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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01D 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D |
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管理番号 | 1270614 |
審判番号 | 不服2011-8567 |
総通号数 | 160 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-04-21 |
確定日 | 2013-02-27 |
事件の表示 | 特願2000-595773「スキン化中空繊維膜とその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 8月 3日国際公開、WO00/44482、平成14年10月22日国内公表、特表2002-535131〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2000年1月27日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理1999年1月29日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年12月11日付けで拒絶理由が通知され(発送日 平成21年12月15日)、平成22年6月15日付けで意見書と特許請求の範囲の記載に係る手続補正書が提出され、平成22年12月17日付けで拒絶査定が起案され(発送日 平成22年12月21日)、これに対し、平成23年4月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に特許請求の範囲の記載に係る手続補正書及び明細書の記載に係る誤訳訂正書が提出され、平成23年6月8日付けで審判の請求理由を補充する手続補正書が提出され、その後、平成23年11月25日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が起案され(発送日 平成23年11月29日)、これに対して平成24年5月28日付けで回答書が提出されたものである。 2.平成23年4月21日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成23年4月21日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 2-1.本件補正について 本件補正は、平成22年6月15日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項5を、平成23年4月21日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項3に補正することを含むものである。 (補正前) 「【請求項5】一方の径にスキン化表面を、反対側の径に多孔質の表面を有してなり、熱誘起相分離プロセスを用いて形成され、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及びそれらの混合物からなる群から選択されるペルフルオロ化熱可塑性重合体よりなる中空繊維濾過膜。」 (補正後) 「【請求項3】一方の径にスキン化表面を、反対側の径に多孔質の表面を有してなり、熱誘起相分離プロセスを用いて形成され、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及びそれらの混合物からなる群から選択されるペルフルオロ化熱可塑性重合体よりなり、 前記スキン化表面が、2nmから50nmの範囲の平均細孔径を有して多孔質であることを特徴とする、中空繊維濾過膜。」 (下線は請求人が付与した。) この補正事項は、補正前の「スキン化表面」について、その性状を更に具体的に限定したものであり、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものといえる。 そこで、補正後の請求項3に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて以下に検討する。 2-2.独立特許要件について 2-2-1.補正発明について 上記補正後の請求項3に係る発明は、平成23年4月21日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項3に記載される事項によって特定される次のとおりのものである(以下、「補正発明」という。)。 「【請求項3】一方の径にスキン化表面を、反対側の径に多孔質の表面を有してなり、熱誘起相分離プロセスを用いて形成され、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及びそれらの混合物からなる群から選択されるペルフルオロ化熱可塑性重合体よりなり、 前記スキン化表面が、2nmから50nmの範囲の平均細孔径を有して多孔質であることを特徴とする、中空繊維濾過膜。」 2-2-2.刊行物の記載 (1)刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され本願優先日前に頒布された特開平2-208329号公報(以下、「刊行物1」という。)には次の事項が記載されている。 (刊1-ア)「1.(a)ポリ(テトラフルオロエチレン-コーペルフルオロ(アルキルビニルエーテル))及びポリ(テトラフルオロエチレン-コーヘキサフルオロプロピレン)から成る群より選ぶポリマー及びクロロトリフルオロエチレンオリゴマー溶媒のメルト-ブレンドであって、ブレンドの重量を基準にして10?35重量%のポリマーを含有するものを形成し、 (b)該メルト-ブレンドを造形して膜への造形先駆物質を形成し、 (c)該造形先駆物質を冷却して溶媒が相分離によってポリマーから分離する温度にしてゲルフィルムを形成し、 (d)工程(c)においてゲルフィルムから生成した溶媒を選択抽出してポリマーの微孔質膜を形成し、 (e)工程(d)からの膜を乾燥する ことを含む微孔質ポリマーフルオロカーボン膜の形成方法。」(特許請求の範囲 第1項) (刊1-イ)「本発明は微孔質のポリ(テトラフルオロエチレン-コーペルフルオロ(アルキルビニルエーテル))(PFA)或はポリ(テトラフルオロエチレンーコーへキサフルオロプロピレン)(FEP)膜の製造方法及びそのようにして製造した膜に関する。 従来の技術 微孔質膜は通常合成熱可塑性材料から作られ、小さい寸法の開放細孔或は導管(conduit)を含有する実質的に連続したマトリックス構造を有する薄いシート及び中空繊維を含む。「微孔質膜」の細孔についての平均細孔寸法範囲は当分野において正確には規定されていないが、一般には約0.05ミクロンから約10ミクロンに至ると理解されている。開放細孔を有し、それにより透過性をもたらす微孔質膜は濾過において有用である。 閉鎖細孔を有する微孔質膜は不透過性である。このような微孔質膜は濾過においては有用でないが、他の用途、例えば断熱用として有用である。」(2頁左上欄下から7行?右上欄11行) (刊1-ウ)「液状溶媒を用いて高い温度で溶液を形成し、冷却した際に液-液或は固(結晶)-液相分離を行ってポリマーが固相になることを可能にするPFA或はFEPから微孔質を製造する融通のきく方法を提供することは望ましい。加えて、細孔構造を十分に調節することができるかかる方法を提供することは望ましい。」(2頁右下欄最下行?3頁左上欄6行) (刊1-エ)「本発明に従えば、開放或は閉鎖細孔構造を有するPFA或はFEPから微孔質フィルムを形成する。構造が開放している場合、フィルムは液体及びガスの両方を透過することができ、炉材として使用することができる。フィルムの細孔構造を閉止する場合、多孔質フィルムは不透過性であり、例えば絶縁体或は薬剤をゆっくり放出する封入系として有用である。FEP或はPFAポリマー約10?約35重量%を含み、残りが溶媒(ポロゲン)である混合物を形成する。溶媒はクロロトリフルオロエチレンオリゴマーを含み、高い温度から冷却する際に液-液相分離及び次いでポリマーの凝固を可能にする。混合物を加熱し及び押出してフィルム或は中空繊維を形成し、次いで急冷して溶媒からフルオロカーボンポリマーの相分離を行わせる。溶媒を抽出によってポリマーから分離し、生成した微孔質ポリマー膜を、膜の収縮或はつぶれを最小にし或は防ぐためにリストレイント下で(再び引っ張りながら)乾燥する。」(3頁左上欄16行?同頁右上欄14行) (刊1-オ)「本発明の第1工程で、PFA或はFEP及び溶媒のメルトブレンドを調製する。メルトブレンドは溶媒の存在において少なくともPFA或はFEPの融解温度に、通常約280°?約310℃に、好ましくは窒素或は不活性ガス等の不活性雰囲気中で加熱して形成する。酸素はメルトブレンドを形成するのに要する高い温度で溶媒を分解する傾向にある。メルトブレンドの形成では、PFA或はFEP及び溶媒を、例えば慣用の二軸スクリュー押出装置の混合バレル中で混合し、混合物を混合する間加熱する。メルトブレンドを押出域からスロットダイ或は中空繊維ダイの中に通して溶融フィルム或は溶融中空繊維を形成する。 溶融フィルム或は中空繊維を次いで水等を含む急冷浴に通すことによる等して急冷してメルトブレンドの相分離温度より低い温度にしてゲルフィルム或はゲル中空繊維を形成する。別法として、押出した溶解フィルム或は繊維を、メルトブレンドの相分離を行うために、冷却したローラー上に通して適当な温度で急冷して膜或は繊維を形成することができる。押出したメルトブレンドを急速に冷却する場合、得られる生成物は開放細孔を特徴とし、よって濾過において有用である。押出したメルトブレンドをゆっくり冷却する場合、得られる生成物は気泡形態を特徴とし、よって、断熱或は封入において有用になることができる。ゲルフィルム或は繊維を次いで溶媒を選択的に吸収する液浴中に浸漬し、それによってPFA或はFEPマトリックスから溶媒を、実質的にポリマーを軟化或は溶解させずに取り去る。吸収する抽出液は、また冷却媒体として機能することもでき、融解フィルム或は中空繊維を直接その中に押出すことができる。この場合、冷却及び抽出工程は同じ浴内て行われる。適した吸収液は1,1,2トリクロロトリフルオロエタン(Freon TF)、1,1,1トリクロロエタン、四塩化炭素、ヘキサン等を含む。抽出は、溶媒抽出を最大にし、他方ポリマーを軟化させないために、温度約20°?約50℃で行うことができる。次いで、ポリマーを通常温度約20°?約50℃で乾燥し、乾燥する間、膜を収縮させないようにするため、再び、引っ張るのがよい。随意に、膜の特性を更に固定させるために、乾燥ポリマーを温度約200°?約290℃に加熱してヒートセットさせることができる。次いで膜をコアに巻いて貯蔵することができる。 本発明の微孔質生成物は平均細孔寸法約0.05?約5ミクロンの細孔を特徴とする。」(3頁右下欄2行?4頁右上欄8行) (刊1-カ)「(3) ASTM F317-72、イソプロピルアルコールを透過流として用いた。 (4)この性質は、濾過を行った際、膜が粒子を保持する能力に関する。」(6頁左下欄9?10行) (2)刊行物2 原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され本願優先日前に頒布された特開昭61-90707号公報(以下、「刊行物2」という。)には次の事項が記載されている。 (刊2-ア)「(1)ポリオレフィンおよび該ポリオレフィンの溶融下で該ポリオレフィンに均一に分散し得かつ使用する抽出液に対して易溶性である有機充填剤を混練し、このようにして得られる混練物を溶融状態で環状紡糸孔から吐出させ同時に内部中央部に不活性ガスを充填し、該中空状物を前記ポリオレフィンを溶解しない冷却固化液と接触させて冷却固化し、ついで冷却固化した中空状物を前記ポリオレフィンを溶解しない抽出液と接触させて前記有機充填剤を抽出除去することを特徴とする中空糸膜の製造方法。」(特許請求の範囲 第1項) (刊2-イ)「このようにして冷却固化した中空状物8はボビン13に巻取ったのち、所定の寸法に切断し、ついで抽出液中に浸漬して前記切断中空状物8から前記有機充填剤を抽出除去し、必要により乾燥を行なうことにより中空糸膜が得られる。」(4頁左下欄最下行?同頁右上欄4行) (刊2-ウ)「このようにして得られる中空糸膜は、内径が150?300μm、好ましくは180?250μm、肉厚が10?150μm、好しくは20?100μmの真円形のものである。その断面構造は、中空糸膜の製造条件によって変るが・・・内表面から外表面に向うにしたがってポリオレフィンの微粒子が独立に形成されていて、内表面部付近に緻密層を有し、外表面部付近には多孔質層よりなるものが得られる。この断面構造は冷却固化液の温度により異なり、温度が高くなるにつれてポリオレフィンの微粒子形成が内表面部方向に進行している。しかし、いずれの場合も、内部付近の微粒子は緻密であるのに対して、外面部付近では微粒子は独立に存在した集合体となっている。」(5頁右下欄16行?6頁左上欄14行) (3)周知例1 本願優先日前に頒布された特開平6-170182号公報(以下、「周知例1」という。)には次の事項が記載されている。 (周1-ア)「【産業上の利用分野】本発明は、耐溶剤性、耐薬品性に優れ、被処理流体を効率よく膜分離する上で有用な中空糸膜モジュールおよびその製造方法に関する。」(【0001】) (周1-イ)「図1に示す中空糸膜1は、中空部2、スキン層3と称される非常に緻密な最内層および支持層4で構成され、前記スキン層3は一般的に膜分離の活性作用部として機能する。」(【0004】) (周1-ウ)「前記中空糸膜を構成するポリマーとしては、例えば・・・テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのフッ素含有ポリマー・・などが例示される。」(【0026】) (周1-エ)「好ましい中空糸膜には、多孔質膜が含まれる。」(【0027】) (4)周知例2 本願優先日前に頒布された特開昭64-47407号公報(以下、「周知例2」という。)には次の事項が記載されている。 (周2-ア)「本発明は次の構成を有する。 (1)テトラフルオロエチレン系重合体からなる中空糸モジュール。 ・・・本発明でいうテトラフルオロエチレン系重合体とは・・・テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオ口エチレン-ヘキザフルオロプロピレン共重合体・・・を主体とした共重合体単独あるいはこれらの混合物である。」(2頁左上欄7行?同頁右上欄6行) (周2-イ)「本発明のモジュールのテトラフルオロエチレン系重合体中空糸には特に制限は無いか、分離用としては多孔質中空糸膜であることが好ましく、その膜構造は均一構造、複合構造のどちらでもよいが、分画特性を支配している層の孔径は0.001?2μであることが分画性能の点から好ましい。」(2頁右上欄13行?18行) (周2-ウ)「本発明に係わる中空糸モジュールは、海水の淡水化、脱塩、工業排水中の塩基、酸などの除去、電子工業用などの超純水、高1lii14度薬品の製造、脱脂実液、電着塗装液などの回収、紙パルプ廃液処理、油水分離、油エマルジヨン分離などの工業排水処理、醗酵生産物の分離精製、果汁、野菜ジュースの濃縮、大豆処理、製糖工業などの食品工業における濃縮、分離、精製、人工腎臓、血液成分の分離、菌分離用ミクロフィルター、医薬品の分離、精製などの医療用途、バイオリアクターなどのバイオテクノロジー分野などに広く用いられる。」(4頁右下欄12行?5頁左上欄2行) 2-2-3.刊行物1に記載された発明の認定 刊行物1の記載事項(刊1-ア)(以下、単に「(刊1-ア)」のように記載する。)には、 「(a)ポリ(テトラフルオロエチレン-コーペルフルオロ(アルキルビニルエーテル))及びポリ(テトラフルオロエチレン-コーヘキサフルオロプロピレン)から成る群より選ぶポリマー及びクロロトリフルオロエチレンオリゴマー溶媒のメルト-ブレンドであって、ブレンドの重量を基準にして10?35重量%のポリマーを含有するものを形成し、 (b)該メルト-ブレンドを造形して膜への造形先駆物質を形成し、 (c)該造形先駆物質を冷却して溶媒が相分離によってポリマーから分離する温度にしてゲルフィルムを形成し、 (d)工程(c)においてゲルフィルムから生成した溶媒を選択抽出してポリマーの微孔質膜を形成し、 (e)工程(d)からの膜を乾燥する ことを含む微孔質ポリマーフルオロカーボン膜の形成方法。」が記載されている。 (刊1-イ)には、刊行物1には上記「形成方法」で製造した膜についても記載されている。また、当該膜について「微孔質膜は通常合成熱可塑性材料から作られ、小さい寸法の開放細孔或は導管(conduit)を含有する実質的に連続したマトリックス構造を有する薄いシート及び中空繊維を含む。」とも記載されていることから、「微孔質膜」は微孔質の「中空繊維」であり得ることが理解され、上記「微孔質ポリマーフルオロカーボン膜」は 「微孔質ポリマーフルオロカーボン膜の中空繊維」ということができる。 そして、(刊1-オ)には「スロットダイ或は中空繊維ダイの中に通して溶融フィルム或は溶融中空繊維を形成する。溶融フィルム或は中空繊維を次いで水等を含む急冷浴に通すことによる等して急冷してメルトブレンドの相分離温度より低い温度にしてゲルフィルム或はゲル中空繊維を形成する。」と記載されており、製作される「微孔質ポリマーフルオロカーボン膜」が「中空繊維」である場合は、「ゲルフィルム」は「ゲル中空繊維」であることも明らかである。 さらに、(刊1-エ)には、製造された膜が「フィルム或いは中空繊維」であることが記載され、(刊1-カ)には「ASTM」に従った実験が膜にイソプロピルアルコールを透過流として用いたもので、その透過の性質が「濾過を行った際、膜が粒子を保持する能力に関する」ものであること、すなわち、当該膜が「濾過膜」として使用され得るものであることが示されている。 以上のことから、(刊1-ア)の記載を基に、刊行物1には、 「(a)ポリ(テトラフルオロエチレン-コーペルフルオロ(アルキルビニルエーテル))及びポリ(テトラフルオロエチレン-コーヘキサフルオロプロピレン)から成る群より選ぶポリマー及びクロロトリフルオロエチレンオリゴマー溶媒のメルト-ブレンドであって、ブレンドの重量を基準にして10?35重量%のポリマーを含有するものを形成し、 (b)該メルト-ブレンドを造形して膜への造形先駆物質を形成し、 (c)該造形先駆物質を冷却して溶媒が相分離によってポリマーから分離する温度にしてゲル中空繊維を形成し、 (d)工程(c)においてゲル中空繊維から生成した溶媒を選択抽出してポリマーの微孔質膜を形成し、 (e)工程(d)からの膜を乾燥する ことを含む微孔質ポリマーフルオロカーボン膜でなる中空繊維濾過膜。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 2-2-4.補正発明と引用発明との対比 (1)引用発明と補正発明の「中空繊維濾過膜」の材質について 引用発明の「中空繊維濾過膜」を形成する主材質は「(a)ポリ(テトラフルオロエチレン-コーペルフルオロ(アルキルビニルエーテル))及びポリ(テトラフルオロエチレン-コーヘキサフルオロプロピレン)から成る群より選ぶポリマー及びクロロトリフルオロエチレンオリゴマー溶媒のメルト-ブレンドであって、ブレンドの重量を基準にして10?35重量%のポリマーを含有するもの」であるところ、補正発明の「中空繊維濾過膜」の主材質は「テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及びそれらの混合物からなる群から選択されるペルフルオロ化熱可塑性重合体」である。 また、本願明細書には「これら膜の製造プロセスが提供される。本プロセスは、多孔質な構造と膜を製造する熱誘起相分離(TIPS)法に基づく。重合体ペレット・・・と、クロロトリフルオロエチレンオリゴマー等の溶媒との混合物を、ペースト或いはペースト状稠度までまず混合する。重合体は、混合物の約12重量%から75重量%、好ましくは30重量%から60重量%である。」(【0015】)と記載されており、これは引用発明の「クロロトリフルオロエチレンオリゴマー溶媒」を用いて「ブレンドの重量を基準にして10?35重量%のポリマーを含有する」と重複するものといえる。 さらに、本願明細書には「本発明は、ペルフルオロ化熱可塑性重合体、特にテトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(Poly(PTFE-CO-PFVAE))又はテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)」(【0014】)とあることから、引用発明のポリマー名中の「コー」は補正発明の例えば「Poly(PTFE-CO-PFVAE)」の「-CO-」にあたるといえる。 よって、引用発明の「(a)ポリ(テトラフルオロエチレン-コーペルフルオロ(アルキルビニルエーテル))及びポリ(テトラフルオロエチレン-コーヘキサフルオロプロピレン)から成る群より選ぶポリマー及びクロロトリフルオロエチレンオリゴマー溶媒のメルト-ブレンドであって、ブレンドの重量を基準にして10?35重量%のポリマーを含有するもの」は、補正発明の「テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及びそれらの混合物からなる群から選択されるペルフルオロ化熱可塑性重合体」に相当するということができる。 なお、上記の記載と(刊1-イ)の「ポリ(テトラフルオロエチレン-コーペルフルオロ(アルキルビニルエーテル))(PFA)或はポリ(テトラフルオロエチレンーコーへキサフルオロプロピレン)(FEP)」との記載から、 「テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体」は、「Poly(PTFE-CO-PFVAE)」、「ポリ(PTFE-CO-PFVAE)」あるいは「PFA」と、 「テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体」は、「FEP」と、以下で記載されることがある。 (2)引用発明の(a)?(e)が、補正発明の「熱誘起相分離プロセス」にあたるかどうかについての検討 A)補正発明の「熱誘起相分離プロセス」について 本願明細書には、補正発明の「中空繊維濾過膜」の製造方法である「熱誘起相分離(TIPS)プロセス」について、「化学的に不活性なので、ポリ(PTFE-CO-PFVAE)やFEP重合体は典型的な溶液鋳造法を用いて膜に成形するのは難しい。これらの重合体は、熱誘起相分離(TIPS)プロセスを用いて膜にすることができる。TIPSプロセスの1例では、i)重合体と有機溶媒を混合し、押し出し機内で重合体が溶解する温度まで加熱する。膜を押し出しダイを通して押し出しにより成形し、ii)押し出された膜は冷却してゲルを形成する。冷却する間、重合体溶液の温度を上方臨界共溶温度以下に下げる。これは、均質な加熱溶液から2相が生成する温度またはそれより低い温度であり、2相の内1相は主に重合体であり、もう一方の相は主に溶媒である。適当に行えば、溶媒に富んだ相は連続的に相互に接続した多孔性を形成する。次に、iii)溶媒に富んだ相を抽出し、iv)膜を乾燥する。」(【0009】)と記載されている。 なお、「i)」?「iv)」及び下線は便宜上当審で付与した。 B)引用発明の中空繊維濾過膜の製造について i)引用発明の「(b)該メルト-ブレンドを造形して膜への造形先駆物質を形成し、」について (刊1-オ)には「本発明の第1工程で、PFA或はFEP及び溶媒のメルトブレンドを調製する。メルトブレンドは溶媒の存在において少なくともPFA或はFEPの融解温度に、通常約280°?約310℃に、好ましくは窒素或は不活性ガス等の不活性雰囲気中で加熱して形成する。酸素はメルトブレンドを形成するのに要する高い温度で溶媒を分解する傾向にある。メルトブレンドの形成では、PFA或はFEP及び溶媒を、例えば慣用の二軸スクリュー押出装置の混合バレル中で混合し、混合物を混合する間加熱する。メルトブレンドを押出域からスロットダイ或は中空繊維ダイの中に通して溶融フィルム或は溶融中空繊維を形成する。」と記載されている。 よって、上記(刊1-オ)には、「PFA或はFEP及び溶媒のメルトブレンドを調製」して、これを「少なくともPFA或はFEPの融解温度」に加熱することが示され、さらに、「メルトブレンドの形成では、PFA或はFEP及び溶媒を、例えば慣用の二軸スクリュー押出装置の混合バレル中で混合し、混合物を混合する間加熱する。メルトブレンドを押出域からスロットダイ或は中空繊維ダイの中に通して溶融フィルム或は溶融中空繊維を形成する」と記載され、これは「混合物」の上記加熱が「押出装置の混合バレル中」で行われ、「混合物」が「中空繊維ダイ」から押し出されて「中空繊維」が形成されることを示しているといえる。 よって、引用発明の「(b)該メルト-ブレンドを造形して膜への造形先駆物質を形成し、」は、上記本願明細書【0009】記載の「i)重合体と有機溶媒を混合し、押し出し機内で重合体が溶解する温度まで加熱する。膜を押し出しダイを通して押し出しにより成形し」に相当するといえる。 ii)引用発明の「(c)該造形先駆物質を冷却して溶媒が相分離によってポリマーから分離する温度にしてゲル中空繊維を形成し、」について (刊1-オ)には「溶融フィルム或は中空繊維を次いで水等を含む急冷浴に通すことによる等して急冷してメルトブレンドの相分離温度より低い温度にしてゲルフィルム或はゲル中空繊維を形成する。」と記載され、「メルトブレンドの相分離温度より低い温度」に「冷却」することで「相分離」を起こさせて「ゲル中空繊維を形成」することが示されている。 そして、「相分離温度」は「相分離によってポリマーから分離する温度」であり、他方で「上方臨界共溶温度」は「均質な加熱溶液から2相が生成する温度またはそれより低い温度であり、2相の内1相は主に重合体であり、もう一方の相は主に溶媒」であることから、「相分離温度」は「上方臨界共溶温度」に相当することは明らかである。 よって、引用発明の「(c)該造形先駆物質を冷却して溶媒が相分離によってポリマーから分離する温度にしてゲル中空繊維を形成し、」は、上記本願明細書【0009】記載の「ii)押し出された膜は冷却してゲルを形成する」に相当といえる。 iii)引用発明の「(d)工程(c)においてゲル中空繊維から生成した溶媒を選択抽出してポリマーの微孔質膜を形成し、」、「(e)工程(d)からの膜を乾燥する」は、上記本願明細書【0009】記載の「iii)溶媒に富んだ相を抽出し」、「iv)膜を乾燥する」にそれぞれ相当することは明らかである。 C)以上から、引用発明の 「(b)該メルト-ブレンドを造形して膜への造形先駆物質を形成し、 (c)該造形先駆物質を冷却して溶媒が相分離によってポリマーから分離する温度にしてゲル中空繊維を形成し、 (d)工程(c)においてゲル中空繊維から生成した溶媒を選択抽出してポリマーの微孔質膜を形成し、 (e)工程(d)からの膜を乾燥する」は、 補正発明の「熱誘起相分離プロセスを用いて形成され」に相当するということができる。 (3)一致点と相違点 以上のことから、補正発明と引用発明とは、 「熱誘起相分離プロセスを用いて形成され、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及びそれらの混合物からなる群から選択されるペルフルオロ化熱可塑性重合体よりなる中空繊維濾過膜。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1>「中空繊維濾過膜」の構造に関して、補正発明は「一方の径にスキン化表面を、反対側の径に多孔質の表面を有して」なるのに対して、引用発明は「微孔質膜」である点。 <相違点2>「中空繊維濾過膜」の孔径の寸法に関して、補正発明は「スキン化表面が、2nmから50nmの範囲の平均細孔径を有して多孔質である」のに対して、引用発明はそのような特定を有さない点 2-2-5.相違点の検討 <相違点1>について (1)刊行物1の(刊1-エ)には「本発明に従えば、開放或は閉鎖細孔構造を有するPFA或はFEPから微孔質フィルムを形成する。構造が開放している場合、フィルムは液体及びガスの両方を透過することができ、炉材として使用することができる。フィルムの細孔構造を閉止する場合、多孔質フィルムは不透過性であり、例えば絶縁体或は薬剤をゆっくり放出する封入系として有用である。」と記載されており、また、(刊1-ウ)には「液状溶媒を用いて高い温度で溶液を形成し、冷却した際に液-液或は固(結晶)-液相分離を行ってポリマーが固相になることを可能にするPFA或はFEPから微孔質を製造する融通のきく方法を提供することは望ましい。加えて、細孔構造を十分に調節することができるかかる方法を提供することは望ましい。」と記載され、これらは、(刊1-ウ)を更に詳細に記載した(刊1-オ)について「上記2-2-4.(2)」でみたように、引用発明の「中空繊維濾過膜」では、その製造方法である「熱誘起相分離プロセス」において、「細孔構造」を「調節」できるものであることを示しているといえる。 (2)一方、刊行物2の(刊2-ア)には「(1)ポリオレフィンおよび該ポリオレフィンの溶融下で該ポリオレフィンに均一に分散し得かつ使用する抽出液に対して易溶性である有機充填剤を混練し、このようにして得られる混練物を溶融状態で環状紡糸孔から吐出させ同時に内部中央部に不活性ガスを充填し、該中空状物を前記ポリオレフィンを溶解しない冷却固化液と接触させて冷却固化し、ついで冷却固化した中空状物を前記ポリオレフィンを溶解しない抽出液と接触させて前記有機充填剤を抽出除去することを特徴とする中空糸膜の製造方法。」が記載されており、「上記2-2-4.(2)」でみたように、本願明細書【0009】の「熱誘起相分離(TIPS)プロセス」の工程である「i)重合体と有機溶媒を混合し、押し出し機内で重合体が溶解する温度まで加熱する。膜を押し出しダイを通して押し出しにより成形し、ii)押し出された膜は冷却してゲルを形成し、iii)溶媒に富んだ相を抽出し、iv)膜を乾燥する」ことと比較すると、刊行物2に記載の「中空糸膜の製造方法」では、i)「混練物を溶融状態で環状紡糸孔から吐出」させ「中空状物」となし、ii)「冷却固化」し、iii)「抽出液と接触させて前記有機充填剤を抽出除去」し、iv)(刊2-イ)の記載より「有機充填剤を抽出除去し、必要により乾燥を行なう」ことにより中空糸膜が得られる」ものであり、両者に工程操作としての差異は認められないから、刊行物2に記載の「中空糸膜の製造方法」においても「熱誘起相分離プロセス」によって「中空糸膜」が製造されているということができる。 (3)ここで、刊行物2に記載の「中空糸膜の製造方法」では、(刊2-ウ)に記載されるように「このようにして得られる中空糸膜は、内径が150?300μm、好ましくは180?250μm、肉厚が10?150μm、好しくは20?100μmの真円形のものである。その断面構造は、中空糸膜の製造条件によって変るが・・・内表面から外表面に向うにしたがってポリオレフィンの微粒子が独立に形成されていて、内表面部付近に緻密層を有し、外表面部付近には多孔質層よりなるものが得られる。この断面構造は冷却固化液の温度により異なり、温度が高くなるにつれてポリオレフィンの微粒子形成が内表面部方向に進行している。しかし、いずれの場合も、内部付近の微粒子は緻密であるのに対して、外面部付近では微粒子は独立に存在した集合体」となっている「中空糸膜」が製造されている。 すなわち、刊行物2に記載の「中空糸膜の製造方法」では、「熱誘起相分離プロセス」において、「混練物を溶融状態で環状紡糸孔から吐出させ同時に内部中央部に不活性ガスを充填し」て、かつ、「冷却固化液の温度」を調整することで、断面環状の「中空糸膜」において、「内表面」に「緻密層」を、「外表面」に「多孔質層」を有する構造の「中空糸膜」が製造されているといえる。 そして、「内部付近の微粒子は緻密であるのに対して、外面部付近では微粒子は独立に存在」するということから、微粒子の間の空間すなわち「細孔構造」が「熱誘起相分離プロセス」において「混練物を溶融状態で環状紡糸孔から吐出させ同時に内部中央部に不活性ガスを充填し」て、かつ、「冷却固化液の温度」を調整することで「調節」されて上記構造の「中空糸膜」が製造されているといえる。 (4)ここで、例えば、周知例1の(周1-ア)?(周1-エ)には、「テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体」を材質とし、「中空部2」と「スキン層3と称される非常に緻密な最内層」と「支持層4」である「多孔質膜」でなり、「被処理流体を効率よく膜分離する上で有用な中空糸膜モジュール」が示されており、これは「テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体」を材質とする「スキン層」を有する「中空繊維濾過膜」ということができる。 また、周知例2の(周2-ア)には「テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体」、「テトラフルオ口エチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体」を材質とする「中空糸モジュール」が示されており、(周2-イ)には当該「モジュール」が「多孔質中空糸膜」であって、「複合構造」を採り得るものであり、「分画特性を支配している層の孔径は0.001?2μ(1?2000nm)であることが分画性能の点から好ましい。」ことが示されている。ここで、「血液浄化」に使用される「中空糸膜」は「スキン層」を有し、その平均孔径は10?30nm(平均孔半径5?15nm)である事(例えば特開平9-276400号公報【0001】、【0018】)が知られており、上記(周2-ウ)で用途として「血液成分の分離」等があげられていることから、当該用途において周知例2の「多孔質中空糸膜」は平均孔径は10?30nmの「分画特性を支配している層」すなわち「スキン層」を有しているといえる。 すると、上記の周知例1,周知例2の開示から見て、「テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体」または「テトラフルオ口エチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体」を材質とし「一方の径にスキン化表面を、反対側の径に多孔質の表面を有」する「中空繊維濾過膜」は周知技術ということができる。 (5)すると、上記(1)から、引用発明の「中空繊維濾過膜」では、その製造方法である「熱誘起相分離プロセス」において、「細孔構造」を「調節」できるものであるところ、上記(4)から「テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体」または「テトラフルオ口エチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体」を材質とし「一方の径にスキン化表面を、反対側の径に多孔質の表面を有」する「中空繊維濾過膜」は周知技術であり、上記(3)から、「細孔構造」が「熱誘起相分離プロセス」において「混練物を溶融状態で環状紡糸孔から吐出させ同時に内部中央部に不活性ガスを充填し」て、かつ、「冷却固化液の温度」を調整することで「調節」されて上記構造の「中空糸膜」が製造されることを考慮すると、引用発明において、引用発明と同じ「中空繊維濾過膜」である上記周知技術の「中空繊維濾過膜」の製造にあたり、刊行物2に記載の技術手段を適用して、「熱誘起相分離プロセス」において、「メルトブレンド」を「中空繊維ダイ」から吐出させ同時に「内部中央部に不活性ガスを充填」し、「急冷浴」の温度を調整して「細孔構造」を「調節」して、上記周知技術である「中空繊維濾過膜」を製造することに格別の困難性は見いだせない。 よって、引用発明において相違点1にかかる本願発明の特定事項に想到することは当業者の容易に推考し得るところということができる。 <相違点2>について 「<相違点1>について (4)」であげた例えば特開平9-276400号公報【0001】、【0018】)に記載されるように、中空糸膜の「スキン層」の平均孔径として10?30nm程度のものがあることは知られていることであるから、上記スキン層を有する「中空繊維濾過膜」の製造にあたり、製造条件を調整して「スキン化表面が、2nmから50nmの範囲の平均細孔径を有して多孔質である」「中空繊維濾過膜」を製造することに格別の困難性は見いだせない。 よって、相違点2にかかる本願発明の特定事項に想到することは当業者の容易に推考し得るところということができる。 そして上記各相違点に基づく本願発明の奏する作用効果も、刊行物1、2の記載事項、周知例1,2に代表される周知技術及び技術常識から予測できる範囲のものであり格別なものではない。 以上から、補正発明は、引用発明、刊行物2、周知例1,2に代表される周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 よって、本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、上記の理由により、いわゆる独立特許要件を満足しないため、その余の事項について検討するまでもなく、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について 3-1.本願発明 平成23年4月21日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正は前記「2.」のとおり却下されたので、本願の請求項1-34に係る発明は、平成22年6月15日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1-34に記載される事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。 「【請求項5】一方の径にスキン化表面を、反対側の径に多孔質の表面を有してなり、熱誘起相分離プロセスを用いて形成され、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及びそれらの混合物からなる群から選択されるペルフルオロ化熱可塑性重合体よりなる中空繊維濾過膜。」 3-2.刊行物の記載と引用発明 刊行物の記載は、上記「2-2-2.刊行物の記載」に記載のとおりである。 引用発明は「2-2-3.刊行物1に記載された発明の認定」に記載のとおりである。 3-3.本件発明と引用発明との対比 上記「2-1.」で記載したように、本願発明は、補正発明の特定事項である「前記スキン化表面が、2nmから50nmの範囲の平均細孔径を有して多孔質であること」と特定する点を削除したものといえるものであるから、本願発明は補正発明を拡張した発明といえる。 すると、本願発明の特定事項を全て含み、上記の特定事項によりさらに限定的に特定された補正発明が上記「2.」に記載したとおり、引用発明、刊行物2、周知例1,2に代表される周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、補正発明と同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。 3-4.請求人の主張について (1)請求人の主張 請求人は、回答書において、平成23年4月21日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の独立項である請求項1,3,5,15について以下の補正案を提示し、当該補正案であれば拒絶理由を有さない旨を主張している。 <<補正案>> [請求項1]抽出にかけてリストレイント下で乾燥させた、熱誘起相分離プロセスを用いて形成された中空繊維膜であって、 一方の径にスキン化表面を、反対側の径に多孔質の表面を有し、 テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及びそれらの混合物からなる群から選択されるペルフルオロ化熱可塑性重合体よりなり、 前記スキン化表面が、2nmから50nmの範囲の平均細孔径を有する多孔質の内腔表面であり、 前記中空繊維膜の水中酸素移動特性を、シャーウッド数対グレーツ数のプロットで表すと、グレーツ数が5から1000の範囲において直線になる ことを特徴とする、中空繊維膜。 [請求項3]一方の径にスキン化表面を、反対側の径に多孔質の表面を有してなり、熱誘起相分離プロセスを用いて形成され、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及びそれらの混合物からなる群から選択されるペルフルオロ化熱可塑性重合体よりなり、 前記スキン化表面が、2nmから50nmの範囲の平均細孔径を有する多孔質の内腔表面であり、 前記中空繊維膜の水中酸素移動特性を、シャーウッド数対グレーツ数のプロットで表すと、グレーツ数が5から1000の範囲において直線になる ことを特徴とする、中空繊維濾過膜。 [請求項5]2nmから50nmの範囲の平均細孔径を有して多孔質であるスキン化内側表面と、膜のその残部の全体に渡って多孔質構造とを有する、ペルフルオロ化熱可塑性重合体から多孔質の中空繊維膜を製造するための方法であって、前記中空繊維膜の水中酸素移動特性は、シャーウッド数対グレーツ数のプロットで表すと、グレーツ数が5から1000の範囲において直線になるものであり、 前記方法が、 a)ペルフルオロ化熱可塑性重合体を、該重合体と上方臨界共溶温度溶液を形成するクロロトリフルオロエチレンオリゴマー溶媒に溶解させる工程と、 b)該溶液を環状のダイから押し出し、前記ダイは先端を有し、前記先端は前記先端の温度を制御するための熱電対およびヒーターを有し、前記先端において前記溶液の温度を上昇させ、該先端の一部を冷却浴に沈め、前記先端が前記ヒーターによって該溶液が急激に冷えるのを防ぐために十分高い温度を維持する工程と、 c)同時に、ダイの中央部に加圧流体流を供給する工程と、 d)該溶液を冷却浴の中に押し出してゲル状繊維を形成する工程と、 e)該溶液を上方臨界共溶温度以下で冷却し、液-液相分離により高分子に富んだ固相と溶媒に富んだ液相の2相に分離させつつ、前記ゲル状繊維の内側表面からの前記溶媒の蒸発を制御する工程と、 f)該ゲル状繊維から該溶媒を抽出し、前記スキン化内側表面と該繊維のそれ以外の部分の全体に渡り実質的に多孔質な構造とを有する中空繊維膜を形成する工程と、 g)該多孔質な中空繊維膜を乾燥する工程と からなる ことを特徴とする、方法。 [請求項15]2nmから50nmの範囲の平均細孔径を有して多孔質であるスキン化外側表面と、膜のその残部の全体に渡って多孔質構造とを有する、ペルフルオロ化熱可塑性重合体から中空繊維膜を製造するにあたり、 a)ペルフルオロ化熱可塑性重合体を、該重合体と上方臨界共溶温度溶液を形成するクロロトリフルオロエチレンオリゴマー溶媒に溶解させる工程と、 b)該溶液を、環状のダイから押し出す工程であって、ここで前記ダイは先端を有し、前記先端は前記先端の温度を制御するための熱電対およびヒーターを有し、前記先端において前記溶液の温度を上昇させるものであり、前記先端が前記ヒーターによって前記溶液が急激に冷えるのを防ぐのに十分高い温度を維持する、という工程と、 c)同時に、該ダイの中央部から押し出し物の内腔に液体を供給する工程と、 d)該溶液をエアーギャップを経て、0.05秒未満の空気との接触時間で、前記冷却浴の中に押し出してゲル状繊維を形成し、前記ゲル状繊維の外側表面から前記溶媒が急速に蒸発するのを制御する工程と、 e)該溶液を上方臨界共溶温度未満に冷却して、液-液相分離により高分子に富んだ固相と溶媒に富んだ液相との2相に分離させる工程と、 f)該ゲル状繊維から該溶媒を抽出し、前記スキン化外側表面と該繊維のそれ以外の部分の全体に渡って実質的に多孔質な構造とを有する中空繊維膜を形成する工程と、 g)該多孔質な中空繊維膜を乾燥する工程と からなることを特徴とする中空繊維膜の製造方法。 (下線は請求人が付与した。) (2)請求人の主張の検討 上記補正案の補正箇所をみると、次の二つの点を新たに付加することを主張しているものと整理することができる。 A)中空繊維膜の水中酸素移動特性を、シャーウッド数対グレーツ数のプロットで表すと、グレーツ数が5から1000の範囲において直線になる点 B)溶液を、環状のダイから押し出す工程であって、ここで前記ダイは先端を有し、前記先端は前記先端の温度を制御するための熱電対およびヒーターを有し、前記先端において前記溶液の温度を上昇させるものであり、前記先端が前記ヒーターによって前記溶液が急激に冷えるのを防ぐのに十分高い温度を維持する、という工程を有する点 そこで請求人の上記主張について検討する。 A)について A-1)請求人主張の本願明細書の記載根拠箇所は【図7】及び【0064】?【0065】といえるところ、 本願明細書の全ての実施例についてみると、 「(実施例1)」(【0056】?【0057】)で製作された膜は「図5及び6は、この中空繊維膜の内側及び外側表面を示す。外側表面が多孔質な表面を示す一方、内側表面はスキンを有する。」(【0057】)とあることから、内側にスキンを有する多孔質膜といえるものであり、 「(実施例2)」(【0058】)で製作された膜は「膜のスキンが非孔質であることを示している。」とあることから少なくともスキン層を有することが理解され、 「(実施例3)」(【0059】?【0060】)で製作された膜は、「実施例1の膜と類似の方法で作った膜」(【0059】)とあることから、内側にスキンを有する多孔質膜といえるものである。 よって、何れの実施例で製作された膜もスキン層が付いた膜であるといえるが、「図7に示された結果は、この実施例の膜は、ペクレ数の高いところでレベック式の直線部分に従うので、多孔質な膜としてふるまうことを示している。直線の領域では、シャーウッド数とグレーツ数の間の関係は、約5から約1000の間のグレーツ数に対して、 Sh=1.64(Gr)^(0.33) で与えられる。」(【0065】)と記載されており、この記載から、本願発明の「スキン層が付いた膜」は「多孔質な膜としてふるまう」ということが理解される。 しかし、通常は、「スキン層が付いた膜」は限外濾過膜や逆浸透膜として使用され、「多孔質な膜」は精密ろ過膜のレベルで使用されることを踏まえれば、「スキン層が付いた膜」と「多孔質な膜」とで分画分子量や透過性が同一挙動になることは考え難く、「多孔質な膜としてふるまう」ということの物理的な意味は明らかでなく、また、当該同一挙動を可能とする「スキン層」がどのようなものであるのかは本願明細書中に明記を見いだせない。 また、仮に上記のようなことが起こり得るとすれば、本願発明はいわゆる特殊パラメーター発明といえることになるが、その場合には本願発明でない製造方法で製作された膜では上記各パラメーターはどのようになっているのかが明らかになる必要がある。 以上から、上記補正を認めれれば、特許法第36条第4項、同条第6項第1,2号の拒絶理由が生ずるものといえる。 A-2)また、本願出願人請求人と同一人が出願した特開2009-279585号公報(特願2009-166295号であり、優先権主張日が本願と同一日である特願2000-595775号からの分割出願である)には、「双方の径上において無表皮の表面を有し、グレーツ(Graetz)数が5-1000の範囲において、このグレーツ(Graetz)数の0.33乗の1.64倍に等しいシャーウッド(Sherwood)数を有する液相-気相質量輸送を可能とする、過フッ素化熱可塑性重合体からなる中空繊維接触器膜。」(【0014】)、 「本発明は、高い流動性を有するとともに、表皮を有しないスキンフリーの中空繊維膜、さらには微多孔膜をフッ化熱可塑性重合体、特には、ポリテトラフルオロエチレン-フッ化アルキルビニルエーテル共重合体(POLY(PTFE-CO-PFVAE))又はポリテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン(FEP)から製造し、提供する。これらの膜は、何らの問題も生じることなく、苛酷な化学環境においても使用することができる。先行技術の膜と比較した場合、本発明の膜は高い表面多孔性を示し、高い浸透性すなわち流動性を示すようになる。」(【0032】)と記載されており、さらに【0104】?【0108】には本願明細書【0064】?【0065】と同様のことが記載されており、これは「表皮を有しないスキンフリーの中空繊維膜」が、本願発明と同様な条件下において「多孔質な膜」としてふるまうということを意味する。 したがって、スキンのある中空繊維膜とスキンのない中空繊維膜が同1条件下で共に「多孔質な膜」として挙動することになり、これは俄には信じがたい物理的現象であって、仮にどちらも物理的に正しい現象であるとしても、上記の本件補正案を採用するためには、新たに請求人の充分な説明を要し、そのために更に長時間の審理を要することは明らかである。 A-3)以上からA)の点については、これを採用すれば直ちに本願を特許査定するということは出来ないことであるので、これを採用できない。 B)について 上記刊行物1の(刊1-オ)には「メルトブレンドの形成では、PFA或はFEP及び溶媒を、例えば慣用の二軸スクリュー押出装置の混合バレル中で混合し、混合物を混合する間加熱する。メルトブレンドを押出域からスロットダイ或は中空繊維ダイの中に通して溶融フィルム或は溶融中空繊維を形成する。 溶融フィルム或は中空繊維を次いで水等を含む急冷浴に通すことによる等して急冷してメルトブレンドの相分離温度より低い温度にしてゲルフィルム或はゲル中空繊維を形成する。」と記載されている。 すると、引用発明においては、「中空繊維ダイ」から「混合物」を「急冷浴」に押し出して冷却する前に、「二軸スクリュー押出装置の混合バレル中で混合し、混合物を混合する間加熱」していることが理解される。 そして、当該加熱は、(刊1-オ)に「メルトブレンドは溶媒の存在において少なくともPFA或はFEPの融解温度に、通常約280°?約310℃に・・・加熱して形成する。」とあることから、十分に高い温度で加熱しているものということができ、当該温度であれば「中空繊維ダイ」の押出の先端部分でも「メルトブレンドの相分離温度より低い温度」になって相分離が起こることはないと推測される。 そして、当該温度とするためには、熱源であるヒーターと、温度を計測してヒーターを調整するための熱電対(高温なので他の熱計測器より適切と考えられる)を用いる程度のことは当然の措置というべきである。 よって、引用発明において、「溶液を、環状のダイから押し出す工程であって、ここで前記ダイは先端を有し、前記先端は前記先端の温度を制御するための熱電対およびヒーターを有し、前記先端において前記溶液の温度を上昇させるものであり、前記先端が前記ヒーターによって前記溶液が急激に冷えるのを防ぐのに十分高い温度を維持する」ようにすることに格別の困難性は見いだせない。 したがって、B)の点ついては、当該補正を認めても本願発明はなお特許を受けることはできない。 以上から、請求人の主張は採用することはできない。 3-5.むすび 以上のとおり、本願発明は引用発明、刊行物2、周知例1,2に代表される周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-09-28 |
結審通知日 | 2012-10-02 |
審決日 | 2012-10-15 |
出願番号 | 特願2000-595773(P2000-595773) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B01D)
P 1 8・ 575- Z (B01D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大島 忠宏 |
特許庁審判長 |
松本 貢 |
特許庁審判官 |
中澤 登 斉藤 信人 |
発明の名称 | スキン化中空繊維膜とその製造方法 |
代理人 | 川口 義雄 |
代理人 | 大崎 勝真 |