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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01R
管理番号 1270852
審判番号 不服2012-3929  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-29 
確定日 2013-03-07 
事件の表示 特願2006-239638号「圧着端子及び当該圧着端子を備えたガスセンサ及び前記圧着端子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月12日出願公開、特開2007-180009号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成18年9月4日の出願(優先権主張、平成17年12月2日)であって、平成23年11月17日付けで拒絶査定がなされ(発送:11月29日)、これに対し、平成24年2月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものであり、さらに、平成24年9月21日付けで当審において拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され(発送:9月25日)、これに対して、平成24年11月23日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。


2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年11月23日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、次のとおりのものである。

「【請求項1】
他部材と電気的に接続する接続部と、
リード線の芯線を内包して、該リード線と電気的に接続するための固定部と、
を有し、
前記固定部は、前記リード線の芯線に向かって先端側を曲折することにより、前記芯線を固定するための一対の側部と、該一対の側部の基端側を連結する底部と、を有する圧着端子において、
前記固定部は、350HV以上のビッカース硬度を有し、
前記一対の側部は、外表面のうち少なくとも前記先端側にAg又はAuを主成分とする金属層が備えられ、
前記固定部の内表面は前記芯線と直接当接可能な構成をなしていることを特徴とする圧着端子。」

3.刊行物とその記載事項
(1)当審拒絶理由において引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2000-208231号公報(以下「刊行物1」という。)には、図1?8と共に、次の記載がある。

ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車、産業機器などの電気配線等に用いられる嵌合型接続端子の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、一般に、自動車、産業機器などの電気配線において電線同士の接続に用いられる嵌合型接続端子には、錫めっきが施されてきた。これは、端子の接続時に、錫めっきの表面酸化皮膜を摩擦によって破壊し、新鮮な錫を凝着させることにより、低い接触抵抗を安定して得ることを目的としたものである。
【0003】また、自動車のABS(アンチロックブレーキシステム)やエアバックなど、特に重要な信号回路に用いられる電気配線には、接続端子に金めっきを施して使用していた。」(段落【0001】?【0003】)

イ.「【0009】なお、接続端子に金めっきを使用すれば、低い接点圧力でも低い接触抵抗が安定して得られるため、端子の挿入力を低くすることができ、コネクタを多極化してもその接続に要する力が著しく上昇することはないが、金めっきは錫めっきに比較して数倍?数十倍のコストを要するため、特に多極化したコネクタには適しない。」(段落【0009】)

ウ.「【0013】また、端子の小型化の進展に伴い、コネクタを回路基板に直接接続する必要が生じており、端子の基板側端部にはんだ付け性が要求されている。はんだ付け部分の錫めっき厚さを増大させることにより、はんだ付け性の長期的信頼性を向上させることができるとされており、この場合も上記同様、プレス用条材の一部分のみに厚めっきを行うようにすれば良い。
【0014】プレス用条材の一部分のみに厚めっきを行うためには、ストライプめっきに適した手法、例えば、マスクめっきや液面制御めっきが採用される。ところが、これらの手法は、1回の工程によって端子1列分のめっきしか行うことができないため、めっきコストが著しく上昇することとなる。【0015】めっき装置を工夫することにより、複数のプレス用条材に一括してストライプめっきを行うこともできるが、接続端子は量産されるものであることを考慮すると、より簡単にかつ低コストにてめっきを行う方が好ましい。」(段落【0013】?【0015】)

エ.「【0024】条材1の表面にはニッケルの下地めっき層2が形成され、さらにその上に錫めっき層3が形成されている。ここで、条材1の一方の面には比較的厚い錫めっき層3aが形成され、その裏側の面にはそれよりも薄い錫めっき層3bが形成されている。錫めっき層3aの厚さは0.5μm以上3.0μm以下であり、錫めっき層3bの厚さは0μmよりも大きく0.5μm以下である。このように、条材1の両面に異なる厚さの錫めっき層を形成する意義についてはさらに後述する。」(段落【0024】)

オ.「【0027】<3.曲げ加工工程>次に、打ち抜かれた型材5の曲げ加工を行う。このときに、雌端子との嵌合部分となるタブ12については矢印A1にて示す向きに曲げ、電線との圧着部分となるワイヤバレル11については矢印A2にて示す向きに曲げる。すなわち、タブ12およびワイヤバレル11は相互に逆向きに曲げられることとなり、タブ12については薄い錫めっき層3bを外側にして曲げ加工を行い、ワイヤバレル11については厚い錫めっき層3aを外側にして曲げ加工を行う。
【0028】図4は、型材5の曲げ加工によって成形された雄端子10を示す側面図である。曲げ加工により、雄端子10には雌端子との嵌合部分であるタブ12および電線との圧着部分であるワイヤバレル11が形成されている。
【0029】図5は、雄端子10のタブ12のV1-V1線断面図である。また、図6は、雄端子10のワイヤバレル11のV2-V2線断面図である。図5に示すように、曲げ加工により、母材7の上に形成された薄い錫めっき層3bがタブ12の表面となっている。そして、厚い錫めっき層3aは母材7に包み込まれ、タブ12の内側に位置している。なお、母材7とは、条材1の銅または銅合金およびニッケルの下地めっきにより構成される端子母材を意味する。
【0030】一方、図6に示すように、ワイヤバレル11の外側表面には母材7上の厚い錫めっき層3aが位置し、内側表面には薄い錫めっき層3bが位置している。
【0031】<4.端子の接続>以上のようにして、雄端子10が製造されるのであるが、嵌合型接続端子は雄端子10および雌端子20の一対をもって構成されている。図7は、そのような嵌合型接続端子を示す側面図である。上述の如く、雄端子10は、電線との圧着部分であるワイヤバレル11と、雌端子20との嵌合部分であるタブ12とを形成している。」(段落【0027】?【0031】)

カ.「【0039】一方、電線との圧着特性については、電線との圧着部分、すなわち雄端子10のワイヤバレル11の外側表面の錫めっき厚さが厚いほど良好である。これは、以下のような理由による。すなわち、圧着工程においては、ワイヤバレル11は変形を受けつつその外面が圧着用の金型に対して摺動することになる。このときに、摩擦にともなう金型の損傷を回避すべく、ワイヤバレル11の外側の面と金型との間に潤滑作用を有する物質が必要となる。
【0040】一般に、潤滑作用を有する物質としては、例えば潤滑油などが利用されているが、ワイヤバレル11は電線との間で電気的接触を得る部分であるため、油を使用することは好ましくない。
【0041】本発明にかかる製造方法によって製造された雄端子10のように、ワイヤバレル11の外側表面に厚い錫めっき層3aを形成していると、錫は軟らかいため、圧着工程において、錫めっき層3aがワイヤバレル11の外面と金型との間に薄く延び、錫が金属の固体潤滑剤としての役割を果たすこととなる。これにより、硬い銅または銅合金によって金型が磨耗されることはなくなり、その寿命を縮める懸念がなくなるのである。
【0042】また、ワイヤバレル11の曲げ加工にともなって、ワイヤバレル11の外面の錫めっき層に割れが生じることもあるが、錫めっき層3aでは軟らかい錫層が厚いため、き裂が伝播して、母材表面に達することはない。その結果、母材の露出にともなう耐食性の低下や母材自身に割れが伝播するおそれもない。
【0043】このような錫の効果を得るためには、錫めっき層3aの厚さを0.5μm以上にする必要があるが、当該厚さを3.0μmより厚くすると製造コストの上昇などを招くため、錫めっき層3aの厚さは0.5μm以上3.0μm以下にする必要がある。なお、良好な圧着特性と製造コスト低減の両立を図る観点からは、錫めっき層3aの厚さを1.0μm以上2.0μm以下とするのがより好ましい。
【0044】ところで、ワイヤバレル11の内面には薄い錫めっき層3bが形成されている。ワイヤバレル11の内面は、電線との圧着による接触抵抗を低くできればよく、このためには薄い錫めっき層3bの厚さであっても十分である。」(段落【0039】?【0044】)

キ.「【0055】以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明は上記の例に限定されるものではなく、例えば、条材1の材質材として、銅または銅合金以外にも、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄合金、ステンレス鋼、ニッケル合金など錫めっきよりも硬度の大きい金属材料を使用することができる。」(段落【0055】)

ク.
・図3、4、7に図示された雄端子10におけるワイヤバレル11のタブ12と反対側端部(以下「電線側端部」という。)に位置する部分は、その形状からみて、一般的にワイヤバレルと共に用いられているインシュレーションバレルといえる。
・そして、図示のような、ワイヤバレルとインシュレーションバレルを有する雄端子においては、インシュレーションバレルが電線の絶縁被覆を、またワイヤバレルが電線の芯線を内部に包み込んで固定するものである。
・図6には、ワイヤバレル11が「電線の芯線に向かって先端側を曲折することにより、内側に包み込まれる電線の芯線を電気的に接続して固定するための一対の側部と、該一対の側部の基端側を連結する底部」を有していることが図示されているといえる。

以上を総合すると、刊行物1には次の発明(以下「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「雌端子20と電気的に接続する、外表面に0よりも大きく0.5μm以下の錫層めっき層を有するタブ12と、
電線の芯線を内側に包み込み、該電線と電気的に接続するためのワイヤバレル11と、
電線側端部に、電線の絶縁被覆を内側に包み込み固定するインシュレーションバレルと、
を有し、
前記ワイヤバレル11は、前記電線の芯線に向かって先端側を曲折することにより、前記芯線を圧着固定するための一対の側部と、該一対の側部の基端側を連結する底部と、を有する雄端子10において、
前記ワイヤバレル11は錫めっきよりも硬度の大きい金属(例示:ステンレス鋼)であり、
前記一対の側部は、外表面に0.5μm?3.0μmの厚い錫めっき層が備えられ、
前記ワイヤバレル11の内表面は前記芯線と0よりも大きく0.5μm以下の薄い錫めっき層を介して当接している雄端子10。」

(2)本願優先日前に頒布された刊行物であり、本願明細書中に本願の先行技術として記載されている特開昭64-41184号公報には、図面と共に、次の記載がある。

ケ.「[産業上の利用分野]
本発明は、例えば酸素センサーの出力端子の如き高硬度が要求されるバレル部付端子に適用して好適なバレル部付端子の圧着方法に関するものである。」(第1頁左下欄第17行?右下欄第2行)

コ.「この場合、センサー出力端子5の素子2に対する取付端部5Aは、内燃機関の中に挿入され加熱を受けるので、該取付端部5Aが加熱により把持力が低下したり電極7に対する接触が外れたりしてしまわないように、端子5全体がステンレススチール(VH約450),インコネル(VH約350),ベリリウム銅合金(VH約300),銅チタン合金(VH約300),銅ニッケル錫合金(スピノーグル分解型)(VH約300)等の極めて硬度が高い(VH約300以上)材質のもので形成されている。尚、VHはビッカース硬度である。」(第2頁左上欄第20行?右上欄第11行)

サ.「しかしながら、通常の黄銅(VH120?170)等の端子3,4に比べて高硬度(VH約300以上)であって且つ脱脂されている端子5では、通常の端子3,4と同じ圧着作業では、第9図に示すようにリード線10の導体10Aにワイヤーバレル部分5CWの両端がカールされて食い込むような形とはならず、第10図に示すようにバレル部5Cの両端が平らな形で圧着され、必要な接続強度が得られない問題点があった。」(明細書第2頁左下欄9行?17行)

シ.「このようにクリンパー12の内面に潤滑剤13を付着させておき、バレル部付端子5のバレル部5Cの圧着を行うと、潤滑剤13の存在によりワイヤーバレル部分5CWのカールが第10図に示すようになり、必要な接続強度が容易に得られるようになり、また圧着後にバレル部5Cがクリンパー12から容易に外れ、クリンパー12からのバレル部5Cの取外し時に該バレル部5Cが不良変形するのをを防止できる。」(第3頁右上欄第17行?左下欄第5行)

(3)当審拒絶理由において引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2000-180273号公報(以下「刊行物3」という。)には、次の記載がある。

ス.「【0004】 このうち、一般配線は、先端に端子を取り付けた被覆電線を用いて接続することが多く、その端子は、銅,黄銅,りん青銅よりなり、その表面がニッケル,錫,銀,金などによりメッキされて形成されている。このような端子を被覆電線の先端に永久接続する技術として、ハンダ付けと圧着(圧着嵌合)が知られているが、圧着は圧着端子をプレス加工により塑性変形させるだけで被覆電線の先端に永久接続できるので、加工が簡単で、短時間で連続的に生産することができ、製造コストも低廉である。」(段落【0004】)

(4)本願優先日前に頒布された刊行物である特開平8-321330公報(以下「刊行物4」という。)には、図面と共に、次の記載がある。

セ.「【0003】ところが、このように微小な電圧,電流を扱う部分が増加すると、従来問題となり得なかった電線等の接続部分の接触抵抗の増加や瞬断が大きくクローズアップされるに至り、このために電線の接合方法として従来の圧着に代わって超音波溶接法や抵抗溶接法が用いられ始めるようになったほか、従来の機械的圧着において錫めっき電線が使用されるようになった。」(段落【0003】)

ソ.「【0016】
【実施例】この発明の一実施例について説明すると、まず図1に示すように、例えば軟銅から成る複数の素線1により構成される電線2の圧着部を圧着端子3により圧着するに先立ち、軟銅よりも柔らかい錫または鉛または半田から成る80?400メッシュの粒径の金属粉4を電線2の圧着部に塗布しておき、その後図2に示すように圧着機によって圧着端子3を圧着する。
【0017】このように、電線2の圧着部に金属粉4を塗布しておくと、圧着端子3を圧着したときに、圧着時の衝撃により金属粉4が変形して素線1の表面に凝着しながら各素線1間の隙間を埋めるため、各素線1間及び素線1・圧着端子3間の接触面積が大きくなり、接触抵抗は低くなる。」(段落【0016】?【0017】)

(5)本願優先日前に頒布された刊行物である特開2003-59612号公報(以下「刊行物5」という。)には、次の記載がある。

タ.「【0042】言い換えると、電線圧着片34と電線46との接触状態は、加締部26の諸寸法に依存して変わり、電線圧着片34と電線46との間に隙間等があると、接触抵抗が高くなり導通不良を生じることがある。」(段落【0042】)

(6)本願優先日前に頒布された刊行物である特許2970362号公報(以下「刊行物6」という。)には、次の記載がある。

チ.「しかし、上記B型圧着は、圧着時において芯線W1が何れか一方のワイヤーバレル91側に偏ることがあり、この場合には、左右のワイヤーバレル91相互間で圧着密度の差が生じて、接触抵抗が大きくなったり、圧着強度に強弱が生じたりする等、所望の電気的、機械的接続性能を得ることができなくなるという問題があった。また、各ワイヤーバレル91が芯線W1の相互間に食い込むために、芯線W1が損傷して、使用中に芯線切れを生じ、所望の電気的接続性能を得ることができなくなる場合もあった。」(段落【0005】)

(7)本願優先日前に頒布された刊行物である特開平7-176337号公報(以下「刊行物7」という。)には、次の記載がある。

ツ.「一般に純銅をリード端子に使用した場合、Au、Ag、Snなどのめっきを省略しても、比較的よい特性が出ることが多い。」(段落【0004】)

(8)本願優先日前に頒布された刊行物である特表平8-511911号公報(以下「刊行物8」という。)には、次の記載がある。

テ.「該端子部分は、めっき又は無めっきの黄銅片を打抜いて形成されており、一端にて線36を結線する一方、その他端にて雄型タブ44を受け入れ得るようにされている。」(第7頁第5行?第7行)

4.対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明における「雌端子20」は本願発明の「他部材」に相当し、以下同様に、「タブ12」は「接続部」に、「電線」は「リード線」に、「内側に包み込み」は「内包して」に、「ワイヤバレル11」は「固定部」に、「圧着固定する」は「固定する」に、「雄端子10」はワイヤバレルにより電線を圧着固定するものであるから「圧着端子」に、各々相当する。

また、刊行物1記載の発明における「一対の側部は、外表面に0.5μm?3.0μmの厚い錫めっき層が備えられ」ることと、本願発明における「一対の側部は、外表面のうち少なくとも前記先端側にAg又はAuを主成分とする金属層が備えられ」ることとは、「一対の側部は、外表面のうち少なくとも前記先端側に軟質金属の金属層が備えられ」るという点で共通している。

同様に、刊行物1記載の発明における「ワイヤバレル11の内表面は前記芯線と0よりも大きく0.5μm以下の薄い錫層めっき層を介して当接している」ことと、本願発明における「固定部の内表面は前記芯線と直接当接可能な構成をなしている」こととは、「固定部の内表面は前記芯線と当接可能な構成をなしている」という点で共通している。

よって、両者の一致点、相違点は、次のとおりである。

(一致点)
他部材と電気的に接続する接続部と、
リード線の芯線を内包して、該リード線と電気的に接続するための固定部と、
を有し、
前記固定部は、前記リード線の芯線に向かって先端側を曲折することにより、前記芯線を固定するための一対の側部と、該一対の側部の基端側を連結する底部と、を有する圧着端子において、
前記一対の側部は、外表面のうち少なくとも前記先端側に軟質金属の金属層が備えられ、
前記固定部の内表面は前記芯線と当接可能な構成をなしている圧着端子。

(相違点1)
固定部の硬度が、本願発明では「350HV以上のビッカース硬度」であるのに対し、刊行物1記載の発明では「錫めっきよりも大きい硬度」と特定されているだけで具体的硬度が不明である点。

(相違点2)
固定部外表面の少なくとも先端側に備えられる「軟質金属の金属層」が、本願発明では「Ag又はAuを主成分とする金属層」であるのに対し、刊行物1記載の発明では「0.5μm?3.0μmの厚い錫めっき層」である点。

(相違点3)
固定部の内表面がリード線の芯線と当接する形態が、本願発明では「直接当接」であるのに対し、刊行物1記載の発明では「0よりも大きく0.5μm以下の薄い錫めっき層を介して当接」である点。

5.判断
上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
刊行物2には、内燃機関の酸素センサーの技術分野における加熱による接続不良の発生を回避するために、「圧着端子の硬度を約300VH以上(ステンレススチール(約450VH),インコネル(約350VH))とすること」(摘記事項ケ?シ参照、以下「刊行物2記載の技術事項」という。)が記載されている。

他方、圧着端子が汎用の接続端子であることは周知の事項である。

よって、刊行物1記載の発明である「圧着端子(雄端子10)」を、耐熱性が求められる既知の適用分野である内燃機関の「酸素センサー」の技術分野に適用し、かつその際、加熱による接続不良の発生を回避するために「端子固定部の硬度」を「350HV以上のビッカース硬度」とすることは、刊行物2記載の技術事項に倣って、当業者が容易になしえた事項である。

(相違点2について)
刊行物1記載の発明において固体潤滑剤として機能する軟質金属層として「錫めっき層」を採用したのは、主としてコスト面からの要請である(摘記事項イ参照)。

しかしながら、刊行物1においても「重要な信号回路に用いられる接続端子には金めっきを施して使用していた」(摘記事項ア参照)、「金めっきは錫めっきに比較して数倍?数十倍のコストを要するため、特に多極化したコネクタには適しない。」(摘記事項イ参照)と記載されているように、コネクタにおける総量としての金のコストや必要となる端子接続部の性能によっては、軟質金属層として金を用いる可能性が示唆されている。

また、圧着端子の技術分野において、端子保護のため端子表面に設ける軟質金属層として金、銀、錫が同等の選択肢であることは、刊行物3(摘記事項ス参照)記載のように、本願優先日前における周知の技術事項でもある。

よって、圧着端子を重要性が高い部分(高性能部分)に用る場合や多極化していないコネクタに用いる場合等に、刊行物1記載の発明において、軟質金属層の材料として、錫に代えて性能的により優れた周知の軟質金属材料である金(又は銀)を採用することは、刊行物1の示唆を考慮し、上記周知の技術事項に倣って、当業者が容易になしえた事項である。

(相違点3について)
刊行物1記載の発明において、固定部(ワイヤバレル)の内表面を芯線と「0よりも大きく0.5μm以下の薄い錫めっき層を介して当接」させている理由は、刊行物1の記載(摘記事項カ、段落【0044】)によれば、「接触抵抗を低減させる」ためである。

また、接触抵抗に影響する条件として、例えば、次ようなものが知られていた。

1)刊行物4に記載された「電線(芯線)への錫めっき」、「電線(芯線)への錫粉の塗布」等、電線(芯線)に対する前処理の有無

2)刊行物5(摘記事項タ参照)、刊行物6(摘記事項チ参照)に記載された、圧着部の形状、寸法、圧着加工時に発生する隙間の大きさ

そして、刊行物7(摘記事項ツ参照)、刊行物8(摘記事項テ参照)記載のように、接触抵抗に影響する条件によっては、めっき自体を不要とできることも知られていた。

以上のことから、刊行物1記載の発明において、固定部(ワイヤバレル11)の「内表面の0よりも大きく0.5μm以下のめっき層」を廃し、固定部の内表面に芯線を「直接当接」させることは、芯線側の前処理の有無、圧着部の形状、寸法、圧着加工時に発生する隙間の大きさ、材質等の諸条件、並びに、製品に対応して求められる許容接触抵抗値の大きさ等を総合的に考慮することにより、当業者が、適宜なしえた事項といえる。

そして、本願発明により得られる効果も、刊行物1記載の発明及び刊行物2?8記載の技術事項に基づいて、当業者であれば、予測できる程度のものであって、格別なものとはいえない。

6.結び
以上のとおり、本願発明は、刊行物1記載の発明及び刊行物2?8記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-26 
結審通知日 2013-01-08 
審決日 2013-01-23 
出願番号 特願2006-239638(P2006-239638)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 片岡 弘之  
特許庁審判長 竹之内 秀明
特許庁審判官 前田 仁
平上 悦司
発明の名称 圧着端子及び当該圧着端子を備えたガスセンサ及び前記圧着端子の製造方法  
代理人 特許業務法人コスモス特許事務所  

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