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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B65D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65D
管理番号 1270466
審判番号 無効2008-800258  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-11-18 
確定日 2013-02-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第3803823号「光沢黒色系の包装用容器」の特許無効審判事件についてされた平成21年 8月20日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成21年(行ケ)第10304号平成22年 7月28日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3803823号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件特許第3803823号は,平成13年6月26日に出願(特願2001-193523号)されたものであって,平成18年5月19日に,その特許権の設定登録がされた。

2.その後,請求人株式会社エフピコから本件無効審判が請求され,平成21年8月20日付けで,訂正請求を拒絶した上で,請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効とする旨の審決(以下,「一次審決」という。)がなされた。本件無効審判が請求されてから一次審決がされるまでの経緯は,以下のとおりである。
平成20年11月18日付け 審判請求書の提出
平成21年 2月 5日付け 審判事件答弁書の提出
同日付け 訂正請求書の提出
平成21年 2月13日付け 訂正拒絶理由通知書の送付
同日付け 職権審理結果通知書の送付
平成21年 3月18日付け 意見書の提出(被請求人)
同日付け 審判事件弁駁書の提出
同日付け 意見書の提出(請求人)
平成21年 7月 3日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
同日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
平成21年 7月17日付け 口頭審理陳述要領書2の提出(請求人)
同日付け 口頭審理陳述要領書2の提出(被請求人)
平成21年 7月31日 口頭審理の実施
平成21年 8月20日付け 一次審決

3.これに対し,平成21年9月30日に一次審決の取消しを求める訴えが知的財産高等裁判所に提起され(平成21年(行ケ)第10304号),平成22年7月28日に一次審決を取り消すとの判決(以下,「審決取消し判決」という。)がされた。審決取消し判決は,同年12月9日の上告棄却により確定した。

4.一方,一次審決の取消しを求める訴えの提起があった日から起算して90日の期間内である平成21年12月25日に,本件特許第3803823号に関し,訂正審判(訂正2009-390158号;以下,「訂正審判」という。)が請求された。訂正審判の手続は一旦中止されたが,審決取消し判決確定後に手続中止が解除され,平成23年4月19日付けで,請求は成り立たない旨の審決(以下,「訂正審決」という。)がなされた。

5.その後,平成23年6月17日に訂正審判の請求が取下げられた。

6.審決取消し判決確定後,本件無効審判よりも先に訂正審判を審理するため,本件無効審判の手続を中止していたが,訂正審判の請求の取下げ後に,手続中止を解除した。本件無効審判の手続中止後の経緯は,以下のとおりである。
平成23年 1月27日付け 手続中止通知書
平成23年 1月31日付け 審判事件上申書の提出(請求人)
平成23年 7月 1日付け 手続中止解除通知書
平成23年 7月 5日付け 審尋(請求人及び被請求人に対し)
平成23年 8月 5日付け 回答書の提出(請求人)
平成23年 8月 8日付け 回答書の提出(被請求人)
平成23年10月31日付け 審判事件上申書の提出(被請求人)
同日付け 訂正請求取下書の提出
平成23年12月 9日付け 審理終結通知
平成23年12月16日付け 審理再開申立書の提出(請求人)
同日付け 審判事件上申書2の提出(請求人)
なお,審判長は,請求人が平成23年12月16日付けで提出した審理再開申立書及び審判事件上申書2を見たが,審理の再開をする必要はないと判断した。

第2 請求人の主張
1.請求人は,審判請求書によれば,「特許第3803823号の請求項1,2に係る特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めており,以下の甲第1?18号証を証拠方法として提出している。
甲第1号証;特許第3803823号公報(本件特許公報)
甲第2号証;特開平5-295132号公報
甲第3号証;特公平8-9673号公報
甲第4号証;特開平2-229025号公報
甲第5号証;特開平8-318606号公報
甲第6号証;特開平10-250015号公報
甲第7号証;実開昭50-88569号公報
甲第8号証;特開平8-208855号公報
甲第9号証;特開平10-204272号公報
甲第10号証;特開平5-38787号公報
甲第11号証;特開平6-31875号公報
甲第12号証;平成13年(行ケ)第209号判決
甲第13号証;平成21年(行ケ)第10304号判決
甲第14号証;作成者株式会社エフピコ従業員(西江)の
平成23年1月12日付け実験成績証明書
甲第15号証;作成者株式会社エフピコ従業員(西江)の
平成23年1月20日付け実験成績証明書
甲第16号証;作成者株式会社エフピコ従業員(西江)の
平成22年12月21日付け実験成績証明書
甲第17号証;広辞苑第4版第408頁
甲第18号証;JIS工業用語大辞典第4版第240頁
甲第19号証;実験成績証明書 平成23年11月7日付け
甲第20号証;測定分析結果報告書 第11W08274号
甲第21号証;実験成績証明書 平成23年10月18日付け
甲第22号証;測定分析結果報告書 第11W07360号
甲第23号証;実験成績証明書 平成23年12月7日付け
甲第24号証;試験報告書 No.452-11-A-1324
甲第25号証;「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」
甲第26号証;特開平5-278099号公報
なお,甲第19?26号証は,平成23年12月16日付けで審判事件上申書2とともに提出されたものである。

2.請求人は,審判請求書によれば,以下の無効理由(1)?(6)を主張しているものと認める。

(1)本件特許の請求項1に係る発明は,甲第2号証,甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し,該請求項1に係る発明の本件特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。したがって,上記本件特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

(2)本件特許の請求項1又は2に係る発明は,甲第2号証,甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明と,甲第5号証,甲第8号証,甲第9号証に記載された発明又は周知技術に基いて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから,該請求項1又は2に係る発明の本件特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。したがって,上記本件特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

(3)本件特許の請求項1又は2に係る発明は,甲第6号証に記載された発明と,周知技術に基いて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから,該請求項1又は2に係る発明の本件特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。したがって,上記本件特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

(4)請求項1又は2に係る発明についての本件特許は,特許法第36条第6項第1号に適合しておらず同項に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものである。したがって,上記本件特許は,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。そして,上記第1号に適合していない理由として,下記の点を主張している。
・請求項1に係る発明は,同項に記載のシートを用いた包装用容器についてのものであって,該シートを単層で用いた包装用容器を含むものであるが,該包装用容器は,発明の詳細な説明に記載されておらず,また,上記シートは,カーボンを0.3重量%から10重量%含有するものであったり,ポリエチレンテレフタレートを主成分とするものであるが,これらシートを用いた包装用容器は,発明の詳細な説明に記載されていない。
・請求項2に係る発明は,カーボンを含有するシート層と該シート層の少なくとも一方に外層を有するシートを用いた包装用容器についてのものであって,上記シート層は,固有粘度が0.55以上,昇温結晶化温度が128度以上,且つ,結晶化熱量が20mJ/mg以上のものであり,カーボンを0.3重量%から10重量%含有するものでもあり,更に,ポリエチレンテレフタレートを主成分とするもので,また,上記外層は,層の厚みが5μm以上のものであるが,これらシート層や外層を有するシートを用いた包装用容器は,発明の詳細な説明に記載されていない。

(5)請求項1又は2に係る発明についての本件特許は,特許法第36条第6項第2号に適合しておらず同項に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものである。したがって,上記本件特許は,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。そして,上記第2号に適合していない理由として,下記の点を主張している。
・請求項1には,「シートを用いた光沢黒色系の包装用容器」と,また,請求項2には,「シートを用いた多層の光沢黒色系の包装用容器」と記載があるが,これらの記載は,それぞれの請求項に記載のシートが,包装用容器の構造物であること,あるいは,包装用容器を形作るために供されるシート材であること,いずれを記載しているのか明確でない。

(6)請求項1又は2に係る発明についての本件特許は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものである。したがって,上記本件特許は,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。そして,上記要件を満たしていない理由として,下記の点を主張している。
・請求項1に係る発明は,シートを用いた包装用容器についてのものであって,該シートは,熱分析器の測定された昇温結晶化温度が128度以上,且つ,結晶化熱量が20mJ/mg以上と規定され,また,請求項2に係る発明は,シート層を有するシートを用いた包装用容器についてのものであって,該シート層は,熱分析器の測定された昇温結晶化温度が128度以上,且つ,結晶化熱量が20mJ/mg以上と規定されているものであるが,請求項1に係る発明における上記シートや請求項2に係る発明における上記シート層を獲得する手段が,発明の詳細な説明において,実施可能に記載されていない。
・請求項1に係る発明における上記シートや請求項2に係る発明における上記シート層は,固有粘度が0.55以上と規定されているが,該固有粘度,更には,上記昇温結晶化温度や上記結晶化熱量につき,これらを測定する際の条件が,発明の詳細な説明において,実施可能に記載されていない。
・請求項1に係る発明における上記シートや請求項2に係る発明における上記シート層は,上述したように,昇温結晶化温度や結晶化熱量によって規定されているものであるが,その規定されていることの技術的意義が,発明の詳細な説明において,不明で,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていない。

3.請求人は,さらに,上記「2.(4)」及び「2.(6)」に記載した無効理由に関し,平成23年1月31日付け審判事件上申書において,下記の点を主張している。
・請求項2は,昇温結晶化温度及び結晶化熱量を規定する発明特定事項を有しているが,これらは,包装用容器が成形される前における状態でのシート層の物性値を規定するものである。しかし,発明の詳細な説明には,これらの物性値の測定対象を容器切り出し片とする測定方法が記載されているだけである。
・容器切り出し片は,成形により熱履歴を受けていることから,その値が大きく低下する(甲第14号証)。容器切り出し片を測定対象とする測定方法では,得られた値を成形前のものと同等として見ることはできない。

第3 被請求人の主張
1.被請求人は,審判事件答弁書によれば,「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めており,審理の全趣旨によれば,請求人が主張する無効理由はないと主張し,以下の乙第1?13号証を提出している。
乙第1号証;作成者リスパック株式会社の
平成21年1月29日付け実験成績証明書
乙第2号証;特開2002-113834号公報
乙第3号証;特開2008-207843号公報
乙第4号証;JIS K 7367-5:2000
乙第5号証;JIS K 7367-1:2002
乙第6号証;特開平9-174665号公報
乙第7号証;JIS K 7121-1987
乙第8号証;JIS K 7122-1987
乙第9号証;特開平8-187826号公報
乙第10号証;プラスチックエージ2000年2月号 第82?86頁
乙第11号証の1?4;作成者一般財団法人化学物質評価研究機構の
平成23年10月12日付け試験報告書
乙第12号証の1?4;作成者一般財団法人化学物質評価研究機構の
平成23年10月18日付け試験報告書
乙第13号証の1?3;作成者一般財団法人化学物質評価研究機構の
平成23年10月27日付け試験報告書

2.被請求人は,実施可能要件及びサポート要件に関し,平成23年10月31日付け審判事件上申書において,下記の点を主張している。
・乙第11号証の1?4,乙第12号証の1?4から明らかなように,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の数値は,単層PETシート(シート層)と多層PETシート(多層シート層)の間,またPETシート(容器成形前)と容器(容器成形後)との間において特に変わるものではない。

第4 本件特許発明
平成21年2月5日付けでなされた訂正請求は,平成23年10月31日付けで取り下げられたので,本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は,特許時の明細書及び図面(甲第1号証)の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定される,次のとおりのものと認める。
「【請求項1】カーボンを0.3重量%から10重量%含有するポリエチレンテレフタレートを主成分とする固有粘度が0.55以上のシートからなり,前記シートの熱分析器の測定された昇温結晶化温度が128度以上,且つ,結晶化熱量が20mJ/mg以上のシートを用いた光沢黒色系の包装用容器。
【請求項2】カーボンを0.3重量%から10重量%含有するポリエチレンテレフタレートを主成分とする固有粘度が0.55以上のシートからなり,前記シートの熱分析器の測定された昇温結晶化温度が128度以上,且つ,結晶化熱量が20mJ/mg以上のシート層と,前記シート層の少なくとも一方に層の厚みが5μm以上のポリエチレンテレフタレートを主成分とする外層のシートを用いた多層の光沢黒色系の包装用容器。」

第5 審決取消し判決
審決取消し判決において,知的財産高等裁判所は,下記(イ)及び(ロ)のとおり判示している。
判示事項(イ)は,取り下げられた訂正請求の適否に関するものであるが,「訂正前発明2」とあるのは,本件発明2のことであるから,「訂正前発明2では,固有粘度,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の各数値はシート層(外層シートは含まない)を規定することが明らかである」との事項に関する限り,本件発明2についてあてはまる。判示事項(ロ)は,本件発明2のサポート要件について判示したことになる。
当審の審理は,行政事件訴訟法第33条第1項の規定により,これらの判示事項に拘束されるものである。

(イ)「訂正前発明2では,固有粘度,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の各数値はシート層(外層シートは含まない)を規定することが明らかであるのに対し,訂正事項(2)(イ)ないし(オ)は,これらの各数値の規定する対象を外層シートを含む多層シートへと変更するものである。したがって,訂正事項(2)は「特許請求の範囲の減縮」又は「明りょうでない記載の釈明」に該当せず,訂正要件を満たさないから,取消事由2は理由がない。」

(ロ)「このように,シート層と外層シートとで材料の大部分が共通し,かつ,同一の機械で成形等が行われていることからすると,シート押出の際の熱履歴や,成形加工時の加熱温度,延伸の程度,冷却条件等については,シート層も外層シートもほぼ同じになるものと解される。そうすると,実施例における固有粘度,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の各数値が多層シートについて測定されたものであっても,それらの数値は,シート層単独で測定された場合と近似した数値になる蓋然性が高いといえる。以上のとおりであるから,実施例における固有粘度,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の各数値が多層シートについて測定されているからといって,訂正前発明2が本件詳細説明に記載されていないとまではいえず,この点に関する審決の判断には誤りがあり,取消事由5は理由がある。」

第6 当審の判断
当審は,本件発明1及び本件発明2は,請求人が主張する無効理由のうち,実施可能要件(特許法第36条第4項),サポート要件(同法第36条第6項第1号)及び進歩性(同法第29条第2項)において,無効理由を有すると判断する。以下に,その理由を述べるが,手続の経緯等にかんがみ,「第6-1」及び「第6-2」のいずれにおいても,本件発明2を先に検討する。

第6-1 実施可能要件とサポート要件
1.本件発明2で特定される物性値
本件発明1は,カーボンを所定量含有するポリエチレンテレフタレートを主成分とする固有粘度が所定値のシートであり,かつ,所定の昇温結晶化温度及び結晶化熱量のシートを用いた包装用容器であるのに対して,本件発明2は,本件発明1の上記シートをシート層として,これに外層を加えた多層シートを用いた包装用容器の発明であると解される。
すなわち,本件発明2の「シート層」は,「カーボンを0.3重量%から10重量%含有するポリエチレンテレフタレートを主成分とする固有粘度が0.55以上」のものからなり,かつ,「昇温結晶化温度が128度以上,且つ,結晶化熱量が20mJ/mg以上」と特定されるものであり,本件発明2の包装用容器は,上記の「シート層」とこれに積層される外層からなる多層シートを用いたものといえる。
ここで,包装用容器とは,器としての形状や構造を有する包装用物品で,また,シートとは,二次元的に広がりを有する物品であって,包装用容器とシートとは,その形状や構造に違いを有すると解するのが自然であるから,本件発明2の上記多層シートは,包装用容器を形作るために供されるシート材であると解される。
したがって,本件発明2の「シート層」が有する固有粘度,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の各物性値は,多層シートが包装用容器を形作るために供されるシート材の状態での,すなわち,包装用容器を形成する前における状態での物性値と解するのが相当である。
本件特許時の明細書の発明の詳細な説明(以下単に「発明の詳細な説明」という。)に記載された下記事項においても,包装用容器とシートの各文言が上記のように区別して使われている。
「【0012】
本発明における多層及び単層シートは,公知技術で製造することができる。例えば,外層と中間層を構成する樹脂組成物を2機の押出機と多層ダイを備えた一般的な多層シート押出機及び一般的な単層シート押出機で製造できる。
【0013】
本発明におけるシートを用いる包装用容器も公知技術で製造することができる。例えば,一般的に行われている真空成形法,プラグアシスト成形法等を採用して製造することができる。」

2.本件発明2の解決課題
発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている。
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は,A-PETの有する優れた機械的強度,耐油性等を要求される包装用容器に適し,且つ,優れた光沢を有する黒色系の包装用容器を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は,かかる問題点に着目し,前記の如き欠点のない包装用容器に関し,鋭意研究の結果,PETの優れた機械的強度,耐油性等を損なわず,優れた光沢を工業的に管理された状態で生産できる包装用容器を発明し本発明に到達した。
【0006】
即ち本発明は,カーボンを0.3重量%から10重量%含有するポリエチレンテレフタレートを主成分とする固有粘度が0.55以上のシートからなり,前記シートの熱分析器の測定された昇温結晶化温度が128度以上,且つ,結晶化熱量が20mJ/mg以上のシートを用いた光沢黒色系の包装用容器である。
又,本発明は,カーボンを0.3重量%から10重量%含有するポリエチレンテレフタレートを主成分とする固有粘度が0.55以上のシートからなり,前記シートの熱分析器の測定された昇温結晶化温度が128度以上,且つ,結晶化熱量が20mJ/mg以上のシート層と,前記シート層に層の厚みが5μm以上のポリエチレンテレフタレートを主成分とする外層を少なくとも一方のシート側に用いた多層の光沢黒色系の包装用容器である。」
「【0009】
更に,上記シートを用いた包装用容器の成形による包装用容器における熱分析器(以下DSCと略することがある)での測定で,昇温結晶化温度は128度以上,好ましくは130度以上,且つ,結晶化熱量は20mJ/mg以上,好ましくは25mJ/mg以上である。昇温結晶化温度は,PETの結晶する温度であり,光沢を出す為には非常に重要な温度であり,低い温度では,包装用容器における光沢がなくなってしまう。」
「【0025】
【発明の効果】
本発明によるシートを用いた光沢黒色系の包装用容器は,黒色で光沢があり,外観の優れたものである。環境を考慮して再生PETにカーボンを混入しても,容易に光沢黒色の包装用容器ができるものであり,再生材料とは見受けられない美しい外観を保てるものである。又,PETを外層にすることによって,印刷が奇麗で鮮明にできるものである。更に,同素材のPETを利用するのでリサイクルもできる。」

本件発明2は,段落【0004】,【0005】及び【0025】によれば,優れた光沢の外観を有する黒色系の包装用容器を得ることを課題とする。
段落【0006】によれば,「カーボンを0.3重量%から10重量%含有するポリエチレンテレフタレートを主成分とする固有粘度が0.55以上のシートからなり,前記シートの熱分析器の測定された昇温結晶化温度が128度以上,且つ,結晶化熱量が20mJ/mg以上のシートを用いるという」手段や,「カーボンを0.3重量%から10重量%含有するポリエチレンテレフタレートを主成分とする固有粘度が0.55以上のシートからなり,前記シートの熱分析器の測定された昇温結晶化温度が128度以上,且つ,結晶化熱量が20mJ/mg以上のシート層と,前記シート層に層の厚みが5μm以上のポリエチレンテレフタレートを主成分とする外層を少なくとも一方のシート側に用いるという」手段を採ることにより,上記課題を解決できたことが記載されているということができる。本件発明2は,後者の手段に対応する。
また,段落【0009】によれば,特に昇温結晶化温度は,容器の光沢を左右する重要な要素であることが窺える。

3.実施例
発明の詳細な説明には,【実施例】について,以下の事項が記載されているとともに,別紙のとおりの【表1】及び【表2】が記載されている。
「【0014】
【実施例】
以下,実施例及び比較例によって本発明を更に詳述するが,本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
まず,主な物性値の測定法は次の通りである。
【0016】
(1)固有粘度(IV)
シート切り出し片をフェノール/テトラクルロエタンの混合溶媒で温度30゜Cにて測定した。
【0017】
(2)昇温結晶化温度
容器切り出し片をDSC-220(セイコー電子(株)製)で昇温速度20度/minで測定した。
【0018】
(3)結晶化熱量
容器切り出し片をDSC-220(セイコー電子(株)製)で昇温速度20度/minで測定した。
【0019】
また,使用したPET樹脂とPETボトルフレーク及びカーボンは次の通りである。
【0020】
(イ)PET
東洋紡績(株)製RE565(IV=0.75のホモPET)
東洋紡績(株)製RE530(IV=0.62のホモPET)
V=0.70のPETボトルフレーク
イーストマン社製PET-G(シクロヘキ酸ジメタノール=32mol%共重合PET)
【0021】
(ロ)カーボン
住化カラー(株)製EPM-8E831(RCFグレードカーボン濃度30%のマスターバッチ)
【0022】
実施例1,2,3及び比較例1,2
上記の各樹脂を用いて自家製多層シート押出機(タツチロール方式)でシート成形を行い厚み0.4mmシートを得た。次に,三和興業(株)製PLAVAC型式FE-36FC容器成形機を用いて,底部直径=10cm,深さ=4cmの円筒形容器を成形した。”表1”に得られたシートのIV値を示す。
【0023】
実施例1,2,3及び比較例1,2
”表1”の実施例1,2,3及び比較例1,2のシートを用いた容器側面部切り出し片でのDSC測定結果及び容器の光沢(容器外観観察)の評価結果を”表2”に示す。
【0024】
”表2”より明かなごとく,本発明の包装用容器は,容器全体に優れた光沢のある外観を示している。」

上記記載事項によれば,実施例1,2,3及び比較例1,2は,いずれも多層シートを用いて包装用容器を形作る具体例であると認められるところ,段落【0016】及び【0022】によれば,固有粘度は,包装用容器を形成する前における状態での多層シートの物性であり,また,段落【0017】,【0018】及び【0023】によれば,昇温結晶化温度と結晶化熱量は,包装用容器に形作られた後の多層シートの物性である。そして,【表2】によれば,昇温結晶化温度(度)が130,132,136の各値をとり,結晶化熱量(mJ/mg)が25,31,33の各値をとる実施例1,2,3では,「容器全体に光沢あり」との効果が得られたとする一方,昇温結晶化温度(度)が126,127の各値をとり,結晶化熱量(mJ/mg)が18,19の各値をとる比較例1,2では,それぞれ「容器側面及び底面の一部に光沢なし」,「容器側面に光沢なし」との結果になったことが示されているところ,この昇温結晶化温度と結晶化熱量の具体的数値も,包装用容器に形作られた後の多層シートの物性値と解される。

4.本件発明2についての実施可能要件とサポート要件
本件発明2で特定される昇温結晶化温度及び結晶化熱量は,「優れた光沢の外観を有する黒色系の包装用容器を得る」との課題を解決するために重要な役割を担っていると考えられるところ,これらの物性が所定の値であることにより,所望の効果が得られること,すなわち上記課題が解決されることが,発明の詳細な説明によって裏付けられていなければならない。
ところが,本件発明2で特定される昇温結晶化温度(128度以上)及び結晶化熱量(20mJ/mg以上)は,外層とともに多層シートを構成するシート層が有する物性値であって,かつ,包装用容器を形成する前における状態での物性値であるのに対して,実施例1,2,3における昇温結晶化温度(130,132,136)及び結晶化熱量(25,31,33)は,包装用容器に形作られた後の多層シートの物性値であるから,両者は,シート層が有する物性値か多層シートが有する物性値かの点の他に,包装用容器を形成する前の物性値か包装用容器に形作られた後の物性値かの点においても相違する。
ここで,請求人の従業員(西江)が作成した実験成績証明書である甲第14号証によれば,シートのカーボン含有量が3%の場合,昇温結晶化温度は,容器に成形する前のシートでは131度であったのに対して,容器に成形した後の容器切り出し片では110度まで大きく低下し,また,結晶化熱量は,容器に成形する前のシートでは25.7mJ/mgであったのに対して,容器に成形した後の容器切り出し片では11.2mJ/mgまで大きく低下している。
一方,一般財団法人化学物質評価研究機構が作成した試験報告書である乙第11号証の1及び3によれば,シートのカーボン含有量が0.3%の場合,昇温結晶化温度は,容器に成形する前のシート及び容器に成形した後の容器切り出し片のいずれも130度であり,また,結晶化熱量は,容器に成形する前のシート及び容器に成形した後の容器切り出し片のいずれも28mJ/mgである。同じく一般財団法人化学物質評価研究機構が作成した試験報告書である乙第12号証の1及び3によれば,シートのカーボン含有量が3.0%の場合,昇温結晶化温度は,容器に成形する前のシートでは125度であったのに対して,容器に成形した後の容器切り出し片では126度とわずかに上昇し,また,結晶化熱量は,容器に成形する前のシートでは25mJ/mgであったのに対して,容器に成形した後の容器切り出し片では27mJ/mgとわずかに上昇している。なお,本件発明2で特定される昇温結晶化温度は128度以上であるから,乙第12号証の1等で示される昇温結晶化温度は,本件発明2に該当しないものである。
甲第14号証は,公的機関が作成したものではないが,その測定結果について特に疑わしいと思われるところはなく,また,昇温結晶化温度及び結晶化熱量は,容器に成形する際の熱履歴によって影響を受けると考えることには合理性がある。その一方で,乙第11号証の1?4及び乙第12号証の1?4の試験結果についても,これを否定することはできない。
そうしてみると,容器に成形する前と容器に成形した後で昇温結晶化温度及び結晶化熱量を比較した場合,これらは低下する場合もあれば,ほとんど変わらない場合もあるのであって,包装用容器を形成する前における状態で,昇温結晶化温度が128度以上,結晶化熱量が20mJ/mg以上あったとしても,包装用容器に形作られた後は,昇温結晶化温度が128度を下回ったり,結晶化熱量が20mJ/mgを下回る場合があり,所望の効果が得られない,前記比較例1,2と同程度の物性値になる場合があるといわざるを得ない。そして,このように一定の結果が得られないのは,容器に成形する際の成形方法や温度,時間等の成形条件が異なるためと考えられるところ,発明の詳細な説明には,容器に成形する前と容器に成形した後で同等な昇温結晶化温度及び結晶化熱量が得られるために必要な条件が記載されていないというべきである。
したがって,本件発明2のように,容器に成形する前のシート層の昇温結晶化温度を128度以上,結晶化熱量を20mJ/mg以上とすることによって,「優れた光沢の外観を有する黒色系の包装用容器を得る」との課題が解決できることは,発明の詳細な説明によって裏付けられているとはいえない。
上記判断は,審決取消し判決の判示事項(ロ)とは別の視点から,サポート要件等を検討したものであり,判示事項(ロ)に反するものではない。

5.本件発明1についての実施可能要件とサポート要件
本件発明1は,要するに,本件発明2のシート層のみを用いた単層の包装用容器であるということができ,本件発明1で特定される昇温結晶化温度及び結晶化熱量の数値も,容器形成前のものである。
したがって,本件発明2についての実施可能要件とサポート要件の判断は,そのまま本件発明1についてもあてはまる。

6.小括
発明の詳細な説明には,本件発明1及び本件発明2の実施例が記載されておらず,本件発明1及び本件発明2が所望の課題を解決できる発明であることを当業者が容易に理解できる程度に記載されていない。したがって,請求項1及び請求項2に係る発明についての本件特許は,特許法第36条第4項及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。

第6-2 進歩性
1.刊行物記載事項
(1)甲第2号証
請求人が甲第2号証として提出した,本件特許の出願日よりも前に頒布された刊行物である特開平5-295132号公報には,シートおよび熱成形品について,次の事項が記載されている。
1a)「【請求項1】エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル(A)97?65重量部,エチレンおよび無水マレイン酸を共重合せしめた変性ポリプロピレン(B)1?25重量部並びに無機微粒子(C)2?10重量部よりなる樹脂組成物を成形してなるシート。(ただし,無機微粒子とは,グラファイト,カーボンブラック,酸化マグネシウム,珪酸カルシウム,珪酸マグネシウム,タルク,カオリン,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,炭酸ナトリウム,炭酸カリウム,酸化亜鉛,アルミナ,硫酸バリウムおよび硫酸カルシウムの群から選ばれる少なくとも1種のものをいう。)
【請求項2】請求項1に記載されたシートを熱成形して得られる熱成形品。」
1b)「ポリエステル(A)の固有粘度は0.65以上が好ましい。」(段落【0011】)
1c)「【0014】本発明に用いる無機微粒子(C)とは,グラファイト,カーボンブラック,酸化マグネシウム,珪酸カルシウム,珪酸マグネシウム,タルク,カオリン,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,炭酸ナトリウム,炭酸カリウム,酸化亜鉛,アルミナ,硫酸バリウムおよび硫酸カルシウムの群のうちの少なくとも1種のものをいう。この無機微粒子はポリエステル(A)の結晶化促進とシートの剛性を上げる効果がある。
【0015】無機微粒子の添加量は,2?10重量部であり,好ましくは3?7重量部である。」
1d)「【0030】ポリエチレンテレフタレートは,オルトクロロフェノールを溶媒として35℃にて測定した極限粘度数が0.80のものを用い,」
1e)「【0038】
【発明の効果】本発明により,成形性の優れたシートを提供することができ,シート並びに熱成形品は食品,工業製品の包装材料として利用されるほかに電気・電子部品,OA機器部品,電動工具など機械部品或るいはモーター等の絶縁材料,カードの基材,建築材料等に有用である。」

(2)甲第3号証
請求人が甲第3号証として提出した,本件特許の出願日よりも前に頒布された刊行物である特公平8-9673号公報には,ポリエステル樹脂組成物よりなるシート及びその熱成形体について,次の事項が記載されている。
2a)「【請求項1】エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とする固有粘度0.65以上のポリエステル(A)100重量部と,エチレン及び無水マレイン酸を共重合せしめたポリプロピレン(B)1乃至30重量部とを混合せしめた樹脂組成物(I)よりなるポリエステル(A)成分の密度が1.36g/cm^(3)以下であるフイルム又はシート。
【請求項2】請求項1に記載された樹脂組成物(I)に結晶核剤(C)を,ポリエステル(A)100重量部に対して,0.1乃至2重量部含有せしめた樹脂組成物(II)よりなるフイルム又はシート。但し,結晶核剤とは,グラファイト,カーボンブラック,酸化マグネシウム,珪酸カルシウム,珪酸マグネシウム,タルク,カオリン,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,炭酸ナトリウム,炭酸カリウム,酸化亜鉛,アルミナ,硫酸バリウム及び硫酸カルシウムの群から選ばれる少なくとも1種のものをいう。」
2b)「【請求項4】請求項1乃至3に記載された組成範囲からなる樹脂組成物(I),樹脂組成物(II),結晶核剤を含有しない樹脂組成物(III)及び結晶核剤を含有する樹脂組成物(III)の群より選ばれる少なくとも2種の樹脂組成物(但し,同一の成分からなる組成物の場合には混合比率の異なるものに限る)を積層して多層となしたフイルム又はシート。
【請求項5】請求項1乃至4のいずれかに記載された単層もしくは多層からなるフイルム又はシートを熱成形して得られる熱成形体。」
2c)「本発明のポリエステルフイルム又はシートは,耐熱,耐衝撃性の優れた熱成形体に成形でき,また熱成形体は例えばカレーの如き食品用の容器として有利に使用できる。」(第7欄第8-11行)
2d)「実施例1?7及び比較例1?2 固有粘度0.81のPETペレットを160℃で5時間乾燥して,ペレット中の水分が0.005wt%程度の乾燥ペレットを得た。」(第8欄第9-12行)

上記記載事項によれば,甲第3号証には,次の各発明が記載されているといえる。
「エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とする固有粘度0.65以上のポリエステル100重量部と,エチレン及び無水マレイン酸を共重合せしめたポリプロピレン1ないし30重量部とを混合せしめた樹脂組成物(I)に,カーボンブラックからなる結晶核剤を,ポリエステル100重量部に対して,0.1ないし2重量部含有せしめた樹脂組成物(II)よりなるシートを熱成形して得られる食品用容器。」
「エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とする固有粘度0.65以上のポリエステル100重量部と,エチレン及び無水マレイン酸を共重合せしめたポリプロピレン1ないし30重量部とを混合せしめた樹脂組成物(I)よりなるシートと,樹脂組成物(I)に,カーボンブラックからなる結晶核剤を,ポリエステル100重量部に対して,0.1ないし2重量部含有せしめた樹脂組成物(II)よりなるシートとを積層した多層シートを熱成形して得られる食品用容器。」
以下,前者を「甲3第一発明」といい,後者を「甲3第二発明」という。

(3)甲第4号証
請求人が甲第4号証として提出した,本件特許の出願日よりも前に頒布された刊行物である特開平2-229025号公報には,熱成形ポリエステル容器について,次の事項が記載されている。
3a)「平均粒子径0.1?20μの無機粒子0.1?10重量%を含む固有粘度0.6?0.95のポリエチレンテレフタレート(A層)及び炭素原子2?6個を含有するモノマーより誘導された繰り返し単位を有するポリオレフィンを1?10重量%と結晶核剤を0?3重量%含む固有粘度0.7?1.1のポリエチレンテレフタレート(B層)を積層してシートとした後,A層側を金型に接触させて熱成形したことを特徴とするポリエステル容器。」(特許請求の範囲)
3b)「A層に用いる,ポリエチレンテレフタレートは,20℃に於て重量比60/40のフェノール/テトラクロロエタン混合溶媒中で測定した固有粘度が,0.6?0.95が好ましく,0.80?0.9が特に好ましい。固有粘度の低いポリエチレンテレフタレートの方が結晶化速度の点からでは有利ではあるが,低温衝撃が低くなる為,少なくとも0.6が必要である。逆に固有粘度が0.95を超えるものは低温時の衝撃に対して有利であるが,熱成形の際の結晶化速度が遅くなり成形サイクルを上げる場合には不利である。
また無機粒子としては,通常,タルク,マイカ,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,酸化チタン,酸化アルミニウム,シリカ,珪酸塩,硫酸バリウム,クラストナイト,カオリン,カーボンブラック等があげられるが,タルク,カーボンブラック,酸化亜鉛が好ましい。」(第2頁左下欄第15行?右下欄第11行)

(4)甲第5号証
請求人が甲第5号証として提出した,本件特許の出願日よりも前に頒布された刊行物である特開平8-318606号公報には,多層包装材料および容器について,次の事項が記載されている。
4a)「【請求項1】極限粘度が0.5?1.5dl/gであり,脂肪環および/または炭素数3以上の直鎖状もしくは分岐状の脂肪鎖を有する共重合成分の共重合比率が2?25モル%である共重合ポリエチレンテレフタレートを主成分として含有する樹脂組成物からなる最内層を基材に積層してなる多層包装材料であって,該樹脂組成物の金属原子含有量が0.1重量%以下であり,昇温時の結晶化ピーク温度が130?200℃であり,冷結晶化熱量が15?40J/gであることを特徴とする多層包装材料。」
4b)「【請求項6】請求項1ないし5いずれか一項に記載の多層包装材料の最内層同士をヒートシールして形成されていることを特徴とする多層包装容器。」
4c)「【0018】最内層として用いられる樹脂組成物の熱的特性は,DSCで測定した昇温時の結晶化ピーク温度(以下,「結晶化ピーク温度」という)が130℃?200℃,好ましくは140?195℃,より好ましくは150?190℃,さらに好ましくは160?185℃である。結晶化ピーク温度が130℃未満の場合には,ヒートシール時に結晶化が進むためヒートシール強度が低下するので好ましくない。一方,200℃を越える場合は,保香性が不充分なので好ましくない。」
4d)表1には,結晶化ピーク温度Tc(℃)が166,165,161,168,176の各値をとる実施例1?5と,結晶化ピーク温度Tc(℃)が137,152,136,151,134,118の各値をとる比較例2?7が記載されている。
4e)表1(続き)には,冷結晶化熱(J/g)が24,25,26,16,20の各値をとる実施例1?5と,冷結晶化熱(J/g)が34,31,31,29,38,30の各値をとる比較例2?7が記載されている。

(5)甲第6号証
請求人が甲第6号証として提出した,本件特許の出願日よりも前に頒布された刊行物である特開平10-250015号公報には,ポリエステル系積層シートおよびその成形品について,次の事項が記載されている。
5a)「【0033】(ロ)PET 東洋紡績製PENMAX RE565;IV=0.75のPET」
5b)「【0034】実施例1?4及び比較例1,2 上記の各樹脂を用いて,自家製多層シーティング機にて0.5mm厚みの表1に示すシート成形品を得た。」
5c)表1には,表層及び内層がいずれもPETで,表層/内層/表層の重量比が30/40/30のシート5が示されており,表2によれば,このシート5は比較例として位置付けられている。

(6)甲第8号証
請求人が甲第8号証として提出した,本件特許の出願日よりも前に頒布された刊行物である特開平8-208855号公報には,ポリエステルシートについて,次の事項が記載されている。
6a)「【0022】更に,本発明においては,ポリエステルシートの熱的性質も重要である。即ち,ポリエステルシートを昇温速度20℃/分で測定した昇温結晶化温度(Tcc)の好ましい範囲は通常110?200℃,好ましくは130?200℃,更に好ましくは150?200℃である。Tccが110℃未満の場合では,結晶化速度が速すぎるために耐衝撃性の低下が著しくなり好ましくない。」

(7)甲第9号証
請求人が甲第9号証として提出した,本件特許の出願日よりも前に頒布された刊行物である特開平10-204272号公報には,ポリエチレンテレフタレート系樹脂組成物からなる射出成形品について,次の事項が記載されている。
7a)「【0015】更に,本発明の好ましい構成要件の一つとして,昇温結晶化温度が挙げられる。即ち,本発明の組成物からなる射出成形品を溶融急冷後昇温速度20℃/分で測定した昇温結晶化温度(Tcc)が130?200℃の範囲であることが好ましく,150?200℃の範囲であることが更に好ましい。本発明者等は,ポリエチレンテレフタレート組成物の「耐衝撃性の改良」を達成すべく,鋭意検討した結果,驚くべき事に,得られる成形品の結晶化挙動が非常に重要であることを見出したのである。
【0016】かかるTccの値が130℃未満の場合,成形時及び/又は,成形品が,例えば80℃付近以上の高温に曝された際に,本発明の組成物,即ち,射出成形品の結晶化が進行しやすくなるために,本発明の方法により,発現された優れた耐衝撃性の改良効果が損なわれるため好ましくない。また,かかるTccが200℃を越える場合,溶融成形性が劣る,又は,曲げ強度等の機械的性質が劣るため,好ましくない。かくして得られたスチレン系熱可塑性エラストマー配合組成物からなる射出成形品は,優れた耐衝撃性を有することが明確になったのである。」

(8)甲第10号証
請求人が甲第10号証として提出した,本件特許の出願日よりも前に頒布された刊行物である特開平5-38787号公報には,表面光沢性に優れた多層プラスチック容器について,次の事項が記載されている。
8a)「【請求項1】少なくとも2種以上の樹脂層が積層された構造の多層プラスチック容器であって,外側表面層として,厚み100μmでの光線透過率が90%以上で,60度鏡面光沢度(JIS K 7105による)が80%以上の光沢性樹脂層が設けられ,且つ内側にポリオレフィン系樹脂に着色剤を添加して着色した着色樹脂層が設けられていることを特徴とする表面光沢性に優れた多層プラスチック容器。
【請求項2】外側表面層の光沢性樹脂層が,ポリカーボネート,飽和ポリエステル,ポリアミド,芳香族系ポリアミド,エチレン・ビニルアルコール共重合体,アクリルエステル系樹脂,アクリロニトリル系樹脂,スチレン系樹脂,ポリアリレートから選ばれた少なくとも1種の樹脂から成ることを特徴とする請求項1記載の多層プラスチック容器。」
8b)「光沢性樹脂層の厚みは,通常20μm乃至200μm,好ましくは30μm乃至150μmの範囲で用いられる。」(段落【0018】)

2.本件発明2の進歩性
本件発明2と甲3第二発明とを対比する。
甲3第二発明の「カーボンブラック」,「食品用容器」は,それぞれ本件発明2の「カーボン」,「包装用容器」に相当する。
甲3第二発明の「樹脂組成物(II)よりなるシート」は,本件発明2における「カーボンを」「含有するポリエチレンテレフタレートを主成分とする」「シート」ないし「シート層」に相当し,甲3第二発明の「樹脂組成物(I)よりなるシート」は,本件発明2における「ポリエチレンテレフタレートを主成分とする外層」に相当する。
甲3第二発明の樹脂組成物(II)は,エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル100重量部と,エチレン及び無水マレイン酸を共重合せしめたポリプロピレン1ないし30重量部と,カーボンブラック0.1ないし2重量部とを混合せしめたものであり,全体に占めるカーボンブラックの重量割合は,最も少ない場合で約0.08重量%(=0.1÷(100+30+0.1)),最も多い場合で約2重量%(=2÷(100+1+2)),すなわち,カーボンブラックを概ね0.08重量%から2重量%含有するといえる。
甲3第二発明の樹脂組成物(II)は,その重量割合において大部分を占めるポリエステルの固有粘度が0.65以上であるから,全体の固有粘度もこれに近い値であって,少なくとも0.55よりは大きいとみるのが相当である。
甲3第二発明の食品用容器は,カーボンブラックを含有する樹脂組成物が積層されるシートを熱成形して得られるものであるから,黒色系の容器であるといえる。
したがって,本件発明2と甲3第二発明は,本件発明2の表記にしたがえば,
「カーボンを0.3重量%から2重量%含有するポリエチレンテレフタレートを主成分とする固有粘度が0.55以上のシートからなるシート層と,前記シート層の少なくとも一方にポリエチレンテレフタレートを主成分とする外層のシートを用いた多層の光沢黒色系の包装用容器。」である点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
本件発明2のシート層は,シートを熱分析器で測定した昇温結晶化温度が128度以上,且つ,結晶化熱量が20mJ/mg以上であるのに対して,甲3第二発明の樹脂組成物(II)よりなるシートは,昇温結晶化温度及び結晶化熱量が明らかでない点。
[相違点2]
本件発明2の外層のシートは,厚みが5μm以上であるのに対して,甲3第二発明の樹脂組成物(I)よりなるシートは,厚さが明らかでない点。
[相違点3]
本件発明2の包装用容器は光沢を有するのに対して,甲3第二発明の食品用容器が光沢を有することは必ずしも明らかでない点。
なお,本件発明2におけるカーボンの含有量は「0.3重量%から10重量%」であるが,本件発明2と甲3第二発明が数値範囲の一部(0.3重量%から2重量%)で一致している以上,本件発明2におけるカーボンの含有量の上限(10重量%)が甲3第二発明におけるカーボンブラックの含有量の上限(2重量%)と異なることは,実質的な相違点とはいえない。

相違点1について検討する。
甲第5号証には,共重合ポリエチレンテレフタレートを主成分として含有する樹脂組成物からなる層を積層してなる多層包装材料において,該樹脂組成物の昇温時の結晶化ピーク温度が130?200℃,冷結晶化熱量が15?40J/gであるようにすることが記載されており,また,結晶化ピーク温度が130℃未満の場合はヒートシール強度が低下することが記載されている(記載事項4aないし4e参照)。ここで,「J/g」は「mJ/mg」と同義である。
甲第8号証には,ポリエステルシートの昇温結晶化温度の好ましい範囲が110?200℃であり,さらに好ましい範囲が130?200℃であること,昇温結晶化温度が110℃未満の場合は,結晶化速度が速すぎるために耐衝撃性が低下することが記載されている(記載事項6a参照)。
甲第9号証には,ポリエチレンテレフタレート系樹脂組成物からなる射出成形品の昇温結晶化温度の好ましい範囲が130?200℃であること,昇温結晶化温度が130℃未満の場合は,結晶化が進行しやすくなるため,耐衝撃性が損なわれることが記載されている(記載事項7a参照)。
これらの証拠によれば,ポリエチレンテレフタレートを主成分とする樹脂組成物のシートやその成形品について,昇温結晶化温度を130度以上とすることや,結晶化熱量を15mJ/mg以上とすることは,従来から普通に採用されている技術事項に過ぎないものと認められる。したがって,甲3第二発明の樹脂組成物(II)よりなるシートについて,昇温結晶化温度が128度以上で,結晶化熱量が20mJ/mg以上のものとすることは,当業者が容易になし得た程度の事項といわざるを得ない。
なお,甲3第二発明は,カーボンブラックが結晶核剤,すなわち結晶化促進剤として作用するものであり,甲3第二発明が,ある程度結晶化を促進しようとするものであるとしても,結晶化温度の高さと結晶化の速度とは,直接関係するものではないから,甲3第二発明のカーボンブラックが結晶核剤であることは,甲3第二発明に上記周知技術を適用する阻害要因とはならない。

相違点2及び相違点3について検討する。
発明の詳細な説明の段落【0010】には,外層のシートに関し,「カーボンを混入したシートの表面は,微細な凹凸が生じるものである。特に,PETボトル等の再生材は,一度結晶していることや多種多様の色(インク)やグレードが混ぜ合わさっているので,シートの肉厚や表面の凹凸が安定難いものである。よって,このシートの一方に,5μm以上のPETを主成分とする層を形成するのが好ましい。この層を形成することによって,印刷を行なう表面が,境面になり,美しい印刷が行なえるものである。又,シートの物性が安定し,安定して包装用容器を成形することができる。尚,シートの両面にこの層を形成することによって,印刷の向きを制限する必要がなくなるとともに,よりシートの物性が安定し,容易に包装用容器を成形することができる。この層の肉厚を,5μm以上,好ましくは10μm以上にする。この層の肉厚を5μm以下の場合は,外層の均一化が困難であり実用上の不具合をきたす。」と記載されている。厚みが5μm以上の外層のシートを設けるのは,表面の凹凸をなくして鏡面とするためと解される。
請求人が周知技術を示す文献として提出した甲第10号証には,多層プラスチック容器の外側表面層として,60度鏡面光沢度が80%以上で,飽和ポリエステル等からなる,厚みが20μmないし200μmの光沢性樹脂層を設けることが記載されている(記載事項8a及び8b参照)。
容器に鏡面光沢を持たせることは,用途に応じて適宜行われることであるから,甲3第二発明の樹脂組成物(I)よりなるシートを,所定の鏡面光沢度を有する,厚みが20μm以上の光沢性樹脂層とすること,すなわち,相違点2及び相違点3に係る本件発明2に係る構成とすることは,甲第10号証を参酌することにより,当業者が容易に想到し得たことである。

以上のことから,本件発明2は,甲第3号証,甲第5号証,甲第8号証,甲第9号証及び甲第10号証に記載された発明に基づいて,出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.本件発明1の進歩性
本件発明1と甲3第一発明とを対比する。
甲3第一発明の「樹脂組成物(II)よりなるシート」は,本件発明1における「カーボンを」「含有するポリエチレンテレフタレートを主成分とする」「シート」に相当する。
そして,前記「2.」に記載したのと同様の理由から,本件発明1と甲3第一発明は,「カーボンを0.3重量%から10重量%含有するポリエチレンテレフタレートを主成分とする固有粘度が0.55以上のシートを用いた黒色系の包装用容器。」である点で一致し,前記「2.」に記載した相違点1及び相違点3の点で相違するが,相違点1及び相違点3について容易想到であることは,前記「2.」に記載したとおりであるから,本件発明1は,甲第3号証,甲第5号証,甲第8号証,甲第9号証及び甲第10号証に記載された発明に基づいて,出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.小括
以上のとおり,請求項1及び請求項2に係る発明についての本件特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

第7 むすび
請求項1及び請求項2に係る発明についての本件特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり,また,同法第36条第4項及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから,同法第123条第1項第2号及び第4号に該当し,無効とすべきものである。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2011-12-09 
結審通知日 2011-12-13 
審決日 2011-12-28 
出願番号 特願2001-193523(P2001-193523)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (B65D)
P 1 113・ 536- Z (B65D)
P 1 113・ 537- Z (B65D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 窪田 治彦  
特許庁審判長 千馬 隆之
特許庁審判官 佐野 健治
栗林 敏彦
登録日 2006-05-19 
登録番号 特許第3803823号(P3803823)
発明の名称 光沢黒色系の包装用容器  
代理人 恩田 博宣  
代理人 中谷 寛昭  
代理人 藤本 昇  
代理人 恩田 誠  
代理人 小山 雄一  
代理人 上山 浩  

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