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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B25J
管理番号 1271561
審判番号 無効2011-800245  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-11-29 
確定日 2013-03-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第3866025号発明「吸着搬送装置およびそれに用いる流路切換ユニット」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯及び本件発明

1.手続の経緯
本件特許第3866025号の請求項1ないし3に係る発明についての手続の経緯は、以下のとおりである。
平成12年 9月 6日 特願2000-269677号出願
平成18年10月13日 特許第3866025号の設定登録
平成23年11月29日 本件無効審判請求書提出(請求人)
平成24年 2月 9日 答弁書提出(被請求人)
平成24年 5月 9日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成24年 5月 9日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成24年 5月23日 口頭審理


2.本件特許発明、並びに、課題、効果、及び作用

(1)本件特許発明について
本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書の特許請求の範囲に記載された、次のとおりのものである。

「 【請求項1】 上下動部材の先端に設けられた吸着具の吸着面にワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置であって、
正圧源に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、および前記吸着具の着脱路に連通する出力ポートを有し、前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する真空破壊制御弁と、
真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、前記着脱路に連通する真空ポート、および大気に開放され大気を前記着脱路に供給するとともに前記正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポートを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを前記大気開放ポートに連通させる状態とに作動する真空供給制御弁とを有し、
前記正圧源からの正圧空気を前記着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、前記真空供給制御弁の前記真空ポートを前記大気開放ポートに連通させ、前記真空破壊制御弁の前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させることにより、前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと前記着脱路に連通させることを特徴とする吸着搬送装置。

【請求項2】 請求項1記載の吸着搬送装置において、ワークの吸着を停止する際に前記真空供給制御弁により前記真空流路を閉じかつ前記脱着路を大気に開放させた後に、前記真空破壊制御弁により前記正圧流路を開くことを特徴とする吸着搬送装置。

【請求項3】 上下動部材の先端に設けられた吸着具の吸着面にワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換ユニットであって、
正圧源に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、前記吸着具の着脱路に連通する出力ポート、真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、前記着脱路に連通する真空ポート、および大気に開放され大気を前記着脱路に供給するとともに前記正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポートが形成された流路ブロックと、
前記流路ブロックに設けられ、前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する真空破壊制御弁と、
前記流路ブロックに設けられ、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを前記大気開放ポートに連通させる状態とに作動する真空供給制御弁とを有し、
前記正圧源からの正圧空気を前記着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、前記真空供給制御弁の前記真空ポートを前記大気開放ポートに連通させ、前記真空破壊制御弁の前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させることにより、前記出力ポートと前記真空ポートとを連通させて前記流路ブロックに形成された流路を介して前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと前記着脱路とに連通させることを特徴とする流路切換ユニット。」


(2)本件特許発明が解決しようとする課題、効果、及び作用
ア.課題に関する特許明細書の記載
本件特許発明の解決しようとする課題について、特許明細書の段落【0006】ないし【0008】には、以下の記載がある。
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
昨今、吸着搬送される被吸着物であるICなどの電子部品は、その形状がますます小さく、かつ軽くなってきており、被吸着物を吸着具から離脱させるために吸着具に真空破壊用の正圧空気を供給したときに、被吸着物が正圧空気によって吹き飛ばされて、所定の位置に正確に搭載することができない場合がある。
【0007】
流量調整用のニードル弁により正圧流路を絞ると、着脱路に供給される真空破壊用の正圧空気の流量を、圧力を変化させることなく、低下させることができるので、正圧流路を絞ったり、正圧空気の圧力を低下させると、真空破壊時に被吸着物であるワークが吹き飛ばされることを防止できる。
【0008】
しかしながら、真空破壊用の正圧空気の流量を低下させたり、圧力を低下させると、吸着具から被吸着物を離脱させるまでに時間がかかり、チップマウンタの場合には電子部品の搭載に要するタクトタイムが長くなり、生産性が低下してしまう。」

イ.効果に関する特許明細書の記載
本件特許発明の効果について、特許明細書の段落【0038】ないし【0039】には、以下の記載がある。
「【0038】
【発明の効果】
本発明によれば、吸着具に吸着されたワークを吸着具から離反つまり離脱させる際には、着脱路は大気開放ポートに連通するとともに正圧源に連通することになり、迅速にワークを離脱させることができる。これにより、電子部品を実装基板などの被搭載物に搭載するためのタクトタイムを短くすることができる。
【0039】
離脱時にはワークが吸着具から吹き飛ばされることがないので、ワークはずれることなく、所定の被搭載位置に高精度に位置決めしてワークを搭載することができる。」

ウ.作用に関する特許明細書の記載
本件特許発明の作用について、特許明細書の段落【0026】には、以下の記載がある。
「【0026】
このように、真空状態の着脱路14には大気圧の空気と正圧空気とが大気開放ポートTと正圧供給ポートPの両方から供給されることになり、迅速に所定の圧力に設定されることになる。着脱路14が大気圧以上となると、正圧供給ポートPからの正圧空気は着脱路14に流入するとともに、大気開放ポートTから一部が排気されることになるので、高い圧力の圧縮空気が大量にワークWに吹き付けられることが防止される。しかも、大気開放ポートTから大気を導入しないで、正圧空気のみを着脱路14に供給する場合には、着脱路14内の圧力と正圧空気の圧力との差圧が大きいので、吸着されているワークWには大きな衝撃力が作用することになるが、大気開放ポートTを着脱路14に連通させることによって、ワークの離脱動作を遅くすることなく、ワークの吹き飛びを確実に防止することができる。」

エ.平成18年8月21日付けの意見書における作用についての主張
本件特許発明に係る出願の審査において提出された、平成18年8月21日付けの意見書の【意見の内容】の「2.本願発明について」の欄において、本件特許発明の作用に関して、出願人、すなわち被請求人は、「比較図」を示したうえで、以下のとおり主張した。
「 ・・・・・(前略)
従来の吸着搬送装置は、段落[0005]に記載のように、真空供給制御弁と真空破壊制御弁として、いずれも2ポート電磁弁が使用されており、別紙の比較図にこの従来例を示しました。従来例では吸着具からワークを離脱させるために吸着具に真空破壊用の正圧空気を供給すると、正圧空気が全て吸着具に流れるために、段落[0006]に記載したように、小型の電子部品は真空破壊用の空気により吹き飛ばされることがありました。正圧空気を全て吸着具に流した場合の着脱路の圧力変化特性が別紙の比較図に示されております。電子部品が吹き飛ばされないようにするために流路を絞ると、着脱路は比較図に示す場合よりもゆっくりと変化することになりますが、それでは吸着物の離脱に時間がかかることになります。
別紙比較図における参考例は、真空破壊のために正圧空気を供給することなく、大気を吸着具に供給した場合の着脱路の圧力変化特性を示しております。このように大気を導入して真空破壊を行うと、正圧空気を供給する場合に比して、吸着物の離脱に時間がかかることになります。
本願発明においては、真空供給制御弁24の大気開放ポートTを着脱路に大気を供給するために利用するとともに正圧供給ポートPからの正圧空気の一部を排出つまり逃がすために使用しております。すなわち、大気開放ポートTは大気を外部から導入するだけでなく、正圧空気の一部を外部に逃がすためにも利用しております。
これにより、本願発明においては、別紙比較図に示すように切換初期には、吸着具10に正圧空気と大気圧空気とが流入することになり、流入正圧と流入大気とが合流して吸着具10に流れることから、吸着物を迅速に離脱させることができるのであります。
しかも、着脱路が大気圧以上になると正圧空気の一部は、正圧供給ポートPが大気開放ポートTに連通されるので、大気開放ポートTから外部に排気されて外部に逃げることになり、ワークの吹き飛びを確実に防止することができるという特段の効果が得られるのであります([0026])。
このように、本願発明は吸着を停止する際に、停止初期には、大気開放ポートTを正圧供給ポートPと真空ポートVとに連通させ、大気開放ポートTからの大気圧空気を吸着具に正圧空気とともに供給して迅速に吸着物の離脱を行う一方、大気開放ポートTから正圧空気を逃がして吸着具に吸着されていた吸着物が吹き飛ばされないようにするという技術思想を有する発明であります。・・・・・(後略)」

オ.本件特許発明の課題、効果、及び作用のまとめ
上記ア.ないしウ.の記載や、上記エ.の主張を考慮すると、本件特許発明1及び3は、被吸着物を吸着具から離脱させるために吸着具に真空破壊用の正圧空気を供給したときに、「比較図」の「従来例」に示すように、真空破壊の圧力が高くなりすぎて、被吸着物が吹き飛ばされ、逆に、被吸着物が吹き飛ばされないように、真空破壊用の正圧空気の流量や圧力を低下させると、「比較図」の「参考例」に示すように、吸着物の離脱に時間がかかるという課題を解決しようとするものである。そして、大気開放ポートを、着脱路に大気を供給するために利用するとともに正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出するために使用することにより、流入正圧と流入大気とが合流して吸着具に流れる作用によって、迅速に着脱路の圧力を高め、また、着脱路が大気圧以上になると、正圧空気の一部は大気開放ポートから外部に排気される結果、「比較図」の「本願発明」に示すように、圧力が高くなりすぎることがないから、ワークが吸着具から吹き飛ばされることがなく、迅速にワークを吸着具から離脱させることができるという効果を奏するものであると認める。


第2.当事者の主張

1.請求人の主張する請求の趣旨及び理由
請求人は、本件特許発明1ないし3についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その請求の理由は、本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、特許法第123条第1項第2号に該当し、同項の規定により無効とすべきものであるというものであって、個々の理由の概略は、以下のとおりである。なお、記載箇所を示す行数については、空白行を含まない。

(1)本件特許発明1についての無効理由
ア.甲第1号証記載の発明に基づく理由
(請求書第32ページ第24行ないし第36ページ第25行)
本件特許発明1は、甲第1号証記載の発明及び甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

イ.甲第2号証記載の発明に基づく理由
(請求書第36ページ第26行ないし第40ページ第10行)
本件特許発明1は、甲第2号証記載の発明及び甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

ウ.甲第3号証記載の発明に基づく理由
(請求書第40ページ第11行ないし第43ページ第19行)
本件特許発明1は、甲第3号証記載の発明及び甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

エ.甲第4号証記載の発明に基づく理由
(請求書第43ページ第20行ないし第47ページ第15行)
本件特許発明1は、甲第4号証記載の発明、甲第2及び7号証に示す周知の技術的事項、甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項、並びに甲第11号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

(2)本件特許発明2についての無効理由
ア.甲第1号証記載の発明に基づく理由
(請求書第47ページ第24行ないし第48ページ第21行)
本件特許発明2は、甲第1号証記載の発明、及び甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項、並びに甲第8ないし9号証記載の技術に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

イ.甲第2号証記載の発明に基づく理由
(請求書第48ページ第22行ないし第49ページ第9行)
本件特許発明2は、甲第2号証記載の発明及び甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

ウ.甲第3号証記載の発明に基づく理由
(請求書第49ページ第10行ないし第50ページ第5行)
本件特許発明2は、甲第3号証記載の発明、及び甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項、並びに甲第8ないし9号証記載の技術に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

エ.甲第4号証記載の発明に基づく理由
(請求書第50ページ第6行ないし第51ページ第1行)
本件特許発明2は、甲第4号証記載の発明、甲第2及び7号証に示す周知の技術的事項、甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項、甲第11号証に示す周知の技術的事項、並びに甲第8ないし9号証記載の技術に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

(3)本件特許発明3についての無効理由
ア.甲第1号証記載の発明に基づく理由
(請求書第51ページ第6行ないし第56ページ第5行)
本件特許発明3は、甲第1号証記載の発明、甲第3及び10号証、甲第2ないし4号証、並びに甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

イ.甲第2号証記載の発明に基づく理由
(請求書第56ページ第6行ないし第60ページ最終行)
本件特許発明3は、甲第2号証記載の発明、甲第3及び10号証、並びに甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

ウ.甲第3号証記載の発明に基づく理由
(請求書第61ページ第1行ないし第65ページ第9行)
本件特許発明3は、甲第3号証記載の発明、並びに甲第1ないし2号証、及び甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

エ.甲第4号証記載の発明に基づく理由
(請求書第65ページ第10行ないし第70ページ第13行)
本件特許発明3は、甲第4号証記載の発明、甲第2及び7号証、甲第3及び10号証、甲第5ないし6号証、並びに甲第11号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

2.証拠方法
証拠方法として以下の甲第1ないし11号証が提出されている。

甲第 1号証 特開平1-210286号公報
甲第 2号証 特開2000-59100号公報
甲第 3号証 特開平11-214893号公報
甲第 4号証 特開平11-289026号公報
甲第 5号証 特開平10-236759号公報
甲第 6号証 「油空圧」、社団法人日本油空圧工業会、1990、第4巻、第1号 第31ないし35ページの写し
甲第 7号証 特開平10-58250号公報
甲第 8号証 特開平8-262387号公報
甲第 9号証 特開2000-221479号公報
甲第10号証 特開平8-68400号公報
甲第11号証 「実用空気圧ポケットブック(1995年版)」、社団法人日本油空圧工業会、平成7年10月31日、第304ないし305ページの写し
なお、口頭審理陳述要領書に添付された甲第12及び13号証は、参考資料とされた(口頭審理調書の「請求人 2」欄。)。

3.被請求人の主張する答弁の趣旨
被請求人の主張する答弁の趣旨は、本件特許無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めるものであり、その理由は、概略、本件特許発明1ないし3は、甲第1ないし11号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものではない、というものである。
なお、答弁書に添付された乙第1号証は、参考資料とされた(口頭審理調書の「被請求人 3」欄。)。


第3.各甲号証の記載、及び甲号証記載の各発明

1.甲第1号証の記載事項、及び甲第1号証記載の発明

ア.第1ページ左下欄第5ないし10行
「真空発生源とバキュームパッドを備え、バキュームパッドに作用する負圧を切換弁によってオン・オフするようにした吸着装置において、この吸着装置は前記切換弁のオフ動作と連動してバキュームパッドに気体を供給する気体供給手段を有することを特徴とする吸着装置。」

イ.第1ページ左下欄第20行ないし第2ページ左上欄第2行
「そして、従来の吸着装置は真空ポンプ等の真空発生源とバキュームパッドとをつなぐ管路の途中に切換弁を設け、ワークを所定の部材上にセットする場合等のようにワークの吸着状態を解除する場合には、切換弁によってバキュームパッドにつながる管路を大気に開放するようにしている。
(発明が解決しようとする課題)
上述した従来の吸着装置にあっては、例えばグロメットのように比較的軽量なワークを部材上にセットする場合、大気に開放してもバキュームバッドにワークが付着したまま剥れず、特にバキュームパッドと真空発生源とをつなぐ管路が長いとこの傾向が強くなるという課題がある。
(課題を解決するための手段)
上記課題を解決するべく本発明は、バキュームパッドに作用する負圧をオン・オフする切換弁のオフ動作と連動してバキュームパッドに気体を供給する気体供給手段を設けた。
(作用)
ワークの吸着解除にあたっては、バキュームパッドから積極的に気体を噴出せしめるようにしたので、ワークはバキュームパッドから確実に剥れる。」

ウ.第2ページ左上欄第6ないし16行
「第1図は本発明に係る吸着装置を適用したグロメット取付け装置の正面図であり、グロメット取付け装置は車体1の長さ方向と平行(紙面垂直方向)なレール2に基台3を係合し、この基台3上に車体1に対して進退動をなす移動体4を設け、この移動体4に移動体4の軸廻りに回動するとともに上下方向に揺動するアーム5の下端部を支持し、アーム5の先端に上下方向に揺動するアーム6の基端部を支持し、更にアーム6の先端部に複数のグロメットを同時に保持する吸着装置7を設けている。」

エ.第2ページ左下欄第4行ないし右下欄第2行
「第3図は吸着装置7の管路図であり、各バキュームパッド17はロータリジョイント11を介して個別の真空発生源30につながっており、各真空発生源30は1つの加圧空気供給源31につながっている。
真空発生源30の構造は第4図に示すように、切換弁32、ベンチュリー33、排気装置34、破壊バルブ35及び真空スイッチ36を備え、加圧空気供給源31からの空気を切換弁32及び管路37を介してベンチュリー33に供給し排気装置34から外部に放出することで管路38内の空気を矢印方向に引き込んで負圧を発生せしめ、バキュームパッド17にてグロメットWを吸着するようにしている。また、破壊バルブ35からは管路39、40、41が導出し、管路39は切換弁32と、管路40は管路37と、管路41はベンチュリー33よりも下流側(バキュームパッド側)において管路38にそれぞれ接続している。」

オ.第2ページ右下欄第17行ないし第3ページ左上欄第5行
「そして、グロメットWを嵌付けたならば、第5図に示すように切換弁32を切換える。すると、バキュームパッド17につながる管路38は排気装置34を介して大気に開放されるのと同時に、加圧空気供給源31からの空気は、切換弁32、管路39、破壊バルブ35、管路41を介して管路38に供給され、バキュームパッド17から噴出し、いままで吸着していたグロメットWの吸着状態を積極的に解除する。」

カ.第3ページ左上欄第12ないし18行
「また負圧を発生するために加圧空気供給源とベンチュリーを用い、この加圧空気供給源を吸着解除にも利用するようにしたので、機構的に簡略化し得るが、真空ポンプを用いても良い。この場合には別の加圧空気供給源を管路38につなげる必要がある。」

キ.第5図の図示
第5図には、切換弁32と加圧空気供給源31とを連通する流路が存在し、加圧空気供給源31が、当該流路、管路39、破壊バルブ35及び管路41を介して管路38に連通することの図示がある。

ク.甲第1号証記載の発明
上記キ.に示す、切換弁32と加圧空気供給源31とを連通する流路が、正圧流路であることは、明らかであるし、当該流路は切換弁32と連通しているから、切換弁32には、そのためのポート、すなわち正圧供給ポートが存在することは、明らかである。
さらに、切換弁32は、管路39、破壊バルブ35及び管路41を介して管路38に連通するから、そのためのポート、すなわち出力ポートを有することは、明らかである。

以上を技術常識をふまえて、本件特許発明1の記載に沿って整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)が記載されていると認める。

「上下方向に揺動するアーム6の先端に設けられたバキュームパッド17の吸着面にグロメットWを吸着させてグロメットWを搬送する吸着装置であって、
加圧空気供給源31に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、並びに管路39、破壊バルブ35及び管路41を介して前記バキュームパッド17の管路38に連通する出力ポートを有し、前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させる状態と、前記正圧供給ポートを管路37に連通させる状態とに作動する切換弁32と、
前記切換弁32に連通する管路37と、管路37及び管路38に連通するベンチュリー33と、ベンチュリー33の排出側に接続された排気装置34とを有し、加圧空気供給源31からの空気を前記切換弁32及び前記管路37を介して前記ベンチュリー33に供給し、前記排気装置34から外部に排出することで前記管路38の空気を引き込んで負圧を発生せしめるように構成された真空供給手段とを有し、
前記正圧源からの正圧空気を前記管路38に連通させて前記グロメットWの吸着を停止する際に、前記切換弁32の前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させることにより、前記排気装置34を前記正圧供給ポートと前記管路38に同時に連通させる吸着装置。」


2.甲第2号証の記載事項、及び甲第2号証記載の発明

ア.段落【0001】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、部品吸着装置、特に、真空圧発生手段により発生する真空圧により部品を吸着し、真空圧を破壊することにより部品の吸着を解除する部品吸着装置に関する。」

イ.段落【0003】
「【0003】この場合、部品搭載時は瞬時に真空圧を破壊しノズル内を大気圧にする必要がある。仮に搭載後のZ軸上昇時に真空圧(残圧)があると、基板に粘着力の乏しく、軽量の小型チップ部品は搭載されず吸い上げられることになる。このため、残圧を無くし、瞬時に大気圧開放する方法として、正圧を瞬間的に加える方法が考えられるが、この加圧時間が長いと搭載後のZ軸上昇時に、ノズル先端から加圧されたエアが漏れ、正常に搭載された周囲の部品をずらしてしまう、という問題が発生する。」

ウ.段落【0007】
「【0007】従って、本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、部品吸着に関連する機器あるいは部材の故障ないし異常を確実に検出でき、また真空圧を最適に破壊して部品を確実に搭載できる部品吸着装置を提供することをその課題とする。」

エ.段落【0014】ないし【0017】
「【0014】図1には、本発明に係わる部品吸着装置の一実施形態の構成が図示されており、同図において、符号10で示すものは、吸着ノズルを保持するノズル保持部で、このノズル保持部10の下端には、ノズル径の異なる種々の吸着ノズル11が着脱可能に保持される。ノズル保持部10内には配管12が形成されていて、配管12はエアフィルタ13を介して他の配管14並びに吸着ノズル11内の配管15に連通している。なお、吸着ノズル11は、検査時には取り外されるので、一点鎖線で図示されている。
【0015】ノズル保持部10の配管12は、配管16を介して真空発生器(エジェクタ)17に接続されており、この真空発生器17は、制御装置(CPU)18により制御される真空発生電磁弁19がオンになったとき、エア供給源20より供給される圧縮エアにより作動し、配管16、12、14、15に負圧を発生させる。これにより吸着ノズル11はその下端部で部品(不図示)を吸着できるようになる。部品を正常に吸着しているときには、真空圧になり、また吸着していないときには、負圧にならないので、配管16の圧力を検出する圧力センサ21により吸着部品の有無が判定され、その情報が制御装置18に入力される。
【0016】また、吸着部品を吸着ノズル11から離脱させるときには、真空発生電磁弁19をオフにして真空発生器17を停止させ、真空を解除する。このとき、真空を解除後早急に大気圧に回復させるために、制御装置18により駆動される真空破壊電磁弁22をオンにしてエア供給源20より正圧を配管16に供給するようにしている。
【0017】通常、ノズル保持部10、吸着ノズル11、真空発生器17、真空発生電磁弁19、真空破壊電磁弁22、圧力センサ21は、電子部品実装装置(チップマウンタ)の吸着ヘッド(不図示)に取り付けられている。吸着ヘッドは、制御装置18により制御されるXY駆動機構23によりXY移動して、フィーダから供給される部品を吸着ノズル11により吸着し、回路基板上にその部品を搭載する。部品吸着時並びに搭載時には、同様に制御装置18により制御されるZ軸昇降機構24によりノズル保持部10と吸着ノズル11が上下に昇降されるように制御される。」

オ.段落【0025】
「【0025】以上のような故障解析を終了したあと、ステップS5で真空発生電磁弁19をオフにして、続くステップS6で真空破壊(自然破壊)時のチェックを行ない、故障解析を行なう。この真空破壊時の状態が図4に図示されている。t3で真空発生電磁弁19をオフにすると、配管16、12、14、26に発生していた真空圧が破壊されるので、圧力センサ21、27により測定される真空圧は大気圧まで減少する。そこで、監視圧P2に達するまでの時間t4、t5を制御装置18内のタイマーを用いて測定する。」

カ.段落【0028】ないし【0029】
「【0028】上記ステップS5、S6では、真空発生電磁弁19がオフにされて故障解析が行なわれるが、その場合、各配管内の真空は自然に破壊されるので、大気圧に戻るのに時間がかかる。そこで、その時間を減少させるために、正圧を加圧し真空を加圧破壊することが行なわれる。すなわち、ステップS7で真空発生電磁弁19をオンにして真空圧を発生させた後、ステップS8でオフにすると、自然に真空圧は破壊されるが、その時間を減少させるために、ステップS9で真空破壊電磁弁22をオンにして正圧を発生させる。
【0029】この状態が図5に図示されており、t6で真空発生電磁弁19がオフにされた後、t7で真空破壊電磁弁22をオンにすると、正圧が発生するので、大気圧に戻る傾斜が大きくなる。そして、時刻t10で真空破壊電磁弁22をオフにする(ステップS10)。それにより圧力は、正圧がなくなるので、一旦負圧側に反動して大気圧に戻る。このとき、圧力センサ21、27が測定する加圧到達圧P3、P3’、真空破壊電磁弁22がオンしてから(t7)、圧力センサ21、27がそれぞれ監視圧P2を測定する時刻t8、t9、それに真空破壊電磁弁22がオフしてから(t10)、圧力センサ21、27がそれぞれ加圧到達圧P3、P3’を測定する時刻t11、t12を測定する。」

キ.段落【0035】
「【0035】また、上記構成においては、真空発生器17にエジェクタを用いているが、これは、真空ポンプ等の真空発生器を用いてもよい。この実施形態が図6に図示されており、制御装置18により真空発生電磁弁19が作動されると、真空ポンプ30により真空圧が発生され、また制御装置18により真空破壊電磁弁22が作動されると、エア供給源20により正圧が加圧され、真空圧が破壊される。」

ク.段落【0037】
「【0037】また、本発明では、真空圧を遮断する時点、正圧を加える時点、さらに正圧を加える期間を調整できるので、真空破壊を最適化でき、部品搭載が確実になる、など種々の効果が得られる。」

ケ.図6の図示
図6には、真空破壊電磁弁22とエア供給源20とを連通する流路が存在し、真空破壊電磁弁22と配管16とが連通し、真空発生電磁弁19と真空ポンプ30とを連通する流路が存在し、真空発生電磁弁19と配管16とが連通していることの図示がある。

コ.図1の図示
図1には、配管16が、配管12、エアフィルタ13及び配管14を介して、吸着ノズル11内の配管15と連通していることの図示がある。

サ.甲第2号証記載の発明
上記オ.の摘示や、上記カ.の摘示には、故障解析における電磁弁の動作に関する記載があるところ、当該故障解析は、部品吸着装置が、部品の吸着搬送の際に正常に動作し得るかどうかを判定するものであるから、故障解析における電磁弁の動作は、吸着装置が部品を吸着搬送する際の電磁弁の動作と同様であるといえる。
また、上記キ.に摘示する「真空発生器17にエジェクタを用いているが、これは、真空ポンプ等の真空発生器を用いてもよい。この実施形態が図6に図示されており」という記載からみて、図6は、図1に図示されている真空発生器17に代えて、真空ポンプ等の真空発生器を用いることにより、図1における制御装置(CPU)18、真空発生器17、真空発生電磁弁19、エア供給源20、真空破壊電磁弁22に関する構成を、図6に図示されているとおりに置き換えた構成を示しているといえるから、図6に示されていない、その余の構成は、いずれも図1に示されているとおりの構成であるといえる。
そして、図6において、真空破壊電磁弁22とエア供給源20とを連通する流路が正圧流路であることは、明らかであるし、当該流路は真空破壊電磁弁22と連通しているから、真空破壊電磁弁22には、そのためのポート、すなわち正圧供給ポートが存在することは、明らかである。さらに、真空破壊電磁弁22と配管16とが連通しており、上記コ.に摘示するように、当該配管16は吸着ノズル11内の配管15と連通しているから、真空破壊電磁弁には、その連通のためのポート、すなわち出力ポートが存在することは明らかである。
また、図6において、真空発生電磁弁19と真空ポンプ30とを連通する流路が真空流路であることは、明らかであるし、当該流路は真空発生電磁弁19と連通しているから、真空発生電磁弁19には、そのためのポート、すなわち真空供給ポートが存在することは、明らかである。さらに、真空発生電磁弁19と配管16とが連通しており、上記コ.に摘示するように、当該配管16は吸着ノズル11内の配管15と連通しているから、真空発生電磁弁19には、その連通のためのポート、すなわち真空ポートが存在することは明らかである。
また、上記キ.には「制御装置18により真空発生電磁弁19が作動されると、真空ポンプ30により真空圧が発生され、また制御装置18により真空破壊電磁弁22が作動されると、エア供給源20により正圧が加圧され、真空圧が破壊される。」との記載があるところ、正圧を加圧して真空圧を破壊させる際に、正圧空気が真空ポンプに吸入されないようにすること、すなわち真空発生電磁弁19の真空供給ポートを遮断させることは、技術常識である。
そして、以上を技術常識をふまえて、本件特許発明1の記載に沿って整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲第2号証記載の発明」という。)が記載されていると認める。

「上下動するノズル保持部10の先端に設けられた吸着ノズル11の吸着面に部品を吸着させて部品を搬送する部品吸着装置であって、
エア供給源20に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、および前記吸着ノズル11内の管路15に連通する出力ポートを有し、前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する真空破壊電磁弁22と、
真空ポンプ30に真空流路を介して連通する真空供給ポートと、前記管路15に連通する真空ポートとを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空供給ポートを遮断する状態とに作動する真空発生電磁弁19とを有し、
前記エア供給源20からの正圧空気を前記管路15に連通させて部品の吸着を停止する際に、前記真空発生電磁弁19により前記真空供給ポートを遮断し、前記真空破壊電磁弁22の前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させることにより、前記管路15に正圧を供給する、
部品吸着装置。」


3.甲第3号証の記載事項、及び甲第3号証記載の各発明

ア.特許請求の範囲の【請求項1】
「【請求項1】 複数の電子部品を収容する部品供給ステージと前記電子部品が搭載される被搭載部材を支持する搭載ステージとを有する搭載テーブルに沿って水平方向に移動自在となった搭載ヘッドを有する電子部品の吸着搬送装置であって、
前記搭載ヘッドに取り付けられ、先端に前記電子部品を吸着する吸着具を有するピストンロッドを上下方向に駆動する四角柱形状の空気圧シリンダと、
前記空気圧シリンダに固定され、ディフューザとこれに空気を供給するノズルとからなるエジェクタが内部に組み込まれた真空発生ブロックと、
前記空気圧シリンダの上端部に取り付けられ、前記真空発生ブロックに形成された給気ポートに連通する給気路を開閉して前記ピストンロッドの上下動を制御するピストン作動用の電磁弁と、
前記真空発生ブロックに取り付けられ、前記給気ポートから前記ノズルに連通する給気路を開閉して前記エジェクタの作動を制御するエジェクタ作動用の電磁弁と、
前記真空発生ブロックに取り付けられ、前記エジェクタにより発生した真空を前記吸着具に案内する真空路に連通された真空破壊路を開閉する真空破壊用の電磁弁と、
前記真空発生ブロックに取り付けられ、前記真空路内に圧力を検出するセンサとを有する吸着搬送器を前記搬送ヘッドに複数個装着し、
前記それぞれの吸着搬送器における前記給気ポートから供給された圧縮空気を前記空気圧シリンダと前記エジェクタの前記ノズルと前記真空破壊路とに共通に案内するようにしたことを特徴とする電子部品の吸着搬送装置。」

イ.段落【0008】
「【0008】本発明の目的は、電子部品を吸着して搬送するようにした吸着搬送装置における吸着搬送器の軽量化を可能とすることにある。」

ウ.段落【0020】
「【0020】図1は本発明の一実施の形態である吸着搬送装置を示す概略平面図であり、部品ステージに配置されたICなどの電子部品を検査ボードに自動的に搭載するためにこの吸着搬送装置が使用されている。検査ボードに搭載された所定の数の電子部品は、この位置から自動的に搬送されて検査ステージにまで送られるようになっている。」

エ.段落【0025】
「【0025】図3に示すように、ICなどの電子部品Wを吸着する吸着具26が上下方向つまりZ軸方向に移動自在となっており、たとえば、図1の部品供給ステージ23におけるA位置の電子部品を検査ボード12のB位置に搭載する場合には、搬送ヘッド16を図1においてX軸方向とY軸方向とに移動させて、所定の吸着具26を部品供給ステージ23のA位置の真上に位置させた状態で、吸着具26を下降移動させる。これにより、吸着具26は電子部品に接触した状態となり、この状態で吸着具に真空を供給することにより電子部品は吸着具に保持される。この状態で吸着具を上昇移動させながら、搬送ヘッド16をX軸方向とY軸方向とに移動させて、吸着具をB位置の真上に位置決めする。この状態で吸着具26を下降移動させることにより、電子部品を検査ボード12の所定の位置に搭載することができる。吸着具26には、図3に示すように、吸着搬送器25の真空ポートに接続された真空ホース27が接続されるようになっている。」

オ.段落【0028】ないし【0029】
「【0028】8つの吸着搬送器25は断面L字形状となり搬送ヘッド16に取り付けられたブラケット28に固定され、それぞれの吸着搬送器25は、図4に示すような内部構造となっており、空気圧シリンダ31とこれに固定された真空発生ブロック32とを有している。空気圧シリンダ31は四角柱形状となっており、真空発生ブロック32は直方体形状となっている。空気圧シリンダ31の内部に形成された空気圧室内にはピストン33が軸方向に往復動自在に装着され、このピストン33に取り付けられたピストンロッド34の先端には吸着具26が取り付けられるようになっている。
【0029】真空発生ブロック32の先端面には、圧縮空気が供給される給気ポート35が形成され、この給気ポート35は真空発生ブロック32および空気圧シリンダ31に形成された給気路36により、ピストン後退用の空気圧室37aに連通されている。空気圧シリンダ31の後端部に設けられた弁ブロック38には、給気路36に連通する給気路36aをピストン前進用の空気圧室37bに対して開閉するピストン作動用の電磁弁39が設けられている。この電磁弁39のソレノイドに通電がなされていないときには、ピストンロッド34は空気圧室37a内に供給される空気により、図4に示すように、後退限位置となり、ソレノイドに通電すると、空気圧室37bにも空気が供給されて、空気圧室37aよりも空気圧室37bの方の断面積が大きく設定させていることから、ピストンロッド34は前進移動することになる。」

カ.段落【0031】ないし【0035】
「【0031】真空発生ブロック32内にはディフューザ46が組み込まれており、このディフューザ46の混合通路46aに空気を供給するノズル47がディフューザ46に対向して配置され、これらのディフューザ46とノズル47とによりエジェクタつまり真空発生装置が形成されている。ノズル47には給気ポート35に連通する給気路36bからの空気が供給されるようになっており、ディフューザ46に混合通路46aに連通させて形成された吸引ポート46bは真空路48を介して真空ポート49に連通されている。この真空ポート49には、図3に示すように、接続プラグ50が取り付けられるようになっており、この接続プラグ50と吸着具26との間に、真空ホース27が接続される。
【0032】したがって、給気ポート35に供給された空気をノズル47からディフューザ46の混合通路46a内に噴出すると、混合通路46a内には吸引ポート46bからの空気を吸い込んだ空気の流れが発生して、真空ポート49は真空つまり負圧状態となる。ディフューザ46から排出された空気は、給気ポート35に隣接して設けられた排気ポート51から外部に排出されることになる。
【0033】給気ポート35からの空気をノズル47に対して供給制御するために、流路ブロック52と弁ブロック53を介して真空発生ブロック32にはエジェクタ作動用の電磁弁54が取り付けられている。この電磁弁54はピストン作動用の電磁弁39と同一構造のものが使用されており、この電磁弁54のソレノイドに対して通電していない状態では、給気ポート35に連通した給気路36bを従動弁44が開いて、この給気路36bをノズル47に連通した給気路36cに対して連通させる状態とし、通電されると従動弁44が閉じてノズル47への空気の供給は停止される。
【0034】真空発生ブロック32に弁ブロック53に対して反対側に取り付けられた弁ブロック55には真空破壊用の電磁弁56が取り付けられており、この電磁弁56は電磁弁39、54と同様の構造のものが使用されている。弁ブロック55にはこの中に形成された空気供給室57と給気ポート35とを連通する給気路36dが形成されており、電磁弁56のソレノイドに通電すると、給気路36dが開かれて空気供給室57内に空気が供給されるようになっている。通電が解かれると図4に示すように、プランジャ42が前進して主弁41により給気路36dが閉じられることになる。空気供給室57は真空発生ブロック32に形成された真空破壊路58に連通されており、この真空破壊路58は真空路48に連通されている。
【0035】したがって、図3に示す吸着具26により吸着保持されている電子部品を吸着具26から外す場合には、エジェクタ作動用の電磁弁54への通電を解き、真空破壊用の電磁弁56へ通電する。これにより、真空路48には空気が供給されるので、吸着具26から電子部品は外されることになる。」

キ.段落【0038】
「【0038】しかも、各々の吸着搬送器25は空気圧シリンダ31の空気圧室37a,37bと、ディフューザ46とノズル47とからなるエジェクタと、真空破壊路58とに対して1つの共通の給気ポート35から分配して供給することができるので、それぞれに空気を供給するためのホースを這い回すことなく、全体的にコンパクトかつ軽量の吸着搬送器25とすることができる。したがって、これらをたとえば、8つ積層して1つの吸着搬送ユニット24としても、その重量を大きくすることなく、搬送ヘッド16を迅速に移動させることができる。」

ク.図4の図示
図4には、真空発生ブロック32に流路ブロック52及び弁ブロック55が設けられ、流路ブロック52に弁ブロック53が設けられ、弁ブロック53に電磁弁54が設けられ、弁ブロック55に電磁弁56が設けられていることの図示がある。
また、弁ブロック55には、給気路36dに連通するポートが設けられており、空気供給室57に連通するポートが設けられていることの図示がある。
また、真空発生ブロック32、流路ブロック52及び弁ブロック53には、給気路36bに連通するポートと、給気路36cに連通するポートとが、それぞれ設けられていることの図示がある。

ケ.甲第3号証記載の第1発明
上記カ.に摘示する段落【0034】の記載からみて、給気路36dは電磁弁56と連通しているから、電磁弁56には、そのためのポート、すなわち正圧供給ポートが存在することは、明らかである。
また、上記カ.に摘示する段落【0031】の記載からみて、真空ホース27が真空ポート49と連通し、真空ポート49が真空路48と連通しており、さらに段落【0034】の記載からみて、真空路48が真空破壊路58と連通し、真空破壊路58が空気供給室57と連通し、空気供給室57が電磁弁56と連通しているから、真空ホース27は電磁弁56と連通しているということができ、電磁弁56には、その連通のためのポート、すなわち出力ポートが存在することは、明らかである。
また、上記カ.に摘示する段落【0033】の記載からみて、給気路36bは電磁弁54と連通しているから、電磁弁54には、そのためのポート、すなわち第1のポートが存在するといえるし、給気路36cは電磁弁54と連通しているから、電磁弁54には、そのためのポート、すなわち第2のポートが存在するといえる。
そして、以上を技術常識をふまえて、本件特許発明1の記載に沿って整理すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲第3号証記載の第1発明」という。)が記載されていると認める。

「上下動するピストンロッド34の先端に設けられた吸着具26の吸着面に電子部品Wを吸着させて電子部品Wを搬送する吸着搬送装置であって、
正圧源に給気路36dを介して連通する正圧供給ポート、および前記吸着具26の真空ホース27に連通する出力ポートを有し、前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する真空破壊用の電磁弁56と、
給気路36bに連通する第1のポートと、給気路36cに連通する第2のポートを有し、前記第2のポートを前記第1ポートに連通させる状態と、前記第2のポートを前記第1のポートから遮断する状態とに作動するエジェクタ作動用の電磁弁54と、
ディフューザ46とノズル47とから形成されるエジェクタであって、前記ディフューザ46は、ノズル47及び吸引ポート46bと、大気に開放される排気ポート51とを連通し、前記ノズル47は、前記給気路36cと、前記吸引ポート46b及びディフューザ46とを連通し、前記吸引ポート46bは前記真空ホース27と連通している、エジェクタとを有し、
前記正圧源からの正圧空気を前記真空ホース27に連通させて電子部品Wの吸着を停止する際に、前記エジェクタ作動用の電磁弁54の前記第2のポートを前記第1のポートから遮断し、真空破壊用の電磁弁56の前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させる吸着搬送装置。」

コ.甲第3号証記載の第2発明
上記オ.で摘示する段落【0029】の記載からみて、吸気ポート35に圧縮空気を供給するための流路、すなわち正圧流路が接続されることは、明らかである。
また、上記ク.で認定するように、弁ブロック53には、給気路36bと連通するポート、すなわち第1のポートが存在するといえるし、給気路36cと連通するポート、すなわち第2のポートが存在するといえる。
また、上記ク.で認定するように、弁ブロック55には、給気路36dに連通するポート、すなわち給気ポート35に連通するポートが存在するといえる。
また、上記カ.に摘示する段落【0031】の記載からみて、真空ホース27が真空ポート49と連通し、真空ポート49が真空路48と連通しており、さらに段落【0034】の記載からみて、真空路48が真空破壊路58と連通し、真空破壊路58が空気供給室57と連通し、上記ク.で認定するように、弁ブロック55には、空気供給室57と連通するポートが設けられているから、弁ブロック55には、空気供給室57を介して吸着具26の真空ホース27に連通するポート、すなわち出力ポートが存在するといえる。
さらに、上記ク.で認定するように、真空発生ブロック32に流路ブロック52及び弁ブロック55が設けられ、流路ブロック52に弁ブロック53が設けられ、弁ブロック53に電磁弁54が設けられ、弁ブロック55に電磁弁56が設けられているから、それらを一組の構成、すなわちユニットとして認識できるし、その一組の構成が、流路を切り換えているといえるから、流路切換ユニットであるといえる。
そして、以上を技術常識をふまえて、本件特許発明3の記載に沿って整理すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲第3号証記載の第2発明」という。)が記載されていると認める。

「上下動するピストンロッド34の先端に設けられた吸着具26の吸着面に電子部品Wを吸着させて電子部品Wを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換ユニットであって、
正圧源に正圧流路を介して連通する吸気ポート35、空気供給室57に連通するポート、前記吸着具26の真空ホース27に連通する真空ポート49、給気路36bに連通するポート、給気路36cに連通するポート、及び大気に開放される排気ポート51が形成された真空発生ブロック32と、
前記真空発生ブロック32に設けられ、前記給気ポート35と連通するポート、及び前記空気供給室57を介して吸着具26の真空ホース27に連通する出力ポートを有する弁ブロック55と、
前記弁ブロック55に設けられ、前記給気ポート35を前記出力ポートに連通させる状態と前記給気ポート35を遮断する状態とに作動する真空破壊用の電磁弁56と、
前記真空発生ブロック32に設けられ、前記給気路36bに連通するポートと、前記給気路36cに連通するポートとを有する流路ブロック52と、
前記流路ブロック52に設けられ、前記給気路36bに連通する第1のポートと、前記給気路36cに連通する第2のポートとを有する弁ブロック53と、
前記弁ブロック53に設けられ、前記第2のポートを、前記第1のポートに連通させる状態と、前記第2のポートを前記第1のポートから遮断する状態とに作動するエジェクタ作動用の電磁弁54と、
前記真空発生ブロック32に設けられ、ディフューザ46とノズル47とから形成されるエジェクタであって、前記ディフューザ46は、前記ノズル47及び吸引ポート46bと、前記排気ポート51とを連通し、前記ノズル47は、前記第2のポートと、前記吸引ポート46b及び前記ディフューザ46とを連通し、前記吸引ポート46bは前記真空ポート49と連通している、エジェクタとを有し、
前記正圧源からの正圧空気を前記真空ホース27に連通させて電子部品Wの吸着を停止する際に、前記エジェクタ作動用の電磁弁54により前記第2のポートを前記第1のポートから遮断し、前記真空破壊用の電磁弁56により前記給気ポート35を前記出力ポートに連通させる流路切換ユニット。」


4.甲第4号証の記載事項、及び甲第4号証記載の発明

ア.段落【0001】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半田ボールを吸着してワークに搭載する吸着ヘッドの圧力調整に特徴を有する半田ボールマウント装置に関するものであって、主としてBGA(ボールグリッドアレー)半田ボールマウント装置で、半田ボールを基板に搭載する際の吸着ヘッド内のエアー圧力調整を主眼に開発されたものである。」

イ.段落【0004】ないし【0006】
「【0004】半田ボールマウント装置における吸着ヘッドは、半田ボールをワークに搭載するため上昇、下降の動作を行わなければならず、配管はフレキシブルチューブを利用することになる。
【0005】半田ボールが吸着されている状態ではフレキシブルチューブ内の気圧は負圧であるため、フレキシブルチューブは収縮し、フレキシブルチューブ内容積も減少している。この状態から半田ボールをワークに搭載するに際し、真空破壊を行い加圧装置と接続されるとフレキシブルチューブは膨張し、フレキシブルチューブ内容積も増加する。更に、フレキシブルチューブの膨張は反応が遅いため、図2に現れるように真空破壊直後に正圧となるが、フレキシブルチューブの膨張により負圧に戻る現象が生じるのである。このとき吸着ヘッドが上昇すると半田ボールは吸着ヘッドに戻されることになり、リメインボールが発生しやすくなるのである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明は、真空破壊時の吸着ヘッド内の正圧状態が維持できればリメインボールの発生は減少する点に着目し、吸着ヘッド内を大気へ接続する切替手段を設け、半田ボールをワークに搭載する際、吸着ヘッド内が負圧から正圧になった後、負圧に戻らないように切替手段を作動させて吸着ヘッド内を大気へ接続しようとするものである。」

ウ.段落【0008】ないし【0016】
「【0008】
【発明の実施の形態】以下図示の実施例とともに発明の実施の形態につき説明する。図1は、本発明の一実施例を示す配管図である。図中1が半田ボール2を吸着してワークに搭載する吸着ヘッドであり、3が吸着ヘッド1内に負圧を発生させる真空吸引装置となる真空ポンプである。
【0009】真空ポンプ3と吸着ヘッド1との間に存在する図中4は、真空破壊弁であり、真空破壊弁4と吸着ヘッド1の間は、フレキシブルチューブ5で接続されている。真空破壊弁4には、真空ポンプ3とともに吸着ヘッド1内に正圧を発生させる加圧装置である圧縮空気源6が接続されている。
【0010】真空破壊弁4は、ONで吸着ヘッド1と真空ポンプ3とを接続し、吸着ヘッド1内を負圧とする。OFFでは、圧縮空気源6側と吸着ヘッド1とを接続する。尚、真空破壊弁4と圧縮空気源6との間には、切替弁7が設けられている。切替弁7は、ONで圧縮空気源6の圧縮空気を真空破壊弁4に接続し、OFFで圧縮空気源6と真空破壊弁4との接続を遮断する。
【0011】吸着ヘッド1には、真空破壊弁4とともに大気開放弁8が接続されている。大気開放弁8は吸着ヘッド1近傍に設けられる。大気開放弁8は、ONで大気と吸着ヘッド1が接続され、OFFで大気と吸着ヘッド1との接続を遮断する。
【0012】図示の実施例では、切替弁7、真空破壊弁4、大気開放弁8は、ソレノイドバルブである。
【0013】続いて、半田ボールをワークに搭載する際の動作を、真空破壊弁4、切替弁7、大気開放弁8のON/OFF状態とともに説明する。まず、吸着ヘッド1が、半田ボール2をワークにマウントするため下降中、真空破壊弁4はON、切り替え弁7はOFF、大気開放弁8もOFFの状態である。すなわち、吸着ヘッド1は真空ポンプ3と接続されており負圧状態で半田ボール2を吸着している。
【0014】その後、吸着ヘッド1は下降を継続し、真空破壊弁4はON、切替弁7がON、大気開放弁8はOFFとなる。すなわち、半田ボール2を離す前に切替弁7をONにしておくのである。この結果、真空破壊弁4の機能により、吸着ヘッド1は、真空ポンプ3と接続されているが、真空破壊弁4には圧縮空気源6の正圧も掛かっているのである。
【0015】吸着ヘッド1が、下降端で停止すると、真空破壊弁4はOFFとなる。この時すでに切替弁7はONとされているので、吸着ヘッド1は、圧縮空気源6と接続され、正圧とされ、半田ボール2を離す。尚、切替弁7は、所定時間フレキシブルチューブ5側にエアーを供給するとOFFとなる。大気開放弁8は、真空破壊弁4のOFFと同時または少し遅れてONとなる。これにより、吸着ヘッド1内の圧力変化は図3に示すような波形となり、再度の負圧への戻りは防止しされ、リメインボールの発生を防止する。
【0016】真空破壊弁4がOFF、切替弁7がOFF、大気開放弁8がONの状態で、吸着ヘッド1は上昇し、半田ボール搭載動作が終了し、大気開放弁8もOFFとなる。」

エ.図1の図示
図1には、切替弁7と圧縮空気源6との間に流路が存在し、真空破壊弁4と真空ポンプ3との間に流路が存在することの図示がある。

オ.甲第4号証記載の発明
上記エ.で認定するように、切替弁7と圧縮空気源6との間に流路が存在し、当該流路が正圧流路であることは、明らかであるし、当該流路は切替弁7と連通しているから、切替弁7には、そのためのポート、すなわち正圧供給ポートが存在することは、明らかである。
また、上記ウ.に摘示する段落【0010】の「切替弁7は、ONで圧縮空気源6の圧縮空気を真空破壊弁4に接続し」という記載からみて、切替弁7が、圧縮空気を出力するためのポート、すなわち正圧出力ポートを有し、真空破壊弁4が、圧縮空気を入力するためのポート、すなわち正圧入力ポートを有することは、明らかである。
また、上記エ.で認定するように、真空破壊弁4と真空ポンプ3との間に流路が存在し、当該流路が真空流路であることは、明らかであるし、当該流路は真空破壊弁4と連通しているから、真空破壊弁4には、そのためのポート、すなわち真空供給ポートが存在することは、明らかである。
また、上記ウ.に摘示する段落【0009】の「真空破壊弁4と吸着ヘッド1の間は、フレキシブルチューブ5で接続されている」との記載からみて、真空破壊弁4には、フレキシブルチューブ5と接続するためのポート、すなわち真空ポートが存在することは、明らかである。
また、上記ウ.に摘示する段落【0011】の「大気開放弁8は、ONで大気と吸着ヘッド1が接続され、OFFで大気と吸着ヘッド1との接続を遮断する。」との記載からみて、大気開放弁8が、大気に開放するポート、すなわち大気開放ポートと、フレキシブルチューブ5に連通するポートとを有することは、明らかである。
さらに、上記ウ.に摘示する段落【0015】の「大気開放弁8は、真空破壊弁4のOFFと同時または少し遅れてONとなる。これにより、吸着ヘッド1内の圧力変化は図3に示すような波形となり、再度の負圧への戻りは防止しされ」という記載からみて、大気開放弁の大気開放ポートは、大気と接続することで、吸着ヘッド1内が負圧とならないように機能すること、すなわち、フレキシブルチューブ5を介して大気を吸着ヘッド1内に供給しているといえる。
以上を技術常識をふまえて、本件特許発明1の記載に沿って整理すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲第4号証記載の発明」という。)が記載されていると認める。

「上下動部材の先端に設けられた吸着ヘッド1の吸着面に半田ボール2を吸着させて半田ボール2を搬送する半田ボールマウント装置であって、
圧縮空気源6に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、及び正圧を出力する正圧出力ポートを有し、前記正圧供給ポートを前記正圧出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する切替弁7と、
真空ポンプ3に真空流路を介して連通する真空供給ポートと、前記吸着ヘッド1のフレキシブルチューブ5に連通する真空ポートと、前記切替弁7の前記正圧出力ポートに連通する正圧入力ポートとを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを前記正圧入力ポートに連通させる状態とに作動する真空破壊弁4と、
大気に開放され大気を前記フレキシブルチューブ5に供給する大気開放ポートと、前記フレキシブルチューブ5に連通するポートを有し、前記大気開放ポートを前記フレキシブルチューブ5に連通するポートに連通させる状態と前記大気開放ポートを遮断する状態とに作動する大気開放弁8と、を備え、
前記圧縮空気源6からの正圧空気を前記フレキシブルチューブ5に連通させて半田ボール2の吸着を停止する際に、前記大気開放弁8の前記大気開放ポートをフレキシブルチューブ5に連通するポートに連通させて、前記吸着ヘッド1に連通させ、前記切替弁7の前記正圧供給ポートを前記正圧出力ポートに連通させ、前記真空破壊弁4の前記真空ポートを前記正圧入力ポートに連通させることにより、前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと前記フレキシブルチューブ5に連通させる半田ボールマウント装置。」


5.甲第5号証の記載事項及び甲第5号証記載の技術的事項

ア.段落【0001】
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、バキュームパッドをガラス,木材,紙,鉄板等の吸着対象物に接触させ、それらをバキュームによる吸引力により持ち上げて目的とする場所に移動させるバキューム運搬装置に使用されるバキュームパッド用制御弁及びそれを使用したフィーダー,キャリヤ等の運搬システムに関する。」

イ.段落【0031】ないし【0032】
「【0031】このように構成されるバキュームパッド用制御弁1を使用して運搬システムを構成する場合には、例えば図3に示すような構成にする。まず、上述したようにバキュームパッド用制御弁1の入口ポート3にバキュームパッドユニット20を装着し、出口ポート4を真空系5に接続するが、その出口ポート4と真空系5との間の流路17(ホース等により形成する)には切換弁18を配設する。
【0032】そして、その切換弁18を、出口ポート4を真空系5に接続する図示の切換位置と、その出口ポート4を真空系5から遮断して出口ポート4にフィルタ25を介して大気を導入する位置(図3から左方に切り換えた位置)とに切換可能にしている。なお、真空系5は、例えば真空タンク26と、その真空タンク26内が所定の真空度よりも低下したときに作動して、真空タンク26内を再び所定の真空度に保つようにする真空ポンプ27とからなる真空装置である。」

ウ.図3の図示
図3には、ポートA、ポートB、及びポートPを有する切換弁18の図示があり、ポートAが真空系5の真空タンク26に接続されており、ポートBがフィルタ25に接続されており、ポートPがバキュームパッド用制御弁1の出口ポート4に接続されていることの図示がある。

エ.甲第5号証記載の技術的事項
上記ウ.で認定するように、切換弁18のポートAが真空系5の真空タンク26に接続されているから、その接続のための流路が真空流路であることは、明らかである。同様に、切換弁18のポートPがバキュームパッド用制御弁1の出口ポート4に接続されているから、その接続のための流路が着脱路であることは、明らかである。
以上を技術常識をふまえて、本件特許発明1の記載に沿って整理すると、甲第5号証には、次の技術的事項(以下、「甲第5号証記載の技術的事項」という。)が記載されていると認める。

「真空系5の真空タンク26に真空流路を介して連通するポートA、着脱路に連通するポートP、および大気に開放され大気を前記着脱路に供給するポートBを有し、前記ポートPを前記ポートAに連通させる状態と前記ポートPを前記ポートBに連通させる状態とに作動する切換弁18を、バキューム運搬装置に設けること。」


6.甲第6号証の記載事項及び甲第6号証記載の技術的事項

ア.第34ページ左欄第17行ないし最終行
「3.4 真空破壊と逆止弁による真空保持
真空破壊
搬送後、ワークの離すために、真空破壊(真空を大気に戻す)する方法にはいくつかある。
(1)全体のサイクル時間長い場合は、供給圧を止めて、エゼクタのサイレンサ、ディフューザからや、真空制御弁の場合フリーポートから大気を自然流入させて、真空破壊する。
(2)エゼクタ式真空ポンプのなかには、真空発生か強制的に真空破壊のための圧縮空気を流すかの2位置式のものがある。これはサイクルが極端に短い場合に適している。
(3)真空発生と強制破壊と別々に制御する。
自然真空破壊と強制真空破壊の回路を図4に示す。」

イ.第34ページ図4の左上欄の図示
第34ページ図4の左上欄には、「エゼクタ」における「自然真空破壊」についての図示があり、左側から、加圧源(二重丸の記号)と接続する流路を介して、真空制御弁が存在し、真空制御弁と接続する流路を介して、エゼクタのディフューザ及びサイレンサが存在し、また、エゼクタから下に向かう流路が、真空スイッチ及びフィルタを介して、パッドに連通するように、図示されている。
また、真空制御弁には、フリーポートが示されており、真空制御弁は、エゼクタに接続する流路を加圧源に接続する流路に連通する状態と、エゼクタに接続する流路をフリーポートに接続する状態とに作動するように、図示されている。

ウ.第34ページ図4の左下欄の図示
第34ページ図4の左下欄には、「真空ポンプ」における「自然真空破壊」についての図示があり、左側から、真空ポンプ(丸の中にPの記号)と接続する流路を介して、真空制御弁が存在し、真空制御弁と接続する流路が下に向かっており、真空スイッチ及びフィルタを介して、パッドに連通するように、図示されている。
また、真空制御弁には、フリーポートが示されており、真空制御弁は、パッドに連通する流路を真空ポンプに接続する流路に連通する状態と、パッドに連通する流路をフリーポートに接続する状態とに作動するように、図示されている。

エ.甲第6号証記載の技術的事項

上記イ.で認定するように、真空制御弁が真空ポンプに接続されているから、その接続のための流路が真空流路であることや、真空制御弁にその接続のためのポート、すなわち真空供給ポートが存在することは、明らかである。同様に、真空制御弁がパッドに連通する流路に接続しているから、その流路が着脱路であることや、真空制御弁がその接続のためのポート、すなわち真空ポートを有することは、明らかである。
以上を技術常識をふまえて、本件特許発明1の記載に沿って整理すると、甲第6号証には、次の技術的事項(以下、「甲第6号証記載の技術的事項」という。)が記載されていると認める。

「真空ポンプに真空流路を介して連通する真空供給ポート、着脱路に連通する真空ポート、および大気に開放され大気を前記着脱路に供給するフリーポートを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを前記フリーポートに連通させる状態とに作動する真空制御弁を、ワークの運搬装置に設けること。」


7.甲第7号証の記載事項、甲第7号証記載の技術的事項、及び甲第7号証記載の発明

ア.段落【0011】ないし【0014】
「【0011】まず、図1を参照して導電性ボールの搭載装置の全体構造を説明する。10は導電性ボールの供給部としての容器であり、その内部には導電性ボール1が収納されている。9は基台である。11はワークであり、その上面にはパッド12が多数個形成されている。ワーク11は位置決め部13上に位置決めされている。位置決め部13は可動テーブルであり、ワーク11をX方向やY方向へ水平移動させてその位置を調整することができる。
【0012】容器10と位置決め部13の上方には移動テーブル14が設けられている。移動テーブル14にはケース15が保持されており、ケース15には吸着ヘッド21が保持されている。移動テーブル14が駆動すると、ケース15および吸着ヘッド21は移動テーブル14に沿って容器10とワーク11の間を移動する。
【0013】図2において、ケース15上にはモータ16が設けられている。またケース15の内部には、垂直な送りねじ17が設けられている。送りねじ17にはナット18が装着されており、吸着ヘッド21はナット18に結合されている。したがってモータ16が駆動して送りねじ17が回転すると、ナット18は送りねじ17に沿って上下動し、吸着ヘッド21も上下動する。すなわち、モータ16、送りねじ17、ナット18は吸着ヘッド21の上下動手段となっている。19はケース15の前面に設けられた垂直なガイドレール、20は吸着ヘッド21の背面に設けられてこのガイドレール19に嵌合するスライダであり、ガイドレール19とスライダ20は吸着ヘッド21の上下動を案内する。
【0014】図2において、吸着ヘッド21の内部には空間22があり、またその下面には吸着孔23が多数開孔されている。24は吸引部であって、第1の弁25や配管26、27を介して空間22に接続されている。28は高圧空気供給部であって、第2の弁29や配管26、27を介して空間22に接続されている。30は第3の弁であって、配管27を介して空間22に接続されている。31は第4の弁であって、配管32を介して空間22に接続されている。33は制御部であって、吸引部24、高圧空気供給部28、第1の弁25、第2の弁29、第3の弁30、第4の弁31およびモータ制御部34を制御する。モータ制御部34はモータ16の駆動を制御する。35は記憶部であって、装置の運転に必要なデータを記憶する。36はキーボードやマウスなどの入力部であって、必要なデータの入力などを行う。」

イ.段落【0019】ないし【0020】
「【0019】次に、タイミング6で第1の弁25を閉じることにより、吸引部24による真空吸引を中止するとともに、第2の弁29を開いて高圧空気供給部28から空間22に空気が送られる。これにより空間22内は真空破壊され、その内圧は図4(e)に示すように急激に上昇して負圧から正圧に瞬間的に切り替わる。次にタイミングt7で、第3の弁30およびまたは第4の弁31を開く。すると空間22は外部と連通して外部の空気は空間22内に瞬間的に導入され、空間22の内圧は正圧から大気圧へ急激に低下する(タイミングt8)。また、タイミングt6?t8の間は、正圧となった空間22から吹き出す空気によって導電性ボール1が吹き飛ばされないようにするために吸着ヘッド21を下降させたままにしておき、吸引孔23で導電性ボール1が移動しないようにその位置を規制しておく。
【0020】以上のようにして空間22はタイミングt6からタイミングt8の間に負圧→正圧→大気圧へ急激に変化し、吸着孔23は導電性ボール1の真空吸着状態を積極的に解除する。そこでタイミングt8で第3の弁30およびまたは第4の弁31を閉じるとともに、吸着ヘッド21は上昇を開始し(図3(c)参照)、一連の搭載動作は終了する。以上のように本方法、高圧空気供給部28から空間22に正圧を付与して空間22内の真空破壊を積極的に行うことにより、吸着孔23からの導電性ボール1の離れをよくし、短時間で導電性ボール1をワーク11のパッド12上に搭載することができる。なおタイミングt1?t8は、プログラムデータとして予め記憶部35に登録されている。」

ウ.図2の図示
図2には、第1の弁25と第2の弁29とが、並列に設けられていることの図示がある。

エ.図4の図示
図4(d)及び(e)には、タイミングt7及びタイミングt8の間において、第3の弁が開き、吸着ヘッド内圧の変化について、内圧が低下するように図示されている。

オ.甲第7号証記載の技術的事項
上記ア.ないしイ.に摘示する記載事項、及び上記ウ.に摘示する図示を、技術常識をふまえて整理すると、甲第7号証には、次の技術的事項(以下、「甲第7号証記載の技術的事項」という。)が記載されていると認める。

「吸着ヘッド21に連通する配管26と高圧空気供給部28との間を開閉する第2の弁29と、吸着ヘッド21に連通する配管26と吸引部24との間を開閉する第1の弁25とを、並列に設けること。」

カ.甲第7号証記載の発明
(ア)甲第7号証の誤記について
上記イ.に摘示する段落【0019】には、「次にタイミングt7で、第3の弁30およびまたは第4の弁31を開く。すると空間22は外部と連通して外部の空気は空間22内に瞬間的に導入され、空間22の内圧は正圧から大気圧へ急激に低下する(タイミングt8)。」との記載があるところ、当該記載のうちの「外部の空気は空間22内に瞬間的に導入され」という記載事項は、空間22の圧力よりも外部の圧力の方が高いことを意味する一方、当該記載事項に続く、「空間22の内圧は正圧から大気圧へ急激に低下する」という記載事項は、空間22の圧力が正圧であること、すなわち空間22の圧力よりも外部の圧力の方が低いことを意味するから、これらの2つの記載は、相互に矛盾している。そこで、上記図4の図示を参照すると、タイミングt7において、吸着ヘッド内圧、すなわち空間22の圧力が大気圧よりも高く、タイミングt7及びタイミングt8の間において、吸着ヘッドの内圧が大気圧に至るまで低下していることを理解できるから、上記の段落【0019】における「外部の空気は空間22内に瞬間的に導入され」という記載事項は、誤記であると認める。

(イ)甲第7号証記載の発明について
上記ア.に摘示する段落【0014】の記載からみて、第2の弁29は高圧空気供給部28と接続しているから、その接続のための流路、すなわち正圧流路が存在することは明らかであるし、第2の弁29には、その接続のためのポート、すなわち正圧供給ポートが存在することは、明らかである。そして、第2の弁29は、配管26、27を介して吸着ヘッド21と接続しているから、第2の弁29には、その接続のためのポート、すなわち出力ポートが存在することは、明らかである。
また、第1の弁25は吸引部24と接続しているから、その接続のための流路、すなわち真空流路が存在することは明らかであるし、第1の弁25には、その接続のためのポート、すなわち真空供給ポートが存在することは、明らかである。そして、第1の弁25は、配管26、27を介して吸着ヘッド21と接続しているから、第1の弁25には、その接続のためのポート、すなわち真空ポートが存在することは、明らかである。
また、第3の弁30は配管27と接続しているから、そのためのポートが存在することは明らかであるし、上記イ.に摘示する段落【0019】の記載からみて、第3の弁30は、外部に連通して、吸着ヘッド21の内圧を低下させるポート、すなわち外部連通ポートが存在することは、明らかである。

上記ア.ないしイ.に摘示する記載事項、及び上記ウ.に摘示する図示を、技術常識をふまえて、本件特許発明1の記載に沿って整理すると、甲第7号証には、次の発明(以下、「甲第7号証記載の発明」という。)が記載されていると認める。

「上下動するケース15に設けられた吸着ヘッド21の吸着孔23に導電性ボール1を吸着させて導電性ボール1を移動させる搭載装置であって、
高圧空気供給部28に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、及び前記吸着ヘッド21の配管26、27に連通する出力ポートを有し、前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する第2の弁29と、
吸引部24に真空流路を介して連通する真空供給ポート、及び前記配管26、27に連通する真空ポートを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを遮断する状態とに作動する第1の弁25と、
外部に連通し吸着ヘッド21の内圧を低下させる外部連通ポート、及び前記配管27に連通するポートを有し、前記配管27に連通するポートを、前記外部連通ポートに連通させる状態と、前記配管27に連通するポートを遮断する状態とに作動する第3の弁30とを有し、
前記高圧空気供給部28からの正圧空気を前記配管26、27に連通させて前記導電性ボール1の吸着を停止する際に、タイミングt6において、前記第1の弁25の前記真空ポートを遮断し、前記タイミングt6において、前記第2の弁29の前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させ、タイミングt7において、前記第3の弁30の前記配管27に連通するポートを、前記外部連通ポートに連通させることにより、前記吸着ヘッド21の内圧を低下させる、搭載装置。」


8.甲第8号証の記載事項及び甲第8号証記載の技術的事項

ア.段落【0012】ないし【0013】
「【0012】まず、真空吸着を解除するため、第1のエアオペレートバルブ17をオフ状態に操作し、ステージ11の配管13に通じる真空吸着配管16とバキューム配管18との間を遮断する。次に、第3のエアオペレートバルブ27をオン操作して、連通配管26とエキゾースト配管28との間を連通させる。このとき、連通配管26は、第2のエアオペレートバルブ22の一方の弁体22aによってエアブロー配管21およびステージ11の配管13に通じており、第3のエアオペレートバルブ27がオン状態となることにより、ステージ11の表面とガラス基板12との間は大気解放され、真空破壊される。
【0013】次に、第2のエアオペレートバルブ22をオン操作すると、他方の弁体22bを通してエア配管23とエアブロー配管21とが連通する。このため、エア配管23から供給される空気がエアブロー配管21およびステージ11の配管13を通ってステージ11の表面とガラス基板12との間にエアブローされ、ガラス基板12に対する真空吸着解除が行なわれる。」

イ.段落【0029】ないし【0030】
「【0029】次に、ステージ11上に真空吸着されたガラス基板12を分離するべくエアブローを行なう場合、まず、第1のエアオペレートバルブ17をオフにし、真空吸着配管16とバキューム配管18との間を遮断する。次に、第3のエアオペレートバルブ27をオン操作して、連通配管26とエキゾースト配管28との間を連通させ、第2のエアオペレートバルブ22の一方の弁体22aを通してステージ11の表面とガラス基板12との間を大気解放する。
【0030】次に、エアブロー系20を作動させるべく第2のエアオペレートバルブ22をオン操作し、その他方の弁体22bを通してエア配管23とエアブロー配管21とを連通させ、エア配管23からエアブロー配管21に空気を供給する。」

ウ.甲第8号証記載の技術的事項
以上を技術常識をふまえて整理すると、甲第8号証には、次の技術的事項(以下、「甲第8号証記載の技術的事項」という。)が記載されていると認める。

「真空吸着を解除する際に、第1のエアオペレートバルブ17をオフ状態に操作して、ステージ11の配管13に通じる真空吸着配管16とバキューム配管18との間を遮断し、次に、第3のエアオペレートバルブ27をオン操作して、配管13、エアブロー配管21、第2のエアオペレートバルブ22、連通配管26及びエキゾースト配管28を介して、ステージ11を大気開放し、次に、第2のエアオペレートバルブ22をオン操作して、エア配管23、エアブロー配管21及び配管13を介して、ステージ11にエアブローを行うこと。」


9.甲第9号証の記載事項及び甲第9号証記載の技術的事項
ア.段落【0014】
「【0014】以下、本実施の形態における液晶パネルの吸着ステージの動作を説明する。まず、液晶パネルが搬送ロボットにて吸着ステージ本体1の吸着面2に載置された後、2方向電磁制御弁12a,12bは常閉から常開に作動する。2方向電磁制御弁12bが常開になると高圧空気が吸着空圧回路に供給され始める。供給された空気圧はチェック弁付き流量制御弁14により任意に設定された流量に調整され、3方向2位置電磁制御弁13から手動式排水器付きフィルタ10を経て、常開状態の2方向電磁制御弁12aにより流れを方向制御され、外部へ排気される。このときに、液晶パネルが載置されて閉ざされた空気室となった真空吸着溝7の空気は、圧力差により手動式排水器付きフィルタ10を通る空気の流れに引っ張られる作用を受け、真空吸着管8を介して外部へ排気され、圧力スイッチ11の設定値に到達するまでそれらの動作が続けられる。圧力スイッチ11が設定値に到達後、2方向電磁制御弁12a,12bが常閉状態に切り替わり、高圧空気の供給と排気が停止して本空圧回路は閉回路となり、液晶パネルの真空吸着を保持する。研削加工の仕事を終え、完了信号を受け取り後、2方向電磁制御弁12aが常開状態に切り替わり、真空吸着溝7は大気圧に戻るので液晶パネルの真空吸着は開放される。さらに、2方向電磁制御弁12cが常開状態に切り替わり、真空吸着管8を介して真空吸着溝7から液晶パネルに向けてエアーブローされ搬送アームによって液晶パネルは吸着面2から剥離、取り出される。」

イ.甲第9号証記載の技術的事項
上記ア.に摘示する記載事項を、技術常識をふまえて整理すると、甲第9号証には、次の技術的事項(以下、「甲第9号証記載の技術的事項」という。)が記載されていると認める。

「研削加工の仕事を終え、完了信号を受け取り後、2方向電磁制御弁12aが常開状態に切り替わり、真空吸着溝7は大気圧に戻るので液晶パネルの真空吸着は開放され、さらに、2方向電磁制御弁12cが常開状態に切り替わり、真空吸着管8を介して真空吸着溝7から液晶パネルに向けてエアーブローされ搬送アームによって液晶パネルは吸着面2から剥離、取り出されること。」


10.甲第10号証の記載事項及び甲第10号証記載の技術的事項
ア.段落【0023】
「【0023】なお前記封止弁40と負圧流通路11の端部である吸引口51との間には、フィルタ52が設けてあると共に、吸引口51付近には、真空スイッチ53が設けてある。ここで、前記高圧空気導入口50と破壊用マスターバルブ60との間の高圧流通路10からは、操作分岐路14が設けられ、負圧を発生させるための発生電磁弁54及び負圧破壊を行うための破壊電磁弁55に連通させてある。」

イ.図1の図示
図1には、発生電磁弁54と破壊電磁弁55とが、ブロック状の部材に設けられており、当該ブロック状の部材には、流路やポートが設けられていることの図示がある。

ウ.甲第10号証記載の技術的事項
以上を技術常識をふまえて整理すると、甲第10号証には、次の技術的事項(以下、「甲第10号証記載の技術的事項」という。)が記載されていると認める。

「発生電磁弁54と破壊電磁弁55とが、ブロック状の部材に設けられており、当該ブロック状の部材には、流路やポートが設けられていること。」


11.甲第11号証の記載事項及び甲第11号証記載の技術的事項
ア.第305ページ第11ないし17行
「(c) 単動シリンダ回路
単動シリンダは、一旦空気圧で作動させてその排気により操作力を解除し、スプリング・自重あるいは外力によって復帰させるものである。従ってその制御弁には一般的に3ポート弁を使用する。(図4-6)なお供給用および排気用の2ポート弁2個を使用してもよい(図4-7)。」

イ.甲第11号証記載の技術的事項
上記ア.に摘示する記載事項を、技術常識をふまえて整理すると、甲第11号証には、次の技術的事項(以下、「甲第11号証記載の技術的事項」という。)が記載されていると認める。

「単動シリンダの制御弁には、一般的に3ポート弁を使用するが、2ポート弁2個を使用してもよいこと。」


第4.対比及び判断
1.本件特許発明1について

(1)本件特許発明1と甲第1号証記載の発明との対比及び判断

ア.本件特許発明1と甲第1号証記載の発明との一致点及び相違点
甲第1号証記載の発明の「上下方向に揺動するアーム6」が、本件特許発明1の「上下動部材」に相当し、「バキュームパッド17」が「吸着具」に相当し、「グロメットW」が「ワーク」に相当し、「グロメットWを吸着させてグロメットWを搬送する吸着装置」が「ワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置」に相当することは、明らかである。
また、甲第1号証記載の発明の「加圧空気供給源31」が本件特許発明1の「正圧源」に相当し、「正圧供給ポート」が「正圧供給ポート」に相当することも、明らかである。そして、甲第1号証記載の発明において「管路39、破壊バルブ35及び管路41を介して前記バキュームパッド17の管路38に連通する」ことは、本件特許発明1において「吸着具の着脱路に連通する」ことに相当するから、甲第1号証記載の発明の「出力ポート」は、本件特許発明1の「出力ポート」に相当する。また、甲第1号証記載の発明の「正圧供給ポートを出力ポートに連通させる状態と、正圧供給ポートを管路37に連通させる状態とに作動する切換弁32」は、「正圧供給ポートを出力ポートに連通する状態に作動する制御弁」という点で、本件特許発明1の「正圧供給ポートを出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する真空破壊制御弁」と共通する。
そして、甲第1号証記載の発明において、「正圧源からの正圧空気を管路38に連通させてグロメットWの吸着を停止する際に、切換弁32の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、排気装置34を正圧供給ポートと管路38に同時に連通させる」ことは、「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通する」という点で、本件特許発明1において、「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと前記着脱路に連通させること」と共通する。
以上から、本件特許発明1と甲第1号証記載の発明とは、以下の一致点Aの点で一致し、相違点1ないし3の点で相違する。

<一致点A>
「上下動部材の先端に設けられた吸着具の吸着面にワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置であって、
正圧源に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、および前記吸着具の着脱路に連通する出力ポートを有し、前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通する状態に作動する制御弁を有し、
正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、制御弁の前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通する吸着搬送装置。」である点。

<相違点1>
本件特許発明1の真空破壊弁は、「正圧供給ポートを出力ポートに連通させる状態と正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する」のに対して、甲第1号証記載の発明の「切換弁32」は、「正圧供給ポートを出力ポートに連通させる状態と、正圧供給ポートを管路37に連通させる状態とに作動する」点。

<相違点2>
本件特許発明1は、「真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、着脱路に連通する真空ポート、および大気に開放され大気を前記着脱路に供給するとともに正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポートを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを前記大気開放ポートに連通させる状態とに作動する真空供給制御弁」を備えるのに対して、甲第1号証記載の発明は、そのような真空供給弁を備えていない点。

<相違点3>
正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、本件特許発明1では、「真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと着脱路に連通させる」のに対して、甲第1号証記載の発明では、真空供給制御弁を有しておらず、「切換弁32の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、排気装置34を正圧供給ポートと管路38に同時に連通させる」点。

イ.相違点1についての判断
甲第1号証記載の発明の切換弁32が、「正圧供給ポートを出力ポートに連通させる状態と、正圧供給ポートを管路37に連通させる状態とに作動する」理由は、正圧供給ポートを出力ポートに連通させる状態において、真空破壊を行う一方、正圧供給ポートを管路37に連通させる状態において、ベンチュリー33に正圧空気を供給し、管路38に負圧を発生させるためであるところ、上記第3.1.カ.に摘示するように、甲第1号証には、負圧を発生するための手段として、加圧空気供給源31及びベンチュリー33に代えて、真空ポンプを用い、その場合には、「別の加圧空気供給源」を管路38につなげることの教示がある。当該教示における真空ポンプが、真空吸着を行うための真空源を意味し、「別の加圧空気供給源」が、真空破壊を行うための正圧源を意味することは、明らかであるから、当該教示のとおりに真空ポンプ及び「別の加圧空気供給源」を採用して、「別の加圧空気供給源」を管路38につなげるとすれば、上記ア.で説示した、甲第1号証記載の発明の「加圧空気供給源31」に代えて、「別の加圧空気供給源」が本件特許発明1の「正圧源」に相当することになる。
そして、そのように真空ポンプ及び「別の加圧空気供給源」を採用するとすれば、「別の加圧空気供給源」と管路38とを連通させる状態において真空破壊を行う一方、真空ポンプによって管路38に負圧を発生させて真空吸着を行う際には、「別の加圧空気供給源」と管路38との連通を遮断する必要があることは明らかである。さらに、流路を連通する状態と、遮断する状態とに切り換えるための手段として、流路に弁を設けることは、ごく普通に行われている事項といえるから、本件特許発明1の「正圧源」に相当する「別の加圧空気供給源」と管路38とを連通させる状態と、「別の加圧空気供給源」と管路38との連通を遮断する状態とを実現するように、正圧供給ポートを出力ポートに連通させる状態と正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する弁、すなわち本件特許発明1における真空破壊弁を設けることは、当業者にとって、格別に困難な事項ではない。

ウ.相違点2についての判断
(ア)甲第5及び6号証に示す周知の技術的事項について
上記第3.5.エ.に摘示する甲第5号証記載の技術的事項は、
「真空系5の真空タンク26に真空流路を介して連通するポートA、着脱路に連通するポートP、および大気に開放され大気を前記着脱路に供給するポートBを有し、前記ポートPを前記ポートAに連通させる状態と前記ポートPを前記ポートBに連通させる状態とに作動する切換弁18を、バキューム運搬装置に設けること。」
であるところ、甲第5号証記載の技術的事項の「真空系5の真空タンク26」が、本件特許発明1の「真空源」に相当し、「ポートA」が「真空供給ポート」に相当し、「ポートP」が「真空ポート」に相当し、「バキューム運搬装置」が「吸着搬送装置」に相当することは、明らかである。また、甲第5号証記載の技術的事項の「大気に開放され大気を前記着脱路に供給するポートB」は、「大気に開放され大気を着脱路に供給する大気供給ポート」という点で、本件特許発明1の「大気に開放され大気を着脱路に供給するとともに正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポート」と共通する。

また、上記第3.6.エ.に摘示する甲第6号証記載の技術的事項は、
「真空ポンプに真空流路を介して連通する真空供給ポート、着脱路に連通する真空ポート、および大気に開放され大気を前記着脱路に供給するフリーポートを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを前記フリーポートに連通させる状態とに作動する真空制御弁を、ワークの運搬装置に設けること。」
であるところ、甲第6号証記載の技術的事項の「真空ポンプ」が、本件特許発明1の「真空源」に相当し、「真空供給ポート」が「真空供給ポート」に相当し、「真空ポート」が「真空ポート」に相当し、「ワークの運搬装置」が「吸着搬送装置」に相当することは、明らかである。また、甲第6号証記載の技術的事項の「大気に開放され大気を前記着脱路に供給するフリーポート」は、「大気に開放され大気を着脱路に供給する大気供給ポート」という点で、本件特許発明1の「大気に開放され大気を前記着脱路に供給するとともに前記正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポート」と共通する。
そうすると、甲第5ないし6号証記載の技術的事項を、本件特許発明1の用語を用いて整理すると、
「真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、着脱路に連通する真空ポート、及び大気に開放され大気を着脱路に供給する大気供給ポートを有し、真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態と真空ポートを大気供給ポートに連通させる状態とに作動する制御弁を、吸着搬送装置に設けること。」といえる。
以上のとおり、「真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、着脱路に連通する真空ポート、及び大気に開放され大気を着脱路に供給する大気供給ポートを有し、真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態と真空ポートを大気供給ポートに連通させる状態とに作動する制御弁」は、上記第3.5.エ.に摘示する甲第5号証記載の技術的事項や、上記第3.6.エ.に摘示する甲第6号証記載の技術的事項に示すように、周知の技術的事項である。

(イ)甲第1号証記載の発明に周知の制御弁を適用することについて
上記第3.1.カ.に摘示するように、甲第1号証には、加圧空気供給源31及びベンチュリー33に代えて、真空ポンプを用い、「別の加圧空気供給源」を管路38につなげることの開示がある。
しかし、甲第1号証には、真空ポンプを用いる際に、周知の技術的事項に係る制御弁を採用することの開示や示唆はないから、甲第1号証記載の発明において、加圧空気供給源及びベンチュリ-に代えて、真空ポンプを用いる際に、真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態と真空ポートを大気開放ポートに連通させる状態とに作動する制御弁を採用するべき理由はない。

これに対して、請求人は、審判請求書第35ページ第1ないし20行において、甲第1号証には、「大気開放」による真空破壊と「正圧供給」による真空破壊との両方を行うという技術思想が開示されているから、甲第1号証記載の発明において、加圧空気供給源31及びベンチュリー33に代えて、真空ポンプを用いる際に、「大気開放」による真空破壊が実現されるように、大気供給ポートを有する周知の制御弁を採用することは、当業者が容易に想到し得るものであって、周知の制御弁を採用すれば、その大気供給ポートは、大気を着脱路に供給するだけでなく、「正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する」機能を備えることになる旨、主張しているので、以下に検討する。
甲第1号証における「大気開放」は、上記第3.1.オ.に摘示するように、「排気装置34」を介して行われるものであるところ、当該「排気装置34」は、上記第3.1.エ.に摘示するように、「ベンチュリー33」に供給された正圧空気を外部に放出するものであるから、当該「排気装置34」は、ベンチュリーに付属する構成であるということができ、甲第1号証における「大気開放」は、ベンチュリーが存在することに付随して行われる作用であるといえる。また、上記第3.1.カ.に摘示する甲第1号証の記載にしたがって、ベンチュリーに代えて真空ポンプを採用するとすれば、ベンチュリーに付属する構成である「排気装置34」が存在しなくなるから、ベンチュリーに付随した「大気開放」は生じない。
そして、上記第3.1.イ.に摘示する「(発明が解決しようとする課題)」の欄や、「(作用)」の欄を参照すると、「大気に開放」することによる真空破壊では、ワークの吸着解除が行えない場合があるのに対して、「積極的に気体を噴出せしめる」こと、すなわち「正圧供給」による真空破壊を行えば、確実にワークの吸着解除を行うことができると理解できるから、ワークの吸着解除という作用に関しては、「正圧供給」による真空破壊の方が優れており、「大気開放」による真空破壊の方が劣っていると考えざるを得ない。
これらを考慮すると、請求人が主張するように、甲第1号証には、「大気開放」と「正圧供給」の両方を行うという技術思想が開示されているけれども、「大気開放」と「正圧供給」の両方を行う理由は、ベンチュリーに付随して行われる「大気開放」による真空破壊では、ワークが吸着解除なされない場合があるから、「正圧供給」による真空破壊を重畳して付加することで、ワークの吸着解除を確実に行うことにあるといえる。そして、甲第1号証記載の発明において、加圧空気供給源31及びベンチュリー33に代えて、真空ポンプを用いるとすれば、ベンチュリー33に付随した「大気開放」は生じないし、甲第1号証記載の発明は、ワークの吸着解除という作用に関して優れている「正圧供給」による真空破壊が実現されているのであるから、加圧空気供給源31及びベンチュリー33に代えて真空ポンプを用いる際に、ワークの吸着解除という作用に関して劣っている「大気開放」による真空破壊を、「正圧供給」による真空破壊に重畳して付加することは、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
したがって、請求人が主張するように、甲第1号証に、「大気開放」による真空破壊と「正圧供給」による真空破壊との両方を行うという技術思想が開示されており、甲第1号証記載の発明において、加圧空気供給源31及びベンチュリー33に代えて、真空ポンプを用いるとしても、その際に、周知の技術的事項に係る真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態と真空ポートを大気開放ポートに連通させる状態とに作動する制御弁を採用することにはならない。
そして、本件特許発明1は、上記第1.2.(2)オ.で認定したとおり、大気を着脱路に供給すると共に、正圧空気の一部を大気開放ポートから排気させるように、本件特許発明1に係る真空供給制御弁を採用しているところ、甲第1号証や、その他の甲第2ないし11号証には、「大気に開放され大気を着脱路に供給するとともに正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポートを有」するような制御弁について、開示も示唆もない。
すなわち、上記(ア)に説示する周知の制御弁の「大気供給ポート」は、大気を着脱路に供給することはあり得るとしても、そもそも着脱路に正圧が供給されることがないから、「大気供給ポート」から正圧空気の一部を排気させるものではない。
したがって、大気を着脱路に供給すると共に、正圧空気の一部を大気開放ポートから排気させるように、本件特許発明1に係る真空供給制御弁を採用する理由はない。
以上から、甲第1号証記載の発明において、周知の技術的事項に係る制御弁を採用することは、当業者にとって、容易に想到できたものとはいえないし、甲第1号証記載の発明において、相違点2に係る真空供給制御弁を採用することは、当業者にとって、容易に想到できたものとはいえない。

エ.相違点3についての判断
当該相違点3は、相違点2に係る真空供給制御弁が存在することを前提とするものであるところ、上記ウ.(イ)で説示したとおり、甲第1号証記載の発明において、加圧空気供給源31及びベンチュリー33に代えて、真空ポンプを用いる際に、周知の制御弁を採用する理由はないし、大気を着脱路に供給すると共に、正圧の一部を大気開放ポートから排気させるように、本件特許発明1に係る真空供給制御弁を採用する理由もないから、相違点3に係る構成についても、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

オ.甲第1号証記載の発明に基づく理由のむすび
上記ウ.ないしエ.に説示したとおりであるから、本件特許発明1は、甲第1号証記載の発明及び甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。


(2)本件特許発明1と甲第2号証記載の発明との対比及び判断

ア.本件特許発明1と甲第2号証記載の発明との一致点及び相違点
甲第2号証記載の発明の「上下動するノズル保持部10」が、本件特許発明1の「上下動部材」に相当し、「吸着ノズル11」が「吸着具」に相当し、「部品」が「ワーク」に相当し、「部品を吸着させて部品を搬送する部品吸着装置」が「ワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置」に相当することは、明らかである。
また、甲第2号証記載の発明の「エア供給源20」が本件特許発明1の「正圧源」に相当し、「正圧供給ポート」が「正圧供給ポート」に相当し、「吸着ノズル11の管路15」が「吸着具の着脱路」に相当し、「出力ポート」が「出力ポート」に相当し、「真空破壊電磁弁22」が「真空破壊制御弁」に相当することは、明らかである。
また、甲第2号証記載の発明の「真空ポンプ30」が本件特許発明1の「真空源」に相当し、「真空供給ポート」が「真空供給ポート」に相当し、「真空ポート」が「真空ポート」に相当することは、明らかである。そして、甲第2号証記載の発明の「真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態と前記真空供給ポートを遮断する状態とに作動する真空発生電磁弁19」は、「真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態に作動する制御弁」という点で、本件特許発明1の「真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを大気開放ポートに連通させる状態とに作動する真空供給制御弁」と共通する。
そして、甲第2号証記載の発明において、「エア供給源20からの正圧空気を管路15に連通させて部品の吸着を停止する際に、真空発生電磁弁19により真空供給ポートを遮断し、真空破壊電磁弁22の正圧供給ポートを出力ポートに連通させること」は、「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させる」という点で、本件特許発明1において、「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと前記着脱路に連通させること」と共通する。
以上から、本件特許発明1と甲第2号証記載の発明とは、以下の一致点Bの点で一致し、相違点4ないし5の点で相違する。

<一致点B>
「上下動部材の先端に設けられた吸着具の吸着面にワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置であって、
正圧源に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、および前記吸着具の着脱路に連通する出力ポートを有し、前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する真空破壊制御弁と、
真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、及び前記着脱路に連通する真空ポートを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態に作動する制御弁とを有し、
前記正圧源からの正圧空気を前記着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、前記真空破壊制御弁の前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させる吸着搬送装置。」
である点。

<相違点4>
本件特許発明1の「真空供給制御弁」は、「大気に開放され大気を着脱路に供給するとともに正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポートを有し、真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態と真空ポートを大気開放ポートに連通させる状態とに作動する」のに対して、甲第2号証記載の発明の「真空発生電磁弁19」は、大気開放ポートを有しておらず、真空ポートを大気開放ポートに連通させる状態には作動しない点。
<相違点5>
正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、本件特許発明1では、「真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと着脱路に連通させる」のに対して、甲第2号証記載の発明では、大気開放ポートを有していないから、大気開放ポートを正圧供給ポートと着脱路に連通させていない点。

イ.相違点4についての判断
上記(1)ウ.(ア)に説示するように、「真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、着脱路に連通する真空ポート、及び大気に開放され大気を着脱路に供給する大気供給ポートを有し、真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態と真空ポートを大気供給ポートに連通させる状態とに作動する制御弁」は、周知の技術的事項である。
しかし、甲第2号証には、図6に示す吸着搬送装置に関して、真空発生電磁弁19に代えて、周知の技術的事項に係る制御弁を採用することの開示や示唆はないから、甲第2号証記載の発明において、真空発生電磁弁19に代えて、大気供給ポートを有する周知の技術的事項に係る制御弁を採用するべき理由はない。

これに対して、請求人は、審判請求書の第38ページ第16行ないし第39ページ第1行において、上記第3.2.エ.に摘示する甲第2号証の段落【0016】、及び上記第3.2.カ.に摘示する段落【0028】には、大気開放による真空破壊の開示があるから、甲第2号証記載の発明においても、大気開放による真空破壊をすることは当然に予定していることであり、大気開放による真空破壊をするための構成として、大気供給ポートを有する制御弁は、甲第5ないし6号証に示すように周知であるから、甲第2号証記載の発明の真空発生電磁弁19に代えて、大気供給ポートを有する周知の制御弁を採用することは、当業者にとって、想到することが容易である旨を主張し、さらに、審判請求書の第39ページ第20行ないし第40ページ第1行において、甲第2号証記載の発明に周知の制御弁を採用すれば、その大気供給ポートは、大気を着脱路に供給するだけでなく、「正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する」機能を備えることになる旨、主張しているので、以下に検討する。
甲第2号証の上記段落【0016】及び上記段落【0028】には、真空発生電磁弁19をオフにすると、自然に真空圧が破壊されることについての記載はあるが、当該記載は、図1に示す真空発生器17についての記載であって、上記第3.2.エ.に摘示する段落【0015】を参照すると、真空発生器17は、「エジェクタ」である。
そして、当該「エジェクタ」とは、上記第3.1.エ.に摘示する甲第1号証の「ベンチュリー」や、上記第3.6.ア.ないしイ.に摘示する甲第6号証の「エゼクタ」と同様に、正圧空気を噴射することにより生じる負圧を利用して、真空を発生する装置であって、当該装置は、甲第1号証の「ベンチュリ-」や、甲第6号証の「エゼクタ」と同様に、噴射された正圧空気を排気するための排気装置を有しており、正圧空気の噴射が停止すると、排気装置から、大気圧によって大気が流入して、自然に真空破壊が行われるものであることは、明らかである。
そうすると、上記段落【0028】に記載されている、自然に真空圧が破壊されることは、真空発生器17がエジェクタであることにより、エジェクタが有している排気装置から、大気圧により大気が流入して、自然に真空破壊されることを意味しているといえる。
また、上記段落【0028】には、「上記ステップS5、S6では、真空発生電磁弁19がオフにされて故障解析が行なわれるが、その場合、各配管内の真空は自然に破壊されるので、大気圧に戻るのに時間がかかる。そこで、その時間を減少させるために、正圧を加圧し真空を加圧破壊することが行なわれる。すなわち、ステップS7で真空発生電磁弁19をオンにして真空圧を発生させた後、ステップS8でオフにすると、自然に真空圧は破壊されるが、その時間を減少させるために、ステップS9で真空破壊電磁弁22をオンにして正圧を発生させる。」との記載があり、当該記載は、真空発生電磁弁19がオフにされることにより自然に行われる真空破壊は、大気圧に戻るまでの時間がかかるから、その時間を短縮させるために、真空破壊電磁弁22をオンにして正圧を発生させることを示している。
また、上記第3.2.カ.に摘示する段落【0029】には、「この状態が図5に図示されており、t6で真空発生電磁弁19がオフにされた後、t7で真空破壊電磁弁22をオンにすると、正圧が発生するので、大気圧に戻る傾斜が大きくなる。・・・(後略)」との記載があり、当該記載から、大気圧に戻る傾斜、すなわち、真空を破壊して大気圧に戻す能力は、真空破壊電磁弁22をオンにして正圧を供給することによる真空破壊の方が、傾斜が大きいこと、すなわち能力が優れており、それに対して、真空発生電磁弁19がオフにされることにより大気圧で自然に行われる真空破壊の方が、能力が劣っているといえる。
これらを総合すると、上記段落【0028】ないし【0029】には、図1に示す真空発生電磁弁19がオフにされると、真空発生器17がエジェクタであることにより、エジェクタが有している排気装置から大気圧で大気が流入して、自然に真空破壊されるところ、その真空破壊の能力が劣っており、大気圧に戻るまでの時間がかかるために、その時間を短縮させるように、真空破壊電磁弁22をオンにして正圧を発生させることによる真空破壊を重畳して行うことが示されているといえる。
甲第2号証記載の発明は、エジェクタを有していないから、上記段落【0016】及び上記段落【0028】に記載されているような、大気圧による自然真空破壊が行われることはないし、甲第2号証記載の発明は、真空破壊電磁弁22を有しているから、正圧を発生させることによる真空破壊を行う吸着搬送装置であり、その真空破壊の能力は、自然真空破壊によるものよりも、優れているといわざるをえない。そうすると、正圧を発生させることによる真空破壊を行う甲第2号証記載の発明に、真空破壊の能力に関して劣っている、大気圧による自然真空破壊を重畳して行うように、周知の技術的事項に係る制御弁を採用することは、当業者が容易に想到し得る事項とはいえない。
したがって、請求人が主張するように、甲第2号証の段落【0016】及び段落【0028】に大気開放による真空破壊の開示があるとしても、甲第2号証記載の発明において、大気開放による真空破壊を重畳する理由がない以上、真空発生電磁弁19に代えて、周知の技術的事項に係る制御弁を採用することは、当業者にとって、容易に想到できたものとはいえない。
そして、本件特許発明1は、上記第1.2.(2)オ.で認定したとおり、大気を着脱路に供給すると共に、正圧の一部を大気開放ポートから排気させるように、本件特許発明1に係る真空供給制御弁を採用しているところ、甲第2号証や、甲第1号証及び甲第3ないし11号証には、「大気に開放され大気を着脱路に供給するとともに正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポートを有」するような制御弁について、開示も示唆もない。
したがって、大気を着脱路に供給すると共に、正圧空気の一部を大気開放ポートから排気させるように、甲第2号証記載の発明に、相違点4に係る真空供給制御弁を採用する理由はない。
以上から、甲第2号証記載の発明において、真空発生電磁弁19に代えて、周知の技術的事項に係る制御弁を採用することは、当業者にとって、容易に想到できたものとはいえないし、甲第2号証記載の発明において、相違点4に係る真空供給制御弁を採用することは、当業者にとって、容易に想到できたものとはいえない。

ウ.相違点5についての判断
当該相違点5は、相違点4に係る真空供給制御弁が存在することを前提とするものであるところ、上記イ.で説示したとおり、甲第2号証記載の発明において、真空発生電磁弁19に代えて、周知の技術的事項に係る制御弁を採用するべき理由はないし、大気を着脱路に供給すると共に、正圧の一部を大気開放ポートから排気させるように、本件特許発明1に係る真空供給制御弁を採用する理由もないから、相違点5に係る構成についても、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

エ.甲第2号証記載の発明に基づく理由のむすび
上記イ.ないしウ.に説示したとおりであるから、本件特許発明1は、甲第2号証記載の発明及び甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。


(3)本件特許発明1と甲第3号証記載の第1発明との対比及び判断

ア.本件特許発明1と甲第3号証記載の第1発明との一致点及び相違点
甲第3号証記載の第1発明の「上下動するピストンロッド34」が、本件特許発明1の「上下動部材」に相当し、「吸着具26」が「吸着具」に相当し、「電子部品W」が「ワーク」に相当し、「電子部品Wを吸着させて電子部品Wを搬送する吸着搬送装置」が「ワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置」に相当することは、明らかである。
また、甲第3号証記載の第1発明の「正圧源」が本件特許発明1の「正圧源」に相当し、「給気路36d」が「正圧流路」に相当し、「正圧供給ポート」が「正圧供給ポート」に相当し、「吸着具26の真空ホース27」が「吸着具の着脱路」に相当し、「出力ポート」が「出力ポート」に相当し、「真空破壊用の電磁弁56」が「真空破壊制御弁」に相当することは、明らかである。
そして、甲第3号証記載の第1発明において、「正圧源からの正圧空気を真空ホース27に連通させて電子部品Wの吸着を停止する際に、エジェクタ作動用の電磁弁54の第2のポートを第1のポートから遮断し、真空破壊用の電磁弁56の正圧供給ポートを出力ポートに連通させる」ことは、「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させる」という点で、本件特許発明1において、「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと前記着脱路に連通させること」と共通する。
以上から、本件特許発明1と甲第3号証記載の第1発明とは、以下の一致点Cの点で一致し、相違点6ないし7の点で相違する。

<一致点C>
「上下動部材の先端に設けられた吸着具の吸着面にワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置であって、
正圧源に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、および前記吸着具の着脱路に連通する出力ポートを有し、前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する真空破壊制御弁を有し、
前記正圧源からの正圧空気を前記着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、前記真空破壊制御弁の前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させる吸着搬送装置。」である点。

<相違点6>
本件特許発明1は、「真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、着脱路に連通する真空ポート、及び大気に開放され大気を前記着脱路に供給するとともに正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポートを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを前記大気開放ポートに連通させる状態とに作動する真空供給制御弁」を備えるのに対して、甲第3号証記載の第1発明は、そのような真空供給制御弁を備えていない点。

<相違点7>
正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、本件特許発明1では、「真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと着脱路に連通させる」のに対して、甲第3号証記載の第1発明では、真空供給制御弁を有していないから、そのような連通を行っていない点。

イ.相違点6についての判断
甲第3号証記載の第1発明の吸着搬送装置は、本件特許発明1と同様に、真空を利用して吸着具の吸着面にワークを吸着させる装置ではあるが、真空を供給する手段としてエジェクタを採用しているため、本件特許発明1のような「真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート」を有する真空供給制御弁を備えていない。
そして、甲第3号証には、真空を供給する手段として、エジェクタに代えて、真空ポンプのような真空源を採用することの記載や示唆はないから、甲第3号証記載の第1発明のエジェクタに代えて真空源を採用する理由がなく、真空源を有していない以上、本件特許発明1のような「真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート」を有する真空供給弁を設ける理由もない。

これに対して、請求人は、審判請求書の第42ページ第4ないし10行において、真空供給手段として、エジェクタを利用したタイプと、真空ポンプを利用したタイプとがあり、これを適宜選択して使用し得ることは、上記第3.6.イ.ないしウ.に摘示する甲第6号証や、上記第3.1.カ.に摘示する甲第1号証、及び上記第3.2.キ.に摘示する甲第2号証に示すように周知の技術的事項であるから、甲第3号証記載の第1発明のエジェクタに代えて、真空ポンプのような真空源を採用することが、当業者にとって容易である旨、主張している。
そこで、当該主張について検討すると、甲第3号証には、上記第3.3.イ.に摘示する段落【0008】に、「本発明の目的は、電子部品を吸着して搬送するようにした吸着搬送装置における吸着搬送器の軽量化を可能とすることにある。」と記載され、また、上記第3.3.ア.に摘示する請求項1の末尾に「・・・・・(前略)前記それぞれの吸着搬送器における前記給気ポートから供給された圧縮空気を前記空気圧シリンダと前記エジェクタの前記ノズルと前記真空破壊路とに共通に案内するようにしたことを特徴とする電子部品の吸着搬送装置。」と記載され、さらに、上記第3.3.キ.に摘示する段落【0038】に、「各々の吸着搬送器25は空気圧シリンダ31の空気圧室37a,37bと、ディフューザ46とノズル47とからなるエジェクタと、真空破壊路58とに対して1つの共通の給気ポート35から分配して供給することができるので、それぞれに空気を供給するためのホースを這い回すことなく、全体的にコンパクトかつ軽量の吸着搬送器25とすることができる。したがって、これらをたとえば、8つ積層して1つの吸着搬送ユニット24としても、その重量を大きくすることなく、搬送ヘッド16を迅速に移動させることができる。」と記載されている。
これらの記載を考慮すると、甲第3号証には、吸着搬送器の軽量化を可能とすることを目的とし、当該目的を達成するために、「給気ポートから供給された圧縮空気を空気圧シリンダとエジェクタのノズルと真空破壊路とに共通に案内する」ことが示されているといえる。
そして、請求人の主張のとおりに、甲第3号証記載の第1発明のエジェクタに代えて、真空ポンプのような真空源を採用するならば、圧縮空気をエジェクタのノズルと真空破壊路とに共通に案内することにはならないから、吸着搬送器の軽量化、すなわち、甲第3号証に記載された目的に反することになる。
したがって、真空供給手段として、エジェクタを利用したタイプと、真空ポンプを利用したタイプとがあり、これを適宜選択して使用し得ることは、甲第6号証や甲第1ないし2号証に示すように周知の技術的事項であるとしても、甲第3号証に記載されている目的に反する以上、甲第3号証記載の第1発明のエジェクタに代えて、真空ポンプのような真空源を採用することは、当業者にとって想到することが容易であるとはいえない。
そして、甲第3号証記載の第1発明のエジェクタに代えて真空源を採用する理由がない以上、本件特許発明1のような「真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート」を有する真空供給制御弁を設ける理由もない。
したがって、甲第3号証記載の第1発明の着搬送装置に、相違点6に係る真空供給制御弁を採用することは、当業者にとって容易に想到できた事項とはいえない。

なお、仮に、甲第3号証記載の第1発明のエジェクタに代えて真空源を採用することが、当業者にとって容易に想到できたとしても、甲第3号証記載の第1発明に甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に係る制御弁を採用する理由はないし、甲第3号証記載の第1発明に本件特許発明1に係る真空供給制御弁を採用する理由もない。
すなわち、甲第3号証記載の第1発明は、真空破壊制御弁を有しており、正圧を発生させることによる真空破壊を行う吸着搬送装置であるから、大気開放による真空破壊を重畳する理由がなく、大気開放による真空破壊を重畳する理由がない以上、大気供給ポートを有する周知の制御弁を採用することは、当業者にとって、容易に想到できたものとはいえない。また、甲第1号証ないし2号証や、甲第4号証ないし11号証のいずれの文献にも、「大気に開放され大気を着脱路に供給するとともに正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポートを有」するような制御弁について、開示も示唆もないから、甲第3号証記載の第1発明の吸着搬送装置に、相違点6に係る真空供給制御弁を採用することは、当業者にとって容易に想到できた事項とはいえない。

ウ.相違点7についての判断
当該相違点7は、相違点6に係る真空供給制御弁が存在することを前提とするものであるところ、上記イ.で説示したとおり、甲第3号証記載の第1発明において、真空供給制御弁を設ける理由はないから、相違点7に係る構成についても、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

エ.甲第3号証記載の発明に基づく理由のむすび
上記イ.ないしウ.に説示したとおりであるから、本件特許発明1は、甲第3号証記載の発明及び甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。


(4)本件特許発明1と甲第4号証記載の発明との対比

ア.本件特許発明1と甲第4号証記載の発明との一致点及び相違点
甲第4号証記載の発明の「上下動部材」が、本件特許発明1の「上下動部材」に相当し、「吸着ヘッド1」が「吸着具」に相当し、「半田ボール2」が「ワーク」に相当し、「半田ボール2を吸着させて半田ボール2を搬送する半田ボールマウント装置」が「ワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置」に相当することは、明らかである。
また、甲第4号証記載の発明の「圧縮空気源6」が本件特許発明1の「正圧源」に相当し、「正圧供給ポート」が「正圧供給ポート」に相当することは、明らかである。
また、甲第4号証記載の発明の「真空ポンプ3」が本件特許発明1の「真空源」に相当し、「真空供給ポート」が「真空供給ポート」に相当し、「フレキシブルチューブ5」が「着脱路」に相当し、「真空ポート」が「真空ポート」に相当することは、明らかである。
また、甲第4号証記載の発明の「大気に開放され大気をフレキシブルチューブ5に供給する大気開放ポート」は、「大気に開放され着脱路に大気を供給する大気供給ポート」という点で、本件特許発明1の「大気に開放され大気を着脱路に供給するとともに正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポート」と共通する。
そして、甲第4号証記載の発明の「圧縮空気源6に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、および正圧を出力する正圧出力ポートを有し、前記正圧供給ポートを前記正圧出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する切替弁7」、「真空ポンプ3に真空流路を介して連通する真空供給ポートと、吸着ヘッド1のフレキシブルチューブ5に連通する真空ポートと、切替弁7の正圧出力ポートに連通する正圧入力ポートとを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを前記正圧入力ポートに連通させる状態とに作動する真空破壊弁4」、及び、「大気に開放され大気をフレキシブルチューブ5に供給する大気開放ポートと、前記フレキシブルチューブ5に連通するポートを有し、前記大気開放ポートを前記フレキシブルチューブ5に連通するポートに連通させる状態と前記大気開放ポートを遮断する状態とに作動する大気開放弁8」は、「正圧流路を介して正圧源に連通する正圧供給ポート、吸着具の着脱路に連通する真空ポート、真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、及び大気に開放され着脱路に大気を供給する大気供給ポートを有し、真空破壊や、真空供給及び大気供給の機能を奏する複数の弁」という点で、本件特許発明1の「正圧源に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、および吸着具の着脱路に連通する出力ポートを有し、前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する真空破壊制御弁」、及び、「真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、着脱路に連通する真空ポート、および大気に開放され大気を前記着脱路に供給するとともに正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポートを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを前記大気開放ポートに連通させる状態とに作動する真空供給制御弁」と共通する。
また、甲第4号証記載の発明において「圧縮空気源6からの正圧空気をフレキシブルチューブ5に連通させて半田ボール2の吸着を停止する際に、大気開放弁8の大気開放ポートをフレキシブルチューブ5に連通するポートに連通させて、吸着ヘッド1に連通させ、切替弁7の正圧供給ポートを正圧出力ポートに連通させ、真空破壊弁4の真空ポートを正圧入力ポートに連通させることにより、前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと前記フレキシブルチューブ5に連通させる」ことは、「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、大気供給ポートを正圧供給ポートと着脱路に連通させる」という点で、本件特許発明1において「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと前記着脱路に連通させること」と共通する。
以上から、本件特許発明1と甲第4号証記載の発明とは、以下の一致点Dの点で一致し、相違点8ないし9の点で相違する。

<一致点D>
「上下動部材の先端に設けられた吸着具の吸着面にワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置であって、
正圧流路を介して正圧源に連通する正圧供給ポート、吸着具の着脱路に連通する真空ポート、真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、及び大気に開放され着脱路に大気を供給する大気供給ポートを有し、真空破壊や、真空供給及び大気開放の機能を奏する複数の弁を有し、
前記正圧源からの正圧空気を前記着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、大気供給ポートを正圧供給ポートと着脱路に連通させる吸着搬送装置。」である点。

<相違点8>
「正圧流路を介して正圧源に連通する正圧供給ポート、吸着具の着脱路に連通する真空ポート、真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、及び大気に開放され着脱路に大気を供給する大気供給ポートを有し、真空破壊や、真空供給及び大気開放の機能を奏する複数の弁」が、本件特許発明1では、「正圧源に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、および吸着具の着脱路に連通する出力ポートを有し、正圧供給ポートを出力ポートに連通させる状態と正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する真空破壊制御弁」、及び、「真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、着脱路に連通する真空ポート、および大気に開放され大気を前記着脱路に供給するとともに正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポートを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを前記大気開放ポートに連通させる状態とに作動する真空供給制御弁」であるのに対して、甲第4号証記載の発明では、「圧縮空気源6に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、及び正圧を出力する正圧出力ポートを有し、前記正圧供給ポートを前記正圧出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する切替弁7」、「真空ポンプ3に真空流路を介して連通する真空供給ポートと、吸着ヘッド1のフレキシブルチューブ5に連通する真空ポートと、切替弁7の正圧出力ポートに連通する正圧入力ポートとを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを前記正圧入力ポートに連通させる状態とに作動する真空破壊弁4」、及び、「大気に開放され大気をフレキシブルチューブ5に供給する大気開放ポートと、前記フレキシブルチューブ5に連通するポートを有し、前記大気開放ポートを前記フレキシブルチューブ5に連通するポートに連通させる状態と前記大気開放ポートを遮断する状態とに作動する大気開放弁8」である点。

<相違点9>
「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、大気供給ポートを正圧供給ポートと着脱路に連通させる」にあたり、本件特許発明1では、「真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと着脱路に連通させる」ものであるのに対して、甲第4号証記載の発明では、「大気開放弁8の大気開放ポートをフレキシブルチューブ5に連通するポートに連通させて、吸着ヘッド1に連通させ、切替弁7の正圧供給ポートを正圧出力ポートに連通させ、真空破壊弁4の真空ポートを正圧入力ポートに連通させることにより、前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと前記フレキシブルチューブ5に連通させる」ものである点。

イ.相違点8についての判断
甲第4号証記載の発明は、切替弁7、真空破壊弁4及び大気開放弁8という3つの弁が、相互に関連することで、真空破壊や、真空供給及び大気開放の機能が奏されている。
これに対して、本件特許発明1は、真空破壊制御弁及び真空供給制御弁という2つの弁が、相互に関連することで、真空破壊や、真空供給及び大気開放の機能が奏されている。
請求人は、審判請求書第44ページ第5行ないし第46ページ第13行において、真空破壊用の切換弁と真空供給用の切換弁とを並列に接続することが、上記第3.2.ケ.に摘示する甲第2号証の図6や、上記第3.7.オ.に摘示する甲第7号証記載の技術的事項に示すように公知であり、また、甲第5ないし6号証に示すように、大気供給ポートを有する制御弁が周知であり、さらに、1つの3ポート弁に代えて、2つの2ポート弁を用いることが、上記第3.11.イ.に摘示する甲第11号証記載の技術的事項に示すように周知であることを理由に、甲第4号証記載の発明の、切替弁7、真空破壊弁4及び大気開放弁8という相互に関連する3つの弁を、本件特許発明1に係る真空破壊制御弁及び真空供給制御弁という相互に関連する2つの弁に置き換えることが、当業者にとって容易である旨、主張している。
しかし、甲第4号証には、切替弁7、真空破壊弁4及び大気開放弁8という相互に関連する3つの弁を、本件特許発明1に係る真空破壊制御弁及び真空供給制御弁という相互に関連する2つの弁に置き換えることについて、記載も示唆もない。
また、甲第1ないし3号証や、甲第5ないし11号証のいずれの文献にも、真空破壊や、真空供給及び大気開放の機能を奏する相互に関連する3つの弁を、同様の機能を奏する相互に関連する2つの弁に置き換えることについて、開示も示唆もない。
したがって、甲第4号証記載の発明において、切替弁7、真空破壊弁4及び大気開放弁8という相互に関連する3つの弁を、相違点8に係る真空破壊制御弁及び真空供給制御弁という相互に関連する2つの弁に置き換えることは、当業者にとって容易に想到できた事項とはいえない。

ウ.相違点9についての判断
当該相違点は、相違点8に係る真空供給制御弁が存在することを前提とするものであるところ、上記イ.で説示したとおり、甲第4号証記載の発明において、真空供給制御弁を設けることは、当業者にとって、想到することが容易であるとはいえないから、相違点9に係る構成についても、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

エ.甲第4号証記載の発明に基づく理由のむすび
上記イ.ないしウ.に説示したとおりであるから、本件特許発明1は、甲第4号証記載の発明、甲第2及び7号証に示す周知の技術的事項、甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項、並びに甲第11号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。


(5)本件特許発明1と甲第7号証記載の発明との対比

上記(1)ないし(4)に説示するように、本件特許発明1は、甲第1ないし4号証記載の発明に基づく、請求人主張の理由によっては、当業者が容易に想到できたものとはいえないから、さらに進んで、甲第7号証記載の発明に基づく理由についても、一応検討する。

ア.本件特許発明1と甲第7号証記載の発明との一致点及び相違点
甲第7号証記載の発明の「上下動するケース15」が、本件特許発明1の「上下動部材」に相当し、「吸着ヘッド21」が「吸着具」に相当し、「吸着孔23」が「吸着面」に相当し、「導電性ボール1」が「ワーク」に相当し、「導電性ボール1を吸着させて導電性ボール1を移動させる搭載装置」が「ワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置」に相当することは、明らかである。
また、甲第7号証記載の発明の「高圧空気供給部28」が本件特許発明1の「正圧源」に相当し、「正圧供給ポート」が「正圧供給ポート」に相当し、「吸着ヘッド21の配管26、27」が「吸着具の着脱路」に相当し、「出力ポート」が「出力ポート」に相当し、「第2の弁29」が「真空破壊制御弁」に相当することは、明らかである。
また、甲第7号証記載の発明の「吸引部24」が本件特許発明1の「真空源」に相当し、「真空供給ポート」が「真空供給ポート」に相当し、「真空ポート」が「真空ポート」に相当することは、明らかである。
また、甲第7号証記載の発明の「外部連通ポート」は、「大気に連通する大気連通ポート」という点で、本件発明1の「大気開放ポート」と共通する。
そして、甲第7号証記載の発明の「吸引部24に真空流路を介して連通する真空供給ポート、及び前記配管26、27に連通する真空ポートを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを遮断する状態とに作動する第1の弁25」、及び、「外部に連通し吸着ヘッド21の内圧を低下させる外部連通ポート、及び前記配管27に連通するポートを有し、前記配管27に連通するポートを、前記外部連通ポートに連通させる状態と、前記配管27に連通するポートを遮断する状態とに作動する第3の弁30」は、「真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、着脱路に連通する真空ポート、及び大気に連通する大気連通ポートを有する流路制御手段」という点で、本件特許発明1の「真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、着脱路に連通する真空ポート、および大気に開放され大気を前記着脱路に供給するとともに正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポートを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを前記大気開放ポートに連通させる状態とに作動する真空供給制御弁」と共通する。
さらに、甲第7号証記載の発明において、「高圧空気供給部28からの正圧空気を配管26、27に連通させて導電性ボール1の吸着を停止する際に、タイミングt6において、第1の弁25の真空ポートを遮断し、前記タイミングt6において、第2の弁29の正圧供給ポートを出力ポートに連通させ、タイミングt7において、第3の弁30の前記配管27に連通するポートを、外部連通ポートに連通させることにより、前記吸着ヘッド21の内圧を低下させる」ことは、「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、大気連通ポートを正圧供給ポートと着脱路に連通させる」という点で、本件特許発明1において「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと前記着脱路に連通させること」と共通する。
以上から、本件特許発明1と甲第7号証記載の発明とは、以下の一致点Eの点で一致し、相違点10ないし11の点で相違する。

<一致点E>
「上下動部材の先端に設けられた吸着具の吸着面にワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置であって、
正圧源に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、および前記吸着具の着脱路に連通する出力ポートを有し、前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する真空破壊制御弁と、
真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、前記着脱路に連通する真空ポート、及び大気に連通する大気連通ポートを有する流路制御手段とを有し、
前記正圧源からの正圧空気を前記着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、前記大気連通ポートを前記正圧供給ポートと前記着脱路に連通させる吸着搬送装置。」

<相違点10>
「真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、着脱路に連通する真空ポート、及び大気に連通する大気連通ポートを有する流路制御手段」が、本件特許発明1では、「真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、着脱路に連通する真空ポート、および大気に開放され大気を前記着脱路に供給するとともに正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポートを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを前記大気開放ポートに連通させる状態とに作動する真空供給制御弁」という1つの弁であるのに対して、甲第7号証記載の発明では、「吸引部24に真空流路を介して連通する真空供給ポート、及び前記配管26、27に連通する真空ポートを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを遮断する状態とに作動する第1の弁25」、及び、「外部に連通し吸着ヘッド21の内圧を低下させる外部連通ポート、及び前記配管27に連通するポートを有し、前記配管27に連通するポートを、前記外部連通ポートに連通させる状態と、前記配管27に連通するポートを遮断する状態とに作動する第3の弁30」という2つの弁である点。

<相違点11>
「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、大気連通ポートを正圧供給ポートと着脱路に連通させる」にあたり、本件特許発明1では、「真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと着脱路に連通させる」のに対して、甲第7号証記載の発明では、「タイミングt6において、第1の弁25の真空ポートを遮断し、前記タイミングt6において、第2の弁29の正圧供給ポートを出力ポートに連通させ、タイミングt7において、第3の弁30の配管27に連通するポートを、外部連通ポートに連通させることにより、吸着ヘッド21の内圧を低下させる」点。

イ.相違点10についての判断
本件特許発明1は、真空供給ポート、着脱路に連通する真空ポート、および大気に開放され大気を前記着脱路に供給するとともに正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポートが、真空供給制御弁という1つの弁、すなわち3ポート弁に設けられているのに対して、甲第7号証記載の発明は、真空供給ポート、及び真空ポートを有する第1の弁25と、外部連通ポート、及び前記配管27に連通するポートを有する第3の弁30という2つの弁、すなわち2ポート弁2つが、相互に関連するように構成されている。
そして、上記第4.1.(1)ウ.(ア)に説示するように、「真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、着脱路に連通する真空ポート、及び大気に開放され大気を着脱路に供給する大気供給ポートを有し、真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態と真空ポートを大気供給ポートに連通させる状態とに作動する制御弁」、すなわち3ポートの制御弁は、周知の技術的事項である。
さらに、1つの3ポート弁を、2つの2ポート弁に置換可能であることは、上記第3.11.イ.に摘示する甲第11号証記載の技術的事項に示されている。
そこで、甲第7号証記載の発明の第1の弁25及び第3の弁30に代えて、周知の技術的事項である制御弁を設けることが、当業者にとって容易に想到できた事項であるかどうかについて検討する。
上記第3.7.イ.に摘示する甲第7号証の段落【0019】には、「次に、タイミング6で第1の弁25を閉じることにより、吸引部24による真空吸引を中止するとともに、第2の弁29を開いて高圧空気供給部28から空間22に空気が送られる。・・・(中略)・・・次にタイミングt7で、第3の弁30およびまたは第4の弁31を開く。」と記載されているように、甲第7号証記載の発明の第1の弁25の真空ポートを遮断するタイミングt6と、第3の弁30の外部連通ポートを連通するタイミングt7とは、同じではなく、タイミングt7は、タイミングt6よりも遅れた時刻となっている。
そして、上記段落【0019】の「・・・(中略)・・・すると空間22は外部と連通して外部の空気は空間22内に瞬間的に導入され、空間22の内圧は正圧から大気圧へ急激に低下する(タイミングt8)。また、タイミングt6?t8の間は、正圧となった空間22から吹き出す空気によって導電性ボール1が吹き飛ばされないようにするために吸着ヘッド21を下降させたままにしておき、吸引孔23で導電性ボール1が移動しないようにその位置を規制しておく。」という記載(なお付言すると、上記第3.7.カ.(ア)で説示するように、当該記載における「外部の空気は空間22内に瞬間的に導入され」という記載事項は、誤記である。)をさらに参照すると、タイミングt7において第3の弁30の外部連通ポートを連通する理由は、タイミングt7で吸着ヘッド21の空間22の圧力が正圧となることにより真空が破壊され、その正圧空気を、第3の弁30の外部連通ポートを介して大気に排出することであるといえる。
当該段落【0019】の記載によれば、タイミングt7で吸着ヘッド21の空間22の圧力が正圧となることに続いて、その正圧空気を第3の弁30の外部連通ポートを介して大気に排出することを理解できるから、当該記載に接した当業者が、タイミングt7よりも早いタイミングt6、すなわち吸着ヘッド21の空間22の圧力が負圧である時刻において、第3の弁30の外部連通ポートを連通するように想定することはない。
そして、甲第7号証記載の発明の第1の弁25及び第3の弁30に代えて、周知の技術的事項である制御弁を設けるとすれば、真空ポートを遮断するタイミングt6と外部連通ポートを連通するタイミングt7とが、同じ時刻とならざるを得ないところ、上記段落【0019】の記載に接した当業者であれば、真空ポートを遮断するタイミングt6と、外部連通ポートを連通するタイミングt7とを、同時刻とすることを想定する理由がなく、真空ポートを遮断することと、外部連通ポートを連通することとを同時刻とする理由がない以上、第1の弁25及び第3の弁30に代えて、周知の技術的事項である3ポートの制御弁を採用する理由はない。
以上から、甲第7号証記載の発明において、第1の弁25及び第3の弁30に代えて、周知の技術的事項である3ポートの制御弁を採用することは、当業者が容易に想到できた事項とはいえない。
また、甲第1号証ないし6号証や、甲第8号証ないし11号証のいずれの文献にも、「大気に開放され大気を着脱路に供給するとともに正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポートを有」するような制御弁について、開示も示唆もない以上、甲第7号証記載の発明に、相違点10に係る真空供給制御弁を採用することは、当業者にとって容易に想到できた事項とはいえない。

ウ.相違点11についての判断
当該相違点11は、相違点10に係る真空供給制御弁が存在することを前提とするものであるところ、上記イ.で説示したとおり、甲第7号証記載の発明において、第1の弁25及び第3の弁30に代えて、周知の技術的事項である制御弁や、本件特許発明1に係る真空供給制御弁を採用することは、当業者が容易に想到できた事項とはいえないから、相違点11に係る構成についても、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

エ.甲第7号証記載の発明に基づく理由のむすび
上記イ.ないしウ.に説示したとおりであるから、本件特許発明1は、甲第7号証記載の発明及び甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。


(6)本件特許発明1についてのむすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲第1号証記載の発明及び甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえないし、甲第2号証記載の発明及び甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえないし、甲第3号証記載の発明及び甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえないし、甲第4号証記載の発明、甲第2及び7号証に示す周知の技術的事項、甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項、並びに甲第11号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえないうえに、甲第7号証記載の発明及び甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。


2.本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用する発明であるところ、上記のとおり、本件特許発明1は、甲第1ないし4号証、及び甲第7号証記載の、いずれの発明に基づいても、当業者が容易に想到できたものとはいえないから、本件特許発明2についても、甲第1ないし4号証、及び甲第7号証記載の、いずれの発明に基づいても、当業者が容易に想到できたものとはいえない。


3.本件特許発明3について

(1)本件特許発明3と甲第1号証記載の発明との対比及び判断

ア.本件特許発明3と甲第1号証記載の発明との一致点及び相違点
甲第1号証記載の発明の「上下方向に揺動するアーム6」が、本件特許発明3の「上下動部材」に相当し、「バキュームパッド17」が「吸着具」に相当し、「グロメットW」が「ワーク」に相当することは、明らかである。また、甲第1号証記載の発明の「グロメットWを吸着させてグロメットWを搬送する吸着装置」は、グロメットW、すなわちワークを吸着するために流路を切り換える装置を含んでいるといえるから、「ワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換装置」という点で、本件特許発明3の「ワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換ユニット」と共通する。
また、甲第1号証記載の発明の「加圧空気供給源31」が本件特許発明3の「正圧源」に相当することは、明らかであるし、甲第1号証記載の発明の「正圧供給ポート」は、「正圧供給流路が存在」するという点で、本件特許発明3の「正圧供給ポート」と共通する。そして、甲第1号証記載の発明において「管路39、破壊バルブ35及び管路41を介して前記バキュームパッド17の管路38に連通する」ことは、本件特許発明3において「吸着具の着脱路に連通する」ことに相当するから、甲第1号証記載の発明の「出力ポート」は、「出力流路が存在」するという点で、本件特許発明3の「出力ポート」と共通する。
また、甲第1号証記載の発明の「正圧供給ポートを出力ポートに連通させる状態と、正圧供給ポートを管路37に連通させる状態とに作動する切換弁32」は、「正圧供給流路を出力流路に連通する状態に作動する制御弁」という点で、本件特許発明3の「流路ブロックに設けられ、正圧供給ポートを出力ポートに連通させる状態と正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する真空破壊制御弁」と共通する。
そして、甲第1号証記載の発明において、「正圧源からの正圧空気を管路38に連通させてグロメットWの吸着を停止する際に、切換弁32の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、排気装置34を正圧供給ポートと管路38に同時に連通させる」ことは、「正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、正圧供給流路を出力流路に連通する」という点で、本件特許発明3において、「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、前記出力ポートと前記真空ポートとを連通させて流路ブロックに形成された流路を介して前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと着脱路とに連通させること」と共通する。
以上から、本件特許発明3と甲第1号証記載の発明とは、以下の一致点Fの点で一致し、相違点12ないし16の点で相違する。

<一致点F>
「上下動部材の先端に設けられた吸着具の吸着面にワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換装置であって、
正圧源に正圧流路を介して連通する正圧供給流路が存在し、吸着具の着脱路に連通する出力流路が存在しており、
前記正圧供給流路を前記出力流路に連通する状態に作動する制御弁を有し、
正圧空気を前記着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、前記正圧供給流路を前記出力流路に連通する流路切換装置。」である点。

<相違点12>
本件特許発明3は、「ワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換ユニット」であるのに対して、甲第1号証記載の発明は、「グロメットWを吸着させてグロメットWを搬送する吸着装置」である点。

<相違点13>
本件特許発明3は、「正圧源に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、吸着具の着脱路に連通する出力ポート、真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、前記着脱路に連通する真空ポート、および大気に開放され大気を前記着脱路に供給するとともに前記正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポートが形成された流路ブロック」を有しているのに対して、甲第1号証記載の発明は、そのような流路ブロックを有していない点。

<相違点14>
本件特許発明3の「真空破壊制御弁」は、「流路ブロックに設けられ」ており、流路ブロックのポートの連通や遮断を行うものであるのに対して、甲第1号証記載の発明の「切換弁32」は、流路ブロックに設けられていないから、流路ブロックのポートの連通や遮断を行うものではない点。

<相違点15>
本件特許発明3は、「流路ブロックに設けられ、真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態と真空ポートを大気開放ポートに連通させる状態とに作動する真空供給制御弁」を有しているのに対して、甲第1号証記載の発明は、そのような真空供給制御弁を有していない点。

<相違点16>
正圧源からの正圧空気を前記着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、本件特許発明3は、「真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、出力ポートと真空ポートとを連通させて流路ブロックに形成された流路を介して大気開放ポートを正圧供給ポートと着脱路とに連通させる」のに対して、甲第1号証記載の発明は、「切換弁32の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、排気装置34を正圧供給ポートと管路38に同時に連通させ」ている点。

イ.相違点15についての判断
事案に鑑み、まず相違点15について検討すると、上記1.(1)ウ.(イ)に説示した理由と同様の理由により、甲第1号証記載の発明において、甲第5ないし6号証に示す周知の制御弁を採用することや、本件特許発明3に係る真空供給制御弁を採用することは、当業者にとって、容易に想到できたものとはいえない。

ウ.甲第1号証記載の発明に基づく理由のむすび
上記イ.に示すとおり、甲第1号証記載の発明において、甲第5ないし6号証に示す周知の制御弁を採用することや、本件特許発明3に係る真空供給制御弁を採用することは、当業者にとって、容易に想到できたものとはいえないから、その他の相違点12ないし14、及び相違点16について判断するまでもなく、本件特許発明3は、甲第1号証記載の発明、甲第3及び10号証、甲第2ないし4号証、並びに甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。


(2)本件特許発明3と甲第2号証記載の発明との対比及び判断

ア.本件特許発明3と甲第2号証記載の発明との一致点及び相違点
甲第2号証記載の発明の「上下動するノズル保持部10」が、本件特許発明3の「上下動部材」に相当し、「吸着ノズル11」が「吸着具」に相当し、「部品」が「ワーク」に相当することは、明らかである。また、甲第2号証記載の発明の「部品を吸着させて部品を搬送する部品吸着装置」は、部品、すなわちワークを吸着するために流路を切り換える装置を含んでいるといえるから、「ワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換装置」という点で、本件特許発明3の「ワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換ユニット」と共通する。
また、甲第2号証記載の発明の「エア供給源20」が本件特許発明3の「正圧源」に相当することは、明らかであるし、甲第2号証記載の発明の「正圧供給ポート」は、「正圧供給流路が存在」するという点で、本件特許発明3の「正圧供給ポート」と共通する。また、甲第2号証記載の発明の「吸着ノズル11の管路15」が本件特許発明3の「吸着具の着脱路」に相当することは、明らかであるし、甲第2号証記載の発明の「出力ポート」は、「出力流路が存在」するという点で、本件特許発明3の「出力ポート」と共通する。また、甲第2号証記載の発明の「真空ポンプ30」が本件特許発明3の「真空源」に相当することは、明らかであるし、甲第2号証記載の発明の「真空供給ポート」は、「真空供給流路が存在」するという点で、本件特許発明3の「真空供給ポート」と共通する。さらに、甲第2号証記載の発明の「真空ポート」は、「真空接続流路が存在」するという点で、本件特許発明3の「真空ポート」と共通する。
そして、甲第2号証記載の発明の「正圧供給ポートを出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する真空破壊電磁弁22」は、「正圧供給流路を出力流路に連通させる状態と前記正圧供給流路を遮断する状態とに作動する真空破壊用の制御弁」という点で、本件特許発明3の「流路ブロックに設けられ、正圧供給ポートを出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する真空破壊制御弁」と共通する。
また、甲第2号証記載の発明の「真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態と前記真空供給ポートを遮断する状態とに作動する真空発生電磁弁19」は、「真空接続流路を真空供給流路に連通させる状態に作動する真空用の制御弁」という点で、本件特許発明3の「真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを大気開放ポートに連通させる状態とに作動する真空供給制御弁」と共通する。
そして、甲第2号証記載の発明において、「エア供給源20からの正圧空気を管路15に連通させて部品の吸着を停止する際に、真空発生電磁弁19により真空供給ポートを遮断し、真空破壊電磁弁22の正圧供給ポートを出力ポートに連通させること」は、「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、真空破壊制御弁により、出力流路を正圧供給流路と連通させる」という点で、本件特許発明3において、「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、出力ポートと真空ポートとを連通させて流路ブロックに形成された流路を介して大気開放ポートを正圧供給ポートと着脱路とに連通させること」と共通する。
以上から、本件特許発明3と甲第2号証記載の発明とは、以下の一致点Gの点で一致し、相違点17ないし21の点で相違する。

<一致点G>
「上下動部材の先端に設けられた吸着具の吸着面にワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換装置であって、
正圧源に正圧流路を介して連通する正圧供給流路が存在し、前記吸着具の着脱路に連通する出力流路が存在し、真空源に真空流路を介して連通する真空供給流路が存在し、前記着脱路に連通する真空接続流路が存在しており、
前記正圧供給流路を前記出力流路に連通させる状態と前記正圧供給流路を遮断する状態とに作動する真空破壊用の制御弁と、
前記真空接続流路を前記真空供給流路に連通させる状態に作動する真空用の制御弁とを有し、
正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、真空破壊制御弁により、出力流路を正圧供給流路と連通させる流路切換装置。」である点。

<相違点17>
本件特許発明3は、「ワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換ユニット」であるのに対して、甲第2号証記載の発明は、「部品を吸着させて部品を搬送する部品吸着装置」である点。

<相違点18>
本件特許発明3は、「正圧源に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、吸着具の着脱路に連通する出力ポート、真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、前記着脱路に連通する真空ポート、および大気に開放され大気を前記着脱路に供給するとともに前記正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポートが形成された流路ブロック」を有しているのに対して、甲第2号証記載の発明は、そのような流路ブロックを有していない点。

<相違点19>
本件特許発明3の「真空破壊制御弁」は、「流路ブロックに設けられ」ており、流路ブロックのポートの連通や遮断を行うものであるのに対して、甲第2号証記載の発明の「真空破壊電磁弁22」は、流路ブロックに設けられていないから、流路ブロックのポートの連通や遮断を行うものではない点。

<相違点20>
本件特許発明3の「真空供給制御弁」は、「流路ブロックに設けられ、真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態と真空ポートを大気開放ポートに連通させる状態とに作動する」のに対して、甲第2号証記載の発明の「真空発生電磁弁19」は、流路ブロックに設けられていないから、流路ブロックの真空ポートを流路ブロックの真空供給ポートに連通させる状態に作動しないし、流路ブロックの真空ポートを流路ブロックの大気開放ポートに連通させる状態に作動しない点。

<相違点21>
正圧源からの正圧空気を前記着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、本件特許発明3は、「真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、出力ポートと真空ポートとを連通させて流路ブロックに形成された流路を介して大気開放ポートを正圧供給ポートと着脱路とに連通させる」のに対して、甲第2号証記載の発明は、「真空発生電磁弁19により真空供給ポートを遮断し、真空破壊電磁弁22の正圧供給ポートを出力ポートに連通させる」点。

イ.相違点20についての判断
事案に鑑み、まず相違点20について検討すると、上記1.(2)イ.に説示した理由と同様の理由により、甲第2号証記載の発明において、甲第5ないし6号証に示す周知の制御弁を採用することや、本件特許発明3に係る真空供給制御弁を採用することは、当業者にとって、容易に想到できたものとはいえない。

ウ.甲第2号証記載の発明に基づく理由のむすび
上記イ.に示すとおり、甲第2号証記載の発明において、甲第5ないし6号証に示す周知の制御弁を採用することや、本件特許発明3に係る真空供給制御弁を採用することは、当業者にとって、容易に想到できたものとはいえないから、その他の相違点17ないし19、及び相違点21について判断するまでもなく、本件特許発明3は、甲第2号証記載の発明、甲第3及び10号証、並びに甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。


(3)本件特許発明3と甲第3号証記載の第2発明との対比及び判断

ア.本件特許発明3と甲第3号証記載の第2発明との一致点及び相違点
甲第3号証記載の第2発明の「上下動するピストンロッド34」が、本件特許発明3の「上下動部材」に相当し、「吸着具26」が「吸着具」に相当し、「電子部品W」が「ワーク」に相当し、「電子部品Wを吸着させて電子部品Wを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換ユニット」が「ワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換ユニット」に相当することは、明らかである。
また、甲第3号証記載の第2発明の「真空発生ブロック32」、「流路ブロック52」、「弁ブロック55」、及び「弁ブロック53」は、流路を構成するブロックであるから、本件特許発明3の「流路ブロック」に相当し、甲第3号証記載の第2発明の「真空発生ブロック32」に連通する「正圧源」が、本件特許発明3の「正圧源」に相当し、「正圧流路」が「正圧流路」に相当し、「給気ポート35」が「正圧供給ポート」に相当し、「吸着具26の真空ホース27に連通する真空ポート49」が「吸着具の着脱路に連通する出力ポート」に相当することは、明らかである。また、甲第3号証記載の第2発明の「弁ブロック55」に設けられている「空気供給室57を介して吸着具26の真空ホース27に連通する出力ポート」が、本件特許発明3の「出力ポート」に相当するといえるし、甲第3号証記載の第2発明の「真空発生ブロック32」に設けられている「大気に開放される排気ポート51」は、「大気に開放されるポート」という点で、本件特許発明3の「大気に開放され大気を着脱路に供給するとともに正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポート」と共通する。
また、甲第3号証記載の第2発明の「真空破壊用の電磁弁56」は、「弁ブロック55」すなわち流路ブロックに設けられているうえに、その作動の状態からみて、本件特許発明3の真空破壊制御弁に相当する。
そして、甲第3号証記載の第2発明において、「正圧源からの正圧空気を真空ホース27に連通させて電子部品Wの吸着を停止する際に、エジェクタ作動用の電磁弁54により第2のポートを第1のポートから遮断し、真空破壊用の電磁弁56により給気ポート35を出力ポートに連通させる」ことは、「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、真空破壊制御弁により、正圧供給ポートを出力ポートに連通させる」という点で、本件特許発明3において、「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、出力ポートと真空ポートとを連通させて流路ブロックに形成された流路を介して大気開放ポートを前記供給ポートと着脱路とに連通させること」と共通する。
以上から、本件特許発明3と甲第3号証記載の第2発明とは、以下の一致点Hの点で一致し、相違点22ないし24の点で相違する。

<一致点H>
「上下動部材の先端に設けられた吸着具の吸着面にワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換ユニットであって、
正圧源に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、前記吸着具の着脱路に連通する出力ポート、真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、前記着脱路に連通する真空ポート、および大気に開放されるポートが形成された流路ブロックと、
前記流路ブロックに設けられ、前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する真空破壊制御弁と、
を有し、
正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、真空破壊制御弁により、前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させる流路切換ユニット。」である点。

<相違点22>
「大気に開放されるポート」が、本件特許発明3では、「大気に開放され大気を着脱路に供給するとともに正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポート」であるのに対して、甲第3号証記載の第2発明では、「大気に開放される排気ポート51」である点。

<相違点23>
本件特許発明3の流路切換ユニットは、「流路ブロックに設けられ、真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態と真空ポートを大気開放ポートに連通させる状態とに作動する真空供給制御弁」を有しているのに対して、甲第3号証記載の第2発明は、そのような真空供給制御弁を有していない点。

<相違点24>
正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、本件特許発明3の流路切換ユニットは、「真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、出力ポートと真空ポートとを連通させて流路ブロックに形成された流路を介して大気開放ポートを正圧供給ポートと着脱路とに連通させる」ものであるのに対して、甲第3号証記載の第2発明の流路切換ユニットは、「エジェクタ作動用の電磁弁54により第2のポートを第1のポートから遮断し、真空破壊用の電磁弁56により給気ポート35を出力ポートに連通させる」ものである点。

イ.相違点23についての判断
事案に鑑み、まず相違点23について検討すると、上記1.(3)イ.に説示した理由と同様の理由により、甲第3号証記載の第2発明において、本件特許発明3に係る真空供給制御弁を採用することは、当業者にとって、容易に想到できたものとはいえない。

ウ.甲第3号証記載の第2発明に基づく理由のむすび
上記イ.に示すとおり、甲第3号証記載の第2発明において、本件特許発明3に係る真空供給制御弁を採用することは、当業者にとって、容易に想到できたものとはいえないから、その他の相違点22及び相違点24について判断するまでもなく、本件特許発明3は、甲第3号証記載の第2発明、並びに甲第1ないし2号証、及び甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。


(4)本件特許発明3と甲第4号証記載の発明との対比及び判断

ア.本件特許発明3と甲第4号証記載の発明との一致点及び相違点
甲第4号証記載の発明の「上下動部材」が、本件特許発明3の「上下動部材」に相当し、「吸着ヘッド1」が「吸着具」に相当し、「半田ボール2」が「ワーク」に相当することは、明らかである。また、甲第4号証記載の発明の「半田ボール2を吸着させて半田ボール2を搬送する半田ボールマウント装置」は、半田ボール2、すなわちワークを吸着するために流路を切り換える装置を含んでいるといえるから、「ワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換装置」という点で、本件特許発明3の「ワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換ユニット」と共通する。
また、甲第4号証記載の発明の「圧縮空気源6」が本件特許発明3の「正圧源」に相当することは明らかであるし、甲第4号証記載の発明の「正圧供給ポート」は、「正圧供給流路が存在」するという点で、本件特許発明3の「正圧供給ポート」と共通する。
また、甲第4号証記載の発明の「真空ポンプ3」が本件特許発明3の「真空源」に相当し、「フレキシブルチューブ5」が「着脱路」に相当することは明らかであるし、甲第4号証記載の発明の「真空供給ポート」は、「真空供給流路が存在」するという点で、本件特許発明3の「真空供給ポート」と共通し、「真空ポート」は、「真空接続流路が存在」するという点で、本件特許発明3の「真空ポート」と共通する。
また、甲第4号証記載の発明の「大気開放ポート」は、「着脱路に大気を供給する大気供給流路が存在」するという点で、本件特許発明3の「大気開放ポート」と共通する。
そして、甲第4号証記載の発明の「圧縮空気源6に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、及び正圧を出力する正圧出力ポートを有し、前記正圧供給ポートを前記正圧出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する切替弁7」、「真空ポンプ3に真空流路を介して連通する真空供給ポートと、吸着ヘッド1のフレキシブルチューブ5に連通する真空ポートと、切替弁7の正圧出力ポートに連通する正圧入力ポートとを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを前記正圧入力ポートに連通させる状態とに作動する真空破壊弁4」、及び、「大気に開放され大気をフレキシブルチューブ5に供給する大気開放ポートと、前記フレキシブルチューブ5に連通するポートを有し、前記大気開放ポートを前記フレキシブルチューブ5に連通するポートに連通させる状態と前記大気開放ポートを遮断する状態とに作動する大気開放弁8」は、「真空破壊や、真空供給及び大気開放の機能を奏する複数の弁」という点で、本件特許発明3の「流路ブロックに設けられ、正圧供給ポートを出力ポートに連通させる状態と正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する真空破壊制御弁」、及び、「流路ブロックに設けられ、真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態と真空ポートを大気開放ポートに連通させる状態とに作動する真空供給制御弁」と共通する。
また、甲第4号証記載の発明において「圧縮空気源6からの正圧空気をフレキシブルチューブ5に連通させて半田ボール2の吸着を停止する際に、大気開放弁8の大気開放ポートをフレキシブルチューブ5に連通するポートに連通させて、吸着ヘッド1に連通させ、切替弁7の正圧供給ポートを正圧出力ポートに連通させ、真空破壊弁4の真空ポートを正圧入力ポートに連通させることにより、前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと前記フレキシブルチューブ5に連通させる」ことは、「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、大気供給流路を正圧供給流路と着脱路に連通させる」という点で、本件特許発明3において「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、出力ポートと真空ポートとを連通させて流路ブロックに形成された流路を介して大気開放ポートを正圧供給ポートと着脱路とに連通させること」と共通する。
以上から、本件特許発明3と甲第4号証記載の発明とは、以下の一致点Iの点で一致し、相違点25ないし28の点で相違する。

<一致点I>
「上下動部材の先端に設けられた吸着具の吸着面にワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換装置であって、
正圧源に正圧流路を介して連通する正圧供給流路が存在し、吸着具の着脱路に連通する真空接続流路が存在し、真空源に真空流路を介して連通する真空供給流路が存在し、大気に開放され着脱路に大気を供給する大気供給流路が存在し、
真空破壊や、真空供給及び大気開放の機能を奏する複数の弁を有し、
前記正圧源からの正圧空気を前記着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、大気供給流路を正圧供給流路と着脱路に連通させる吸着搬送装置に使用する流路切換装置。」である点。

<相違点25>
本件特許発明3は、「ワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換ユニット」であるのに対して、甲第4号証記載の発明は、「半田ボール2を吸着させて半田ボール2を搬送する半田ボールマウント装置」である点。

<相違点26>
本件特許発明3は、「正圧源に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、前記吸着具の着脱路に連通する出力ポート、真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、前記着脱路に連通する真空ポート、および大気に開放され大気を前記着脱路に供給するとともに前記正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポートが形成された流路ブロック」を有しているのに対して、甲第4号証記載の発明は、そのような流路ブロックを有していない点。

<相違点27>
「真空破壊や、真空供給及び大気開放の機能を奏する複数の弁」が、本件特許発明3では、「流路ブロックに設けられ、正圧供給ポートを出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する真空破壊制御弁」、及び「流路ブロックに設けられ、真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを大気開放ポートに連通させる状態とに作動する真空供給制御弁」であるのに対して、甲第4号証記載の発明では、「圧縮空気源6に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、及び正圧を出力する正圧出力ポートを有し、前記正圧供給ポートを前記正圧出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する切替弁7」、「真空ポンプ3に真空流路を介して連通する真空供給ポートと、吸着ヘッド1のフレキシブルチューブ5に連通する真空ポートと、切替弁7の正圧出力ポートに連通する正圧入力ポートとを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを前記正圧入力ポートに連通させる状態とに作動する真空破壊弁4」、及び、「大気に開放され大気をフレキシブルチューブ5に供給する大気開放ポートと、前記フレキシブルチューブ5に連通するポートを有し、前記大気開放ポートを前記フレキシブルチューブ5に連通するポートに連通させる状態と前記大気開放ポートを遮断する状態とに作動する大気開放弁8」である点。

<相違点28>
「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、大気供給流路を正圧供給流路と着脱路に連通させる」にあたり、本件特許発明3では、「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、出力ポートと真空ポートとを連通させて流路ブロックに形成された流路を介して前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと前記着脱路とに連通させる」ものであるのに対して、甲第4号証記載の発明では、「圧縮空気源6からの正圧空気をフレキシブルチューブ5に連通させて半田ボール2の吸着を停止する際に、大気開放弁8の大気開放ポートをフレキシブルチューブ5に連通するポートに連通させて、吸着ヘッド1に連通させ、切替弁7の正圧供給ポートを正圧出力ポートに連通させ、真空破壊弁4の真空ポートを正圧入力ポートに連通させることにより、前記大気開放ポートを前記正圧供給ポートと前記フレキシブルチューブ5に連通させる」ものである点。

イ.相違点27についての判断
事案に鑑み、まず相違点27について検討すると、上記1.(4)イ.に説示した理由と同様の理由により、甲第4号証記載の発明において、切替弁7、真空破壊弁4及び大気開放弁8という相互に関連する3つの弁を、本件特許発明3に係る真空破壊制御弁及び真空供給制御弁という相互に関連する2つの弁に置き換えることは、当業者にとって容易に想到できた事項とはいえない。

ウ.甲第4号証記載の発明に基づく理由のむすび
上記イ.に示すとおり、甲第4号証記載の発明において、切替弁7、真空破壊弁4及び大気開放弁8という相互に関連する3つの弁を、本件特許発明3に係る真空破壊制御弁及び真空供給制御弁という相互に関連する2つの弁に置き換えることは、当業者にとって容易に想到できた事項とはいえないから、その他の相違点25ないし26及び相違点28について判断するまでもなく、本件特許発明3は、甲第4号証記載の発明、甲第2及び7号証、甲第3及び10号証、甲第5ないし6号証、並びに甲第11号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。


(5)本件特許発明3と甲第7号証記載の発明との対比及び判断

上記(1)ないし(4)に説示するように、本件特許発明3は、甲第1ないし4号証記載の発明に基づく、請求人主張の理由によっては、当業者が容易に想到できたものとはいえないから、さらに進んで、甲第7号証記載の発明に基づく理由についても、一応検討する。

ア.本件特許発明3と甲第7号証記載の発明との一致点及び相違点
甲第7号証記載の発明の「上下動するケース15」が、本件特許発明3の「上下動部材」に相当し、「吸着ヘッド21」が「吸着具」に相当し、「吸着孔23」が「吸着面」に相当し、「導電性ボール1」が「ワーク」に相当することは、明らかである。また、甲第7号証記載の発明の「導電性ボール1を吸着させて導電性ボール1を移動させる搭載装置」は、導電性ボール1、すなわちワークを吸着するために流路を切り換える装置を含んでいるといえるから、「ワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換装置」という点で、本件特許発明3の「ワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換ユニット」と共通する。
また、甲第7号証記載の発明の「高圧空気供給部28」が本件特許発明3の「正圧源」に相当することは、明らかであるし、甲第7号証記載の発明の「正圧供給ポート」は、「正圧供給流路が存在」するという点で、本件特許発明3の「正圧供給ポート」と共通する。また、甲第7号証記載の発明の「吸着ヘッド21の配管26、27」が本件特許発明3の「吸着具の着脱路」に相当することは、明らかであるし、甲第7号証記載の発明の「出力ポート」は、「出力流路が存在」するという点で、本件特許発明3の「出力ポート」と共通する。また、甲第7号証記載の発明の「吸引部24」が本件特許発明3の「真空源」に相当することは、明らかであるし、甲第7号証記載の発明の「真空供給ポート」は、「真空供給流路が存在」するという点で、本件特許発明3の「真空供給ポート」と共通する。さらに、甲第7号証記載の発明の「真空ポート」は、「真空接続流路が存在」するという点で、本件特許発明3の「真空ポート」と共通するし、甲第7号証記載の発明の「外部連通ポート」は、「大気に連通する大気連通流路が存在」するという点で、本件発明3の「大気開放ポート」と共通する。
そして、甲第7号証記載の発明の「正圧供給ポートを出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する第2の弁29」は、「正圧供給流路を出力流路に連通させる状態と前記正圧供給流路を遮断する状態とに作動する真空破壊用の制御弁」という点で、本件特許発明3の「流路ブロックに設けられ、正圧供給ポートを出力ポートに連通させる状態と前記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する真空破壊制御弁」と共通する。
また、甲第7号証記載の発明の「吸引部24に真空流路を介して連通する真空供給ポート、及び前記配管26、27に連通する真空ポートを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを遮断する状態とに作動する第1の弁25」、及び「外部に連通し吸着ヘッド21の内圧を低下させる外部連通ポート、及び前記配管27に連通するポートを有し、前記配管27に連通するポートを、前記外部連通ポートに連通させる状態と、前記配管27に連通するポートを遮断する状態とに作動する第3の弁30」は、「真空供給流路、真空接続流路、及び大気連通流路を切り換え制御する流路制御手段」という点で、本件特許発明3の「流路ブロックに設けられ、真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態と真空ポートを大気開放ポートに連通させる状態とに作動する真空供給制御弁」と共通する。
そして、甲第7号証記載の発明において、
「高圧空気供給部28からの正圧空気を配管26、27に連通させて導電性ボール1の吸着を停止する際に、タイミングt6において、第1の弁25の真空ポートを遮断し、前記タイミングt6において、第2の弁29の正圧供給ポートを出力ポートに連通させ、タイミングt7において、第3の弁30の前記配管27に連通するポートを、外部連通ポートに連通させることにより、吸着ヘッド21の内圧を低下させる」ことは、「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、大気連通流路を正圧供給流路と着脱路に連通させる」という点で、本件特許発明3において、「正圧源からの正圧空気を着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、出力ポートと真空ポートとを連通させて流路ブロックに形成された流路を介して大気開放ポートを正圧供給ポートと着脱路とに連通させること」と共通する。
以上から、本件特許発明3と甲第7号証記載の発明とは、以下の一致点Jの点で一致し、相違点29ないし33の点で相違する。

<一致点J>
「上下動部材の先端に設けられた吸着具の吸着面にワークを吸着させてワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換装置であって、
正圧源に正圧流路を介して連通する正圧供給流路が存在し、前記吸着具の着脱路に連通する出力流路が存在し、真空源に真空流路を介して連通する真空供給流路が存在し、前記着脱路に連通する真空接続流路が存在し、大気に連通する大気連通流路が存在しており、
前記正圧供給流路を出力流路に連通させる状態と前記正圧供給流路を遮断する状態とに作動する真空破壊用の制御弁と、
前記真空供給流路、前記真空接続流路、及び前記大気連通流路を切り換え制御する流路制御手段とを有し、
前記正圧源からの正圧空気を前記着脱路に連通させて前記ワークの吸着を停止する際に、前記大気連通流路を前記正圧供給流路と前記着脱路に連通させる流路切換装置。」である点。

<相違点29>
本件特許発明3は、「ワークを搬送する吸着搬送装置に使用する流路切換ユニット」であるのに対して、甲第7号証記載の発明は、「導電性ボール1を吸着させて導電性ボール1を移動させる搭載装置」である点。

<相違点30>
本件特許発明3は、「正圧源に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート、吸着具の着脱路に連通する出力ポート、真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート、前記着脱路に連通する真空ポート、および大気に開放され大気を前記着脱路に供給するとともに前記正圧供給ポートからの正圧空気の一部を排出する大気開放ポートが形成された流路ブロック」を有しているのに対して、甲第7号証記載の発明は、そのような流路ブロックを有していない点。

<相違点31>
本件特許発明3の「真空破壊制御弁」は、「流路ブロックに設けられ」ており、流路ブロックのポートの連通や遮断を行うものであるのに対して、甲第7号証記載の発明の「第2の弁29」は、流路ブロックに設けられていないから、流路ブロックのポートの連通や遮断を行うものではない点。

<相違点32>
「真空供給流路、真空接続流路、及び大気連通流路を切り換え制御する流路制御手段」が、本件特許発明3では、「流路ブロックに設けられ、真空ポートを真空供給ポートに連通させる状態と真空ポートを大気開放ポートに連通させる状態とに作動する真空供給制御弁」であるのに対して、甲第7号証記載の発明では、「吸引部24に真空流路を介して連通する真空供給ポート、及び前記配管26、27に連通する真空ポートを有し、前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前記真空ポートを遮断する状態とに作動する第1の弁25」、及び「外部に連通し吸着ヘッド21の内圧を低下させる外部連通ポート、及び前記配管27に連通するポートを有し、前記配管27に連通するポートを、前記外部連通ポートに連通させる状態と、前記配管27に連通するポートを遮断する状態とに作動する第3の弁30」である点。

<相違点33>
正圧源からの正圧空気を前記着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に、本件特許発明3は、「真空供給制御弁の真空ポートを大気開放ポートに連通させ、真空破壊制御弁の正圧供給ポートを出力ポートに連通させることにより、出力ポートと真空ポートとを連通させて流路ブロックに形成された流路を介して大気開放ポートを正圧供給ポートと着脱路とに連通させる」のに対して、甲第7号証記載の発明は、「タイミングt6において、第1の弁25の真空ポートを遮断し、前記タイミングt6において、第2の弁29の正圧供給ポートを出力ポートに連通させ、タイミングt7において、第3の弁30の前記配管27に連通するポートを、外部連通ポートに連通させることにより、前記吸着ヘッド21の内圧を低下させる」点。

イ.相違点32についての判断
事案に鑑み、まず相違点32について検討すると、上記1.(5)イ.に説示した理由と同様の理由により、甲第7号証記載の発明において、第1の弁25及び第3の弁30に代えて、周知の技術的事項である3ポートの制御弁を採用することや、本件特許発明3に係る真空供給制御弁を採用することは、当業者が容易に想到できた事項とはいえない。

ウ.甲第7号証記載の発明に基づく理由のむすび
上記イ.に示すとおり、甲第7号証記載の発明において、第1の弁25及び第3の弁30に代えて、周知の技術的事項である3ポートの制御弁を採用することや、本件特許発明3に係る真空供給制御弁を採用することは、当業者が容易に想到できた事項とはいえないから、その他の相違点29ないし31、及び相違点33について判断するまでもなく、本件特許発明3は、甲第7号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。


(6)本件特許発明3についてのむすび
以上のとおりであるから、本件特許発明3は、甲第1号証記載の発明、甲第3及び10号証、甲第2ないし4号証、並びに甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえないし、甲第2号証記載の発明、甲第3及び10号証、並びに甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえないし、甲第3号証記載の第2発明、並びに甲第1ないし2号証、及び甲第5ないし6号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえないし、甲第4号証記載の発明、甲第2及び7号証、甲第3及び10号証、甲第5ないし6号証、並びに甲第11号証に示す周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえないうえに、甲第7号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。


第5.むすび
上記第4.で判断したとおり、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許発明1ないし3について、特許法第29条第2項の規定により特許を無効とすることはできない。

また、他に、本件特許発明1ないし3を無効とすべき理由を発見しない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する
 
審決日 2012-06-15 
出願番号 特願2000-269677(P2000-269677)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (B25J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松浦 陽佐々木 一浩  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 刈間 宏信
長屋 陽二郎
登録日 2006-10-13 
登録番号 特許第3866025号(P3866025)
発明の名称 吸着搬送装置およびそれに用いる流路切換ユニット  
代理人 山野 明  
代理人 千葉 剛宏  
代理人 大内 秀治  
代理人 青山 仁  
代理人 筒井 章子  
代理人 小塚 善高  
代理人 仲宗根 康晴  
代理人 宮寺 利幸  
代理人 筒井 大和  
代理人 坂井 志郎  

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