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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07G
管理番号 1270857
審判番号 不服2012-7171  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-19 
確定日 2013-03-07 
事件の表示 特願2009-278535「木質成分の分離方法、木質成分、工業材料及び木質成分の分離装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月 6日出願公開、特開2010-100631〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年7月9日に出願した特願2003-194671号の一部を平成21年3月31日に新たな出願とした特願2009-87405号の一部を、さらに平成21年12月8日に新たな出願としたものであって、平成23年9月15日付け拒絶理由通知に対し、同年11月28日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされた後、平成24年1月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月19日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同日付けで特許請求の範囲の全文についての手続補正がなされ、これに対し、同年9月12日付けで当審から審尋がなされたものである。なお、平成24年9月12日付けの当審からの審尋に対して、審判請求人から回答書は提出されなかった。

第2 平成24年4月19日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成24年4月19日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に記載された発明
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】
バイオマス資源を出発原料として担子菌、腐朽菌類による菌体処理工程と、
前記菌体処理工程の処理物を高圧熱水で処理する高圧熱水処理工程と、
前記高圧熱水処理工程の処理物から木質成分を固形残渣として分離する分離工程とを具備し、
前記分離工程で得られた固形残渣に有機溶剤を作用させてリグニン成分を分離抽出することを特徴とする木質成分の分離方法。」
を、
「【請求項1】
バイオマス資源を出発原料として担子菌、腐朽菌類による菌体処理工程と、
前記菌体処理工程の処理物を高圧熱水で処理する高圧熱水処理工程と、
前記高圧熱水処理工程の処理物から木質成分を固形残渣として分離する分離工程とを具備し、
前記分離工程で得られた固形残渣に有機溶剤を作用させてリグニン成分を分離抽出し、前記分離抽出されたリグニン成分は化学修飾を受けていないことを特徴とする木質成分の分離方法。」(下線は補正箇所を示す。)
とする補正を含むものである。

上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である分離抽出された「リグニン成分」が「化学修飾を受けていない」ものであることに限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が独立して特許を受けることができるものであるか、(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するか)について、以下に検討する。

2 引用刊行物とその記載事項
(1)引用刊行物の頒布日について
原査定の拒絶の理由には、「”加圧熱水および酵素処理による木質成分の分離”、セルロース学会第10回年次大会 講演要旨集、発行日2003年7月1日、P.80」(以下、「刊行物1」という。)が引用されており、当該刊行物1は、「発行日 2003年7月1日」と記載されたものである。
刊行物1は、2003年7月17日?18日に開催されたセルロース学会第10回年次大会の講演要旨集であり、当該学会が開催されたのは本願の出願日後であるが、「セルロース学会第10回年次大会の会告」([online]2003年4月4日,[2012年9月6日検索]、インターネット、<URL:http://web.archive.org/web/20030404053311/http://wwwsoc.nii.ac.jp/csj3/cellulose/nenji10.html>)を参照すると、その「参加費(要旨集含む)」の欄に「希望者には要旨集を事前に送付します。」と記載され、当該学会の開催の前に希望者に送付されたものであり、さらに、平成24年4月19日付けの審判請求書によると、2003年6月27日にセルロース学会の運営委員会に印刷社から納入されたものであるので、刊行物1である講演要旨集は、当該学会の運営委員会に納入された後であって、本願出願日前である、少なくとも発行日とされた2003年7月1日には、希望者に頒布され得、閲覧しうる状態にあったと推定されるものである。

(2)引用刊行物とその記載事項について
上記(1)に記載した刊行物1及び原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願日前に頒布された刊行物2及び3には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。

・刊行物1:「加圧熱水および酵素処理による木質成分の分離」、セルロース学会第10回年次大会 講演要旨集、発行日2003年7月1日、P.80の記載事項

(1a)「加圧熱水および酵素処理による木質成分の分離」(タイトル)

(1b)「1.緒言
近年、超臨界状態でのセルロース系バイオマスの処理が注目されるようになったが、超臨界状態を作るためのコストや規模拡大における問題が残されている。そこで、我々は超臨界よりもマイルドな条件での試料の処理を試み、バイオマス資源を完全分解するのではなく、成分を分離するための条件の解明を試みた。今回はバッチ式および連続式の装置できのこ栽培後の培地を処理した結果について報告する。」(「1.緒言」の欄)

(1c)「2.方法
バイオマス材料として、エノキタケ栽培後の培地(コーンコブ主体の培地)を用いた。バッチ式の装置では、容量10ml、1,000ml、および11,000mlの容器を用いて熱水処理を行った。処理条件は、160-220℃、10分間として行った。処理後は可溶性成分と残渣に分け、可溶性成分については糖組成を分析した。また、残渣はセルラーゼ製剤で処理し、同様に可溶性の成分と残渣に分けた。処理前後の成分分析により、各成分の可溶化率を求めた。」(「2.方法」の欄)

(1d)「3.結果および考察
バッチ式の処理においては、10mlおよび1,000mlの容器での水熱処理では同様の傾向を示したが、スケールを大きくした時には反応がより進む傾向にあった。このことより、容器内での反応はスケールにより異なる事が示唆された。実用化の場面では、このスケールアップしたときの条件設定が問題となる事が明らかとなった。水熱処理後の可溶部および酵素処理後の可溶部の糖分析結果から、ヘミセルロースは、180℃程度の処理でほぼ可溶化されていることがわかった。この温度は生物処理をしていないものの処理に比較して温和になっており、キノコ菌による生物化学的な処理の効果が確認された。さらに、連続式の水熱反応装置により処理したものについても、スケールが小さい時のバッチ式処理のものと同様の傾向を示し、反応制御面からいっても連続式装置の優位性が示唆された。」(「3.結果および考察」の欄)

・刊行物2:特開2002-308796号公報の記載事項

(2a)「【0011】ところで、リグニンは、植物の新生組織には全くみられず、その組織がある期間を経過した後、即ち、木化した後に初めて発現する。つまり、リグニンは、セルロースやヘミセルロース等の炭水化物が存在するところしか発生せず、組織の木化にともなう産物であって、第二次代謝物としての性格を強く持っている。このように、リグニンは、植物組織中ではセルロースやヘミセルロース等の炭水化物と結合した状態で存在し、プロトリグニンと称される。
【0012】本発明の単離リグニンは、リグニン含有植物体中のリグニン結合物質の分解により生成したものである。すなわち、リグニンとヘミセルロース、セルロースなどのリグニン以外の物質との結合が分解(切断)され、リグニンが単離あるいは分離、濃縮されたものである。
【0013】リグニン結合物質の分解法としては、物理的処理、化学的処理、又は酵素的処理等が採用し得るが、該処理の違いに応じて、単離リグニンとしては、可溶性、不溶性のもの等が得られるので、その使用目的に応じて分解法を選択すればよい。」

(2b)「【0020】本植物体から単離リグニンを得る方法としては、リグニン含有植物体中のセルロースやヘミセルロース等の炭水化物とリグニンとの結合を分解する方法であれば如何なる方法でもよく、以下の物理的処理、化学的処理、又は酵素的処理などによって行うことができる。また、これらの方法を組み合わせて行うことも可能である。」

(2c)「【0022】(ハ) 化学的処理
本化学的処理は、リグニン結合物質を分解させて、単離リグニンを生成させるものである。本化学的処理の方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
・・・略・・・
【0026】 (4)(※当審注:刊行物2における(数字)は原文では○中に数字。以下、同じ。)エタノールやジオキサンなどの有機溶剤に可溶化して、リグニンを得る方法。
【0027】(5)塩酸や硫酸などによって、リグニン含有植物体中のセルロースやヘミセルロース等の炭水化物を溶解除去し、リグニンを残査として得る方法。
【0028】このように、本処理においては、処理法(1)?(4)では可溶性のものが、処理法(5)では不溶性のものが、それぞれ得られる。特に処理法(1)?(3)では水溶性のものが得られる。」

・刊行物3:特開2001-294757号公報の記載事項

(3a)「【0002】
【従来の技術】パルプ化の工程において副生物として発生するリグニンの有効利用は、リグニンが木材、竹、わらなど木化した植物体における主成分の一つであることから、従来からこれらを原料とする技術分野、特に製紙工業において、極めて重要な課題であった。そのような中にあった、リグニンは化学薬品としては、医薬原料、セメント用配合剤製造用原料といった分野で、また、炭素製品製造においては、例えば活性炭、炭素繊維などの製造原料としての利用が検討されてきた。ただ、炭素繊維としては強度が十分得られないために利用性が良くなかった。
【0003】また、従来から、パルプの原料として利用されてきた、針葉樹、広葉樹といった良質の樹木類の不足から、該原料として木材の育成の間に発生する間伐材、木製品の製造工程で発生する廃材などを利用するパルプ化法の開発、及び環境浄化のために植えられた多くの低質の樹木や木質を有機資源(バイオマス)として利用することの必要からのパルプ化法の開発、例えば有機溶剤を用いるパルプ化法などにおいて、該有機溶剤により抽出されてくるリグニン質の有効利用は、該パルプ化法を商業ベースのものとする上で重要な技術的課題である。」

3 対比・判断
刊行物1には、セルロース系バイオマスの処理を行い、バイオマス資源を完全分解するのではなく、成分を分離する方法であって(1b)、バイオマス材料として、エノキタケ栽培後の培地(コーンコブ主体の培地)を用いたこと(1c)、処理として、加圧熱水処理を行うこと(1a)、が記載されている。
そして、刊行物1には「超臨界状態でのセルロース系バイオマスの処理が注目されるようになったが、超臨界状態を作るためのコストや規模拡大における問題が残されている。そこで、我々は超臨界よりもマイルドな条件での試料の処理を試み、バイオマス資源を完全分解するのではなく、成分を分離するための条件の解明を試みた。」(1b)と記載され、その処理の結果物を「処理後は可溶性成分と残渣に分け、可溶性成分については糖組成を分析した。」(1c)と記載されている。これらの記載事項から、セルロース系バイオマスを完全分解するのではなく、成分が分離できるような分解条件で処理して、可溶性成分については糖組成を分析したことが分かる。また、糖組成を分析しているから、「成分を分離するための条件」の「成分」とは、糖成分であること理解できる。
また、「処理後は可溶性成分と残渣に分け」て可溶性成分である糖成分を分離していることが理解できる。
そうすると、刊行物1の上記記載から、刊行物1には、
「バイオマス資源を完全分解するのではなく、糖成分を分離する方法であって、バイオマス材料としてエノキタケ栽培後の培地(コーンコブ主体の培地)を用い、160?220℃の温度で加圧熱水処理し、処理後は可溶性成分と残渣に分け、可溶性成分である糖成分を分離する方法」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
そこで、本願補正発明と刊行物1発明とを比較する。

(ア)刊行物1発明の「バイオマス材料としてエノキタケ栽培後の培地(コーンコブ主体の培地)を用い」たことについて、エノキタケ栽培後の培地(コーンコブ主体の培地)は、コーンコブ主体の培地でエノキタケを栽培して得られたものであるので、刊行物1発明は、コーンコブ主体の培地でエノキタケを栽培することを前提にしたものといえる。
そして、本願補正発明の「バイオマス資源を出発原料として担子菌、腐朽菌類による菌体処理工程」について、本願の明細書を参照すると、段落【0036】に「バイオマス資源としてコーンコブを出発原料に、担子菌としてエノキタケを選択して菌体処理工程」を実施したことが記載され、さらに、段落【0039】には「エノキタケの栽培により菌体処理を受けたコーンコブ廃培地」と記載されていることから、本願補正発明の「バイオマス資源」は「コーンコブ」を含むものであり、担子菌による菌体処理として「エノキタケの栽培」を含むものといえる。
そうすると、刊行物1発明が前提とする、コーンコブ主体の培地でエノキタケを栽培することは、本願補正発明の「バイオマス資源を出発原料として担子菌、腐朽菌類による菌体処理工程」に相当する。

(イ)刊行物1発明の「エノキタケ栽培後の培地(コーンコブ主体の培地)」は、本願補正発明の「前記菌体処理工程の処理物」に相当する。
そして、本願補正発明「高圧熱水処理工程」について、本願の明細書の記載を参照すると、実施例として段落【0036】に「高圧熱水処理工程は160?230℃、0.1?10MPaの温度圧力条件で行った。」と記載されている。一方、刊行物1発明の「加圧熱水処理」について、刊行物1の記載を参照すると、温度について「処理条件は、160-220℃」(1c)と記載され、圧力条件については記載されていないが、加圧熱水は少なくとも飽和蒸気圧以上に加圧される必要があり、水の飽和蒸気圧が160℃で0.6MPa、220℃で2.3MPa程度であることからすると、160?220℃の温度で行う加圧熱水処理の圧力は0.6MPa?2.3MPaの飽和蒸気圧を超える程度のものといえ、本願補正発明の圧力条件に含まれる程度のものである。そうすると、刊行物1発明の「加圧熱水処理」は、本願補正発明の「高圧熱水処理工程」と同程度の温度圧力条件で加圧熱水処理を行うものであり、本願補正発明の「高圧熱水処理工程」に相当する。
以上から、刊行物1発明の「バイオマス材料としてエノキタケ栽培後の培地(コーンコブ主体の培地)を用い、加圧熱水処理」することは、本願補正発明の「前記菌体処理工程の処理物を高圧熱水で処理する高圧熱水処理工程」に相当する。

(ウ)刊行物1発明の「処理後は可溶性成分と残渣に分け、可溶性成分である糖成分を分離する」ことと、本願補正発明の「前記高圧熱水処理工程の処理物から木質成分を固形残渣として分離する分離工程とを具備し、前記分離工程で得られた固形残渣に有機溶剤を作用させてリグニン成分を分離抽出し、前記分離抽出されたリグニン成分は化学修飾を受けていないこと」とは、高圧熱水処理工程の処理物から成分を分離する分離工程である点で共通する。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)
バイオマス資源を出発原料として担子菌、腐朽菌類による菌体処理工程と、
菌体処理工程の処理物を、高圧熱水で処理する高圧熱水処理工程と、
高圧熱水処理工程の処理物から成分を分離する分離工程と、
を有する成分の分離方法

(相違点1)
高圧熱水処理工程の処理物から成分を分離する分離工程について、本願補正発明では、高圧熱水処理工程の処理物から木質成分を固形残渣として分離し、得られた固形残渣に有機溶剤を作用させてリグニン成分を分離抽出し、分離抽出されたリグニン成分は化学修飾を受けていないものであるのに対し、刊行物1発明では、糖成分を分離している点。

そこで、上記相違点1について検討する。

(相違点1について)
セルロース系バイオマス材料には、セルロースやヘミセルロースと結合した状態でリグニンが存在しており、リグニンを資源として活用することが検討されていることは技術常識であり、例えば、刊行物3にはリグニンを化学薬品などとして利用することが検討されてきた旨、記載されている(3a)。
そして、コーンコブにリグニンが含まれていること(文献A)、また、茸栽培による菌体処理によってリグニンが完全には分解されないこと(文献B?D)、さらに、リグニンには不溶性のものがあること(刊行物2(2a)、文献D?E)は、例えば刊行物2や下記文献A?Eに記載されたように技術常識である。

・文献A:特開平3-15318号公報(第2頁右上欄第6行?10行)リグニンに富む草質材としてコーンコブが挙げられている。
・文献B:特開平6-7030号公報(【0002】?【0004】)えのき茸などのきのこ栽培で使用された菌床培地にリグニンが分解せず残存している旨、が記載されている。
・文献C:特開平8-181号公報(【0005】)キノコ廃培地に多く含有されているリグニンは分解されにくい物資である旨、記載されている。
・文献D:特開平2-107171号公報(第3頁実施例1)トウモロコシの髄などを培地としエノキタケを培養した後、クラッシャで破砕して乾燥し、化学分析した結果について、(B)水不溶部の糖質の一部がリグニンである旨、記載されている。
・文献E:特開昭59-204997号公報(特許請求の範囲(1)、第2図)植物バイオマス資源であるバガスを爆砕した爆砕物を水抽出すると、水溶性リグニン5%やヘミセルロース24%と、セルロース残渣やリグニンとが分離された旨、示されている。

刊行物1発明において、エノキタケ栽培に用いたコーンコブにリグニンが含まれていること、また、コーンコブを培地にしてエノキタケを栽培した後においても、菌体により完全にリグニンが分解されず残存していることは明らかである。
そして、刊行物1には、刊行物1発明のエノキタケ栽培後の培地(コーンコブ主体の培地)を加圧熱水処理した後に得られた残渣について、「残渣はセルラーゼ製剤で処理し、同様に可溶性の成分と残渣」(1c)を得たことが記載されており、当業者であれば、残渣をセルラーゼで処理をすれば、可溶性成分の他に、さらに残渣、すなわち、不溶性のリグニンが残存したものであって、加圧熱水処理した後に得られた残渣にリグニンが含まれることは誰しもが気付くことである。
そして、刊行物2(2b,2c)や刊行物3(3a)には、有機溶剤で可溶化することによりリグニンを得る方法が、記載されている。
そうすると、刊行物1発明において、加圧熱水処理の後に可溶性成分と分離した残りの残渣についても、これに含まれるリグニンを有効利用すべく、有機溶媒を作用させてリグニン成分を分離抽出することは、刊行物2,3に記載された発明から当業者が容易に想到し得たことである。そして、本願補正発明の「化学修飾を受けていない」ことは、本願の明細書の段落【0057】に「本実施例で得られたリグニンは、分離に水もしくは酵素の作用しか与えていないため従来のリグニンの分離法である硫酸分解とは異なりスルホン化や縮合のような化学修飾を受けていないことに特徴がある。」と記載されていることから、スルホン化や縮合のような化学修飾を受けていないこと、と解されるものであり、上記のとおりにして得られたリグニン成分は、硫酸分解などをさせたものではないため、化学修飾を受けたものでないことも明らかである。

(本願補正発明の効果について)
バイオマス資源が、高圧熱水処理工程に導入する前に、一次的な菌体分解作用を受け、高圧熱水の処理条件を穏やかにすることができ、また、処理工程後の固形残渣に有機溶剤を作用させリグニン成分を溶解することにより化学的な修飾を受けていないリグニンを抽出する作用効果が得られるなどの、本願の明細書の段落【0023】?【0024】や段落【0032】などに記載された本願補正発明の効果は、刊行物1?3の記載事項及び周知技術から当業者が予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1?3に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成24年4月19日付けの手続補正は、上記のとおり却下されることになったので、本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成23年11月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1は、次のとおりである。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

「【請求項1】
バイオマス資源を出発原料として担子菌、腐朽菌類による菌体処理工程と、
前記菌体処理工程の処理物を高圧熱水で処理する高圧熱水処理工程と、
前記高圧熱水処理工程の処理物から木質成分を固形残渣として分離する分離工程とを具備し、
前記分離工程で得られた固形残渣に有機溶剤を作用させてリグニン成分を分離抽出することを特徴とする木質成分の分離方法。」

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?3及びその記載事項は、前記「第2 2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明の分離抽出された「リグニン成分」が「化学修飾を受けていない」ものであることとの構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含んだ本願補正発明が、前記「第2 4」に記載したとおり、刊行物1?3に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、刊行物1?3に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-28 
結審通知日 2013-01-08 
審決日 2013-01-21 
出願番号 特願2009-278535(P2009-278535)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C07G)
P 1 8・ 121- Z (C07G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松原 寛子  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 関 美祝
菅野 智子
発明の名称 木質成分の分離方法、木質成分、工業材料及び木質成分の分離装置  
代理人 福原 淑弘  
代理人 野河 信久  
代理人 河野 哲  
代理人 竹内 将訓  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 中村 誠  
代理人 佐藤 立志  
代理人 峰 隆司  
代理人 白根 俊郎  
代理人 堀内 美保子  
代理人 河野 直樹  
代理人 村松 貞男  
代理人 岡田 貴志  
代理人 砂川 克  

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