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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23L |
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管理番号 | 1270688 |
審判番号 | 不服2010-20017 |
総通号数 | 160 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-09-06 |
確定日 | 2013-02-25 |
事件の表示 | 特願2008-519566「腎臓疾患の予防および治療のための方法および組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 1月 4日国際公開、WO2007/002836、平成21年 1月 8日国内公表、特表2009-500017〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は,2006年6月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年6月29日,米国(US))を国際出願日とする出願であって,以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。 平成21年 9月28日付け 拒絶理由通知書 平成22年 4月 1日 意見書・手続補正書 平成22年 4月28日付け 拒絶査定 平成22年 9月 6日 審判請求書・手続補正書 平成22年10月14日 手続補正書(方式) 平成22年11月22日付け 前置報告書 平成23年 9月 5日付け 審尋 平成24年 1月 5日付け 回答書 第2 平成22年9月6日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成22年9月6日付けの手続補正は却下する。 [理由] 1 本件補正 平成22年9月6日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,本件補正前の 「【請求項1】約8%?約25%の量のタンパク質,約0.05%?約0.6%の量のナトリウム,および約0.05%?約0.6%の量のカリウムを含有する1以上の食品成分を含む,腎臓疾患を予防するかまたは治療するための鳥類,ウシ,イヌ,ウマ,ネコ,ヒクリン,ネズミ,ヒツジおよびブタ動物からなる群から選択される動物のための食品組成物。」を, 「【請求項1】約8%?約25%の量のタンパク質,約0.05%?約0.6%の量のナトリウム,および約0.05%?約0.6%の量のカリウムを含有する1以上の食品成分を含む,腎不全または機能障害を予防するかまたは治療するためのイヌまたはネコのための食品組成物。」 とする補正を含むものである。 2 本件補正の適否 (1)補正の目的の適否 本件補正は,請求項1に係る発明について,請求項1に記載した発明を特定するために必要と認める事項である「腎臓疾患」を,補正前の明細書に記載されていた事項に基づき「腎不全または機能障害」に限定すると共に,同「鳥類,ウシ,イヌ,ウマ,ネコ,ヒクリン,ネズミ,ヒツジおよびブタ動物からなる群から選択される動物」を,補正前の請求項10の記載に基づき「イヌまたはネコ」に限定するものであり,その補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2)独立特許要件について そこで,本件補正後の前記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下,「本願補正発明」という。なお,本件補正後の明細書を,以下,「本願補正明細書」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて,以下検討する。 (2-1)本願補正発明 本願補正発明は,以下のとおりである。 「約8%?約25%の量のタンパク質,約0.05%?約0.6%の量のナトリウム,および約0.05%?約0.6%の量のカリウムを含有する1以上の食品成分を含む,腎不全または機能障害を予防するかまたは治療するためのイヌまたはネコのための食品組成物。」 (2-2)刊行物及びその記載事項 ア 刊行物 日本病態栄養学会誌,Vol.6,No.1(2003)p.67-74(原査定における引用文献1。以下,「刊行物1」という。) イ 刊行物の記載事項 本願優先日前に頒布された刊行物である刊行物1には,以下の事項が記載されている。 1a「 症例報告 経腸栄養剤リーナレンPro3.5○Rを使用した維持血液透析患者2症例 要約:経口摂取不能な維持血液透析患者の栄養管理を行う上で,中心静脈栄養(Total parenteral nutrition ;TPN)と共に経腸栄養剤(Enteral nutrition ;EN)使用による強制栄養は様々な側面において重要視されている。今回我々は,電解質が低く調整されたENリーナレンPro3.5○R(以下,R.Pro3.5と略す)を経口摂取不能な維持血液透析患者に使用し,栄養状態を評価した。 症例は脳出血,脳梗塞を合併し経口摂取が困難となった当院入院の維持血液透析患者2症例で,R.Pro3.5を用いて栄養管理を行った投与前後の栄養状態について検討した。結果は2症例共にR.Pro3.5使用期間中に栄養状態の低下は認められなかったが,低リン血症を認めたため,静脈注射によるリン補正を必要とした。R.Pro3.5を長期にわたる維持血液透析患者の栄養管理に使用する場合,低リン血症を含め,電解質に対する治療方法を視野に入れた栄養管理を行う必要性が示唆された。」(67頁標題及び要約)(当審注;○RはRの丸付き文字を表す。以下○1等も同様) 1b「 緒言 維持血液透析患者は長期の維持血液透析により様々な合併症を併発する。その影響等で経口摂取不能となった維持血液透析患者の栄養管理においては,TPNを用いると共に,腸管等の消化吸収能維持やTPNから食事摂取までの移行準備を目的としてENを使用することが一般的である。しかし,維持血液透析患者におけるENでの栄養管理は,3大栄養素やビタミン等は必要に応じて過不足なく補給を行い,水分及びナトリウム,カリウム,リン等の電解質においては制限を加える必要があり,一般的に用いられるENでは栄養管理が困難となる症例も少なくない。 そこで今回我々は,R.Pro3.5を経口摂取不能な維持血液透析患者の栄養管理に用い,栄養状態に対する治療効果の検討を行った。R.Pro3.5[R.Pro3.5の成分組成を表1(次頁)に示す]の主な特徴は,○1タンパク質,脂質,糖質はエネルギー比率に換算すると14%,25%,61%と,3大栄養素がバランスよく配合されている,○21mLが1.6kcalに調整されており,水分制限が容易となっている,○3電解質が100kcal当たりナトリウム60mg,カリウム30mg,リン35mgと低く調整されている,○4便性の改善や腸内細菌叢を整える働きがある食物繊維が100kcal当たり1gの割合で含まれる,○5ビタミン成分が腎機能低下に合った成分構成になっている等が挙げられる。R.Pro3.5を1日2,000kcal投与した場合,タンパク質70g,水946g,ナトリウム1,200mg,カリウム600mg,リン700mgと,ほぼ維持血液透析患者に必要な栄養量の確保及び制限が可能である。 症例掲示 1.症例1 <症例> 67歳,女性 <主訴> 意識障害 <家族歴> 特記事項なし <既往歴> 46歳時,慢性腎不全と診断され血液透析を導入。以後週3日,1回4時間の維持血液透析を行っていた。 <主な経過> 1999年に突然の意識障害を認め,当院救命救急センターに搬送。右被殻出血と診断され開頭血腫除去術を施行した。入院後は意識レベルが徐々に改善するも反回神経麻痺による気道狭窄を認め気管切開を行い,入院79日目に他院に転院となった。 <ENリーナレンR.Pro3.5○R投与前後の検査値(表2)> 血清総タンパク6.2g/dL,アルブミン3.1g/dLと軽い低栄養状態であった。また,ヘモグロビン7.6g/dL,ヘマトクリット22.5%と貧血を認めた。 <入院期間中の栄養管理と経過(図1)> 入院時から7日目までをTPNのみにて栄養管理を行った。栄養量は1,000kacl/日(50%ブドウ糖500mL),ソリタ-TI号500mL/日であった。 8日目から21日目までを末梢静脈栄養(peripheral parenteral nutrition;PPN)と経鼻チューブにより1日3回のR.Pro3.5の併用投与を行った。栄養量はPPNより100kcal/日(10%ブドウ糖250mL),ソリタ-TI号500mL/日,R.Pro3.5より1,250kcal/日(30kcal/kg/日),タンパク質42.8g/日(1.0g/kg/日),水分590g/日,電解質はナトリウム750mg,カリウム375mg,リン560mgで栄養管理を行った。21日目から退院時まではR.Pro3.5の単独投与を行い,栄養量は1,600kcal/日(38kcal/kg/日),タンパク質56g/日(1.3g/kg/日),水分750g/日,電解質はナトリウム960mg,カリウム480mg,リン560mgで栄養管理を行った。 <結果> 透析としては週3回,1回4時間における維持血液透析を一定の条件下で行った。8日目からR.Pro3.5投与開始時と投与終了時を比較すると,血清総タンパクは6.2g/dLから6.7g/dLへアルブミンは3.1g/dLから3.2g/dLになった。水分管理においては中1日での平均透析間体重増加率が平均3.0%,中2日で5.1%であった。電解質においてはナトリウム,カリウム共ほぼ基準値付近に保たれていたが,入院中に低値を示す事があり,透析時による補正を行った。リンにおいては投与開始時より低値を示し,低リン血症を認めたため1回の静脈注射による補正を行い経過観察を必要とした。」(67頁左欄下から6行?68頁右欄末行) 1c「 表1 ENリーナレンPro3.5○Rびエンシュア・リキッド○Rの成分組成 」(69頁 表1) (2-3)刊行物1に記載された発明 刊行物1は,「経腸栄養剤リーナレンPro3.5○Rを使用した維持血液透析患者2症例」(摘示1a)に関し記載するものであって,該「経腸栄養剤リーナレンPro3.5○R」は,成分組成として,刊行物1の「表1」(摘示1c)に記載されている成分(100ml当たり)を含むものである。 そして,この経腸栄養剤は,「慢性腎不全と診断され・・維持血液透析を行っていた」患者(摘示1b)の「栄養管理に用い,栄養状態に対する治療効果の検討」(摘示1b)がなされたものであるから,この経腸栄養剤は,腎不全を治療するためのヒトのためのものといえる。 したがって,刊行物1には, 「経腸栄養剤リーナレンPro3.5○Rの成分組成として,100ml当たり,エネルギー160kcal,濃度1.6kcal/mL,タンパク質5.6g,脂質4.5g,糖質24.3g,水分75.4g,食物繊維1.6g,ビタミンA80IU,ビタミンD8IU,ビタミンE1.6IU,ビタミンK4μL,ビタミンC8mg,ビタミンB_(1)0.16mg,ビタミンB_(2)0.19mg,ビタミンB_(6)1.01mg,ビタミンB_(12)0.32μg,葉酸101μL,ナイアシン2.08mg,パントテン酸0.51mg,コリン5.2mg,ビオチン0.8μL,Na96mg,K48mg,Cl48mg,Ca48mg,P56mg,Mg24mg,Fe1.4mg,I3.8μL,Mn0.013mg,Cu0.009mg,Zn0.22mg,Cr8.4μL,Se5.2μL,Mo5.6μLを含む,腎不全を治療するためのヒトのための経腸栄養剤。」 の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 (2-4)本願補正発明と引用発明との対比 ア 引用発明の「100ml当たり」「タンパク質5.6g」,「Na96mg」,「K48mg」は,それぞれ,タンパク質5.6g/100ml×100=5.6%,ナトリウム0.096g/100ml×100=0.096%,カリウム0.048g/100ml×100=0.048%である。 そうすると,引用発明の「100ml当たり」「タンパク質5.6g」,「Na96mg」,「K48mg」と,本願補正発明の「約8%?約25%の量のタンパク質,約0.05%?約0.6%の量のナトリウム,および約0.05%?約0.6%の量のカリウム」とは,所定量のタンパク質,所定量のナトリウム,および所定量のカリウムである点で共通する。 イ 本願補正発明の「食品成分」について,本願補正明細書には,「【0024】本発明で有用な食品成分には,患者による消費に適したいかなる食品成分も含まれる。典型的な食品成分には,限定されるわけではないが,脂肪,炭水化物,タンパク質,繊維,ならびにビタミン,ミネラル,および微量元素などの栄養素が含まれる。」と記載されていることから,該「食品成分」としては,脂肪,炭水化物,タンパク質,繊維,ビタミン,ミネラル,微量元素等の栄養素が含まれるものといえる。 そうすると,引用発明の「経腸栄養剤リーナレンPro3.5○Rの成分組成100ml当たり」として列挙されている,タンパク質,Na及びK以外の成分である,「脂質・・,糖質・・,食物繊維・・,ビタミンA・・,ビタミンD・・,ビタミンE・・,ビタミンK・・,ビタミンC・・,ビタミンB_(1)・・,ビタミンB_(2)・・,ビタミンB_(6)・・,ビタミンB_(12)・・,葉酸・・,ナイアシン・・,パントテン酸・・,コリン・・,ビオチン・・,Cl・・,Ca・・,P・・,Mg・・,Fe・・,I・・,Mn・・,Cu・・,Zn・・,Cr・・,Se・・,Mo・・」は,脂肪,炭水化物,繊維,ビタミン,ミネラル,微量元素であるから,本願補正発明の「1以上の食品成分」に相当する。 ウ 引用発明の「腎不全を治療するためのヒトのための経腸栄養剤」と,本願補正発明の「腎不全または機能障害を予防するかまたは治療するためのイヌまたはネコのための食品組成物」とは,腎不全を治療するための食品組成物である点で共通する。 そうすると,両者は, 「所定量のタンパク質,所定量のナトリウム,および所定量のカリウムを含有する1以上の食品成分を含む,腎不全を治療するための食品組成物。」 である点で一致し,以下の点で相違するといえる。 (ア)腎不全を治療するための食品組成物が, 本願補正発明では,イヌまたはネコのためのものであるのに対し, 引用発明では,ヒトのためのものである点。(以下,「相違点(ア)」という。) (イ)タンパク質,ナトリウムおよびカリウムの量が, 本願補正発明では,タンパク質は約8%?約25%,ナトリウムは約0.05%?約0.6%,カリウムは0.05%?約0.6%であるのに対し, 引用発明では,100ml当たり,タンパク質5.6g,ナトリウム96mg,カリウム48mgである点。(以下,「相違点(イ)」という。) (2-5)相違点についての判断 ア 相違点について (ア)相違点(ア)について 一般に,腎臓病患者は,必要以上の蛋白質を摂取すると,蛋白質の老廃物である窒素化合物を排泄するのに腎臓に負担がかかり過ぎ,腎機能の低下を引き起こすため,蛋白質の摂取を必要最低限に制限していると共に,腎臓は老廃物の処理,体液や血圧の調整といった機能も担っており,ナトリウム,カリウム等のミネラル類の排泄も腎臓への負担がかかるため,腎臓病患者はナトリウム,カリウム等のミネラル類の摂取にも配慮していることは,本願優先日前,周知事項であり[例えば,特開2002-204668号公報(原査定における引用文献5【0002】,【0005】参照。),このことは,刊行物1の「維持血液透析患者におけるENでの栄養管理は,3大栄養素やビタミン等は必要に応じて過不足なく補給を行い,水分及びナトリウム,カリウム,リン等の電解質においては制限を加える必要があり」(摘示1b)との記載からも分かる。 そして,このことは,腎不全患者としてのヒトのみならず,腎不全のイヌやネコに対しても該当することも,以下の刊行物A及びBの記載より理解できるように,本願優先日前周知事項であったといえ,腎不全のイヌまたはネコの食餌療法として,腎不全のヒトの食事療法と同様,蛋白質の摂取を必要最低限に制限すると共に,ナトリウム,カリウム等のミネラル類のミネラル類の摂取にも配慮することは技術常識である。 そうすると,引用発明の腎不全を治療するためのヒトのための経腸栄養剤は,経口摂取不能な維持血液透析患者の栄養管理を行う上で使用するものであり(摘示1a),腎不全を治療するための食事療法に用いる食品組成物といえるから,引用発明の経腸栄養剤を,ヒトのためのものに代えて,上記周知事項を適用し,イヌまたはネコのためのものとすることは,当業者が容易になし得たことである。 刊行物A: 獣医畜産新報,vol.47,No.6,(1994),p.477-479 「3.腎不全に対する食餌管理 慢性腎不全に対する食餌管理といえば,人の腎不全では蛋白質の摂取制限,すなわち低蛋白食ということが基本となっているが,はたして犬や猫においては一体どうすべきであるのか。 ・・(中略)・・ 小動物においても,腎不全時には食餌中の蛋白質を制限しなければならないことは確かであると思われる。その理由としては,腎不全時,すなわち腎機能が低下した状態では,腎臓の構成単位であるネフロンが減少し,残存している機能ネフロンひとつひとつに対する糸球体ろ過量が,蛋白質の過剰摂取により増加し,糸球体内圧が上昇し,糸球体硬化症を惹起し,さらに腎不全を進行させる原因となるからである。」(477頁右欄11行?478頁左欄2行) 「3)蛋白質 ・・(中略)・・腎不全においては,明らかに食餌中の蛋白を制限する必要がある・・。」(478頁左欄下から9行?同頁右欄下から10行) 4)ナトリウム ・・(中略)・・最近では,ナトリウムをやや制限した食餌が推奨されている。」(479頁左欄15?24行) 刊行物B: 小動物臨床,vol.11,No.5,(1992.9),p.59-69 「 犬,猫の腎不全 3.腎不全の栄養(食事)療法に関する実験的研究成果と臨床応用上の問題点」(59頁標題) 「人において一般的に考えられている慢性腎不全に対する蛋白制限や必須アミノ酸療法の意義,あるいは動物実験から得られた現在までの成績を総合して考察した場合,慢性腎不全犬における正の窒素平衡や全身状態の維持,(そしてこの事が最も重要でかつ困難な点であると思われるが)過剰なGFR(当審注:糸球体濾過量)上昇の抑制と腎不全進展の抑制[具体的には長期的なGFR低下の抑制と血中クレアチニンならびにBUN値(BUNは主な尿毒症物質の1つであるグアニジン誘導体の前駆物質である)の上昇の抑制]を図るには,上記の2?3.5g/kg/日の蛋白投与量が推奨されるのであろう。」(60頁左欄1?13行) 「慢性腎不全の塩分制限に関しては,高血圧による腎不全の進展を防止する観点から,ナトリウムとして15?50mg/kg/日(高血圧症を有する腎不全犬)に制限することが推奨されている。 ・・(中略)・・ いずれにしても,以下に述べる血中カリウムと同様,血中濃度のモニタリングが重要である。 カリウムに関しては,慢性腎不全の場合,採食量の低下や血中アルドステロン濃度の上昇により,正常値より低くなることがあるので,血液検査を実施し,必要ならば適時補正が必要である。」(60頁左欄下から4行?同頁右欄23行) (イ)相違点(イ)について 平成22年4月1日付意見書の「2.(2)(d)」で本件請求人も認めているように,以下の刊行物Cの記載からも明らかなように,一般に,ヒトを含む動物の食事(餌)による栄養管理において,必要な各種栄養素の摂取量は,ヒト,イヌ,ネコといった動物の種類により異なるものであることは,本願優先日当時,良く知られていたことである。 さらに,イヌ又はネコの栄養所要量について,以下の刊行物Cの記載より明らかなように,アメリカ飼料検査官協会[The Association of American Feed Control Officials(AAFCO)]によるイヌの栄養所要量(乾物換算でエネルギー量が3,5Kcal/gの場合)(最小必要量)が,タンパク質18.0%,ナトリウム0.06%,カリウム0.6%であることも,本願優先日当時,良く知られていたことである。 そうすると,上記(ア)で述べた,引用発明の経腸栄養剤をヒトのためのものに代えてイヌまたはネコのためのものとする際の,蛋白質,ナトリウムおよびカリウムの各量として,上記良く知られていたことを踏まえ,イヌまたはネコにおいて腎不全の最適な治療効果が認められるよう,イヌまたはネコに応じた最適な摂取量を設定することは,当業者が適宜なし得たことである。 刊行物C:INTERNET ARCHIVE WAYBACK MACHINE BETA[online],2004年2月20日,「AAFCOによる標準栄養許容量と体重1キロあたりの犬の栄養要求量」[平成24年9月28日検索],インターネットhttp://web.archive.org/web/20040220215952/http://www8.ocn.ne.jp/~nuts/food/balance.html 「6大栄養素の所要量 ヒトも犬の必要な栄養素はほぼ一緒。でも,必要な量の割合はヒトとは違う。 1.AAFCOによる標準栄養許容量の表 2.体重1キロあたりの犬の栄養要求量 3.point! AAFCOによる標準栄養許容量と体重1キロあたりの犬の栄養要求量 アメリカのドッグフードの基準が日本でも参考にされている。 AAFCO(Association of American Feed Control Officials 1999)は,ドッグフードの基準として,犬に必要な栄養素の最小必要量と最大許容量とを定めている。 それによれば,タンパク質は18%以上,脂質は5%以上,カルシウムとリンの割合が1:1から2:1以内などとなっている。 AAFCOによる犬の栄養所要量 体重1キロあたりの (乾物換算で,エネルギー量が3,5Kcal/gの場合)犬の栄養要求量 (犬の栄養要求量 国立出版より) 栄養素名 最小必要量 最大許容量 量 タンパク質 18,0% - 4.8g アルギニン 0,51% - - ヒスチジン 0,18% - - イソロイシン 0,37% - - ロイシン 0,59% - - リジン 0,63% - - メチオニンと シスチンの合計0,47% - - フェニルアラニ ンとチロシン の合計 0,73% - - スレオニン 0,48% - - トリプトファン0,16% - - バリン 0,39% - - 脂 質 5,0% - 1.1g 必須脂肪酸 リノール酸 1,0% - 0.22g カルシウム 0,6% 2,5% 242mg リン 0,5% 1,6% 198mg カルシウムと リンの比率 1:1 2:1 - カリウム 0,6% - 132mg ナトリウム 0,06% - 242mg 塩素 0,09% - なし マグネシウム 0,04% 0.3% 8.8mg 鉄 80mg/kg3000mg/kg1,32mg 銅 7,3mg/kg250mg/kg0,16mg マンガン 5,0mg/kg - 0,11mg 亜鉛 120mg/kg1000mg/kg1,1mg ヨウ素 1,5mg/kg50mg/kg0,034mg セレン 0,11mg/kg 2mg/kg 2,42mg ビタミンA効力5000IU/kg250000IU/kg 110IU ビタミンD効力 500IU/kg 5000IU/kg 11IU ビタミンE効力 50IU/kg 1000IU/kg 1,1IU ビタミンB2 (リボフラビン)1,0mg/kg - 48μg パントテン酸 (ビタミンB_(5))2,2mg/kg - 220μg ナイアシン (ビタミンB_(3)) 10mg/kg - 250μg ビタミンB6 (ピリドキシン)11,4mg/kg - 22μg 葉酸 (ビタミンB_(9)) 1,0mg/kg - 4,0μg ビオチン 0,18mg/kg - 2,2μg ビタミンB12 (コバラミン) 0,022mg/kg - 0,5μg コリン 1200mg/kg - 26mg チアミン (ビタミンB_(1)) なし - 22μg point 犬は,たんぱく質を多く(全体の約2割)必要とする。 カルシウムは,何とヒトの14倍も必要。 カルシウムとリンはバランスが重要で, ほぼ1 : 1から2:1であるのが理想。 ビタミンAをヒトの1,6倍も必要とするかわり, ビタミンCはまったく必要としない。」 イ 本願補正発明の効果について 本願補正発明の効果,すなわち,本願補正発明として特定されている量の成分を有する食品組成物を患者に投与することによって,腎機能を改変可能であり,腎臓疾患(腎不全)を予防または治療するのに有用である(本願補正明細書【0021】)という効果について,本願補正明細書の実施例1,2を検討するに,飼料の栄養素プロフィール分析がなされている【表2】及び【表8】を検討しても,ナトリウム及びカリウムの量が全く明示されておらず,本願補正発明の実施例といえるか不明であることから,本願補正発明の上記効果も確認できない。 仮に,上記【表2】の「飼料61522」のナトリウム及びカリウムの含有量が本願補正発明で特定されている各範囲内にあるとしても,その範囲に含まれるタンパク質,ナトリウム及びカリウムの量は,刊行物Cに記載されているように,ドッグフードの基準として示されているタンパク質,ナトリウム及びカリウムの量と一致するし,その飼料を患者に投与することによって腎機能を改変可能であり腎臓疾患(腎不全)を予防または治療するのに有用であるという効果は,刊行物1の記載事項及び本願優先日当時の技術常識から予測される範囲内のものであり,格別顕著なものではない。 ウ 請求人の主張について 本件請求人は平成24年1月5日付回答書において,本願補正発明を更に減縮した補正案(請求項1)を含む補正案(請求項1ないし16)を示し,この補正案の基となった実施例である上記【表2】の「飼料61522」は,上記回答書に添付された表1ないし3より,上記【表2】の他の飼料(「飼料62292,飼料62794,飼料62814」)と比較して,有意に腎機能を改善する効果が実際に認められることから,補正案の請求項1ないし16に係る発明は顕著な効果を有する旨主張する。 しかしながら,上記回答書に添付された表1ないし3より理解できる効果は,本願補正明細書の上記【表2】の「飼料61522」の欄に示されている全栄養素をそれぞれ明示されている特定の量含む飼料により奏される効果と認められるところ,補正案の請求項1に係る発明は,上記【表2】の「飼料61522」の欄に示されている全栄養素が特定されている訳でもなく,ましてやナトリウム及びカリウムの量も特定されていないものであり,【表2】の「飼料61522」により奏される効果を直ちに補正案の請求項1に係る効果として認めることはできない。 そして,補正案の請求項1に係る発明は,本願補正発明において,対象動物をイヌに限定し,食品成分として,さらに「少なくとも0.2%の量のリン」,「オメガ-3脂肪酸がエイコサペンタエン酸(EPA)であって,EPAの量は少なくとも0.32%である,少なくとも1つのオメガ-3脂肪酸」及び「オメガ-3脂肪酸,タウリン,カルニチン,メチオニン,およびシスチンからなる群から選択される2以上の成分」を追加する補正をするものであるが,これら追加された各栄養素は動物の生命維持に有用であることが本願優先日前周知の栄養素であり,イヌに応じた最適な摂取量を設定することも当業者が適宜なし得たことであり,それにより奏される効果も当業者が予測し得るものである。 以上のとおりであり,かつ,上記「第2 2(2-5)ア,イ」に示したとおりであるから,請求人の上記主張を採用することはできない。 (2-6)独立特許要件のまとめ したがって,本願補正発明は,その優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び本願優先日前の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって,本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから,請求項1についての補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。 3 補正の却下の決定のむすび 以上のとおり,請求項1についての補正は,平成18年改正前特許法第126条第5項の規定に適合しないから,本件補正は,その余の点を検討するまでもなく,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成22年9月6日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,この出願の請求項1ないし21に係る発明は,平成22年4月1日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。 「約8%?約25%の量のタンパク質,約0.05%?約0.6%の量のナトリウム,および約0.05%?約0.6%の量のカリウムを含有する1以上の食品成分を含む,腎臓疾患を予防するかまたは治療するための鳥類,ウシ,イヌ,ウマ,ネコ,ヒクリン,ネズミ,ヒツジおよびブタ動物からなる群から選択される動物のための食品組成物。」 2 原査定の拒絶の理由の概要 本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は,本願発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 記 日本病態栄養学会誌,Vol.6,No.1(2003)p.67-74(「第2 2(2)(2-2)ア」に示した刊行物1と同じ。) 以下,この刊行物を「刊行物1」と続けて用いる。 3 刊行物の記載事項 前記「第2 2(2)(2-2)イ」に記載したとおりである。 4 刊行物1に記載された発明 前記「第2 2(2)(2-3)」に記載したとおりである。 5 対比・判断 本願発明は,上記「第2 2(2)(2-4),(2-5)」で検討した本願補正発明における,対象疾患が「腎不全または機能障害」を含む「腎臓疾患」であると共に,適用動物が「イヌまたはネコ」を含む「鳥類,ウシ,イヌ,ウマ,ネコ,ヒクリン,ネズミ,ヒツジおよびブタ動物からなる群から選択される動物」を含むものである。 そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の発明特定事項を減縮したものに相当する本願補正発明が,前記「第2 2(2)(2-4),(2-5)」に記載したとおり,この優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,この優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余について言及するまでもなく,この出願は,拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-10-03 |
結審通知日 | 2012-10-04 |
審決日 | 2012-10-16 |
出願番号 | 特願2008-519566(P2008-519566) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A23L)
P 1 8・ 575- Z (A23L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 光本 美奈子 |
特許庁審判長 |
郡山 順 |
特許庁審判官 |
小川 慶子 齊藤 真由美 |
発明の名称 | 腎臓疾患の予防および治療のための方法および組成物 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 泉谷 玲子 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 千葉 昭男 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 富田 博行 |
代理人 | 辻本 典子 |