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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12P
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C12P
管理番号 1270822
審判番号 不服2009-24235  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-08 
確定日 2013-03-07 
事件の表示 特願2003-194671「単糖類及び/又はオリゴ糖類の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 2月 3日出願公開、特開2005- 27541〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年7月9日の出願であって、平成21年5月27日付け拒絶理由通知に対し、同年7月31日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされた後、同年8月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月8日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同日付けで特許請求の範囲の全文についての手続補正がなされ、さらに、平成22年2月9日付けで審判請求書の請求の理由についての手続補正がなされ、これに対し、平成24年1月18日付けで当審から審尋がなされ、これに対し、同年3月22日付けで回答書が提出され、これに対し、同年9月12日付けで当審から審尋がなされたものである。なお、平成24年9月12日付けの当審からの審尋に対して、審判請求人から回答書は提出されなかった。

第2 平成21年12月8日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成21年12月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項4の
「【請求項4】
出発原料のバイオマス資源が、担子菌栽培に利用した後の広葉樹・針葉樹木廃培地であることを特徴とする請求項1又は2記載の単糖類及び/又はオリゴ糖類の製造方法。」
を、
「【請求項4】
出発原料のバイオマス資源が、担子菌栽培に利用した後の広葉樹・針葉樹木廃培地であることを特徴とする請求項1又は2記載の、木質成分の分離方法および単糖類及び/又はオリゴ糖類の製造方法。」(下線は補正箇所を示す。)
とする補正を含むものである。

上記本件補正の請求項4についての補正は、補正前の「請求項1又は2記載の単糖類及び/又はオリゴ糖類の製造方法」を「請求項1又は2記載の、木質成分の分離方法および単糖類及び/又はオリゴ糖類の製造方法」であるとして「木質成分の分離方法」を追加したものであるが、請求項1及び請求項2はいずれも「単糖類及び/又はオリゴ糖類の製造方法」の発明であるので、請求項1又は請求項2を引用する記載として「請求項1又は2記載の単糖類及び/又はオリゴ糖類の製造方法」とした補正前の請求項4の記載は”明りょうでない記載”とは言えないし、また、補正によって「請求項1又は2記載の、木質成分の分離方法および単糖類及び/又はオリゴ糖類の製造方法」と、択一的ではない記載を追加することにより、「木質成分の分離方法」との発明であるのか、あるいは「単糖類及び/又はオリゴ糖類の製造方法」との発明であるのか、特許を受けようとする発明も不明確なものとなるので、本件補正の請求項4の補正は、明りょうでない記載を釈明したものとはいえず、また誤記の訂正でもなく、さらに、特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもない。よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定のいずれの目的にも該当しない補正事項を含むものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成21年12月8日付けの手続補正は、上記のとおり却下されることになったので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成21年7月31日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1は、次のとおりである。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

「【請求項1】
バイオマス資源を出発原料として担子菌、腐朽菌類による菌体処理工程と、
前記菌体処理工程の処理物を、160?230℃の温度、0.5?10MPaの圧力の高圧熱水で処理する高圧熱水処理工程と
を有することを特徴とする単糖類及び/又はオリゴ糖類の製造方法。」

第4 刊行物とその記載事項
(1)引用刊行物の頒布日について
原査定の拒絶の理由には、「”加圧熱水および酵素処理による木質成分の分離”、セルロース学会第10回年次大会 講演要旨集、発行日2003年7月1日、P.80」(以下、「刊行物1」という。)が引用されており、当該刊行物1は、「発行日 2003年7月1日」と記載されたものである。
刊行物1は、2003年7月17日?18日に開催されたセルロース学会第10回年次大会の講演要旨集であり、当該学会が開催されたのは本願の出願日後であるが、「セルロース学会第10回年次大会の会告」([online]2003年4月4日,[2012年9月6日検索]、インターネット、<URL:http://web.archive.org/web/20030404053311/http://wwwsoc.nii.ac.jp/csj3/cellulose/nenji10.html>)を参照すると、その「参加費(要旨集含む)」の欄に「希望者には要旨集を事前に送付します。」と記載され、当該学会の開催の前に希望者に送付されたものであり、さらに、平成22年2月9日付けの審判請求書の手続補正書によると、2003年6月27日にセルロース学会の運営委員会に印刷社から納入されたものであるので、刊行物1である講演要旨集は、当該学会の運営委員会に納入された後であって、本願出願日前である、少なくとも発行日とされた2003年7月1日には、希望者に頒布され得、閲覧しうる状態にあったと推定されるものである。

(2)刊行物1の記載事項
刊行物1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。

刊行物1:「加圧熱水および酵素処理による木質成分の分離」、セルロース学会第10回年次大会 講演要旨集、発行日2003年7月1日、P.80の記載事項

(1a)「加圧熱水および酵素処理による木質成分の分離」(タイトル)

(1b)「1.緒言
近年、超臨界状態でのセルロース系バイオマスの処理が注目されるようになったが、超臨界状態を作るためのコストや規模拡大における問題が残されている。そこで、我々は超臨界よりもマイルドな条件での試料の処理を試み、バイオマス資源を完全分解するのではなく、成分を分離するための条件の解明を試みた。今回はバッチ式および連続式の装置できのこ栽培後の培地を処理した結果について報告する。」(「1.緒言」の欄)

(1c)「2.方法
バイオマス材料として、エノキタケ栽培後の培地(コーンコブ主体の培地)を用いた。バッチ式の装置では、容量10ml、1,000ml、および11,000mlの容器を用いて熱水処理を行った。処理条件は、160-220℃、10分間として行った。処理後は可溶性成分と残渣に分け、可溶性成分については糖組成を分析した。また、残渣はセルラーゼ製剤で処理し、同様に可溶性の成分と残渣に分けた。処理前後の成分分析により、各成分の可溶化率を求めた。」(「2.方法」の欄)

(1d)「3.結果および考察
バッチ式の処理においては、10mlおよび1,000mlの容器での水熱処理では同様の傾向を示したが、スケールを大きくした時には反応がより進む傾向にあった。このことより、容器内での反応はスケールにより異なる事が示唆された。実用化の場面では、このスケールアップしたときの条件設定が問題となる事が明らかとなった。水熱処理後の可溶部および酵素処理後の可溶部の糖分析結果から、ヘミセルロースは、180℃程度の処理でほぼ可溶化されていることがわかった。この温度は生物処理をしていないものの処理に比較して温和になっており、キノコ菌による生物化学的な処理の効果が確認された。さらに、連続式の水熱反応装置により処理したものについても、スケールが小さい時のバッチ式処理のものと同様の傾向を示し、反応制御面からいっても連続式装置の優位性が示唆された。」(「3.結果および考察」の欄)

第5 対比・判断
刊行物1には、セルロース系バイオマスを処理し、バイオマス資源を完全分解するのではなく、成分を分離する方法であって(1b)、バイオマス材料として、エノキタケ栽培後の培地(コーンコブ主体の培地)を用いたこと(1c)、処理として、加圧熱水処理を行うこと(1a)、160-220℃の温度で処理したこと(1c)が記載されている。
また、刊行物1には「超臨界状態でのセルロース系バイオマスの処理が注目されるようになったが、超臨界状態を作るためのコストや規模拡大における問題が残されている。そこで、我々は超臨界よりもマイルドな条件での試料の処理を試み、バイオマス資源を完全分解するのではなく、成分を分離するための条件の解明を試みた。」(1b)と記載され、その処理の結果物を「処理後は可溶性成分と残渣に分け、可溶性成分については糖組成を分析した。」(1c)と記載されている。これらの記載事項から、セルロース系バイオマスを完全分解するのではなく、成分が分離できるような分解条件で処理して、可溶性成分については糖組成を分析したことが分かる。また、糖組成を分析しているのであるから、「成分を分離するための条件」の「成分」とは、糖成分であることが理解できる。
そうすると、刊行物1の上記記載から、刊行物1には、
「バイオマス材料としてエノキタケ栽培後の培地(コーンコブ主体の培地)を用い、160?220℃の温度で加圧熱水処理し、バイオマス資源を完全分解するのではなく、糖成分を分離する方法」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。

(ア)刊行物1発明の「バイオマス材料としてエノキタケ栽培後の培地(コーンコブ主体の培地)を用い」たことについて、エノキタケ栽培後の培地(コーンコブ主体の培地)は、コーンコブ主体の培地でエノキタケを栽培して得られたものであるので、刊行物1発明は、コーンコブ主体の培地でエノキタケを栽培することを前提にしたものといえる。
そして、本願発明の「バイオマス資源を出発原料として担子菌、腐朽菌類による菌体処理工程」について、本願の明細書を参照すると、段落【0030】に「バイオマス資源としてコーンコブを出発原料に、担子菌としてエノキタケを選択して菌体処理工程」を実施したことが記載され、さらに、段落【0031】には「エノキタケの栽培により菌体処理を受けたコーンコブ廃培地」と記載されていることから、本願発明の「バイオマス資源」は「コーンコブ」を含むものであり、担子菌による菌体処理として「エノキタケの栽培」を含むものといえる。
そうすると、刊行物1発明が前提とする、コーンコブ主体の培地でエノキタケを栽培することは、本願発明の「バイオマス資源を出発原料として担子菌、腐朽菌類による菌体処理工程」に相当する。

(イ)刊行物1発明の「エノキタケ栽培後の培地(コーンコブ主体の培地)」は、本願発明の「前記菌体処理工程の処理物」に相当する。
そして、刊行物1発明の「加圧熱水処理」の処理条件である「160?220℃」は、本願発明の高圧熱水の「160?230℃」の温度範囲に含まれるものである。
そうすると、刊行物1発明の「バイオマス材料としてエノキタケ栽培後の培地(コーンコブ主体の培地)を用い、160?220℃の温度で加圧熱水処理」することと、本願発明の「前記菌体処理工程の処理物を、160?230℃の温度、0.5?10MPaの圧力の高圧熱水で処理する高圧熱水処理工程」とは、「菌体処理工程の処理物を、160?230℃の温度の加圧熱水で処理する加圧熱水処理工程」である点で共通する。

(ウ)本願発明の「単糖類及び/又はオリゴ糖類の製造」は、「バイオマス資源を出発原料として」行うものであり、また、単糖類やオリゴ糖は糖成分といえ、刊行物1発明の「バイオマス資源を完全分解するのではなく、糖成分を分離する」ことと、本願発明の「単糖類及び/又はオリゴ糖類の製造」とは、「バイオマス資源を出発原料として、糖成分を得る」点で共通する。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)
バイオマス資源を出発原料として担子菌、腐朽菌類による菌体処理工程と、
菌体処理工程の処理物を、160?230℃の温度の加圧熱水で処理する加圧熱水処理工程と
を有するバイオマス資源を出発原料として、糖成分を得る方法

(相違点1)
バイオマス資源を出発原料として得る糖成分が、本願発明では「単糖類及び/又はオリゴ糖類」であるのに対し、刊行物1発明では糖成分を具体的に規定していない点。

(相違点2)
菌体処理工程の処理物を加圧熱水で処理する加圧熱水処理工程において、本願発明では「0.5?10MPaの圧力」の高圧熱水で処理するのに対し、刊行物1発明では、加圧条件については特に規定していない点。

そこで、上記各相違点について、検討する。

(相違点1について)
刊行物1には「超臨界状態でのセルロース系バイオマスの処理が注目されるようになったが、超臨界状態を作るためのコストや規模拡大における問題が残されている。そこで、我々は超臨界よりもマイルドな条件での試料の処理を試み、バイオマス資源を完全分解するのではなく、成分を分離するための条件の解明を試みた。」(1b)と記載されているから、刊行物1発明の「バイオマス材料としてエノキタケ栽培後の培地(コーンコブ主体の培地)」とは、セルロース系バイオマス材料としてのエノキタケ栽培後の培地(コーンコブ主体の培地)であると解される。
そして、セルロースを分解して得られるものはセルロースの構成成分である糖成分であり、セルロースの分解が不十分では可溶化しないから、可溶性の糖成分とは、単糖類やオリゴ糖類を意味することは明白である。
したがって、刊行物1発明の「糖成分」とは、可溶性の単糖類及び/又はオリゴ糖類を意味することは技術常識からみて明らかであって、実質的に相違点とはならない。

(相違点2について)
加圧熱水は少なくとも飽和蒸気圧以上に加圧されるものであり、また、水の飽和蒸気圧は160℃で0.6MPa、220℃で2.3MPa程度であることからすると、刊行物1発明の160℃?220℃の温度で行う加圧熱水処理の圧力は、少なくとも0.6?2.3MPaを超えるものといえる。
刊行物1には、「我々は超臨界よりもマイルドな条件での試料の処理を試み、バイオマス資源を完全分解するのではなく、成分を分離するための条件の解明を試みた。」(1b)と記載され、「加圧熱水」(1a)での処理の条件の解明を試みているものであるから、何らかの加圧条件の設定が必要であり、加圧条件の検討を行う十分な動機があるといえる。
そうすると、刊行物1発明においてバイオマス材料を加圧熱水処理する際、上記(相違点1について)で述べたとおりにバイオマス材料から糖成分である単糖類あるいはオリゴ糖を高い収率で得ることを考えて、刊行物1発明の加圧熱水の加圧条件について、上記飽和蒸気圧以上であって、0.5?10MPaの範囲の適切な値を設定することは、当業者が容易になし得たことである。

(本願発明の効果について)
バイオマス資源を高圧熱水処理工程に導入する前に一次的な菌体分解作用を受け、バイオマス資源に対しセルロース、ヘミセルロースの非晶化、リグニンの離脱、セルロース、ヘミセルロースの一次的な加水分解が行われているため、高圧熱水の処理条件を穏やかにすることができるなどの、本願明細書の段落【0022】や段落【0051】などに記載された本願発明の効果は、刊行物1の記載事項及び周知技術から当業者が予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-28 
結審通知日 2013-01-08 
審決日 2013-01-21 
出願番号 特願2003-194671(P2003-194671)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (C12P)
P 1 8・ 121- Z (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松原 寛子  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 菅野 智子
関 美祝
発明の名称 単糖類及び/又はオリゴ糖類の製造方法  
代理人 福原 淑弘  
代理人 峰 隆司  
代理人 佐藤 立志  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 勝村 紘  
代理人 河野 直樹  
代理人 岡田 貴志  
代理人 白根 俊郎  
代理人 市原 卓三  
代理人 河野 哲  
代理人 竹内 将訓  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 河井 将次  
代理人 砂川 克  
代理人 堀内 美保子  
代理人 山下 元  
代理人 村松 貞男  
代理人 中村 誠  
代理人 野河 信久  

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