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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16N
管理番号 1271756
審判番号 不服2010-6992  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-05 
確定日 2013-03-21 
事件の表示 特願2006-532849号「コントロール・モーメント・ジャイロのスピン軸受の潤滑剤送達システムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日国際公開、WO2004/102062、平成19年 2月 1日国内公表、特表2007-501924号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年5月7日(パリ条約に基づく優先権主張2003年(平成15年)5月7日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし4に係る発明は、平成19年2月16日付け、平成21年8月28日付け、平成23年7月7日付け及び平成24年5月16日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「潤滑媒体(212)をその中で受けるように適合された内側ボリュームを有する貯蔵部(202)と、
モータ(204)と、
前記モータ(204)及び前記貯蔵部(202)に結合されたアクチュエータ(220)であって、前記モータ(204)の第1の方向への回転に応じて、前記潤滑媒体(212)を圧縮し、それによってその媒体を少なくとも第1の圧力高まで加圧するように動作する方向に直線移動する前記アクチュエータ(220)と、
少なくとも流体入口(224)および流体出口(226)を有するバルブ(206)と

コントローラ(122)と、
を備え、
前記流体入口(224)が前記貯蔵部の内側ボリュームの内部に配置され、前記潤滑媒体(212)が少なくとも前記第1の圧力高まで加圧されるのに応答して、前記バルブ(206)が、前記流体入口(224)と流体出口(226)を相互に流体連通式に結合しそれによって加圧された潤滑媒体(212)を減圧するように動作し、少なくとも第2の圧力高まで前記潤滑媒体(212)が減圧されるまで、前記潤滑媒体(212)が前記貯蔵部(202)から前記バルブ本体流体出口(226)を通って流れ、
前記コントローラ(122)は、前記アクチュエータ(220)が、前記潤滑媒体(212)を圧縮する方向に所定の直線移動量だけ直線移動するように、前記モータ(204)に対して指令を供給し、前記コントローラ(122)は、前記所定の直線移動量から、前記貯蔵部(202)から送達された潤滑媒体の総量と、前記貯蔵部(202)内に残っている潤滑媒体の量とを決定するように動作可能である、潤滑媒体供給システム(120)。」

2.引用刊行物とその記載事項
これに対して、当審において平成23年11月16日付けで通知した拒絶理由で引用した刊行物は、次のとおりである。
刊行物1:特開平6-307458号公報
刊行物2:実願昭58-44787号(特開昭59-150916号)の マイクロフィルム
刊行物3:特開平6-213391号公報
刊行物4:実願平1-31744号(実開平2-122297号)のマイ クロフィルム

(1)刊行物1(特開平6-307458号公報)の記載事項
刊行物1には、「真空軸受装置及び真空軸受用潤滑剤供給システム」に関し、次の事項が記載されている。
ア.「【0010】図1は本発明の一実施例に係る真空軸受装置を示す断面図である。図示された真空軸受装置は宇宙飛行体に搭載して使用され、軸受部と、潤滑剤供給部とを備えている。この内、軸受部は、回転軸1の周辺に設けられた軸受2及び軸受固定部7とによって構成されている。軸受2は、内輪22と、外輪21と、内輪22と外輪21に介在している転動体23と、転動体23を保持する保持器24とで構成されている。転動体23は、球状であってもよく、円柱状のものであってもよい。又、転動体23は保持器24で拘束され、軸受2の内部には予め潤滑剤が充填され、軸受2の潤滑を行っている。更に、この実施例に係る潤滑剤供給部は収容ケース8、この収容ケース8を放射線から保護する放射線吸収材5、収容ケース8内の補給用潤滑剤4を軸受2の内側へ導くパイプ3、及び補給用潤滑剤4を押し出すポンプ6とによって構成されている。このように、補給用潤滑剤4は収容ケース8の中に収容されており、放射線による劣化を防止するため収容ケース8ごと放射線吸収材5により包まれている。」

イ.「【0012】・・・この様に潤滑剤の寿命を地上設備16側で予測することにより、必要な時期に必要な量の潤滑剤を軸受に供給し、真空用軸受の長寿命化を図ることができる。」

ウ.図1から、ポンプ6を駆動して得られる動力を受けて直線移動することにより、補給用潤滑剤4に直接圧力を付与する部材(ポンプ6から延出するロッド状部材等)を有するものであることが看取される。

エ.図1から、収容ケース8及び収容ケースを塞ぐ板状部材は、補給用潤滑剤4を収容する内側ボリュームを有し、これは収容部ということができる。

これらの記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「補給用潤滑剤4をその中で受けるように適合された内側ボリュームを有する収容部と、
ポンプ6と、
ポンプ6及び収容部に結合された、補給用潤滑剤4に直接圧力を付与する部材であって、ポンプ6の動作に応じて補給用潤滑剤4を圧縮し、それによってその媒体を加圧するように動作する方向に直線移動する部材とを備える、真空軸受用潤滑剤供給システム。」

(2)刊行物2(実願昭58-44787号(実開昭59-150916号)のマイクロフィルム)の記載事項
刊行物2には、「注油器」に関し、次の事項が記載されている。
オ.「本考案はディーゼル機関のような往復動をするピストンとシリンダライナ間の潤滑油のための注油器に関するものである。
従来のディーゼル機関の注油器を第1図について説明する。1はディーゼル機関のシリンダライナ、2はシリンダライナ1内を往復するピストン、3はピストン2の円周方向に嵌め込まれたピストンリング、4はシリンダライナ1の周囲に設けられた注油孔、5は注油器のプランジャポンプ、6は潤滑油を供給する給油孔、7はプランジャ、8はカム、9はポンプ室逆止弁、10はプランジャ室、11は上記注油孔4に取付けられた注油棒、12は上記プランジャポンプ5と上記注油器11、12は上記プランジャポンプ5と上記注油棒11とを連結する注油導管である。第2図は上記注油棒11の詳細図であり、1は上記シリンダライナ、4は上記注油孔、13は注油孔4と連通する注油棒の注油孔、14は注油棒逆止弁、15は上記逆止弁14を押さえるばね、16は弁座金物、弁座金物16に油路17が設けられ導管12に連結されている。その作用について説明する。プランジャ7がカム8のベースサークルにあるときはプランジャ室10は給油孔6から供給された潤滑油で満たされており、カム8の回転によりプランジャ7が押し上げられると油圧によってポンプ室逆止弁9が開き潤滑油は導管12を通って注油棒11に至る。更に油路17の油圧による力が注油孔4の圧力とばね15の取付力とを合わせた力より大きくなると潤滑油は逆止弁14を押し上げ注油孔13を通ってピストン2とシリンダライナ4に注油される。カム8をディーゼル機関のクランク軸とギヤ又はチェーン等で連結し、ディーゼル機関と同回転乃至整数分の1回転で回転させて周期的に注油する。」(第1ページ第12行?第3ページ第5行)

カ.第1図の記載から、プランジャポンプ5には、ばねにて閉方向に付勢されるポンプ室逆止弁9にて開閉される連通孔とプランジャポンプ5と注油導管12とを連通する孔を有するものであることが看取される。

3.発明の対比
本願発明と刊行物1発明とを対比すると、その機能又は作用からみて、後者の「補給用潤滑剤4」は、前者の「潤滑媒体」に相当し、以下同様に、「収容部」は「貯蔵部」に、「補給用潤滑剤4に直接圧力を付与する部材」は「アクチュエータ」に、「真空軸受用潤滑剤供給システム」は「潤滑媒体供給システム」にそれぞれ相当し、刊行物1発明の「ポンプ」と本願発明の「モータ」とは、アクチュエータの「駆動源」である点で共通するものであるから、本願発明の用語を用いて表現すると、両者は、
[一致点]
「潤滑媒体をその中で受けるように適合された内側ボリュームを有する貯蔵部と、駆動源と、駆動源及び貯蔵部に結合されたアクチュエータであって、駆動源の動作に応じて、潤滑媒体を圧縮し、それによってその媒体を加圧するように動作する方向に直線移動するアクチュエータを備える、潤滑媒体供給システム。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
相違点1:本願発明ではアクチュエータの駆動源がモータであり、モータの第1方向への回転にてアクチュエータを直線移動させるのに対し、刊行物1発明ではアクチュエータの駆動源がポンプであり、ポンプの動作にてアクチュエータを直線移動させる点。
相違点2:本願発明は、「前記潤滑媒体を圧縮し、それによってその媒体を少なくとも第1の圧力高まで加圧するように動作する方向に直線移動する前記アクチュエータと、少なくとも流体入口および流体出口を有するバルブとを備え、前記流体入口が前記貯蔵部の内側ボリュームの内部に配置され、前記潤滑媒体が少なくとも前記第1の圧力高まで加圧されるのに応答して、前記バルブが、前記流体入口と流体出口を相互に流体連通式に結合しそれによって加圧された潤滑媒体を減圧するように動作し、少なくとも第2の圧力高まで前記潤滑媒体が減圧されるまで、前記潤滑媒体が前記貯蔵部から前記バルブ本体流体出口を通って流れ」るのに対し、刊行物1発明は、そのような構成を有していない点。
相違点3:本願発明は、「コントローラを備え、前記コントローラは、前記アクチュエータが、前記潤滑媒体を圧縮する方向に所定の直線移動量だけ直線移動するように、前記モータに対して指令を供給し、前記コントローラは、前記所定の直線移動量から、前記貯蔵部から送達された潤滑媒体の総量と、前記貯蔵部内に残っている潤滑媒体の量とを決定するように動作可能」であるのに対し、刊行物1発明は、そのような動作を可能とするものかが定かではない点。

4.当審の判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
モータは物体に力を付与するアクチュエータの駆動源として周知であり、刊行物1発明において、アクチュエータの駆動源として、ポンプに代えてモータを用いることに格別の困難性を見いだし得ない。また、モータによる回転方向の駆動力を直線移動方向に変換して用いることは、当業者が必要に応じて普通に行う技術事項であり、刊行物1発明においてアクチュエータの駆動源としてモータを用いる際に、その回転方向の駆動力を直線移動方向の駆動力に変換して用いることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(2)相違点2について
刊行物2には、潤滑油を注油する装置において、プランジャ室10(本願発明における「内側ボリューム」に相当。)、プランジャ7(「アクチュエータ」に相当。)を備えるプランジャポンプ5であり、ポンプ室逆止弁9を有するものが記載されている。このプランジャポンプ5は第1図に記載の構成から見て、プランジャ7の移動により潤滑油が所定の圧力(「第1の圧力高」に相当。)まで加圧されたときに、ポンプ室逆止弁9が開いて潤滑油が導通し、またプランジャ7の移動により潤滑油が所定の圧力(「第2の圧力高」に相当。)まで減圧されたときに、ポンプ室逆止弁9が閉じて潤滑油の導通を止めるものである。
刊行物1発明は、必要とする量の潤滑剤を軸受に供給するもの(摘記事項イ.を参照。)であり、また宇宙飛行体に用いられるもの(摘記事項ア.を参照。)であることから収容ケース8(収容部)へ潤滑剤を随時補充できるものではないことを鑑みると、潤滑剤の漏れによる潤滑剤の過供給、無駄な消費を防止することは当業者が普通に考慮することであり、また刊行物2に記載のポンプ室逆止弁9が潤滑油の圧力に応じて潤滑油の導通を止めることにより、潤滑油の過供給、無駄な消費を抑制する機能を有するものであることは、当業者にとって予測可能な技術事項であり、してみると、刊行物1発明において、潤滑剤の過供給、無駄な消費を防止するために、潤滑剤供給装置という共通の技術分野に属する刊行物2に記載の発明の構成を適用して、潤滑剤の流路に逆止弁を設けることは当業者が容易に想到し得たものである。また、弁の入口をどの箇所に配置するかは、潤滑剤の圧力、またそれに伴う弁の大きさ等を考慮して当業者が適宜決定すべき設計事項であり、弁の入り口を潤滑剤の貯蔵部の内部に配置するものも特開平6-213391号公報(図3?5)、実願平1-31744号(実開平2-122297号)のマイクロフィルム(第2図)等に見られるように周知の形態に過ぎず、刊行物1発明の潤滑剤の流路に逆止弁を設ける際に、逆止弁の入り口を収容ケース8の内側ボリュームの内部に配置することに格別の困難性を見いだし得ない。

(3)相違点3について
送達すべき潤滑量を、潤滑箇所の状況に応じた適量とすること、また潤滑剤切れを検知する必要性は、潤滑剤を供給する装置の技術分野において当業者が普通に考慮する技術課題である。また、刊行物1の図1に記載の潤滑剤の貯蔵及び供給形態から、刊行物1発明において、収容ケース8からの潤滑剤の送達量及び残留量を、潤滑剤に圧力を付与する部材の直線変位量を検出して、潤滑剤の貯蔵部分の体積変化を演算することにより把握することは、当業者が格別の創意を要することなく容易になし得ることである。またそれらの検出、演算をコントローラを用いて行うことは、制御装置一般において普通に採られる手段に過ぎない。
してみると、刊行物1発明において、上記技術課題を解決する手段として、コントローラを用いて潤滑剤に圧力を付与する部分の直線変位量を検出することにより潤滑剤の送達量、残量を検知することは、当業者が容易に想到し得たものである。
そして、本願発明の効果も、刊行物1発明及び刊行物2に記載された発明並びに周知技術から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

(4)審判請求人の主張について
審判請求人は、当審の平成23年11月16日付けの拒絶理由通知に対する平成24年5月16日付けの意見書(以下、「意見書」という。)において、「・・・貯蔵部から送達される潤滑媒体の量を決定すること、又は、貯蔵部に残留する潤滑媒体の量を決定することのそれぞれを別々に想到することは比較的容易であるかもしれませんが、一般に、これらの量の決定は、各量を測定するための別々のセンサを用いて、別々に行われることが一般的です。これに対して、本願請求項1発明(審決注:「本願発明」の意味。以下同様。)では、アクチュエータの所定の移動量に基づいて、両方の決定を行うことができます。本願請求項1発明は、別々の決定を行うための別々のセンサを要しない点で、先行技術に対して顕著な技術的効果を有します。・・・」(「5.理由A(特許法第29条第2項による理由)について」を参照。)と主張している。
しかしながら、刊行物1発明において、収容ケース8からの潤滑剤の送達量及び残留量を検知するために、潤滑剤に圧力を付与する部分の直線変位量を検出することが当業者にとって容易に想到し得たものであることについては、上記「(3)相違点3について」にて述べたとおりであり、貯蔵部からの潤滑剤送達量と貯蔵部内減量分が等しいことを考えれば、請求人の「本願請求項1発明は、別々の決定を行うための別々のセンサを要しない点で、先行技術に対して顕著な技術的効果を有します。」と主張するところの技術的効果は格別なものとは認められない。

5.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1発明及び刊行物2に記載された発明並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

そうすると、本願の請求項1に係る発明(本願発明)が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-28 
結審通知日 2012-10-01 
審決日 2012-11-09 
出願番号 特願2006-532849(P2006-532849)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 高弘  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 山岸 利治
所村 陽一
発明の名称 コントロール・モーメント・ジャイロのスピン軸受の潤滑剤送達システムおよび方法  
代理人 小野 達己  
代理人 社本 一夫  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 富田 博行  
代理人 千葉 昭男  

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