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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16H
管理番号 1271539
審判番号 不服2011-18131  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-22 
確定日 2013-03-13 
事件の表示 特願2006-515960「適応切換制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月29日国際公開、WO2004/113767、平成19年 3月22日国内公表、特表2007-506912〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年6月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年6月23日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成23年4月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年8月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審において、平成24年4月4日付けで拒絶理由が通知されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?18に係る発明は、平成22年11月1日付け手続補正、及び平成24年7月12日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、平成23年8月22日付け手続補正は、当審において、平成24年4月4日付けで決定をもって却下されている。
「【請求項1】
(a)各々が変速機の第1ギヤ比から第2ギヤ比への移動を許容するものである、少なくとも第1シフトモード及び第2シフトモードを実施する工程と、
(b)少なくとも一つの乗物状態を電子的に検出する工程と、
(c)検出された前記少なくとも一つの乗物状態を電子的に評価する工程と、
(d)工程(c)の評価に基づいて、少なくとも第1シフトモードと第2シフトモードとから適切なシフトモードを電子的に特定する工程と、
(e)工程(d)で特定されたシフトモードにおいて、第1ギヤ比から第2ギヤ比へと切り替える工程と、
を備え、
工程(e)の間、第1シフトモードは、第1所定シフト速度で、第1ギヤ比から第2ギヤ比への切り換えを許容し、第2シフトモードは、第1所定シフト速度よりも小さい第2所定シフト速度で、同一の第1ギヤ比から同一の第2ギヤ比への切り換えを許容することを特徴とする、乗物の変速機の切換方法。
【請求項2】
前記少なくとも第1シフトモード及び第2シフトモードは、更に、第3シフトモード及び第4シフトモードを含んでおり、
第3シフトモードは、第3所定シフト速度で、同一の第1ギヤ比から同一の第2ギヤ比へと変速機を切り換え、
第4シフトモードは、第4所定シフト速度で、同一の第1ギヤ比から同一の第2ギヤ比へと変速機を切り換え、
第3所定シフト速度は、第2所定シフト速度よりも小さく、
第4所定シフト速度は、第3所定シフト速度よりも小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の切換方法。
【請求項3】
第1シフトモードは、第2シフトモードよりも速く、所定のエンジントルクの到達を許容する
ことを特徴とする請求項1に記載の切換方法。
【請求項4】
第1シフトモードは、第2シフトモードよりも速く、エンジンブレーキをもたらす
ことを特徴とする請求項1に記載の切換方法。
【請求項5】
第1シフトモードは、第2シフトモードと比較して、第1ギヤ比と第2ギヤ比との間での選択を行う変速機アクチュエータの反応性のレベルが高い
ことを特徴とする請求項1に記載の切換方法。
【請求項6】
第1シフトモードは、第2シフトモードと比較して、第1ギヤ比と第2ギヤ比との間で変速機が切り換わる際のエンジン速度について、より広い範囲を示す
ことを特徴とする請求項1に記載の切換方法。
【請求項7】
第1シフトモードは、第2シフトモードと比較して、変速機と関連するクラッチのために異なるクラッチ形態を呈している
ことを特徴とする請求項1に記載の切換方法。
【請求項8】
第1シフトモードは、第2シフトモードと比較して、変速機と関連するエンジンのために異なるエンジン形態を呈している
ことを特徴とする請求項1に記載の切換方法。
【請求項9】
前記少なくとも一つの乗物状態は、複数の乗物状態を含んでいる
ことを特徴とする請求項1に記載の切換方法。
【請求項10】
各乗物状態に等級(ランキング)値を割り当てる工程と、
前記適切なシフトモードを特定するために、前記等級値を評価する工程と、
を含んでいることを特徴とする請求項9に記載の切換方法。
【請求項11】
各々が自動マニュアル変速機の第1ギヤ比から第2ギヤ比への移動を許容するものである、少なくとも第1シフトモード及び第2シフトモードを実施する工程と、
複数の乗物状態を電子的に検出する工程と、
検出された前記複数の乗物状態の各々に等級(ランキング)値を割り当てて当該等級値を評価することによって、検出された前記複数の乗物状態を電子的に評価する工程と、
評価された乗物状態に基づいて、前記少なくとも第1シフトモード及び第2シフトモードから電子的に選択する工程と、
前記選択に基づいて、第1ギヤ比から第2ギヤ比へと切り換える工程と、
を備え、
第1シフトモードは、第2シフトモードよりも速く、第1ギヤ比から第2ギヤ比へと変速機を切り換える
ことを特徴とする、乗物の変速機の切換方法。
【請求項12】
第1シフトモードは、第2シフトモードよりも速く、所定のエンジントルクの到達を許容する
ことを特徴とする請求項11に記載の切換方法。
【請求項13】
第1シフトモードは、第2シフトモードよりも速く、エンジンブレーキをもたらすことを特徴とする請求項11に記載の切換方法。
【請求項14】
第1シフトモードは、第2シフトモードと比較して、第1ギヤ比と第2ギヤ比との間での選択を行う変速機アクチュエータの反応性のレベルが高い
ことを特徴とする請求項11に記載の切換方法。
【請求項15】
第1シフトモードは、第2シフトモードと比較して、第1ギヤ比と第2ギヤ比との間で変速機が切り換わる際のエンジン速度について、より広い範囲を示す
ことを特徴とする請求項11に記載の切換方法。
【請求項16】
第1シフトモードは、第2シフトモードと比較して、変速機と関連するクラッチのために異なるクラッチ形態を呈している
ことを特徴とする請求項11に記載の切換方法。
【請求項17】
第1シフトモードは、第2シフトモードと比較して、変速機と関連するエンジンのために異なるエンジン形態を呈している
ことを特徴とする請求項11に記載の切換方法。
【請求項18】
複数のギヤ比を有する自動マニュアル変速機と、
少なくとも一つの乗物状態センサと、
前記少なくとも一つの乗物状態センサと交信して、前記複数のギヤ比の間で前記自動マニュアル変速機の切り換えを制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記乗物状態センサから受領されるデータに基づいて、少なくとも第1シフトモード及び第2シフトモードを含む複数のシフトモードから選択するようになっており、
前記第1シフトモードは、第1所定シフト速度で、第1ギヤ比から第2ギヤ比へと切り換えるようになっており、
前記第2シフトモードは、前記第1所定シフト速度よりも小さい第2所定シフト速度で、前記第1ギヤ比から前記第2ギヤ比へと切り換えるようになっている
ことを特徴とする、乗物の変速機システム。」

3.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
特開平2-60844号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「2.特許請求の範囲
スロットル弁を閉じてエンジンの出力を低下させた後、自動クラッチを解放して該エンジンの動力伝達を一時的に中断させている間に同期噛合式有段変速機の複数のギヤ段を自動的に切り換える一方、該ギヤ段の切り換え後に前記スロットル弁を開き且つ前記自動クラッチを係合させて前記エンジンの動力伝達を再び行う形式の車両用自動変速機の制御方法であって、
道路勾配を検出する勾配検出工程と、
前記エンジンの出力を低下させる際の前記スロットル弁を閉じる速度と、前記エンジンの動力を再伝達する際の該スロットル弁を開く速度および前記自動クラッチを係合させる速度との少なくとも一方を、前記勾配検出工程により検出された道路勾配が大きくなる程速くするように制御する制御工程と
を含むことを特徴とする車両用自動変速機の制御方法。」(第1ページ左下欄第4行?右下欄第2行)
(い)「産業上の利用分野
本発明は車両用自動変速機の制御方法の改良に関するものである。
従来の技術
スロットル弁を閉じてエンジンの出力を低下させた後、自動クラッチを解放してそのエンジンの動力伝達を一時的に中断させている間に同期噛合式有段変速機の複数のギヤ段を自動的に切り換える一方、そのギヤ段の切り換え後に前記スロットル弁を開き且つ前記自動クラッチを係合させて前記エンジンの動力伝達を再び行う形式の車両用自動変速機の制御方法が考えられている。たとえば、本出願人が先に出願した特開昭63-116942号公報に記載された車両用自動変速機の制御方法がそれである。この制御方法においては、予め定められた関係からエンジンの出力低下工程、動力伝達中断工程、および動力再伝達工程の少なくとも一つの工程において適したエンジンの出力トルクまたは回転速度を得るための目標スロットル弁開度が決定されるとともに、上記少なくとも一つの工程における実際のスロットル弁開度が前記目標スロットル弁開度となるように制御されることにより、同期噛合式有段変速機の自動シフトに際しては、前記出力低下工程、動力伝達中断工程、および動力再伝達工程の少なくとも一つの工程に起因する変速ショックの発生が解消され、運転性が改善されるようになっている。
発明が解決しようとする課題
しかしながら、斯る従来の自動変速機の制御方法においても未だ解決すべき問題を有している。すなわち、エンジンの出力を低下させる際のスロットル弁を目標スロットル弁開度まで閉じる速度と、エンジンの動力を再伝達する際のスロットル弁を目標スロットル弁開度まで開く速度および自動クラッチを係合させる速度は、通常、変速ショックを緩和するためにそれぞれ比較的遅くされている。このため、自動変速に比較的時間を要し、特に登坂路走行時においては、変速中に車両が比較的大きく減速させられて円滑な走行が損なわれたりエンジンストールを生じたりする場合があるのである。
本発明は以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、登坂路走行時における変速時間を短縮して自動変速時の減速およびエンジンストールを効果的に防止し得る車両用自動変速機の制御方法を提供することにある。
課題を解決するための手段
上記目的を達成するために、本発明は、前記のような形式の車両用自動変速機の制御方法であって、(a)道路勾配を検出する勾配検出工程と、(b)前記エンジンの出力を低下させる際の前記スロットル弁を閉じる速度と、前記エンジンの動力を再伝達する際のスロットル弁を開く速度および前記自動クラッチを係合させる速度との少なくとも一方を、前記勾配検出工程により検出された道路勾配が大きくなる程速くするように制御する制御工程とを含むことを特徴とする。
作用
このようにすれば、勾配検出工程において道路勾配が検出されるとともに、エンジンの出力を低下させる際のスロットル弁を閉じる速度と、エンジンの動力を再伝達する際のスロットル弁を開く速度および自動クラッチを係合させる速度との少なくとも一方が、前記道路勾配が大きくなる程速くなるように制御工程において制御される。
発明の効果
この結果、道路勾配が大きくなる程自動変速に要する時間を好適に短縮し得るので、登坂路走行時においては、変速中に車両が比較的大きく減速させられて円滑な走行が損なわれたりエンジンストールを生じたりするのを効果的に防止し得る。」(第1ページ右下欄第4行?第2ページ左下欄第14行)
(う)「先ず、ステップS1おいては各センサからの入力信号t_(e)、t_(in)、t_(out)、v_(acc)、v_(th)、N_(sw)1乃至N_(sw)4、vα_(c1)が読み込まれる。次いで、ステップS2において上記信号から次式(1)乃至(8)に従って実際のエンジン回転速度N_(e)、入力軸回転速度N_(in)、出力軸回転速度N_(out)、車速SPD、アクセル操作量A_(cc)、スロットル弁開度θ、路面傾斜角度α_(c1)がそれぞれ算出される。
…(略)…
第10図は上記(7)式の関係の一例を示す図である。上記路面傾斜角度α_(s)には車両の加速度成分が含まれているため、次式(8)に従って路面傾斜角度α_(cl)に補正される。
α_(cl)=α_(s)-tan^(-1)(D_(spd)/g) ・・・(8)
但し、D_(spd)は車速SPDの微分値、gは重力加速度である。」(第4ページ右上欄第3行?右下欄第3行)
(え)「第9図に戻って、以上のようにして目標ギヤ段が決定されると、ステップS6においては、レジスタγ^(*)の内容が示す目標ギヤ段とレジスタγの内容が示す実際のギヤ段とが一致するか否かが判断される。一致する場合は変速操作を必要としないのでステップSll以下が実行されるが、一致しない場合には変速操作を必要とするのでステップS7以下が実行される。すなわち、ステップS7が実行されることにより変速操作に先立って変速シーケンスフラグF_(chg)の内容が先ず「1」にセットされ、その後ステップS8において、ステップS2にて算出した路面傾斜角度α_(c1)に基づいてたとえば第15図に示す予め定められた関係から変速速度補正係数Kαが求められる。この変速速度補正係数Kαは路面傾斜角度α_(c1)が0°であるときに1とされ且つその路面傾斜角度α_(c1)の絶対値が大きくなるに従って漸増させられる。次にステップS9において、第1図に示す変速操作ルーチンが実行されることにより有段変速機14のギヤ段をレジスタγ^(*)の内容に示される目標ギヤ段へ切り換えるための一連の変速操作が行われる。」(第5ページ左下欄第11行?右下欄第13行)
(お)「さらに、本適用例によれば、出力低下工程のステップSH5において、実際のスロットル弁開度θを目標スロットル弁開度θ_(off)^(*)と一致させるためのスロットルアクチュエータ82に対する制御量V_(th)の減少量が変速速度補正係数Kαに基づいて路面傾斜角度α_(cl)が大きくなる程大きくなるように、すなわち路面傾斜角度α_(cl)が大きくなる程スロットル弁80を閉じる速度が速くなるように制御される一方、動力再伝達工程のステップSH17において、電磁クラッチ12に対する制御量V_(cl)の増加量が路面傾斜角度α_(cl)が大きくなる程大きくなるように、すなわち路面傾斜角度α_(cl)が大きくなる程電磁クラッチ12を係合させる速度が速くなるように制御されるとともに、動力再伝達工程のステップSH19において、目標スロットル弁開度θ_(on)^(*)を得るためのスロットルアクチュエータ82に対する制御量V_(th)が前記制御量V_(cl)と同様に路面傾斜角度α_(cl)が大きくなる程大きくなるように、すなわち路面傾斜角度α_(cl)が大きくなる程スロットル弁80を開く速度が速くなるように制御される。この結果、路面傾斜角度α_(cl)が大きくなる程自動変速に要する時間が好適に短縮されるので、特に登坂路走行時においては、変速中に車両が比較的大きく減速させられて円滑な走行が損なわれたりエンジンストールを生じたりすることが効果的に防止されるのである。」(第10ページ右上欄第20行?右下欄第5行)
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が示されている。
「スロットル弁を閉じてエンジンの出力を低下させた後、自動クラッチを解放して該エンジンの動力伝達を一時的に中断させている間に同期噛合式有段変速機の複数のギヤ段を自動的に切り換える一方、該ギヤ段の切り換え後に前記スロットル弁を開き且つ前記自動クラッチを係合させて前記エンジンの動力伝達を再び行う形式の車両用自動変速機の変速制御方法であって、
道路勾配を検出する勾配検出工程と、
検出した道路勾配に基づいて変速速度補正係数を求める工程と、
求めた変速速度補正係数に基づいて変速操作を行うことにより、前記エンジンの出力を低下させる際の前記スロットル弁を閉じる速度と、前記エンジンの動力を再伝達する際の該スロットル弁を開く速度および前記自動クラッチを係合させる速度との少なくとも一方を、前記勾配検出工程により検出された道路勾配が大きくなる程速くするように制御する制御工程と、
を含む車両用自動変速機の変速制御方法。」
(3)対比
本願発明1と引用例1発明とを比較すると、後者の「車両用自動変速機の変速制御方法」は前者の「乗物の変速機の切換方法」に相当する。
後者の「求めた変速速度補正係数に基づいて変速操作を行うことにより、前記エンジンの出力を低下させる際の前記スロットル弁を閉じる速度と、前記エンジンの動力を再伝達する際の該スロットル弁を開く速度および前記自動クラッチを係合させる速度との少なくとも一方を、前記勾配検出工程により検出された道路勾配が大きくなる程速くするように制御する制御工程」、と、前者の「(a)各々が変速機の第1ギヤ比から第2ギヤ比への移動を許容するものである、少なくとも第1シフトモード及び第2シフトモードを実施する工程」は、「各々が変速機の第1ギヤ比から第2ギヤ比への移動を許容するものである、複数のシフト速度でシフトを実施する工程」である点で一致する。
後者の「道路勾配を検出する勾配検出工程」と、前者の「(b)少なくとも一つの乗物状態を電子的に検出する工程」は、「少なくとも一つの状態を電子的に検出する工程」である点で一致する。
後者の「検出した道路勾配に基づいて変速速度補正係数を求める工程と、求めた変速速度補正係数に基づいて変速操作を行うことにより、前記エンジンの出力を低下させる際の前記スロットル弁を閉じる速度と、前記エンジンの動力を再伝達する際の該スロットル弁を開く速度および前記自動クラッチを係合させる速度との少なくとも一方を、前記勾配検出工程により検出された道路勾配が大きくなる程速くするように制御する制御工程と、を含む」と、前者の「(c)検出された前記少なくとも一つの乗物状態を電子的に評価する工程と、(d)工程(c)の評価に基づいて、少なくとも第1シフトモードと第2シフトモードとから適切なシフトモードを電子的に特定する工程と、(e)工程(d)で特定されたシフトモードにおいて、第1ギヤ比から第2ギヤ比へと切り替える工程と、を備え、工程(e)の間、第1シフトモードは、第1所定シフト速度で、第1ギヤ比から第2ギヤ比への切り換えを許容し、第2シフトモードは、第1所定シフト速度よりも小さい第2所定シフト速度で、同一の第1ギヤ比から同一の第2ギヤ比への切り換えを許容する」は、「検出された前記の状態に基づいて設定された所定のシフト速度で、第1ギヤ比から第2ギヤ比への切り換えを許容する」点で一致する。
したがって、本願発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「各々が変速機の第1ギヤ比から第2ギヤ比への移動を許容するものである、複数のシフト速度でシフトを実施する工程と、
少なくとも一つの状態を電子的に検出する工程と、
検出された前記の状態に基づいて設定された複数の所定シフト速度で、第1ギヤ比から第2ギヤ比への切り換えを許容する乗物の変速機の切換方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
本願発明1は「(b)少なくとも一つの乗物状態を電子的に検出する工程」を備えているのに対し、引用例1発明は「道路勾配を検出する勾配検出工程」を備えている点。
[相違点2]
本願発明1は、「(c)検出された前記少なくとも一つの乗物状態を電子的に評価する工程と、(d)工程(c)の評価に基づいて、少なくとも第1シフトモードと第2シフトモードとから適切なシフトモードを電子的に特定する工程と、(e)工程(d)で特定されたシフトモードにおいて、第1ギヤ比から第2ギヤ比へと切り替える工程と、を備え、 工程(e)の間、第1シフトモードは、第1所定シフト速度で、第1ギヤ比から第2ギヤ比への切り換えを許容し、第2シフトモードは、第1所定シフト速度よりも小さい第2所定シフト速度で、同一の第1ギヤ比から同一の第2ギヤ比への切り換えを許容する」のに対し、引用例1発明は、「検出した道路勾配に基づいて変速速度補正係数を求める工程と、求めた変速速度補正係数に基づいて変速操作を行うことにより、前記エンジンの出力を低下させる際の前記スロットル弁を閉じる速度と、前記エンジンの動力を再伝達する際の該スロットル弁を開く速度および前記自動クラッチを係合させる速度との少なくとも一方を、前記勾配検出工程により検出された道路勾配が大きくなる程速くするように制御する制御工程と、を含む」点。
(4)判断
(4-1)相違点1について
引用例1発明において、道路勾配をどのようにして検出するかは、検出の迅速性・精度、装置の簡素化・コスト等の所要仕様に基づいて適宜設計する事項にすぎない。そもそも、所望の物理量をセンサで直接に求める以外に、他の物理量から推定・算出して求めることは普通に行われている。道路勾配についても、引用例1には「傾斜角センサ62」から検出することが記載されているが、一方、車両の状態量から求めることも広く知られており、技術常識にすぎない。例えば、特開昭60-29337号公報(特に第2ページ右上欄第9行?左下欄第4行)には、「本発明は、車両の走行状態の勾配に関する情報をエンジン回転速度の変化率、すなわちエンジン回転速度の時間に対する微分値を演算して利用することを特徴とする。…(略)…上記各検出器からの情報を取込み、変速操作の指示情報を出力する演算回路を備えた車両の変速操作ガイド装置において、上記演算回路は、上記回転速度検出器から得るエンジンの回転速度の時間に対する変化率を演算する手段を備え、この変化率をこの車両が走行する道路の勾配の情報として上記指示情報を演算するように構成されている。」と記載されており、特開平3-24362号公報(第2ページ左上欄第20行?右上欄第4行)には、「勾配判定手段は、車速検出手段及び機関負荷検出手段からの検出情報の他、車速の変化状態を検出する車速変化検出手段と、機関負荷の変化状態を検出する負荷変化検出手段からの検出情報に基づいて道路勾配状態を判定する。」と記載されており、特開平4-69449号公報(第8ページ左下欄第13?20行)には、「先ず、道路勾配は本実施例の自動車に装着された傾斜センサ803(第1図)により検出される。尚、他の検出方法としては、例えば、エンジン負荷(例えば、スロットル開度)に対する実際の車両の加速状態から検出するようにしてもよい。この場合、車種、空気抵抗、ころがり抵抗、乗車人員、エンジンT/C性能等を考慮することにより検出精度が向上する。」と記載されており、特開平6-344802号公報には、「【0004】…自動変速機制御用の電子制御装置でエンジントルク特性,トルクコンバータ特性を利用して駆動輪の駆動トルク,平地走行抵抗トルク,勾配走行抵抗トルク,加速走行抵抗トルクを推定し、これより道路勾配,車重量を高精度に求め、」と記載されており、特開平10-238615号公報には、「【0003】…そのような登坂制御や降坂制御の実行条件を判定するなどのために、車両加速度に基づいて道路勾配を判定する道路勾配判定手段が設けられる場合がある。」と記載されており、特開平11-94070号公報には、「【請求項3】 前記道路状況推定手段は、車両に備わるブレーキの作動油圧により道路勾配を推定し、…【請求項4】 前記道路状況推定手段は、車両に備わるブレーキの作動油圧の平均値を算出し、該平均値から道路勾配を推定し、」、「【0021】更に、請求項3に記載の構成では、車両に備わるブレーキの作動油圧で道路勾配が推定されるので、それ専用の勾配センサが不要となる。…」と記載されている。引用例1発明に周知の上記事項を適用して、車両の状態量を検出し、該状態量に基づいて道路勾配を求めるように構成することは格別困難なことではない。

以上に関連して、請求人は、平成24年7月24日付け意見書において、「本願発明における『乗物状態』とは、…少なくとも、乗物自体が運転時に示す状態を含むものであり、乗物以外の外部環境のみをもって、『乗物状態』ということはできません。」と主張している。一方、本願明細書の【0015】には、「本発明の変速機10は、センサ38から受領するデータに応じて特定のモードを選択する制御装置42を有している。センサ38は、様々な乗物の状態40についての情報を計測して伝送する。」と記載され、【0016】には「更に、制御装置42は、運転抵抗及び運転抵抗の変化についての情報を受領するように構成されている。運転抵抗は、風抵抗、重力、または、乗物の運動を抑制する他の同様の力、によって影響される。」、「最後に、制御装置42は、乗物の運転者の特定の運転癖に関するデータを集めて記憶することができ、」と記載されている。
「制御装置42」が「センサ38」から、「運転抵抗」に影響する「風抵抗、重力、または、乗物の運動を抑制する他の同様の力」等の「情報を受領」するのであれば、「センサ38」は、「乗物自体が運転時に示す状態」の情報であるとは必ずしもいえない「風抵抗、重力、または、乗物の運動を抑制する他の同様の力」を「計測」していることになる。なお、道路勾配も「運転抵抗」に影響することは明らかであり、実質的に「同様の力」にほかならない。「制御装置42」が「センサ38」から「運転抵抗」のデータを受領するのであれば、「情報を計測して伝送する」「センサ38」において「運転抵抗」が求められるのかどうか、どのようにして求めるのか、特に説明はなされていない。
「制御装置42」が「センサ38」から「乗物の運転者の特定の運転癖に関するデータ」を「集めて」いるとすると、「センサ38」は、「乗物自体が運転時に示す状態」の情報であるとは必ずしもいえない「乗物の運転者の特定の運転癖に関するデータ」を「計測」していることになる。
道路勾配は車両の姿勢・傾斜に直結する情報であり、道路勾配を検出することは、その時の車両の姿勢・傾斜を検出することに等しい。そのようなことは技術常識である。この意味で、道路勾配は「乗物自体が運転時に示す状態」にあたるということもできる。

(4-2)相違点2について
本願発明1は、「(c)検出された前記少なくとも一つの乗物状態を電子的に評価」し、「(d)工程(c)の評価に基づいて、少なくとも第1シフトモードと第2シフトモードとから適切なシフトモードを電子的に特定」している。
引用例1発明は道路勾配に応じて所定シフト速度を設定している。引用例1発明において、車両の状態量を検出し、該状態量に基づいて道路勾配を求めるように構成することは格別困難なことではないことは上述したとおりであり、そのようにしたものは、「(c)検出された前記少なくとも一つの乗物状態を電子的に評価」し、「(d)工程(c)の評価に基づいて」、所定シフト速度を設定していることにほかならない。また、道路勾配が「乗物自体が運転時に示す状態」にあたるといえることは上述したとおりであり、その場合、その道路勾配に基づいてシフト速度を設定することは、「(c)検出された前記少なくとも一つの乗物状態を電子的に評価」し、「(d)工程(c)の評価に基づいて」、所定シフト速度を設定していることにほかならない。
引用例1発明は、「道路勾配が大きくなる程速くするように制御する」ものであって、道路勾配に応じて連続的にシフト速度を変更しているが、このように連続的に変更するか、有限個のシフト速度を設定して離散的段階的に変更するかは適宜の設計事項にすぎない。道路状況や運転状態に応じた適切な運転性を確保するという視点からは、離散的段階的に変更するよりも連続的に変更する方がむしろ優れているということができ、一般に、制御性能をおとして簡単化することに格別の創作性があるとはいえない。以上を合わせ考えると、引用例1発明において、道路勾配に応じて連続的にシフト速度を変更することに代えて、道路勾配に応じた有限個のシフト速度の異なるモードを設けることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。このようにしたものは、相違点2に係る本願発明1の上記事項を具備しているといえる。

なお、複数の変速モードを設けることは、周知技術にすぎず、また、変速時間等の異なる複数のモードないし制御態様を設けることが特開平8-72589号公報(特に【0006】、【0008】)に示されていることは、平成22年6月24日付けの拒絶理由通知で既に指摘しているとおりである。上記の特開平11-94070号公報にも、上り坂等における車両発進制御に関するものであるが、「【0038】次に、こうした方法で演算したブレーキ作動油圧(Pb)の平均値を基に、例えば、図7に示すような、あらかじめ制御装置5内に設定されたマップAから、現在車両が停止している道路勾配(Sr)の大小を推定する。この例では、勾配値Aは0°?5°、Bは5°?10°、Cは10°?15°、そしてDは15°以上とされている。」と記載されており、道路勾配をA?Dの4つの領域に区分して制御に供することが示されている。

そして、本願発明1の効果も、引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が予測し得たものであって、格別のものではない。
(5)むすび
したがって、本願発明1は、引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.本願の請求項18に係る発明(以下、「本願発明18」という。)について
(1)本願発明18
本願発明18は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1、及びその記載事項は、上記のとおりであり、その記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1´発明」という。)が示されている。
「スロットル弁を閉じてエンジンの出力を低下させた後、自動クラッチを解放して該エンジンの動力伝達を一時的に中断させている間に同期噛合式有段変速機の複数のギヤ段を自動的に切り換える一方、該ギヤ段の切り換え後に前記スロットル弁を開き且つ前記自動クラッチを係合させて前記エンジンの動力伝達を再び行う形式の車両用自動変速機の変速制御手段であって、
道路勾配を検出する勾配検出手段と、
検出した道路勾配に基づいて変速速度補正係数を求める手段と、
求めた変速速度補正係数に基づいて変速操作を行うことにより、前記エンジンの出力を低下させる際の前記スロットル弁を閉じる速度と、前記エンジンの動力を再伝達する際の該スロットル弁を開く速度および前記自動クラッチを係合させる速度との少なくとも一方を、前記勾配検出手段により検出された道路勾配が大きくなる程速くするように制御する制御手段と、
を含む車両用自動変速機の変速制御手段。」
(3)対比
本願発明18と引用例1´発明とを比較すると、後者の「車両用自動変速機」と前者の「複数のギヤ比を有する自動マニュアル変速機」とは「複数のギヤ比を有する変速機」である点で一致し、その限りにおいて、後者の「車両用自動変速機の変速制御手段」は前者の「乗物の変速機システム」に相当する。
後者の「道路勾配を検出する勾配検出手段」と、前者の「少なくとも一つの乗物状態センサ」は、「少なくとも一つの状態センサ」である点で一致する。
後者の「道路勾配を検出する勾配検出手段と、検出した道路勾配に基づいて変速速度補正係数を求める手段と、検出した道路勾配に基づいて変速速度補正係数を求める手段と、求めた変速速度補正係数に基づいて変速操作を行う」「制御装置」と、前者の「前記少なくとも一つの乗物状態センサと交信して、前記複数のギヤ比の間で前記自動マニュアル変速機の切り換えを制御する制御装置」は、「前記少なくとも一つの状態センサと交信して、前記複数のギヤ比の間で前記変速機の切り換えを制御する制御装置」である点で一致する。
後者の「道路勾配を検出する勾配検出手段と、検出した道路勾配に基づいて変速速度補正係数を求める手段と、求めた変速速度補正係数に基づいて変速操作を行うことにより、前記エンジンの出力を低下させる際の前記スロットル弁を閉じる速度と、前記エンジンの動力を再伝達する際の該スロットル弁を開く速度および前記自動クラッチを係合させる速度との少なくとも一方を、前記勾配検出手段により検出された道路勾配が大きくなる程速くするように制御する」と、前者の「前記乗物状態センサから受領されるデータに基づいて、少なくとも第1シフトモード及び第2シフトモードを含む複数のシフトモードから選択するようになっており、前記第1シフトモードは、第1所定シフト速度で、第1ギヤ比から第2ギヤ比へと切り換えるようになっており、前記第2シフトモードは、前記第1所定シフト速度よりも小さい第2所定シフト速度で、前記第1ギヤ比から前記第2ギヤ比へと切り換えるようになっている」は、「状態センサから受領されるデータに基づいて設定された所定のシフト速度で、第1ギヤ比から第2ギヤ比へ切り換えるようになっている」点で一致する。
したがって、本願発明18の用語に倣って整理すると、両者は、
「複数のギヤ比を有する変速機と、
少なくとも一つの状態センサと、
前記少なくとも一つの状態センサと交信して、前記複数のギヤ比の間で前記変速機の切り換えを制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、状態センサから受領されるデータに基づいて設定された所定のシフト速度で、第1ギヤ比から第2ギヤ比へ切り換えるようになっている、乗物の変速機システム。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1´]
本願発明18は、「複数のギヤ比を有する自動マニュアル変速機」を備えるのに対し、引用例1´発明は、「車両用自動変速機」を備える点。
[相違点2´]
本願発明18は、「少なくとも一つの乗物状態センサ」を備えているのに対し、引用例1´発明は、「道路勾配を検出する勾配検出手段」を備えている点。
[相違点3´]
本願発明18は、「前記少なくとも一つの乗物状態センサと交信して、前記複数のギヤ比の間で前記自動マニュアル変速機の切り換えを制御する制御装置」を備え、「前記制御装置」は、「前記乗物状態センサから受領されるデータに基づいて、少なくとも第1シフトモード及び第2シフトモードを含む複数のシフトモードから選択するようになっており、前記第1シフトモードは、第1所定シフト速度で、第1ギヤ比から第2ギヤ比へと切り換えるようになっており、前記第2シフトモードは、前記第1所定シフト速度よりも小さい第2所定シフト速度で、前記第1ギヤ比から前記第2ギヤ比へと切り換えるようになっている」のに対し、引用例1´発明は、「検出した道路勾配に基づいて変速速度補正係数を求める手段と、求めた変速速度補正係数に基づいて変速操作を行うことにより、前記エンジンの出力を低下させる際の前記スロットル弁を閉じる速度と、前記エンジンの動力を再伝達する際の該スロットル弁を開く速度および前記自動クラッチを係合させる速度との少なくとも一方を、前記勾配検出手段により検出された道路勾配が大きくなる程速くするように制御する制御手段と、を含む」点。
(4)判断
(4-1)相違点1´について
「複数のギヤ比を有する自動マニュアル変速機」は周知であり、引用例1´発明の「車両用自動変速機」を「複数のギヤ比を有する自動マニュアル変速機」とすることは適宜の設計的事項にすぎない。
(4-2)相違点2´について
引用例1´発明において、道路勾配をどのようにして検出するかは、検出の迅速性・精度、装置の簡素化・コスト等の所要仕様に基づいて適宜設計する事項にすぎない。そもそも、所望の物理量をセンサで直接に求める以外に、他の物理量から推定・算出して求めることは普通に行われている。道路勾配についても、引用例1には「傾斜角センサ62」から検出することが記載されているが、一方、車両の状態量から求めることも広く知られており、技術常識にすぎない。例えば、特開昭60-29337号公報(特に第2ページ右上欄第9?12行)には、「本発明は、車両の走行状態の勾配に関する情報をエンジン回転速度の変化率、すなわちエンジン回転速度の時間に対する微分値を演算して利用することを特徴とする。」と記載されており、特開平3-24362号公報(第2ページ左上欄第20行?右上欄第4行)には、「勾配判定手段は、車速検出手段及び機関負荷検出手段からの検出情報の他、車速の変化状態を検出する車速変化検出手段と、機関負荷の変化状態を検出する負荷変化検出手段からの検出情報に基づいて道路勾配状態を判定する。」と記載されており、特開平4-69449号公報(第8ページ左下欄第13?20行)には、「先ず、道路勾配は本実施例の自動車に装着された傾斜センサ803(第1図)により検出される。尚、他の検出方法としては、例えば、エンジン負荷(例えば、スロットル開度)に対する実際の車両の加速状態から検出するようにしてもよい。この場合、車種、空気抵抗、ころがり抵抗、乗車人員、エンジンT/C性能等を考慮することにより検出精度が向上する。」と記載されており、特開平6-344802号公報には、「【0004】…自動変速機制御用の電子制御装置でエンジントルク特性,トルクコンバータ特性を利用して駆動輪の駆動トルク,平地走行抵抗トルク,勾配走行抵抗トルク,加速走行抵抗トルクを推定し、これより道路勾配,車重量を高精度に求め、」と記載されており、特開平10-238615号公報には、「【0003】…そのような登坂制御や降坂制御の実行条件を判定するなどのために、車両加速度に基づいて道路勾配を判定する道路勾配判定手段が設けられる場合がある。」と記載されており、特開平11-94070号公報には、「【請求項3】 前記道路状況推定手段は、車両に備わるブレーキの作動油圧により道路勾配を推定し、…【請求項4】 前記道路状況推定手段は、車両に備わるブレーキの作動油圧の平均値を算出し、該平均値から道路勾配を推定し、」、「【0021】更に、請求項3に記載の構成では、車両に備わるブレーキの作動油圧で道路勾配が推定されるので、それ専用の勾配センサが不要となる。…」と記載されている。引用例1´発明に周知の上記事項を適用して、車両の状態量を検出し、該状態量に基づいて道路勾配を求めるように構成することは格別困難なことではない。

以上に関連して、請求人は、平成24年7月24日付け意見書において、「本願発明における『乗物状態』とは、…少なくとも、乗物自体が運転時に示す状態を含むものであり、乗物以外の外部環境のみをもって、『乗物状態』ということはできません。」と主張している。一方、本願明細書の【0015】には、「本発明の変速機10は、センサ38から受領するデータに応じて特定のモードを選択する制御装置42を有している。センサ38は、様々な乗物の状態40についての情報を計測して伝送する。」と記載され、【0016】には「更に、制御装置42は、運転抵抗及び運転抵抗の変化についての情報を受領するように構成されている。運転抵抗は、風抵抗、重力、または、乗物の運動を抑制する他の同様の力、によって影響される。」、「最後に、制御装置42は、乗物の運転者の特定の運転癖に関するデータを集めて記憶することができ、」と記載されている。
「制御装置42」が「センサ38」から、「運転抵抗」に影響する「風抵抗、重力、または、乗物の運動を抑制する他の同様の力」等の「情報を受領」するとすると、「センサ38」は、「乗物自体が運転時に示す状態」の情報であるとは必ずしもいえない「風抵抗、重力、または、乗物の運動を抑制する他の同様の力」を「計測」していることになる。「制御装置42」が「センサ38」から「運転抵抗」のデータを受領するとすると、「情報を計測して伝送する」「センサ38」において「運転抵抗」が求められるのかどうか、どのようにして求めるのか、特に説明がない。
「制御装置42」が「センサ38」から「乗物の運転者の特定の運転癖に関するデータ」を「集めて」いるとすると、「センサ38」は、「乗物自体が運転時に示す状態」の情報であるとは必ずしもいえない「乗物の運転者の特定の運転癖に関するデータ」を「計測」していることになる
道路勾配は車両の姿勢・傾斜に直結する情報であり、道路勾配を検出することは、その時の車両の姿勢・傾斜を検出することに等しい。そのようなことは技術常識である。この意味で、道路勾配は「乗物自体が運転時に示す状態」にあたるといえる。

(4-3)相違点3´について
引用例1´発明は道路勾配に応じて所定シフト速度を設定している。引用例1´発明において、車両の状態量を検出し、該状態量に基づいて道路勾配を求めるように構成することは格別困難なことではないことは上述したとおりであり、そのようにしたものは、「前記乗物状態センサから受領されるデータに基づいて」、所定シフト速度を設定していることにほかならない。
引用例1´発明は、「道路勾配が大きくなる程速くするように制御する」ものであって、道路勾配に応じて連続的にシフト速度を変更しているが、このように連続的に変更するか、有限個のシフト速度を設定して離散的段階的に変更するかは適宜の設計事項にすぎない。また、道路状況や運転状態に応じた適切な運転性を確保するという視点からは、離散的段階的に変更するよりも連続的に変更する方がむしろ優れているということができ、一般に、制御性能をおとして簡単化することに格別の創作性があるとはいえない。以上を合わせ考えると、引用例1´発明において、道路勾配に応じて連続的にシフト速度を変更することに代えて、道路勾配に応じた有限個のシフト速度の異なるモードを設けることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。このようにしたものは、相違点3´に係る本願発明18の上記事項を具備しているといえる。

なお、複数の変速モードを設けることは、周知技術にすぎず、また、変速時間等の異なる複数のモードないし制御態様を設けることが特開平8-72589号公報(特に【0006】、【0008】)に示されていることは、平成22年6月24日付けの拒絶理由通知で既に指摘しているとおりである。上記の特開平11-94070号公報にも、上り坂等における車両発進制御に関するものであるが、「【0038】次に、こうした方法で演算したブレーキ作動油圧(Pb)の平均値を基に、例えば、図7に示すような、あらかじめ制御装置5内に設定されたマップAから、現在車両が停止している道路勾配(Sr)の大小を推定する。この例では、勾配値Aは0°?5°、Bは5°?10°、Cは10°?15°、そしてDは15°以上とされている。」と記載されており、道路勾配をA?Dの4つの領域に区分して制御に供することが示されている。

そして、本願発明18の効果も、引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が予測し得たものであって、格別のものではない。
(5)むすび
したがって、本願発明18は、引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.結語
以上のとおり、本願発明1(本願の請求項1に係る発明)が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?18に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
また、本願発明18(本願の請求項18に係る発明)が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願の請求項1?17に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-11 
結審通知日 2012-10-16 
審決日 2012-10-30 
出願番号 特願2006-515960(P2006-515960)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 智樹  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 常盤 務
川本 真裕
発明の名称 適応切換制御方法  
代理人 山崎 孝博  
代理人 杉村 憲司  
代理人 坪内 伸  
代理人 岡野 大和  
代理人 上村 欣浩  
代理人 澤田 達也  
代理人 吉澤 雄郎  
代理人 荒木 淳  
代理人 大倉 昭人  
代理人 田中 達也  

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