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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23K
管理番号 1271785
審判番号 不服2011-16761  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-04 
確定日 2013-03-21 
事件の表示 特願2003-505814「溶接情報を管理するシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月27日国際公開、WO02/103567、平成16年10月 7日国内公表、特表2004-530561〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成14年5月8日(優先権主張2001年6月18日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成20年6月17日付けで拒絶の理由が通知され、同年10月20日に手続補正がなされ、平成21年11月16日付けで拒絶の理由が通知され、平成22年2月22日に手続補正がなされ、平成23年3月30日付けで平成22年2月22日付け手続補正を却下するとともに拒絶をすべき旨の査定がされた。
これに対し、平成23年8月4日に本件審判の請求とともに手続補正がなされ、平成24年4月19日に回答書が提出され、同年5月10日付けで拒絶理由が通知され、同年9月18日に誤訳訂正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年9月18日に誤訳訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。

「溶接情報を通信するシステムであって、
ネットワーク(160)に動作可能に結合し、前記溶接情報の要求を開始可能な複数の溶接機(104、804)と、
前記溶接情報をストアするデータストア(156、868、990)を有し、前記ネットワーク(160)を介して前記複数の溶接機(104、804)と通信するリモートシステム(120、832)であって、前記複数の溶接機(104、804)からの前記要求に応答して、前記複数の溶接機(104、804)からの前記要求に基づき、前記データストア(156、868、990)から前記溶接情報を検索して、前記検索された前記溶接情報を前記複数の溶接機(104、804)に通信する、リモートシステム(120、832)とを備え、
前記リモートシステムは、前記リモートシステムと前記複数の溶接機との間の認証および許可サービスを提供するとともに、暗号化されたデータ通信を提供するセキュリティコンポーネントを含み、前記セキュリティコンポーネントと前記複数の溶接機との間でネゴシエーションを行うことを特徴とするシステム。」

3.刊行物記載の発明
(1)刊行物1
これに対し、本願優先日前に頒布された刊行物であって、拒絶理由において引用された特公昭63-25866号公報(以下「刊行物1」という。)には、次のように記載されている。

ア.第2ページ第3欄第12行?第4欄第1行
「以下、この発明の一実施例を図について説明する。第1図はこの発明の一実施例を示しており、同図において、1は溶接機、2は複数の溶接機1を制御する溶接機制御装置である。3はこれら複数の溶接機制御装置の制御管理を行う上位コンピユータである。上位コンピユータ3と溶接機制御装置2はデータリンク伝送路4によつて接続されている。
第2図は上位コンピユータ3、及び溶接機制御装置2の構成を示している。上位コンピユータ3は、入力装置21及び表示、印字装置22が接続されるマンマシン・インターフエイス23と入力装置21より入力された溶接情報(被溶接材の材質、寸法等)から溶接条件(溶接機のアーク電圧および電流、溶接ワイヤの送給速度、溶接トーチのオシレート等)を検出する検索部24がある。溶接条件は溶接条件メモリー25に記憶されている。・・・。
一方、溶接機制御装置2はデータリンク伝送路4とデータリンクインターフエイス31によりインターフエイスされている。データリンクインターフエイス31はデータリンク制御部32により制御されている。データリンクインターフエイス31を通して受信された溶接条件設定値はデーターメモリー35に格納された後制御パターン演算部33において演算され入出力インタフエイス36を経て溶接制御サーボ機構37により溶接機1を制御する。」

イ.第2ページ第4欄第10?38行
「次にこの実施例の動作を第4図に示す上位コンピユータと各溶接機制御装置間のデータリンクタイミング図に基づき説明する。なお、上位コンピユータ3にはn台の溶接機制御装置#1?#nかデータリンク伝送路4により接続されている。
即ち、溶接機制御装置2の#1よりの溶接終了信号41を上位コンピユータ3が受信すると上位コンピユータ3は#1へ溶接条件の設定値42を送信し、送信完了とともに溶接開始指令43を#1へ送信する。その後#1?#nの溶接機制御装置より溶接終了信号を上位コンピユータ3が受信しない限り、上位コンピユータ3は各溶接機制御装置#1?#nより溶接条件の生データ45を受信し、データ編集の上、表示、印字装置22にて表示、記録等の管理を行う。
上位コンピユータ3より溶接条件設定値を受信した溶接機制御装置2は上位コンピユータ3より溶接開始指令を受信後、自らに接続されている溶接機1の制御を開始する。溶接機制御の溶接条件一例を第5図に示す。
以上述べたように、この発明によれば、上位コンピユータと複数台の溶接機制御装置間をデータリンク伝送路によつて接続し、且つ上位コンピユータに溶接条件のデータベースを持ち、溶接情報に基づきその溶接条件のオンライン検索を行ない、それに基づいた溶接制御及び群管理を行なうことができるので、複数台の溶接機を各溶接機に対応した複数の作業者を必要とせずに同時に制御および管理することができる。」

ウ.第1図、第2図
データリンク伝送路4に複数の溶接機制御装置2が接続され、それぞれの溶接機制御装置2に複数の溶接機1が接続されていること。

エ.第3図
上位コンピュータから溶接機制御装置へ溶接条件設定値が送られ、溶接機制御装置から上位コンピュータへ溶接条件の生データが送られること。

上記記載を、図面を参照し、技術常識を踏まえ、本願発明に照らして整理すると、上記刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
「溶接条件設定値、溶接条件の生データを送信するものであって、
データリンク伝送路4に接続された複数の溶接機制御装置2、及びそれぞれの溶接機制御装置2に接続される複数の溶接機1と、
上位コンピユータ3が、前記溶接条件を記憶する溶接条件メモリー25を有し、前記データリンク伝送路4を介して前記複数の溶接機制御装置2と送信するものであって、入力装置21より入力された溶接情報に基づき、前記溶接条件メモリー25から前記溶接条件情報を検索して、前記検索された前記溶接条件設定値を前記複数の溶接機制御装置2に送信するもの。」

(2)刊行物2
同じく、特開2001-16664号公報(以下「刊行物2」という。)には、次のように記載されている。

ア.段落0002?0003
「【0002】
【従来の技術】従来から、プログラマブル・ロジック・コントローラ(以下、PLCと略称する)は、例えば、ベルトコンベアー式の自動組付機など、種々のターゲットシステムを制御する制御装置として、広く使用されている。さらに、近年では、ターゲットシステムの複雑化に伴って、複数台のPLCを互いに連携させて使用することも行われている。また、各PLCからのデータの表示、あるいは、PLCへの制御指示は、当該PLCの近傍などに配される制御用表示装置で行われるだけではなく、例えば、これらの制御用表示装置から離れた場所に設置した制御用ホストコンピュータでも、表示あるいは操作できるように、制御システムを構築することもある。
【0003】具体的には、例えば、図9に示すように、従来の制御システム501では、PLC503が制御の中心として位置付けられており、各PLC503には、ターゲットシステム502の制御対象機器521aやセンサ521bと、表示および制御指示を行う制御用表示装置505とが接続されている。さらに、当該PLC503には、他のPLC503や制御用ホストコンピュータ507が所定のインターフェイス回路を介して直接、あるいは、専用のアダプタを介して間接的に接続されており、PLC503と制御用ホストコンピュータ507との間や各PLC503間における制御データの受け渡しは、PLC503の通信機能を利用して行われている。」

イ.図9
制御用ホストコンピュータ507に複数のPLC503が接続され、各PLC503には、制御対象機器521aと、表示および制御指示を行う制御用表示装置505とが接続されていること。

ウ.段落0027
「【0027】
【発明の実施の形態】本発明の一実施形態について図1ないし図8に基づいて説明すると以下の通りである。すなわち、本実施形態に係る制御システムは、例えば、ターゲットシステムがベルトコンベアー式の自動組付機の場合など、複数のプログラマブル・ロジック・コントローラ(以下では、PLCと略称する)が互いに連携して制御するようなターゲットシステムを制御する場合に、特に好適に使用されるシステムであって、例えば、図1に示すように、ターゲットシステム(制御対象機器)2に接続されたPLC(制御装置)3と、各PLC3に固有の通信プロトコルにて通信する専用ネットワーク4を介して、当該PLC3に接続され、多くの場合、ターゲットシステム2の近傍でターゲットシステム2の作業員により操作されるグラフィック操作パネル(制御用表示装置)5と、各グラフィック操作パネル5間を共通の通信プロトコルで接続する共通ネットワーク6と、当該共通ネットワーク6に接続され、多くの場合、グラフィック操作パネル5よりも離れた場所から制御システム1全体の監視制御あるいは設定などを行う制御用ホストコンピュータ7とを備えている。」

エ.段落0030
「【0030】これにより、PLC3は、グラフィック操作パネル5自体へ、あるいは、グラフィック操作パネル5を介して、他のグラフィック操作パネル5あるいは制御用ホストコンピュータ7へ、センサ21bが取得したデータを送信すると共に、グラフィック操作パネル5自体から、あるいは、グラフィック操作パネル5を介して伝えられた制御指示を受信して制御対象機器21aを制御できる。」

オ.図1
制御用ホストコンピュータ7に、表示および制御指示を行う複数のグラフィック操作パネル5が接続され、各グラフィック操作パネル5にPLC3を介して制御対象機器21aが接続されていること。

上記記載を、技術常識を踏まえ整理すると、上記刊行物2には、次の事項(以下「刊行物2事項」という。)が記載されていると認められる。
「自動組付機など、種々のターゲットシステムを、複数台のPLCを互いに連携させて使用し制御するものにおいて、
制御用ホストコンピュータ507に複数のPLC503が接続され、各PLC503には、制御対象機器521aと、表示および制御指示を行う制御用表示装置505とが接続されるか、又は、制御用ホストコンピュータ7に、表示および制御指示を行う複数のグラフィック操作パネル5が接続され、各グラフィック操作パネル5にPLC3を介して制御対象機器21aが接続され、
制御指示は、各PLC503又はPLC3の近傍に配される、制御用表示装置505又はグラフィック操作パネル5で行われるもの。」

4.対比・判断
本願発明と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明の「溶接機制御装置2、及びそれぞれの溶接機制御装置2に接続された複数の溶接機1」と本願発明の「溶接機(104、804)」とは、「溶接機器」である限りにおいて一致する。
刊行物1発明における「溶接条件(設定値)」は本願発明における「溶接情報」に相当し、同様に、「送信するもの」は「通信する(リモート)システム」に、「データリンク伝送路4に接続された」は「ネットワーク(160)に動作可能に結合し」に、「記憶する」は「ストアする」に、「溶接条件メモリー25」は「データストア(156、868、990)」に、相当する。

そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致する。
「溶接情報を通信するシステムであって、
ネットワークに動作可能に結合し、前記溶接情報の要求を開始可能な複数の溶接機器と、
前記溶接情報をストアするデータストアを有し、前記ネットワークを介して前記複数の溶接機器と通信するリモートシステムであって、前記データストアから前記溶接情報を検索して、前記検索された前記溶接情報を前記複数の溶接機器に通信する、リモートシステム。」

そして、以下の点で相違する。
相違点1:溶接機器について、本願発明は「溶接機」であるが、刊行物1発明は「溶接機制御装置及びそれぞれの溶接機制御装置に接続された複数の溶接機」である点。
相違点2:溶接情報の検索について、本願発明では溶接機が「溶接条件設定値データの要求を開始可能」であり「複数の溶接機からの要求に応答して、前記複数の溶接機からの前記要求に基づき」行われるが、刊行物1発明では上位コンピユータの「入力装置より入力された溶接情報に基づき」行われる点。
相違点3:リモートシステムについて、本願発明は「リモートシステムと前記複数の溶接機との間の認証および許可サービスを提供するとともに、暗号化されたデータ通信を提供するセキュリティコンポーネントを含み、前記セキュリティコンポーネントと前記複数の溶接機との間でネゴシエーションを行う」ものであるが、刊行物1発明は明らかでない点。

相違点1について、検討する。
本願発明の「溶接機」は、「溶接情報の要求を開始可能」なものであり、明細書の段落0014の記載からも、「コントローラ」機能を含むものである。
本願発明の「溶接機」は、「コントローラ」と「溶接機」との関係が一対一である旨、特定されておらず、一の溶接機制御装置に複数の溶接機が接続されるものを排除していないから、この点は、実質的相違点ではない。
仮に、相違点であるとして、一応検討する。
刊行物1発明では、一の溶接機制御装置に複数の溶接機が接続されているから、当該複数の溶接機は同一の溶接条件で作動し、同時に大量の溶接が可能である。
しかし、溶接物の数量が少量で、一の溶接機制御装置に対し、溶接機が一台で十分であれば、あえて、一の溶接機制御装置に複数の溶接機を接続することはない。
よって、この点は、溶接対象の数量の多寡に伴う設計的事項にすぎない。

相違点2について、検討する。
刊行物2事項は、上記のとおり、本願発明と同様、複数の作業機器を制御するため、個々の作業機器と中央側とのそれぞれに制御装置を有する制御システムに関するものである。
本願発明の「溶接機」は、上記のとおり「コントローラ」を含むものであるから、刊行物2事項の「PLC503、3」、「制御対象機器521a、21a」、「制御用表示装置505、5」は全体として本願発明の「溶接機」と共通する「作業機器」ということになる。
すなわち、刊行物2事項を整理すると、以下のとおりとなる。
「複数の作業機器を制御するため、個々の作業機器と中央側とのそれぞれに制御装置を有する制御システムにおいて、制御指示は、個々の作業機器で操作できるようにしたもの。」
刊行物1発明における制御指示は、中央側でなされるものであるが、刊行物2事項を踏まえ、個々の溶接機からも行えるようにすることで、利便性が向上することから、刊行物2事項を適用し、個々の溶接機が、溶接情報の検索を「溶接条件設定値データの要求を開始可能」であり「複数の溶接機からの要求に応答して、前記複数の溶接機からの前記要求に基づき」行うものとすることは、必要に応じてなしうる設計的事項にすぎない。

相違点3について、検討する。
情報通信分野において、相手の認証および許可を行い、暗号化された通信を提供する手段(本願発明の「セキュリティコンポーネント」)を含み、これにより通信を行う(本願発明の「ネゴシエーション」)ものは、特開2000-250863号公報の要約、特開平11-168461号公報の要約、特開平5-103094号公報の要約、特開平4-195655号公報の第3ページ左上欄第6行?左下欄第19行にみられるごとく周知である。
しかも、制御システムである刊行物2の段落0049?0056において、相手の認証および許可を行うことが記載されている。
刊行物1発明においても、情報の誤伝達による誤制御の防止は当然望ましいことであるから、かかる周知技術を適用し、相違点3に係るものとすることに困難性は認められない。

また、各相違点を総合しても、格別の技術的意義が生じるとは、認められない。

5.むすび
本願発明は、刊行物1発明、刊行物2事項、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本願は拒絶されるべきものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-18 
結審通知日 2012-10-23 
審決日 2012-11-05 
出願番号 特願2003-505814(P2003-505814)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 刈間 宏信
菅澤 洋二
発明の名称 溶接情報を管理するシステムおよび方法  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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