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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1270544
審判番号 不服2012-7981  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-01 
確定日 2013-02-21 
事件の表示 特願2007-131319「エレクトロルミネッセンス装置とその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月27日出願公開、特開2008-288012〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年5月17日を出願日とする特願2007-131319号であって、平成23年7月6日付けで拒絶理由が通知され、同年9月8日付けで意見書が提出されるとともに同日付で手続補正がなされ、同年10月31日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年12月21日付けで意見書が提出されるとともに同日付で手続補正がなされ、平成24年2月2日付けで平成23年12月21日付け手続補正に対する補正の却下の決定がなされ、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において平成24年9月11日付けで前置報告書の内容について請求人に事前に意見を求める審尋をなし、同年11月13日付けで回答書が提出された。

第2 平成24年5月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成24年5月1日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成23年9月8日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「第1の基板と第2の基板とが互いに対向するように設けられたエレクトロルミネッセンス装置であって、
前記第1の基板は、
前記第1の基板上に設けられた、スイッチング素子と、前記スイッチング素子と電気的に接続された発光素子と、を有する表示体層と、
前記表示体層を覆うように設けられた封止層と、を含み、
前記第2の基板は、
前記第2の基板上に設けられた、カラーフィルタ層と、
前記カラーフィルタ層上に設けられた第1スペーサと、
前記第1スペーサ上に設けられた第2スペーサと、を含み、
前記封止層は、前記発光素子上に設けられた陰極保護層、前記陰極保護層上に設けられた有機緩衝層、及び前記有機緩衝層上に設けられたガスバリア層と、を有し、
前記第2スペーサは、前記ガスバリア層の少なくとも一部と接しており、
前記ガスバリア層の弾性率は、前記有機緩衝層の弾性率よりも高く、
前記第2スペーサは、前記第1スペーサ、前記ガスバリア層および前記有機緩衝層よりも弾性率が低いことを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置。」が

「第1の基板と第2の基板とが互いに対向するように設けられたエレクトロルミネッセンス装置であって、
前記第1の基板は、
前記第1の基板上に設けられた、スイッチング素子と、前記スイッチング素子と電気的に接続された発光素子と、を有する表示体層と、
前記表示体層を覆うように設けられた封止層と、を含み、
前記第2の基板は、
前記第2の基板上に設けられた、カラーフィルタ層と、
前記カラーフィルタ層上に設けられた第1スペーサと、
前記第1スペーサ上に設けられた第2スペーサと、を含み、
前記封止層は、前記発光素子上に設けられた陰極保護層、前記陰極保護層上に設けられた有機緩衝層、及び前記有機緩衝層上に設けられたガスバリア層と、を有し、
前記第2スペーサは、前記ガスバリア層と接し、前記発光素子とは接しておらず、
前記平面視において、前記第2スペーサは、前記スイッチング素子および前記発光素子と重なっており、
前記ガスバリア層の弾性率は、前記有機緩衝層の弾性率よりも高く、
前記第2スペーサは、前記第1スペーサ、前記ガスバリア層および前記有機緩衝層よりも弾性率が低いことを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置。」と補正された。(下線は補正箇所を示す。)

そして、この補正は、「第2スペーサ」について「発光素子とは接して」いないこと、及び「平面視において」、「前記スイッチング素子および前記発光素子と重なって」いることを特定する補正事項からなり、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正であるといえる。
すなわち、本件補正における請求項1に係る発明の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものである。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、平成24年5月1日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるものである。(上記の「1 本件補正について」の記載参照。)

(2)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-243154号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下記「イ 引用例1に記載された発明の認定」に直接関与する記載に下線を付した。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高精細で視認性に優れ、携帯端末機または産業用計測器の表示など広範囲な応用可能性を有する有機ELディスプレイに関する。」

「【0015】
【発明の実施の形態】[構成要素]
(1)第1の基板102
第1の基板102として、ガラスやプラスチックなどからなる絶縁性基板、または、半導電性や導電性基板に絶縁性の薄膜を形成した基板を用いることができる。
【0016】(2)TFT104
TFT104は、第1の基板102上にマトリックス状に配置され、各画素に対応した陽極にソース電極が接続される。好ましくは、TFT104は、ゲート電極をゲート絶縁膜の下に設けたボトムゲートタイプで、能動層として多結晶シリコン膜を用いた構造である。
【0017】TFT104のドレイン電極およびゲート電極に対する配線部、並びにTFT自身の構造は、所望される耐圧性、オフ電流特性、オン電流特性を達成するように、当該技術において知られている方法により作成することができる。また、トップエミッション方式を用いる本発明の有機ELディスプレイにおいてはTFT部を光が通過しないので、開口率を増加させるためにTFTを小さくする必要がなく、TFT設計の自由度が高く、上記の特性を達成するために有利である。
【0018】(3)平坦化絶縁膜106
平坦化絶縁膜106が、TFT104の上部に形成される。平坦化絶縁膜106は、TFT104のソース電極またはドレイン電極と第1電極108との接続およびその他の回路の接続に必要な部分以外に設けられ、基板表面を平坦化して引き続く層の高精細なパターン形成を容易にする。平坦化絶縁膜106は、当該技術に知られている任意の材料により形成することができる。好ましくは、ポリイミドまたはアクリル樹脂から形成される。
【0019】(4)第1電極108
第1電極108は、TFT104それぞれに対応して、平坦化絶縁膜106上に形成され、TFT104のソース電極またはドレイン電極と接続される。ソース電極と接続される場合は陽極として機能し、ドレイン電極と接続される場合は陰極として機能する。
【0020】TFT104と第1電極108とは、平坦化絶縁膜内に設けられたコンタクトホールに充填された導電性プラグによって接続される。導電性プラグは、第1電極108と一体に形成されてもよいし、あるいは金、銀、銅、アルミニウム、モリブデン、タングステンなどの低抵抗の金属類を用いて形成されてもよい。
【0021】第1電極108を陽極として用いる場合、正孔の注入を効率よく行うために、仕事関数が大きい材料が用いられる。特に通常の有機EL素子では、陽極を通して光が放出されるために陽極が透明であることが要求され、ITO等の導電性金属酸化物が用いられる。本発明のトップエミッション方式では透明であることは必要ではないが、ITO、IZOなどの導電性金属酸化物を用いて第1電極108を形成することができる。さらに、ITOなどの導電性金属酸化物を用いる場合、その下に反射率の高いメタル電極(Al,Ag,Mo,Wなど)を用いることが好ましい。このメタル電極は、導電性金属酸化物より抵抗率が低いので補助電極として機能すると同時に、有機EL層110にて発光される光を色変換フィルタ150側に反射して光の有効利用を図ることが可能となる。
【0022】第1電極108を陰極として用いる場合、仕事関数が小さい材料であるリチウム、ナトリウム等のアルカリ金属、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属、またはこれらのフッ化物等からなる電子注入性の金属、その他の金属との合金や化合物を用いられる。前述と同様に、その下に反射率の高いメタル電極(Al,Ag,Mo,Wなど)を用いてもよく、その場合には低抵抗化および反射による有機EL層110の発光の有効利用を図ることができる。
【0023】(5)有機EL層110
本発明の色変換方式の有機ELディスプレイにおいては、有機EL層110から発せられる近紫外から可視領域の光、好ましくは青色から青緑色領域の光を色変換フィルタ層に入射させて、所望される色を有する可視光を放出する。
【0024】
有機EL層110は、少なくとも有機EL発光層を含み、必要に応じて、正孔注入層、正孔輸送層、および/または電子注入層を介在させた構造を有する。具体的には、下記のような層構成からなるものが採用される。
(1)有機EL発光層
(2)正孔注入層/有機EL発光層
(3)有機EL発光層/電子注入層
(4)正孔注入層/有機EL発光層/電子注入層
(5)正孔注入層/正孔輸送層/有機EL発光層/電子注入層
(上記において、左側に陽極、右側に陰極が接続される)
【0025】上記各層の材料としては、公知のものが使用される。青色から青緑色の発光を得るためには、有機EL発光層中に、例えばベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、べンゾオキサゾール系などの蛍光増白剤、金属キレート化オキソニウム化合物、スチリルベンゼン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物などが好ましく使用される。
【0026】(6)第2電極112
第2電極112は、有機EL層110に対して効率よく電子または正孔を注入することとともに、有機EL層110の発光波長域において透明であることが求められる。第2電極112は、波長400?800nmの光に対して50%以上の透過率を有することが好ましい。
【0027】第2電極112を陰極として用いる場合、その材料は、電子を効率よく注入するために仕事関数が小さいことが求められる。さらに、有機EL層の発する光の波長域において透明であることが必要とされる。これら2つの特性を両立するために、本発明において陰極112を複数層からなる積層構造とすることが好ましい。なぜなら、仕事関数の小さい材料は、一般的に透明性が低いからである。すなわち、有機EL層110と接触する部位に、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属、またはこれらのフッ化物等からなる電子注入性の金属、その他の金属との合金や化合物の極薄膜(10mm以下)を用いる。これらの仕事関数の小さい材料を用いることにより効率のよい電子注入を可能とし、さらに極薄膜とすることによりこれら材料による透明性低下を最低限とすることが可能となる。該極薄膜の上には、ITOまたはIZOなどの透明導電膜を形成する。これらの導電膜は補助電極として機能し、陰極112全体の抵抗値を減少させ有機EL層110に対して充分な電流を供給することを可能にする。
【0028】第2電極112を陽極として用いる場合、正孔注入効率を高めるために仕事関数の大きな材料を用いる必要がある。また、有機EL層110からの発光が第2電極を通過するために透明性の高い材料を用いる必要がある。したがって、この場合にはITOまたはIZOのような透明導電性材料を用いることが好ましい。
【0029】(7)第1保護層114
以上のように形成される第2電極112以下の各層を覆って第1保護層114が設けられる。第1保護層114は、外部環境からの酸素、低分子成分および水分の透過を防止し、それらによる有機EL層110の機能低下を防止することに有効である。第1保護層114は、有機EL層110の発光を色変換フィルタ層へと透過させるために、その発光波長域において透明であることが好ましい。
【0030】これらの要請を満たすために、第1保護層114は、可視域における透明性が高く(400?800nmの範囲で透過率50%以上)、電気絶縁性を有し、水分、酸素および低分子成分に対するバリア性を有し、好ましくは2H以上の膜硬度を有する材料で形成される。例えば、SiO_(x)、SiN_(x)、SiN_(x)O_(y)、AlO_(x)、TiO_(x)、TaO_(x)、ZnO_(x)等の無機酸化物、無機窒化物等の材料を使用できる。該第1保護層の形成方法としては特に制約はなく、スパッタ法、CVD法、真空蒸着法、ディップ法、ゾル-ゲル法等の慣用の手法により形成できる。
【0031】また、第1保護層として種々のポリマー材料を用いることができる。イミド変性シリコーン樹脂(特開平5-134112号公報、特開平7-218717号公報、特開平7-306311号公報等を参照されたい)、無機金属化合物(TiO、Al_(2)O_(3)、SiO_(2)等)をアクリル、ポリイミド、シリコーン樹脂等の中に分散した材料(特開平5-119306号公報、特開平7-104114号公報等を参照されたい)、アクリレートモノマー/オリゴマー/ポリマーの反応性ビニル基を有した樹脂、レジスト樹脂(特開平6-300910号公報、特開平7-128519号公報、特開平8-279394号公報、特開平9-330793号公報等を参照されたい)、フッ素系樹脂(特開平5-36475号公報、特開平9-330793号公報)、または高い熱伝導率を有するメソゲン構造を有するエポキシ樹脂などの光硬化性樹脂および/または熱硬化性樹脂を挙げることができる。これらポリマー材料を用いる場合にも、その形成法は特に制限はない。たとえば、乾式法(スパッタ法、蒸着法、CVD法など)、あるいは湿式法(スピンコート法、ロールコート法、キャスト法など)のような慣用の手法により形成することができる。
【0032】上述の第1保護層114は、単層であっても、複数の層が積層されたものであってもよい。第1保護層114の厚さ(複数の層の積層物である場合は全厚)は、1?10μmであることが好ましい。
【0033】(8)透明基板116
透明基板116は、色変換フィルタ層によって変換された光に対して透明であることが必要である。また、透明基板116は、色変換フィルタ層および平坦化層の形成に用いられる条件(溶媒、温度等)に耐えるものであるべきであり、さらに寸法安定性に優れていることが好ましい。透明基板116は、波長400?800nmの光に対して50%以上の透過率を有することが好ましい。
【0034】透明基板116の材料として好ましいものは、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート等の樹脂を含む。ホウケイ酸ガラスまたは青板ガラス等が特に好ましいものである。
【0035】(9)色変換フィルタ層
本明細書において、色変換フィルタ層は、カラーフィルタ層118、およびカラーフィルタ層118と蛍光変換層120との積層体の総称である。蛍光変換層120は、有機EL層110にて発光される近紫外領域ないし可視領域の光、特に青色ないし青緑色領域の光を吸収して異なる波長の可視光を蛍光として発光するものである。フルカラー表示を可能にするためには、少なくとも青色(B)領域、緑色(G)領域および赤色(R)領域の光を放出する独立した色変換フィルタ層が設けられる。RGBそれぞれの蛍光変換層は、少なくとも有機蛍光色素とマトリクス樹脂とを含む。
【0036】1)有機蛍光色素
本発明において、好ましくは、少なくとも赤色領域の蛍光を発する蛍光色素の1種類以上を用い、さらに緑色領域の蛍光を発する蛍光色素の1種類以上と組み合わせてもよい。すなわち、光源として青色ないし青緑色領域の光を発光する有機EL層110を用いる場合、有機EL層110からの光を単なる赤色フィルタに通して赤色領域の光を得ようとすると、元々赤色領域の波長の光が少ないために極めて暗い出力光になってしまう。
【0037】したがって、有機EL層110からの青色ないし青緑色領域の光を、蛍光色素によって赤色領域の光に変換することにより、十分な強度を有する赤色領域の光の出力が可能となる。発光体から発せられる青色から青緑色領域の光を吸収して、赤色領域の蛍光を発する蛍光色素としては、例えばローダミンB、ローダミン6G、ローダミン3B、ローダミン101、ローダミン110、スルホローダミン、ベーシックバイオレット11、ベーシックレッド2などのローダミン系色素、シアニン系色素、1-エチル-2-[4-(p-ジメチルアミノフェニル)-1,3-ブタジエニル]-ピリジニウムパークロレート(ピリジン1)などのピリジン系色素、あるいはオキサジン系色素などが挙げられる。さらに、各種染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料など)も蛍光性があれば使用することができる。
【0038】発光体から発せられる青色ないし青緑色領域の光を吸収して、緑色領域の蛍光を発する蛍光色素としては、例えば3-(2’-ベンゾチアゾリル)-7-ジエチルアミノ-クマリン(クマリン6)、3-(2’-ベンゾイミダゾリル)-7-ジエチルアミノ-クマリン(クマリン7)、3-(2’-N-メチルベンゾイミダゾリル)-7-ジエチルアミノ-クマリン(クマリン30)、2,3,5,6-1H,4H-テトラヒドロ-8-トリフルオロメチルキノリジン(9,9a,1-gh)クマリン(クマリン153)などのクマリン系色素、あるいはクマリン色素系染料であるベーシックイエロー51、さらにはソルベントイエロー11、ソルベントイエロー116などのナフタルイミド系色素などが挙げられる。さらに、各種染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料など)も蛍光性があれば使用することができる。
【0039】さらに、青色領域の光に関しては、有機EL層110からの発光を単なる青色フィルタに通して出力させることが可能である。
【0040】なお、本発明に用いる有機蛍光色素を、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、アルキッド樹脂、芳香族スルホンアミド樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂およびこれらの樹脂混合物などに予め練り込んで顔料化して、有機蛍光顔料としてもよい。また、これらの有機蛍光色素や有機蛍光顔料(本明細書中で、前記2つを合わせて有機蛍光色素と総称する)は単独で用いてもよく、蛍光の色相を調整するために2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】本発明に用いる有機蛍光色素は、蛍光変換層に対して、該蛍光変換層の重量を基準として0.01?5質量%、より好ましくは0.1?2質量%含有される。もし有機蛍光色素の含有量が0.01質量%未満ならば、十分な波長変換を行うことができず、あるいは含有量が5%を越えるならば、濃度消光等の効果により色変換効率の低下をもたらす。
【0042】2)マトリクス樹脂
次に、本発明の蛍光変換層に用いられるマトリクス樹脂は、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂(レジスト)を光および/または熱処理して、ラジカル種またはイオン種を発生させて重合または架橋させ、不溶不融化させたものである。また、蛍光変換層のパターニングを行うために、該光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂は、未露光の状態において有機溶媒またはアルカリ溶液に可溶性であることが望ましい。
【0043】具体的には、マトリクス樹脂は、(1)アクロイル基やメタクロイル基を複数有するアクリル系多官能モノマーおよびオリゴマーと、光または熱重合開始剤とからなる組成物膜を光または熱処理して、光ラジカルまたは熱ラジカルを発生させて重合させたもの、(2)ボリビニル桂皮酸エステルと増感剤とからなる組成物を光または熱処理により二量化させて架橋したもの、(3)鎖状または環状オレフィンとビスアジドとからなる組成物膜を光または熱処理してナイトレンを発生させ、オレフィンと架橋させたもの、および(4)エポキシ基を有するモノマーと酸発生剤とからなる組成物膜を光または熱処理により、酸(カチオン)を発生させて重合させたものなどを含む。特に、(1)のアクリル系多官能モノマーおよびオリゴマーと光または熱重合開始剤とからなる組成物を重合させたものが好ましい。なぜなら、該組成物は高精細なパターニングが可能であり、および重合した後は耐溶剤性、耐熱性等の信頼性が高いからである。
【0044】本発明で用いることができる光重合開始剤、増感剤および酸発生剤は、含まれる蛍光変換色素が吸収しない波長の光によって重合を開始させるものであることが好ましい。本発明の蛍光変換層において、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂中の樹脂自身が光または熱により重合することが可能である場合には、光重合開始剤および熱重合開始剤を添加しないことも可能である。
【0045】マトリクス樹脂(蛍光変換層)は、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂、有機蛍光色素および添加剤を含有する溶液または分散液を、支持基板上に塗布して樹脂の層を形成し、そして所望される部分の光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂を露光することにより重合させて形成される。所望される部分に露光を行って光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂を不溶化させた後に、パターニングを行う。該パターニングは、未露光部分の樹脂を溶解または分散させる有機溶媒またはアルカリ溶液を用いて、未露光部分の樹脂を除去するなどの慣用の方法によって実施することができる。
【0046】3)形状
赤色に関しては、蛍光変換層120Rのみから形成されてもよい。しかし、蛍光色素による変換のみでは十分な色純度が得られない場合は、図1(A)に示されるように蛍光変換層120Rとカラーフィルタ層118Rとの積層体としてもよい。カラーフィルタ層118Rを併用する場合、カラーフィルタ層118Rの厚さは1?1.5μmであることが好ましい。
【0047】また、緑色に関しては、蛍光変換層120Gのみから形成されてもよい。しかし、蛍光色素による変換のみでは十分な色純度が得られない場合は、図1(A)に示されるように蛍光変換層120Gとカラーフィルタ層118Gとの積層体としてもよい。カラーフィルタ層118Gを併用する場合、カラーフィルタ層118Gの厚さは1?1.5μmであることが好ましい。あるいはまた、有機EL層110の発光が緑色領域の光を充分に含む場合には、カラーフィルタ層118Gのみとしてもよい。カラーフィルタ層118Gのみを用いる場合、その厚さは0.5?10μmであることが好ましい。
【0048】一方、青色に関しては、図1に示されるようにカラーフィルタ層118Bのみとすることができる。カラーフィルタ層118Bのみを用いる場合、その厚さは0.5?10μmであることが好ましい。
【0049】色変換フィルタ層の形状は、よく知られているように各色ごとに分離したストライプパターンとしてもよいし、各画素のサブピクセルごとに分離させた構造を有してもよい。
【0050】(10)ブラックマスク122
各色に対応する色変換フィルタ層の間の領域には、ブラックマスク122を形成することが好ましい。ブラックマスクを設けることによって、隣接するサブピクセルの色変換フィルタ層への光の漏れを防止して、にじみのない所望される蛍光変換色のみを得ることが可能となる。各々の色変換フィルタ層の間の領域に留まらず、透明基板116上の色変換フィルタ層が設けられていない領域全体にブラックマスクを設けてもよい。ブラックマスク122は、好ましくは0.5?2.0μmの厚さを有する。
【0051】(11)第2保護層124
色変換フィルタ層およびブラックマスクを覆って、第2保護層124が形成される。第2保護層124は、外部環境からの酸素、低分子成分および水分の透過を防止し、それらによる色変換フィルタ層の機能低下を防止することに有効である。第2保護層124は、有機EL層110の発光を色変換フィルタ層へと透過させるために、その発光波長域において透明であることが好ましい。すなわち、第2保護層124は、波長400?800nmの光に対して50%以上の透過率を有することが好ましい。第2保護層124を形成する好ましい材料は、第1保護層114に関して記載したものと同一である。
【0052】(12)支柱126
支柱126は、ディスプレイ駆動時の熱応力および外部から印加される力を発散させるために設けられる。支柱126を形成する材料として、絶縁性の無機および有機材料を用いることができる。たとえば、エッチングまたはリフトオフによりパターニングされる酸化ケイ素、フォトリソグラフ法によりパターニングされるアクリル樹脂またはノボラック樹脂をベースとする感光性フォトレジスト、あるいはエッチングによりパターニングされるポリイミドもしくはシリコーンゴムなどを用いることができる。
【0053】特に、支柱126として、圧縮弾性率が0.5?50kg/mm^(2)(4.9?490MPa)程度の弾性材料を用いることが好ましい。なぜなら基板間に発生する応力を、支柱126が弾性変形することにより緩和することができるからである。
【0054】また、支柱126の表面は、純水に対して40゜未満の接触角を有することが好ましい。このような接触角を有することによって、貼り合わせの後に充填剤層128の形成を行う場合(後述)に、充填剤の充填を円滑に行うこと、および未充填区域の発生を抑制することが可能となる。40゜未満の接触角を実現するために、UV照射あるいはArプラズマ暴露などの表面改質を用いることができる。たとえば、UV照射を行う場合、酸素または大気雰囲気において、低圧水銀ランプまたは高圧水銀ランプを用いて実施することができる。
【0055】(13)充填剤層128
充填剤層128は、従来法のディスプレイ(図6)において形成される内部空間620を充填して、有機EL層110の発光の内部空間界面における反射を抑制し、該発光を色変換フィルタへと効率よく透過させるために設けられる。充填剤層128は、波長400?800nmの光に対して50%以上の可視光透過率と、1.3?2.5の屈折率とを有する材料から形成される。そのような材料の例は、SiO_(x)、SiO_(x)N_(y)、AlN_(x)、SiAlO_(x)N_(y)、およびTiO_(x)のような無機材料、ならびに、アクリル樹脂、シリコンゲルおよびシリコーンゴムのような有機材料を含む。
【0056】充填剤は、2つの基板を貼り合わせる前に、有機EL発光素子あるいは色変換フィルタ上に塗布または分散されてもよいし、それらが貼り合わされた後に、封止層130に設けられた注入口を通して、基板間の間隙に充填されてもよい。
【0057】あるいはまた、フォトレジストなどのような光硬化性または熱硬化性材料を充填剤として用いる場合、貼り合わせの前に、その一部を光および/または熱により硬化させて支柱126とし、残りの未硬化部分を充填剤層128とすることができる。該材料は、有機EL発光素子側または色変換フィルタ側のどちらに塗布してもよい。
【0058】このような充填剤を用いることにより、有機EL層110からの発光の伝達経路の屈折率差を小さくすることができ、各界面における反射を抑制し、色変換フィルタ層への光の伝達をより効率的に行うことが可能となる。
【0059】(14)封止層130
封止層130は、基板外周部に設けられ、有機EL発光素子と色変換フィルタを接着するとともに、内部の各構成要素を外部環境の酸素、水分などから保護するために設けられる。封止層130は、熱硬化型または紫外線硬化型接着剤から形成され、直径3?50μm、好ましくは直径3?20μmのガラスビーズ、シリカビーズなどを含む。これらのビーズ類は、有機EL発光素子と色変換フィルタとの貼り合わせにおいて、基板間距離を規定するとともに、接着のために印加される圧力を負担する。さらに、ディスプレイ駆動時に発生する応力(特にディスプレイ外周部における応力)も負担して、該応力によるディスプレイの劣化を防止する。
【0060】充填剤層128が有機EL発光素子と色変換フィルタとの貼り合わせ後の充填剤の注入により形成される場合、封止層130の一部に未形成部分(図4の400)を設けてC形状とし、該未形成部分を充填剤注入口として使用することができる。この注入口は、充填剤の注入終了後に、封止層材料を付着および硬化させてふさぐことができる。あるいはまた、充填剤層128が接着前の塗布または分散により形成される場合には、未形成部分を設けずに□型に形成することができる。
【0061】[第1実施形態]本発明の第1の実施形態は、図1に示されるように、有機EL発光素子160と、支柱126を有する色変換フィルタ150とを貼り合わせて形成される有機ELディスプレイ140である。
【0062】色変換フィルタ150は、透明基板116上に、RGB各色に対応する色変換フィルタ層と、それらの間および周囲に位置するブラックマスク122と、必要に応じて第2保護層124と、支柱126とを形成することにより得られる。図2に示される実施形態において、赤色変換フィルタ層は、赤色カラーフィルタ層118Rと赤色蛍光変換層120Rからなり、緑色変換フィルタ層は、緑色カラーフィルタ層118Gと緑色蛍光変換層120Gからなり、および青色変換フィルタ層は、青色カラーフィルタ層118Bからなる。支柱126は、フィルファクターに影響しない部位、たとえばブラックマスク122上方に設けることが望ましい。
【0063】図3に、支柱126の配置方法の例を示す。本実施形態においては、領域300は色変換フィルタ層が形成されている領域に相当し、領域302はブラックマスク122が形成されている領域に相当する。図3(A)のように、ブラックマスクのパターン302に沿ってライン状の形状を有してもよいし、あるいは図3(B)のように井形形状を有してもよい。これらの形状を有する場合、有機EL発光素子160と色変換フィルタ150との貼り合わせ後の充填剤の充填を考慮すると、支柱126は、充填剤が広がるあるいは流れやすい形状および配置密度を有する必要がある。たとえば、図4に示されるように、封止層130の一部に形成される充填剤注入口400から充填剤を注入する工程を採る場合には、充填剤が流れやすいように支柱は注入口に垂直な方向を向いたライン状に形成されることが望ましい。また、充填剤の充填を補助するために、支柱126は、図3(C)に示されるように井形形状の一部を除去したような形状を有してもよい。
【0064】あるいはまた、図3(D)に示されるように、支柱126が円柱ないし角柱(四角柱、三角柱など)の形状を有してもよい。この場合にも、支柱126はブラックマスクのパターン302上に形成されることが好ましい。
【0065】支柱126は、好ましくは1?10μmの高さを有することが好ましい。特に、第1保護層114表面との間に0.5?2μmの間隙を形成する高さを有することが好ましい。このような間隙を形成することにより、有機EL発光素子と色変換フィルタとの接着時の接着圧力を封止層130に負担させ、支柱126が駆動時の熱応力および外部からの印加圧力を負担するようにすることが可能となる。
【0066】あるいはまた、支柱126が0.5?50kg/mm^(2)(4.9?490MPa)程度の圧縮弾性率を有する弾性材料から形成される場合には、前記の間隙を形成しなくてもよい。この場合には、接着時に支柱126と有機EL発光素子160が接触し、支柱126に接着圧力が印加されるが、支柱126が弾性変形することにより、有機EL発光素子160を傷つけ、その機能を損なうことはない。
【0067】1つの支柱に印加される力は10gf(9.8mN)未満であることが望ましい。たとえば、有機EL発光素子160と色変換フィルタ150との間に印加される圧力を0.01kg/mm^(2)(0.1MPa)とすると、1個/mm^(2)以上の形成密度で支柱を形成することが好ましい。
【0068】また、色変換フィルタ150の表面(本実施例においては第2保護層124)および支柱126の表面は、純水に対して40゜未満の接触角を有することが好ましい。このような接触角を有することによって、充填剤の充填を円滑に行うこと、および未充填区域の発生を抑制することが可能となる。UV照射あるいはArプラズマ暴露などの表面改質を用いて、40゜未満の接触角を実現してもよい。たとえば、UV照射を行う場合、酸素または大気雰囲気において、低圧水銀ランプまたは高圧水銀ランプを用いて実施することができる。
【0069】有機EL発光素子160は、第1の基板102上に、TFT104、平坦化絶縁層106、第1電極108、有機EL層110、第2電極112および第1保護層114を有する。
【0070】色変換フィルタ160の表面(本実施例においては第1保護層114)も同様に、純水に対して40゜未満の接触角を有することが好ましい。これによって、充填剤の充填を円滑に行うこと、および未充填区域の発生を抑制することが可能となる。UV照射あるいはArプラズマ暴露などの表面改質を用いて、40゜未満の接触角を実現してもよい。たとえば、UV照射を行う場合、酸素または大気雰囲気において、低圧水銀ランプまたは高圧水銀ランプを用いて実施することができる。
【0071】有機EL発光素子の外周部に、乾燥窒素雰囲気下(望ましくは、酸素および水分濃度ともに1ppm以下)において、所望の接着距離を与えるように封止層130を形成する。貼り合わせの後に充填剤層128の形成を行う場合には、封止層130は、注入口400として用いる1つ未形成部分を有してC形状に形成される(図4参照)。あるいはまた、複数の注入口を形成してもよい。貼り合わせ前に充填剤層128が形成されている場合には、封止層130を□型に形成してもよい。
【0072】続いて、第1電極108(すなわち有機EL発光素子の発光部)と色変換フィルタ層とを位置合わせして、有機EL発光素子と色変換フィルタとを貼り合わせる。この位置合わせにより、支柱126は、第1電極108間の間隙に対応して位置することとなる。従って、支柱126が駆動時の熱応力または外部からの印加圧力を負担したとしても、有機EL発光素子の発光部に影響を与えることなしに、色変換フィルタ層と第2電極との接触、ひいては素子の破壊を防止することが可能となる。貼り合わせの後に、熱印加または紫外線照射により封止層を硬化させる。」

「【図1】



「【図3】



イ 引用例1に記載された発明の認定
【0069】から「有機EL発光素子160」が「第1の基板102」を備えていることは明らかであり、【0062】から「色変換フィルタ150」が「透明基板116」を備えていることは明らかである。
【図1】から「支柱126」が「第1保護層114」と接し、「第1電極108、有機EL層110、第2電極112」とは接していないことがわかる。
また、【図1】から「有機EL層110」及び「第2電極112」は、横方向全体に渡って広がっていることを踏まえると、平面視において【図3】(A)?(C)の「支柱126」を想定した場合、平面視において、支柱126が、有機EL層110及び第2電極112と重なることは明らかである。また、【図1】から「第1保護層114」も、横方向全体に渡って広がっているといえる。
さらに、【図1】から、「支柱126」は「第1保護層114」と「第2保護層124」の間に位置していることがわかる。
上記記載(図面の記載も含む)から、引用例1には、
「第1の基板102を備えた有機EL発光素子160と、透明基板116を備えた色変換フィルタ150とを貼り合わせて形成される有機ELディスプレイ140であり、
有機EL発光素子160は、第1の基板102上に、TFT104、平坦化絶縁層106、第1電極108、有機EL層110、第2電極112および第1保護層114を有し、
第1保護層114は、横方向全体に渡って広がっており、外部環境からの酸素、低分子成分および水分の透過を防止し、それらによる有機EL層110の機能低下を防止することに有効であり、
色変換フィルタ150は、透明基板116上に、RGB各色に対応する色変換フィルタ層と、それらの間および周囲に位置するブラックマスク122と、第2保護層124と、支柱126とを形成することにより得られ、
第2保護層124を形成する材料は、第1保護層114と同一であり、
支柱126は、第1保護層114と接し、第1電極108、有機EL層110、第2電極112とは接しておらず、
平面視において、支柱126が、有機EL層110及び第2電極112と重なり、
支柱126は第1保護層114と第2保護層124の間に位置し、支柱126として、圧縮弾性率が0.5?50kg/mm^(2)(4.9?490MPa)程度の弾性材料を用い、基板間に発生する応力を、支柱126が弾性変形することにより緩和することができる有機ELディスプレイ140。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

ウ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-222070号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審において付した。)

「【0018】
以下、本発明の発光装置、発光装置の製造方法、及び電子機器の実施形態について図を参照して説明する。なお、発光装置として、有機機能材料の一例である有機エレクトロルミネッセンス(EL)材料を用いたEL表示装置について説明する。
【0019】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係るEL表示装置1の配線構造を示す図である。
EL表示装置1は、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下TFTと略記する)を用いたアクティブマトリクス型のEL表示装置である。
なお、以下の説明では、EL表示装置1を構成する各部位や各層膜を認識可能とするた
めに、各々の縮尺を異ならせている。」

「【0022】
このEL表示装置1によれば、走査線101が駆動されてスイッチング用TFT112がオン状態になると、そのときの信号線102の電位が保持容量113に保持され、該保持容量113の状態に応じて、駆動用TFT123のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用TFT123のチャネルを介して、電源線103から画素電極23に電流が流れ、さらに機能層110を介して陰極50に電流が流れる。機能層110は、これを流れる電流量に応じて発光する。
【0023】
次に、EL表示装置1の具体的な構成について図2?図5を参照して説明する。
EL表示装置1は、図2に示すように電気絶縁性を備えた基板20と、スイッチング用TFT(図示せず)に接続された画素電極が基板20上にマトリックス状に配置されてなる画素電極域(図示せず)と、画素電極域の周囲に配置されるとともに各画素電極に接続される電源線(図示せず)と、少なくとも画素電極域上に位置する平面視ほぼ矩形の画素部3(図2中一点鎖線枠内)とを具備して構成されたアクティブマトリクス型のものである。
なお、本発明においては、基板20と後述するようにこれの上に形成されるスイッチング用TFTや各種回路、及び層間絶縁膜などを含めて、基体200と称している。(図3、4参照)」

「【0037】
陰極50の上層部には、図3,図4に示すように、陰極保護層(電極保護層)55が形成されている。この陰極保護層55は、有機緩衝層210の形成時の有機溶剤や残留水分等に起因する、製造プロセス時における陰極50の腐食やダメージを防止するために設けられるものである。
陰極保護層55は、透明性、緻密性、耐水性、ガスバリア性を考慮して、緻密かつ高弾性率の珪素酸窒化物などの窒素を含む珪素化合物や、酸化チタン等の金属化合物などの無機化合物により形成されたものが好ましい。陰極保護層55を形成する材料の弾性率としては、100GPa以上が好ましい。
また、陰極保護層55の形成方法としては、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法等の高密度プラズマ成膜法が用いられる。なお、陰極保護層55の膜厚は、クラック発生を防ぐため、200nm以下が好ましく、特に30?100nmが好ましい。
なお、陰極保護層55は、基体200の外周部の絶縁層284に接触するように陰極を被覆し、30nmから100nm程度の厚みに形成される。
【0038】
陰極保護層55の上層部には、図2?図4に示すように、有機隔壁層221よりも広い範囲で、かつ陰極50を覆った状態で有機緩衝層210が設けられる。なお、有機緩衝層210は、画素部3上に形成された陰極50を覆う場合、更に基体200の外周部の陰極用配線202上に形成された陰極50も覆う場合、のいずれであってもよい。
有機緩衝層210は、有機隔壁層221の形状の影響により、凸凹状に形成された陰極50の凸凹部分を埋めるように配置され、更に、その上面は略平坦に形成される。有機緩衝層210は、基体200の反りや体積膨張により発生する応力を緩和し、不安定な有機隔壁層221からの陰極50の剥離を防止する機能を有する。また、有機緩衝層210の上面が略平坦化されるので、有機緩衝層210上に形成される硬い被膜からなるガスバリア層30も平坦化されるので、応力が集中する部位がなくなり、これにより、ガスバリア層30へのクラックの発生を防止する。
【0039】
有機緩衝層210は、硬化前の原料主成分としては、減圧真空下で印刷形成するために、流動性に優れ、かつ溶媒成分がない、全てが高分子骨格の原料となる有機化合物材料である必要があり、好ましくはエポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー/オリゴマーが用いられる(モノマーの定義:分子量1000以下、オリゴマーの定義:分子量1000?3000)。例えば、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3',4'-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε-カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3',4'-エポキシシクロヘキサンカルボキレートなどがあり、これらが単独もしくは複数組み合わされて用いられる。
【0040】
また、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤としては、電気絶縁性や接着性に優れ、かつ硬度が高く強靭で耐熱性に優れる硬化被膜を形成するものが良く、透明性に優れ、かつ硬化のばらつきの少ない付加重合型がよい。例えば、3-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸、メチル-3,6-エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などの酸無水物系硬化剤が好ましい。さらに、酸無水物の反応(開環)を促進する反応促進剤として1,6-ヘキサンジオールなど分子量が大きく揮発しにくいアルコール類を添加することで低温硬化しやすくなる。これらの硬化は60?100℃の範囲の加熱で行われ、その硬化被膜はエステル結合を持つ高分子となる。
更に、酸無水の開環を促進する硬化促進剤として、芳香続アミンやアルコール類、アミノフェノールなどの比較的分子量の高いものを添加することで、低温かつ短時間での硬化が可能となる。
硬化時間を短縮するためによく用いられるカチオン放出タイプの光重合開始剤を用いると、膜が着色してしまったり急激な硬化収縮により発光層60に応力が加わり剥離等が発生するので好ましくないが、触媒としての光反応剤や陰極50やガスバリア層30との密着性を向上させるシランカップリング剤、イソシアネート化合物等の補水剤、硬化時の収縮を防ぐ微粒子などの添加剤が混入されていてもよい。
【0041】
これらの原料毎の粘度は、1000mPa・s(室温:25℃)以上が好ましい。塗布直後に発光層60へ浸透して、ダークスポットと呼ばれる非発光領域を発生させないためである。また、これらの原料を混合した緩衝層形成材料の粘度としては、500?20000mPa・s、特に2000?10000mPa・s(室温)が好ましい。
【0042】
また、有機緩衝層210の膜厚としては、3?10μmが好ましい。有機緩衝層210の膜厚が3μm以上であれば、クリーンルームでも除去が難しいような1μm以下の異物が混入した場合であってもガスバリア層30の欠陥発生を防止することができるからである。
また、硬化後の特性としては、有機緩衝層210の弾性率が1?10GPaであることが好ましい。10GPa以上では、有機隔壁層221上を平坦化した際の応力を吸収することができず、1GPa以下では耐摩耗性や耐熱性等が不足するためである。
【0043】
有機緩衝層210の形成は、減圧真空下におけるスクリーン印刷法を用いて、陰極保護層55上に塗布することが好ましい。スクリーンメッシュに乳剤硬化物で非塗布領域をパターン形成したマスクを基体200に接触させて、スキージで押し付けることで、有機緩衝層形成材料を基体200上(陰極保護層55上)に転写する。減圧雰囲気で塗布(転写)が行われるので、水分の少ない環境を維持しつつ、転写時に塗布面に発生する気泡を除去することができる。
【0044】
なお、有機緩衝層210を形成する材料としては、親油性で低吸水性を有する高分子材料、例えば、ポリオレフィン系またはポリエーテル系を用いてもよい。また、メチルトリメトキシシランやテトラエトキシシランなどのアルコキシシランを加水分解させて縮合させた有機珪素ポリマーを用いてもよい。また、アクリルポリオールやメタクリポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリウレタンポリオール、を主成分とし、トリレンジイソシアネートやキシリレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物を重合した高分子誘導体や、ビスフェノール系エポキシ化合物にジカルボン酸無水物化合物やアミン化合物などを重合した高分子誘導体等を採用してもよい。
更に、3-アミノプロピルトリメトキシシランや3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤等の珪素化合物を含んだ高分子を用いることにより、陰極50やガスバリア層30等の無機材料との界面の接着性を向上させることができる。
【0045】
また、有機緩衝層210を形成する材料としてボトムエミション型など透明性が必要の無い場合は、紫外線などに反応する光開始剤を用いた材料も選択できる。特に、紫外線と熱硬化を用いることにより、硬化収縮を抑えながら、その後の加熱硬化時間の短縮による生産効率の向上が得られる。この場合には、陰極保護層55が紫外線吸収材料により形成されるようにすることが望ましく、例えば酸化チタンや酸化亜鉛、インジウム錫酸化物(ITO)などのエネルギーバンドギャップが2?4eVの酸化物半導体材料が陰極保護層の少なくとも一部に使われることで、有機緩衝層210を透過した紫外線を陰極保護層55で吸収させることにより、有機緩衝層210に照射した紫外線が発光層60に悪影響を与えることを防止する。また、硬化収縮を防止する微粒子等の添加剤を混入してもよい。
【0046】
更に、有機緩衝層210の上層部には、図2?図4に示すように、中間保護層212が形成されている。
中間保護層212を形成する材料としては、弾性率がガスバリア層30よりも低く、有機緩衝層210よりも高いものである。具体的には、弾性率が10?100GPa(1?10(×10^(10)Nm^(-2)))の材料を好適に用いることができる。
例えば、窒化物や酸化物に比べて弾性率の低い金属、又は弗化化合物等が好ましい。特に、LiF、MgF2等のアルカリハライド(弾性率15?68GPa)、Mg(弾性率41GPa)、Zn(弾性率43GPa)、Al(弾性率69GPa)、Ag(弾性率76GPa)、SiO2(弾性率94GPa)、NaF(弾性率50GPa)、Sn(弾性率55GPa)等の無機材料を用いることができる。
なお、有機緩衝層210の弾性率は、10GPa以下である。例えば、有機緩衝層210をエポキシ樹脂により形成した場合には、弾性率は、3?5GPa(0.3?0.5×10^(10)Nm^(-2))である。また、ガスバリア層30の弾性率は、100GPa以上である。例えば、ガスバリア層30を窒化珪素、酸窒化珪素により形成した場合には、弾性率は、200?400GPa(20?40(×10^(10)Nm^(-2)))である。
【0047】
なお、中間保護層212を形成する材料としては、金属に限らず、樹脂であってもよい。この場合には、樹脂中にフィラー等の微粒子213を添加(含有)して、弾性率を調整することが好ましい(図5参照)。微粒子213を含有させることにより、被膜形成時や温度変化に対して体積変化を起こしづらくなり、更にガスバリア層30への負担を軽減させることができる。なお、微粒子213としては、有機高分子材料または無機酸化物材料、例えばポリエステルやPMMA(ポリメチルメタクリレート)、シリカやアルミナが好ましい。
また、中間保護層212を形成する材料としては、有機緩衝層210とガスバリア層30に対して、密着性が良好に得られるものを採用することが好ましい。
【0048】
なお、中間保護層212は、少なくとも有機緩衝層210の外周領域を覆い、更に有機緩衝層210の外側の領域まで形成されることが好ましい。有機緩衝層210における平坦領域は、発光層60からの光が透過するとともに、この領域を覆うガスバリア層30にはクラック等が発生しづらいからである。すなわち、中間保護層212は、有機緩衝層210の平坦領域には開口を有し、有機緩衝層210の外周領域のみを覆うように形成される。つまり、クラック等が発生やすいガスバリア層30の外周領域の下層に中間保護層212を配置する。
【0049】
更に、中間保護層212の上層部には、図2?図4に示すように、ガスバリア層30が形成されている。
ガスバリア層30は、酸素や水分が浸入するのを防止するためのもので、これにより酸素や水分による陰極50や発光層60の劣化等を抑えることができる。
また、ガスバリア層30は、例えば無機化合物からなるもので、好ましくは珪素化合物、特に耐水性に優れる窒素を含有する珪素窒化物や珪素酸窒化物などによって形成される。更に、水蒸気などのガスを遮断するため緻密で欠陥の無い被膜にする必要があり、好適には低温で緻密な膜を形成できる高密度プラズマ成膜法を用いて形成する。なお、珪素化合物以外でも、例えばアルミニウム酸化物や酸化タンタル、酸化チタン、さらには他のセラミックスなどからなっていてもよい。
ガスバリア層30の弾性率は、100GPa以上、具体的には200?250Pa程度が好ましい。
【0050】
更に、ガスバリア層30としては、積層構造としてもよいし、その組成を不均一にして特にその酸素濃度が連続的に、あるいは非連続的に変化するような構成としてもよい。
また、このようなガスバリア層30の厚さとしては、30nm以上、1000nm以下であるのが好ましい。特に、ガスバリア層30の膜厚は、200?600nm程度が好ましい。
30nm未満であると、膜の欠陥や膜厚のバラツキなどによって部分的に貫通孔が形成されてしまい、ガスバリア性が損なわれてしまうおそれがあるからであり、1000nmを越えると、応力による割れが生じてしまうおそれがあるからである。
また、同様の問題から、中間保護層212とガスバリア層30の合計膜厚は1000nm以下にすることが好ましい。
また、本実施形態ではトップエミッション型としていることから、ガスバリア層30は透光性を有する必要があり、したがってその材質や膜厚を適宜に調整することにより、本実施形態では可視光領域における光線透過率を例えば80%以上にしている。
【0051】
ここで、有機緩衝層210の端部(外周領域)の構造について、図5を参照して説明する。図5は、有機緩衝層210の端部(外周領域)を示す拡大図である。
有機緩衝層210は、陰極保護層55上に形成されるようになっており、その端部においては陰極保護層55の表面と接触角αで接触している。ここで、接触角αは45°以下であり、より好ましくは、1°?20°程度であることが好ましい。このように有機緩衝層210が形成されることにより、この有機緩衝層210の上層に形成される中間保護層212やガスバリア層30は有機緩衝層210の形状に倣って、形成される。これにより、ガスバリア層30の端部に急激な形状変化がなくなり、なだらかに形状が変化するので、応力集中によるクラック等の欠陥の発生を防止できる。
特に、ガスバリア層30が、最もクラックが発生しやすい有機緩衝層210の端部(外周領域)において、中間保護層212を介して有機緩衝層210上に配置される。すなわち、中間保護層212が有機緩衝層210よりも外側の領域まで配置され、更にガスバリア層30が中間保護層212よりも外側の領域まで配置される。このように、中間保護層212及びガスバリア層30を有機緩衝層210上に配置することにより、ガスバリア層30における応力集中によるクラック等の欠陥の発生を更に効果的に防止することができる。また、ガスバリア層30が中間保護層212の外側の領域まで配置されることにより、中間保護層212が水分や酸素等に触れて劣化することも防止できる。したがって、長期間に渡り、封止能力を維持することが可能となる。
【0052】
図3,図4に戻り、ガスバリア層30の上層部には、ガスバリア層30を覆う保護層2
04が設けられる。この保護層204は、ガスバリア層30側に設けられた接着層(樹脂
接着層)205と表面保護基板(保護基体)206とからなる。
接着層205は、ガスバリア層30上に表面保護基板206を固定させ、かつ外部からの機械的衝撃に対して緩衝機能を有し、発光層60やガスバリア層30の保護をするものである。当該接着層205に表面保護基板206が貼り合わされることで、保護層204が形成されている。接着層205は、例えばウレタン系、アクリル系、エポキシ系、ポリオレフィン系などの樹脂で、表面保護基板206より柔軟でガラス転移点の低い材料からなる接着剤によって形成されたものである。また、透明樹脂材料が好ましい。また、低温で硬化させるため硬化剤を添加する2液混合型の材料によって形成されたものでもよい。
なお、このような接着層205には、シランカップリング剤またはアルコキシシランを添加しておくのが好ましく、このようにすれば、形成される接着層205とガスバリア層30との密着性がより良好になり、したがって機械的衝撃に対する緩衝機能が高くなる。
また、特にガスバリア層30が珪素化合物で形成されている場合などでは、シランカップリング剤やアルコキシシランによってこのガスバリア層30との密着性を向上させることができ、したがってガスバリア層30のガスバリア性を高めることができる。
【0053】
表面保護基板206は、接着層205上に設けられて、保護層204の表面側を構成するものであり、耐圧性や耐摩耗性、外部光反射防止性、ガスバリア性、紫外線遮断性などの機能の少なくとも一つを有してなる層である。
表面保護基板206の材質は、ガラス、DLC(ダイアモンドライクカーボン)層、透明プラスチック、透明プラスチックフィルムが採用される。ここで、プラスチック材料としては、例えば、PET、アクリル、ポリカーボネート、ポリオレフィン等が採用される。
更に、当該表面保護基板206には、紫外線遮断/吸収層や光反射防止層、放熱層、レンズ、色波長変換層やミラー等の光学構造が設けられていてもよい。また、カラーフィルタ機能を設けてもよい。
なお、この例のEL表示装置においては、トップエミッション型にする場合に表面保護基板206、接着層205を共に透光性のものにする必要があるが、ボトムエミッション型とする場合にはその必要はない。」

「【図2】


【図3】


【図4】



(3)本願補正発明と引用発明との対比
ア 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「第1の基板102」、「透明基板116」及び「有機ELディスプレイ140」が、それぞれ、本願補正発明の「第1の基板」、「第2の基板」及び「エレクトロルミネッセンス装置」に相当するから、引用発明の「第1の基板102を備えた有機EL発光素子160と、透明基板116を備えた色変換フィルタ150とを貼り合わせて形成される有機ELディスプレイ140」が、本願補正発明の「第1の基板と第2の基板とが互いに対向するように設けられたエレクトロルミネッセンス装置」に相当する。

本願明細書の【0037】には、「発光素子114は、画素電極32、発光層を含む機能層34、及び共通電極である陰極層36からなる。」と記載されていることから、引用発明の「第1電極108、有機EL層110、第2電極112」が、本願補正発明の「発光素子」に相当する。また、引用発明の「TFT104」が本願補正発明の「スイッチング素子」に相当し、引用発明の「横方向全体に渡って広がっており、外部環境からの酸素、低分子成分および水分の透過を防止し、それらによる有機EL層110の機能低下を防止することに有効であ」る「第1保護層114」が、本願補正発明の「表示体層を覆うように設けられた封止層」に相当するから、引用発明の「有機EL発光素子160は、第1の基板102上に、TFT104、平坦化絶縁層106、第1電極108、有機EL層110、第2電極112および第1保護層114を有」し「第1保護層114は、横方向全体に渡って広がっており、外部環境からの酸素、低分子成分および水分の透過を防止し、それらによる有機EL層110の機能低下を防止することに有効で」あることが、本願補正発明の「前記第1の基板は、前記第1の基板上に設けられた、スイッチング素子と、前記スイッチング素子と電気的に接続された発光素子と、を有する表示体層と、前記表示体層を覆うように設けられた封止層と、を含」むことに相当する。

引用発明の「色変換フィルタ層」、「第2保護層124」及び「支柱126」が、それぞれ、本願補正発明の「カラーフィルタ層」、「第1スペーサ」及び「第2スペーサ」に相当するから、引用発明の「色変換フィルタ150は、透明基板116上に、RGB各色に対応する色変換フィルタ層と、それらの間および周囲に位置するブラックマスク122と、第2保護層124と、支柱126とを形成することにより得られ」ることが、本願補正発明の「前記第2の基板は、前記第2の基板上に設けられた、カラーフィルタ層と、前記カラーフィルタ層上に設けられた第1スペーサと、前記第1スペーサ上に設けられた第2スペーサと、を含」むことに相当する。

本願補正発明の「前記封止層は、前記発光素子上に設けられた陰極保護層、前記陰極保護層上に設けられた有機緩衝層、及び前記有機緩衝層上に設けられたガスバリア層と、を有し」の記載から、本願補正発明において、「ガスバリア層」は、「封止層」の最上の層であり、また、上述のように本願補正発明における「発光素子」は、本願明細書の【0037】に記載された「画素電極32、発光層を含む機能層34、及び共通電極である陰極層36からなる」ものといえるから、引用発明の「支柱126は、第1保護層114と接し、第1電極108、有機EL層110、第2電極112とは接して」いない点と、本願補正発明の「前記第2スペーサは、前記ガスバリア層と接し、前記発光素子とは接して」いない点は、「前記第2スペーサは、前記封止層と接し、前記発光素子とは接して」いない点で一致する。

本願明細書の【0037】には、「発光素子114は、画素電極32、発光層を含む機能層34、及び共通電極である陰極層36からなる。」と記載されており、本願補正発明においては、「発光層を含む機能層」及び「共通電極である陰極層」は、「発光素子」の構成要素の一部であるといえるから、引用発明の「平面視において、支柱126が、有機EL層110及び第2電極112と重な」る点と、本願補正発明の「前記平面視において、前記第2スペーサは、前記スイッチング素子および前記発光素子と重なって」いる点とは、「前記平面視において、前記第2スペーサは、前記発光素子の一部と重なって」いる点、すなわち、「前記平面視において、前記第2スペーサは、前記発光素子と重なって」いる点で一致する。

引用発明において「支柱126は第1保護層114と第2保護層124の間に位置し」、「基板間に発生する応力を、支柱126が弾性変形することにより緩和する」ることから、引用発明においては、「支柱126」は、「第1保護層114」及び「第2保護層124」よりも弾性率が低いといえる。よって、引用発明の「支柱126は第1保護層114と第2保護層124の間に位置し、支柱126として、圧縮弾性率が0.5?50kg/mm^(2)(4.9?490MPa)程度の弾性材料を用い、基板間に発生する応力を、支柱126が弾性変形することにより緩和することができる」ことと、本願補正発明の「前記第2スペーサは、前記第1スペーサ、前記ガスバリア層および前記有機緩衝層よりも弾性率が低い」することとは、「前記第2スペーサは、前記第1スペーサ、前記封止層よりも弾性率が低い」することで一致する。

イ 一致点
よって、本願補正発明と引用発明は、
「第1の基板と第2の基板とが互いに対向するように設けられたエレクトロルミネッセンス装置であって、
前記第1の基板は、
前記第1の基板上に設けられた、スイッチング素子と、前記スイッチング素子と電気的に接続された発光素子と、を有する表示体層と、
前記表示体層を覆うように設けられた封止層と、を含み、
前記第2の基板は、
前記第2の基板上に設けられた、カラーフィルタ層と、
前記カラーフィルタ層上に設けられた第1スペーサと、
前記第1スペーサ上に設けられた第2スペーサと、を含み、
前記第2スペーサは、前記封止層と接し、前記発光素子とは接しておらず、
前記平面視において、前記第2スペーサは、前記発光素子と重なっており、
前記第2スペーサは、前記第1スペーサ、前記封止層よりも弾性率が低いエレクトロルミネッセンス装置。」の発明である点で一致し、次の点で相違する。

ウ 相違点
(ア)相違点1
「封止層」について、本願補正発明は、「封止層」は「前記発光素子上に設けられた陰極保護層、前記陰極保護層上に設けられた有機緩衝層、及び前記有機緩衝層上に設けられたガスバリア層と、を有し」、「前記ガスバリア層の弾性率は、前記有機緩衝層の弾性率よりも高」いのに対して、引用発明においては、その点の特定はなく、また、第2スペーサと封止層の弾性率の関係について、本願補正発明においては「前記第2スペーサ」は「(封止層の構成部材である)前記ガスバリア層および前記有機緩衝層よりも弾性率が低い」のに対して、引用発明においては、「支柱126」(本願補正発明の「第2スペーサ」に相当)は「第1保護層114」(本願補正発明の「封止層」に相当)よりも弾性率が低いものの、上記「第1保護層114」が「ガスバリア層」、「有機緩衝層」および「陰極保護層」からなるものではないため、「支柱126」(本願補正発明の「第2スペーサ」に相当)は「前記ガスバリア層および前記有機緩衝層よりも弾性率が低い」という特定がなく、さらに、第2スペーサと封止層とが接することに関して、本願補正発明においては、「第2スペーサは、(封止層のうちの)ガスバリア層に接している」のに対し、引用発明においては、「第1保護層114」(本願補正発明の「封止層」に相当)が「ガスバリア層」、「有機緩衝層」および「陰極保護層」からなるものではないため、「支柱126」(本願補正発明の「第2スペーサ」に相当)が「ガスバリア層に接している」という特定がない点。

(イ)相違点2
本願補正発明が、平面視において、第2スペーサは、スイッチング素子と重なっているのに対して、引用発明にはその点の特定がない点。

(4)当審の判断
ア 上記各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
引用例2における、「画素電極23」「機能層(発光層)110」及び「陰極50」を備えた「(有機)EL表示装置1」に関する記載(上記の「(2)引用例」の「ウ」の【0037】、【0038】、【0042】、【0046】及び【0049】の下線を付した記載参照。)から、引用例2には
「画素電極23、機能層(発光層)110及び陰極50を備えた有機EL表示装置1において、
陰極50の上層部に弾性率が100GPa以上の陰極保護層(電極保護層)55が形成され、
陰極保護層55の上層部に、陰極50及び陰極保護層55の凹凸を埋めて平坦化する弾性率が1?10GPaの有機緩衝層210が設けられ、
有機緩衝層210の上層部に、弾性率が10?100GPaの中間保護層212を介して弾性率が100GPa以上のガスバリア層30が最上層に形成される。」
という技術的事項(以下「引用例2の技術的事項」という。)が記載されている。
引用発明においても、第2電極112(引用例2における「陰極」に相当)の直上に積層される第1保護層114が、第2電極112の上面側の凹凸によってクラックが発生しやすくなるという技術課題を有することは自明の事項である。
(なお、引用文献1において【図1】の有機ELディスプレイでは、第2電極112は平坦に記載されているように見えるが、特許文献における図面は、模式図であることが多く、上記【図1】の有機ELディスプレイも、この図面から第2電極112が、平坦化されたものであるということはできず、むしろ、【図1】の有機ELディスプレイは、トップエミッション型であることから、第2電極112は極薄膜で形成される必要がある(【0027】参照)ことからして、第2電極112は平坦化されたものではなく、上面側に凹凸を有するものとみなせる。)
そこで、引用発明において、上記の自明の技術課題を克服するべく、第1保護層114において、その下層側に、平坦化のための層を設けるようにするために、引用例2の技術的事項を採用し、上記第1保護層として引用例2に記載の「陰極保護層55、有機緩衝層210、中間保護層212、ガスバリア層30(最上層)」の積層構造を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。
そして、引用発明に引用例2の技術的事項を採用すると、当該採用によって生じた各層の弾性率は、
・ガスバリア層30(本願発明の「ガスバリア層」に相当);100GPa以上、具体的には200?250Pa程度、
・有機緩衝層210(本願補正発明の「有機緩衝層」に相当);1?10GPa
・支柱126(本願補正発明の「第2スペーサ」に相当);4.9?490MPa程度
となるから、引用発明に引用例2に記載の技術的事項を採用した結果、本願補正発明の「前記ガスバリア層の弾性率は、前記有機緩衝層の弾性率よりも高く、前記第2スペーサは」、「前記ガスバリア層および前記有機緩衝層よりも弾性率が低い」という関係を満たすものを生じることは明らかである。
さらに、引用発明に引用例2の技術的事項を採用すると、上記の引用例2に記載の「陰極保護層55、有機緩衝層210、中間保護層212、ガスバリア層30(最上層)」の積層構造における最上層のガスバリア層30が「支柱126」(本願補正発明の「第2スペーサ」に相当)に接することは当然であるから、「第2スペーサは、(封止層のうちの)ガスバリア層に接している」という構成を生じることも明らかである。
よって、引用発明に引用例2の技術的事項を採用し、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

(イ)相違点2について
有機EL素子において、スイッチング素子となるTFTを平面視で画素電極の間に設けることは周知の技術である(例えば、原査定の拒絶の理由に引用した特開2004-311305号公報(【0030】【図3】)参照)。
引用発明においても、TFTの平面視での位置は当業者が適宜選択できる事項であるところ、画素電極の間にTFTを設ける態様も周知であるから、当該周知の態様を採用し、TFTを画素電極の間に設けるようにすることは当業者が容易に想到し得ることであり、その場合、TFTは平面視で支柱126と重なることになる。
すなわち、引用発明に上記周知技術を適用し、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 本願補正発明の奏する作用効果
そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明、引用例2の技術的事項及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明、引用例2の技術的事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)結言
本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定に違反し特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成24年5月1日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年9月8日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成24年5月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成24年5月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2 平成24年5月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」に記載したように、本願発明に対して、「第2スペーサ」について「発光素子とは接して」いないこと、及び「平面視において」、「前記スイッチング素子および前記発光素子と重なって」いることを特定して限定したものが本願補正発明である。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本願発明をさらに限定したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成24年5月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(3)本願補正発明と引用発明との対比」及び「(4)当審の判断」において記載したとおり、引用発明、引用例2の技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明、引用例2の技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2の技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-18 
結審通知日 2012-12-25 
審決日 2013-01-07 
出願番号 特願2007-131319(P2007-131319)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
P 1 8・ 575- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 洋平  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 伊藤 昌哉
北川 清伸
発明の名称 エレクトロルミネッセンス装置とその製造方法  
代理人 上柳 雅誉  
代理人 須澤 修  
代理人 宮坂 一彦  
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