• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1271840
審判番号 不服2011-22027  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-12 
確定日 2013-03-22 
事件の表示 特願2001-198865「ヘモグロビン類の測定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月15日出願公開、特開2003- 14714〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、平成13年6月29日に出願された特許出願(2001年特許願第198865号。以下、「本件出願」という。)につき、平成23年7月4日付けで同年4月4日付けの手続補正についての補正却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定(発送日:同年同月13日)がなされたところ、これに対し、同年10月12日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成23年10月12日付けの手続補正についての補正却下の決定
1 補正却下の決定の結論
平成23年10月12日付けの手続補正を却下する。

2 補正却下の決定の理由
(1)平成23年10月12日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容
本件補正は、本件出願の明細書の特許請求の範囲の請求項1を以下のとおり補正することを含むものである。

ア.本件補正前の請求項1(平成22年9月10日付け手続補正書)

「【請求項1】 カチオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法において、血液検体を溶血させる際に用いるpHが5.0?10.0の溶血試薬、および、ヘモグロビンA0よりも前に溶出するヘモグロビン類を溶出させるための溶離液AとヘモグロビンA0を溶出させるための溶離液Bとの少なくとも2種類の溶離液を用い、上記溶血試薬および上記溶離液Aにアジ化物イオンが含有され、かつ、上記溶離液Aにカオトロピックイオンが含有され、上記溶離液BのpHが溶離液AのpHより0.1?8.0高く、かつ、上記溶離液Bの塩濃度が溶離液Aの塩濃度より10?1000mM高いことを特徴とするヘモグロビン類の測定方法。」

イ.本件補正後の請求項1
「【請求項1】 カチオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法において、血液検体を溶血させる際に用いるpHが5.0?10.0の溶血試薬、および、ヘモグロビンA0よりも前に溶出するヘモグロビン類を溶出させるための溶離液AとヘモグロビンA0を溶出させるための溶離液Bとの少なくとも2種類の溶離液を用い、上記溶血試薬および上記溶離液Aにアジ化物イオンが含有され、かつ、上記溶離液Aにカオトロピックイオンが含有され、上記溶離液BのpHが溶離液AのpHより0.1?8.0高く、かつ、上記溶離液Bの塩濃度が溶離液Aの塩濃度より10?1000mM高いことを特徴とするヘモグロビンF、不安定型ヘモグロビンA1c及び安定型ヘモグロビンA1cの測定方法。」
(下線部が補正箇所である)

(2) 本件補正の適否について
本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明において、
「ヘモグロビン類」を、「ヘモグロビンF、不安定型ヘモグロビンA1c及び安定型ヘモグロビンA1c」と補正することにより、ヘモグロビンの種類を限定し、特定する補正であるから、特許請求の範囲を減縮するものである。
そうすると、本件補正は特許請求の範囲を減縮する補正を含む補正であり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前(以下、単に「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3) 独立特許要件について
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(ア)引用刊行物記載の発明
(3A)原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願前に頒布された特開2000-146941号公報(以下、「引用刊行物A」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与したものである。以下、同様である。)

(3A-1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法に関する。」

(3A-2)「【0004】液体クロマトグラフィー法によるHbA1cの測定は、主にカチオン交換液体クロマトグラフィー法により行われている(特公平8-7197号公報など)。溶血液試料をカチオン交換液体クロマトグラフィーにより分離すると、通常、ヘモグロビンA1a(以下、HbA1aという)及びヘモグロビンA1b(以下、HbA1bという)、ヘモグロビンF(以下、HbFという)、不安定型HbA1c、安定型HbA1c並びにヘモグロビンA0(以下、HbA0という)などのピークが出現する。なお、糖尿病の診断の指標として使用されているHbA1cは、最近では、上記のうちの安定型HbA1cであり、全ヘモグロビンピークの面積に対する安定型HbA1cピークの面積の比率(%)として求められている。」

(3A-3)「【0012】(カチオン交換液体クロマトグラフィーによるHb類の測定方法)本発明においては、公知のカチオン交換液体クロマトグラフィーを用いることができる。すなわち、充填剤としては、公知のカチオン交換液体クロマトグラフィー用充填剤が用いられ、官能基として、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基などのカチオン交換基を有するものが、素材としては、例えば、シリカ系のような公知の無機系充填剤、ポリマー系のような公知の有機系充填剤などが用いられ、形状としては、平均粒径0.5?100μmのものが好ましく、更には、1?20μmのものが好ましい。 粒径のばらつきは、変動係数値(CV値)(標準偏差÷平均粒径×100)が、40%以下が好ましい。 粒径のばらつきが上記範囲内となるように、必要に応じて、 公知の乾式あるいは湿式の分級法により分級してもよい。
【0013】本発明で用いられる溶離液としては、有機酸又は無機酸、及びこれらの塩類などからなる公知の緩衝液が好ましく、一般にイオン交換クロマトグラフィーに用いられる緩衝液類すべてが使用可能である。塩濃度としては1?1000mMが好ましく、pHは4?12が好ましい。また、水と水溶性有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリルなど)との混合液も使用可能である。この場合、有機溶媒は0?50重量%の範囲で添加するのが好ましい。
【0014】本発明で用いられる溶離条件としては、複数種の溶離液を用いてもよく、その場合は、リニアグラジエント法でもステップグラジエント法でもよい。流速は0.05?5ml/分が好ましい。
【0015】本発明において、検出には、415nm付近の可視光による検出が好ましい。また、バックグラウンド補正のためなどに他の波長でも同時に測定してもよい。
【0016】本発明において使用される液体クロマトグラフは、公知のものでよく、例えば、送液ポンプ、試料注入装置、上記の充填剤を充填したカラム、検出器などを備えた公知の装置が挙げられる。この装置には、その他の一般的な付属装置(カラム恒温槽、デガッサ、グラジエンタ、データ処理装置など)が適宜具備されてもよい。
【0017】本発明において使用される試料としては、溶血液が用いられる。通常、10?500倍に希釈して用いるのが好ましい。溶血には、血液に公知の界面活性剤を、0.001?1重量%添加して行うのが好ましい。液体クロマトグラフへの試料注入量としては、0.5?500μlが好ましい。
【0018】(安定型HbA1cと不安定型HbA1cを分離する条件)公知の測定条件、例えば、特公平8-7197号公報に記載された充填剤及びリン酸塩を含む緩衝液を溶離液として用いる測定条件において、以下のパラメータを最適化することにより、安定型HbA1cと不安定型HbA1cとを分離することが可能である。すなわち、最適化するパラメータとしては、充填剤における粒径、イオン交換容量など;溶離液における組成、溶離液数、pH、塩濃度など;その他としてはカラム温度、流速、グラジエントなどが挙げられる。
【0019】(好ましい溶離液)本発明で用いられる溶離液は、カオトロピックイオンを含有し、かつ、pH4.0?6.8で緩衝能を持つ無機酸、有機酸及び/またはこれらの塩を含むのがより好ましい。
【0020】上記カオトロピックイオンとは、化合物が水溶液に溶解したときに解離により生じたイオンであり、水の構造を破壊し、疎水性物質と水が接触したときに起こる水のエントロピー減少を抑制するものである。
【0021】陰イオンのカオトロピックイオンとしては、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、チオシアン酸イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、臭化物イオン、塩化物イオン、酢酸イオン等が挙げられる。また、陽イオンのカオトロピックイオンとしては、バリウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、グアニジンイオン等が挙げられる。
【0022】上記カオトロピックイオンの中でも、陰イオンとして、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、チオシアン酸イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、臭化物イオン等を、陽イオンとして、バリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、グアニジンイオン等を用いるのが好ましい。さらに、より好ましくは、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、硝酸イオン、グアニジンイオン等が用いられる。
【0023】上記溶離液中のカオトロピックイオンの濃度が、0.1mMより低いとヘモグロビン類の測定において、分離効果が低下するおそれがあり、また、3000mMよりも高いと、ヘモグロビン類の分離効果はそれ以上向上しないので、0.1mM?3000mMが好ましく、1mM?1000mMがより好ましく、更に、10mM?500mMが好ましい。
【0024】また、カオトロピックイオンは複数種混合して用いても良い。上記カオトロピックイオンは、測定試料と接触する液、例えば、溶血試薬、試料希釈液等に添加しても良い。
【0025】本発明においては、溶離液に用いる緩衝能を有する物質として、無機酸、有機酸またはこれらの塩が含まれるのがより好ましい。上記無機酸としては、例えば、炭酸、リン酸等が挙げられる。上記有機酸としては、例えば、カルボン酸、ジカルボン酸、カルボン酸誘導体、ヒドロキシカルボン酸、アミノ酸、カコジル酸、ピロリン酸等が挙げられる。
【0026】上記カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸等が挙げられる。上記ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等が挙げられる。上記カルボン酸誘導体としては、例えば、β、β-ジメチルグルタル酸、バルビツール酸、アミノ酪酸等が挙げられる。上記ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、クエン酸、酒石酸、乳酸等が挙げられる。上記アミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸、アスパラギン等が挙げられる。
【0027】上記無機酸または有機酸の塩としては、公知のもので良く、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0028】上記無機酸、有機酸またはこれらの塩は、複数種混合して用いても良く、無機酸と有機酸を混合して用いても良い。
【0029】上記無機酸、有機酸及び/またはこれらの塩の溶離液中の濃度、複数種用いる場合には複数種の合計の濃度は、溶離液のpHを4.0?6.8にする緩衝作用があれば良く、1?1000mMが好ましく、10?500mMが特に好ましい。
【0030】上記溶離液のpHは、4.0?6.8であるのが好ましく、より好ましくは4.5?5.8である。溶離液のpHが4未満であると、ヘモグロビン類が変性する可能性があり、pHが6.8を超えると、ヘモグロビン類のプラス荷電が減少し、陽イオン交換基に保持されにくくなり、ヘモグロビン類の分離が悪くなる。」

(3A-4)「【0031】上記溶離液には、以下の物質を添加しても良い。
・・・
【0035】(4)アジ化ナトリウム、チモール等の防腐剤を添加しても良い。」

(3A-5)「【0041】(ヘモグロビンA0の溶出)本発明においては、HbA0を溶出するために、カラムに流入する際のpHがヘモグロビンの等電点と等しいか、または等電点よりアルカリ側になる溶離液を用いるのが好ましい。この条件を実現するには、pHがヘモグロビンの等電点よりアルカリ側であるひとつの溶離液を送液する方法や、pHの異なる2種以上の溶離液を用いる方法がある。上記溶離液は、 カオトロピックイオンを含有することがより好ましい。 このカオトロピックイオンとその濃度等については、上述のものと同様である。また、溶離液には、上記同様に、無機塩類、pH調節剤、水溶性有機溶媒、防腐剤、ヘモグロビン安定剤等を添加しても良い。
【0042】ヘモグロビンはpHが等電点より酸性側からアルカリ側になると、総荷電がプラスからマイナスに変わるため、充填剤の陽イオン交換基との「電気的反発力によってHbA0成分を溶出」させることができる。
【0043】なお、理化学辞典(第4版、1987年9月、岩波書店、久保亮五ら編集)、1178頁に記載されているように、ヘモグロビンの等電点はpH6.8?7.0である。そのため、HbA0成分を溶出するために、カラムに流入する際の溶離液のpHを6.8以上にすることがより好ましい。
【0044】この条件を満たすため、測定に用いる溶離液の内、少なくともひとつの溶離液のpHが6.8以上であることが必要である。本溶離液のpHは望ましくは7.0?12.0であり、7.5?11.0がより好ましく、更には8.0?9.5が好ましい。溶離液のpHが6.8未満になるとHbA0成分の溶出が不十分となる。溶離液のpHは、用いる充填剤の分解が起こらない範囲に設定すれば良い。
【0045】HbA0成分の溶出に好適に用いられる、pHが6.8以上で緩衝能をもつ溶離液としては、例えば、リン酸、ホウ酸、炭酸等の無機酸または、その塩;クエン酸等のヒドロキシカルボン酸、β、β-ジメチルグルタル酸等のカルボン酸誘導体、マレイン酸等のジカルボン酸、カコジル酸、等の有機酸または、その塩からなる緩衝液が挙げられる。その他、2-(N-モリホリノ)エタンスルホン酸(MES)、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-エタンスルホン酸(HEPES)、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス-(ヒドロキシメチル)メタン(Bistris)、Tris、ADA、PIPES、Bistrispropane、ACES、MOPS、BES、TES、HEPES、HEPPS、Tricine、Bicine、グリシルグリシン、TAPS、CAPS等の一般にグッド(Good)の緩衝液といわれるものも使用できる。また、BrittonとRobinsonの緩衝液;GTA緩衝液も使用できる。また、イミダゾール等のイミダゾール類;エチレンジアミン、メチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類;グリシン、β-アラニン、アスパラギン酸、アスパラギン等のアミノ酸類;等の有機物も使用できる。
【0046】また、無機酸;有機酸;無機酸または有機酸の塩;有機物は、複数混合して用いても良く、また、有機酸、無機酸及び有機物を混合しても良い。」

(3A-6)「【0050】(測定試料)健常人(イ)及び(ロ)の2名から、フッ化ナトリウム採血し以下の試料を調製した。
a1)無処理:上記の健常人血1mlに、溶血希釈液(0.1重量%の濃度でポリエチレングリコール-モノ-4-オクチルフェニルエーテル(トリトンX-100)(東京化成社製)を含む10mMリン酸緩衝液溶液(pH5.8)。以下、溶血希釈液Xという)を、全血に対して150倍希釈となるように添加して溶血希釈して試料a1とした。
b1)CHb含有試料:上記の健常人血10mlに、0.3重量%のシアン酸ナトリウムの生理食塩水溶液1mlを添加し、37℃で3時間反応させ、次いで、溶血希釈液Xを、全血に対して150倍希釈となるように添加して溶血希釈して試料b1とした。
c1)AHb含有試料:上記の健常人血10mlに、0.3重量%のアセトアルデヒドの生理食塩水溶液1mlを添加し、室温で3時間反応させ、次いで、溶血希釈液Xを、全血に対して150倍希釈となるように添加して溶血希釈して試料c1とした。」

(3A-7)「【0054】また、以下のようにして不安定型HbA1c除去試料a5、b5、c5を調製した。
a5)上記の試料a1調製の項における、(1)溶血希釈液Xの代わりに、以下に示す溶血希釈液Y5を用いたこと、及び(2)溶血希釈液Y5を添加後、37℃で30分間加温したことの他は、上記の試料a1調製の項と同様に行って、試料a5を調製した。
溶血希釈液Y5:0.1重量%の濃度でポリエチレングリコール-モノ-4-オクチルフェニルエーテル(トリトンX-100)(東京化成社製)を含む50mMセミカルバジド水溶液(pH5.0)。
b5)上記の試料b1調製の項における、(1)溶血希釈液Xの代わりに、溶血希釈液Y5を用いたこと、及び(2)溶血希釈液Y5を添加後、37℃で30分間加温したことの他は、上記の試料b1調製の項と同様に行って、試料b5を調製した。
c5)上記の試料c1調製の項における、(1)溶血希釈液Xの代わりに、溶血希釈液Y5を用いたこと、及び(2)溶血希釈液Y5を添加後、37℃で30分間加温したことの他は、上記の試料c1調製の項と同様に行って、試料c5を調製した。
【0055】また、以下のようにして不安定型HbA1c除去試料a6、b6、c6を調製した。
a6)上記の試料a1調製の項における、(1)溶血希釈液Xの代わりに、以下に示す溶血希釈液Y6を用いたこと、及び(2)溶血希釈液Y6を添加後、25℃で10分間加温したことの他は、上記の試料a1調製の項と同様に行って、試料a6を調製した。
溶血希釈液Y6:0.4重量%の濃度でフィチン酸(Aldrich社製)を、及び0.1重量%の濃度でポリエチレングリコール-モノ-4-オクチルフェニルエーテル(トリトンX-100)(東京化成社製)を含む10mMリン酸緩衝液溶液(pH6.3)。
b6)上記の試料b1調製の項における、(1)溶血希釈液Xの代わりに、溶血希釈液Y6を用いたこと、及び(2)溶血希釈液Y6を添加後、25℃で10分間加温したことの他は、上記の試料b1調製の項と同様に行って、試料b6を調製した。
c6)上記の試料c1調製の項における、(1)溶血希釈液Xの代わりに、溶血希釈液Y6を用いたこと、及び(2)溶血希釈液Y6を添加後、25℃で10分間加温したことの他は、上記の試料c1調製の項と同様に行って、試料c6を調製した。
【0056】[ヘモグロビン類の測定]
(1)参考例1?12、実施例1?20、比較例1?4
(測定条件)得られた各試料を以下の条件により測定した。
液体クロマトグラフシステム:
送液ポンプ:LC-9A(島津製作所社製)
オートサンプラ:ASU-420(積水化学社製)
検出器:SPD-6AV(島津製作所社製)
カラム:Micronex A1c HS-II(積水化学社製)
溶離液:溶離液A:100mMリン酸緩衝液(pH5.8)
溶離液B:250mMリン酸緩衝液(pH7.2)
溶離条件:溶離液A及び溶離液Bのステップグラジエント溶出法。測定開始より0?1.2分の間は溶離液Aを流し、1.2?1.3分の間は溶離液Bを流し、1.3?2分の間は溶離液Aを流した。
流速:1.5ml/分
検出波長:415nm
試料注入量:10μl
【0057】参考例1?4
上記測定条件により、健常人(イ)より採血した血液から得られた、試料a1を測定して得られたクロマトグラムを図1(イ)(参考例1)に示し、試料a2を測定して得られたクロマトグラムを図1(ロ)(参考例2)に示した。上記測定条件により、健常人(ロ)より採血した血液から得られた、試料a1を測定して得られたクロマトグラムを図2(イ)(参考例3)に示し、試料a2を測定して得られたクロマトグラムを図2(ロ)(参考例4)に示した。
【0058】ピーク1はHbA1a、ピーク2はHbA1b、ピーク3はHbF、ピーク4は不安定型HbA1c、ピーク5は安定型HbA1c、ピーク6はHbA0を示す。また、それぞれのピーク面積の、全溶出ピークの総面積値を100とした場合の相対割合(%)(測定値)を表1に示した。
・・・
【0060】図1(イ)及び図2(イ)より、不安定型HbA1cと安定型HbA1cが良好に分離されていることがわかる。健常人(イ)と健常人(ロ)では、不安定型HbA1cの測定値が異なる(健常人(イ)=0.8%、健常人(ロ)=1.2%)が、いずれも不安定型HbA1c除去操作により、不安定型HbA1cが良好に除去されたことがわかる。」

(3A-8)「【0074】(2)参考例13?24、実施例21?40、比較例5?8
(測定条件)得られた各試料を以下の条件により測定した。
液体クロマトグラフシステム:
送液ポンプ:LC-9A(島津製作所社製)
オートサンプラ:ASU-420(積水化学社製)
検出器:SPD-6AV(島津製作所社製)
カラム:Micronex A1c HS-II(積水化学社製)
溶離液:溶離液A:50mMの過塩素酸を含有する50mMリン酸緩衝液(pH5.3)
溶離液B:200mMの過塩素酸を含有する50mMリン酸緩衝液(pH8.0)
溶離条件:溶離液A及び溶離液Bのステップグラジエント溶出法。測定開始より0?1.2分の間は溶離液Aを流し、1.2?1.3分の間は溶離液Bを流し、1.3?2分の間は溶離液Aを流した。
流速:1.5ml/分
検出波長:415nm
試料注入量:10μl
【0075】参考例13?16
上記測定条件により、健常人(イ)より採血した血液から得られた、試料a1(参考例13)及びa2(参考例14)を測定して得られたクロマトグラムは、それぞれ図1(イ)及び図1(ロ)と同様であった。上記測定条件により、健常人(ロ)より採血した血液から得られた、試料a1(参考例15)及びa2(参考例16)を測定して得られたクロマトグラムは、それぞれ図2(イ)及び図2(ロ)と同様であった。また、それぞれのピーク面積の、全溶出ピークの総面積値を100とした場合の相対割合(%)(測定値)は、参考例1?4と同様であった。」

(3A-9)「【0081】(3)参考例25?36、実施例41?60、比較例9?12
(測定条件)得られた各試料を以下の条件により測定した。
液体クロマトグラフシステム:
送液ポンプ:LC-9A(島津製作所社製)
オートサンプラ:ASU-420(積水化学社製)
検出器:SPD-6AV(島津製作所社製)
カラム:Micronex A1c HS-II(積水化学社製)
溶離液:溶離液A:55mMの過塩素酸を含有する20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液(pH5.3)
溶離液B:200mMの過塩素酸を含有する20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液(pH8.0)
溶離条件:溶離液A及び溶離液Bのステップグラジエント溶出法。測定開始より0?1.2分の間は溶離液Aを流し、1.2?1.3分の間は溶離液Bを流し、1.3?2分の間は溶離液Aを流した。
流速:1.5ml/分
検出波長:415nm
試料注入量:10μl
【0082】参考例25?28
上記測定条件により、健常人(イ)より採血した血液から得られた、試料a1(参考例25)及びa2(参考例26)を測定して得られたクロマトグラムは、それぞれ図1(イ)及び図1(ロ)と同様であった。上記測定条件により、健常人(ロ)より採血した血液から得られた、試料a1(参考例27)及びa2(参考例28)を測定して得られたクロマトグラムは、それぞれ図2(イ)及び図2(ロ)と同様であった。また、それぞれのピーク面積の、全溶出ピークの総面積値を100とした場合の相対割合(%)(測定値)は、参考例1?4と同様であった。」

(3A-10)図1の(イ)には、HbA1a1及びHbA1b2、HbF3、不安定型HbA1c4、安定型HbA1c5並びにHbA06の順にピークが出現するとともに、HbF3が他のヘモグロビン類と良好に分離されることが描かれている。

上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-1)?(3A-10)、特に(3A-9)の記載を参照すると、上記引用刊行物Aには、
「カチオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法において、
血に対して溶血希釈液(トリトンX-100)を含む、pH5.8の10mMリン酸緩衝液溶液で溶血希釈した試料a1と、
測定開始時に最初に流すための、55mMの過塩素酸を含有するpH5.3の20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液からなる溶離液Aと、
200mMの過塩素酸を含有するpH8.0の20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液からなる溶離液Bと用いるとともに、
溶離液は、カオトロピックイオンを含有するとともに、防腐剤としてアジ化ナトリウムの添加が可能であるヘモグロビン類の測定方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

(3B)原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願前に頒布された特開2001-159625号公報(以下、「引用刊行物B」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(3B-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 カチオン交換液体クロマトグラフィーによる、ヘモグロビン混合物からのヘモグロビンA2の分離方法において、
ヘモグロビンA0よりも前に溶出するヘモグロビン類を溶出させるための溶離液(以下「溶離液A」という)と、ヘモグロビンA0以降に溶出するヘモグロビン類を溶出させるための溶離液(以下「溶離液B」という)の少なくとも2種の溶離液を用い、前記溶離液AのpHが4.0?6.0であって、前記溶離液BのpHが、前記溶離液AのpHより0.5以上高いことを特徴とするヘモグロビンA2の分離方法。
・・・
【請求項10】 請求項1?9のいずれか一項に記載のヘモグロビンA2の分離方法であって、
前記溶離液A?Hのうち少なくとも一種の溶離液、及び/または、溶血液に、アジ化物イオンが含有されることを特徴とするヘモグロビンA2の分離方法。」

(3B-2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、カチオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビンA2の分離方法に関する。」

(3B-3)「【0043】本発明2においては、カオトロピックイオンが含有され、かつpH4.0?6.8で緩衝能を持つ無機酸、有機酸及び/またはこれらの塩が含有される溶離液(本明細書においては、「溶離液E」という)と、pH6.5?8.0で緩衝能を持つ無機酸、有機酸及び/またはこれらの塩が含有される溶離液(本明細書においては、「溶離液F」という)の少なくとも2種の溶離液を用いる。
【0044】上記溶離液Eには、カオトロピックイオンが含有される。このカオトロピックイオンとは、水溶液に解離して生じたイオンにより、水の構造が破壊され、疎水性物質と水が接触したときに起こる、水のエントロピー減少を抑制するもので、具体的には、陰イオンとしては、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、チオシアン酸イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、臭化物イオン、塩化物イオン、酢酸イオン等が挙げられ、またその他に尿素等が挙げられる。また、陽イオンとしては、バリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、カリウムイオン、グアニジンイオン等が挙げられる。」

(3B-4)「【0075】また、本発明においては、上記溶離液A?Hの少なくとも一種の溶離液にアジ化物イオンを添加するのがより好ましい。また、溶血液にアジ化物イオンを添加することもできる。アジ化物イオンは、溶離液または溶血液の少なくとも一方に含有されていれば良く、また両方に含有されていても良い。このアジ化物イオンの添加に際しては、水溶液中で解離してアジ化物イオンを生成する塩を用いれば良く、例えば、公知のアジ化物塩等が用いられ、好ましくは、アジ化ナトリウム、アジ化バリウム等が用いられる。
【0076】また、上記アジ化物イオンの溶離液あるいは溶血液中の濃度は、0.001?0.5重量%であることが好ましく、より好ましくは、0.005?0.4重量%である。上記濃度が、0.001重量%より少ないと、分離能向上の効果がなく、また0.5重量%より多くても分離能は向上しないためである。」

(3B-5)「【0102】(測定試料1)健常人血を採血し、抗血液凝固剤としてフッ化ナトリウム10mg/mlを添加した。これに、150倍量の溶血液(0.1重量%ポリエチレングリコールモノ-4-オクチルフェニルエーテル(トリトンX-100、東京化成社製)と20mMリン酸緩衝溶液からなる溶血液(pH7.0))を添加して溶血し、測定試料とした。
(測定試料2)ライホチェックHbA2コントロール・レベル2(バイオラッド社製)を1mLの水に溶解させ、100倍量で希釈し、測定試料とした。」

(3B-6)「【0109】[実施例3]溶離液及び溶出条件を下記のようにした以外は、実施例1と同様の条件で試料1の測定を行った。
溶離液:溶離液A1:45mMの過塩素酸を含有する50mMのリン酸緩衝液(pH5.3)
溶離液A2:55mMの過塩素酸を含有する50mMのリン酸緩衝液(pH5.3)
溶離液B:25mMのリン酸緩衝液(pH7.2)
溶離液D:125mMのリン酸緩衝液(pH5.7)
溶離液H:300mMのリン酸緩衝液(pH8.5)
測定開始より0?1分の間は溶離液A1を流し、1?1.5分の間は溶離液A2を流し、1.5?2.1分の間は溶離液Bを流し、2.1?2.5分の間は溶離液Dを流し、2.5?2.7分の間は溶離液Hを流し、2.7?3.5分の間は溶離液A1を流した。
・・・
【0110】得られたクロマトグラムを図6に示す。その結果HbA2(ピーク16)と共に安定型HbA1c(ピーク14)も良好に分離されていることがわかる。」

(3B-7)「【0135】[実施例15]溶離液を以下の組成としたこと以外は、実施例5と同様の条件で下記測定試料7・8について、ヘモグロビンA2の分離を行った。
溶離液:溶離液E:50mMの過塩素酸、0.03重量%アジ化ナトリウムを含有する25mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液(pH5.3)
溶離液F:0.03重量%アジ化ナトリウムを含有する10mMリン酸緩衝液(pH7.1)
溶離液G:0.03重量%アジ化ナトリウムを含有する90mMの過塩素酸を含有する5mMコハク酸-15mMリン酸緩衝液(pH5.3)
溶離液H:250mMの過塩素酸を含有する20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液(pH8.4)
測定開始より0?1.7分の間は溶離液Eを流し、1.7?3.0分の間は溶離液Fを流し、3.0?3.5分の間は溶離液Gを流し、3.5?3.6分の間は溶離液Hを流し、3.6?4.0分の間は溶離液Eを流した。
・・・
【0136】(測定試料7)Hemoglobin A2 Control Level2(BIO RAD社製)を添付文書に従って、水1mlで溶解し、更に、これを、60倍量の溶血液(界面活性剤として0.1重量%ポリエチレングリコールモノ-4-オクチルフェニルエーテル(トリトンX-100、東京化成社製)を含有するリン酸緩衝溶液(pH7))を添加希釈して、測定試料7とした。
【0137】(測定試料8)Hemoglobin AFSC HEMO Control(HelenaLaboratories社製)を、60倍量の溶血液(界面活性剤として0.1重量%ポリエチレングリコールモノ-4-オクチルフェニルエーテル(トリトンX-100、東京化成社製)を含有するリン酸緩衝溶液(pH7))を添加希釈して、測定試料8とした。
【0138】(測定結果)実施例15で得られたクロマトグラムを図16・17に示した。測定試料7の結果を図16に、測定試料8の結果を図17に示した。図16・17から明らかのようにHbF、安定型HbA1c、HbA2、HbS、HbCを良好に分離出来た。また、表5に示すように、測定精度も良好であった。
【0139】
【表5】
・・・
【0140】[実施例16]実施例15における溶離液Eを以下の組成としたこと以外は、実施例15と同様の条件でヘモグロビン類の測定を行った。
溶離液E:50mMの過塩素酸を含有する25mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液(pH5.3)
【0141】(測定結果)実施例16で得られたクロマトグラムを図18・19に示した。測定試料7の結果を図18に、測定試料8の結果を図19に示した。図18・19から、HbA2、HbS、HbCは良好に分離出来るが、HbFについては分離が悪いことが分かる。」

(3B-8)図16には、HbF12、不安定型Hb1c13、安定型Hb1c14が良好に分離されていることが描かれており、図18には、不安定型Hb1c13は分離されているものの、HbF12は、Hb1a及びb11との分離が悪く、安定型Hb1c14が溶出されていないことが描かれている。

(イ)本願補正発明と引用発明との対比・判断
(イ-1)本願補正発明と引用発明とを対比する。
(i)引用発明の「カチオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法」は、その構成・機能からみて、本願補正発明の「カチオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法」に相当する。

(ii)引用発明の「血に対して溶血希釈液(トリトンX-100)を含む、pH5.8の10mMリン酸緩衝液溶液で溶血希釈した試料a1」は、ヘモグロビン類を分離するための試料であるから、引用発明の「血に対して溶血希釈液(トリトンX-100)を含む、pH5.8の10mMリン酸緩衝液溶液で溶血希釈した試料a1」と、本願補正発明の「血液検体を溶血させる際に用いるpHが5.0?10.0の溶血試薬」とは、「血液検体を溶血させる際に用いるpHが所定の値を有する溶血試薬」である点で共通する。

(iii)上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-5)に、
「【0041】(ヘモグロビンA0の溶出)本発明においては、HbA0を溶出するために、カラムに流入する際のpHがヘモグロビンの等電点と等しいか、または等電点よりアルカリ側になる溶離液を用いるのが好ましい。この条件を実現するには、pHがヘモグロビンの等電点よりアルカリ側であるひとつの溶離液を送液する方法や、pHの異なる2種以上の溶離液を用いる方法がある。・・・
【0042】ヘモグロビンはpHが等電点より酸性側からアルカリ側になると、総荷電がプラスからマイナスに変わるため、充填剤の陽イオン交換基との『電気的反発力によってHbA0成分を溶出』させることができる。
【0043】・・・ヘモグロビンの等電点はpH6.8?7.0である。そのため、HbA0成分を溶出するために、カラムに流入する際の溶離液のpHを6.8以上にすることがより好ましい。
【0044】この条件を満たすため、測定に用いる溶離液の内、少なくともひとつの溶離液のpHが6.8以上であることが必要である。本溶離液のpHは望ましくは7.0?12.0であり、7.5?11.0がより好ましく、更には8.0?9.5が好ましい。溶離液のpHが6.8未満になるとHbA0成分の溶出が不十分となる。溶離液のpHは、用いる充填剤の分解が起こらない範囲に設定すれば良い。」
と記載されていることから、引用発明の「200mMの過塩素酸を含有するpH8.0の20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液からなる溶離液B」が、本願補正発明の「ヘモグロビンA0を溶出させるための溶離液B」に相当することは明らかである。
また、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-5)に、
「溶離液のpHが6.8未満になるとHbA0成分の溶出が不十分となる。」
と記載され、さらに、同摘記事項(3A-10)に、
「図1の(イ)には、HbA1a1及びHbA1b2、HbF、不安定型HbA1c、安定型HbA1c並びにHbA0の順にピークが出現するとともに、HbF3が他のヘモグロビン類と良好に分離される」
と記載されていることを考慮すると、引用発明の「測定開始時に最初に流すための、55mMの過塩素酸を含有するpH5.3の20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液からなる溶離液A」のpHは、6.8未満であり、HbA0成分の溶出が不十分となるから、本願補正発明の「ヘモグロビンA0よりも前に溶出するヘモグロビン類を溶出させるための溶離液A」に相当する。
そして、「測定開始時に最初に流すための、55mMの過塩素酸を含有するpH5.3の20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液からなる溶離液Aと、200mMの過塩素酸を含有する pH8.0の20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液からなる溶離液Bと用いる」ことは、本願補正発明の「ヘモグロビンA0よりも前に溶出するヘモグロビン類を溶出させるための溶離液AとヘモグロビンA0を溶出させるための溶離液Bとの少なくとも2種類の溶離液を用い」る構成のうちの、「ヘモグロビンA0よりも前に溶出するヘモグロビン類を溶出させるための溶離液AとヘモグロビンA0を溶出させるための溶離液Bとの2種類の溶離液を用い」ることに相当する。

(iv)上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-3)に、
「【0019】(好ましい溶離液)本発明で用いられる溶離液は、カオトロピックイオンを含有し、かつ、pH4.0?6.8で緩衝能を持つ無機酸、有機酸及び/またはこれらの塩を含むのがより好ましい。
【0020】上記カオトロピックイオンとは、化合物が水溶液に溶解したときに解離により生じたイオンであり、水の構造を破壊し、疎水性物質と水が接触したときに起こる水のエントロピー減少を抑制するものである。
【0021】陰イオンのカオトロピックイオンとしては、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、チオシアン酸イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、臭化物イオン、塩化物イオン、酢酸イオン等が挙げられる。また、陽イオンのカオトロピックイオンとしては、バリウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、グアニジンイオン等が挙げられる。」
と記載されており、さらに、摘記事項(3A-8)に、
「【0081】(3)参考例25?36、実施例41?60、比較例9?12
(測定条件)得られた各試料を以下の条件により測定した。
・・・
溶離液:溶離液A:55mMの過塩素酸を含有する 20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液(pH5.3)
溶離液B:200mMの過塩素酸を含有する 20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液(pH8.0)
・・・
【0082】参考例25?28
上記測定条件により、健常人(イ)より採血した血液から得られた、試料a1(参考例25)及びa2(参考例26)を測定して得られたクロマトグラムは、それぞれ図1(イ)及び図1(ロ)と同様であった。・・・」
と記載されていることを考慮すると、引用発明の「測定開始時に最初に流すための、55mMの過塩素酸を含有するpH5.3の20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液からなる溶離液A」が、pH4.0?6.8の範囲内のpH5.3を有することから、本願補正発明と同様に、「上記溶離液Aにカオトロピックイオンが含有され」ていることは明らかである。

(v)引用発明の溶離液AのpHは5.3であり、また、溶離液BのpHは8.0であるから、引用発明の溶離液BのpHは溶離液AのpHよりも高いことは明らかである。
そうすると、引用発明の「pH5.3」の「溶離液A」及び「pH8.0」の「溶離液B」と、本願補正発明の「上記溶離液BのpHが溶離液AのpHより0.1?8.0高」いこととは、「上記溶離液BのpHが溶離液AのpHより高」い点で共通する。

(vi)上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-3)に、
「【0013】本発明で用いられる溶離液としては、有機酸又は無機酸、及びこれらの塩類などからなる公知の緩衝液が好ましく、一般にイオン交換クロマトグラフィーに用いられる緩衝液類すべてが使用可能である。塩濃度としては1?1000mMが好ましく、pHは4?12が好ましい。・・・
・・・
【0019】(好ましい溶離液)本発明で用いられる溶離液は、カオトロピックイオンを含有し、かつ、pH4.0?6.8で緩衝能を持つ無機酸、有機酸及び/またはこれらの塩を含むのがより好ましい。
・・・
【0021】陰イオンのカオトロピックイオンとしては、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、チオシアン酸イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、臭化物イオン、塩化物イオン、酢酸イオン等が挙げられる。・・・
・・・
【0025】本発明においては、溶離液に用いる緩衝能を有する物質として、無機酸、有機酸またはこれらの塩が含まれるのがより好ましい。上記無機酸としては、例えば、炭酸、リン酸等が挙げられる。上記有機酸としては、例えば、カルボン酸、ジカルボン酸、カルボン酸誘導体、ヒドロキシカルボン酸、アミノ酸、カコジル酸、ピロリン酸等が挙げられる。
【0026】上記カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸等が挙げられる。上記ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等が挙げられる。・・・」
と記載され、さらに摘記事項(3A-5)に、
「【0041】(ヘモグロビンA0の溶出)本発明においては、HbA0を溶出するために、カラムに流入する際のpHがヘモグロビンの等電点と等しいか、または等電点よりアルカリ側になる溶離液を用いるのが好ましい。この条件を実現するには、pHがヘモグロビンの等電点よりアルカリ側であるひとつの溶離液を送液する方法や、pHの異なる2種以上の溶離液を用いる方法がある。上記溶離液は、 カオトロピックイオンを含有することがより好ましい。 このカオトロピックイオンとその濃度等については、上述のものと同様である。・・・
・・・
【0045】HbA0成分の溶出に好適に用いられる、pHが6.8以上で緩衝能をもつ溶離液としては、例えば、リン酸、ホウ酸、炭酸等の無機酸または、その塩;クエン酸等のヒドロキシカルボン酸、β、β-ジメチルグルタル酸等のカルボン酸誘導体、マレイン酸等のジカルボン酸、カコジル酸、等の有機酸または、その塩からなる緩衝液が挙げられる。・・・」
と記載されていることから、引用発明の溶離液に含まれる、過塩素酸、リン酸、コハク酸の少なくとも1種類を塩で構成することは明らかである。
そして、例えば、過塩素酸を過塩素酸塩で構成した場合に、「測定開始時に最初に流すための、55mMの過塩素酸を含有するpH5.3の20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液からなる溶離液A」と、「200mMの過塩素酸を含有する pH8.0の20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液からなる溶離液B」とを比較すると、200mMの過塩素酸を含有する溶離液Bの方が、55mMの過塩素酸を含有する溶離液Aよりも塩濃度が高いことは明らかである。
そうすると、例えば、過塩素酸を過塩素酸塩で構成した場合、引用発明の「55mMの過塩素酸を含有する」「溶離液A」及び「200mMの過塩素酸を含有する」「溶離液B」と、本願補正発明の「上記溶離液Bの塩濃度が溶離液Aの塩濃度より10?1000mM高い」こととは、「上記溶離液Bの塩濃度が溶離液Aの塩濃度より高い」点で共通する。

(vii)上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-7)に、
「【0060】図1(イ)及び図2(イ)より、不安定型HbA1cと安定型HbA1cが良好に分離されていることがわかる。・・・」
と記載され、さらに、摘記事項(3A-10)に、
「図1の(イ)には、HbA1a1及びHbA1b2、HbF3、不安定型HbA1c4、安定型HbA1c5並びにHbA06の順にピークが出現するとともに、HbF3が他のヘモグロビン類と良好に分離される」
ことが記載されていることから、引用発明の「ヘモグロビン類の測定方法」は、少なくとも、HbF、不安定型HbA1c、安定型HbA1cを有効に分離して、各ヘモグロビン類を測定していることは明らかである。
そうすると、引用発明の「ヘモグロビン類の測定方法」が、本願補正発明の「ヘモグロビンF、不安定型ヘモグロビンA1c及び安定型ヘモグロビンA1cの測定方法」に相当する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、
「カチオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法において、
血液検体を溶血させる際に用いるpHが所定の値を有する溶血試薬、
および、
ヘモグロビンA0よりも前に溶出するヘモグロビン類を溶出させるための溶離液AとヘモグロビンA0を溶出させるための溶離液Bとの2種類の溶離液を用い、かつ、上記溶離液Aにカオトロピックイオンが含有され、上記溶離液BのpHが溶離液AのpHより高く、かつ、上記溶離液Bの塩濃度が溶離液Aの塩濃度より高いヘモグロビンF、不安定型ヘモグロビンA1c及び安定型ヘモグロビンA1cの測定方法。」である点で一致し、以下の、相違点(あ)?相違点(え)で相違する。

・相違点(あ)
溶血試薬が、本願補正発明では「pHが5.0?10.0」の溶血試薬であるのに対して、引用発明では、pHが5.8の試料a1である点。

・相違点(い)
本願補正発明では、「上記溶血試薬および上記溶離液Aにアジ化物イオンが含有され」ているのに対して、引用発明では、溶離液に、防腐剤としてアジ化ナトリウムの添加が可能である点。

・相違点(う)
本願補正発明では、溶離液BのpHが溶離液AのpHより「0.1?8.0」高いのに対して、引用発明では、溶離液BのpHが溶離液AのpHよりも2.7高い点。

・相違点(え)
本願補正発明では、上記溶離液Bの塩濃度が溶離液Aの塩濃度より「10?1000mM」高いのに対して、引用発明では、溶離液Bの塩濃度が溶離液Aの塩濃度より高いけれども、その値が不明である点。

(イ-2)当審の判断
そこで、上記相違点(あ)?相違点(え)について判断する。

・相違点(あ)について
引用発明では、pHが5.8の試料a1を用いており、本願補正発明の「pHが5.0?10.0」の溶血試薬のうちの、pHが5.8の溶血試薬の場合は、引用発明と実質的な差異はないものである。
また、上記引用刊行物Aの摘記事項(3-A6)に、
「【0054】・・・
a5)上記の試料a1調製の項における、(1)溶血希釈液Xの代わりに、以下に示す溶血希釈液Y5を用いたこと、及び(2)溶血希釈液Y5を添加後、37℃で30分間加温したことの他は、上記の試料a1調製の項と同様に行って、試料a5を調製した。
溶血希釈液Y5:0.1重量%の濃度でポリエチレングリコール-モノ-4-オクチルフェニルエーテル(トリトンX-100)(東京化成社製)を含む50mMセミカルバジド水溶液(pH5.0)。
・・・
【0055】・・・
a6)上記の試料a1調製の項における、(1)溶血希釈液Xの代わりに、以下に示す溶血希釈液Y6を用いたこと、及び(2)溶血希釈液Y6を添加後、25℃で10分間加温したことの他は、上記の試料a1調製の項と同様に行って、試料a6を調製した。
溶血希釈液Y6:0.4重量%の濃度でフィチン酸(Aldrich社製)を、及び0.1重量%の濃度でポリエチレングリコール-モノ-4-オクチルフェニルエーテル(トリトンX-100)(東京化成社製)を含む10mMリン酸緩衝液溶液(pH6.3)。」
と記載され、また、上記引用刊行物Bの摘記事項(3B-4)に、
「【0102】(測定試料1)健常人血を採血し、抗血液凝固剤としてフッ化ナトリウム10mg/mlを添加した。これに、150倍量の溶血液(0.1重量%ポリエチレングリコールモノ-4-オクチルフェニルエーテル(トリトンX-100、東京化成社製)と20mMリン酸緩衝溶液からなる溶血液(pH7.0))を添加して溶血し、測定試料とした。」
と記載されているように、ヘモグロビン類の測定方法において、使用する試料のpHを変えることは周知であるといえることから、引用発明のヘモグロビン類の測定方法において、使用する試料a1のpHを5.8を含む範囲で適宜変えてヘモグロビン類の測定することは当業者が必要に応じて適宜なし得るものである。
そして、本件出願明細書の発明の詳細な説明には、試料のpHを5.0?10.0することに格別の臨界的意義があることが記載されていないことから、本願補正発明のごとく、溶血試薬が「pHが5.0?10.0」の溶血試薬であるようにすることは、ヘモグロビン類の測定する際に、当業者が必要に応じて適宜範囲を設定する設計的事項にすぎないものである。

・相違点(い)について
上記引用刊行物Bの摘記事項(3B-2)、(3B-3)、(3B-7)、及び(3B-8)には、それぞれ、
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、カチオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビンA2の分離方法に関する。」
こと、
「【0043】本発明2においては、カオトロピックイオンが含有され、かつpH4.0?6.8で緩衝能を持つ無機酸、有機酸及び/またはこれらの塩が含有される溶離液(本明細書においては、「溶離液E」という)と、pH6.5?8.0で緩衝能を持つ無機酸、有機酸及び/またはこれらの塩が含有される溶離液(本明細書においては、「溶離液F」という)の少なくとも2種の溶離液を用いる。
【0044】上記溶離液Eには、カオトロピックイオンが含有される。このカオトロピックイオンとは、水溶液に解離して生じたイオンにより、水の構造が破壊され、疎水性物質と水が接触したときに起こる、水のエントロピー減少を抑制するもので、具体的には、陰イオンとしては、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、チオシアン酸イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、臭化物イオン、塩化物イオン、酢酸イオン等が挙げられ、またその他に尿素等が挙げられる。また、陽イオンとしては、バリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、カリウムイオン、グアニジンイオン等が挙げられる。」
こと、
「【0135】[実施例15]溶離液を以下の組成としたこと以外は、実施例5と同様の条件で下記測定試料7・8について、ヘモグロビンA2の分離を行った。
溶離液:溶離液E:50mMの過塩素酸、0.03重量%アジ化ナトリウムを含有する25mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液(pH5.3)
溶離液F:0.03重量%アジ化ナトリウムを含有する10mMリン酸緩衝液(pH7.1)
溶離液G:0.03重量%アジ化ナトリウムを含有する90mMの過塩素酸を含有する5mMコハク酸-15mMリン酸緩衝液(pH5.3)
溶離液H:250mMの過塩素酸を含有する20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液(pH8.4)
測定開始より0?1.7分の間は溶離液Eを流し、1.7?3.0分の間は溶離液Fを流し、3.0?3.5分の間は溶離液Gを流し、3.5?3.6分の間は溶離液Hを流し、3.6?4.0分の間は溶離液Eを流した。
・・・
【0136】(測定試料7)Hemoglobin A2 Control Level2(BIO RAD社製)を添付文書に従って、水1mlで溶解し、更に、これを、60倍量の溶血液(界面活性剤として0.1重量%ポリエチレングリコールモノ-4-オクチルフェニルエーテル(トリトンX-100、東京化成社製)を含有するリン酸緩衝溶液(pH7))を添加希釈して、測定試料7とした。
・・・
【0138】(測定結果)実施例15で得られたクロマトグラムを図16・17に示した。測定試料7の結果を図16に、測定試料8の結果を図17に示した。図16・17から明らかのようにHbF、安定型HbA1c、HbA2、HbS、HbCを良好に分離出来た。また、表5に示すように、測定精度も良好であった。
・・・
【0140】[実施例16]実施例15における溶離液Eを以下の組成としたこと以外は、実施例15と同様の条件でヘモグロビン類の測定を行った。
溶離液E:50mMの過塩素酸を含有する25mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液(pH5.3)
【0141】(測定結果)実施例16で得られたクロマトグラムを図18・19に示した。測定試料7の結果を図18に、測定試料8の結果を図19に示した。図18・19から、HbA2、HbS、HbCは良好に分離出来るが、HbFについては分離が悪いことが分かる。」
こと、及び
「図16には、HbF12、不安定型Hb1c13、安定型Hb1c14が良好に分離されている・・・図18には、不安定型Hb1c13は分離されているものの、HbF12は、Hb1a及びb11との分離が悪く、安定型Hb1c14が溶出されていない」
ことが記載されていることから、上記引用刊行物Bには、
「カチオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法において、
測定開始時に最初に流す過塩素酸を含有するコハク酸-酸緩衝液からなる溶離液Eにアジ化ナトリウムを添加させると、アジ化ナトリウムを含有させない溶離液よりも、HbF、不安定型Hb1c、安定型Hb1cが良好に分離され、測定精度も良好となる」
ことが記載されていることになる。
そして、上記「(イ-1)」の(vii)において検討したように、引用発明の「ヘモグロビン類の測定方法」は、少なくとも、HbF、不安定型HbA1c、安定型HbA1cを有効に分離して、各ヘモグロビン類を測定するものであり、また、引用発明においても、HbF、不安定型HbA1c、安定型HbA1cを、より有効に分離して、測定精度を上げようとする課題を有することは自明であることから、引用発明のカチオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法において、HbF、不安定型HbA1c、安定型HbA1cを、より有効に分離して、測定精度を上げようとする課題を解決するために、測定開始時に最初に流すための、55mMの過塩素酸を含有するpH5.3の20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液からなる溶離液Aを、そのまま流すのではなく、上記引用刊行物Bに記載された発明のごとく、溶離液Aにアジ化ナトリウムを添加して流そうとすることは当業者であれば容易に想到できることである。
さらに、上記引用刊行物Bの摘記事項(3B-4)に、
「【0075】また、本発明においては、上記溶離液A?Hの少なくとも一種の溶離液にアジ化物イオンを添加するのがより好ましい。また、溶血液にアジ化物イオンを添加することもできる。アジ化物イオンは、溶離液または溶血液の少なくとも一方に含有されていれば良く、また両方に含有されていても良い。このアジ化物イオンの添加に際しては、水溶液中で解離してアジ化物イオンを生成する塩を用いれば良く、例えば、公知のアジ化物塩等が用いられ、好ましくは、アジ化ナトリウム、アジ化バリウム等が用いられる。
【0076】また、上記アジ化物イオンの溶離液あるいは溶血液中の濃度は、0.001?0.5重量%であることが好ましく、より好ましくは、0.005?0.4重量%である。上記濃度が、0.001重量%より少ないと、分離能向上の効果がなく、また0.5重量%より多くても分離能は向上しないためである。」
と記載されており、この記載によれば、溶離液および溶血液(試料)のどちらか一方、又は両方にアジ化物イオンを添加すると、各ヘモグロビン類の分離の向上の効果があることから、アジ化物イオンを添加して各ヘモグロビン類の分離の向上の図る際、溶離液および溶血液(試料)のどちらか一方にアジ化物イオンを添加するか、又は両方にアジ化物イオンを添加するかは当業者が必要に応じて適宜選択し得る事項であるといえ、本願補正発明のごとく、「上記溶血試薬および上記溶離液Aにアジ化物イオンが含有され」ている構成にすることは、単なる当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項にすぎないものである。

・相違点(う)について
引用発明では、測定開始時に最初に流すための、55mMの過塩素酸を含有するpH5.3の20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液からなる溶離液Aと、200mMの過塩素酸を含有する pH8.0の20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液からなる溶離液Bを用いて、ヘモグロビン類の測定しているが、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-3)に、
「【0019】(好ましい溶離液)本発明で用いられる溶離液は、カオトロピックイオンを含有し、かつ、pH4.0?6.8で緩衝能を持つ無機酸、有機酸及び/またはこれらの塩を含むのがより好ましい。」(以下、「前者」という。)
と記載され、また、摘記事項(3A-5)に、
「【0043】・・・そのため、HbA0成分を溶出するために、カラムに流入する際の溶離液のpHを6.8以上にすることがより好ましい。
【0044】この条件を満たすため、測定に用いる溶離液の内、少なくともひとつの溶離液のpHが6.8以上であることが必要である。本溶離液のpHは望ましくは7.0?12.0であり、7.5?11.0がより好ましく、更には8.0?9.5が好ましい。溶離液のpHが6.8未満になるとHbA0成分の溶出が不十分となる。溶離液のpHは、用いる充填剤の分解が起こらない範囲に設定すれば良い。」(以下、「後者」という。)
と記載されており、前者に記載されたpH4.0?6.8の溶離液が引用発明の溶離液A(pH5.3)に相当し、後者に記載されたpH7.0?12.0の溶離液が溶離液B(pH8.0)に相当することは明らかである。
以上のことから、引用発明の溶離液Aは、pH4.0?6.8の範囲にあり、また、溶離液Bは、pH7.0?12.0の範囲あって、以下の計算により、溶離液BのpHが溶離液AのpHよりも「0.2?8.0」高いことになる。

12.0(溶離液Bの最大pH)-4.0(溶離液Aの最小pH)=8.0

7.0(溶離液Bの最小pH)-6.8(溶離液Aの最大pH)=0.2

そうすると、引用発明の「0.2?8.0」という範囲は、本願補正発明と引用の「0.1?8.0」に包含される範囲であって、実質的に相違点とはいえない。
仮に本願補正発明では、溶離液のpHのが溶離液AのpHより、下限値において「0.1」高いのに対して、引用発明では、溶離液BのpHが溶離液AのpHよりも下限値において「0.2」高い点で相違するとしても、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-5)に、
「【0042】ヘモグロビンはpHが等電点より酸性側からアルカリ側になると、総荷電がプラスからマイナスに変わるため、充填剤の陽イオン交換基との『電気的反発力によってHbA0成分を溶出』させることができる。」
と記載されているように、引用刊行物Aには、ヘモグロビンの等電位をまたぐようにpHを変動させてヘモグロビンを分離するというカチオン変換クロマトグラフィーによる分離の原理が記載されている。
そうすると、引用発明における溶離液Aと溶離液BともpHの差は、分離しようとするヘモグロビンの等電位を考慮して、それを跨ぐ用に決めればよいのであって、引用発明において、容易液BのpHが溶離液AのpHよりも下限値において「0.1」高く設定する程度のことは当業者が適宜決め得る単なる設計的事項にすぎない。

・相違点(え)について
(え-1)上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-3)に、
「【0013】本発明で用いられる溶離液としては、有機酸又は無機酸、及びこれらの塩類などからなる公知の緩衝液が好ましく、一般にイオン交換クロマトグラフィーに用いられる緩衝液類すべてが使用可能である。塩濃度としては1?1000mMが好ましく、pHは4?12が好ましい。・・・」
と記載されており、さらに、上記「(イ-1)」の(vi)において検討したように、引用発明では、200mMの過塩素酸を含有する溶離液Bの方が、55mMの過塩素酸を含有する溶離液Aより塩濃度が高いことは明らかであることを考慮すると、引用発明おいて、塩濃度の高い溶離液Bは2?1000mMの塩濃度をとり、塩濃度の低い溶離液Aは、1?999mMの塩濃度をとる可能性があることから、溶離液Bの塩濃度が溶離液Aの塩濃度より「1?999mM」高くできることは明らかである。

(え-2)ところで、例えば、特開平10-239301号公報に、
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、液体クロマトグラフィーによる糖化ヘモグロビンの測定方法に関する。
・・・
【0003】血液中の糖化ヘモグロビンの濃度の測定は、主にカチオン交換反応を利用した液体クロマトグラフィー(HPLC)法により行われている(特公平8-7198号公報参照)。血液中のHbA1cの濃度は、血液試料をHPLCにかけて得られるクロマトグラムにおける全ヘモグロビンピーク(糖化ヘモグロビンピーク+非糖化ヘモグロビンピーク)面積に対するHbA1cピーク面積の割合(%)として表される。従って、クロマトグラムには全ヘモグロビンピークが正確に描かれていなければならない。また、この測定方法は、近年では、測定時間の短縮化が進み、1検体あたり数分間で測定が行われている。
【0004】上記糖化ヘモグロビンの濃度の測定のためのカチオン交換反応を利用したHPLC法においては、流速を一定にし、溶離液として溶出力の弱い液(以下、溶離液Aという)と溶出力の強い液(以下、溶離液Bという)との2種を用いてステップまたは連続グラジエント法により行われていた。すなわち、溶離液A通液時には、試料中の非糖化ヘモグロビンは充填剤に保持され、糖化ヘモグロビンは分離されて溶出する。そして、溶離液Bは溶出力が強いため、溶離液Aの後に通液されることにより保持されていた非糖化ヘモグロビンが速やかに溶出する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】血液中のHbA1c濃度の正常値は、おおよそ4?6%といわれている。一方、正常人レベルで非糖化ヘモグロビンの大部分(ヘモグロビンA0、以下、HbA0という)は、90%程度であり、HbA1cのピーク面積の10倍以上のピーク面積があるため、溶出に時間がかかる。測定時間の短縮化のためには、このHbA0の溶出時間の短縮が極めて重要である。また、従来の方法において、HbA1cの分画は、他の前後するピークと極めて隣接しており、測定時間短縮のためにHbA1c分画周辺の分離を改善することはむずかしい。
【0006】また、溶離液Bの溶出力を強める(pHや塩濃度を溶離液Aに比して大きくする)ことによりHbA0の溶出時間を短縮することができるが、しかし、溶離液Bの組成を溶離液Aの組成と大きく異なるものにしてしまうと、連続的に検体を測定する場合、次の検体の測定に際して溶離液Bの影響がでてしまい、次検体測定開始時に前検体測定開始時と同じ状態にするための平衡化時間が長くなり、迅速な測定ができないという問題があった。」
と記載されているように、チオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定分野において、溶離液Bの塩濃度と溶離液Aの塩濃度との濃度差を大きくすればするほどHbA0の溶出時間を短縮することができ、逆に、溶離液Bの塩濃度と溶離液Aの塩濃度との濃度差を小さくすればするほどHbA0の溶出時間が長くなることは、技術常識である。
そして、上記特開平10-239301号公報に、
「【0003】血液中の糖化ヘモグロビンの濃度の測定は、主にカチオン交換反応を利用した液体クロマトグラフィー(HPLC)法により行われている・・・また、この測定方法は、近年では、測定時間の短縮化が進み、1検体あたり数分間で測定が行われている。」
と記載されているように、引用発明のカチオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法においても、ヘモグロビン類の測定時間を短くする課題が存在することは明らかであるから、引用発明において、ヘモグロビン類の測定時間が長くならないようにする、すなわち測定時間を短くするために、上記(え-1)において検討した、溶離液Bの塩濃度が溶離液Aの塩濃度より「1?999mM」高くする構成のうちの下限値を、上記技術常識のごとく、HbA0の溶出時間が長くならないように大きくして、測定時間を短くすることは当業者が容易になし得るものであり、さらに、どの程度短くするかは当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないものである。
また、上記溶離液Bの塩濃度が溶離液Aの塩濃度より高くした際の上限値として、999mMを採用しても、本願補正発明の1000mMとの効果の差異は存在しないことから、本願補正発明のごとく、上記溶離液Bの塩濃度が溶離液Aの塩濃度より「10?1000mM」高くすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計的事項にすぎないものである。

そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用刊行物A及び引用刊行物Bに記載された発明から予測される範囲内のものであって、格別のものではない。

なお、請求人は、当審から通知した審尋に対する回答書において、
(a)「引例2に記載された発明は、ヘモグロビンA0よりも後に溶出するヘモグロビンA2の分離性能を向上させるための発明であって、アジ化物イオンがヘモグロビンA2の分離性能に影響することは記載されているものの、ヘモグロビンF、不安定型ヘモグロビンA1c及び安定型ヘモグロビンA1cの測定において、アジ化物イオンがこれらのヘモグロビン類の分離性能に影響することについての記載や示唆は全くありません。当然ながら、アジ化物イオンを溶離液及び溶血液の両方に含有させることで、ヘモグロビンFの分離能がさらに向上することについては全く記載されておりません。従って、引例2に記載された発明からは、不安定型ヘモグロビンA1cの近くに溶出するヘモグロビンFの分離性能をさらに向上させ、より高精度でヘモグロビンF、不安定型ヘモグロビンA1c及び安定型ヘモグロビンA1cを測定しようとした場合に、溶離液及び溶血液の両方にアジ化物イオンを含有させるといった着想は得られません。」
旨の主張、及び、
(b)「参考例1,2のヘモグロビンFのCV値と、実施例3,4のヘモグロビンFのCV値とは、その測定値において差異が認められるのは明らかであります。即ち、溶離液A及び溶血試薬の両方にアジ化物イオンを含有させた実施例3,4は、溶離液又は溶離試薬のいずれか一方にしかアジ化物イオンを含有させていない参考例1,2よりも、さらに優れた測定精度を示しているのは明らかであります。」
旨の主張をしている。
しかしながら、上記「(イ-2)」の「・相違点(い)について」において検討したように、上記引用刊行物B(引例2)には、
「カチオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法において、
測定開始時に最初に流す過塩素酸を含有するコハク酸-酸緩衝液からなる溶離液Eにアジ化ナトリウムを添加させると、アジ化ナトリウムを含有させない溶離液よりも、HbF、不安定型Hb1c、安定型Hb1cが良好に分離され、測定精度も良好となる」
ことが記載されていることから、引用発明のカチオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法においても、HbF、不安定型HbA1c、安定型HbA1cを、より有効に分離して、測定精度を上げようとする課題を解決するために、測定開始時に最初に流すための、55mMの過塩素酸を含有するpH5.3の20mMコハク酸-20mMリン酸緩衝液からなる溶離液Aを、そのまま流すのではなく、上記引用刊行物Bに記載された発明のごとく、溶離液Aにアジ化ナトリウムを添加して流そうとすることは当業者であれば容易に想到できることであることである。((a))
さらに、上記引用刊行物Bの摘記事項(3B-4)に記載されているように、溶離液および溶血液(試料)のどちらか一方、又は両方にアジ化物イオンを添加すると、各ヘモグロビン類の分離の向上の効果があり、また、本件出願明細書の段落【0010】には、
「【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記従来の問題点に鑑み、特に安定型HbA1cを短時間で分離し、その比率を高精度で測定することができるヘモグロビン類の測定方法を提供することにある。」と記載されており、さらに、段落【0102】の【表1】のHbA1cの値をみると、参考例1、2(平成22年9月10日付け手続補正書で補正)及び実施例3のいずれも、3回の測定のうち1回が平均値と異なって、CV値が0.08%であることを考慮すると、本願補正発明の目的からすれば、溶血試薬と溶離液Aのいずれか一方にアジ化物イオンが添加されていても、溶血試薬および溶離液Aの両方にアジ化物イオンが添加されていても、HbA1cのCV値は変わらないことから、溶血試薬と溶離液Aのいずれか一方にアジ化物イオンが添加するか、溶血試薬および溶離液Aの両方にアジ化物イオンが添加されするかは当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項にすぎないものである。
そして、請求人は、上記(b)において、
「参考例1,2のヘモグロビンFのCV値と、実施例3,4のヘモグロビンFのCV値とは、その測定値において差異が認められるのは明らかであります」
と主張しているが、HbF(ヘモグロビンF)を精度良く測定することが、本願補正発明の本来の目的ではないし、さらに、上記【表1】の参考例1,2、及び実施例3の標準偏差をみると、実施例3のHbA1cの標準偏差は0.01であり、参考例1、2のHbFの標準偏差は、それぞれ、0.01、0.02であり、さらに、測定値は、0.01ずつ変化すること、及び測定時には必ず誤差が生じることを考慮すると、参考例1、2のHbFの標準偏差の0.01、0.02の値は、実施例3のHbA1cの標準偏差の0.01の値と比べてそれほど異なる値ではないし、HbFの平均値(2.00、2.01)は、HbA1cの平均値(7.03、7.04)に比べて小さいことから、同じ標準偏差の値であってもHbFのCV値が、HbA1cのCV値よりも大きくなることは明らかであるから、参考例1、2のHbFのCV値と実施例3のHbFのCV値に差異があったとしても、本願補正発明の「安定型HbA1cを短時間で分離し、その比率を高精度で測定する」という目的からすれば、溶血試薬および溶離液Aの両方にアジ化物イオンが添加された実施例3と、溶離液A又は溶血試薬の何れか一方にアジ化物イオンが添加された参考例1、2とに格別の効果の差異が生ずるとは考えられない。((b))
よって、請求人の主張は採用できないものである。

したがって、本願補正発明は、引用刊行物A及び引用刊行物Bに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)補正却下の決定についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下しなければならないものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成23年10月12日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1?2に係る発明は、平成22年9月10日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 2 (1)」の「ア 本件補正前の請求項1(平成23年2月9日付け手続補正書)」に記載したように、以下のとおりのものである。

「【請求項1】 カチオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法において、血液検体を溶血させる際に用いるpHが5.0?10.0の溶血試薬、および、ヘモグロビンA0よりも前に溶出するヘモグロビン類を溶出させるための溶離液AとヘモグロビンA0を溶出させるための溶離液Bとの少なくとも2種類の溶離液を用い、上記溶血試薬および上記溶離液Aにアジ化物イオンが含有され、かつ、上記溶離液Aにカオトロピックイオンが含有され、上記溶離液BのpHが溶離液AのpHより0.1?8.0高く、かつ、上記溶離液Bの塩濃度が溶離液Aの塩濃度より10?1000mM高いことを特徴とするヘモグロビン類の測定方法。」

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物の記載事項は上記「第2 2 (3)」の(ア)に記載したとおりである。

3.本願発明と引用発明との対比・判断
上記「第2 2 (3)」の(イ)で検討した本願補正発明は、「ヘモグロビン類」を、「ヘモグロビンF、不安定型ヘモグロビンA1c及び安定型ヘモグロビンA1c」と補正することにより、ヘモグロビンの種類を限定し、特定する補正であるから、特許請求の範囲を減縮するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに減縮したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 2 (3)」の(イ)において検討したとおり、引用刊行物A及び引用刊行物Bに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることから、本願発明も同様の理由により、引用刊行物A及び引用刊行物Bに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、本件出願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-21 
結審通知日 2013-01-23 
審決日 2013-02-05 
出願番号 特願2001-198865(P2001-198865)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 祥子  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 小野寺 麻美子
郡山 順
発明の名称 ヘモグロビン類の測定方法  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ