図面の簡単な説明】【図1】及び【図2】には、図1の説明として「新規のプライマーによる直線的増幅を示す模式図である。」と記載されており、図2の説明として、「新規のプライマーおよび標準的なプライマーによる非直線的増幅を示す模式図である。」と記載されており、そして、図1には、ステムループ形成プライマー、すなわち、ターンバックプライマーのみを用いた増幅を示す模式図が記載されており、図2には、ターンバックプライマーと、サイトF’にハイブリダイズするFからなる、ターンバックを形成しないプライマーを用いた増幅を示す模式図が記載されている。 このような記載からみて、「標準的なプライマー」とは、単にターンバックを形成しないプライマーを意味するものと解され、アウタープライマーを意味するものではない。 イ 請求人の主張(イ)において挙げられた甲1の5の【0094】は、「新規のプライマー」は、単一のプライマーまたは1つより多いプライマーを必要とする増幅系において使用され得ることを記載しただけであって、請求人が主張するように、フォワードプライマー及びリバースプライマーの二つのプライマーにアウタープライマーを加えて4つのプライマーを使用できることは記載されていない。 また、上記アで摘記した甲1の5の【0224】【図面の簡単な説明】【図1】及び【図2】における図面の説明、及び、図1、2の記載からみて、「単一のプライマー」とは、図1に示される直線的増幅において用いるプライマーを意味するものであり、「1つより多いプライマー」とは、図2に示される非直線的増幅において用いるプライマーを意味するものと解され、「1つより多いプライマー」がアウタープライマーを意味するとはいえない。 ウ 請求人の主張(ウ)において挙げられた甲1の5の【0129】は、第1および第2セグメントを有する新規のプライマー(ターンバックプライマー)は、標準的なプライマーと組み合わせて使用することができることを記載するものであって、「標準的なプライマー」をアウタープライマーとして使用することを記載したものではない。 また、上記アで述べたとおり、「標準的なプライマー」は、アウタープライマーを意味するものではない。 エ 請求人の主張(エ)において挙げられた図1?3は、フォワードプライマーがアニールする鋳型配列のサイトBの3’側にサイトAが存在し、リバースプライマーがアニールする鋳型配列のサイトF’の3’側にサイトG’が存在することが示しているだけであって、これらのサイトA及びサイトG’にアニールするアウタープライマー自体は記載されていない。 そもそも、図1(3)(原文においては丸付き数字)のように、ターンバックプライマーがステムループを形成することにより、鋳型配列におけるサイトBが一本鎖になれば、図1(4)(原文においては丸付き数字)のように、新たなプライマーは鋳型配列におけるサイトBにアニールすることができるのであるから、アウタープライマーによる伸長により、図1(2)(原文においては丸付き数字)の伸長鎖を鎖置換して脱離させる必要はない。 よって、図1?3の記載から、アウタープライマーを用いることが当業者にとって自明であるとはいえるものではない。 オ 請求人の主張(オ)において挙げられた甲1の5の【0016】は、単に「初期プライマー」と「第2のプライマー」は異なり得ることを記載しただけであって、請求人が主張するように、「第2のプライマー」は、アウタープライマーであることは記載されていない。 また、上記エで述べたとおり、甲1の5の記載から、アウタープライマーを用いることが当業者にとって自明であるとはいえない。 カ 以上のとおりであるから、親の親出願の出願当初明細書等(甲1の5)には、甲1の請求項16における「該サンプル一本鎖核酸分子に該第1のオリゴヌクレオチドプライマーがアニーリングする位置よりも3’側に位置する該サンプル一本鎖核酸分子の領域にアニーリングする、ヌクレオチド配列を含む、第2のオリゴヌクレオチドプライマー」、すなわち、アウタープライマーは記載されていないし、そもそもその記載からアウタープライマーを用いる必要性を認識することができない。 よって、甲1の請求項16における「該サンプル一本鎖核酸分子に該第1のオリゴヌクレオチドプライマーがアニーリングする位置よりも3’側に位置する該サンプル一本鎖核酸分子の領域にアニーリングする、ヌクレオチド配列を含む、第2のオリゴヌクレオチドプライマー」という記載は、親の親出願の当初明細書等の全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。 また、請求項17における「該第4のオリゴヌクレオチドプライマーは、前記第1の一本鎖核酸分子に前記第3のオリゴヌクレオチドプライマーがアニーリングする位置よりも3’側に位置する該第1の一本鎖核酸分子の領域にアニーリングする」も同様である。 キ そして、親出願の出願当初明細書等(甲1の3)の記載は、親の親の出願当初明細書等(甲1の5)の記載とほぼ同じであるから、上記ア?カで述べたのと同様の理由により、甲1の請求項16の「第2オリゴヌクレオチドプライマー」及び請求項17の「第4オリゴヌクレオチドプライマー」のアウタープライマーに関する記載は、親出願の当初明細書等(甲1の3)にも記載されておらず、親出願の当初明細書等の全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。 ク してみると、甲1の出願は、平成20年改正前特許法第44条第1項の規定に基づく適法な分割出願とは認められず、出願日は遡及せずに実際の出願日である平成17年4月18日となる。また、甲1は、パリ条約第4条C(1)の優先期間内に出願されたものではなく、優先権主張の効果を認めることはできない。 したがって、出願日が平成11年11月8日である本件特許に係る出願が、国内優先権主張の効果が認められるか否かにかかわらず、甲1は、本件出願の先願にはならない。 (5)請求人のその他の主張 なお書きではあるが、請求人は、以下、ア及びイのように主張するので、念のため検討する。 ア 請求人は、分割要件は甲1の無効理由に直結するものであり、甲1の特許権者に何ら反論の機会も与えることができない本審判において審理することは、甲1の特許権者に不利益をもたらし、妥当ではない旨主張する。(陳述要領書7頁) しかしながら、特許法第44条第2項の規定から明らかなように、分割出願の出願日は分割要件を満たしているときには遡及するが、そうでない場合には遡及しない。分割要件を満たしていない出願について出願日の遡及を認めて、その出願日を基準に後に出願された出願を無効にすることは、特許法の先願主義の原則に明らかに反するものである。 また、分割要件を満たさないことによる効果は、出願日の遡及が認められないということであって、必ず無効理由となるわけではない。さらに、本審判において、分割要件について判断したからといって、甲1の特許が無効になるわけではなく、甲1特許を無効にするためには、別途無効審判を提起する必要があるところ、甲1の特許権者は、無効審判を請求されたときは自らの特許権について、その分割要件について反論の機会が与えられているから、特に不利益はない。 したがって、本審判において甲1の分割要件について判断することには、何ら問題はない。 イ 請求人は、特許出願について拒絶査定等が確定したときにはじめて、先願の地位を失われるのであるから(特許法第39条第5項参照)、拒絶査定等が確定しない限り、先願の地位を維持していることを前提として判断すべきであり、甲1に無効理由があることを前提として判断することは許されない旨主張する。(陳述要領書7頁) しかしながら、分割要件を満たさないときは、出願日が遡及せず現実の出願日を基準に先願の地位が認められるのであり、先願の地位が失われるわけではないから、先願の地位の維持と分割要件を満たすか否かとは無関係である。 ウ よって、請求人の主張はいずれも採用することができない。 (6)小括 以上のとおり、甲1は、本件出願の先願にはならないから、請求人の主張に理由があるとはいえず、本件発明1?4に係る発明について特許は、特許法第39条第1項の規定に違反してされたものとはいえない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1?4に係る発明の特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2012-04-25 |
出願番号 | 特願2007-113523(P2007-113523) |
審決分類 |
P
1
113・
4-
Y
(C12N)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田村 明照、深草 亜子 |
特許庁審判長 |
鵜飼 健 |
特許庁審判官 |
鈴木 恵理子 冨永 みどり |
登録日 | 2008-06-13 |
登録番号 | 特許第4139424号(P4139424) |
発明の名称 | 核酸の合成方法 |
代理人 | 辻丸 光一郎 |
代理人 | 山上 和則 |
代理人 | 藤川 義人 |
代理人 | 雨宮 沙耶花 |
代理人 | 浅村 皓 |
代理人 | 浅村 昌弘 |
代理人 | 中山 ゆみ |
代理人 | 永島 孝明 |
代理人 | 清水 良寛 |
代理人 | 伊佐治 創 |
代理人 | 安國 忠彦 |
代理人 | 井上 慎一 |
代理人 | 吉田 玲子 |
代理人 | 磯田 志郎 |
代理人 | 池田 幸弘 |