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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A41B
管理番号 1271762
審判番号 不服2010-23021  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-12 
確定日 2013-03-21 
事件の表示 特願2007-506280「着用者の解剖学的構造に適応できる使い捨て吸収性物品」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月20日国際公開、WO2005/097028、平成19年11月 1日国内公表、特表2007-530232〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2005年3月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年3月29日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年6月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月12日に拒絶査定を不服として審判請求がなされると同時に手続補正がなされたが、当審において平成23年10月3日付けで拒絶理由を通知し、これに対し、平成24年4月4日付けで意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成22年10月12日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1により特定される次のとおりのものと認める(以下、「本願発明」という)。
「一体型の使い捨て吸収性物品であって、
第1の締結具を有する第1の伸張耳部と第2の締結具を有する第2の伸張耳部と、
衣類面表面と身体面表面とを有する吸収性コアと、
前記吸収性コアの前記身体面表面に隣接して配置された液体透過性トップシートと、
前記吸収性コアの前記衣類面表面に隣接して配置された液体不透過性バックシートであって;前記バックシートは少なくとも1つの軸線に沿って物理的変化を有し、前記物理的変化は第1バックシート区域及び第2バックシート区域を画定し、前記物理的変化は測定可能な差異であり、前記物理的変化は坪量、厚さ及び密度から成る群から選択される物理的特性によって測定される、ところの液体不透過性バックシートと、
前記第1締結具と第2締結具と横方向に整合配置され、少なくとも1つの主要伸張方向を有する少なくとも1つのエラストマー要素であって;前記エラストマー要素は前記第2バックシート区域に少なくとも部分的に重なり合って接合され、前記エラストマー要素と前記第2バックシート区域の重なり合いは伸張区域を生成し、前記エラストマー要素の主要伸張方向における弛緩経路長は、前記バックシートの重なり合った領域内における全経路長よりも短い、ところのエラストマー要素と、
を備えることによって特徴付けられる、一体型の使い捨て吸収性物品。」

3.引用文献及び引用発明
(1)これに対して、当審の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開平7-171179号公報)には、次の事項が記載されている。
(a)「更に詳細には、使い捨ておむつ1は、図1に示すように、液透過性の表面シート2、液不透過性の裏面シート3及びこれら両シート間に介在する吸収体4と、装着時におむつを固定するためのファスニングテープ7とを有している。また、上記吸収体4は、図2に示すように、股下領域が縊れた砂時計状に湾曲形成され、表面シート2及び裏面シート3も吸収体4の形状に即して股下領域が上述の如く湾曲形成されており、該吸収体4は、表面シート2及び裏面シート3により挟持・固定されている。
上記表面シート2、上記裏面シート3、上記吸収体4及び上記ファスニングテープ7としては、通常用いられている公知のものを特に制限されずに用いることができる。
そして、上記吸収体4の周縁部に位置する前後のウエスト部5,5’及びレッグ部6、並びに胴回り部8には、おむつを着用した際に、着用者に前後のウエスト部5,5’及びレッグ部6、並びに胴回り部8をフィットさせるために、上記のシート状材料を、弾性体10A,10B、10C及び10Dとしてそれぞれ固着している。」(段落【0040】?【0042】参照)
(b)「また、上記弾性体10Cは、おむつの胴回り部を着用者にフィットさせるために、おむつの前後の胴回り部に、おむつが胴回り方向に伸縮するように前後各3本づつ配設されている。各弾性体10Cの間隔は、好ましくは1?50mm、更に好ましくは5?20mmであり、また、前後の胴回り部に設けられている上記弾性体の本数は、本実施例においては、3本づつであるが、好ましくは2?20本、更に好ましくは5?10本の範囲で任意の本数を採用することができる。また、上記弾性体10Cの幅は、好ましくは0.1?10mm、更に好ましくは2?5mmである。もちろん、本発明は上述の数値に何ら限定されるものではなく、上記弾性体の幅及び間隔はすべて同一であってもよいし、それぞれ異なっていてもよい。また、上記弾性体は、おむつの前後で、その本数や間隔等が同じでもまた異なっていてもよい。」(段落【0045】参照)
(c)「また、本発明は、ゴム共重合体をその融点以下の温度で加熱延伸した後に冷却して得られ且つ加熱により伸縮性が付与される、内部に2種以上の結晶性成分を有する共重合体を必須の樹脂成分としてなるシート状材料を、吸収性物品の所望の位置に固着した後に加熱して該シート状材料を収縮せしめ、所望の位置に伸縮性を付与することを特徴とする吸収性物品の製造方法を提供するものである。」(段落【0015】参照)
(d)「上記裏面シート3の内表面側に吸収体4及び弾性体10A,10B、10C及び10Dとしてのシート状材料を、図1に示す位置に載置した後、表面シート2を裏面シート3に貼着する。この際、上記シート状材料は、接着剤を用いて固着させる。次いで、オーブン中にて加熱して、上記シート状材料を収縮せしめ、伸縮性が付与された弾性体10A,10B、10C及び10Dとすることにより、上記使い捨ておむつ1を得ることができる。」(段落【0048】参照)
(e)図2より、弾性体10Cが左右のファスニングテープ7と横方向に整合配置されている点がみてとれる。

弾性体10Cは、少なくとも1つの主要伸張方向(胴回り方向)を有する弾性体であると認められ、以上の記載事項及び図面によれば、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「左右のファスニングテープと、液透過性の表面シートと、液不透過性の裏面シートと、両シート間に介在する吸収体と、前記左右のファスニングテープと横方向に整合配置され、少なくとも1つの主要伸張方向を有する弾性体であって、そのシート状材料を前記裏面シートの内表面側に固着した後に加熱して該シート状材料を収縮せしめ、伸縮性を付与したものであるところの弾性体を備えた使い捨て紙おむつ。」

(2)同じく、当審の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2002-320640号公報)には、次の事項が記載されている。
(a)「おむつ20は、図1に示すように、包含組立体22を有する。包含組立体22は、好ましくは、液体透過性トップシート24と、このトップシート24に接合された液体不透過性バックシート26と、トップシート24とバックシート26との間に位置された吸収体コア28とを有する。おむつ20は、更に、弾性側パネル30と、弾性脚カフ32と、弾性胴部装置34と、一般に多層の二重張力ファスニングシステムからなる閉鎖装置36を有する。二重張力ファスニングシステム36は、好ましくは、主ファスニングシステム38と胴閉鎖システム40とを有する。主ファスニングシステム38は、好ましくは、一対の固定部材42とランディング部材44とを有する。」(段落【0022】参照)
(b)「本発明の弾性側パネル30は、弾性的に伸長可能な別体の材料又はおむつに接合された積層体からなるのがよい。図1に示すように、各弾性側パネル30は、好ましくは、耳フラップ88及びこれと作動的に関連した弾性側パネル部材90を有する。
図1に示すように、各耳フラップ88は、吸収体コア28の側縁部82からこの側縁部に沿って横方向外方におむつ20の長さ方向縁部62まで延びる側パネル72の部分からなる。耳フラップ88は、全体に、おむつ20の端縁部64からおむつ20の長さ方向縁部62の脚開口部を形成する部分(長さ方向縁部62のこのセグメントは脚縁部106として示されている)まで長さ方向に延びる。本発明の好ましい実施例では、第2胴領域58の各耳フラップ88は、吸収体コア28の側縁部82を越えて延びるトップシート24及びバックシート26の部分によって形成される。」(段落【0130】?【0131】参照)
(c)図1から、おむつ20は弾性側パネル30の各耳フラップ88に各固定部材42を有する点がみてとれる。

(3)同じく、当審の拒絶の理由に引用された引用文献4(特表平8-509436号公報)には、次の事項が記載されている。
(a)「使い捨てのおむつやこれに類似した物品は、閉鎖手段を具えているのが普通である。この閉鎖手段は、接合されるべき二つの対向するエレメントとこれを閉じるための固定エレメントとを含む。従来の手段においては、固定エレメントは、一方の端(製造者端)において一方のエレメントに恒久的に接着され、他方の端(自由端)において他方の対向するエレメントに繰り返し接合可能に接着された感圧接着性(PSA)固定タブである。使い捨ておむつの場合、二つの対向するエレメント即ち締結表面はおむつの側面であり、PSA締結タブは通常は両端において、薄い(例えば、1ミル以下の)ポリエチレンのフィルムからなる水を透さない同じ外層バックシート材料に接着される。従って、おむつ用のPSA締結タブは、同じタブの両端で同じ薄いポリエチレン・フィルムに対して、一方は恒久的に接着され、他方は繰り返し接合可能に接着されると言う相反する目的を有する。締結タブの両端に同じ接着剤が使用されているので、タブを外す時に、薄いおむつ用バックシート・フィルムにタブを恒久的に取付けるように構成された感圧接着剤ではこれらの薄いフィルムが引きちぎられ、一方、タブを繰り返し接合可能に薄いおむつ用バックシート・フィルムに接着するように構成された接着剤では、接着性が低下する傾向があり、問題となっている。この問題に対する共通の解決策は、おむつの前部領域、少なくともタブの自由端が繰り返し接着される箇所において薄いバックシート・フィルムを補強材料で強化して、引きちぎれを防ぐことである。」(第4頁第9?28行参照)
(b)「図1を参照すると、配向領域3と非配向領域4を具えた個々のおむつ用バックシートを形成するのに適した幅を有する選択的に配向した連続フィルム1が示されている。配向領域3の厚さは、配向の程度と非配向フィルムの元の厚さとによって決まる。非配向領域4の厚さは、フィルム又はウエブを形成する熱可塑性ポリマーと、接離を繰り返す選択された感圧接着性締結タブによる引きちぎりに抵抗するのに必要なフィルムの強度とによって決まる。一般的に、領域4は少なくとも1ミル(25μ)、好ましくは約2ミル(50μ)以上の厚さを有する。配向領域3は、普通、延伸倍率に応じて少なくとも0.3ミル(8μ)から1.0ミル(25μ)までの厚さを有する。図1の領域3は、幅方向の支えなしに機械の長手方向の配向を行った場合の当然の結果として、ネックイン(neck-in)を生じている。このネックイン領域は、通常は別個の切断作業によって形成される必要があるおむつ用バックシートの脚用切れ込み部に対応する形状に形成することができるので好ましい。しかし、このネックインは、後でフィルム1を使用幅にスリットするような場合には好ましくない。おむつ用バックシートの各セグメント2は線5に沿って切断されて、強化された前部セクション7と強化された後部セクション6とが形成される。この前部セクション7はおむつのPSA締結タブ又はテープ(図示しない)を引きちぎることなしに接着・開離させるのに必要な強度を有し、後部セクション6はおむつのPSA締結タブ(製造者端)用の恒久的取付け面として使用可能であり、且つ引きちぎりに対して抵抗力を有する。切断線5は他の箇所に設けてもよいし、又、ウエスト用の弾性部材取付け用の第2の小さな配向領域で領域6と7を分離してもよい。」(第7頁第15行?第8頁第8行)
(c)FIG.1より、おむつ用バックシートのセグメント2は、前部セクション7と後部セクション6と、その間の薄手領域3が前後方向に並んで設けてある点がみてとれる。

(4)同じく、当審の拒絶の理由に引用された引用文献5(特開平9-253130号公報)には、次の事項が記載されている。
(a)「従って、本発明の目的は、裏面シートの柔軟性や不織布による風合いを損なうことなく止着テープの剥離を回避可能で、且つ保形性が良く着用の容易な使い捨ておむつを提供することにある。」(段落【0005】参照)
(b)「而して、本実施形態の使い捨ておむつ1では、図1に示すように、上記裏面シート12は、液不透過性フィルム、及び該液不透過性フィルムの外側面に接着剤を介して積層された不織布12aを備えており、且つ、上記不織布12a側から全体に第1のエンボス加工を施すことによって形成された低圧エンボス部12Lと、上記不織布12a側から幅方向左右両側部に第1のエンボス加工よりも大きな押圧力による第2のエンボス加工を施すことによって形成された高圧エンボス部12Hとを有している。
本実施形態について更に詳述すると、上記接着剤としては、ホットメルト接着剤が用いられ、上記液不透過性フィルムに、1.5g/m^(2) の割合で塗布されている。上記第1のエンボス加工は、被加工面の全面を、エンボス面積25%の格子状のエンボスロールによって、30Kg/cmの線圧で押圧するものである。上記第2のエンボス加工は、低圧エンボス部12Lの面積の30%を、エンボス面積25%の格子状のエンボスロールによって、100Kg/cmの線圧で押圧するものである。この第2のエンボス加工は、腹側部1Aの幅方向左右両側部の側縁より若干内側所定幅と、背側部1Bの幅方向左右両側部の側縁より若干内側所定幅とを、使い捨ておむつ1の長手方向に直線的に結ぶ範囲において施されている。上記エンボス面積とは、エンボスロール(彫刻ロール)の凸部の接着点面積である。
本実施形態の使い捨ておむつ1では、上述の様な第1のエンボス加工を施されることにより、裏面シート12全体が低圧エンボス部12Lとなっている。また、裏面シート12の腹側部1A及び背側部1Bの幅方向左右両側縁を残してその内側所定幅の部分と、股下部1Cの幅方向左右両側縁部は、第2のエンボス加工が重ねて施されて高圧エンボス部12Hとなっている。上記高圧エンボス部12Hは、股下部1Cでは長手方向中央に近づくに従い幅狭に形成され、股下部1Cの長手方向中央における幅Wは1cmとなっている。」(段落【0009】?【0011】参照)
(c)「第1のエンボス加工及び第2のエンボス加工は、上述の格子状等の線状エンボス加工の他に、多数の微小な突部を有する押圧体を押圧させて点状凹部を形成させる点状(例えば、ドット模様、亀甲模様、斜四角模様等)エンボス加工等でもよい。」(段落【0019】参照)
(d)「尚、図2に示す様に、本実施形態の使い捨ておむつ1の裏面シート12は、接着剤塗工装置21により液不透過性フィルム12bの片面に接着剤を塗布し、該片面に不織布12aを重ねた後、全面にエンボス用凸部の形成された全面エンボスロール22aを有する全面エンボス加工装置22により不織布12a側から第1のエンボス加工を施し、更に、両周端部にエンボス用凸部の形成された周端部エンボスロール23aを有する側縁部エンボス加工装置23により第2のエンボス加工を施して得ることができる。そして、本実施形態の使い捨ておむつ1は、上述のようにして得た裏面シート12を用いて、従来と同様の方法により製造することができる。」(段落【0021】参照)
(e)「本実施形態の使い捨ておむつ1によれば、裏面シート12の左右両側部以外の部分では、第1のエンボス加工のみが施されて不織布12aが硬化されていないので、不織布12aの風合いが十分に維持される…本実施形態の使い捨ておむつ1によれば、裏面シート12の左右両側部の長手方向ほぼ全長に亘って、不織布12aが第2のエンボス加工により硬化されているので、良好な保形性が得られ、着用が容易である。」(段落【0018】参照)
(f)図1から、裏面シート12は高圧エンボス部12Hとその間の低圧エンボス部12Lが、使い捨ておむつ1の横方向に並んで設けてある点がみてとれる。

4.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「使い捨て紙おむつ」は、「共に合体された別個の部分から形成され、調和した統一体を形成し、別個のホルダ及びライナーのような別個の操作部分を必要としない吸収性物品」(本願明細書段落【0015】参照)であり、「一体型の」吸収性物品と認められ、引用発明の「使い捨て紙おむつ」、「左右のファスニングテープ」は、本願発明の「一体型の使い捨て吸収性物品」、「第1の締結具」及び「第2の締結具」にそれぞれ相当し、また、使い捨て紙おむつの「吸収体」が、衣類面表面と身体面表面を有し、「液透過性の表面シート」は「吸収体」の身体面表面に隣接して、「液不透過性の裏面シート」は「吸収体の」衣類面表面に隣接して配置されるのが技術常識であるから、引用発明の「吸収体」、「液透過性の表面シート」、「液不透過性の裏面シート」は、本願発明の「衣類面表面と身体面表面とを有する吸収性コア」、「吸収性コアの身体面表面に隣接して配置された液体透過性トップシート」、「吸収性コアの衣類面表面に隣接して配置された液体不透過性バックシート」にそれぞれ相当する。
さらに、引用発明の「左右のファスニングテープと横方向に整合配置され、少なくとも1つの主要伸張方向を有する弾性体」は、本願発明の「第1締結具と第2締結具と横方向に整合配置され、少なくとも1つの主要伸張方向を有する少なくとも1つのエラストマー要素」に相当し、また、本願明細書の段落【0043】の「エラストマー要素190は、第2バックシート区域170と少なくとも部分的に重なり合った区域、及び好ましくは物品の長手方向軸線と重なり合った区域においてバックシート126に接合されてもよい。好ましくは、エラストマー要素190の弛緩経路長は、接合区域内の第2バックシート区域170の範囲内のバックシート126の全経路長よりも短い。例えば、エラストマー要素190の弛緩経路長の、接合区域内の第2バックシート区域170の範囲内のバックシート126の全経路長に対する比率は、約0.8未満、より好ましくは約0.7未満、最も好ましくは約0.6未満である。重要なことには、これらの経路長同士の相違は、伸張区域の最大伸張を画定する。エラストマー要素は、バックシートからの最小限の抵抗のみを伴い、伸張区域内でバックシートの全経路長まで伸張してもよい。しかし、一旦エラストマー要素がバックシートの全経路長まで伸張したら、バックシート材は、さらなる伸張に対して著しく抵抗する」の記載、段落【0044】の「エラストマー要素190は、前述の伸張工程の前又は後、予め伸張された状態でバックシート126若しくはトップシートに付着してもよい。」の記載からみて、引用発明の弾性体を「そのシート材料を裏面シートの内表面側に固着した後に加熱して該シート材料を収縮せしめ、伸縮性を付与したものである」点と本願発明の「エラストマー要素は第2バックシート区域に少なくとも部分的に重なり合って接合され、前記エラストマー要素と前記第2バックシート区域の重なり合いは伸張区域を生成し、前記エラストマー要素の主要伸張方向における弛緩経路長は、前記バックシートの重なり合った領域内における全経路長よりも短い」点とは、「エラストマー要素はバックシートに接合され、前記エラストマー要素と前記バックシートの重なり合いは伸張区域を生成し、前記エラストマー要素の主要伸張方向における弛緩経路長は、前記バックシートの重なり合った領域内における全経路長よりも短い」点を限度として一致すると認められる(この点については平成23年10月3日付け拒絶理由通知書の備考欄にも記載したが、平成24年4月4日付け意見書ではこれに対して異論を述べていない。)。
したがって、両者は、
「一体型の使い捨て吸収性物品であって、
第1の締結具と第2の締結具と、
衣類面表面と身体面表面とを有する吸収性コアと、
前記吸収性コアの前記身体面表面に隣接して配置された液体透過性トップシートと、
前記吸収性コアの前記衣類面表面に隣接して配置された液体不透過性バックシートと、
前記第1締結具と第2締結具と横方向に整合配置され、少なくとも1つの主要伸張方向を有する少なくとも1つのエラストマー要素であって;前記エラストマー要素は前記バックシートに接合され、前記エラストマー要素と前記バックシートの重なり合いは伸張区域を生成し、前記エラストマー要素の主要伸張方向における弛緩経路長は、前記バックシートの重なり合った領域内における全経路長よりも短い、ところのエラストマー要素と、
を備える、一体型の使い捨て吸収性物品。」
である点で一致し、次の各点で相違している。

[相違点1]
本願発明では、第1の締結具が第1の伸張耳部に、第2の締結具が第2の伸張耳部に、それぞれ設けられるのに対して、引用発明では、このような特定のない点。

[相違点2]
本願発明では、バックシートは少なくとも1つの軸線に沿って物理的変化を有し、前記物理的変化は第1バックシート区域及び第2バックシート区域を画定し、前記物理的変化は測定可能な差異であり、前記物理的変化は坪量、厚さ及び密度から成る群から選択される物理的特性によって測定され、エラストマー要素は前記第2バックシート区域に少なくとも部分的に重なり合って接合され、前記エラストマー要素と前記第2バックシート区域の重なり合いは伸張区域を生成するのに対して、引用発明では、このような特定のない点。

以下、上記相違点について検討する、
[相違点1について]
使い捨て吸収性物品において、伸縮可能な耳フラップ(本願発明の「伸張耳部」に相当)に固定部材(本願発明の「締結具」に相当)を設ける点は引用文献1に記載された事項であり、(上記3.(2)参照)、上記相違点1に係る本願発明の構成は当業者が容易になし得たものと認める。

[相違点2について]
使い捨て吸収性物品のバックシートを、少なくとも1つの軸線(おむつの前後方向)に沿って厚さの変化を有し、前記厚さの変化は第1バックシート区域及び第2バックシート区域を画定するものとすることは引用文献4に記載された事項であり(上記3.(3)参照)、引用発明の使い捨て吸収物品のバックシートを当該構成のものとすることは当業者が容易になし得たものと認める。
また、使い捨て吸収性物品のバックシートを、少なくとも1つの軸線(おむつの横方向)に沿って密度の変化を有し(上記3.(4)(b)?(f)より、高圧エンボス部12Hでは、異なるエンボスロールにより第1エンボス加工及びより大きな押圧力による第2のエンボス加工を受けるので、低圧エンボス部12Lと比べて、不織布の圧縮量が大きく、バックシートの平均密度が高くなっていると認められる)、前記密度の変化は第1バックシート区域及び第2バックシート区域を画定することは引用文献5に記載された事項であり(上記3.(4)参照)、引用発明の使い捨て吸収物品のバックシートを当該構成のものとすることは当業者が容易になし得たものと認める。
そして、引用発明に係るバックシートを引用文献4又は引用文献5に記載された構成のものとした場合、エラストマー要素は、バックシートの物理的変化で画定される区域の何れかに少なくとも部分的に重なり合うように接合されることになり、本願発明では第2バックシート区域の物理的特性を特定していないのであるから、当該エラストマー要素が接合された区域を第2バックシート区域と規定することは当業者が適宜なすことであり、この場合、前記エラストマー要素と前記第2バックシート区域の重なり合いは伸張区域を生成するものと認める。
したがって、上記相違点2に係る本願発明の構成は、引用発明と引用文献4又は引用文献5に記載された事項から当業者が容易になし得たものと認める。

なお、平成24年4月4日付け意見書の「(二)引用文献記載の発明との相違」において、請求人は「エラストマー要素が横方向に整合配置しているとは、エラストマー要素が少なくとも1つの主要伸張方向を有し、その伸張方向が第1締結具と第2締結具の間に延びている意味であります。つまり、締結具とエラストマー要素が一つの力線上に位置しています。」と主張しているが、上記のとおり「エラストマー要素が少なくとも1つの主要伸張方向を有し、その伸張方向が第1締結具と第2締結具の間に延びている」ことは引用文献2に記載されていると認められる。
また、請求人は同意見書において、「本願発明は、着用者の解剖学的構造の変化する三次元的性質に適応することができる吸収性物品を提供することにあります(本願明細書の段落0001,0006参照)。本願発明はこの目的に沿って理解され把握されます。
使い捨て吸収性物品の着用者の臀部又はウェストは、形状や硬さが複雑に変化しており、これにフィットする目的のバックシートであって、坪量や厚さや密度が一つの軸線に沿って物理的に変化しているバックシートは、例えば、変化の多い領域には柔らかい性質、そうでないところは比較的剛性で丈夫な性質を有するバックシートである、と当業者は把握できます。」とし、「本願発明の構成によれば、臀部の下部は丈夫な性質を有し臀部の上部は柔らかい性質のバックシートを用い、そのバックシートの上部の締結具の間の柔らかい部分に収縮性のエラストマー要素を設けることにより、着用時にエラストマー要素が収縮し、柔らかい部分のバックシートが着用者の臀部の膨張部からウェストの収縮部にかけてぴたりフィットし、着用者の身体によくフィットする使い捨て吸収性物品を得ることができます。
明らかに、引用文献1-8のいずれのものによっても、上記着用者の解剖学的構造の変化に三次元的に適応する吸収性物品を得ることはできません。」と主張しているが、本願発明では、バックシートは少なくとも1つの軸線に沿って物理的変化を有し、前記物理的変化は第1バックシート区域及び第2バックシート区域を画定することを規定するものの、各区域の位置や各区域の物理的特性の大小関係を限定するものではない。
請求人のこの主張は、請求項に記載した事項に基づかない主張であるから、採用しない。
また、本願発明の目的である「着用者の解剖学的構造の変化に三次元的に適応すること」により、本願発明を特定の構造に規定して認定すべきとする理由もないし、上記引用文献4や引用文献5に記載されたおむつにおいても、臀部や股部の当接するおむつ中央部付近は薄く、或いは密度が低く形成されて柔らかいから(上記3.(3)(b)、(4)(b)参照)、着用者の解剖学的構造の変化に三次元的に適応するといえる。

また、本願発明の作用効果も、引用発明及び引用文献1に記載された事項並びに引用文献4又は引用文献5に記載された事項から当業者が予測できる範囲のものであり、格別顕著なものと認められない。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献1に記載された事項並びに引用文献4又は引用文献5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、当審で通知した拒絶の理由によって拒絶をすべきものである。
よって、原査定は、当審が通知した拒絶の理由によれば妥当であるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-28 
結審通知日 2012-10-02 
審決日 2012-11-07 
出願番号 特願2007-506280(P2007-506280)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A41B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武井 健浩岡▲さき▼ 潤  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 熊倉 強
一ノ瀬 薫
発明の名称 着用者の解剖学的構造に適応できる使い捨て吸収性物品  
代理人 名塚 聡  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 磯貝 克臣  
代理人 岡田 淳平  
代理人 森 秀行  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 永井 浩之  

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