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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1270830
審判番号 不服2011-7474  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-08 
確定日 2013-03-07 
事件の表示 特願2005-310477「有害微生物撲滅剤」拒絶査定不服審判事件〔平成18年2月16日出願公開、特開2006-45246〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成17年10月25日に、平成11年5月10日にした特許出願(特願平11-129245号。以下「原出願」という。)の一部を新たな特許出願とした、とされるものであって、平成21年10月30日付けで拒絶理由が通知され、平成22年1月5日に意見書が提出されたが、同年12月28日に拒絶査定がされ、これに対し、平成24年4月8日に審判が請求されるとともに手続補正書が提出された後、同年7月23日付けで審尋がされ、同年9月24日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成23年4月8日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成23年4月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成23年4月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件出願当初の特許請求の範囲の請求項1である、
「(A)2-メチル-3-イソチアゾロンと(B)2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールとを(A)成分と(B)成分が重量比で1:0.5ないし1:10の割合で含有することを特徴とする有害微生物撲滅剤。」
を、
「(A)2-メチル-3-イソチアゾロンと(B)2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールとを(A)成分と(B)成分が重量比で1:0.5ないし1:10の割合で含有し、(A)成分と(B)成分の2成分のみを有効成分とすることを特徴とする有害微生物撲滅剤。」(審決注:補正箇所に下線部を付した。)
とする補正を含むものである。

2 補正の適否
(1)目的要件
上記請求項1についての補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「有害微生物撲滅剤」を「(A)成分と(B)成分の2成分のみを有効成分とする」と限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。

(2)独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」という。また、本件補正後の明細書を「本件補正明細書」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、検討する。

進歩性1>
平成21年10月30日付けの拒絶理由における引用文献1である、特開昭53-118527号公報(以下、「刊行物1」という。)に記載された発明に基づく容易想到性について

ア 刊行物1に記載された事項
刊行物1には、以下の事項が記載されている。

1a 「特許請求の範囲
一般式

(式中R^(1)及びR^(2)は水素原子、アルキル基又はハロゲン原子、R^(3)はC_(1?8)のアルキル基又はアルアル基を示す)で表わされるイソチアゾロン誘導体と、一般式

(式中R^(4)及びR^(5)は水素原子、ハロゲン原子又は置換基を有してもよいアルキル基、Xはハロゲン原子を示す)で表わされるハロゲン化脂肪族ニトロアルコールとを重量比1:10?10?1の割合で含有する殺菌剤。」(1頁左下欄3行?右下欄1行)

1b 「発明の詳細な説明
本発明は2種類の殺菌剤の相乗作用を利用する新規な殺菌剤に関する。
一般に工業用水、たとえば製紙工程中のパルプスラリー循環冷却水はその導管、流送路等の内壁、特にその構造上工業用水のよどむ個所にはスライムが付着しやすく、しばしばスライム障害を引き起こす原因となる。スライムの発生には細菌類、真菌類、藻類等多種多様な生物群が関与しているため、その防除には多くの場合殺菌剤が用いられているが、1種類の殺菌剤で満足な効果を奏するものは知られていない。
また塗料、接着剤等の工業分野に用いられる合成樹脂エマルジヨン、たとえば酢酸ビニル系、アクリル系、スチレン-ブタジエンゴム系等の合成樹脂エマルジヨンは、いずれも保存中に微生物による腐敗が生じ、粘度変化や着色悪臭を発生することが問題になつている。さらにまた各種工業におけるバインダーとして殿粉糊(たとえばコート紙製造用コーテイングカラーのバインダー)、にかわ(各種工業用バインダー)等が用いられているが、いずれも腐敗し易く、にかわは特にゲル状態でのかびの発生及び希釈水溶液中での腐敗が問題となつている。これらの場合にも満足すべき作用を示す殺菌剤が要望されている。」(1頁右下欄2行?2頁左上欄7行)

1c 「本発明者らは種々の殺菌剤を組合わせて検討した結果、一般式

(式中R^(1)及びR^(2)は水素原子、アルキル基又はハロゲン原子、R^(3)はC_(1?8)のアルキル基又はアルアルキル基を示す)で表わされるイソチアゾロン誘導体と、一般式

(式中R^(4)及びR^(5)は水素原子、ハロゲン原子又は置換基を有していてもよいアルキル基、Xはハロゲン原子を示す)で表わされるハロゲン化脂肪族ニトロアルコールとを1:10?10:1の割合で組合わせて使用すると、単独で使用した場合からは予測することができない優れた相乗効果を示すことを見出した。」(2頁左上欄8行?右上欄6行)

1d 「本発明の殺菌剤は通常は溶媒に溶解して用いられる。溶媒としては水のみでもよいが、アルコール類、…エチレングリコール…等の親水性溶媒を併用することが有利である。」(2頁左下欄19行?右下欄6行)

1e 「実施例1?7
下記の試験法にてスライム発生の程度を測定した。
試験法:…のガラス製水槽に、…スライム量測定板として…のラワン材を2枚縦に取り付けた。この槽に製紙工程より採取した白水(パルプ濃度0.1%)10lを入れ、これに第1表(審決注:原文の表の「第」は略字である。以下同じ)に示すイソチアゾロン誘導体及びハロゲン置換の脂肪族ニトロアルコールの混合物を白水に対し1ppmになるように添加した。7日後にスライム付着板に付着したスライムの重量を測定し、効果を判定した。第1表に7日後のスライムの重量を殺菌剤組成物及び添加濃度と共に示す。

」(3頁右上欄1行?4頁左上欄)

1f 「実施例8
2-メチル-5-クロロ-4-イソチアゾリン-3-オン1.6部、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン0.3部及び3-ニトロ-3-ブロモ-ペンタンジオール-(2,4)10.0部の混合物を、ジエチレングリコールモノメチルエーテルに溶解して10%溶液となし、この溶液を製紙工程中のリフラーにおいて、パルプスラリーに対し10ppmの割合で1回6時間、1日2回添加した。7日後にスライム付着板に付着したスライムの重量を測定し、効果を判定した。
比較のため2-メチル-5-クロロ-4-イソチアゾリン16部及び2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン3部の混合物を、ジエチレングリコールモノメチルエーテルに溶解した10%溶液(比較例9)、ならびに3-ニトロ-3-ブロモ-ペンタンジオール-2,4をジエチレングリコールモノメチルエーテルに溶解した10%溶液(比較例10)を、前記と同じ条件でそれぞれ添加した。

なお、薬剤無添加の場合では2日後に既にスライム付着量が3.0gとなつた。」(4頁右上欄1行?左下欄下から7行)

1g 「実施例9
2-メチル-5-クロロ-4-イソチアゾリン-3-オン1.0部、3-ニトロ-3-ブロモ-ペンタンジオール(2,4)9.0部及びジエチレングリコールモノメチルエーテル90.0部からの溶液を、工業用循環式冷却水に5ppm添加した。無添加の場合はスライムが発生し、1か月に1回の割合でスライム除去を行なわねばならなかつたのに対し、本発明の薬剤を添加した場合は除去処理を3か月に1回の割合に減らすことができた。
比較として2-メチル-5-クロロ-4-イソチアゾリン-3-オン10部、ジエチレングリコールモノメチルエーテル90部からの溶液(比較例11)、ならびに3-ニトロ-3-ブロモ-ペンタンジオール(2,4)10部及びジエチレングリコールモノメチルエーテル90部からの溶液(比較例12)を、同様に工業用循環冷却水中に各7ppmの割合で添加した場合は、1か月半ならびに2か月半に1回の割合でスライム除去が必要であつた。」(4頁左下欄下から6行?右下欄14行)

1h 「実施例10
アクリル系合成樹脂エマルジヨン(アクリル酸エチル-アクリロニトリル共重合物、濃度40%)に同エマルジヨンの腐敗したものを種菌として1%添加混合したものを試料とし、これを4区分に分けて第3表に示す薬剤をそれぞれ250ppm添加し、35℃で密閉保存した。1週間ごとに菌数の測定を行なつたのち腐敗エマルジヨン1%を追加し、35℃で保存を続けた。その結果を第3表(審決注:原文の第は略字である。)に示す。

」(4頁右下欄15行?5頁)

イ 刊行物1に記載された発明
刊行物1は、「2種類の殺菌剤の相乗作用を利用する新規な殺菌剤」(摘示1b)に関するものであって、具体的には、その特許請求の範囲に記載された、
「一般式

(式中R^(1)及びR^(2)は水素原子、アルキル基又はハロゲン原子、R^(3)はC_(1?8)のアルキル基又はアルアル基を示す)で表わされるイソチアゾロン誘導体と、一般式

(式中R^(4)及びR^(5)は水素原子、ハロゲン原子又は置換基を有してもよいアルキル基、Xはハロゲン原子を示す)で表わされるハロゲン化脂肪族ニトロアルコールとを重量比1:10?10?1の割合で含有する殺菌剤。」
という、特定のイソチアゾロン誘導体(以下、「式Iのイソチアゾロン誘導体」という。)と特定のハロゲン化脂肪族ニトロアルコール(以下、「式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコール」という。)を成分として含有する殺菌剤が記載されている。なお、この記載における、「アルキル基又はアルアル基」及び「1:10?10?1の割合」の記載は不明確であるが、この記載を概ね引き写したと認められる摘示1cの記載によれば、それぞれアルキル基又はアルアルキル基」及び「1:10?10?1の割合」の誤記と認められる。
そして、それら2種類の成分の相乗作用によりスライム発生抑制等ができる(摘示1e?1h)ことが記載されている。
したがって、刊行物1には、
「式Iのイソチアゾロン誘導体と、式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコールとを重量比1:10?10:1の割合で含有する殺菌剤。」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

ウ 本件補正発明と引用発明1との対比
引用発明1の殺菌剤における2種類の成分は、式Iのイソチアゾロン誘導体という化合物群及び式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコールという化合物群のそれぞれから選択される化合物からなるところ、本件補正発明の(A),(B)成分それぞれは、引用発明1の式Iのイソチアゾロン誘導体、式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコールそれぞれの化合物群に包含される化合物であることは明らかである。ただ、式Iのイソチアゾロン誘導体という化合物群及び式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコールという化合物群には多種類の化合物が包含され得る。
そこで、各化合物群それぞれの具体的な化合物について、引用発明1の上記2種類の成分が使用され殺菌効果が示された殺菌剤について記載するものである実施例をみると、式Iのイソチアゾロン誘導体として、「2-メチル-3-イソチアゾリン-3-オン」(実施例1,3,4,7,8)が用いられていることが認められるから、上記イソチアゾロン誘導体には、少なくとも「2-メチル-3-イソチアゾリン-3-オン」が具体的に用いられるものといえるところ、この化合物は、本件補正発明の(A)成分である「2-メチル-3-イソチアゾロン」と同じ化合物(以下「MIT」と略記することがある。)である。また、式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコールとして、「2,2-ブロモニトロ-プロパンジオール-1,3」(実施例2)が用いられていることが認められるから、上記ハロゲン化脂肪族ニトロアルコールには、少なくとも「2,2-ブロモニトロ-プロパンジオール-1,3」が具体的に用いられるものといえるところ、この化合物は、本件補正発明の(B)成分である「2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール」と同じ化合物(以下「BNP」と略記することがある。)である。
すると、本件補正発明の(A),(B)成分それぞれは、引用発明1の式Iのイソチアゾロン誘導体と式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコールに包含される化合物であり、かつ、具体的に殺菌剤すなわち有害微生物撲滅剤、の成分として具体的に組み合わせて使用され殺菌効果が示された化合物である、ということができる。
また、これらの実施例においては、他の殺菌成分は含まれていないから、引用発明1の殺菌剤には、少なくとも2成分のみを有効成分とする殺菌剤が包含されることは明らかである。
そうすると、本件補正発明と引用発明1は、ともに、式Iのイソチアゾロン誘導体成分と、式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコール成分の2成分のみを有効成分とする有害微生物撲滅剤、であるということができる。
そして、これら2成分の重量比は、引用発明1においては「1:10?10:1の割合」であるところ、これは、「1:0.1?1:10の割合」とも書き表すことができ、本件補正発明における「1:0.5ないし1:10」の割合を包含する範囲である。
以上によれば、本件補正発明と引用発明1とは、
「(A)式Iのイソチアゾロン誘導体成分と(B)式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコール成分とを含有し、(A)成分と(B)成分の2成分のみを有効成分とする有害微生物撲滅剤。」
の点で一致し、以下の点1で相違するといえる。

1 本件補正発明は、「2-メチル-3-イソチアゾロン」及び「2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール」という組合せに特定されるものであって、それらの重量比が1:0.5ないし1:10と特定される範囲のものであるのに対して、引用発明1は、上記の組合せに特定されてはいないものであり、それらの重量比も1:10?10:1の割合で、本件補正発明の割合を含む、より広範囲のものである点
(以下、「相違点1」という。)

エ 相違点についての判断
(ア)構成の容易想到性について
引用発明1の殺菌剤における2種類の成分は、上記ウのとおり、式Iのイソチアゾロン誘導体という化合物群及び式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコールという化合物群のそれぞれから選択される化合物からなるものであるところ、それぞれの化合物群には多種類の化合物が包含され得るから、それらの化合物からなる各成分の組合せである引用発明1の殺菌剤には、さらに2成分の化合物の多種類の組合せが包含され得る。
そこで、具体的な2成分の化合物の組合せについて、再度実施例をみると、それらの組合せにおけるイソチアゾロン誘導体成分の化合物としては、「2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン」(実施例6)や「2-ベンジル-5-クロロ-イソチアゾリン-3-オン」(実施例7)が成分の一部として用いられているものもあるが、全ての実施例には、少なくとも「2-メチル-3-イソチアゾリン-3-オン」(MIT。実施例1,3,4,7,8)及び/又は、「2-メチル-5-クロロ-イソチアゾリン-3-オン」(実施例2?6,8?13。以下「CMIT」と略記することがある。)が用いられている。
そうすると、引用発明1には2成分の化合物の多種類の組合せが包含され得るものの、「2-メチル-3-イソチアゾリン-3-オン」(MIT)及び/又は「2-メチル-5-クロロ-イソチアゾリン-3-オン」(CMIT)を含むイソチアゾロン誘導体成分は、引用発明1の式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコール成分と組合せるイソチアゾロン誘導体成分の代表的なものである、ということができる。
さらに、実施例においてこれらMIT及び/又はCMITを含むイソチアゾロン誘導体成分と組み合わせられた式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコール成分の化合物についてみると、「2,2-ブロモニトロ-プロパンジオール-1,3」(BNP。実施例2)のほか、「3,3-ブロモニトロ-ペンタンジオール-2,4」(実施例1,3)、「2-クロロ-2-ニトロペンタノール」(実施例4)、「2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール」(実施例5)、「2-クロロ-2-ニトロエタノール」(実施例4,6)、「3,3クロロニトロペンタンジオール-2,4」(実施例7)が用いられている。
そして、「実施例1?7」には、そこに記載された試験に従った、白水におけるスライム付着量(g)(摘示1eの第1表)が記載されている。これらの試験結果をみると、有効成分が上記の多様な式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコール化合物と、MIT及び/又はCMITを含むイソチアゾロン誘導体成分とを組合せた殺菌剤である、実施例1ないし7では<0.1?0.9であり、それらの有効成分や割合の相違による変動はあるものの、いずれも1未満のレベルであることが認められる。他方、有効成分がMIT及び/又はCMIT単独である比較例4?8や、有効成分が上記実施例で用いた特定のハロゲン化脂肪族ニトロアルコール成分単独である比較例1?3では4.0?9.0であり、有効成分や割合の相違による変動はあるものの、いずれも1を超え10未満のレベルであることが認められる。さらに、いずれの有効成分をも用いない「無添加」では10.6であり、10を超えるレベルであることが認められる。
刊行物1には、そこに記載する殺菌剤の発明(審決注:引用発明1と同じ)全般について、「組み合わせて使用すると、単独で使用した場合からは予測することができない優れた相乗効果を示す」(摘示1c)と記載されており、また、上記のとおり、具体的にも、実施例1ないし7の多様な組合せ全ての場合において、単独で使用した場合や無添加の場合より、優れたスライム低減効果、すなわち、殺菌効果が示されていることが認められる。
そうすると、刊行物1に接した当業者は、引用発明1の殺菌剤の2成分の組合せ、とりわけ、MIT及び/又はCMITと、式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコールであって実施例において具体的に使用された上記化合物との組合せ、においては、上記実施例に示される程度のレベルの、優れた相乗殺菌効果が奏されるであろうと理解するのが自然である。
したがって、これらの相乗殺菌効果を期待して、MIT及び/又はCMITと式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコールであって実施例において具体的に使用された上記化合物とを組み合わせること、とりわけ、いずれかの実施例の殺菌剤の具体的組合せにおける一方の成分の化合物を、具体的に使用され効果が示されている同じ成分であって他の化合物に換えること、例えば、実施例1の殺菌剤の組合せにおける「3,3-ブロモニトロ-ペンタンジオール-2,4」を、具体的に使用され効果が示されているハロゲン化脂肪族ニトロアルコール成分であって他の化合物である、「2,2-ブロモニトロ-プロパンジオール-1,3」(BNP)に換えた組合せにすること、すなわち「2-メチル-3-イソチアゾロン」と「2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール」という組合せにすることは、当業者にとって何ら困難なこととはいえない。
そして、殺菌剤としての両成分の好適な割合は、組合せる有効成分の化合物に応じて通常多少は変動するから、その好適割合の範囲を引用発明1で規定される範囲内において実験等を行い適宜決定することは、当業者の通常の作業であって、何らの困難性は認められない。
以上のとおり、引用発明1において2-メチル-3-イソチアゾロンと2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールという組合せとし、それら両成分の重量比を1:0.5ないし1:10とすること、すなわち、引用発明1において相違点1に係る本件補正発明の構成とすること、は当業者が容易になし得ることであると認められる。

(イ)効果の予測性について
a 本件補正発明の効果について、本件補正明細書には、
「【発明の効果】
【0013】
本発明の有害微生物撲滅剤は、2種の有効成分を組み合わせることにより、それぞれ単独成分からは予想することのできない相乗効果を発揮するものである。その結果、殺菌しうる微生物の範囲が大幅に拡大されて、極めて広範囲の抗菌スペクトルを有するとともに、各種微生物の繁殖を長期間効果的に抑制することができる。
したがって、本発明の有害微生物撲滅剤は、特に紙パルプ工業における用水系、例えば抄紙工程の白水や、各種産業における循環冷却水などの種々の用水系のほか、水性塗料、紙用塗工液、ラテックス、高分子エマルション、捺染糊、切削油などの金属加工油剤、接着剤、皮革、木材などの分野に好適に用いられる。」
と記載されることから、本件補正発明の効果は、
「それぞれ単独成分からは予想することのできない相乗効果を発揮する」
結果、
「殺菌しうる微生物の範囲が大幅に拡大されて、極めて広範囲の抗菌スペクトルを有する」こと、及び、
「各種微生物の繁殖を長期間効果的に抑制することができる」こと、であると認められる。

b しかるに、引用発明1の殺菌剤は「単独で使用した場合からは予測することができない優れた相乗効果を示す」(摘示1c)ものであるから、引用発明1に包含され得る組合せである本件補正発明の有害微生物撲滅剤が「それぞれ単独成分からは予想することのできない相乗効果を発揮する」ことは、当業者が予測し得る範囲内のことである。

c そして、本件補正発明の相乗効果とは、具体的には、「極めて広範囲の抗菌スペクトルを有する」ことと、「各種微生物の繁殖を長期間効果的に抑制する」ことであると認められ、その効果は「実施例」に示されるものと認められるから、さらに検討する。
本件補正明細書には「実施例」として以下の記載がある。
「【0015】
実施例
2-メチル-3-イソチアゾロン7.5重量部と2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール17.5重量部とジエチレングリコール50重量部と水25重量部とを混合して、有害微生物撲滅剤溶液を調製した。
このようにして得た有害微生物撲滅剤溶液を、スライムトラブルの多発している某製紙会社の白水中に、2-メチル-3-イソチアゾロンと2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールの合計重量として20ppmになる濃度(以下薬剤濃度という)で添加し、15分間放置後、滅菌水で希釈した。次いで、この液のlmlを加熱溶解したワックスマン寒天培地に混合、固化し、32℃で48時間培養した後で生菌数を測定したところ、1ml当りの菌数は4.8×10^(6)であった。また、有害微生物撲滅剤溶液を添加しない場合の生菌数は1.1×10^(7)であった。
次に、ラテックス中に200ppmの薬剤濃度で添加し、35℃の恒温室中に放置し、経日的にラテックス中の生菌数を測定し、長期防腐効果を判定した。その結果を表1に示す。表1には比較例として無添加の場合についての経日的なラテックス中の生菌数の変化も併記した。なお、薬剤のもつ長期防腐効果を明確にするため、7日、14日後の菌数測定後、腐敗菌の再接種を行った。
【0016】
【表1】



これらの実施例においては、本件補正発明の一例である特定の重量割合の特定溶媒組成物が用いられ、20ppmの薬剤濃度で白水に添加すると15分後の白水と無添加の白水の生菌数比は、4.8:11であったこと、200ppmの薬剤濃度で添加したラテックスと無添加のラテックスの生菌数比は、35℃の保存条件で、1.2:1800(7日後)、7.1:57(14日後)、3.9:30(24日後)であったことが、示されている。

(a)以上の実施例、さらに比較例を含め本件補正明細書の記載によれば、本件補正発明の「極めて広範囲の抗菌スペクトルを有する」こととは、白水やラテックス、その他様々な菌を含み得る、「各種産業における循環冷却水などの種々の用水系」、「水性塗料、紙用塗工液…高分子エマルション、捺染糊、切削油などの金属加工油剤、接着剤」(段落【0013】)等において生菌数を抑制できること、を意味するものと認められる。
他方、引用発明1の殺菌剤を使用した刊行物1の実施例1ないし7においては白水(1ppm添加)において生菌数を抑制できた(摘示1e)こと、さらに、実施例8においてはパルプスラリー(10ppm添加)(摘示1f)、実施例9においては冷却水(5ppm添加)(摘示1g)、実施例10においてはアクリル系合成樹脂エマルジヨン(250ppm添加)(摘示1h)等において生菌数を抑制できたことが示されている。
そうすると、引用発明1の殺菌剤に包含され得る、本件補正発明の有害微生物撲滅剤が「極めて広範囲の抗菌スペクトルを有する」こと、は当業者が予測し得る範囲内のことである。

(b)また、本件補正発明の「各種微生物の繁殖を長期間効果的に抑制する」こととは、実施例及び比較例に、200ppmの薬剤濃度で添加したラテックスと無添加のラテックスの生菌数比は、35℃の保存条件で、1.2:1800(7日後)、7.1:57(14日後)、3.9:30(24日後)であったことが示されていることから、少なくとも、ラテックス等に200ppm程度の薬剤濃度で添加したとき、35℃3週間程度の保存後において、無添加の場合より一桁少ない程度に各種の菌の繁殖が抑制できること、を意味するものと認められる。
他方、刊行物1には引用発明1の殺菌剤を合成樹脂エマルジョンに添加した実施例、例えば、実施例10(摘示1h)が記載され、この例では、アクリル系エマルジョンに殺菌剤を250ppm添加し35℃で保存したとき、4週間後、さらには8週間後においても、無添加の場合より、各種の菌の繁殖を、少なくとも一桁程度以上抑制できたこと(摘示1hの第3表参照)が認められる。
そうすると、引用発明1の殺菌剤に包含され得るものである、本件補正発明の有害微生物撲滅剤が「各種微生物の繁殖を長期間効果的に抑制する」こと、も当業者が予測し得る範囲内のことである。

d まとめ
以上のとおり、本件補正発明の効果は、当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別の顕著なものと認めることはできない。

オ 審判請求人の主張について
審判請求人は、平成24年9月24日付けの回答書において、
「本願出願人は、引用文献1の第3-6表にイソチアゾロンとハロゲン化脂肪族ニトロアルコールによって殺菌効果が8週にわたって持続することが示されていることについては認めるところであります。しかしながら、第3-6表に具体的に記載された化合物の組合せ以外のものについては実際に試験を行わない限り、同様に持続した殺菌効果を有することを当業者が予測し得ることは困難であると思料いたします。」(2.(2)の項)
「実施例8のスライム抑制能は実施例1?7に比べ有意に劣り、その組み合わせによって強弱があることは明らかであります。まして、実施例1?8の組成物については7日間までのスライム抑制効果しか確認試験が行われておらず、それ以上の期間において殺菌効果があるか否かは全く不明です。」(2.(2)の項)
と主張する。

審判請求人の前者の主張は、実施例10等に引用発明1の殺菌剤に包含されるCMITと3-ニトロ-3-ブロモ-ペンタンジオール-2,4という特定の組合せについては長期殺菌効果があることが示されるとしても、引用発明1の殺菌剤に包含される他の組合せにおける効果は実際に試験を行わない限り分からないから、本件補正発明の長期殺菌効果は当業者が予測することができない顕著な効果である、というものであると認められる。
しかしながら、上記エ(ア)において述べたとおり、刊行物1に接した当業者は、引用発明1の殺菌剤、とりわけ、MIT及び/又はCMITと、式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコールであって実施例において具体的に使用された上記化合物との組合せた殺菌剤、においては、上記実施例に示される程度のレベルの、優れた相乗殺菌効果が奏されるであろうと理解するのが自然であって、審判請求人が主張する「具体的に記載された化合物の組合せ以外のものについては実際に試験を行わない限り、同様に持続した殺菌効果を有することを当業者が予測し得ることは困難」というものではない。
そして、実施例10等に示されたCMITと3-ニトロ-3-ブロモ-ペンタンジオール-2,4を組合せた殺菌剤は、上記の殺菌剤に包含される殺菌剤の一つであるところ、この殺菌剤について示された長期殺菌効果は、「実施例に示される程度のレベルの、優れた相乗殺菌効果が奏されるであろう」と当業者が予測するのであるから、上記「MIT及び/又はCMITと、式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコールであって実施例において具体的に使用された上記化合物との組合せた殺菌剤」に包含される他の殺菌剤である、本件補正発明の有害微生物撲滅剤について、実施例10等で示される程度のレベルの、優れた長期殺菌効果を有することは、当業者が予測する範囲のことであるといえる。
なお、本件補正発明の長期殺菌効果(ラテックス等に200ppm程度の薬剤濃度で添加したとき、35℃3週間程度の保存後において、無添加の場合より一桁少ない程度に各種の菌の繁殖が抑制できること)のレベルは、上記「実施例10等で示される程度のレベルの、優れた長期殺菌効果」に比し予測し得ないほど顕著なもの、と認めるに足りないものである。
また、審判請求人の後者の主張については、実施例1ないし8は、本件補正発明の長期殺菌効果が示された場合とは対象等の条件が大きく異なるものであるから、本件補正発明の長期殺菌効果について、これらの実施例の結果を根拠に論じることは適切とはいえない。
よって、審判請求人の主張は、採用することはできない。

カ <進歩性1>のまとめ
以上のとおり、本件補正発明は、その出願前頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

進歩性2>
ア 分割の適法性
本件補正によって、「有害微生物撲滅剤」は2-メチル-3-イソチアゾロン(MIT)と「2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール」(BNP)との「2成分のみを有効成分とする」ものに限定された。
しかし、原出願の出願時の明細書(以下「原出願当初明細書」という。)には、MITとBNPとの「2成分のみを有効成分とする」組成物自体が記載されているとはいえない。
すなわち、まず、原出願当初明細書は、MITとBNPと「2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド」の3つの有効成分を必須成分として含有する有害微生物撲滅剤(以下、「殺菌剤」ともいう。)の発明について記載するものであり、MITとBNPとを含み、「2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド」を含まない組成物に関しては、わずかに一組成物が比較例1として記載されているに過ぎない(段落【0015】?【0019】参照)
その比較例1の組成物は、「IT」7.5、「BNP」17.5、「DEG」50、「水」25からなるものであるところ、「IT」とは「2-メチル-3-イソチアゾロン(5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロン0.5重量%含有)」、「BNP」とは「2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール」、「DEG」とは「ジエチレングリコール」である(段落【0015】)。
すなわち、比較例1に唯一記載された、有効成分としてMITとBNPとを含み、「2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド」を含まない組成物は、MITとBNPと「5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロン」(CMIT)とを含有するものである。そして、CMITは、殺菌剤の有効成分として周知のもの(必要であれば、上記刊行物1等を参照のこと)であるから、MITとBNPとの「2成分のみを有効成分とする」もの、ということはできない。なお、その組成物の殺菌効果も実施例のもの比し大きく劣り、他の比較例2ないし4のものに比しても、優れたものともいえないものである。
そうすると、MITとBNPとの「2成分のみを有効成分とする」ものは原出願当初明細書に記載された事項とはいえない。
まして、MITとBNPを「重量比で1:0.5ないし1:10の割合」で含有した組成物が、「広範囲の抗菌スペクトルを有し、多くの微生物に対して良好な繁殖抑制効果を示し、抗菌活性を維持するための薬剤添加量を従来と同量以下にしうると共に、持続性及び速効性に優れた有害微生物撲滅剤」(本件補正明細書【0007】)であること、は原出願当初明細書に記載された事項とはいえない。
よって、本件補正明細書に記載された事項は原出願当初明細書に記載された事項の範囲内であるとはいえず、本件出願は適法な分割出願とはいえないから、その出願日は、現実の出願日である、平成17年10月25日と認められる。
以上を前提にして、その出願前の平成12年11月21日に頒布された、本件補正発明の特開2000-319113号公報(原出願の公開公報。以下「刊行物A」という。)に記載された発明に基づく容易想到性について検討する。

イ 刊行物Aに記載された事項
刊行物Aに係る原出願当初明細書の記載順に摘示した(平成12年2月7日付けで手続補正された記載事項については、摘示頁を付した。)。

a1 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)2-メチル-3-イソチアゾロン、(B)2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール及び(C)2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミドを含有することを特徴とする有害微生物撲滅剤。
【請求項2】 (A)成分、(B)成分及び(C)成分を溶解又は分散し、かつ(A)成分と(B)成分との含有割合が、重量比で1:0.5ないし1:10であり、(A)成分と(C)成分との含有割合が、重量比で1:0.8ないし1:10である請求項1記載の有害微生物撲滅剤。」

a2 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、特定の化合物の組合せによる相乗効果により、広範囲の抗菌スペクトルを有し、多くの微生物に対して良好な繁殖抑制効果を示すと共に、効果の持続性に優れ、かつ環境に対する影響の少ない有害微生物撲滅剤に関するものである。」

a3 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような事情のもとで、広範囲の抗菌スペクトルを有し、多くの微生物に対して良好な繁殖抑制効果を示し、抗菌活性を維持するための薬剤添加量を従来と同量以下にしうると共に、効果の持続性に優れ、かつ環境に対する影響の少ない有害微生物撲滅剤を提供することを目的としてなされたものである。」

a4 「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、広範囲の抗菌スペクトルを有する有害微生物撲滅剤を開発すべく種々研究を重ねた結果、特定のイソチアゾロン化合物、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール及びハロシアノアセトアミドを組み合わせたものが、その相乗効果によって、これまでの工業用殺菌剤よりも広範囲の有害微生物に対して有効に作用し、その繁殖を抑制するとともに、エイムズ陰性であり、環境汚染の問題がないこと、及び2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミドを含有させたことにより不純物として存在する5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロンの好ましくない作用が抑制されることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。」

a5 「【0009】
【発明の実施の形態】
…2-メチル-3-イソチアゾロンには、…5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロンが不純物として含有されることがあるが、本発明においてはその量が0.8重量%未満であれば含まれていてもよい。この5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロンの含有量が0.8重量%以上になるとDNAの変異が発生するおそれがある。DNAの変異発生を完全に防止する上では、該5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロンの含有量は、0.5重量%以下が望ましい。」

a6 「【補正内容】
【0015】なお、各例で用いる成分の記号は次の化合物を意味する。
IT :2-メチル-3-イソチアゾロン(5-クロロ-2-メチル-3
-イソチアゾロン0.5重量%含有)
BNP :2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール
DBNPA:2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド
DBNE :2,2-ジブロモ-2-ニトロエチルアルコール
DEG :ジエチレングリコール」(6頁)

a7 「【補正内容】
【0016】実施例1,2、比較例1?4
表1に示す配合割合で各成分を配合し、有害微生物撲滅剤溶液を調製した。この有害微生物撲滅剤溶液について、下記の方法に従い、殺菌試験を行った。
(1)殺菌試験
[白水に対する殺菌効果]スライムトラブルの多発している某製紙会社の白水を用いて薬剤による殺菌試験を行った。実施例及び比較例の各有害微生物撲滅剤溶液を白水中に表2に示す薬剤濃度(DEG及び水以外の成分の合計量としての濃度)で添加し、15分間放置後、滅菌水にて希釈した。この液のlmlを加熱溶解したワックスマン寒天培地に混合、固化し、32℃で培養を行った。48時間後の生菌数を測定し、薬剤の殺菌効果を測定した。この結果を表2に示す。
[ラテックスに対する長期防腐効果]実施例及び比較例の各有害微生物撲滅剤溶液をラテックス中に表3に示す薬剤濃度で添加したものを35℃の恒温室中に放置した。そして、1日、7日、14日、21日後のラテックス中の生菌数を測定し、薬剤のもつ長期防腐効果を判定した。なお、薬剤のもつ長期防腐効果を明確にするため、7日、14日後の菌数測定後、腐敗菌を再接種し、効果を判定した。結果を表3に示す。
(2)エイムズ試験
表1に示す有害微生物撲滅剤溶液を用いてエイムズ試験を行い、DNAに変異が認められるかどうかについて試験を行った。この結果を表2に示す。」(6頁)

a8 「【0017】
【表1】

」(4頁)

a9 「【補正内容】
【0018】
【表2】

」(6頁)

a10 「【補正内容】
【0019】
【表3】

」(6?7頁)

ウ 刊行物Aに記載された発明
刊行物Aは、「特定の化合物の組合せによる相乗効果により、広範囲の抗菌スペクトルを有し、多くの微生物に対して良好な繁殖抑制効果を示すと共に、効果の持続性に優れ、かつ環境に対する影響の少ない有害微生物撲滅剤」(摘示a2)に関するものであって、具体的には、その特許請求の範囲に記載された、
「(A)2-メチル-3-イソチアゾロン、(B)2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール及び(C)2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミドを含有することを特徴とする有害微生物撲滅剤。」(摘示a1)、すなわち、MITとBNPと「2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド」の3つの成分を必須成分として含有する有害微生物撲滅剤について記載するものである。
そして、比較例1として、上記アでみたとおり、MITとBNP1とCMITとを含有する「DEG」50、「水」25の溶液組成物が記載されている。そして、その組成物は、無添加の場合に比して、特定濃度においてではあるが、ある程度の「有害微生物撲滅」効果を有することが認められる(摘示a7?a10)ことから、この組成物は有害微生物撲滅剤ということができる。また、MITとBNP1の重量比は、7.46(=7.5*0.995):17.5、すなわち概略1:2.3である。
そうすると、刊行物Aには、
「2-メチル-3-イソチアゾロン、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール及び5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロンであって、2-メチル-3-イソチアゾロンと2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールとを重量比で1:2.3の割合で含有する有害微生物撲滅剤。」
の発明(以下「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。

ウ 本件補正発明と引用発明Aとの対比
引用発明Aの「2-メチル-3-イソチアゾロン」、「2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール」は、本件補正発明の「2-メチル-3-イソチアゾロン」、「2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール」とそれぞれ同じ化合物(MIT、BNP)である。
そして、引用発明AのMIT、DNPの重量比1:2.3は、本件補正発明のそれらの重量比である「1:0.5ないし1:10の割合」に包含されるものである。
そうすると、本件補正発明と引用発明Aとは、
「(A)2-メチル-3-イソチアゾロンと(B)2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールとを重量比で1:0.5ないし1:10の割合で含有する有害微生物撲滅剤。」
の点で一致し、以下の点Aで相違するといえる。

A 本件補正発明は、「2-メチル-3-イソチアゾロン」及び「2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール」の2成分のみを有効成分とするものであるのに対して、引用発明Aは、さらに、5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロンを含有する点
(以下、「相違点A」という。)

エ 相違点についての判断
(ア)構成の容易想到性について
刊行物Aに、「5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロン」(CMIT)に関して、「好ましくない作用」(摘示a4)があること、及び、「本発明においてはその量が0.8重量%未満であれば含まれていてもよい。この5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロンの含有量が0.8重量%以上になるとDNAの変異が発生するおそれがある。DNAの変異発生を完全に防止する上では、該5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロンの含有量は、0.5重量%以下が望ましい。」(摘示a5)と記載されるとおり、有害生物撲滅剤においてCMITの低減が望まれることは、その出願前に知られていることである。
そうすると、引用発明AにおいてCMITの好ましくない作用を低減するため、CMITを可及的に低減して、「2-メチル-3-イソチアゾロン」及び「2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール」の2成分のみを有効成分とするものとすること、すなわち、引用発明1において相違点Aに係る本件補正発明の構成とすること、は当業者が容易になし得ることであると認められる。

(イ)効果の予測性について
本件補正発明の効果は、<進歩性1>の項において述べたとおりである。
そして、その出願前知られた刊行物1等に、MIT及び/又はCMITは、「式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコールであって実施例において具体的に使用された上記化合物との組合せた殺菌剤」に用いたとき、いずれも同レベルの効果を示すことが示されているのであるから、これら2成分からなる有害微生物撲滅剤において、「MIT及びCMIT」、「MIT」いずれを用いた有害微生物撲滅剤であっても、同レベルの効果を示すことは、当業者の予測し得る範囲内のことである。
よって、本件補正発明の効果は、当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別の顕著なものと認めることはできない。

オ <進歩性2>のまとめ
そうすると、本件補正発明は、その出願前頒布された刊行物Aに記載された発明及び刊行物1に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3)補正の適否のまとめ
以上によれば、本件補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

3 むすび
以上のとおり、請求項1についての補正は平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないから、その余について検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたから、本件出願に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の【請求項1】に記載された事項により特定される、
「(A)2-メチル-3-イソチアゾロンと(B)2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールとを(A)成分と(B)成分が重量比で1:0.5ないし1:10の割合で含有することを特徴とする有害微生物撲滅剤。」である(以下、「本願発明」という。)。

第4 原査定の理由の概要
原査定は、「この出願については、平成21年10月30日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-3によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、そのうちの「理由2」は、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。
その理由2における「下記の請求項」とは、「請求項:1」であり、「下記の刊行物」とは、「引用文献1」又は「引用文献2」である。その引用文献1は、「1.特開昭53-118527号公報」であり、前記第2の2(2)の項における刊行物1と同じものである(以下、同様に「刊行物1」という。)。

第5 当審の判断
当審は、本願発明は、原査定のとおり、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。

1 刊行物1に記載された事項・刊行物1に記載された発明
刊行物1に記載された事項は、前記第2の2<進歩性1>の項アに記載したとおりであり、刊行物1に記載された発明は、同項イに記載したとおりのもの(以下、同様に「引用発明1」という。)である。

2 対比・相違点についての判断
本願発明は、本件補正発明における「(A)成分と(B)成分の2成分のみを有効成分とする」との限定がないものに相当することは、前記第2の2(1)の項で示したとおりである。
そして、本願発明と引用発明1とを、本件補正発明と引用発明1とを対比したときと同様に対比したとき、両者の一致点は、
「(A)式Iのイソチアゾロン誘導体成分と(B)式IIのハロゲン化脂肪族ニトロアルコール成分とを含有する有害微生物撲滅剤。」
となり、相違点は、以下の1’のとおりとなると認められる。

1’ 本願発明は、「2-メチル-3-イソチアゾロン」及び「2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール」という組合せに特定されるものであって、それらの重量比が1:0.5ないし1:10と特定される範囲のものであるのに対して、引用発明1は、上記の組合せに特定されてはいないものであり、それらの重量比も1:10?10:1の割合で、本願発明の割合を含む、より広範囲のものである点
(以下、「相違点1’」という。)

この相違点1’は、実質的に本件補正発明と引用発明1との相違点1と同じである。
そうすると、相違点1’についても、前記第2の2(2)<進歩性1>の項エに記載した判断と同様の判断ができる。

3 まとめ
したがって、本願発明は、その出願前頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は特許を受けることができないものであるから、この出願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-09 
結審通知日 2013-01-11 
審決日 2013-01-23 
出願番号 特願2005-310477(P2005-310477)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01N)
P 1 8・ 575- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 周一郎  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 木村 敏康
東 裕子
発明の名称 有害微生物撲滅剤  
代理人 本多 一郎  

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