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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23C
管理番号 1271923
審判番号 不服2010-4940  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-05 
確定日 2013-03-28 
事件の表示 特願2005-211348「風味物質が添加されたポーションタイプのカビによる表面熟成軟質チーズ及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 2月 1日出願公開、特開2007- 20536〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年7月21日の出願であって、平成21年12月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年3月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成22年3月5日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成22年3月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲4は、以下のとおりに補正された。

「【請求項4】
風味物質をポーションカット前のチーズの一次熟成中のチーズカードに添加後、さらに熟成させた後にポーションカットし、切断面に密着包装するように各ポーションを個包装し、二次熟成後に加熱殺菌処理を行い、前記風味物質がポーションカットによる切断面に露出すること、を特徴とする風味物質が添加されたポーションタイプのカビによる表面熟成軟質チーズ。」

上記補正は、補正前の請求項2,3が削除されたことによって繰り上げられた補正前の請求項6に記載された、発明を特定するために必要な事項である「風味物質が添加されたポーションタイプのカビによる表面熟成軟質チーズ」を「切断面に密着包装するように各ポーションを個包装」されたものであることに限定したものであり、よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものである 。

そこで、本件補正後の前記請求項4に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際に、独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2 引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物1ないし4には以下の事項がそれぞれ記載されている。なお、下線は当審が付した。

(1)刊行物1:特開2005-176725号公報の記載事項

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
成型されたチーズカードの間に食品類をはさんだ後、前記チーズカードを結着するように熟成させて一体化させることにより得られる、食品類を内包した白カビチーズ製品。
【請求項2】
白カビチーズが、カマンベールチーズである請求項1記載の白カビチーズ製品。
【請求項3】
成型されたチーズカードの間に食品類をはさみ、前記チーズカードを結着するように熟成させることにより一体化させることを特徴とする、食品類を内包した白カビチーズ製品の製造方法。
【請求項4】
熟成の後、加熱することを特徴とする請求項3記載の白カビチーズ製品の製造方法。」

(1b)「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記したように、従来は、チーズ製品に食品類を混合した成型品として、チーズ全体に食品類を混合させたチーズ製品、チーズ表面に食品類を付着させたチーズ製品や、外層部がナチュラルチーズではない鶏卵状チーズ製品及びそれらの製造方法が知られていたが、これらの方法では食品類を内包した白カビチーズ製品を製造することは不可能であった。
本発明は、チーズの間に種々の食品類を内包する白カビチーズ製品及びその製造方法を提供することを目的とする。」

(1c)「【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題を解決するために白カビチーズに食品類を内包する方法を検討した結果、成型したチーズカードの間に食品類をはさみ、熟成させることにより、チーズの結着が強固で、型崩れや食品の漏れのない白カビチーズ製品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。また、熟成の後に加熱することにより、チーズの結着をより強固にすることができることも見出した。
すなわち、本発明は、成型されたチーズカードの間に食品類をはさんだ後、前記チーズカードを結着するように熟成させて一体化させることにより得られる食品類を内包した白カビチーズ製品である。
本発明はまた、白カビチーズが、カマンベールチーズである前記白カビチーズ製品である。
本発明はまた、成型されたチーズカードの間に食品類をはさみ、前記チーズカードを熟成させて結着させて一体化させることを特徴とする食品類を内包した白カビチーズ製品の製造方法である。
本発明はまた、熟成の後、加熱することを特徴とする前記白カビチーズ製品の製造方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、成型したチーズカードの間に様々な食品類をはさんだ後、前記チーズカードを結着するように熟成させて一体化させることにより、食品類を内包した白カビチーズ製品を得ることができる。
本発明の食品類を内包した白カビチーズは、通常の白カビチーズと比べて、外観上全く見分けがつかないものである。本発明の製造方法以外で製造した場合には、加熱時に流動化したチーズが切断面から流れ出たり、食品類が流出したり漏れたりすることが予想されるが、本発明によれば、そのような流出や漏れのない非常に良好な白カビチーズ製品が得られる。
なお、内包する食品類の種類を変更することにより、種々の形状や風味を有する白カビチーズ製品を容易に得ることができる。さらに、大量生産を目的とした白カビチーズ製品生産ラインにおいて、食品類を内包した小ロットの白カビチーズ製品の製造を可能にするものである。」

(1d)「【0006】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明において使用されるチーズは、白カビチーズである。白カビチーズとしては、特に限定されないが、カマンベール、ブリー、ブルソー、カプリス・デ・デュー、シュプレム等が挙げられ、カマンベールが好ましく用いられる。
本発明において混合させる「食品類」としては、例えば、チーズ以外の他の食品または食品添加物が挙げられる。他の食品としては、例えば、畜肉、魚肉、海草、野菜、果物またはこれらの加工品のような一般食品のみならず、ごま等の乾燥食品、餡や練りわさび等のペースト状食品、しょうゆやドレッシング等の液状食品、食物繊維やアミノ酸等の健康訴求食品等が挙げられ、食品添加物としては、フレーバー、調味料等が挙げられる。
【0007】
本発明における白カビチーズ製品の製造方法は、成型したチーズカードの間に食品類をはさみ、熟成させることにより、チーズを結着成型させて一体化することからなる。また、結着の後に加熱を行うことにより、より強固に結着させることができる。
成型したチーズカードは、その間に食品類をはさむために複数あればよく、2以上であれば特に限定されない。例えば、1つの成型したチーズカードを2以上に切断したものでもよく、2以上の成型したチーズカードを別々に準備して、それらの間に食品類をはさんでもよい。また、1つの成型したチーズカードを完全には切断せずに、中心部に食品類をはさんでもよい。
本発明において、「成型したチーズカード」とは、カードからホエーが排出され、ある程度固まった状態のものであればよい。
このような成型したチーズカードの中央部に、上記のような食品類を載せるが、食品類は1種類であっても、複数種類であってもよい。
本発明の製造方法は、加圧や減圧の手段を用いず、結着剤も使用することなく、熟成によって結着・成型することができる。また、熟成後に加熱することにより結着をより強固にすることもできる。本発明の方法によれば、このような手段を用いることにより、結着部からのチーズの漏れが防止される。また、はさまれた食品類は、白カビチーズ内部に完全に内包されるため、食品類自体またはその香味成分が他のチーズ類へ移行することや、食品の流出が防止される。」

(1e)「【実施例1】
【0008】
一般的な製造工程に従ってカードメーキング及び表面にカビが生育するまで発酵させたチーズカード(100g)を、輪切り状に2つに切断し、その切断面に香辛料(ヱスビー食品社製:クリーンスパイス)をチーズカード重量に対して0.05%添加した。香辛料は、表面に均一に載せ、切断した一方のチーズカードを元に戻した。 このチーズカードを再び数日発酵させ、ポリプロピレンフィルムで包装した後、さらに熟成が完了するまで発酵を継続した。切断面がカビの生育により見えなくなり、熟成によって上下2枚のチーズが結着していることを確認した後、チーズをポリプロピレンのカップに入れ、ナイロンフィルムの蓋をシールした。カップ内に密封したチーズを加熱殺菌することにより、上下のチーズが完全に密着し、外見上は通常のカマンベールチーズと見分けのつかない良好な白カビチーズが得られた。
また、香辛料の代わりに、ゴマ(浜乙女社製)または赤しそ粉末(亀田製菓社製)を用いて、同様のチーズを製造した。
さらに、対照として、切断および食品類の添加をしていない以外は実施例1と同様の方法で製造したカマンベールチーズを評価した。
これらのチーズについて、結着部分からのチーズの洩れ及び結着状態の評価を行った。結着状態としては、結着部分から引っ張った時に、結着部分がはがれない状態を良好とし、結着部分から簡単にはがれてしまう状態を不良とした。評価結果を表1に示す。なお、評価は経験の十分なパネラー5名で行った。」

(2)刊行物2:特開2000-355389号公報の記載事項

(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 カビによる表面熟成軟質チーズの未熟成の切断片の包装において、合成樹脂フィルム、セロファン、普通紙、耐油紙またはアルミニウム箔の何れか一層からなる包装材、またはこれ等を適宜組み合わせた複数層からなる包装材のチーズ当接面または当接面側全面に、ゲル化剤または増粘安定剤溶液で軟弱ゼリー状又は糊状の薄膜の剥離層を被着形成して、チーズの切断面に密着するようにして包装し、該包装の開封時に、前記薄膜の剥離層が被破壊層として破壊し、チーズ切断面と、前記包装材との剥離を容易にすることを特徴としたチーズ包装体の製造法。
・・・
【請求項12】 チーズ切断片を包装した後、未殺菌または加熱殺菌することを特徴とした請求項1乃至11の何れか1項記載のチーズ包装体の製造法。
【請求項13】 カビによる表面熟成軟質チーズが、カマンベールまたはブリーであることを特徴とする請求項1乃至12の何れか1項記載のチーズ包装体の製造法。
【請求項14】 請求項1乃至13の何れか1項記載の製造法により製造したチーズ包装体。
【請求項15】 請求項1ないし13の何れか1項記載の製造法によって製造したチーズ包装体を、所定個数1つの容器に集合整列して収納し、チーズ包装体の集合品としたことを特徴とするチーズ包装体。」

(2b)「【0002】
【従来の技術】従来、カマンベールチーズ、ブリーチーズに代表されるカビによる表面熟成軟質チーズでは、ある大きさ以上の円盤型チーズは、1回に食する量を1つの切断片とし、中心点から放射状に6乃至10片に切断し(任意の数で良い)、それぞれを個包装し、再びこれ等を集合整列して1つの外装容器に収納し、販売されることがある。このように販売されている切断片の個包装カビチーズには、現在、次の3つのタイプが知られている。(1)チーズを切断後、切断片を個包装し、殺菌しないタイプで、切断面に積極的にカビを育成しない。(2)チーズを切断後、切断面にカビを育成し、その後個包装して加熱殺菌したタイプ。(3)チーズを切断後、個包装し、加熱殺菌したタイプで、切断面に積極的にカビを育成しない。
【0003】これら販売されている前記(1)及び(3)のタイプのチーズは、チーズ自体の品温が低い場合、包装材とチーズとの剥離性に問題はないが、チーズ自体が軟らかな場合、またはチーズ切断面に軟らかな個所がある場合、チーズの品温が室温近く上昇しチーズが軟らかになった場合等に剥離性が悪くなり、包装開封時に、包装材にチーズ切断面のチーズが付着する。また、チーズ切断面と包装材との密着性が不完全なものがあり、切断面にカビが侵出し、カビがまだらに育成し、外観を悪くし商品価値を損なっている。」

(2c)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、前記の(1)及び(3)のタイプの包装に関する。(1)及び(3)のタイプは、チーズ切断面(切り口)が軟らかで、クリーム状にトロリとし粘性が極めて高く、チーズ切断面が包装材に糊のように付着する。その結果、包装開封時に、包装材にチーズの付着がなく、且つ、綺麗に剥離しチーズの形を損わず取出すのは難しいという問題点がある。一方、チーズ切断面へのカビの侵出及び育成を防ぐ為には、チーズ切断面に包装材を密着させて包装する必要があり、包装材にはチーズへの密着性が要求される。従って、この場合、包装材には包装時には強い密着性を、開封時には良好な剥離性と相反する性質が包装材に求められる。また、(3)のタイプは、包装後の殺菌加熱時の高温状態において、チーズの内部組織が著しく軟化するので、切断面からのチーズ組織の流出をチーズに密着した包装材で抑えて、その後開封時に、この包装材とチーズとの剥離性を良くするのは、格別に困難であり、現在、満足できるような解決がなされていない。
【0007】以上のように、前記の軟らかなチーズの包装を開封する場合、殆どの製品がチーズと包装材が巧く剥離できず、無理に剥離しチーズの形を崩し、外観を悪くし、食欲を殺ぎ、かつ商品価値を損なっている。
【0008】この発明は、ナチュラルチーズで且つ、軟質チーズに属するカマンベール、ブリー等のカビによる表面熟成軟質チーズの切断片の包装に関する。また一般的にナチュラルチーズは熟成が進むほど組織は軟らかになり、また、同じカマンベールチーズ等でも、その製造法、水分等の成分組成、熟成程度によりその軟らかさが異なる。
【0009】更にこれ等のチーズは、品温が高くなる程チーズの組織は軟らかとなり、冷蔵庫から取出した直後の品温が低く包装材の剥離性に問題が無い場合でも、チーズ品温が室温近く上昇した場合剥離性が悪くなり、包装の開封時に、包装材に切断面のチーズが付着するなどの問題点がある。
【0010】また、殺菌したタイプのカマンベールチーズやブリーチーズも、その性質は前記と同様であり、例えば熟成のどの時点で殺菌処理したかにより、製品の軟らかさが異なる。現在市場の消費者の嗜好は、とろけ気味の軟らかなものが好まれている。
【0011】従って、この様に粘性が高く包装材との剥離性が悪いカビによる表面熟成軟質チーズの切断片を包装し、加熱殺菌し、保存した後、開封時に包装の剥離性を良くするのは、消費者に利便を提供し、消費者が解決を望む課題である。」

(2d)「【0033】・・・
(試験例1)常法に従い、円盤型のカマンベールチーズを製造し(水分含有率54%)、前期熟成で表面にカビを育成した後、中心点から放射状に6つに切断し、切断片の個包装を行った。アルミニウム箔単独または各種の包装材を、アルミニウム箔と貼合せたフィルムを調製し使用した。各種ゲル化剤及び増粘安定剤溶液で薄膜の剥離層を、チーズ切断面または各種包装材のチーズ当接面に被着形成して、包装した。但し、包装材の薄膜の剥離層は各種ゲル化剤及び増粘安定剤溶液を塗布後乾燥したものを使用した。更に後期熟成を継続し、殺菌したタイプは、食感が軟らかく良好な風味に達した時点(後期熟成2週間)、及び更に柔らかくなり、風味が強まった時点で(後期熟成4週間)、それぞれプラスチックカップに密封包装し、95℃の熱湯に浸漬、殺菌した。殺菌後一旦冷蔵し数日後剥離性の評価をした。包装材の剥離性はチーズ品温が10℃と25℃の場合について、それぞれ評価をした。」

(2e)「【0059】
【発明の効果】この発明によれば、カマンベールチーズやブリーチーズの様なカビによる表面熟成軟質チーズにおいて、チーズが軟かな場合、熟成が進行し、または、チーズの品温が高い等により、チーズが軟らかな状態でも、開封時に、チーズ切断面から包装材の剥離性が良好な殺菌しないタイプまたは、加熱殺菌したタイプの剥離性の良好なチーズ切断片の個包装カビチーズ包装体が製造できる。また、チーズ切断面に包装材が密着するので、チーズ切断面にカビが育成することなく、加熱殺菌したタイプでは、切断面からチーズが溶け出して容器内や包装材を汚すことがない。また、この包装体の開封は、チーズ切断面と包装材との間に、ゲル化剤または増粘安定剤溶液で薄膜の剥離層を形成して介在させたので、開封時に、軟弱ゼリー状又は糊状の被破壊層となって、この被破壊層が確実に破壊され、チーズ切断面からの包装材の剥離が極めて良好となり、内容物の取出しが容易となる等の著効がある。特に粘稠度が高い場合でも剥離効果の低下がない。乳化剤をゲル化剤又は増粘安定剤溶液に添加したので、剥離剤が、包装材への親和性および展延性が向上するので、より薄い剥離層の形成が可能となる。なお、使用したゲル化剤、増粘安定剤及び乳化剤は、食品添加物として法律上使用を許可されているので、被破壊層の断片がチーズ切断面等に付着しても、そのまま食べられるので手間が省ける効果がある。また、薄膜の剥離層を形成するので、剥離剤等もその使用量が極めて少なくて済み、安全衛生上及び風味に悪影響を与える問題が生じない。」

(3)刊行物3:特開2000-116321公報の記載事項

(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 カビによる表面熟成軟質チーズの未熟成の切断片を、セロファンとアルミニウム箔の二層で構成されたフィルムで、セロファン層をチーズ当接面とし密着するようにして包装し、所定の熟成を行うことを特徴とするチーズ包装体の製造方法。
【請求項2】 カビによる表面熟成軟質チーズの未熟成の切断片をセロファンとアルミニウム箔の二層で構成されたフィルムで、セロファン層をチーズ当接面とし密着するようにして包装し、所定の熟成を行った後、容器に入れ密封した後加熱殺菌することを特徴とするチーズ包装体の製造方法。
【請求項3】 フイルムは、セロファン層の厚さ30ミクロン以下、アルミ箔層の厚さ30ミクロン以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のチーズ包装体の製造方法。
【請求項4】 カビによる表面熟成軟質チーズがカマンベールまたはブリーであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のチーズ包装体の製造方法。
【請求項5】 請求項1乃至4の何れか1項に記載の製造方法によって製造したチーズ包装体。」

(3b)「【0002】
【従来の技術】従来、カマンベールチーズ、ブリーチーズに代表されるカビによる表面熟成軟質チーズは、喫食時に切断した残りを再包装する手間を省くため、通常は予め一回で食べる相当量を放射状に6乃至10片に切り分けし(任意の数で良い)それぞれを予め個包装した製品が市販されている(以降「 切断個包装カビチーズ」 と称する)。この市販されている切断個包装カビチーズには、現在次の3つのタイプが知られている。切断された後個包装され、未殺菌のまま市販されるタイプ、切断面に積極的にはカビを育成させない、切断後切断面にもカビを育成させ、その後包装して加熱殺菌するタイプ、切断した後個包装され、加熱殺菌後市販されるタイプ、切断面に積極的にはカビを育成させない。」

(3c)「【0010】
【発明の実施の形態】本願発明は、カビによる表面熟成軟質チーズの未熟成の切断片を、セロファンとアルミニウム箔の二層で構成されたフィルムで、セロファン層をチーズ当接面として密着するようにして包装し、所定の熟成を行うことを特徴とするチーズ包装体の製造方法であり、またカビによる表面熟成軟質チーズの未熟成の切断片をセロファンとアルミニウム箔の二層で構成されたフィルムで、セロファン層をチーズ当接面として密着するようにして包装して、所定の熟成を行った後、容器に入れ密封した後加熱殺菌することを特徴とするチーズ包装体の製造方法である。」

(3d)「【0018】
【実施例2】通常の工程で製造したカマンベールチーズを、表面にカビが育成した未熟成の段階で放射状に6分割し、それぞれをセロファンとアルミニウム箔を貼り合せた二層構造のフルムでセロファン層をチーズ当接面とし、かつチーズの切断面に密着するようにして包装した。その後十分な風味、組織になるまで更に所定期間熟成させた。
【0019】殺菌前にこの個包装体の切断面のカビ育成の程度を調べたところ、カビは殆ど侵出していなかった。次いで、このフイルム包装体をプラスチック製カップに所定数を収め、密封包装後、95℃の熱湯に浸漬して殺菌処理を行った。
【0020】十分に冷却後、殺菌時のチーズ内部からの溶出の程度、包装材と切断面の剥離性を検査したところ、チーズの溶出は見られず、剥離性も良好であった。」

(3e)「【0021】
【発明の効果】本願発明により、カビによる表面熟成軟質チーズの切断片を個包装するにあたって、セロファンとアルミニウム箔の二層からなる包装材を使用し、セロファン層をチーズ当接面として切断面に密着させて密封することによって、チーズの切断面にカビの侵出・育成がなく、殺菌時のチーズ内部の軟質部からの溶出も無くて、チーズの切断面からの包装材剥離性の良い殺菌タイプの切断個包装カビチーズを提供することが出来た。」

(4)刊行物4:特開平10-150914公報の記載事項

(4a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 軟質カビ系チーズのカット面が延伸ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、あるいはぬれ指数42以下の合成樹脂の層を有する包材の合成樹脂層に密着するように個包装されており、加熱殺菌がなされているチーズ包装体。
【請求項2】 軟質カビ系チーズがカマンベールチーズ又はブリーチーズである請求項1記載のチーズ包装体。
【請求項3】 延伸ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、あるいはぬれ指数42以下のフッ素系樹脂、ケイ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂のいずれかであって、これらの合成樹脂とアルミニウムとの少なくとも二層よりなる包材で構成され、合成樹脂層のいずれかの面がチーズのカット面に密着するようになって個包装されている請求項1又は2記載のチーズ包装体。
【請求項4】 発酵工程中の軟質カビ系チーズをカットし、延伸ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、あるいはぬれ指数42以下の合成樹脂とアルミニウムとの少なくとも二層より構成される包材を、その合成樹脂の層をチーズのカット面と密着するようにして個包装し、さらに発酵を継続させた後、加熱殺菌することを特徴とするチーズ包装体の製造法。」

(4b)「【0002】
【従来の技術】従来、カマンベールチーズ等の軟質カビ系チーズをいくつかのポーションにカットし、このカットしたチーズを加熱殺菌して保存性を付与しようとすると、加熱殺菌時にチーズのカット面(切断面のカビが生育していない箇所)から、チーズが溶けだし、チーズを包装している包材から洩れ出してしまうおそれがあった。また、包材を開封する時に包材と溶けたチーズが付着して包材がチーズからきれいに剥がれないという問題もあった。これらのチーズの加熱殺菌時に生ずる問題を同時に改善することは技術的に難しく、この問題を同時に解決した製品は現在までみることができない。現在市販されているポーションタイプの軟質カビ系チーズ、特にカマンベールチーズはいずれも外国からの輸入品であり、生タイプでカット面にカビが生えていないもの、加熱殺菌タイプでカット面にカビが生育しているものの2種類のみである。」

(4c)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来市販されている加熱殺菌されたポーションカマンベールチーズは、円形カマンベールチーズを一口サイズに切った形をしていて全面にカビが生育しているチーズである。このチーズは、カビが多くなりすぎカビの影響を受けやすい所と受けにくい所ができる。そのため、チーズも過熟な部分と未熟な部分ができ熟成のバラツキが生じるため品質が均質化されず商品性が劣るものである。 一方、カット面にカビが生育していないチーズは、カット直後のチーズと同じ形態をしており見栄えが良く、カビの影響を均一に受けるため熟成のバラツキが生じにくい。このことから、カット面にカビが生育していないカットチーズを個包装したものを提供しようとしても、加熱殺菌した時にはチーズが溶けだし包材から洩れたり、カット面からも洩れてくる。又、カット面にカビが生育していないため、包材を開封する時に包材と溶けたチーズが付着して剥がれず開けづらい。
【0005】さらに、熟成の進んだカマンベールチーズは、カット面、特にそのカビマット(表面にカビが生育している部分)直下の部分が軟化して垂れてくるという問題が生ずる。又、軟質カビ系チーズは発酵中の水分蒸発を抑制する目的で発酵途中においてラッピングを行うが、発酵終了後にカットおよび個包装を行う場合は、このラッピングを一度取り除く必要が生じるため効率が悪くなる。さらに、発酵終了時のチーズは、柔らかくなりカットする時にチーズが欠けたり、ナイフへのチーズ付着およびチーズくずの混入が多くなる。そこで、本発明は、ラッピングを行わずにカットおよび個包装を行い水分の蒸発を押さえ、かつ個包装後にカット面にかびが生育しないチーズ包装体及びその製造法を提供するものである。又、本発明は、従来の個包装したポーションタイプの軟質カビ系チーズと異なり、加熱殺菌時にチーズが溶けて洩れることなく、さらに包材とチーズとの剥離性が良くて、開封後のチーズの保形性の良い、個包装された長期間保存可能な軟質カビ系チーズの包装体、特にカマンベールチーズ又はブリーチーズ包装体及びその製造法を提供することを課題としている。」

(4d)「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねたところ、カマンベールチーズ又はブリーチーズの製造時においてチーズをカットし、そのカット面(切断面)を特定の包材を用いて特定の方法で個包装することによって、加熱殺菌時にチーズが溶けて包材から洩れ出ることがなく、包材のチーズカット面からの剥離性がよく、開封後のチーズの保形性を保つことができることを見出して、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明者らは、次の (1)?(4) の点を解決することによって、前記カマンベールチーズ又はブリーチーズ包装体を得ることができたのである。
【0007】(1) カット面にカビが生育していないチーズを加熱殺菌した時に起きるチーズの溶融による洩れをなくするために、チーズのカット面を包材に密着させる。すなわち、チーズのカット面を包材と密着させて個包装し、集積後の周囲を絞り込むことで、チーズの溶融による洩れを防ぐ。
(2) カット面にカビが生育していないため、包材を開封する時に包材とチーズが付着せずに開けやすくするために、特殊な包材を使うことによってチーズカット面に薄膜を形成させ、包材チーズのカット面との付着がなく開封しやすくする。
(3) 熟成の進んだカマンベールチーズ又はブリーチーズは、カット面のチーズ、特にカビマット直下部分が軟化して垂れてくるので、これを防止するために、特殊な包材を使うことによってチーズのカット面に薄膜を形成させ、チーズの垂れをなくし、開封後の温度が上昇しても保形性を良くすることができるようにする。
(4) 上記 (1)?(3) を満足させる最良の包材を選択する。」

(4e)「【0024】次に、本発明の実施例を示して本発明を具体的に説明する。
【実施例1】一般的な製造工程に従ってカードメーキングおよび発酵させたカマンベールチーズを発酵途中で取り出し、6等分にカットした。カット後すぐに樹脂コーティング、アルミニウム (9ミクロン) 、延伸ポリプロピレン (5ミクロン)(ぬれ指数31) の三層構造からなる包材でチーズのカット面には延伸ポリプロピレンが密着するように個包装し、発酵を継続した。チーズのカット面と延伸ポリプロピレンの面とを密着させて、所定の発酵日数を経過した後、カップに充填して蓋材でシールし、通常の条件で加熱殺菌した。なお、対照としてカットしていない以外は実施例1と同様の方法で全体を同じ包材で包装したカマンベールチーズを用いた。加熱殺菌後これらのチーズ包装体についてチーズの洩れ、開封時の剥離性、保形性および官能評価を行った。評価結果を表6に示す。」

(4f)「【0040】
【発明の効果】本発明は、カマンベールチーズ、ブリーチーズなどの軟質カビ系チーズをカットし、カット面(切断面)に密着するように包材で個包装し、次いで加熱殺菌処理してなる新しいタイプのポーションチーズである。この包材は、ぬれ指数42以下の合成樹脂が用いられる。このような合成樹脂の例としては、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂がある。好適には、この包材は、少なくともアルミニウムとぬれ指数42以下の合成樹脂の二層より構成され、このぬれ指数42以下の合成樹脂層の面をチーズのカット面に密着して個包装することにより加熱殺菌時にチーズが包材から洩れることがなく、またチーズが包材に付着することがなく、容易に開封することができる。また、開封後もチーズが垂れ出ることがなく、長時間開封時の形状を保持させることができる。」

3 対比・判断
刊行物1には、成型されたチーズカードの間に食品類をはさんだ後、前記チーズカードを結着するように熟成させて一体化させることにより得られる、食品類を内包した白カビチーズ製品であって、また、熟成の後、加熱することが記載されている(1a)。
そして、食品類をはさむ前の成形されたチーズカードは、一般的な製造工程に従ってカードメーキング及び表面にカビが生育するまで発酵させたチーズカードであって(1e)、これを輪切り状に2つに切断し、その切断面に香辛料を表面に均一に載せ、切断した一方のチーズカードを元に戻すこと(1e)、その後、このチーズカードを再び数日発酵させ、ポリプロピレンフィルムで包装し、さらに熟成が完了するまで発酵を継続すること(1e)、そして、切断面がカビの生育により見えなくなり、熟成によって上下2枚のチーズが結着していることを確認した後、チーズをポリプロピレンのカップに入れ、ナイロンフィルムの蓋をシールし、カップ内に密封したチーズを加熱殺菌することにより、上下のチーズが完全に密着して、外見上は通常のカマンベールチーズと見分けのつかない良好な白カビチーズが得たことが記載されている(1e)。
刊行物1の上記記載事項(特に上記(1a,1e))から、刊行物1には、
「一般的な製造工程に従ってカードメーキング及び表面にカビが生育するまで発酵させた成型されたチーズカードの間に食品類をはさんだ後、このチーズカードを再び発酵させ、包装して、さらに熟成が完了するまで発酵を継続して、熟成によって上下2枚のチーズが結着した後、加熱殺菌を行う、食品類を内包した白カビチーズ製品」
の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願補正発明と刊行物1発明とを比較する。

(ア)刊行物1発明の「食品類」として、刊行物1には、畜肉、魚肉、海草、野菜、果物またはこれらの加工品のような一般食品、ごま等の乾燥食品、餡や練りわさび等のペースト状食品、しょうゆやドレッシング等の液状食品、食物繊維やアミノ酸等の健康訴求食品等、食品添加物としてフレーバー、調味料等(1d)、香辛料(1e)が挙げられている。一方、本願補正発明の「風味物質」は、本願の明細書の【0010】を参照すると、バジルやオレガノ等のハーブ類およびペッパーやシナモン、ガーリック等のスパイス類といった香辛料をはじめとして、調味料、果実調製品や野菜類、ナッツ類、ハム等の獣肉製品などの食品の他、香料などの食品添加物も使用することができる旨、記載されている。そうすると、刊行物1発明の「食品類」は、本願補正発明の「風味物質」に相当する。

(イ)刊行物1発明の「食品類を内包した白カビチーズ製品」の「白カビチーズ」として、刊行物1にはカマンベールチーズ、ブリー等が記載されている(1c,1d)。一方、本願補正発明の「カビによる表面熟成軟質チーズ」は、本願の明細書の【0009】を参照すると、例えばカマンベールチーズまたはブリーチーズが記載されている。そうすると、刊行物1発明の「白カビチーズ」は、本願補正発明の「カビによる表面熟成軟質チーズ」に相当し、刊行物1発明の「食品類を内包した白カビチーズ製品」と、本願補正発明の「風味物質が添加されたポーションタイプのカビによる表面熟成軟質チーズ」とは、「風味物質が添加されたカビによる表面熟成軟質チーズ」である点で共通する。

(ウ)刊行物1発明の「発酵」は、表面にカビが生育するまで発酵させたチーズカードの間に食品類をはさんだ後、このチーズを再び発酵させ、包装して、さらに「熟成が完了するまで」継続するものであって、刊行物1発明の「一般的な製造工程に従ってカードメーキング及び表面にカビが生育するまで発酵させた成型されたチーズカード」は、熟成途中の状態であることから、本願補正発明の「ポーションカット前のチーズの一次熟成中のチーズカード」に相当する。そうすると、刊行物1発明の「一般的な製造工程に従ってカードメーキング及び表面にカビが生育するまで発酵させた成型されたチーズカードの間に食品類をはさ」むことは、本願補正発明の、「風味物質をポーションカット前のチーズの一次熟成中のチーズカードに添加」することに相当する。

(エ)刊行物1発明の「このチーズカードを再び発酵させ、包装」することと、本願補正発明の「さらに熟成させた後にポーションカットし、切断面に密着包装するように各ポーションを個包装」することとは、さらに熟成させた後、包装する点で共通する。

(オ)刊行物1発明の「さらに熟成が完了するまで発酵を継続して、熟成によって上下2枚のチーズが結着した後、加熱殺菌を行う」ことは、本願補正発明の「二次熟成後に加熱殺菌処理を行」うことに相当する。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)
風味物質をチーズの一次熟成中のチーズカードに添加後、さらに熟成させた後、包装し、二次熟成後に加熱殺菌処理を行う、風味物質が添加されたカビによる表面熟成軟質チーズ

(相違点)
風味物質をチーズの一次熟成中のチーズカードに添加後、さらに熟成させた後、包装するにあたって、本願補正発明は、「ポーションカットし、切断面に密着包装するように各ポーションを個包装」して、「風味物質がポーションカットによる切断面に露出」させることによって、「ポーションタイプ」とするのに対し、刊行物1発明では、ポーションカットせずに包装して食品類を内包したものである点。

そこで、上記相違点について検討する。

(相違点について)
刊行物1には、刊行物1発明の「食品類を内包した白カビチーズ製品」が、食品類を白カビチーズ内部に完全に内包され一体化したものであって、通常の白カビチーズと外見上全く見分けが付かないチーズ製品であることが記載されているが(1c,1d)、カマンベールチーズやブリーチーズを含むチーズ製品一般において、一度に食べきれない大きさのチーズを一回に食する程度の量に切り分けてポーションタイプとすることは、刊行物2(2b)、刊行物3(3b)、刊行物4(4b,4c)に記載の通り、本願出願前の慣用技術である。
そして、ポーションタイプの表面熟成軟質チーズとして、刊行物2には、常法に従い円盤型のカマンベールチーズを製造し、前期熟成で表面にカビを育成した後に、中心点から放射状に6つに切断し、切断片の切断面に密着させて個包装を行い、更に後期熟成を継続して風味が強まった時点で、95℃の熱湯に浸漬、殺菌して製造したものであって(2d,2e)、チーズ切断面に包装材が密着するので加熱殺菌したタイプでも切断面からチーズが溶け出すことがないこと(2e)が、刊行物3には、通常の工程で製造したカマンベールチーズを、表面にカビが育成した未熟成の段階で、放射状に6分割し、それぞれをチーズの切断面に密着するようにして包装し、その後十分な風味、組織になるまで熟成させ、次いで、90℃の熱湯に浸漬して殺菌処理を行って製造したものであって(3d)、包装材をチーズ切断面に密着させて密封することによって殺菌時のチーズ内部の軟質部からの溶出がないこと(3e)が、刊行物4には、一般的な製造工程に従ってカードメーキングおよび発酵させたカマンベールチーズを発酵途中で取り出し、6等分にカットして、チーズのカット面に密着させて個包装し、発酵を継続した後、加熱殺菌して製造したものであって(4e)、包材がチーズのカット面に密着して個包装することにより加熱殺菌時にチーズが包材から洩れることがないこと(4f)が、それぞれ記載されており、いずれも、熟成途中の状態で包装する前のタイミングでカットを行い、切断片の切断面に密着させて個包装した後、さらに熟成させ、熟成完了後に加熱殺菌して製造することが、そして、切断片の切断面に密着させて個包装することにより加熱殺菌時に切断面からのチーズの溶出が防止できることが記載されている。
そうすると、刊行物1発明の「食品類を内包した白カビチーズ製品」において、一回に食する程度の量に切り分けてポーションタイプにするという、チーズ製品における慣用技術を適用し、また、加熱殺菌時にポーションカットによる切断面からのチーズ及びチーズと一体化した食品類が溶出するのを防止するため、食品類をはさんだ後の熟成途中の状態で包装する前のタイミングで、ポーションカットを行い、切断片の切断面に密着させて個包装してポーションタイプとすることは、刊行物2?4を参照して当業者が容易に想到し得たことである。
そして、刊行物1には、食品類をはさむ方法として、チーズカードを輪切り状に2つに切断し、その切断面に食品類を均一に載せ、切断した一方のチーズカードを元に戻したことが記載されているように(1e)、内包する食品類の量を均一に含ませるものであるし、また、刊行物2?4には、円盤状のチーズを中心点から放射状に分割する(2b,2d,3b,3d,4e)と記載されているように、1回に食する量として分割された切断片の形状や大きさなどが同様のものとなるように切断するものであるので、そうすると、均一に食品類が内包された円盤状のチーズを中心点から放射状にポーションカットを行えば、切断面から食品類が露出することは当然である。

(発明の効果について)
刊行物1には、成型したチーズカードの間に様々な食品類をはさんだ後、前記チーズカードを結着するように熟成させて一体化させたことにより、加熱時に流動化したチーズが切断面から流れ出たり、食品類が流出したり漏れたりすることがなく、また、大量生産を目的とした白カビチーズ製品生産ラインにおいて、食品類を内包した小ロットの白カビチーズ製品の製造を可能にする、旨の効果が記載されており(1c)、また、刊行物2(2e)、刊行物3(3e)、刊行物4(4f)には、ポーションタイプのカビになる表面熟成軟質チーズであって、切断片の切断面に密着させて個包装することにより、加熱殺菌時に切断面からチーズが溶け出して包材から洩れることがない旨、記載されている。
そうすると、成形チーズカードを一時熟成する期間中にまず風味物質を添加するためのカットを行い風味物質を添加してカードを合わせた後一時熟成期間をおくことで、風味物質が添加された部分の剥がれ等が発生せず問題なく各工程を行うことができるとの本願補正発明の効果は刊行物1の記載事項から、また、ポーションカット後の包装を問題なく行うことで、チーズがポーションカット時の切断片面に露出しているにも関わらず、チーズの包材からの漏洩も、またチーズ形状が変形する等の問題を起こすこともなく加熱殺菌処理が行われるとの本願補正発明の効果は刊行物2?4の記載事項から、さらに、チーズと一体化された風味物質が包材からの漏洩する問題を起こすこともなく加熱殺菌処理が行われるとの本願補正発明の効果は、刊行物1?4の記載事項及び慣用技術から当業者が予測し得たものである。

したがって、本願補正発明は、刊行物1?4に記載された発明及び慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年3月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1ないし10係る発明は、平成21年11月11日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項6に係る発明は以下のとおりのものである。

「【請求項6】
風味物質がポーションカット前のチーズの一次熟成中に添加されており、該風味物質を添加した後、熟成させた後に前記チーズをポーションカットし、ポーションカット後二次熟成を行い、前記二次熟成後に加熱殺菌処理を行い、該風味物質がポーションカット後に切断面に露出すること、を特徴とする風味物質が添加されたポーションタイプのカビによる表面熟成軟質チーズ。」
(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?4及びその記載事項は、前記「第2 2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明の「風味物質が添加されたポーションタイプのカビによる表面熟成軟質チーズ」について、「切断面に密着包装するように各ポーションを個包装」されたものであるとの構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含んだ本願補正発明が、前記「第2 3」に記載したとおり、刊行物1?4に記載された発明及び慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1?4に記載された発明及び慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1?4に記載された発明及び慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-05 
結審通知日 2012-04-10 
審決日 2012-04-23 
出願番号 特願2005-211348(P2005-211348)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23C)
P 1 8・ 575- Z (A23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨士 良宏  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 菅野 智子
齊藤 真由美
発明の名称 風味物質が添加されたポーションタイプのカビによる表面熟成軟質チーズ及びその製造方法  
代理人 廣瀬 隆行  

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