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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10B
管理番号 1270515
審判番号 不服2011-19881  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-14 
確定日 2013-02-21 
事件の表示 特願2006- 57919「高炉用コークスの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月19日出願公開、特開2006-283008〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成18年3月3日(優先権主張、平成17年3月9日)の特許出願であって、平成23年3月14日付けの拒絶理由通知に対し、同年5月19日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月14日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「平成23年 3月14日付け拒絶理由通知書に記載した理由」であって、要するに、本願の請求項1ないし5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の引用文献1ないし5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開昭58-80387号公報
引用文献2:特開平10-121053号公報
引用文献3:特開昭60-63278号公報
引用文献4:特開昭55-27332号公報
引用文献5:特開昭48-43701号公報

3 本願発明
本願に係る発明は、平成23年5月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであると認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「石炭を乾燥した後、または、該乾燥と同時に、0.3mm?0.5mmを分級点として微粉炭と粗粒炭とに分級し、水分6%以下の微粉炭に粘結材を5?12%添加、混練した後、または、該添加、混練と同時に、塊成化補助材を0.005%以上添加し、さらに、造粒または成形して塊成炭とし、該塊成炭と前記粗粒炭を混合し、コークス炉に装入することを特徴とするコークスの製造方法。」

4 刊行物及びその記載事項
本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された刊行物である特開平10-121053号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の記載がある。
a 「【請求項1】 水分を含むコークス原料炭を風力分級機に装入すると共に、0℃?40℃の空気を該風力分級機に供給し、前記コークス原料炭を微粉炭と粗粒炭とに分級した後、前記微粉炭にバインダーを添加し造粒して得られる造粒微粉炭と前記粗粒炭とをコークス炉に装入することを特徴とするコークス原料炭の事前処理方法。
【請求項2】 前記風力分級機から排出された前記微粉炭の水分が2?6wt%であることを特徴とする請求項1記載のコークス原料炭の事前処理方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項2】)
b 「【発明が解決しようとする課題】・・・・
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、コークス原料炭の分級処理後における分級比率、及び粗粒炭、微粉炭に含まれる水分量を適正に制御して、微粉炭を造粒してなる造粒微粉炭の崩壊を防止して、搬送時の発塵を抑制すると共に、品質の安定したコークスを生産することのできるコークス原料炭の事前処理方法を提供することを目的とする。」(段落【0003】)
c 「【課題を解決するための手段】・・・・粗粒炭とは、例えば粒径300μm以上の粒子を少なくとも70wt%以上含有するようなコークス原料炭から分離される粗粒の部分をいう。微粉炭とはコークス原料炭から前記粗粒炭を除いた微粉部分をいう。造粒微粉炭とは、バインダーと微粉炭とを混練機により攪拌することにより個々の微粉炭を凝集させてなる複合粒子である。バインダーとは、タール、重油又は有機高分子等を含む液状物あるいは水であり、微粉同士を結合させるための結合剤である。・・・・コークス炉とは、コークス原料炭を空気を遮断した状態で加熱して、石炭の乾留ガスとコークスとを製造する装置である。」(段落【0004】)
d 「【発明の実施の形態】続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。ここに図1は本発明の一実施の形態に係るコークス原料炭の事前処理方法を適用するコークス製造設備の説明図、・・・・である。
コークス製造設備10は図1に示すように、コークス原料炭を所定の水分量まで乾燥するための乾燥機11と、乾燥されたコークス原料炭を粗粒炭と微粉炭とに分離するための風力分級機12と、風力分級機12から排出される微粉炭を捕集するための集塵機13と、集塵機13により捕集された微粉炭にバインダーを加えて造粒微粉炭とするための混練機14と、前記粗粒炭と造粒微粉炭とが装入されるコークス炉17、及び各装置のデータを取得して各装置を制御するための制御装置20とを有する。・・・・」(段落【0007】?【0008】)
e 「続いて、前記説明したコークス製造設備10を用いる本発明の一実施の形態に係るコークス原料炭の事前処理方法について詳細に説明する。・・・・
このようにして、風力分級機12に0℃?40℃の適正範囲にある35℃の温度の空気を供給することにより、コークス原料炭を粗粒炭と微粉炭とに所定の水分、及び分級比率となるように分離すると共に、コークス原料炭の乾燥操作を同時に進行させることができる。・・・・
一方、風力分級機12から排出される微粉炭は、吸引される空気等と共に集塵機13内に取り込まれて捕集され、この捕集された微粉炭はベルトコンベアにより混練機14に装入される。混練機14では、バインダーの一例であるタールを所定量、例えば10wt%となるように添加して、粘性を付加した混合物として、この混合物を回転羽根を用いて機械的に混練、混合することにより微粉炭同士がタールを介して次第に結合、凝集して、所定粒度の造粒微粉炭が作成されるようになっている。・・・・」(段落【0010】?【0020】)
f 「比較例1及び比較例2は、風力分級機に供給する空気の温度をそれぞれ75℃、及び110℃に設定した例を示している。・・・・いずれの場合も空気温度が高すぎるために、コークス炉装入前における造粒微粉炭と粗粒炭とが混合されてなる石炭の粒度において、100μm以下の小粒子比率Pp が比較例1で6wt%、比較例2で8wt%と実施の形態の3wt%と比較して高くなる。このため、搬送中の粉塵が増加し、また、これをコークス炉で焼成した場合の成品歩留、あるいは品質を低下させる要因となることが分かる。・・・・」(段落【0023】)
g 図1として以下の図面が記載されている(7頁【図1】)。


5 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、上記4aからみて、「水分を含むコークス原料炭を風力分級機に装入すると共に、0℃?40℃の空気を該風力分級機に供給し、前記コークス原料炭を微粉炭と粗粒炭とに分級した後、前記微粉炭にバインダーを添加し造粒して得られる造粒微粉炭と前記粗粒炭とをコークス炉に装入する、コークス原料炭の事前処理方法であって、前記風力分級機から排出された前記微粉炭の水分が2?6wt%である、コークス原料炭の事前処理方法。」が記載されていると認められる。
また、具体化した実施の形態として、前記風力分級機に装入するコークス原料炭は、乾燥機で所定の水分量まで乾燥したものとすること(上記4d及びg)、前記風力分級機では、コークス原料炭を微粉炭と粗粒炭とに分級すると共に、コークス原料炭の乾燥操作を同時に進行させること(上記4e)、前記造粒微粉炭は、前記微粉炭に前記バインダーの一例であるタールを例えば10wt%となるように添加し混練することにより作成されること(上記4e)が記載されていると認められる。
さらに、上記4fによれば、風力分級機に供給する空気の温度をそれぞれ75℃及び110℃に設定した比較例1及び2において、造粒微粉炭と粗粒炭がコークス炉装入前に混合されたものにされているところ、これらの比較例は、それらの混合物に含まれる小粒子比率に及ぼす同温度の影響を検証するためのものであるから、造粒微粉炭と粗粒炭がコークス炉装入前に混合されたものにされることについては、上記「コークス原料炭の事前処理方法」の実施においても、比較例1及び2と同様になされていると解するのが自然であるし、このことは、上記「コークス原料炭の事前処理方法」を説明する図面等(上記4g及びd)からも裏付けられる。
そして、刊行物1には、コークスを製造することも記載されている(上記4bないしd)と認められるから、上記「コークス原料炭の事前処理方法」は、「コークスの製造方法」と言い換えることができる。
そうすると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されているということができる。
「水分を含むコークス原料炭を風力分級機に装入すると共に、0℃?40℃の空気を該風力分級機に供給し、前記コークス原料炭を微粉炭と粗粒炭とに分級した後、前記微粉炭にバインダーを添加し造粒して得られる造粒微粉炭と前記粗粒炭とをコークス炉に装入する、コークスの製造方法であって、前記風力分級機から排出された前記微粉炭の水分が2?6wt%であり、前記風力分級機に装入するコークス原料炭は、乾燥機で所定の水分量まで乾燥したものであり、前記風力分級機では、コークス原料炭を微粉炭と粗粒炭とに分級すると共に、コークス原料炭の乾燥操作を同時に進行させ、前記造粒微粉炭は、前記微粉炭に前記バインダーとしてタールを10wt%となるように添加し混練することにより作成され、前記造粒微粉炭と前記粗粒炭は、コークス炉装入前に混合される、コークスの製造方法。」

6 対比
本願発明1と刊行1発明とを対比する。
ア 本願発明1と刊行1発明は、「コークスの製造方法」である点で共通する。
そして、刊行1発明の「コークス原料炭」、「微粉炭」、「粗粒炭」、「造粒微粉炭」及び「コークス炉」は、それぞれ本願発明1の「石炭」、「微粉炭」、「粗粒炭」、「塊成炭」及び「コークス炉」に相当する。
また、刊行1発明の「バインダー」及びその具体例である「タール」は、いずれも本願発明1の「粘結材」に相当する。
さらに、刊行1発明の「造粒微粉炭」は、微粉炭を「造粒」して得られるものであるところ、この「造粒」は、微粉炭を粒状にする「成形」と解することもできるから、刊行1発明の「造粒」は、本願発明1の「造粒または成形」に相当するということができる。
イ 刊行1発明において、風力分級機に装入するコークス原料炭は、乾燥機で所定の水分量まで乾燥したものであり、風力分級機では、コークス原料炭を微粉炭と粗粒炭とに分級すると共に、コークス原料炭の乾燥操作を同時に進行させているところ、このことは、コークス原料炭を乾燥した後、微粉炭と粗粒炭とに分級しているとみることもできるし、コークス原料炭を乾燥と同時に、微粉炭と粗粒炭とに分級しているとみることもできる。
そうすると、本願発明1と刊行1発明は、「石炭を乾燥した後、または、該乾燥と同時に、微粉炭と粗粒炭とに分級」する点でも共通する。
ウ また、刊行1発明では、風力分級機から排出された微粉炭の水分が2?6wt%であり、この微粉炭にバインダーとしてタールを10wt%となるように添加し混練するところ、このことは、本願発明1で「水分6%以下の微粉炭に粘結材を5?12%添加、混練」することと、「水分2?6%の微粉炭に粘結材を添加、混練」する点で共通するということができる。
エ さらに、刊行1発明では、造粒微粉炭と粗粒炭とをコークス炉に装入し、造粒微粉炭と粗粒炭は、コークス炉装入前に混合されるところ、このことは、造粒微粉炭と粗粒炭を混合し、コークス炉に装入することに他ならない。
そうすると、本願発明1と刊行1発明は、「塊成炭と粗粒炭を混合し、コークス炉に装入する」点でも共通する。
オ 以上を踏まえると、本願発明1と刊行1発明は、「石炭を乾燥した後、または、該乾燥と同時に、微粉炭と粗粒炭とに分級し、水分2?6%の微粉炭に粘結材を添加、混練し、さらに、造粒または成形して塊成炭とし、該塊成炭と前記粗粒炭を混合し、コークス炉に装入する、コークスの製造方法」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:微粉炭と粗粒炭とに分級する際に、本願発明1では、0.3mm?0.5mmを分級点として分級するのに対し、刊行1発明では、分級点について特定されていない点。
相違点2:粘結材の添加量について、本願発明1では、微粉炭に粘結材を5?12%添加するのに対し、刊行1発明では、微粉炭にバインダーとしてタールを10wt%となるように添加する点。
相違点3:微粉炭に粘結材を添加、混練する際に、本願発明1では、該添加、混練の後、または、該添加、混練と同時に、塊成化補助材を0.005%以上添加するのに対し、刊行1発明では、塊成化補助材について特定されていない点。

7 判断
相違点1ないし3について検討する。
(1)相違点1
ア コークス製造の分野において、コークス原料炭を微粉炭と粗粒炭とに分級する際の分級点を好適範囲に制御することで、微粉炭を集合させた成形体の強度向上やコークスの品質向上を図ること及び分級点を好適範囲をおよそ0.3mm?0.5mmとすることは、例えば次の文献aないしc(いずれも原査定で提示されたもの)に記載されているように、本願出願前から普通に実施されている慣用技術である。
文献a:特開昭62-190284号公報(特許請求の範囲、2頁右下欄5?9行等参照)
文献b:特開平8-259951号公報(【請求項1】、段落【0019】、【0020】、【0026】等参照)
文献c:特開平9-118883号公報(【請求項1】、段落【0026】、【0034】等参照)
イ 他方、刊行1発明は、刊行物1の記載(上記4b)によれば、微粉炭と粗粒炭との分級における分級比率(重量比)を適正に制御することで、造粒微粉炭の崩壊防止や品質の安定したコークスの生産を図るものである。
そうすると、刊行1発明と上記慣用技術は、微粉炭を集合させた成形体の強度向上やコークスの品質向上を図るという点で課題を軌を一にするものであり、しかも、分級点を制御することで分級比率(重量比)を制御することができることは、当業者には明らかであるから、刊行1発明において、造粒微粉炭の崩壊防止や品質の安定したコークスの生産を図ることのできる適正な分級比率(重量比)とするために、分級点を好適範囲に制御するとすることは、当業者が容易に想到し得ることであり、その具体化において、分級点を「0.3mm?0.5mm」の範囲とすることも、上記慣用技術や刊行物1の記載(上記4c)からみて格別困難なことということができない。
さらに、この「0.3mm?0.5mm」との範囲について、本願明細書及び図面を検討しても、その数値限定に臨界的意義を見いだせない。

(2)相違点2
ア 本願発明1は、微粉炭に粘結材を「5?12%」添加するものであるところ、この「5?12%」とは、粘結材の添加量を百分率で表したものであることは明らかである。そして、この百分率については、本願明細書(段落【0042】?【0044】)の記載からみて、粘結材添加前の乾燥微粉炭の質量を基準とする質量百分率(質量%)を意味するものと解するのが相当である。
イ 他方、刊行1発明は、微粉炭にバインダーとしてタールを「10wt%」となるように添加するものであるところ、この「10wt%」とは、バインダーであるタールの添加量を微粉炭の重量を基準とする重量百分率で表したものと一応理解することができる。しかし、この重量百分率の基準となる重量が、乾燥微粉炭の重量であるか水分を含む微粉炭の重量であるかについては明らかでなく、刊行物1の記載(特に上記4e)をみても、この点が明らかにされないばかりか、バインダーであるタールを微粉炭に添加した後の混合物全体の重量(添加したバインダーまで含む重量)を基準としているようにも解され、当該基準となる重量が、添加したバインダーであるタールの重量まで含むか否かについても明らかでない。このことから、刊行1発明のバインダーの添加量である「10wt%」に関する自然な解釈として、次の(ア)ないし(エ)に述べるとおり4通りの解釈ができる。
(ア)まず第一の解釈として、刊行1発明の「10wt%」が、(バインダー添加前の)乾燥微粉炭の重量を基準とした重量百分率であると解することができ、この場合、刊行1発明のバインダーの添加量である「10wt%」と本願発明1の粘結材の添加量である「5?12%」は、いずれも「(粘結材添加前の)乾燥微粉炭」の質量を基準とする質量百分率であるとみることができるので(重量百分率と質量百分率は実質的に同義である。)、両者の数値ないし数値範囲の対比から、両者は、実質的に相違しないものということができる。
(イ)第二の解釈として、刊行1発明の「10wt%」が、「(バインダー添加前の)水分を含む微粉炭」の重量を基準とした重量百分率であると解することができ、この場合、刊行1発明のバインダー添加前の微粉炭は、水分が2?6wt%であることからみて、上記「10wt%」は、「(バインダー添加前の)乾燥微粉炭」の重量を基準とした重量百分率で「約10.2?10.6wt%」と換算できる。
そうすると、上記(ア)と同様、刊行1発明のバインダーの添加量と本願発明1の粘結材の添加量は、実質的に相違しないものということができる。
(ウ)第三の解釈として、刊行1発明の「10wt%」が、「微粉炭にバインダーを添加した後の、水分を除く混合物全体」の重量を基準とした重量百分率であると解することができ、この場合、上記「10wt%」は、「(バインダー添加前の)乾燥微粉炭」の重量を基準とした重量百分率で「約11wt%」と換算できる。
そうすると、上記(ア)と同様、刊行1発明のバインダーの添加量と本願発明1の粘結材の添加量は、実質的に相違しないものということができる。
(エ)第四の解釈として、刊行1発明の「10wt%」が、「微粉炭にバインダーを添加した後の、水分を含む混合物全体」の重量を基準とした重量百分率であると解することができ、この場合、刊行1発明のバインダー添加前の微粉炭は、水分が2?6wt%であることからみて、上記「10wt%」は、「(バインダー添加前の)乾燥微粉炭」の重量を基準とした重量百分率で「約11.3?11.8wt%」と換算できる。
そうすると、上記(ア)と同様、刊行1発明のバインダーの添加量と本願発明1の粘結材の添加量は、実質的に相違しないものということができる。
ウ 上記イ(ア)ないし(エ)より、刊行1発明のバインダーの添加量である「10wt%」に関し、自然な解釈であると解される上記4通りの解釈のいずれからみても、刊行1発明のバインダーの添加量である「10wt%」は、本願発明1の粘結材の添加量である「5?12%」と実質的に相違しないものいうことができる。よって、相違点2は実質的なものではない。
仮に、このようにいうことができないとしても、刊行1発明において、粘結材の添加量の好適範囲について、その機能が十分に発揮されるように検討することは、当業者の通常の能力の発揮にすぎず、その添加量を「5?12%」とすることも、例えば上記文献dの記載(4?5頁、実施例等)からみて格別困難なことということはできない。
さらに、この「5?12%」との範囲について、本願明細書及び図面を検討しても、その数値限定に臨界的意義を見いだせない。

(3)相違点3
ア コークス製造の分野において、微粉炭にバインダー(結合剤、粘結材ともいう。)を添加して微粉炭を集合させた成形体とする際に、その成形体の強度を高めるために、界面活性剤などの薬剤を補助的に併用すること、すなわち、本願発明1における「塊成化補助材」を併用することは、例えば次の文献dないしf(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3ないし5)に記載されているように、本願出願前から周知の技術である。
文献d:特開昭60-63278号公報(特許請求の範囲、4頁右上欄4?13行等参照)
文献e:特開昭55-27332号公報(特許請求の範囲、3頁右上欄9?18行、6頁実施例3等参照)
文献f:特開昭48-43701号公報(特許請求の範囲、2頁右上欄10?17行、4頁左下欄7?15行等参照)
イ そして、刊行1発明は、上記(1)アで述べたように、造粒微粉炭の崩壊防止を図るものであり、この点で、刊行1発明と上記周知の技術は、課題を軌を一にするものということができるから、刊行1発明において、造粒微粉炭の崩壊を確実に防止するために、上記周知の技術を適用し、微粉炭にバインダーを添加、混練するのと同時に、塊成化補助材も添加するようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、この具体化において、上記(2)ウで述べた粘結材の添加量と同様に、塊成化補助材の添加量の好適範囲について、その機能が十分に発揮されるように検討し、その添加量を(乾燥微粉炭の質量を基準として)「0.005%以上」とすることも、例えば上記文献dの記載(4?5頁、実施例等)からみて格別困難なことということができないし(なお、本願発明1の「0.005%以上」という塊成化補助材の添加量は、本願明細書の段落【0042】?【0044】の記載からみて、乾燥微粉炭の質量を基準とした質量百分率であると解するのが相当である。)、この「0.005%以上」との範囲について、本願明細書及び図面を検討しても、その数値限定に臨界的意義を見いだせない。

(4)判断のまとめ
上記(1)ないし(3)で検討したところによれば、相違点1ないし3に係る本願発明1の発明特定事項は、実質的には刊行1発明との相違点にならないものであるか、当業者が容易に導き得るものである。
そして、これらの発明特定事項を備えた本願発明1の効果について、本願明細書及び図面の記載を精査しても、格別なものを認めることはできない。

なお、請求人は、審判請求書において、本願発明は、微粉炭の水分が低く、かつ、粒径が小さい場合に、微粉炭が帯電して、相互に反発して凝集しにくいという問題に対して、塊成化補助材を添加することにより、微粉炭同士の電荷による反発力が低下し、より少ない粘結材で微粉炭を接着させることが可能となるという格別な作用・効果を奏することを新たに見出したものであると主張している。
しかしながら、上記文献dには、結合剤とともに界面活性剤(塊成化補助材)を併用した実施例と界面活性剤(塊成化補助材)を併用しない比較例について、「同一の結合剤添加割合であれば、実施例の方がいずれの強度の場合も比較例よりも強度が大きい」(5頁左下欄18?20行)と記載されていることからみても、結合剤とともに界面活性剤(塊成化補助材)を併用することにより、界面活性剤(塊成化補助材)を併用しない場合に比べて、微粉炭を集合させた成形体の強度を所望の程度とするために要する粘結材の添加量がより少量となることは、当業者が予測し得ることである。
また、微粉炭が帯電して、相互に反発して凝集しにくいという問題に対して、塊成化補助材を添加することにより、微粉炭同士の電荷による反発力を低下させることができるとされる効果は、本願明細書及び図面において、理論的な説明に裏付けられたものでもなく、それを実証する具体例(帯電に関する実験データ等)も示されていない以上、請求人の想像の域を出ないものとも解されるため、本願発明1の(全範囲にわたる)効果として認めることが困難であるし、仮にそれを本願発明1の効果として認めることとしても、技術常識等から当業者が予測し得る程度のものと解さざるを得ないから、結局、本願発明1の効果として、当業者の予測を越える格別なものを認めることはできない。
さらに、請求人の上記主張に係る作用・効果の程度が、微粉炭の水分が低く、かつ、粒径が小さい場合に限り、当業者の予測を越える顕著なものであるのか否かについて検討しても、本願明細書及び図面において、粒径が小さい場合と大きい場合の比較が何らなされていないし、水分が少ない場合と多い場合の比較すら十分になされていないから、上記作用・効果に関し、微粉炭の水分が低く、かつ、粒径が小さい場合に特有の顕著なものがあると認めることもできない。
よって、請求人の上記主張は、採用することができない。

8 むすび
以上より、本願発明1は、刊行物1に記載された発明及び慣用技術ないし周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、請求項1以外の他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-20 
結審通知日 2012-12-25 
審決日 2013-01-07 
出願番号 特願2006-57919(P2006-57919)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 目代 博茂
橋本 栄和
発明の名称 高炉用コークスの製造方法  
代理人 田中 久喬  
代理人 内藤 俊太  

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