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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B65D
管理番号 1270487
審判番号 無効2011-800194  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-10-04 
確定日 2013-02-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第3709155号発明「バッグインボックス用袋体およびバッグインボックス」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 請求の趣旨
「特許第3709155号の請求項1ないし11に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求める。

第2 手続の経緯
本件審判に係る主な手続を、整理して以下に示す。
平成7年11月14日 原出願日
(特願平7-295733号:優先日平成6年11月18日)
平成13年8月13日 本件出願(特願2001-245400号)
平成17年8月12日 本件特許権の設定登録(特許第3709155号)
平成20年6月10日 本件とは別の無効審判請求(無効2008-
800104号。以下、「第1次無効審判」という。)
平成22年4月28日 第1次無効審判の審決(平成21年11月20日
にした訂正請求(審決注:平成21年10月15日付け訂正審判請求(
訂正2009-390124)の援用)のうち、請求項1、9及び10
の訂正並びに明細書についてする訂正のうち、段落【0013】の訂正
を認める。請求項4の訂正を認めない。本件審判の請求は成り立たない 。)
平成23年2月8日 第1次無効審判の審決確定
平成23年10月4日付け 本件無効審判請求(無効2011-800
194号)
平成23年12月27日付け 被請求人による審判事件答弁書提出
平成24年2月15日付け 請求人による弁駁書提出
平成24年3月2日付け 書面審理通知(3月6日発送)
平成24年3月13日付け 請求人による上申書提出
平成24年3月22日付け 審理終結通知(3月26日発送)
平成24年3月30日付け 被請求人による第2答弁書提出
(審理終結通知後に提出された第2答弁書の取扱いについては、後記
第6「8.補足」において述べる。)

第3 本件発明
本件特許に関しては、第1次無効審判の審理において、特許法第134条の3第5項の規定により、平成21年11月20日になされたものとみなされた訂正請求がなされ、その審決で、訂正請求のうち、請求項4についてする訂正は認められず、その余の訂正請求は認められた。そして、第1次無効審判の審決は、既に確定している。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、請求項1ないし請求項3、並びに請求項5ないし請求項11については、前記訂正請求に添付された訂正明細書の請求項1ないし請求項3、並びに請求項5ないし請求項11に記載されたとおりであり(無効2008-800104号の特許審決公報の第11頁ないし第12頁を参照。)、請求項4については、特許登録時の明細書の請求項4に記載されたとおりである(特許第3709155号公報を参照。)。
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は次に示すとおりであり、本件の請求項1ないし11に係る特許発明は、次に示す各請求項に記載した事項によって特定されるとおりのものと認める。
なお、請求項2、請求項3、請求項5ないし請求項8、並びに請求項11については、訂正明細書の記載と特許登録時の明細書の記載は同じである。

「【請求項1】接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一対の平面部および谷折り線を備える2つの側面部を有する4方シールの袋本体の各隅部に、袋本体を一対の平面部が重なり合い且つ重なり合った平面部の間に前記谷折り線を備えた2つの側面部が介在するように折り畳んだ状態下で対向する袋本体の内面同士を、頂部および底部の各シール部と側面シール部とを前記各隅部を斜めに切り取るような直線帯状に接着して形成された閉鎖シール部を有する、内容物である液体の充填時には直方体又は立方体に近い形状となるバッグインボックス用袋体であって、
前記側面シール部は、平面部と側面部の側縁部同士がシールされ、少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造をとり、内容物である液体の充填時には前記袋体は直方体又は立方体に近い形状になり、自立性に優れる袋体となり、
その頂部側と底部側に関し、頂部シール部、側面シール部及び閉鎖シール部、又は底部シール部、側面シール部及び閉鎖シール部にて、その両側部分に三角形状のフィン部が形成され、
これらフィン部は、2枚の前記平面部が前記側面部と別々にシールされて、それぞれ独立して形成され、
各フィン部のうち、少なくとも頂部側のフィン部には、前記平面部と前記側面部の内面同士が部分的乃至断続的に接着され、
さらに、部分的乃至断続的に接着されたフィン部は、このバッグインボックス用袋体の前後に対向する頂部シール部及び底部シール部双方が、隅部の頂点の位置で接着され、かつ、頂部シール部上、または、頂部シール部上及び底部シール部上で少なくとも一箇所、頂点の位置と不連続的に接着されることによって、袋体の頂部側、または、頂部側及び底部側に左右一対の吊り下げ部を形成することを特徴とするバッグインボックス用袋体。
【請求項2】閉鎖シール部が、頂部側を底部側より深い位置になるように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のバッグインボックス用袋体。
【請求項3】閉鎖シール部が、頂部シール部と閉鎖シール部とに挟まれた狭角は46?55°で、底部シール部と閉鎖シール部とに挟まれた狭角は40?50°となるように形成されたことを特徴とする、請求項1に記載のバッグインボックス用袋体。
【請求項4】前記フィン部の頂部シール部又は底部シール部は、このバッグインボックス用袋体の左右の双方が少なくとも部分的に接着されていることを特徴とする請求項1のバッグインボックス用袋体。
【請求項5】一対の平面部および2つの側面部のそれぞれに少なくとも1つずつ、袋本体の上下方向に延在するように帯状のフィルム片が接着されているかまたは帯状の気体充填層が設けられていることを特徴とする請求項1のバッグインボックス用袋体。
【請求項6】少なくとも1つの三角形状の前記フィン部にパンチ穴が形成されていることを特徴とする請求項1のバッグインボックス用袋体。
【請求項7】合成樹脂製フィルム中の少なくとも1層が金属箔の層であることを特徴とする請求項1のバッグインボックス用袋体。
【請求項8】シール部の幅を除いた実寸法で、上記平面部の横寸法が260?340mm、上記側面部の横寸法が180?260mm、および上記平面部と上記側面部の縦寸法が490?660mmであることを特徴とする請求項1のバッグインボックス用袋体。
【請求項9】内部に、注出口を備えた請求項1乃至請求項8に記載のバッグインボックス用袋体が内袋として収納された外箱の一面に、内袋の注出口の周囲の袋本体を50mm以上引出し可能な径を有する開口部を形成するための開封補助手段が備えられていることを特徴とするバッグインボックス。
【請求項10】開封補助手段は、外箱の一面を、前記開口部の中心点となるべき位置から放射状に引き裂くことができ、開封後には、前記開口部の周囲に扇状の断片が残る開封補助手段であることを特徴とする請求項9に記載のバッグインボックス。
【請求項11】内袋の容量が5?25リットルであり、外箱が立方体又は直方体であることを特徴とする請求項9に記載のバッグインボックス。」
(以下、請求項の番号に合わせて「本件発明1」ないし「本件発明11」といい、総括して「本件発明」という。)

第4 請求人が主張する無効理由
1.無効理由の概要
(ア)審理の全趣旨から見て、請求人は、次の(イ)又は(ウ)の理由により、本件発明1ないし本件発明11についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定によって無効とされるべきであると主張しているものと認める。(審判請求書第2頁第10行ないし同頁末行を参照。)
(イ)本件発明1ないし本件発明11は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
(ウ)本件発明1ないし本件発明11は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、甲第4号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

2.証拠方法
請求人は、証拠方法として、次に示す甲第1号証ないし甲第12号証を提出している。

甲第1号証:実願平4-12078号(実開平5-72740号)のCD-ROM
甲第2号証:実願平2-12663号(実開平2-120342号)のマイクロフィルム
甲第3号証:実願平4-64558号(実開平6-27624号)のCD-ROM
甲第4号証:実願昭63-85694号(実開平2-8763号)のマイクロフィルム
甲第5号証:実願昭62-100994号(実開昭64-9174号)のマイクロフィルム
甲第6号証:実願昭55-71309号(実開昭56-172568号)のマイクロフィルム
甲第7号証:特開昭49-110469号公報
甲第8号証:特開平6-179454号公報
甲第9号証:実願平1-143329号(実開平3-81879号)のマイクロフィルム
甲第10号証:特開昭59-31151号公報
甲第11号証:実願昭58-99296号(実開昭60-8257号)のマイクロフィルム
甲第12号証:請求人の作成した平成24年3月8日付け実験報告書

3.本件発明1の分説、甲1発明及び本件発明1との対比
(1)本件発明1の分説
請求人は、本件発明1を次のように構成要件AないしFに分説している。(審判請求書第4頁第19行ないし第5頁第20行を参照。)
「A 接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一対の平面部および谷折り線を備える2つの側面部を有する4方シールの袋本体の各隅部に、袋本体を一対の平面部が重なり合い且つ重なり合った平面部の間に前記谷折り線を備えた2つの側面部が介在するように折り畳んだ状態下で対向する袋本体の内面同士を、頂部および底部の各シール部と側面シール部とを前記各隅部を斜めに切り取るような直線帯状に接着して形成された閉鎖シール部を有する、内容物である液体の充填時には直方体又は立方体に近い形状となるバッグインボックス用袋体であって、
B 前記側面シール部は、平面部と側面部の側縁部同士がシールされ、少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造をとり、
C 内容物である液体の充填時には前記袋体は直方体又は立方体に近い形状になり、自立性に優れる袋体となり、
D その頂部側と底部側に関し、頂部シール部、側面シール部及び閉鎖シール部、又は底部シール部、側面シール部及び閉鎖シール部にて、その両側部分に三角形状のフィン部が形成され、これらフィン部は、2枚の前記平面部が前記側面部と別々にシールされて、それぞれ独立して形成され、各フィン部のうち、少なくとも頂部側のフィン部には、前記平面部と前記側面部の内面同士が部分的乃至断続的に接着され、
E さらに、部分的乃至断続的に接着されたフィン部は、このバッグインボックス用袋体の前後に対向する頂部シール部及び底部シール部双方が、隅部の頂点の位置で接着され、かつ、頂部シール部上、または、頂部シール部上及び底部シール部上で少なくとも一箇所、頂点の位置と不連続的に接着されることによって、袋体の頂部側、または、頂部側及び底部側に左右一対の吊り下げ部を形成する
F ことを特徴とするバッグインボックス用袋体。」

(2)甲1発明
請求人は、甲第1号証には、次に示す発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されており、構成aないしfに分説されると主張している。(審判請求書第11頁下から第12行ないし第12頁第11行を参照。)
「a 熱溶着性のラミネートフィルム材料で形成され、重ね合わされたフィルム11、11の両側縁間に、折込線13を有するガゼット折込体12、12を挿入し、フィルム11、11の上方の端縁に開口14を設け、フィルム11、11とガゼット折込体12、12との3方の端縁をヒートシール部181、181’、184、185でシールした内袋10の各隅部に、その各隅部の内面同士を、斜めに切り取るような直線帯状に接着して形成した傾斜シール部182、183を有する、内容物である液体の注入時には直方体状に展開する、段ボール箱に内装する内袋10であって、
b ヒートシール部181、181’は、フィルム11、11とガゼット折込体12、12の側縁部同士がシールされ、少なくとも2枚のフィルムが重なり合った構造をとり、
c 内容物である液体の注入時には内袋10は直方体状に展開し、一定の自立性を有する袋体となり、
d その頂部側と底部側に関し、ヒートシール部181’及び傾斜ヒートシール部183、又はヒートシール部181’、185及び傾斜ヒートシール部182にて、その両側部分にコーナー部分が形成され、これらコーナー部分は、2枚のフィルム11、11がガゼット折込体12、12と別々にシールされてそれぞれ独立して形成され、
e 各コーナー部分は、内容物の注入時に直方体状に展開する内袋10の上面又は底面に沿うこと
f を特徴とする、段ボール箱に内装する内袋。」

(3)本件発明1と甲1発明との対比
ア.請求人は、本件発明1と甲1発明とは、次のイ.に示す一致点で一致し、ウ.に示す相違点Aないし相違点Cで相違すると主張している。(審判請求書第21頁第17行ないし第23頁第15行を参照。なお、第21頁末行の「袋本体の内面同士(内袋10)」は、「袋本体(内袋10)の内面同士」の誤記と認められるので、そのように認定した。)

イ.一致点
「合成樹脂製フィルム(熱溶着性のラミネートフィルム材料)によって形成された対向する一対の平面部(フィルム11、11)および谷折り線(折込線13)を備える2つの側面部(ガゼット折込体12、12)を有する袋本体(内袋10)の各隅部に、袋本体(内袋10)を一対の平面部(フィルム11、11)が重なり合い且つ重なり合った平面部(フィルム11、11)の間に前記谷折り線(折込線13)を備えた2つの側面部(ガゼット折込体12、12)が介在するように折り畳んだ状態下で対向する袋本体(内袋10)の内面同士を、頂部と側面シール部(ヒートシール部181、181’)とを、および、底部のシール部(ヒートシール部184、185)と側面シール部(ヒートシール部181、181’)とを前記各隅部を斜めに切り取るような直線帯状に接着して形成された閉鎖シール部(傾斜シール部182、183)を有し、内容物である液体の充填時(注入時)には直方体又は立方体に近い形状(直方体状)となるバッグインボックス用袋体(段ボール箱に内装する内袋10)であって、
前記側面シール部(ヒートシール部181、181’)は、平面部(フィルム11、11)と側面部(ガゼット折込体12、12)の側縁部同士がシールされ、少なくとも2枚のフィルムが重なり合った柱構造をとり、
内容物である液体の充填時(注入時)には前記袋体(内袋10)は直方体又は立方体に近い形状(直方体状)になり、自立性を有する袋体となり、
その頂部側と底部側に関し、側面シール部(ヒートシール部181、181’)及び閉鎖シール部(傾斜ヒートシール部183)、又は底部シール部(ヒートシール部184、185)、側面シール部(ヒートシール部181、181’)及び閉鎖シール部(傾斜ヒートシール部182)にて、その両側部分に三角形状のフィン部(コーナー部分)が形成され、これらフィン部(コーナー部分)は、2枚の前記平面部(フィルム11、11)が前記側面部(ガゼット折込体12、12)と別々にシールされて、それぞれ独立して形成されることを特徴とするバッグインボックス用袋体(段ボール箱に内装する内袋10)。」

ウ.相違点Aないし相違点C
(ア)相違点A
「本件発明1の袋体が、接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成され、側面シール部が、少なくとも4枚のフィルムが重なり合った構造であるのに対し、甲1発明の内袋10では、かかる構成を開示していない点」
(イ)相違点B
「[1]本件発明1の袋体が、頂部の構成においてシール部を有しているのに対し、甲1発明の内袋10では、かかる構成が開示されておらず、
[2]本件発明1の袋体の少なくとも頂部側のフィン部では、内面同士が部分的乃至断続的に接着されているのに対し、甲1発明の内袋のコーナー部分では、かかる構成を開示しておらず、
[3]甲1発明のコーナー部分には、本件発明1の『部分的乃至断続的に接着されたフィン部は、このバッグインボックス用袋体の前後に対向する頂部シール部及び底部シール部双方が、隅部の頂点の位置で接着され、かつ、頂部シール部上、または、頂部シール部上及び底部シール部上で少なくとも一箇所、頂点の位置と不連続的に接着されることによって、袋体の頂部側、または、頂部側及び底部側に左右一対の吊り下げ部を形成する』構成が開示されていない点」
(ウ)相違点C
「甲1発明が自立性の程度について明示していない点」

4.相違点Aないし相違点Cについての請求人の主張
(1)請求人は、上記相違点Aないし相違点Cは、いずれも容易想到であると主張し、その理由として大要、次のとおり主張している。(審判請求書第23頁下から第10行ないし第32頁第21行、弁駁書第5頁下から第16行ないし第9頁第7行、及び上申書第2頁下から第10行ないし第3頁第15行を参照。)

(2)相違点Aについて
ア.相違点Aに係る構成は、「袋体が、接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成され、側面シール部が、少なくとも4枚のフィルムが重なり合った構造である」というものであるが、バッグインボックス用袋体において、接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって袋体を形成することは、本件特許の優先日以前から周知の技術である。
例えば、甲第3号証には、従来技術として、果汁が酸素により劣化することを防ぐために、内袋の構成を酸素非透過性フイルムを含む多重袋とするバッグインボックスが採用されていたこと(【0004】)が、開示されており、甲3発明として「内袋のヒートシール加工を容易にし、かつ、シール強度を高めるために、内側袋と外側袋をヒートシール手段により周辺部を互いに接合した材料によって、バッグインボックスの内袋を形成すること」(審決注:【請求項1】や段落【0012】を参照。)が、開示されている。さらに、甲第3号証には、袋形状としてガゼット袋を適宜採用できること(審決注:段落【0014】を参照。)が、開示されている。
また、甲第5号証には、従来技術の説明で、バッグインボックス用袋体として、柔軟な単体フィルムやラミネートフィルムを2枚以上重ねて使用すること、及びバッグインボックス用袋体の形状としてガゼット型袋体とすること(審決注:明細書第2頁第3行?第3頁第4行を参照。)が、開示されている。
さらに、甲第10号証及び甲第11号証には、バッグインボックスに特有の問題として、フィルムと段ボール箱との摩擦等が原因となってフィルムにピンホールが発生するという問題点を開示しており、かかる問題点から内容物の漏洩を防ぐために、バッグインボックス用袋体としては、一般的に2枚以上のフィルムを重ね合わせた多重袋が用いられていること(審決注:甲第10号証の第1頁左下欄第13行?同頁右下欄第19行、甲第11号証の明細書第2頁第6行?第3頁第19行を参照。)が、開示されている。

イ.したがって、甲1発明の内袋において、内容物の酸素による劣化や漏洩を防ぐために、又は、その強度、耐薬品性などの向上を目的として、接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって袋体を形成することは、単なる周知技術の採用に過ぎない。さらに、かかる周知技術を採用することにより、甲1発明の内袋は、少なくとも4枚のフィルムが重なり合った構造の側面シール部を得ることができるものであり、この点についても、甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に相当できる事項に過ぎない。

ウ.上記ア.のとおり、甲3発明は、「内袋のヒートシール加工を容易にし、かつ、シール強度を高めるために、バッグインボックスの内袋をポリエチレンフィルムで作られた内側袋と、延伸高密度ポリエチレンテープヤーンを素材とした織布または不織布とポリエチレンフィルムをラミネートした基材シートをポリエチレンフィルムを内側にして形成した外側袋とで構成し、内側袋と外側袋をヒートシール手段により周辺部を互いに接合すること」であり、甲第3号証には、かかる甲3発明が、ガゼット袋にも適宜採用できることが開示されている。甲1発明及び甲3発明は、いずれもバッグインボックス用袋体に関する発明であり、技術分野が同一である。また、「内袋のヒートシール加工を容易にし、かつ、シール強度を高める」という課題は、バッグインボックスにおいて共通する課題であり、甲1発明の内袋においても、当然に存在する。また、甲1発明は、ラミネートフィルムを用いたものであるところ、甲3発明の外側袋は、織布または不織布とポリエチレンフィルムをラミネートした基材シートである点において、共通するものである。これらのことからすれば、甲1発明の内袋において、内袋のヒートシール加工を容易にし、かつ、シール強度を高めるために、甲3発明の構成を採用して、相違点Aに係る構成とすることは、当業者にとって容易に想到できた事項である。また、複数枚のフィルムを重ねることによってシール部の強度が増すことは、周知技術から予測可能な効果に過ぎない。

(3)相違点Bについて
ア.相違点Bの細分化について
被請求人は、答弁書において「相違点Bに関連して、請求人が相違点を細分化して判断した手法は、不適切である」と主張している。しかしながら、進歩性の判断においては、各相違点に係る構成が引用文献及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到できたか否かが重要なのであり、被請求人の反論は実質的なものではなく理由がない。また、被請求人は、相違点について個々に反論するとして、各証拠に対し、本件発明との相違点が存在することを指摘しているが、全ての相違点が一つの文献に開示されている必要はないので、かかる指摘も失当である。

イ.相違点B[1]について
(ア)相違点B[1]に係る構成は、本件発明1では、「袋体が、頂部の構成においてシール部を有している」ことである。

(イ)甲第2号証には、外層が非熱接着性層、内層が熱接着性層である積層フィルムにより作られたガゼット袋に関し、従来のガセット袋における底部の折り込み部分に非接着縁が残ったりして、これが角底外面に突き出して、角底の形状が不整形となり密封性を不安定にする欠点を解消するため、甲2発明として、「折込みフィルムの上、下縁部の近傍に1個又は複数の透孔を設けて、両面の本体シール部を接着させることにより、内容物を収容した場合に底熱シール部(4b)が一体となって底面の一方に倒伏して平面底となり、上部熱シール部(4a)も開口部を熱封緘した状態で同様に平面を形成するガゼット袋」が、開示されている。(審決注:明細書第2頁第4行?第3頁第3行、第3頁第5行?第4頁第4行、第4頁第7行?第5頁第14行を参照。)

(ウ)甲1発明と甲2発明は、何れもラミネートフィルムを使用したガゼット袋に関するものであり、製造方法についても、2枚のフィルムを重ね合わせ、この2枚のフィルムの両側縁間に、二のガセット折込体をガセット状に折り込みして配置し、重ね合わせた状態でヒートシールする点で共通しており、その構造についても多くの共通点を有するものである。

(エ)甲2発明における「上部熱シール部(4a)」は、本件発明1の「頂部シール部」に相当するものである。甲2発明のガゼット袋では、本体上縁部に内容物を充填するための開口部(7)を有しているが、「上部熱シール部(4a)は開口部を熱封緘した状態で同様に平面を形成する。」(審決注:明細書第5頁第10行?同頁第12行を参照。)と記載されているように、開口部を熱封緘することが開示されている。
この点、甲第1号証に記載の実施例においても、内袋10の頂部の端縁には、内容物を注出入する開口14が設けられているが、「開口14は、内容物を充填後、二のフィルム11,11をシールして閉塞してもよ……い。」(【0030】)と記載されているように、甲1発明には、開口をシールして頂部シール部を形成することの示唆がある。
さらに、バッグインボックス用のガゼット袋において、本件特許の優先日以前から、頂部にシール部を設けることは極めて一般的な構成であり、また、ガゼット袋の平面部に開口及びバルブを設ける構成も周知技術(例えば甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証)であり、バッグインボックス用のガゼット袋において、開口を何れの位置に設けるかは、任意の設計事項である。
よって、相違点B[1]に係る構成は、甲1発明、甲2発明及び周知技術に基づいて、当業者にとって容易に想到できる事項である。

ウ.相違点B[2]について
(ア)相違点B[2]に係る構成は、本件発明1では、「袋体の少なくとも頂部側のフィン部が、内面同士が部分的乃至断続的に接着されている」ことである。

(イ)ガゼット袋において、強度を補強するため、内容物が充填されない部分のシート内面同士を部分的又は全面的に接着することは、本件特許の優先日以前から周知の技術であった。

(ウ)例えば、甲第6号証には、ワンウェイ容器用内袋(ガゼット構造のバッグインボックス用内袋)に関し、以下の各記載がある。
「通常、4?20kg程度の重量内容物の場合のBIBには、後者の別個内袋を利用するものが多く、この場合において、従来は内容物充填内袋を直接把持取扱つていたので、作業者の不注意により比較的強度の弱い内袋が損傷したり、内容物の内圧により破袋するなどの事故を生じ易い欠点があつた。 本考案は、前記の別個の内袋を用いる場合の不都合を解消することを目的とするものであつて、内容物充填後の内袋の上縁密封部に把持用耳縁を形成することにより、内袋取扱作業を容易確実になし得るようにし、内袋の損傷破袋事故の発生を防止したものである。」(明細書第2頁第9行?第3頁第1行)
「第3図(a)?(c)は、他の実施例を示す正面図であり、(a)は充填部4aの上縁が山形、(b)は台形、(c)は円弧形を呈する密封部4cを有するもので、何れも充填部4aの密封部4cから上方に延長した広巾の把持用耳縁4bが形成され、該部は一部又は全面を溶着して補強してもよい。また該部4bに、把持用の引掛孔5を設けてもよい。」(明細書第3頁第13行?同頁第19行)
このように、甲第6号証には、ガゼット構造のバッグインボックス用内袋において、内袋の運搬、外装箱内への挿入などの作業を容易にし、内袋の損傷破袋事故を防止するために(審決注:明細書第4頁第1行?同頁第5行を参照。)、充填部4aの頂部側に斜め直線状に近い山形、台形又は円弧形を呈する密封部4cを設け、密封部4cの上方に一部又は全部を溶着した広巾の把持用耳縁4bが形成することが開示されている。

(エ)さらに、甲第7号証には、ガゼット構造の容器用袋体に関し、以下の記載がある。
「第1図ないし第3図は、1対の矩形の形をもつた軽量な両側壁2と、同様な端壁3と4を有し、端壁3は底壁であり、端壁4が頂壁であつて両者は大体長楕円形のものである容器1を示している。両側壁はそれらの平行な横の端縁で合わせ目5によつて一体に接合されている。内方に向かつて凹んでいる輪をなした弧状の合わせ目6が頂壁4と底壁3を側壁2に対して接合し、これらの合かせ目6は両方の端縁5の間にわたつて延びている熱封緘である。端壁3、4のおのおのは横方向の真直ぐな折目9を形成され、その折目のおのおのは一方の端縁5から他方の端縁5に向かつて延び、それぞれの端壁3、4を二つの同様な半部に二分している。それで容器の底部には凹み10が、容器の頂部には凹み12が形成されている。そして両方の凹みは外方に向かつて開放され、かつそれらはそれぞれ端壁3、4と合わせ目6を越えて突出している側壁2の部分によつて決定されている。容器を補強するために別の合わせ目7と8が設けられていることは留意されるべきである。このような容器は第1図に示されたようにその端部3で立たされるときに極めて安定している。」(第3頁左上欄第17行?同頁右上欄第18行。審決注:請求人が摘記を省略して「…」と表記した部分についても、甲第7号証から摘記している。)
このように、甲第7号証には、ガゼット構造の容器用袋体において、容器を補強するために、隅部に形成された三角形状の部分の内部において部分的に接着した合わせ目8を設けることが開示されている。

(オ)甲1発明において、甲2発明のシール部の構造を採用することは、当業者にとって容易に想到できた事項に過ぎないことは既に述べたとおりであり、かかる構造では、「頂部側と底部側に関し、頂部シール部、側面シール部及び閉鎖シール部、又は底部シール部、側面シール部及び閉鎖シール部にて、その両側部分に三角形状のフィン部が形成され」ているところ、袋体の強度を向上させるために、本件特許の優先日当時の周知技術を採用して、フィン部のフィルム内面同士を部分的乃至断続的に接着することは、当業者にとって容易に想到できる事項である。
よって、相違点B[2]に係る構成は、甲1発明、甲2発明及び周知技術に基づいて、当業者にとって容易に想到できる事項である。

エ.相違点B[3]について
(ア)相違点B[3]に係る構成は、本件発明1では、「部分的乃至断続的に接着されたフィン部は、このバッグインボックス用袋体の前後に対向する頂部シール部及び底部シール部双方が、隅部の頂点の位置で接着され、かつ、頂部シール部上、または、頂部シール部上及び底部シール部上で少なくとも一箇所、頂点の位置と不連続的に接着されることによって、袋体の頂部側、または、頂部側及び底部側に左右一対の吊り下げ部を形成する」ことである。

(イ)甲2発明では、折込みフィルムの上、下縁部の近傍に1個又は複数の透孔を設けて、両面の本体シール部を接着させることにより、上部熱シール部(4a)並びに底熱シール部(4b)は中央の折込みフィルム(2)が存在しない部分ならびに折込みフィルム(2)の上、下縁部の近傍の透孔(2a)(2b)の部分において、両面の本体フィルム(1)(1)が接着されることが開示されている。(審決注:明細書第2頁下から第6行?第3頁第3行、第4頁下から第4行?第5頁第2行を参照。)つまり、甲2発明において複数の透孔を設けた場合は上、下縁部近傍の両面の本体フィルム(1)(1)が不連続的に接着されることになる。
甲2発明の「上部熱シール部(4a)」、「底熱シール部(4b)」は、それぞれ本件発明1の「頂部シール部」、「底部シール部」に相当するものであるから、甲2発明には、相違点B[3]に係る構成のうち「フィン部は、このバッグインボックス用袋体の前後に対向する頂部シール部及び底部シール部双方が、接着され、かつ、頂部シール部上、または、頂部シール部上及び底部シール部上で少なくとも一箇所、頂点の位置と不連続的に接着されること」が開示されている。
甲2発明は、透孔(2a)(2b)の位置について、上、下縁部近傍としか特定していないが、接着位置を何れとするのかは単なる設計事項に過ぎない。さらに、甲第4号証の第7図及び第8図、甲第5号証の第23図、甲第6号証の第1図?第3図には、バッグインボックス用の袋体において、頂点の位置を含む全体に頂部シール部が接着されていることから、甲2発明の透孔(2a)(2b)の一つを頂点の位置に配置することは、当業者が適宜なし得る事項に過ぎない。

(ウ)甲第2号証の第4図から明らかなように、上、下縁部近傍の透孔(2a)(2b)の部分において、両面の本体フィルム(1)(1)が接着されることにより、袋体の頂部側及び底部側には、折込みフィルム(2)と三角形状のフィン部とによって左右一対の空間が形成されている。甲第4号証及び甲第6号証には、バッグインボックスの袋体において、内容物を充填した後の袋体を運搬するために把持部を設けることが好ましいことが開示されており、甲第4号証の第8図には上面の左右に形成された三角門部R、R(審決注:甲第4号証の記載では「三角」と「部」との間の文字が不明瞭であり、請求人はこの文字を「門」と認識しており、被請求人は「凹」と認識している。)に両手を挿入し、具体的な把手として使用している。
これらのことからすれば、甲2発明の袋体の頂部側及び底部側の折込みフィルム(2)と三角形状のフィン部とによって形成された空間を吊り下げ部とすることは、当業者にとって単なる設計事項に過ぎない。

(エ)甲第4号証には、甲4発明として、「ガゼット構造のバッグインボックス用袋体であって、その上面について三角形状の部分を独立に形成し、その左右の各三角形状の部分が袋体の前後に対向する封着部において頂点位置を含む全長に渡って接着されて、吊り下げ部(三角門部R、R)を形成したもの」が開示されている。
甲2発明の袋体の頂部側及び底部側の折込みフィルム(2)と三角形状のフィン部とによって形成された空間は、頂点位置を含む全長に渡って接着されてはいないものの、前後のフィルムが接着されて、甲4発明と同様に両手を挿入することができ、持ち上げることが可能な構成となっているので、甲4発明を参酌すれば、かかる空間を吊り下げ部として使用することは、当業者にとって容易に想到できた事項である。

(オ)よって、相違点B[3]に係る構成は、甲1発明、甲2発明及び周知技術に基づいて、又は、甲1発明、甲2発明、甲4発明及び周知技術に基づいて、当業者にとって容易に想到できる事項である。

(4)相違点Cについて
ア.相違点Cに係る構成は、本件発明1は「自立性に優れる袋体」であるというものであるが、そもそも「自立性に優れる」という記載は、比較の基準又は程度が不明確であるから、自立性を有する甲1発明との間において、実質的な相違点とはならない。さらに、自立性の程度は、フィルムやシールの強度等によって調整することが可能であるから、甲1発明において、「自立性に優れる袋体」とすることは、当業者にとって単なる設計事項に過ぎない。
また、被請求人は、答弁書において、本件発明の自立性の程度として、明細書の段落【0002】及び【0008】を引用し、本件発明の「自立性に優れた」とは平袋に比較して優れるとの意味であると主張するが、甲1発明の袋体は、その構造から自立性を有するものであり、「平袋型の内袋」と比較して自立性に優れることは明らかである。

イ.甲第2号証には、甲1発明の袋体と共通する構造のガゼット袋が開示されており、かかる構造のガゼット袋について、側縁熱シール部(3)が、角底袋の四隅の補強縁となって自立性を付与する(審決注:明細書第5頁第12行?同頁第14行を参照。)ことが明記されている。かかる記載からすれば、構造が共通する甲1発明の袋体においても、内容物を充填した際に側縁部のヒートシール部181が、角底袋の四隅の補強縁となって自立性を付与することが明らかである。さらに、甲3発明は、バッグインボックスの内袋を内側袋と外側袋とで構成し、内側袋と外側袋をヒートシール手段により周辺部を互いに接合することによって、内袋のヒートシール加工を容易にし、かつ、シール強度を高めることができるものである。してみると、「自立性に優れる袋体」は、甲1発明、甲2発明及び甲3発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できた事項である。

ウ.よって、相違点Cに係る構成は、甲1発明及び周知技術に基づいて、又は甲1発明、甲2発明及び甲3発明及び周知技術に基づいて、当業者にとって容易に想到できた事項である。

エ.また、被請求人の「甲第1号証には、段ボール内で袋体に内容物を充填すると袋体は直方体に形成されることが記載されているのみであり、『自立性』については、記載も示唆もないから、甲1発明に自立性があるとした点は、請求人の誤認である」旨の主張(審決注:答弁書第11頁第5行?同頁第8行を参照。)に対する弁駁として、甲第1号証の段落【0025】の「本実施例では、ガセット折込体12,12の折込線13,13間の距離Eは平行を成し、各傾斜ヒートシール部182,182,182,182及び各傾斜ヒートシール部183,183,183,183がそれぞれ各ヒートシール部181,181,181,181の延長線に対して45度の傾斜角をなし、さらに二の折込線13,13と各ヒートシール部181,181,181,181間の長さC,C,C’,C’が同じであるので、内容物を充填した内袋10は後述するように直方体を形成するように膨らむ」との記載などを挙げ、甲1発明は、ヒートシール部の形状により、内容物を充填すると袋体それ自体が直方体状になるものである、そして、内容物を充填し、袋体それ自体が直方体状になった袋体が、自立性を有することは明らかであると主張している。
請求人は、さらに、甲1発明を実際に製造し、袋体内に水を充填させる実験を行い、内容物を充填すると、袋体が直方体に展開し自立することが確認されたとして、その実験結果を甲第12号証として提出している。

5.第1次無効審判の議論の蒸し返しについて
被請求人は、答弁書において、本件無効審判は、第1次無効審判の議論の蒸し返しに過ぎないと主張するが、蒸し返しではない。
本事件の甲第1号証は、第1次無効審判において、主引例として本件発明と対比されておらず、本事件の甲1発明と本件発明との一致点及び相違点は未だ審理判断されていないから、本無効審判は第1次無効審判の蒸し返しではない。また、前回無効審判の審決取消訴訟における判決(乙第4号証。審決注:平成22年(行ケ)第10179号判決。以下、「乙4判決」という。)においても、「甲1?3記載の発明に基づき、本件発明1の特徴点aの構成を想到することが容易とはいえない」(乙4判決第22頁第1行?同頁第2行。審決注:最高裁判所のホームページから入手できる同判決の全文データ(以下、「HPデータ」という。)では、第21頁第23行?同頁第24行。)と判断しており、本事件の甲第1号証については何ら判断されていない。
さらに、乙4判決は、本件発明1の特徴点aの構成を想到することが容易とはいえない理由として、第1次無効審判の甲第2号証がバッグインコンテナ用の内袋であるから、バッグインボックス用袋体に関する周知技術を適用する動機付けがないこと(乙4判決第18頁第23行?第20頁第3行、HPデータ第18頁第19行?第19頁第25行)、それに加えて第1次無効審判の甲第1号証(審決注:本件無効審判の甲第7号証)がバッグインボックス用袋体とは異なるものであること(乙4判決第20頁第4行?同頁第20行、HPデータ第19頁末行?第20頁第16行)及び、第1次無効審判の甲第3号証(審決注:本件無効審判の甲第4号証)が外面位置に把持を設けることが主目的とされており、本件発明1の課題が意識されておらず、筒状フィルムから製造されるため、袋の製造方法を変更した上で、特徴点aの構成に至ることが容易であるとはいえないことを挙げている(乙4判決第20頁第21行?第21頁第21行、HPデータ第20頁第17行?第21頁第17行)。この点、本件審判の甲第1号証は、バッグインボックス用袋体であり、四方シールによって製造されるものであるから、第1次無効審判の甲第1号証ないし甲第3号証に対する乙4判決の理由付けは該当しないのである。よって、この点からも、本件無効審判は、第1次無効審判の蒸し返しではない。

6.本件発明1についての小括
相違点Aに係る構成は、甲1発明及び周知技術に基づいて、又は甲1発明及び甲3発明に基づいて、当業者が容易に想到できた事項であり、
相違点Bに係る構成は、甲1発明、甲2発明及び周知技術に基づいて、又は甲1発明、甲2発明、甲4発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できた事項であり、
相違点Cに係る構成は、甲1発明及び周知技術に基づいて、又は甲1発明、甲2発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できた事項である。
したがって、本件発明1は、甲1発明、甲2発明及び周知技術に基づいて、又は甲1発明、甲2発明、甲3発明、甲4発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

7.本件発明2ないし本件発明11について
本件発明2ないし本件発明11は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるところ、上述したとおり、本件発明1は、甲1発明、甲2発明及び周知技術に基づいて、又は甲1発明、甲2発明、甲3発明、甲4発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本件発明2が本件発明1に対して追加する構成要件は、単なる設計事項であり、また例えば甲第8号証に記載されており、周知であり、
本件発明3が追加する構成要件は、甲1発明に開示されており、また例えば甲第8号証に記載されており、周知であり、
本件発明4が追加する構成要件は、甲2発明に開示されており、
本件発明5が追加する構成要件は、周知技術であり、また甲4発明に開示されており、
本件発明6が追加する構成要件は、甲4発明に開示されており、また例えば甲第6号証に記載されており、周知技術であり、
本件発明7が追加する構成要件は、甲2発明に開示されており、また適宜設計し得る設計事項であり、
本件発明8が追加する構成要件は、単にパレットの国際規格に合わせただけに過ぎないもので、適宜設計し得る設計事項であり、
本件発明9が追加する構成要件は、適宜設計し得る設計事項であり、
本件発明10が追加する構成要件は、例えば甲第9号証に記載されており、適宜設計し得る設計事項であり、
本件発明11が追加する構成要件は、適宜設計し得る設計事項である。
したがって、本件発明2ないし本件発明11は、いずれも甲1発明、甲2発明及び周知技術に基づいて、又は甲1発明、甲2発明、甲3発明、甲4発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第5 被請求人の主張
1.答弁の趣旨、証拠方法
被請求人は、「本審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めている。
そして、被請求人は、証拠方法として、次の乙第1号証ないし乙第5号証並びに検乙第1号証を提出している。また、答弁書の記載から見て、本審判請求は成り立たないとする被請求人の主張は、大要次の2.ないし5.に示すとおりである。

乙第1号証:訴状(平成23年(ワ)第15733号)
乙第2号証の1:被請求人の作成した本件特許発明の実施品の(水で充填した)写真(斜め上方から撮影)
乙第2号証の2:乙第2号証の1のイラスト
乙第3号証:被請求人の作成した本件特許発明の実施品の(水で充填した)写真(正面から撮影)
乙第4号証:第1次無効審判についての審決取消訴訟(平成22年(行ケ)第10179号)の判決
乙第5号証:知的財産高等裁判所判決(平成22年(行ケ)第10064号)
検乙第1号証:本件発明1の実施品

2.本件無効審判は第1次無効審判の議論の蒸し返しである
(1)第1次無効審判は、本件無効審判の請求人が請求した別の無効審判であり、請求不成立の審決がなされ、その審決は、既に確定している。
第1次無効審判の確定審決が、請求はなり立たないとした理由は、
「証拠には、本件発明1が特定する事項のうち、以下の特徴点aは記載されていない。
・特徴点a:接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成され、平面部と側面部の側縁部同士がシールされ、少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造をとる側面シール部を有する袋体である点」(審決注:無効2008-800104号の特許審決公報第8頁下から第13行?同頁下から第9行を参照。)であり、審決は、更に、特徴点aの容易想到性につき検討し、容易ではないと判断した。知的財産高等裁判所もこの審決を支持し、この審決は確定した。

(2)第1次無効審判では、無効理由通知に示された周知例を含め、約20の証拠(審決注:いずれも本件優先日前に頒布された刊行物である。)について検討され、請求不成立の審決がなされたものである。
本件無効審判と第1次無効審判との相違は、[1]第1次無効審判で周知例7として検討された文献を、本件無効審判の主引用例としたこと、[2]新規な証拠として甲第5号証を提示したこと、[3]第1次無効審判で周知例5として検討された「実願昭58-46182号(実開昭59-153838号)のマイクロフィルム」に係る出願の分割出願のマイクロフィルムを甲第2号証として提示したこと、である。したがって、本件無効審判で、新規な証拠として提出されたものは、実質的に甲第5号証のみであるところ、甲第5号証には、上記特徴点aが記載されておらず、第1次無効審判で検討された証拠と実質的に技術内容が変わらないものである。したがって、本件無効審判は、第1次無効審判の議論の蒸し返しに過ぎない。

3.本件発明1の特徴部分、及び構成要件の組合せの困難性
(1)本件発明1は、請求人が分説したA乃至Fのとおりの構成を有するものであるが、要点をまとめると、次のとおりとなる。
[1]接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成された(構成要件A:非接着の複数フィルム)
[2]対向する一対の平面部及び谷折り線を備える2つの側面部を有する4方シールの袋本体(構成要件A:4方シール)
[3]袋本体を一対の平面部が重なり合い且つ重なり合った平面部の間に前記谷折り線を備えた2つの側面部が介在する(構成要件A:ガゼット構成)
[4]対向する一対の平面部及び谷折り線を備える2つの側面部を有し、頂部及び底部並びに2つの側面部の4方がシールされ、これらのうち、前記側面部は平面部と側面部の側縁部同士がシールされ、少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造をとる(構成要件A、B:4枚フィルムによる硬い柱構造の形成)
[5]袋体の各隅部に、頂部シール部(又は底部シール部)、側面シール部及び閉鎖シール部(袋体の対向する平面部の間に、2つの側面部が介在するように折り畳んだ状態下で対向する袋本体の内面同士をシールした、隅部の斜めの直線帯状)にて、その両側部分に三角形状のフィン部を有し、部分的/断続的に接着されている(構成要件A、D:硬いフィン部の構成)
[6]頂部シール部の隅部と頂部における不連続的接着(構成要件E:対向する頂部シール部の接着)

(2)要するに、本件発明1は、袋本体の原材料が柔らかいフィルムのみであって、胴部は柔軟な構造としつつ、フィン部及び柱構造は多数の合成樹脂製フィルムの接着加工を施すことによって硬いものとなっている。すなわち、「袋本体は、硬い外形(フィン部、柱構造)に囲まれた柔らかい胴部を有する構造となっているので、『硬い外形を保ちながら、同時に柔らかく変形するという特性』を示すもの」(以下、【本発明の特徴部分】という。)であり、これが本件発明1の技術的思想の核心部分であり、フィン部及び柱構造の硬い外形に本発明の特徴がある。

(3)前記[1]乃至[6]の構成は、個別的にそれぞれ技術的意義及び作用効果を有していながら、更に、これらの構成、技術的意義、作用効果が、密接に関連し合い、その相乗効果として、つまり、6つの構成を有機的に統合することによって、本件発明1の目的・作用効果である、「取り扱い易さ」、「高い排出特性」、「吊り下げに耐えられる剛性」、「内容物充填時における自立性と吊り下げ部の自動的形成」等を達成している。

(4)請求人は、審判請求書において、本件発明1と甲1発明とを比較し、相違点A乃至Cを挙げて、それぞれについてその想到容易性について論じている。しかしながら、本件発明1は、構成要件が相互に密接に関連し一体となって、上記の格別な作用効果を奏する発明であるから、構成要件の組合せに特徴があり、「構成要件の一体的組合せ」が重要である。従って、相違点を別々に判断して、容易想到性を論じることはできない。請求人の主張する無効理由は、構成要件の組合せの困難性について検討がされていないものであるから、意味がなく、失当である。

4.相違点Aないし相違点Cについて
(1)相違点Aについて
ア.請求人は、要するに、「甲第3号証には、『平袋が2枚の合成樹脂フィルムで形成されていること、ガゼット袋を適宜採用できる』ことが記載されており、甲第5号証には、従来技術として、『単体フィルムやラミネートフィルムを2枚以上重ねること、ガゼット型の袋体』が記載されている。従って、甲1発明に、甲第3号証に記載の構成を採用すると、相違点Aの構成が容易に想到される」と主張するものである。
しかしながら、甲第3号証にも、甲第5号証にも【本発明の特徴的部分】(硬い外形(フィン部、柱構造)に囲まれた柔らかい胴部を有する構造となっているので、『硬い外形を保ちながら、同時に柔らかく変形するという特性』)は、開示も示唆もないから、相違点Aの構成は、容易に想到できたものではない。

イ.甲第3号証に記載の発明は、実質的に、本件明細書が従来技術としている平袋の2重化に関する発明にすぎないし、「ガゼット」という用語については、唯一、段落【0014】で「また袋形状なガゼット袋れなど適宜選定できる。」と言及されているにすぎない。ガゼット袋についての1行記載を平袋の記載と同程度として扱うことはできないし、甲第3号証には、ガゼット袋が4枚のフィルムが積層された側面シール部を有するか否か、更には側面シール部を有していたとしてもガゼット袋の側面シール部をどのように形成するかについては何ら記載されていないから、技術的意味のない単なる追記に過ぎない。

ウ.甲第5号証には、内袋12と外袋22に別々に内容物を充填する2重構造の袋体が記載されているのであって、内袋12、外袋22として別々に形成されており、本件発明1でいう「側面シール部」が4枚のフィルムが重なり合った柱構造を形成していない。更に、甲第5号証に記載された二重構造のバッグインボックス用袋体は、内装及び外装にそれぞれ内容物を充填して使用するものであり、仮に袋体に側面シール部を形成すると外装内の内容物の充填量が少なくなるか充填が殆どできないものになるから、「側面シール部が4枚のフィルムが重なり合った柱構造を形成する」ことに対して、阻害要因がある。

エ.甲1発明の内袋は、段ボール箱の内部に投入された状態で内容物を充填して使用するものであり、段ボール箱外での内袋のみの使用は全く想定されていない。よって、殊更、袋を2重袋とする理由がない。何らかの強化が必要であっても、強化の程度に応じた素材を選択すれば足りるのであって、「接着されない2重構造」までは不要である。従って、技術的思想の異なる甲第3号証に記載の発明や甲第5号証に記載の発明と、甲1発明とを組み合わせる動機付けはない。

(2)相違点Bについて
ア.相違点を殊更に細分化しており適切を欠く
請求人は、相違点Bを、更に、相違点B[1]、相違点B[2]及び相違点B[3]と殊更に細分化して、各相違点B[1]ないしB[3]には、それぞれ周知例又は公知例があり、甲1発明とそれら周知例又は公知例を組み合わせることにより、各相違点B[1]ないしB[3]は、容易に想到できるから、相違点Bの構成は、容易に想到される、と主張する。
このような判断手法を用いると、本来であれば、進歩性が肯定されるべき発明に対しても、正当に判断されることなく、進歩性が否定される結果となる可能性がある。正しく進歩性を判断するためには、「相違点の認定は、発明の技術的課題の解決の観点から、まとまりのある構成を単位として認定されるべき」である。従って、上記のような相違点の認定手法は、適切を欠くものである。(乙第5号証(知的財産高等裁判所判決、平成22年10月28日:平成22年(行ケ)第10064号)第26頁を参照。)

イ.相違点B[1]について
請求人は、相違点B[1]に係る構成「袋体が、頂部の構成においてシール部を有している」ことについては、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証の周知例があるから、当業者が容易に想到できる事項であると主張する。
しかしながら、甲第2号証に記載されたものは、本件発明1のように頂部全体に亘って、シールするものではない。甲第4号証、甲第5号証には、相違点Aについて記載されているが、柱構造はない。甲第6号証に記載されたものは、頂部シール部はあるが、本発明の特徴部分たる硬い外形を有するフィン部は形成されていないし、柱構造の開示もない。

ウ.相違点B[2]について
請求人は、相違点B[2]に係る構成「袋体の少なくとも頂部側のフィン部が、内面同士が部分的乃至断続的に接着されている」ことについては、甲第6号証、甲7号証の周知例があるから、当業者が容易に想到できる事項であると主張する。
しかしながら、甲第6号証に記載されたものは、フィン部が形成されていないので、「内面同士の部分的乃至断続的接着」については明らかではない。
甲7号証に記載されたものは、固い板材料で形成されるものであるから、本件発明の技術分野の発明ではない。(乙4判決第20頁第10行?第14行(HPデータ第20頁第6行?第10行)の「そこに記載された発明は、自由に直立する容器に関するものであって……、その容器は、液体等による比較的に重い荷重を収容するため、頑丈な比較的可撓性のない板材料で作られるものであり……、バッグインボックス用袋体とは異なるものであると認められる。」との記載を参照。)
また、甲7号証には、「内面同士の部分的乃至断続的接着」は示されているが、「フィルムの2重化」はない。さらに、甲7号証には、容器を補強するために合わせ目7と8が設けられている、明細書では、容器を自立させるために補強するためであると説明されている(第3頁右上欄第14行?同欄第18行を参照。)。従って、本件発明1と甲7号証に記載の部分的乃至断続的接着の技術的意義は全く異なるもので、甲7号証で示される部分的乃至断続的接着の技術を、容器を補強する必要の無い甲1発明に応用することはできない。

エ.相違点B[3]について
請求人は、相違点B[3]に係る構成「部分的乃至断続的に接着されたフィン部は、このバッグインボックス用袋体の前後に対向する頂部シール部及び底部シール部双方が、隅部の頂点の位置で接着され、かつ、頂部シール部上、または、頂部シール部上及び底部シール部上で少なくとも一箇所、頂点の位置と不連続的に接着されることによって、袋体の頂部側、または、頂部側及び底部側に左右一対の吊り下げ部を形成する」ことについては、甲第2号証、甲第4号証の公知例があるから、当業者が容易に想到できる事項であると主張する。
しかしながら、甲第4号証には、三角凹部R(審決注再掲:甲第4号証の記載では「三角」と「部」との間の文字が不明瞭であり、請求人はこの文字を「門」と認識しており、被請求人は「凹」と認識している。)に両手が挿入され、持ち運びできることが記載されているものの、「フィルムの2重化」については記載がないし、側面シール部を有さず、頂部の不連続な接着部もなく、本発明の特徴部分たる硬い外形を有するフィン部は開示されていない。また、甲第2号証にも本件発明1の構成要件を兼ね備える技術は開示されていない。

(3)相違点Cについて
ア.請求人は、甲1発明の袋体は自立性があるとして、自立性の程度は設計的問題である旨を主張するが、甲1の袋体には自立性は予定されていないので、請求人の主張は誤りである。
甲1発明の袋は、段ボール箱内に投入され、開口から内容物を充填すると、袋は、段ボール箱内で、直方体に形成されるものであり(段落【0026】)、甲第1号証には「自立性」は記載されていない。
甲1発明は、内容物充填時に段ボール箱の内部形状に適合して、直方体に形成されるものであって、「内袋のみでの内容物の充填時や外箱からの取り出し後の自立性」を持たせるという技術思想はない。従って、甲1発明に「自立性」を与える理由はないし、まして「内容物の充填時や外箱からの取り出し後の自立性」を与える理由はない。

イ.本件発明1は、フィルムの二重構造を用いてシールし、側面シール部においては、フィルムを四重に接着することになり、柱構造をとり、容器の強度は増強され、フィルムが1枚から形成される容器に比して容器の自立性が高まる。これに対し、甲1発明の袋体は、段ボール箱の内部に投入された状態で内容物が充填されて使用されるものであるから、外箱から取り出されることが予定されていないし、吊り下げ部を有していないので、そもそも内容物充填された状態での取り出しは困難である。仮に箱から取り出されたとしても1枚のフィルムで形成されるのであるから、自立性がなく、形状が変形しやすいことは明らかである。

ウ.また、本件明細書に「自立性」の程度について明示していないとする請求人の主張は誤りである。本件明細書の段落【0002】、【0008】の記載によれば、「自立性」とは、「内容物の充填時や外箱からの取り出し後の自立性」をいうものである。また、「自立性に優れる」とは平袋に比較して優れるとの意味である。

5.本件発明2ないし本件発明11について
上記の通り、本件発明1は進歩性があるから、本件発明1を引用する本件発明2ないし本件発明11も進歩性がある。

第6 当審の判断
1.本件発明1の技術的意義
本件明細書の記載によれば、本件発明1は、段ボール箱等の外箱にプラスチック製の内袋を入れ、内袋に各種の液体を充填して、その貯蔵・運搬に用いるバッグインボックスの内袋に関する発明であって(段落【0001】、【0002】、【0005】)、従来技術では、合成樹脂製の平袋等が用いられているが、外箱の内部形状に対する追従性が悪く無駄な空間が生じ易い、振動などの小さい衝撃が加えられた場合に内袋がこすれて傷付き破れやすい、自立性を有しないので外箱内に収納する際や内袋だけで使用したい場合に取扱いが不便である等の問題があったことから(段落【0006】?【0008】)、このような問題を解決するために、上記第3の【請求項1】で特定された構成を有するものであるが、特に、袋本体が、接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一対の平面部及び谷折り線を備える2つの側面部を有する4方シールとされ、その側面シール部は、平面部と側面部の側縁部同士がシールされ、少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造をとり、内容物である液体の充填時には直方体又は立方体に近い形状になり、自立性に優れる袋体となる構成をとることにより(【0012】、【0013】)、液体の充填時には立方体又は直方体に近い形状となることで、自立性に優れ、取扱いが容易であり、立方体又は直方体である外箱の内部形状に対して追従性に優れ、袋体が外箱内で動きにくく、衝撃による破裂やこすれによる破れが起こりにくいという利点を有するとともに、平面部および側面部が、接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成されているので、外側の合成樹脂製フィルムのみが外箱との摩擦で摩耗し、内側の合成樹脂製フィルムは外側の合成樹脂製フィルムに対する滑りによって破れにくい上に柔軟性に富んでいるので取扱いが容易であるという作用効果を奏するものと認められる(段落【0024】?【0027】)。
すなわち、上記構成により、バッグインボックスに用いる袋体として求められる、自立性、柔軟性、耐久性という、相反する要望に応えることが出来るという意義を有するものと認められる。(審決注:乙4判決第17頁第12行?第18頁第13行(HPデータ第17頁第8行?第18頁第9行)を参照。)

2.甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、図面と共に以下の記載がある。
「【0001】【産業上の利用分野】本考案は、段ボール箱等に内装する内袋に関し、特に液体や粉体などの内容物を充填して段ボール箱に内装して用いるのに好適な内袋に関する。」
「【0006】また、従来のインフレーション成型によるポリエチレン製の段ボール箱用内袋においては、ガスバリヤー性がないために、ガスバリヤー性を要する内容物には使用できないという問題点があった。」
「【0007】本考案は叙上の課題を解決するために開発されたもので、使用前の容器保管場所の省スペースに寄与し、また、運搬が容易で、かつ廃棄物の公害とならず一般のゴミと共に廃棄処理可能な内袋を提供することを目的とし、また、ガスバリヤー性を有するラミネートフィルムで容易に製造可能な用途範囲が広い内袋を提供することを目的とする。」
「【0008】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本考案の内袋10においては、重ね合わせたフィルム11,11の両側縁間に、中央に折込線13,13を形成し、断面V字形に折曲形成した二のガセット折込体12,12を挿入する。そして該二のガセット折込体12,12の折込線13間に適宜距離を設けてガセット折込体12,12の端縁と前記重ね合わせたフィルム11,11の両側縁をシールする。さらに、前記2枚のフィルム11,11の両側縁のシール上で、所定の間隔を介して、例えば、段ボール箱などの外装体の内寸の高さ以下の間隔を隔てた2位置P,Qからそれぞれ前記二のガセット折込体12,12の折込線13,13へ向かって互いに離反する方向で傾斜し、且つ対角線上に平行な例えば外装体の内寸の対角線距離の半分以下の長さを有するする傾斜シール部たる傾斜ヒートシール部182,182,182,182及び183,183,183,183でガセット折込体12,12と前記フィルム11,11をシールする。また、前記二のガセット折込体12,12の折込線13,13間の二のフィルム11,11の一方の端縁を前記傾斜ヒートシール部182,182,182,182に連結するヒートシール部184でシールし、前記折込線13,13間の二のフィルム11,11の他方の端縁で開口14を設ける。」
「【0009】また、前記2枚のフィルム11,11及び二のガセット折込体12,12を熱溶着性のラミネートフィルムで形成し、各シール部でヒートシールすることができる。」
「【0010】さらに、前記各傾斜ヒートシール部182,182,182,182及び183,183,183,183をフィルム11,11の両側縁の延長線に対してそれぞれ45度の傾斜角を成すように設けることが望ましい。」
「【0013】【作用】上記のように構成された内袋10は特に熱溶着性のラミネートフィルムで成るフィルム11,11と二のガセット折込体12,12はそれらのフィルムを上記のように重ね合わせた後これらのフィルム11,11の上下を加熱機で押圧して各ヒートシール部で容易にシールされる。」
「【0014】そして、外装体とする段ボール箱などの内部に内袋10を投入し、該内袋10内に開口14から液体や粉末などの内容物を注入すると、折り畳んだ状態の内袋10はガセット折込体12,12の折込線13,13が前記内容物によって外方へ序々に押圧され、各傾斜シール部たる四の傾斜ヒートシール部182,182,182,182及び四の傾斜ヒートシール部183,183,183,183は、開口14及び二の折込線13,13間のヒートシール部184と共に互いに近づく方向へ序々に移動し、直方体状に展開する。この内袋10は外装体の段ボール箱などの形状に対応する寸法に容易に形成され、段ボール箱などの内部形状に適合する直方体状に膨らみ組み立てられる。」
「【0025】なお、本実施例では、ガセット折込体12,12の折込線13,13間の距離Eは平行を成し、各傾斜ヒートシール部182,182,182,182及び各傾斜ヒートシール部183,183,183,183がそれぞれ各ヒートシール部181,181,181,181の延長線に対して45度の傾斜角をなし、さらに二の折込線13,13と各ヒートシール部181,181,181,181間の長さC,C,C’,C’が同じであるので、内容物を充填した内袋10は後述するように直方体を形成するように膨らむのであるが、内袋10は上記の条件に限定されない。すなわち、前記各傾斜ヒートシール部182,182,182,182及び各傾斜ヒートシール部183,183,183,183の傾斜角が45度でない場合は、展開された内袋は各コーナの対辺間の角度が90度をなさず、変形した直方体状になる。また、距離Eが平行でない場合は展開された直方体の上面と下面の大きさが異なるのであるが、内袋10としては支障がない。さらに前記長さC,C’が異なる場合も同様に変形した直方体状になる。」
「【0026】以上の折り畳まれた内袋10は、主として18リットル缶の内袋に使用され、この内袋10を外装体の段ボール箱内に投入し、開口14から内容物を充填すると、次第に展開されて遂には段ボール箱内で、図4に示すように、直方体に形成される。なお、図4では段ボール箱を省略している。」
「【0029】なお、内袋10は、外装体の段ボール箱の大きさや形状に応じて各ヒートシール部181,182,183,184の長さや位置、及び二の折込線13,13間の距離Eを容易に変更することができ、したがって内袋10を段ボール箱等の内面に密接に適合するよう形成することができる。」
「【0030】なお、開口14は、内容物を充填後、二のフィルム11,11をシールして閉塞してもよく、あるいは図示せざるバルブを開口14にシールして連結してもよい。」
「【0031】次に、他の実施例について図5及び図6を参照して説明する。」
「【0032】この内袋10は、前述実施例の図1の内袋10と同様に、2枚のフィルム11,11を重ね合わせ、この2枚のフィルム11,11の両側縁間に、二のガセット折込体12,12をガセット状に折り込みをし、フィルム11,11の幅方向の両側縁及びフィルム11,11の長手方向の一方の端縁全長をガセット折込体12,12の各端縁全長にヒートシール部181,181’,185でヒートシールし、二のガセット折込体12,12の折込線13,13間のフィルム11,11をヒートシール部184でヒートシールする。なおヒートシール部181’はヒートシール部181の延長線上でヒートシール部181と同時にヒートシールされ、ヒートシール部185はヒートシール部184の延長線上でヒートシール部184と同時にヒートシールされる。」
「【0033】さらに、図5における内袋10はフィルム11,11をガセット折込体12,12に各傾斜ヒートシール部182,182,182,182及び各傾斜ヒートシール部183,183,183,183でそれぞれ前述実施例の図1の内袋10と同様にヒートシールされる。なお、以上の各ヒートシール部181,181’,182,183,184,185は同時にヒートシールすることができる。」
「【0034】また、前述実施例の図1の内袋10では傾斜ヒートシール部182,183の外側のフィルム11,11及びガセット折込体12,12のコーナの部分すなわち二点鎖線の部分はカットしているが、図5の内袋10では切断していない。しかし、これらのフィルム11,11及びガセット折込体12,12のコーナの部分は内袋10内に内容物を充填すると、図6に示すように、内袋10の直方体の上面上及び底面下に沿うので、実際の使用上においては何ら支障はない。したがって図1に示す内袋10においても前記コーナの部分(二点鎖線の部分)をカットしなくてもよい。」
「【0037】(1)ガスバリヤー性を有するラミネートフィルムを使用して容易に製造可能な用途範囲の広い内袋を提供することができた。」
「【0040】(4)また、本考案の内袋は製造する際に、各シール部の長さや位置及び二のガセット折込体の折込線間の距離を容易に変更できるので、外装体の段ボール箱の大きさや形状に適合する形状に容易に成形可能である。」
また、図1より、二点鎖線で示されたコーナの部分は三角形状をしていることが見て取れる。

3.甲第1号証に記載された発明
(1)甲第1号証の記載と、甲1発明との対比
ア.請求人が、甲第1号証に記載されている発明であると主張する発明は、上記第4、3.(2)に記載した甲1発明である。以下、甲1発明が特定する構成と、甲第1号証の記載とを対比する。
イ.甲第1号証の段落【0008】の「本考案の内袋10においては、重ね合わせたフィルム11,11の両側縁間に、中央に折込線13,13を形成し、断面V字形に折曲形成した二のガセット折込体12,12を挿入する。」及び段落【0009】の「前記2枚のフィルム11,11及び二のガセット折込体12,12を熱溶着性のラミネートフィルムで形成し」という記載から見て、甲1発明の構成aのうち「熱溶着性のラミネートフィルム材料で形成され、重ね合わされたフィルム11、11の両側縁間に、折込線13を有するガゼット折込体12、12を挿入し」という構成は、甲第1号証に示されている。
ウ.甲第1号証の段落【0008】の「前記折込線13,13間の二のフィルム11,11の他方の端縁で開口14を設ける。」という記載及び図5から見て、甲1発明の構成aのうち「フィルム11、11の上方の端縁に開口14を設け」という構成は、甲第1号証に示されている。
エ.甲第1号証の段落【0031】の「他の実施例について図5及び図6を参照して説明する。」、段落【0032】の「フィルム11,11の幅方向の両側縁及びフィルム11,11の長手方向の一方の端縁全長をガセット折込体12,12の各端縁全長にヒートシール部181,181’,185でヒートシールし、二のガセット折込体12,12の折込線13,13間のフィルム11,11をヒートシール部184でヒートシールする。」という記載及び図5から見て、甲1発明の構成aのうち「フィルム11、11とガゼット折込体12、12との3方の端縁をヒートシール部181、181’、184、185でシールした」という構成は、甲第1号証に示されている。
オ.甲第1号証の段落【0033】の「図5における内袋10はフィルム11,11をガセット折込体12,12に各傾斜ヒートシール部182,182,182,182及び各傾斜ヒートシール部183,183,183,183でそれぞれ前述実施例の図1の内袋10と同様にヒートシールされる。」という記載及び図5から見て、甲1発明の構成aのうち「内袋10の各隅部に、その各隅部の内面同士を、斜めに切り取るような直線帯状に接着して形成した傾斜シール部182、183を有する」という構成は、甲第1号証に示されている。
カ.甲第1号証の段落【0026】の「内袋10は、主として18リットル缶の内袋に使用され、この内袋10を外装体の段ボール箱内に投入し、開口14から内容物を充填すると、次第に展開されて遂には段ボール箱内で、図4に示すように、直方体に形成される。なお、図4では段ボール箱を省略している。」及び、段落【0034】の「フィルム11,11及びガセット折込体12,12のコーナの部分は内袋10内に内容物を充填すると、図6に示すように、内袋10の直方体の上面上及び底面下に沿うので、実際の使用上においては何ら支障はない。」という記載、並びに図4及び図6から見て、甲1発明の構成aのうち「内容物である液体の注入時には直方体状に展開する、段ボール箱に内装する内袋10」という構成、及び甲1発明の構成f「段ボール箱に内装する内袋」は、甲第1号証に示されている。
キ.甲第1号証の段落【0031】の「他の実施例について図5及び図6を参照して説明する。」及び、段落【0032】の「この内袋10は、前述実施例の図1の内袋10と同様に、2枚のフィルム11,11を重ね合わせ、この2枚のフィルム11,11の両側縁間に、二のガセット折込体12,12をガセット状に折り込みをし、フィルム11,11の幅方向の両側縁及びフィルム11,11の長手方向の一方の端縁全長をガセット折込体12,12の各端縁全長にヒートシール部181,181’,185でヒートシールし」という記載、並びに図5及び図6から見て、甲第1号証には、「ヒートシール部181、181’は、フィルム11、11とガゼット折込体12、12の側縁部同士がシールされ、2枚のフィルムが重なり合った構造をとり」という構成(以下、「構成b’」という。)が示されている。
請求人は、甲1発明の「b ヒートシール部181、181’は、フィルム11、11とガゼット折込体12、12の側縁部同士がシールされ、少なくとも2枚のフィルムが重なり合った構造をとり」という構成が、甲第1号証に記載されている旨主張しているが、甲第1号証の明細書及び図面の全体を参酌しても、フィルム11、11とガゼット折込体12、12の側縁部同士がシールされる際、フィルムの重なりが3枚、4枚等、2枚を越える状態になることは、甲第1号証に記載されておらず、かつ示唆されてもいない。請求人が主張する構成bのうち、「少なくとも2枚のフィルムが重なり合った構造」は、甲第1号証に記載されておらず、「少なくとも」を削除した「2枚のフィルムが重なり合った構造」が、甲第1号証に記載されていると認める。
そうすると、甲第1号証には、請求人が主張する「構成b」ではなく、上で示した「構成b’」、すなわち、
「b’ ヒートシール部181、181’は、フィルム11、11とガゼット折込体12、12の側縁部同士がシールされ、2枚のフィルムが重なり合った構造をとり」
が記載されていると認める。
ク.甲第1号証の段落【0008】、【0025】、【0026】、【0032】、及び【0033】の記載並びに図5及び図6に示された、ヒートシール部の配置形状及び内容物を充填した際の展開の説明から見て、甲第1号証の内袋10は、段ボール箱から出した状態であっても、内容物を充填すると、側面が膨らんだ直方体状になり、平袋に比べれば、ある程度の自立性を有すると認められる。したがって、甲1発明の構成c「内容物である液体の注入時には内袋10は直方体状に展開し、一定の自立性を有する袋体となり」という構成は、甲第1号証に示されているといえる。
ケ.甲第1号証の段落【0031】の「他の実施例について図5及び図6を参照して説明する。」、段落【0032】の「フィルム11,11の幅方向の両側縁及びフィルム11,11の長手方向の一方の端縁全長をガセット折込体12,12の各端縁全長にヒートシール部181,181’,185でヒートシールし、二のガセット折込体12,12の折込線13,13間のフィルム11,11をヒートシール部184でヒートシールする。」及び、段落【0033】の「図5における内袋10はフィルム11,11をガセット折込体12,12に各傾斜ヒートシール部182,182,182,182及び各傾斜ヒートシール部183,183,183,183でそれぞれ前述実施例の図1の内袋10と同様にヒートシールされる。」という記載並びに図5及び図6から見て、甲1発明の構成d「その頂部側と底部側に関し、ヒートシール部181’及び傾斜ヒートシール部183、又はヒートシール部181’、185及び傾斜ヒートシール部182にて、その両側部分にコーナー部分が形成され、これらコーナー部分は、2枚のフィルム11、11がガゼット折込体12、12と別々にシールされてそれぞれ独立して形成され」という構成は、甲第1号証に示されている。さらに、甲第1号証の図5及び図6を参酌すると、コーナー部分の形状が三角形状であることが図示されている。
そうすると、甲第1号証には、請求人が主張する「構成d」の「コーナー部分」の形状を三角形状であると限定した構成(以下、「構成d’」という。)、すなわち、
「d’ その頂部側と底部側に関し、ヒートシール部181’及び傾斜ヒートシール部183、又はヒートシール部181’、185及び傾斜ヒートシール部182にて、その両側部分に三角形状のコーナー部分が形成され、これらコーナー部分は、2枚のフィルム11、11がガゼット折込体12、12と別々にシールされてそれぞれ独立して形成され」
が記載されていると認める。
コ.甲第1号証の段落【0034】の「図1の内袋10では傾斜ヒートシール部182,183の外側のフィルム11,11及びガセット折込体12,12のコーナの部分すなわち二点鎖線の部分はカットしているが、図5の内袋10では切断していない。しかし、これらのフィルム11,11及びガセット折込体12,12のコーナの部分は内袋10内に内容物を充填すると、図6に示すように、内袋10の直方体の上面上及び底面下に沿うので、実際の使用上においては何ら支障はない。」という記載並びに図5及び図6から見て、甲1発明の構成e「各コーナー部分は、内容物の注入時に直方体状に展開する内袋10の上面又は底面に沿うこと」という構成は、甲第1号証に示されている。

(2)甲1’発明
以上のとおりであるから、甲第1号証には、甲1発明の構成bのうち「少なくとも2枚のフィルムが重なり合った構造」を、「2枚のフィルムが重なり合った構造」とし、甲1発明の構成dのうち「コーナー部分」を、「三角形状のコーナー部分」とした発明(以下、「甲1’発明」という。)が示されていると認める。
甲1’発明を書き下せば、以下のとおりである。甲1発明との相違点を明確にするため、相違する部分に下線を付して示す。
《甲1’発明》
「a 熱溶着性のラミネートフィルム材料で形成され、重ね合わされたフィルム11、11の両側縁間に、折込線13を有するガゼット折込体12、12を挿入し、フィルム11、11の上方の端縁に開口14を設け、フィルム11、11とガゼット折込体12、12との3方の端縁をヒートシール部181、181’、184、185でシールした内袋10の各隅部に、その各隅部の内面同士を、斜めに切り取るような直線帯状に接着して形成した傾斜シール部182、183を有する、内容物である液体の注入時には直方体状に展開する、段ボール箱に内装する内袋10であって、
b’ ヒートシール部181、181’は、フィルム11、11とガゼット折込体12、12の側縁部同士がシールされ、2枚のフィルムが重なり合った構造をとり、
c 内容物である液体の注入時には内袋10は直方体状に展開し、一定の自立性を有する袋体となり、
d’ その頂部側と底部側に関し、ヒートシール部181’及び傾斜ヒートシール部183、又はヒートシール部181’、185及び傾斜ヒートシール部182にて、その両側部分に三角形状のコーナー部分が形成され、これらコーナー部分は、2枚のフィルム11、11がガゼット折込体12、12と別々にシールされてそれぞれ独立して形成され、
e 各コーナー部分は、内容物の注入時に直方体状に展開する内袋10の上面又は底面に沿うこと
f を特徴とする、段ボール箱に内装する内袋。」

4.本件発明1と甲1’発明との対比
(1)本件発明1と甲1’発明とを対比すると、甲1’発明の「熱溶着性のラミネートフィルム材料」は、本件発明1の「合成樹脂製フィルム」に相当し、同様に、
「重ね合わされたフィルム11、11」は「対向する一対の平面部」に、
「折込線13」は「谷折り線」に、
「ガゼット折込体12、12」は「2つの側面部」に、
「内袋10」は「袋本体」に、
「ヒートシール部」「181、181’」は、「側面シール部」に、
「ヒートシール部」「184、185」は、「底部の」「シール部」及び「底部シール部」に、
「傾斜シール部182、183」は「閉鎖シール部」に、
「内容物である液体の注入時には直方体に展開する」は「内容物である液体の充填時には直方体又は立方体に近い形状となる」に、
「段ボール箱に内装する内袋10」は「バッグインボックス用袋体」に、
「内容物である液体の注入時には内袋10は直方体状に展開し」は「内容物である液体の充填時には前記袋体は直方体又は立方体に近い形状になり」に、
「三角形状のコーナー部分」は「三角形状のフィン部」に、
「これらコーナー部分は、2枚のフィルム11、11がガゼット折込体12、12と別々にシールされてそれぞれ独立して形成され」は「これらフィン部は、2枚の前記平面部が前記側面部と別々にシールされて、それぞれ独立して形成され」に、それぞれ相当する。

(2)また、甲1’発明の「重ね合わされたフィルム11、11の両側縁間に、折込線13を有するガゼット折込体12、12を挿入し、フィルム11、11の上方の端縁に開口14を設け、フィルム11、11とガゼット折込体12、12との3方の端縁をヒートシール部181、181’、184、185でシールした」は、本件発明1の「対向する一対の平面部および谷折り線を備える2つの側面部を有する4方シールの袋本体の」「袋本体を一対の平面部が重なり合い且つ重なり合った平面部の間に前記谷折り線を備えた2つの側面部が介在するように折り畳んだ状態下で対向する袋本体の内面同士を、頂部および底部の各シール部と側面シール部」との要件のうち、「4方シール」及び「頂部」「シール部」以外の要件を満たす。そして、甲1’発明の「3方の端縁を」「シールした」と、本件発明1の「4方シール」とは、側面の両端縁と底部の端縁である「3方の端縁をシールした」限りにおいて一致する。なお、甲第1号証の段落【0030】には、「開口14は、内容物を充填後、二のフィルム11,11をシールして閉塞してもよく」と記載されているが、図4及び図6などから見て、開口14のみをシールして閉塞することを開示するものであり、頂部側の三角形状のコーナー部分をもシールして4方シールとすることを開示しているとは認められず、かつ、示唆しているとも認められない。

(3)甲1’発明の「内袋10の各隅部に、各隅部の内面同士を、斜めに切り取るような直線帯状に接着して形成した傾斜シール部182、183」と、本件発明1の「頂部および底部の各シール部と側面シール部とを前記各隅部を斜めに切り取るような直線帯状に接着して形成された閉鎖シール部」とは、「頂部と側面シール部、および底部シール部と側面シール部とを、前記各隅部を斜めに切り取るような直線帯状に接着して形成された閉鎖シール部」である限りにおいて一致する。

(4)甲1’発明の「ヒートシール部181、181’は、フィルム11、11とガゼット折込体12、12の側縁部同士がシールされ、2枚のフィルムが重なり合った構造」と、本件発明1の「前記側面シール部は、平面部と側面部の側縁部同士がシールされ、少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造」とは、「側面シール部は、平面部と側面部の側縁部同士がシールされ、平面部及び側面部のフィルムが重なり合った構造」である限りにおいて一致する。そして、この側面シール部は、袋体の底部から頂部まで垂直直線状に延びる構造であり、かつ、平面部及び側面部のフィルムが重なり合ってシールされていることにより、シールされていない部分より強度が高く変形しにくい構造と認められるから、「柱構造」と称することができる。

(5)また、甲1’発明の「一定の自立性を有する袋体」と、本件発明1の「自立性に優れる袋体」とは、「自立性を有する袋体」である限りにおいて一致する。

(6)甲1’発明の「その頂部側と底部側に関し、ヒートシール部181’及び傾斜ヒートシール部183、又はヒートシール部181’、185及び傾斜ヒートシール部182にて、その両側部分に三角形状のコーナー部分が形成され」は、本件発明1の「その頂部側と底部側に関し、頂部シール部、側面シール部及び閉鎖シール部、又は底部シール部、側面シール部及び閉鎖シール部にて、その両側部分に三角形状のフィン部が形成され」との要件のうち、「頂部シール部」の「シール部」という要件以外の要件を満たす。

5.本件発明1と甲1’発明との一致点、相違点
(1)以上のとおりであるから、本件発明1と甲1’発明とは、本件発明1の記載に倣えば、次の一致点で一致する。
《一致点》
「合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一対の平面部および谷折り線を備える2つの側面部を有する、側面の両端縁と底部の端縁である3方の端縁をシールした袋本体の各隅部に、
袋本体を一対の平面部が重なり合い且つ重なり合った平面部の間に前記谷折り線を備えた2つの側面部が介在するように折り畳んだ状態下で対向する袋本体の内面同士を、頂部と側面シール部、及び底部シール部と側面シール部とを、前記各隅部を斜めに切り取るような直線帯状に接着して形成された閉鎖シール部を有する、
内容物である液体の充填時には直方体又は立方体に近い形状となるバッグインボックス用袋体であって、
前記側面シール部は、平面部と側面部の側縁部同士がシールされ、平面部及び側面部のフィルムが重なり合った柱構造をとり、
内容物である液体の充填時には前記袋体は直方体又は立方体に近い形状になり、自立性を有する袋体となり、
その頂部側と底部側に関し、頂部、側面シール部及び閉鎖シール部、又は底部シール部、側面シール部及び閉鎖シール部にて、その両側部分に三角形状のフィン部が形成され、
これらフィン部は、2枚の前記平面部が前記側面部と別々にシールされて、それぞれ独立して形成されている、バッグインボックス用袋体。」

(2)そして、本件発明1と甲1’発明とは、次の相違点で相違する。
《相違点1》
本件発明1は、袋体が、接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一対の平面部および谷折り線を備える2つの側面部を有する4方シールとされ、側面シール部は、平面部と側面部の側縁部同士がシールされ、少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造をとり、内容物である液体の充填時には前記袋体は直方体又は立方体に近い形状になり、自立性に優れる袋体となる構成をとるのに対し、
甲1’発明は、袋体の平面部および側面部を構成する合成樹脂製フィルムはそれぞれ1枚であり、かつ、頂部を除く両側縁と底部の3方がシールされた構成であり、かつ、側面シール部は、平面部と側面部の側縁部同士がシールされた柱構造ではあるものの、重なり合ったフィルムは2枚のみであり、かつ、一定の自立性を有する袋体となる点。

《相違点2》
本件発明1は、各フィン部のうち、少なくとも頂部側のフィン部には、前記平面部と前記側面部の内面同士が部分的乃至断続的に接着され、さらに、部分的乃至断続的に接着されたフィン部は、このバッグインボックス用袋体の前後に対向する頂部シール部及び底部シール部双方が、隅部の頂点の位置で接着され、かつ、頂部シール部上、または、頂部シール部上及び底部シール部上で少なくとも一箇所、頂点の位置と不連続的に接着されることによって、袋体の頂部側、または、頂部側及び底部側に左右一対の吊り下げ部を形成する構成をとるのに対し、
甲1’発明は、どのフィン部も、平面部と側面部の内面同士が接着されておらず、かつ、袋体の前後に対向する頂部及び底部シール部は、いずれも接着されておらず、かつ、頂部側にも底部側にも吊り下げ部を形成しない構成をとる点。

(3)本件発明と引用発明との相違点の認定は、「相違点の認定は,発明の技術的課題の解決の観点から、まとまりのある構成を単位として認定されるべき」(例えば乙第5号証第26頁第6?7行を参照。)であるところ、本件発明1の技術的意義は、上記第6、1.に示したとおりである。したがって、本件発明1と甲1’発明との相違点の少なくとも1つは、本件発明1の技術的意義を考慮し、発明の技術的課題の解決の観点から、上記相違点1のように認定すべきである。
なお、上記相違点1に係る本件発明1の構成のうち、「袋体が、接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一対の平面部および谷折り線を備える2つの側面部を有」し、「側面シール部は、平面部と側面部の側縁部同士がシールされ、少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造をと」る点が、第1次無効審判の審決でいう特徴点a(上記第5、2.(1)を参照。)に相当する。

6.相違点についての検討
(1)相違点1について
ア.まず、甲第1号証について検討すると、甲第1号証には、相違点1に係る構成が記載も示唆もされていないだけでなく、相違点1に係る構成を採用することについての動機付けも記載も示唆もされていない。
イ.次に、請求人が提出した甲第1号証以外の証拠方法について検討すると、本件特許の優先日以前に公知であるものは、甲第2号証ないし甲第11号証であり、それらのうち、バッグインボックスについて開示しているものは、甲第3号証ないし甲第6号証、並びに甲第9号証ないし甲第11号証の7文献である。以下、これら7文献について検討する。
ウ.甲第3号証には、バッグインボックスの内袋として、接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成された、4方シールされた(周辺部を互いに接合された)平袋型の袋体を用いることが開示されており、また、バッグインボックス用袋体の形状としてガゼット型袋体とすることが開示されている。しかしながら、甲第3号証には、バッグインボックス用袋体の形状としてガゼット型袋体とした場合、シール形状をどのようにするかについては記載されていないし、ガゼット型袋体のシールを4方シールとすることについての示唆もない。
エ.甲第4号証には、ガゼット型のバッグインボックス用袋体が開示されているものの、接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成するものではなく、かつ、4方シールするものでもない。甲第4号証には、2重にしたバッグインボックス用袋体も開示されているものの、その袋体は、平袋型の袋体であり、かつ、内袋18と外袋19とを別々にヒートシールするものであり、かつ、4方シールするものではない。そして、甲第4号証には、ガゼット型の袋体を、接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成することについての示唆も、4方シールすることについての示唆もない。
オ.甲第5号証には、従来技術の説明で、バッグインボックス用袋体として、柔軟な単体フィルムやラミネートフィルムを2枚以上重ねて使用すること、及びバッグインボックス用袋体の形状としてガゼット型袋体とすることが開示されているものの、これらを関連付けた説明はない。甲第5号証には、第12図ないし第16図及びそれらの説明で、ガゼット型のバッグインボックス用袋体を2重にした袋体も開示されているものの、内袋本体12と外袋本体22は、別の袋体として構成されるものであって、接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成されるものではなく、かつ、4方シールするものでもない。そして、甲第5号証には、フィルムを2枚以上重ねて使用して、4方シールしたガゼット型袋体を形成することについての示唆もない。
カ.甲第6号証には、ガゼット型のバッグインボックス用袋体が開示されているものの、4方シールするものではなく、かつ、接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成することについての記載も示唆もない。さらに、甲第6号証には、ガゼット型のバッグインボックス用袋体を、4方シールすることについての示唆もない。
キ.甲第9号証には、バッグインボックス用袋体が開示されているものの、ガゼット型にすること、接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成すること、4方シールすることのいずれについても、記載も示唆もない。
ケ.甲第10号証には、バッグインボックス用袋体を、2枚以上のフィルムを重ね合わせてその周囲をヒートシールして製袋することが開示されているものの、平袋型の袋体である。そして、バッグインボックス用袋体をガゼット型にすることについては、記載も示唆もない。
ク.甲第11号証には、バッグインボックス用袋体を、2枚以上のフィルムを重ね合わせてその周囲をヒートシールして製袋することが開示されているものの、平袋型の袋体である。そして、バッグインボックス用袋体をガゼット型にすることについては、記載も示唆もない。
コ.次に、上記7文献以外の公知の証拠方法、すなわち、甲第2号証、甲第7号証及び甲第8号証の3文献について検討すると、これら3文献には、バッグインボックス用袋体ではないガゼット袋又はガゼット型容器について開示されている。これら3文献に記載されたガゼット袋又はガゼット型容器は、これら3文献の記載から、ガゼット袋又はガゼット型容器単体で使用されるものであって、段ボール箱等の外装箱体に入れられて使用されるものではなく、かつ、バッグインボックス用袋体に比べて容量が相当に小さいものであり、バッグインボックス用袋体とは技術的課題、作用効果等が異なる別の技術分野に属するものと認められる。以下、個別に検討する。
サ.甲第2号証には、4方シール(側縁熱シール部、底熱シール部、開口熱シール部)及び傾斜シール(斜熱シール部)によってガゼット袋を形成し、内容物を収容した際に直方体状となり、自立性をもつガゼット袋が開示されている。しかしながら、甲第2号証に記載されたガゼット袋は、バッグインボックス用袋体ではないし、内容物を収容し袋が拡開した状態を示す第4図には、ガゼット袋の底面の辺の長さより高さの方が大きいことが示されていることなどから見て、甲第2号証のガゼット袋は、バッグインボックス用袋体に比べて相当小容量のものと認められる。さらに、甲第2号証には、接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成することについて、記載も示唆もない。
シ.甲第7号証には、4方シールによって形成する、ガゼット構造の容器体が開示されている。しかしながら、甲第7号証に記載された発明は、自由に直立する容器に関するものであって(第1頁右下欄第19行)、その容器は、液体等による比較的に重い荷重を収容するため、頑丈な比較的可撓性のない板材料で作られるものであり(第2頁左下欄3行?同頁10行)、バッグインボックス用袋体とは異なるものであると認められる(乙4判決第20頁第10行?同頁第14行、HPデータ第20頁第6行?同頁第10行を参照。)。さらに、甲第7号証には、接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成することについて、記載も示唆もない。
セ.甲第8号証には、4方シールによって形成する、ガゼット袋の簡易容器が開示されている。甲第8号証に記載された発明は、バッグインボックス用袋体ではないし、また、甲第8号証に記載された発明は、液体等の流動性の有る内容物を比較的多量に充填した場合でも容器が潰れたり変形したりするようなことがなく、充分に保形性を維持することができる(第3頁左欄第9行?同欄第21行及び同頁右欄第10行?同欄第14行を参照。)ことを課題としているが、甲第8号証でいう比較的多量とは、500mlないし2,000mlのことであり(第3頁右欄第11行?同欄第12行及び同欄第23行?同欄第24行を参照。)、一般的に5?25l程度(本件明細書段落【0023】を参照。)であるバッグインボックス用袋体の容量とは大きく異なる。さらに、甲第8号証には、接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによってガゼット袋を形成することについて、記載も示唆もない。

ソ.以上のとおりであって、本件特許の優先日以前に公知である甲第1号証ないし甲第11号証には、相違点1に係る本件発明1の構成が記載も示唆もされておらず、また、相違点1に係る本件発明1の構成を採用することについての動機付けも、記載も示唆もされていない。したがって、甲1’発明に、甲第2号証ないし甲第11号証に記載された発明を適用して、相違点1に係る本件発明1の構成を得ることが、当業者にとって容易に想到できたと認めることはできない。
さらに指摘すれば、甲第1号証ないし甲第11号証に記載された発明をどのように組み合わせても、換言すれば、甲第1号証ないし甲第11号証のどれを主引用例とした場合であっても、相違点1に係る本件発明1の構成を得ることが、当業者にとって容易に想到できたとは認められない。
タ.そして、上記「1.本件発明1の技術的意義」で指摘したように、本件発明1は、相違点1に係る構成を備えていることにより、バッグインボックスに用いる袋体として求められる、自立性、柔軟性、耐久性という、相反する要望に応えることが出来るという意義を有するものと認められる。
チ.自立性の程度については、甲1’発明のように1枚のフィルムでガゼット袋を形成した場合でも、フィルムの材質や厚さを適宜選定することにより自立性に優れたものとすることは可能と認められる。しかしながら、本件発明1は、相違点1に係る構成を備えていることにより、単に自立性に優れているだけではなく、バッグインボックスに用いる袋体として求められる、自立性、柔軟性、耐久性という、相反する要望に応えることが出来るという意義を有するものである。
ツ.なお、甲第1号証ないし甲第11号証には、相違点1に係る本件発明1の構成のうち、「袋体が、接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一対の平面部および谷折り線を備える2つの側面部を有」し、「側面シール部は、平面部と側面部の側縁部同士がシールされ、少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造をと」る点、すなわち、第1次無効審判の審決でいう特徴点aについても、記載も示唆もされておらず、また、特徴点aの構成を採用することについての動機付けも、記載も示唆もされていない。したがって、特徴点aという観点から見た場合であっても、本件発明1が、甲第1号証ないし甲第11号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をし得たものということはできない。

(2)相違点2について
ア.まず、甲第1号証について検討すると、甲第1号証には、相違点2に係る構成が記載も示唆もされていないだけでなく、相違点2に係る構成を採用することについての動機付けも記載も示唆もされていない。
イ.次に、甲第1号証以外の証拠方法であって、本件特許の優先日以前に公知である甲第2号証ないし甲第11号証について検討すると、本件発明1のフィン部に相当又は類似する構成部分について、その内面同士を接着することが記載されているのは、該接着が、部分的乃至断続的であるか又は全面的であるかを問わず、甲第7号証のみである。
ウ.請求人は、甲第6号証に、ガゼット構造のバッグインボックス用内袋において、充填部4aの頂部側に斜め直線状に近い山形、台形又は円弧形を呈する密封部4cを設け、密封部4cの上方に一部又は全部を溶着した広巾の把持用耳縁4bを形成することが開示されている(上記第4、4.(3)ウ.(ウ)を参照。)と主張する。しかしながら、甲第6号証の把持用耳縁4bは、本件発明1の頂部シール部に相当する構成部分であり、フィン部に相当又は類似する構成部分ではないことは、甲第6号証の第2図、第3図及びそれらの説明から明らかである。
エ.そして、甲第7号証は、バッグインボックス用袋体ではなく、自由に直立する容器に関するものであり(上記(1)シ.を参照。)、ガゼット構造の隅部に形成された略三角形状の部分を部分的に接着した合わせ目8を設けるのは、当該略三角形状の部分を用いて容器を直立させるためであって(甲第7号証第3頁右上欄第10行?同欄第18行を参照。)、吊り下げ部を形成するためではない。甲1’発明と甲7号証に記載の発明とは、技術分野が異なるし、さらに、ガゼット構造の隅部に形成された略三角形状の部分を部分的乃至断続的に接着する技術的意義も全く異なる。したがって、甲7号証で示される部分的乃至断続的接着の技術を、甲1’発明に適用する動機付けがあるとはいえない。

オ.以上のとおりであって、本件特許の優先日以前に公知である甲第1号証ないし甲第11号証には、相違点2の構成が記載も示唆もされておらず、また、相違点2に係る構成を採用することについての動機付けも、記載も示唆もされていない。したがって、甲1’発明に、甲第2号証ないし甲第11号証に記載された発明を適用して、相違点2に係る本件発明1の構成を得ることが、当業者にとって容易に想到できたことと認めることはできない。
さらに指摘すれば、甲第1号証ないし甲第11号証に記載された発明をどのように組み合わせても、換言すれば、甲第1号証ないし甲第11号証のどれを主引用例とした場合であっても、相違点2に係る本件発明1の構成を得ることが、当業者にとって容易に想到できたとは認められない。
カ.そして、本件発明1の相違点2に係る構成は、左右一対の吊り下げ部を形成することにより、取扱いが容易になるという技術的意義を有している(本件明細書段落【0030】、本件特許に係る出願の審査時における平成17年1月11日付け意見書、同審査時における平成17年2月24日付け拒絶理由通知書、及び同審査時における平成17年4月15日付け意見書を参照。)ほか、三角形状のフィン部が跳ね上がったり不特定の方向に無秩序に折れ曲がったりしないので、バッグインボックスの製造過程や、外箱を取り外して内袋だけの状態で使用する場合に、三角形状のフィン部が邪魔にならない(本件明細書段落【0028】を参照。)という技術的意義をも備えていると認められる。

7.本件発明2ないし本件発明11について
本件発明2ないし本件発明11は、本件発明1を直接的又は間接的に引用しており、本件発明1が備える構成要件のすべてを備える発明である。上記のとおり、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第11号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものではないから、本件発明2ないし本件発明11も、同様の理由により、甲第1号証ないし甲第11号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものではない。

8.補足
(1)検乙第1号証及び第2答弁書の取扱いについて
ア.被請求人は、答弁書に検乙第1号証として本件発明1の実施品を添付して提出しているが、検証の請求はしていない。また、検乙第1号証を検証しても、その結果により、本件審決の判断及び結論に影響を及ぼすとは認められない。よって、検乙第1号証の検証は、行わないこととする。
イ.被請求人は、審理終結通知後に第2答弁書を提出しているが、審理の再開は申し立てていない。また、第2答弁書を検討しても、当該第2答弁書で主張されている事項を考慮することにより、本件審決の判断及び結論に影響を及ぼすとは認められない。よって、審理の再開は行わないこととする。

(2)議論の蒸し返しについて
請求人が主張するとおり、第1次無効審判の審決、及びその審決取消訴訟の判決である乙4判決を見る限り、本件無効審判で提出された甲第1号証等は、第1次無効審判の審決及び乙4判決で触れられた証拠方法とは異なっているから、議論の蒸し返しであるとはいえない。
しかしながら、第1次無効審判の審理経過を検討すると、被請求人が主張するとおり、第1次無効審判では、20件を越える証拠方法について検討した上で、審決をしており、本件無効審判で新規な証拠として提出されたものは、実質的に本件の甲第5号証のみである。そして、その甲第5号証には、第1次無効審判の審決及び乙4判決で指摘された、特徴点aは記載も示唆もされていない。
そうすると、第1次無効審判とは無関係な第三者が本件無効審判を請求したのであればともかく、第1次無効審判の請求人であり、第1次無効審判の審理経過を熟知している請求人が、改めて本件無効審判を請求しているのであるから、被請求人から議論の蒸し返しであると非難されても止むを得ないというべきである。

(3)その他の無効理由について
ア.被請求人は、本件特許に係る審査、審判及び裁判において、多くの証拠が検討されてきたことに触れ、それら証拠の一覧を参考資料として答弁書に添付している。その参考資料に記載された文献は、下記のとおりであり、番号[1]ないし[9]、[15]並びに[19]で示すものが、本件無効審判の甲第1号証ないし甲第11号証に対応する。なお、この参考資料では、番号[26]ないし[34]は、無く、欠番であり、番号[44]は、本件特許公報であるので、下記では除外してある。また、参考資料では[16]を「実開平6-179460」としているが、「特開平6-179460」の誤記と認められるので、下記ではそのように修正している。
[1]実開平5-72740 [2]実開平2-120342
[3]実開平6-27624 [4]実開平2-8763
[5]実開昭64-9174 [6]実開昭56-172568
[7]特開昭49-110469 [8]特開昭59-31151
[9]実開昭60-8257 [10]実開平4-68864
[11]実開昭59-153838 [12]実開昭60-13370
[13]実開昭62-87033 [14]実開平1-55248
[15]特開平6-179454 [16]特開平6-179460
[17]特開平6-99992 [18]実開昭48-24803
[19]実開平3-81879 [20]特開平3-65333
[21]特開昭63-44447 [22]特開平7-137750
[23]特開昭58-134860 [24]実開昭58-149341
[25]特開昭61-263740
[35]実開昭56-115377 [36]実公昭31-12673
[37]実開昭57-37870 [38]実開昭57-180655
[39]US3380646 [40]実開昭53-110316
[41]実開昭63-13840 [42]特開昭62-53829
[43]実開昭56-43737 [45]US3935993

イ.念のため、上記文献の記載内容を検討したが、いずれの文献にも、相違点1に係る構成も、相違点2に係る構成も、記載も示唆もされていない。また、いずれの文献にも、相違点1に係る構成、または、相違点2に係る構成を採用する動機付けについて、記載も示唆もされていない。
したがって、上記文献に記載された発明をどのように組み合わせても、換言すれば、上記文献のどれを主引用例とした場合であっても、相違点1に係る本件発明1の構成を得ることが、当業者にとって容易に想到できたとは認められない。同様に、上記文献に記載された発明をどのように組み合わせても、換言すれば、上記文献のどれを主引用例とした場合であっても、相違点2に係る本件発明1の構成を得ることが、当業者にとって容易に想到できたとは認められない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由は、いずれも理由がなく、請求人の主張する無効理由によって、本件特許の請求項1ないし請求項11に係る発明の特許を無効とすることはできない。
また、他に本件の請求項1ないし請求項11に係る発明の特許を無効とすべき理由を発見しない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-22 
結審通知日 2012-03-26 
審決日 2012-04-24 
出願番号 特願2001-245400(P2001-245400)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 直渡邊 豊英小菅 一弘佐野 遵川本 真裕  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 ▲高▼辻 将人
熊倉 強
登録日 2005-08-12 
登録番号 特許第3709155号(P3709155)
発明の名称 バッグインボックス用袋体およびバッグインボックス  
代理人 磯田 志郎  
代理人 永島 孝明  
代理人 宍戸 充  
代理人 水谷 好男  
代理人 花田 吉秋  
代理人 黒丸 博昭  
代理人 深津 拓寛  
代理人 安國 忠彦  

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