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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
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管理番号 | 1270519 |
審判番号 | 不服2011-24134 |
総通号数 | 160 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-11-08 |
確定日 | 2013-02-21 |
事件の表示 | 特願2006-179064「熱電素子及びその製造方法,並びに,熱電モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月17日出願公開,特開2008- 10612〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,平成18年6月29日の出願であって,平成23年7月22日付けで手続補正がなされ,同年8月4日付けで拒絶査定がされ,これに対して同年11月8日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに,同日に手続補正がされ,その後当審において,平成24年9月24日付けで拒絶理由通知がされ,これに対して,同年11月22日に意見書,手続補正書が提出されたものである。 2 本願発明 本願発明は,平成24年11月22日の手続補正書により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?6に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,そのうちの請求項6に係る発明(以下「本願発明6」という。)は,請求項6に記載されている事項により特定される,以下のとおりのものである。 「真空チャンバ内において,ビスマス(Bi),テルル(Te),セレン(Se),及び,アンチモン(Sb)の内の2つ以上を含み所定の形状に成形された熱電材料層に逆スパッタを施すことにより,前記熱電材料層の表面を清浄にする工程(a)と, 工程(a)が行われるのと同一の真空チャンバ内において,表面が清浄にされた前記熱電材料層上に,イオンプレーティング法により,モリブデン(Mo),タングステン(W),ニオブ(Nb),及び,タンタル(Ta)の内のいずれかを含み,前記熱電材料層に対する異種元素の拡散を防止する拡散防止層を,空孔率が0.1%以下となるように形成する工程(b)と, 工程(b)が行われるのと同一の真空チャンバ内において,前記拡散防止層の形成に引き続いて,前記拡散防止層上に,イオンプレーティング法により,ニッケル(Ni),銅(Cu),銀(Ag),金(Au),白金(Pt),アルミニウム(Al),及び,クロム(Cr)の内のいずれかを含み,前記拡散防止層と半田とを接合させる半田接合層を形成する工程(c)と, を具備する熱電素子の製造方法。」 3 引用例1の記載,引用発明,引用例2の記載及び周知例の記載 (1) 引用例1の記載 本願の出願前に日本国内において頒布され,当審において平成24年9月24日付けで通知した拒絶理由に引用した特開平9-293906公報(以下「引用例1」という。)には,「熱電変換素子」【発明の名称】に関して,図4とともに以下の記載がある(なお,下線は当合議体にて付加したものである。以下同様。)。 ア 「【0006】 【課題を解決するための手段】本発明は,P形導電形式またはN形導電形式を有するBi-Te系半導体に接する介在層が電極に接続され,この介在層は,Al,TiおよびMgから成るグループのうちの1またはそれらの合金であることを特徴とする熱電変換素子である。また本発明は,P形導電形式またはN形導電形式を有するPb-Te系半導体に接する介在層が電極に接続され,この介在層は,Al,TiおよびMgから成るグループのうちの1またはそれらの合金であることを特徴とする熱電変換素子である。また本発明は,介在層は,硬ロウであり,この介在層が電極に接して接続されることを特徴とする。また本発明は,介在層は,薄膜技術または厚膜技術によって形成され,この介在層が電極に接して接続されることを特徴とする。また本発明は,介在層は,薄膜技術または厚膜技術によって形成され,介在層と電極とを接続する高温半田または硬ロウから成る接合層を有することを特徴とする。また本発明は,介在層は,薄膜技術または厚膜技術によって形成され,電極には,高温半田または硬ロウから成る接合層が接続され,介在層と接合層との間に,介在層と接合層との両者に濡れ性のよい中間層を設けることを特徴とする。また本発明は,中間層は,Cu,Ag,AuおよびMgから成るグループのうちの1またはそれらの合金であることを特徴とする。また本発明は,接合層を構成する硬ロウは,アルミニウムロウ,マグネシウムロウ,銀ロウおよび金ロウから成るグループのうちの1または複数であることを特徴とする。また本発明は,電極は,Cu,Al,Ni,Ag,AuおよびPtから成るグループのうちの1またはそれらの合金であることを特徴とする。 【0007】本発明に従えば,P形またはN形の導電形式を有する半導体の一端部を電極と接続するにあたり,半導体に接する介在層が設けられ,介在層は,Al,TiおよびMgから成るグループから選ばれる1またはそれらの合金である。半導体は,Bi-Te系またはPb-Te系である。これらの介在層を構成する金属は,半導体への拡散係数が極めて小さい。したがって半導体が接合される介在層および電極側である半導体の一端部を,それらの半導体の熱電変換性能が劣化しない高温度に加熱しても,介在層の成分が半導体内に拡散することが全く,またはほとんど,ない。しかもこのような成分を有する介在層によれば,電極,接合層および中間層の成分が半導体へ拡散しやすい物質であったとしても,その拡散を介在層によって防ぐことができる。これによって半導体の他端部との間の温度差を大きくして,発電効率の向上を図ることができ,価格性能比を向上することができるようになるとともに,経時的な熱電変換効率の低下が抑制される。たとえば後述の図1における介在層6,7は,Al,TiまたはMgを主成分とする硬ロウであってもよい。介在層6,7はまた,薄膜技術または厚膜技術によって形成され,この薄膜技術は,陽射すなわちイオンプレーティング,スパッタリング,蒸着またはICB(イオンクラスタビーム)が挙げられ,厚膜技術としてはスクリーン印刷などが挙げられ,この介在層6,7は,融着またはレーザ溶接などによって電極5に固定してもよい。また本発明に従えば,後述の図3に示されるように,介在層14,15は,薄膜技術または厚膜技術によって形成され,介在層を電極5に接続する接合層は,高温半田または硬ロウから成る。接合層は,電極との接着強度は大きくても,この接合層と介在層との接着強度が不充分であるときには,後述の図4に示されるように,介在層と接合層との間に濡れ性のよい中間層を設ける。本発明に従えば,実施の一形態では,介在層はAlまたはTiであり,接合層はアルミニウムロウである。また介在層はAlまたはTiであり,結合層(当審注:「接合層」の誤記)は高温半田であり,中間層はAuである。電極は,たとえばCu,Al,Ni,Ag,Au,Ptおよびそれらの合金などであってもよい。電気絶縁性基板は,たとえばベリリア(BeO)またはアルミナ(Al_(2)O_(3))などのセラミック基板であってもよく,電極は,その基板上にパターニングされて構成されてもよい。 【0008】 【発明の実施の形態】図1は本発明の実施の一形態の熱電変換素子1を示す断面図であり,図2は図1に示される熱電変換素子1を数個直列接続して構成されたユニット2の簡略化した側面図である。これらの図面を参照して,熱電変換素子1は,P形導電形式を有する半導体4とN形導電形式を有するもう1つの半導体3との各一端部3a,4aと電極5との間に,Al,TiおよびMgのうちの1またはそれらの合金から成る介在層6,7が介在される。この介在層6,7は,半導体3,4への拡散が零またはほとんど無く,しかも介在層6,7に接する電極5の成分との親和性が弱く,したがってその介在層6,7に接するCuなどの電極5の成分が介在層6,7を経て半導体3,4に拡散することを防ぐ。」 イ 「【0013】本発明の実施の他の形態は、図3に示されている。この図3に示される実施の形態は、前述の構成に類似し、対応する部分には同一の参照符を付す。この実施の形態では、半導体3,4の一端部3a,4aの端面に、まず、アルミニウムから成る介在層14,15を接合する。このアルミニウムから成る介在層14,15は、薄膜技術である陽射すなわちイオンプレーティング、スパッタリング、蒸着またはICBによって作成してもよく、または厚膜技術であるたとえばスクリーン印刷などによって作成することができる。次に、介在層14,15と銅から成る電極5とは、接合層16,17によって接続する。介在層16,17は、高温半田および硬ロウであってもよい。高温半田は、SnとPbとを主成分として含み、Snはたとえば約60重量%以上が含まれ、さらにAgが含まれてもよい。硬ロウは、たとえばアルミニウムロウ、マグネシウムロウ、銀ロウ、金ロウであってもよい。本発明の実施のさらに他の形態では、介在層14,15は、アルミニウムに代えて、TiまたはMgであってもよく、さらにそれらの合金であってもよい。 【0014】図4は,本発明の実施のさらに他の形態の一部の断面図である。この実施の形態は,前述の図3の構成に類似し,対応する部分には同一の参照符を付す。注目すべきはこの実施の形態では,介在層14,15と接合層16,17との濡れ性を向上するために,中間層18,19を薄膜技術によってまたは厚膜技術によって設ける。この濡れ性のよい中間層18,19は,たとえばCu,Ag,AuおよびMgのうちの1つまたはそれらの合金であってもよい。こうして半導体3,4の一端部3a,4aの端面に薄膜技術または厚膜技術によって形成された介在層14,15上に,濡れ性のよい中間層18,19が形成された後,高温半田または硬ロウから成る接合層16,17を用いて電極5に接合する。これによって強度を向上することができる。たとえば半導体3,4には,AlまたはTiから成る介在層14,15が形成され,その上にAuから成る中間層18,19が形成され,高温半田から成る接合層16,17によってCu製電極5に接合される。介在層14,15は,たとえばAlであってもよいけれども,TiまたはMgから成ってもよく,またはそれらの合金であってもよい。その他の構成は,前述の図3の構成ならびに図1および図2の構成に類似する。」 ウ 引用例1には,熱電変換素子における介在層,中間層を薄膜技術により形成するという製造方法が記載されていることから,引用例1には「熱電変換素子の製造方法」が記載されていることは明らかである。 (2)引用発明 以上を総合すると,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「Bi-Te系半導体上に,電極,接合層および中間層の成分が半導体へ拡散しやすい物質であったとしても,その拡散を防ぎ,Al,TiおよびMgから成るグループのうちの1またはそれらの合金である介在層14,15を薄膜技術により形成する工程と, 介在層14,15,高温半田からなる接合層16,17,及び介在層14,15と接合層16,17との両者に濡れ性のよい,Cu,Ag,AuおよびMgから成るグループのうちの1またはそれらの合金である中間層18,19を介在層と接合層との間にそれぞれ薄膜技術により形成する工程とを, を具備する熱電変換素子の製造方法。」 (3)引用例2の記載 本願の出願前に日本国内において頒布され,当審において平成24年9月24日付けで通知した拒絶理由に引用した特開2006-147600号公報(以下「引用例2」という。)には,「熱電変換モジュール」【発明の名称】について以下の記載がある。 ア 「【0017】 また,特許文献5では,熱電素子において必須とされる元素拡散防止層と熱応力緩和層を熱電半導体素子に組み込むための最適な溶射条件(溶射材チタンTi,層厚10μm以上100μm以下)を提示し,且つ金属電極に直接接合して拡散防止層兼熱応力緩和層を実現する熱電素子とその製造方法を開示している。しかしながら,溶射法では気孔率をゼロにすることは実質的に不可能であり,この気孔を通じて熱電部材,電極部材の構成元素が熱拡散する可能性は高い。更に,こうした気孔は溶射金属層及び熱拡散した蝋材金属の酸化層形成の場所ともなるため,やはり素子の電気抵抗・熱抵抗を増加してしまい,結果として熱電変換効率を下げることとなる。また,通常こうした溶射層に使用される溶射材は高融点金属が多く,層が薄ければ気孔率が上がって元素拡散の生じやすい場所となるとともに,熱応力に起因するクラック等が生じやすくなる。また,層が厚すぎれば熱抵抗・電気抵抗ともに増加するため,熱電変換性能にとって不利となる。」 イ 「【0063】 この場合,使用される接合材は中温域使用下において接合面における元素拡散防止層として機能するのみならず,熱電変換素子部と電極金属間に生じる熱応力を緩和するため,Ti又はTi基合金等の高融点金属箔が望ましいが,金属電極部材よりも線膨張率の小なる金属箔又は合金箔であって,前記手法のいずれかによって水素を吸蔵する箔であれば使用できる。例えば,Fe,Ni,W,Mo,ステンレス等としてもよい。また,金属箔又は合金箔の厚さは数ミクロン?数百ミクロンの間で選択することができる。」 (4)周知例の記載 ア 周知例1:特開平11-186616号公報 本願の出願前に日本国内において頒布された特開平11-186616号公報(以下「周知例1」という。)には,「熱電変換素子及び熱電変換素子の製造方法」【発明の名称】について以下の記載がある。 (ア) 「【0033】ここで真空成膜法とは,スパッタリング(イオンプレーテング),蒸着,CVD,溶射等であり,イオンビームアシスト成膜のようにイオンビームを単独で用いたり,イオンビームで成膜をアシストすることも含む。請求項12のように製造することで,酸化防止,成膜工程の全てを乾式で行える。 【0034】 【発明の実施の形態】熱電変換素子は例えば次のようにして製造される。熱電半導体A″はBi-Te-Se系合金(n型)またはBi-Sb-Te系合金(p型)であり,この熱電半導体A″の接合部表面がサンドペーパーで湿式研磨され,その後,純水で超音波洗浄が行われる。次いで熱電半導体A″の表面が例えばArプラズマエッチング(逆スパッタリング)される。次いで熱電半導体A″の表面に3価若しくは4価の元素(B,Ga,In,Tl,C,Si,Ge,Sn)のうち少なくとも一種類の元素が図7に示すように真空成膜法により熱電半導体A″の表面に形成し,成膜中の熱若しくは成膜後に加熱することで合金層B″が形成される。例えば,Snを熱電半導体A″の表面にスパッタリングし,スパッタリング時の加熱により熱電半導体A″にSnを拡散した合金層B″が形成される。このときスパッタリングのような真空成膜法により図8に示すように合金層B″と3価若しくは4価の元素の層Cが形成されてもよい。上記合金層B″または元素の層C上には,拡散防止効果を有する金属(Ti,Cr,Co,Ni,Nb,Mo,W)のうち少なくとも一種類の元素からなる拡散防止層Dが図12(a)のように真空成形膜法にて形成される。例えばMoがスパッタリングされて元素の層Cまたは合金層B″の上に拡散防止層Dが形成される。次いで拡散防止層Dの上にNi層Fが図12(b)のように真空成膜法によって形成されるのであるが,例えばNiを表面にスパッタリングすることにより形成される。次いで拡散防止層Dの上に半田濡れ性を向上させる金属(Cu,Sn,Au,Bi-Snのうち一種類の金属)よりなる半田濡れ性向上層Gが図12(c)に示すように真空成膜法によって形成されるのであるが,例えばCuをスパッタリングすることで半田濡れ性向上層Gが形成される。次に半田濡れ性向上層Gの上に電極材Eが形成されるのであるが,例えば,図9(d)に示すように半田材E_(2)が半田付けされ,Cu電極E_(1)が半田付けで接合される。上記のようにして熱電変換素子が形成され,電極接合時及び電極接合後の通電時に熱電半導体の劣化を防止することができる。」 イ 周知例2:特開平10-190070号公報 本願の出願前に日本国内において頒布された特開平10-190070号公報(以下「周知例2」という。)には,「熱電変換素子およびその製造方法」【発明の名称】について以下の記載がある。 (ア) 「【0027】以上の熱電半導体1はビスマス-アンチモン-テルル-セレン系合金として形成されるものが用いられている。そして,このような熱電半導体1の上に錫,ビスマスまたはアンチモンのうちの少なくとも一種類の金属からなる拡散層3を形成し,さらにこの拡散層3の上にモリブデン,タングステンまたはニオブのうちの少なくとも一種類の金属からなる拡散防止層4を形成し,さらにこの拡散防止層4の上に電極2を形成して,この熱電変換素子は形成されている。」 (イ) 「【0034】また,図4に示すように,拡散防止層4の上に銅層7を形成し,この銅層7の上にはんだ材5を介して電極2を形成することも好ましい形態の一つである。このような工程によれば,銅層7によって,拡散防止層4の酸化が防止され,はんだ材5のぬれ性が向上するため,電極2を熱電半導体1にしっかりと接合して形成することができる。また,この銅層7の上に電解めっきを行う場合にあっては,この銅層7によって電着しやすくなっている。」 (ウ) 「【0038】また,熱電半導体1と電極2との間の各層の形成を,真空中における連続工程にて行うようにすれば,加工中の酸化が防止されるので,電極2の熱電半導体1に対する接合強度が向上したものになるので好ましい。」 (エ) 「【0040】この発明の一つの熱電変換素子は,以下の1?11の手順にて,好ましく製造される。 1.熱電半導体1の電極2が形成される接合部表面をサンドペーパーで湿式研磨する。この場合,サンドペーパーは400番のものを用いている。 2.エタノールに浸して超音波洗浄を行う。 3.熱電半導体1表面をプラズマエッチング(逆スパッタ)する。この場合,アルゴンガスを用い,6.6Paの圧力,300WでRFプラズマを発生させ,60秒間プラズマエッチングを行っている。 4.熱電半導体1表面にイオンビームを照射する。 5.拡散層3を熱電半導体1の電極2が形成される表面にスパッタリングする。この場合,アルゴンガスを用い,4.0Paの圧力,3000WでDCプラズマを発生させ,錫を1μmの厚みにスパッタリングしている。 6.加熱し,拡散層3の熱電半導体1への拡散を促進させる。 7.拡散防止層4を上記拡散層3の表面にスパッタリングする。厚みは処理時間で調整することができる。 8.銅を上記拡散防止層4表面にスパッタリングして銅層7を形成する。 9.半田付け用フラックスを銅層7の表面に塗布する。 10.はんだ材5を盛る。 11.電極2をはんだ接合する。 【0041】以上の熱電半導体1はP型,N型とも,粉末の押出し焼結材として形成されるものである。そして,P型のものはビスマスを0.5,アンチモンを1.5,テルルを3.0とした成分割合であり,N型のものはビスマスを2.0,テルルを2.85,セレンを0.15とした成分割合である。」 ウ 周知例3:特許庁,「特許マップシリーズ 化学16 物理的蒸着」日本,2000年3月30日 ,281ページ?282ページ 本願の出願前に日本国内において頒布された「特許マップシリーズ 化学16 物理的蒸着」(参考URL:http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/map/kagaku16/4/4-3.htm#15)には,以下の記載がある。 (ア)「4.3.3 イオンプレーティングによる薄膜形成 …(中略)… (5)反応性イオンプレーティング法 イオンプレーティングにおいて、反応性のガス(O_(2)、N_(2)、NH_(3)、CH_(4)など)をチャンバー内に導入して蒸着物質との化合物薄膜(酸化物、窒化物、炭化物)を成膜する技術である。蒸着粒子の運動エネルギーが高いため、密着性に優れた緻密な薄膜の形成が可能である。工業的には、耐摩耗、耐腐食の目的で、TiN,TiCBN,AlNなどの薄膜が成膜されている。」 4 対比・判断 (1) 対比 引用発明と本願発明6とを対比する。 ア 引用発明の「Bi-Te系半導体」は,本願発明6の「ビスマス(Bi),テルル(Te),セレン(Se),及び,アンチモン(Sb)の内の2つ以上を含み所定の形状に成形された熱電材料層」に相当し,引用発明の「介在層14,15」は,電極,接合層および中間層の物質が半導体へ拡散することを防いでいるものであるから,本願発明6の「熱電材料層に対する異種元素の拡散を防止する拡散防止層」に相当する。 また,3(1)イから,「介在層14,15」及び「中間層18,19」は薄膜技術により設けられおり,3(1)アから,その薄膜技術として列記されているものの中に,「イオンプレーティング」があることが分かる。 以上から,引用発明の「Bi-Te系半導体上に,電極,接合層および中間層の成分が半導体へ拡散しやすい物質であったとしても,その拡散を防ぎ,Al,TiおよびMgから成るグループのうちの1またはそれらの合金である介在層14,15を薄膜技術により形成する工程」と,本願発明6の「工程(a)が行われるのと同一の真空チャンバ内において,表面が清浄にされた前記熱電材料層上に,イオンプレーティング法により,モリブデン(Mo),タングステン(W),ニオブ(Nb),及び,タンタル(Ta)の内のいずれかを含み,前記熱電材料層に対する異種元素の拡散を防止する拡散防止層を,空孔率が0.1%以下となるように形成する工程(b)」とは,「ビスマス(Bi),テルル(Te),セレン(Se),及び,アンチモン(Sb)の内の2つ以上を含み所定の形状に成形された熱電材料層上に,」「薄膜技術により,」前記「熱電材料層に対する異種元素の拡散を防止する拡散防止層を,」「形成する工程」という点で一致する。 イ 引用発明の「高温半田からなる接合層」は,本願発明6の「半田接合層」に相当し,引用発明の「中間層18,19」が「介在層と接合層との両者に濡れ性」がよいということは,両者をしっかりと接合させていることに相当するから,引用発明の「介在層14,15と接合層16,17との両者に濡れ性のよい」「中間層18,19」は,本願発明6の「拡散防止層と半田とを接合させる半田接合層」に相当する。 また,引用発明の「中間層」の材料は「Cu,Ag,AuおよびMgから成るグループのうちの1またはそれらの合金」であり,本願発明6の「半田接合層」の材料の「ニッケル(Ni),銅(Cu),銀(Ag),金(Au),白金(Pt),アルミニウム(Al),及び,クロム(Cr)の内のいずれかを含」むものと,「銅(Cu),銀(Ag),金(Au)」「の内のいずれかを含」む点で一致する。 以上から,引用発明の「介在層14,15と接合層16,17と介在層と接合層との両者に濡れ性のよい,Cu,Ag,AuおよびMgから成るグループのうちの1またはそれらの合金である中間層18,19を薄膜技術により形成する工程」と,本願発明6の「工程(b)が行われるのと同一の真空チャンバ内において,前記拡散防止層の形成に引き続いて,前記拡散防止層上に,イオンプレーティング法により,ニッケル(Ni),銅(Cu),銀(Ag),金(Au),白金(Pt),アルミニウム(Al),及び,クロム(Cr)の内のいずれかを含み,前記拡散防止層と半田とを接合させる半田接合層を形成する工程(c)」とは,「前記拡散防止層の形成に引き続いて,前記拡散防止層上に,薄膜技術により,銅(Cu),銀(Ag),金(Au)の内のいずれかを含み,前記拡散防止層と半田とを接合させる半田接合層を形成する工程」という点で一致する。 (一致点) したがって,本願発明6と引用発明とは, 「ビスマス(Bi),テルル(Te),セレン(Se),及び,アンチモン(Sb)の内の2つ以上を含み所定の形状に成形された熱電材料層上に,薄膜技術により,前記熱電材料層に対する異種元素の拡散を防止する拡散防止層を形成する工程と, 前記拡散防止層の形成に引き続いて,前記拡散防止層上に,薄膜技術により,銅(Cu),銀(Ag),金(Au)の内のいずれかを含み,前記拡散防止層と半田とを接合させる半田接合層を形成する工程と, を具備する熱電素子の製造方法。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 (相違点1) 本願発明6は,「真空チャンバ内において,」「熱電材料層に逆スパッタを施すことにより,」「熱電材料層の表面を清浄にする工程(a)」を具備しているのに対して,引用発明はこの工程がない点。 (相違点2) 本願発明6は,「拡散防止層」を「形成する工程(b)」が「工程(a)が行われるのと同一の真空チャンバ内において」行われ,「半田接合層を形成する工程(c)」が「工程(b)が行われるのと同一の真空チャンバ内において」行われるのに対して,引用発明は各工程が「同一の真空チャンバ内において」行われるかどうか特定されていない点。 (相違点3) 本願発明6の拡散防止層の材料は「モリブデン(Mo),タングステン(W),ニオブ(Nb),及び,タンタル(Ta)の内のいずれかを含」んでいるのに対して,引用発明は「Al,TiおよびMgから成るグループのうちの1またはそれらの合金」である点。 (相違点4) 本願発明6は,「拡散防止層」を「形成する工程(b)」及び「半田接合層を形成する工程(c)」が種々の薄膜技術のうち「イオンプレーティング法」により行われているのに対して,引用発明は「薄膜技術」としてどの方法を用いるかが特定されていない点。 (相違点5) 本願発明6は,「拡散防止層」を,「空孔率が0.1%以下となるように形成」しているのに対して,引用発明はこの点が特定されていない点。 (2)判断 ア 相違点1について 熱電材料層の表面をその上層を形成する前に,逆スパッタを施すことは,例えば上記の周知例1,2にも記載されているように普通に行われている工程であり,そうすることにより材料表面が清浄化されることも当業者にとって自明である。 したがって,引用発明において,上層を形成する前に熱電材料層に逆スパッタを施して表面を清浄にする工程を入れることは,当業者が適宜なし得た設計的事項である。 イ 相違点2について 熱電材料層の表面に設ける各層をスパッタリングまたは蒸着等の真空中で形成する場合には,加工中の酸化を防止するために同一の真空チャンバ内の連続工程で行うことは,例えば周知例2にも記載されているように,薄膜形成の分野において周知技術である。 したがって,引用発明において,拡散防止層,半田接合層の各層を同一の真空チャンバ内において形成することは,当業者が容易になし得た範囲に含まれるものである。 ウ 相違点3について 熱電素子の分野で,熱電材料への元素の拡散を防止する拡散防止層の材料として,Mo,W等の材料を用いることは,例えば引用例2,周知例1にも記載されているように周知技術である。 したがって,引用発明において,拡散防止層の材料を「Al,TiおよびMgから成るグループのうちの1またはそれらの合金」に換えて,周知のMo,W等の元素の内いずれかを含んだ材料を選択することは,当業者が容易になし得た範囲に含まれるものである。 エ 相違点4,5について (ア) まず,「空孔率が0.1%以下」と限定した点について検討する。本願明細書中には「イオンプレーティング法を用いるので,空孔率が低く,……拡散防止層を,熱電材料層上に形成できる。」(段落【0013】),「拡散防止層の空孔率は,例えば,0.1%以下である。」(段落【0017】)と記載されるのみである。 そうすると,本願発明6は,イオンプレーティング法を用いることにより,拡散防止層の空孔率が低くなり,その「空孔率」は例えば「0.1%以下」なのであって,「空孔率が0.1%以下となるように形成する」という数値限定によって,拡散防止層の製造条件を特定しているものとは認められない。 また,本願明細書のその他の記載を精査しても空孔率を「0.1%以下」と数値限定したことによる臨界的意義も認められない。 (イ) 次に,熱電材料層に電極等の元素の拡散を防止するために,拡散防止層における気孔率(本願発明6の「空孔率」に相当。)を小さくしたいという課題は,引用例2にも記載されているように当該技術分野において公知の技術課題である。 そして,元素の拡散を防ぐ拡散防止層を形成するための薄膜技術の1つとして,「イオンプレーティング法」も引用例1に列記されており,また,周知例1には,熱電素子の種々の層を形成する方法として「イオンプレーティング法」が記載されていることから,当該技術分野において,成膜方法として「イオンプレーティング法」は周知技術であるといえる。 また,周知例3にも記載されているように,イオンプレーティング法によれば密着性に優れた緻密な薄膜が形成できることも周知の事項である。 そうすると,引用発明において,空孔率を小さくしたい拡散防止層を形成するにあたり,種々ある薄膜技術の中から,緻密な膜を形成するために周知のイオンプレーティング法を選択することは当業者が適宜なし得たことといえ,また,そうすることにより上記(ア)で検討したとおり,拡散防止層の空孔率が「0.1%以下」が達成されていると認められる。 (ウ) したがって,引用発明において,種々ある薄膜技術の中からイオンプレーティング法を用いて拡散防止層を空孔率が0.1%以下となるように形成すること及び半田接合層を形成することは当業者ならば適宜なし得たことである。 以上から,相違点4,5は当業者が容易になし得た範囲に含まれるものである。 オ 以上から,引用発明において,周知技術を勘案し,引用例2に記載の発明を適用することにより,相違点1?5に係る構成をとることは当業者が容易になし得たことである。 したがって,本願発明6は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 5 むすび 以上のとおり,本願の請求項6に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-12-13 |
結審通知日 | 2012-12-18 |
審決日 | 2013-01-09 |
出願番号 | 特願2006-179064(P2006-179064) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山田 正文 |
特許庁審判長 |
鈴木 匡明 |
特許庁審判官 |
西脇 博志 早川 朋一 |
発明の名称 | 熱電素子及びその製造方法、並びに、熱電モジュール |
代理人 | 宇都宮 正明 |