• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F03H
管理番号 1271724
審判番号 不服2011-11478  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-01 
確定日 2013-04-12 
事件の表示 特願2011- 17785号「遠心力による推進力発生装置」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.特許法第29条第2項に係る理由
1.手続の経緯と本願発明
本願は、平成22年5月19日(以下「本願の最優先日」という。)に出願した特願2010-129392号、及び平成22年11月29日に出願した特願2010-264510号を先の出願として、平成23年1月31日に特許法第41条第1項に規定する優先権の主張を伴う特許出願としたものであって、平成23年5月13日付けで拒絶査定され(拒絶査定の謄本発送(送達)日、同月24日)、これに対して、同年6月1日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。そして、本願の各請求項に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項によって特定されるものと認められ、そのうち請求項1は次のとおりである。
「【請求項1】
同一公転面上に公転軸と回転板を1対1の関係として、公転軸を中心として回転板をターンテーブルに複数個均等配置し、回転板の外側に伸びた1個のアームの先端に加重体を取り付けて、複数の加重体を同期回転させ、さらにターンテーブルを回転することにより、相対遠心力差を発生させて推進する推進力発生装置。」(以下「本願発明」という)

2.引用例、その記載事項及び引用発明
原査定の拒絶理由1(特許法第29条第2項に係るもの)で引用された刊行物であって、本願の最優先日より前に頒布された特開2008-38617号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。
イ 「【0019】
図1は、本発明の加速推進装置に作用する力を説明するための図である。
以下、図を用いて、この加速推進装置に作用する各方向の力について説明を進める。
【0020】
図には、その加速推進装置における空間位置を把握しやすいように、便宜的に各軸が示されている。以下、この空間位置の基準線となる各軸について説明する。
G軸1は、加速・推進・後退方向に形成される軸である。
X軸2,24,25は、G軸1を回転中心軸とする円13(後述する回転盤123に相当)上において、その円13の中心10から円周方向に形成される軸である。これらX軸2,24,25はG軸1と垂直方向に形成される。また、これらX軸2と24、24と25、25と2は、それぞれ120°の角度をなす。」(第4頁第40?50行)
ロ 「【0028】
<第1の実施の形態>
(図面の説明)
図2は、本発明の第1の実施の形態における加速推進装置100の平面断面図・・・また、図3は、・・・側面断面図である。・・・
【0031】
図に示すように、加速推進装置100は、G軸1に対称に3個設けられG軸1周りに周回する球体である人転球110a?110cと、これら人転球110a?110cを支持しG軸1回りに回転する円盤を備えた地動輪120と、これら人転球110a?110c及び地動輪120を収納する天開輪130とを有する。
また、加速推進装置100は、さらに、モータ等の動力源151,153と、これら動力源151,153により生成された回転運動を伝達する天地軸134,135、輪廻軸119、主内動分配ギヤ118、斜交ギヤ116と、前述の人転球110a?110cを地動輪120に軸支する因果軸106,109とを有する。
【0032】
人転球110a?110cは、略球体の外殻を形成する外殻体142と、この外殻体142の内壁に沿って設けられているリング状の枠体である腰掛けジンバル105と、その腰掛けジンバル105の枠内で回転する偏心を生じない形状(例えば略球状又は円盤状、好ましくは略球状)の回転子101と、この回転子101の回転中心軸である回転子軸115と、この回転子軸115を回転させるモータ等の動力源150とを有する。
この回転子軸115は、X軸2,24,25に沿って設けられており、その回転子軸115の両端は、腰掛けジンバル105の内枠に、X軸中心に回転可能に支持されている。
【0033】
地動輪120は、人転球110a?110cを支持する支持枠122と、この支持枠122とともにG軸1回りに回転する回転盤123とを有して構成される。
これら支持枠122と回転盤123とは一体に構成されており、G軸1を回転中心軸として一体に回転するようになっている。
この回転盤123には、G軸1上に天地軸135が固設されており、モータ等の動力源153による回転運動が天地軸135を介して回転盤123に伝達するようになっている。さらに、動力源151の回転運動は、輪廻軸119を介して主内動分配ギヤ118に伝達するようになっている。
また、支持枠122にも同様に、G軸1上に天地軸134が固設されており、通電機能を備えた天地軸通電端子136と同軸で連結されている。
これら動力源151,153は、別個に回転運動を行うように設計されており、動力源153は、支持枠122及び回転盤123がG軸1回りに一体かつ円滑に回転可能なように構成されている。
【0034】
また、その回転盤123には、それぞれ前述のX軸2,24,25上に中心をもつ略円形の設置穴125が計3個設けられている。この回転盤123の回転中心からこれら設置穴125の中心までの距離は均等に構成されている。
これら3個の設置穴125には、それぞれ人転球110a?110cが収納されている。地動輪120が回転すると、この地動輪120の支持枠122に支持されている各人転球110a?110cも同様にG軸1回りに回転するようになっている。
【0035】
また、天地軸134,135の側面には、それぞれ天地反転ベアリング137,138が回転自在に配設されている。また、天地軸134,135は、これら天地反転ベアリング137,138を介して地動輪120の支持枠122に取り付けられている。
【0036】
また、この回転盤123上には、加速推進装置100の移動方向を調整するための方向舵輪140がG軸1に対称に少なくとも3個設けられている。この方向舵輪140は、回転盤123の径方向を回転軸とした円盤状の回転体であり、回転の正逆方向及び回転速度は任意に調整できるように構成されている。」(第6頁第5行?第7頁第17行)
ハ 「【0047】
(第1の実施の形態の作用)
3個の人転球110a?110cの内部では、それぞれ各回転子101が独立して回転する。なお、これら3個の回転子101は、等しい角速度で回転する。
【0048】
天地軸134,135の能動回転は、天地反転ベアリング137,138を介して地動輪120に伝達され、この結果、地動輪120は、天地軸134,135回りに回転する。
このとき、地動輪120の回転とともに、各人転球110a?110cが、地軸134,135回りに、その軸回転と等しい角速度で周回する。
この結果、人転球110a?110cは、天地軸134,135に平行な人転球の中心軸4,39,40のまわりに回転する。・・・
【0050】
前述したように、各人転球110a?110c内で各回転子101が軸2,24,25回りに回転している。この回転の向きは、地動輪120の回転軸(天地軸134,135)側から見て反時計回りである。
さらに、これら人転球110a?110cには、地動輪120の回転により、それぞれZ軸6,41,42を回転軸とする回転力が発生する。この地動輪120の回転方向は、図1の焦点14側から見て反時計回りである。
このように回転子101の回転運動に、前述の地動輪120の回転によるY軸方向の力が加わると、歳差運動が発生し、人転球110a?110cの天地軸134,135側を図1の焦点14側方向にあおり上げようとする力がはたらく。
なお、前述の回転子101の回転方向が時計回りである場合には、前述の地動輪120の回転方向を時計回りに調整することによって、同様に図1の焦点14側方向に同じ力をはたらかせることができる。
【0051】
また、前述したように、各人転球110a?110cは、位相配分スリブ117により、120°の位相差で軸9,21,22回りに回転するので、各人転球110a?110cに対してこれらの図1の焦点14側方向にあおり上げようとする力も、120°の位相差で周回的に伝達される。
このように、各人転球110a?110cには時間差で自身をあおり上げる力が周回的に繰り返しはたらくので、天地軸134,135方向に並進加速度が発生する。この結果、加速推進装置100全体が天地軸134,135方向に浮揚しながら進行又は後退するようになる。
【0052】
なお、この並進加速度のはたらく向きは、G軸1に重なる天地軸134,135に沿って前進又は後退する方向となるが、その方向は、回転子101及び地動輪120それぞれの回転方向の組み合わせにより決定する。
天地軸134,135側から見たときの回転子101の回転方向と、天地軸134側から天地軸135側を見たときの地動輪120の回転方向との組み合わせが、それぞれ(時計回り、時計回り)又は(半時計回り、半時計回り)の場合には、G軸1に沿って天地軸134側方向に進行する。
一方、これらの組み合わせが、それぞれ(時計回り、半時計回り)又は(半時計回り、時計回り)の場合には、G軸1に沿って天地軸135側方向に進行する。」(第8頁第39行?第9頁第40行)

【引用例に記載されている発明】
上記イ?ハの記載事項からみて、上記引用例には、
「G軸1に対称に3個設けられG軸1周りに周回する球体である人転球110a?110cと、これら人転球110a?110cを支持しG軸1回りに回転する円盤を備えた地動輪120と、これら人転球110a?110c及び地動輪120を収納する天開輪130とを有する加速推進装置100であって、
人転球110a?110cは、略球体の外殻を形成する外殻体142と、この外殻体142の内壁に沿って設けられているリング状の枠体である腰掛けジンバル105と、その腰掛けジンバル105の枠内で回転する回転子101と、この回転子101の回転中心軸である回転子軸115と、この回転子軸115を回転させるモータ等の動力源150とを有し、
回転子軸115は、G軸1を回転中心軸とする回転盤123上において、それぞれ120°の角度をなすように配置されたX軸2,24,25に沿って設けられており、その回転子軸115の両端は、腰掛けジンバル105の内枠に、X軸中心に回転可能に支持されていて、
地動輪120は、人転球110a?110cを支持する支持枠122と、この支持枠122とともにG軸1回りに回転する回転盤123とを有して構成され、これら支持枠122と回転盤123とは一体に構成されて、G軸1を回転中心軸として一体に回転するようになっており、
地動輪120の回転とともに、各人転球110a?110cが、G軸1に重なる天地軸134,135回りに、その軸回転と等しい角速度で周回すると共に、各人転球110a?110c内で各回転子101がX軸2,24,25回りに回転し、
回転子101の回転運動に、地動輪120の回転によるY軸方向の力が加わることにより、各人転球110a?110cには時間差で自身をあおり上げる力がはたらいて、天地軸134,135方向に並進加速度が発生し、この結果、加速推進装置100全体が天地軸134,135方向に進行又は後退するようになっている加速推進装置100。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3.発明の対比
(1)本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「天地軸134,135(G軸1)」は、本願発明の「公転軸」に相当し、以下同様に、「地動輪120」は「ターンテーブル」に、「回転子101」は「回転板」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明で「回転子軸115は、G軸1を回転中心軸とする回転盤123上において、それぞれ120°の角度をなすように配置されたX軸2,24,25に沿って設けられ」としているところから、本願発明で「同一公転面上に公転軸と回転板を1対1の関係として、公転軸を中心として回転板をターンテーブルに複数個均等配置」する点は、引用発明でも同様といえ、また、引用発明も本願発明と同じく相対遠心力差を発生させて推進力を発生させるものと認められ、引用発明でいう「加速推進装置100」は「推進力発生装置」といえるものである。

(2)上記の対比から、本願発明と引用発明との間の一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]「同一公転面上に公転軸と回転板を1対1の関係として、公転軸を中心として回転板をターンテーブルに複数個均等配置し、ターンテーブルを回転することにより、相対遠心力差を発生させて推進する推進力発生装置。」である点。

[相違点]本願発明では「回転板の外側に伸びた1個のアームの先端に加重体を取り付けて、複数の加重体を同期回転させ」るという構成を備えるのに対し、引用発明では、回転板に相当する回転子を設けるにとどまり、アームの先端に加重体を取り付けることや、複数の加重体を同期回転させることについては言及がない点。

4.当審の判断
上記の[相違点]を検討すると、
有効な遠心力を得るために回転子に加重体を設けることは本願の最優先日より前に既に知られており(本願明細書【0004】で、先行技術を開示する文献とされている、特開2004-270672号公報参照)、加重体を取り付けるアームを設けたり、複数の加重体を同期回転させることも格別のことではないから、引用発明において上記相違点で指摘した本願発明の構成と同様にすることは、当業者が必要に応じて適宜容易になしうる程度の設計事項と認められる。
しかも、本願発明の作用効果について検討しても、当業者にとって引用発明からは予測し難いといえるような、格別のものが認められない。
したがって、本願発明は引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

第2.特許法第36条第4項第1号に係る理由
1.原審で通知された拒絶理由(平成23年3月4日付け拒絶理由通知書)では、本願が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない点について、「明細書中の実施例の推進力発生装置は、それぞれの加重体が回転するのみで浮上する軸方向に速度成分を有さないため、どのようにして中央回転軸方向への浮上力を継続して生成するのか理解できません。よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1,2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではありません。」とされている。

2.これに対する意見書(平成23年3月21日付け)では、「本装置の原理を考える場合に、座標軸はどこにあるかを判断しなければなりませんが、
加重体はジャイロの外側を自転し、さらに公転するため公転軸が座標の中心になります。」とし、また、審判請求の理由では、「アドバルーンや熱気球のようなものは、地上になんら反力を与えなくても浮上する。本発明装置の推力もこのようなイメージで考えることが適当である。」としている。
そして、このような推力が発生する理由について、本願明細書(【0009】?【0013】)で、「図4は本装置の理論的効果を説明するもので、1個のジャイロが(ターンテーブルの回転(公転)によって)A地点からB地点まで時速30kmで移動する間に、ジャイロの外側を回る加重体が時速100kmでP地点からP’地点に回転する空間速度を、静止しているHから見た場合」、(公転方向と自転方向とが一致する)ジャイロのN極側では、「自転速度+公転速度=130kmになる」のに対して、(公転方向と自転方向とが逆になる)ジャイロのS極側では、「自転速度-公転速度=70kmになり、」「両極間には速度の違いによる遠心力差(慣性力差)が発生」し、この遠心力差によって、ジャイロに推進力(浮上力)が発生すると説明されている。

3.そこで、上記の説明について検討してみると、図4で、(ターンテーブルの外で)静止しているHから見た場合に、ジャイロの外側を回る加重体の空間速度がジャイロのN極側では、「自転速度+公転速度=130km」になるのに対して、ジャイロのS極側では、「自転速度-公転速度=70km」になるとするまでの説明は、一応理解することができる。
しかし、ジャイロ自体に作用する加重体の遠心力について考えてみると、この遠心力は加重体が時速100kmでジャイロの周囲を回転することによって生じ、この時速100kmという回転速度自体は、ジャイロの公転によっても変化することがなく、上記のHから見た場合に加重体の見かけ上の速度に差があるからといって、この見かけ上の速度の差に起因して、「両極間には速度の違いによる遠心力差(慣性力差)が発生」するという説明が適切であると考えるべき根拠がみあたらない。
このことは、地球上で、物体が地球の自転方向に移動する場合と、反自転方向に移動する場合とで、物体の重量(又は物体に作用する遠心力)が変化するという、いわゆるエトベス効果の存在が事実として認められていることを考慮しても同様である。即ち、上記のターンテーブル外のHとは異なり、ターンテーブル上でターンテーブルと同じように動く観察者の存在を仮定した場合に、このターンテーブル上の観察者にとって、上記の130kmと70kmの速度変化は認識できないのに対して、ジャイロ周囲でのエトベス効果(あるいはその原因となる遠心力の変化)を生じるような加重体の速度変化であれば、ターンテーブル上の観察者もこれを認識することが可能であるが、そのようなターンテーブル上の観察者にも認識可能な速度変化が生じることやその理由については、本願明細書及び図面で説明されていない。
そうすると、請求人(出願人)がいうように、「公転軸が座標の中心」になると考えたとしても、どのようにして中央回転軸(公転軸)方向への浮上力を継続して生成するのか理解できず、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1,2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとする上記拒絶理由の指摘が誤っているとはいえない。(なお、請求人は、平成23年8月15日提出の上申書において、上記の「エトベス効果」による推進力発生のメカニズム等を説明するべく、審判官との面接を希望するとしているが、上記のとおり、エトベス効果の説明が当審の判断に影響を与えるとは考えられず、面接の必要が認められないので面接は行わない。)

第3.むすび
上記第1.のとおり、本願発明は上記引用発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものと認められ、本願発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
また、上記第2.のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願の発明を実施することができる程度に明確かつ十分なものではないから、本願は特許法第36条第4項第1号の規定を満たすものとはいえない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-09 
結審通知日 2011-11-15 
審決日 2011-11-30 
出願番号 特願2011-17785(P2011-17785)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 茂夫  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 栗山 卓也
小関 峰夫
発明の名称 遠心力による推進力発生装置  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ