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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 C11D |
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管理番号 | 1271438 |
審判番号 | 無効2011-800147 |
総通号数 | 161 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-05-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2011-08-25 |
確定日 | 2013-03-13 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4114820号発明「洗浄剤組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第4114820号は、平成 8年 7月24日(特願平8-194727号。優先権主張 平成 7年12月11日、特願平7-321895号)に出願され、平成20年4月25日に特許権の設定登録がなされたもので、平成21年 7月13日付けで無効審判の請求(無効2009-800152号)がなされ、平成21年10月 5日付けで訂正請求がなされ、平成22年 3月 2日付けで審決がなされたが、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成22年(行ケ)第10104号、平成22年11月10日判決言渡)がなされ、同判決は確定し、その後、「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決が平成23年 1月31日付けでなされ、同審決は平成23年 3月14日に確定したものである(請求項の数2。以下、上記訂正後の特許を「本件特許」といい、上記訂正後の明細書を「本件特許明細書」という。)。 これに対して、アクゾノーベル株式会社(以下、「請求人」という。)より本件特許について本件無効審判の請求がなされ、昭和電工株式会社(以下、「被請求人」という。)より答弁書が提出された。 本件無効審判に係る手続の経緯は、以下のとおりである。 平成23年 8月25日 請求人 :審判請求書、 甲第1?7号証提出 同年11月11日 被請求人:答弁書提出 平成24年 1月11日 審理事項通知書 同年 2月 3日 被請求人:上申書、 乙第1号証提出 同年 2月 6日 請求人 :上申書、 甲第8?11号証提出 同年 2月20日 被請求人:上申書提出 同年 2月20日 請求人 :上申書(2)、 甲第12?15号証提出 同年 3月 5日 請求人 :口頭審理陳述要領書提出 同年 3月 5日 被請求人:口頭審理陳述要領書提出 同年 3月19日 請求人 :3月12日付け上申書(3)、 甲第1号証の2提出 同年 3月19日 被請求人:3月12日付け上申書、 3月19日付け上申書提出 同年 3月19日 第1回口頭審理(審理終結) 第2 本件発明 本件特許第4114820号の請求項1及び請求項2に係る発明は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 水酸化ナトリウム、アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類、及びグリコール酸ナトリウムを含有し、水酸化ナトリウムの配合量が組成物の0.1?40重量%であることを特徴とする洗浄剤組成物。 【請求項2】 水酸化ナトリウムを5?30重量%、アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類を1?20重量%、グリコール酸ナトリウムをアスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類1重量部に対して0.1?0.3重量部含有する請求項1記載の洗浄剤組成物。」 (以下、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。) 第3 請求人の主張の要点 1 本件審判の請求の趣旨 請求人が主張する本件審判における請求の趣旨は、「特許第4114820号の請求項1?2に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」である。 2 請求人が主張する無効理由及び証拠方法の概要 請求人は、以下の無効理由1及び無効理由2を主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第15号証を提出した。 (1)無効理由1 本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第6号証に記載された周知技術に基いて、本件特許出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 また、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第6号証に記載された周知技術に基いて、本件特許出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、請求項1?2に係る発明についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 (2)無効理由2 本件発明1は、甲第2号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第6号証に記載された周知技術に基いて、本件特許出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 また、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第6号証に記載された周知技術に基いて、本件特許出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、請求項1?2に係る発明についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 (3)証拠方法 請求人は、第1に指摘したそれぞれの時点において、以下のものを提出した。 ア 甲第1号証 英国特許第1439518号明細書 イ 甲第1号証の2 甲第1号証の全訳 ウ 甲第2号証 特開昭50-3979号公報 エ 甲第3号証 特開平7-238299号公報 オ 甲第4号証 特開昭59-133382号公報 カ 甲第5号証 特開昭61-188500号公報 キ 甲第6号証 特表平5-502683号公報 ク 甲第7号証 Experimental Report(2011年 6月 7日付け Akzo Nobel Functional Chemicals BV Marcellinus Alexander van Doorn の署名のあるもの)及びその全訳文 ケ 甲第8号証 Experimental Report(2012年 1月27日付け Akzo Nobel Functional Chemicals BV Marcellinus Alexander van Doom の署名のあるもの)及びその全訳文 コ 甲第9号証 平成17年 3月24日付け手続補正書の写し(本件特許の拒絶査定不服審判において提出されたもの) サ 甲第10号証 平成21年10月 5日付け答弁書の写し(無効2009-800152号において提出されたもの) シ 甲第11号証 特許第3927623号公報 ス 甲第12号証 米国特許第3639279号明細書及びその抄訳文 セ 甲第13号証 最新洗浄技術総覧編集委員会編、「最新洗浄技術総覧」(株式会社産業技術サービスセンター、2005年 6月 6日重版発行)、396頁?405頁(「1.10 キレート剤」の項) ソ 甲第14号証 伊勢久株式会社「キレスト CMG-40(L-グルタミン酸二酢酸・4ナトリウム)生分解性アミノポリカルボン酸キレート剤」、http://www.isekyu-jp.com/chemicalnews/nk40.htmより入手(2010年 7月30日) タ 甲第15号証 「乙1号証データ(シュウ酸法)と他社公開データ(炭酸法)の比較」と題された、乙第1号証と甲第14号証のデータをプロットした表 第4 被請求人の主張の要点 1 答弁の趣旨 被請求人が主張する答弁の趣旨は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」である。 2 証拠方法の概要 被請求人は、第1に指摘した時点において、以下のものを提出した。 (1)乙第1号証 2010年 7月21日付け「シュウ酸法によるキレート力価(C.V.値)の測定結果についての実験報告書」(昭和電工 化学品開発部 本間千裕、渋谷彰) 第5 主な証拠方法の内容 1 英国特許第1439518号明細書(甲第1号証)について 英国特許第1439518号明細書(甲第1号証、以下「甲1」という。)は、1976年 6月16日に頒布されたものであって、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であることは明らかである。 そして、甲1には、以下の事項が記載されている。ただし、甲1は英文の書証のため、記載事項の摘記については、請求人の提出した全訳(甲1の2)の記載により行う。 1a 第2頁第19行?第3頁第6行(全訳第2頁下から2行?第4頁第6行) 「本発明に従い起きる反応は、水性媒体中かつアルカリの存在下で起きる置換反応であり、次の図式で表わされる。 グルタミン酸のα-アミノ基の2個の水素原子が、モノクロル酢酸から生ずる2個のカルボキシメチル基により置換される。 二置換誘導体を高収率で得ることが困難である主原因の一つは、モノクロル酢酸が加水分解することであり;この二次的反応によりグリコール酸ナトリウムが生成する[下記の反応式(2)参照]。この欠点を防止するためには、上記(1)式の反応に有利なようにかつ、下記(2)式の反応に不利なように、遊離のモノクロル酢酸の存在下で反応を行いかつアルカリを徐々にのみ添加することが必要である。実際に、この二つの反応の相対的な反応速度は、遊離のOH基の濃度により影響される。 前記反応を弱アルカリ性pH値で行うことにより、(2)式の加水分解反応を最少に減少させ得ることが今見出された。従って前記したことを考慮して、pHを8?10好ましくは9?9.7の範囲で反応を行うことが必要である。これらの条件下において得られる収率は、使用したモノクロル酢酸に対して理論値の75%より良く、グルタミン酸塩に関しては100%に近い。 pHの調整は、アルカリ土類化合物を使用することによって有利には行われず、アルカリ金属化合物、特に濃厚なアルカリ溶液の形の苛性ソーダを使用して好ましく行われる。反応剤は水性媒体中で反応させ得る。この目的のために軟水または脱塩水または蒸留水でも使用し得る。 反応(1)の反応速度は、反応(2)の反応速度よりも、温度の上昇によりより有利に影響されるので、反応は50?100℃、好ましくは70?100℃、より好ましくは80?90℃の温度で行われる。 出発原料としては、廉価でかつ豊富に入手し得るグルタミン酸モノナトリウムを使用することが有利であるが、グルタミン酸自体およびジナトリウム塩も使用し得る。 起り得る加水分解(反応2)を補填するためにモノクロル酢酸を過剰に使用して反応を行うことが必要である。従ってグルタミン酸1モルに対し2.4?2.7モル、最も好ましくは2.7モル(理論モル比2/1の代わりに)のモノクロル酢酸を使用して反応を行う。 たとえばグルタミン酸ジナトリウム溶液に、モノクロル酢酸の溶液と、アルカリたとえば苛性ソーダの溶液を同時に添加することにより、カルボキシメチル基の移動を伴う置換反応が有利に行われる。 反応の終点は、下記の手段のいずれかにより検出されうる: (1) 形成された塩素イオンの測定により (2) 錯化力(complexing power)の電位測定により (3) ニンヒドリンによる-NH_(2)または-NHR基の判定により。」 1b 第3頁第7行?第45行(全訳第4頁第7行?第22行) 「反応生成物を含有する溶液を金属イオン封鎖剤組成物として直接に使用することが可能である。あるいは、該溶液を噴霧乾燥して、不純なN,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸又はその塩を得てもよい。この粗生成物を慣用の手段で精製してもよく、好ましくは、したがってそれは少なくとも95%純度である。50%に近い乾燥物含有量を有するこの溶液を熱空気流中に噴霧し白色粉末を得ることができる。 本発明の金属イオン封鎖剤組成物の製造は連続的に行うことが有利であり、これによって比較的大きな規模で生産が行われるので設備費用が減少しまた金属イオン封鎖剤組成物販売価格が低下するというかなりな工業的利点が得られる。 噴霧乾燥操作により得られる粉末をつぎの二つの方法により精製することができる。 (1)濃塩酸によりpH3に酸性化し、次に噴霧乾燥し、アセトンにより乾燥製品を抽出し、ついで抽出物を乾燥まで蒸発させる。得られた油状物をメタノールで処理し、そしてこれは、金属イオン封鎖力の測定に従うと約95%の純度を有する最終生成物を晶出する。 (2)強酸性カチオン樹脂に吸着させ、苛性ソーダで溶出させ、ついで濃縮する。得られた油状物をメタノールで処理し、そしてこれは、その金属イオン封鎖力の測定に従うと96?98%の純度を有する最終生成物を晶出する。」 1c 第3頁第46行?第81行(全訳第4頁第23行?第5頁第5行) 「本発明の組成物は、アルカリ性剤に関してばかりでなく重金属イオンに対しても顕著な金属イオン封鎖性を示し、この封鎖性は従来得られた金属イオン封鎖性よりもはるかに良好であり、その結果つぎに示す分野において極めてすぐれた工業的利点および用途が生じる。 -イオン交換塔での金属の分離、 -金属の処理および金属表面の脱脂、 -放射能を持った表面の浄化、 -織物の処理、 -洗浄剤、洗濯用水(lyes)、および陶器の洗浄に使用する製品の調製、 -香料および化粧品に関する利用、 -および牛乳工業での利用。 本発明の組成物は、その金属イオン封鎖機能を完全に発揮する。この組成物は、水溶液中、特に緩衝アルカリ性媒体中で通常沈澱を生ずる化学物質の存在下でカチオン(Ca,Mg,Li,Fe,等)の溶解する鎖体を形成する。 本発明の組成物は、沈澱反応以外の反応においてカチオンの化学的活性を封鎖しあるいは変性するのにも使用し得る。特に硬水中のナトリウム石鹸溶液に添加された場合に、本発明の組成物は、さもなくば洗浄作用を低下させるカルシウムと錯体を形成する。すなわち該金属イオン封鎖組成物は、カチオンを不活性化する作用を行う他に、石鹸の洗浄剤作用を可能にする。」 1d 第4頁第27行?第31行(全訳第6頁第5行?第7行) 「本発明の金属イオン封鎖剤組成物は好ましくは、洗浄剤組成物での使用のためには、少くとも40%のN,N-ジカルボキシメチル-2-アミノペンタン二酸のナトリウム塩を含有する。」 1e 第4頁第66行?第79行(全訳第6頁第22行?第26行) 「洗浄剤組成物の約5%が該金属イオン封鎖剤組成物”OS_(1)”(下記の実施例2で製造された生成物”OS_(1)L”から得られる乾燥された固体)であり、洗浄剤組成物の約1%の珪酸マグネシウムを伴う組成物を使用することにより、重金属を封鎖すると同時に、酸化性媒体中で行われる一連の洗浄操作により生ずるセルロースの分解を抑制することができることにも注目すべきである。」 1f 第4頁第91行?第119行(全訳第6頁第32行?第7頁第11行) 「金属イオン封鎖剤としてN,N-ジカルボキシメチル化-2-アミノ-ペンタン二酸またはその塩を含有する全ての洗浄剤組成物の特徴は、リン酸イオンの含有量が低いかあるいは全く含有していないこと、生物学的に易分解性であること、および湖や河川の動植物相に対し毒性がないことである。そのような組成物を汚れた織布を洗浄するのに使用した場合に起きる利点が、後記実施例に示されている。 全ての試験において、モノクロル酢酸とグルタミン酸ナトリウム塩とを水性媒体中でかつアルカリの存在下でかつ前記したごとき条件下で反応させて得られた組成物が使用される。 かく得られた、表でOS_(1)と呼ばれる組成物は、次の成分を含む。 N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸、 ナトリウム塩として 60重量% グリコール酸ナトリウム 12〃 塩 全体が100重量%となる量 それは、見掛密度0.56の白色粉末の形である。 上記の生物学的易分解性の金属イオン封鎖組成物は無毒性であり、目や皮膚に有毒な刺激を与えない。」 1g 第5頁第37行?第72行(全訳第7頁下から4行?第8頁第14行) 「実施例1 N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸の製造 1870g(10モル)のグルタミン酸モノナトリウム-水和物を2.5lの水と0.53lの苛性ソーダ溶液(10モル)に溶解した。これを溶液Aとする。この溶液中に2.5lの水に溶解した2570g(27モル)のモノクロル酢酸の溶液と19N苛性ソーダ溶液(57モル)とを、反応媒体の温度を80?90℃に保持しながら、1^(1/2)時間で、そのpHが8?9に保持されるように同時に注ぐことにより導入した。 N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸の収率は97?100%であった。モノクロル酢酸の過剰量を減少させると、収率が低下した。 モノクロル酢酸の過剰量 0 5% 10% 35% 収率 76% 92% 95.5% 97?100% 一方、窒素原子上での第2のカルボキシメチル残基の置換を保証するために、最低8のpHが必要である。 この溶液を噴霧処理することにより、N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸のナトリウム塩(47%酸型)を60重量%含有し、G.SCHWARZENBACHおよびH.FLAXHKA(第174頁、錯滴定法)[Methuen and Co. Ltd. 1969(GB)]の方法で測定した金属イオン封鎖力が6.9%の白色粉末を得た。この組成物は、14重量%の塩化ナトリウムと12重量%のグリコール酸ナトリウムをも含有していた。」 1h 第5頁第73行?第6頁第19行(全訳第8頁第15行?第9頁第14行) 「実施例2 68kg(364モル)のグルタミン酸モノナトリウムと74lの水を、ジャケット付タンクに装入した。ジャケットにより温度を50℃にし、ついで50.2%苛性ソーダ溶液4lを添加してpHを9.12に調節した。ついでモノクロル酢酸の溶液と50.2%苛性ソーダ溶液とを、つぎの2つのパラメーター:9.2?9.5のpHと70?75℃の温度、に注意しながら同時に添加開始した。78lのモノクロル酢酸溶液と93lの苛性ソーダ溶液を添加する14時間操作の後に、得られた溶液をタンクに保持して30分間撹絆し、ついで測定を行った。測定の結果、N-カルボキシメチル-LまたはDL-グルタミン酸の16%、即ち58モルが存在することが判った。5kgのモノクロル酢酸を4lの水に溶解した溶液を調製し、ついでこの溶液を55?60℃で前記反応混合物に添加し、かつ前記のpH値を保持するために50.2%苛性ソーダ溶液4lを同時に添加した。得られた溶液を2^(1/2)時間60℃で撹絆し、ついで以後の濃縮工程に移した。 この操作でつぎの量の原料が使用された:68kg(364モル)のグルタミン酸モノナトリウム、90kg(953モル)のモノクロル酢酸、97l+4lの苛性ソーダ溶液、154kgの50.2%苛性ソーダ、すなわち77.4kgの純苛性ソーダ(1930モル)、グルタミン酸モノナトリウムとモノクロル酢酸により提供された水を含めた水 175.6l。 真空下で濃縮を行い、ついで濃縮物を遠心分離して、N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタンニ酸のトリナトリウム塩を46.2重量%の濃度で含有する本発明の液状組成物204kgを得た。 本発明に従って得られた、“OS_(1)L”と呼ばれる液状組成物はつぎの標準組成を有する液体である。 グルタミン酸 ≦0.2% 全窒素 2%±0.2 アンモニア性窒素 <100ppm 乾燥抽出物 64±1g/l 密度 20℃ 1.475±0.005 ナトリウム % 15%±1 鉄 <100ppm 塩素 2.5±0.5g/l pH(10%に稀釈) 9.2±0.3 粘度 20℃ 8ポイズ±2p 着色(10%に稀釈) ≦ヨード N 錯化力 52mgカルシウム/g 濃度 % ≧ 45%溶液 」 1i 第6頁20行?58行(全訳第9頁第15行?同頁下から2行) 「実施例3 実施例1および2に従う製造物の金属イオンの封鎖力に関する有効性を、石鹸水式硬度測定法(hydrotimetric liquor method)によって測定した。それは、金属イオン封鎖剤の添加量の関数としてハイドロチメーター硬度(hydrotimetric degree)の進行曲線を作ることよりなる。液体状または固体状の本発明の組成物による水の軟化力を、種々の金属イオン封鎖剤、すなわちE.D.T.A(エチレンジアミノ四酢酸)、N.T.A.(ニトリロ酢酸)およびT.P.P.(トリポリホスフェート)の水の軟化力と比較した。それは、硬度25(フランス標準硬度)の天然硬水を使用して、硬度を、pH10でアンモニア性緩衝液(25ml/l)中の金属イオン封鎖剤の添加量に対する関数として測定することにより求めた。 第1図は、液体状組成物での測定結果を示す。横軸に1l当りの金属イオン封鎖剤の添加量(g)をプロットし、縦軸に石灰硬度(lime hardness)の度Th(フランス標準硬度)をプロットする。曲線(1)はE.D.T.A.四Na塩の90%溶液、曲線(2)は、N.T.A.三Na塩、曲線(3)は液体状の本発明の組成物、曲線(4)はT.P.P.P.に対応する。 第2図は、固体状の本発明の組成物で得られた結果を示す。横軸に金属イオン封鎖剤の添加量(g/l)、縦軸に石灰硬度の度Thをプロットする。第1図と同様、曲線(1)はE.D.T.A.四Na塩の90%溶液、曲線(2)は、N.T.A.三Na塩、曲線(3)は固体状の該組成物、曲線(4)はT.P.P.に対応する。」 1j 第6頁第59行?第7頁第11行(全訳第9頁最終行?第11頁下から11行) 「実施例4 TERG-O-TOMETER装置を使用して洗浄試験を行った。使用した水の硬度はフランス標準硬度で表わして22°であった。洗浄試験に供する布は、人為的に汚染しかつ標準化された亜麻布であった。下記の参照:EMPA101、KREFELD、ACH、TNO綿布およびTNOポリエステルに対応する標準汚染を一緒に行った。洗浄後、洗浄剤効果を測定し、その結果から、処理により得られた白色度の改善を%で求めた。この目的のために、次の式が用いられた。 白色度の改善% DBF-DBS ×100 DBI-DBS 上記の式において、 DBFは洗浄後の白色度、 DBSは洗浄前の汚染布の白色度 DBIは汚染前の当初の布の白色度 を表わす。 白色度は、緑色フィルターを備えたELREPHO型反射計を使用して反射光の量を測定することにより求めた。 試験結果の表中の夫々の値は、数回の有意な試験の平均値である。 洗浄操作は60℃と90℃で行い、これらの温度は現在使用されている極端な操作温度である。 洗浄剤媒体はつぎの組成を有する。 炭酸ナトリウム: 3g/l 石鹸薄片: 0.25g/l および 0.50g/l ナトリウムトリポリホスフェート(TPP): 0g/l および 3g/l 本発明の金属イオン封鎖剤組成物 (“OS_(1)”で表わされる): 0、1.5、および2g/l 硬度22°の水: 全体が1lとなる量 炭酸ナトリウムと石鹸を含有する簡単な洗浄剤媒体において、組成物OS_(1)(実施例2で調製された組成物からの固形物)を1.5g/l添加することにより硬水中での洗浄が実質的に改善されたことが確認された。同じ結果を得るために、ナトリウムトリポリホスフェートの2倍重量すなわち3g/lを加えることが必要であった。」 1k 第7頁第12行?第8頁第26行(全訳第11頁下から10行?第12頁下から4行) 「実施例5 直上の実施例と異なりかつより複雑な洗浄剤混合物を調製した。詳細には、これらの全ては、石鹸、非イオン界面活性剤、“ビルダー”、過酸化物型の漂白剤および充填剤を含有した。処方は、用いられた金属イオン封鎖剤または金属イオン封鎖混合物の点で異る。洗浄試験はTERGO-O-TOMETER型装置を使用してフランス標準硬度22°の水中で60℃で行った。各洗浄操作において、基本的洗濯水1lあたり8 gの等価物、すなわち洗浄作用を意図される物質の6g/lとペルオクソホウ酸ナトリウムの2g/lを使用した。 用いられた布は、EMPA101、KREFELD、TNO綿布、TNOポリエステル布およびACHのごとき標準予備汚染布であった。洗浄後、直上の実施例で述べた方法で白色度の改善を測定した。 試験した組成物は、つぎの組成(g/溶液l)を有する。 CMCの添加量を僅かに増加させる、すなわち溶液l当り0.10?0.12gまで増加させると、組成物OS_(1)の1.6g/lによる汚染布試料の白色度の改善が、トリポリホスフェート40重量%を含有する溶液で得られるそれと同じであることが判る。 従って、トリポリホスフェートを含有せず、金属イオン封鎖剤がN,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸のナトリウム塩に基づく組成により構成される処方を使用することにより、良好な洗浄を行うことができる。この場合、同じ洗浄効果を達成するのに必要なトリポリホスフェートの重量の半分の重量を使用することが必要である。 上の表の中の数値は、2つの金属イオン封鎖剤、すなわちTPPおよび組成物OS_(1)が、それぞれの有する性質を失うことなく混合して使用され得ることを示す。従って、トリポリホスフェートをその半分重量の組成物OS_(1)により置き換えることにより、洗浄剤中のトリポリホスフェートの通常の量の1/2?3/4だけ減少させることができる。」 1l 第8頁第28行?第9頁第10行(全訳第12頁下から3行?第14頁第4行) 「実施例6 本実施例の目的は、アルカリ性媒体中の重金属に対する、実施例2で得られた組成物OS_(1)の金属イオン封鎖特性を示すことである。 鉄および銅のごときある種の金属の存在は、過酸化物塩の分解を触媒し、その結果セルロースの化学的分解を起こすことが知られている。この弊害を防止するために、通常、洗浄媒体中に金属イオン封鎖剤が使用される:しばしば使用される処方は、珪酸マグネシウムと、NTAまたはEDTA型の有機酸のナトリウム塩との混合物を含有するが、後者は河川の動物相に対して毒性があると考えられている。 これらの試験は、漂白綿布(EMPA)または未漂白綿布(cretonne)からなる布をTERG-O-METER型装置中で90℃で継続的に洗浄することにより行った。セルロースの分解の測定はAFNOR規格No.12-005に従って行った。 使用した基本の洗浄剤はペルオクソホウ酸化合物を含まない市販の洗浄剤であり、この洗浄剤に溶液の各6gに2gのペルオクソホウ酸ナトリウム四水和物を添加した。 試験を行うにあたっては、更に、1%(上記ペルオクソホウ酸塩を含む全体洗浄剤に対して)の珪酸マグネシウムと、EDTAかまたは組成物OS_(1)のいずれかとを含有する混合物を使用した。また、操作を開始する際に、洗濯浴に触媒量の重金属、すなわち 銅、Cu^(++ )として:0.5ppm 鉄、Fe^(+++)として:1.5ppm を添加した。 結果を下記の第IV表に示す。 組成物OS_(1)の5%の添加は、EDTAまたはNTA型の誘導体を含有する慣用処方を使用する場合よりセルロースの保護が良好であることが見られ、これは、布の摩耗が少なくなることに加え、環境に対して有害な物質を含有しない洗浄廃水が得られるという利点を提供する。」 1m 第9頁第12行?第27行(全訳第14頁第6行?第12行) 「1.N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸又はその塩を含有する、無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物であって、該酸又はその塩はモノクロル酢酸の溶液とアルカリの溶液をグルタミン酸またはグルタミン酸モノまたはジナトリウム塩の水溶液に同時に添加することにより得られ、ここで(a)該アルカリは反応媒体のpHが8?10に維持される量で使用され;(b)反応は50?100℃の範囲の温度で行われ、かつ;(c)グルタミン酸のモル当たり2.4?2.7モルのモノクロル酢酸が使用される、上記金属イオン封鎖剤組成物」 1n 表1,2 「 」 2 特開昭50-3979号公報(甲第2号証)について 特開昭50-3979号公報(甲第2号証。以下、「甲2」という。)は、昭和50年 1月16日に頒布されたものであって、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であることは明らかである。 そして、甲2には、以下の事項が記載されている。 2a 特許請求の範囲 「モノクロル酢酸とアミノジカルボン酸のジナトリウム塩とをアルカリ性水性媒体中で反応させることによりアミノジカルボン酸のアミノ基の窒素にカルボキシメチル基を結合させて得られるL-またはDL-N,N-ジカルボキシメチルアミノ酸誘導体を含有することを特徴とする無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物。」 2b 第2頁右上欄第6行?第15行 「本発明によれば、N,N-ジカルボキシメチルアミノ酸の誘導体を含有する生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物は、モノクロル酢酸とアミノジカルボン酸のジナトリウム塩とをアルカリ性水性媒体中で反応させることによりアミノジカルボン酸のアミノ基の窒素原子にカルボキシメチル基を結合させることにより製造される。 本発明を実施するにあたつてはアミノジカルボン酸としてグルタミン酸とアスパラギン酸を使用することが特に好ましい。」 2c 第2頁左下欄第3行?第3頁右上欄第10行 「本発明による反応はアルカリ性水性媒体中での置換反応であり、つぎの図式で表わされる。 グルタミン酸のα-アミノ基の2個の水素原子がモノクロル酢酸から生ずる2個のカルボキシメチル基により置換される。 アミノジカルボン酸のアミノ基を2個のカルボキシメチル基により置換した誘導体を高収率で得ることが困難である本質的原因の一つは、モノクロル酢酸が加水分解することである。すなわちこの二次的反応によりグリコール酸ナトリウムが生成する[反応式(2)参照]。従つてこの欠点を防止するためには(1)式の反応が行われ、(2)式の反応が起らないように、遊離のモノクロル酢酸の存在下で前記の置換反応を行いかつアルカリ性化合物のみを徐々に添加することが必要である。実際に、この二つの反応の相対的な反応速度は遊離のOH基の濃度により影響される。 前記置換反応を弱アルカリ性pH値で行うことにより、(2)式の加水分解反応を最少に減少させ得ることを認めた。従つて前記した二次的反応を考慮した場合、反応時、pHを8?10好ましくは9?9.7に保持して反応を行うことが有利である。これらの条件下において得られる収率は、使用したモノクロル酢酸に対して理論値の75%以上であり、グルタミン酸塩に関してはほとんど100%に近い。 従来既知の方法と異り、pHの調整のためにアルカリ土金属化合物を使用することは有利でなく、アルカリ金属化合物、特に濃厚なアルカリ溶液(lye)の形のカセイソーダ(soda)を使用することが有利である。 反応剤は水性媒体中で反応させ得る。この目的のために軟水または脱塩水または場合により蒸溜水でも使用し得る。 式(1)の反応の反応速度は式(2)の反応の反応速度より温度の上昇により大きくなるので、反応は70?100℃好ましくは80?90℃の温度で行われる。 出発原料としては、廉価でかつ豊富に入手し得るグルタミン酸モノナトリウムを使用することが有利であるが、グルタミン酸自体も使用し得る。 起り得る加水分解[(2)式]で消費される量を補填するためにモノクロル酢酸を過剰に使用して反応を行うことが有利である。従つてグルタミン酸1モルに対し2.4?2.7モル、好ましくは2.7モルのモノクロル酢酸を使用して反応を行う(前者と後者の理論モル比は1/2である。) グルタミン酸ジナトリウム溶液にモノクロル酢酸の溶液とカセイソーダ(soda)の溶液を同時に添加することによりカルボキシメチル基の置換反応を行うことが有利である。 反応の終了はつぎの試験により判定する: (1) 金属と結合した塩素(mineralised chlorine)の定量 (2) 錯化力(complexing power)の電位的測定 (3) ニンヒドリンによる-NH_(2)または-NHR基の定量」 2d 第3頁右上欄第11行?同頁左下欄第13行 「粗生成物を単離することが可能であり、このものは直接液体の形で、あるいは得られた溶液を噴霧することにより使用し得る。50%に近い乾燥物含有量を有するこの溶液を熱空気流中に噴霧し白色粉末を得ることができる。 本発明の方法は連続的に行うことが有利であり、これによつて比較的大きな規模で生産が行われるので設備費用が減少しまた原価が低下するという工業的に非常に大きな利点が得られる。 噴霧操作により得られる粉末をつぎの方法により精製することができる。 (1)濃塩酸により酸性化してpHを3とし、噴霧し、アセトンにより乾燥製品を抽出し、ついで抽出物を濃縮して乾燥する。得られる油状物をメタノールで処理し、ついで金属イオン封鎖力に応じて95%の純度を有する目的生成物を晶出させる。 (2)強酸性カチオン樹脂に吸着させ、カセイソーダ(soda)で溶出させ、ついで濃縮する。得られる油状物をエタノールで処理し、ついで目的生成物を晶出させる。 目的生成物の純度は、金属イオン封鎖力に応じて96?98%とする。」 2e 第3頁左下欄第14行?第5頁右上欄第19行 「本発明の金属イオン封鎖剤組成物はアルカリ土金属イオンに対してばかりでなく重金属イオンに対しても顕著な封鎖性を示し、この封鎖性は従来得られた金属イオン封鎖性より良好であり、その結果つぎに示す分野において極めてすぐれた工業的利点が得られかつ広く利用し得る。 -イオン交換塔の金属の分離、 -金具の処理および金属表面の脱脂、 -放射性表面の浄化 -織物の処理 -洗浄剤、洗濯用水(lyes)および陶器の洗浄に使用する製品の調製 -香料および化粧品への利用 -牛乳製品製造工業への利用」 本発明の金属イオン封鎖剤組成物はその封鎖機能を完全に発揮する。この組成物は、水溶液中、特にアルカリ性緩衝媒体中で通常沈澱を生ずる化学物質の存在下でカチオン(Ca,Mg,Li,Fe等)の可溶性鎖体を形成する。 本発明の封鎖剤組成物は沈殿反応以外の反応においてカチオンの化学的活性を封鎖しあるいは変性するのにも使用し得る。特に硬水中のナトリウム石鹸溶液に添加された本発明の封鎖剤組成物は洗浄作用を低下させるカルシウムイオンと錯体を形成する。すなわち本発明の封鎖剤組成物はカチオンを不活性化する作用を行う他に、石鹸の洗浄作用を向上(potentialise)させる。・・・本発明の封鎖剤組成物は家庭用または工業用の洗浄剤混合物に有利に使用し得る。市販されている液体の形または粉末の形の洗浄剤の多くは、実際に金属イオン封鎖剤を含有しており、・・・(中略)・・・洗浄剤中に使用する“TPP”に代るものとして、他の有機化合物、特にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のナトリウム塩、・・・が提案されている。・・・(中略)・・・更に、この種の洗浄剤組成物は広いpH領域、特に中性またはアルカリ性媒体中でその全ての性質を保持すること、特にその金属イオン封鎖作用は通常の洗浄剤媒体のアルカリ度に相当するpH8?11において最大であることが確認されている。」 2f 第5頁左上欄第20行?同頁右上欄第5行 「金属イオン封鎖剤としてアミノ酸のN,N-ビス-ジカルボキシメチル化誘導体を含有する全ての洗浄剤の特徴は、りんの含有量が低いかあるいは全くりんを含有していないこと、生物学的に易分解性であることおよび湖や河川の動・植物に対し毒性がないことである。」 2g 第5頁右上欄第8行?同頁左下欄第1行 「全ての試験において、モノクロル酢酸とグルタミン酸のナトリウム塩とをアルカリ性媒体中でかつ前記したごとき条件下で反応させて得られた金属イオン封鎖剤組成物を使用した。 かく得られたOS_(1)と呼ばれる金属イオン封鎖剤組成物はつぎの成分からなる。 N,N-ビス-カルボキシメチルグルタメート、ナトリウム塩 60重量% グリコール酸ナトリウム 12重量〃 塩 全体が100%となる量 上記組成物は見掛密度0.56の白色粉末である。上記の生物学的易分解性組成物は無毒性であり、目や皮膚に有害な刺戟を与えない。」 2h 第5頁右下欄第20行?第6頁右上欄第7行 「実施例1 N,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸の製造 1870g(10モル)のグルタミン酸モノナトリウム-水塩を2.5lの水と0.53lのカセイソーダ溶液(10モル)とからなる水溶液中に溶解した。これを溶液Aとする。この溶液中に2.5lの水に溶解した2570g(27モル)のモノクロル酢酸の溶液と19Nカセイソーダ溶液(57モル)とを、反応媒体の温度を80?90℃に保持しながら、1 1/2時間で、そのpHが8?9に保持されるように同時に添加した。 N,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸の収率は97?100%であつた。モノクロル酢酸の過剰量を減少させると収率が低下した。 モノクロル酢酸の過剰量 0 5% 10% 35% 収率 76% 92% 95.5% 97?100% 一方、第2の置換については最小で8のpHが必要であつた。 この溶液を微細化処理することにより、N,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸のナトリウム塩(47%酸型)を60重量%含有し、G.SCHWARZENBACHおよびH.FLAXHKA[Methuen and Co.Ltd 1969(GB)]の報文記載の方法(第174頁、錯滴定法)で測定した金属イオン封鎖力が6.9%の白色粉末を得た。この組成物は14%の塩化ナトリウムと12%のグリコール酸ナトリウムとを含有していた。」 2i 第6頁右上欄第8行?同頁右下欄第15行 「実施例2 68Kg(364モル)のグルタミン酸モノナトリウムと74lの水を、ジヤケツト付反応器に装入した。二重ジヤケツトにより温度を50℃に上昇させついで50.2%カセイソーダ溶液4lを添加してpHを9.12に調整した。ついでモノクロル酢酸の溶液と50.2%カセイソーダ溶液とを、つぎの2つのパラメーター;9.2?9.5のpHと70?75℃の温度に注意しながら同時に添加した。 14時間操作して78lのモノクロル酢酸溶液と93lのカセイソーダを添加した後、得られた反応溶液を30分間撹絆して混合しついで測定を行つた。測定の結果、N-カルボキシメチル-LまたはDL-グルタミン酸が存在することが判つた。5Kgのモノクロル酢酸を4lの水に溶解した溶液を調製し、ついでこの溶液を55?60℃で前記反応混合物に添加しついで前記のpH値を保持するため50.2%カセイソーダ溶液4lを同時に添加した。得られた溶液を2^(1/2)時間60℃で撹絆し、ついで以後の濃縮工程に移した。 この操作でつぎの量の原料が使用された。68Kg(364モル)のグルタミン酸モノナトリウム、90Kg(953モル)のモノクロル酢酸、97l+4lのカセイソーダ溶液、154Kgの50.2%カセイソーダ、すなわち77.4Kgの純カセイソーダ(1930モル)、グルタミン酸モノナトリウムとモノクロル酢酸により提供された水、175.6l。 真空下で濃縮を行い、ついで濃縮物を遠心分離して、N,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸のトリナトリウム塩を46.2重量%の濃度で含有する本発明の液状金属イオン封鎖剤組成物204Kgを得た。 本発明の方法に従つて得られる、“O-S_(1)L”と呼ばれる液状組成物はつぎの標準組成を有する。 未反応グルタミン酸 ≦0.2% 全窒素 2%±0.2 アンモニア性窒素 <100ppm 乾燥抽出物 64±1 密度 20℃ 1.475±0.005 ナトリウム % 15%±1 鉄 <100ppm 塩素 2.5±0.5 pH(10%に稀釈) 9.2±0.3 粘度 20℃ 8ホロイズ±2p 着色(10%に稀釈) ≦ヨード N 錯化力 52mgカルシウム/g 濃度”OS_(1)(トリナトリウム)”% ≧ 45%溶液 」 2j 第6頁右下欄第16行?第7頁右上欄第9行 「実施例3 実施例1および2で得られた金属イオン封鎖剤組成物の金属イオン封鎖力の効率を、石鹸水式硬度測定法(hydrotimetric Liquor metod)によつて測定した。この方法においてはハイドロチメーター硬度(hydrotimetric degree)は、金属イオン封鎖剤の添加量の関数として曲線で表わすことにより得られる。液体状または固体状の本発明の金属イオン封鎖剤組成物による水の軟化力を種々の金属イオン封鎖剤、すなわちE.D.T.A(ethylene diamine tetraacetic acid)、N.T.A.(nitrilotriacetic acid、およびT.P.P.(tripolyphospate)の水の軟化力と比較した。軟化力は、硬度25(フランス標準硬度)の天然硬水を使用して、硬度をpHが10のアンモニア性緩衝液(25ml/l)中の金属イオン封鎖剤の添加量に対する関数として表わすことにより求めた。 第1図は本発明の液体状金属イオン封鎖剤組成物と他の金属イオン封鎖剤の軟化力の測定結果を示す。第1図において横軸は水1l当りの金属イオン封鎖剤の添加量(g)を表わし、縦軸は石灰硬度(lime hardness)の度数(フランス標準硬度)を表わす。曲線(1)はE.D.T.A.四Na塩の90%溶液、曲線(2)は、N.T.A.三Na塩、曲線(3)は液体状の本発明の金属イオン封鎖剤組成物、曲線(4)はT.P.P.P.についての測定結果を表わす。 第2図は本発明の固体状金属イオン封鎖剤組成物と他の金属イオン封鎖剤の軟化力の測定結果を示す。横軸に金属イオン封鎖剤の添加量(g/l)、縦軸は石灰硬度の度数を表わす。第1図と同様、曲線(1)はE.D.T.A.四Na塩の90%溶液、曲線(2)は、N.T.A.三Na塩、曲線(3)は固体状の本発明の金属イオン封鎖剤該組成物、曲線(4)はT.P.P.についての測定結果を表わす。」 2k 第7頁右上欄第10行?第8頁左上欄第7行 「実施例4 TERG-O-TOMETER装置を使用して洗浄試験を行つた。使用した水の硬度はフランス標準硬度で表わして22°であつた。洗浄試験に供する布として、人為的に汚染しかつ標準化された(standardised)亜麻布を使用した。標準汚染布(standard soilings)すなわちEMPA101、KREFELD、ACH、TNO綿布およびTNOポリエステル布を平行的に試験した。洗浄後洗浄効果を測定し、その結果から洗浄処理により得られる白色度の増加率を%で求めた。この白色度の増加率はつぎの式により求めた。 白色度の増加率% DBF-DBS ×100 DBI-DBS 上記の式において、 DBFは洗浄後の白色度、 DBSは洗浄前の汚染布の白色度 DBIは汚染前の布の元の白色度 を表わす。 白色度は、緑色フイルターを備えたELREPHO型回折計を使用して回折光の量を側定することにより求めた。 試験結果を示す表中の白色度の値はいずれも数回の試験結果の平均値である。 洗浄操作は60℃と90℃で行つたが、この温度は現在使用されている最も極端な洗浄温度である。 洗浄媒体としてはつぎの組成を有するものを使用した。 炭酸ナトリウム ・・・3g/l 石鹸片 ・・・0.25g/l,0.50g/l ナトリウムトリポリホスフエート(TPP) ・・・0,3g/l 本発明の金属イオン封鎖剤組成物 (“OS_(1)”で表わされる) ・・・0,1,1.5,2g/l 硬度22°の水 ・・・全体が1lとなる量 上記の表から、炭酸ナトリウムと石鹸を含有する簡単な洗浄媒体の場合、”金属イオン封鎖剤組成物OS_(1)”を1.5g/l添加することにより硬水中での洗浄が実質的に改善されることが明らかである。同様の効果を得るためにナトリウムトリポリホスフエートは2倍量すなわち3g/lが必要である。」 2l 第8頁左上欄第8行?第9頁左上欄第4行 「実施例5 ・・・(略)・・・ 試験に使用した洗浄剤組成物はつぎの組成物有する。各成分の使用量は洗浄剤組成物溶液/1l当りのg数を表わす。 ・・・(略)・・・ 従つて、トリポリホスフエートを全く含有しない、金属イオン封鎖剤がN,N-ビス-ジカルボキシメチルグルタミン酸のナトリウム塩からなる組成物である洗浄剤組成物を使用することにより非常に良好な洗浄を行うことができる。この場合、同様な漂白を行うのに必要なトリポリホスフエートの半量の本発明の組成物を使用することが必要である。 第III表の結果から、2つの金属イオン封鎖剤、すなわちTPPおよび”組成物OS_(1)”とを混合してそれぞれの有する性質を失うことなく使用し得ることも判る。従つて本発明の金属イオン封鎖剤組成物によりその半分を置換することにより洗浄剤組成物中のトリポリホスフエートの含有量をその通常の含有量の1/2?3/4まで減少させることができる。」 2m 第9頁左上欄第5行?第9頁右下欄第10行 「実施例6 本実施例はアルカリ性媒体中の重金属に対する”組成物OS_(1)”の金属イオン封鎖力を示す。・・・(略)・・・ 結果を第IV表に示す。 DP =重合度 EDTA=エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩 +OS =本発明の金属イオン封鎖剤組成物 第IV表の結果から、”組成物OS”を5%添加することにより、EDTAまたはNTA型の誘導体を含有する慣用組成物を使用する場合よりセルロースの保護が良好であり、従つてこの場合、布の摩耗が少なくなることの他に、河川、湖沼に対して有害な生成物を含有しない洗浄廃水が得られるという利点がある。」 2n 第11頁 「 」 3 特開平7-238299号公報(甲第3号証)について 特開平7-238299号公報(甲第3号証。以下「甲3」という。)は、平成 7年 9月12日に頒布されたものであって、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であることは明らかである。 そして、甲3には、以下の事項が記載されている。 3a 「【特許請求の範囲】 【請求項1】アルカリ金属水酸化物、グルコン酸塩およびヒドロキシエチルイミノジ酢酸塩を有効成分として含有することを特徴とする硬表面洗浄用組成物」 3b 「【0008】アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウムあるいは水酸化カリウム等であり、通常水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。本発明の組成物におけるアルカリ金属水酸化物の水溶液の濃度は、被洗浄物の汚れの程度、あるいは強いアルカリ性を嫌う被洗浄物等の種類、洗浄目的あるいは被洗浄物の材質等を考慮して通常は、1?5%程度の濃度範囲から適宜選択される。また、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸塩およびグルコン酸塩は、このアルカリ金属水酸化物100重量部に対して、通常0.5?30重量部の割合で配合して用いられる。」 4 特開昭59-133382号公報(甲第4号証)について 特開昭59-133382号公報(甲第4号証。以下「甲4」という。)は、昭和59年 7月31日に頒布されたものであって、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であることは明らかである。 そして、甲4には、以下の事項が記載されている。 4a 特許請求の範囲 「(1)アルミニウム容器の表面を洗浄及びエツチングする為の方法にして、約6?12g/lのアルカリ金属水酸化物と約3?6g/lのキレート剤から実質上成る希釈アルカリ性水溶液を約80?130°Fの昇温下で前記表面にスプレイして清浄な光輝表面を形成することを特徴とするアルミニウム容器洗浄及びエッチング方法。」 4b 第2頁右下欄第5行?第13行 「キレート剤は使用中溶液中に累積するアルミニウムの析出を抑制する為溶液に含められる。適切なキレート剤としては、ソルビトール、グルコン酸、グルコヘプチル酸(グルコエナント酸)、マンニツト、アスコルビン酸、ソルボーズ、タンニン酸、エチレンジアミン四酢酸、グルコン酸クロムナトリウム、ジグリコール酸、ピコリン酸、アスパラギン酸、ジチオオキサミド、d-グルコノラクトン、及び1-ラムノースが挙げられる。」 5 特開昭61-188500号公報(甲第5号証)について 特開昭61-188500号公報(甲第5号証。以下「甲5」という。)は、昭和61年 8月22日に頒布されたものであって、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であることは明らかである。 そして、甲5には、以下の事項が記載されている。 5a (特許請求の範囲) 「2.(a)下記の一般式(I)、(II)または(III)で表される化合物の1種または2種以上からなるジカルボン酸系界面活性剤、 ・・・(中略)・・・ (b)キレート剤および (c)アルカリ剤 を含有することを特徴とするアルカリ洗浄剤」 5b 第2頁左下欄第17行?同頁右下欄第1行 「(b)成分のキレート剤としては、特に限定されず従来と同様のものが用いられ、たとえば、ポリアクリル酸塩、ポリマレイン酸塩、エチレンジアミンテトラ酢酸塩、グルコン酸塩、ニトリロトリ酢酸塩などが例示される。」 5c 第3頁右上欄第9行?同頁左下欄第3行 「(c)成分のアルカリ剤としては、従来と同様のものが使用でき、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、メタ珪酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなどが例示される。 (a)、(b)、(c)成分の配合量は次の通りである。 好適な範囲 より好ましい範囲 (a)成分:5?30重量部 10?20重量部 (b)成分:0.1?20重量部 0.5?10重量部 (c)成分:5?94重量部 5?94重量部 本発明のアルカリ洗浄剤は液体および粉体のような固体のいずれの形態もとることができる。液体洗浄剤の場合は、固形分濃度45%以下とすることが好ましい。」 6 特表平5-502683号公報(甲第6号証)について 特表平5-502683号公報(甲第6号証。以下「甲6」という。)は、平成 5年 5月13日に頒布されたものであって、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であることは明らかである。 そして、甲6には、以下のの事項が記載されている。 6a 特許請求の範囲 「1.概略 0.1?5.0重量部の水溶性カチオン系界面活性剤、 0.1?5.0重量部の少なくとも1種のノニオン系界面活性剤、 0.5?15重量部の少なくとも1種のキレート化剤、 10?1000重量部の水、及び 洗浄溶液を7.5以上のpHに維持するのに有効な量の少なくとも1種のアルカリ性ナトリウム化合物 のアルカリ性溶液からなる硬質表面用水性洗浄組成物。 2.(中略) 3.ナトリウム化合物が水酸化ナトリウムからなる請求の範囲1の組成物。 4.(中略) 5.(中略) 6.(中略) 7.キレート化剤の少なくとも1つがニトリロ三酢酸である請求の範囲6の組成物。 8.キレート化剤がニトリロ三酢酸とエチレンジアミン四酢酸との混合物である請求の範囲7の組成物。 9.(後略)」 第6 当審の判断 請求人の主張する無効理由の概略を再掲すると、 無効理由1として、本件発明1及び本件発明2はいずれも、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲6の記載に基いて当業者が容易になし得たものであるとの理由及び 無効理由2として、本件発明1及び本件発明2はいずれも、甲2に記載された発明、甲1及び甲3ないし甲6の記載に基いて当業者が容易になし得たものであるとの理由である。 これに対して当審は、本件発明1及び本件発明2についての特許は、請求人の主張する無効理由1及び2のいずれによっても無効とすべきものであるとはいえない、と判断する。 その理由は、以下のとおりである。 1 刊行物に記載された発明 (1)甲1に記載された発明 甲1には、「N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸又はその塩を含有する、無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物であって、該酸又はその塩はモノクロル酢酸の溶液とアルカリの溶液をグルタミン酸またはグルタミン酸モノまたはジナトリウム塩の水溶液に同時に添加することにより得られ、ここで(a)該アルカリは反応媒体のpHが8?10に維持される量で使用され;(b)反応は50?100℃の範囲の温度で行われ、かつ;(c)グルタミン酸のモル当たり2.4?2.7モルのモノクロル酢酸が使用される、上記金属イオン封鎖剤組成物」(摘記1m)が記載されている。 そうすると、甲1には、 「モノクロル酢酸の溶液とアルカリの溶液をグルタミン酸またはグルタミン酸モノまたはジナトリウム塩の水溶液に同時に添加することにより得られ、ここで(a)該アルカリは反応媒体のpHが8?10に維持される量で使用され;(b)反応は50?100℃の範囲の温度で行われ、かつ;(c)グルタミン酸のモル当たり2.4?2.7モルのモノクロル酢酸が使用される、反応によって得られた、N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸又はその塩を含有する、無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物」 の発明(以下、「引用発明1a」という。)が記載されている。 (2)甲2に記載された発明 甲2には、「モノクロル酢酸とアミノジカルボン酸のジナトリウム塩とをアルカリ性水性媒体中で反応させることによりアミノジカルボン酸のアミノ基の窒素にカルボキシメチル基を結合させて得られるL-またはDL-N,N-ジカルボキシメチルアミノ酸誘導体を含有する」、「無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物」(摘記2a)が記載されている。 甲2にはさらに「L-またはDL-N,N-ジカルボキシメチルアミノ酸誘導体」を合成する原料である「アミノジカルボン酸」「としてグルタミン酸とアスパラギン酸を使用することが特に好ましい」こと(摘記2b)が示され、また実施例等において具体的に製造されているものはその「グルタミン酸」を使用した誘導体であることから(2g?2i)、甲2には上記の「L-またはDL-N,N-ジカルボキシメチルアミノ酸誘導体」として「グルタミン酸二酢酸塩類」が示されているといえる。 そうすると、甲2には、 「モノクロル酢酸とアミノジカルボン酸のジナトリウム塩とをアルカリ性水性媒体中で反応させることによりアミノジカルボン酸のアミノ基の窒素にカルボキシメチル基を結合させて得られる、グルタミン酸二酢酸塩類を含有する、無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物」 の発明(以下、「引用発明2a」という。)が記載されている。 2 無効理由1について (1)本件発明1について[その1] (1-1)対比 本件発明1と引用発明1aとを対比する。 引用発明1aの「N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸」の「塩」は、本件発明1の「グルタミン酸二酢酸塩類」に同じである。 そうすると、両者は、「グルタミン酸二酢酸塩類を含有する組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 本件発明1は「アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類」と選択的に規定するのに対し、引用発明1aは「グルタミン酸二酢酸塩類」についてそのように選択的に規定していない点 (相違点2) 本件発明1は「洗浄剤組成物」を規定するのに対し、引用発明1aは「金属イオン封鎖剤組成物」を規定する点 (相違点3) 本件発明1は「水酸化ナトリウム」を含有し、その「配合量」は「組成物の0.1?40重量%」と規定するのに対し、引用発明1aは水酸化ナトリウムの含有を規定していない点 (相違点4) 本件発明1は「グリコール酸ナトリウム」の含有を規定するのに対し、引用発明1aはグリコール酸ナトリウムの含有を規定していない点 (1-2)判断 事案に鑑み、先ず相違点4について検討する。 甲1には、グルタミン酸二酢酸塩類に加えて、グリコール酸ナトリウム等を含有する金属イオン封鎖剤組成物の粗生成物(摘記1c、1f)を、そのまま「金属イオン封鎖剤組成物として直接に使用することが可能である」こと(摘記1b)が、具体例(摘記1i?1l)とともに示されている。 ここで甲1の記載を検討する。 甲1には、金属イオン封鎖剤組成物中にグリコール酸ナトリウムの含有を認める概略以下三点の記載がある。 すなわち、 一点目として、グリコール酸ナトリウムは、グルタミン酸二酢酸塩の合成の「二次的反応」により生ずる化学物質であること(摘記1b)。 二点目として、グリコール酸ナトリウムは、引用発明1の金属イオン封鎖剤組成物の「粗生成物」中に、グルタミン酸二酢酸塩とともに含まれるものであること(摘記1f、1g、1h)。 三点目として、グリコール酸ナトリウム等が含まれた「不純なN,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸又はその塩」を含む「粗生成物」の状態のままで、「金属イオン封鎖剤組成物として直接に使用することが可能である」こと(摘記1b)が具体例とともに示されていること(摘記1i?1l)。 その一方で、甲1には、概略以下二点の記載もある。 すなわち、 一点目として、グルタミン酸二酢酸塩の合成の際にグリコール酸ナトリウムが得られてしまう「二次的反応」は「欠点」であり、その「欠点を防止」するために、グリコール酸ナトリウムが得られる二次的反応に「不利なよう」な合成条件とすること(摘記1a)。 二点目として、グリコール酸ナトリウム等が含まれた「不純なN,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸又はその塩」を含む「粗生成物」は「少なくとも95%純度」にまで「慣用の手段で精製してもよ」いものであること(摘記1b)。 これら記載より、甲1には、金属イオン封鎖剤組成物の粗生成物に含まれる、グルタミン酸二酢酸塩合成反応の二次的反応による不純物であるグリコール酸ナトリウムは、合成反応段階での生成量自体を少なくしようとするものとして、かつ、精製により除去されるものとして、示されているといえる。 また、甲1には、その金属イオン封鎖剤組成物において金属イオン封鎖力のある成分としての認識が示されているのは「N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノペンタン二酸」またはその「塩」のみである(摘記1d、1f)。 まとめると、甲1においてグリコール酸ナトリウムとは、金属イオン封鎖剤組成物に不純物として含有されており、これを含有したまま金属イオン封鎖剤組成物として使用してよい成分であることは示されているが、金属イオン封鎖剤組成物において金属イオン封鎖力のある成分として必須の成分ではなく、合成の際に減らされるべき副生物であり、かつ、精製により除去される成分としての認識しか示されていないものである。 そうすると、甲1には、そのグリコール酸ナトリウムは、金属イオン封鎖剤組成物に必要な成分であるとも、金属イオン封鎖剤組成物に含有させることが望ましい成分であるとも、認められる記載はない。 以上のとおりであるので、甲1にはグリコール酸ナトリウムを含んだ金属イオン封鎖剤組成物を粗生成物としてそのまま使用できる点が示されてはいても、甲1が前提としている技術水準に立てば、引用発明1aの金属イオン封鎖剤組成物に対してグリコール酸ナトリウムを加えようとすることは、当業者が通常想到し得る事項であるとはいえない。 また、甲2ないし甲15及び請求人の全主張を参酌しても、引用発明1aの金属イオン封鎖剤組成物に対してグリコール酸ナトリウムを加えようとすることが、本件特許出願の優先日前の技術常識であって当業者が適宜採用し得る事項であるともいえない。 (1-3)まとめ よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、本件特許出願の優先日前に頒布された甲1に記載された発明及び甲2ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件発明1について[その2] (2-1)前提 上記(1-2)において、たとえ、甲1には粗生成物としてグリコール酸ナトリウムを含んだ金属イオン封鎖剤組成物をそのまま用いることができるとの記載があり、粗生成物のまま用いた実施例において効果が確認されており、甲1の記載を参照しても引用発明1aの金属イオン封鎖剤組成物にグリコール酸ナトリウムが含有されていて問題があるとも認められないことから、引用発明1aの金属イオン封鎖剤組成物をグリコール酸ナトリウムを含むものとすることは当業者であれば適宜なし得る事項であったとしても、以下のとおり、本件発明1は、本件特許出願の優先日前に頒布された甲1に記載された発明及び甲2ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 その理由を以下に示す。 (2-2)対比 本件発明1と引用発明1aとの対比は、上記(1-1)にて行ったとおりであり、一致点及び相違点も上記(1-1)に示したとおりである。 (2-3)判断 ア 相違点4について 上記(2-1)に示したとおり、当業者であれば適宜なし得る事項であると仮定した。 イ 相違点1について 本件発明1の相違点1に係る構成は、「アスパラギン酸二酢酸塩類」を含有する構成、「アスパラギン酸二酢酸塩類及びグルタミン酸二酢酸塩類」を含有する構成、及び「グルタミン酸二酢酸塩類」を含有する構成の、三類型を選択的に規定するものである。 このうち、「グルタミン酸二酢酸塩類」を含有する類型は、上記(1-1)に示したとおり、引用発明1aに記載されたものであり両者は一致しているので、相違点には当たらない。 アスパラギン酸二酢酸塩類を含む他の二類型については、引用発明1aに規定されていないので、以下この点について検討する。 引用発明1aは、上記1の(1)に示したとおり、「モノクロル酢酸の溶液とアルカリの溶液をグルタミン酸またはグルタミン酸モノまたはジナトリウム塩の水溶液に同時に添加することにより得られ、ここで(a)該アルカリは反応媒体のpHが8?10に維持される量で使用され;(b)反応は50?100℃の範囲の温度で行われ、かつ;(c)グルタミン酸のモル当たり2.4?2.7モルのモノクロル酢酸が使用される、反応によって得られた、N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸又はその塩」を含有する組成物に係る発明である。 甲1と同じ優先基礎出願を有する甲2には、引用発明1aと同様の反応による、「モノクロル酢酸とアミノジカルボン酸のジナトリウム塩とをアルカリ性水性媒体中で反応させることによりアミノジカルボン酸のアミノ基の窒素にカルボキシメチル基を結合させて得られるL-またはDL-N,N-ジカルボキシメチルアミノ酸誘導体を含有することを特徴とする無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物」(摘記2a)について、発明の詳細な説明にはその「アミノジカルボン酸としてグルタミン酸とアスパラギン酸を使用することが特に好ましい」(摘記2b)ことが示されている。 よって、引用発明1aのグルタミン酸二酢酸塩類に替えて、甲2を参照し、アスパラギン酸二酢酸塩類とした、又はアスパラギン酸二酢酸塩類及びグルタミン酸二酢酸塩類とした、金属イオン封鎖剤組成物とすることは、当業者が適宜になし得たことである。 ウ 相違点2について 本件発明1の「洗浄剤」につき、その意味するところを確認すると、本件特許明細書には、「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、洗浄剤に関し、特に食品工業をはじめとする各種工業プロセスの硬表面の洗浄に用いられる洗浄剤に関する。」との記載があり、特に食品工業をはじめとする各種工業プロセスの硬表面の洗浄に用いられる洗浄剤であるものと認められる。 これに対し、引用発明1aが記載されている甲1には、「本発明の組成物は、アルカリ性剤に関してばかりでなく重金属イオンに対しても顕著な金属イオン封鎖性を示し、この封鎖性は従来得られた金属イオン封鎖性よりもはるかに良好であり、その結果つぎに示す分野において極めてすぐれた工業的利点および用途が生じる。」として「洗浄剤、洗濯用水(lyes)、および陶器の洗浄に使用する製品の調製」や「牛乳工業での利用」が示されるところ(摘記1c)、その「洗浄剤、洗濯用水(lyes)、および陶器の洗浄に使用する製品」の「調製」に用いることとは「洗浄剤」の一成分とすることができることを示唆するものであり、またその「牛乳工業」に用いることとは正に本件発明1が想定している「食品工業」のことである。そして、金属イオン封鎖剤は、その金属イオン封鎖(キレート生成)により洗浄剤の作用を発揮させるものであることは周知である。 そうすると、引用発明1aである「金属イオン封鎖剤組成物」を牛乳工業等の用途に利用するために、その金属イオン封鎖剤組成物を含有する「洗浄剤組成物」とすることは当業者が容易に想到し得ることである。 エ 相違点3について 甲3ないし甲6にはそれぞれ、第3級アミン誘導体であるキレート剤及び水酸化ナトリウムを含有する洗浄剤が示されていることから、第3級アミン誘導体であるキレート剤を含有する洗浄剤において、水酸化ナトリウムを用いることは、本件特許出願の優先日前に周知技術であったといえる。 そうすると、引用発明1aの金属イオン封鎖剤組成物を洗浄剤組成物とする際に、「第3級アミン誘導体であるキレート剤」にほかならない引用発明1aの「N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸又はその塩」に対して、水酸化ナトリウムを添加した洗浄剤組成物とすることは、当業者であれば容易になし得る事項である。 また水酸化ナトリウムの含有量について検討するに、本願発明1の具体例である実施例はいずれも5重量%の含有量であるが、その程度の含有量は上記の周知の洗浄剤において通常採用される程度の含有量であるので(甲3摘記3b、甲5摘記5c、甲6摘記6a等参照)、本件発明1程度の含有量は当業者であれば通常採用する程度の事項であって格別ではない。 オ 相違点1?4についてのまとめ 以上のとおりであるので、相違点4を仮に当業者であれば適宜なし得る事項であるとするならば、引用発明1aにおいて相違点1?4に示した本件発明1の構成を取ることについては、引用発明1a、甲1ないし甲2の記載及び甲3ないし甲6に示される周知技術より、一応、当業者が容易になし得たものであるとはいえるかもしれない。 (2-2)効果について 本件発明1の効果について検討する。 本件特許明細書には、「【0025】【発明の効果】」として「本発明の洗浄組成物は、エチレンジアミン四酢酸含有洗浄剤と同等の洗浄効果を示し、かつその処理排水は微生物で容易に生分解処理できる。また、反応条件を選ぶことによって、アミノジカルボン酸塩のカルボキシメチル化反応の生成物をそのまま、または簡単な精製処理で使用できる有利さがある。」ものである点が示されている。 また本件特許明細書には、そのような効果が、「主成分にアルカリ金属水酸化物とアミノジカルボン酸二酢酸塩類及びグリコール酸塩類を混合した洗浄剤」とすることで得られたこと、「この三成分を主成分とする洗浄剤の洗浄性能はそれぞれの相乗効果によりその単独でのものより優れた効果を現し、その効果は従来より広く使用されているEDTA塩類を主成分とする洗浄剤と同等の洗浄性を示すことを見出した。また、その洗浄剤組成物は生分解性に優れ、微生物で容易に分解でき環境の保全に有効である」点(【0005】)が示されるとともに、実施例1?7及び比較例1?4の洗浄効率を確認した試験の結果が表1(【0022】)にまとめられ、実施例8?9で生物分解テストがなされている(【0023】?【0024】)。 さらに、上記の「洗浄剤の洗浄性能」について、本件特許明細書【0005】、【0008】には、グリコール酸ナトリウムが洗浄組成物の主成分の一つであることが示される。そして、「三成分を主成分とする洗浄剤の洗浄性能」を確認した試験結果は【0022】の表1にまとめられており、例えばその実施例6と比較例3を対比すると、水酸化ナトリウム、グルタミン酸二酢酸塩及びグリコール酸ナトリウムの三成分を含む組成物が、水酸化ナトリウム及びグルタミン酸二酢酸塩の二成分を含みグリコール酸ナトリウムを含まない組成物に比べて、洗浄性能が良いという結果が示されている。 これに対して、甲1には、金属イオン封鎖剤組成物が「N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸又はその塩」を含有することで「無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物」となる点(摘記1m、1f)、N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸又はその塩を得る反応の生成物は二次的反応によるグリコール酸ナトリウムも同時に含むものであり、粗生成物のまま金属イオン封鎖剤組成物として用いることができる点(摘記1b、1g、1h)、EDTA(エチレンジアミノ四酢酸)の四ナトリウム塩やNTA(ニトリロ酢酸)の三ナトリウム塩よりも金属イオンの封鎖力が良好であり(摘記1i)、EDTA(エチレンジアミノ四酢酸)の四ナトリウム塩を含有する洗濯洗剤と比してセルロース保護の点で良好である点(摘記1l)等が示される。 よって、上記の「エチレンジアミン四酢酸含有洗浄剤と同等の洗浄効果」、「生分解処理」可能性、「反応」の「生成物をそのまま、または簡単な精製処理で使用できる」という本件発明1の効果は、甲1に既に記載されたものであるか又は示唆されたものであるといえる。 しかしながら、甲1ないし甲6には、グリコール酸ナトリウムを洗浄組成物の主成分の一つ、すなわち洗浄性能に関与する成分と認識することについて記載も示唆もなく、グリコール酸ナトリウムを含む上記の「三成分」を含む「洗浄剤の洗浄性能」が、グリコール酸ナトリウムを含まない上記の「二成分」を含む「洗浄剤の洗浄性能」よりも「良い」ものであることについての記載も示唆もない。 また、請求人が提出した平成24年 2月20日付け上申書(2)第4頁第18行?第20行において請求人は、甲12の記載より「カルシウムを除去するための特定のキレート剤と共にグリコール酸ナトリウムをpH14以下で用いると、前者キレート剤の作用を阻害しないどころか、相乗効果を達成することが知られていた。」と主張するが、甲12にはそのように認められる事項は記載されていない。 その余の請求人の提出した証拠方法及び全主張によっても、グリコール酸ナトリウムを洗浄剤組成物に含有させることによる本件発明1における洗浄性能向上の効果が予測可能であったということはできない。 そうすると、本件発明1の効果は、甲1ないし甲6の記載より予測できる範囲を超えたものであって、格別のものである。 (2-3)まとめ 以上のとおりであるので、本件発明1は、本件特許出願の優先日前に頒布された甲1に記載された発明及び甲2ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明1について[その3] 請求人は、平成24年 2月 6日付け審判事件上申書第2頁「6.」「I.」に「2.主たる引用発明は、甲第1号証及び甲第2号証記載の組成物OS_(1)です」と主張する。 請求人の本主張に沿って引用発明を認定すると以下の引用発明1bとなるが、主たる引用発明が引用発明1bであったとしても、以下のとおり、本件発明1は、本件特許出願の優先日前に頒布された甲1に記載された発明及び甲2ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3-1)引用発明 ア 甲1には、「表でOS_(1)と呼ばれる組成物」として、「N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸、ナトリウム塩として 60重量%」、「グリコール酸ナトリウム 12重量%」及び「全体が100重量%となる量」の「塩」をその構成成分として含む組成物が示されている(摘記1f)。その「表」とは実施例4等の表であると考えられるが、実施例4には「組成物OS_(1)(実施例2で調整された組成物からの固形物)」とされていることから、上記の「表でOS_(1)と呼ばれる組成物」とは甲1の実施例2に製造例の一部が示されているものといえる。 実施例2の合成例の記載及び得られた組成物(OS_(1))について、甲1の上記引用発明1aの記載に当てはめて記載すると、甲1には、 「モノクロル酢酸の溶液と苛性ソーダの溶液をグルタミン酸モノナトリウム塩の水溶液に同時に添加することにより得られ、ここで(a)該アルカリは反応媒体のpHが9.2?9.5に維持される量で使用され;(b)反応は70?75℃の範囲の温度で行われ、かつ;(c)グルタミン酸のモル当たり2.6モルのモノクロル酢酸が使用される、反応によって得られた、N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノペンタン二酸のトリナトリウム塩60重量%、グリコール酸ナトリウム12重量%及び全体が100重量%となる量の塩化ナトリウムを含む、無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物」 が記載されている。 ところで、甲1に記載の上記組成物(OS_(1))は反応粗生成物であり、「グリコール酸ナトリウム12重量%及び全体が100重量%となる量の塩化ナトリウム」とは、上記(a)?(c)の反応の二次的反応によって生成した不純物である(摘記1b等)。 そうすると、甲1には、 「モノクロル酢酸の溶液と苛性ソーダの溶液をグルタミン酸モノナトリウム塩の水溶液に同時に添加することにより得られ、ここで(a)該アルカリは反応媒体のpHが9.2?9.5に維持される量で使用され;(b)反応は70?75℃の範囲の温度で行われ、かつ;(c)グルタミン酸のモル当たり2.6モルのモノクロル酢酸が使用される、反応によって得られた、N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノペンタン二酸のトリナトリウム塩60重量%を含み、さらに、該反応の二次的反応によって生成した不純物であるグリコール酸ナトリウム12重量%及び全体が100重量%となる量の塩化ナトリウムを含む、無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物」 の発明(以下、「引用発明1b」という。)が記載されているといえる。 イ 請求人は、平成24年 3月 5日付け口頭審理陳述要領書第2頁下から4行?第3頁第2行において、「そもそもOS_(1)にGLDAとグリコール酸ナトリウムが含有されているのであるから、グリコール酸ナトリウムが有効成分として意識されているかどうかということはOS_(1)の構成とは関係がない。」と主張する。請求人の本主張とは、グリコール酸ナトリウムが金属イオン封鎖剤組成物において有効成分として意識されているかどうかを問わずにOS_(1)の構成のみを引用発明とすべきである旨の主張と解される。 確かに、甲1には金属イオン封鎖剤組成物の粗生成物であるOS_(1)をそのまま用いることができるとの記載があり(摘記1b)、実施例においても粗生成物の製造が示されるとともに粗生成物のまま効果等についての確認がなされている(摘記1g?1l)。 しかしながら、甲1においてはグルタミン酸二酢酸ナトリウム塩以外の成分すなわち「グリコール酸ナトリウム12重量%及び全体が100重量%となる量の塩化ナトリウム」とは、引用発明1aの(a)?(c)の反応の二次的反応によって生成した不純物(摘記1b等)としての認識しか示されていない。 そして、甲1には上に指摘したとおりの認識が示されるものであるから、OS_(1)についての記載から引用発明を認定する際には、上記の認識を前提として引用発明1bを認定すべきであり、グリコール酸ナトリウムが有効成分として意識されているかどうかを問わずに引用発明とすべきである旨の請求人の主張は採用することができない。 (3-2)対比 本件発明1と引用発明1bとを対比する。 引用発明1bの「N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノペンタン二酸のトリナトリウム塩」は、本件発明1の「グルタミン酸二酢酸塩類」に含まれる。 また、引用発明1bの「グリコール酸ナトリウム」も、本件発明1の「グリコール酸ナトリウム」も、化学物質としては同じ物質である。 そうすると、両者は、「グルタミン酸二酢酸塩類及びグリコール酸ナトリウムを含有する組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1’) 本件発明1は「アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類」と選択的に規定するのに対し、引用発明1bは「グルタミン酸二酢酸塩類」についてそのように選択的に規定していない点 (相違点2’) 本件発明1は「洗浄剤組成物」を規定するのに対し、引用発明1bは「金属イオン封鎖剤組成物」を規定する点 (相違点3’) 本件発明1は「水酸化ナトリウム」を含有し、その「配合量」は「組成物の0.1?40重量%」と規定するのに対し、引用発明1bは水酸化ナトリウムの含有を規定していない点 (相違点4’) 本件発明1は「グリコール酸ナトリウム」の含有の位置づけを規定していないのに対し、引用発明1bは「グリコール酸ナトリウム」を「二次的反応によって生成した不純物」として含有するものと規定する点 (3-3)判断 事案に鑑み、先ず相違点4’について検討する。 本件発明1には「グリコール酸ナトリウム」の含有の位置づけが規定されていないが、本件特許明細書を参照すると、グリコール酸ナトリウムは、専ら洗浄組成物の主成分の一つ、すなわち洗浄性能を発揮する成分としての認識が示されているのみである(【0005】、【0008】、【0022】等)。そうすると、本件発明1の「グリコール酸ナトリウム」とは、洗浄組成物の主成分として位置づけられているものであるといえる。 これに対して、引用発明1bには、「グリコール酸ナトリウム」は「二次的反応によって生成した不純物」としての位置づけが規定されるのみであり、甲1ないし甲6の全記載を参照しても、グリコール酸ナトリウムを洗浄剤の主成分すなわち洗浄性能に寄与する成分として含有することについては記載も示唆もない。 また、請求人の提出したその余の証拠方法及び全主張を参酌しても、グリコール酸ナトリウムを洗浄剤の主成分として含有することが、本件特許出願の優先日前の技術常識であって当業者が適宜採用し得る事項であるともいえない。 そして、何らの記載も示唆もない状態で、二次的反応によって生成した不純物として含有されている成分を、洗浄性能を発揮するための主成分の一つとして含有するものとすることは、当業者にとって考えがたいことである。 よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、本件特許出願の優先日前に頒布された甲1に記載された発明及び甲2ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件発明1について[その4] (4-1)前提 上記(3-3)において、たとえ、本件発明1にはグリコール酸ナトリウムの含有の位置づけが規定されていないことから、引用発明1bに規定されるような二次的反応によって生成した不純物としての含有という位置づけであってもこれを文言上は含むものであるから実質的な相違であるとはいえないとしても、以下のとおり、本件発明1は、本件特許出願の優先日前に頒布された甲1に記載された発明及び甲2ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 その理由を以下に示す。 (4-2)対比 本件発明1と本件発明1bとの対比は、上記(3-2)にて行ったとおりであり、一致点及び相違点も上記(3-2)に示したとおりである。 (4-3)判断 ア 相違点4’について 上記(4-1)に示したとおり、実質的な相違であるとはいえないと仮定した。 イ 相違点1’?3’について 相違点1’?3’は相違点1?3に同じであり、その判断内容はそれぞれ上記(2-3)のイ、ウ及びエに示したものと同じである。 ウ 相違点1’?4’についてのまとめ 以上のとおりであるので、相違点4’を仮に実質的な相違であるとはいえないとするときは、引用発明1bにおいて相違点1’?4’に示した本件発明1の構成を取ることについては、引用発明1b、甲1ないし甲2の記載及び甲3ないし甲6に示される周知技術より、一応、当業者が容易になし得たものであるといえるかもしれない。 (4-4)効果について 本件発明1の効果について検討するに、その検討内容は上記(2-2)に示したものに同じであり、本件発明1の効果は、甲1ないし甲6の記載より予測できる範囲を超えたものであって、格別のものである。 (4-5)まとめ 以上のとおりであるので、本件発明1は、本件特許出願の優先日前に頒布された甲1に記載された発明及び甲2ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件発明1についてのまとめ したがって、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないから、無効理由1によっては、無効とすべきものではない。 (6)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の洗浄剤組成物において、その成分の含有量をさらに規定するものであるが、上記(1)?(5)のとおり、本件発明1は甲1に記載された発明及び甲2ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないので、本件発明1を前提とする本件発明2もまた、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、本件発明2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないから、無効理由1によっては、無効とすべきものではない。 (7)無効理由1についてのまとめ 以上のとおりであるので、本件発明1及び本件発明2はいずれも、本件出願の優先日前に頒布された甲1に記載された発明及び甲2ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、本件発明1及び本件発明2についての特許は、いずれも、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないから、無効理由1によっては、無効とすべきものではない。 3 無効理由2について (1)本件発明1について[その1] (1-1)対比 本件発明1と引用発明2aとを対比する。 引用発明2aの「グルタミン酸二酢酸塩類」は、本件発明1の「グルタミン酸二酢酸塩類」に同じである。 そうすると、両者は、「グルタミン酸二酢酸塩類を含有する組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点5) 本件発明1は「アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類」と選択的に規定するのに対し、引用発明2aは「グルタミン酸二酢酸塩類」についてそのように選択的に規定していない点 (相違点6) 本件発明1は「洗浄剤組成物」を規定するのに対し、引用発明2aは「金属イオン封鎖剤組成物」を規定する点 (相違点7) 本件発明1は「水酸化ナトリウム」を含有し、その「配合量」を「組成物の0.1?40重量%」と規定するのに対し、引用発明2aは水酸化ナトリウムの含有を規定していない点 (相違点8) 本件発明1は「グリコール酸ナトリウム」の含有を規定するのに対し、引用発明2aはグリコール酸ナトリウムの含有を規定していない点 (1-2)判断 事案に鑑み、先ず相違点8について検討する。 甲2には、グルタミン酸二酢酸塩類に加えてグリコール酸ナトリウム等を含有する金属イオン封鎖剤組成物の粗生成物(摘記2d、2g)を、そのまま「直接液体の形で、あるいは得られた溶液を噴霧することにより使用し得る」こと(摘記2d)が、具体例(摘記2j?2m)とともに示されている。 ここで甲2の記載を検討する。 甲2には、金属イオン封鎖剤組成物中にグリコール酸ナトリウムの含有を認める概略以下三点の記載がある。 すなわち、 一点目として、グリコール酸ナトリウムは、グルタミン酸二酢酸塩の合成の「二次的反応」により生ずる化学物質であること(摘記2c)。 二点目として、グリコール酸ナトリウムは、引用発明1の金属イオン封鎖剤組成物の「粗生成物」中に、グルタミン酸二酢酸塩とともに含まれるものであること(摘記2c、2d、2h、2i)。 三点目として、グリコール酸ナトリウム等が含まれた「粗生成物」の状態のまま、「直接液体の形で、あるいは得られた溶液を噴霧することにより使用し得る」こと(摘記2d)が具体例とともに示されていること(摘記2j?2m)。 その一方で、甲2には概略以下二点の記載もある。 すなわち、 一点目として、グルタミン酸二酢酸塩の合成の際にグリコール酸ナトリウムが得られてしまう「二次的反応」は「欠点」であり、その「欠点を防止」するために、グリコール酸ナトリウムが得られる二次的反応が「起らないよう」な合成条件とすること(摘記2c)。 二点目として、グリコール酸ナトリウム等が含まれた「粗生成物」は「95%」あるいは「96?98%」に「精製することができる」ものであること(摘記2d)。 これら記載より、甲2には、金属イオン封鎖剤組成物の粗生成物に含まれる、グルタミン酸二酢酸塩合成反応の二次的反応による副生物であるグリコール酸ナトリウムは、合成反応段階での生成量自体を少なくしようとするものとして、かつ、精製により除去されるものとして、すなわち単なる不純物として、示されているといえる。 また、甲2には、金属イオン封鎖剤組成物の成分として金属イオン封鎖力のあるものとしての認識が示されているのは「アミノ酸のN,N-ビス-カルボキシメチル化誘導体」のみである(摘記2f)。 まとめると、甲2においてグリコール酸ナトリウムとは、金属イオン封鎖剤組成物に副生物として含有されており、これを含有したまま金属イオン封鎖剤組成物として使用してよい成分であることは示されているが、金属イオン封鎖剤組成物において金属イオン封鎖力のある成分として必須の成分ではなく、合成の際に減らされるべき副生物であり、かつ、精製により除去される不純物としての認識しか示されていないものである。 そうすると、甲2には、そのグリコール酸ナトリウムは、金属イオン封鎖剤組成物に必要な成分であるとも、金属イオン封鎖剤組成物に含有させることが望ましい成分であるとも、認められる記載はない。 以上のとおりであるので、甲2にグリコール酸ナトリウムを含んだ金属イオン封鎖剤組成物を粗生成物としてそのまま使用できる点は示されてはいても、甲2が前提としている技術水準に立てば、引用発明2aの金属イオン封鎖剤組成物に対してグリコール酸ナトリウムを加えようとすることは、当業者が通常想到し得る事項であるとはいえない。 また、甲2ないし甲15及び請求人の全主張を参酌しても、引用発明2aの金属イオン封鎖剤組成物に対してグリコール酸ナトリウムを加えようとすることが、本件特許出願の優先日前の技術常識であって当業者が適宜採用し得る事項であるともいえない。 (1-3)まとめ よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、本件特許出願の優先日前に頒布された甲2に記載された発明及び甲1及び甲3ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件発明1について[その2] (2-1)前提 上記(1-2)において、たとえ、甲2には粗生成物としてグリコール酸ナトリウムを含んだ金属イオン封鎖剤組成物をそのまま用いることができるとの記載があり、粗生成物のまま実施例において効果が確認されており、甲2の記載を参照しても引用発明2aの金属イオン封鎖剤組成物にグリコール酸ナトリウムが含有されていて問題があるとも認められないことから、引用発明2aの金属イオン封鎖剤組成物がグリコール酸ナトリウムを含むものであるとすることは当業者であれば適宜なし得る事項であったとしても、以下のとおり、本件発明1は、本件特許出願の優先日前に頒布された甲2に記載された発明及び甲1及び甲3ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 その理由を以下に示す。 (2-2)対比 本件発明1と引用発明2aとの対比は、既に上記(1-1)に示したとおりであり、一致点及び相違点も上記(1-1)に示したとおりである。 (2-3)判断 ア 相違点8について 上記(2-1)に示したとおり、当業者であれば適宜なし得る事項であると仮定した。 イ 相違点5について 本件発明1の相違点5に係る構成は、「アスパラギン酸二酢酸塩類」を含有する構成、「アスパラギン酸二酢酸塩類及びグルタミン酸二酢酸塩類」を含有する構成、及び「グルタミン酸二酢酸塩類」を含有する構成の、三類型を選択的に規定するものである。 このうち、「グルタミン酸二酢酸塩類」を含有する類型は、上記(1-1)に示したとおり、引用発明2aに記載されたものであり両者は一致しているので、相違点には当たらない。 アスパラギン酸二酢酸塩類を含む他の二類型については、引用発明2aに規定されていないので、以下この点について検討する。 引用発明2aを開示する甲2にはさらに、「アミノジカルボン酸としてグルタミン酸とアスパラギン酸を使用することが特に好ましい」(摘記2b)ことが示されている。 よって、引用発明2aのグルタミン酸二酢酸塩類に替えて、該記載を参照し、アスパラギン酸二酢酸塩類とした、又はアスパラギン酸二酢酸塩類及びグルタミン酸二酢酸塩類とした、金属イオン封鎖剤組成物とすることは、当業者が適宜になし得たことである。 ウ 相違点6について 本件発明1の「洗浄剤」につき、その意味するところを確認すると、本件特許明細書には、「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、洗浄剤に関し、特に食品工業をはじめとする各種工業プロセスの硬表面の洗浄に用いられる洗浄剤に関する。」との記載があり、特に食品工業をはじめとする各種工業プロセスの硬表面の洗浄に用いられる洗浄剤であるものと認められる。 これに対し、引用発明2aが記載されている甲2には、「本発明の金属イオン封鎖剤組成物はアルカリ土金属イオンに対してばかりでなく重金属イオンに対しても顕著な封鎖性を示し、この封鎖性は従来得られた金属イオン封鎖性より良好であり、その結果つぎに示す分野において極めてすぐれた工業的利点が得られかつ広く利用し得る。」として「洗浄剤、洗濯用水(lyes)および陶器の洗浄に使用する製品の調製」や「牛乳製品製造工業への利用」が示されるところ(摘記2e)、その「洗浄剤、洗濯用水(lyes)および陶器の洗浄に使用する製品」の「調製」に用いることとは「洗浄剤」の一成分とすることができることを示唆するものであり、またその「牛乳製品製造工業」に用いることとは正に本件発明1が想定している「食品工業」のことである。そして、金属イオン封鎖剤は、その金属イオン封鎖(キレート生成)により洗浄剤の作用を発揮させるものであることは周知である。 そうすると、引用発明2aである「金属イオン封鎖剤組成物」を牛乳工業等の用途に利用するために、その金属イオン封鎖剤組成物を含有する「洗浄剤組成物」とすることは当業者が容易に想到し得ることである。 エ 相違点7について 甲3ないし甲6にはそれぞれ、第3級アミン誘導体であるキレート剤及び水酸化ナトリウムを含有する洗浄剤が示されていることから、第3級アミン誘導体であるキレート剤を含有する洗浄剤において、水酸化ナトリウムを用いることは、本件特許出願の優先日前に周知技術であったといえる。 そうすると、引用発明2aの金属イオン封鎖剤組成物を洗浄剤組成物とする際に、「第3級アミン誘導体であるキレート剤」にほかならない引用発明2aの「グルタミン酸二酢酸塩」に対して、水酸化ナトリウムを添加した洗浄剤組成物とすることは、当業者であれば容易になし得る事項である。 また水酸化ナトリウムの含有量について検討するに、本願発明1の具体例である実施例はいずれも5重量%の含有量であるが、その程度の含有量は上記の周知の洗浄剤において通常採用される程度の含有量であるので(甲3摘記3b、甲5摘記5c、甲6摘記6a等参照)、本件発明1程度の含有量は当業者であれば通常採用する程度の事項であって格別ではない。 オ 相違点5?8についてのまとめ 以上のとおりであるので、相違点8を仮に当業者であれば適宜なし得る事項であるとするときは、引用発明2aにおいて相違点5?8に示した本件発明1の構成を取ることについては、引用発明2a、甲1ないし甲2の記載及び甲3ないし甲6に示される周知技術より、一応、当業者が容易になし得たものであるとはいえるかもしれない。 (2-2)効果について 本件発明1の効果について検討する。 本件特許明細書には、本件発明の効果について「【0025】【発明の効果】」として「本発明の洗浄組成物は、エチレンジアミン四酢酸含有洗浄剤と同等の洗浄効果を示し、かつその処理排水は微生物で容易に生分解処理できる。また、反応条件を選ぶことによって、アミノジカルボン酸塩のカルボキシメチル化反応の生成物をそのまま、または簡単な精製処理で使用できる有利さがある。」ものである点が示されている。 また本件特許明細書には、そのような効果が、「主成分にアルカリ金属水酸化物とアミノジカルボン酸二酢酸塩類及びグリコール酸塩類を混合した洗浄剤」とすることで得られたこと、「この三成分を主成分とする洗浄剤の洗浄性能はそれぞれの相乗効果によりその単独でのものより優れた効果を現し、その効果は従来より広く使用されているEDTA塩類を主成分とする洗浄剤と同等の洗浄性を示すことを見出した。また、その洗浄剤組成物は生分解性に優れ、微生物で容易に分解でき環境の保全に有効である」点(【0005】)が示されるとともに、実施例1?7及び比較例1?4の洗浄効率を確認した試験の結果が表1(【0022】)にまとめられ、実施例8?9で生物分解テストがなされている(【0023】?【0024】)。 さらに、上記の「洗浄剤の洗浄性能」について、本件特許明細書【0005】、【0008】には、グリコール酸ナトリウムが洗浄組成物の主成分の一つであることが示される。そして、「三成分を主成分とする洗浄剤の洗浄性能」を確認した試験結果は【0022】の表1にまとめられており、例えばその実施例6と比較例3を対比すると、水酸化ナトリウム、グルタミン酸二酢酸塩及びグリコール酸ナトリウムの三成分を含む組成物が、水酸化ナトリウム及びグルタミン酸二酢酸塩の二成分を含みグリコール酸ナトリウムを含まない組成物に比べて、洗浄性能が良いという結果が示されている。 これに対して、甲2には金属イオン封鎖剤組成物が「N,N-ジカルボキシメチルアミノ酸誘導体」を含有することで「無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物」となる点(摘記2a)、N,N-ジカルボキシメチルアミノ酸誘導体を得る反応の生成物は二次的反応によるグリコール酸ナトリウムも同時に含むものであり、粗生成物のまま金属イオン封鎖剤組成物として用いることができる点(摘記2c、2d、2g、2h?2m)、EDTA(エチレンジアミノ四酢酸)の四ナトリウム塩やNTA(ニトリロ酢酸)の三ナトリウム塩よりも金属イオンの封鎖力が良好であり(摘記2e)、EDTA(エチレンジアミノ四酢酸)の四ナトリウム塩を含有する洗濯洗剤と比してセルロース保護の点で良好である点(摘記2m)等が示される。 よって、上記の「エチレンジアミン四酢酸含有洗浄剤と同等の洗浄効果」、「生分解処理」可能性、「反応」の「生成物をそのまま、または簡単な精製処理で使用できる」という本件発明1の効果は、甲2に既に記載されたものであるか又は示唆されたものであるといえる。 しかしながら、甲1ないし甲6には、グリコール酸ナトリウムを洗浄組成物の主成分の一つ、すなわち洗浄性能に関与する成分と認識することについて記載も示唆もなく、グリコール酸ナトリウムを含む上記の「三成分」を含む「洗浄剤の洗浄性能」が、グリコール酸ナトリウムを含まない上記の「二成分」を含む「洗浄剤の洗浄性能」よりも「良い」ものであるものであることについての記載も示唆もない。 また、請求人が提出した平成24年 2月20日付け上申書(2)第4頁第18行?第20行において請求人は、甲12の記載より「カルシウムを除去するための特定のキレート剤と共にグリコール酸ナトリウムをpH14以下で用いると、前者キレート剤の作用を阻害しないどころか、相乗効果を達成することが知られていた。」と主張するが、甲12にはそのように認められる事項は記載されていない。 その余の請求人の提出した証拠方法及び全主張によっても、グリコール酸ナトリウムを洗浄剤組成物に含有させることによる本件発明1における洗浄性能向上の効果が予測可能であったということはできない。 そうすると、本件発明1の効果は、甲1ないし甲6の記載より予測できる範囲を超えたものであって、格別のものである。 (2-3)まとめ 以上のとおりであるので、本件発明1は、本件特許出願の優先日前に頒布された甲2に記載された発明及び甲1及び甲3ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明1について[その3] 請求人は、平成24年 2月 6日付け審判事件上申書第2頁「6.」「I.」に「2.主たる引用発明は、甲第1号証及び甲第2号証記載の組成物OS_(1)です」と主張する。 請求人の本主張に沿って引用発明を認定すると以下の引用発明2bとなるが、主たる引用発明が引用発明2bであったとしても、以下のとおり、本件発明1は、本件特許出願の優先日前に頒布された甲2に記載された発明及び甲1及び甲3ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3-1)引用発明 ア 甲2には「OS_(1)と呼ばれる金属イオン封鎖剤組成物」として「N,N-ビス-カルボキシメチルグルタメート、ナトリウム塩 60重量%」、「グリコール酸ナトリウム 12重量%」及び「全体が100%となる量」の「塩」をその構成成分として含むものが示されている(摘記2g)。その「N,N-ビス-カルボキシメチルグルタメート、ナトリウム塩」とは、「グルタミン酸二酢酸ナトリウム塩」である。 そうすると、甲2には、 「モノクロル酢酸とアミノジカルボン酸のジナトリウム塩とをアルカリ性水性媒体中で反応させることによりアミノジカルボン酸のアミノ基の窒素にカルボキシメチル基を結合させて得られる、グルタミン酸二酢酸ナトリウム塩60重量%、グリコール酸ナトリウム12重量%及び全体が100重量%となる量の塩を含む、無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物」 が記載されている。 ところで、甲2に記載の上記組成物(OS_(1))は反応粗生成物であり、「グリコール酸ナトリウム12重量%及び全体が100重量%となる量の塩」とは、上記反応の二次的反応によって生成した副生物である(摘記2c等)。 そうすると、甲2には、 「モノクロル酢酸とアミノジカルボン酸のジナトリウム塩とをアルカリ性水性媒体中で反応させることによりアミノジカルボン酸のアミノ基の窒素にカルボキシメチル基を結合させて得られる、グルタミン酸二酢酸ナトリウム塩60重量%を含み、さらに、該反応の二次的反応によって生成した副生物であるグリコール酸ナトリウム12重量%及び全体が100重量%となる量の塩を含む、無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物」 の発明(以下、「引用発明2b」という。)が記載されているといえる。 イ 請求人は、平成24年 3月 5日付け口頭審理陳述要領書第2頁下から4行?第3頁第2行において、「そもそもOS_(1)にGLDAとグリコール酸ナトリウムが含有されているのであるから、グリコール酸ナトリウムが有効成分として意識されているかどうかということはOS_(1)の構成とは関係がない。」と主張する点について検討しても、上記3の(3-1)のイに示したのと同様の理由で採用することができない。 すなわち、確かに、甲2には金属イオン封鎖剤組成物の粗生成物であるOS_(1)をそのまま用いることができるとの記載があり(摘記2d)、実施例においても粗生成物の製造が示されるとともに粗生成物のまま効果等についての確認がなされている(摘記2h?2m)。 しかしながら、甲2においてはグルタミン酸二酢酸ナトリウム塩以外の成分すなわち「グリコール酸ナトリウム12重量%及び全体が100重量%となる量の塩」とは、引用発明2bの反応の二次的反応によって生成した副生物(摘記2c等)としての認識しか示されていない。 また、上記(1-2)にも指摘したように、甲2には、その副生成物であるグリコール酸ナトリウムは、合成反応段階での生成量自体を少なくしようとするものであり(摘記2c)、かつ、精製により除去されるものである(摘記2d)との認識、すなわち不純物であるとの認識しか示されていないものである。 そして、甲2には上に指摘したとおりの認識が示されるものであるから、OS_(1)についての記載から引用発明を認定する際には、上記の認識を前提として引用発明2bを認定すべきであり、グリコール酸ナトリウムが有効成分として意識されているかどうかを問わずに引用発明とすべきである旨の請求人の主張は採用することができない。 (3-2)対比 本件発明1と引用発明2bとを対比する。 引用発明2bの「グルタミン酸二酢酸ナトリウム塩」は、本件発明1の「グルタミン酸二酢酸塩類」に含まれる。 また、引用発明2bの「グリコール酸ナトリウム」も、本件発明1の「グリコール酸ナトリウム」も、化学物質としては同じ物質である。 そうすると、両者は、「グルタミン酸二酢酸塩類及びグリコール酸ナトリウムを含有する組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点5’) 本件発明1は「アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類」と選択的に規定するのに対し、引用発明2bは「グルタミン酸二酢酸塩類」についてそのように選択的に規定していない点 (相違点6’) 本件発明1は「洗浄剤組成物」を規定するのに対し、引用発明2bは「金属イオン封鎖剤組成物」を規定する点 (相違点7’) 本件発明1は「水酸化ナトリウム」を含有し、その「配合量」は「組成物の0.1?40重量%」と規定するのに対し、引用発明2bは水酸化ナトリウムの含有を規定していない点 (相違点8’) 本件発明1は「グリコール酸ナトリウム」の含有の位置づけを規定していないのに対し、引用発明2bは「グリコール酸ナトリウム」を「二次的反応によって生成した副生物」として含有するものと規定する点 (3-3)判断 事案に鑑み、先ず相違点8’について検討する。 本件発明1には「グリコール酸ナトリウム」の含有の位置づけが規定されていないが、本件特許明細書を参照すると、グリコール酸ナトリウムは、専ら洗浄組成物の主成分の一つ、すなわち洗浄性能を発揮する成分としての認識が示されているのみである(【0005】、【0008】、【0022】等)。そうすると、本件発明1の「グリコール酸ナトリウム」とは、洗浄組成物の主成分として位置づけられているものであるといえる。 これに対して、引用発明2bには、「グリコール酸ナトリウム」は「二次的反応によって生成した副生物」としての位置づけが規定されるのみであり、引用発明2bを開示する甲2には、上記(3-1)のイにも指摘したように、その副生成物であるグリコール酸ナトリウムは、合成反応段階での生成量自体を少なくしようとするものであり(摘記2c)、かつ、精製により除去されるものである(摘記2d)との認識、すなわち不純物であるとの認識しか示されていないものである。 そして甲1ないし甲6の全記載を参照しても、グリコール酸ナトリウムを洗浄剤の主成分すなわち洗浄性能に寄与する成分として含有することについては記載も示唆もない。 また、請求人の提出したその余の証拠方法及び全主張を参酌しても、グリコール酸ナトリウムを洗浄剤の主成分として含有することが、本件特許出願の優先日前の技術常識であって当業者が適宜採用し得る事項であるともいえない。 そして、何らの記載も示唆もない状態で、二次的反応によって生成した副生物として含有されている成分を、洗浄性能を発揮するための主成分の一つとして含有するものとすることは、当業者にとって考えがたいことである。 よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、本件特許出願の優先日前に頒布された甲2に記載された発明及び甲1及び甲3ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件発明1について[その4] (4-1)前提 上記(3-3)において、たとえ、本件発明1にはグリコール酸ナトリウムの含有の位置づけが規定されていないことから、引用発明2bに規定されるような二次的反応によって生成した副生物としての含有という位置づけであってもこれを文言上は含むものであるから実質的な相違であるとはいえないとしても、以下のとおり、本件発明1は、本件特許出願の優先日前に頒布された甲2に記載された発明、甲1及び甲3ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 その理由を以下に示す。 (4-2)対比 本件発明1と本件発明2bとの対比は、上記(3-2)にて行ったとおりであり、一致点及び相違点も上記(3-2)に示したとおりである。 (4-2)判断 ア 相違点8’について 上記(4-1)に示したとおり、実質的な相違であるとはいえないと仮定した。 イ 相違点5’?7’について 相違点5’?7’は相違点5?7に同じであり、その判断内容はそれぞれ上記(2-3)のイ、ウ及びエに示したものと同じである。 (4-3)相違点5’?8’についてのまとめ 以上のとおりであるので、相違点8’を仮に実質的な相違であるとはいえないとするときは、引用発明2bにおいて相違点5’?8’に示した本件発明1の構成をとることは、引用発明2b、甲1ないし甲2の記載及び甲3ないし甲6に示される周知技術より、一応、当業者が容易になし得たものであるとはいえるかもしれない。 (4-4)効果について 本件発明1の効果について検討するに、その検討内容は上記(2-2)に示したものに同じであり、本件発明1の効果は、甲1ないし甲6の記載より予測できる範囲を超えたものであって、格別である。 (4-5)まとめ 以上のとおりであるので、本件発明1は、本件特許出願の優先日前に頒布された甲2に記載された発明、甲1及び甲3ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件発明1についてのまとめ したがって、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないから、無効理由2によっては、無効とすべきものではない。 (6)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の洗浄剤組成物において、その成分の含有量をさらに規定するものであるが、上記(1)?(5)のとおり、本件発明1は甲2に記載された発明及び甲1及び甲3ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないので、本件発明1を前提とする本件発明2もまた、甲2に記載された発明及び甲1及び甲3ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、本件発明2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないから、無効理由2によっては、無効とすべきものではない。 (7)無効理由2についてのまとめ 以上のとおりであるので、本件発明1及び本件発明2はいずれも、本件特許出願の優先日前に頒布された甲2に記載された発明及び甲1及び甲3ないし甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、本件発明1及び本件発明2についての特許は、いずれも、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないから、無効理由2によっては、無効とすべきものではない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、本件発明1及び本件発明2についての特許は、請求人の主張する無効理由によっては、無効とすることができない。 また、他に本件発明1及び本件発明2についての特許を無効とすべき理由を発見しない。 本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2012-04-12 |
出願番号 | 特願平8-194727 |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Y
(C11D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井上 典之、穴吹 智子 |
特許庁審判長 |
新居田 知生 |
特許庁審判官 |
東 裕子 齋藤 恵 |
登録日 | 2008-04-25 |
登録番号 | 特許第4114820号(P4114820) |
発明の名称 | 洗浄剤組成物 |
代理人 | 林 篤史 |
代理人 | 松井 光夫 |
代理人 | 村上 博司 |
代理人 | 大家 邦久 |
代理人 | 加藤 由加里 |