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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1271522
審判番号 不服2010-18679  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-19 
確定日 2013-03-13 
事件の表示 特願2003-334760「集積回路用のシリコンリッチ低熱収支窒化ケイ素」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月22日出願公開、特開2004-128500〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年 9月26日(パリ条約による優先権主張 2002年 9月30日、米国)の出願であって、平成22年 4月15日付けで拒絶査定され、これを不服として平成22年 8月19日付け(受付日)で拒絶査定不服審判が請求されると共に手続補正書が提出されたが、当審によって平成24年 2月 7日付けで拒絶理由が通知され、平成24年 8月 8日付け(受付日)で意見書及び手続補正書が提出されたものである。

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成24年 8月 8日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリシリコン・ゲートを含むゲート構造と、前記ゲート構造に隣接して形成された少なくとも一つの窒化ケイ素スペーサとを有する半導体MOSトランジスタを備え、
前記窒化ケイ素スペーサが、窒素-水素結合のN-H濃度の少なくとも1.5倍であるケイ素-水素結合のSi-H濃度を有することを特徴とするSiN材料で形成され、前記ポリシリコン・ゲートはドーパント不純物としてホウ素を含み、
前記トランジスタの他の領域へ前記ポリシリコンゲートからの前記ホウ素の拡散が低減される
ことを特徴とする半導体製品。」


2 当審拒絶理由通知の概要と刊行物及びその摘記事項
(1)当審の拒絶の理由の概要は以下のとおり。
「窒化シリコン膜成膜後の各種熱処理工程において、ホウ素の拡散が促進されること、それは、窒化シリコンに含まれていた水素が放出されたことに原因があることが、刊行物1・・・に記載されているように周知の事項である。・・・ ホウ素の拡散防止のためには、熱処理による窒化シリコン膜中からの水素放出を防げればよいのであり、刊行物3においても、窒化膜等のシリコン系絶縁膜におけるN-H結合の数をSi-H結合の数の0?20%とすれば、水素発生が抑制されるのであるから、刊行物1・・・に記載された周知技術に、刊行物3に記載されている・・・窒化シリコン膜から水素を放出させないようにするためにN-H結合の数をSi-H結合の数の0?20%とする技術手段を採用することは、当業者ならば容易に想到し得たものである。」から、本願の請求項1?9に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとしたものである。
また、
「ア 請求項1及び請求項4において、単に少なくとも1.5倍との記載では、Si-H濃度、N-H濃度の何れもが、或いは、Si-H濃度のみが、10^(24)原子/cm^(3)と言うような極端に高い場合をも含む・・・が、そのような発明は、発明の詳細な説明に記載されていない。
イ ・・・発明の詳細な説明中の記載を見ても、少なくとも1.5倍とすることの具体的な裏付け(根拠)が不明である。したがって、請求項1、4に係る発明において、Si-H濃度がN-H濃度の少なくとも1.5倍とすることのみにより、「ホウ素突抜け、ホウ素ドープ・ポリ空乏化、或いは他のそのような望ましくない装置作用」を低減するとの課題を解決することの根拠が、発明の詳細な説明には、説明されていないのであるから、請求項1・・・に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。」から、・・・特許請求の範囲・・・の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条・・・第6項第1号・・・に規定する要件を満たしていないとしたものである。

(2)上記当審拒絶理由通知で引用した刊行物1である特開2000-12856号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、「MOSトランジスタの製造方法」(発明の名称)の発明に関して、下記の事項が記載されている。(下線は当審で引いたもの。)
(刊1ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はMOSトランジスタの製造方法に関し、特に基板上においてp型MOSトランジスタ(PMOS)のp型ゲート電極と窒化シリコン膜が共存する場合にも、該p型ゲート電極からのホウ素(B)の拡散やゲート酸化膜突抜けを効果的に抑制できる方法に関する。」

(刊1イ)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、シリコン膜中に導入されたホウ素は、後工程において基体が高温条件に曝されると拡散を起こし易いという問題があり、ゲート酸化膜中に取り込まれたり、場合によってはゲート酸化膜を突き抜けて基板(Si)にまで到達する。このような拡散は、後工程におけるソース/ドレインの活性化アニール、SALICIDE(自己整合的シリサイド化)プロセス、層間絶縁膜のリフロー等、様々な場面で生ずる可能性があり、・・・
【0008】しかも、かかるホウ素の拡散は、窒化シリコン膜を成膜した場合に促進されることが知られている。・・・」

(刊1ウ)「【0011】・・・p型ポリシリコン膜の存在する基板上に窒化シリコン膜を形成した場合、基板が成膜中、およびその後工程で高温条件に曝されることにより、ホウ素の拡散が促進され、ゲート酸化膜を突き抜け易くなっていることが明らかである。
【0012】・・・一般に窒化シリコン膜は、・・・により成膜されるが、この時の反応で大量に発生する水素が必然的に膜中に取り込まれる。実はこの水素が、ホウ素の増速拡散の原因であることが近年明らかになっている。しかし、現状では水素を含まない窒化シリコン膜を成膜することは極めて難しく、したがって水素によるホウ素の増速拡散を抑制することも困難なのである。
【0013】ホウ素の拡散を抑制する上で有効と考えられる方法は、熱処理温度の低下あるいは熱処理時間の短縮である。しかし、前者ではイオン注入やドライエッチングで生じた結晶欠陥の回復が不十分となるためリーク電流の増大を招く虞れがあり、後者では不純物の活性化が不十分となるため拡散層や配線層の抵抗の上昇を招く虞れがある。・・・」

(刊1エ)「【0020】本発明における窒化シリコン膜は、いかなる方法で成膜しても構わないが、従来より最も一般的に採用されている方法として、シラン系化合物と還元性化合物とを含む原料ガスを用いたCVDを挙げることができる。この方法で成膜される窒化シリコン膜には必然的に水素が含まれるが、本発明ではこの成膜工程以降に行われるすべての工程を一定範囲内に低温化するので、水素が含まれても一向に構わない。つまり、窒化シリコン膜の成膜に関しては、プロセスが最もよく確立され、実績のある方法を選択できるのである。」

(刊1オ)「【0039】実施例3
ここでは、SALICIDEプロセスを利用したデュアル・ゲート型CMOSの製造に本発明を適用したプロセス例について、・・・説明する。図10は、・・・ポリシリコン膜をパターニングしてPMOS形成領域にゲート電極21・・・をそれぞれ形成し、・・・
【0040】上記ゲート電極21,22は、たとえばSiH_(4)ガスを用いた減圧CVD法により、580?620℃にてポリシリコン膜を150?300nmの厚さに堆積させた後、・・・この膜をパターニングして得られたものである。・・・
【0042】次に、図12に示されるように、基体の全面にサイドウォール形成用の窒化シリコン膜26を成膜した。この窒化シリコン膜26は、たとえばSiCl_(2)H_(2)/NH_(3)混合ガスを用いた減圧CVD法により、760℃にて約150nmの厚さに堆積させた。次に、図13に示されるように、上記窒化シリコン膜26を異方的にエッチバックし、ゲート電極21,22の側壁面上にサイドウォール26sを形成した。・・・
【0043】次に、PMOS形成領域にはBF_(2)^(+) 、・・・をそれぞれイオン注入することにより、p^(+)型のソース/ドレイン領域11・・・を形成した。・・・なお、このイオン注入の際には、ゲート電極21,22にも同時にイオンが注入されるため、PMOS部のゲート電極21の導電型はp型、・・・となる。この後、たとえば900℃,10秒間の条件でRTAを行うことにより、p^(+)型のソース/ドレイン領域11・・・の不純物を活性化させた。なお、このRTAによるゲート電極21中のホウ素の増速拡散は生じなかった。」

上記摘記事項(刊1ア)、(刊1オ)を整理すると、引用刊行物1には、
「ポリシリコン膜をパターニングしてPMOS形成領域に形成したゲート電極21と、窒化シリコン膜26を異方的にエッチバックし、ゲート電極21の側壁面上に形成したサイドウォール26sとを有するPMOS(p型MOSトランジスタ)を備え、
PMOS形成領域にBF_(2)^(+) をイオン注入する際に、同時にイオンが注入されるために、PMOS部のゲート電極21の導電型はp型となり、
ゲート電極21中のホウ素の増速拡散を生じさせない
デュアル・ゲート型CMOS」
に関する発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。

(3)上記当審拒絶理由通知で引用した刊行物3である特開昭63-209130号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、「半導体装置」(発明の名称)の発明に関して、下記の事項が記載されている。
(刊2ア)「〔問題点を解決するための手段〕
本発明の半導体装置は、アルミニウム配線を有する半導体装置であって、前記アルミニウム配線は、プラズマ化学的気相成長法により形成され、かつN-H結合の数がSi-H結合の数の0?20%であるシリコン系絶縁膜で覆われているものである。
プラズマ窒化膜中にはフーリエ変換赤外吸収スペクトル(以下FTIRと記す)で観察すると、N-H結合とSi-H結合の形で水素がふくまれている。これらの結合の熱処理による分解の様子を第3図に示す。N-H結合はSi-H結合に比較して熱処理によって分解しやすく、通常のICのプロセス中に熱処理によって発生する水素は、N-H結合の分解によるものであることがわかる。
第4図はプラズマ窒化膜中のSi-H結合及びN-H結合とアンモニア(NH_(3))ガスに対するシラン(SiH_(4))ガスの流量比との関連図である。
第4図からN-H結合を減らしてSi-H結合を増やすには反応に用いるアンモニアガスに対するシランガスの流量比を増してやれば良いことがわかる。さらに第3図に示したようにN-H結合から離脱した水素はSi-H結合を増加させていることもわかる。
このような時性をプラズマ窒化膜が有していることはこれまでにも知られていた。例えばジャーナル オブ エレクトロケミカル ソサイティ オクトラバー・・・1979年 1750?1754頁にも同様の結果が得られていることがエッチ・ジェイ スティン・・・らにより報告されている。」(2頁左上欄3行?右上欄14行)

(刊2イ)「次にプラズマ窒化膜4を300℃、トータル圧力0.3Torr SiH_(4)ガス流量150SCCM、NH_(3)ガス流量300SCCM、N_(2)ガス流量1500SCCMの条件で約1.0μmの厚さに形成する。・・・
このプラズマ窒化膜4中のN-H結合の数は1.7×10^(21)個/cm^(3)であり、またSi-H結合の数は、9.3×10^(21)個/cm^(3)で、N-H結合数はSi-H結合数の約18%であった。
このように構成された第1の実施例においては、上記450℃30分間の熱処理によっても窒化膜のふくれやアルミニウム消失の不良は発生しなかった。
また、SiH_(4)ガス流量150SCCMでNH_(3)ガス流量を1100SCCMに増やした条件で厚さ約1.0μmのプラズマ窒化膜を形成すると、プラズマ窒化膜中のN-H結合とSi-H結合の数は3.2×10^(21)個/cm^(3)及び1.1×10^(22)個/cm^(3)となり、Si-H結合数に対するN-H結合数の割合は約29%に増加する。」(2頁左下欄19行?右下欄20行)

(刊2ウ)「NH_(3)ガス流量に対しSiH_(4)ガス流量を増やし、N-H結合の数をSi-H結合の数の20%以下にするとプラズマ窒化膜ふくれやアルミニウム消失の不良は発生しなかった。
この理由は熱処理によって分解したN-H結合のHはあまっているSiにとらえられSi-H結合を作るために消費される。このため、プラズマ窒化膜から外へ水素が離脱しないためと考えられる。」(3頁左上欄4?12行)


3 特許法第29条第2項に関する当審の判断
(1)本願発明と刊行物1発明との対比
ア 刊行物1発明の「ポリシリコン膜をパターニングしてPMOS形成領域に形成したゲート電極21」は、本願発明の「ポリシリコン・ゲートを含むゲート構造」に相当し、同様に、「ゲート電極21の側壁面上に形成」は、「ゲート構造に隣接して形成」に、「窒化シリコン膜26」は、「窒化ケイ素」に、「サイドウォール26s」は、「スペーサ」に、「PMOS(p型MOSトランジスタ)」は、「半導体MOSトランジスタ」に、そして、「デュアル・ゲート型CMOS」は、「半導体製品」にそれぞれ相当する。

イ 刊行物1発明の「サイドウォール26s」は、窒化シリコン膜26を異方的にエッチバックしてゲート電極21の側壁面上に形成したものであるから、本願発明の「窒化ケイ素スペーサ」に相当し、また、窒化シリコン膜の材料は、SiN材料であることは明らかであり、その成膜時に水素が膜中に取り込まれてしまうものであることから、刊行物1発明の窒化シリコン膜からなる「サイドウォール26s」と、本願発明の「窒化ケイ素スペーサが、窒素-水素結合のN-H濃度の少なくとも1.5倍であるケイ素-水素結合のSi-H濃度を有することを特徴とするSiN材料で形成され」とは、「窒化ケイ素スペーサが、水素が取り込まれたSiN材料で形成され」ている点で一致する。

ウ 刊行物1発明の「PMOS形成領域にBF_(2)^(+) をイオン注入する際に、同時にイオンが注入されるために、PMOS部のゲート電極21の導電型はp型となり、」は、ポリシリコン膜をパターニングして形成したゲート電極21にBF_(2)^(+) がイオン注入されて、p型となるのであるから、当該ゲート電極21は、ドーパント不純物としてBF_(2)^(+) 由来のホウ素を含んでいることは明らかである。
したがって、刊行物1発明の「PMOS形成領域にBF_(2)^(+) をイオン注入する際に、同時にイオンが注入されるために、PMOS部のゲート電極21の導電型はp型となり、」は、本願発明の「ポリシリコン・ゲートはドーパント不純物としてホウ素を含み、」に相当する。

エ 刊行物1発明の「ゲート電極21中のホウ素の増速拡散を生じさせない」は、引用刊行物1の摘記事項(刊1ア)?(刊1ウ)に記載のように、ホウ素が、PMOSトランジスタを形成しているポリシリコン製のゲート電極中からゲート酸化膜中に取り込まれたり、場合によってはゲート酸化膜を突き抜けて基板(Si)にまで到達するような、PMOSトランジスタのゲート電極以外の他の構成部材へのホウ素の増速拡散を生じさせないようにすることであるから、本願発明の「前記トランジスタの他の領域へ前記ポリシリコンゲートからの前記ホウ素の拡散が低減される」に相当する。

そうすると、両者は、
「ポリシリコン・ゲートを含むゲート構造と、前記ゲート構造に隣接して形成された少なくとも一つの窒化ケイ素スペーサとを有する半導体MOSトランジスタを備え、
前記窒化ケイ素スペーサが、水素が取り込まれたSiN材料で形成され、前記ポリシリコン・ゲートはドーパント不純物としてホウ素を含み、
前記トランジスタの他の領域へ前記ポリシリコンゲートからの前記ホウ素の拡散が低減される
半導体製品。」
の点で一致するものの、次の点で相違する。

相違点1
本願発明では、「前記窒化ケイ素スペーサが、窒素-水素結合のN-H濃度の少なくとも1.5倍であるケイ素-水素結合のSi-H濃度を有することを特徴とするSiN材料で形成され、」ているのに対して、刊行物1発明では、取り込まれている水素について、具体的な構成が特定されていない点で相違する。

相違点2
「トランジスタの他の領域へ前記ポリシリコンゲートからの前記ホウ素の拡散が低減される」のは、本願発明では、「前記窒化ケイ素スペーサが、窒素-水素結合のN-H濃度の少なくとも1.5倍であるケイ素-水素結合のSi-H濃度を有することを特徴とするSiN材料で形成され、」ていることによるものであるに対して、刊行物1発明では、熱処理を所定の温度範囲内で行うことによる点で相違する。

(2)相違点についての判断
上記相違点2は、相違点1の構成を採用することによる本願発明の効果を特定した構成にかかわるものであり、相違点1と関連する事項であるので、以下まとめて検討する。
引用刊行物1の摘記事項(刊1ア)?(刊1ウ)には、p型MOSトランジスタ(PMOS)のp型ゲート電極と窒化シリコン膜が共存する場合、該p型ゲート電極としてのポリシリコン膜中に導入されたホウ素は、後工程において基体が高温条件に曝されると拡散を起こし易いという問題があり、ゲート酸化膜中に取り込まれたり、場合によってはゲート酸化膜を突き抜けて基板(Si)にまで到達する事がある旨、及び、当該ホウ素の拡散は、窒化シリコン膜の成膜時に窒化シリコン膜中に取り込まれた水素が原因であることが説明されている。
また、ホウ素の拡散を抑制する方法として、熱処理温度を低下させることが挙げられているが、熱処理温度を低下させることにより、イオン注入やドライエッチングで生じた結晶欠陥の回復が不十分となるためリーク電流の増大を招く虞れがある旨説明されている。これは、ホウ素の拡散を抑制するために熱処理温度を低下させるとしても、半導体装置としての機能を損なわない程度に低下させる事、或いはできる限り熱処理温度を下げたくないとの示唆がなされているものである。

一方、窒化シリコン膜の成膜時に取り込まれる水素は、N-H結合とSi-H結合の形で取り込まれてしまうことが周知であり、N-H結合はSi-H結合に比較して熱処理によって分解しやすく、通常のICのプロセス中に熱処理によって発生する水素は、N-H結合の分解によるものであることが、引用刊行物2の摘記事項(刊2ア)に記載されている。これは、N-H結合の割合をできる限り小さくすれば、通常のICのプロセス中に熱処理によって発生する水素を少なくすることが可能であることを示唆するものである。
また、窒化シリコン膜中のN-H結合の割合を減らす方法として、引用刊行物2の摘記事項(刊2ア)には、プラズマ窒化膜の成膜において、反応に用いるアンモニアガスに対するシランガスの流量比を増すことで、N-H結合を減らしてSi-H結合を増やす事ができることが、第4図と共に説明されており、摘記事項(刊2イ)には、SiH_(4)ガス流量150SCCM、NH_(3)ガス流量300SCCM、N_(2)ガス流量1500SCCMの条件で、N-H結合数はSi-H結合数の約18%となること、即ち、ガスの割合を調節することで、N-H結合数の約4.6倍のSi-H結合数となることが記載されている。

ところで、本願発明の「前記窒化ケイ素スペーサが、窒素-水素結合のN-H濃度の少なくとも1.5倍であるケイ素-水素結合のSi-H濃度を有することを特徴とするSiN材料で形成され」との発明特定事項は、Si-H濃度が、N-H濃度の少なくとも1.5倍よりも大きければよいと言うことであり、N-H濃度及びSi-H濃度自体に関わりなく、Si-H濃度がN-H濃度の1.5倍以上或いは、大半がSi-H濃度となることを意味しているものである。

してみると、刊行物1発明において、ホウ素の拡散を抑制するに際して、成膜の後の工程において、熱処理温度を低下させるとしても、可能な限り熱処理温度を低くしたくないことは上記したとおりであり、また、窒化シリコン膜の成膜方法についても、摘記事項(刊1エ)に記載されているように特定の成膜方法に限定されるものではなく、いかなる方法で成膜しても構わないものであるから、引用刊行物2に記載されているように、通常のICのプロセス中に熱処理によって発生する水素を少なくして、可能な限りホウ素の拡散を抑制しようとして、Si-H結合に比較して熱処理によって分解しやすいN-H結合を可能な限り減らし、より熱処理による分解がしにくいSi-H結合の割合を増やして、「窒素-水素結合のN-H濃度の少なくとも1.5倍であるケイ素-水素結合のSi-H濃度」とすることは当業者ならば容易に想到し得たものである。

また、本願発明の「窒素-水素結合のN-H濃度の少なくとも1.5倍であるケイ素-水素結合のSi-H濃度」との構成を採用することによるホウ素の拡散の抑制の効果について、格別な効果は認められない。


4 特許法第36条第6項第1号に関する当審の判断
本願発明の「前記窒化ケイ素スペーサが、窒素-水素結合のN-H濃度の少なくとも1.5倍であるケイ素-水素結合のSi-H濃度を有することを特徴とするSiN材料で形成され」との発明特定事項は、その上限が特定されておらず、また、Si-H濃度、N-H濃度の何れも特定されておらず、Si-H濃度とN-H濃度との割合のみが規定されているものでのある。
即ち、Si-H濃度のみ、或いは、Si-H濃度、N-H濃度の何れもが、10^(24)原子/cm^(3)と言うような極端に高い場合、例えば、Si-H濃度が1.5×10^(24)原子/cm^(3)で、N-H濃度が1×10^(24)原子/cm^(3) といったように、濃度そのものには関係なく、単に、1.5倍というその割合のみが特定されればよいと言うものである。
ところで、本願明細書のSi-H濃度及びN-H濃度に関する具体的な説明として、請求項の記載をそのまま写した記載以外では、次の記載がある。
「【0013】
・・・本発明の好ましい実施形態によれば、シリコンリッチSiN膜は、従来のSiN膜と比較して、Si-H結合に結合している増大した水素の量と、N-H結合に結合している減少した水素の量とを含む。一実施形態では、SiN膜により、より多くの割合の水素が、窒素よりケイ素と結合する。Si-H結合は、N-H結合より高い活性化エネルギーを含むので、解離して、窒化ケイ素膜から拡散し、その後の高温処理作業を実施するときに、ホウ素突抜けおよびホウ素ドープ・ポリ空乏化を可能にする水素の量を、より少なくすることができる。」
「【0016】
・・・膜のSi-H結合およびN-H結合のおよその濃度は、一例示的な実施形態では、一般に1e^(21)/cm^(3)から1e^(22)/cm^(3)の大きさとすることが可能である。他の例示的な実施形態では、Si-H結合の濃度は、1e^(20)?5e^(20)/cm^(3)の範囲内であり、N-H結合の濃度は、5e^(19)?8e^(19)/cm^(3)の範囲内とすることが可能である。他の例示的な実施形態によれば、Si-H結合とN-H結合の相対量は、ほぼ同じとすることが可能である。一例示的な実施形態では、SiN膜は、ケイ素-水素結合のSi-H濃度が、窒素-水素結合のN-H濃度の少なくとも1.5倍であることを特徴とすることが可能である。他の例示的な実施形態では、膜は、窒素-水素結合のN-H濃度の5?10倍であるケイ素-水素結合のSi-H濃度を含むように形成することが可能である。」

上記記載によれば、「Si-H結合は、N-H結合より高い活性化エネルギーを含むので、解離して、窒化ケイ素膜から拡散し、その後の高温処理作業を実施するときに、ホウ素突抜けおよびホウ素ドープ・ポリ空乏化を可能にする水素の量を、より少なくすることができる。」と説明しているものの、その具体的な濃度の割合としては、「Si-H結合の濃度は、1e^(20)?5e^(20)/cm^(3)の範囲内であり、N-H結合の濃度は、5e^(19)?8e^(19)/cm^(3)の範囲内とすることが可能である。」との記載があるのみである。
上記のSi-H結合の濃度は、N-H結合の濃度の(1e^(20)/cm^(3))/(8e^(19)/cm^(3) )?(5e^(20)/cm^(3) )/(5e^(19)/cm^(3) )=1.25?10倍であって、N-H結合の濃度は、e^(19)/cm^(3)のオーダーの濃度が例示的に示されているだけであり、当該濃度比(倍率)の場合に、何度の熱処理に対して、どの程度のホウ素の拡散を抑制できたのかについて、具体的な根拠を示す実験データ等が本願明細書には何ら開示されていない。
加えて、N-H結合のいかなる濃度においても、任意の熱処理温度において、濃度比(倍率)さえ特定されれば、ホウ素の拡散を(その程度も含めて)抑制することができるのかについての具体的な実験データ等の根拠が、本願明細書に開示されいない。
さらに、上記のどの様な濃度及び濃度比(倍率)の場合に、どの様な温度の熱処理に対して、ホウ素の拡散をどの程度、抑制することができたのか、濃度比(倍率)の下限を1.5とする具体的な根拠も不明である。

してみると、本願発明において、Si-H濃度及びN-H濃度の濃度自体の限定をせず、単に「少なくとも1.5倍」との倍率のみを限定する記載では、Si-H濃度及びN-H濃度の何れもが、或いはSi-H濃度のみが、10^(24)原子/cm^(3)と言うような極端に高い場合をも含むものであり、そのような発明は、発明の詳細な説明に記載されていない。
また、「少なくとも1.5倍」とすることの具体的な裏付け(根拠)が発明の詳細な説明に開示されていないのであるから、本願発明において、Si-H濃度がN-H濃度の「少なくとも1.5倍」とすることのみにより、「ホウ素突抜け、ホウ素ドープ・ポリ空乏化、或いは他のそのような望ましくない装置作用」を低減するとの課題を解決することの根拠が、発明の詳細な説明には説明されていない。
したがって、請求項1に係る本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。


5 本件審判請求人の主張について
(1)本件審判請求人は、平成24年 8月 8日付け意見書において下記の主張をしている。
「【意見の内容】
1.本件は、・・・
特許法第29条第2項の規定による拒絶理由:
・・・本件発明においては、高温処理を実行することにより引用文献1及び2の従来の配置に対する優位な利点を提供します。例えば、本件明細書【0017】段落は、・・・引用文献1及び2は本件請求項1に記載する事項を開示するものではなく、窒化ケイ素膜の低温処理へ限定される引用文献1及び2の発明から明確に差別化できるものと考えます。
・・・引用文献3は、アルミニウム配線3を覆うことにより、アルミニウム消失を防止し、従来の窒化ケイ素膜に関連する膨れを回避する旨記載・・・。しかしながら、・・・窒化ケイ素スペーサ又はホウ素拡散に関する事項を開示しません。・・・望まれないホウ素拡散を防止するための窒化ケイ素スペーサの使用による優位性について開示しません。・・・以上より、本件発明は引用文献に記載された発明に対し特許性を有するものと信じます。
特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号及び第2号の規定による拒絶理由:
・・・本件明細書は、Si-H結合濃度がN-H結合濃度より少なくとも1.5倍である場合のホウ素拡散の減少について明確にサポートします。例えば、本件明細書【0024】段落は以下のように記載します。
「【0024】
本発明のシリコンリッチ窒化ケイ素膜は、そのような窒化ケイ素膜の複数層を使用するBiCMOSプロセス・フローにも適用される。第1窒化ケイ素層は、バイポーラ・トランジスタのエミッタとベース・ポリ層の間にある誘電体の一部として一般に使用される。第2窒化物層および第3窒化物層は、バイポーラ・ウィンドウのエミッタ・ウィンドウの内側にスペーサを形成するように、堆積およびエッチングすることが可能である。利用可能な水素の量が少ないことは、第1窒化物層では特に有利であるが、その理由は、第1窒化物層は、バイポーラ・プロセスの大半中、CMOS領域の上に存在し続けるからである。そうでない場合、バイポーラ・プロセス中の熱サイクルにより、窒化物膜の過剰な水素が、BiCMOS構造のCMOS領域に形成されたPMOSトランジスタのCMOSゲート・ポリの周辺で解離する可能性がある。次いで、PMOSトランジスタのp+ゲート・ポリにゲートをドープするために使用されたホウ素は、ゲート酸化物を通って拡散する(上記のホウ素突抜け)。この拡散の量は、ゲート・ポリの領域にある利用可能な水素の存在と共に変化する。CMOS領域を覆う窒化物層が、過度に多い利用可能な水素を含む場合、すなわちSi-H結合と比較してN-H結合が多い場合、ホウ素突抜けが、従来のPMOS装置では観測される。トランジスタ・ゲート内へのホウ素突抜けは、PMOSトランジスタの電気的な性能に悪影響を与える。上記で議論したように、トランジスタの望ましくないVtシフトは、窒化ケイ素膜において結合していない水素または弱く結合した水素の量、すなわちN-H結合と関係がある。」(審決注:上記【0024】の下線は、本件請求人によりひかれたもの)
本件明細書は、ホウ素浸透のネガティブ効果を記載し、その効果が水素の有用性に関連します。更に、本件明細書は、水素の有用性は、Si-H結合と比較したN-H結合の存在にあることに関連する旨記載します。この点について、本件明細書は、【0016】段落に下記の記載を有します。」

(2)29条2項に対する主張に対して
審判請求人は、「高温処理を実行することにより引用文献1及び2の従来の配置に対する優位な利点を提供します。」と主張しているものの、本願明細書には、Si-HとN-Hとの濃度比(倍率)と具体的な熱処理の温度との関係、また、N-H濃度の上限等についても何ら特定されていないこと、さらには、その具体的な濃度比(倍率)とホウ素拡散を抑制することが可能な、具体的な熱処理温度或いは、特定の熱処理温度におけるホウ素拡散の抑制の程度が本願明細書中で、実験データ等により何ら裏付けられていないことから、本願発明における、「少なくとも1.5倍」との発明特定事項により得られる効果は、単に、活性化エネルギーの差により、水素の発生が少しは少なくなるだろうということが期待される程度のものにすぎず、本願発明の「前記窒化ケイ素スペーサが、窒素-水素結合のN-H濃度の少なくとも1.5倍であるケイ素-水素結合のSi-H濃度を有することを特徴とするSiN材料で形成され」との発明特定事項の構成をとることによる当該効果に格別な点は、見出せない。

また、引用刊行物2については、窒化シリコン膜における熱処理工程での水素発生原因に係る技術的知見を引用するものであり、水素の発生については、アルミニウムと接した時のみに生じる特異な現象ではなく、窒化シリコン膜の熱処理工程における現象を説明している点において、窒化シリコン膜中から熱処理による水素発生を課題とする技術一般に適用できることは明らかであり、刊行物1発明においても、窒化シリコン膜中から熱処理による水素発生を課題としているものであるから、両者を組み合わせることは当業者ならば容易に想到し得たものである。

そして、引用刊行物2においてもN-H結合の熱処理による分解のしやすさについて、説明されている以上、引用刊行物2を刊行物1発明に適用することにより奏せられる効果と本願発明において奏される効果とに格別な差違は見出せない。

したがって、上記審判請求人の主張を採用することができない。

(3)36条に対する主張に対して
本件審判請求人は、【0024】を引用して、「本件明細書は、ホウ素浸透のネガティブ効果を記載し、その効果が水素の有用性に関連します。」として、「更に、本件明細書は、水素の有用性は、Si-H結合と比較したN-H結合の存在にあることに関連する旨記載します。この点について、本件明細書は、【0016】段落に下記の記載を有します。」と主張しているが、本願明細書の【0024】、【0016】を初めとして明細書全体の記載において、倍率と実際のホウ素拡散の抑制の程度に関する具体的な記載はない。
即ち、上記「4 特許法第36条第6項第1号に関する当審の判断」のとおり、本願明細書には、N-H結合の濃度が任意の温度でも、濃度比(倍率)さえ、特定されれば、ホウ素の拡散を抑制することができるとの具体的な根拠が開示されておらず、どの様な濃度及び濃度比(倍率)の場合に、どの様な温度の熱処理に対して、ホウ素の拡散をどの程度、抑制することができたのか、その具体的な実験データも示されていない。

そして、Si-H濃度及びN-H濃度の濃度自体の限定をせず、単に「少なくとも1.5倍」との倍率のみを限定する記載では、Si-H濃度及びN-H濃度の何れもが、或いはSi-H濃度のみが、10^(24)原子/cm^(3)と言うような極端に高い場合をも含むものであり、そのような発明は、発明の詳細な説明に記載されていない。

また、「少なくとも1.5倍」とすることの具体的な裏付け(根拠)が発明の詳細な説明に開示されていないのであるから、本願発明において、Si-H濃度がN-H濃度の「少なくとも1.5倍」とすることのみにより、「水素は、窒化ケイ素膜と結合したままであり、半導体装置に悪影響を与えるホウ素突抜けおよびホウ素ドープ・ポリ空乏化の上述した機構を助長することはない。」(【0006】)との課題を解決する或いは、「N-H結合:S-H結合の比が低減されていることにより、ホウ素突抜け、ホウ素ドープ・ポリ空乏化、或いは他のそのような望ましくない装置作用」を低減する(【0017】)との作用を奏するとの根拠が、発明の詳細な説明には説明されていない。

したがって、上記審判請求人の主張を採用することができない。


6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、本願は、当審で通知した上記拒絶の理由によって拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-17 
結審通知日 2012-10-18 
審決日 2012-10-30 
出願番号 特願2003-334760(P2003-334760)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 淳一  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 加藤 友也
新海 岳
発明の名称 集積回路用のシリコンリッチ低熱収支窒化ケイ素  
代理人 岡部 正夫  
代理人 岡部 讓  
代理人 加藤 伸晃  
代理人 朝日 伸光  

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