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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1271525
審判番号 不服2010-22153  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-01 
確定日 2013-03-13 
事件の表示 特願2005-518783「偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成17年7月28日国際公開、WO2005/068521、平成18年9月21日国内公表、特表2006-521418〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成17年1月20日(優先権主張 平成16年1月20日 大韓民国)を国際出願日とする特許出願であって、平成21年7月29日付けで拒絶理由が通知され、同年11月30日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月17日付けで再度拒絶理由が通知され、平成22年5月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月26日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同年10月1日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年11月9日付けで前置審査の結果が報告され、当審において平成23年11月4日付けで審尋されたが、それに対して請求人から回答書が提出されなかったものである。

第2.補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成22年10月1日付け手続補正書による補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成22年10月1日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲である
「【請求項1】
a)下記の単量体(合計100重量部)を共重合して得たアクリル系共重合体100重量部:
i)n-ブチルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体45?90重量部;
ii)n-オクチルアクリレート及び/又は2-エチルヘキシルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体10?40重量部;及び
iii)架橋可能な官能基を含むビニル系単量体、アクリル系単量体、又はこれらの混合物0.1?15重量部;及び
b)多官能性架橋剤0.01?10重量部
のみからなる偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物。
【請求項2】
前記架橋可能な官能基を含むビニル系単量体は、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、及び2-ヒドロキシプロピレングリコール(メタ)アクリレートからなる群より1種以上選択される、請求項1に記載のアクリル系感圧性粘着剤組成物。
【請求項3】
前記架橋可能な官能基を含むアクリル系単量体は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体、イタコン酸、マレイン酸、及びマレイン酸無水物からなる群より1種以上選択される、請求項1に記載のアクリル系感圧性粘着剤組成物。
【請求項4】
前記アクリル系共重合体の分子量が20万乃至200万である、請求項1に記載のアクリル系粘着剤組成物。
【請求項5】
前記多官能性架橋剤が、イソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、アジリジン系化合物、及び金属キレート系化合物からなる群より1種以上選択される、請求項1に記載のアクリル系粘着剤組成物。
【請求項6】
前記アクリル系粘着剤組成物の架橋密度は5乃至95%である、請求項1に記載のアクリル系感圧性粘着剤組成物。
【請求項7】
偏光フィルムの一面又は両面に、請求項1乃至6のうちのいずれか一項に記載のアクリル系感圧性粘着剤組成物を含む偏光板。
【請求項8】
前記偏光板は、保護層、反射層、位相差板、広視野角補償フィルム、及び輝度向上フィルムからなる群より1種以上選択される層を更に含む、請求項7に記載の偏光板。
【請求項9】
請求項7に記載の偏光板を、液晶セルの一面又は両面に接合した液晶パネルを含む液晶表示装置。
【請求項10】
a)下記の単量体(合計100重量部)を共重合して得たアクリル系共重合体100重量部:
i)n-ブチルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体45?90重量部;
ii)n-オクチルアクリレート及び/又は2-エチルヘキシルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体10?40重量部;及び
iii)架橋可能な官能基を含む単量体としてアクリル酸及び/又は2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート0.1?15重量部;及び
b)多官能性架橋剤としてのトリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物0.01?10重量部
のみからなる、請求項1に記載の偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物。
【請求項11】
前記a)のアクリル系共重合体が、
i)n-ブチルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体69.5?87重量部;
ii)n-オクチルアクリレート及び/又は2-エチルヘキシルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体10?28重量部;及び
iii)架橋可能な官能基を含む単量体としてアクリル酸及び/又は2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート2.5?3.0重量部
を共重合して得たものである、請求項1に記載の偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物。」
を、
「【請求項1】
a)下記の単量体(合計100重量部)を共重合して得た、分子量20万乃至200万のアクリル系共重合体100重量部:
i)n-ブチルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体69.5?87重量部;
ii)n-オクチルアクリレート及び/又は2-エチルヘキシルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体10?28重量部;及び
iii)架橋可能な官能基を含む単量体としてのアクリル酸及び/又は2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート2.5?3.0重量部;及び
b)多官能性架橋剤としてのトリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物0.01?10重量部
のみからなり、
架橋密度が5乃至95%である、偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物。
【請求項2】
偏光フィルムの一面又は両面に、請求項1に記載のアクリル系感圧性粘着剤組成物を含む偏光板。
【請求項3】
前記偏光板は、保護層、反射層、位相差板、広視野角補償フィルム、及び輝度向上フィルムからなる群より1種以上選択される層を更に含む、請求項2に記載の偏光板。
【請求項4】
請求項2に記載の偏光板を、液晶セルの一面又は両面に接合した液晶パネルを含む液晶表示装置。」
と補正するものである。

2.補正の目的について
本件補正は、本件補正前の請求項1?5、10及び11を削除し、補正前の請求項6において、a)のアクリル系共重合体の分子量、i)及びii)のアクリル酸エステル単量体の割合、iii)の架橋可能な官能基を含む単量体とその割合、並びに、b)の多官能性架橋剤を、それぞれ減縮するものと認められる。
したがって、本件補正は、意匠法等の一部を改正する法律(平成18年法律第55号)附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項(すなわち、特許請求の範囲の減縮)を目的とするものと認められる。

3.独立特許要件について
上記2.に記載したとおり、本件補正は特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「補正発明」という。)が、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて以下検討する。

(1)補正発明
補正発明は、次のとおりのものである。
「a)下記の単量体(合計100重量部)を共重合して得た、分子量20万乃至200万のアクリル系共重合体100重量部:
i)n-ブチルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体69.5?87重量部;
ii)n-オクチルアクリレート及び/又は2-エチルヘキシルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体10?28重量部;及び
iii)架橋可能な官能基を含む単量体としてのアクリル酸及び/又は2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート2.5?3.0重量部;及び
b)多官能性架橋剤としてのトリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物0.01?10重量部
のみからなり、
架橋密度が5乃至95%である、偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物。」

(2)引用刊行物及びその記載事項
刊行物1:特開平10-54906号公報(原査定における引用文献1)

摘示1.「【請求項1】両面に粘着剤層を有する位相差板にあって、該粘着剤層の少なくとも一方が、重量平均分子量が50万?150万、重量平均分子量と数平均分子量の比(M_(w)/M_(n))が4以下、アルキル基の炭素数が4?12のアルキル(メタ)アクリレートを主成分とするイソシアネート架橋性のアクリル系共重合体100重量部に対し、3官能以上のイソシアネート化合物が1?10重量部配合された組成物から形成されている粘着剤層であることを特徴とする位相差板。
【請求項2】前記粘着剤層が偏光板に面するように、請求項1記載の位相差板が、偏光板に積層されていることを特徴とする楕円偏光板。」(特許請求の範囲の請求項1?2)

摘示2.「一般に知られているSTN液晶表示板(以下、単に、液晶表示板と呼ぶ)の上部構造は、図2に示される様に、液晶表示セルのガラス板5に粘着剤層4を介して、位相差板3が設けられ、粘着剤層2を介して、偏光板6が設けられた構造になっている。
上記の構造の液晶表示板を組立てるに当たり、中間部品として、離型紙/粘着剤層/位相差板/粘着剤層/離型紙(以後、記号/は積層を意味ずる)の構造の位相差板が供給され、これを片側の離型紙を外して、偏光板をこの上に積層して、楕円偏光板とし、次にもう一方の離型紙を外して、液晶セルのガラス板に貼合することにより、ガラス板/粘着剤層/位相差板/粘着剤層/偏光板の構造体が作製されていた。」(段落0003?0004)

摘示3.「【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述の如き問題点を解消するため、位相差板と偏光板との両者に対する粘着剤の親和性を考慮して、位相差板と偏光板との両者に良好に粘接着し、高温の環境下で収縮性の大きい偏光板に適用しても、粘着界面で剥離が起こらない粘着剤層付き位相差板とこれを用いた楕円偏光板を提供することを目的とする。」(段落0006)

摘示4.「アルキル基の炭素数が4?12のアルキル(メタ)アクリレートを主成分としたイソシアネート架橋性のアクリル系共重合体とは、該アルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種を50重量%以上とこれと共重合可能なビニルモノマーとの共重合体であって、該ビニルモノマーの成分として、イソシアネートと反応して化学結合を形成する活性水素原子を有するビニルモノマーを含有していることを意味する。
アルキル基の炭素数が4?12のアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリルアクリレート等が挙げられ、これらの少なくとも1種が使用される。アルキル基の炭素数が4未満及び12を超える場合は、ガラス転移温度が適切でなく、得られるアクリル系粘着剤は常温に於いて充分な粘着性が得られない。
活性水素原子を有するビニルモノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート共重合体からなる粘着剤の極性を調節するモノマーとして使用されると共に、3官能性以上のイソシアネートと反応して結合したり、架橋したりする性能を賦与する為に使用され、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、(無水)マレイン酸、フマール酸等のカルボン酸基を含有するビニルモノマー;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N-メチロール化アクリルアマイド等の水酸基を含有するビニルモノマー;(メタ)アクリルアマイドなどのアミノ基含有ビニルモノマー;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有ビニルモノマーなどが挙げられ、これらの少なくとも1種が使用される。
……
上記活性水素を有するビニルモノマーの含有量は、アルキル基の炭素数が4?12のアルキル(メタ)アクリレート100重量部に対し、1?10重量部にするのが好ましい。1重量部未満の場合は、3官能性以上のイソシアネート化合物と反応したり、架橋したりする量が少なく、又、極性の程度が低い為、極性のある偏光板表面に対する接着力が不足する。又、10重量部を超えると、得られたアクリル系粘着剤が、3官能性以上のイソシアネート化合物を自己の粘着剤の架橋剤として必要以上に消費されて、該粘着剤の活性基と偏光板の表面にある活性基とを繋ぐイソシアネートがなくなってしまって、偏光板との接着性が悪くなる。」(段落0011?0015)

摘示5.「本発明のアクリル系共重合体の重量平均分子量は、アクリル系共重合体からなる粘着剤組成物の過剰な低分子成分を抑え、適度な凝集力を得る為に、50万以上が必要である。重量平均分子量が50万未満の場合は、粘着層の凝集力が不足し、離型紙を位相差板から剥離する時に、粘着剤層が凝集破壊を起こしたり、液晶表示板を高温環境下に置いた場合、粘着剤層が発泡し易くなる。逆に、分子量が高くなり過ぎると、塗工作業性等に支障をきたすことがあり、上限は150万程度とされる。」(段落0017)

摘示6.「位相差板に使用される粘着剤層は、上述の様に作製されたアクリル系共重合体(固形分)100重量部に対し、3官能以上のイソシアネート化合物を1?10重量部を含有する粘着剤層であることを特徴とする。3官能以上のイソシアネート化合物とは、例えば、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト体、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートなどが挙げられ、これらの少なくとも1種が使用される。
上記3官能以上のイソシアネート化合物は、アクリル系共重合体に含まれている活性水素原子と反応してこれを架橋させると共に、偏光板の表面フィルムの中にある活性水素原子と反応して化学結合を形成し、アクリル系粘着剤の接着力を積極的に強化している。従って、2官能以下のイソシアネート化合物では、アクリル系共重合体又は偏光板と単に反応するだけであったり、個々の架橋のみに使用されるものが多くなり、本来の目的である偏光板とアクリル系粘着剤との両者を架橋・化学結合させる割合が減少してしまい効果が薄い。
……
3官能以上のイソシアネート化合物の添加量は、アクリル系共重合体(固形分)100重量部に対し、1?10重量部必要であり、好ましくは、2?5重量部である。1重量部未満の場合は、偏光板への反応量が少なくて、効果に乏しく、10重量部を超えると、粘着剤の塗工時のポットライフが短くなり、作業性が悪化する。」(段落0019?0022)

摘示7.「実施例1?4及び比較例1?9
(1)アクリル系共重合体の重合
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下ロート、窒素ガス導入口を備えた5口フラスコを用意した。表1に示した配合に従って、5口フラスコに酢酸エチル100重量部、n-ブチルアクリレート(以後、BAと呼ぶ)48.9重量部、2-エチルヘキシルアクリレート(以後、2EHAと呼ぶ)46重量部、アクリル酸(以後、AAcと呼ぶ)5重量部、ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤、以後、DDMと呼ぶ)を所定重量部を入れ、攪拌溶解した。次に、70℃に昇温しながら、フラスコ内を窒素ガスで30分間、バブリングして溶存酸素を取り除き、70℃に温度を安定させ、アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤、以後、AIBNと呼ぶ)所定重量部の酢酸エチル溶液(上記酢酸エチル100重量部内の一部分を使用)を滴下ロートから5口フラスコに投入し、70℃で、8時間重合して、重量平均分子量、分子量分布(M_(w)/M_(n))の異なるアクリル系共重合体A、B、C、Dを得た。得られたアクリル系共重合体A、B、C、Dの重量平均分子量、分子量分布は、表1に示される通りであった。
【表1】

(2)アクリル系粘着剤の調整
(a)偏光板用アクリル系粘着剤
アクリル系共重合体A、B、C、Dを固形分が30重量%になるように酢酸エチルで希釈し、表2に示された配合に従って、下記の架橋剤を添加して、実施例1?4、及び、比較例1?9に使用するアクリル系粘着剤P_(A)を個々に作製した。
架橋剤
コロネートL
日本ポリウレタン社製、3官能性
成分;トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物
……
【表2】

【発明の効果】第1発明の位相差板は、上記の様に構成されているので、位相差板と偏光板との接着性に優れ、高温環境下に於いても、粘着剤層の剥離・発泡がない。」(段落0031?0040)

(3)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「両面に粘着剤層を有する位相差板にあって、該粘着剤層の少なくとも一方が、重量平均分子量が50万?150万、重量平均分子量と数平均分子量の比(M_(w)/M_(n))が4以下、アルキル基の炭素数が4?12のアルキル(メタ)アクリレートを主成分とするイソシアネート架橋性のアクリル系共重合体100重量部に対し、3官能以上のイソシアネート化合物が1?10重量部配合された組成物から形成されている粘着剤層であることを特徴とする位相差板。」(摘示1の請求項1)の発明が記載されている。ここで、「両面に粘着剤層を有する位相差板」は該粘着剤層を介して偏光板と積層されるものであって(摘示1の請求項2及び摘示2)、該粘着剤層は「位相差板と偏光板との両者に良好に粘接着」(摘示3)するものであるから、該粘着剤層を形成する粘着剤組成物は「偏光板用」であるということができる。(なお、刊行物1の実施例(摘示7)には、「偏光板用アクリル系粘着剤」との記載もある。)
そして、刊行物1には、その粘着剤組成物の具体例として、実施例2(摘示7の【表2】参照)では、アクリル系共重合体A(30重量%を含有する溶液)100重量部に対し、3官能以上のイソシアネート化合物としての日本ポリウレタン社製のコロネートL(成分:トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物)を8.0重量部添加したアクリル系粘着剤が記載されている。ここで、アクリル系共重合体Aは、アルキル基の炭素数が4?12のアルキル(メタ)アクリレートとしてBAすなわちn-ブチルアクリレート48.9重量部及び2EHAすなわち2-エチルヘキシルアクリレート46重量部、さらにAAcすなわちアクリル酸5重量部を共重合して得た重量平均分子量90万のものである(摘示7の【表1】参照)。
そうすると、刊行物1には、次の発明 (以下、「刊行物発明」という。)が記載されているといえる。
「n-ブチルアクリレート48.9重量部、2-エチルヘキシルアクリレート46重量部及びアクリル酸5重量部を共重合して得た重量平均分子量が90万のイソシアネート架橋性のアクリル系共重合体の30重量%溶液100重量部に対し、日本ポリウレタン社製のコロネートL(成分:トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物)が8.0重量部配合された偏光板用アクリル系粘着剤組成物。」

(4)対比
補正発明と刊行物発明とを対比する。
刊行物発明における「偏光板用アクリル系粘着剤組成物」は、補正発明における「偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物」に相当する。(なお、「感圧性」の有無が技術的な差異に関係しないことは、当業者において自明である。)
刊行物発明における「アクリル酸」は、「イソシアネートと反応して化学結合を形成する活性水素原子を有するビニルモノマー」(摘示4)であって、「3官能性以上のイソシアネートと反応して結合したり、架橋したりする性能を賦与する」(摘示4)ためのものであるから、補正発明における「架橋可能な官能基を含む単量体」に該当する。
刊行物発明における「日本ポリウレタン社製のコロネートL」はその成分が「トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物」であって、これは「3官能のイソシアネート化合物」であり、「アクリル系共重合体に含まれている活性水素原子と反応してこれを架橋させる」(摘示6)ものであるから、補正発明における「多官能性架橋剤」に該当する。
さらに、これらのことからみて、刊行物発明における「イソシアネート架橋性のアクリル系共重合体」は、補正発明における「アクリル系共重合体」に相当する。
また、この「アクリル系共重合体」について、補正発明では単に「分子量20万乃至200万」と特定しているが、この「分子量」が「重量平均分子量」、「数平均分子量」などどのような「分子量」を特定しようとするものであるか直接的には不明であるが、本願明細書全体の記載及び技術常識を踏まえれば、刊行物発明同様「重量平均分子量」を特定しているものと解することが自然であり、そうすると、刊行物発明における「重量平均分子量が90万」の点は、補正発明における「分子量20万乃至200万」に包含され、また、刊行物1には別途「重量平均分子量50万?150万」(摘示1の請求項1及び摘示5)との範囲も記載されていることにかんがみれば、この分子量の点において両者は一致しているものといえる。
そうすると、両者は、
「a)下記の単量体を共重合して得た、重量平均分子量20万乃至200万のアクリル系共重合体:
i)n-ブチルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体;
ii)2-エチルヘキシルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体;及び
iii)架橋可能な官能基を含む単量体としてのアクリル酸;及び
b)多官能性架橋剤としてのトリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物
のみからなる、偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違するものである。

相違点1:a)のアクリル系共重合体を製造するための単量体の割合が、補正発明では、i)69.5?87重量部、ii)10?28重量部及びiii)2.5?3.0重量部(合計100重量部)であるのに対し、刊行物発明では、i)48.9重量部、ii)46重量部及びiii)5重量部である点。

相違点2:偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物が、補正発明では、a)のアクリル系共重合体100重量部及びb)の多官能性架橋剤としてのトリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物0.01?10重量部のみからなるものであるが、刊行物発明では、a)のアクリル系共重合体30重量%溶液100重量部及びb)の多官能性架橋剤としての日本ポリウレタン社製のコロネートL(成分:トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物)8.0重量部のみからなる点。

相違点3:偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物について、補正発明では架橋密度が5乃至95%であると特定しているのに対し、刊行物発明では架橋密度について特定していない点。

(5)相違点に対する判断
(ア)相違点1について
●i)及びii)のアクリル酸エステル単量体について
刊行物発明におけるi)のn-ブチルアクリレートが48.9重量部及びii)の2-エチルヘキシルアクリレートが46重量部という各アクリル酸エステル単量体の共重合割合は、補正発明で特定する範囲からは外れるものである。
しかしながら、補正発明においては、「i)n-ブチルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体69.5?87重量部」と特定しているが、本願明細書には、i)のn-ブチルアクリレートの共重合割合について、「前記単量体の含量は、アクリル系共重合体100重量部内に35乃至94.9重量部が用いられ、45乃至90重量部を投入して共重合させるのが好ましい。」(段落0028)と記載されている。また、補正発明においては、「ii)n-オクチルアクリレート及び/又は2-エチルヘキシルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体10?28重量部」と特定しているが、本願明細書には、ii)のn-オクチルアクリレート及び/又は2-エチルヘキシルアクリレートの共重合割合について、「前記単量体の含量は、アクリル系共重合体100重量部内で5乃至50重量部が用いられ、10乃至40重量部を投入して共重合させるのが好ましい。」(段落0029)と記載されている。
すなわち、刊行物発明におけるi)のn-ブチルアクリレートが48.9重量部及びii)の2-エチルヘキシルアクリレートが46重量部という各単量体の共重合割合は、上記本願明細書に記載の範囲に包含されるものである。
また、本願明細書には、i)のアクリル酸エステル単量体について、「前記単量体の含量が94.9重量部を超えると、残留応力緩和効果が相対的に低くなり、35重量部未満であると、粘着剤の結合力が小さくなって粘着耐久性及び切断性の物性が悪くなる。」(段落0028)と記載されており、また、ii)のアクリル酸エステル単量体については、「前記単量体の使用量が50重量部を超えると、残留応力緩和効果は高まるが、結合力が低くなって耐久信頼性に問題になる虞があり、5重量部未満であると、残留応力緩和効果が低くなる結果を招く。」(段落0029)と記載され、補正発明において特定するi)69.5?87重量部及びii)10?28重量部とする理由は特に示されていないものの、両単量体の割合は、粘着剤の結合力(これは粘着耐久性や切断性に影響する。)と残留応力緩和効果(これは光漏れ現象改善に寄与する。)のバランスを考慮したものであることが理解できる。
しかし、本願明細書の実施例や比較例をみても、実施例2のように、「i)n-ブチルアクリレートが54.0重量部」と少なく、「ii)n-オクチルアクリレート及び/又は2-エチルヘキシルアクリレート」を使用しない場合や実施例4のように「i)n-ブチルアクリレートが78.5重量部」と範囲内であるが、「ii)n-オクチルアクリレート及び/又は2-エチルヘキシルアクリレートが5.0重量部」と少ない場合であっても、その効果(耐久信頼性、光透過均一性、切断性)に何ら問題がないことが示されており、補正発明で特定するi)及びii)のアクリル酸エステル単量体の使用量に臨界的意義は認められないものである。
そもそも、アクリル系共重合体の単量体成分の共重合割合については、目的に応じてその最適範囲を求めることは、当業者であれば適宜行ことにすぎないものであるが、刊行物発明が、「n-ブチルアクリレート」と「2-エチルヘキシルアクリレート」を採用したのは、「アルキル基の炭素数が4?12のアルキル(メタ)アクリレート」を主成分とする「アクリル系共重合体」を得るためであり(摘示1)、このような単量体を採用しないと「ガラス転移温度が適切でなく、得られるアクリル系粘着剤は常温に於いて充分な粘着性が得られない」(摘示4)からである。すなわち、刊行物発明においても粘着剤の結合力を考慮して単量体とその共重合量を決めているといえる。
さらに、補正発明は、「粘着耐久性、切断性などの主要特性を変化させずに、熱又は湿熱下で長時間使用時、偏光板の収縮によって発生する応力を緩和させて、光漏れ改善に効果がある偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物」(段落0020)を提供するものであるが、刊行物発明も「位相差板と偏光板との両者に良好に粘接着し、高温の環境下で収縮性の大きい偏光板に適用しても、粘着界面で剥離が起こらない」(摘示3)ことが記載され、実施例2の粘着剤組成物においても剥離しないものであることが明らかにされており(摘示7参照)、両者は粘着剤としての効果においても大きな違いがないともいえる。
そうすると、粘着剤の結合力に影響のない範囲で「n-ブチルアクリレート」と「2-エチルヘキシルアクリレート」の使用量を調整し、それぞれ「69.5?87重量部」及び「10?28重量部」とすることは当業者が適宜なし得ることといえる。

●iii)の架橋可能な官能基を含む単量体について
また、刊行物発明においては、「iii)架橋可能な官能基を含む単量体としてのアクリル酸」を5重量部使用するものであるから、補正発明において特定する範囲から外れるものである。
しかしながら、(a)刊行物1には、「上記活性水素を有するビニルモノマーの含有量は、アルキル基の炭素数が4?12のアルキル(メタ)アクリレート100重量部に対し、1?10重量部にするのが好ましい。」(摘示4)と記載されており、これは単量体合計100重量部に対し約1?9重量部のアクリル酸を使用することに相当するから、さらに少ない量とすることも許容しているものと解されること、
(b)本願明細書でも「前記架橋可能な官能基を含むビニル系単量体、アクリル系単量体、又はこれらの混合物の含量は、0.1?15重量部が好ましい。」(段落0031)と記載され、「0.1?15重量部」の範囲内で同様の効果が得られるものと解されることに加え、本願明細書の実施例及び比較例において、i)及びii)のアクリル酸エステル単量体を所定範囲にしたうえで、iii)の架橋可能な官能基を含む単量体を2.5?3.0重量部の範囲外にした例は示されていないことから、iii)の単量体を「2.5?3.0重量部」とすることで格別な効果を奏するものとは認められないこと、さらには
(c)本願明細書には、「前記架橋可能な官能基を含む単量体の使用量が0.1重量部未満であると、高温又は高湿の条件で凝集破壊が起こりやすく、接着力向上効果が低下する。また、前記単量体の含量が15重量部を超えると、流動特性を減少させ、結合力上昇によって粘着力が低下する。」(段落0031)と記載されており、また、刊行物1には、「1重量部未満の場合は、3官能性以上のイソシアネート化合物と反応したり、架橋したりする量が少なく、又、極性の程度が低い為、極性のある偏光板表面に対する接着力が不足する。又、10重量部を超えると、得られたアクリル系粘着剤が、3官能性以上のイソシアネート化合物を自己の粘着剤の架橋剤として必要以上に消費されて、該粘着剤の活性基と偏光板の表面にある活性基とを繋ぐイソシアネートがなくなってしまって、偏光板との接着性が悪くなる。」(摘示4)と記載されているように、結局、両者とも粘着剤組成物の接着力、粘着力を適切な範囲にするためにiii)の単量体の量を調整するものと解され、そうであれば、接着力、粘着力を必要な範囲にするためにiii)の単量体の量を調節することは格別なことではないこと、
これらを踏まえると、iii)の架橋可能な官能基を含む単量体を「2.5?3.0重量部」とすることは当業者が適宜なし得る範囲にすぎない。

そうすると、相違点1については、当業者が適宜なし得ることである。

(イ)相違点2について
刊行物発明では、a)のアクリル系共重合体30重量%溶液100重量部に対し、b)の多官能性架橋剤としての日本ポリウレタン社製のコロネートL(成分:トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物)を8.0重量部使用するものであるから、その割合を計算すれば、アクリル系共重合体(固形分)100重量部に対し、多官能性架橋剤を26.7重量部〔8.0×(100/30)〕使用することになり、補正発明で特定する範囲(0.01?10重量部)から外れるものである。
しかしながら、この実施例2では、多官能性架橋剤として使用する日本ポリウレタン社製のコロネートL(成分:トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物)について、その固形分割合(重合体濃度)が記載されていないから、上記計算結果をそのまま採用することはできない。
ところで、刊行物1には、「使用される粘着剤層は、上述の様に作製されたアクリル系共重合体(固形分)100重量部に対し、3官能以上のイソシアネートを1?10重量部を含有する粘着剤層である」(摘示6)及び「3官能以上のイソシアネート化合物の添加量は、アクリル系共重合体(固形分)100重量部に対し、1?10重量部必要であり、好ましくは、2?5重量部である。」(摘示6)と記載されており、この記載を踏まえれば、実施例2においても「a)のアクリル系共重合体100重量部に対し、b)の多官能性架橋剤としてのトリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物を1?10重量部の範囲で添加する」ものであると解するのが自然であるし、そうでないとしても、「a)のアクリル系共重合体100重量部に対し、b)の多官能性架橋剤としてのトリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物を1?10重量部の範囲で添加する」ことは当業者が容易になし得るものである。
なお、その効果について検討しても、本願明細書には「本発明の粘着剤組成物において、前記架橋剤は、カルボキシル基及び水酸基と反応することによって粘着剤の結合力を高める役割を果たす。」(段落0035)と記載されているのみで、このことは粘着剤組成物における架橋剤の周知の役割を述べたものにすぎない。また、「0.01?10重量部」の範囲とする理由については本願明細書に特段記載されていないことに加え、実施例及び比較例(段落0052、0057、0058及び0060の【表2】参照)においても、すべてアクリル系共重合体100重量部に対し、架橋剤は2.0重量部使用する例が記載されているだけで、補正発明が多官能架橋剤の配合量として特定する「0.01?10重量部」の範囲とすることで格別な効果を奏することは示されていない。
そうすると、相違点2については、実質的に相違点ではないか、そうでないとしても当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)相違点3について
刊行物発明における「架橋可能な官能基を含む単量体としてのアクリル酸」の共重合割合、及び多官能性架橋剤の配合量割合からみて、そして、補正発明で特定する架橋密度が「5乃至95%」という広範囲なものであるところからみても、刊行物発明の粘着剤組成物における架橋密度は、補正発明で特定する範囲内にあると解されることから、相違点3は実質的な相違点とはいえない。
そうでないとしても、架橋密度が粘着特性に影響を与えることは周知であることにかんがみれば、その粘着特性を最適にするために「架橋密度を5乃至95%」とすることは当業者が容易になし得ることである。そして、本願明細書の実施例において、この架橋密度は測定されていないか、測定結果が記載されておらず、本願明細書をみても「本発明によるアクリル系感圧性粘着剤組成物は、最適の物理的均衡を考慮すれば、粘着剤の架橋密度は5乃至95%、より好ましくは15乃至80%の範囲を有することである。」の記載のみであり、架橋密度を「5乃至95%」とすることで当業者に予想外の格別な効果が奏されるものとも認められない。

(エ)小括
したがって、上記相違点1?3は格別なものとはいえないものであるから、補正発明は、刊行物発明に基づいて当業者が容易になし得たものというべきである。

(6)まとめ
上記したとおり、本件補正後の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反しているから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.原査定について
1.本願発明
上記のとおり、平成22年10月1日付け手続補正書による補正は却下されたので、本願の請求項1?11に係る発明は、平成22年5月6日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?11にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「a)下記の単量体(合計100重量部)を共重合して得たアクリル系共重合体100重量部:
i)n-ブチルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体45?90重量部;
ii)n-オクチルアクリレート及び/又は2-エチルヘキシルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体10?40重量部;及び
iii) 架橋可能な官能基を含むビニル系単量体、アクリル系単量体、又はこれらの混合物0.1?15重量部;及び
b)多官能性架橋剤0.01?10重量部
のみからなる偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物。」

2.原査定における拒絶理由の概要
これに対して、原査定における拒絶理由は、概略、この出願に係る発明は、下記の刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
引用文献
1.特開平10-54906号公報
(2?4は省略)

3.当審における判断
そこで、本願発明が引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かについて検討する。

(1)引用文献の記載事項
上記引用文献1は、上記第2の3.(2)で提示した刊行物1と同じものであり、当該文献には同箇所に摘示したとおりの事項が記載されている。

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、上記第2の3.(3)に示したとおり、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「n-ブチルアクリレート48.9重量部、2-エチルヘキシルアクリレート46重量部及びアクリル酸5重量部を共重合して得た重量平均分子量が90万のイソシアネート架橋性のアクリル系共重合体の30重量%溶液100重量部に対し、日本ポリウレタン社製のコロネートL(成分:トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物)が8.0重量部配合された偏光板用アクリル系粘着剤組成物。」

(3)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「偏光板用アクリル系粘着剤組成物」は、本願発明における「偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物」に相当する。
引用発明における「アクリル酸」は、「イソシアネートと反応して化学結合を形成する活性水素原子を有するビニルモノマー」(摘示4)であって、「3官能性以上のイソシアネートと反応して結合したり、架橋したりする性能を賦与する」(摘示4)ためのものであるから、本願発明における「架橋可能な官能基を含む単量体」に該当し、そして、本願明細書には「前記架橋可能な官能基を含むアクリル系単量体は、α、β不飽和カルボン酸単量体であるのが好ましい。前記α、β不飽和カルボン酸単量体の例としては、アクリル酸、……などが含まれる」(段落0033)と記載されていることからみて、本願発明における「アクリル系単量体」に相当する。
引用発明における「日本ポリウレタン社製のコロネートL」はその成分が「トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物」であって、これは「3官能のイソシアネート化合物」であり、「アクリル系共重合体に含まれている活性水素原子と反応してこれを架橋させる」(摘示6)ものであるから、本願発明における「多官能性架橋剤」に該当する。
さらに、これらのことからみて、引用発明における「イソシアネート架橋性のアクリル系共重合体」は、本願発明における「アクリル系共重合体」に相当する。
そうすると、両者は、
「a)下記の単量体を共重合して得たアクリル系共重合体:
i)n-ブチルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体;
ii)2-エチルヘキシルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体;及び
iii)架橋可能な官能基を含むアクリル系単量体;及び
b)多官能性架橋剤
のみからなる偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違するものとである。

相違点A:a)のアクリル系共重合体を製造するための単量体の割合が、本願発明では、i)45?90重量部、ii)10?40重量部及びiii)0.1?15重量部(合計100重量部)であるのに対し、引用発明では、i)48.9重量部、ii)46重量部及びiii)5重量部である点。

相違点B:偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物が、本願発明では、a)のアクリル系共重合体100重量部及びb)の多官能性架橋剤としてのトリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物0.01?10重量部のみからなるものであるが、引用発明では、a)のアクリル系共重合体30重量%溶液100重量部及びb)の多官能性架橋剤としての日本ポリウレタン社製のコロネートL(成分:トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物)8.0重量部のみからなる点。

(4)相違点に対する判断
相違点A及びBは、それぞれ上記第2の3.(4)に示した相違点1及び2に対応するものであり、基本的には、上記第2の3.(5)(ア)及び(イ)で述べた点が妥当する。
なお、本願発明においては、「i)n-ブチルアクリレートであるアクリル酸エステル単量体45?90重量部」及び「iii) 架橋可能な官能基を含むビニル系単量体、アクリル系単量体、又はこれらの混合物0.1?15重量部」と特定しているが、引用発明におけるi)のn-ブチルアクリレートが48.9重量部及びiii)のアクリル酸が5重量部という各単量体の割合は、本願発明で特定する範囲に包含されるものであって、これらの点については実質的に相違点ではないことを付記する。

したがって、上記相違点A及びBは格別なものとはいえないものであるから、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易になし得たものというべきである。

(5)まとめ
上記のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項に規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は原査定のとおり拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-10 
結審通知日 2012-10-16 
審決日 2012-10-29 
出願番号 特願2005-518783(P2005-518783)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C09J)
P 1 8・ 121- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松原 宜史  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 星野 紹英
目代 博茂
発明の名称 偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物  
代理人 渡部 崇  
代理人 実広 信哉  

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