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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
管理番号 1271521
審判番号 不服2010-18317  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-13 
確定日 2013-03-13 
事件の表示 特願2007-527695「ダイナミック限定的再使用スケジューラ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月29日国際公開、WO2005/125263、平成20年 5月29日国内公表、特表2008-518491〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成17年6月8日(パリ条約に基づく優先権主張 2004年6月8日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年4月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成22年8日13日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
そして、平成24年2月14日付けで当審から拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、これに対して平成24年8日21日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。


第2.本願発明
本願の請求項1-8に係る発明(以下、「本願発明1-8」という。)は、平成24年8月21日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1-8に記載された、次の事項により特定されるものである。

「 【請求項1】
セル間干渉を減少させるためにユーザ・デバイスによる再使用のために直交リソースのセットをダイナミックにスケジューリングする方法、該方法は、下記を具備する:
無線通信領域内の各ユーザ・デバイスに対する公平性(fairness)メトリックを決定すること;
各ユーザ・デバイスに対する複数の直交リソース・セットに関する異なるチャネル品質に基づいてチャネル・ピーク要望満足度(desirability)メトリックを決定すること;
及び
各ユーザ・デバイスに対する総合スケジューリング・メトリックを決定すること、該総合スケジューリング・メトリックは該公平性メトリック及び該チャネル・ピーク要望満足度メトリックのメトリック統合関数の出力である。
【請求項2】
請求項1の方法、該方法は、該総合スケジューリング・メトリックを決定するために、該ユーザ・デバイスに対する該公平性メトリックを掛け算される各ユーザ・デバイスに対するチャネル遅延要望満足度メトリックを決定することをさらに具備する。
【請求項3】
請求項1の方法、該方法は、ウィニング(winning)ユーザ・デバイスとして最高の全体スケジューリング・メトリック得点を有するユーザ・デバイスを識別することをさらに具備する。
【請求項4】
請求項3の方法、該方法は、該ウィニング・ユーザ・デバイスのウィニング・チャネル・メトリックに対応する該直交リソース・セットの一部を査定することをさらに具備する。
【請求項5】
請求項4の方法、該方法は、該ウィニング・ユーザ・デバイスへの該直交リソース・セットを査定することの後で、全てのユーザ・デバイスが直交リソース・セットを割り当てられるまで又は全てのリソースが割り当てられるまで、請求項1の方法を繰り返すことをさらに具備する。
【請求項6】
請求項5の方法、直交リソース・セット割り当ての各繰り返しにおいて該ウィニング・ユーザ・デバイスは、全てのユーザ・デバイスが直交リソース・セットを割り当てられることを可能にするために引き続く繰り返しから除外される。
【請求項7】
請求項5の方法、直交リソース・セット割り当ての各繰り返しにおいて該ウィニング・ユーザ・デバイスは、ウィニング・ユーザ・デバイスが複数の直交リソース・セット割り当てを取得することを可能にするために引き続く繰り返しの中に含まれる。
【請求項8】
請求項1の方法、所与のユーザに対する該公平性メトリックを決定することは、同じグレードのサービス・プロトコルを使用して該公平性メトリックを評価することを具備する。」


第3.当審拒絶理由
平成24年2月14日付けで当審から通知した当審拒絶理由の概要は、以下のとおりである。

「A) この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



(1)?(2)省略

(3)段落番号【0034】に「各周波数セットjに対して、ユーザiのチャネル・ピーク要望満足度因子は、次式で与えられる:
T_(i,j)=μ_(i,j)/μ ̄_(i ) (8)」
と記載されている。(8)式で表される量に、なぜ「ピーク」という言葉が付いているのか不明である。すなわち「ピーク」とは「頂点」という意味であるが、(8)式で表される量が、なぜ「頂点」であると言えるのか不明である。

(4)「ピーク」すなわち「頂点」とは、あるものを色々変えた時に、評価尺度となる量が最大になる点である。例えば「山の頂点」とは、X座標とY座標を色々変えた時に、Z座標が最大になる点であると言える。
段落番号【0034】の(8)式で与えられるチャネル・ピーク要望満足度因子は、何を色々変えた時に、どういう評価尺度が最大になるのか、不明である。

(5)段落番号【0034】の記載において、「周波数セットjに関するユーザiの瞬間的スペクトル効率」を「全ての限定的再使用周波数セットに関する平均スペクトル効率」で割り算した値が、なぜ要望満足度を表すといえるのか、理由が不明である。

(6)?(11)省略

(12)段落番号【0010】に「1態様にしたがって、セル間干渉を減少させるためにユーザ・デバイスによる再使用のために周波数セットをダイナミックにスケジューリングする方法は、下記を具備する:」と記載されている。
段落番号【0051】に「910において、各タイム・スロットに対して、ウィニング・ユーザ・デバイスは、ユーザ・デバイスのウィニング周波数セット内の適切な数のサブキャリアを割り当てられることができる。」と記載されている。
各タイム・スロットに対して、ウィニング・ユーザ・デバイスに、ユーザ・デバイスのウィニング周波数セット内の適切な数のサブキャリアを割り当てれば、なぜ、セル間干渉が減少するのか、理由が不明である。

(13)段落番号【0010】に「1態様にしたがって、セル間干渉を減少させるためにユーザ・デバイスによる再使用のために周波数セットをダイナミックにスケジューリングする方法は、下記を具備する:」と記載されている。
段落番号【0010】に「最高の総合スケジューリング・メトリック得点を有するユーザ・デバイスは、対応する直交リソース・セットの一部分を与えられることが可能であり、そして該方法は、全てのユーザ・デバイスが要請されたリソースを割り当てられるまで、又はすべての直交リソース・セットが割り当てられるまで繰り返されることが可能である。」と記載されている。
最高の総合スケジューリング・メトリック得点を有するユーザ・デバイスに、対応する直交リソース・セットの一部分を与え、該方法を、全てのユーザ・デバイスが要請されたリソースを割り当てられるまで、又はすべての直交リソース・セットが割り当てられるまで繰り返すことにより、なぜ、セル間干渉を減少させることができるのか、理由が不明である。

(14)省略

(15)段落番号【0051】に「910において、各タイム・スロットに対して、ウィニング・ユーザ・デバイスは、ユーザ・デバイスのウィニング周波数セット内の適切な数のサブキャリアを割り当てられることができる。」と記載されている。
段落番号【0052】に「1006において、ユーザ・デバイスのウィニング周波数セット内のサブキャリアの適切な数。」と記載されている。
段落番号【0055】に「1110において、各タイム・スロットに対して、ウィニング・ユーザ・デバイスは、ユーザ・デバイスのウィニング周波数セット内の適切な数のサブキャリアを割り当てられることができる。」と記載されている。
どういう数が「適切な数」であるのか不明である。

(16)段落番号【0024】の「EGoSスケジューラ」とはどういうものか意味が不明である。

(17)段落番号【0024】の「比例公平スケジューラ」とはどういうものか意味が不明である。

よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-64に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。


B) この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)請求項2の記載に「チャネル遅延要望満足度メトリックに公平性メトリックを掛け算する」旨が記載されているが、請求項2が従属している請求項1には、「該総合スケジューリング・メトリックは該公平性メトリック及び該チャネル・ピーク要望満足度メトリックのメトリック統合関数の出力である。」と記載されているから、チャネル遅延要望満足度メトリックに公平性メトリックを掛け算した結果と、請求項2の総合スケジューリング・メトリックとの関係が不明であり、また、請求項2の総合スケジューリング・メトリックが、公平性メトリックとチャネル・ピーク要望満足度メトリックとチャネル遅延要望満足度メトリックの三つからどのように作成されるのかも不明である。

(2)省略

(3)請求項9に「該ウィニング・ユーザ・デバイスは、ウィニング・ユーザ・デバイスが複数の直交リソース・セット割り当てを取得することを可能にするために引き続く繰り返しの中に含まれる。」と記載されている。
「該ウィニング・ユーザ・デバイスが、引き続く繰り返しの中に含まれる。」は、意味が不明である。

(4)請求項10の「同じグレード」とは、どういうグレードと同じであるのか、不明である。

(5)?(8)省略

よって、請求項2-4,9,10,22,23に係る発明は明確でない。


C) 省略 」


第4.拒絶理由A)の(3)について

4-1.審判請求人の主張
平成24年8月21日付けの意見書において、審判請求人は以下のように主張している。
「項目(3):本願明細書の段落[0034]における「ユーザiのチャネル・ピーク要望満足度因子T_(i),_(j)」は各周波数セットjにおけるピークのチャネル品質を表すものとして(8)式で得られます。このため、「ピーク」という記載がチャネル・ピーク要望満足度因子T_(i,j)に含まれます。」

4-2.検討
本願明細書の段落番号【0034】に次のように記載されている。

「例えば、ピーク素子412は、チャネル・ピーク要望満足度を評価でき、その結果、各周波数セットjに対して、ユーザiのチャネル・ピーク要望満足度因子は、次式で与えられる:
T_(i,j)=μ_(i,j)/μ ̄_(i) (8)
ここで、μ_(i,j)は周波数セットjに関するユーザiの瞬間的スペクトル効率であり、そしてμ ̄_(i)は全ての限定的再使用周波数セットに関する平均スペクトル効率である。」

本願明細書の段落番号【0034】における「μ_(i,j)」の定義は、「周波数セットjに関するユーザiの瞬間的スペクトル効率」である。したがって、μ_(i,j) は、「周波数セットjに関するユーザiのスペクトル効率の瞬時値」を表すものと解され、μ_(i,j)には、「ピーク」すなわち日本語の「頂点」という意味が全く含まれていない。よって、本願明細書の(8)式により、なぜ、周波数セットjに対する、ユーザiのチャネル要望満足度因子のピークが得られるのか、理解できない。(8)式は、本願発明1の「各ユーザ・デバイスに対する複数の直交リソース・セットに関する異なるチャネル品質に基づいてチャネル・ピーク要望満足度(desirability)メトリックを決定すること」の実施の仕方の説明の一部であるから、(8)式により、なぜ、周波数セットjに対する、ユーザiのチャネル要望満足度因子のピークが得られるのか不明であるということは、本願発明1を実施できる程度に記載されていないということである。
なお、上記「4-1.審判請求人の主張」は、(8)式により、なぜ、周波数セットjに対する、ユーザiのチャネル要望満足度因子のピークが得られるのか不明ということに対する回答を何ら与えていない。


第5.拒絶理由A)の(4)について

5-1.審判請求人の主張
平成24年8月21日付けの意見書において、審判請求人は以下のように主張している。
「項目(4):ユーザ・デバイスの動作環境は一定ではなく、これが各周波数セットjにおけるチャネル品質を変化させます。従って、ピークのチャネル品質を表すT_(i,j)もリソース割当てが変更される毎に変化します。」

5-2.検討
上記「4-1」で述べたように、本願明細書の段落番号【0034】における「μ_(i,j)」の定義は、「周波数セットjに関するユーザiの瞬間的スペクトル効率」である。したがって、μ_(i,j) は、「周波数セットjに関するユーザiのスペクトル効率の瞬時値」を表すものと解され、μ_(i,j)には、「ピーク」すなわち日本語の「頂点」という意味が全く含まれていない。
したがって、(8)式のT_(i,j) が、何を変化させたときのピーク値であるのか不明である。(8)式は、本願発明1の「各ユーザ・デバイスに対する複数の直交リソース・セットに関する異なるチャネル品質に基づいてチャネル・ピーク要望満足度(desirability)メトリックを決定すること」の実施の仕方の説明の一部であるから、(8)式のT_(i,j) が、何を変化させたときのピーク値であるのか不明であるということは、本願発明1を実施できる程度に記載されていないということである。
本願明細書の段落番号【0034】の記載によれば、(8)式のT_(i,j) 自体がピークなのであるから、T_(i,j) が環境により変化するという内容の上記「5-1」の「従って、ピークのチャネル品質を表すT_(i,j)もリソース割当てが変更される毎に変化します。」は、(8)式のT_(i,j) が、何を変化させたときのピーク値であるのか不明であるということに対する回答を何ら与えていない。


第6.拒絶理由A)の(5)について

6-1.審判請求人の主張
平成24年8月21日付けの意見書において、審判請求人は以下のように主張している。
「項目(5):本願明細書の段落[0034]における「全ての限定的再使用周波数セット」は全ての利用可能な周波数セットを意味し、利用可能でない周波数セットは除外されます。全ての限定的再使用周波数セットに関する平均スペクトル効率による割り算はリソース割当ての変更毎に利用可能な周波数セットに共通に生じるチャネル品質の変動を除外してT_(i,j)を求めるために行われます。」

6-2.検討
本願と同一出願人による特願2002-587942号(特表2005-505954号公報)の明細書の段落番号【0024】に、
「一般に、M-QAMのような帯域幅効率変調スキームは変調記号につきより高い数の情報ビットを送信することができるが、所望のレベルの性能を得るために高いC/Iを必要とする。表1は、ヘルツ当り毎秒送信される情報ビット(bps/Hz)の数により計られる、多数の帯域幅効率変調スキームのスペクトル効率を一覧表にしたものである。表1はまた、これらの変調スキームに対して1%のビットエラーレート得るために仮定される必要なC/Iを一覧表にしたものである。」と記載されている。(当審注:下線は、当審が付加した。)

本願における「スペクトル効率」の意味は、上記特願2002-587942号における「スペクトル効率」と同じく「ヘルツ当り毎秒送信される情報ビット(bps/Hz)の数」という意味であると推測される。しかし、通信の状態を示す評価量としては、「ヘルツ当り毎秒送信される情報ビット(bps/Hz)の数」とは別に、「ビットエラーレート」が存在する。仮に「ヘルツ当り毎秒送信される情報ビット(bps/Hz)の数」が大きくても、「ビットエラーレート」も大きければ、ユーザの満足度が大きいとは言えない。したがって、「周波数セットjに関するユーザiの瞬間的スペクトル効率」を「全ての限定的再使用周波数セットに関する平均スペクトル効率」で除算した結果により、なぜ、ユーザのチャネルに対する要望満足度が評価できるのか不明である。よって、発明の詳細な説明は、本願発明1の「各ユーザ・デバイスに対する複数の直交リソース・セットに関する異なるチャネル品質に基づいてチャネル・ピーク要望満足度(desirability)メトリックを決定すること」を実施できる程度に記載されていない。
なお、上記「6-1.審判請求人の主張」は、「周波数セットjに関するユーザiの瞬間的スペクトル効率」を「全ての限定的再使用周波数セットに関する平均スペクトル効率」で除算した結果により、なぜ、ユーザのチャネルに対する要望満足度が評価できるのか不明ということに対する回答を何ら与えていない。


第7.拒絶理由A)の(12)について

7-1.審判請求人の主張
平成24年8月21日付けの意見書において、審判請求人は以下のように主張している。
「項目(12):図1の例では、U_(0)、U_(1)、U_(2)、U_(4)がセクタ0で利用可能な周波数セット(全ての限定的再使用周波数セット)です。U_(3)、U_(5)、U_(6)はセル間干渉の顕著な周波数セットとして除外されます。これにより、セル間干渉を減少できます。さらに、本願明細書の段落[0051]の「ウイニング・ユーザ・デバイス」は利用可能な周波数セットU_(0)、U_(1)、U_(2)、U_(4)に関する総合スケジューリング・メトリックが最高の総合得点を得たものです。この場合、「ウイニング周波数セット」は周波数セットU_(0)、U_(1)、U_(2)、U_(4)のうちで最高のチャネル品質である最良の周波数セットです。チャネル品質はセル間干渉に依存するものであるため、ウイニング周波数セット内の適切な数のサブキャリアをウイニング・ユーザ・デバイスに割り当てることによってセル間干渉をさらに減少できます。」

7-2.検討
本願明細書の段落番号【0010】に次のように記載されている。
「【0010】
1又はそれより多くの実施形態及び対応するその開示にしたがって、種々の態様が、無線ネットワーク環境においてパケット・ベースのダイナミック限定的再使用スケジューラを提供することに関連して記載される。1態様にしたがって、セル間干渉を減少させるためにユーザ・デバイスによる再使用のために周波数セットをダイナミックにスケジューリングする方法は、下記を具備する:無線通信領域内の各ユーザ・デバイスに対する公平性メトリックを決定すること、各ユーザ・デバイスに対する複数の直交リソース・セットに関するチャネル品質に基づいて総合チャネル・ピーク要望満足度メトリックを決定すること、及び各ユーザ・デバイスに対する総合スケジューリング・メトリックを決定すること、該総合スケジューリング・メトリックは該公平性メトリック及び該チャネル・ピーク要望満足度メトリックの関数である。関連する態様にしたがって、複数の直交リソース・セットに関するチャネル品質に基づいたチャネル遅延要望満足度メトリックは、各ユーザ・デバイスに対して決定されることができ、そして該総合スケジューリング・メトリックは、該総合チャネル・ピーク要望満足度メトリックに加えて又はその代わりに該チャネル遅延要望満足度メトリックを採用できる。最高の総合スケジューリング・メトリック得点を有するユーザ・デバイスは、対応する直交リソース・セットの一部分を与えられることが可能であり、そして該方法は、全てのユーザ・デバイスが要請されたリソースを割り当てられるまで、又はすべての直交リソース・セットが割り当てられるまで繰り返されることが可能である。」(当審注:下線は、当審が付加した。)

したがって、本願明細書には、概略、
「各ユーザ・デバイスに対する総合スケジューリング・メトリックを、公平性メトリック及びチャネル・ピーク要望満足度メトリックの関数として、決定し、
複数のユーザ・デバイスの内の、最高の総合スケジューリング・メトリック得点を有するユーザ・デバイスに対して、対応する直交リソース・セットの一部分を与え、
全てのユーザ・デバイスに、要請されたリソースを割り当てられるまで、繰り返すことにより、
セル間干渉を減少させるという効果を有する、ユーザ・デバイスによる再使用のために周波数セットをダイナミックにスケジューリングする方法。」
という発明が開示されていると言える。

請求項1には、公平性メトリック及びチャネル・ピーク要望満足度メトリックのメトリック統合関数の出力として、各ユーザ・デバイスに対する総合スケジューリング・メトリックを決定するステップまでしか記載されていないが、本願明細書に開示されている上記発明のセル間干渉を減少させるという目的を達成するためには、「複数のユーザ・デバイスの内の、最高の総合スケジューリング・メトリック得点を有するユーザ・デバイスに対して、対応する直交リソース・セットの一部分を与え、全てのユーザ・デバイスに、要請されたリソースを割り当てられるまで、繰り返す」ステップまで行う必要がある。

チャネル・ピーク要望満足度メトリックT_(i)は式(3)で与えられ、
T_(i)=μ_(i)/μ ̄_(i) (3)
である。μ_(i)は、ユーザiの瞬間的スペクトル効率である。本願と同一出願人による特願2002-587942号(特表2005-505954号公報)の段落番号【0024】によれば、結局、スペクトル効率は、「ヘルツ当り毎秒送信される情報ビット(bps/Hz)の数」である。
したがって、ユーザiの瞬間的スペクトル効率μ_(i)もチャネル・ピーク要望満足度メトリックT_(i)もセル間干渉とは関係がない量である。公平性メトリックもセル間干渉とは関係がない量であるから、結局、総合スケジューリング・メトリックもセル間干渉とは関係がない量である。セル間干渉とは関係がない量である総合スケジューリング・メトリックを用いて、ユーザ・デバイスに対する直交リソース・セットの割り当てを行っても、セル間干渉が減少するとは言えないことは明らかである。

仮に、チャネル・ピーク要望満足度メトリックT_(i)がチャネル品質を表していると仮定しても、チャネル品質は、セル間干渉だけでなく、雑音、マルチパスの遅延、フェーディングなどにも関係しているから、チャネル品質が良くなったからといって、セル間干渉が減少したとは限らない。
更に、ステップ910において、ウィニング・ユーザ・デバイスに対しては、ユーザ・デバイスのウィニング周波数セット内の適切な数のサブキャリアを割り当てるから、ウィニング・ユーザ・デバイスのチャネル品質は、良好になるかもしれないが、ステップ912において、スケジュールされたサブキャリアは、その後、自由な(複数の)周波数セットから除外されるから、ウィニング・ユーザ・デバイス以外のユーザ・デバイスに対しては、チャネル品質は、不良になる可能性が高い。したがって、ステップ910及び912に示される周波数セットの割当て方で、なぜ、セル間干渉を減少するという目的が達成できるのか不明である。

したがって、本願の発明な詳細な説明には、ステップ910において、各タイム・スロットに対して、ウィニング・ユーザ・デバイスに、ユーザ・デバイスのウィニング周波数セット内の適切な数のサブキャリアを割り当てれば、なぜ、セル間干渉を減少させるという効果が生ずるのかの説明が記載されていないから、セル間干渉を減少させることを目的とする本願発明1を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

なお、本願の明細書において、図1のセクタ0で利用可能な周波数セットが、U_(0)、U_(1)、U_(2)、U_(4) であることは、総合スケジューリング・メトリックを比較し、ウイニング・ユーザ・デバイスを識別した結果として示されているわけではなく、何の導出過程も示されることなく与えられていることである。


第8.拒絶理由A)の(13)について

8-1.審判請求人の主張
平成24年8月21日付けの意見書において、審判請求人は以下のように主張している。
「項目(13):セル間干渉の減少は項目(12)に関して説明したようにして達成されます。本願明細書の段落[0051]には、さらに残りのリソースの全てを他のユーザ・デバイスに対して割り当てることを記載しています。」

8-2.検討
上記「7-2.検討」で示したように、チャネル・ピーク要望満足度メトリックT_(i)は式(3)で与えられ、
T_(i)=μ_(i)/μ ̄_(i) (3)
である。μ_(i)は、ユーザiの瞬間的スペクトル効率である。本願と同一出願人による特願2002-587942号(特表2005-505954号公報)の段落番号【0024】によれば、結局、スペクトル効率は、「ヘルツ当り毎秒送信される情報ビット(bps/Hz)の数」である。
したがって、ユーザiの瞬間的スペクトル効率μ_(i)もチャネル・ピーク要望満足度メトリックT_(i)もセル間干渉とは関係がない量である。公平性メトリックもセル間干渉とは関係がない量であるから、結局、総合スケジューリング・メトリックもセル間干渉とは関係がない量である。セル間干渉とは関係がない量である総合スケジューリング・メトリックを用いて、ユーザ・デバイスに対する直交リソース・セットの割り当てを行っても、セル間干渉が減少するとは言えないことは明らかである。

仮に、チャネル・ピーク要望満足度メトリックT_(i)がチャネル品質を表していると仮定しても、チャネル品質は、セル間干渉だけでなく、雑音、マルチパスの遅延、フェーディングなどにも関係しているから、チャネル品質が良くなったからといって、セル間干渉が減少したとは限らない。
更に、最高の総合スケジューリング・メトリック得点を有するユーザ・デバイスに対して、対応する直交リソース・セットの一部分を与えることにより、最高の総合スケジューリング・メトリック得点を有するユーザ・デバイスのチャネル品質は、良好になるかもしれないが、その他のユーザ・デバイスには、残りの直交リソース・セットの一部分を与えるから、チャネル品質は、不良になる可能性が高い。

よって、本願の発明な詳細な説明には、複数のユーザ・デバイスの内の、最高の総合スケジューリング・メトリック得点を有するユーザ・デバイスに対して、対応する直交リソース・セットの一部分を与え、全てのユーザ・デバイスに、要請されたリソースを割り当てられるまで、繰り返すことにより、なぜ、セル間干渉を減少させるという効果が生ずるのかの説明が記載されていないから、セル間干渉を減少させることを目的とする本願発明1を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。


第9.拒絶理由A)の(15)について

9-1.審判請求人の主張
平成24年8月21日付けの意見書において、審判請求人は以下のように主張している。
「項目(15):本願明細書の段落[0055]には、「ユーザ・デバイスの最終チャネル割り当ては、複数の周波数セット割り当てラウンドにわたってユーザ・デバイスにより獲得された全てのサブキャリアの集合であることができ、それは遅延を緩和する一方で、ユーザ・デバイスに対する通信のピーク・レートを増加させることを促進できる。」と記載されています。従って、適切な数のサブキャリアは遅延と通信のピークレートとの関係で決定されることが判ります。」

9-2.検討
請求項1には、公平性メトリック及びチャネル・ピーク要望満足度メトリックのメトリック統合関数の出力として、各ユーザ・デバイスに対する総合スケジューリング・メトリックを決定するステップまでしか記載されていないが、セル間干渉を減少させるという本願発明1の目的を達成するためには、各ユーザ・デバイスに周波数セットを割り当てるステップまで行う必要がある。
本願明細書の段落番号【0055】には、「ユーザ・デバイスの最終チャネル割り当ては、複数の周波数セット割り当てラウンドにわたってユーザ・デバイスにより獲得された全てのサブキャリアの集合であることができ、それは遅延を緩和する一方で、ユーザ・デバイスに対する通信のピーク・レートを増加させることを促進できる。」と記載されている。本願明細書の段落番号【0055】の上記記載は、ユーザ・デバイスの最終チャネル割り当てを、複数の周波数セット割り当てラウンドにわたってユーザ・デバイスにより獲得された全てのサブキャリアの集合を母集団として行うことを記載したものであり、「適切な数」の決め方を示していない。「適切な数」と「遅延」及び「通信のピークレート」との関係も不明であり、「適切な数」の求め方が示されているとは言えない。
したがって、各ユーザ・デバイスに周波数セットを割り当てるための、ステップ910、ステップ1006及びステップ1110の「ウィニング周波数セット内の適切な数のサブキャリア」の決め方が不明である以上、本願発明1を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。


第10.拒絶理由A)の(16)について

10-1.審判請求人の主張
平成24年8月21日付けの意見書において、審判請求人は以下のように主張している。
「項目(16):本願明細書の段落[0022]を参照すると、本願明細書の段落[0024]の「EGoSスケジューラ」は同じグレードのサービス(EGoS:equal grade of service)を公平性基準とするスケジューラであることが判ります。」

10-2.検討
「同じグレードのサービス(EGoS:equal grade of service)を公平性基準とするスケジューラ」は意味が不明であるので、本願発明1の「無線通信領域内の各ユーザ・デバイスに対する公平性(fairness)メトリックを決定すること」を実施できる程度に記載されていない。


第11.拒絶理由A)の(17)について

11-1.審判請求人の主張
平成24年8月21日付けの意見書において、審判請求人は以下のように主張している。
「項目(17):本願明細書の段落[0022]を参照すると、本願明細書の段落[0024]の「比例公平スケジューラ」は比例公平を公平性基準とするスケジューラであることが判ります。」

11-2.検討
「比例公平を公平性基準とするスケジューラ」は意味が不明であるので、本願発明1の「無線通信領域内の各ユーザ・デバイスに対する公平性(fairness)メトリックを決定すること」を実施できる程度に記載されていない。


第12.拒絶理由B)の(1)について

12-1.審判請求人の主張
平成24年8月21日付けの意見書において、審判請求人は以下のように主張している。
「項目(1):請求項2は本願明細書の段落[0037]の(12)式によってサポートされます。この(12)式には、S_(i)=F_(i)T_(i)D_(i)が記載されています。ここで、請求項2の「総合スケジューリング・メトリック」がS_(i)に対応し、「公平性メトリック」がF_(i)に対応し、「チャネル遅延要望満足度メトリック」がD_(i)に対応します。この(12)式では、チャネル遅延要望満足度メトリックと公平性メトリックとが掛け算されます。この場合、公平性メトリックがチャネル遅延要望満足度メトリックと掛け算され、総合スケジューリング・メトリックが掛け算結果の公平性メトリック及びチャネル・ピーク要望満足度メトリックのメトリック統合関数の出力であることは明らかです。」

12-2.検討
確かに、本願発明2は、本願明細書の段落[0037]の(12)式の「S_(i)=F_(i)T_(i)D_(i)」によってサポートされている。
しかし、本願の請求項1には、「該総合スケジューリング・メトリックは該公平性メトリック及び該チャネル・ピーク要望満足度メトリックのメトリック統合関数の出力である」と記載され、請求項2には、「請求項1の方法、該方法は、該総合スケジューリング・メトリックを決定するために、該ユーザ・デバイスに対する該公平性メトリックを掛け算される各ユーザ・デバイスに対するチャネル遅延要望満足度メトリックを決定する」と記載されている。そして、「総合スケジューリング・メトリックが、公平性メトリックとチャネル遅延要望満足度メトリックとを掛け算した結果の関数となっている」という内容は、請求項1にも請求項2にも記載されていない。
したがって、全ての請求項2に係る発明が「S_(i)=F_(i)T_(i)D_(i)」であるというわけではなく、本願明細書の段落[0037]の(12)式の「S_(i)=F_(i)T_(i)D_(i)」は、請求項2に係る発明の一実施例に過ぎない。よって、請求項2に実質的に記載されている「公平性メトリックとチャネル遅延要望満足度メトリックとを掛け算する」という内容が、総合スケジューリング・メトリックを決定することとどのような関係にあるのか不明である。


第13.拒絶理由B)の(3)について

13-1.審判請求人の主張
平成24年8月21日付けの意見書において、審判請求人は以下のように主張している。
「項目(3):補正前の請求項4は、補正前の請求項1と矛盾するため、削除されています。」

13-2.検討
拒絶理由B)の(3)は、平成24年8月21日付けの補正前の請求項9(補正後の請求項7)に関するものである。
意見書における審判請求人の主張は、補正前の請求項4についてのものであり、補正後の請求項7の「該ウィニング・ユーザ・デバイスは、ウィニング・ユーザ・デバイスが複数の直交リソース・セット割り当てを取得することを可能にするために引き続く繰り返しの中に含まれる」に実質的に記載されている「該ウィニング・ユーザ・デバイスが、引き続く繰り返しの中に含まれる」は、意味が不明である。


第14.拒絶理由B)の(4)について

14-1.審判請求人の主張
平成24年8月21日付けの意見書において、審判請求人は以下のように主張している。
「項目(4):本願明細書の段落[0012]を参照すると、「同じグレード」が総合チャネル・ピーク要望満足度メトリックやチャネル遅延要望満足度メトリック等と掛け算されてウィニング・ユーザ・デバイスを識別できるサービス・プロトコルである点で同等なものを指すことが判ります。」

14-2.検討
拒絶理由B)の(4)は、平成24年8月21日付けの補正前の請求項10(補正後の請求項8)に関するものである。
審判請求人の主張は、本願明細書の段落番号【0012】の「該ダイナミック限定的再使用スケジューリング素子は、同じグレードのサービス技術及び比例公平技術、又はその他を使用して各ユーザ・デバイスに対する公平性メトリックを決定できる、これは該総合チャネル・ピーク要望満足度メトリックと該チャネル遅延要望満足度メトリックのうちの1つ又はそれより多くと掛け算されることができ、周波数セット割り当ての与えられたラウンドの間に周波数セットを与えられることが可能なウィニング・ユーザ・デバイスを識別する。」(当審注:下線は、当審が付加した。)を指摘したものと解される。また、審判請求人の主張における「同等なもの」の「もの」は、「サービス技術」または「サービス・プロトコル」を指すものと解される。
しかし、本願明細書の段落番号【0012】の上記記載における指示語「これ」は「公平性メトリック」を指すから、「該総合チャネル・ピーク要望満足度メトリックと該チャネル遅延要望満足度メトリックのうちの1つ又はそれより多くと掛け算されることができ、周波数セット割り当ての与えられたラウンドの間に周波数セットを与えられることが可能なウィニング・ユーザ・デバイスを識別する。」は、「公平性メトリック」を主語とする記載であり、「同じグレードのサービス技術」を主語とする記載ではない。したがって、本願明細書の段落番号【0012】の上記記載を参照しても、「同じグレード」が総合チャネル・ピーク要望満足度メトリックやチャネル遅延要望満足度メトリック等と掛け算されてウィニング・ユーザ・デバイスを識別できるサービス・プロトコルである点で同等なものを指すとは、解せない。仮に、「同じグレード」が総合チャネル・ピーク要望満足度メトリックやチャネル遅延要望満足度メトリック等と掛け算されてウィニング・ユーザ・デバイスを識別できるサービス・プロトコルである点で同等なものを指すとしても、「同じグレード」が、どういうもののグレードと同じであるのか依然として不明である。


第15.むすび
上記第4-11で示したとおり、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、この出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
上記第12-14で示したとおり、請求項2,7,8に係る発明は明確でないから、この出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-12 
結審通知日 2012-10-16 
審決日 2012-10-29 
出願番号 特願2007-527695(P2007-527695)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H04W)
P 1 8・ 536- WZ (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 望月 章俊  
特許庁審判長 江口 能弘
特許庁審判官 近藤 聡
小曳 満昭
発明の名称 ダイナミック限定的再使用スケジューラ  
代理人 河野 直樹  
代理人 白根 俊郎  
代理人 岡田 貴志  
代理人 竹内 将訓  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 砂川 克  
代理人 勝村 紘  
代理人 峰 隆司  
代理人 野河 信久  
代理人 福原 淑弘  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 河野 哲  
代理人 堀内 美保子  
代理人 山下 元  
代理人 村松 貞男  
代理人 市原 卓三  
代理人 中村 誠  
代理人 佐藤 立志  
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