• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01N
管理番号 1271766
審判番号 不服2010-26014  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-17 
確定日 2013-03-21 
事件の表示 特願2000-105135「顆粒状農薬組成物の製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月16日出願公開,特開2001-288004〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 出願の経緯
この出願は,平成12年4月6日を出願日とする出願であって,平成22年5月17日付けで拒絶理由が通知され,同年7月26日に意見書及び手続補正書が提出され,同年8月9日付けで拒絶査定がされ,同年11月17日に拒絶査定に対する審判が請求されるとともに,手続補正書が提出され,平成24年3月12日付けで審尋がなされ,同年5月9日に回答書が提出され,その後,当審による平成24年9月5日付けの拒絶理由通知に対して,同年11月12日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の特許を受けようとする発明は,平成24年11月12日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものであるところ,その請求項1及び2に係る発明は,以下のとおりのものである(以下,それぞれ,「本願発明1」及び「本願発明2」といい,これらを併せて「本願発明」という。)。

「【請求項1】
農薬活性成分の少なくとも1種、界面活性剤、水溶性粉末及び鉱物質微粉を含む混合物を、所定量の水を加えて混練することにより混練物を得る工程と、
得られた混練物を成形せずそのまま解砕する工程と、
得られた解砕物を乾燥する工程と
を有する顆粒状水和組成物の製造法。
【請求項2】
農薬活性成分の少なくとも1種、界面活性剤、水溶性粉末及び鉱物質微粉を含む混合物を、所定量の水を加えて混練することにより混練物を得る工程と、
前記混練物を成形せずそのまま乾燥する工程と、
前記乾燥した混練物を解砕する工程と
を有する顆粒状水和組成物の製造法。」

第3 当審において通知した拒絶の理由
当審で平成24年9月5日付けで通知した拒絶の理由は,「本願発明1?3は,その出願前において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。」という理由を含むものである。
そして,「下記の刊行物」とは,以下のとおりである。
刊行物1:特開平11-240813号公報
刊行物2:工場操作シリーズ「造粒」NO.18,昭和47年7月1日発行 第51-54頁,株式会社化学工業社発行

第4 当審の判断
1 刊行物及び周知例の記載事項
上記刊行物には,以下の事項が記載されている。
(1)刊行物1
(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ポリオキシン化合物を含有する植物病害防除用の顆粒水和剤に関する。」

(1b)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】…すなわち本発明は、水と混合したときの崩壊性、分散性および懸垂性が良好なポリオキシン化合物含有顆粒水和剤を提供することを解決すべき課題とした。」

(1c)「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、ポリオキシン化合物に界面活性剤と水溶性無機物質を混合して顆粒水和剤の形態にすれば、ポリオキシン化合物の植物病害防除作用を効果的に発揮しうることを見出して本発明を完成するに至った。」

(1d)「【0015】また、本発明の顆粒水和剤は、必須成分として水溶性無機物質も含有する。使用する水溶性無機物質は、本発明の顆粒水和剤の造粒性を過度に低下させないものの中から選択するのが好ましい。…中でも硫酸ナトリウムまたは硫酸アンモニウムを使用するのが好ましく、硫酸アンモニウムを使用するのが特に好ましい。
【0016】本発明の顆粒水和剤には、ポリオキシン化合物、界面活性剤、水溶性無機物質の他に、本発明の所期の効果を過度に阻害しない範囲内でその他の成分を添加することもできる。例えば、通常の水和剤に使用されている固体担体を使用することができる。具体的には、ベントナイト、カオリナイト、モンモリロナイト、ジークライトなどの粘土鉱物を使用することができる。また、増量剤などとして、タルク、雲母、石灰、リン灰石、けいそう土、…尿素、ワックス等を使用することもできるが、これらの添加剤は本発明の顆粒水和剤の崩壊性、分散性および懸垂性を過度に阻害しない範囲内で使用する。」

(1e)「【0019】本発明の顆粒水和剤の製造方法は特に制限されず、顆粒水和剤の製造方法として一般に用いられている方法を利用することができる。例えば、スプレードライ法、転動造粒法、流動層造粒法、攪拌混合造粒法、押し出し造粒法、破砕造粒法などにより造粒、顆粒化し、乾燥することによって製造することができる。…
篩にかけるときは、篩の孔眼寸法を適宜調節することによって、所望の粒径範囲内の顆粒を得ることができる。本発明の顆粒水和剤の粒径は、90?500μmの範囲内であるのが好ましく、90?355μmの範囲内であるのがより好ましい。」

(1f)「【0031】…
(実施例3)
ポリオキシンD亜鉛塩原体50部、硫酸アンモニウム30部、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物18部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル2部を全体で500gになるようにビーカーに入れて、十分に混合した。その後、水200mlを徐々に加えて混練し、0.7mmのスクリーンで手押し造粒し、60℃で乾燥した。篩上で整粒して、粒径250?500μmのポリオキシンD亜鉛塩11%を含む顆粒水和剤を得た。」

(2)刊行物2
(2a)「2・2 スピードミル
本機の機構を示すと図のようであり,スクリーンを取除いた写真は第3図のようである.破砕機の機構形式としては水平回転軸形式が多いが,本機の場合は垂直回転軸形式をとり,そのため全面〈360°)開放のスクリーンが取り付けうる構造となっている.したがって他の形式の破砕機では湿式造粒できないものも本機では処理でき,湿式乾式いずれの破砕造粒も可能であることを最大の特長とする.

」(第53頁第6?14行及び第3図)

(2b)「粒の大きさと特長
前記のように,主として機械回転数とスクリーンの目開きの大きさにより粒の大きさは変化するが,例をあげると,たとえば医薬品における打錠前の顆粒づくりにおいて,適正な材料の前処理を行ない,かつ適当な本機の操作のもとで20?80mesh.の粒が約90%以上の歩留まりで本機の工程のみでただちに得ることができる.また機械の調整によりきわめて小さい顆粒も歩留まり良くつくれる.インスタント食品(調味料各種)などの場合も同様で「すぐに溶ける粒」が本機で効果的に造粒できる.」(第54頁第5?11行)

(2c)「用 途
造粒を行なうことは本機の主目的であるが,機構,原理よりみて,粉砕,混合,分散,スクラップの再生などの操作も可能である.とくに造粒についての具体例をあげると,
1)打錠または圧縮成形の前工程としての顆粒づくり(造粒)

(例)医薬品打錠前の顆粒または小径の顆粒(スプレードライヤによる品物に匹敵するもの.セラミック,プラスチック,粉末や金工業に用いる粒。
2)乾燥促進を目的とする造粒

3)ソフトな顆粒づくり
本機の機構上,粉体粒子をかく乱気流の中で相互に衝突せしめ,かつ適当に粒サイズに分散させる結果空隙の多い,ポーラスないわゆるソフトな顆粒がつくられる.
すなわち「すぐに溶ける粒」が得られる.
(例)インスタント食品各種,合成洗剤
4)まとめ
上記の具体例は,ほんの一部にすぎないが,ともかく用途ははなはだ多く化学薬品,医薬品,プラスチック,セラミック,粉末冶金,染料,食料品,製粉,合成洗剤,農薬,肥料,化粧品など各種工業のプロセスにはん用されている.」(第54頁第12?34行)

(3)周知技術
この出願の出願時の技術常識として,以下の周知例1に,以下の事項が記載されている。
周知例1:日本粉体工業協会,造粒便覧,昭和50年5月30日発行,
第549-578ページ

(3a)「6・2 農薬微粒剤の造粒
6・2・1 まえがき
農薬粉剤散布の際の微粉飛散(ドリフト)による環境汚染が問題になるにつれ,ドリフト防止製剤の要請が高まり,昭和45年3月に粉粒剤なる新剤型が登場するに至った.
“粉粒剤″と従来からの粉剤,粒剤との農薬登録上の区分概念は図3・6・12のとおりである.それまでの粉末,細粒の物理性表現が,微粉・粗粉・微粒・細粒の4段階の呼称に改められて,微粉が従来の粉剤に,細粒が従来の粒剤に相当し,両者を除く粗粉?微粒の粒度構成の製剤が“粉粒剤″となった.
微粒区分(48?150メッシュ,297?105μ)の製剤を微粒剤とよび,昭和45年より水稲病害虫防除を主体に一部実用にはいっている^(25)).」(第571ページ第5行?左欄下から第1行)

(3b)「(b)破砕(解砕)造粒法
湿式破砕(ミニマイザー,スピードミル,トーネードミルなど)と,乾式圧縮破砕とに分かれる.湿式破砕は混合・加水混練(ミキサー,ニーダーなど)工程ののち上記機種で解砕し,乾燥後整粒する方式である.… 湿式破砕造粒の問題としては,… 粒が軟らかくなりやすく硬度を上げるバインダーの選択が重要となる,内壁やカッターなどの付着が起こりやすい」(第578ページ左欄下から第7行?右欄第14行)

2 刊行物1に記載された発明
刊行物1には,「ポリオキシン化合物を含有する植物病害防除用の顆粒水和剤に関し」(摘示1a),「ポリオキシン化合物に界面活性剤と水溶性無機物質を混合して顆粒水和剤の形態」(摘示1c)にすること,具体的には,実施例3として,「ポリオキシンD亜鉛塩原体…、硫酸アンモニウム…、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物…、ポリオキシエチレンアルキルエーテル」を混合後,「水200mlを徐々に加えて混練し、…手押し造粒し、60℃で乾燥した。篩上で整粒して、…顆粒水和剤を得」(摘示1f)ることが記載されている。

そうすると,刊行物1には,
「植物病害防除用の顆粒水和剤に関し,ポリオキシン化合物,界面活性剤及び水溶性無機物質を含む混合物に水を加えて混練し,手押し造粒,乾燥して,顆粒水和剤を得る製造方法」の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3 対比・判断
(1)本願発明1について
ア 本願発明1と引用発明の対比
引用発明の「ポリオキシン化合物」及び「植物病害防除用の顆粒水和剤」は,それぞれ,その機能から,本願発明の「農薬活性成分」及び「顆粒状水和組成物」に相当する。
本願発明1は,顆粒状の水和剤を得る製造法であって,段落【0028】の記載から見て,「解砕する工程」で顆粒が形成されていると解され,かかる工程は,引用発明の顆粒の形成工程である「手押し造粒」の工程に相当する。
すると,本願発明1と引用発明は,
「農薬活性成分の少なくとも1種,界面活性剤及び水溶性物質を含む混合物を,所定量の水を加えて混練することにより混練物を得る工程と,得られた混練物の顆粒を形成する工程と,その後の乾燥工程とを有する顆粒状水和組成物の製造法」の発明で一致し,以下の点で相違する。

相違点1-1:顆粒の形成工程に関し,本願発明1は,「混練物を成形せずそのまま解砕する」工程である一方,引用発明は,「手押し造粒」の工程である点

相違点1-2:本願発明1は,その成分として「水溶性粉末及び鉱物質微粉」を含むものである一方,引用発明は,「粉末」とは特定されない「水溶性無機物質」を含み,「鉱物質微粉」を含まないものである点

イ 相違点の検討
(ア)相違点1-1について
本願発明1の「混練物を成形せずそのまま解砕する」とは,発明の詳細な説明の段落【0028】?【0029】の記載である,「または全く成形せず混練機より取り出したままで乾燥した後、解砕機にて解砕し、必要粒度に篩別することにより得られる。…用いることのできる解砕機としては、例えば、ニュースピードミル(岡田精工(株))、パワーミル(株)ダルトン)などが挙げられる」から解するに,いわゆる破砕造粒を包含するものと認められる。
そこで,刊行物1には,造粒方法に関し,「顆粒水和剤の製造方法として一般に用いられている方法を利用することができる。例えば、…破砕造粒法などにより造粒、顆粒化し、乾燥することによって製造することができる」(摘示1e)ことが記載されており,一方,この「破砕造粒」手段として,本願の実施例において採用しているスピードミルは,刊行物2に記載されるように「空隙の多い,ポーラスないわゆるソフトな顆粒がつくられる.すなわち「すぐに溶ける粒」」を効果的に造粒でき(摘記2b,2c),農薬を含めた各種工業のプロセスにはん用されている(摘記2c)ものである。
そして,この「空隙の多い,ポーラスないわゆるソフトな顆粒」は,水溶性の成分を含有する場合,水中で崩壊しやすい粒子であることは明らかである。
また,周知例1にあるように,「微粒区分(48?150メッシュ,297?105μ)」(摘記3a)にある農薬微粒剤の「破砕(解砕)造粒法」において,材料の混合・加水混練工程ののち,湿潤状態における湿式破砕をスピードミルで行うことも常套手段(摘記3b)であって,粒が軟らかくなりやすい(摘記3b)こともよく知られていることである。
しかるに,引用発明において,「水と混合したときの崩壊性」(摘記1b)を良好にするという課題達成のために,刊行物1に「顆粒水和剤の製造方法として一般に用いられている方法」として記載される「破砕造粒法」の慣用手段である,スピードミルによる破砕造粒を,その「手押し造粒」の工程に代えて採用し,「混練物を成形せずそのまま解砕する」工程とすることは,当業者が容易になし得ることといえる。

(イ)相違点1-2について
引用発明において,「水溶性無機物質」は,その実施例において「硫酸アンモニウム」を用いている。これは,本願の明細書の段落【0023】に,「水溶性粉末としては、例えば…糖類、尿素、及び有機酸もしくは無機酸のアルカリ金属塩やアンモニウム塩などが挙げられる」と記載される中の「無機酸のアンモニウム塩」に相当する。
また,引用発明にかかる顆粒水和剤も,使用時において,水への良好な崩壊性が求められることから,当該「水溶性無機物質」は,「粉末」の形態で加えられることが望ましいことは当業者にとって明らかである。実際,刊行物1の実施例3においても,まず,「硫酸アンモニウム」を含む各成分を直接混合していること(摘記1f)から,「水溶性無機物質」としての「硫酸アンモニウム」は,粉末として用いられていると認められる。
そして,「鉱物質微粉」の含有については,刊行物1の段落【0016】に,「本発明の顆粒水和剤には、…通常の水和剤に使用されている固体担体を使用することができる。具体的には、ベントナイト、…などの粘土鉱物を使用することができる。また、増量剤などとして、…けいそう土、…これらの添加剤は本発明の顆粒水和剤の崩壊性、分散性および懸垂性を過度に阻害しない範囲内で使用する。」(摘記1d)として,通常の水和剤に使用される任意添加成分として記載されている。
よって,引用発明において,「粉末」形態として「水溶性無機物質」を,そして「鉱物質微粉」を,顆粒水和剤に含有させることは,当業者が必要に応じ適宜選択し得る技術事項であるといえる。

ウ 本願発明1の効果について
本願発明1の効果について,本願の明細書には,
「【0013】従来の顆粒状農薬組成物(顆粒状水和剤)の製造法によれば、スラリー調合時に農薬活性成分が吸着担体から遊離しやすくなり(噴霧乾燥法の場合)、あるいは、加圧による染み出しにより、農薬活性成分が吸着担体から遊離しやすくなり(押出し法)、顆粒状農薬組成物を水で希釈した際における崩壊・分散性が非常に悪くなる場合があった。本発明の製造法によれば、かかる不都合はなく、崩壊。分散性に優れた顆粒状農薬組成物をものでも、容易に製剤化できる。」及び
「【0014】また本発明により、施用場面で想定される温度範囲で固体形状を保ち得ない農薬活性成分や、特に効力の向上のために添加される液状の界面活性剤等を固体化するために吸着担体に吸着したものを含有した顆粒状水和剤を製造する場合に、崩壊・分散性の劣化を抑えた農薬製剤を容易に生産できる。」との記載がある。
これらの効果は,刊行物1に記載される「破砕造粒」や「固体担体」を採用したことによって必然的に伴う効果であるとともに,「崩壊・分散性」に優れる点については,上述のように,スピードミルにて造粒された顆粒が崩壊性に優れることはよく知られていること,そして,造粒時に混練された原料を圧縮しないことによって,顆粒の嵩密度が上昇せず,崩壊性が損なわれないことは明らかであるから,当業者の予想を超えるものともいえず,格別顕著なものとも認められない。

(2)本願発明2について
ア 本願発明2と引用発明の対比
本願発明2は,顆粒状の水和剤を得る製造法であって,段落【0028】の「全く成形せず混練機より取り出したままで乾燥した後、解砕機にて解砕し、必要粒度に篩別する」記載から見て,本願発明1同様「解砕する工程」で顆粒が形成されていると解され,かかる工程は,引用発明の顆粒の形成工程である「手押し造粒」の工程に相当する。
すると,本願発明2と引用発明は,
「農薬活性成分の少なくとも1種,界面活性剤及び水溶性物質を含む混合物を,所定量の水を加えて混練することにより混練物を得る工程と,得られた混練物の顆粒を形成する工程を有する顆粒状水和組成物の製造法」の発明で一致し,以下の点で相違する。

相違点2-1:顆粒の形成工程に関し,本願発明2は,「混練物を成形せずそのまま乾燥する工程」の後に,「解砕する工程」を有する一方,引用発明は「手押し造粒」に先立って「混練物を乾燥する工程」を有さない点

相違点2-2:本願発明2は,その成分として「水溶性粉末及び鉱物質微粉」を含むものである一方,引用発明は,「粉末」とは特定されない「水溶性無機物質」を含み,「鉱物質微粉」を含まないものである点

イ 相違点の検討
(ア)相違点2-1について
湿式破砕造粒においては,周知例1に記載されるように「内壁やカッターなどの付着が起こりやすい」(摘記3b)という当業者によく知られた課題が存在すること,また,破砕造粒前の乾燥工程は,求められるサイズの顆粒に効率良く「破砕」されるための水分調整工程と認められる。
よって,上記「(1)イ(ア)」に記載したように,引用発明において,顆粒の形成工程である,「手押し造粒」を,スピードミルによる破砕造粒にすることは,当業者にとって容易になし得ることであり,その際,あらかじめ混練物に強制的な乾燥工程を設けて解砕(破砕)条件を調整する,すなわち「混練物を成形せずそのまま乾燥する工程」を設けることは,当業者が発明を実施するに際しての,単なる設計上の微差に過ぎない。

(イ)相違点2-2について
相違点2-2は,本願発明1について述べた,相違点1-2と同じであり,上記「(1)イ(イ)」に記載したとおりである。
よって,引用発明において,「粉末」形態として「水溶性無機物質」を,そして「鉱物質微粉」を,顆粒水和剤に含有させることは,当業者が必要に応じ適宜選択し得る技術事項であるといえる。

ウ 本願発明2の効果について
本願発明2の効果は,本願の明細書中に明記するところはないが,その記載から見て,上記「(1)ウ」において,本願発明1について記載したものと同様と認められる。そして,乾燥後に混練物の破砕することについて,その効果について検討すると,スピードミルは,「湿式乾式いずれの破砕造粒も可能である」(摘記2a)手段であることもよく知られていること,そして,本願の実施例として,本願発明2に相当する具体例の記載がないことからも,本願発明2によって,当業者の予想を超える格別顕著な効果が奏せられるものとは認められない。

4 小括
よって,本願発明1及び2は,刊行物1?2記載の発明及び周知例1に記載の技術常識に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 請求人の主張について
(1)請求人の主張
請求人は,平成24年11月12日に提出された意見書において,以下の主張をしている。

ア 「本願発明の製造法により得られる顆粒状水和組成物は、「すぐ溶ける」ということを特徴とするものではなく、「使用時の水和性、分散性に優れる」すなわち、「水で希釈した際における崩壊・分散性に優れる」ことを特徴とするものです。
ここで、「水で希釈した際における崩壊・分散性に優れる」とは、本願明細書の実施例の第1表に示されていますように、優れた自己崩壊性(糸状分散)及び水中崩壊性、すなわち、水で希釈した場合に、顆粒状水和組成物が、崩壊分散物を軌道に残しながら沈降し、きれいに分散し(自己崩壊性(糸状分散性)に優れる)、短時間で、目に見えなくなるまで均一に分散した(水中崩壊性に優れる)という意味であり(段落(0035)、(0036))、「すぐ溶ける」という意味ではありません。」(意見書 2) 5.)

イ 「農薬活性成分の少なくとも1種、界面活性剤及び水溶性粉末に加えて、水に不溶性の鉱物質微粉を含み、水で希釈した際における崩壊・分散性に優れる顆粒状農薬組成物(顆粒状水和組成物)を効率よく製造する方法として、数ある顆粒状水和剤の製造法の中から、農薬活性成分の少なくとも1種、界面活性剤及び水溶性粉末に加えて、水に不溶性の鉱物質微粉を含む混合物に、所定量の水を加えて得られる混練物を得る工程と、得られた混練物を成形せずそのまま解砕する工程と、得られた解砕物を乾燥する工程(本願発明1)による方法か、前記混合物に、所定量の水を加えて混練することにより、混練物を得る工程と、得られた混練物を成形せずそのまま乾燥する工程と、前記乾燥した混練物を解砕する工程(本願発明2)による方法を採用することは、いわゆる当業者であっても、容易に想到することができた事柄では
ないと考えます。」(意見書 2) 5.)

(2)検討
上記アの主張について検討する。
引用発明においても,相違点1-1について,上記「3(1)イ(ア)」で述べたとおり,「水と混合したときの崩壊性」を課題とするものであること,そして,引用発明で得られる「空隙の多い,ポーラスないわゆるソフトな顆粒」を,水溶性物質を混練した混合物の破砕によって形成した場合,その構造は「ポーラス」であることから,水に接する表面積が大きくなること,さらに「ソフト」であることからも,水への崩壊性が高いことは明らかである。よって,刊行物2記載の「すぐ溶ける」という効果は,顆粒状水和組成物を,水に適用したときの自己崩壊性が高いことと実質的に同じと認められるから,請求人のアの主張は採用することができない。

次に,上記イの主張について検討する。
請求人は,「数ある顆粒状水和剤の製造法の中から」,本願発明1又は2の発明特定事項をすべて具備する方法を採用することの想到困難性を主張している。しかしながら,上述のように,引用発明は,本願と同一の課題である「水と混合したときの崩壊性、分散性および懸垂性が良好」(摘記1b)であることをその課題とし,顆粒状水和組成物の有効成分については,いずれも刊行物1に記載され,その造粒方法として,「破砕造粒法」が採用できることも記載されている。そして,「破砕造粒法」は,農薬粒剤の製造分野において,軟らかい顆粒を形成する手段として,周知かつ慣用のものであって,その採用に格別な困難性を伴うものともいえない。よって,イの主張も採用することができない。

6 まとめ
したがって,本願発明1及び2は,刊行物1?2に記載された発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり,本願発明1及び2は,特許を受けることができないものであるから,その余を検討するまでもなく,この出願は,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-15 
結審通知日 2013-01-22 
審決日 2013-02-04 
出願番号 特願2000-105135(P2000-105135)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柿崎 美陶藤原 浩子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 大畑 通隆
齋藤 恵
発明の名称 顆粒状農薬組成物の製造法  
代理人 大石 治仁  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ