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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1271799
審判番号 不服2011-22017  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-12 
確定日 2013-03-21 
事件の表示 特願2005-369159「ハードコート膜と光学機能膜及び光学レンズ並びに光学部品」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月 5日出願公開、特開2007-171555〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は平成17年12月22日の出願であって、平成23年5月13日付けで手続補正がなされ、同年7月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年10月12日付けで拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、当審において、平成24年10月12日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年12月14日付けで手続補正がなされたものである。
なお、請求人は、平成24年12月14日付けで意見書を提出している。

2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成24年12月14日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項によりそれぞれ特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、平成24年12月14日付けで補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。

「正方晶ジルコニア粒子をハードコート基材中に分散してなるハードコート膜であって、
前記ハードコート基材中の前記正方晶ジルコニア粒子の分散粒径は1nm以上かつ20nm以下であり、
前記ハードコート基材中の前記正方晶ジルコニア粒子の含有率を40重量%としたときの、光路長1mmにおける可視光透過率は80%以上であることを特徴とするハードコート膜。」(以下「本願発明」という。)

3 刊行物の記載事項
当審拒絶理由で引用した「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2005-307178号公報(以下「引用例」という。)」には、図とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止フィルムなどの光学フィルム、該光学フィルムを備えた偏光板及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止フィルムは、一般に、陰極管表示装置(CRT)、プラズマディスプレイ(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)や液晶表示装置(LCD)のようなディスプレイ装置において、外光の反射によるコントラスト低下や像の映り込みを防止するために、光学干渉の原理を用いて反射率を低減するようにディスプレイの最表面に配置される。」

(2)「【発明の効果】
【0008】
本発明の光学フィルムは、防汚性、耐傷性に優れる。特に本発明の反射防止フィルムは、上記特性に優れ、しかも十分な反射防止性を有する。
本発明の反射防止フィルムを備えた画像表示装置、更には本発明の反射防止フィルムを用いた偏光板を備えた画像表示装置は、外光の映り込みや背景の映りこみが少なく、極めて視認性が高い。」

(3)「【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の光学フィルムの一形態として好適な反射防止フィルムの基本的な構成を図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の光学フィルムの一形態である反射防止フィルムの一例を模式的に示す概略断面図である。ここで、反射防止フィルム1は、透明支持体2、導電性層3、ハードコート層4、中屈折率層5、高屈折率層6、そして低屈折率層7の順序の層構成を有する。中屈折率層5と高屈折率層6はあってもなくてもよく、ハードコート層4には、マット粒子8が含まれていても含まれていなくてもよい。ハードコート層4の屈折率は1.50?2.00の範囲にあることが好ましく、低屈折率層7の屈折率は1.38?1.49の範囲にあることが好ましい。高屈折率層6および中屈折率層5を用いる場合、屈折率は低屈折率層7<中屈折率層5<高屈折率層6の順であればよい。導電性層3は必須ではないが塗設されることが好ましく、透明支持体2とハードコート層4の間でなく、上記反射防止フィルムの構成においていずれに存在してもよく、導電性層3が上記いずれかの層と一体化してもよい。
上記で説明した形態では、本発明における支持体から最も遠くに位置する層は低屈折層7になるが、上記で示した層に加えて、更に機能性のオーバーコート層を加えてもよい。この場合、本発明における支持体から最も遠い層は、このオーバーコート層になる。いずれの場合にせよ、支持体から最も遠い位置に位置する層を「最外層」と略記する。」

(4)「【0117】
[ハードコート層]
本発明の反射防止フィルムのハードコート層について以下に説明する。
ハードコート層は、ハードコート性を付与するためのバインダー、必要に応じて防眩性を付与するためのマット粒子、および高屈折率化、架橋収縮防止、高強度化のための無機微粒子から形成される。バインダーとしては、飽和炭化水素鎖またはポリエーテル鎖を主鎖として有するポリマーであることが好ましく、飽和炭化水素鎖を主鎖として有するポリマーであることがさらに好ましい。また、バインダーポリマーは架橋構造を有することが好ましい。飽和炭化水素鎖を主鎖として有するバインダーポリマーとしては、エチレン性不飽和モノマーの重合体が好ましい。飽和炭化水素鎖を主鎖として有し、かつ架橋構造を有するバインダーポリマーとしては、二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの(共)重合体が好ましい。高屈折率にするには、このモノマーの構造中に芳香族環や、フッ素以外のハロゲン原子、硫黄原子、リン原子、及び窒素原子から選ばれた少なくとも1種の原子を含むことが好ましい。
【0118】
二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーとしては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(例、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ジクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,3,5-シクロヘキサントリオールトリアクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート)、ビニルベンゼンおよびその誘導体(例、1,4-ジビニルベンゼン、4-ビニル安息香酸-2-アクリロイルエチルエステル、1,4-ジビニルシクロヘキサノン)、ビニルスルホン(例、ジビニルスルホン)、アクリルアミド(例、メチレンビスアクリルアミド)およびメタクリルアミドが挙げられる。
【0119】
高屈折率モノマーの具体例としては、ビス(4-メタクリロイルチオフェニル)スルフィド、ビニルナフタレン、ビニルフェニルスルフィド、4-メタクリロキシフェニル-4'-メトキシフェニルチオエーテル等が挙げられる。
【0120】
これらのエチレン性不飽和基を有するモノマーの重合は、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤の存在下、活性エネルギー線の照射または加熱により行うことができる。従って、エチレン性不飽和基を有するモノマー、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤、マット粒子および無機微粒子を含有する塗液を調製し、該塗液を透明支持体上に塗布後活性エネルギー線または熱による重合反応により硬化して反射防止フィルムを形成することができる。
【0121】
ポリエーテルを主鎖として有するポリマーは、多官能エポシキシ化合物の開環重合体が好ましい。多官能エポシキ化合物の開環重合は、光酸発生剤あるいは熱酸発生剤の存在下、活性エネルギー線の照射または加熱により行うことができる。従って、多官能エポシキシ化合物、光酸発生剤あるいは熱酸発生剤、マット粒子および無機微粒子を含有する塗液を調製し、該塗液を透明支持体上に塗布後活性エネルギー線または熱による重合反応により硬化して反射防止フィルムを形成することができる。
【0122】
二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの代わりにまたはそれに加えて、架橋性官能基を有するモノマーを用いてポリマー中に架橋性官能基を導入し、この架橋性官能基の反応により、架橋構造をバインダーポリマーに導入してもよい。架橋性官能基の例には、イソシアナート基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基、アルデヒド基、カルボニル基、ヒドラジン基、カルボキシル基、メチロール基および活性メチレン基が含まれる。ビニルスルホン酸、酸無水物、シアノアクリレート誘導体、メラミン、エーテル化メチロール、エステルおよびウレタン、テトラメトキシシランのような金属アルコキシドも、架橋構造を導入するためのモノマーとして利用できる。ブロックイソシアナート基のように、分解反応の結果として架橋性を示す官能基を用いてもよい。すなわち、本発明において架橋性官能基は、すぐには反応を示すものではなくとも、分解した結果反応性を示すものであってもよい。これら架橋性官能基を有するバインダーポリマーは塗布後、加熱することによって架橋構造を形成することができる。
【0123】
ハードコート層には、必要に応じて平均粒径が1?10μm、好ましくは1.5?7.0μmのマット粒子、例えば無機化合物の粒子または樹脂粒子が含有される。上記マット粒子の具体例としては、例えばシリカ粒子、TiO_(2)粒子等の無機化合物の粒子;架橋アクリル粒子、架橋スチレン粒子、架橋アクリル-スチレン粒子、メラミン樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子等の樹脂粒子が好ましく挙げられる。なかでも架橋アクリル粒子、架橋スチレン粒子、架橋アクリル-スチレン粒子が好ましい。マット粒子の形状は、真球あるいは不定形のいずれも使用できる。また、異なる2種以上のマット粒子を併用して用いてもよい。上記マット粒子は、形成された防眩性ハードコート層中のマット粒子量が好ましくは10?1000mg/m^(2)、より好ましくは30?100mg/m^(2)となるように防眩性ハードコート層に含有される。また、特に好ましい態様は、マット粒子として架橋スチレン粒子を用い、ハードコート層の膜厚の2分の1よりも大きい粒径の架橋スチレン粒子が、該架橋スチレン粒子全体の40?100%を占める態様である。ここで、マット粒子の粒度分布はコールターカウンター法により測定し、測定された分布を粒子数分布に換算する。
【0124】
ハードコート層には、層の屈折率を高めるために、上記のマット粒子に加えて、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、インジウム、亜鉛、錫、アンチモンのうちより選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなり、平均粒径が0.001?0.2μm以下、好ましくは0.001?0.1μm、より好ましくは0.001?0.06μm以下である無機微粒子が含有されることが好ましい。ハードコート層に用いられる無機微粒子の具体例としては、TiO_(2)、ZrO_(2)、Al_(2)O_(3)、In_(2)O_(3)、ZnO、SnO_(2)、Sb_(2)O_(3)、ITO等が挙げられる。TiO_(2)およびZrO_(2)が高屈折率化の点で特に好ましい。該無機微粒子は表面をシランカップリング処理又はチタンカップリング処理されることも好ましく、フィラー表面にバインダー種と反応できる官能基を有する表面処理剤が好ましく用いられる。これらの無機微粒子の添加量は、ハードコート層の全質量の10?90%であることが好ましく、より好ましくは20?80%であり、特に好ましくは30?75%である。なお、このようなフィラーは、粒径が光の波長よりも十分小さいために散乱が生じず、バインダーポリマーに該フィラーが分散した分散体は光学的に均一な物質として振舞う。
【0125】
本発明のハードコート層のバインダーおよび無機微粒子の混合物の合計の屈折率は、1.57?2.00であることが好ましく、より好ましくは1.60?1.80である。屈折率を上記範囲とするには、バインダー及び無機微粒子の種類及び量割合を適宜選択すればよい。どのように選択するかは、予め実験的に容易に知ることができる。
【0126】
ハードコート層の膜厚は1?10μmが好ましく、1.2?6μmがより好ましい。
【0127】
このようにして形成された本発明の反射防止フィルムは、ヘイズ値が3?20%、好ましくは4?15%の範囲にあり、そして450nmから650nmの平均反射率が1.8%以下、好ましくは1.5%以下である。本発明の反射防止フィルムが上記範囲のヘイズ値及び平均反射率であることにより、透過画像の劣化を伴なわずに良好な防眩性および反射防止性が得られる。」

(5)上記(1)ないし(4)から、引用例には、
「透明支持体、導電性層、ハードコート層、中屈折率層、高屈折率層、そして低屈折率層の順序の層構成を有し、ディスプレイ装置のディスプレイの最表面に配置され、ヘイズ値が4?15%の範囲にあり、そして450nmから650nmの平均反射率が1.5%以下であることにより、透過画像の劣化を伴なわずに良好な防眩性および反射防止性が得られ、防汚性、耐傷性に優れる反射防止フィルムにおける、ハードコート層において、
ハードコート性を付与するためのバインダーポリマー、必要に応じて防眩性を付与するためのマット粒子、および高屈折率化、架橋収縮防止、高強度化のための無機微粒子から形成され、膜厚が1.2?6μmであり、バインダーポリマー及び無機微粒子の種類及び量割合を適宜選択することにより、バインダーポリマー及び無機微粒子の混合物の合計の屈折率を1.60?1.80にしたハードコート層であって、
層の屈折率を高めるための前記無機微粒子を、平均粒径が0.001?0.06μmであり、光の波長よりも十分小さいために散乱が生じない粒径のフィラーであって、該フィラーがバインダーポリマーに分散した分散体は光学的に均一な物質として振舞うものである、ジルコニウムの金属の酸化物(ZrO_(2))とし、その添加量をハードコート層の全質量の30?75%とした、ハードコート層。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「『ジルコニウムの金属の酸化物(ZrO_(2))』とした『無機微粒子』」、「バインダーポリマー」及び「ハードコート層」は、それぞれ、本願発明の「ジルコニア粒子」、「ハードコート基材」及び「ハードコート膜」に相当する。

(2)引用発明の「ハードコート膜(ハードコート層)」は、平均粒径が0.001?0.06μmであり、光の波長よりも十分小さいために散乱が生じない粒径の「ジルコニア粒子(ジルコニウムの金属の酸化物(ZrO_(2))とした無機微粒子)」であるフィラーを、ハードコート性を付与するための「ハードコート基材(バインダーポリマー)」に分散した分散体から形成することができるものであるから、本願発明の「正方晶ジルコニア粒子をハードコート基材中に分散してなるハードコート膜」と、「ジルコニア粒子をハードコート基材中に分散してなる」点で一致するといえる。

(3)上記(1)及び(2)から、本願発明と引用発明とは、
「ジルコニア粒子をハードコート基材中に分散してなるハードコート膜。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記ジルコニア粒子が、本願発明では「正方晶」のものであるのに対して、引用発明では正方晶のものであるかどうか不明である点。

相違点2:
前記ハードコート基材中の前記ジルコニア粒子の分散粒径が、本願発明では「1nm以上かつ20nm以下」であるのに対して、引用発明では1nm以上かつ20nm以下であるかどうか不明である点。

相違点3:
前記ハードコート基材中の前記ジルコニア粒子の含有率を40重量%としたときの、光路長1mmにおける可視光透過率が、本願発明では「80%以上」であるのに対して、引用発明では80%以上かどうか不明である点。

5 判断
上記相違点1ないし3について検討する。
(1)平均粒径が15nm以下であるナノスケールの正方晶のジルコニア粒子は本願の出願前に周知であり(以下「周知技術」という。例.特開2005-255450号公報(【請求項1】、【請求項5】、【請求項7】、【0001】参照。)、国際公開第2005/099652号(正方晶結晶相のナノサイズのフィラー成分(請求項1、請求項11、3頁28行-4頁3行、5頁5-17行、28頁2-20行、29頁28行-30頁23行。日本語訳は特表2007-532589号公報の【請求項1】、【請求項11】、【0017】、【0025】、【0153】、【0154】、【0157】、【0158】、【0159】。)の記載、15nmの平均寸法を有する粒子(30頁24行-30行。日本語訳は同じく【0160】。)の記載参照。)、このようなナノスケールのジルコニア粒子は一次粒子の(凝集状態にはない)分散体にできるものである(上記特開2005-255450号公報の【0012】、【0022】及び【0026】参照。)。

(2)引用発明の反射防止フィルムは、ディスプレイ装置のディスプレイの最表面に配置され、透過画像の劣化を伴なわずに良好な防眩性および反射防止性が得られ、防汚性、耐傷性に優れるものであるから、その構成要素である引用発明のハードコート層には、透過画像が劣化しないように高い光透過性が求められるところ、光の波長よりも十分小さい粒径のフィラーは、散乱を生じず、透過画像を劣化させず、透明性を維持することができるものであることは当業者に自明であるから、上記(1)からして、引用発明において、前記「ジルコニア粒子(ジルコニウムの金属の酸化物(ZrO_(2))とした無機微粒子)」を平均粒径が15nm以下であるナノスケールの正方晶のものとなし、前記「ハードコート膜(ハードコート層)」を「ハードコート基材(バインダーポリマー)」中に平均粒径が15nm以下であるナノスケールの正方晶のジルコニア粒子が一次粒子として分散した凝集状態にはない分散体となして高い光透過性を確保することは、当業者が周知技術に基づいて適宜なし得た程度のことである(当審拒絶理由で引用した特開2003-12933号公報の【0015】の記載「正方晶の結晶形を主として含んで…靱性を高めることができる。」も参照。)。

(3)ア 本願発明の「前記ハードコート基材中の前記正方晶ジルコニア粒子の含有率を40重量%としたときの、光路長1mmにおける可視光透過率は80%以上であること」に関して、本願明細書の発明の詳細な説明に次の記載がある。
「【0031】
このハードコート膜における正方晶ジルコニア粒子の含有率は、1重量%以上かつ80重量%以下が好ましく、より好ましくは10重量%以上かつ80重量%以下、さらに好ましくは10重量%以上かつ50重量%以下である。
ここで、正方晶ジルコニア粒子の含有率を1重量%以上かつ80重量%以下と限定した理由は、下限値の1重量%は屈折率及び機械的特性の向上が可能となる添加率の最小値であるからであり、一方、上限値の80重量%は樹脂自体の特性(柔軟性、比重)を維持することができる添加率の最大値であるからである。
【0032】
このハードコート膜では、正方晶ジルコニア粒子の含有率を25重量%とした場合、光路長を1mmとしたときの可視光透過率は90%以上が好ましく、より好ましくは92%以上である。
この可視光透過率は、ハードコート膜における正方晶ジルコニア粒子の含有率により異なり、正方晶ジルコニア粒子の含有率が1重量%では、95%以上、正方晶ジルコニア粒子の含有率が40重量%では、80%以上である。
【0033】
正方晶ジルコニア粒子の屈折率は2.15であるから、この正方晶ジルコニア粒子を樹脂中に分散させることにより、アクリレート樹脂、シリコーン樹脂の屈折率1.4程度、エポキシ樹脂の屈折率1.5程度と比べて、樹脂の屈折率をそれ以上に向上させることが可能である。
また、正方晶ジルコニア粒子は、単斜晶ジルコニア粒子に比べてマルテンサイト変態による靭性値の向上が期待でき、しかも、靭性、硬度が高く、複合体の機械的特性向上に適している。
また、正方晶ジルコニア粒子は、ナノサイズの粒子であるから、樹脂と複合化させた場合においても、光散乱が小さく、複合材料の透明性を維持することが可能である。
【0034】
このハードコート膜は、分散粒径が1nm以上かつ20nm以下の正方晶ジルコニア粒子を透明なハードコート材料中に分散したので、透明性が維持されるとともに、屈折率及び靭性も向上する。
これにより、透明性、屈折率、熱安定性、硬度および耐候性が向上し、よって、長期に亘って信頼性が向上する。」
イ 上記ア【0032】に、「正方晶ジルコニア粒子の含有率が40重量%では、80%以上である」と記載されている「この可視光透過率」は、同じく上記ア【0032】に記載の「このハードコート膜では、正方晶ジルコニア粒子の含有率を25重量%とした場合、光路長を1mmとしたときの可視光透過率は90%以上が好ましく、より好ましくは92%以上である。」における「光路長を1mmとしたときの可視光透過率」のことであり、好ましい値、より好ましい値の範囲の下限値を示すための可視光透過率の定義を明らかにしているものである。
ウ したがって、本願発明の「前記ハードコート基材中の前記正方晶ジルコニア粒子の含有率を40重量%としたときの、光路長1mmにおける可視光透過率は80%以上であること」とは、本願発明の可視光透過性について、好ましい値、より好ましい値の範囲の下限値を特定するための定義を「正方晶ジルコニア粒子の含有率を40重量%とし、光路長を1mmとしたとき」との条件で明確にしたものであり、その技術上の意義は、正方晶ジルコニア粒子と樹脂との複合材料において樹脂の透明性が十分維持されていることにあると解される。
エ 上記ア【0032】には「この可視光透過率は、ハードコート膜における正方晶ジルコニア粒子の含有率により異なり」と記載されているが、「この可視光透過率」とは、上記イのとおり、好ましい値、より好ましい値の範囲の下限値を示すためのものであるから、好ましい値、より好ましい値の範囲の下限値を示すための「この可視光透過率」が「ハードコート膜における正方晶ジルコニア粒子の含有率」により異なる理由は上記記載からは明らかではない。ただ、ナノサイズの粒子である正方晶ジルコニア粒子は樹脂との複合材料の透明性を維持することが可能である(上記ア【0033】)から、「ハードコート膜における正方晶ジルコニア粒子の含有率」が1重量%ないし80重量%の間で多少異なった値をとったとしても、そのことが「光路長を1mmとしたときの可視光透過率」に大きく影響するものとは解されない。
オ してみると、引用発明において、前記ジルコニア粒子を平均粒径が15nm以下であるナノスケールの正方晶のものとなし、前記ハードコート層4をハードコート基材中に平均粒径が15nm以下であるナノスケールの正方晶のジルコニア粒子が一次粒子として分散した凝集状態にはない分散体となして高い光透過性を確保したハードコート層(上記(2)参照。)は、正方晶ジルコニア粒子とハードコート基材との複合材料においてハードコート基材の透明性が十分維持されることになり、かつ、本願発明の「前記ハードコート基材中の前記正方晶ジルコニア粒子の含有率を40重量%としたときの、光路長1mmにおける可視光透過率は80%以上であること」には、正方晶ジルコニア粒子と樹脂との複合材料において樹脂の透明性が十分維持されていることを超える技術上の意義はなく(上記ウ参照。)、好ましい値、より好ましい値の範囲の下限値を定めたものであって(上記ウ参照。)、この「前記ハードコート基材中の前記正方晶ジルコニア粒子の含有率を40重量%としたときの、光路長1mmにおける可視光透過率は80%以上であること」は、当業者が適宜定めることができた程度のことと認められる。
したがって、引用発明において、上記相違点1ないし3に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術に基づいて容易になし得た程度のことである。

(4)効果について
本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から当業者が予測できたものである。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-16 
結審通知日 2013-01-22 
審決日 2013-02-05 
出願番号 特願2005-369159(P2005-369159)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 西村 仁志
住田 秀弘
発明の名称 ハードコート膜と光学機能膜及び光学レンズ並びに光学部品  
代理人 渡邊 隆  
代理人 鈴木 三義  
代理人 西 和哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  

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