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審決分類 審判 査定不服 出願日、優先日、請求日 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1270596
審判番号 不服2010-476  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-08 
確定日 2013-02-27 
事件の表示 特願2003-530230「摂食行動の修正」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月 3日国際公開、WO03/26591、平成17年 3月31日国内公表、特表2005-508324〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]手続の経緯
本願は,2002年9月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年9月24日 米国,2002年1月10日 英国,2002年6月28日 米国)を国際出願日とする出願であって,拒絶理由通知に応答して平成21年4月27日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ,同年9月3日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成22年1月8日に拒絶査定不服審判が請求され,審判請求の理由について同年3月18日付けで手続補正書(方式)が提出されたものである。


[2]本願発明
本願の請求項1?20に係る発明は,平成21年4月27日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」ということがある。)は,以下のとおりのものである。
『 医薬が、ヒト対象への末梢投与に適した形態であり、5から100nmolのPYY_(3-36)の投与量で投与されることを特徴とする、ヒト対象の肥満の低減または防止のための医薬の製造のためのPYY_(3-36)の使用。 』


[3]原査定の拒絶の理由
一方,本願発明に対する原査定の拒絶の理由の一は,本願発明は特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない,というものである。


[4]当審の判断

1.本願の優先権主張について
本願は,以下の三つの出願:
(1) 2001年9月24日付け米国特許出願60/324,406号
(2) 2002年1月10日付け英国特許出願GB0200507.2号
(3) 2002年6月28日付け米国特許出願60/392,109号
パリ条約に基づく優先権主張の基礎とする出願であるところ,本願発明が上記(1)の出願を基礎とする優先権の利益を享受することができるか否かについて検討する。

上記出願(1)の優先権書類(冒頭頁の願書表紙を含め52枚からなる。順に第1?52頁とする。)には,『摂食行動の調節のための弓状核神経の刺激及び阻害』(和訳は当審による。以下同様。)との標題が付されている(第3頁第1?2行)とともに,暫定的出願である同出願(1)が以下の4つのセクション:
・第1セクション:ヒトメラノコルチン3受容体についての基礎的な情報を提供する科学雑誌記事
・第2セクション:学会発表からのスライド
・第3セクション:記事の図の一の拡大された版を含む発明者により著された雑誌記事
・第4(最終)セクション:1つのクレーム
を以てなされている旨記載されており(第3頁第4?8行),そして実際,同書類は概要上述のとおりの第1セクション(第4?8頁),第2セクション(第9?42頁),第3セクション(第43?49頁),及び第4セクション(第50?51頁))で主に構成されている。
しかしながら,例えば上の第4セクションの「クレーム」(第51頁)の記載:
『 クレーム:
1.ある動物における摂食行動を調節するための方法であって,当該動物の(間脳)視床下部の弓状核におけるPOMC又はNPY/AGRP神経の神経学的活性に影響を及ぼす化合物の有効量を当該動物に投与する工程からなる,方法。 』
をみても,PYY_(3-36)の使用については記載されていない。
また,他の第1?3セクションの内容を検討しても,ヒトへの末梢投与に適したヒトの肥満の低減または防止のための医薬の製造のためにPYY_(3-36)を有効成分として使用することについて記載されている箇所を見出すことはできないし,ましてや,PYY_(3-36)を5?100nmolの投与量で末梢投与することによりヒトの肥満を低減又は防止することについて,何ら具体的な記載を見出すことができない。
そうすると,本願発明は,本願優先権主張の基礎となる出願のうち少なくとも2001年9月24日(第一優先日)に出願された米国特許出願60/324,406号の明細書等に記載されているとはいえないから,少なくとも当該出願に基づく優先権を享受することはできない。

2.先願明細書の記載事項
原査定で「3.」として引用された出願である上記PCT/US/01/48336(特願2002-549282号。以下,単に「出願3」ということがある。)は,本願の第二優先日である2002年1月10日より前の2001年12月14日に国際特許出願され,本願の第二優先日後の2002年6月20日に国際公開(国際公開第2002/47712号)がなされ,その後,特許法第184条の4第1項に規定する翻訳文が提出されたものであり,その国際出願日における国際出願の明細書,請求の範囲又は図面(以下,これらをまとめて「出願3の明細書等」ということがある。上記国際公開公報である国際公開第2002/47712号参照。),及びその翻訳文(特表2004-515533号公報参照。)には,次の事項が記載されている。
[ 各項の冒頭は,上記国際公開公報中の記載箇所を示し,併記した和訳及び記載箇所の表示は,上記公表公報に基づく翻訳文及び該公表公報中の記載箇所を示す。下線は当審による。]

(ア)第31頁第2?12行
『【請求項1】 治療上有効量のPYYまたはPYYアゴニストを肥満対象に投与することを含む肥満症を治療する方法。
・・・・・・
【請求項4】 PYYアゴニストがPYY[3-36]である請求項1記載の方法。
【請求項5】 PYYまたはPYYアゴニストを末梢投与する請求項1記載の方法。』(第2頁第2?13行)

(イ)第1頁第14?18行
『【0002】 発明の分野
本発明は,代謝の症状または障害,詳細にはカロリー利用能を低下させることによって軽減し得るもの,例えば,糖尿病,肥満症,摂食障害,インスリン抵抗性症候群(シンドロームX),グルコース非耐性,高脂血症および心血管障害を治療するための方法および組成物に関する。』(第3頁第45?50行)

(ウ)第6頁第14?17行
『【0016】 1のかかるPYYアゴニストアナログは,本明細書中において配列番号:3として同定するPYY[3-36]である。括弧内の数字を有するポリペプチドは,括弧内のアミノ酸位置にわたって完全長のペプチドの配列を有する切頭ポリペプチドをいう。したがって,PYY[3-36]はアミノ酸3ないし36にわたってPYYと同じ配列を有する。・・・』(第7頁第26?30行)

(エ)第6頁第20?25行
『【0017】 “カロリー(または栄養)利用能を低下させることによって軽減し得る症状または障害”とは,比較的高い栄養利用能によって引起こされる,悪化する,あるいは重くなるかのいずれかの,または栄養利用能を低下させることによって軽減し得る,例えば摂食を減少することによって軽減し得る,対象におけるいずれの症状または障害をも意味する。かかる症状または障害には,限定されるものではないが,肥満症,2型糖尿病を含む糖尿病,摂食障害,およびインスリン抵抗性症候群が含まれる。』(第7頁第35?41行)

(オ)第13頁第4?8行
『【0037】 この組成物または医薬組成物は,静脈内,腹膜内,皮下,および筋肉内,経口,局所,粘膜内,あるいは肺吸入を含むいずれの経路によっても投与し得る。本発明において有用な組成物は,(静脈内,筋肉内および皮下を含む)非経口,鼻腔または経口投与に好適な処方の形態で簡便に提供し得る。・・・』(第12頁第34?38行)

(カ)第14頁第12?19行
『【0042】 該化合物の有効な日々の食欲抑制用量は,典型的には,50kgの患者に対して,単一または分割した用量で投与する,約1ないし30μgから約5mg/日,好ましくは約10ないし30μgないし約2mg/日,およびより好ましくは約5ないし100μgないし約1mg/日,最も好ましくは約5μgないし約500μg/日の範囲内であろう。好ましくは,用量は約0.01ないし約100μg/kg/用量である。投与すべき正確な用量は,当業者によって簡単に決定され,特定の化合物の効力ならびに個人の年齢,体重および状態に依存する。・・・』(第13頁第25?32行)

(キ)第16頁第15行?第17頁第17行
『【0050】 実施例1:一晩絶食したNIH/SWマウスにおける摂食に対するY受容体リガンドの活性
雌性NIH/Swissマウス(8-12週齢)を群にわけて,0600に点灯する12:12時間の明所:暗所サイクルで飼育した。水および標準的なペレット状マウス食餌を特に注記しない限り自由に与えた。動物を実験の1日前に,ほぼ1500時間目に個別に絶食させ飼育を開始した。・・・
【0051】 時間=0分において,すべての動物に5ml/kgの体積で担体または化合物の腹膜内注射を投与し,ただちに予め計量した量(10-15g)の標準的な食餌を与えた。増加する投与量のPYY[3-36]・・・を,図1に示すように与えた。1時間目に食餌を取出し,重量を計測して消費された食餌の量を算出した・・・。
【0052】 分析:
摂食は時間=0で最初に与えた食餌の重量から1時間後に残っていた食餌の重量を差し引くことによって算出した。摂食に対する処理の効果は対照に対する%変化として表す。・・・
【0053】 結果:
図1に見られるように,10,100および500μg/kgで末梢投与(腹膜内注射)したPYYは,一晩絶食した雌性NIH/SWマウスにおいて60分間にわたって測定した摂食を顕著に低下させた。PYY[3-36]のこれらの用量はほぼ等しい効力を有していた。・・・』(第14頁第40行?第15頁第25行)

(ク)図面頁1/8


』 (第24頁)

3.対比・判断
(3-1) 出願3の明細書等には,「PYY又はPYYアゴニスト」としてPYY_(3-36)を肥満対象に抹消投与することを含む肥満症の治療方法(摘記(ア))の他,「PYY又はPYYアゴニスト」を有効成分とする肥満症治療のための医薬組成物を製造することも記載されている(摘記(イ),(オ))。また,食欲抑制のための「PYY又はPYYアゴニスト」の好ましい用量として,50kgの患者あたりの最も好ましい用量が「約5μgないし約500μg/日の範囲内」であることも記載されている(摘記(カ))ところ,食欲の抑制等による摂食低下が肥満症の軽減につながることは摘記(エ)をみるまでもなく明らかであることから,当該「約5μgないし約500μg/日の範囲内」の用量は肥満症の治療のために好ましい用量であると理解できるものである。
そうすると,出願3の明細書等には
「医薬が,ヒト対象への末梢投与に適した形態であり,50kgの患者に対し1日あたり約5?500μgのPYY[3-36]の投与量で投与される,ヒト肥満の治療のための医薬の製造のためのPYY[3-36]の使用」
の発明(以下,引用発明という。)が記載されているものと認められる。

本願発明と引用発明とを対比する。
摘記(ウ),ならびに同(ウ)で引用されている「配列番号:3」(例えば出願3の明細書等の段落【0031】)のアミノ酸配列からみて,引用発明の「PYY[3-36]」は本願発明の「PYY_(3-36)」と同一のペプチド化合物であると認められるから,両者は
「 医薬が,ヒト対象への末梢投与に適した形態である,ヒト対象の肥満の低減または防止のための医薬の製造のためのPYY_(3-36)の使用 」
の点で一致するが,
PYY_(3-36)の投与量に関し,本願発明では「5から100nmol」で投与されるのに対し,引用発明では「50kgの患者に対し1日あたり約5?500μg」で投与される,
という点で,一見相違する。

(3-2) 上記相違点について検討する。
引用発明に規定される50kgの患者に対する1日の投与量である約「5?500μg」は,モル量に換算すると約「1.235?123.5nmol」(意見書(5)中の「引用例3の実施例:」の項にならい,PYY_(3-36)の分子量を4050とする。以下同様。)であり,本願明細書の例えば段落【0118】に例示されているような体重75kgのヒトを対象とした場合でも約「1.852?185.2nmol」に相当するから,本願発明の「5から100nmol」と重複するものである。
しかも,出願3の明細書等の実施例1の結果を示す図1から,一晩絶食させたマウスに対し,PYY_(3-36)を,10^(-7)g?10^(-3)/kg,つまり0.1?1000μg/kgで単回投与した後の60分にわたる摂食が,対照に比して低下する傾向にあることが読み取れる。ここで,当該0.1?1000μg/kgは,約1.235?12350nmol/50kg,或いは約1.852?18520nmol/75kgとなるから,出願3の明細書等においては,本願発明の「5?100nmol」と重複する引用発明の約「1.235?123.5nmol」/日/50kg,或いは約「1.852?185.2nmol」/日/75kgの全範囲において,実際に,摂食低下傾向がみられることが確認されている。
そうすると,上記相違点は実質的な相違点とはいえない。
よって,本願発明は出願3の明細書等に記載された発明と同一である。

(3-3)本願及び出願3の出願人,発明者について
本願の出願人はインペリアル カレッジ イノベーションズ リミテッド外1であり,そして,発明者はカウリー,マイケル他7名である。
一方,出願3の出願人はアミリン・ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッドであり,そして,発明者はリチャード・エイ・ピットナー外2名である。
以上のとおりであるから,両出願の出願人及び発明者は同一でない。

(3-4)請求人の主張について
請求人は平成22年1月8日付けで補正された審判請求書において,概要以下のような主張をしている:
本願明細書の実施例3(図5a,b),6において,本願発明の低い投与量のPYY_(3-36)によってラット及びヒトに対しカロリー摂取が低減可能であることが実証されているのに対し,出願3の明細書等の実施例6では肥満マウスに対しPYY_(3-36)を30,100,300,1000μg/kg/日,即ち7.5,25,75,250nmol/kg/日,75kgのヒトでは1日あたり563nmol,1875nmol,5625nmol,18750nmolに相当する投与量で用いているが,その結果を示す図6をみると,特に300?1000μg/kgの高用量(本願発明の投与量より約560倍?3700倍高い)のPYY_(3-36)投与によって体重増加の減少がみられるものの,30μg/kg/日の投与量では体重は逆に増加しているから,出願3の明細書等の結果は,体重増加を減少させるためには高い投与量のPYY_(3-36)が必要であることを示すものであり,本願発明のような5?100nmolという低い投与量でPYY_(3-36)を用いることにより体重増加を減少させ得ることは出願3の明細書等に記載も示唆もなく,本願発明と引用発明とは全く異なる。

そこで,この主張について検討する。
本願明細書の実施例3や実施例6では,ラット又はヒトに対し比較的低用量でPYY_(3-36)を末梢投与した結果,食物摂取又は食欲が低下したことが示されており(段落【0431】及び図5a,bにおける0.3μg/100gの投与量区,段落【0442】?【0444】及び図9a?c),本願発明ではこれら食物摂取等の低下の結果を以て肥満の低減または防止に有効であるとしたものと解される。
他方,(3-2)で検討したとおり,出願3の明細書等においても,本願発明における「5から100nmol」と重複する投与量の範囲が開示され,当該範囲全体にわたって,本願発明と同様に摂食低下傾向が確認されている以上,その投与量の全範囲で肥満の低減または防止に有効であると理解できるものである。
そして,同じ薬物を投与する場合であっても,投与経路・方法等が異なれば有効投与量が異なる場合があることを勘案すれば,出願3の明細書等に,ある投与態様において摂食低下に有効である投与量が,異なる投与態様においては体重を減少できず,体重減少のためにより高い投与量が必要であると推認させる記載があったとしても,そのことによって,出願3の明細書等における摂食低下についての記載に基づく上述の理解が妨げられるものではない。なお,本願発明の「5?100nmol」の範囲の投与量での末梢投与により実際に体重が減少することは,本願明細書においても確認されていない。

4.まとめ
以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明は,その第二優先日である2002年1月10日前の外国語特許出願であって同第二優先日後に国際公開された出願3の国際出願日における国際出願の明細書等に記載された発明と同一であり,しかも,本願請求項1に係る発明をした者が出願3に係る上記の発明をした者と同一であるとは認められず,本願の出願時においてその出願人と出願3の出願人とが同一であるとも認められないので,特許法第184条の13で読み替える同法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項について論及するまでもなく,この特許出願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-26 
結審通知日 2012-10-02 
審決日 2012-10-16 
出願番号 特願2003-530230(P2003-530230)
審決分類 P 1 8・ 03- Z (A61K)
P 1 8・ 16- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中尾 忍  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 大久保 元浩
平井 裕彰
発明の名称 摂食行動の修正  
代理人 橋本 剛  
代理人 富岡 潔  
代理人 橋本 剛  
代理人 富岡 潔  

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