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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1271698
審判番号 不服2009-2783  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-06 
確定日 2013-04-03 
事件の表示 平成 9年特許願第506100号「血液製剤中の汚染物質を不活性化する装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 2月 6日国際公開、WO97/03706、平成11年 8月17日国内公表、特表平11-509210〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年7月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1995年7月14日 (BE)ベルギー国)を国際出願日とする出願であって、平成19年4月16日付けの拒絶理由に応答して同年10月24日付けで手続補正がなされ、平成20年2月4日付けの拒絶理由に応答して同年8月12日付けで手続補正がなされたが、その後、同年11月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年2月6日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、平成23年6月27日付けの拒絶理由に応答して同年11月24日受付けで手続補正がなされたものである。

本願の請求項1?8に係る発明は、平成23年11月24日受付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、本願発明という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
物理的処理によって血液製剤のウィルス不活性化を行う装置であって、
Cタイプ紫外線照射源と、
前記血液製剤にCタイプ紫外線を照射するために石英管または前記Cタイプ紫外線を吸収しないポリマー材から成る管と、
前記管内を循環する前記血液製剤の流れを均質化する乱流システムとを備え、
前記管では、薄層状態にない前記血液製剤を処理することによって、前記血液製剤が薄層状態である場合に前記管の固相/液相界面に発生する破壊現象を回避でき、
前記装置がさらに、前記血液製剤に照射される前記Cタイプ紫外線の照射線量を制御するためのシステムを含み、前記血液製剤に230?400ジュール/m^(2)の前記照射線量を照射することを特徴とする血液製剤のウィルス不活性化装置。」

2.引用例の記載事項

引用例A.英国特許出願公開第2200020号明細書
引用例E.特開平6-279297号公報
引用例F.特開昭61-79461号公報

当審の拒絶理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布されたことが明らかな上記引用例A,E,Fには、それぞれ次の事項が記載されている。(引用例Aは英文のため、翻訳文で示す。)

2-1.引用例Aの記載
(a-1)「1.微生物等を含有する体液またはその画分の紫外線照射に用いるのに適した装置であって、該装置は、注入口と流出口と、その間に、実質的に紫外線を透過する壁を有し、壁に沿ってもしくは実質的に近接して少なくとも一つの紫外線照射区域、注入口と流出口の間の通路において紫外線照射区域へ体液かその画分の実質的に全体を移動させるために、通過する液体を完全に混合することを目的として形成もしくは配置した少なくとも一つの混合区域を含む通路を有する管からなり、それによって、装置を使用するときに管を通過する体液かその画分の実質的に全体が、同様に十分な照射レベルに曝されるものである装置。
・・・
7.請求項1に記載の装置であって、管が、注入口と流出口の間において、一般に環状で放射状の外部紫外線照射区域と、少なくとも一つの混合区域を提供するために形成され配置された軸方向に伸びたスタティックフロー混合手段を有する装置。
・・・
10.請求項1?9に記載の装置であって、紫外線を透過する壁が、シリカ、紫外線を透過するガラス、シリコン、セルロース、ポリエチレン、ポリビニルクロリド、そして紫外線を透過するフッ素化ポリアルケンから選択される物質からなる装置。
11.体液またはその画分のリンパ球及び/又は微生物を不活性化する方法であって、請求項1に記載の装置を通過させる間に紫外線で体液またはその画分を照射する工程を含む方法。
12.請求項11に記載の方法であって、体液またはその画分が血液またはその画分である方法。
・・・」(特許請求の範囲)
(a-2)「この発明は、体液とその画分の、選択された成分、例えば、リンパ球とヒトの血液におけるウィルスおよび同類のものを含めた微生物を不活性化するための処置について、特にそのような工程における使用に適した装置に関する。」(1頁2?6行)
(a-3)「この発明は、微生物等を含有する体液またはその画分の紫外線照射に用いるのに適した装置であって、該装置は、注入口と流出口と、その間に、実質的に紫外線を透過する壁を有し、壁に沿ってもしくは実質的に近接して少なくとも一つの紫外線照射区域、注入口と流出口の間の通路において紫外線照射区域へ体液かその画分の実質的に全体を移動させるために、通過する液体を完全に混合することを目的として形成もしくは配置した少なくとも一つの混合区域を含む通路を有する管からなり、それによって、装置を使用するときに管を通過する体液かその画分の実質的に全体が、同様に十分な照射レベルに曝されるものである装置を提供する。」(1頁24行?2頁16行)
(a-4)「この発明の他の好ましい形態では、管は、入口と出口の間に、通常環状の半径方向の外部放射領域の内側に放射状に、スタティックフロー混合手段を有する。
好ましくは、交互に並んだ逆方向に手があるねじ山の部分を有する細長いねじ山部位の形態のスタティックフロー混合手段が使われる。
・・・」(2頁25行?3頁15行)
(a-5)「・・・本発明は、この発明の装置を通過させる間に紫外線で体液またはその画分を照射する工程を含む、体液またはその画分のリンパ球及び/又は微生物を不活性化する方法を提供する。
従って、本発明により、血液や他の体液に含まれるリンパ球や微生物を不活性化するために、単純で経済的な方法で血液や他の体液を処理することが可能である。」(3頁16?25行)
(a-6)「最初に面する壁6は少なくとも上記した紫外線透過性物質から選択されるものからなり、それにより適切な紫外線照射源12からの紫外線照射は、それを通して小さい穴の通路10の内側に透過することができ、それを通過する血流13を照射する。・・・それにもかかわらず、紫外線照射、特に好ましい254nmの波長において、血液細胞による実質的に高い吸収率のために、液体の流れの異なる部分に出来きるだけ遠くまで確実なものとなるように小さい穴の通路内において軸方向の液体の流れを無秩序にし、それによってリンパ球集団全体が不活性化量の紫外線照射にさらされることをできるだけ確実にするために、異なる一連の通路9で小さい穴の通路10の側壁14に近接して混合チャンバ11を設けることが必要である。」(5頁11行?6頁4行)
(a-7)「図4の具体例では、装置は、隣接した端部で混合区域11を提供するように、それぞれ180℃回転して配置された、反対側にねじ山をつけられた交互の部分22,23を有する、細長いねじ山をつけられた部材21の形態のスタティックフロー混合手段を取り付けられた単独の管20の形態である。」(6頁24行?7頁4行)
(a-8)「実施例1-ヒトの血液の処理
・・・
貯蔵バックからの血流(130ml/min)が図1の管を通過し、・・・いくつかのUVC放射蛍光管により照射した。照射チャンバはファンで空冷される。
・・・」(8頁1行?18行)
(a-9)「

」(図4)

2-2.引用例Eの記載
(e-1)「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項4】 濾過フィルター装置と紫外線を照射する装置からなり、タンパクを含む水溶性溶液が濾過フィルター装置で濾過され、濾過された液が紫外線を照射する装置により照射処理されるように配置されていることを特徴とするウィルス感染性除装置法。
【請求項5】 濾過フィルターが平均孔径75nm以下のものである請求項4記載のウィルス感染性除去装置。
【請求項6】 紫外線の最大吸収波長が380nm以下である請求項4または5記載のウィルス感染性除去装置。」(【特許請求の範囲】)
(e-2)「 【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、血漿や血漿分画製剤、あるいは細胞培養培地、バイオ医薬品等のタンパク共存溶液をはじめとする、ウィルスが混入する可能性のある溶液からのウィルス感染性の除去に際し、従来のものに比較して優れた除去性を有するウィルス感染性除去方法およびその装置に関する。」(段落【0001】)
(e-3)「【0003】紫外線照射法は、大部分のウィルスに対して適用が可能であり、薬剤等他の物質の添加を必要としないなどの長所がある・・・」(段落【0003】)
(e-4)「【0011】濾過フィルターを通過してきた濾液を、さらに紫外線照射による不活化処理を行う場合、紫外線の照射条件が一定に制御されていることが望ましい。そこで、濾液の流路にレギュレーターを取り付け、流速が一定値を保つようにした。すなわち、紫外線照射による不活化処理を一定の時間受けるようにした。」(段落【0011】)
(e-5)「【0012】
【実施例】以下、図面にしたがい本発明の実施例について説明する。
(実施例1)本発明の装置は、70cm×70cm×120cmのスチール製の外枠の中に収納されており、内部の概略図を図1に示した。・・・
・・・
【0014】石英チューブ3は厚さ2mmの石英板により構成され、試料溶液は1mm×1mmの正方形の断面を流れるよう設計している。石英チューブから5cmの距離には、254nmに最大吸収波長を有する15wの紫外線ランプ6が、石英チューブ3をはさんで2本取り付けられている。・・・
【0015】図1の4は流量調節バルブであり、そのバルブの開閉の程度により、流速が制御されている。・・・」(段落【0012】?【0015】)
(e-6)「

」(【図1】)

2-3.引用例Fの記載
(f-1)「2.特許請求の範囲
・・・
(2)液体を柱状、層状等にして連続的又は間欠的に流す紫外線透過性の液体導通管と、該導通管内を流れる液体に核酸が特異的に極大吸収する波長の紫外線を照射する紫外線ランプとからなり、前記液体に含まれる細菌類、ウィルス等の微生物を死滅させることを特徴とする液体の殺菌装置。
・・・」(【特許請求の範囲】)
(f-2)「(発明の構成)
本発明では、殺菌すべき液体を柱状又は膜状にして連続的あるいは間欠的に流し、これに紫外線を照射するが、ここで使用する紫外線は核酸が特異的に極大吸収する波長の紫外線であることに最も大きな特徴を有する。即ち、核酸は紫外線を強く吸収するが、波長260nm付近にその極大値を有する。従ってこの波長の紫外線を細菌類等の微生物に照射すると、細胞内のDNA(デオキシリボ核酸)に損傷を与え、そのため遺伝情報が破壊されて微生物は容易に死滅する。紫外線の照射時間もわずか数秒でよいから液体そのものの変性はない。」(2頁右上欄13行?左下欄5行)
(f-3)「第3図は、本発明の第3の実施例を示したものである。この例では、液体導通管6に複数の穴7を設け、この穴に紫外線ランプ8を挿入してある。9はランプの電源、10は紫外線強度を検知する紫外線センサ、11はセンサ10からの検知情報に基づいて電源9を制御するコントローラである。本実施例によれば、液体導通管6を流れる原酒がその内部から紫外線を照射される形となり、また、紫外線強度が常に一定になるように制御される。」(第3頁左上欄15行?右上欄3行)
(f-4)「

」(第3図)

3.対比・判断

引用例Aには、微生物等を含有する体液またはその画分の紫外線照射に用いるのに適した装置であって、注入口と流出口と、その間に、実質的に紫外線を透過する壁を有し、壁に沿ってもしくは実質的に近接して少なくとも一つの紫外線照射区域、注入口と流出口の間の通路において紫外線照射区域へ体液かその画分の実質的に全体を移動させるために、通過する液体を完全に混合することを目的として形成もしくは配置した少なくとも一つの混合区域を含む通路を有する管からなり、それによって、装置を使用するときに管を通過する体液かその画分の実質的に全体が、同様に十分な照射レベルに曝されるものである装置(摘記事項a-1(請求項1),摘記事項a-3)が記載され、さらに、体液またはその画分が血液またはその画分であり(摘記事項a-1(請求項12))、体液とその画分の、選択された成分、例えば、リンパ球とヒトの血液におけるウィルスおよび同類のものを含めた微生物を不活性化する装置であること(摘記事項a-2,5)、紫外線を透過する壁が、シリカ、紫外線を透過するガラス、シリコン等から選択される物質からなること(摘記事項a-1(請求項12))、管は、入口と出口の間に、通常環状の半径方向の外部放射領域の内側に放射状に、スタティックフロー混合手段を有すること(摘記事項a-1(請求項7),摘記事項a-4,7)が記載され、図4には、紫外線照射源12、注入口と流出口の間の体液が移動する通路である管においてスタティックフロー混合手段を有する装置(摘記事項a-9)が記載されている。
また、紫外線照射は、紫外線照射源12によりなされ、254nmの波長が特に好ましいこと(摘記事項a-6)が記載され、この波長の紫外線は、技術常識からみてCタイプ紫外線であること、実施例には、ヒトの血液をUVC放射蛍光管により照射して処理したこと(摘記事項a-8)が記載されていることを勘案すると、上記装置において用いられる紫外線はCタイプ紫外線であり、紫外線照射源はCタイプ紫外線照射源であると認められる。
これらの引用例Aの摘記事項の記載からみて、引用例Aには、次の発明(これを以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ウィルスを含有する血液の紫外線照射に用いるのに適した装置であって、Cタイプ紫外線照射源と、注入口と流出口と、その間に、実質的に紫外線を透過するシリカ、紫外線を透過するガラス、シリコン等の物質からなる管を有し、管に沿ってもしくは実質的に近接して少なくとも一つのCタイプ紫外線照射区域、注入口と流出口の間の通路において紫外線照射区域へ体液かその画分の実質的に全体を移動させるために、通過する液体を完全に混合することを目的として形成もしくは配置したスタティックフロー混合手段を取り付けられた単独の管からなり、それによって、装置を使用するときに管を通過する血液の実質的に全体が、同様に十分な照射レベルに曝されるものである装置。」

そこで、本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「血液」は、引用発明が血液におけるウィルスおよび同類のものを含めた微生物を不活性化するためのものである(摘記事項a-2)ことから、治療を目的とする「血液製剤」であると認められ、本願発明の「血液製剤」に相当する。
(2)引用発明の「実質的に紫外線を透過するシリカ、紫外線を透過するガラス、シリコン等の物質からなる管」は、引用例Aに、管の注入口と流出口の間の通路において紫外線照射区域へ体液を移動するための管であること(摘記事項a-3)、体液は血液である(摘記事項a-5)ことが記載されていること、Cタイプ紫外線照射源と併用されるものであることから、本願発明の「前記血液製剤にCタイプ紫外線を照射するために石英管または前記Cタイプ紫外線を吸収しないポリマー材から成る管」に相当する。
(3)引用発明の「スタティックフロー混合手段」は、引用例Aに、管内の混合区域は通過する液体を完全に混合することを目的とすること(摘記事項a-1(請求項1),a-3)が記載されており、液体は血液である(摘記事項a-5)から、血液製剤の流れを完全に混合し、均質とすることを目的としたものであり、図4の説明(摘記事項a-7)並びに図4(摘記事項a-9)に示される構造から乱流を生じさせるシステムであることは明らかであるから、本願発明の「前記管内を循環する前記血液製剤の流れを均質化する乱流システム」に相当する。
そして、引用発明のウィルス不活性化のためのCタイプ紫外線照射による血液の処理は、本願発明の処理と同様にCタイプ紫外線照射を用いた物理的処理である。
よって、両者は、本願発明の表現を借りて表すと、
「物理的処理によって血液製剤のウィルス不活性化を行う装置であって、Cタイプ紫外線照射源と、前記血液製剤にCタイプ紫外線を照射するために石英管または前記Cタイプ紫外線を吸収しないポリマー材から成る管と、前記管内を循環する前記血液製剤の流れを均質化する乱流システムとを備える血液製剤のウィルス不活性化装置。」である点で一致するが、以下の点で相違する。
(i)本願発明では、「前記管では、薄層状態にない前記血液製剤を処理することによって、前記血液製剤が薄層状態である場合に前記管の固相/液相界面に発生する破壊現象を回避でき」ることを特徴とするのに対し、引用発明では、この特定がない点(以下、「相違点(i)」という。)
(ii)本願発明では、「前記装置がさらに、前記血液製剤に照射される前記Cタイプ紫外線の照射線量を制御するためのシステムを含み、前記血液製剤に230?400ジュール/m^(2)の前記照射線量を照射する」ことを特徴とするのに対し、引用発明では、この特定がない点(以下、「相違点(ii)」という。)

そこで、上記相違点(i)について検討する。
本願発明の特徴とされる「前記管では、薄層状態にない前記血液製剤を処理することによって、前記血液製剤が薄層状態である場合に前記管の固相/液相界面に発生する破壊現象を回避でき」ることは、本願発明の構成とすることによって得られる作用・効果を記載したものである。
そして、引用例Aに、血液製剤が薄層状態である場合に前記管の固相/液相界面に発生する破壊現象を回避できることについて記載されていないとしても、引用発明は、本願発明と上記した点で一致するものであり、血液全体が十分な紫外線照射レベルに曝されるようにするために乱流システムを備える管を有する装置であり、これは薄層状態にない血液製剤を処理する装置に他ならないものであることから、本願発明と同様に上記破壊現象を回避できると認められるものであって、上記一応相違するとした点は、実質的な相違点とはいえない。

次に、上記相違点(ii)について検討する。
刊行物Eには、血漿等のウィルスが混入する可能性のある溶液からのウィルス感染性の除去に用いられる、紫外線を用いたウィルス殺菌装置(摘記事項e-1?e-3)において、濾過フィルターを通過してきた濾液を、さらに紫外線照射による不活化処理を行う場合、紫外線の照射条件が一定に制御されていることが望ましいこと、そこで、濾液の流路にレギュレーターを取り付け、流速が一定値を保つようにしたこと、すなわち、紫外線照射による不活化処理を一定の時間受けるようにしたこと(摘記事項e-4)が記載され、実施例には、図1として、254nmに最大吸収波長を有する紫外線ランプ6、並びに、流量調節バルブ4を有し、そのバルブの開閉の程度により、流速が制御されている装置(摘記事項e-5,6)が具体的に開示されている。ここで、254nmに最大吸収波長を有する紫外線はCタイプ紫外線であることは技術常識からみて明らかである。
また、刊行物Fの実施例には、液体を柱状、層状等にして連続的又は間欠的に流す紫外線透過性の液体導通管と、該導通管内を流れる液体に核酸が特異的に極大吸収する波長の紫外線を照射する紫外線ランプとからなり、前記液体に含まれる細菌類、ウィルス等の微生物を死滅させる、液体の殺菌装置(摘記事項f-1,2)において、紫外線強度を検知する紫外線センサ10、センサ10からの検知情報に基づいて電源9を制御するコントローラ11を有し、液体導通管6を流れる原酒が、紫外線強度が常に一定になるように制御される装置が具体的に開示されている。そして、核酸は紫外線を強く吸収するが、波長260nm付近にその極大値を有することが記載される(摘記事項f-2)ことから、該装置の紫外線は、Cタイプ紫外線であると認められる。
すなわち、刊行物E,Fには、Cタイプ紫外線を用いたウィルス殺菌装置において、紫外線の照射条件を一定とするために、照射線量を制御するためのシステムを設けることが記載されており、当該技術分野において、装置に設置するシステムは、当業者がその目的に応じて適宜選択し得るものである。

また、血液製剤において、紫外線による種々のタンパク成分の失活やウィルスの不活性化はいずれも、その種類によって程度に差があること、第VIII因子の失活が少なくなるよう配慮しつつパルボウイルス等のウィルス失活性を向上させるために、230?400ジュール/m^(2)の範囲内の紫外線照射線量を検討し採用することは、一般的に知られている(例えば、「厚生省血液研究事業 平成3年度研究報告集」,平成4年3月,80?82頁,特に80頁左欄2?7行,80頁右欄6行?81頁左欄8行,81頁左欄最下行?右欄7行,81頁右欄15?16行,82頁図2(図3の誤記と認められる)並びに図4、「厚生省血液研究事業 平成4年度研究報告集」,平成5年3月,83?85頁,特に83頁左欄2?7行,84頁左欄17行?右欄1行,図2?5を参照。なお、これらの文献では、照射線量が1erg/mm^(2)の単位で記載されているが、上記値は1erg/mm^(2)=0.1ジュール/m^(2)として換算した値である。)。
さらに、一般に血液製剤等のタンパク成分を含有する溶液中のウィルスを紫外線により不活性化する際に、紫外線照射線量を、目的とするタンパク成分の失活が低く、かつウィルスが不活化するような範囲とすることも、当業者がその目的に応じて適宜なし得ることである(例えば、上記した厚生省血液研究事業 平成3年度研究報告集,平成4年3月,80?82頁、厚生省血液研究事業 平成4年度研究報告集,平成5年3月,83?85頁の他に、特開平1-100129号公報の3頁右下欄17行?4頁左上欄2行、特開昭61-137821号公報の2頁右下欄6行?3頁左上欄11行を参照)。

そうしてみると、血液製剤に照射される前記Cタイプ紫外線の照射線量を制御するためのシステムを含み、前記血液製剤に230?400ジュール/m^(2)の前記照射線量を照射するものとすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
なお、UVCの照射線量について、本願明細書(8頁下から2行?9頁5行)においても、上記検討したと同様に、「UVC線の放射波長及び照射線量は当業者なら、処理すべき血液製剤の量と種類とに応じて調整することができる。処理すべき血液製剤が受ける照射線量が高ければ高いほど、存在する汚染物質の不活性化効果も高くなる。しかし、血液製剤の変性現象を軽減するため、当業者ならUVC放射波長の照射量を調整することにより、前記血液製剤の変性と活性損を軽減するであろう。」と、当業者であれば処理すべき血液製剤の量と種類とに応じて適宜調製できるものであることが記載されている。

ここで、本願発明の効果について検討する。
本願明細書の実施例には、表1として、免疫グロブリンが受けるCタイプ紫外線照射量の増加に対応させた、免疫グロブリンを含む組成物に接種されたウィルスの対数減少(log_(10))の結果が記載され、図4,5として、紫外線照射量を増大させると、因子VIIIのような血液派生物質の不活性化が促進されるが、Cタイプ紫外線を照射することにより、因子VIIIを含む溶液に接種されたパルボウィルスを、血液派生物質の活性をほとんど損なうことなく低い照射線量で不活性化できたことが記載されている。
しかしながら、230?400ジュール/m^(2)の範囲の線量では、図4の結果から、因子VIIIの活性は保持されるものと認められるものの、表1,図5の結果を検討すると、パルボウィルスMVMp、EMCウィルスは、完全には不活性化されておらず、照射線量を上記範囲に特定したことによって、ウィルスの不活性化における効果が十分に奏せられているものと認めることはできない。
また、血液製剤やウィルスの量や種類によって、UVC照射によるタンパク成分の失活やウィルスの不活性化の影響は異なることから、230?400ジュール/m^(2)の範囲の線量で因子VIIIの活性が保持されたとしても、本願発明において、照射線量を上記範囲としたことによって、本願発明が、引用発明に比して当業者にとって予測困難な格別顕著な効果を奏するものであると認めることはできない。

4.まとめ

以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、引用例E,Fに記載された事項及び周知技術を勘案し、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-27 
結審通知日 2012-01-31 
審決日 2012-02-13 
出願番号 特願平9-506100
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐久 敬  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 上條 のぶよ
大久保 元浩
発明の名称 血液製剤中の汚染物質を不活性化する装置  
代理人 白浜 吉治  

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