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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02C
管理番号 1270602
審判番号 不服2010-24948  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-05 
確定日 2013-02-27 
事件の表示 特願2000-133979「ガスタービン入口空気用の複合型水飽和-過飽和システムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 2月27日出願公開、特開2001- 55929〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成12年5月2日(パリ条約による優先権主張1999年5月7日、米国)を出願日とする外国語書面出願であって、同年6月7日付けで特許法第36条の2第1項の規定による外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文が提出され、平成19年4月27日付けで手続補正書が提出され、平成21年10月14日付けで拒絶理由が通知され、平成22年4月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月1日付けで拒絶の査定がなされ、これに対し、同年11月5日付けで拒絶査定に対する審判の請求がなされると同時に、同日付けで手続補正書が提出されて明細書を補正する手続補正がなされ、平成23年2月14日付けで当審により書面による審尋がなされ、同年8月10日付けで回答書が提出され、その後、同年12月14日付けで当審により拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成24年6月19日付けで意見書及び明細書を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2.本願発明
本件出願の請求項1ないし16に係る発明は、平成24年6月19日付けの手続補正により補正された明細書及び平成12年6月7日付けの図面の翻訳文の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】 周囲空気を圧縮機の入口に供給するよう構成された、入口領域および出口を有するダクトと、
ダクト入口に隣接する位置で噴霧水を前記周囲空気中にスプレーするための第1組のノズルと、
圧縮機入口に近い位置で噴霧水を前記周囲空気中にスプレーして周囲空気を過飽和にするための第2組のノズルと、
前記第1組および第2組のノズルに水を配分する制御手段と
を備え、
前記制御手段は、前記第2組のノズル(50、52)への配管(58、60)の各々に設けられた流れ制御弁(88、90)を含み、
前記圧縮機の入口にはベルマウスが設けられており、前記圧縮機の入口の向かいに前記第2組のノズルが配置されており、該第2組のノズルが該第2組のノズルの上流の空気流と直交する方向に前記噴霧水をスプレーする
ことを特徴とするガスタービン燃焼空気冷却システム。」

第3.当審拒絶理由に引用された引用文献
(1)国際公開第98/48159号(以下、「引用文献」という。)の記載事項
ア.「または、前記ガスタービン設備であって、
前記噴霧装置は、前記吸気室内に前記空気の流れに沿って複数段に噴霧装置が設置され、上流に位置する噴霧装置から噴出される水より下流に位置する噴霧装置から噴出される水の温度が高くなるようにすることが好ましい。
これにより、圧縮機入口の重量流量を増加して、圧縮機内で蒸発させやすい液滴を圧縮機入口から供給できるので、安定して圧縮機内での蒸発量を増加させることができる。
具体的には、前段の水噴霧装置で吸気を冷却して、空気重量流量を増加させる。加えて、圧縮機の入口近傍に設置した後段の水噴霧装置から高温水を噴霧することにより圧縮機内で蒸発し易い水を圧縮機に入る空気に多く含ませることができる。
このため、注水装置から供給する水量に対する噴霧装置から空気に供給する水量の比率をより多くすることにより、更に出力向上及び高効率化を図ることができる。」(第4ページ第17行ないし第5ページ第6行)

イ.「また、前記噴霧装置11や加湿装置7,後置冷却器13,加湿器で圧縮空気に水を供給後回収された回収水を後置冷却器13或いは給水加熱器6に循環する水量等の各水量を含む制御を行う制御装置18を備える。」(第12ページ第24行ないし第13ページ第1行)

ウ.「次に、このシステム構成により出力が増加し効率が上昇する作用について述べる。
前記吸気室22に入り、吸気噴霧装置11から液滴が噴霧された空気は、一部が蒸発して空気を冷却した後圧縮機2入口に入る。空気は冷却されると密度が大きくなり、圧縮機に流入する空気の重量流量が増えるため、タービン出力が増加するという効果がある。
圧縮機内では空気が圧縮され温度が高くなるので、圧縮機2に導かれた空気中の未気化の液滴は、蒸発潜熱を周囲の気体から奪い蒸発する。そのため、液滴が無い場合に比べ、液滴がある場合は圧縮機出口での空気温度が低く抑えられる。空気圧縮機の圧縮仕事は入口と出口の温度に関係し、空気の温度上昇が抑えられることには圧縮機の圧縮仕事が低減することに相当する。ガスタービンでは、例えばタービンで発生した出力の50%以上を圧縮機動力として消費しており、圧縮比の高いガスタービンではこの割合は更に大きくなる。したがって、圧縮機仕事の低減はガスタービンの正昧出力の増加につながる。」(第13ページ第22行ないし第14ページ第11行)

エ.「第5図は本発明の更に別な実施例を示す概要図である。
第3図の例との違いは、水回収器8として、冷水をスプレイ噴霧する直接接触式の水回収器を想定した点、および吸気噴霧装置11に供給する水と加湿器7に供給する水を異なる位置から採取している構成に加えて、吸気室22内に空気の流れに沿って複数段に噴霧装置が設置され、上流に位置する噴霧装置から噴出される水より下流に位置する噴霧装置から噴出される水の温度が高くなるようになっている点である。
具体的には、第1図の構成に加えて、再生器5を経た燃焼排ガス(給水加熱器6がある場合は給水加熱器6を経た燃焼排ガス)が供給され、排ガス中の水分を回収する水回収器8を備える。また、水回収器8で回収した水を浄化処理する水処理装置10を備える。また、水回収器8で回収した水を冷却する循環水冷却器14を備える。加湿器7へ導く給水経路には水回収器8で回収された水が供給される。更にその途中から分岐して一部は吸気室22内の吸気噴霧装置11より圧縮機入口側に設置した吸気噴霧装置16に噴霧水として供給される。吸気噴霧装置11へ導く給水経路には水回収器8で回収されて更に減温した水は供給される。
また、好ましくは、第5図に図示したように、前記構成に加えてさらに、給水加熱器6を経た排ガスおよび水回収器8を経た排ガスが供給されて熱交換する排ガス再熱器9を設置する。吸気噴霧装置16は吸気噴霧装置11と同じ効果を奏することができるものを使用することができる。
吸気噴霧装置11には第4図の実施例と同様に低温の水を供給し、吸気噴霧装置16には加湿器7への補給水と同じく温度の高い水を供給する。
このような構成にすると、吸気噴霧装置11から噴霧水には吸気冷却の効果が多く期待でき(図1の実施例説明時の出力増加メカニズム1)に対応)、吸気噴霧装置16からの噴霧水は圧縮機内でより蒸発しやすくなっているので、前述の出力増加メカニズムの2)?4)の効果が大きくなる。
吸気噴霧装置16からの噴霧水が圧縮機内でより蒸発しやすくなる理由としては、温度が高くなっているので蒸発に要する熱エネルギーが少なくてすむことと、温度が上昇するのに伴い水の表面張力が小さくなるため噴霧水をより微細化しやすく、微細な液滴は単位重量あたりの表面積が大きくなるので、蒸発が促進されることが考えられる。
その結果、吸気噴霧装置11と吸気噴霧装置16から噴霧された液滴のうち圧縮機出口までに蒸発する水の量は、図4の例よりも多くなると考えられ、出力および効率がさらに向上する。
このように、本実施例のように噴霧装置11を、前記吸気室内22に前記空気の流れに沿って多段に設置され、上流に位置する噴霧装置11から噴出される水より下流に位置する噴霧装置16から噴出される水の温度が高くなるようにしたことにより、前段の水噴霧装置11で吸気を冷却して、空気重量流量を増加させる。加えて、圧縮機の入口近傍に設置した後段の水噴霧装置16から高温水を噴霧することにより圧縮機22内で蒸発し易い水を圧縮機22に入る空気に多く含ませることができる。
このため、注水装置から供給する水量に対する噴霧装置11,16から空気に供給する水量の比率をより多くすることにより、更に出力向上及び高効率化を図りつつ、安定燃焼に寄与することができる。
尚、吸気噴霧装置11は吸気室22内の吸気フィルター室近傍に配置する。たとえば、サイレンサ等が吸気室22内に設置される場合は、たとえば、サイレンサの直後に隣り合わせて設置する。或いは吸気フィルタ室21内のフィルタの直後に設置してもよい。また、吸気噴霧装置16は吸気室22内の圧縮機入り口近傍に配置することが好ましい。たとえば、吸気室22内の吸気室22と圧縮機2入口との境界付近である。これにより、噴霧装置11から噴霧された液滴が圧縮機に流入するまでの距離が大きくなるので、吸気冷却効果が大きくなり出力が増加するという効果が得られる。」(第28ページ第13行ないし第30ページ第19行)

(2)上記記載事項(1)及び図面から分かること
カ.上記(1)ア.ないしウ.並びに第5図から、ガスタービン設備は、圧縮機に入る空気を冷却する手段を有することが分かる。

キ.上記(1)エ.及び第5図から、吸気室22は、空気を圧縮機2の入口に供給するよう構成され、入口領域および出口を有することが分かる。

ク.上記(1)エ.及び第5図から、前段の水噴霧装置11は吸気室22の入口に隣接する位置で噴霧水を周囲空気中にスプレーすることが分かる。

ケ.上記(1)ウ.及びエ.及び第5図から、後段の水噴霧装置16は圧縮機2の入口に近い位置で噴霧水を空気中にスプレーして空気に蒸発しやすい水を含ませること、すなわち、空気を過飽和にしていることが分かる。

コ.上記(1)イ.及びエ.及び第5図から、制御装置18は、前段の水噴霧装置11および後段の水噴霧装置16に供給する水量を制御する制御装置18を有することが分かる。

3.引用文献記載の発明
上記(1)及び(2)並びに図面によると、引用文献には、
「空気を圧縮機の入口に供給するよう構成された、入口領域および出口を有する吸気室22と、
吸気室22の入口に隣接する位置で噴霧水を前記空気中にスプレーするための前段の水噴霧装置11と、
圧縮機2の入口に近い位置で噴霧水を前記空気中にスプレーして空気を過飽和にするための後段の水噴霧装置16と、
前記前段の水噴霧装置11および後段の水噴霧装置16に水を配分する制御手段と
を備えたガスタービン設備。」(以下、「引用文献記載の発明」という。)が記載されている。

第4.対比
本願発明と引用文献記載の発明を対比すると、引用文献記載の発明における「空気」、「吸気室22」、「前段の水噴霧装置11」、「後段の水噴霧装置16」、「供給する水量を制御」及び「制御装置18」は、その機能や技術的意義からみて、本願発明における「周囲空気」、「ダクト」、「第1組のノズル」、「第2組のノズル」、「水を配分」及び「制御手段」に、それぞれ相当する。
また、引用文献記載の発明における「ガスタービン設備」は、上記第3.(2)カ.で検討したように、圧縮機に入る空気を冷却する手段を有するものであるから、本願発明における「ガスタービン燃焼空気冷却システム」を包含するといえる。
したがって、本願発明と引用文献記載の発明は、
「周囲空気を圧縮機の入口に供給するよう構成された、入口領域および出口を有するダクトと、
ダクト入口に隣接する位置で噴霧水を前記周囲空気中にスプレーするための第1組のノズルと、
圧縮機入口に近い位置で噴霧水を前記周囲空気中にスプレーして周囲空気を過飽和にするための第2組のノズルと、
前記第1組のノズルおよび第2組のノズル6の水を配分する制御手段と
を備えたガスタービン燃焼空気冷却システム。」
という点で一致し、以下の1)及び2)の点で相違している。

1)本願発明においては、制御手段は、第2組のノズルへの配管の各々に設けられた流れ制御弁を含むのに対して、引用文献記載の発明においては、流れ制御弁を含むかどうかが明らかでない点(以下、「相違点1」という。)。

2)本願発明においては、圧縮機の入口にはベルマウスが設けられており、前記圧縮機の入口の向かいに第2組のノズルが配置されており、第2組のノズルが該第2組のノズルの上流の空気流と直交する方向に噴霧水をスプレーするのに対して、引用文献記載の発明においては、圧縮機の入口にはベルマウスが設けられているかどうかが明らかでなく、本願発明の第2組のノズルに相当する後段の水噴霧装置16が該後段の水噴霧装置16の上流の空気流と直交する方向に噴霧水をスプレーしているかどうかが明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。

第5.当審の判断
上記相違点1及び相違点2について、以下に検討する。
1)ガスタービン燃焼空気冷却システムにおいて、水を噴射する複数の配管の各々に流量制御弁を設けることは周知の技術(例えば、特開平05-195809号公報の【図6】及び特開平07-019067号公報の【図1】を参照のこと。以下、「周知技術1」という。)である。
引用文献記載の発明及び周知技術1はいずれもガスタービン燃焼空気冷却に関する技術であることを考慮すれば、引用文献記載の発明に上記周知技術1を適用して、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

2)ガスタービン燃焼空気冷却システムにおいて、圧縮機の入口に設けらたベルマウスを設け、ベルマウスの向かいに、液滴を供給するノズルを設けることは周知の技術(例えば、特開平09-236024号公報の段落【0030】及び【図8】並びに特開平11-072027号公報(平成11年3月16日出願公開。)の段落【0069】及び【図6】を参照のこと。以下、「周知技術2」という。)である。
また、ダクト内において水を噴射する方向は当業者が通常の創作により適宜なし得る設計的事項であって、水をスプレーする方向を上流の空気流と直交する方向とすることは周知の技術(例えば、特開平9-303160号公報の【図2】及び特開平07-019067号公報の【図1】を参照のこと。以下、「周知技術3」という。)でもある。
してみれば、引用文献記載の発明に上記周知技術2を適用するにあたり、周知技術3を参酌することにより、圧縮機2の入口にベルマウスを設ける際に、圧縮機2の入口の向かいに配置された本願発明の第2組のノズルに相当する後段の水噴霧装置16から、後段の水噴霧装置16の上流の空気流と直交する方向に噴霧水をスプレーするようにして、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

そして、本願発明は、全体として検討しても、引用文献記載の発明及び周知技術1ないし3から予測される以上の格別な効果を奏するものものとは認められない。

よって、本願発明は、引用文献記載の発明及び周知技術1ないし3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献記載の発明及び周知技術1ないし3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-20 
結審通知日 2012-09-25 
審決日 2012-10-12 
出願番号 特願2000-133979(P2000-133979)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲葉 大紀  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 中川 隆司
藤原 直欣
発明の名称 ガスタービン入口空気用の複合型水飽和-過飽和システムおよび方法  
代理人 黒川 俊久  
代理人 小倉 博  
代理人 荒川 聡志  

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