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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12P
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12P
管理番号 1270682
審判番号 不服2009-2520  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-05 
確定日 2013-02-25 
事件の表示 特願2003-556545「ブラケスレアトリスポラの選択された菌株の発酵による改善されたリコペン産生方法、このようにして得たリコペンの調合物及び使用」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月10日国際公開、WO03/56028、平成17年 5月12日国内公表、特表2005-512599〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年12月20日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2001年12月31日、スペイン)を国際出願日とする出願であって、平成16年8月30日付けで条約34条補正翻訳文提出書が出され、平成20年3月7日付けで拒絶理由通知書が出され、同年10月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年2月5日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

本願の請求項1?48に係る発明は、平成16年8月30日付け条約34条補正翻訳文提出書の特許請求の範囲の請求項1?48に記載された事項により特定されたとおりのものと認められ、その請求項1及び39に係る発明(以下、「本願発明1」及び「本願発明39」という。)は、下記の事項により特定される発明である。
「【請求項1】
生合成された原料からのリコペンの生産方法であって、
a.リコペン生産に適切な条件下の培養培地バイオマスにおいて、その栄養増殖段階の時間齢(age of the vegetative stage of growth)が制御されている、Blakeslea trisporaの(+)と(-)のリコペンの過剰産生株(overproducer strain)を、混合発酵し;
b.ステップa)の培養培地バイオマスをアルコールで処理して、湿潤、精製バイオマスを分離し;
c.乾燥、粉砕及び破砕により、湿潤、精製バイオマスの状態を調整し;
d.精製バイオマス中に含まれるリコペンを、有機溶媒により、使用される有機溶媒の関数である溶解温度および溶解時間を制御しながら固液抽出し;
e.富化リコペン抽出物を濃縮し;
f.アルコール添加により、濃縮抽出物からリコペンを沈殿/結晶化し;
g.濾過及び乾燥し;
h.調合する
ステップを連続して含むことを特徴とする、上記方法。」及び

「【請求項39】
請求項1?24の方法で得ることができる結晶リコペンであって、
n-ヘキサン中、結晶の472nm(E1% 1cm=3450)での分光吸収によって決定される結晶純度が、コペン含有量が95%を超え、他のカロテノイド類の含有量が3%未満であり、cisリコペンの含有量も3%未満である、結晶リコペン。」
(なお、請求項39の「コペン含有量」は、「リコペン含有量」の誤記と認められる。)

第2 本願発明1の進歩性について
1 引用刊行物およびその記載事項
原査定で引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である刊行物1?2には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付したものである。)
刊行物1:国際公開第00/77234号(原査定の引用文献1)
刊行物2:国際公開第01/12832号(原査定の引用文献2)

(1)刊行物1に記載された事項
(なお、原文がスペイン語のため、原文は摘記箇所のみを示し、記載事項は省略する。提示した翻訳文は、対応する日本語出願の公表公報である特表2003-502052号公報の記載に基づき、段落番号も併せて記載した。)
[1a]「【請求項1】 ムコーラレス菌類混合培養物の発酵によりリコペンを製造する方法において、トリスポリック酸類を発酵中の任意の時点に加え、そして生成したリコペンを回収することを特徴とする上記の方法。
【請求項2】 発酵の際に用いられるムコール菌がブラケスレア・トリスポーラであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】 B.トリスポーラの(+)株および(-)株を含んでいる混合培養物を使用することを特徴とする、請求項2記載の方法。」(原文及び公表公報とも特許請求の範囲第1?3項)

[1b]「【請求項6】 突然変異のためにβ-カロテンの生合成能が一部または完全に阻害されている、リコペンを蓄積するB.トリスポーラの突然変異株を含んでいる培養物を使用することを特徴とする請求項2?5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】 リコペンの蓄積を誘発するために、培養物にβ-カロテンの生合成阻害剤を発酵の任意の時点に加えることを特徴とする、請求項2?5のいずれかに記載の方法。」(原文及び公表公報とも特許請求の範囲第6?7項)

[1c]「【0014】
(発明の詳細な説明)
本発明の目的は、ムコーラレス菌類(ブラケスレア、コアネフォラまたはフィコマイセス)による、さらに具体的にはB.トリスポーラでの発酵法におけるカロテノイド類、特にリコペンの生成を増加させることを請求することである。本発明は、B.トリスポーラ菌を発酵培地中で培養し、そして一部精製されたトリスポリック酸類(またはβ因子)(PTA)を、またはある種の他の供給源、例えばβ-カロテンの生成用培地からの未精製のトリスポリック酸類(またはβ因子)(NPTA)でさえも添加することより成る。」(原文の第6頁第25行?第7頁第2行、公表公報の第8?9頁の段落【0014】)

[1d]「【0021】
実施例1
β-カロテンおよびリコペンの発酵中におけるトリスポリック酸類の濃度の測定
【0022】
1リットル当たり大豆粉23g;トウモロコシ粉47g;リン酸一カリウム0.5g;チアミン塩酸塩0.002gを含んでいる接種用培地を調製する。その初期pHは6.3である。この培地を500mLの三角フラスコ中に67mLまたは100mLの速度で分配する。滅菌後に、胞子懸濁物からのB.トリスポーラASA2(+)株およびB.トリスポーラASA25(-)株を別々のフラスコに植え、そして25℃で48時間インキュベートする。
【0023】
突然変異株のB.トリスポーラ ASA2(+)およびB.トリスポーラ ASA25(-)は、ロシア(Russia)のモスクワ(Moscow)に所在するコレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオルガニズムズ(Collection of Industrial Microorganisms:VKM)に寄託されている野生株のB.トリスポーラ F208(-)およびF117(+)からのNTGによる突然変異により得られる。この両株は公に入手できる。
【0024】
1リットル当たり大豆粉44g;トウモロコシ粉19g;二塩基性ホスフェート0.55g;チアミン塩酸塩0.002g;植物油10%を含んでいる塩基性発酵培地を調製する。その初期pHは水酸化カリウムで7.5に調整されている。この培地を250mLの三角フラスコ中に20mLの速度で分配する。
【0025】
β-カロテンの発酵のために、塩基性培地が入っているフラスコにB.トリスポーラASA2(+)株とB.トリスポーラASA25(-)株との混合培養物を10%接種する。リコペンの発酵のために、上記塩基性培地に、生合成経路をリコペンのレベルにおいて遮断する目的で、化学試剤、例えば2mL/Lのピリジンを加える。この培地にB.トリスポーラASA2(+)株とB.トリスポーラASA25(-)株との混合培養物を10%接種する。全てのフラスコを25℃において軌道攪拌器(orbital stirrer)中で250rpmにおいてインキュベートする。試料を発酵2日目から初めて24時間毎に採取し、そしてトリスポリック酸類の濃度を、β-カロテンを生成させるフラスコ中およびリコペンを生成させるフラスコ中で測定する。
【0026】
トリスポリック酸類の濃度は、試料をpH2まで酸性化した後に1容量のクロロホルムで抽出することによって測定される。その有機部分を1容量の4%重炭酸ナトリウム溶液で抽出し、その水性相を集め、そして酸性化し、次いで再びクロロホルムで抽出する。次に、そのクロロホルムを蒸発させて乾固状態に至らしめ、そしてトリスポリック酸類より成る残分をエタノール、またはトリス(Tris)-硫酸塩緩衝液中に溶解させる。そのトリスポリック酸類を、吸光係数を70mL×mg^(-1)×cm^(-1)と仮定して(サッター RP.、キャページ DA.、ハリソン TL.、キーン WA.、1973年、J. Bacteriology 、114:1074-1082)、吸光度測定法で325nmにおいて定量的に測定する。
【0027】
トリスポリック酸類の濃度はβ-カロテンおよびリコペンの発酵の過程で変わり、後者では前者よりも有意に低いことが見いだされた。最大の相違は4日目に見いだされ、この場合β-カロテンの発酵での濃度は378μg/mL、リコペンの発酵での濃度は46μg/mLであった(おおよそ8倍の違い)(図1)。」(原文の第9頁第18行?第11頁第9行、公表公報の第11?12頁の段落【0021】?【0027】)

[1e]「【0039】
実施例4
B.トリスポーラASA2(+)による混合培養での突然変異株・B.トリスポーラASA25(-)の発酵に及ぼす一部精製トリスポリック酸類(PTA)または未精製トリスポリック酸類(NPTA)の添加効果
【0040】
接種用培地を実施例1に記載されたように調製する。滅菌後に、B.トリスポーラASA25(-)株およびB.トリスポーラASA2(+)株を胞子懸濁物から別々のフラスコに植え、そして25℃で48時間インキュベートする。
【0041】
実施例1に記載されたものと同じタイプの発酵培地を調製する。滅菌後に、イミダゾールを0.75mg/mLの最終濃度まで、またpH7.5のホスフェート緩衝剤を25mMの最終濃度まで加える。この培地にB.トリスポーラASA25(-)株とB.トリスポーラASA2(+)株との混合物を10%接種する。これらのフラスコを25℃において軌道攪拌器中で250rpmにおいてインキュベートする。
【0042】
未精製トリスポリック酸類(NPTA)源を得るために、実施例1に記載されたものと同じタイプの発酵培地を調製する。滅菌後に、混合培養物に、それぞれβ-カロテンを生成させる株であるB.トリスポーラASA2(+)株およびB.トリスポーラASA25(-)株を10%植える。これらのフラスコを25℃において軌道攪拌器中で250rpmにおいてインキュベートする。
【0043】
対照フラスコはトリスポリック酸類の添加を受けていないものである。一部精製トリスポリック酸類(PTA)の添加を受けているフラスコ群は、トリスポリック酸類が350μg/mLの最終濃度まで加えられているときは、4日目まで対照と同じ条件にしておかれる。トリスポリック酸類は実施例1に記載された方法と同じ方法で精製されている。未精製トリスポリック酸類(NPTA)の添加を受けているフラスコ群は4日目まで対照と同じ条件にしておかれ、次いで20μmのナイロンフィルターによる濾過プロセスに供される。このナイロンフィルターは、B.トリスポーラASA25(-)株およびB.トリスポーラASA2(+)株の菌糸を、それら株がイミダゾールの存在下で増殖した培地から分離するのを可能にする。菌糸と培地との分離は20μmナイロンフィルターにより並行して行われるが、この2種の株・B.トリスポーラASA2(+)およびB.トリスポーラASA25(-)をβ-カロテンの生成条件で含んでいるフラスコの場合、その培地はトリスポリック酸類の未精製源(NPTA)と見なされる。菌糸と培地との分離が終わったら、イミダゾールにより増殖せしめられたB.トリスポーラASA25(-)株およびB.トリスポーラASA2(+)株の菌糸を、イミダゾールの非存在下で増殖せしめられた同じ株の培地と混合する。イミダゾールは、トリスポリック酸類の未精製源(NPTA)と見なされる培地に、0.75mg/mLの最終濃度が得られるように加えられる。これらのフラスコを25℃および250rpmでインキュベートする。
【0044】
一部精製トリスポリック酸類(PTA)の添加により、乾燥重量1グラム当たり29.14?43.58mgのリコペンの増加が得られ(発酵6日目には対照に比較して50%の増加、図3)、またβ-カロテンの培地を添加することにより乾燥重量1グラム当たり29.14?41.07mgのリコペンの増加が得られる(発酵6日目には対照に比較して41%の増加、図4)。この実施例は、トリスポリック酸類の効果はそれらの精製の程度とは無関係であることを示している。」(原文の第13頁第12行?第15頁第10行、公表公報の第14?16頁の段落【0039】?【0044】)

[1f]「【0050】
実施例6
B.トリスポーラSB34(-)株またはB.トリスポーラASA25(-)株とB.トリスポーラASA2(+)株との混合発酵におけるカロテノイド類の割合の分析
【0051】
接種用培地を実施例1に記載されたように調製する。滅菌後に、B.トリスポーラSB34(-)株、B.トリスポーラASA25(-)株およびB.トリスポーラASA2(+)株を胞子懸濁物から別々のフラスコに植え、そして25℃で48時間インキュベートする。
【0052】
実施例1に記載されたものと同じタイプの発酵培地を調製する。滅菌後に、この培地を2つの群に分ける。一方のフラスコ群にB.トリスポーラSB34(-)株とB.トリスポーラASA2(+)株との混合物を10%接種する。他方のフラスコ群には、滅菌後に、イミダゾールを0.75mg/mLの最終濃度まで、またpH7.5のホスフェート緩衝剤を25mMの最終濃度まで加える。この培地にB.トリスポーラASA25(-)株とB.トリスポーラASA2(+)株との混合物を10%接種する。全てのフラスコを25℃において軌道攪拌器中で250rpmにおいてインキュベートする。
【0053】
対照フラスコはトリスポリック酸類の添加のないものである。トリスポリック酸類の添加を受けているフラスコ群は、トリスポリック酸類が富化されている調製物が350μg/mLの最終濃度まで加えられているときは、4日目まで対照と同じ条件にしておかれる。トリスポリック酸類は実施例1に記載された方法と同じ方法で精製されている。
【0054】
液体クロマトグラフィー(HPLC)でカロテノイド類の割合を分析するために、それら培養物から発酵5日目および6日目に試料を採取する。得られた結果は表1に示される。
【0055】

【0056】
B.トリスポーラSB34(-)株またはB.トリスポーラASA25(-)株とB.トリスポーラASA2(+)株との混合培養物を用いるリコペンの発酵で得られたカロテノイド類の割合の分析は、リコペンおよびβ-カロテンの割合に有意差があることを示している。これらの差異はトリスポリック酸の添加とは無関係である。B.トリスポーラSB34(-)による発酵で6日目に得られたカロテノイド類の混合物は63%のリコペンを有するが、これに対してB.トリスポーラASA25(-)を用いて得られた混合物は88%を有する(純度が25%高い生成物を与える)。同じ混合物において、β-カロテンの割合はB.トリスポーラSB34(-)による発酵でトリスポーラASA25(-)による発酵におけるよりも10倍大きい。」(原文の第16頁第8行?第18頁第4行、公表公報の第17?19頁の段落【0050】?【0056】)

[1g]「【図4】
β-カロテンの過剰生成株である突然変異株・B.トリスポーラASA25(-)およびB.トリスポーラASA2(+)の混合培養における、トリスポリック酸類の添加ありおよび添加なしでのリコペンの生成。発酵培地には、リコペンの蓄積を促進させるイミダゾールが追加されている。トリスポリック酸類の添加なしでの対照発酵において得られたリコペン収量の値は菱形で表される。リコペンの収量に及ぼす、発酵4日目での一部精製トリスポリック酸類(PTA)の添加効果は四角形で示される。発酵4日目での未精製トリスポリック酸類の添加により得られたリコペンの収量は円形で表される。値は2つの独立試料の平均を表す。誤差バーは平均からの標準偏差を表す。横座標:日数での時間。縦座標:リコペンmg/乾燥重量g。」(原文の第20頁第4?19行、公表公報の第20頁の第19行?最終行)

(2)刊行物2に記載された事項
(なお、原文がスペイン語のため、原文は摘記箇所のみを示し、記載事項は省略する。提示した翻訳文は、対応する日本語出願の公表公報である特表2003-507021号公報の記載に基づき、段落番号も併せて記載した。)
[2a]「【請求項1】 生合成の天然ソースからリコペンを得る方法において、以下の工程:
生合成天然ソースのアルコールによる直接処理および湿潤した精製バイオマスの分離、
湿潤した精製バイオマスの乾燥プラス崩壊または分解による調整、
精製バイオマスに含まれるリコペンの有機溶媒による固体-液体抽出、
リコペンに富んだ抽出液の濃縮、
アルコールの添加による濃縮抽出液からのリコペンの沈殿/結晶化、
ろ過、
乾燥
を特徴とする方法。
【請求項2】 生合成天然ソースは微生物発酵培地である「請求項1」記載の方法。
【請求項3】 結晶性リコペン生成物は、472 nmにおける吸収の測定による分光光度法(アセトン 3450中E1% 1 cm)で確立されたその含量が95%以上、β-カロテンの含量が3%未満、他のカロテノイドの含量が2%未満であることを特徴とする「請求項1および2」のいずれかに記載の方法。
【請求項4】 バイオマスはアルコール:バイオマスの比が1:1?10:1のオーダーであることを特徴とする「請求項1?3」のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】 アルコールは、0℃からそのそれぞれの沸点に相当する温度まで、好ましくは10?50℃、さらに好ましくは室温から40℃までの温度で使用することを特徴とする「請求項1?4」のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】 エステル型の溶媒、好ましくは酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルまたは酢酸イソブチルを固体-液体抽出の工程で使用する「請求項1」記載の方法。
【請求項7】 バイオマスの重量に対して10?20容量のオーダーの溶媒量、好ましくは10?15容量/重量を使用する「請求項6」記載の方法。
【請求項8】 溶媒はその沸点に近い温度で、好ましくは40?80℃、さらに好ましくは60?70℃で使用する「請求項6および7」のいずれかに記載の方法。
【請求項9】 溶媒はリコペンとの接触時間が10分未満となるように使用する「請求項6?8」のいずれかに記載の方法。
【請求項10】 抽出後の濃縮生成物の沈殿はリコペンの溶解度が低い化合物たとえば、メタノール、エタノールまたはイソプロパノール、およびリコペンを溶存させる親油性特徴を有する物質の添加によって行う「請求項1」記載の方法。
【請求項11】 得られた生成物はそのまま結晶の形態としてまたはリコペンの比率を1?85%、好ましくは15?50w/w%として任意に様々な賦形剤もしくは化合物たとえば様々な酸度を有する大豆油、トーモロコシ油およびオリーブ油、好ましくは1回の圧搾により得られたもしくはそれをさらに精製したオリーブ油、ならびに任意にトコフェロール型の抗酸化剤と混合してなる製剤の部分を形成させて処理および市販できる「請求項1」記載の方法。」(原文及び公表公報とも特許請求の範囲第1?11項)

[2b]「【0001】
(技術分野)
本発明は、生合成の天然のソースから出発する原理によって、リコペンを単離および精製する新規な方法に関し、さらに具体的にはケカビ(Mucorales fungi)目、たとえばBlakeslea(イトエダカビ),Choanephora(コウガイケカビ)またはPhycomyces(ヒゲカビ)の深部培養からヒト消費のために結晶型で単離精製する方法に関する。以前に記載された方法に比較して、回収過程を単純化し、生成物の純度の増大を達成することができる抽出方法が記載されている。」(原文の第1頁第6?15行、公表公報の第4頁の段落【0001】)

[2c]「【0021】
本明細書に記載の方法によれば、純度90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の結晶性リコペンの回収を可能にする。」(原文の第8頁第10?12行、公表公報の第9頁の段落【0021】)

[2d]「【0022】
(発明の詳細な説明)
発酵により生合成されたカロテノイド成分の細胞内における特徴により、通常の方法に従い製造された培養培地からの回収方法にはバイオマスを含まない培地中へのロスを消失または減少させるための培地からのバイオマスの分離が包含される。
【0023】
この分離は、確立された方法により、A)フィルター、たとえばバンドフィルター、ロータリーフィルター、プレスフィルター等の通常の技術を使用し、フィルタークロスによって構築されたバリヤーがバイオマスを分離し、バイオマスを含まない液相は通過させるろ過、またはB)培地とバイオマス(通常、こちらの方が多い)の間の密度差を利用して、重い相を濃縮し、可能な限り少量のバイオマスを伴う液相から分離する機械たとえば遠心分離器、デカンター等が使用される遠心分離により行われる。乾燥残留物の含量が最も高いバイオマスを得て、活性物質の最低量を含む発酵培地の大部分を除去するように、それぞれの相のロスを減少させ、それらの相の性質を至適化することが本発明の一つの目的である。
【0024】
得られる湿潤した菌糸体は発酵によって産生したカロテノイドの95%以上、好ましくは97%以上、さらに好ましくは99%以上を含有する。水相におけるカロテノイド含量はしたがって、5%未満、好ましくは3%未満、さらに好ましくは1%未満である。
【0025】
菌糸体のこの湿潤した固体は次の工程によりリコペンの分離が可能な状態にはあるが、発酵に関連して、次の工程で精製に問題を生じる親油性成分の比較的高率、15?20%(脂肪酸および油脂)が依然として存在し、これが、この時点で、本発明者らにバイオマスの精製工程を挿入させることになった。」(原文の第8頁第14行?第9頁第18行、公表公報の第9?10頁の段落【0022】?【0025】)

[2e]「【0034】
様々な有機溶媒が、上述の調整菌糸体からのリコペンの抽出に使用できる。本発明は、天然溶媒とみなされる食品用等級の溶媒、たとえばアシルエステル、好ましくは酢酸エチル、プロピル、イソプロピル、ブチルおよびイソブチルの使用に関し、これはカロテノイド成分の合理的な高い溶解度と、ICHのクラス3に包含される溶媒としての適合性を兼ね備えている。これらの溶媒は全国的および地域社会的の両レベルにおいて、医薬および食品セクターで承認されている(RDL 12/04/90 およびRDL 16/10/96)。
【0035】
抽出温度は室温から溶媒の沸点の間、好ましくは50℃?80℃で変動させることができる。抽出時間は溶解に必要な最小時間、1秒?1時間、好ましくは1分?15分である。使用される溶媒の量は温度および菌糸体のカロテノイドの濃度に依存し、5mL/g?20 mL/gで変動する。抽出回数は1?3回である。抽出されるカロテノイドの量は85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。」(原文の第11頁第28行?第12頁第17行、公表公報の第12頁の段落【0034】?【0035】)

[2f]「【0040】
上述の方法によって得られる結晶の純度は、n-へキサンに溶解した(E 1% 1 cm=3450)472 nmにおける吸収の分光光度法での測定により定量して、95%以上であり、β-カロテンの含量は3%未満、他のカロテノイドの含量は2%未満である。
【0041】
得られた結晶性生成物はそのまま、または様々な賦形剤または化合物この場合は様々な程度および純度の大豆油、トーモロコシ油、オリーブ油等とリコペンを比率1?85%に混合し、さらにトコフェロール型の抗酸化剤を加えた組成物の部分を形成させて取り扱いまたは市販することができる。
【0042】
本発明の方法はとくに、微生物ソース、好ましくは藻類、カビまたは酵母から、さらに好ましくはケカビ目のカビから、さらに好ましくはB. trisporaから結晶性リコペンを回収するのに適している。」(原文の第13頁第18行?第14頁第2行、公表公報の第13?14頁の段落【0040】?【0042】)

2 対比・判断
(1)刊行物1記載の発明
特に上記[1a]、[1c]?[1g]の記載によれば、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
「トリスポリック酸類を任意の時点に加えた発酵培地中でのブラケスレア・トリスポーラの(+)株および(-)株を含んでいる混合培養物の発酵により、リコペンを製造して回収する方法。」

(2)本願発明1と刊行物1発明との対比・判断
刊行物1発明の「発酵培地中でのブラケスレア・トリスポーラの(+)株および(-)株を含んでいる混合培養物の発酵により、リコペンを製造して回収する方法。」とは、特に[1c]?[1g]の記載から、フラスコ中の発酵培地に接種したブラケスレア・トリスポーラの(+)株および(-)株の混合物を、リコペン生産に適した条件下で発酵させる工程を経た後に、発酵培地からリコペンを製造・回収していることは明らかである。
したがって、上記「ブラケスレア・トリスポーラの(+)株および(-)株」、及び該菌株が接種された状態での発酵培地は、本願発明1の、リコペンを産生株である「Blakeslea trisporaの(+)と(-)」、及び「リコペン生産に適切な条件下の培養培地バイオマス」に相当する。
さらに、本願発明1の「生合成された原料からのリコペンの生産方法」について、上記「生合成された原料」は、本願当初明細書の請求項1の「生合成された天然原料、特に発酵培地を、・・・」との記載から鑑みて、「発酵培地」であることと同義であると認められるから、両発明は、「生合成された原料からのリコペンの生産方法」である点で共通している。
また、本願発明1は、トリスポリック酸類を発酵培地に加えることを排除していない。

したがって、刊行物1発明と本願発明1とは、
「生合成された原料からのリコペンの生産方法であって、リコペン生産に適切な条件下の培養培地バイオマスにおいて、Blakeslea trisporaの(+)と(-)のリコペンの産生株を混合発酵するステップを含む方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)Blakeslea trisporaの(+)と(-)のリコペンの産生株について、本願発明1では「その栄養増殖段階の時間齢(age of the vegetative stage of growth)が制御されている」「リコペンの過剰産生株」であると特定されているのに対し、刊行物1発明ではそのような特定がなされていない点
(相違点2)上記一致点に係る混合発酵ステップに引き続いて、本願発明1は、
該培養培地バイオマスを「アルコールで処理して、湿潤、精製バイオマスを分離」するステップ;
「乾燥、粉砕及び破砕により、湿潤、精製バイオマスの状態を調整」するステップ;
「精製バイオマス中に含まれるリコペンを、有機溶媒により、使用される有機溶媒の関数である溶解温度および溶解時間を制御しながら固液抽出」するステップ;
「富化リコペン抽出物を濃縮」するステップ;
「アルコール添加により、濃縮抽出物からリコペンを沈殿/結晶化」するステップ;
「濾過及び乾燥」するステップ;
「調合」するステップを連続して含むものと特定されているのに対し、刊行物1発明ではそのような特定がなされていない点

上記相違点について検討する。
(i)相違点1について
本件明細書にはBlakeslea trisporaの栄養増殖段階の時間齢の説明として、「この発酵段階では、B.trispora菌株の栄養増殖期(vegetative stage)の時間齢(age)を制御することによってより高収量が得られる。したがって、接種原として使用する培養物は、(+)と(-)の両者について30?60時間、好ましくは48時間の時間齢を有するが、・・・」(明細書の段落【0031】参照)と記載されているから、該菌株の栄養増殖段階の時間齢の制御とは、発酵に供するために培地へ接種される、接種原となる培養物が30?60時間、好ましくは48時間の時間齢を有するよう予め培養していることと解される。
してみると、刊行物1の特に[1d]【0022】、[1e]【0040】、[1f]【0051】に記載されているように、ブラケスレア・トリスポーラの(+)株および(-)株は、発酵培地への接種前に、接種用培地中で「48時間インキュベート」されているから、これは本願発明1に係る「その栄養増殖段階の時間齢(age of the vegetative stage of growth)が制御されている」ことと実質的に相違するものでない。
また、刊行物1発明に係るブラケスレア・トリスポーラの(+)株および(-)株は、特に[1b]、[1g]によると、β-カロテンの合成を阻害する一方で、リコペンの蓄積を促進しており、特に[1f]の表1では、上記菌株の発酵により得られるカロテノイドの85?89%がリコペンであることが示されているから、上記菌株はリコペンを過剰に産生しているものと認められる。
以上の理由から、相違点1は実質的なものではない。

(ii)相違点2について
刊行物2には、B. trisporaから結晶性リコペンを回収するのに適している([2f]参照)、生合成天然ソース(微生物発酵培地)からリコペンを単離及び精製する方法として、生合成天然ソース(微生物発酵培地)のアルコールによる直接処理および湿潤した精製バイオマスの分離工程、湿潤した精製バイオマスの乾燥プラス崩壊または分解による調整工程、精製バイオマスに含まれるリコペンの有機溶媒による固体-液体抽出工程、リコペンに富んだ抽出液の濃縮工程、アルコールの添加による濃縮抽出液からのリコペンの沈殿/結晶化工程、ろ過及び乾燥工程を連続して行うことで結晶形態のリコペンを得る方法、さらに、該結晶を製剤化するための処理方法(特に[2a]の請求項1、2、11、[2b]、[2f]参照)が記載されている。さらに、上記の「有機溶媒による固体-液体抽出工程」は、「抽出温度は室温から溶媒の沸点の間、好ましくは50℃?80℃で変動させることができる。抽出時間は溶解に必要な最小時間、1秒?1時間、好ましくは1分?15分である。」([2e]参照)ものである。
そして、刊行物2には、上記のリコペンの単離及び精製方法を行う有利な点として、発酵工程で生じ且つリコペンの分離精製に問題を生じるような親油性成分を菌糸体から除去することが可能となり([2d]参照)、95%以上という高純度の結晶性リコペンの回収が可能となる([2c]、[2f]参照)ことも記載されている。
したがって、リコペンの高純度且つ高効率な製造を目的として、刊行物1発明に引き続いて、刊行物2に記載のリコペンの単離及び精製方法を行うことは、当業者であれば容易になし得たことである。

また、刊行物2に記載の単離及び精製方法によって得られるリコペンは、「本明細書に記載の方法によれば、純度90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の結晶性リコペンの回収を可能にする。」([2c]参照)、「上述の方法によって得られる結晶の純度は、n-へキサンに溶解した(E 1% 1 cm=3450)472 nmにおける吸収の分光光度法での測定により定量して、95%以上であり、β-カロテンの含量は3%未満、他のカロテノイドの含量は2%未満である。」([2f]参照)もので、本願発明1によって得られるものと同程度の高純度が達成されているから、本願発明1が格別顕著な効果を奏しているとは認められない。

第3 本願発明39の新規性について
1 引用刊行物およびその記載事項
原査定で引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である刊行物2の記載事項については、上述の「第2 1(2)」で記載したとおりである。

2 対比・判断
(1)刊行物2記載の発明
特に上記[2c]、[2f]の記載によれば、刊行物2には、以下の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されていると認められる。
「結晶の純度が、n-へキサンに溶解した(E 1% 1 cm=3450)472 nmにおける吸収の分光光度法での測定により定量して、95%以上、さらに好ましくは98%以上であり、β-カロテンの含量は3%未満、他のカロテノイドの含量は2%未満である、結晶性リコペン。」

(2)本願発明39と刊行物2発明との対比・判断
ア 刊行物2発明の「結晶の純度が、n-へキサンに溶解した(E 1% 1 cm=3450)472 nmにおける吸収の分光光度法での測定により定量して、95%以上、さらに好ましくは98%以上」である「結晶性リコペン」は、本願発明39の「n-ヘキサン中、結晶の472nm(E1% 1cm=3450)での分光吸収によって決定される結晶純度が、リコペン含有量が95%を超えたものである」「結晶リコペン」に相当する。

イ 刊行物2発明に係る結晶性リコペンは、「β-カロテンの含量は3%未満、他のカロテノイドの含量は2%未満である」と規定しているが、結晶純度が「98%以上」である場合は、β-カロテン及び他のカロテノイドの合計の含量は2%以下であるから、これは、本願発明39に係る「他のカロテノイド類の含有量が3%未満であり、cisリコペンの含有量も3%未満である」ことに相当する。

したがって、刊行物2発明と本願発明39とは、「n-ヘキサン中、結晶の472nm(E1% 1cm=3450)での分光吸収によって決定される結晶純度が、リコペン含有量が95%を超え、他のカロテノイド類の含有量が3%未満であり、cisリコペンの含有量も3%未満である、結晶リコペン。」である点で一致し、上記純度を有するリコペンについて、本願発明39では「請求項1?24の方法で得ることができる結晶リコペン」と、その製法が特定されているのに対し、刊行物2発明ではそのような特定がなされていない点で一応相違する。
しかしながら、両者は、製法の如何にかかわらず、結晶純度という性質も含めて物質自体では何ら相違していないから、上記相違点は実質的なものではない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1?2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願発明39は、刊行物2に記載されたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-01 
結審通知日 2012-10-02 
審決日 2012-10-15 
出願番号 特願2003-556545(P2003-556545)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C12P)
P 1 8・ 121- Z (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福間 信子  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 鵜飼 健
▲高▼岡 裕美
発明の名称 ブラケスレアトリスポラの選択された菌株の発酵による改善されたリコペン産生方法、このようにして得たリコペンの調合物及び使用  
代理人 長沼 暉夫  
代理人 浅村 皓  
代理人 金森 久司  
代理人 浅村 肇  

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