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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q |
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管理番号 | 1270831 |
審判番号 | 不服2011-11152 |
総通号数 | 160 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-05-26 |
確定日 | 2013-03-07 |
事件の表示 | 特願2005-239478「長期固定価格販売処理システム及び長期固定価格販売処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月 8日出願公開,特開2007- 58271〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は平成17年8月22日の出願であって,平成22年9月29日付けの拒絶理由の通知に対し,同年12月2日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが,平成23年2月21日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年5月26日付けで審判請求がなされるとともに手続補正がなされ,同年12月5日付けで審尋がなされ,これに対して平成24年1月23日に回答書が提出され,同年7月13日付けで拒絶理由が通知され,これに対し,同年9月11日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。 2 本願発明について (1)本願発明 本願の請求項1ないし6に係る発明は,平成24年9月11日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,補正された明細書及び図面の記載からみて,その請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。 「販売元とヘッジ先との間で締結された長期間に亘る先物取引に基づいて需要家に対して長期間固定価格で価格変動の大きい製品を販売する長期固定価格販売処理システムであって, 前記販売元のサーバには, 前記ヘッジ先との先物取引に関わる成約ヘッジ情報を登録し,更に当該ヘッジ情報に基づき前記需要家毎の予想販売数量を含む成約情報を登録する成約ヘッジ明細マスタと, 前記需要家毎の前記製品の販売実績を管理する月次売上実績管理テーブルと, 前記需要家毎の所定期間毎の予想販売数量と実績販売数量との差に対して,予め定められた特別精算ルールに基づく精算を実行するためのヘッジ精算管理テーブルと, 前記需要家毎に所定期間毎の前記成約ヘッジ明細マスタに登録された前記成約ヘッジ情報に基づく前記製品の前記予想販売数量と前記月次売上実績管理テーブルに登録された月々の前記製品の前記実績販売数量とに差が生じた際に,その差の部分に対して,該差による前記販売元の採算リスクを前記需要家に負担させるべく,前記ヘッジ精算管理テーブルに登録された前記製品の市況を組み入れた特別精算ルールに基づき,精算額を計算する特別精算額計算手段と, を備え, 前記特別精算ルールには,前記予想販売数量と実績販売数量との過不足発生許容数量が含まれることを特徴とする長期固定価格販売処理システム。」 (2)平成24年7月13日付けの拒絶理由の概要 当審において平成24年7月13日付けで通知した拒絶理由の内,理由「A」の概要は,本願発明は,本願の出願日前に頒布された,特開2005-4609号公報(以下,「引用例1」という。以下同様。),特開2005-157692号公報(引用例2),及び特開2002-15036号公報(引用例3)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 (3)引用例 ア 引用例1 (ア)当審における拒絶の理由に引用された引用例1(特開2005-4609号公報)には次の記載がある。 ・「【請求項1】 通信回線を介して接続された石油製品販売元のサーバと顧客端末との間で,石油製品の長期固定価格販売を実現する石油製品の長期固定価格販売システムにおいて, 前記サーバには, 前記石油製品の長期固定価格販売システムの包括契約を締結した顧客に対して,ID及びパスワードを発行すると共に,顧客のデータベースを作製・管理する手段と, 市況に応じて石油製品毎の期間及び数量に対応した長期固定価格を演算して前記顧客端末に送信する手段とを備え, 前記顧客端末には, 前記サーバに対して,希望する石油製品の期間,数量及び固定価格でオーダーを送信する手段を備える, ことを特徴とする石油製品の長期固定価格販売システム」 【請求項2】 通信回線を介して接続された顧客端末からのオーダーに応じて,サーバにおいて演算された市況に応じた石油製品の長期固定価格で契約を締結することを特徴とする石油製品の長期固定価格販売方法。 【請求項3】 ・・・ 【請求項4】 顧客との間の正式契約は,先物トレーダーとの間の先物契約成立を条件とすることを特徴とする請求項3に記載の石油製品の長期固定価格販売方法。」 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,市況製品であり販売価格が大きく変動する石油製品の販売において,投資採算・事業採算の変動を避けたいという法人需要家(顧客)のニーズを満たすことのできる,契約期間及び販売数量に応じて設定される長期固定価格で契約して販売する長期固定価格販売システム及び販売方法に関する。」 ・「【0002】 【従来の技術】 従来の石油製品の販売では,石油製品が市況製品であり販売価格が大きく変動するものであるため,顧客への販売価格は市況に応じて大きく変動しているため,顧客には投資採算・事業採算の変動を避けたいという潜在的なニーズが存在していたが,そのようなニーズに合った3?10年という長期間に亘って固定価格での販売をする石油製品の販売システムは存在しなかった。」 ・「【0006】 本発明の課題(目的)は,顧客の投資採算・事業採算の変動を避けたいというニーズに合った3?10年という長期間に亘って固定価格(一定期間一定数量を事前取決の固定価格)での販売をする石油製品の長期固定価格販売システム及び販売方法を提供することにある。」 ・「【0007】 【課題を解決するための手段】 前記課題を解決するために,通信回線を介して接続された石油製品販売元のサーバと顧客端末との間で,石油製品の長期固定価格販売を実現する石油製品の長期固定価格販売システムにおいて, 前記サーバには,前記石油製品の長期固定価格販売システムの包括契約を締結した顧客に対して,ID及びパスワードを発行すると共に,顧客のデータベースを作製・管理する手段と,市況に応じて石油製品毎の期間及び数量に対応した長期固定価格を演算して前記顧客端末に送信する手段とを備え, 前記顧客端末には,前記サーバに対して,希望する石油製品の期間,数量及び固定価格でオーダーを送信する手段を備える。(請求項1)」 ・「【0009】 また,通信回線を介して接続された顧客端末からのオーダーに応じて,サーバにおいて演算された市況に応じた石油製品の長期固定価格で契約を締結することを特徴とする。(請求項2)」 ・「【0012】 また,顧客との間の正式契約は,先物トレーダーとの間の先物契約成立を条件とする。(請求項4)・・・」 ・「【0013】 【発明の実施の形態】 先ず,図1を用いて本発明の石油製品の長期固定価格販売システム(販売方法)のハードウエア構成の説明を行う。 図1において,1-1?1-nは顧客端末であって,通信回線2を介して本発明の石油製品の長期固定価格販売システムを運営する石油製品販売元のサーバ(ホストコンピュータ)3に接続されている。 ここで,顧客とは,石油製品を3?10年の長期間に亘って固定価格で購入するような法人需要家を意図している。 また,通信回線としては,有線,無線及び光等の伝送形態の通信網を意味し,インターネットを含む回線である。 また,サーバは,本発明の石油製品の長期固定価格販売システムを運営する石油製品販売会社に設置されているコンピュータであって,データベース及び個別の石油製品毎の期間,数量に応じた固定価格を計算するための長期固定価格演算手段を備えている。・・・」 ・「【0016】 ・ステップS1の説明資料の内容を理解した顧客は,包括契約の締結を行う。(ステップS2)・・・ 【0017】 ・ステップS2で包括契約の締結がなされると,サーバでは顧客毎に包括契約番号,アクセスIDを発行してアクセス権を付与する。(ステップS3) このアクセス権の付与と共に,データベースに登録して以後のデータを蓄積する。・・・ 【0018】 ・ステップS4での固定参考価格の提示を受けた顧客は,提示された固定参考価格を基にして,石油製品種類,期間,数量及び固定希望価格を指定して顧客端末からサーバにオーダーを送信する。(ステップS5) ・ステップS5での顧客からのオーダを受信したサーバでは,顧客のオーダーに対応した石油製品の種類,期間,数量及び市況に応じた長期固定価格の演算を行い,顧客の希望する長期固定価格でのオーダーの受諾の可否を判断して,先物トレーダーとの先物契約成立を経て,判断結果を顧客に提示する。(ステップS6)・・・ ・ステップS6でオーダーの受諾の返答を受けた顧客は,石油製品販売元が受諾した長期固定価格での石油製品の購入に関して契約の手続きを行う。(ステップS7)」 ・「【0022】 ステップS5での顧客からのオーダーを受けた石油製品販売会社では,顧客からの指値レベルに応じて先物買いを実施する価格(原油ターゲット価格)を決定して,各先物トレーダーと原油ターゲット価格で交渉する。 この交渉によって,指値オーダー有効期間内に必要な数量を必要な価格で必要な期間で成約できた場合(先物契約成立)には,顧客に成約できた旨の通知をして,包括契約書に基づいて,個別契約を締結する。・・・」 (イ)上記記載から,引用例1には次の技術的事項が記載されている。 a 引用例1に記載された技術は,市況製品であり販売価格が大きく変動する石油製品の販売において,投資採算・事業採算の変動を避けたいという法人需要家(顧客)のニーズを満たすことのできる,契約期間及び販売数量に応じて設定される長期固定価格で契約して販売する長期固定価格販売システムに関するものである(【請求項1】,【0001】)。 b 石油製品販売元のサーバは,顧客のデータベースを作製・管理するデータベースを備え,顧客が石油製品販売元である石油製品販売会社と包括契約の締結を行うと,顧客にアクセス権を付与するとともに顧客をデータベースに登録して,以後のデータを蓄積するものである(【請求項1】,【0007】,【0013】,【0017】)。また,前記サーバは,個別の石油製品毎の期間,数量に応じた固定価格を計算するための長期固定価格演算手段を備えている(【請求項1】,【0007】,【0013】)。 したがって,石油製品販売元のサーバは,「顧客をデータベースに登録し,以後のデータを蓄積するデータベース,及び個別の石油製品毎の期間,数量に応じた固定価格を計算するための長期固定価格演算手段」を備えるということができる。 c 石油製品を3?10年の長期間にわたって固定価格で購入しようとする法人需要家である顧客は(【0013】),石油製品販売会社と包括契約の締結を行い(【0016】),包括契約の締結がなされると,サーバは,顧客毎にアクセス権を付与するとともに,データベースに登録し,以後のデータを蓄積する(【0017】)。 その後顧客は,石油製品販売元のサーバから提示された固定参考価格を基に,顧客端末から石油製品種類,期間,数量及び固定希望価格を指定してサーバにオーダーを送信し,一方,顧客からのオーダを受信したサーバは,石油製品の種類,期間,数量及び市況に応じた長期固定価格の演算を行い,顧客の希望する長期固定価格でのオーダーの受諾の可否を判断する(【0018】)。このとき,顧客からのオーダーを受けた石油製品販売会社では,顧客からのオーダーに応じて先物買いを実施する価格(原油ターゲット価格)を決定して先物トレーダーと交渉し,先物トレーダーとの先物契約が成立すれば,顧客にオーダーを受諾する旨通知をする(【請求項4】,【0012】,【0018】,【0022】)。 そして,オーダー受諾の返答を受けた顧客は,サーバにおいて,石油製品販売元が受諾した長期固定価格での石油製品の購入に関して契約の手続きを行い,個別契約を締結する(【請求項4】,【0018】,【0022】)。 したがって,引用例1に記載された長期固定価格販売システムは,「石油製品を長期間にわたって固定価格で購入しようとする顧客の端末から石油製品種類,期間,数量及び固定希望価格を指定したオーダーを受信すると,石油製品の種類,期間,数量及び市況に応じた長期固定価格の演算を行い,顧客が希望する長期固定価格でのオーダーの受諾の可否を判断し,顧客が希望する長期固定価格に応じた先物買いを実施する価格(原油ターゲット価格)で先物トレーダーとの間で先物契約が成立すれば,顧客にオーダーを受諾する旨通知し,顧客との間で,長期固定価格での石油製品の購入に関する契約を締結する」システムということができる。 d 引用例に記載された長期固定価格販売システムは,上記のとおり,石油製品販売元である石油製品販売会社と顧客との間で長期固定価格販売に係る契約を締結するとともに,先物トレーダーとの間で先物契約を締結することを前提としているから,「石油製品販売元と先物トレーダーとの間で締結された先物契約成立を条件として顧客に対して長期間固定価格で,市況製品であり販売価格が大きく変動する石油製品を販売する長期固定価格販売処理システム」ということができる。 (ウ)以上のことから,引用例1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「石油製品販売元と先物トレーダーとの間で締結された先物契約成立を条件として顧客に対して長期間固定価格で,市況製品であり販売価格が大きく変動する石油製品を販売する長期固定価格販売処理システムであって, 石油製品販売元のサーバは, 顧客をデータベースに登録し,以後のデータを蓄積するデータベース,及び個別の石油製品毎の期間,数量に応じた固定価格を計算するための長期固定価格演算手段を備え, 石油製品を長期間にわたって固定価格で購入しようとする顧客の端末から石油製品種類,期間,数量及び固定希望価格を指定したオーダーを受信すると,石油製品の種類,期間,数量及び市況に応じた長期固定価格の演算を行い,顧客が希望する長期固定価格でのオーダーの受諾の可否を判断し,顧客が希望する長期固定価格に応じた先物買いを実施する価格(原油ターゲット価格)で先物トレーダーとの間で先物契約が成立すれば,顧客にオーダーを受諾する旨通知し,顧客との間で長期固定価格での石油製品の購入に関する契約を締結する, 長期固定価格販売処理システム。」 イ 引用例2 (ア)同じく当審における拒絶の理由に引用された引用例2(特開2005-157692号公報)には次の記載がある。 ・「【0001】 本発明は,電力の供給者及び需要者が応札する電力市場を創設し,この電力市場における取引を規定した電力市場の取引方法に関する。」 ・「【0002】 電力の使用量は,時々刻々変化し,その価値は需給バランスによって決定される。・・・」 ・「【0008】 本発明に係る電力市場の取引方法は,常時開設された電力市場における所定時間毎の電力の売買を常時更新する電力市場の取引方法であって,取引所のコンピュータと,電力供給者のコンピュータと,電力需要者のコンピュータとを通信回線を介して接続し,前記電力供給者のコンピュータから将来の電力を販売する売り注文と将来の電力を購入する買い注文の入札信号が前記通信回線を介して前記取引所のコンピュータに入力され,前記電力需要者による将来の特定の時点における電力を購入する買い注文と将来の電力を販売する売り注文の入札信号が前記通信回線を介して前記取引所のコンピュータに入力され,前記取引所のコンピュータにおいて将来の特定の時点における前記所定時間毎の電力の売買を特定の電力供給者及び電力需要者に落札可能か否かを随時入力順に決定し,前記特定時点における電力の売買が特定の電力供給者及び電力需要者に落札された場合に,前記特定時点の経過後,前記取引所のコンピュータにおいて,売買代金の決済が行われることを特徴とする。」 ・「【0031】 また,電力需要者が落札した電力(将来の特定時点の電力)をその特定時点で使用しなかった場合は,前記特定時点における電力販売価格と落札価格との差額を,電力需要者が電力供給者に支払うこととする。即ち,電力需要者がその特定時点における電力を落札していなければ,販売できたであろう金額(即ち,特定時点における電力販売価格)と,落札金額との差額を,ペナルティとして電力供給者に支払うこととすることが公平である。」 (イ)上記記載から,引用例2には,「その価値が需給バランスによって決定される電力を売買する電力市場の取引において,将来の特定時点における電力の売買が特定の電力供給者及び電力需要者に落札された場合において,電力の需要者が,将来の特定時点の電力をその特定時点で使用しなかった場合は,特定時点における電力販売価格と落札価格との差額を電力需要者が電力供給者に支払う,電力市場の取引方法。」の発明が記載されているということができる。 (4)対比 ア 本願発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明は「石油製品販売元と先物トレーダーとの間で締結された先物契約成立を条件として顧客に対して長期間固定価格で,市況製品であり販売価格が大きく変動する石油製品を販売する長期固定価格販売処理システム」に係る発明であり,「石油製品販売元」,「先物トレーダー」は,それぞれ本願発明の「販売元」,「ヘッジ先」に相当するから,本願発明と引用発明とは,「販売元とヘッジ先との間で締結された先物取引に基づいて需要家に対して長期間固定価格で価格変動の大きい製品を販売する長期固定価格販売処理システム」である点で一致する。 (イ)引用発明における「石油製品販売元のサーバ」は,「販売元のサーバ」に相当する。 (ウ)引用発明のサーバは,「顧客をデータベースに登録し,以後のデータを蓄積するデータベース」を備え,「石油製品を長期間にわたって固定価格で購入しようとする顧客の端末から石油製品種類,期間,数量及び固定希望価格を指定したオーダーを受信すると,石油製品の種類,期間,数量及び市況に応じた長期固定価格の演算を行い,顧客が希望する長期固定価格でのオーダーの受諾の可否を判断し,顧客が希望する長期固定価格に応じた先物買いを実施する価格(原油ターゲット価格)で先物トレーダーとの間で先物契約が成立すれば,顧客にオーダーを受諾する旨通知し,顧客との間で長期固定価格での石油製品の購入に関する契約を締結する」ものであり,「長期固定価格販売処理システム」である以上,「データベース」には,少なくとも,顧客のオーダーに含まれる「石油製品種類,期間,数量及び固定希望価格を指定したオーダー」と「長期固定価格での石油製品の購入に関する契約」に係る,例えば,石油製品の種類,期間,数量及び長期固定価格の情報,及び「実績販売数量」あるいは「販売実績」に係る情報が含まれ,また,サーバーが,「需要家毎の前記製品の販売実績を管理する手段」を備えることは,商取引における常識からして自明というべきである。 また,顧客との契約に含まれる「長期固定価格」は,「石油製品の種類,期間,数量及び市況に応じた」ものであって,先物トレーダーとの間で締結された先物契約成立を条件としたものであるから,「ヘッジ情報」に基づくものということができる。 そうすると,引用発明において,顧客との契約に含まれる「数量」は,「成約ヘッジ情報に基づく製品の予想販売数量」にほかならず,サーバは,顧客を登録すれば,以後のデータをデータベースに蓄積するものである以上,「ヘッジ情報に基づき需要家毎の予想販売数量を含む成約情報を登録する手段」を,当然,備えるということができる。 イ 以上のことから,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 【一致点】 「販売元とヘッジ先との間で締結された先物取引に基づいて需要家に対して長期間固定価格で価格変動の大きい製品を販売する長期固定価格販売処理システムであって, 前記販売元のサーバは, ヘッジ情報に基づき前記需要家毎の予想販売数量を含む成約情報を登録する手段と, 需要家毎の製品の販売実績を管理する手段と を備える, 長期固定価格販売処理システム。」 【相違点1】 販売元とヘッジ先との間で締結された「先物取引」が,本願発明は,「長期間にわたる先物取引」であるのに対し,引用発明は,この点が明らかでない点。 【相違点2】 「ヘッジ情報に基づき前記需要家毎の予想販売数量を含む成約情報を登録する手段」が,本願発明は,「ヘッジ先との先物取引に関わる成約ヘッジ情報を登録し,更に当該ヘッジ情報に基づき需要家毎の予想販売数量を含む成約情報を登録する成約ヘッジ明細マスタ」であるのに対し,引用発明は,成約ヘッジ情報に基づく製品の予想販売数量を含む情報を登録するものの,ヘッジ先との先物取引に関わる成約ヘッジ情報が登録されているか,明らかでない点。 【相違点3】 「需要家毎の製品の販売実績を管理する手段」が,本願発明は,「月次売上実績管理テーブル」であるのに対し,引用発明は,当該構成が特定されていない点。 【相違点4】 本願発明は,「需要家毎の所定期間毎の予想販売数量と実績販売数量との差に対して,予め定められた特別精算ルールに基づく精算を実行するためのヘッジ精算管理テーブルと,需要家毎に所定期間毎の成約ヘッジ明細マスタに登録された成約ヘッジ情報に基づく製品の予想販売数量と需要家毎の製品の販売実績を管理する手段に登録された所定期間毎の製品の実績販売数量とに差が生じた際に,その差の部分に対して,該差による販売元の採算リスクを需要家に負担させるべく,ヘッジ精算管理テーブルに登録された製品の市況を組み入れた特別精算ルールに基づき,精算額を計算する特別精算額計算手段」を備え,「特別別精算ルールには,予想販売数量と実績販売数量との過不足発生許容数量が含まれる」のに対し,引用発明は,当該構成が特定されていない点。 (5)判断 ア 相違点1について 引用発明は,石油製品販売元と先物トレーダーとの間で締結された先物契約成立を条件として顧客に対して長期間固定価格で石油製品を販売するものであり,先物トレーダーとの間の先物契約も長期間にわたる先物取引に係る契約であることは自明である。 相違点1は,実質的な相違点ではない。 イ 相違点2について 商取引一般において,顧客等と締結した契約内容を保存・記録することは常識である。 引用発明は,顧客が希望する長期固定価格に応じた先物買いを実施する価格で先物トレーダーと交渉し,先物契約が成立したことを条件に,顧客との間で長期固定価格での石油製品の購入に関する契約を締結するものであり,石油製品販売元のサーバは,登録された顧客に関連する,登録以後のデータをデータベースに登録するものである以上,顧客と契約の前提である,石油製品販売元と先物トレーダーとの間で締結された先物契約の内容,すなわち,「ヘッジ先との先物取引に関わる成約ヘッジ情報」についても,登録することは,当業者であれば当然に考えることである。 また,これらの情報を登録する手段を「成約ヘッジ明細マスタ」と呼称することは,任意である。 引用発明において,「ヘッジ情報に基づき前記需要家毎の予想販売数量を含む成約情報を登録する手段」を,「ヘッジ先との先物取引に関わる成約ヘッジ情報」についても登録する「成約ヘッジ明細マスタ」とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。 ウ 相違点3について 需要家毎の製品の販売実績を管理する単位期間は,当業者が適宜設定できる設計事項であり,引用発明において,需要家毎の製品の販売実績を「月」単位で管理する構成とした点に格別の意義は認められない。また,所定期間ごとの販売実績を「テーブル」で管理することは,ありふれた手法である。 これらのことから,引用発明において,「需要家毎の製品の販売実績を管理する手段」を「月次売上実績管理テーブル」とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。 エ 相違点4について (ア)引用発明において,石油製品販売元と顧客との間で締結される契約は,顧客が,所定種類の石油製品を,所定期間,所定数量購入することを条件に,石油製品販売元が,長期間にわたり固定価格(長期固定価格)で販売することを約束するものであり,前記条件が履行されなければ,すなわち将来の特定期間において前記所定数量の石油製品が購入されなければ,当該期間において本来支払われるはずであった価格と,実際に購入した数量の石油製品に対して支払われる価格との差は,石油製品販売元にとっては採算リスクとなることは,商取引における常識である。 (イ)一方,引用例2には,前記(3)イのとおり,「その価値が需給バランスによって決定される電力を売買する電力市場の取引において,将来の特定時点における電力の売買が特定の電力供給者及び電力需要者に落札された場合において,電力の需要者が,将来の特定時点の電力をその特定時点で使用しなかった場合は,特定時点における電力販売価格と落札価格との差額を電力需要者が電力供給者に支払う,電力市場の取引方法。」が記載されている。 当該取引方法は,電力需要者が,将来の特定時点において所定量の電力を使用することを条件に,特定の電力供給者が,将来の特定時点における電力を落札価格で販売する,すなわち,石油製品と同様に市況によって価格が変動する商品である「電力」を,将来の特定時点において固定価格で販売する契約を前提としたものであり,将来の特定時点において条件どおり前記所定量の電力が使用されなければ,特定の電力供給者にとっては採算リスクとなることから,その契約における取決めとして,特定時点における電力販売価格と落札価格との差額を電力需要者が電力供給者に支払うこと,すなわち,前記採算リスクを電力需要家に負担させるためのルール,いわゆるペナルティーを定めたものである。 (ウ)引用発明と引用例2に記載された発明は,いずれも,市況によって価格が変動する商品について,将来において,所定量の商品を所定の価格で売買する契約に係る発明であり,将来において条件どおり商品を販売できなければ,契約した価格と実際に販売した商品の価格との差は,商品販売元にとって,市況によって変動する採算リスクとなる点で共通する。 そうすると,引用発明においても,石油製品販売元にとって,顧客との契約において,顧客が条件を履行しない場合に採算リスクを顧客に負担させるためのルールを定める動機が存在することは自明であり,引用発明において,引用例2に記載された発明を適用し,その契約において,将来の特定期間において予想販売数量と実績販売数量とに差が生じた際に,その差の部分に対して該差による石油製品販売元の採算リスクを顧客に負担させる,製品の市況を組み入れたルールを定めることは,当業者であれば容易に想到し得たことであり,当該ルールに基づいて精算するために,テーブル等の周知の手段により特定期間における予想販売数量と月々の実績販売数量を管理するとともに,製品の市況を組み入れたルールを登録し,精算額を計算する構成とすることは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。 なお,ルール,テーブル等の手段,計算手段を「特別精算ルール」,「ヘッジ精算管理テーブル」,「特別精算額計算手段」と呼称することは,任意である。 (エ)ここで,前記ルールは,石油製品販売元と顧客との間の契約上の取決めであり,例えば,当審における拒絶の理由に引用された引用例3に,「契約電力量と上記消費電力量との電力差を求め,この電力差に応じて上記契約電力量の価格設定または違約処理をする」(引用例3,段落【0009】)ものにおいて,「契約期間の間に,契約電力量と消費電力量との差の絶対値からなる電力差が許容範囲を越えた場合には,違約処理をしてもよい。」(同段落【0012】)と記載されているように,ペナルティーに許容範囲を設けることが公知であったことからしても,前記ルールに「予想販売数量と実績販売数量との過不足発生許容数量」を含ませることは,契約にあたり任意に付加し得る設計事項というべきである。 (オ)よって,引用発明において,相違点4に係る構成とすることは,引用例2,3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。 ウ そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用例2,3に記載された発明から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。 したがって,本願発明は,引用発明及び引用例2,3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 3 むすび 以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-12-26 |
結審通知日 | 2013-01-08 |
審決日 | 2013-01-21 |
出願番号 | 特願2005-239478(P2005-239478) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G06Q)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中内 大介、相澤 聡、岡北 有平 |
特許庁審判長 |
西山 昇 |
特許庁審判官 |
金子 幸一 手島 聖治 |
発明の名称 | 長期固定価格販売処理システム及び長期固定価格販売処理方法 |
代理人 | 内藤 照雄 |
代理人 | 特許業務法人 信栄特許事務所 |