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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1271789
審判番号 不服2011-18222  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-23 
確定日 2013-03-21 
事件の表示 特願2007-316368「インクセット、インクジェット記録方法及び記録物」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月 9日出願公開、特開2008-239951〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年12月6日(優先権主張 平成19年3月1日)を出願日とする出願であって、平成23年3月7日付けで拒絶理由が通知され、同年5月6日付けで特許請求の範囲及び明細書についての手続補正がされ、同年5月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月23日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、特許請求の範囲及び明細書についての手続補正がされたものである。
その後、当審において、平成24年9月6日付けで前置報告書に基づく審尋がされ、同年11月6日付けで回答書が提出されている。


第2 平成23年8月23日付けの手続補正についての補正の却下の決定
【補正の却下の決定の結論】
平成23年8月23日付けの手続補正を却下する。

【理由】
I.補正の内容
平成23年8月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項3の記載を、以下の(A)から(B)とする補正事項aを含む(下線部は補正部分である。)。

(A)「【請求項3】
金属顔料を含むメタリックインク組成物と、
有彩色インク組成物、黒色インク組成物、白色インク組成物からなる群から選択された少なくとも1種以上の光硬化型インク組成物と、
を備えたインクセットであって、
前記金属顔料が、平板状粒子であり、該平板状粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZとした場合、該平板状粒子のX-Y平面の面積より求めた円相当径の50%平均粒子径R50が0.5?3μmであり、かつ、R50/Z>5の条件を満たす金属顔料である、インクセット。」

(B)「【請求項3】
金属顔料としてアルミニウム又はアルミニウム合金を含むメタリックインク組成物と、
有彩色インク組成物、黒色インク組成物、白色インク組成物からなる群から選択された少なくとも1種以上の光硬化型インク組成物と、
を備えたインクセットであって、
前記金属顔料が、平板状粒子であり、該平板状粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZとした場合、該平板状粒子のX-Y平面の面積より求めた円相当径の50%平均粒子径R50が0.5?3μmであり、かつ、R50/Z>5の条件を満たす金属顔料である、インクセット。」

II.当審の判断
上記の補正事項は、補正前の請求項3に記載の「金属顔料を含むメタリックインク組成物」における、金属顔料について、「アルミニウム又はアルミニウム合金」との限定を付加するものであって、これらの限定の付加によっても、産業の利用分野及び解決しようとする課題は同一のままであるから、上記の補正事項を含む本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正により特許請求の範囲が減縮された請求項3に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

III.独立特許要件
1 本件補正発明
本件補正後の請求項3に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)は、上記Bに記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 刊行物及びその記載事項
原査定、及び、前置報告書に基づく審尋にて示した、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である、特開2004-9359号公報(以下、「引用文献1」という。)、及び、国際公開第2006/101054号(以下、「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている(「…」は記載の省略を表す。)。

[1] 引用文献1(特開2004-9359号公報)
(1a)「【0090】
実施例1
(インクジェットヘッド/インクジェットプリンタエンジン)
図1は、本発明に用いる紫外線硬化型インクを用いるインクジェットプリンタの一実施例であるインクジェットヘッドの構成断面図である。

【0093】
…ノズル径を20μmに…した。…
【0094】
図2は前記インクジェットヘッドを有し、紫外線の照射光源を配置したインクジェットプリンターの概略構成図を示す。プリンタAは1個のインクジェットヘッドで印字した直後に紫外線が照射される照射光源の配置となっ…たものである。
【0095】
(インクジェット用インクの作製)
〈インクセットA〉
表1に示す組成(各質量部を表す)でイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)のインクセットAを作製した。
【0096】
【表1】


【0099】
(インクジェット記録工程)
インクセットA…を…プリンタAにセットした後、記録媒体上に射出を行いインクジェット記録(画像形成)を行った。各インクの射出の後、1色毎に下記照射光源を集光し、インク着弾後0.1秒後に照射が始まるよう露光系を配置し紫外線を照射した。」

(1b)「【0080】
…黒色及びシアン、マゼンタ、イエローの3原色顔料のほか、赤、緑、青、茶、白等の特定色顔料、金、銀色等の金属光沢顔料、無色の体質顔料、プラスチックピグメント等を使用することもできる。…インク組成物に用いられる色材は、インク質量に対し0.5?30質量%、好ましくは1?15質量%の範囲で使用される。」

(1c)「【0081】
本発明においては、分散された顔料を用いることが好ましい。…本発明の水性顔料インクに使用する顔料分散体の平均粒径は10?200nmが好ましく、50?100nmがより好ましい。」

[4] 引用文献4(国際公開第2006/101054号)

(4a)「[0002] 従来、印刷物上で金属光沢を再現する為には、アルミニウム、金、銀、黄銅等の金属または合金からなる顔料、パール顔料からなる印刷インキ…が用いられてきた。
また、近年のインクジェット印刷技術の発達によって、インクジェット印刷でも金属光沢を有する印刷物を得たいと言う要望が高まっている。
一方、現在メタリック顔料用として市販されているアルミニウム顔料では、平均粒子径が10μm以上であり…、インクジェットプリンタの微細な(直径30μm以下)ノズル、ろ過フィルタを通過させる事が非常に困難である。また、これらアルミニウム顔料は、粒子径が大きすぎる為に鏡面光沢を得る事が難しいという欠点があった。加えてアルミニウム顔料は粒子径を低下させると、周囲の水分と反応するようになる為、…通常インクジェットで用いられる顔料の平均粒子径である200nm以下というものは作成できない。
[0003] 他方では、金・銀等の貴金属コロイドを用いて基材上に金属薄膜を作成する方法があるが、平均粒子径数十nmである金属コロイド粒子は金属光沢を再現出来ない。例えば、安定な金のコロイド粒子は粒子径が10?20nm程度であり、この状態ではコロイド分散液の色は紫色である。この場合、金の薄膜を得る為には150℃以上で加熱する必要がある。…熱処理をする場合には、印刷メディアが非常に限定されてしまうという欠点がある。…」

(4b)「[0005] そこで、本発明の目的は前記従来技術の問題点を解消し、金属光沢を有する印刷物の作成が可能であり、ノズル径が30μm以下のインクジェットノズルを用いたプリンタでも安定な印刷が可能であり、熱処理等も不要なため印刷メディア(記録媒体)の限定もされないインクジェット記録を可能にする、…メタリック顔料インク組成物およびインクジェット記録方法を提供することである。」

(4c)「[0006] 本発明者は、インク組成物中に含有させる金属箔片を用いたメタリック顔料の平均粒径に関与する因子および粒度分布における最大粒子径を特定の範囲とすることにより、インクジェット記録における印字安定性及び記録物の光沢性が向上することを見いだし、本発明に到達したものである。」

(4d)「[0057]…本発明のインク組成物を用いるインクジェット記録方法では、ノズル径が30μm以下のインクジェットヘッドを用いることが好ましい。
また、本発明のメタリック顔料の平均粒子径とインクジェットヘッドのノズル径との比(平均粒子径/ノズル径)が0.15以下であることが好ましい。」

(4e)「[0058]…
[実施例1]
1.アルミニウム顔料分散液の製造
(1)膜厚100μmのPETフィルム上に、下記組成の樹脂層塗工液をスピンコート法によって均一な液膜を形成した後、乾燥させて樹脂薄膜層を作成した。
[0059](樹脂層塗工液)
ポリビニルブチラール樹脂(エスレックBL-10、
積水化学工業(株)製) 3.0重量%
グリセリン 2.0重量%
IPA(イソプロピルアルコール) 残量
[0060](2)下記の装置を用いて、上記の樹脂層上に、膜厚70nmのアルミニウム蒸着層を形成した。
装置:(株)真空デバイス、VE-1010形真空蒸着装置
[0061](3)上記方法にて形成した樹脂層とアルミニウム蒸着層の積層体を有するPETフィルムをIPA中で超音波分散機を用いて剥離・微細化・分散処理を同時に12時間行い、分散処理積算時間12時間のアルニミウム顔料(メタリック顔料とも称する)分散液を作製した。
この方法にて得られたアルミニウム顔料分散液の顔料含有量は5.0wt%であった。
分散機:(株)アズワン製、超音波洗浄機 VS-150
[0062](4)上記メタリック顔料IPA分散液を一昼夜放置し、容器底部に沈降そた粗大粒子を除去することで、分級処理を行った。
このメタリック顔料IPA分散液にジエチレングリコールジエチルエーテルを添加し、ロータリーエバポレータを用いてIPAの留去、顔料の濃縮を行った。
濃縮操作後、熱分析装置を用いて顔料濃度、剥離樹脂濃度を求め、顔料濃度が5重量%になるように濃度を調整した。その際の剥離剤であるポリビニルブチラール濃度は2.5重量%であった。
このような操作を行い、メタリック顔料ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEGdEE)分散液を調製した。
熱分析装置:セイコー・インストゥルメンツ製 EXSTAR6000 TG/DTA6200
[0063]2.粒子径及び粒度分布評価
上記のアルミニウム顔料分散液を下記の装置を用いて、粒子径、粒度分布測定を行った。評価結果を下記表1に示す。
粒子径、粒度分布測定:(株)セイシン企業製 LMS-30
[0064]3.平均厚みの測定
インク組成物中のメタリック顔料の平均厚みの測定は、電子顕微鏡像より無作為に選んだ10個の平均厚みを測定し、その平均を採ることにより評価した。
[0065]4.メタリック顔料含有インク組成物の作製
上記方法にて作成したアルミニウム顔料分散液を用いて、下記組成になるようにメタリック顔料含有インク組成物1を調整した。溶媒および添加剤を混合かつ溶解し、インク溶媒とした後に、顔料分散液をインク溶媒中に添加して、更に常温で30分間混合撹拌した。
[0066](メタリック顔料含有インク組成物1)
アルミニウム顔料(固型分) 1 wt%
ポリプロピレングリコール 20 wt%
(関東化学製、トリオール型、平均分子量300)
BYK-UV3500(ブックケミー・ジャパン製) 0.2wt%
ジエチレングリコールジエチルエーテル 60 wt%
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル 18.8wt%
[0067]5.ろ過性試験
この混合撹拌後のメタリック顔料含有インク組成物について、ろ過精度10μmのステンレスレスメッシュフィルターを用いてろ過性を評価した。評価結果を表1に示す。
[0068]6.記録・印刷安定性、光沢性試験
セイコーエプソン(株)製インクジェットプリンタEM-930C(ノズルφ:25μm)を用いて、同社製写真用紙<光沢>(型番KA450PSK)上に印刷を行い、金属光沢を有する印刷面が得られることを確認した。
[0069]7.総合評価
上記6の結果より以下のように判定した。
A:インクジェット方式の記録装置で問題なく使用できる。
B:インクジェット方式の記録装置では、使用が困難である。
C:インクジェット方式の記録装置では、使用が不可能と判断される。
[0070]…
[実施例3]
実施例1と同じ操作を行った。但し、分散処理積算時間12時間を24時間に延長しメタリック顔料含有インク組成物3を調製した。実施例1と同様の各評価結果を表1に示す。

[0074][表1]

[0075] なお、表中の×10、×50、×90は、粒度分布における小粒径側からの累積値がそれぞれ、10%、50%、90%での粒子径を示すものでありここで述べる平均粒子径とは×50の数値である、×_(MAX)は、粒度分布における最大粒子径を示すものである。

[0083]〔日本工業規格に基づく鏡面光沢度の測定〕
インク組成物3(実施例3)…を、セイコーエプソン(株)製EM-930C(ノズル直径:φ25μm)を用いて、同社製写真用紙(光沢;KA450PSK)上に記録(ベタ印刷)した。該記録物を、コニカミノルタ株式会社製 光沢度計 MULTIGLOSS 268を用い、JIS Z 8741(1997)に基づく方法で、20°、60°の光沢度評価を実施した。その結果を以下に示す。
[0084][表2]

[0085] 表2から明らかなように、本発明に係る各実施例のインク組成物は…優れた金属光沢を有する記録面が得られることを確認した。」

3 引用文献1に記載された発明
ア (1a)には、インクジェットプリンターで用いる紫外線硬化型インクである、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)のインクセットであって、イエロー(Y)が、色材としてのCI pigment Yello 13とカチオン重合性化合物と酸増殖剤とカチオン重合開始剤と開始剤助剤とを含有する紫外線硬化型インクであり、マゼンタ(M)が、色材としてのCI pigment Red 57:1と、カチオン重合性化合物と酸増殖剤とカチオン重合開始剤と開始剤助剤とを含有する紫外線硬化型インクであり、シアン(C)が、色材としてのCI pigment Blue 15:3とカチオン重合性化合物と酸増殖剤とカチオン重合開始剤と開始剤助剤とを含有する紫外線硬化型インクであり、ブラック(K)が、色材としてのCI pigment Black 7と、カチオン重合性化合物と酸増殖剤とカチオン重合開始剤と開始剤助剤とを含有する紫外線硬化型インクである、インクセットが記載されている。

イ したがって、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「インクジェットプリンターで用いる、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の紫外線硬化型インクからなるインクセット。」
(以下、「引用発明1」という。)

4 本件補正発明と引用発明1との対比
本件補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の紫外線硬化型インク」は、本件補正発明の「有彩色インク組成物、黒色インク組成物、白色インク組成物からなる群から選択された少なくとも1種以上の光硬化型インク組成物」に相当するから、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
有彩色インク組成物、黒色インク組成物、白色インク組成物からなる群から選択された少なくとも1種以上の光硬化型インク組成物、
を備えたインクセット。

<相違点>
インクセットが、本件補正発明では、「金属顔料としてアルミニウム又はアルミニウム合金を含むメタリックインク組成物」を備え、「前記金属顔料が、平板状粒子であり、該平板状粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZとした場合、該平板状粒子のX-Y平面の面積より求めた円相当径の50%平均粒子径R50が0.5?3μmであり、かつ、R50/Z>5の条件を満たす金属顔料である」のに対して、引用発明1では、そのようなメタリックインク組成物を備えていない点

5 相違点についての判断
引用発明1のインクセットにおいては、引用文献1の(1b)によれば、インク組成物の色材として、黒色及びシアン、マゼンタ、イエローの3原色顔料のほか、金属光沢顔料も使用することもできるとされているところ、引用文献1の(1a)、(1c)によれば、引用発明1のインクセットは、ノズル径が20μmのインクジェットプリンタで用いられ、インクに用いられる顔料の平均粒径は10?200nmが好ましいとされている。
一方、引用文献4の(4a)?(4c)、(4e)によれば、ノズル径が30μm以下のインクジェットノズルを用いたプリンタで印刷するに際し、現在メタリック顔料用として市販されているアルミニウム顔料では、平均粒子径が10μm以上であり、前記のインクジェットプリンタのノズルを通過させる事が非常に困難であるし、そのアルミニウム顔料は粒子径を低下させると、周囲の水分と反応するようになる為、通常インクジェットで用いられる顔料の平均粒子径である200nm以下というものは作成できず、また、平均粒子径数十nmである金属コロイド粒子では金属光沢を再現出来ない等の従来技術の問題を解決して、金属光沢を有する印刷物の安定的な印刷を可能とする等のためのメタリック顔料インク組成物として、アルミニウム箔片を用いたメタリック顔料であって、粒度分布における小粒径側からの累積値が50%での粒子径が2.81μmで、粒度分布における最大粒子径が8.39μmで、平均膜厚が70nmである、すなわち、平板状粒子であり、該平板状粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZとした場合、該平板状粒子のX-Y平面の面積より求めた円相当径の50%平均粒子径R50が0.5?3μmであり、かつ、R50/Z>5の条件を満たす、メタリック顔料を含むメタリック顔料インク組成物(実施例3)が記載されている。そして、このメタリック顔料インク組成物におけるメタリック顔料は、引用文献4の(4d)によれば、インクジェットのノズル径が、引用発明1のインクセットが用いられるような、20μmであっても支障なく用いることができるものである。
そうすると、引用発明1のインクセットにおいて、インク組成物の色材として、黒色及びシアン、マゼンタ、イエローの3原色顔料のほかに用いることができる、金属光沢顔料に、引用文献4の実施例3に記載されている、アルミニウム箔片を用いたメタリック顔料であって、粒度分布における小粒径側からの累積値が50%での粒子径が2.81μmで、粒度分布における最大粒子径が8.39μmで、平均膜厚が70nmである、メタリック顔料を採用し、そのメタリック顔料を含むメタリック顔料インク組成物を用いて、前記相違点を解消することは、当業者が容易になし得る事項である。
また、本件補正発明により奏される効果につき、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき検討するに、記録媒体上に、画像が映りこんだ物体が若干判別できる程度のメタリック調光沢までしか得られない、インクセット(【表6】?【表7】における「インクセットA」や「インクセットD」)も本件補正発明に該当することからして、格別な顕著性は認められない。

よって、本件補正発明は、引用文献1及び引用文献4記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである

6 補足 - 回答書での主張に対して
(1)請求人の主張
本件補正発明が、引用文献1記載のインクセットにおいて、引用文献4記載のメタリックインクを用いることで、当業者ならば容易になし得るものであるため、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないという、前置報告書で示された審査官の判断に対して、請求人は、回答書で、「引用文献1の「ブラック、シアン、マゼンダ、イエロー(それぞれ光硬化型)のインクセット」が記載された[0095]段落と、「金属光沢顔料を含むインクを使用できる」と記載されている[0080]段落とは、互いに別の態様の記載に過ぎないから、それらの段落に記載されている事項の両方を組み合わせたインクセットまで、引用文献1に記載されているとは到底認められないし、また、[0080]段落には金属光沢顔料が記載されているが、それを含むインクについて、引用文献1には記載されていないし、審判請求人が審判請求書ですでに述べたとおり、本願発明は当業者が容易になし得るとはいえず、また、前置審査における審査官の各引用文献に記載の発明の認定及び本願発明との対比が、不十分又は誤りであることは上述から明らかであるから、そのような前置審査の結果として「当業者ならば容易になし得る。」とする審査官の判断は、到底承服できるものではない」旨主張をしている(回答書:「2.(3)、(6)」)。
また、引用文献1記載のインクセットにおいて、引用文献4記載のメタリックインクを用いることに関し、請求人は、審判請求書で、「引用文献1記載の発明と本願発明との間には課題の共通性がなく、また、引用文献4は本願発明における所定のインクセットの構成を開示していないどころか、インクセット自体を何ら開示していないため、インクセットにおいて金属光沢を得ようとする当業者が引用文献4開示の顔料を使用するはずがなく、引用文献1記載の発明に引用文献4が示唆する内容を組み合わせる動機は存在しないし、また、引用文献4は、メタリック顔料に用いる金属箔片の平均粒径(1.0-4.0μm)を必須の構成要素とし、数十nmの平均粒径を有する金属箔片の利用を否定しているのに対し、引用文献1は顔料の平均粒径を数十nmと開示しており、両者は相反するので、当業者であれば引用文献1と引用文献4とを組み合わせるはずがなく、事後的分析に基づく不適切なものであるし、さらに、50%平均粒子径R50が0.5?3μmであり、かつ、R50/Z>5を満たすことで、高い金属光沢を確保することができるという作用効果を奏し(段落0035,0036)、よって、本願発明は、引用文献1?4記載の発明に対し進歩性を有することは明らかである」旨主張をしている(審判請求書:「4.(2-2)」)。

(2)当審の見解
しかし、請求人の上記主張は、以下の理由により、採用できない。
すなわち、引用文献1の[0080]段落における、「…黒色及びシアン、マゼンタ、イエローの3原色顔料のほか、…金属光沢顔料…を使用することもできる。…インク組成物に用いられる色材は、インク質量に対し0.5?30質量%、好ましくは1?15質量%の範囲で使用される。」という記載は、この記載における、黒色及びシアン、マゼンタ、イエローの3原色顔料がインク質量に対し0.5?30質量%使用されているインク組成物に、引用文献1の[0095]段落を含む実施例1において用いられている、黒色及びシアン、マゼンタ、イエローの3原色顔料を色材に用いた各々のインク組成物が、まさに、当てはまっていることを考慮すると、その実施例1のインクセットにおいて、インク組成物の色材として、黒色及びシアン、マゼンタ、イエローの3原色顔料のほか、金属光沢顔料も使用することもできることが開示されていると解するのが合理的である。
また、引用文献1の[0081]段落には、「本発明の水性顔料インクに使用する顔料分散体の平均粒径は10?200nmが好ましく、50?100nmがより好ましい。」といった記載があるが、この記載は、文脈からして、顔料全般についての好ましいの平均粒径を記載したものにすぎず、金属光沢顔料についての平均粒径を特定したものではないところ、前記「5 相違点についての判断」に記載したように、引用文献1の実施例1のインクセット(引用発明1)において、引用文献4に記載のメタリック顔料を含むメタリック顔料インク組成物を用いることには、十分な動機付けが存在するといえ、引用文献1記載の発明と引用文献4記載の発明とを組み合わせることは、当業者が容易になし得る事項といえる。
さらに、本件補正発明により奏される、記録媒体上に高い金属光沢を有する画像の形成が可能となる等の効果についても、前記「5 相違点についての判断」に記載したように、本件補正発明であれば、すべからく、記録媒体上に高い金属光沢を有する画像の形成が可能となる等の効果を奏するわけでもない。
よって、請求人の上記主張は妥当性を欠いており、採用できない。

7 小括
以上のとおり、本件補正発明は、引用文献1及び引用文献4記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

IV.まとめ
したがって、上記補正事項aを含む本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 原査定の理由についての検討
I.本件発明
本願の平成23年8月23日付けの手続補正は、上記のとおり、却下されることとなる。
したがって、本願の請求項3に係る発明は、平成23年5月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その発明は前記「第2 I.(A)」に【請求項3】として示すとおりのものである(以下、本願の請求項3に係る発明を「本件発明」という。)。

II.原査定の理由の概要
原審における拒絶査定の理由の一つは、概略、以下のものである。

本件発明は、その優先権主張日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1:特開2004-9359号公報
刊行物4:国際公開第2006/101054号

III.当審の判断
1 刊行物に記載された事項
刊行物1、刊行物4は、それぞれ、前記「第2 III.2 」に記載した、引用文献1、引用文献4と同一であるから、刊行物に記載された事項は、前記「第2 III.2[1]、[4] 」に記載されたとおりである。

2 本件発明と刊行物記載の発明との対比・判断
本件発明は、本件補正発明(前記「第2 III.1」参照。)から、金属顔料についての、「アルミニウム又はアルミニウム合金」との限定事項を省いたものである。
そうすると、本件発明の発明特定事項をすべて含みさらに金属顔料についての発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2. III.4」?前記「第2. III.5」に記載したとおり、引用文献1及び引用文献4記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同様の理由により、本願発明も刊行物1及び刊行物4記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願は、原査定の拒絶理由によって拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-22 
結審通知日 2013-01-23 
審決日 2013-02-07 
出願番号 特願2007-316368(P2007-316368)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
P 1 8・ 575- Z (C09D)
P 1 8・ 572- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 牟田 博一  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 大橋 賢一
小川 進
発明の名称 インクセット、インクジェット記録方法及び記録物  
代理人 田中 克郎  
代理人 稲葉 良幸  

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